説明

液状組成物および金属ベース回路基板

【課題】熱伝導性および電気絶縁性に優れる絶縁フィルムの原料となる液状組成物と、優れた放熱性および信頼性を発現する金属ベース回路基板とを提供する。
【解決手段】この液状組成物は、液晶ポリエステルと溶媒と窒化ホウ素とを含む。この窒化ホウ素は、純水:エタノール=8:2(容量比)の溶液に窒化ホウ素を添加して調製した5質量%のスラリーを50℃に維持して1時間後に溶出するホウ素量が300ppm以下である。不純物の少ない窒化ホウ素が熱伝導充填材として液晶ポリエステルに配合されているため、熱伝導性および信頼性に優れる絶縁フィルム3の原料となりうる。この液状組成物の流延物から溶媒を除去して絶縁フィルム3を形成し、この絶縁フィルム3を介して金属基板2上に銅箔4を積層して金属ベース回路基板1を構成する。これにより、金属ベース回路基板1の放熱性および信頼性が高まる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステル、溶媒および窒化ホウ素(BN)を含む液状組成物と、金属基板の表面に絶縁フィルムを介して回路形成用の導電箔が積層された金属ベース回路基板(金属ベース配線基板、金属ベース基板)とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パワートランジスタやハイブリッドICなどの電子部品の高密度実装化が進んでいることに対応して、これらの電子部品の動作を安定させるべく、これらの電子部品から発生する熱の放散、つまり放熱を考慮した金属ベース回路基板が使用されている。
【0003】
このような金属ベース回路基板においては、金属基板と導電箔とを電気的に絶縁するため、電気絶縁性に優れた絶縁フィルムを両者間に介在させている。この絶縁フィルムとしては、シリコーンゴム、エポキシ樹脂などの基材に熱伝導充填材として窒化ホウ素を配合したものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−60134号公報(〔請求項1〕、〔請求項2〕、段落〔0004〕〔0020〕の欄)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、絶縁フィルムの基材として、シリコーンゴムやエポキシ樹脂などの汎用樹脂よりも熱伝導率の高い液晶ポリエステルを用いることを検討し、また、絶縁フィルムの形成方法として、液晶ポリエステルと溶媒と窒化ホウ素とを含む液状組成物を原料に用い、その流延物から溶媒を除去する方法を検討したところ、窒化ホウ素に酸化ホウ素、ホウ酸化合物などの不純物が含まれていると、液晶ポリエステルの分解が促進されやすく、その結果、絶縁フィルムの熱伝導性や電気絶縁性が低下し、ひいては金属ベース回路基板の放熱性や信頼性が低下してしまうという問題に遭遇した。
【0006】
そこで、本発明は、このような事情に鑑み、熱伝導性および電気絶縁性に優れる絶縁フィルムの原料となる液状組成物を提供することを第1の目的とする。また、このような液状組成物から得られる絶縁フィルムを有することにより、優れた放熱性および信頼性を発現する金属ベース回路基板を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、液晶ポリエステルと溶媒と窒化ホウ素とを含む液状組成物であって、前記窒化ホウ素は、下記(a)の手法で求めた溶出ホウ素量が300ppm以下である液状組成物としたことを特徴とする。
(a)純水:エタノール=8:2(容量比)の溶液に窒化ホウ素を添加して5質量%のスラリーを調製し、このスラリーを50℃に維持して1時間後に溶出するホウ素量を測定し、これを溶出ホウ素量とする手法。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の構成に加え、前記窒化ホウ素の含有量が、前記液晶ポリエステルおよび前記窒化ホウ素の合計含有量に対して、20〜80体積%であることを特徴とする。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の構成に加え、前記液晶ポリエステルが、下式(1)で示される構造単位と、下式(2)で示される構造単位と、下式(3)で示される構造単位とを有し、全構造単位の合計含有量に対して、下式(1)で示される構造単位の含有量が30〜60モル%、下式(2)で示される構造単位の含有量が20〜35モル%、下式(3)で示される構造単位の含有量が20〜35モル%の液晶ポリエステルであることを特徴とする。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−X−Ar3 −Y−
(式中、Ar1 は、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Ar2 は、フェニレン基、ナフチレン基または下式(4)で示される基を表し、Ar3 は、フェニレン基または下式(4)で示される基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に、OまたはNHを表す。Ar1 、Ar2 またはAr3 で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11およびAr12は、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Zは、O、COまたはSO2 を表す。)
【0010】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の構成に加え、前記窒化ホウ素以外の充填材をさらに含むことを特徴とする。
【0011】
また、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の構成に加え、前記窒化ホウ素および前記充填材の合計含有量が、前記液晶ポリエステル、前記窒化ホウ素および前記充填材の合計含有量に対して、40〜80体積%であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項6に記載の発明は、請求項4または5の構成に加え、前記窒化ホウ素の含有量が、前記窒化ホウ素および前記充填材の合計含有量に対して、5〜95体積%であることを特徴とする。
【0013】
さらに、請求項7に記載の発明は、金属基板と、この金属基板上に設けられた絶縁フィルムと、この絶縁フィルム上に設けられた回路形成用の導電箔とを有する金属ベース回路基板であって、前記絶縁フィルムが、請求項1〜6のいずれかに記載の液状組成物の流延物から溶媒を除去して形成されたものである金属ベース回路基板としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、不純物の少ない窒化ホウ素が熱伝導充填材として液晶ポリエステルに配合されていることから、熱伝導性および電気絶縁性に優れる絶縁フィルムの原料となる液状組成物を提供することができる。
【0015】
また、このような液状組成物の流延物から溶媒を除去して絶縁フィルムを形成することにより、放熱性および信頼性に優れる金属ベース回路基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1に係る金属ベース回路基板を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0018】
図1には、本発明の実施の形態1を示す。この実施の形態1では、導電箔の一例として銅箔4を用いている。
<金属ベース回路基板の構成>
【0019】
この実施の形態1に係る金属ベース回路基板1は、図1に示すように、金属基板2を有しており、金属基板2の表面(図1上面)には絶縁フィルム3が積層されている。さらに、絶縁フィルム3の表面(図1上面)には回路形成用の銅箔4が積層されている。
【0020】
ここで、金属基板2は、例えば、アルミニウム、銅、ステンレスまたはこれらの合金などからなり、従来の金属ベース回路基板と同じものを使用することができる。また、金属基板2の厚さは、例えば0.5〜5mmである。なお、金属基板2は平板状のものであっても、任意の曲面状に曲げ加工されたものであってもよい。
【0021】
また、絶縁フィルム3は、後に詳述するように、液晶ポリエステル溶液に所定の窒化ホウ素を添加した液状組成物の流延物から溶媒を除去して形成されたものであり、窒化ホウ素を含有する液晶ポリエステル組成物からなる。この窒化ホウ素については後述する。
【0022】
さらに、銅箔4には、例えばエッチング等により、回路の配線パターン(図示せず)が形成される。そして、この配線パターンを用いて、金属ベース回路基板1上にパワートランジスタやハイブリッドICなどの電子部品(図示せず)が実装される。また、銅箔4の厚さは、例えば15〜500μmである。
<液晶ポリエステル>
【0023】
絶縁フィルム3を構成する液晶ポリエステルは、溶融時に光学異方性を示し、450℃以下の温度で異方性溶融体を形成するものである。この液晶ポリエステルを溶媒に溶解して得た溶液(液晶ポリエステル溶液)を用いて、絶縁フィルム3を形成することができる。
【0024】
この液晶ポリエステルは、下式(1)で示される構造単位(以下、構造単位(1)という。)と、下式(2)で示される構造単位(以下、構造単位(2)という。)と、下式(3)で示される構造単位(以下、構造単位(3)という。)とを有し、全構造単位の合計含有量(液晶ポリエステルを構成する各構造単位の質量を各構造単位の式量で割ることにより、各構造単位の含有量を物質量相当量(モル)として求め、それらを合計した値)に対して、構造単位(1)の含有量が30〜60モル%、構造単位(2)の含有量が20〜35モル%、構造単位(3)の含有量が20〜35モル%の液晶ポリエステルであることが好ましい。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−X−Ar3 −Y−
(式中、Ar1 は、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Ar2 は、フェニレン基、ナフチレン基または下式(4)で示される基を表し、Ar3 は、フェニレン基または下式(4)で示される基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に、OまたはNHを表す。Ar1 、Ar2 またはAr3 で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11およびAr12は、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Zは、O、COまたはSO2 を表す。)
【0025】
構造単位(1)は芳香族ヒドロキシカルボン酸由来の構造単位であり、構造単位(2)は芳香族ジカルボン酸由来の構造単位であり、構造単位(3)は芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン由来の構造単位であるが、これらの代わりに、それらのエステル・アミド形成性誘導体を用いてもよい。
【0026】
カルボキシル基を有する化合物のエステル・アミド形成性誘導体としては、例えば、カルボキシル基がハロホルミル基となったもの(酸ハロゲン化物)、カルボキシル基がアシルオキシカルボニル基となったもの(酸無水物)、カルボキシル基がアルキルオキシカルボニル基やアリールオキシカルボニル基となったもの(エステル)などが挙げられる。
【0027】
ヒドロキシル基を有する化合物のエステル形成性誘導体としては、例えば、ヒドロキシル基がアシルオキシル基となったもの(エステル)などが挙げられる。
【0028】
アミノ基を有する化合物のアミド形成性誘導体としては、例えば、アミノ基がアシルアミノ基となったもの(アミド)などが挙げられる。
【0029】
本発明に使用される液晶ポリエステルの構造単位としては、下記のものを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0030】
構造単位(1)としては、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4−ヒドロキシ−4’−ビフェニルカルボン酸由来の構造単位などが挙げられ、2種以上の構造単位(1)が全構造単位中に含まれていてもよい。これらの構造単位(1)の中で、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸由来の構造単位を含む液晶ポリエステルを使用することが好ましい。構造単位(1)の含有量は、全構造単位の含有量に対して、30〜60モル%であることが好ましく、40〜55モル%であることがより好ましく、45〜50モル%であることがさらに好ましい。構造単位(1)の含有量があまり多いと、溶解性が低下しやすく、構造単位(1)の含有量があまり少ないと、液晶性が低下しやすい。
【0031】
構造単位(2)としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸由来の構造単位などが挙げられ、2種以上の構造単位(2)が全構造単位中に含まれていてもよい。これらの構造単位(2)の中で、溶解性の観点から、イソフタル酸由来の構造単位を含む液晶ポリエステルを使用することが好ましい。構造単位(2)の含有量は、全構造単位の含有量に対して、20〜35モル%であることが好ましく、22.5〜32.5モル%であることがより好ましく、25〜30モル%であることがさらに好ましい。構造単位(2)の含有量があまり多いと、液晶性が低下しやすく、構造単位(2)の含有量があまり少ないと、溶解性が低下しやすい。
【0032】
構造単位(3)としては、例えば、ヒドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3−アミノフェノール、4−アミノフェノール、1,4−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン由来の構造単位などが挙げられ、2種以上の構造単位(3)が全構造単位中に含まれていてもよい。これらの構造単位(3)の中で、反応性の観点から、4−アミノフェノール由来の構造単位を含む液晶ポリエステルを使用することが好ましい。構造単位(3)の含有量は、全構造単位の含有量に対して、20〜35モル%であることが好ましく、22.5〜32.5モル%であることがより好ましく、25〜30モル%であることがさらに好ましい。構造単位(3)の含有量があまり多いと、液晶性が低下しやすく、構造単位(3)の含有量があまり少ないと、溶解性が低下しやすい。
【0033】
構造単位(3)は、構造単位(2)と実質的に等量用いられることが好ましい。但し、構造単位(3)の含有量を構造単位(2)の含有量に対して−10モル%〜+10モル%とすることにより、液晶ポリエステルの重合度を制御することもできる。
【0034】
本発明で使用される液晶ポリエステルの製造方法は、特に限定されない。例えば、構造単位(1)に対応する芳香族ヒドロキシカルボン酸、構造単位(3)に対応する芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンのヒドロキシル基およびアミノ基を過剰量の脂肪酸無水物によりアシル化してアシル化物を得た後、得られたアシル化物と構造単位(2)に対応する芳香族ジカルボン酸とをエステル交換(重縮合)して溶融重合する方法などが挙げられる。アシル化物としては、予めアシル化して得た脂肪酸エステルを用いてもよい(特開2002−220444号公報、特開2002−146003号公報参照)。
【0035】
アシル化反応においては、脂肪酸無水物の使用量は、ヒドロキシル基とアミノ基の合計含有量に対して、1〜1.2倍当量であることが好ましく、より好ましくは1.05〜1.1倍当量である。脂肪酸無水物の使用量があまり少ないと、エステル交換(重縮合)時にアシル化物や原料モノマーなどが昇華して反応系が閉塞しやすい。逆に、脂肪酸無水物の使用量があまり多いと、得られる液晶ポリエステルが着色しやすい。
【0036】
アシル化反応は、130〜180℃で5分〜10時間反応させることが好ましく、140〜160℃で10分〜3時間反応させることがより好ましい。
【0037】
アシル化反応に使用される脂肪酸無水物は、特に限定されないが、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水2エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水β−ブロモプロピオン酸などが挙げられ、これらは2種類以上を混合して用いてもよい。価格および取扱い性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸が好ましく、より好ましくは、無水酢酸である。
【0038】
エステル交換においては、アシル化物のアシル基の含有量がカルボキシル基の含有量の0.8〜1.2倍当量であることが好ましい。
【0039】
エステル交換は、130〜400℃で0.1〜50℃/分の割合で昇温しながら行なうことが好ましく、150〜350℃で0.3〜5℃/分の割合で昇温しながら行なうことがより好ましい。
【0040】
アシル化して得た脂肪酸エステルとカルボン酸とをエステル交換させる際には、ル・シャトリエ‐ブラウンの法則(平衡移動の原理)により、平衡を移動させるため、副生する脂肪酸と未反応の脂肪酸無水物は、蒸発させるなどして系外へ留去することが好ましい。
【0041】
なお、アシル化反応、エステル交換は、触媒の存在下に行なってもよい。この触媒としては、従来からポリエステルの重合用触媒として公知のものを使用することができ、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属塩触媒、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾールなどの有機化合物触媒などを挙げることができる。これらの触媒の中で、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾールなどの窒素原子を2個以上含む複素環状化合物が好ましく使用される(特開2002−146003号公報参照)。
【0042】
この触媒は、通常、モノマー類の投入時に投入され、アシル化後も除去することは必ずしも必要ではなく、この触媒を除去しない場合には、そのままエステル交換を行なうことができる。
【0043】
エステル交換による重縮合は、通常、溶融重合により行なわれるが、溶融重合と固層重合とを併用してもよい。固相重合は、溶融重合工程からポリマーを抜き出し、その後、粉砕してパウダー状またはフレーク状にした後、公知の固相重合方法により行うことが好ましい。具体的には、例えば、窒素などの不活性ガスの雰囲気下、20〜350℃で、1〜30時間固相状態で熱処理するという操作により、固相重合を実施することができる。この固相重合は、攪拌しながら行ってもよく、攪拌することなく静置した状態で行っても構わない。なお、適当な攪拌機構を備えることにより、溶融重合槽と固相重合槽とを同一の反応槽とすることもできる。また、こうして固相重合した後、得られた液晶ポリエステルは、公知の方法によりペレット化してもよい。
【0044】
液晶ポリエステルの製造は、例えば、回分装置、連続装置等を用いて行うことができる。
<溶媒>
【0045】
このようにして得られた液晶ポリエステルを所定の溶媒に溶解して液晶ポリエステル溶液を調製する。
【0046】
この溶媒としては、非プロトン性溶媒であることが好ましい。溶媒としては、液晶ポリエステルが溶解するものが望ましいが、溶解しないもの(分散するもの)も使用することができる。溶媒の使用量は、特に限定されるものでなく、用途に応じて適宜選択することができるが、溶媒100質量部に液晶ポリエステル0.01〜100質量部を使用することが好ましい。液晶ポリエステルがあまり少ないと、溶液粘度が低くて均一に塗工しにくく、液晶ポリエステルがあまり多いと、高粘度化しやすい。作業性や経済性の観点からは、溶媒100質量部に対して、液晶ポリエステルが1〜50質量部であることがより好ましく、2〜40質量部であることがさらに好ましい。
【0047】
非プロトン性溶媒としては、例えば、1−クロロブタン、クロロベンゼン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、1,1,2,2−テトラクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、アセトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、γ−ブチロラクトンなどのラクトン系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、トリエチルアミン、ピリジンなどのアミン系溶媒、アセトニトリル、サクシノニトリルなどのニトリル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ系溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホランなどのスルフィド系溶媒、ヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸などのリン酸系溶媒などが挙げられる。
【0048】
これらの中で、ハロゲン原子を含まない溶媒が環境への影響面から好ましく使用され、双極子モーメントが3以上5以下の溶媒が溶解性の観点から好ましく使用される。具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、γ−ブチロラクトンなどのラクトン系溶媒がより好ましく使用され、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンがさらに好ましく使用される。
<窒化ホウ素>
【0049】
このようにして得られた液晶ポリエステル溶液に所定の窒化ホウ素を添加して液状組成物を得る。
【0050】
この窒化ホウ素としては、不純物の少ない窒化ホウ素、具体的には、溶出ホウ素量が300ppm以下(好ましくは、100ppm以下)の窒化ホウ素を用いる。ここで、この溶出ホウ素量とは、下記(a)の手法で求めた値を意味する。
(a)純水:エタノール=8:2(容量比)の溶液に窒化ホウ素を添加して5質量%のスラリーを調製し、このスラリーを50℃に維持して1時間後に溶出するホウ素量をICP(誘導結合プラズマ)によって測定し、これを溶出ホウ素量とする手法。
【0051】
このスラリーの一例としては、純水40mlとエタノール10mlの溶液に窒化ホウ素2.4gを加えたものを挙げることができる。
【0052】
このとき、窒化ホウ素の含有量は、液晶ポリエステルおよび窒化ホウ素の合計含有量に対して、20〜80体積%であることが好ましく、30〜70体積%であることがより好ましい。この含有量があまり少ないと、熱伝導充填材となる窒化ホウ素が不足して絶縁フィルム3の熱伝導率が低下しやすい。逆に、この含有量があまり多いと、絶縁フィルム3と銅箔4との間の密着力が不足しやすく、金属ベース回路基板1としての信頼性が低下しやすい。
【0053】
なお、窒化ホウ素そのものは水に不溶であるのに対して、窒化ホウ素に含まれる不純物は水に可溶であることが多いため、窒化ホウ素を水で洗浄することにより、その溶出ホウ素量を減少させることもできる。
<他の成分>
【0054】
この液状組成物には、上述した窒化ホウ素に加えて、絶縁フィルム3の線膨張係数、耐電圧、弾性率、熱伝導率、銅箔4との密着力などを調整するために、窒化ホウ素以外の充填材を1種または2種以上含有させてもよい。
【0055】
窒化ホウ素以外の充填材としては、例えば、エポキシ樹脂粉末、メラミン樹脂粉末、尿素樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、スチレン樹脂などの有機充填材、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア、カオリン、炭酸カルシウム、燐酸カルシウムなどの無機充填材などが挙げられる。
【0056】
このとき、窒化ホウ素および窒化ホウ素以外の充填材の合計含有量は、液晶ポリエステル、窒化ホウ素および窒化ホウ素以外の充填材の合計含有量に対して、40〜80体積%であることが好ましく、50〜70体積%であることがより好ましい。また、窒化ホウ素の含有量は、窒化ホウ素および窒化ホウ素以外の充填材の合計含有量に対して、5〜95体積%であることが好ましく、20〜80体積%であることがより好ましく、30〜70体積%であることがさらに好ましい。
【0057】
また、この液状組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、カップリング剤、沈降防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などの添加剤を1種または2種以上含有させてもよい。
【0058】
また、この液状組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルエーテルおよびその変性物、ポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂、グリシジルメタクリレートとポリエチレンの共重合体などのエラストマーなどを1種または2種以上含有させてもよい。
<絶縁フィルム>
【0059】
このようにして得られた液状組成物は、必要に応じて、フィルターなどによってろ過して、液状組成物中に含まれる微細な異物を除去した後、この液状組成物を支持体上に表面平坦かつ均一に流延し、その後、この液状組成物から溶媒を除去してフィルム化することにより、本発明の絶縁フィルム3を形成する。
【0060】
ここで、液状組成物の流延方法としては、例えば、ローラーコート法、ディップコート法、スプレイコート法、スピナーコート法、カーテンコート法、スロットコート法、スクリーン印刷法など各種の方法を採用することができる。
【0061】
また、溶媒の除去方法としては、特に限定されないが、溶媒の蒸発によって行うことが好ましい。溶媒を蒸発させる方法としては、加熱、減圧、通風などの方法が挙げられる。これらの中でも、生産効率、取扱い性の点から、加熱して蒸発させることが好ましく、通風しつつ加熱して蒸発させることが一層好ましい。このときの加熱条件としては、60〜200℃で10分〜2時間予備乾燥を行う工程と、200〜400℃で30分〜5時間熱処理を行う工程とを含むことが好ましい。
【0062】
この絶縁フィルム3の厚さは、特に限定されることはないが、成膜性や機械特性の観点からは、0.5〜500μmであることが好ましく、熱抵抗を低く抑えるという観点からは、200μm以下であることがより好ましい。
【0063】
そして、金属基板2の表面に、この絶縁フィルム3および銅箔4を順に積層することにより、金属基板2、絶縁フィルム3および銅箔4からなる3層構造の金属ベース回路基板1が得られる。
【0064】
このようにして得られた金属ベース回路基板1においては、上述したとおり、絶縁フィルム3の基材として液晶ポリエステルが用いられ、この液晶ポリエステルに、不純物の少ない窒化ホウ素が熱伝導充填材として配合されているため、絶縁フィルム3の熱伝導性および電気絶縁性を高めることができる。したがって、金属ベース回路基板1の放熱性および信頼性を向上させることが可能となる。その結果、この金属ベース回路基板1上にパワートランジスタやハイブリッドICなどの電子部品が高密度で実装された場合でも、これらの電子部品の動作を安定させることができる。
【0065】
このとき、金属ベース回路基板1上の電子部品で発生した熱は、絶縁フィルム3および金属基板2を通じて放散する。なお、絶縁フィルム3の厚さは任意にコントロールすることができ、この厚さを減少させることにより、絶縁フィルム3の熱抵抗を一層低減することも可能である。
【0066】
また、本発明の液状組成物は、腐食性が低く、取扱いが容易であり、この液状組成物を用いて得られる絶縁フィルム3は、縦方向(流延方向)と横方向(流延方向に対して直角な方向)の異方性が小さく、機械的強度に優れており、また、液晶ポリエステルが本来有する高周波特性、低吸水性などの性能にも優れている。したがって、金属ベース回路基板1だけでなく、他の電子部品用の絶縁フィルムにも適している。
【0067】
なお、本明細書中において使用される用語「フィルム」とは、シート状の極薄のフィルムから肉厚のフィルムまで含有するものであり、さらに、シート状のみならず、瓶状の容器形態などをも含有するものである。
[発明のその他の実施の形態]
【0068】
なお、上述した実施の形態1では、金属基板2の表面(図1上面)に絶縁フィルム3および銅箔4を一対だけ積層した3層構造の金属ベース回路基板1について説明した。しかし、絶縁フィルム3および銅箔4を複数対(二対以上)積層した5層構造、7層構造などの金属ベース回路基板1に本発明を同様に適用することもできる。
【0069】
また、上述した実施の形態1では、金属基板2の表面(図1上面)に絶縁フィルム3を介して銅箔4が設けられた金属ベース回路基板1について説明した。しかし、金属基板2の表裏両面(図1上下面)にそれぞれ絶縁フィルム3を介して銅箔4が設けられた金属ベース回路基板1に本発明を同様に適用することも可能である。
【0070】
さらに、上述した実施の形態1では、導電箔として銅箔4を用いる場合について説明した。しかし、導電性を有するものである限り、銅箔4以外の金属箔(例えば、金箔、銀箔、アルミニウム箔、ステンレス箔など)やカーボングラファイトシートその他を導電箔として代用または併用することもでき、また、銅箔に金めっきや銀めっきを施したものを導電箔として代用または併用することもできる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
(A)液晶ポリエステルの製造
【0072】
まず、攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1976g(10.5モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド1474g(9.75モル)、イソフタル酸1620g(9.75モル)および無水酢酸2374g(23.25モル)を仕込んだ。そして、反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、この温度(150℃)を保持しつつ3時間還流させた。
【0073】
その後、留出する副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら、170分かけて300℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了点とみなし、内容物を取り出した。こうして取り出した内容物を室温まで冷却し、粉砕機で粉砕した後、比較的低分子量の液晶ポリエステル粉末を得た。こうして得られた液晶ポリエステル粉末について、(株)島津製作所製のフローテスター「CFT−500型」を用いて流動開始温度を測定したところ、235℃であった。この液晶ポリエステル粉末に対して、窒素雰囲気において223℃で3時間の熱処理を施すことにより、固相重合を行った。固相重合後の液晶ポリエステルの流動開始温度は270℃であった。
(B)液晶ポリエステル溶液の調製
【0074】
上記(A)で得られた液晶ポリエステル2200gをN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)7800gに加え、100℃で2時間加熱して、液晶ポリエステル溶液を得た。このときの溶液粘度は320cPであった。この溶液粘度は、東機産業(株)製のB型粘度計「TVL−20型」(ローターNo.21、回転速度5rpm)を用いて、室温(23℃)で測定したときの値である。
(C)金属ベース回路基板の作製
<実施例1>
【0075】
上記(B)で得た液晶ポリエステル溶液(固形分22質量%)に、熱伝導充填材として、溶出ホウ素量100ppmの鱗片凝集状窒化ホウ素粉末(水島合金鉄(株)製の窒化ホウ素粉末「HP−40P」)を加えることにより、液状組成物を得た。ここで、熱伝導充填材(窒化ホウ素粉末)の充填量は、液晶ポリエステルおよび熱伝導充填材の総和に対して、52体積%とした。
【0076】
次に、この液状組成物を遠心脱泡機で5分間攪拌した後、厚さ70μmの銅箔上に厚さ450μmとなるように塗布した。続いて、これを40℃で1時間乾燥させた後、300℃で3時間にわたって熱処理した。これにより、表面に銅箔(すなわち、導電箔)が形成された絶縁フィルムを得た。
【0077】
その後、熱伝導率140W/(m・K)、厚さ2.0mmのアルミニウム合金板(すなわち、金属基板)に、上述の絶縁フィルムを積層した。このとき、絶縁フィルムの表面(銅箔が形成されていない面)が、アルミニウム合金板の表面と接するようにした。そして、圧力19.6MPa(200kgf/cm2 )、温度340℃で20分間の熱処理を行うことにより、これらアルミニウム合金板と絶縁フィルムとを熱接着した。
【0078】
以上により、金属ベース回路基板を作製した。
<実施例2>
【0079】
溶出ホウ素量が1000ppmである鱗片凝集状窒化ホウ素粉末(水島合金鉄(株)製の窒化ホウ素粉末「HP−40J」)200gに対して水1Lを加え、攪拌浴にて1時間攪拌した。次いで、窒化ホウ素粉末をろ過した後、溶出ホウ素量の削減を目的として水で洗浄し、120℃で5時間乾燥させて水を除去することにより、溶出ホウ素量40ppmの窒化ホウ素粉末を得た。得られた窒化ホウ素粉末を熱伝導充填材として「HP−40P」の代わりに用いたことを除き、実施例1と同じ方法により、金属ベース回路基板を作製した。
<比較例1>
【0080】
熱伝導充填材として、「HP−40P」の代わりに、溶出ホウ素量が1000ppmである鱗片凝集状窒化ホウ素粉末(水島合金鉄(株)製の窒化ホウ素粉末「HP−40J」)を用いたことを除き、実施例1と同じ方法により、金属ベース回路基板を作製した。
<比較例2>
【0081】
熱伝導充填材として、「HP−40P」の代わりに、溶出ホウ素量が400ppmである鱗片凝集状窒化ホウ素粉末(水島合金鉄(株)製の窒化ホウ素粉末「HP−40J2」)を用いたことを除き、実施例1と同じ方法により、金属ベース回路基板を作製した。
<実施例3>
【0082】
上記(B)で得た液晶ポリエステル溶液(固形分22質量%)に、熱伝導充填材として、溶出ホウ素量100ppmの鱗片凝集状窒化ホウ素粉末(水島合金鉄(株)製の窒化ホウ素粉末「HP−40P」)および球状酸化アルミニウム粉末(住友化学(株)製の「スミコランダムAA−5」)を加えることにより、液状組成物を得た。ここで、熱伝導充填材(窒化ホウ素粉末、酸化アルミニウム粉末)の充填量は、液晶ポリエステルおよび熱伝導充填材の総量に対して、52体積%とした。また、熱伝導充填材に占める窒化ホウ素粉末の割合は、50体積%とした。得られた液状組成物を用いて、実施例1と同様の方法により、金属ベース回路基板を作製した。
<比較例3>
【0083】
「HP−40P」の代わりに、溶出ホウ素量が1000ppmである鱗片凝集状窒化ホウ素粉末(水島合金鉄(株)製の窒化ホウ素粉末「HP−40J」)を用いたことを除き、実施例3と同じ方法により、金属ベース回路基板を作製した。
(D)評価試験の実施
【0084】
以上のようにして得られた6種類の金属ベース回路基板(実施例1〜3および比較例1〜3)に対して、それぞれ以下の3種類の評価試験を行った。
(D−1)融点
【0085】
昇温速度10℃/分で示差走査熱量測定(DSC)を行い、吸熱のピークトップの温度を融点とした。
(D−2)耐電圧
【0086】
絶縁油中に金属ベース回路基板を浸漬した状態で、銅箔とアルミニウム合金板との間に室温で交流電圧を印加し、このとき絶縁破壊する電圧を耐電圧とした。また、121℃、2気圧、相対湿度96%の炉内で24時間、高温高湿処理した金属ベース回路基板について、同様に耐電圧を測定した。
(D−3)熱伝導率
【0087】
絶縁フィルムの熱伝導性を評価するため、次の式を用いて絶縁フィルムの熱伝導率(単位:W/(m・K))を算出した。
(熱伝導率)=(熱拡散率)×(比熱)×(密度)
【0088】
ここで、熱拡散率は、金属ベース回路基板から縦10mm×横10mm×厚さ0.1mmのサンプルを切り出し、このサンプルからエッチングにより銅箔とアルミニウム合金板とを除き、残った絶縁フィルムについて、(株)アイフェイズ製の測定器「ai-Phase Mobile」を用いて、温度波熱分析法により室温で測定した。
【0089】
また、比熱は、示差走査熱量測定(DSC)により、サファイヤ標準物質との比較から測定した。
【0090】
さらに、密度はアルキメデス法により測定した。
(E)評価試験の結果
【0091】
これらの評価試験の結果をまとめて表1に示す。
【表1】

【0092】
表1から明らかなように、融点については、熱伝導充填材として窒化ホウ素粉末を単独で用いた場合、実施例1、2ではいずれも345℃であったのに対して、比較例1では333℃、比較例2では337℃であった。また、熱伝導充填材として窒化ホウ素粉末と酸化アルミニウムを併用した場合、実施例3では346℃であったのに対して、比較例3では335℃であった。このように、比較例1〜3ではいずれも、実施例1〜3に比べて融点が低くなっており、液晶ポリエステルが分解して分子量が低下していることを裏付けている。
【0093】
また、耐電圧(高温高湿処理あり/なし)については、熱伝導充填材として窒化ホウ素粉末を単独で用いた場合、比較例1では2.0kV/0.5kV、比較例2では4.0kV/0.5kVであったのに対して、実施例1、2ではいずれも8.0kV/8.0kVと大幅に高くなった。また、熱伝導充填材として窒化ホウ素粉末と酸化アルミニウム粉末を併用した場合、比較例3では7.0kV/0.5kVであったのに対して、実施例3では7.5kV/7.5kVと高くなった。このことから、窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素量を100ppm、40ppmに抑制することにより、絶縁フィルムの耐電圧が向上し、絶縁フィルムの電気絶縁性を改善しうることが判明した。
【0094】
さらに、熱伝導率については、熱伝導充填材として窒化ホウ素粉末を単独で用いた場合、比較例1では4.3W/(m・K)、比較例2では5.4W/(m・K)であったのに対して、実施例1では6.0W/(m・K)、実施例2では6.1W/(m・K)と高くなった。また、熱伝導充填材として窒化ホウ素粉末と酸化アルミニウム粉末を併用した場合、比較例3では4.5W/(m・K)であったのに対して、実施例3では4.9W/(m・K)と高くなった。このことから、窒化ホウ素粉末の溶出ホウ素量を100ppm、40ppmに抑制することにより、絶縁フィルムの熱伝導性を改善しうることが判明した。
【0095】
加えて、比較例1〜3ではいずれも、金属ベース回路基板の表面に凹凸が発生して表面平滑性が低下したため、金属ベース回路基板としての製品価値が減少する恐れがあった。これに対して、実施例1〜3ではいずれも、金属ベース回路基板の表面平滑性が低下する様子は観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、パワートランジスタやハイブリッドICのほか、発光ダイオードなどの電子部品を実装する金属ベース回路基板に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0097】
1……金属ベース回路基板
2……金属基板
3……絶縁フィルム
4……銅箔(導電箔)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリエステルと溶媒と窒化ホウ素とを含む液状組成物であって、
前記窒化ホウ素は、下記(a)の手法で求めた溶出ホウ素量が300ppm以下であることを特徴とする液状組成物。
(a)純水:エタノール=8:2(容量比)の溶液に窒化ホウ素を添加して5質量%のスラリーを調製し、このスラリーを50℃に維持して1時間後に溶出するホウ素量を測定し、これを溶出ホウ素量とする手法。
【請求項2】
前記窒化ホウ素の含有量が、前記液晶ポリエステルおよび前記窒化ホウ素の合計含有量に対して、20〜80体積%であることを特徴とする請求項1に記載の液状組成物。
【請求項3】
前記液晶ポリエステルが、下式(1)で示される構造単位と、下式(2)で示される構造単位と、下式(3)で示される構造単位とを有し、全構造単位の合計含有量に対して、下式(1)で示される構造単位の含有量が30〜60モル%、下式(2)で示される構造単位の含有量が20〜35モル%、下式(3)で示される構造単位の含有量が20〜35モル%の液晶ポリエステルであることを特徴とする請求項1または2に記載の液状組成物。
(1)−O−Ar1 −CO−
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−X−Ar3 −Y−
(式中、Ar1 は、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Ar2 は、フェニレン基、ナフチレン基または下式(4)で示される基を表し、Ar3 は、フェニレン基または下式(4)で示される基を表し、XおよびYは、それぞれ独立に、OまたはNHを表す。Ar1 、Ar2 またはAr3 で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar11−Z−Ar12
(式中、Ar11およびAr12は、それぞれ独立に、フェニレン基またはナフチレン基を表し、Zは、O、COまたはSO2 を表す。)
【請求項4】
前記窒化ホウ素以外の充填材をさらに含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液状組成物。
【請求項5】
前記窒化ホウ素および前記充填材の合計含有量が、前記液晶ポリエステル、前記窒化ホウ素および前記充填材の合計含有量に対して、40〜80体積%であることを特徴とする請求項4に記載の液状組成物。
【請求項6】
前記窒化ホウ素の含有量が、前記窒化ホウ素および前記充填材の合計含有量に対して、5〜95体積%であることを特徴とする請求項4または5に記載の液状組成物。
【請求項7】
金属基板と、この金属基板上に設けられた絶縁フィルムと、この絶縁フィルム上に設けられた回路形成用の導電箔とを有する金属ベース回路基板であって、
前記絶縁フィルムが、請求項1〜6のいずれかに記載の液状組成物の流延物から溶媒を除去して形成されたものであることを特徴とする金属ベース回路基板。

【図1】
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【公開番号】特開2012−197325(P2012−197325A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60447(P2011−60447)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】