説明

混合物の混合率計測方法

【課題】通常の方法では測定困難な条件下である、炉内に装入された原料の混合率の測定のような場合においても、混合物の混合率を計測可能な、混合物の混合率計測方法を提供すること。
【解決手段】放射率が異なる2種類の物質の各々の放射率の値と、前記放射率が異なる2種類の物質からなる混合物の放射率の値とを用いて、前記混合物の体積混合率を求めることを特徴とする混合物の混合率計測方法を用いる。放射率として、放射温度計で測定した放射温度計表示温度を用いめること、放射率が異なる2種類の物質からなる混合物の放射温度計表示温度と、前記混合物の実際の温度との差を用いて、混合物の体積混合率を求めること、混合物の実際の温度として、雰囲気温度を用いることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種類の物質からなる混合物の混合率を計測する方法に関し、特に高炉装入原料に好適に使用できる混合物の混合率計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
混合物の混合率を直接計測することは困難である。混合前に、混合するそれぞれの物質の質量測定を行うことが可能であれば問題ないが、混合後の混合物についての混合率を知りたい場合は、例えば篩い分けにより混合物を分離して、混合物質それぞれの質量測定を行う方法が一般的である。
【0003】
混合物の混合率を直接計測する方法として、磁気検出用素子で実測した出力電圧値を用いる方法などがあることは知られている。最近では、例えば、特許文献1においては、電磁気的性質の異なる複数種類の物質の混合物を、交流電流を印加した中空のコイルの内側に配置、またはコイルの軸方向に通過させて、コイルに発生する出力電圧を測定し、該出力電圧にもとづいて混合物中の物質の混合率を計測する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−155570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の方法では、電磁気的性質の異なる複数種類の物質の混合物を、交流電流を印加した中空のコイルの内側に配置、またはコイルの軸方向に通過させることが必要であり、工場内等の製造現場で用いる場合などは、装置の設置場所などが限定される可能性がある。
【0006】
また、特許文献1に記載の方法を、例えば高炉に装入する原料の混合率の計測に用いる場合、装入される原料中の物質の混合率を装入前に容易に求めることが可能となるが、装入後に炉内に堆積する時に、混合物質の一部が粒度差に起因して分離、偏析する現象が発生するため、装入後の炉内に堆積した後の原料の混合率を正確に測定したい場合もある。しかしこのような場合に特許文献1に記載の方法を適用することは困難である。また炉内測定に関しては、原料が装入された表面位置になんらかのセンサーを設置することも考えられるが、炉内に頻繁に原料が落下している状態では、装置の機械的強度が必要であり、さらに炉内は高温、高圧条件であり、装置の熱的強度も必要であることから、装置の耐久性等の観点からも、現実的ではない。
【0007】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、通常の方法では測定困難な条件下である、炉内に装入された原料の混合率の測定のような場合においても、混合物の混合率を計測可能な、混合物の混合率計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
(a)放射率が異なる2種類の物質の各々の放射率の値と、前記放射率が異なる2種類の物質からなる混合物の放射率の値とを用いて、前記混合物の体積混合率を求めることを特徴とする混合物の混合率計測方法。
(b)放射率として、放射温度計で測定した放射温度計表示温度を用いることを特徴とする(a)に記載の混合物の混合率計測方法。
(c)放射率が異なる2種類の物質からなる混合物の放射温度計表示温度と、前記混合物の実際の温度との差を用いて、前記混合物の体積混合率を求めることを特徴とする(b)に記載の混合物の混合率計測方法。
(d)混合物の実際の温度として、雰囲気温度を用いることを特徴とする(c)に記載の混合物の混合率計測方法。
(e)放射率が異なる2種類の物質のうちの一方の物質の放射温度計表示温度を基準温度として、該基準温度と前記放射率が異なる2種類の物質からなる混合物の放射温度計表示温度との温度差から、前記混合物の体積混合率を求めることを特徴とする(b)に記載の混合物の混合率計測方法。
(f)放射率が異なる2種類の物質のうちの一方の物質の放射率の値に放射温度計の放射率を設定することを特徴とする(b)ないし(e)のいずれかに記載の混合物の混合率計測方法。
(g)高炉内に装入された状態での原料の混合率を測定することを特徴とする(a)ないし(f)のいずれかに記載の混合物の混合率計測方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、混合物中の各物質の混合率を容易にかつ精度良く求めることができる。また混合率の計測を離れた位置から非接触で行うことができるので、計測に用いる測定装置のセンサー部分を測定場所に近づける操作をする必要がなく、高温、高圧下であっても混合物質の混合率を容易に求めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の効果を確認するための実験装置の概略図。
【図2】各条件における基準温度との温度差を示すグラフ。
【図3】各条件における混合率の比較を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明では物質の放射率の違いを用いて混合率を計測する。したがって、互いに放射率の異なる物質の混合物でなければ、各物質の混合率を計測することはできないことになる。本発明では互いに放射率の異なる「2種類」の固体物質からなる混合物における混合率の計測を対象としている。
【0012】
混合物の混合率は、混合物の放射率を求めることで算出する。混合物を構成するそれぞれの物質の放射率が分かっていれば、混合率に応じて混合物の平均放射率が変わるため、放射率が異なる2種類の物質からなる混合物の放射率の値を用いて、混合物の混合率を求めることができる。なお、放射率の測定は、光を用いて行われるため(例えば、以下に述べるように放射温度計を用いることができる。)、混合物の放射率は各々の物質の表面積に対応して測定されることになり、ここで求められる混合率は体積混合率となる。
【0013】
直接放射率を測定するのではなく、放射温度計を用いて測定した温度の値である、放射温度計表示温度を用いることで、体積混合率を求めることが好ましい。放射温度計を用いることで、容易に体積混合率を求めることができる。放射温度計は物体から放射される赤外線や可視光線の強度を測定して、物体の温度を測定する温度計であり、測定が高速に行えることと、非接触で測定可能な点が特徴である。混合率の測定には市販の放射温度計を用いればよく、放射率の設定機能付のものを用いることが、より好ましい。互いに放射率の異なる2種類の物質からなる混合物の放射率を求める代わりに、放射温度計によって測定した放射温度計表示温度を用い、例えば、単独物質での場合に測定した放射温度計表示温度を基準として、その基準温度との温度差から混合率を検出することができる。
【0014】
以下、放射温度計を用いて放射率が測定できる原理について説明する。放射温度計は、物質から放射される放射エネルギーを測定し、下記(1)式のステファン・ボルツマンの法則により温度を算出する非接触式の温度計である。
E=ε×σ×T4 ・・・(1)
但し、
E:放射エネルギー(W/m2
ε:放射率(−)
σ:ステファン・ボルツマン定数=5.67×10-8(W/m2/K4
T:温度(K)である。
【0015】
ここで放射率は、測定物体に関わる固有の定数で理想的な黒体を1、完全反射体を0で定義されるものであり、放射温度計で正確な温度を測定するためには、放射温度計で設定される放射率を測定する対象物質に応じて設定する必要がある。そのため、放射温度計の放射率設定を固定した状態で測定する対象物質を変更した場合には、放射温度計の放射率設定値と測定する対象物質の放射率が異なるため、測定温度(放射温度計表示温度)と実際の温度との間に温度差が生じる。例えば、放射温度計の放射率設定を固定したまま放射率が設定値より小さい物質を測定した場合には、実際の放射エネルギーが小さいため、放射温度計表示温度が実際の温度よりも低く測定される。逆に、放射温度計の放射率設定を固定したまま放射率が設定値より大きい物質を測定した場合には、実際の放射エネルギーが大きいため、放射温度計表示温度が実際の温度よりも高く測定される。つまり、放射率の差の分だけ、実際の温度と放射温度計表示温度との間に差が生じることになる。
【0016】
上記の原理を利用することで、混合物質の混合率を計測することができる。すなわち、互いに放射率の異なる2種類の物質は、混合率に応じて混合物の平均放射率が変わるため、放射温度計によって測定された放射温度計表示温度と実際の温度(基準温度)との温度差によって混合物の混合率が算出可能となる。このとき、同様の方法であらかじめ基準温度との温度差に関する検量線を作成しておくことで、測定された温度差から容易に各物質の体積混合率を求めることができる。
【0017】
混合物の実際の温度は、放射温度計以外の方法で別途測定可能であればその値を用いればよいが、通常は雰囲気温度を用いれば良い。
【0018】
また、放射率が異なる2種類の物質のうちの一方の物質の放射温度計表示温度を基準温度として、基準温度と2種類の物質からなる混合物の放射温度計表示温度との温度差から、混合物の体積混合率を求めることもできる。
【0019】
放射温度計が放射率の設定機能を有する場合は、放射率が異なる2種類の物質のうちの一方の物質の放射率の値に放射温度計の放射率を設定することが好ましい。放射率を設定した方の物質単独で測定した放射温度計表示温度は実際の温度であり、この温度を基準温度とすればよい。
【0020】
2種類の物質の放射率の差は、大きいほど混合率の測定精度が向上するが、放射率は温度によって変化するため、放射率に少しでも差があれば、測定条件を変化させることで混合物の混合率の精度を向上させて計測可能である。高温で測定するほど放射率の違いによる放射温度計での測定温度の差が大きくなるので、室温を超える温度で放射温度計により混合物の温度を計測することが好ましい。放射率の差が10%以下の場合は10℃以上、放射率の差が5%以下の場合は20℃以上で放射温度計により混合物の温度を計測することが好ましい。放射率の差が非常に小さい(例えば1%以下)場合は、高温(100℃以上)で測定することが好ましい。
【0021】
上記において、2種類の物質の粒径の差は小さいほど計測精度が向上するので好ましい。混合物中の2種類の物質の粒径の差が大きい場合は、篩い分け等を用いて2種類の物質を分離して混合率を求めることも可能である場合があるが、本発明を用いれば、篩い分けの困難である粒径の差が小さい場合ほど、混合物の各物質の混合率を、より精度よく計測できることになる。一方で、計測精度の向上のためには、放射温度計の測定視野に対して、混合する2種類の物質の粒径は小さいほど好ましい。
【0022】
本発明は、高炉内に装入された原料の混合率の測定に用いることが好ましい。高炉内に装入された状態の原料の混合率は、従来技術では測定困難であるが、例えば、焼結鉱は放射率が高い物質であり、コークスは放射率が低い物質であるので、これらを混合して使用する高炉装入原料は、放射率の異なる2種類の物質からなる混合物であり、本発明が適用可能である。例えば、放射温度計の放射率設定値を焼結鉱の放射率として、混合率を測定する場合、焼結鉱と、焼結鉱に比較して放射率の低いコークスとを混合した物質の温度をそのまま測定すると測定温度に温度差が生じることから、その温度差から上記(1)式を用いて平均放射率を算出することで混合物の体積混合率を算出することができる。高炉炉頂では暗視カメラで炉内状況を観察していることから、その近辺に放射温度計を設置し、炉内堆積面における温度測定をおこない、これにより混合率の測定を行うことが好ましい。
【実施例1】
【0023】
本発明方法を用いて混合物の混合率の計測を行った。放射率の異なる2種類の物質として、本実施例においては高炉装入原料として使用されている焼結鉱とコークスとを使用した。図1に計測に用いた実験装置を示す。加熱器1上に設置された耐熱性の容器2中に焼結鉱とコークスとの混合物3を装入し、加熱器1により混合物をある一定温度(70℃)に保持した状態で放射温度計4を用いて温度測定を行った。図1中の矢印は放射温度計4の測定方向を示す。測定距離は100mmとした。混合物3の実際の温度は温度計5で測定した。焼結鉱とコークスとの混合物3の粒子径は2.0〜2.8mmであった。
【0024】
放射温度計4は放射率設定機能を有するものであり、放射率設定値は0.95として焼結鉱単体(焼結鉱100体積%、すなわちコークス0体積%)の場合を基準温度とし、焼結鉱単体での放射温度計4と温度計5との測定温度はどちらも70℃であった。焼結鉱とコークスとの混合率を変更した混合物を準備して、それぞれの混合物について同様に放射温度計4を用いて温度測定を行った。混合物では基準温度よりも低い温度で測定された。各コークス混合率の混合物について、放射温度計4での測定温度(放射温度計表示温度)と、基準温度(焼結鉱100体積%の温度)との温度差を図2に示す。なお、図2の横軸は、各水準で設定したコークス混合率(体積%)を表している。
【0025】
この温度差を用いて、あらかじめ作成された検量線からコークスの体積混合率を、コークス(計測)混合率として算出した。検量線は、事前に所定の混合率の混合物の温度差をオフラインで数点測定して作成した。検量線は上記(1)式と、焼結鉱とコークスの放射率を使用して作成することもできる。
【0026】
実際の混合率である、各水準で設定したコークス(設定)混合率と、上記の温度差から求めた計測値であるコークス(計測)混合率との比較を図3に示す。設定値と計測値はほぼ一致しており、本発明方法が混合物の混合率計測方法として有効であることが確認された。
【符号の説明】
【0027】
1 加熱器
2 容器
3 混合物
4 放射温度計
5 温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射率が異なる2種類の物質の各々の放射率の値と、前記放射率が異なる2種類の物質からなる混合物の放射率の値とを用いて、前記混合物の体積混合率を求めることを特徴とする混合物の混合率計測方法。
【請求項2】
放射率として、放射温度計で測定した放射温度計表示温度を用いることを特徴とする請求項1に記載の混合物の混合率計測方法。
【請求項3】
放射率が異なる2種類の物質からなる混合物の放射温度計表示温度と、前記混合物の実際の温度との差を用いて、前記混合物の体積混合率を求めることを特徴とする請求項2に記載の混合物の混合率計測方法。
【請求項4】
混合物の実際の温度として、雰囲気温度を用いることを特徴とする請求項3に記載の混合物の混合率計測方法。
【請求項5】
放射率が異なる2種類の物質のうちの一方の物質の放射温度計表示温度を基準温度として、該基準温度と前記放射率が異なる2種類の物質からなる混合物の放射温度計表示温度との温度差から、前記混合物の体積混合率を求めることを特徴とする請求項2に記載の混合物の混合率計測方法。
【請求項6】
放射率が異なる2種類の物質のうちの一方の物質の放射率の値に放射温度計の放射率を設定することを特徴とする請求項2ないし請求項5のいずれかに記載の混合物の混合率計測方法。
【請求項7】
高炉内に装入された状態での原料の混合率を測定することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の混合物の混合率計測方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−106933(P2011−106933A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261426(P2009−261426)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】