説明

液滴衝突センサ装置および防除氷装置

【課題】 液滴の含有率および粒子径を、同時かつ連続的に計測可能であり、簡単な構成で実現可能であって小形で安価な液滴衝突センサ装置を提供する。
【解決手段】 2つのセンサ部が加熱手段12によって各加熱率q1,q2で加熱され、各よどみ点温度Tw1,Tw2がよどみ点温度検出手段13によって検出される。さらに気流速度V∞、気流温度T∞および気流圧力P∞が、気流速度検出手段14、気流温度検出手段15および気流圧力検出手段16によって、検出される。演算手段17では、それらの値q1,q2;Tw1,Tw2;V∞;T∞;P∞に基づいて、水滴の含有率LWCおよび平均粒子径MVDが演算される。したがって水滴の含有率LWCおよび平均粒子径MVDを、同時かつ連続的に、リアルタイムで求まる。また光学系の構成を必要としない簡単な構成で実現することができ、小形かつ軽量の装置を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合ガス流中に含まれる液滴の含有率および平均粒子径を検出する液滴衝突センサ装置およびそれを備える防除氷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機が過冷却の水滴を含む空気中を飛行する場合、翼などの機体各部のよどみ点付近に氷が付着する。このような着氷と呼ばれる氷の付着現象が生じると、たとえば空力特性が変化してしまう。したがって非特許文献1に示されるように、航空機には、氷の付着を防止し、または付着した氷を除去する防除氷装置が設けられている。
【0003】
防除氷装置は、航空機が過冷却の水滴を含む空気中を飛行するときに作動し、過冷却の水滴を含む空気中を飛行しないときには作動しないように制御され、作動するときは、一定のエネルギ量が与えられるように制御されている。防除氷装置を作動させるにあたって、常時、一定のエネルギ量を与えると、エネルギを無駄に消費してしまうので、防除氷の対象となる部分に対する水滴の衝突量によって、与えるエネルギ量を変化させるように制御することが考えられる。このような制御を実現するためには、水滴の衝突量を連続的かつリアルタイムで計測する必要があり、そのためには、水滴の含有率および平均粒子径を連続的かつリアルタイムで計測する必要がある。
【0004】
図13は、従来の技術の水滴衝突センサ装置1Cを示す斜視図である。図13に示す水滴衝突センサ装置1Cは、たとえば非特許文献2に示される多段回転円柱式着氷センサと呼ばれるセンサであり、直径の異なる複数の円柱5a〜5eを回転させながら水滴を衝突させて、着氷量を計測する。各円柱5a〜5eの着氷量が、水滴の含有量LWCおよび粒子径に依存するので、着氷量から水滴の含有量LWCおよび粒子径を逆算して求めている。
【0005】
さらに他の従来の技術として、Spherical Ice Probeと呼ばれる水滴衝突センサ装置が知られている。この水滴衝突センサは、水滴衝突限界を計測して、水滴の粒子径を求めるとともに、着氷量を計測して、水滴の含有率LWCを求めている。
【0006】
また他の従来の技術として、非特許文献3に、レーザ光を用いて水滴の粒子径を計測する装置が示されている。
【0007】
さらに他の従来の技術として、特許文献1〜3に示される装置が知られている。特許文献1の装置では、光源から発した光の反射光の強度から、氷の有無を検出するように構成されている。特許文献2に示される装置もまた、特許文献1と同様して、氷の有無を検出している。特許文献3に示される装置は、表面素子を気流にさらした後、表面素子に付着した氷の厚さまたは質量を計測している。
【0008】
【非特許文献1】日本航空宇宙学会編「第2版 航空宇宙工学便覧」丸善出版、平成7年10月5日、p602−603
【非特許文献2】NACA(National Advisory Committee for Aeronautics)-Report-1215 ,'Impingement of Cloud Droplets on a Cylinder and Procedure for Measuring Liquid-Water Content and Droplet Sizes in Supercooled Clouds by Rotating Multicylinder Method'
【非特許文献3】高橋 劭 著「雲の物理」東京堂出版1987年2月、p.94−95
【特許文献1】特許第3461001号公報
【特許文献2】特開昭62−298745号公報
【特許文献3】特表2002−539435号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図13の装置は、水滴の含有率LWCおよび粒子径を計測可能であり、小形で安価な装置であるが、着氷量から求めているので、水滴の含有率LWCおよび粒子径を連続的に計測することができない。Spherical Ice Probeと呼ばれる水滴衝突センサ装置もまた、図13の装置と同様の理由で、水滴の含有率LWCおよび粒子径を連続的に計測することができない。
【0010】
したがって本発明の目的は、液滴の含有率および粒子径を、同時かつ連続的に計測可能であり、簡単な構成で実現可能であって小形で安価な液滴衝突センサ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、液滴を含む混合ガス流中に設けられる複数のセンサ部を有し、各センサ部は、寸法および形状のうち少なくともいずれか一方が異なるセンサ基体と、
各センサ部をそれぞれ加熱する加熱手段と、
各センサ部の外表面温度を検出する表面温度検出手段と、
加熱手段によって各センサ部に与えられる熱量、および表面温度検出手段によって検出される各センサ部の外表面の温度に基づいて、混合ガスに含まれる液滴の含有率および平均粒子径を演算する演算手段とを備えることを特徴とする液滴衝突センサ装置である。
【0012】
本発明に従えば、各センサ部が、加熱手段によってそれぞれ加熱され、各センサ部の外表面の温度が表面温度検出手段によってそれぞれ検出される。各センサ部に与えられる熱量および検出される各センサ部の外表面の温度に基づいて、演算手段によって、液滴の含有率および平均粒子径が演算して求められる。このように与える熱量と温度の検出値とに基づいて、液滴の含有率および平均粒子径が演算されるので、液滴の含有率および平均粒子径を、同時かつ連続的に、リアルタイムで求めることができる。またこのように液滴の含有率および平均粒子径を、同時かつ連続的に、リアルタイムで求めるための構成を、光学系の構成を必要としない簡単な構成で実現することができ、小形かつ軽量の装置を安価に製造することができる。
【0013】
また本発明は、混合ガス流の速度を検出するガス流速度検出手段と、
混合ガス流の温度を検出するガス流温度検出手段と、
混合ガス流の圧力を検出するガス流圧力検出手段とをさらに備え、
演算手段は、
加熱手段によって各センサ部に与えられる熱量、および表面温度検出手段によって検出される各センサ部の外表面の温度に基づいて、各センサ部に対する液滴の衝突量をそれぞれ演算して求め、
ガス流速度検出手段によって検出される混合ガス流の速度、ガス流温度検出手段によって検出される混合ガス流の温度、およびガス流圧力検出手段によって検出される混合ガス流の圧力に基づいて、センサ部毎に、液滴の衝突率と平均粒子径との関係をそれぞれ演算して求め、
各センサ部に対する液滴の衝突量、および液滴の衝突率と平均粒子径との関係に基づいて、センサ部毎に、液滴の含有率と平均粒子径との関係をそれぞれ演算して求め、
センサ部毎の液滴の含有率と平均粒子径との関係が一致する点における値を、液滴の含有率および平均粒子径の計測結果として確定することを特徴とする。
【0014】
本発明に従えば、混合ガス流の速度、温度および圧力が、ガス流速度検出手段、ガス流温度検出手段およびガス流圧力検出手段によってそれぞれ検出される。演算手段では、各センサ部に与えられる熱量および各センサ部の外表面の温度に基づいて、各センサ部に対する液滴の衝突量がそれぞれ演算されるとともに、混合ガス流の速度、温度および圧力に基づいて、センサ部毎に、液滴の衝突率と平均粒子径との関係がそれぞれ演算される。さらに演算手段では、各センサ部に対する液滴の衝突量、および液滴の衝突率と平均粒子径との関係に基づいて、センサ部毎に、液滴の含有率と平均粒子径との関係がそれぞれ演算され、それの関係が一致する点における値が、液滴の含有率および平均粒子径の計測結果として確定される。このようにして液滴の含有率および平均粒子径を計測することができる。
【0015】
このようにガス流速度検出手段、ガス流温度検出手段およびガス流圧力検出手段を設け、これらの検出手段による検出結果を用いることによって、演算手段によって、熱量および各センサ部の温度に基づく液滴の含有率および平均粒子径の演算を容易に実現することができる。しかもガス流速度検出手段、ガス流温度検出手段およびガス流圧力検出手段は、光学系の構成を必要としない簡単な構成で実現することができ、小形かつ軽量で安価な液滴衝突センサ装置を実現することができる。
【0016】
また本発明は、前記液滴衝突センサ装置であって、液滴として空気中に含まれる水滴の含有率および平均粒子径を計測する液滴衝突センサ装置と、
防除氷対象物を防除氷する防除氷手段と、
液滴衝突センサ装置の出力に応答し、防除氷手段で消費されるエネルギ量が、液滴衝突センサ装置によって計測される水滴の含有率および平均粒子径に応じたエネルギ量となるように防除氷手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とする防除氷装置である。
【0017】
本発明に従えば、防除氷手段が設けられ、この防除氷手段によって、防除氷対象物が防除氷される。さらに液滴衝突センサ装置によって、空気中に含まれる水滴の含有率および平均粒子径が計測され、この計測結果に応答して、制御手段によって、防除氷手段が制御される。制御手段では、防除氷手段で消費されるエネルギ量が、計測される水滴の含有率および平均粒子径に応じたエネルギ量となるように、防除氷手段を制御する。これによって防除氷対象物に対する水滴の衝突量に合わせて、防除氷手段で消費される作動エネルギを制御することができ、防除氷手段で無駄なエネルギが消費されることを防止し、消費エネルギの小さい防除氷装置を実現することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、水滴の含有率LWCおよび粒子径を、連続的にかつリアルタイムで計測可能であり、簡単な構成で実現可能であって、小形かつ軽量で安価な液滴衝突センサ装置を実現することができる。
【0019】
また本発明によれば、ガス流速度検出手段、ガス流温度検出手段およびガス流圧力検出手段を設け、これらの検出手段による検出結果を用いることによって、演算手段によって、熱量および各センサ部の温度に基づく液滴の含有率および平均粒子径の演算を容易に実現することができる。
【0020】
また本発明によれば、防除氷対象物に対する水滴の衝突量に合わせて、防除氷手段で消費されるエネルギを制御することができ、防除氷手段で無駄なエネルギが消費されることを防止し、消費エネルギの小さい防除氷装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は、本発明の実施の一形態である水滴衝突センサ装置(以下「水滴センサ」ともいう)10の構成を示すブロック図である。図2は、水滴センサ10のセンサ基体11を示す斜視図である。図3は、図2の切断面線S3−S3から見てセンサ基体11を示す断面図である。図4は、図2の切断面線S4−S4から見てセンサ基体11を示す断面図である。図5は、混合空気流(以下単に「気流」ともいう)20中に設置されるセンサ基体11を模式的に示す断面図である。図5には、センサ基体11などの厚みを省略して示す。
【0022】
液滴衝突センサ装置である水滴センサ10は、水滴30を含む空気である混合空気における水滴30の含有率LWCおよび平均粒子径MVDを計測するための装置である。水滴センサ10は、たとえば航空機に搭載され、航空機の飛行に伴って航空機の周囲に生じる気流20中に含まれる水滴30の含有率LWCおよび平均粒子径MVDを計測するために用いられる。計測される水滴30の含有率LWCおよび平均粒子径MVDは、気流20中の水滴30が過冷却の状態にある着氷気象中を航空機が飛行するときの防除氷に利用される。水滴センサ10は、センサ基体11と、加熱手段12と、よどみ点温度検出手段13と、気流速度検出手段14と、気流温度検出手段15と、気流圧力検出手段16と、演算手段17と、出力手段18と、記憶手段19とを備える。
【0023】
センサ基体11は、複数、本実施の形態では第1センサ部25および第2センサ部26の2つのセンサ部を有する。各センサ部25,26は、寸法および形状のうち少なくともいずれか一方が異なる構成である。本実施の形態では、各センサ部25,26は、共に円筒状であり、外径が互いに異なる相似形状である。第1センサ部25の外径D1に比べて、第2センサ部26の外径D2が大きい。各センサ部25,26は、同軸に設けられ、軸線方向に並べられて、一体に形成される。センサ基体11の材料は、特に限定されることはなく、たとえば金属を用いることができる。
【0024】
センサ基体11は、少なくとも各センサ部25,26が、計測の対象となる気流20中に配置され、軸線L11が気流20の流れ方向Xに対して垂直となるように設けられる。各センサ部25,26の軸線は、センサ基体11の軸線L11と一致している。気流20の流れ方向Xは、自由流れ状態における流れ方向であり、センサ基体11が設けられていない状態での流れ方向である。自由流れ状態は、計測の対象となる気流20の本来の状態であり、物体による、速度、温度および気圧を含む状態量の変化が無い状態である。
【0025】
加熱手段12は、各センサ部25,26をそれぞれ加熱する手段であり、第1加熱部21と、第2加熱部22とを有する。第1加熱部21は、第1センサ部25内に設けられ、第1センサ部25における気流20のよどみ点(以下「第1よどみ点」ともいう)p1に臨む部分の内表面部に装着され、第1センサ部25の第1よどみ点p1に臨む部分を加熱する。円筒状である第1センサ部25には、図2に仮想線31で示すように軸線と平行な直線状に延びるようによどみ点が存在し、これらのうちの一点が、前記第1よどみ点p1である。
【0026】
第2加熱部22は、第2センサ部26内に設けられ、第2センサ部26における気流20のよどみ点(以下「第2よどみ点」ともいう)p2に臨む部分の内表面部に装着され、第2センサ部26の第2よどみ点p2に臨む部分を加熱する。円筒状である第2センサ部26には、図2に仮想線32で示すように軸線と平行な直線状に延びるようによどみ点が存在し、これらのうちの一点が、前記第2よどみ点p2である。
【0027】
第1加熱部21は、第1加熱率q1(kW/m)で第1センサ部25を加熱する。第2加熱部22は、第2加熱率q2(kW/m)で第2センサ部26を加熱する。各加熱率q1,q2は、単位時間に単位面積当たりに与える熱量である。各加熱部21,22は、発熱源によって実現され、たとえば電気的発熱源である電気ヒータが用いられる。
【0028】
表面温度検出手段であるよどみ点温度検出手段13は、各センサ部25,26の外表面温度を検出する手段であり、各センサ部25,26の外表面の温度を検出する手段である。よどみ点温度検出手段13は、気流20のよどみ点における混合空気の温度Tw1,Tw2を検出する。
【0029】
よどみ点温度検出手段13は、第1よどみ点温度検出部23と、第2よどみ点温度検出部24とを有する。第1よどみ点温度検出部23は、第1センサ部25内に設けられ、第1よどみ点p1の温度(以下「第1よどみ点温度」ともいう)Tw1(K)を検出する。第2よどみ点温度検出部24は、第2センサ部26内に設けられ、第2よどみ点p2の温度(以下「第2よどみ点温度」ともいう)Tw2(K)を検出する。各よどみ点温度検出部23,24は、各種の温度検出器を用いることができ、たとえば電気抵抗式温度計や熱電対を利用した温度計が用いられる。
【0030】
ガス流速度検出手段である気流速度検出手段14は、気流20の速度(以下「気流速度」ともいう)V∞(m/s)を検出する手段である。気流速度V∞は、自由流れ状態における混合空気の速度である。気流速度検出手段14は、各種の流速検出器を用いることができる。また水滴センサ10が航空機に搭載される場合、航空機に搭載されるエアデータコンピュータ(略称ADC)を利用して実現される対気速度計を、気流速度検出手段14として利用することができる。
【0031】
ガス流温度検出手段である気流温度検出手段15は、気流20の温度(以下「気流温度」ともいう)T∞(K)を検出する手段である。気流温度T∞は、自由流れ状態における混合空気の温度である。気流温度検出手段15は、各種の温度計を用いることができ、各よどみ点温度検出部23,24と同様の温度検出器を用いることができる。また水滴センサ10が航空機に搭載される場合、航空機に搭載される外気温度計を、気流温度検出手段15として利用することができる。
【0032】
ガス流圧力検出手段である気流圧力検出手段16は、気流20の圧力(以下「気流圧力」ともいう)P∞(Pa)を検出する手段である。気流圧力P∞は、自由流れ状態における混合空気の圧力であり、動圧を含まない当該状態下の静圧である。
【0033】
気流圧力手段16は、各種の圧力検出器を用いることができる。また水滴センサ10が航空機に搭載される場合、航空機に搭載される外気の圧力を検出する圧力計を、気流圧力検出手段16として利用することができる。
【0034】
気流速度検出手段14、気温検出手段15および気圧検出手段16は、水滴センサ10専用に設けられる構成であってもよいが、水滴センサ10が、航空機に搭載される場合、航空機に搭載される航空計器に含まれる検出手段を利用するようにしてもよい。このように航空計器を利用すれば、構成を簡単にし、小形化することができる。
【0035】
演算手段17には、加熱手段12から各加熱率q1,q2を表す信号が与えられるとともに、各検出手段13〜16による検出結果Tw1,Tw2,V∞,T∞,P∞を表す信号が与えられる。演算手段17は、これらの信号に応答し、各加熱率q1,q2と、各検出結果Tw1,Tw2,V∞,T∞,P∞を用いて、気流20における水滴30の含有率LWC(kg/m)および平均粒子径MVD(m)を演算して求める。含有率LWCは、単位体積の混合空気中に含まれる水滴30の合計質量である。平均粒子径MVDは、混合空気に含まれる複数の水滴30の粒子径の平均値である。演算手段17は、中央演算処理ユニット(略称CPU)によって実現される。
【0036】
演算手段17は、各加熱率q1,q2および各よどみ点温度Tw1,Tw2に基づいて、各センサ部25,26に対する水滴30の衝突量Wimp1,Wimp2(kg/m・s)をそれぞれ演算して求めるとともに、気流速度V∞、気流温度T∞および気流圧力P∞に基づいて、各センサ部25,26毎に、衝突率β(無次元)と平均粒子径MVDとの関係をそれぞれ演算して求める。さらに演算手段17は、各センサ部25,26に対する水滴30の衝突量Wimp1,Wimp2、および衝突率βと平均粒子径MVDとの関係に基づいて、各センサ部25,26毎に、含有率LWCと平均粒子径MVDとの関係をそれぞれ演算して求める。そして演算手段17は、各センサ部25,26毎に求められる、含有率LWCと平均粒子径MVDとの関係が一致する点における値を、含有率LWCおよび平均粒子径MVDの計測結果として確定する。このように演算手段17は、加熱手段12によって各センサ部25,26に与えられる熱量である各加熱量q1,q2、および各よどみ点温度Tw1,Tw2に基づいて、水滴30の含有率LWCおよび水滴30の平均粒子径MVDを演算する。各衝突量Wimp1,Wimp2は、単位時間に単位面積当たりに衝突する水滴30の合計質量である。衝突率βは、ある位置における水滴30の衝突率である。
【0037】
衝突率βは、たとえば、文献(Ruff, pp11-22),文献(Kim, J. J., “Particle
Trajectory Computation on a Three-Dimensional Engine Inlet,” NASA CR-175023,
Jan. 1986.), 文献(AIAA−89−0759,P4,Fig. 4)等に示されるように、
水滴の通過量または衝突量に関する比率である。式で表すとWlocal/Wとなる。ここで W:自由流中での気流速度方向に垂直な面に対する水滴通過量(kg/m−s)(水滴と気流とは同じ速度で移動していると仮定)、Wlocal:物体の衝突面における水滴衝突量(kg/m−s)である。このとき、Wlocalは物体の表面が基準であり、衝突面は必ずしも速度方向に垂直とは限らない。たとえば、β=0.6は、物体のある点P0における水滴衝突量が自由流の水滴通過量の60%であることを意味する。
【0038】
出力手段18には、演算手段17から、演算結果である前記演算によって計測結果として確定した含有率LWCおよび平均粒子径MVDを表す信号が与えられる。出力手段18は、計測結果の含有率LWCおよび平均粒子径MVDを、外部に出力するための手段である。この出力手段18には、計測結果の含有率LWCおよび平均粒子径MVDを、表示などによって作業者に報知する報知手段、および後続の手段に与えるための通信手段が含まれる。
【0039】
記憶手段19は、演算手段17における演算に用いる演算プログラムおよびデータが記憶される。演算手段17は、記憶手段17に記憶される演算プログラムを読出して実行することによって、演算を実行することができる。また演算手段17は、演算に必要なデータを記憶手段19から読出して演算に用いる。記憶手段19は、たとえば半導体メモリによって実現される。
【0040】
図6は、演算手段17における演算処理動作を示すフローチャートである。図7は、演算手段17における演算処理動作を説明するための図である。図6および図7に示す演算処理動作は、水滴センサ10によって実行される含有率LWCおよび平均粒子径MVDの取得方法のうち、加熱手段12が設けられるセンサ基体11を気流20中に設置した後、演算手段17で実行される工程の動作である。演算手段17における演算処理動作は、水滴センサ10への電力供給の開始に伴なって、ステップs0で開始され、ステップs1に進む。ステップs1では、演算手段17は、加熱手段12およびよどみ点温度検出手段13からの信号をそれぞれ受取ることによって、各加熱率q1,q2および各よどみ点温度Tw1,Tw2を取得する。さらにステップs1では、演算手段17は、気流速度検出手段14、気流温度検出手段15および気流圧力検出手段16からの信号を受取ることによって、気流速度V∞、気流温度T∞および気流圧力P∞を取得する。
【0041】
次にステップs2では、演算手段17は、ステップs1で取得した各加熱率q1,q2および各よどみ点温度Tw1,Tw2に基づいて、各センサ部25,26毎に、各よどみ点p1,p2に臨む位置における水滴30の衝突量Wimp1を演算して求める。ステップs2では、第1センサ部25に関して、図7(1)のグラフに示すような、第1加熱率q1と、第1よどみ点温度Tw1と、第1よどみ点p1に臨む位置における水滴30の衝突量である第1衝突量Wimp1との関係を、各センサ部の外表面におけるエネルギーバランス式を用いて予め求めておくかまたは直接計算することによって、ステップs1で取得した第1加熱率q1および第1よどみ点温度Tw1,Tw2に基づいて、第1衝突量Wimp1を、演算によって求めることができる。図7(1)には第1センサ部25についての関係だけを示すが、第2センサ部26に関しても同様にして、第2加熱率q2と、第2よどみ点温度Tw2と、第2よどみ点p2に臨む位置における水滴30の衝突量である第2衝突量Wimp2との関係を、センサ表面におけるエネルギーバランス式を用いて予め求めておくかまたは直接計算することによって、ステップs1で取得した第2加熱率q2および第2よどみ点温度Tw2に基づいて、第2衝突量Wimp2を、演算によって求めることができる。
【0042】
図8は、加熱率qと、よどみ点温度Twと、衝突量Wimpとの関係の一例を示すグラフである。図9は、加熱率qと、よどみ点温度Twと、衝突量Wimpとの関係の他の例を示すグラフである。図8および図9に示す関係は、各センサ部25,26のいずれにも対応し得る関係であり、各センサ部25,26を特定する添え字「1」、「2」を省略して示す。つまり変数「D」は、各センサ部25,26の外径D1,D2にそれぞれ対応し、変数「q」は、各加熱率q1,q2にそれぞれ対応し、変数「Tw」は、各よどみ点温度Tw1,Tw2にそれぞれ対応し、変数「Wimp」は、各衝突量Wimp1,Wimp2にそれぞれ対応する。たとえば第1センサ部25の外径D1が0.025mφの場合、図8のような関係を有し、「q」が第1加熱率q1を示し、「Tw」が第1よどみ点温度Tw1を示し、「Wimp」が第1衝突量Wimp1を示す。また、たとえば第2センサ部26の外径D2が0.05mφの場合、図9のような関係を有し、「q」が第2加熱率q2を示し、「Tw」が第2よどみ点温度Tw2を示し、「Wimp」が第2衝突量Wimp2を示す。図8および図9には、気流速度V∞が100m/sであり、気流温度T∞が262.15Kであり、気流圧力P∞が69,724Paの場合の関係を示す。
【0043】
図8および図9に示すように、各加熱率q1,q2と、各よどみ点温度Tw1,Tw2と、各衝突量Wimp1,Wimp2との関係は、各加熱率q1,q2の値で場合分けされて整理され、各よどみ点温度Tw1,Tw2と、各衝突量Wimp1,Wimp2との関係として表される。たとえば各加熱率q1,q2が、10kW/m、20kW/m、30kW/mの各場合における、各よどみ点温度Tw1,Tw2と、各衝突量Wimp1,Wimp2との関係として表される。またこれらの関係は、気流速度V∞、気流温度T∞および気流圧力P∞によって変化するので、各加熱率q1,q2による場合分けと同様にして気流速度V∞、気流温度T∞および気流圧力P∞の値によって場合分けされて整理される。
【0044】
各加熱率q1,q2と、各よどみ点温度Tw1,Tw2と、各衝突量量Wimp1,Wimp2との関係は、計測を開始する前に、たとえば着氷風洞を用いる風洞試験によって計測して、記憶手段19に記憶される。ステップs2の演算では、演算手段17は、各加熱率q1,q2と、各よどみ点温度Tw1,Tw2と、各衝突量Wimp1,Wimp2との関係修正係数を演算して求め、記憶手段19に記憶される関係を修正することによって、ステップs1における取得結果に対応する関係を求め、その修正した関係を用いて、各衝突量Wimp1,Wimp2を演算する。修正係数を求める演算には、たとえば文献:(SAE Technical Committee of the Society of Automotive Engineers: SAE
Aerospace Applied Thermodynamics Manual,ARP-1168, 2nd Edition, 1969.)に示される簡易解析式、文献:(ICA2004-7.5.R,S,Nishio and S.Kato,“Development of Ice
Accretion and Anti-Icing System Simulation”,Ruff, G. A., and Berkowitz, B. M.,
“USERS Manual for the NASA Lewis Ice Accretion Prediction Code (LEWICE), ”
NASA CR-185129, 1990, Morency, F., Tezok, F., and Paraschivoiu, I., “Anti-
Icing System Simulation Using CANICE, “ Journal of Aircraft, Vol.36, No.6,
Nov.-Dec. 1999, pp. 999 - 1006.やAl-Khalil, K. M., Keith, Jr. T. G., De Witt,
K. J., Natmann, J. K., and Dietrich, D. A., “ Thermal Analysis of Engine Inlet
Anti-Icing Systems, “ AIAA Paper 89-0759, 27th Aerospace Sciences Meeting,
1989.)に示される防氷計算コード、文献:(Kato,S.,“Analytical Solution for the
Anti-Icing System Simulation for an Aircraft” Kato, S. ”Solution for Aircraft
Anti-Icing System Simulation by a modified Perturbation Method,” Journal of
Aircraft, Vol.43, No.2, March-April 2006, pp. 544 - 554.)に示される解析解など、公知の演算を採用して得ることができる。さらに、たとえば着氷風洞を用いる風洞試験によってq、Tw、Wimpの関係を計測して、各センサの表面温度の計算結果と測定結果を比較することによって、修正係数を求めることにより、計算精度を上げることができる。q、Tw、Wimpの関係は、上記で取得した修正係数を用いて前もって演算を行い、記憶手段19に入れておくか、または、運用中/運転中に修正係数を用いた演算を直接行って、得ることができる。なお、これらの演算の結果は、T∞、P∞、V∞、LWC,d,D等のパラメータに依存している。
【0045】
ステップs2では、演算手段17は、記憶手段19から各加熱率q1,q2と、各よどみ点温度Tw1,Tw2と、各衝突量Wimp1,Wimp2との関係を読出し修正係数を用いて修正するか、これらの演算を直接計算することにより求める。
【0046】
次にステップs3では、演算手段17は、図7(2)のグラフに示すような、パラメータK0と、平均粒子径MVDとの関係を、各センサ部25,26毎に演算して求める。パラメータK0は、円柱に対する水滴30の衝突に係るパラメータであって、次式(1)で表される。式(1)中のパラメータKは、式(2)によって表され、パラメータRuは、式(3)によって表される。式(1)は、たとえば文献:(Heinrich,A.et.al.,
“Aircraft Icing Handbook”,Volume 1 of 3,AD-A238-039,DOT/FAA/CT-88/8-1, March
1 991.)に示されている。式(2)は、式(2a)および式(2b)からなる。
【0047】
【数1】

【0048】
ここでρwは、水滴30を形成する水の密度(kg/m)である。dは、水滴30の粒子径(m)であり、このdが、平均粒子径MVDに相当する。μaは、空気の粘性係数(Pa・s)であり、気流温度T∞に依存し、ステップs1で取得される気流温度T∞を用いて、演算手段17で演算される。ρaは空気密度(kg/m)であり、ステップs1で取得される気流温度T∞および気流圧力P∞を用いて、演算手段17で演算される。νaは、空気の動粘性係数(m/s)であり、上記のμaおよびρaを用いて、演算手段17で演算される。Cは、物体の代表長であり、円柱の場合Cは内径D/2(m)であり、各センサ部25,26の半径D1/2,D2/2に相当する。
【0049】
ステップs3では、演算手段17は、ステップs1で取得した気流速度V∞、気流温度T∞および気流圧力P∞に基づいて、式(1)〜式(3)に数値を代入し、パラメータK0と、平均粒子径MVDとの関係を求める。Dに、第1センサ部25の外径D1を代入すると、第1センサ部25における、パラメータK0とd(=平均粒子径MVD)との関係式が得られ、Dに、第2センサ部26の外径D2を代入すると、第2センサ部26における、パラメータK0とd(=平均粒子径MVD)との関係式が得られる。このようにして、演算手段17は、各センサ部25,26毎に、パラメータK0と平均粒子径MVDとの関係を求める。
【0050】
次にステップs4では、演算手段17は、図7(3)のグラフに示すような、各センサ部25,26の各よどみ点p1,p2に臨む位置における衝突率βと、パラメータK0との関係を、各センサ部25,26毎に演算して求める。衝突率βと、パラメータK0との関係は、たとえば文献:(SAE Technical Committee of the Society of Automotive
Engineers:SAE Aerospace Applied Thermodynamics Manual,ARP-1168,2nd Edition,1969.およびBowden,D.T.,et.al.,“Engineering Summary of Airframe Icing Technical
Data”,AD-608865,March 1964.)に示されるデータ、または文献:(ICA2004-7.5.R,S,
Nishio and S.Kato,“Development of Ice Accretion and Anti-Icing System
Simulation”、およびRuff, G. A., and Berkowitz, B. M., “USERS Manual for the
NASA Lewis Ice Accretion Prediction Code (LEWICE), ” NASA CR-185129, 1990)に示される解析演算など、公知のデータまたは演算を用いて、求めることができる。
【0051】
またステップs4の演算の方法として水滴の軌道を数値計算により算出して衝突率βを求める方法がある。具体的には、K0は式(1),(2),(3)から求まる。入力するパラメータとして、T∞、P∞、V∞、ρw(水滴密度),ρa(空気密度),μa(空気の粘性係数),代表長さC(円柱の場合はC=D/2),d(水滴径)を与えると式(1)〜式(3)で求まる。衝突率βは文献:((a)Ruff, G. A., and Berkowitz, B. M.,
“USERS Manual for the NASA Lewis Ice Accretion Prediction Code (LEWICE), ”
NASA CR-185129, 1990, (pp.11-22)
(b) Kim, J. J., “Particle Trajectory Computation on a Three-Dimensional
Engine Inlet,” NASA CR-175023, Jan. 1986.
(c) Al-Khalil, K. M., Keith, Jr. T. G., De Witt, K. J., Natmann, J. K., and
Dietrich, D. A., “ Thermal Analysis of Engine Inlet Anti-Icing Systems, “
AIAA Paper 89-0759, 27th Aerospace Sciences Meeting, 1989.)などに示される気流中での水滴軌道を計算することにより得られる。このようにパラメータK0、衝突率βを求めることによって、パラメータK0と衝突率βとの関係を求めることができる。
【0052】
次にステップs5では、演算手段17は、図7(4)のグラフに示すような、各センサ部25,26の各よどみ点p1,p2に臨む位置における衝突率βと、水滴30の平均粒子径MVDとの関係を、各センサ部25,26毎に演算して求める。このステップs5では、ステップs3で求められる関係と、ステップs4で求められる関係とに基づいて、共通に関わっているパラメータK0を消去するように演算し、各センサ部25,26の各よどみ点p1,p2に臨む位置における衝突率βと、水滴30の平均粒子径MVDとの関係を求める。
【0053】
次にステップs6では、演算手段17は、図7(5)に示すように、含有率LWCと平均粒子径MVDとの関係を、各センサ部25,26毎に演算して求める。含有率LWCは、次式(4)で表される。
【0054】
【数2】

【0055】
式(4)のV∞に、ステップs1で取得した気流速度V∞の計測値代入し、Wimpに、ステップs2の演算結果の第1衝突量Wimp1を代入することによって、第1センサ部25における、含有率LWCと、第1よどみ点p1に臨む位置の衝突率βとの関係を求めることができる。第1よどみ点p1に臨む位置の衝突率βは、ステップs5で、平均粒子径MVDとの関係が明らかになっており、平均粒子径MVDの関数として表される。第1センサ部25に関して、含有率LWCと平均粒子径MVDとの関係を求めることができる。
【0056】
また式(4)のV∞に、ステップs1で取得した気流速度V∞の計測値代入し、Wimpに、ステップs2の演算結果の第2衝突量Wimp2を代入することによって、第2センサ部26における、含有率LWCと、第2よどみ点p2に臨む位置の衝突率βとの関係を求めることができる。第2よどみ点p2に臨む位置の衝突率βは、ステップs5で、平均粒子径MVDとの関係が明らかになっており、平均粒子径MVDの関数として表される。第2センサ部25に関して、含有率LWCと平均粒子径MVDとの関係を求めることができる。このようにしてステップs6では、演算手段17は、ステップs2の演算結果の各衝突量Wimp1,Wimp2と、ステップs5の演算結果の関係とに基づいて、含有率LWCと平均粒子径MVDとの関係を、各センサ部25,26毎に演算する。
【0057】
次にステップs7では、演算手段17、各センサ部25,26毎に求められる、含有率LWCと平均粒子径MVDとの関係が一致する、含有率LWCと平均粒子径MVDの値を求める。このステップs7における演算手段17の演算は、図7(6)に示すように、1つのグラフ上に、第1センサ部25に関して求められる含有率LWCと平均粒子径MVDとの関係を表す第1の線と、第2センサ部26に関して求められる含有率LWCと平均粒子径MVDとの関係を表す第2の線との交点を求め、その交点が示す含有率LWCの値および平均粒子径MVDの値を求めるのと等価の演算である。このようにして求められる含有率LWCの値および平均粒子径MVDの値が、含有率LWCおよび平均粒子径MVDの計測結果となる。第1センサ部25に関して求められる含有率LWCと平均粒子径MVDとの関係と、第2センサ部25に関して求められる含有率LWCと平均粒子径MVDとの関係とは、気流速度V∞、気流温度T∞および気流圧力P∞が同一の条件で求められる関係である。
【0058】
図10は、含有率LWCと平均粒子径MVDとの関係を求めた計算例を示すグラフである。図10の計算例は、各センサ部25,26に相当する円筒部材に、各加熱部21,22に相当する加熱手段を設けた装置を想定し、円筒部材の外径をDとし、この外径Dを、0.05mおよび0.1mにそれぞれ設定した場合について、含有率LWC(kg/m)と平均粒子径MVD(m)との各関係の計算結果を模式的に示す。
【0059】
図10の2種の曲線は、計算パラメータは図7(6)の2種の曲線に対応しており、計算パラメータとして気流速度V∞=100m/s,気流温度T∞=262.15K、気流圧力P∞=69724Pa,水滴含有率LWC=0.375×10−3kg/m,平均水滴径MVD=20μを使用している。また、水滴衝突量Wimpは式(4)から、Wimp=V∞・LWC・β(K0)として求められ、Wimp1=0.030kg/m−s,Wimp2=0.025kg/m−sとなる。各Wimpに対応する加熱率qと表面温度Twの値は、たとえばセンサ25の場合(D1=0.05mφ)、図9から求めることができ、この場合、q1=10kW/m、Tw1=279.2Kが一つの解である。図10において交点における含有率LWCの値と平均粒子径MVDの値とが、求める含有率LWCの値および平均粒子径MVDの値となる。
【0060】
このようにして演算手段17は、ステップs7で求めた含有率LWCの値と平均粒子径MVDの値とを、含有率LWCおよび平均粒子径MVDの計測結果とし、この計測結果を表す信号を出力手段18に与える。そしてステップs8に進んで、演算動作を終了する。演算手段17では、このような一連の演算動作が繰返し実行される。
【0061】
図11は、水滴センサ10を備える防除氷装置40を示すブロックである。航空機が過冷却の水滴を含む空気中を飛行する場合、翼などの機体各部のよどみ点付近に氷が付着する。このような着氷と呼ばれる氷の付着現象が生じると、たとえば空力特性が変化してしまう。したがって航空機には、氷の付着を防止し、または付着した氷を除去するために、防除氷装置40が搭載される。
【0062】
防除氷装置40は、図1〜図10を参照して説明した水滴センサ10と、防除氷手段41と、制御手段42とを有する。水滴センサ10は、前述のようにして、気流20中の水滴30の含有率LWCおよび平均粒子径MVDを計測する。水滴センサ10は、計測結果を表す信号を、出力手段18から制御手段42に与える。
【0063】
防除氷手段41は、防除氷対象物に対する防除氷を達成する手段である。防除氷は、氷の付着を防止する防氷および付着した氷を除去する除氷を含む。したがって防除氷手段41は、氷の付着を防止し、または防除氷対象物に付着した氷を除去する。防除氷手段41は、たとえば防除氷対象物を加熱することによって、防除氷を達成する。防除氷対象物は、航空機の翼などの機体各部の着氷のおそれのある部分である。
【0064】
制御手段41は、たとえば中央演算処理ユニット(略称CPU)によって実現される。制御手段41は、水滴センサ10の出力に応答し、水滴センサ10によって計測される水滴30の含有率LWCおよび平均粒子径MVDの計測結果に基づいて、防除氷対象物に対する水滴30の衝突量Wimpを演算し、防除氷手段41で消費されるエネルギ量が、防除氷対象物に対する水滴30の衝突量Wimpに応じたエネルギ量となるように防除氷手段41を制御する。衝突量Wimpは、防除氷対象物に対して、単位時間に単位面積当たりに衝突する水滴30の合計質量である。防除氷対象物に対する水滴30の衝突量Wimpの演算は、公知の演算式、演算方法を用いることができる。たとえば式(4)を変形した式によって求めることができる。この場合、衝突率βは、防除氷対象物の形状や混合気流条件によって異なるので、事前に試験によって求めておくか、文献値を用いるかまたは水滴衝突解析を用いるか、またはこれらを組み合わせることにより求めておいて、防除氷対象物への衝突量Wimpを演算する。なお、水滴衝突解析については、たとえば文献:(Ruff, G. A., and Berkowitz, B. M., “USERS Manual for the NASA Lewis Ice
Accretion Prediction Code (LEWICE), ” NASA CR-185129, 1990、や Kim, J. J.,
“Particle Trajectory Computation on a Three-Dimensional Engine Inlet,” NASA
CR-175023, Jan. 1986.等)に示されている解析を用いることができる。
【0065】
図12は、制御手段41の制御動作を示すフローチャートである。制御手段41の制御動作は、防除氷装置40への電力供給の開始に伴なって、ステップs10で開始され、ステップs11に進む。ステップs11では、制御手段42は、水滴センサ10から信号を受取ることによって、水滴30の含有率LWCおよび平均粒子径MVDを取得する。次にステップs12で、制御手段42は、計測される水滴30の含有率LWCおよび平均粒子径MVDを用いて、防除氷対象物への水滴30の衝突量Wimpを演算する。そしてステップs13で、制御手段42は、防除氷対象物に対する水滴30の衝突量Wimpに応じて、防除氷手段41に与えるエネルギ量を演算する。次にステップs14で、制御手段42は、防除氷手段41で消費されるエネルギ量がステップs13での演算した値となるように、防除氷手段41を作動させ、ステップs15に進んで、制御動作を終了する。制御手段42は、このような一連の制御動作を繰返し実行する。
【0066】
前述のような実施の形態の水滴センサ10によれば、各センサ部25,26が、加熱手段12によってそれぞれ加熱され、各よどみ点温度Tw1,Tw2がよどみ点温度検出手段13によってそれぞれ検出される。また気流速度V∞、気流温度T∞および気流圧力P∞が、気流速度検出手段14、気流温度検出手段15および気流圧力検出手段16によってそれぞれ検出される。演算手段17では、各センサ部25,26に対する加熱量q1,q2および検出される各よどみ点温度Tw1,Tw2に基づいて、各センサ部25,26に対する水滴の衝突量Wimp1,Wimp2がそれぞれ演算されるとともに、気流速度V∞、気流温度T∞および気流圧力P∞に基づいて、各センサ部25,26毎に、水滴30の衝突率βと平均粒子径MVDとの関係がそれぞれ演算される。さらに演算手段17では、各センサ部25,26に対する水滴30の衝突量Wimp1,Wimp2、および水滴30の衝突率βと平均粒子径MVDとの関係に基づいて、各センサ部25,26毎に、水滴30の含有率LWCと平均粒子径MVDとの関係がそれぞれ演算され、そらの関係が一致する点における値が、水滴30の含有率LWCおよび平均粒子径MVDの計測結果として確定される。このようにして水滴30の含有率LWCおよび平均粒子径MVDを計測することができる。
【0067】
このように各加熱量q1,q2と、よどみ点温度Tw1,Tw2の検出値とに基づいて、水滴30の含有率LWCおよび平均粒子径MVDが演算されるので、水滴30の含有率LWCおよび平均粒子径MVDを、同時かつ連続的に、しかもリアルタイムで求めることができる。またこのように水滴30の含有率LWCおよび平均粒子径MVDを、同時かつ連続的に、リアルタイムで求めるための構成を、光学系の構成を必要としない簡単な構成で実現することができ、小形かつ軽量の水滴衝突センサ装置10を安価に実現することができる。
【0068】
また前述の防除氷装置40によれば、防除氷手段41によって、防除氷対象物が防除氷される。さらに水滴センサ10によって、空気中に含まれる水滴30の含有率LWCおよび平均粒子径MVDが計測され、この計測結果に応答して、制御手段42によって、防除氷手段41が制御される。制御手段42では、防除氷手段41で消費されるエネルギ量が、計測される水滴30の含有率LWCおよび平均粒子径MVDに応じたエネルギ量となるように、防除氷手段41を制御する。
【0069】
航空機が過冷却の水滴30を含む着氷気象中を飛行するとき、防除氷対象物への水滴30の衝突量Wimpに応じて防除氷手段41の作動エネルギ量を調整することができれば、燃費の節約に有効である。防除氷対象物への水滴30の衝突量Wimpは、衝突面の幾何学形状にも依存するが、水滴30の含有率LWCおよびMVDにも依存する。衝突面の幾何学形状への依存は、予め風洞試験などによって把握することができるが、水滴30の含有率LWCおよびMVDは、時々刻々と変化するので、防除氷対象物への水滴30の衝突量Wimpに応じて防除氷手段41の作動エネルギ量を調整するためには、水滴30の含有率LWCおよびMVDを、同時かつ連続的に、しかもリアルタイムで計測する必要がある。本発明によれば防除氷対象物に対する水滴30の衝突量Wimpに合わせて、防除氷手段41で消費される作動エネルギを制御することができ、防除氷手段41で無駄なエネルギが消費されることを防止し、エネルギ消費量の小さい防除氷装置40を実現することができる。このようにエネルギ消費の観点での無駄を無くし、省エネ化を図ることができる。
【0070】
前述の実施の形態は、本発明の例示に過ぎず、前述の構成に限定されることはなく、構成を変更することができる。たとえばセンサ基体11は、3つ以上のセンサ部を備える構成とし、3つ以上のセンサ部に関して求める含有率LWCと平均粒子径MVDとの関係から、含有率LWCおよび平均粒子径MVDを決定するようにしてもよく、含有率LWCおよび平均粒子径MVDの計測精度を高くすることができる。また1つのセンサ部に関して、複数箇所において、センサの表面温度を測定し、温度分布を計測し、含有率LWCおよび平均粒子径MVDを演算するようににしてもよく、含有率LWCおよび平均粒子径MVDの計測精度を高くすることができる。またセンサ部は、円筒に限定されることはなく、他の形状であっても同様の効果を達成することができる。さらに形状の異なる複数のセンサ部を用いるようにしても、同様の効果を達成することができる。また航空機の翼の一部をセンサ部として利用するようにしてもよく、同様の効果が得られる。たとえば水平尾翼の前縁部、導体先端部を、センサ部として利用することが可能である。また、センサ部の表面温度を検出する位置は、よどみ点に限定されることはなく、他の位置であってもよく、同様の効果が得られる。
【0071】
また含有率LWCおよび平均粒子径MVDの計測結果は、防除氷装置40の制御に用いられる構成に限定されることはなく、航空機外の気流の観測、着氷風洞を用いる風洞試験における気流の観測(試験条件計測)を目的とする構成であってもよい。また水滴以外の液滴を含むガス流に対して実施する構成であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施の一形態である水滴センサ10の構成を示すブロック図である。
【図2】水滴センサ10のセンサ基体11を示す斜視図である。
【図3】図2の切断面線S3−S3から見てセンサ基体11を示す断面図である。
【図4】図2の切断面線S4−S4から見てセンサ基体11を示す断面図である。
【図5】気流20中に設置されるセンサ基体11を模式的に示す断面図である。
【図6】演算手段17における演算処理動作を示すフローチャートである。
【図7】演算手段17における演算処理動作を説明するための図である。
【図8】加熱率qと、よどみ点温度Twと、衝突量Wimpとの関係の一例を示すグラフである。
【図9】加熱率qと、よどみ点温度Twと、衝突量Wimpとの関係の他の例を示すグラフである。
【図10】含有率LWCと平均粒子径MVDとの関係を求めた計算例を示すグラフである。
【図11】水滴センサ10を備える防除氷装置40を示すブロックである。
【図12】制御手段41の制御動作を示すフローチャートである。
【図13】従来の技術の水滴衝突センサ装置1Cを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0073】
10 水滴センサ
11 センサ基体
12 加熱手段
13 よどみ点温度検出手段
14 気流速度検出手段
15 気流温度検出手段
16 気流圧力検出手段
17 演算手段
18 出力手段
19 記憶手段
21,22 加熱部
23,24 よどみ点温度検出部
25,26 センサ部
30 水滴
40 防除氷装置
41 防除氷手段
42 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を含む混合ガス流中に設けられる複数のセンサ部を有し、各センサ部は、寸法および形状のうち少なくともいずれか一方が異なるセンサ基体と、
各センサ部をそれぞれ加熱する加熱手段と、
各センサ部の外表面温度を検出する表面温度検出手段と、
加熱手段によって各センサ部に与えられる熱量、および表面温度検出手段によって検出される各センサ部の外表面の温度に基づいて、混合ガスに含まれる液滴の含有率および平均粒子径を演算する演算手段とを備えることを特徴とする液滴衝突センサ装置。
【請求項2】
混合ガス流の速度を検出するガス流速度検出手段と、
混合ガス流の温度を検出するガス流温度検出手段と、
混合ガス流の圧力を検出するガス流圧力検出手段とをさらに備え、
演算手段は、
加熱手段によって各センサ部に与えられる熱量、および表面温度検出手段によって検出される各センサ部の外表面の温度に基づいて、各センサ部に対する液滴の衝突量をそれぞれ演算して求め、
ガス流速度検出手段によって検出される混合ガス流の速度、ガス流温度検出手段によって検出される混合ガス流の温度、およびガス流圧力検出手段によって検出される混合ガス流の圧力に基づいて、センサ部毎に、液滴の衝突率と平均粒子径との関係をそれぞれ演算して求め、
各センサ部に対する液滴の衝突量、および液滴の衝突率と平均粒子径との関係に基づいて、センサ部毎に、液滴の含有率と平均粒子径との関係をそれぞれ演算して求め、
センサ部毎の液滴の含有率と平均粒子径との関係が一致する点における値を、液滴の含有率および平均粒子径の計測結果として確定することを特徴とする請求項1記載の液滴衝突センサ装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の液滴衝突センサ装置であって、液滴として空気中に含まれる水滴の含有率および平均粒子径を計測する液滴衝突センサ装置と、
防除氷対象物を防除氷する防除氷手段と、
液滴衝突センサ装置の出力に応答し、防除氷手段で消費されるエネルギ量が、液滴衝突センサ装置によって計測される水滴の含有率および平均粒子径に応じたエネルギ量となるように防除氷手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とする防除氷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−14880(P2008−14880A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−188678(P2006−188678)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】