説明

液滴射出装置および液滴射出方法

アクチュエータを有する液滴射出装置を駆動する方法は、液滴射出装置に液体の液滴を射出方向に射出させるために、アクチュエータに一次駆動パルスを印加する工程と、アクチュエータに、液滴の体積を実質的に変えずに液滴の射出方向の長さを減少させる1つ以上の二次駆動パルスを印加する工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本願は、2004年3月15日に出願された「高周波数液滴射出装置および方法(HIGH FREQUENCY DROPLET EJECTION DEVICE AND METHOD)」という名称の米国特許出願第10/800,467号の一部継続出願であり当該特許出願による優先権を主張する2006年4月12日に出願された米国特許出願第11/279,496号による優先権を主張し、その全内容を参照して本願明細書に組み込む。
【技術分野】
【0002】
本発明は、液滴射出装置と、液滴射出装置を駆動する方法とに関する。
【背景技術】
【0003】
液滴射出装置は様々な目的で用いられており、様々な媒体上に画像をプリントするために用いられるのが最も一般的である。これらはしばしば、インクジェットまたはインクジェットプリンタと呼ばれる。ドロップ・オン・デマンド型の液滴射出装置は、その適応性および経済性から、多くの用途で用いられている。ドロップ・オン・デマンド型の装置は、通常は電気的波形(以下「波形」)である特定の信号に応答して単一の液滴を射出する。
【0004】
液滴射出装置は、一般的に、液体供給源からノズル経路に至る液体経路を含む。ノズル経路はノズル開口部で終端し、ノズル開口部から液滴が射出される。液滴の射出は、液体経路内の液体をアクチュエータで加圧することによって制御される。アクチュエータは、例えば、圧電偏向器、サーマルバブルジェット(登録商標)発生器または静電気的に偏向される素子であり得る。
【0005】
一般的なプリントヘッド(例えば、インクジェットプリントヘッド)は、アレイ状に配列された液体経路、それらに対応するノズル開口部、およびそれらに関連付けられたアクチュエータを有し、各ノズル開口部からの液滴の射出を独立して制御可能である。ドロップ・オン・デマンド型のプリントヘッドでは、各アクチュエータは、プリントヘッドと基体とが互いに相対移動する際に、液滴を特定の目標画素位置に選択的に射出するよう発射される。高性能プリントヘッドでは、ノズル開口部は、一般的に、50マイクロメートル以下(例えば、約25マイクロメートル)の直径を有し、100〜300ノズル/インチ(2.54cm)のピッチで離間され、100〜300dpi以上の解像度を有し、約1〜100ピコリットル(pl)以下の液滴サイズを提供する。液滴射出周波数は一般的に10〜100kHz以上であるが、幾つかの用途ではこれより低い場合もある。
【0006】
ホイシントンら(Hoisington et al.)の特許文献1(その全内容を参照して本願明細書に組み込む)には、半導体プリントヘッド本体と圧電アクチュエータとを有するプリントヘッドが記載されている。プリントヘッド本体はシリコンでできており、エッチングにより複数の液体チャンバが画成されている。シリコン本体に取り付けられた別個のノズルプレートによって、複数のノズル開口部が画成されている。圧電アクチュエータは圧電材料層を有し、圧電材料層は、印加電圧に応答して形状が変化、即ち屈曲する。圧電層の屈曲により、インク経路に沿って配置されたポンプチャンバ内のインクが加圧される。付着精度は、ヘッド内の複数のノズルによって射出される液滴のサイズおよび速度の均一性、並びに装置内の複数のヘッド間のそれら均一性を含む多くの要因によって影響される。液滴サイズおよび液滴速度の均一性は、例えば、インク経路の寸法的均一性、音響干渉の影響、インク流路内の汚れ、およびアクチュエータの作動均一性等といった要因によって影響される。
【0007】
ドロップ・オン・デマンド型の射出器は、目標物を移動させながらまたは射出器を移動させながら動作させることが多く、液滴速度のばらつきは、媒体上の液滴の位置のばらつきにつながる。これらのばらつきは、イメージング用途においては画像品質を低下させ得るものであり、他の用途においてはシステム性能を低下させ得るものである。液滴の体積および/または形状のばらつきは、画像中のスポットサイズのばらつきや、他の用途における性能の低下につながる。これらの理由により、通常、液滴の速度、液滴の体積、および液滴形成特性は、射出器の動作範囲にわたってできるだけ一定であるのが好ましい。
【0008】
液滴射出器の製造者は、周波数応答を向上させるために様々な技術を適用しているが、周波数応答を改善可能な程度は、ドロップ・オン・デマンド型の射出器における液滴発射の物理的な要件により制限され得る。「周波数応答」とは、射出器の固有の物理的性質によって決定される特徴的な挙動を指し、これは、或る範囲の液滴射出周波数にわたる射出器性能を決定するものである。一般的に、液滴の速度、液滴の質量、および液滴の体積は、動作周波数の関数として変化し、液滴形成もしばしば影響を受ける。周波数応答を改善するための一般的な手法には、共振周波数を高めるために射出器内の流路の長さを短くし、減衰を高めるために流路の流動抵抗を高め、例えばノズルや制限器等といった内部要素のインピーダンスを調整することが含まれ得る。
【特許文献1】米国特許第5,265,315号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記問題に鑑み、本発明は、アクチュエータを有する液滴射出装置を駆動する方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ドロップ・オン・デマンド型の液滴射出装置は、射出装置の最大能力までの任意の周波数、または複数の周波数の組合せで、液滴を射出し得る。しかし、広範囲の周波数にわたって動作する場合には、液滴射出装置の性能は、射出器の周波数応答によって影響され得る。
【0011】
液滴射出器の周波数応答を改善する1つの方法は、波形に応答して単一の液滴を形成するために十分に高い周波数を有するマルチパルス波形を用いることである。マルチパルス波形の周波数とは、先に言及した液滴射出周波数ではなく、一般的に、波形におけるパルス周期の逆数のことであり、これには「周波数応答」が関係する。このタイプのマルチパルス波形は、液滴形成時間パラメータに対してパルス周波数が高く且つパルス間の時間が短いので、多くの射出器で単一の液滴を形成する。
【0012】
周波数応答を改善するために、波形は、マルチパルス波形に応答して形成され得る複数の小さい液滴ではなく、単一の大きい液滴を生じるものであるべきである。単一の大きい液滴が形成されると、個々のパルスから入力されるエネルギーがマルチパルス波形にわたって平均化される。その結果、各パルスから液体に付与されるエネルギーの変動の影響が低減される。従って、液滴の速度および体積が、動作範囲にわたってより一定となる。
【0013】
更に、幾つかの実施形態では、マルチパルス波形を用いて、例えば、液滴後尾部の長さを減少させてより球体に近い液滴を生じることにより、液滴の形状を改善できる。例えば、マルチパルス波形を用いて、高分子量成分を含む液体または比較的高い伸長粘度を有する液体を射出することにより、液滴後尾部の長さを減少させることができる。幾つかの実施形態では、マルチパルス波形は、1つの一次パルスと、該一次パルスに応答して射出される液体の体積にさほど影響せずに、射出される液滴の後尾部の長さを減少させる1つ以上の二次パルスとを含み得る。二次パルスは、一次パルスの前および/または後に印加され得る。
【0014】
幾つかのパルス設計パラメータを最適化することで、マルチパルス波形に応答して単一の液滴が形成されることを確実にできる。一般的に、これらのパラメータには、各パルスの個々のセグメントの相対的な振幅、各セグメントの相対的なパルス幅、および波形の各部分のスルーレートが含まれる。幾つかの実施形態では、各パルスの電圧振幅が次第に大きくなるマルチパルス波形により、単一の液滴を形成できる。或いは、またはそれに加えて、連続するパルス間の時間が全パルス幅に対して相対的に短いマルチパルス波形により、単一の液滴が得られる。マルチパルス波形は、ジェットの固有周波数およびその高調波に対応する周波数では、ほとんどまたは全くエネルギーを有しないものであり得る。
【0015】
1つの態様では、アクチュエータを有する液滴射出装置を駆動する方法は、液滴射出装置に液体の液滴を射出方向に射出させるために、アクチュエータに一次駆動パルスを印加する工程と、アクチュエータに、液滴の体積を実質的に変えずに液滴の射出方向の長さを減少させる1つ以上の二次駆動パルスを印加する工程とを備える。
【0016】
他の実施態様は、以下の特徴の1つ以上を含み得る。1つ以上の二次駆動パルスが、一次駆動パルスの後に印加されることを含む、上記液滴射出装置を駆動する方法。この方法は、一次駆動パルスに続き、二次駆動パルスの最初のパルスが、液滴射出装置の固有周波数fに対応する周期より長い時間だけ遅延されることも含み得る。1つ以上の二次駆動パルスは一次駆動パルスの前に印加されてもよく、または、二次駆動パルスは一次駆動パルスの前後に印加されてもよい。1つ以上の二次駆動パルスは、一次駆動パルスの振幅より小さい振幅を有し得る。
【0017】
他の実施態様は、以下の特徴の1つ以上を含み得る。上記方法は、一次駆動パルスのパルス幅より小さいパルス幅を有する1つ以上の二次駆動パルスを含み得る。上記液体は高分子量材料(即ち、発光ポリマー等のポリマー)を含み得る。液滴の射出方向における長さは、約10%以上、約25%以上、または約50%以上減少し得る。
【0018】
別の態様において、アクチュエータを有する液滴射出装置を駆動する方法は、液滴射出装置に液体の液滴を射出方向に射出させるために、アクチュエータに一次駆動パルスを印加する工程と、アクチュエータに、液滴の体積を実質的に変えずに液滴の形状を変える1つ以上の二次駆動パルスを印加する工程とを備え、二次駆動パルスの周波数は液滴射出装置の固有周波数fより大きい。
【0019】
複数の実施態様は、以下の特徴の1つ以上を含み得る。上記方法では、二次パルスが液滴の射出方向の長さを変えてもよく、または、二次パルスが液滴の射出方向の長さを減少させてもよい。
【0020】
別の態様において、アクチュエータを有する液滴射出装置を駆動する方法は、液滴射出装置に高分子量材料を含む液体の単一の液滴を射出させるために、アクチュエータに2つ以上の駆動パルスを含むマルチパルス波形を印加する工程を備え、駆動パルスの周波数は液滴射出装置の固有周波数fより大きい。
【0021】
別の態様において、アクチュエータを有する液滴射出装置を駆動する方法は、液滴射出装置に液体の液滴を射出方向に射出させるために、アクチュエータに複数の駆動パルスを印加する工程を備え、パルスの少なくとも一部は、液滴射出装置の固有周波数fより大きい周波数を有し、液体は、約10以上の分子量を有する材料を含む。
【0022】
更に別の態様において、アクチュエータを有する液滴射出装置を駆動する方法は、液滴射出装置に、高分子量材料を含む液体の液滴を射出させるために、アクチュエータに、2つ以上の駆動パルスを含むマルチパルス波形を印加する工程を備え、液滴の質量の少なくとも約60%は、液滴内の点から半径r以内に含まれ、rは
【数1】

【0023】
によって与えられる球体の液滴の半径に対応し、式中、mは液滴の質量であり、ρは液体の濃度である。
【0024】
本発明の実施形態は、以下の長所の1つ以上を有し得る。
【0025】
本願明細書で開示される技術は、液滴射出装置の周波数応答性能を改善するために用いられ得る。発射レートの関数としての、液滴射出器、即ちジェットから射出される液滴の速度のばらつきを、かなり低減できる。発射レートの関数としての、液滴射出器から射出される液滴の体積のばらつきを、かなり低減できる。速度の誤差を低減することにより、液滴の配置誤差を低減でき、イメージング用途では画像を改善できる。体積のばらつきを低減することにより、非イメージング用途では品質が向上し、イメージング用途では画像が改善される。
【0026】
これらの方法を用いて、或る用途において、その用途で要求されるよりも(体積が)例えば1.5倍〜4倍以上小さい液滴を生じる液滴射出器設計の仕様を定めることにより、周波数に依存する射出器性能を改善できる。そして、これらの技術を適用することにより、射出器は、その用途で要求される液滴サイズを生じることができる。従って、本願明細書で開示される技術は、小さい液滴射出装置から大きい液滴サイズを提供するために用いられ得ると共に、1つの液滴射出装置から広範囲の液滴サイズを生じるために用いられ得る。開示される技術を用いて達成可能な広範囲の液滴サイズにより、インクジェットプリント用途において広範囲の階調を有する階調画像の提供が容易になる。
【0027】
幾つかの実施形態では、これらの技術で液滴後尾部のサイズを減少させることにより、インクジェットプリント用途では、例えば、インクの大きい液滴後尾部に関連する、液滴の不正確な配置によって生じ得る画像の劣化が低減され得る。基体が射出装置に対して相対移動している際、単一の大きい液滴は、その全ての液体が、移動する基体上の複数箇所ではなく1箇所に付着するので、これらの技術で、複数の液滴を有しない大きい液滴体積を達成することにより、不正確さを低減することができる。単一の大きい液滴は、複数の小さい液滴よりも遠くまでよりまっすぐに移動できるので、更なる利益が提供され得る。
【0028】
添付の図面および以下の説明で、本発明の1つ以上の実施形態の詳細を述べる。本発明の他の特徴および長所は、この説明および図面、並びに特許請求の範囲から明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
様々な図面中、同一参照番号は同一要素を示す。
【0030】
図1を参照すると、プリントヘッド12は、複数の(例えば、128個、256個またはそれ以上)のインクジェット10を含み(図1には1つのみ示す)、これらは、インクジェット10の発射を制御するために信号ライン14および15を介して供給され内蔵制御回路19によって分配される電気的駆動パルスによって駆動される。外部コントローラ20は、ライン14および15を介して駆動パルスを供給すると共に、更なるライン16を介して内蔵制御回路19に制御データおよびロジック用電力並びにタイミングを供給する。インクジェット10によって射出されるインクは、プリントヘッド12に対して(例えば、矢印21で示される方向に)相対移動する基体18上に1つ以上のプリントライン17を形成するように送出され得る。幾つかの実施形態では、単一パスモードで、基体18が静止したプリントヘッド12を通過するよう移動する。或いは、走査モードで、プリントヘッド12が基体18を横断するよう移動することも可能である。
【0031】
図2A(縦断面図)を参照すると、各インクジェット10は、プリントヘッド12の半導体ブロック21の上面に細長いポンプチャンバ30を含む。ポンプチャンバ30は、(インク供給源34から側面に沿って)入口32から延び、ブロック21の上面22から下層29にあるノズル28の開口部へと下行する下行経路36内のノズル流路に至る。ノズルサイズは所望により変わり得る。例えば、ノズルの直径は数マイクロメートル台(例えば、約5マイクロメートル、約8マイクロメートル、10マイクロメートル)、数十マイクロメートル台、または数百マイクロメートル台(例えば、約20マイクロメートル、約30マイクロメートル、約50マイクロメートル、約80マイクロメートル、約100マイクロメートル、約200マイクロメートル、またはそれ以上)であり得る。各ポンプチャンバ30への入口32には流れ規制要素40が設けられる。各ポンプチャンバ30を覆う平坦な圧電アクチュエータ38は、ライン14から供給される駆動パルスによって作動され、そのタイミングは、内蔵回路19からの制御信号によって制御される。駆動パルスによって圧電アクチュエータの形状が変形し、これによってチャンバ30の容積が変わることで、入口からチャンバに液体が引き込まれ、インクが下行経路36を通ってノズル28から押し出される。各プリントサイクルで、アクティブにされたジェットにマルチパルス駆動波形が送出され、プリントヘッド装置12を通過する基体18の相対移動と同期した所望のタイミングで各ジェットのノズルから単一の液滴を射出させる。
【0032】
図2Bも参照すると、平坦な圧電アクチュエータ38は、駆動電極42と接地電極44との間に設けられた圧電層40を含む。接地電極44は接着層46によって薄膜48(例えば、シリカ、ガラスまたはシリコン薄膜)に接着される。動作中は、駆動パルスが、駆動電極42と接地電極44との間に電位差を与えることにより圧電層40内に電界を発生する。圧電層40がこの電界に応答してアクチュエータ38を変形させることにより、チャンバ30の容積が変わる。
【0033】
各インクジェットは、射出器(即ちジェット)の長さ方向に伝搬する音波の周期の逆数に関係する固有周波数fを有する。ジェットの固有周波数は、ジェット性能の多くの面に影響し得る。例えば、ジェットの固有周波数は、一般的に、プリントヘッドの周波数応答に影響する。一般的に、ジェットの固有周波数の約25%までの、実質的に固有周波数に未たない(例えば、固有周波数の約5%未満の)周波数範囲では、ジェット速度は一定である(例えば、平均速度の5%以内)。周波数がこの範囲より高くなると、ジェット速度は増加方向に変化し始める。この変化は、部分的には、前回の駆動パルスの残留圧力および流れによって生じると考えられる。これらの圧力および流れは、現在の駆動パルスと相互作用して建設的または破壊的干渉を生じ得るものであり、これにより、通常の発射よりも液滴発射速度が速くまたは遅くなる。建設的干渉は駆動パルスの有効振幅を増加させ、液滴速度を高める。逆に、破壊的干渉は駆動パルスの有効振幅を減少させ、これにより液滴速度が低下する。
【0034】
駆動パルスによって生じる圧力波は、ジェットの固有周波数、即ちジェットの共振周波数でジェット内を往復するよう反射する。圧力波は、通常、ポンプチャンバ内の発生地点からジェットの端部に向かって移動して、ポンプチャンバの下を戻り、この時点で次の駆動パルスに影響する。しかし、ジェットの様々な部分が部分的な反射を与え得るので、応答がより複雑になる。
【0035】
一般的に、インクジェットの固有周波数は、インクジェットの設計および射出されるインクの物理的性質の関数として変化する。幾つかの実施形態では、インクジェット10の固有周波数は約15kHzを超える。他の実施形態では、インクジェット10の固有周波数は約30〜100kHz(例えば約60kHzまたは80kHz)である。更に別の実施形態では、固有周波数は約100kHz以上(例えば約120kHzまたは約160kHz等)である。
【0036】
ジェットの固有周波数を決定する1つの方法は、容易に測定可能なジェットの速度応答から求めるものである。液滴速度の周期性の変化は、ジェットの固有周波数に対応する。図3を参照すると、液滴速度の周期性の変化は、パルス周波数の逆数に対する液滴速度をプロットし、ピーク間の時間を測定することによって測定できる。固有周波数は1/τであり、τは時間に対する速度の曲線の局地的な極値間(即ち、隣接する極大値間または隣接する極小値間の)の時間である。この方法は、実際にデータをプロットすることなく、電子的データ整理技術を用いて適用できる。
【0037】
液滴速度は様々な方法で測定できる。1つの方法は、高速カメラの前で、例えばLED等のストロボ光で照明しながらインクジェットを発射することである。ストロボは、画像ビデオ中で液滴が静止して見えるように、液滴発射周波数と同期される。この画像を従来の画像解析技術を用いて処理し、液滴頭部の位置を判定する。これらを液滴が射出されてからの時間と比較し、有効液滴速度を判定する。一般的なシステムでは、周波数の関数としての速度のデータがファイルシステムに格納される。データをアルゴリズムによって解析してピークを抽出するか、または、解析的に導出された曲線でデータを近似することができる(例えば、周波数、減衰、および/または速度によってパラメータ化される)。フーリエ解析を用いてジェットの固有周波数を判定することも可能である。
【0038】
動作中、各インクジェットは、1つのマルチパルス波形に応答して単一の液滴を射出し得る。図4Aにはマルチパルス波形の一例が示されている。この例では、マルチパルス波形400は4つのパルスを有する。各マルチパルス波形は、一般的に、射出周期(即ち、射出周波数に対応する周期)の整数倍に対応する期間によって次の波形から離間される。各パルスは、ポンプ要素の容積の増加中に対応する「充填」傾斜部と、ポンプ要素の容積の減少中に対応する「発射」傾斜部(充填傾斜部の反対側の傾斜)とを有するものとして特徴付けることができる。マルチパルス波形400には、一続きの充填傾斜部および発射傾斜部がある。一般的に、ポンプ要素の容積の拡張および収縮は、ポンプチャンバ内の圧力変化を生じさせ、これによって液体がノズルから押し出される傾向がある。
【0039】
各パルスは、個々のパルスセグメントの開始からそのパルスセグメントの終わりまでの時間に対応するパルス周期τを有する。マルチパルス波形の全周期は、4つのパルス周期の合計である。波形の周波数は、パルス数をマルチパルスの全周期で割ることによって、およその値を決定できる。或いは、またはそれに加えて、フーリエ解析を用いてパルス周波数の値を求めることもできる。フーリエ解析は、マルチパルス波形の高調波成分の大きさを提供する。パルス周波数は、高調波成分が最大となる(即ち、フーリエスペクトルにおける最も高い非ゼロのエネルギーピークの)周波数fmaxに対応する。駆動波形のパルス周波数は、ジェットの固有周波数fより大きいのが好ましい。例えば、パルス周波数は、ジェットの固有周波数の約1.1〜5倍(例えばfの約1.3〜2.5倍、fの約1.8〜2.3倍、fの約2倍等)であり得る。幾つかの実施形態では、パルス周波数は、ジェットの固有周波数の倍数(例えば、ジェットの固有周波数の約2倍、3倍または4倍等)であり得る。
【0040】
本実施形態では、パルスはバイポーラである。即ち、マルチパルス波形400は、負の極性の部分(例えば、部分410)および正の極性の部分(例えば、部分420)を含む。一方の極性のみのパルスを有する波形もあり得る。DCオフセットを含む波形もあり得る。例えば、図4Bには、ユニポーラパルスのみを含むマルチパルス波形が示されている。この波形では、パルスの振幅および幅が、各パルス毎に次第に増加している。
【0041】
マルチパルス波形に応答してジェットによって射出される単一のインク液滴の体積は、後に続く各パルス毎に増加する。図5A〜図5Eには、マルチパルス波形に応答したインクの蓄積およびノズルからの射出が示されている。最初のパルスの前には、インクジェット10内のインクの終端は、ノズル28のオリフィス528から(内圧により)僅かに後方に湾曲したメニスカス510を形成している(図5A参照)。オリフィス528は、最小寸法Dを有する。例えば、オリフィス528が円形である実施形態では、Dはオリフィスの直径である。一般的に、Dはジェット設計および液滴サイズの要件によって様々であり得る。一般的に、Dは約10μm〜200μmである(例えば、約20μm〜50μm)。第1のパルスは、インクの最初の体積をオリフィス528へと押し出し、これにより、インク表面520がノズル28から僅かに突出する(図5B参照)。最初の部分的な液滴が分離または後退し得る前に、第2のパルスがインクの更なる体積をノズル28を通して押し出し、これにより、ノズル28からのインクの突出が増加する。図5Cおよび図5Dに示されるように、第2および第3のパルスによるインクがそれぞれ液滴の体積を増加させ、運動量を増加させる。一般的に、一続きのパルスによるインクの体積は、図5Cおよび図5Dに示されるように、形成中の液滴の膨らみとして見ることができる。最終的に、第4のパルスで、ノズル28が単一の液滴530を射出し、メニスカス510は初期位置に戻る(図5E)。図5Eには、液滴頭部をノズルと結んでいる非常に細い後尾部544も示されている。この後尾部のサイズは、大きいノズルを用いてシングルパルスで形成される液滴よりも、かなり小さくなり得る。
【0042】
図6A〜6Iには、液滴の射出を示す一連の写真が示されている。この例では、インクジェットは直径が50μmの円形のオリフィスを有する。インクジェットは、約60kHzのパルス周波数の4パルスのマルチパルス波形によって駆動され、250ピコリットルの液滴を生じた。画像は6マイクロ秒毎に撮影された。オリフィスから突出するインクの体積は、連続する各パルス毎に増加している(図6A〜6G)。図6H〜6Iには、射出された液滴の軌跡が示されている。尚、インクジェットの表面は反射性であるため、各画像の上半分には液滴の鏡像が生じている。
【0043】
複数の発射パルスで単一の大きい液滴を形成することにより、後尾部の液体の体積を減らすことができる。液滴の「後尾部」とは、後尾部が分離するまで液滴頭部、即ち液滴の先頭部をノズルと結んでいる糸状の液体のことである。液滴後尾部の移動速度は、液滴の先頭部より遅いことが多い。場合によっては、液滴後尾部によって、液滴の本体と同じ位置に着地しない衛星、即ち別の液滴が形成され得る。従って、液滴後尾部は、全体的な射出器性能を低下させ得る。
【0044】
マルチパルスによる液滴発射で液滴後尾部を減少させることができるのは、一連の液体の体積が衝突することで、液滴形成の特性が変化するからであると考えられる。マルチパルス波形の後の方のパルスは、マルチパルス波形の先の方のパルスによって駆動された、ノズル出口にある液体の中へと液体を駆動し、各液体の速度がそれぞれ異なることにより、それらの液体の体積が混合され拡散する。この混合および拡散により、液滴頭部の全直径の太さの糸状の液体がノズルまでつながるのを防止することができる。シングルパルスによる液滴でしばしば観察される円錐状の後尾部とは異なり、マルチパルスによる液滴は、一般的に、後尾部を有しないか、または非常に細い糸状の後尾部を有する。図15Aおよび図15Bは、10kHzの発射速度および8m/秒の液滴速度における、80ピコリットルの液滴の液滴形成において、20ピコリットルのジェット設計でマルチパルスを用いた場合と、80ピコリットルのジェット設計でシングルパルスを用いた場合との比較である。同様に、図16Aおよび16Bは、20kHzの発射速度および8m/秒の液滴速度における、80ピコリットル液滴の液滴形成において、20ピコリットルのジェット設計でマルチパルスを用いた場合と、80ピコリットルのジェット設計でシングルパルスを用いた場合との比較である。これらの図面には、マルチパルスによる液滴では形成される後尾部が減少していることが示されている。
【0045】
先に述べたように、ジェットの固有周波数を決定する1つの方法は、ジェットの周波数応答データのフーリエ解析を行うことである。以下に説明するように、液滴射出器の液滴速度応答の非線形性により、周波数応答は線形化され、フーリエ解析の精度が高まる。
【0046】
例えば、圧電駆動されるドロップ・オン・デマンド型のインクジェットのような、機械的に作動される液滴射出器では、周波数応答の挙動は、一般的に、ジェット内における、射出された前の液滴の残留圧力(および流れ)の結果であるとされている。理想的な条件下では、チャネル内を移動する圧力波は、時間に関して線形に減衰する。速度データから圧力波の振幅を近似できる場合には、より線形に挙動するジェット内の圧力波を表わす相当(equivalent)周波数応答を導出できる。
【0047】
チャンバ内の圧力のばらつきの判定には多くの方法がある。例えば、圧電駆動される射出器等といった幾つかの液滴射出器では、印加電圧とポンプチャンバ内に生じる圧力との関係は、しばしば線形であると仮定できる。非線形性が存在する場合には、それらを、例えば圧電偏向を測定することによって特徴付けることができる。幾つかの実施形態では、圧力を直接測定することができる。
【0048】
或いは、またはそれに加えて、ジェットの速度応答からジェット内の残留圧力を判定できる。この手法では、測定された速度で液滴を発射するのに必要な電圧を所定の関数から決定することにより、速度応答が電圧相当の周波数応答に変換される。この関数の例は、例えば以下のような多項式である。
【0049】
V=Av+Bv+C
式中、Vは電圧であり、vは速度であり、A、BおよびCは実験的に決定できる係数である。この変換により、実際の発射電圧と比較可能な相当発射電圧が求められる。相当発射電圧と実際の発射電圧との差が、ジェット内の残留圧力の大きさである。
【0050】
任意の特定の射出周波数で連続的に駆動される場合には、ジェット内の残留圧力は、発射周期(即ち、発射周波数の逆数)だけ間隔を置いた一続きのパルス入力(1発射周期前のパルスが最も最近のパルスである)の結果である。周波数応答の電圧相当の振幅を、波形の周波数の逆数に対してプロットする。これは、速度応答と発射からの時間とを比較することと同等である。従って、パルス間の時間に対する電圧相当の振幅のグラフは、時間の関数としてのジェット内の圧力波の減衰を表わす。時間に対する電圧相当の応答のグラフの各点における実際の駆動関数は、その点における時間の逆数に等しい周波数の一続きのパルスである。周波数応答データが適切な周波数間隔で取得されている場合には、そのデータを補正して、シングルパルスに対する応答を表わすことができる。
【0051】
この応答は次式で表わすことができる。
【0052】
R(t)=P(t)+P(2t)+P(3t)+…
式中、R(t)は期間tだけ離間した一続きのパルスに対するジェット応答であり、P(t)は時間tにおけるシングルパルス入力に対するジェット応答である。R(t)が入力の線形関数であるとすると、応答式を代数的に操作して、測定されたR(t)が与えられる場合のP(t)を解くことができる。一般的に、ジェット内の残留エネルギーは時間と共に減衰するので、限られた数の応答時間を算出すれば、十分に正確な結果が提供される。
【0053】
上記の解析は、所与の周波数で射出される一続きのパルスをイメージング/測定システムで測定するために、液滴をストロボ光で照明し、ジェットが連続的に射出される試験台上で取得された周波数応答データに基づくことができる。或いは、パルス間の時間が特定の量だけ増分されるよう離間されたパルスの対を用いて、ジェットを繰り返し発射してもよい。パルスの対は、次の対が発射される前にジェット内の残留エネルギーが実質的に消失するように、パルス間の十分な遅延をもって発射される。この方法では、シングルパルスに対する応答を導出する際に、先のパルスを考慮する必要をなくすことができる。
【0054】
導出された周波数応答は、一般的に、伝達関数を十分に近似するものとなる。これらの試験では、ジェットに対するパルス入力は、測定しなければならない周波数に対して相対的に狭い。一般的に、パルスをフーリエ変換すると、パルス幅の逆数より低い全周波数における周波数成分が示される。パルスが対称的な形状を有すると仮定すると、これらの周波数の振幅は、パルス幅の逆数に等しい周波数において0まで減少する。例えば、図7には、約250kHzで0まで減衰する4マイクロ秒の台形波形のフーリエ変換が示されている。
【0055】
フーリエ変換を用いて射出器の周波数応答を判定するには、周波数の関数としての射出器からの液滴速度のデータを取得すべきである。射出器は、予測される射出器の固有周期(射出器の固有周波数の逆数に等しい)に適した短いパルス幅を有する単純な発射パルスで駆動されるべきである。発射パルスの周期が短ければ、発射パルスの高調波成分が高い周波数にまで及ぶことが確実になり、従って、ジェットがインパルスによって駆動されているかのように応答し、周波数応答データは発射パルス自体による影響を実質的に受けなくなる。図8には、80ピコリットルの液滴射出器の特定の構成についての周波数応答曲線の一例が示されている。
【0056】
液滴の速度の関数としての、液滴の発射に必要な電圧に関するデータも取得されるべきである。このデータは、射出器の応答を線形化するために用いられる。大半の液滴射出器では、液滴速度と電圧との関係は、特に低電圧(即ち、低速)においては非線形である。フーリエ解析が速度データに対して直接行われる場合には、液滴速度とジェット内の圧力エネルギーとの非線形の関係によって周波数成分が歪められる可能性が高い。例えば多項式等といった曲線近似で、この電圧/速度関係を表わすことができ、得られた式を用いて、速度応答を電圧相当の応答に変換することができる。
【0057】
速度周波数応答を電圧に変換した後、ベースライン(低周波)電圧を減算する。得られた値は、ジェット内の残留駆動エネルギーを表わす。先に述べたように、これは、時間応答にも変換される。図9には、パルス遅延時間の関数としての電圧相当の応答の一例が示されている。この曲線は、周波数応答の指数関数的減衰の包絡線を示すものである。
【0058】
フーリエ変換を用いて、電圧相当の時間応答データを解析できる。図10には、射出器の時間応答に対するフーリエ解析と、4パルス波形のフーリエ解析との結果が示されている。暗い方の線は、液滴射出器(ジェット)の時間応答のフーリエ変換を表わす。この例では、30kHzに強い応答が示されており、これは、この射出器の基本固有周波数である。60kHzには大きな第2の高調波も示されている。
【0059】
図10には、同じ射出器を駆動するために設計された4パルス波形のフーリエ変換も示されている。図示されるように、この波形は、射出器の基本固有周波数において低いエネルギーを有する。この波形におけるエネルギーは射出器の固有周波数で低くなっているので、この波形は射出器の共振応答を実質的に励起しない。
【0060】
図11には、2つの異なる射出器の周波数応答データが示されている。これらの射出器は同じサイズの液滴を発射する。暗い方の線は、4パルス波形を用いて発射された上記の例で用いた射出器のデータである。明るい方の線は、シングルパルス波形を用いて同じサイズの液滴を発射した射出器のデータを示している。シングルパルス波形を用いた応答は、マルチパルス波形と比べてかなりばらつきが大きい。
【0061】
特定のインクを用いる幾つかのインクジェット構成では、固有周波数の判定をすぐに容易にするような時間対速度の曲線は提供されない。例えば、反射される圧力波を大きく減衰させるインク(例えば、粘度が高いインク)は、残留パルスの振幅を、時間対速度の曲線で振動がほとんどまたは全く観察されないレベルまで減少させ得る。幾つかのケースでは、減衰が大きいジェットは、非常に低い周波数のみで発射を行う。幾つかのジェット発射条件では、周波数応答のグラフは非常に不規則になるか、または、主要な固有周波数の識別が困難な、相互作用する2つの強い周波数を示すものとなる。このような場合には、別の方法で固有周波数を判定することが必要となり得る。そのような1つの方法は、理論モデルを用いて、例えば、ジェットおよびインクの物理的寸法、材料特性および流体特性からジェットの固有周波数を算出することである。
【0062】
固有周波数の計算には、ジェットの各部分における音速を決定し、各部分の長さに基づき音波の移動時間を算出することが含まれる。全ての時間を加算することにより総移動時間τtravelが決定され、次に、各部分を通る圧力波の往復を考慮して総移動時間が2倍される。移動時間の逆数τtravel−1が、固有周波数fである。
【0063】
液体中の音速は、液体の濃度および体積弾性率の関数であり、次式で決定できる。
【数2】

【0064】
式中、csoundは音速(メートル/秒)であり、Bmodは体積弾性率(パスカル)であり、ρは濃度(キログラム/m)である。或いは、測定が容易であり得る音速および濃度から、体積弾性率を導くこともできる。
【0065】
インクジェットの構造的なコンプライアンスが大きい部分では、液体の有効体積弾性率を決定するために、音速の計算にコンプライアンスを含めるべきである。一般的に、コンプライアンスが高い部分としては、ポンプチャンバが含まれる(通常、ポンプ要素(例えば、アクチュエータ)はコンプライアンスを有する必要があるため)。ジェットの液体を囲む部分であって、壁が薄くなっている他の部分や、コンプライアンスを有する他の構造も含まれ得る。構造的なコンプライアンスは、例えば、ANSYS(登録商標)ソフトウェア(米国ペンシルベニア州カノンズバーグに所在するアンシス社(Ansys Inc.)から市販されている)等といった有限要素法プログラムを用いて、または注意深い手動計算によって算出できる。
【0066】
流路内における液体のコンプライアンスCは、液体の実際の体積弾性率、およびチャネル容積Vから、次式のように算出できる。
【数3】

【0067】
液体のコンプライアンスの単位はm/パスカルである。
【0068】
チャネル内における有効音速は、液体のコンプライアンスに加えて、チャネル構造のコンプライアンスを考慮して調節されるべきである。チャネル構造(例えばチャネル壁)のコンプライアンスは、様々な標準的な機械工学の式によって算出できる。特に構造が複雑な場合には、この計算に有限要素法を用いることもできる。液体の総コンプライアンスCTOTALは次式によって求められる。
【0069】
TOTAL=C+C
式中、Cは構造のコンプライアンスである。インクジェットの各部分における液体中の有効音速csoundEffは、次式で決定できる。
【数4】

【0070】
式中、BmodEffは有効体積弾性率であり、流路の総コンプライアンスおよび体積から算出できる。
【数5】

【0071】
射出器の駆動に用いられる波形を適切に設計することにより、液滴射出器の周波数応答を改善することができる。周波数応答の改善は、液滴射出後の射出器内の残留エネルギーを低減または解消するよう調節された発射パルスを用いて液滴射出器を駆動することによって達成できる。これを達成する1つの方法は、射出器の共振周波数の倍数である基本周波数を有する一続きのパルスを用いて射出器を駆動することである。例えば、マルチパルスの周波数は、ジェットの共振周波数の約2倍に設定され得る。ジェットの共振周波数の2〜4倍のパルス周波数を有する一続きのパルス(例えば、2〜4個のパルス)は、ジェットの共振周波数において非常に低いエネルギー成分を有する。図10からわかるように、ジェットの共振周波数における波形のフーリエ変換の振幅は、この波形における相対的なエネルギーをよく示すものである。このケースでは、マルチパルス波形は、ジェットの固有周波数において、包絡線の振幅(フーリエ変換のピークによって示される)の約20%を有する。
【0072】
先に述べたように、マルチパルス波形は、単一の液滴を形成させるのが好ましい。単一の液滴を形成することで、形成される液滴において、個々のパルスの個別の駆動エネルギーが平均化されることが確実になる。パルスの駆動エネルギーの平均化は、液滴射出器の周波数応答の平坦化に部分的に関与する。パルスのタイミングが射出器の共振周期の倍数(例えば、共振周期の2〜4倍)である場合には、複数のパルスは、射出器の共振周期の整数倍の周期にわたるものとなる。このタイミングにより、前回の液滴発射の残留エネルギーが大きく自己相殺され、現在の液滴の形成にほとんど影響しなくなる。
【0073】
マルチパルス波形による単一の液滴の形成は、パルスの振幅およびタイミングに依存する。パルス列の最初のパルスは、液滴を一滴も射出させるべきではなく、最後のパルスによって駆動される液体の最後の体積は、液滴がノズルから分離し単一の液滴が形成されるのを確実にする十分なエネルギーで、ノズルで形成されている最初の体積と合体すべきである。個々のパルス幅は、個々の液滴の形成時間に対して相対的に短いべきである。パルス周波数は、液滴の分離基準に対して相対的に高いべきである。
【0074】
パルス列の最初のパルスは、後のパルスよりも短い持続時間を有し得る。短いパルスの駆動エネルギーは、同じ振幅のより長いパルスの駆動エネルギーよりも低い。これらのパルスが(最大液滴速度に対応する)最適なパルス幅に対して相対的に短いならば、後の(より長い)パルスによって駆動される液体の体積は、先のパルスよりも高いエネルギーを有する。後で発射された体積のエネルギーの方が高いということは、それらが、先に発射された体積と合体することを意味し、その結果、単一の液滴が生じる。例えば、4パルス波形では、パルス幅は以下のタイミングを有し得る。第1のパルス幅は0.15〜0.25、第2のパルス幅は0.2〜0.3、第3のパルス幅は0.2〜0.3、第4のパルス幅は0.2〜0.3(各パルス幅は、全パルス幅の小数部を表わす)。
【0075】
幾つかの実施形態では、複数のパルスは等しい幅および異なる振幅を有する。パルスの振幅は、最初のパルスから最後のパルスに向かって増加し得る。これは、ノズルに送出される液体の最初の体積のエネルギーが、後の体積のエネルギーより低いことを意味する。液体の各体積のエネルギーは、次第に大きくなり得る。例えば、4パルス波形では、個々の発射パルスの相対的な振幅は以下の値を有し得る。第1のパルスの振幅は0.25〜1.0(例えば、0.73)、第2のパルスの振幅は0.5〜1.0(例えば、0.91)、第3のパルスの振幅は0.5〜1.0(例えば、0.95)、第4のパルスの振幅は0.75〜1.0(例えば、1.0)。
【0076】
他の関係も可能である。例えば、幾つかの実施形態では、後のパルスは最初のパルスより低い振幅を有し得る。
【0077】
パルス幅および振幅の値は、液滴形成、電圧および電流の要件、ジェットの持続性、その結果のジェットの周波数応答、並びに波形を評価するための他の基準を用いて実験的に決定できる。解析的な方法を用いて、単一の液滴の液滴形成時間および液滴分離基準を推定することもできる。
【0078】
後尾部の分離時間は、発射パルス間の期間より実質的に長いのが好ましい。これは、液滴形成時間がパルス時間よりかなり長いので、複数の個別の液滴が形成されないことを意味する。
【0079】
具体的には、単一の液滴の形成について、2つの基準を評価して、後尾部分離時間または液滴形成時間を推測することができる。射出器の形状および液体の特性から、時間パラメータTを算出できる(例えば、フロム(Fromm, J.E.)の「ドロップ・オン・デマンド型ジェットの流体力学の数値計算(Numerical Calculation of the Fluid Dynamics of Drop-on-demand Jets)」(IBM J. Res. Develop., Vol. 28 No. 3、1984年5月)を参照)。このパラメータは、ノズル形状および液体の特性を液滴形成時間に関係付けるスケーリングファクタを表わすものであり、液滴形成の数値モデルを用いて導出される。
【0080】
は次式によって定義される。
【0081】
=(ρr/σ)1/2
式中、rはノズル半径(例えば50マイクロメートル)であり、ρは液体の濃度(例えば、1gm/cm)であり、σは液体の表面張力(例えば、30dyn/cm)である。これらの値は、一般的な試験液(例えば、水およびグリコールの混合液)で80ピコリットルの液滴を生じるジェットの寸法に対応するものである。上記に参照したフロムの文献で説明されているように、一般的に、ピンチオフ時間はTの約2倍から4倍まで変化する。従って、上述のパラメータ値の例では、この基準により、分離時間は130〜260マイクロ秒になる。
【0082】
後尾部分離時間を求める別の計算は、ミルズ、リーおよびトーク(Mills, R.N., Lee F.C. and Talke F.E.)の「カラープリンティングのためのドロップ・オン・デマンド型イクジェット技術(Drop-on-demand Ink Jet Technology for Color Printing)」(SID 82 Digest, 13, 156-157、1982年)で論じられており、次式で与えられる後尾部分離時間Tについて、実験的に導出されたパラメータを用いる。
【0083】
=A+B(μd)/σ
式中、dはノズル直径であり、μは液体の粘度であり、AおよびBは近似パラメータである。一例では、Aは47.71と決定され、Bは2.13と決定される。この例では、ノズル直径が50マイクロメートル、粘度が10センチポアズ、表面張力が30dyn/cmである場合、後尾部分離時間は約83マイクロ秒である。
【0084】
液体の層流ジェットの安定性についてのレイリー基準を用いて、個別の液滴の形成が最適化され得る発射周波数の範囲を推測できる。この基準は次式で表わすことができる。
【0085】
k=πd/λ
式中、kは、液体の円柱形のジェットについての安定性の式から導出されたパラメータである。ジェットの安定性は、表面の摂動(例えば、パルスによって生じる撹乱等)の振幅が大きくなるか否かによって決定される。λは射出器上の表面波の波長である。分離した液滴を形成するには、パラメータkは0〜1であるべきである。λは、液滴速度vをパルス周波数fで割った値に等しいので、この式は周波数および速度に関して変形可能である。従って、分離した液滴の形成については、次式となる。
【0086】
f≦v/(πd)
例えば、d=50マイクロメートル、v=8m/秒の射出器では、この解析によれば、効果的な液滴分離のために、fは約50kHz未満であるべきである。この例では、マルチパルス波形で単一の液滴を提供するには、約60kHzのマルチパルス発射周波数が有用であるはずである。
【0087】
マルチパルス波形中のパルス数を変えることにより、各液滴の質量を変えることができる。各マルチパルス波形は、射出される各液滴の所望の液滴質量に従って選択される任意の数のパルス(例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれ以上のパルス)を含み得る。
【0088】
一般的に、液滴質量は所望により変えることができる。マルチパルス波形中の発射パルスのパルス振幅、パルス幅、および/またはパルス数を増加させることにより、より大きい液滴を生成できる。幾つかの実施形態では、各射出器は、可能な最小液滴質量が、可能な最大液滴質量の約10%(例えば、約20%、50%)となるような、或る範囲にわたって体積が異なる液滴を射出できる。幾つかの実施形態では、1つの射出器が、約10〜40ピコリットルの範囲内(例えば約10〜20ピコリットル等)の液滴質量の液滴を射出できる。他の実施形態では、液滴質量を80〜300ピコリットルの間で変えることができる。更に別の実施形態では、液滴質量を25〜120ピコリットルの間で変えてもよい。可能な液滴サイズのバリエーションが大きいことは、階調プリントを用いる用途で様々な階調を提供する際に特に有益であり得る。幾つかの用途では、2つの質量レベルを有する液滴質量に対して、約1〜4の範囲があれば、効果的な階調の提供に十分である。
【0089】
液滴質量に加えてまたは液滴質量の代わりに、更なる液滴特性を調整するために、パルス列プロファイルを選択することができる。適切なパルス列プロファイルを選択することにより、例えば、液滴後尾部の長さおよび体積を実質的に減少させることができる。液滴後尾部とは、液滴の先端の略後方に尾を引く液滴中のインクの体積(例えば、液滴の形状を本質的な球体から異ならせる任意の量の液体)のことであり、性能の低下を招く可能性が高い。液滴の先端からノズル直径の2倍を超えて後方にある液体は、一般的に、性能に悪影響を及ぼす。液滴後尾部は、一般的に、液滴射出後に最後的な量の液体をノズルから引張り出す表面張力および粘度の作用によって生じる。移動速度が遅いインクが、移動速度が速いインクと同時にまたはそれより後にオリフィスから射出されると、移動速度が速いインクの後に尾を引くので、液滴後尾部は、液滴の異なる部分間の速度のばらつきの結果であり得る。多くの場合には、後尾部が大きいと、移動する基体上において液滴先端とは異なる部分に当たることにより、プリント画像の品質を低下させ得る。
【0090】
幾つかの実施形態では、射出される液滴が、オリフィスから短距離以内において実質的な球体になるよう、後尾部を十分に減少させることができる。例えば、液滴の質量の少なくとも約60%(例えば、少なくとも約80%)が、液滴内の点から半径r以内に含まれるようにすることができる。ここで、rは、次式によって与えられる完全に球体の液滴の半径に対応する。
【数6】

【0091】
式中、mは液滴の質量であり、ρはインクの濃度である。換言すれば、液滴の質量の少なくとも約60%が液滴内の点から半径r以内に配置される場合には、液滴の質量の約40%未満が後尾部に配置される。幾つかの実施形態では、液滴の質量の約30%未満(例えば、約20%未満、10%未満、5%未満)が液滴後尾部に配置される。約4ms−1を超える(例えば、約5ms−1を超える、6ms−1を超える、7ms−1を超える、8ms−1を超える)液滴速度では、液滴の質量の約30%未満(例えば、約20%未満、10%未満、5%未満)を液滴後尾部に配置できる。
【0092】
液滴後尾部の液体の比率は、例えば図15A〜図15B並びに図16A〜図16Bに示されているもののような、液滴の写真画像から判定できる。具体的には、画像中における液滴本体および液滴後尾部の相対面積から、液滴後尾部の液体の比率を推定できる。
【0093】
液滴特性に影響するパルスパラメータは、一般的に相関している。更に、液滴特性は、液滴射出器の他の特性(例えば、チャンバ容積)および液体の特性(例えば、粘度および濃度)にも依存し得る。従って、特定の質量、形状、および速度を有する液滴を生じるためのマルチパルス波形は、射出器毎に、および異なるタイプの液体毎に異なり得る。
【0094】
上述のマルチパルス波形は連続パルスで構成されるものであったが、幾つかの実施形態では、射出器は、不連続パルスを含むマルチパルス波形を用いて液滴を生成し得る。図12を参照すると、不連続パルスを含むマルチパルス波形の一例はマルチパルス波形500であり、マルチパルス波形500は、パルス510、520、530および540を含む。全体波形の1番目のパルス510は、全体波形の2番目のパルス520からヌル期間512だけ離間されている。2番目のパルス520は、3番目のパルス530からヌル期間522だけ離間されている。同様に、4番目のパルス540は、3番目のパルス530からヌル期間532だけ離間されている。パルス周期と遅延期間との関係を特徴付ける1つの方法は、パルスのデューティサイクルによるものである。本願明細書で用いる各パルスのデューティサイクルとは、パルス間の期間(即ち、パルス周期+遅延期間)に対するパルス周期の割合のことである。例えば、1のデューティサイクルは、図4Aに示されているような、遅延期間が0のパルスに対応する。パルスが有限の遅延期間によって離間される場合には、デューティサイクルは1未満である。幾つかの実施形態では、マルチパルス波形中のパルスは、1未満(例えば約0.8以下、0.6以下、0.5以下等)のデューティサイクルを有し得る。幾つかの実施形態では、波形間に遅延期間を用いて、後続のパルスと先行するパルスとの干渉の影響を低減することがきる。例えば、反射パルスの減衰が低い(例えば、インク粘度が低い)場合には、隣接するパルスどうしを時間的にオフセットして、これらの干渉の影響を低減することが望ましい場合がある。
【0095】
図13および図14を参照すると、インクジェットプリントヘッドを用いたプリント中に、インクジェットを複数のマルチパルス波形で駆動することにより、各インクジェットから複数の液滴が射出される。図13に示されるように、マルチパルス波形810および820の後には、遅延期間812および822がそれぞれ続いている。マルチパルス波形810に応答して1つの液滴が射出され、マルチパルス波形820に応答してもう1つの液滴が射出される。一般的に、隣接するマルチパルス波形のプロファイルは、同様の液滴が必要であるか否かによって、同じであってもよくまたは異なっていてもよい。
【0096】
マルチパルス波形間の最小限の遅延期間は、一般的に、プリント解像度およびマルチパルス波形の持続時間によって異なる。例えば、相対的な基体速度が約1メートル/秒である場合には、600dpiのプリント解像度を提供するためのマルチパルス波形の周波数は23.6kHzであるべきである。従って、この場合には、隣接するマルチパルス波形は、42.3マイクロ秒だけ離間されるべきである。従って、各遅延期間は、42.3マイクロ秒とマルチパルス波形の持続時間との差である。
【0097】
図14には、23μmの直径を有する1つの円形のオリフィスから複数の液滴を射出するインクジェットの例が示されている。この実施形態では、発射レートが40kHzであったため、駆動パルスの持続時間は約16マイクロ秒であり、離間は25マイクロ秒であった。
【0098】
図15A〜図15B並びに図16A〜図16Bは、2通りの異なる周波数で80ピコリットルの液滴を発射する2つのジェットの比較を示すものである。図15Aおよび16Aに示されている一方のジェットは、より小さいジェット(ノミナルで20ピコリットル)であり、4パルス波形を用いて80ピコリットルの液滴を射出する。図15Bおよび16Bに示されている他方のジェットは、シングルパルス波形を用いた80ピコリットルのジェットである。マルチパルス波形を用いて形成された液滴では、シングルパルス波形を用いて形成された液滴と比較して、後尾部の質量が低減されている。
【0099】
幾つかの実施形態では、射出される液体の体積に影響する1つ以上の一次パルスと、射出される液体の体積にさほど影響しない1つ以上の二次パルスとを含むマルチパルス波形によって、液滴射出装置を駆動できる。例えば、図17Aを参照すると、マルチパルス波形1700は、一次パルス1701と、それに続く4つの二次パルス1702〜1705とを含み得る。液滴射出装置は、一次パルス1701に応答して、或る体積の液体を射出する。それに続く二次パルス1702〜1705は、射出される液体の体積をさほど変化させない。しかし、二次パルス1702〜1705は、射出される液滴の形状に影響し得る。
【0100】
一次パルス1701は、tからtまでの持続時間を有する台形パルスである。一次パルス1701はピーク電圧Vを有する。t−tの遅延が、一次パルス1701を、同じく台形の形状である最初の二次パルス1702から離間している。二次パルス1702は、tからtまでの持続時間、ピーク電圧V、およびt−tのパルス周期を有する。二次パルス1703〜1705は二次パルス1702と同じ形状(即ち台形)、周期およびピーク電圧を有する。
【0101】
一般的に、一次パルス1701と二次パルス1702と間の遅延t−tは、所望により変えることができる。幾つかの実施形態では、t−tは、二次パルス1702が射出される液体の体積をさほど変えないよう十分な長さを有する。遅延時間t−tは、ジェットの固有周波数に対応する期間より大きくてもよい(例えば、約1.1f−1以上、約1.2f−1以上、約1.3f−1以上、約1.5f−1以上、約1.8f−1以上)。幾つかの実施形態では、遅延時間t−tは約10μs以上(例えば、約15μs以上、約20μs以上、約30μs以上、約50μs以上)である。一般的に、t−tは、液滴後尾部がノズル中に残る液体から分離するのにかかる時間を超えないべきである。
【0102】
マルチパルス波形1700ではVはVより大きいが、一般的に、マルチパルス波形における一次パルスおよび二次パルスの相対的なピーク電圧は様々であり得る。一次パルスのピーク電圧は、或る体積の液体をノズルから射出させるのに十分なものであるべきであり、一方、二次パルスのピーク電圧は、実質的に液体の射出を生じさせないものであるべきである(液体の射出はパルス持続時間にも依存し、これについては後述する)。幾つかの実施形態では、Vは、例えば約50V以上等(例えば、約60V以上、約70V以上、約80V以上、約90V以上)の比較的高いものであってもよい。Vも比較的高くてもよく(例えば、約50V以上、約60V以上、約70V以上、約80V以上)、または比較的低くてもよい(例えば、約30V以下、約20V以下)。更に、各二次パルス1702〜1705は同じピーク電圧Vを有しているが、一般的に、各二次パルスの相対的なピーク電圧は様々であり得る。
【0103】
マルチパルス波形1700では、一次パルス1701の持続時間は、後続の二次パルス1702〜1705の持続時間より大きい。しかし、一般的に、一次パルスおよび二次パルスの相対的な持続時間は所望により様々であってよい。更に、一般的に、一次パルスおよび二次パルスの周波数は所望により様々であり得る。一次パルスの周波数は、所望の体積の液滴を提供するよう選択され得る。二次パルスの周波数は、二次パルスが、一次パルスに応答してノズルから射出される液体の体積にさほど影響せずに、チャンバ内の液体に圧力波を及ぼすよう選択され得る。幾つかの実施形態では、一次パルスの周波数はおよそf(ジェットの固有周波数)またはそれ以上(例えば、約1.2f以上、約1.5f以上、約2f以上、約3f以上)である。或いは、またはそれに加えて、二次パルスの周波数はおよそfまたはそれ以上(例えば、約2f以上、約3f以上、約4f以上、約5f以上)であり得る。
【0104】
マルチパルス波形1700は1つの一次パルスおよび4つの二次パルスを含んでいるが、一般的に、一次パルスおよび二次パルスの数は所望により様々であり得る。例えば、マルチパルス波形は、所望の液滴体積を提供するよう選択可能な2つ、3つ、4つ、またはそれ以上のパルスを含み得る。マルチパルス波形は、所望の液滴形状(例えば、所望の後尾部長さ)を提供するよう選択される1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、またはそれ以上の二次パルスを含む。
【0105】
或る実施形態では、二次パルスを用いて、液滴後尾部の長さを減少させることができる。例えば、液体が、例えば高分子量ポリマー等といった高分子量材料を含む(以下、高分子量液体)用途では、マルチパルス波形によって、射出される液体の体積における液滴の分離を促すことにより、後尾部の長さを減少させることができる。一般的に、高分子量材料は、約1,000以上(例えば、約5,000以上、約10,000以上、約50,000以上)の分子量を有する。幾つかのケースでは、高分子量材料は、約100,000以上(例えば約500,000以上等)の分子量を有する分子を含み得る。
【0106】
高分子量液体としては、分子性液体、溶融ポリマー、高分子量材料の溶液、コロイド、または乳液が含まれる。高分子液体の一例は、発光ポリマーのDOW Green K2(ダウ・ケミカル社(Dow Chemical))である。高分子量液体のその他の例としては、有機液体(即ち、DNA)、PEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホネート)水分散液)、および他のポリイミドまたはポリマー溶液が含まれる。
【0107】
二次パルスを用いて、一般的にインクジェットで射出される液体の粘度(即ち、2〜20センチポアズ)の約1.5〜2倍以上の伸長粘度を有する液体等といった、比較的高い伸長粘度(例えば12〜30センチポアズまたは10〜50センチポアズ以上等)を有する液体の液滴後尾部の長さを減少させることもできる。比較的高い伸長粘度を有する液体の例としては、例えば上述の発光ポリマーの溶液等といった様々な高分子量液体が含まれ得る。
【0108】
後尾部の分離および液滴形成を調べるために、理論的解析を用いることができる。例えば、レイリー基準を用いて液滴の分離を解析すると、液体の流れから液滴を形成するために流れを励起するための最適な周波数の式が得られる。この式は次式のように表わすことができる。
【0109】
λ=4.508D
式中、λは、液体のジェットの表面に及ぼされる撹乱の波長であり、Dはジェットの直径であり、これは、射出を、液体がオリフィスと同じ直径を有する場合の、オリフィスからの液体の連続流として近似するものである。一例として、オリフィスの直径が約25μmであり、液体の速度が8m/秒である場合には、λは112μmであり、これは71kHzの周波数を意味する。従って、形成される液滴の直径の約0.25倍の後尾部が所望される場合には、この計算により、約4×71kHz(約285kHz)の撹乱周波数(例えば、二次パルス周波数)を用いるべきであることが示される。
【0110】
図18を参照すると、先に述べた写真解析技術を用いて、(二次パルスの周波数に対応する)二次パルスの幅の関数としての液滴後尾部の長さを調べた。図18では、液滴後尾部の長さ(シングルパルス波形に応答して射出された液滴後尾部の長さに対する、測定された後尾部の長さの割合として表わされている)が、複数の異なる二次パルス幅に対してプロットされている。各データ点で、後尾部長さはシングルパルスの液滴と比較して減少している。
【0111】
図18に示されているデータは、スペクトラ社(Spectra, Inc.)(米国ニューハンプシャー州ハノーバーに所在)から市販されているSX−128プリントヘッドを用いてLEP液(ダウ・ケミカル社のDOW Green K2)を射出して取得されたものである。プリントヘッドを駆動するために用いられたマルチパルス波形は、1つの一次台形パルスと、それに続く4つの二次台形パルスとを含むものであった。一次パルスの最大電圧は約75Vであり、二次パルスの最大電圧は約70Vであった。一次パルスの持続時間は4.5μsであり、それに続く遅延は約4.5μsであった。
【0112】
マルチパルス波形1700では、二次パルスは一次パルス1701の後に続いているが、一般的に、二次パルスは一次パルスに先行するものおよび/または後続するものであり得る。例えば、図17Bを参照すると、或る実施形態では、マルチパルス波形1710は、一次パルス1711に先行する二次パルス1712を含む。
【0113】
幾つかの実施形態では、二次パルスは、一次パルスに先行するものおよび後続するものの両方であり得る。例えば、図17Cを参照すると、液滴射出装置内の液体を、二次パルス1722によって連続的に励起でき、液体の射出が所望される位置に、例えば一次パルス1721のような1つ以上の一次パルスが割り込むことができる。
【0114】
一般的に、上述の駆動方法は、上述の滴射出装置だけでなく、他の液滴射出装置にも適合させることができる。例えば、この駆動方法は、2003年6月3日に出願されたビブル(Andreas Bibl)らの「プリントヘッド(PRINTHEAD)」という名称の米国特許出願第10/189,947号、および1999年10月5日に出願されたモイニハン(Edward R. Moynihan)らの「シールを有する圧電インクジェットモジュール(PIEZOELECTRIC INK JET MODULE WITH SEAL)」という名称の米国特許出願第09/412,827号(これらの全内容を参照することにより本願明細書に組み込む)の各明細書に記載されているインクジェットにも適合させることができる。
【0115】
更に、先に述べたように、上述の駆動方法は、インクを射出するものに限らない液滴射出装置一般に適用可能である。他の液滴射出装置の例としては、パターン化された接着剤や電子的ディスプレイのパターン化された材料(例えば、有機LED材料)を付着させるために用いられるものが挙げられる。
【0116】
本発明の多くの実施形態を説明した。しかし、本発明の精神および範囲を逸脱することなく様々な変形がなされ得ることが理解されよう。従って、他の実施形態も添付の特許請求の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0117】
【図1】プリントヘッドの一実施形態の模式図。
【図2A】インクジェットの一実施形態の断面図。
【図2B】図2Aに示されているインクジェットのアクチュエータの断面図。
【図3】一定レートで発射を行う液滴射出器から射出される液滴についての、発射パルス間の時間に対する正規化された液滴速度のグラフ。
【図4A】液滴射出器を駆動するためのバイポーラ波形についての、正規化された時間に対する電圧のグラフ。
【図4B】液滴射出器を駆動するためのユニポーラ波形のグラフ。
【図5】A〜Eは、マルチパルス波形に応答した、インクジェットのオリフィスからのインクの射出を示す模式図。
【図6】A〜Iは、マルチパルス波形に応答した、インクジェットのオリフィスからのインクの射出を示す写真。
【図7】波形のフーリエ変換を用いて判定された、単一の4マイクロ秒の台形波形の周波数成分に対する振幅のグラフ。
【図8】単一の台形波形を用いて発射を行った場合の、4〜60キロヘルツのジェット発射周波数に対する液滴速度のばらつきを示す、80ピコリットルの液滴射出器の周波数応答を示すグラフ。
【図9】例示的な80ピコリットルの液滴射出器について算出された電圧相当の時間応答のグラフ。
【図10】例示的な80ピコリットルの液滴射出器についての、射出器の時間応答および4パルス波形のフーリエ変換のグラフ。
【図11】同様のサイズの液滴を形成する2つの射出器の周波数応答を比較するグラフ。
【図12】隣接するパルス間に遅延期間を有するマルチパルス波形の時間に対する電圧のグラフ。
【図13】複数のマルチパルス波形を含む駆動信号の時間に対する電圧のグラフ。
【図14】マルチパルス波形を用いた、1つのインクジェットオリフィスからの複数の液滴の射出を示す写真。
【図15A】射出周波数が10kHzであり、液滴速度が約8ms−1である場合の、マルチパルス波形を用いた液滴の射出を示す写真。
【図15B】射出周波数が10kHzであり、液滴速度が約8ms−1である場合の、シングルパルス波形を用いた液滴の射出を示す写真。
【図16A】射出周波数が20kHzであり、液滴速度が約8ms−1である場合の、マルチパルス波形を用いた液滴の射出を示す写真。
【図16B】射出周波数が20kHzであり、液滴速度が約8ms−1である場合の、シングルパルス波形を用いた液滴の射出を示す写真。
【図17】A〜Cは、一次パルスおよび二次パルスを含む様々なマルチパルス波形の時間に対する電圧のグラフ。
【図18】発光ポリマーを含有する液体を射出するプリントヘッドについての、二次パルス幅の関数としての液滴後尾部の長さのグラフ。
【符号の説明】
【0118】
10 インクジェット
28 ノズル
400 マルチパルス波形
500 マルチパルス波形
810、820 マルチパルス波形
812、822 遅延期間
1700 マルチパルス波形
1701 一次パルス
1702〜1705 二次パルス
1710 マルチパルス波形
1711 一次パルス
1712 二次パルス
1721 一次パルス
1722 二次パルス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータを有する液滴射出装置を駆動する方法であって、
前記液滴射出装置に液体の液滴を射出方向に射出させるために、前記アクチュエータに一次駆動パルスを印加する工程と、
前記アクチュエータに、前記液滴の体積を実質的に変えずに前記液滴の前記射出方向における長さを減少させる1つ以上の二次駆動パルスを印加する工程と
を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記1つ以上の二次駆動パルスが、前記一次駆動パルスの後に印加されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記一次駆動パルスに続き、前記二次駆動パルスの最初のパルスが、前記液滴射出装置の固有周波数fに対応する周期より長い時間だけ遅延されることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記1つ以上の二次駆動パルスが、前記一次駆動パルスの前に印加されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記二次駆動パルスが、前記一次駆動パルスの前後に印加されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上の二次駆動パルスが、前記一次駆動パルスの振幅より小さい振幅を有することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記1つ以上の二次駆動パルスが、前記一次駆動パルスのパルス幅より小さいパルス幅を有することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記液体が高分子量材料を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記高分子量材料がポリマーであることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記ポリマーが発光ポリマーであることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記液滴の前記射出方向における長さが約10%以上減少することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記液滴の前記射出方向における長さが約25%以上減少することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記液滴の前記射出方向における長さが約50%以上減少することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項14】
アクチュエータを有する液滴射出装置を駆動する方法であって、
前記液滴射出装置に液体の液滴を射出方向に射出させるために、前記アクチュエータに一次駆動パルスを印加する工程と、
前記アクチュエータに、前記液滴の体積を実質的に変えずに前記液滴の形状を変える1つ以上の二次駆動パルスを印加する工程と
を備え、
前記二次駆動パルスの周波数が前記液滴射出装置の固有周波数fより大きいことを特徴とする方法。
【請求項15】
前記二次パルスが、前記液滴の前記射出方向における長さを変えることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記二次パルスが、前記液滴の前記射出方向における長さを減少させることを特徴とする請求項15記載の方法。
【請求項17】
アクチュエータを有する液滴射出装置を駆動する方法であって、
前記液滴射出装置に、高分子量材料を含む液体の単一の液滴を射出させるために、前記アクチュエータに、2つ以上の駆動パルスを含むマルチパルス波形を印加する工程
を備え、
前記駆動パルスの周波数が前記液滴射出装置の固有周波数fより大きいことを特徴とする方法。
【請求項18】
アクチュエータを有する液滴射出装置を駆動する方法であって、
前記液滴射出装置に液体の液滴を射出方向に射出させるために、前記アクチュエータに複数の駆動パルスを印加する工程
を備え、
前記パルスの少なくとも一部が、前記液滴射出装置の固有周波数fより大きい周波数を有し、前記液体が、約10以上の分子量を有する材料を含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
アクチュエータを有する液滴射出装置を駆動する方法であって、
前記液滴射出装置に、高分子量材料を含む液体の液滴を射出させるために、前記アクチュエータに、2つ以上の駆動パルスを含むマルチパルス波形を印加する工程
を備え、
前記液滴の質量の少なくとも約60%が、前記液滴内の点から半径r以内に含まれ、rは
【数1】

によって与えられる球体の液滴の半径に対応し、式中、mは前記液滴の質量であり、ρは前記液体の濃度であることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図5E】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16A】
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【図16B】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2009−533253(P2009−533253A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−505550(P2009−505550)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【国際出願番号】PCT/US2007/066159
【国際公開番号】WO2007/121120
【国際公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(502122794)フジフィルム ディマティックス, インコーポレイテッド (73)
【Fターム(参考)】