説明

液状物の塗布方法および装置

【課題】潤滑剤に限らずに塗料、染料等を含む液状物を塗布媒体とし、オイルシールのシールリップに限らずに装飾用筒体等を含む環状製品の環状の内周面を塗布対象とし、当該内周面に対して塗布領域の軸方向長さを長くして、内周面に損傷を与えてしまうことがなく、しかも、少量の液状物によって当該内周面の広い領域に適正に液状物を塗布することのできる液状物の塗布方法および装置を提供すること。
【解決手段】環状の内周面の軸方向長さの長い塗布領域Aに対して所定量の液状物を塗布するための液状物の塗布方法において、前記内周面の内径より小さい直径を有する塗布用円板12に所定量の液状物を保持させ、塗布用円板12を高速回転駆動させ、前記液状物を塗布用円板12の液状物誘導面14の外周端部に形成された塗布領域Aの軸方向長さに対応する軸方向長さを備えた飛散端縁15より外側に飛散させて、前記内周面の塗布領域Aに所定量の液状物を非接触により塗布するようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状物の塗布方法および装置に係り、特に環状の内周面に非接触状態で液状物を塗布するのに好適な液状物の塗布方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環状の内周面を備えている物品としては、例えば、自動車やオートバイや種々の機械等における回転部または往復動部においてオイル等の封止流体の漏洩を防止するため用いられているオイルシールが挙げられる。
【0003】
図7はこのような従来のオイルシールを示している。このオイルシール1は、断面形状L字状を有する金属製の補強環2を有しており、この補強環2には、この補強環2の下方を被覆するように、ゴムからなる弾性体3が一体に固着されている。この弾性体3には、前記補強環2の外周側に位置する外周面4が形成されるとともに、前記弾性体3の補強環2より内側には、上方に延在するシールリップ5が形成されており、このシールリップ5の上部内周面には、内側に向かって突出されたリップ先端部6が形成されている。また、前記シールリップ5の外周面4の前記リップ先端部6に対応する位置には、装着溝7が周方向に形成されており、この装着溝7内には、環状のスプリング8が装着されている。
【0004】
このような従来のオイルシール1は、所定の円筒状のハウジング9と、軸受等により保持されこのハウジング9に対して回転または往復動(以下、回転等という)する軸10との間に配設され、一方のハウジング9側に弾性体3の外周面4が、他方の軸10側にシールリップ5のリップ先端部6がそれぞれ密接するように取付けられる。さらに、前記シールリップ5の装着溝7にスプリング8を装着させ、前記リップ先端部6を半径方向内方に締付けるようになされている。そして、前記シールリップ5のリップ先端部6と軸10との間にオイルやグリス等の潤滑剤を介在させて軸10を回転等させ、これにより、封止流体を封止するようになっている。
【0005】
本出願人は、このオイルシール1のシールリップ5の環状の内周面に前記潤滑剤を塗布するために、シールリップ5の内周面の必要箇所に非接触状態で所定量の潤滑剤を塗布することができ、オイルシール1による封止流体の封止を適正に行なうことができ、また、潤滑剤をシールリップ5の内周面の必要箇所のみに塗布することで、潤滑剤の無駄がなく、潤滑剤の消費量を著しく低減させることができる潤滑剤の塗布方法および装置を提案した(特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特許第2511235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に開示されている潤滑剤の塗布方法および装置においては、シールリップ5の内側に配置した塗布用円板を高速回転させることにより、塗布用円板上に供給された潤滑剤を遠心力によって塗布用円板の外周端部から飛散させてシールリップ5の環状の内周面に塗布させるものであり、シールリップ5の内周面の必要箇所に非接触状態で所定量の潤滑剤を塗布させている。
【0008】
ところで、近年このようなオイルシールにおいては、より安定した潤滑性を確保するために、潤滑剤の塗布領域を拡大する傾向にある。この場合、前記特許文献1に開示されている潤滑剤の塗布方法および装置においては、シールリップ5の環状の内周面に潤滑剤が塗布される塗布領域の軸方向長さを小さく絞っているため、潤滑剤の塗布領域の拡大に対応するには、二度塗りの作業が必要であった。
【0009】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、潤滑剤に限らずに塗料、染料等を含む液状物を塗布媒体とし、オイルシールのシールリップに限らずに装飾用筒体等を含む環状製品の環状の内周面を塗布対象とし、当該内周面に対して塗布領域の軸方向長さを長くして、内周面に損傷を与えてしまうことがなく、しかも、少量の液状物によって当該内周面の広い領域に適正に液状物を塗布することができ、二度塗りが不要となる液状物の塗布方法および装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため請求項1に記載の発明に係る液状物の塗布方法は、環状の内周面の軸方向長さの長い塗布領域に対して所定量の液状物を塗布するための液状物の塗布方法において、前記内周面の内径より小さい直径を有する塗布用円板に所定量の液状物を保持させ、前記塗布用円板を高速回転駆動させ、前記液状物を前記塗布用円板の液状物誘導面の外周端部に形成された前記塗布領域の軸方向長さに対応する軸方向長さを備えた飛散端縁より外側に飛散させて、前記内周面の前記塗布領域に所定量の液状物を非接触により塗布するようにしたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の発明に係る液状物の塗布方法は、前記環状の内周面が、オイルシールのシールリップの内周面とされ、前記液状物は潤滑剤とされていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に記載の発明に係る液状物の塗布装置は、環状の内周面の軸方向長さの長い塗布領域に所定量の液状物を非接触により塗布するための液状物の塗布装置において、前記内周面の内径より小さい直径を有する塗布用円板を前記内周面の内側で高速回転駆動自在に配設し、この塗布用円板に液状物を保持させる充填部を形成するとともに、当該充填部から遠心力により外側に繰り出された液状物を前記塗布領域の軸方向長さに対応する軸方向長さにおいて飛散させる飛散端縁を備えた液状物誘導面を形成し、この充填部に所定量の液状物を供給する液状物供給装置を配設したことを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に記載の発明に係る液状物の塗布装置は、前記液状物誘導面が、前記塗布用円板の回転方向逆向きに前記飛散端縁の高さを高くするように形成されていることを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に記載の発明に係る液状物の塗布装置は、前記環状の内周面が、オイルシールのシールリップの内周面とされ、前記液状物は潤滑剤とされていることを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の本発明の液状物の塗布装置を請求項1に記載の本発明の液状物の塗布方法により作用させると、塗布用円板が高速回転し、塗布用円板の充填部に保持された液状物が遠心力により外側の液状物誘導面上に繰り出され、続いて前記塗布領域の軸方向長さに対応する軸方向長さを備えた飛散端縁より前記内周面に向けて飛散されて前記塗布領域に塗布される。特に、前記液状物誘導面が前記塗布用円板の回転方向逆向きに前記飛散端縁の高さを高くするように形成されていると、確実に軸方向の長さが長い前記塗布領域に対して良好に液状物を塗布することができる。
【0016】
また、請求項5に記載の本発明の液状物の塗布装置を請求項2に記載の本発明の液状物の塗布方法により作用させると、オイルシールのシールリップの内周面の軸方向の長さが長い塗布領域に非接触状態で液状物としての潤滑剤を塗布することができ、鋭利に形成されたシールリップのリップ先端部に損傷を与えてしまうおそれがなく、適正に必要箇所に所定量の潤滑剤を塗布してオイルシールによる封止流体の封止を適正に行なうことができる。また、潤滑剤をシールリップの内面の必要箇所のみに塗布することができるので、潤滑剤の無駄がなく、潤滑剤の消費量を著しく低減させることができるものである。
【発明の効果】
【0017】
以上述べたように本発明に係る液状物の塗布方法および装置は、潤滑剤に限らずに塗料、染料等を含む液状物を塗布媒体とし、オイルシールのシールリップに限らずに装飾用筒体等を含む環状製品の環状の内周面を塗布対象とし、当該内周面に対して塗布領域の軸方向長さを長くして、内周面に損傷を与えてしまうことがなく、しかも、少量の液状物によって当該内周面の広い領域に適正に液状物を塗布することができ、塗布領域の拡大に対し二度塗りを不要として一度塗りで対応できる等の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図1から図6を参照して説明する。
【0019】
図1は本発明に係る液状物の塗布装置の一実施形態を示したものである。
【0020】
本実施形態の液状物の塗布装置11は、塗布対象である環状製品としてオイルシール1を1例として形成されており、シールリップ5のリップ先端部6からなる環状の内周面に対して、その軸方向長さの長い塗布領域A(本実施形態では図7に示すオイルシール1におけるシールリップ5の内周面のほぼ全面)に所定量の液状物である潤滑剤(図示せず)を非接触により塗布するように形成されている。
【0021】
この塗布装置11には、補強環2にリップ先端部6を有するシールリップ5が形成された弾性体3を一体に固着してなるオイルシール1の前記シールリップ5の内径より小さい直径を有する塗布用円板12が水平に配設されている。この塗布用円板12は、図2から図4に示すように、上面の中心側には、液状物を保持させるための環状の充填溝13が形成されており、その充填溝13の外周側には、当該充填部12内から遠心力により外側に繰り出された液状物を前記塗布領域Aの軸方向長さに対応する軸方向長さにおいて飛散させる飛散端縁15を備えた液状物誘導面14が形成されている。本実施形態においては、塗布用円板12の上面を6等分する位置にそれぞれ液状物誘導面14が形成されている。各液状物誘導面14は、塗布用円板12の回転方向(図2および図3における矢印方向参照)と逆向きに飛散端縁15の高さを高くするように形成されている。本実施形態においては、液状物誘導面14は傾斜角θ1が小さい緩勾配の傾斜面14aとして形成されている。また、緩勾配の傾斜面14aの最頂部と隣の緩勾配の傾斜面14aの最低部との間を傾斜角θ2が大きい急勾配の傾斜面14bによって連結している。
【0022】
また、塗布用円板12の中心には、上方に延在する回転軸16が取付けられており、この回転軸16には、例えば、エアモータからなり、20000〜30000r.p.m.程度の高速回転駆動が可能なモータ17が接続されている。
【0023】
また、塗布用円板12の上方には、塗布用円板12の充填溝13に液状物を供給するための液状物供給装置18が配設されており、この液状物供給装置18は、グリス等の所定の液状物(オイルシール用の潤滑剤)を貯留する貯留タンク19を有している。液状物供給装置18には、液状物を充填溝15に滴下させるための吐出ノズル20が配設されており、この吐出ノズル20の基部には、例えば、電磁弁等からなり貯留タンク19の所定量の液状物を吐出ノズル20に送るように開閉動作される吐出コントローラ21が配設されている。さらに、液状物供給装置18には、貯留タンク19の液状物を吐出ノズル20から吐出させるためのポンプ22が配設されている。なお、ポンプ22に代えて、図示しないエア源等により駆動流体を導くことにより、液状物を吐出ノズル20から吐出させるようにしてもよい。
【0024】
また、塗布用円板12の下方には、オイルシール1を昇降動作させる昇降装置23が配設されており、この昇降装置23は、昇降シリンダ24により昇降動作される保持アーム25を有している。また、保持アーム25の先端部には、オイルシール1の下面および外周面部分を保持する保持体26が固着されている。
【0025】
更に、液状物の塗布装置11には、制御回路27が配設されており、この制御回路27により、モータ17、液状物供給装置18の吐出コントローラ21、ポンプ22および昇降シリンダ24をそれぞれ駆動制御するようにされている。
【0026】
次に、本実施形態の塗布装置11を用いた液状物の塗布方法について説明する。
【0027】
本実施形態においては、貯留タンク19に所望の液状物(オイルシール用の潤滑剤)を充填し、昇降装置23の保持体26に所望のオイルシール1を保持させ、昇降シリンダ24を動作させて保持アーム25を上昇させることにより、オイルシール1のシールリップ5のリップ先端部6の内周面を塗布用円板12の外周側に位置させる。
【0028】
この状態で、制御回路27により、ポンプ22を動作させるとともに、吐出コントローラ21を動作させて所定量の液状物を吐出ノズル20から塗布用円板12の充填溝13に吐出させる。その後、モータ17を動作させることにより、塗布用円板12を瞬時に高速回転させる。この塗布用円板12の高速回転により、充填溝13内に保持された液状物は、その遠心力により外側の液状物誘導面14の緩勾配の傾斜面14a上に繰り出され、続いて当該緩勾配の傾斜面14a上を全域に亘るように外側に誘導され、最終的に塗布領域A(図7参照)の軸方向長さに対応する軸方向長さを備えた飛散端縁15からシールリップ5のリップ先端部6の内周面に向けて飛散されて塗布領域Aに均一に塗布される。この際、液状物誘導面14の傾斜面14aが塗布用円板12の回転方向逆向きに飛散端縁15の高さを高くするように形成されているので、確実に軸方向の長さが長い塗布領域Aに対して良好に液状物を均一に塗布することができる。
【0029】
また、本実施形態をオイルシールに対して潤滑剤を塗布することについて特化すると、オイルシール1のシールリップ5の内周面の軸方向の長さが長い塗布領域Aに非接触状態で液状物としての潤滑剤を塗布することができ、鋭利に形成されたシールリップ5のリップ先端部6に損傷を与えてしまうおそれがなく、適正に必要箇所に所定量の潤滑剤を塗布してオイルシール1による封止流体の封止を適正に行なうことができる。また、潤滑剤をシールリップ5の内周面の必要箇所のみに塗布することができるので、潤滑剤の無駄がなく、潤滑剤の消費量を著しく低減させることができるものである。
【0030】
なお、塗布用円板12は、図5および図6に示すように、正逆回転のいずれの回転方向においても軸方向の長さが長い塗布領域Aに対して良好に液状物を均一に塗布することができるように形成してもよい。具体的には図5および図6に示すように、中心側の充填溝13から外側に径方向外側に向けて高さが高くなるテーパ面28を形成し、更に周方向を6等分する位置にそれぞれ正逆回転方向に対称形状の椀の一部を形成する凹部からなる液状物誘導面14を径方向外側に向けて深さが深くなるように形成し、各液状物誘導面14の塗布用円板12の外周面との交点を飛散端縁15としたものである。この飛散端縁15の最低位置と最高位置との高低差を前記塗布領域Aの高さと同一とすることにより、塗布用円板12の正逆回転のいずれの回転方向においても軸方向の長さが長い塗布領域Aに対して良好に液状物を均一に塗布することができる。
【0031】
また、前記実施形態においては、オイルシールに潤滑剤を塗布する場合について説明したが、塗布媒体としての液状物としては潤滑剤に限らずに塗料、染料等を含むものであり、塗布対象としてはオイルシールのシールリップに限らずに装飾用筒体等を含む環状製品の環状の内周面を含むものである。
【0032】
また、本発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて種々変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る液状物の塗布装置の一実施例を示す概略構成図
【図2】図1の塗布用円板を示す斜視図
【図3】図2の塗布用円板を示す平面図
【図4】図2の塗布用円板を示す正面図
【図5】本発明の他の塗布用円板を示す平面図
【図6】図5の塗布用円板を示す正面図
【図7】従来の一般的なオイルシールを示す縦断面図
【符号の説明】
【0034】
1 オイルシール
2 補強環
5 シールリップ
11 液状物の塗布装置
12 塗布用円板
13 充填溝
14 液状物誘導面
15 飛散端縁
17 モータ
18 液状物供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状の内周面の軸方向長さの長い塗布領域に対して所定量の液状物を塗布するための液状物の塗布方法において、
前記内周面の内径より小さい直径を有する塗布用円板に所定量の液状物を保持させ、前記塗布用円板を高速回転駆動させ、前記液状物を前記塗布用円板の液状物誘導面の外周端部に形成された前記塗布領域の軸方向長さに対応する軸方向長さを備えた飛散端縁より外側に飛散させて、前記内周面の前記塗布領域に所定量の液状物を非接触により塗布するようにしたことを特徴とする液状物の塗布方法。
【請求項2】
前記環状の内周面は、オイルシールのシールリップの内周面とされ、前記液状物は潤滑剤とされていることを特徴とする請求項1に記載の液状物の塗布方法。
【請求項3】
環状の内周面の軸方向長さの長い塗布領域に所定量の液状物を非接触により塗布するための液状物の塗布装置において、前記内周面の内径より小さい直径を有する塗布用円板を前記内周面の内側で高速回転駆動自在に配設し、この塗布用円板に液状物を保持させる充填部を形成するとともに、当該充填部から遠心力により外側に繰り出された液状物を前記塗布領域の軸方向長さに対応する軸方向長さにおいて飛散させる飛散端縁を備えた液状物誘導面を形成し、この充填部に所定量の液状物を供給する液状物供給装置を配設したことを特徴とする液状物の塗布装置。
【請求項4】
前記液状物誘導面は、前記塗布用円板の回転方向逆向きに前記飛散端縁の高さを高くするように形成されていることを特徴とする請求項3に記載の液状物の塗布装置。
【請求項5】
前記環状の内周面は、オイルシールのシールリップの内周面とされていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の液状物の塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−240944(P2009−240944A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91299(P2008−91299)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000143307)株式会社荒井製作所 (100)
【Fターム(参考)】