説明

液面計及び液面高さの測定方法、並びに精留塔及び精留塔の運転方法

【課題】精留分離法において採取対象製品の収率への影響がなく、精留塔の底部に溜まった流体の液密度が運転中に大きく変化する場合であっても、正しい液面高さを測定することが可能な液面計を提供する。
【解決手段】精留塔底部の液ヘッドを測定する圧力測定手段と、精留塔の底部に溜まった流体の温度を測定する温度測定手段と、液ヘッドと温度とから流体の液面高さを算出する演算手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液面計及び液面高さの測定方法の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
精留分離法は、空気液化分離装置など多くの分野で用いられている。精留分離法では、原料流体を精留塔に導入し、原料流体を構成する各成分の沸点差を利用して分離する。ここで、各精留塔の底部(下部、塔底と称される場合もある)には、各精留塔内流体成分中の高沸点成分が液状で貯液されており、それらの高沸点成分の量を把握する為に液面計が設置されている。
【0003】
ところで、クリプトン及びキセノンは大気中の微量成分であり、大気中にそれぞれ、1.14ppm、0.087ppm含まれている。クリプトンは、ランプの封入ガス等に用いられている。一方、キセノンはキセノンランプ封入ガス、イオンエンジンの推進剤、二層断熱ガラス等に用いられている。
【0004】
クリプトン及びキセノンは、工業的には空気の低温蒸留によって分離される。つまり、空気分離を主目的とする複式精留塔で濃縮された後、所定の分離プロセスを経て分離、精製される。クリプトン及びキセノンの沸点は酸素よりも高いため、複式精留塔の低圧塔底部の液体酸素中に濃縮される。
【0005】
一方、原料空気に微量含まれる炭化水素の沸点は酸素よりも高いため、クリプトン及びキセノンと共に低圧塔底部の液体酸素中に濃縮される。従って、基本的にはクリプトン、キセノン及び炭化水素が濃縮された液体酸素を原料として、炭化水素が除去された後、クリプトン、キセノンが更に濃縮され、それぞれ分離精製されることとなる。
【0006】
ところで、原料空気からクリプトン及びキセノンを分離する方法としては、特許文献1〜3が知られている。具体的に、この特許文献1には、図7に示すように、複式精留塔101の低圧塔底部のクリプトン及びキセノンが濃縮された液体酸素を順次、濃縮塔102、脱酸塔103、分離塔104から構成される空気液化分離装置100に導入してクリプトン及びキセノンを分離するプロセスが開示されている。ここで、複式精留塔101の低圧塔底部の液体酸素中におけるクリプトン及びキセノンの濃度は、それぞれ400ppm、20ppm程度であるが、濃縮塔102でそれぞれ9000、1000ppmまで濃縮される。次に、この液体酸素から炭化水素が除去された後、脱酸塔103に導入されて、塔底にクリプトン(90〜95%)、キセノン(5〜10%)が濃縮される。そして、この塔底部に溜まった液(以下、「塔底液」と称する場合がある)が分離塔104に導入され、塔底にキセノン、塔頂にクリプトンがそれぞれ分離される。なお、下記表1に大気圧における空気を構成する各成分の物性を示す。
【0007】
【表1】

【0008】
また、特許文献2及び特許文献3には、従来の液体酸素中の炭化水素の濃縮、除去が不要となるプロセスが開示されている。具体的には、特許文献2及び特許文献3には、クリプトン、キセノン及び炭化水素が濃縮された液体酸素を粗クリプトン塔に導入し、クリプトン及びキセノンを液体窒素中に濃縮すると同時に炭化水素をパージするプロセスが開示されている。そして、このプロセスによって得られた、クリプトン及びキセノンを含む液体窒素を後工程、例えば、特許文献1に記載された脱酸塔に導入することにより、その底部にクリプトン及びキセノンを濃縮することができる。
【0009】
このように、特許文献1〜3に開示されたクリプトン及びキセノンの分離プロセスでは、液体酸素、液体窒素或いは合成ガス中にクリプトン及びキセノンを濃縮し、同伴される炭化水素を除去した後、一旦、粗クリプトン−キセノン液(クリプトン90〜95%、キセノン5〜10%)が濃縮されることとなる。
【0010】
しかしながら、この粗クリプトン−キセノン液を濃縮する際、精留塔に設けられた液面計の指示値と実際の液面の高さとの間に大きな誤差(以下、「指示誤差」と称する場合がある)が生じ、装置の安全上好ましくないという問題があった。
【0011】
特許文献1に開示されたクリプトン及びキセノンを分離精製するプロセスでは、脱酸塔でクリプトン及びキセノンが濃縮された液体酸素から酸素分を除去するが、この脱酸塔の底部に溜まった高沸点成分流体の液面高さを測定するための液面計が設けられている。この液面計では、脱酸塔の底部に溜まった液体の底面と液面より上部の気相部との差圧(以下、単に「液ヘッド」と称する)Δpを測定し、下記式(1)に基づいて、液面高さhを算出する方法が一般的に用いられている。一般に、液ヘッドは、液頭や液柱とも表現されるもので、当該液体の底面における液体自身の圧力をいうが、本発明では、液ヘッドに起因する液体の底面における圧力と液面より上方の気相部の圧力との差を、単に「液ヘッド」と称する。
【0012】
Δp=ρgh ・・・(1)
なお、式(1)式中、ρは対象成分の液密度、gは重力加速度、hは液面高さをそれぞれ表している。
【0013】
このように、従来の液面計で用いられる液面高さhの算出方法は、対象となる成分の液密度を設定し、液ヘッドΔpを測定するという簡便な方法である。しかしながら、対象となる液体の密度が予め設定した液密度の値と大きく異なる場合には、液面計の指示値と実際の液面の高さとの間に大きな誤差が生じることとなる。
【0014】
例えば、脱酸塔の底部に粗クリプトン−キセノン液を濃縮する場合、脱酸塔に設けられる液面計には、定常状態、つまり塔底液が粗クリプトン−キセノン(クリプトン90〜95%、キセノン5〜10%)であることを前提として液密度の値が設定される。しかしながら、クリプトン−キセノン精製装置の起動時には、脱酸塔にクリプトン及びキセノンが濃縮された液体酸素が導入されるため、塔底には液体酸素が貯液されることとなる。
【0015】
そして、液体クリプトン及び液体キセノンの密度と比較して、液体酸素の密度は小さいため、クリプトン−キセノン精製装置の起動時から塔底液の成分が定常状態となるまでの間、脱酸塔の底部に溜まった流体の実際の液面の高さに対して液面計には大きな指示誤差が生じてしまっていた。
【0016】
したがって、クリプトン−キセノン精製装置の運転を開始し、液面計の指示値を監視していた場合に、液面計の指示値が低くても、実際の液面は精留塔の棚段(或いは充填材)に浸った状態になる、あるいは、脱酸塔への導入配管部分(例えば、図7に示す配管L103)よりも上となる可能性があり、装置の安全上好ましくないという問題があった。
【0017】
また、特許文献2及び特許文献3に開示されたプロセスでは、安全上の理由から、クリプトン及びキセノンは液体窒素或いは合成ガス中に濃縮されるが、上述した特許文献1の場合と同様に、正しい液面計指示が得られない点は改善されていない。そればかりか、液体窒素の密度は液体酸素の密度よりも更に小さい為、液面計の指示値と実際の液面高さとの誤差は更に大きくなる傾向があった。
【0018】
ところで、対象の流体の液密度が変動する場合に液面計の指示値を補正する方法として、特許文献4が開示されている。この特許文献4には、対象の流体の液密度が変化した場合であっても、その液密度を直接測定することにより液面計の指示誤差を補正して、液面の高さを制御する方法が開示されている。しかしながら、原料空気からクリプトン及びキセノンを分離製造する場合には、上記表1中にも示したように対象のクリプトン、キセノン自体が極めて少量であるため、脱酸塔の液面計指示値を補正するために当該底部の液を分析に用いること自体が製品の収率に大きく影響してしまうという問題があった。
【0019】
例えば、国内で稼動している最大規模の空気分離装置の処理空気量は、毎時320,000Nm程度であり、その原料空気に含まれているクリプトン及びキセノンを仮に全量回収した場合であっても、それぞれの採取可能量は毎時約0.36Nm、約0.03Nm程度である。つまり、脱酸塔底液の組成を測定する場合、塔から分析装置までの配管内のパージや、実際の分析で必要なクリプトン或いはキセノンの使用量は製品量に対して相対的に大きく、長い起動時間内に頻繁に分析することは製品収率が低下する原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平07−139876号公報
【特許文献2】特公平08−007020号公報
【特許文献3】特公平08−007021号公報
【特許文献4】特開平09−101824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、精留分離法において採取対象の収率への影響がなく、精留塔の底部に溜まった流体の液密度が運転中に大きく変化する場合であっても、正しい液面高さを測定することが可能な液面計及び液面高さの測定方法、並びに精留塔及び精留塔の運転方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0022】
かかる課題を解決するため、本発明者らが鋭意研究した結果、所定の運転圧力における精留塔内の混合成分の組成により液密度と飽和液温度とが大きく異なる点に着目した。そして、精留塔の底部に溜まった流体の液温度を測定することにより、液密度を推算し、その結果を用いて液面高さを算出することができることを見出して本発明を完成させた。
【0023】
すなわち、本発明は、以下の構成を備える。
請求項1に記載の発明は、2以上の混合流体から1つの成分を低温精留によって分離或いは濃縮する精留塔に設けられ、前記精留塔の底部に溜まった流体の液面高さを測定するための液面計であって、
前記精留塔底部の液ヘッドを測定する圧力測定手段と、
前記精留塔の底部に溜まった流体の温度を測定する温度測定手段と、
前記液ヘッドと前記温度とから流体の液面高さを算出する演算手段と、を備えることを特徴とする液面計である。
【0024】
請求項2に記載の発明は、前記精留塔が、クリプトン及びキセノンの少なくとも一方を含む酸素、窒素、アルゴン、合成ガス、二酸化炭素のいずれか1つの流体又は2以上の混合流体から、前記クリプトン及び前記キセノンの少なくとも一方を低温精留によって分離或いは濃縮する精留塔であることを特徴とする請求項1に記載の液面計である。
【0025】
請求項3に記載の発明は、前記演算手段には、前記精留塔の運転圧力及び当該精留塔内の流体の組成における、前記流体の温度と液密度との関係が記憶されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液面計である。
【0026】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の液面計が設けられていることを特徴とする精留塔である。
【0027】
請求項5に記載の発明は、2以上の混合流体から1つの成分を低温精留で分離或いは濃縮する精留塔において、前記精留塔の底部に溜まった流体の液面高さを測定するための方法であって、
精留塔底部の液ヘッドを測定するステップと、
精留塔の底部に溜まった流体の温度を測定するステップと、
測定された前記温度から、前記流体の液密度を計算するステップと、
前記液ヘッドと前記液密度とから、前記精留塔の底部に溜まった流体の液面高さを算出するステップと、を少なくとも備えることを特徴とする液面高さの測定方法である。
【0028】
請求項6に記載の発明は、前記液ヘッドと前記液密度とから、前記精留塔の底部に溜まった流体の液面高さを算出するステップが、
前記精留塔の運転圧力及び当該精留塔内の流体の組成における、前記流体の温度と液密度との関係から算出することを特徴とする請求項5に記載の液面高さの測定方法である。
【0029】
請求項7に記載の発明は、請求項4に記載の精留塔の運転方法であって、
精留塔の起動時から定常運転時まで、前記精留塔底部の液ヘッドと、前記精留塔の底部に溜まった流体の温度とを連続的又は間欠的に測定することにより、液面計の液面指示を補正することを特徴とする精留塔の運転方法である。
【発明の効果】
【0030】
本発明の液面計及び液面高さの測定方法によれば、精留分離法において精留塔の底部に溜まった流体の液密度が変化する場合であっても、流体の温度を測定して当該液体の実際の液密度を推算することができるため、製品として採取対象である成分の収率に影響することなく正しい液面高さを測定することができる。
【0031】
本発明の精留塔及び精留塔の運転方法によれば、起動時から定常運転時の間に精留塔の底部に溜まった流体の液密度が変化する場合であっても、流体の温度を測定することにより正しい液面高さを測定することができるため、精留塔底部の液面の、より精度の高い制御が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明を適用した実施形態である精留塔及び液面計の一例を示す模式図である。
【図2】本発明を適用した実施形態である液面高さの測定方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【図3】本発明を適用した一実施形態である脱酸塔の起動から定常状態における酸素とクリプトンとの混合物の沸点と液密度との関係の示すグラフである。
【図4】本発明を適用した一実施形態である分離塔の起動から定常状態におけるクリプトンとキセノンとの混合物の沸点と液密度との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の液面高さの測定方法の他の例を説明するための、精留塔の運転条件における液温度と液密度との関係を示すグラフである。
【図6】本発明を適用した実施形態である液面高さの測定方法の他の例を説明するためのフローチャートである。
【図7】従来の空気液化分離装置の構成を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を適用した一実施形態である精留塔及び液面計について、液面高さの測定方法及び精留塔の運転方法とともに図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0034】
先ず、本発明を適用した一実施形態である精留塔として、原料空気からクリプトン及びキセノンを分離する空気液化分離装置を構成する脱酸塔に適用した場合について説明する。本実施形態の脱酸塔は、図示略の濃縮塔と分離塔との間に設けられた精留塔である。(なお、空気液化分離装置の全体の構成については、図7を参照するものとする。)
【0035】
図1に示すように、本実施形態の脱酸塔(精留塔)1の内部には、流体を精留する棚段(又は充填材)1Aが設けられており、底部には溜まった流体Lを加熱するためのリボイラー1Bが設けられている。また、脱酸塔1の高さ方向中央部には、濃縮塔から送られてきた流体を脱酸塔1の内部に導入するための配管L3が接続されており、脱酸塔1の底部(下部、塔底と称する場合もある)には、溜まった流体Lを後段の分離塔に供給するための配管L4が接続されている。
【0036】
ここで、本実施形態の脱酸塔1は、本発明を適用した一実施形態である液面計2が設けられている。本実施形態の液面計2は、脱酸塔1の底部に溜まった流体Lの液面高さHを測定するために設けられている。
【0037】
具体的に、本実施形態の液面計2は、図1に示すように、脱酸塔1の底部に溜まった流体Lの液ヘッド(Δp)を測定する圧力計(圧力測定手段)3と、上記流体Lの温度を測定する温度計(温度測定手段)4とを備えて概略構成されている。
【0038】
圧力計3は、脱酸塔1の底部に溜まった流体Lの液ヘッド(Δp)を測定することができるものであれば特に限定されるものではない。ここで、流体Lの液ヘッド(Δp)とは、具体的には、脱酸塔1の下部液面より上方の気相部1aと、脱酸塔1の下端部1bとの間の圧力差である。このため、圧力計3としては、差圧計を用いることができる。なお、差圧計としては、上記気相部1aと上記下端部1bとの差圧を測定可能なものであれば特に限定されるものではなく、従来公知のものを使用することができる。
【0039】
温度計4は、脱酸塔1の底部に溜まった流体Lの温度を測定することができるものであれば特に限定されるものではない。なお、温度計としては、例えば熱電対等の従来公知の温度計を用いることができる。
【0040】
以上のような構造を有する脱酸塔1では、それぞれ9000、1000ppm程度まで濃縮されたクリプトン及びキセノンを含む液体酸素が、前段に設けられた濃縮塔(図示略)から配管L3を介して中央部付近に導入される。
【0041】
導入された液体酸素は、脱酸塔1の内部に設けられた棚段(又は充填材)1A及びリボイラー1Bによってクリプトン−キセノンと分離される。そして、クリプトン−キセノンよりも低沸点である酸素が脱酸塔1の塔頂部から回収される。
【0042】
一方、脱酸塔1の底部には、クリプトン(90〜95%)、キセノン(5〜10%)が濃縮された流体Lが溜まる。そして、塔底に接続された配管L4から上記流体Lを後段の分離塔(図示せず)に供給する。
【0043】
ところで、この脱酸塔1では、底部に溜まった流体Lの液面高さHを液面計2で測定し、この液面高さHを所定の範囲となるようにリボイラー1Bを制御している。リボイラー1Bを炊き上げることによって、底部に溜まった流体を蒸発させて脱酸塔1の精留に寄与する上昇ガスを発生させている。
【0044】
一般に、精留塔に設けられた液面計では、塔底に溜まった流体(塔底液ともいう)の液ヘッド(Δp)を測定し、前述の式(1)に示すように、流体の液ヘッド(Δp)と流体の液密度ρとから液面高さhを算出する方法が用いられている。
【0045】
ここで、脱酸塔1の塔底に粗クリプトン−キセノン液を濃縮する場合、従来の脱酸塔に設けられた液面計には、この脱酸塔が定常状態(定常運転時)、つまり塔底液が粗クリプトン−キセノン(クリプトン90〜95%、キセノン5〜10%)液となったときの液密度が用いられていた。
【0046】
しかしながら、脱酸塔1の起動時にはクリプトン、キセノンが濃縮された液体酸素がこの脱酸塔1内に導入され、塔底には液体酸素が貯液されることになる。すなわち、脱酸塔1の塔底に溜まる流体Lは、この脱酸塔1の起動時から定常運転時までその組成が順次変化していくため、上記流体Lの液密度はこの組成の変化に応じて変動することとなる。
【0047】
このため、本実施形態の液面計2は、脱酸塔1の底部に溜まる流体Lの液面高さHを算出するための演算を行う演算部(演算手段)5を備えている。
【0048】
演算部5は、例えばPLC(Programmable Logic Controller)などのプロセスコンピュータからなり、上記圧力計3及び温度計4と電気的に接続されている。そして、演算部5は、圧力計3及び温度計4から測定データが供給されると、内部に記録された演算プログラムに従って、液面高さHの測定を行なう。なお、演算部5は、上述した測定データ及び液面高さHの測定結果を、表示部6に表示したり、プリンタに出力したりすることもできる。
【0049】
以下、脱酸塔1において、本発明を適用した液面計2を用いて脱酸塔1の底部に溜まった流体Lの液面高さHを測定するための測定方法について、図2に示すフローチャートに従って説明する。
【0050】
本発明を適用した液面計2では、先ず、図2に示すステップS1に進み、脱酸塔1の塔底に溜まった流体Lの液ヘッド(Δp)を測定する。具体的には、例えば図1に示すように、脱酸塔1の下部液面より上方の気相部1aと、脱酸塔1の下端部1bとの間の差圧を圧力計3によって測定する。
【0051】
次に、液面計2では、図2に示すステップS2に進み、例えば図1に示すように温度計4を用いて脱酸塔1の底部に溜まった流体Lの温度(T)を測定する。
【0052】
次に、液面計2では、図2に示すステップS3に進み、上記ステップS2で測定した温度(T)から脱酸塔1の塔底に溜まった流体Lの液密度(ρ)を推算する。ここで、温度(T)に対する液密度(ρ)の推算値は、脱酸塔1の運転状態(運転圧力)における酸素とクリプトンとの混合物の沸点と、液密度との関係から推算する。また、上記運転状態における混合物の沸点と液密度との関係は、事前に調査及び測定した結果を予め演算部5に記憶(格納)しておく。
【0053】
脱酸塔1の起動から定常状態における酸素とクリプトンとの混合物の沸点と液密度との関係の一例を図3に示す。図3に示すように、液体酸素(点A)と液体クリプトン(点B)との沸点差は約30℃、液密度は約2倍程度異なっている。
【0054】
すなわち、脱酸塔1の起動時は、図3中の点Aに示すように、脱酸塔1の塔底に溜まる流体(塔底液ともいう)が液体酸素であり、その液密度は約1060kg/mである。その後、脱酸塔1内での精留により塔底液のクリプトン−キセノンの濃度が多くなる。そして、脱酸塔の起動が完了し装置が整定する(すなわち、定常運転となる)と、図3中の点Bに示すように、塔底液はクリプトン90〜95%、キセノン5〜10%となる。このように、上記点Aと点Bとを結ぶ曲線より、温度(T)から液密度(ρ)を推算することができる。
ここで、図3中の点Eと点Fは、空気分離装置/複式精留塔の低圧塔における起動時(液体空気)から定常状態(液体酸素)に至る液温度と液密度の関係を示したが、液密度の差は1.1倍程度であるので低圧塔の液面指示に及ぼす影響は少ない。
【0055】
なお、脱酸塔1の底部に溜まった流体Lには、実際は、酸素−クリプトン−キセノンとの三成分が含まれている。しかし、脱酸塔1の塔底液のキセノン組成は5〜10%程度であり、上記塔底液を、酸素とクリプトンとの二成分系としても、最終的な液面指示に及ぼす影響は少ない。
【0056】
次に、液面計2では、図2に示すステップS4に進み、上記液ヘッド(Δp)と上記液密度の推算値(ρ)とから、脱酸塔1の底部に溜まった流体Lの液面高さHを算出する。
【0057】
ここで、液面高さHは、下記式(2)により算出することができる。
H=(Δp)/(ρg) ・・・(2)
【0058】
以上のようにして、本発明を適用した液面計2を用いて脱酸塔1の底部に溜まった流体Lの液面高さHを測定することができる。
【0059】
ところで、脱酸塔等の精留塔に設けられる従来の液面計によれば、上記液ヘッド(Δp)、すなわち、精留塔の塔底に溜まった液体の液面より上方の気相部と、精留塔の下端部との間の差圧を測定する圧力計と、この圧力計の測定値と予め入力されている定常運転時の液密度とから液面高さを算出するための演算部とを備えた構成となっていた。
【0060】
しかしながら、上述したように精留塔の起動時から定常運転時までに塔底に溜まる流体の成分は定常運転時に想定される流体の成分と異なるため、演算部に予め入力されて液密度(入力値)と、実際の液密度(実測値)とは乖離していた。このため、従来の液面計では、精留塔の運転を開始してから定常運転状態となるまでの間は、精留塔の塔底に溜まっている流体の液面高さを正確に測定することができなかった。
【0061】
これに対して本実施形態の液面計2によれば、脱酸塔1の塔底に溜まった流体Lの温度を測定する温度計4を備え、演算部5には脱酸塔1の運転状態(運転圧力)における酸素とクリプトンとの混合物の沸点と、液密度との関係が記憶された構成となっている。このため、流体Lの温度を温度計4によって測定し、測定値を演算部5に入力することにより、流体Lの一部をサンプリングして実際に液密度を実測することなく、液密度を推算することができる。したがって、圧力計3の測定値と上記液密度の推算値とから液面高さHを測定することができる。
【0062】
このように、本実施形態の液面計2によれば、温度計4という簡単な構成を追加し、流体の温度を測定することにより、脱酸塔1の運転を開始してから定常運転状態となるまでの間であっても、この脱酸塔1の底部に溜まっている流体Lの液面高さHを正確に測定することができる。
【0063】
次に、上記液面計2を備えた本実施形態の脱酸塔1の運転方法について説明する。
具体的に、本実施形態の脱酸塔1の運転方法は、当該脱酸塔1の起動時から定常運転時まで、上述したように液面計2を用いて脱酸塔1の底部(塔底)に溜まった流体Lの液面高さHを所定の間隔で、すなわち、連続的又は間欠的に測定する。そして、得られた液面高さHの値に基づき、脱酸塔1内の液面高さHが所定の範囲となるように制御する。なお、液面高さHの制御は、脱酸塔1に設けた図示略の制御部に液面計2の演算部5からの測定結果を供給し、リボイラー1Bの出力を制御すること等により行なうことができる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態の液面計2及び液面高さHの測定方法によれば、脱酸塔1の底部に溜まった流体Lの液密度が変化する場合であっても、流体Lの温度を温度計4で測定することにより、サンプリングして実測することなく当該液体の実際の液密度を推算することができる。このため、製品として採取対象であるクリプトン及びキセノンの収率に影響することなく正しい液面高さHを測定することができる。
【0065】
本実施形態の脱酸塔1及びその運転方法によれば、起動時から定常運転時の間に当該脱酸塔1の底部に溜まった流体Lの組成(すなわち液密度)が変化する場合であっても、流体Lの温度を液面計2の温度計4で測定することにより正しい液面高さHを測定することができる。このため、脱酸塔1の底部の液面高さHをより高精度に制御することができる。
【0066】
なお、本発明は、上記実施形態のものに必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、本発明を適用した精留塔は、上記図1に示す脱酸塔1に必ずしも限定されるものではなく、例えば図7に示す分離塔などであってもよい。この場合も、液体クリプトン、液体キセノンの密度、飽和温度は大きく異なるので、本発明を採用することは有効である。
【0067】
本発明を適用した精留塔として、粗クリプトン−キセノン液(クリプトン90〜95%、残部キセノン)をクリプトンとキセノンとに分離する分離塔に適用した場合には、図4に示すように、分離塔の起動から定常状態におけるクリプトンとキセノンとの混合物の沸点と液密度との関係を事前に調査及び測定し、その結果を予め演算部5に記憶(格納)する。なお、図3と同様に点Eと点Fを示した。
【0068】
また、本発明を適用した液面高さの測定方法は、上記図2に示すフローチャートに必ずしも限定されるものではない。
例えば、図3に示した条件下では、脱酸塔1の塔底の液温度が120Kを超えると、物性推算により液温度変化に対する液密度の変化が小さくなる。この様な場合には、液密度を最終的な液密度、例えば図3における点Bの液密度或いは図4における点Dの液密度、と仮定しても液面指示への影響は少ない。また、図4に示す条件でも同様である。
【0069】
そこで、本発明を適用した液面高さの測定方法は、図5に示すように、精留塔の運転条件における液温度と液密度との関係において、物性推算により液温度変化に対する液密度の変化が小さくなる条件における液温度をT、最終的な液密度(脱酸塔では点B、分離塔では点Dにおける液密度)を設計密度ρとした上で、図6に示すフローチャートを適用しても良い。
【0070】
具体的には、この液面計では、図6に示すステップS1に進み、脱酸塔1の塔底に溜まった流体Lの液ヘッド(Δp)を測定する。次に、図6に示すステップS2に進み、脱酸塔1の底部(塔底)に溜まった流体Lの温度(T)を測定する。
【0071】
ここで、温度Tが上記Tよりも低い場合には、図6に示すステップS3に進み、上記ステップS2で測定した温度(T)から脱酸塔1の塔底に溜まった流体Lの液密度の推算値(ρ)を算出する。次に、図6に示すステップS5に進み、上記式(2)に示すように、上記液ヘッド(Δp)と上記液密度の推算値(ρ)とから、脱酸塔1の底部に溜まった流体Lの液面高さHを算出する。
【0072】
一方、温度Tが上記Tよりも高い場合には、図6に示すステップS4に進み、脱酸塔1の塔底に溜まった流体Lの液密度として上記設計密度ρを用いることとする。次に、図6に示すステップS5に進み、上記式(2)に示すように、上記液ヘッド(Δp)と上記設計密度ρとから、脱酸塔1の底部に溜まった流体Lの液面高さHを算出する。
【0073】
なお、上記図5に示す関係を複数の直線で近似しても、本発明の効果が得られる。
【0074】
また、本発明を適用した精留塔は、酸素−クリプトン、クリプトン−キセノンの分離する精留塔を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、精留塔が、クリプトン及びキセノンの少なくとも一方を含む酸素、窒素、アルゴン、合成ガス、二酸化炭素のいずれか1つの流体又は2以上の混合流体から、前記クリプトン及び前記キセノンの少なくとも一方を低温精留によって分離或いは濃縮する精留塔であっても良い。
【0075】
さらには、本発明では、技術的内容を明確に記述する為に、低温精留によって空気から微量成分であるクリプトン、キセノンを分離する場合を具体例としたが、本発明の効果はこの事例に特定されることはない。一般的な精留分離における精留塔の底部の液面高さを測定する液面計について効果がある。たとえば、
(1)装置の起動〜定常運転となるまでの間、或いは操業変更の前後によって精留塔底の液流体の飽和温度、密度が大きく異なる。
(2)対象成分が微量であり、製品収率の点から実際の成分分析測定は困難である。或いは、対象成分の分析自体が難しい(毒性/腐食性、高圧、高温、高粘性等)。
等の場合、特に効果が期待できる。
【0076】
以下、具体例を示す。
(実施例)
空気液化分離装置の脱酸塔に図1に示す構成と同様の液面計を設置した。表2に示すように、脱酸塔の塔底の液流体は、起動時には液体酸素(クリプトン9000ppm、キセノン1000ppm)であり、装置起動が完了した定常運転時には、液体クリプトン(95%、残キセノン)であった。本例では、液面計の液面高さを装置起動から常に液面を規定液面(45%)に設定して脱酸塔を運転した場合における、真の液面を示した。
【0077】
(比較例)
空気液化分離装置の脱酸塔に従来の液面計を設置した。表2に示すように、脱酸塔の塔底の液流体は、起動時には液体酸素(クリプトン9000ppm、キセノン1000ppm)であり、装置起動が完了した定常運転時には、液体クリプトン(95%、残キセノン)であった。本例では、液面計の液面高さを装置起動から常に液面を規定液面(45%)に設定して脱酸塔を運転した場合における、真の液面を示した。
【0078】
表2に示すように、比較例では、脱酸塔の起動時に塔底の真の液面は設定液面の約2.1倍(=2237/1063)となった。そして、脱酸塔の塔底液の酸素成分が減少してクリプトン成分が上昇するに従って、真の液面と設定値とが一致するが、長時間にわたって、実際の液面が指示値よりも大幅に高い状態が続き、適切な運転ができなかった。
【0079】
これに対して、本願発明を採用した実施例では、表2に示すように、起動時から真の液面を把握する事が容易となり、装置運転上の安全性が確保できることが確認できた。また、製品の収率への影響がないことも確認できた。
【0080】
【表2】

【符号の説明】
【0081】
1・・・脱酸塔(精留塔)
1A・・・棚段又は充填材
1B・・・リボイラー
1a・・・脱酸塔(精留塔)の下部液面より上方の気相部
1b・・・脱酸塔(精留塔)の下端部
2・・・液面計
3・・・圧力計(圧力測定手段)
4・・・温度計(温度測定手段)
5・・・演算部(演算手段)
6・・・表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の混合流体から1つの成分を低温精留によって分離或いは濃縮する精留塔に設けられ、前記精留塔の底部に溜まった流体の液面高さを測定するための液面計であって、
前記精留塔底部の液ヘッドを測定する圧力測定手段と、
前記精留塔の底部に溜まった流体の温度を測定する温度測定手段と、
前記液ヘッドと前記温度とから流体の液面高さを算出する演算手段と、を備えることを特徴とする液面計。
【請求項2】
前記精留塔が、クリプトン及びキセノンの少なくとも一方を含む酸素、窒素、アルゴン、合成ガス、二酸化炭素のいずれか1つの流体又は2以上の混合流体から、前記クリプトン及び前記キセノンの少なくとも一方を低温精留によって分離或いは濃縮する精留塔であることを特徴とする請求項1に記載の液面計。
【請求項3】
前記演算手段には、前記精留塔の運転圧力及び当該精留塔内の流体の組成における、前記流体の温度と液密度との関係が記憶されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液面計。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の液面計が設けられていることを特徴とする精留塔。
【請求項5】
2以上の混合流体から1つの成分を低温精留で分離或いは濃縮する精留塔において、前記精留塔の底部に溜まった流体の液面高さを測定するための方法であって、
精留塔底部の液ヘッドを測定するステップと、
精留塔の底部に溜まった流体の温度を測定するステップと、
測定された前記温度から、前記流体の液密度を計算するステップと、
前記液ヘッドと前記液密度とから、前記精留塔の底部に溜まった流体の液面高さを算出するステップと、を少なくとも備えることを特徴とする液面高さの測定方法。
【請求項6】
前記液ヘッドと前記液密度とから、前記精留塔の底部に溜まった流体の液面高さを算出するステップが、
前記精留塔の運転圧力及び当該精留塔内の流体の組成における、前記流体の温度と液密度との関係から算出することを特徴とする請求項5に記載の液面高さの測定方法。
【請求項7】
請求項4に記載の精留塔の運転方法であって、
精留塔の起動時から定常運転時まで、前記精留塔底部の液ヘッドと、前記精留塔の底部に溜まった流体の温度とを連続的又は間欠的に測定することにより、液面計の液面指示を補正することを特徴とする精留塔の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−7990(P2012−7990A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143779(P2010−143779)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】