説明

混練装置およびそれを用いた樹脂製造方法

【課題】被混練物の分散サイズを迅速かつ容易に微小化することができる混練装置およびそれを用いた樹脂製造方法を提供する。
【解決手段】混練装置1は、軸状のスクリュー部本体と、スクリュー部本体の外周に設けられたスクリュー3bと、スクリュー部本体のスクリュー部本体先端面3dに形成された開口3gからスクリュー部本体側面3aに形成された開口3hまで貫通するように設けられた軸方向孔3fおよび径方向孔3eとを有するスクリュー部3A、3Bと、スクリュー部3A、3Bを回転させる回転駆動部4A、4Bと、スクリュー部3A、3Bの各側面の一部およびスクリュー部本体先端面3dを囲繞するとともに、スクリュー部3A、3Bの側面が隣接されるように収容するシリンダ部2と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被混練物を循環させて混練を行う混練装置およびそれを用いた樹脂製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2種以上の樹脂の溶融混練、もしくは樹脂と粉末との溶融混練において、分散サイズがナノレベルとなるような高分散を達成するために、内部帰還型スクリューを有する混練装置が用いられている。
このような混練装置として、例えば、特許文献1には、スクリューによって高分子ブレンド試料を溶融状態で混練する際のスクリュー回転数を50rpm〜3000rpmの範囲で任意に設定可能であり、スクリューを内部帰還型スクリューの採用により、混練の度合いを任意に制御可能にするとともに、混練の度合いを、押し出し先端部とスクリューとのギャップ、ならびに内部帰還型スクリューの空洞部内径により任意に設定可能にするようにしたことを特徴とする微量型高剪断成形加工機が記載されている。この微量型高剪断成形加工機のスクリューは単軸である。
また、混練装置には、スクリューを囲繞するシリンダ側に帰還管路を設けた外部帰還型の装置も知られている。このような外部帰還型の混練装置として、特許文献2には、シリンダを構成するハウジング内に2本の螺旋スクリューが配され、螺旋スクリューにより上流側から混練されつつ搬送された被混練物を下流側から上流側に帰還させる帰還管路がハウジングに設けられたミキサーが記載されている。このミキサーでは、帰還管路にセンサが配置され、このセンサによって混練におけるレオロジー的な品質を測定しながら混練を行うことができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−313608号公報
【特許文献2】米国特許第6129450号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来の混練装置には、以下のような問題があった。
特許文献1に記載の技術では、それぞれ平面からなる押し出し先端部とスクリューの先端とのギャップ、およびスクリューの空洞部内径を調整することで、これらギャップ部およびスクリューの空洞部を流れる被混練物に高せん断がかかるようにすることで、分散サイズが小さい高分散の混練が達成できるとしているが、近年、高分子材料の機能向上の要求が高まっているため、より混練しにくい材料同士をナノレベルの分散サイズとなるように混練することが求められている。
このような混練しにくい材料に対して、特許文献1に記載の技術では、必要なギャップ部の寸法や空洞部の内径を小さくすることで対応するため、流路が狭くなって混練可能な量が低下し混練に長時間を要する。そのため、被混練物に長時間の熱負荷がかかり、被混練物の機械特性の劣化や変色などを来すおそれがあるという問題がある。
特許文献2に記載の技術では、ハウジング内の帰還管路に配置されたセンサによって混練におけるレオロジー的な品質を測定しながら混練を行うため、被混練物が劣化しないように混練を行うことができる。しかしながら、帰還管路をハウジングに設けたり、螺旋スクリューを2軸設けたりすることによって、従来、充分小さな分散サイズに混練できなかった材料がより小さな分散サイズに混練できるようになるわけではないという問題がある。
【0005】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、被混練物の分散サイズを迅速かつ容易に微小化することができる混練装置およびそれを用いた樹脂製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の混練装置は、軸状のスクリュー部本体と、該スクリュー部本体の外周に設けられたスクリューと、前記スクリュー部本体の先端に形成された先端開口から前記スクリュー部本体の側面に形成された側面開口まで貫通するように設けられた内部流路とを有する複数本のスクリュー部と、該複数本のスクリュー部を回転させる回転駆動部と、前記複数本のスクリュー部の各側面の一部および各先端を囲繞するとともに、前記複数本のスクリュー部のそれぞれが、前記複数本のスクリュー部のうちの他のいずれかのスクリュー部の側面に隣接されるように収容するシリンダ部と、を備える構成とする。
【0007】
本発明の混練装置では、互いに隣接する前記スクリュー部にそれぞれ形成された前記側面開口は、前記回転駆動部によって回転されたときに、少なくとも一部分が対向可能な位置関係に設けられたことが好ましい。
【0008】
本発明の樹脂製造方法は、本発明の混練装置を用いて、樹脂を含む被混練物の混練を行って混練樹脂を製造する方法とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の混練装置によれば、シリンダ部内に投入された被混練物がスクリュー部の側面に沿って先端側に送られ、先端開口から内部流路を通って側面開口に帰還することによって、隣接するスクリュー部の間における被混練物の圧力が高まるため、被混練物の分散サイズを迅速かつ容易に微小化することができるという効果を奏する。
本発明の樹脂製造方法によれば、本発明の混練装置を用いて分散サイズが小さい樹脂混練物を製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る混練装置の概略構成を示す模式的な斜視図である。
【図2】本発明の実施形態の混練装置に用いるスクリュー部の正面図、そのC−C断面図、およびそのD視の側面図である。
【図3】図1におけるA−A断面図である。
【図4】図1におけるB−B断面図である。
【図5】図3におけるE−E断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る混練装置の動作を説明する動作説明図である。
【図7】本発明の実施形態の第1変形例に係る混練装置の主要部の構成を模式的に示す断面図である。
【図8】本発明の実施形態の第2変形例に係る混練装置の主要部の構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では本発明の実施形態に係る混練装置について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る混練装置の概略構成を示す模式的な斜視図である。図2(a)は、本発明の実施形態の混練装置に用いるスクリュー部の正面図である。図2(b)は、図2(a)におけるC−C断面図である。図2(c)は、図2(a)におけるD視の側面図である。図3は、図1におけるA−A断面図である。図4は、図1におけるB−B断面図である。図5は、図3におけるE−E断面図である。
なお、各図面は模式図であり、各部材の形状や寸法は見易さのために誇張されている(以下の図面も同様)。
【0012】
本実施形態の混練装置1は、図1に示すように、2種以上の熱可塑性樹脂、もしくは1種以上の熱可塑性樹脂に分散させる粉末粒子や添加物などから構成される被混練物Mを、後述する分散サイズがナノメートルオーダーの微小サイズになるように混練して、混練樹脂mを製造するための装置である。
混練装置1の概略構成は、スクリュー部3A、3B、シリンダ部2、および回転駆動部4A、4Bからなる。
【0013】
被混練物Mの熱可塑性樹脂としては熱可塑性樹脂であれば特に種類は限定されない。例えば、ポリエチレン(低密度・高密度・直鎖状低密度・超高分子量)、アイオノマー樹脂(例えばエチレン−メタクリル酸コポリマーアイオノマー樹脂等)、ポリプロピレン(ホモ・ランダム・ブロック・アタクチック・シンジオタクチック)、超高分子量ポリプロピレン、ポリブテン、4−メチルペンテン−1ポリマー、環状ポリオレフィン系樹脂、スチレン系樹脂(ポリスチレン、プタジェン−スチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂など)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、酢酸セルロース、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート等)、ポリアミド系樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性エラストマー、生分解性ポリマー、およびその共重合体などが挙げられる。
【0014】
また、混練する粉末粒子としては、熱可塑性樹脂と複合化できる材料であれば特に限定されるものではなく、例えば無機物では硫酸バリウム・炭酸カルシウムなどの金属無機塩、アルミナなどの金属酸化物、窒化ホウ素などの窒素化合物、粉末炭素・針状炭素・カーボンナノチューブ・フラーレンなどの単一物もしくは複合物、有機物ではフッ素樹脂粉末・超高分子量粉末・ポリイミド粉末などを用いてもよい。無機粒子と有機粒子の混合粒子であっても構わない。また、上記粉末粒子の添加量についても、熱可塑性樹脂と複合化できる量であれば特に限定されるものではない。なお、使用する粉末粒子は単独であっても、二種以上の混合であってもよい。
また、熱可塑性樹脂に加える添加物としては、例えば、相溶化剤、結晶核剤、着色防止剤、酸化防止剤、離型剤、可塑剤、熱安定剤、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤などの添加剤を挙げることができる。
【0015】
スクリュー部3A、3Bは、図1に示すように、軸方向が平行に揃えられて主要部がシリンダ部2の内部に収容された軸状部材であり、本実施形態では、図2(a)、(b)、(c)に示すようにそれぞれ同様な形状を有する。
スクリュー部3A(3B)は、略円柱軸状のスクリュー部本体3cの一方の端部(図2(a)の図示左側)には、スクリュー部本体3cの中心軸に直交する平面からなるスクリュー部本体先端面3d(スクリュー部の先端)が設けられ、他方の端部には、スクリュー部本体3cと同軸とされ、スクリュー部本体3cに回転駆動部4A(4B)からの回転駆動力を伝達する回転軸3iが設けられている。
スクリュー部本体3cの径方向の側面には、スクリュー部本体先端面3d側から軸方向のやや回転軸3i寄りの中間部に向かって、外径が漸減してわずかに縮径され、回転軸3i側に向かって拡径された鼓状のスクリュー部本体側面3a(スクリュー部の側面)と、このスクリュー部本体側面3aから径方向外方に螺旋状に突出されたスクリュー3b(スクリュー部の側面)とが形成されている。
スクリュー3bは、径方向の先端が直径Dの円筒面に整列されている。スクリュー3bの直径Dは、後述するシリンダ筒部2aのシリンダ内側面2bの円筒面の内径よりわずかに小さく設定されている
また、スクリュー3bの旋回方向は、図示では一例として、スクリュー部3A(3B)を回転軸3i側から見たとき時計回りに回転するにつれてスクリュー部3A(3B)の先端側に向かう方向に設定されている。
【0016】
スクリュー部本体3cの内部には、図2(b)に示すように、スクリュー部本体側面3aが最小径となる位置の近傍で、径方向に貫通する直径Dの径方向孔3eと、スクリュー部本体先端面3dの中心からスクリュー部本体3cの中心軸に沿って延ばされ、径方向孔3eの一方の側面に貫通された直径Dの軸方向孔3fとが設けられている。
これら径方向孔3eと軸方向孔3fとによって、スクリュー部本体3c内でT字状の流路が形成されている。そして、スクリュー部本体側面3aには、径方向孔3eの両端部が交差して開口3h(側面開口)が形成され、スクリュー部本体先端面3dには、軸方向孔3fの端部が交差して開口3g(先端開口)が形成されている。
このため、径方向孔3eおよび軸方向孔3fは、スクリュー部本体の先端に形成された先端開口からスクリュー部本体の側面に形成された側面開口まで貫通するように設けられた内部流路を構成している。
【0017】
シリンダ部2は、図3、4、5に示すように、スクリュー部3A、3Bを、各スクリュー部本体先端面3dの位置を揃えて平行に並べ、スクリュー部3A、3Bの側面が互いに隣接するように収容する部材であり、外形が直方体状のシリンダ筒部2aと、シリンダ筒部2aの一方の端部を覆うシリンダ蓋部2cとからなる。
【0018】
シリンダ筒部2aの内部には、スクリュー3bの外径Dよりわずかに大きい直径Dの円筒穴が交わってできるメガネ状の断面がスクリュー部本体3cの長さ以上に延ばされたシリンダ内側面2bを有する穴部が形成されている(図5参照)。
シリンダ内側面2bの一方の端部側は、シリンダ蓋部2cによって密閉されている。これにより、シリンダ内側面2bの一方の端部は、シリンダ内側面2bの延設方向に直交する平面であるシリンダ内底面2dによって閉じられている。
【0019】
また、シリンダ内側面2bの他方の端部側には、スクリュー部3A、3Bの回転軸3iを回転可能に支持する2つの軸受5を取り付ける軸受取付部2fが設けられている。
シリンダ筒部2aの側面には、被混練物Mを構成する材料を装置外部から投入し、シリンダ筒部2a内に導入するホッパ6が設けられている(図1、4参照)。
ホッパ6の位置は、シリンダ部2の内部に配置されたスクリュー部3A、3Bが隣接する位置であって、スクリュー部3A、3Bのスクリュー部本体側面3aが最小径となる位置の近傍に設けられている。
【0020】
またシリンダ蓋部2cには、シリンダ蓋部2cをシリンダ筒部2aと固定した状態で混練が完了した混練樹脂mを装置外部に排出するため、シリンダ内底面2dと装置外部とを連通可能とする排出流路2eが設けられている。
排出流路2eには、不図示の逆止弁機構が設けられており、混練中はシリンダ内底面2dの開口を閉止することができるようになっている。
【0021】
また、特に図示しないが、シリンダ部2のシリンダ筒部2aには、シリンダ部2の温度を予め設定された混練機温度Tに温度制御する温度制御機構が設けられていてもよい。このような温度制御機構としては、例えば、水冷管路および加熱ヒータが、シリンダ筒部2aの内部に埋め込まれた構成を採用することができる。
【0022】
回転駆動部4A(4B)は、適宜のモータおよび伝動機構からなり、スクリュー部3A(3B)の回転軸3iに回転駆動力を伝達するものである。回転駆動部4A(4B)の回転速度は、被混練物Mの種類に応じて、例えば、50rpm〜5000rpm程度の範囲に設定できることが好ましい。
【0023】
スクリュー部3A、3Bは、それぞれ、各スクリュー部本体3cをシリンダ内側面2bのそれぞれの円筒面と同軸に内挿し、各スクリュー部本体先端面3dがシリンダ内底面2dから距離dだけ離間して対向した状態にアライメント調整されてから、混練中にこの位置を保持しつつ回転軸3i回りに回転できるように、軸受5を介してシリンダ筒部2aに固定されている。
【0024】
このため、スクリュー部本体側面3aおよびスクリュー3bからなるスクリュー部3の側面の一部は、それぞれシリンダ内側面2bによって囲繞されている。このため、シリンダ内側面2bとの間にホッパ(試料投入部)6から投入された被混練物Mが軸方向の先端に向かって移動可能な流路Pが形成されている。
スクリュー3bの外径Dは、スクリュー部本体側面3aの外径より大きく、シリンダ内側面2bの円筒部の内径Dよりわずかに小さい寸法とされているため、スクリュー3bの外径を乗り越えて軸方向に向かう流れは発生しにくくなっている。
【0025】
一方、シリンダ内側面2bにおいて、各円筒面が交差する位置では、図5に示すように、スクリュー部3A、3Bの配列方向(軸方向に直交する方向)に開口する開口2gが円筒面の軸方向にわたって形成されている。このため、スクリュー部3A、3Bの側面は、開口2gの範囲において、互いに隣接されている。
このため、開口2gでは、スクリュー部3A、3Bの側面同士の間に被混練物Mが軸方向の先端に向かって移動可能な流路Pが形成されている。
【0026】
また、各スクリュー部本体先端面3dとシリンダ内底面2dとの間には、流路P、Pを通って先端に搬送された被混練物Mが隙間dを通して各開口3gに向かう流路Pが形成されている。
【0027】
次に、本実施形態の樹脂製造方法を混練装置1の動作とともに説明する。
図6は、本発明の実施形態に係る混練装置の動作を説明する動作説明図である。
【0028】
まず、シリンダ部2を一定の混練機温度Tに加熱しておき、ホッパ6に一定量の被混練物Mを順次投入していく。
そして、回転駆動部4A、4Bによって、スクリュー部3A、3Bを図3、5の矢印方向に回転させる。すなわち、回転軸3i側から見たときに、スクリュー部3Aは反時計回りに、またスクリュー部3Bは時計回りに回転させる。これにより、被混練物Mは、スクリュー3bによってスクリュー部3の先端側に螺旋状に押し出されていき、せん断や摩擦によって発生する熱によって溶融され、流路P内で混練されつつ、スクリュー部3の先端側に搬送されていく。
流路Pは、先端側に向かうにつれて徐々に流路断面積が低下するため、被混練物Mにかかるせん断力も徐々に増大していく。
また、流路Pでも同様に、被混練物Mが先端側に搬送されていく。
【0029】
被混練物Mがスクリュー部3A、3Bの先端に到達すると、シリンダ内底面2dに沿って径方向内側に流動方向が変化し、シリンダ内底面2dと各スクリュー部本体先端面3dとの間の流路P内に押し出される。
このとき、スクリュー部3A、3Bは回転し続けているので、被混練物Mは、回転方向にせん断力を受けつつ各開口3gに向かう螺旋渦状に搬送されていく。
【0030】
各開口3gに到達した被混練物Mは、各軸方向孔3fに流入してそれぞれ径方向孔3e側に流れ、各径方向孔3eに到達すると、各径方向孔3eの流路に沿って径方向の両外側に分岐され、各開口3hから径方向外側に高速で噴出され、流路P、Pに流入する。そして、上記と同様の混練が繰り返される。
このようにして一定時間混練を行うことにより、被混練物Mの分散サイズが均一化される。このようにして混練が終了した混練樹脂mは排出流路2eから装置外部に取り出す。
【0031】
このような混練の工程において、各開口3hからスクリュー部3A、3Bの側面に噴出される被混練物Mは、流路Pでは、滑らかな円筒面であるシリンダ内側面2bに向かって一方的に噴出される。
これに対して、流路Pでは、スクリュー部3A、3Bの両方の開口3hから噴出を受けるため、開口3hの通過する範囲では、流路Pに比べて被混練物Mの圧力分布が平均的に高くなる。このため、流路Pに比べて効率よくせん断される。
この結果、効率よく混練を行うことができる。したがって、混練しにくい材料同士であっても、被混練物Mの分散サイズを低減することができる。
また、従来混練可能な材料であれば、より短時間で混練を完了することができ、混練時の発熱などによる被混練物Mの劣化を抑制することができる。
【0032】
また、流路Pでは、スクリュー部3A(3B)の開口3hからはスクリュー部3B(3A)の回転するスクリュー3bに向かって噴出される。このため、噴出された被混練物Mは2つのスクリュー3bの相対運動によっても流路Pに比べてより激しいせん断を受ける。
【0033】
また、本実施形態では、スクリュー部3A、3Bの各開口3hの軸方向の位置が揃えられており、図6に示すように、スクリュー部3A、3Bの回転中に、流路Pにおいて、各開口3h同士が対向するタイミングが周期的に現れる。このような各開口3hが対向するタイミングでは、開口3h付近において被混練物Mの圧力分布がより高くなり、より効率的なせん断が起こる。
【0034】
以上に説明したように、本実施形態の混練装置1および混練装置1を用いた樹脂製造方法では、シリンダ部2内に投入された被混練物Mがスクリュー部3A、3Bの側面に沿って先端側に送られ、開口3gから内部流路を通って開口3hに帰還することによって、隣接するスクリュー部3A、3Bの間の流路Pにおける被混練物Mの圧力が高まるため、被混練物Mの分散サイズを迅速かつ容易に微小化することができる。
【0035】
次に、混練装置1による混練時間の短縮および分散サイズ低減の効果について、具体的な実施例1および比較例1〜4に基づいて説明する。
被混練物Mは、実施例1、比較例1〜4に共通で、ポリカーボネート(PC)(MFR=60g/10min(300℃))と環状ポリオレフィン系樹脂(COP)(MFR=25g/10min(280℃))を質量比80対20の割合で混合したものを採用した。ここで、MFRは、メルトマスフローレイトを意味し、JIS K 7210によって測定される量である。
これらの樹脂は混練することが難しい樹脂として知られている。PCとCOPとは、単品ではいずれも透明であるが、充分小さな分散サイズまで混練されないと透明性が失われてしまい、光学用途には使用できなくなってしまう。
混練装置1において、スクリュー3bの外径Dは28mm、スクリュー部本体先端面3dの径は25.5mm、シリンダ部2の混練機温度Tは280℃、スクリュー部3A、3Bの回転速度は3000rpm、回転方向は異方向とした。
軸方向孔3fの内径Dは2.5mm、径方向孔3eの内径Dは5mmとした。
【0036】
一方、比較例1、2に用いた混練装置は、スクリュー部が単軸、かつ、帰還経路がスクリュー部の内部に設けられた内部帰還型の装置を用いた。具体的には、円筒状のシリンダ部に、実施例と同外径を有し、実施例と同様の内部流路を帰還経路として有するスクリュー部3Aを1本収容した混練装置である。
また、比較例3、4に用いた混練装置は、スクリュー部が2軸、かつ、帰還経路がシリンダ部の内部に設けられた外部帰還型の装置を用いた。具体的には、混練装置1のスクリュー部3A、3Bからそれぞれ径方向孔3e、軸方向孔3fを削除した2本のスクリュー部を備え、シリンダ部2の内部に、先端側の流路Pと、流路Pの回転軸側とを連通させる流路を帰還経路として設けた混練装置である。
【0037】
混練時間は、実施例1、比較例1、3では、20secとし、比較例2、4では、60secとした。
【0038】
評価としては、それぞれ混練が終了した被混練物Mの分散サイズの評価と、被混練物Mの透明性を目視評価した。
分散サイズの測定は以下のようにして行った。
まず、混練が終了した被混練物Mから押出機によって100mm×100mm×1mmのシートを作成した。作成されたシートから10mm×10mmのサンプルを切り出し、走査型電子顕微鏡(SEM)および透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて分散状態を確認した。
二成分以上の材料のブレンド系では、マトリックスと呼ばれる基本相とドメインと呼ばれる分散相に分かれており、本評価においては分散相のサイズを計測した。
分散相の粒径の最大の部分を分散相粒径とし、分散相粒径の平均値μ、標準偏差σを画像解析により抽出し、分散相粒径の平均値μを分散サイズとした。
【0039】
実施例1、比較例1〜5の評価結果を下記の表1に示す。総合評価は、光学用途に用いることができるかどうかを判定し、○は合格、×は不合格を示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1に示すように、実施例1では、分散サイズは30nm〜80nmであった。また、得られた樹脂は透明であった。したがって、きわめて良好に混練されていることが分かる。総合評価としては合格であった。
このように混練装置1によれば、混練しにくいPCとCOPとを短時間で混練することができる。また特に実施例を挙げないが、他の質量比でも同様にして透明樹脂が得られる。このため、例えば、屈折率などの光学特性がPCおよびCOPのいずれとも異なる透明樹脂を容易に製造することができる。
【0042】
一方、単軸かつ内部帰還型の混練装置を用いた比較例1、2では、混練時間が20secでも3倍の60secでも、分散サイズは変わらず140nmであり、実施例1の分散サイズに比べて格段に大きかった。また得られた樹脂は目視で容易に白色不透明と判定できるものであった。このため総合評価としても不合格であった。
このように、比較例1、2に用いた混練装置では、混練時間を増しても、実施例1のような微小な分散サイズまで混練することはできなかった。
したがって、実施例1では、混練装置のスクリュー部を隣接させることによって、混練効率が格段に向上していることが分かる。
【0043】
また、2軸かつ外部帰還型の混練装置を用いた比較例3、4では、混練時間が20secでも3倍の60secでも、分散サイズは変わらず500nm〜700nmであり、比較例1、2の3.6倍〜5倍も大きく、このため、得られた樹脂は白色不透明であった。このため総合評価としても不合格であった。
このように、比較例3、4に用いた混練装置では、混練時間を増しても、実施例1のような微小な分散サイズまで混練することはできず、比較例1、2に比べても劣る結果になった。
比較例3、4と実施例1との差は、混練装置が外部帰還型か内部帰還型かの差である。したがって、外部帰還型の混練装置では、スクリュー部を隣接させても、単軸の内部帰還型の混練装置にも劣る混練しか行えないことが分かる。
【0044】
[第1変形例]
次に、本実施形態の第1変形例について説明する。
図7は、本発明の実施形態の第1変形例に係る混練装置の主要部の構成を模式的に示す断面図である。
【0045】
本実施形態の第1変形例の混練装置10は、図7に主要部の断面を示すように、上記第1の実施形態のスクリュー部3A、3Bと同様の構成を有し、不図示の回転駆動部によって回転されるスクリュー部3Cを追加した3軸構成とし、これに合わせて、上記第1の実施形態のシリンダ部2に代えて、これら3本のスクリュー部の中心軸が正三角形をなすように収容するシリンダ部11を備えたものである。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
シリンダ部11のシリンダ内側面11aは、スクリュー部3A、3B、3Cの側面の略3分の2を覆う円筒面状に形成される。
【0046】
このような構成によれば、スクリュー部3A、3Bの側面の隣接箇所と、スクリュー部3B、3Cの側面の隣接箇所と、スクリュー部3C、3Aの側面の隣接箇所との3箇所に、上記第1の実施形態と同様な流路Pが形成される。また、シリンダ部11の中心部には、スクリュー部3A、3B、3Cの各側面で囲まれた流路Pが形成される。
【0047】
本変形例によれば、スクリュー部3A、3B、3Cを同方向に回転させて混練を行うことによって、上記第1の実施形態と同様に流路Pにおいて被混練物Mが高せん断を受ける。このため上記第1の実施形態の流路Pの3倍の箇所で被混練物Mが高せん断を受けるため、混練の効率をさらに向上することができる。
【0048】
[第2変形例]
次に、本実施形態の第2変形例について説明する。
図8は、本発明の実施形態の第2変形例に係る混練装置の主要部の構成を模式的に示す断面図である。
【0049】
本実施形態の第2変形例の混練装置12は、図8に主要部の断面を示すように、上記第1の実施形態のスクリュー部3A、3Bと同余の構成を有し、不図示の回転駆動部によって回転されるスクリュー部3C、3D追加した4軸構成とし、これに合わせて、上記第1の実施形態のシリンダ部2に代えて、これら4本のスクリュー部の中心軸が正方形をなすように収容するシリンダ部13を備えたものである。以下、上記第1の実施形態と異なる点を中心に説明する。
シリンダ部13のシリンダ内側面13aは、スクリュー部3A、3B、3C、3Dの側面の略4分の3を覆う円筒面状に形成される。
【0050】
このような構成によれば、スクリュー部3A、3Bの側面の隣接箇所と、スクリュー部3B、3Cの側面の隣接箇所と、スクリュー部3C、3Dの側面の隣接箇所と、スクリュー部3D、3Aの側面の隣接箇所との4箇所に、上記第1の実施形態と同様な流路Pが形成される。また、シリンダ部13の中心部には、スクリュー部3A、3B、3C、3Dの各側面で囲まれた流路Pが形成される。
流路Pは、対角方向にそれぞれ隣接して配置されたスクリュー部3Aおよびスクリュー部3Cと、スクリュー部3Bおよびスクリュー部3Dとが、それぞれ対向する領域となっており、回転時に、それぞれの対向方向において各開口3hが向かい合う流路になっている。このため、流路Pよりも対向間隔が離れているものの、やはり開口3hから噴出される被混練物Mの圧力を高めるとともに、被混練物Mが衝突し合う流路となっている。
本変形例は、複数本のスクリュー部が、それぞれの側面をすべて互いに隣接させている場合の例になっている。
【0051】
本変形例によれば、スクリュー部3A、3B、3C、3Dを同方向に回転させて混練を行うことによって、上記第1の実施形態と同様に流路Pにおいて被混練物Mが高せん断を受ける。このため上記第1の実施形態の流路Pの4倍の箇所で被混練物Mが高せん断を受けるため、混練の効率をさらに向上することができる。
また、本変形例では、流路Pにおいて、対角方向に隣接するスクリュー部同士の間でも被混練物Mの衝突が起こるため、被混練物Mは高せん断を受ける領域がさらに増大する。
【0052】
[第3変形例]
次に、本実施形態の第3変形例について説明する。
本実施形態の第3変形例の混練装置14は、図8に主要部を模式的に示すように、上記第2変形例のシリンダ部13に代えて、シリンダ部13の中心部に仕切部13bを設けたシリンダ部13Aを備える。以下、上記第2変形例と異なる点を中心に説明する。
【0053】
仕切部13bは、上記第2変形例に流路Pを除去するために設ける部材であり、対角方向に隣接するスクリュー部3Aおよびスクリュー部3Cの側面と、スクリュー部3Bおよびスクリュー部3Cとの側面とが対向しないように、各側面を覆う部材からなる。本変形例では、内側に凹んだ円筒面を4面有する柱状部材からなる。
【0054】
このような構成によれば、各流路Pは、上記第1の実施形態の流路Pのように、軸方向に延びる矩形状の開口によって仕切られている。このため、各スクリュー部は、隣り合う他の2つのスクリュー部に対して、それぞれ上記第1の実施形態と同様に隣接されている。このため、被混練物Mが各流路Pに集中して、略一定の高せん断を受けるため、効率的に混練を行うことができる。
本変形例は、複数本のスクリュー部が、他のすべてのスクリュー部の側面には隣接していない場合の例になっている。
【0055】
また、上記の実施形態の説明では、各スクリュー部の回転方向は異方向として説明したが、同方向に変えてもよい。
また、上記第1変形例、第2変形例の説明では、各スクリュー部の回転方向は同方向として説明したが、スクリューの旋回方向を変えることによって、隣接し合うスクリュー部の回転方向を変えてもよい。
【0056】
なお、上記実施形態および各変形例の説明では、複数本のスクリュー部の形状が同一であって、かつ先端の位置を揃えて並列させた例で説明したため、各側面開口は、回転時に全開口が対向可能な位置関係に配置されている。この場合、対向する側面開口から噴射される被混練物の全体が衝突するため、最も効率的であるが、側面開口からの被混練物は広がりつつ噴出されるため、側面開口の一部が対向可能であってもよい。
また、効率はやや低下するが、隣接する側面開口同士は、軸方向に近接しているだけでもよい。
【0057】
また、上記実施形態および各変形例の説明では、各スクリュー部の内部流路が、T字状に形成され、1つの先端開口から2つの側面開口から噴出される場合の例で説明したが、内部流路の形状はT字状には限定されず、例えば、Y字状や適宜の湾曲された流路などを採用してもよい。
また、側面開口も2つには限定されず、スクリュー部の側面において、周方向に間隔をあけて3以上が設けられていてもよい。また、軸方向に間隔をあけて複数設けられていてもよい。
また、上記実施形態および各変形例の説明では、各スクリュー部本体は中間部の外形が縮径された形状である場合の例で説明したが、スクリューの形状はこれに限定されず、例えば、くびれの無いスクリュー部本体を採用してもよい。
【0058】
また、上記実施形態および各変形例の説明では、各スクリュー部を平行に並列した場合の例で説明したが、スクリュー部を捩れの位置関係に配置することによって、スクリュー部の側面を隣接させ、この隣接領域に側面開口を位置させてもよい。
高せん断が作用するのは、側面開口の近傍であるため、隣接領域を効率的に利用することができる。例えば、1つのスクリュー部の軸方向に複数の側面開口を設け、それぞれの側面開口の位置で捩れの位置関係に交差するように、他のスクリュー部を並列配置することによって、狭い空間であっても、側面の全体を隣接させる場合に比べてより多くのスクリュー部を隣接させることが可能となる。
また、上記実施形態および各変形例の説明では、ホッパを用いて材料を投入する場合の例で説明したが、材料の投入方法はこれに限定されない。例えば、ホッパの無い押し出し成形機や射出成形機に本発明を適用することもできる。
【0059】
また、上記の実施形態、各変形例に説明したすべての構成要素は、本発明の技術的思想の範囲で適宜組み合わせたり削除したりして実施することができる。
【符号の説明】
【0060】
1、10、12、14 混練装置
2、11、13、13A シリンダ部
2a シリンダ筒部
2b、11b、13a シリンダ内側面
2d シリンダ内底面
2g 開口
3、3A、3B、3C、3D スクリュー部
3a スクリュー部本体側面(スクリュー部の側面)
3b スクリュー(スクリュー部の側面)
3c スクリュー部本体
3d スクリュー部本体先端面(スクリュー部の先端)
3e 径方向孔(内部流路)
3f 軸方向孔(内部流路)
3g 開口(先端開口)
3h 開口(側面開口)
4A、4B 回転駆動部
M 被混練物
m 混練樹脂
、P、P、P、P 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸状のスクリュー部本体と、該スクリュー部本体の外周に設けられたスクリューと、前記スクリュー部本体の先端に形成された先端開口から前記スクリュー部本体の側面に形成された側面開口まで貫通するように設けられた内部流路とを有する複数本のスクリュー部と、
前記複数本のスクリュー部の各側面の一部および各先端を囲繞するとともに、前記複数本のスクリュー部のそれぞれが、前記複数本のスクリュー部のうちの他のいずれかのスクリュー部の側面に隣接されるように収容するシリンダ部と、
前記複数本のスクリュー部を回転させ、前記シリンダ部内に投入された被混練物を前記スクリューに沿って前記スクリュー部の先端側に送る回転駆動部と、を備えることを特徴とする混練装置。
【請求項2】
互いに隣接する前記スクリュー部にそれぞれ形成された前記側面開口は、前記回転駆動部によって回転されたときに、少なくとも一部分が対向可能な位置関係に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の混練装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の混練装置を用いて、樹脂を含む被混練物の混練を行って混練樹脂を製造する樹脂製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−213050(P2011−213050A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85369(P2010−85369)
【出願日】平成22年4月1日(2010.4.1)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】