説明

減圧鋳造装置および減圧鋳造方法

【課題】良好な鋳造品質を確保するべく、鋳造金型より鋳造製品を押出すための押出しピンと、該鋳造金型に形成される押出しピン用の貫通孔と、の隙間を介して離型剤や冷却水などがキャビティ内へ侵入するのを防ぐために、押出しピン自身を廃止するとともに、鋳造製品を破損させることなく、鋳造金型より確実に脱型することが可能な減圧鋳造装置および減圧鋳造法を提供することを課題とする。
【解決手段】複数の分割された、金型群から構成される鋳造金型2のキャビティ24内を減圧して鋳造製品20Aを鋳造する減圧鋳造装置1であって、前記複数の金型群21・22・23・・・のうち何れか一つの金型部位(可動金型22)において、キャビティ24側の側面からキャビティ24に向かって突設される、複数の入れ子33・34・35を備え、これら入れ子33・34・35は、キャビティ24に対して進退する方向へ移動可能に配設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャビティ内を減圧して鋳造する減圧鋳造装置および減圧鋳造法において、良好な鋳造品質を確保するべく、前記キャビティ内への水分の流入量を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えばエンジン部品のひとつであるシリンダーブロックなどのように、複雑な形状からなる部品(鋳造製品)については、鋳造による成形が行われている(例えば、「特許文献1」を参照。)。
また近年においては、鋳造製品の品質(鋳造品質)を向上させるべく、溶融金属をキャビティ内へ流し込む前に該キャビティ内を減圧することで、巻き込み巣などの不良の低減化を図った減圧鋳造法による鋳造も行われている。
【0003】
前記減圧鋳造法によって鋳造製品を鋳造する減圧鋳造装置は、主に複数の分割された金型部位からなる鋳造金型や、該鋳造金型のキャビティ内に内装される入れ子ユニットや、脱型時において該入れ子ユニットより鋳造製品を押出す押出しユニットや、前記鋳造金型のキャビティ内を減圧する減圧手段などを有して構成される。
【0004】
ここで、このような減圧鋳造法を用いた減圧鋳造装置の一例として、シリンダーブロックを鋳造する従来の減圧鋳造装置201の構成について、図6を用いて説明する。
図6は、従来の減圧鋳造装置201の全体的な構成を示した側面断面図である。
なお、以下の説明に関しては、便宜上、図6における矢印Aの方向を前方と規定して記載する。また、図6においては、図面上の上下方向を減圧鋳造装置201の上下方向と規定して、以下説明する。
【0005】
減圧鋳造装置201は、主に鋳造金型202や入れ子ユニット203や押出しユニット204などにより構成される。
鋳造金型202は、固定金型221や可動金型222やスライド金型223・223・・・など、複数の金型に分割して構成され、固定金型221を基準にして、該固定金型221の後方に可動金型222が対向して配設され、固定金型221と可動金型222との間にスライド金型223・223・・・が正面視放射状に配設される。
【0006】
そして、これら金型群221・222・223・223・・・は固定金型221を基準として、可動金型222が前後方向(固定金型221と可動金型222とが近接離間する方向)へ移動可能に、またスライド金型223・223・・・が可動金型222の移動方向に対する直交方向へ、固定金型221の中央部を中心とする正面視放射状に各々移動可能に、それぞれ構成される。
【0007】
可動金型222の正面視中央部には、入れ子ユニット203が設けられる。
入れ子ユニット203は、左右方向(水平方向、且つ可動金型222の移動方向に対する直交方向)に並設される複数のボアピン入れ子233・233・・・(図6においては、一本のみ記載)や、該ボアピン入れ子233・233・・・の周囲全体をまとめて取り囲むようにして配設されるウォータージャケット入れ子234や、該ウォータージャケット入れ子234の外周部近傍に配設される複数の鋳抜きピン235・235・・・(図6においては、一本のみ記載)などを有して構成される。
【0008】
そして、入れ子ユニット203を構成するこれらボアピン入れ子233・233・・・やウォータージャケット入れ子234や鋳抜きピン235・235・・・は、前方に向かって延出するようにして、可動金型222の正面視中央部に各々配設される。
【0009】
一方、可動金型222の背面視中央部には、略直方体形状からなる凹部222aが、当該略直方体形状の長手方向を左右方向に向けて可動金型222の後面から前面近傍に亘って形成され、凹部222aの前端面222bには、前後方向に貫通する複数の第一貫通孔222c・222c・・・と第二貫通孔222d・222d・・・とが穿孔される。
【0010】
そして、これら凹部222aや第一・第二貫通孔222c・222c・・・222d・222d・・・を介して、押出しユニット204は、可動金型222内に内装されるとともに、前後方向に摺動可能に設けられる。
【0011】
即ち、押出しユニット204は、略長方形状の板状部材からなる押出し板204aや、該押出し板204aの一方の平面において、直角方向に立設される複数の押出しピン204b・204b・・・やリターンピン204c・204c・・・などにより構成される。
【0012】
また、押出しユニット204は、第一・第二貫通孔222c・222c・・・222d・222d・・・を介して、前記押出しピン204b・204b・・・やリターンピン204c・204c・・・が前端面222bから前方に向かって各々延出するようにして、可動金型222内に内装されるとともに、押出し板204aの後面には、油圧シリンダーのロッド226の先端部が、ボルトなどの締結部材(図示せず)を介して着脱可能に固設される。
【0013】
そして、前記油圧シリンダーのロッド226を前方に向かって延出させることで、押出し板204aは可動金型222の凹部222a内を前方に向かって摺動し、これら押出しピン204b・204b・・・やリターンピン204c・204c・・・は、前方に向かって一斉に押し出される。
【0014】
なお、押出しピン204b・204b・・・は、鋳造製品の脱型時において、入れ子ユニット203より該鋳造製品を押出すための部位である。
また、リターンピン204c・204c・・・は、鋳造製品を脱型した後、押出しユニット204が後方へと摺動しきれておらず、押出しピン204b・204b・・・の前端部が未だ可動金型222の前面より突出している場合において、例えば、型閉じ時にスライド金型223・223・・・の後面など他の部位と干渉しあうことで、押出しユニット204全体を強制的に後方へと押し込むための部位である。
【0015】
可動金型222の内部には第一連通経路222eが形成され、該第一連通経路222eは、一端部において鋳造金型202の外部より導かれる第一配管部材205と接続されるとともに、他端部においてキャビティ224と連通される。
また、第一配管部材205は、一方の端部において第一連通経路222eと接続されるとともに、他方の端部において、減圧手段である真空ポンプ207と接続される。
そして、真空ポンプ207の運転を制御することで、キャビティ224内の気圧は減圧される。
【0016】
このような構成からなる減圧鋳造装置201によって、鋳造製品を鋳造するには、先ず、固定金型221とスライド金型223・223・・・とにおけるキャビティ224に臨む側面に離型剤を塗布した後、鋳造金型202を「型閉じ」する。
また、鋳造金型202の「型閉じ」に合わせて、押出しユニット204を後方に摺動させて、これら押出しピン204b・204b・・・やリターンピン204c・204c・・・を可動金型222の内部に収納する。
【0017】
そして、鋳造金型202の「型閉じ」が完了すれば、真空ポンプ207によってキャビティ224内を減圧して該キャビティ224内に溶融金属を充填し、その後、冷却水によって徐々に鋳造金型を冷却することで、鋳造製品が鋳造されるのである。
【0018】
また、鋳造製品の成形が完成すると、真空ポンプ207を停止してキャビティ224内の減圧を停止し、鋳造金型202の「型開き」を開始する。
そして、鋳造金型202の「型開き」が完了すれば、押出しピン204b・204b・・・を一斉に前方へと押出し、入れ子ユニット203より鋳造製品を押出すのである。
【0019】
ところで、このような減圧鋳造装置201によって、例えば大型のシリンダーブロックを鋳造する場合、押出しユニット204に備えられる押出しピン204b・204b・・・は、通常20本〜40本もの本数が必要となる。
よって、可動金型222には、押出しピン204b・204b・・・の本数と同数の第一貫通孔222c・222c・・・が形成されることから、これら第一貫通孔222c・222c・・・も通常20箇所〜40箇所形成されることとなる。
【0020】
一方、第一貫通孔222c・222c・・・の内周部において、押出しピン204b・204b・・・が前後方向に摺動移動可能とするためには、これら第一貫通孔222c・222c・・・の内周部と、押出しピン204b・204b・・・の外周部と、の間に0.1mm程度の隙間222f・222f・・・を設ける必要がある。
つまり、鋳造金型202には、可動金型222の凹部222aとキャビティ224内部とを連通する複数の隙間222f・222f・・・が設けられることとなる。
【0021】
よって、例えば、鋳造金型202への離型剤塗布時において、該鋳造金型202の冷却に伴って液化した離型剤や、該鋳造金型の冷却に用いられる冷却水の一部は、これら複数の隙間222f・222f・・・を介して一旦可動金型222の凹部222aに流れ込むことがあった。
【0022】
従って、鋳造金型202の「型閉じ」が完了し、キャビティ224内の気圧が減圧されることで、前記凹部222aに流れ込んだ離型剤や冷却水の一部は、再びこれら複数の隙間222f・222f・・・を介してキャビティ224内へと吸い込まれ、キャビティ224内に吸い込まれた離型剤や冷却水の一部は、その後溶融金属の熱によってガス化して鋳造製品に巻き込まれることとなり、鋳造欠陥を生じる要因となっていた。
【0023】
そこで、このような離型剤や冷却水などからなる水分の、キャビティ224内への侵入を低減する対策案として、以下に示すような方法が考えられる。
即ち、一つの方法としては、キャビティ224内を減圧する際に、可動金型222の凹部222a内も同時に減圧して、これら複数の隙間222f・222f・・・の両端部における気圧差をなくし、離型剤や冷却水などからなる水分の、キャビティ224内への侵入を防ぐ方法が考えられる。
また、別の方法としては、これら複数の押出しピン204b・204b・・・の全てに関してシール部材を各々配設し、該シール部材によって複数の隙間222f・222f・・・をシールする方法が考えられる。
【0024】
しかし、これら対策案のうち、後者の方法については、前述のとおり、押出しピン204b・204b・・・の本数が20本〜40本と、著しく多いことから、メンテナンスなどの管理も困難であるため現実的ではない。
よって、前者の方法による対策が施された減圧鋳造装置が提案されている。
【0025】
ここで、前者の方法による対策が施された減圧鋳造装置301について、図7を用いて説明する。
図7は、従来の別実施例における減圧鋳造装置301の全体的な構成を示した側面断面図である。
なお、以下の説明に関しては、便宜上、図7における矢印Aの方向を前方と規定して記載する。また、図7においては、図面上の上下方向を減圧鋳造装置301の上下方向と規定して、以下説明する。
【0026】
別実施例における減圧鋳造装置301は、前述の従来における減圧鋳造装置201と基本構造を同じくし、可動金型322の凹部322aに減圧手段を設けた点について、一部異なる構成を有する。
【0027】
即ち、可動金型322の内部には、キャビティ324と連通される第一連通経路322eとは別に、第二連通経路322gが形成され、該第二連通経路322gは、一端部において鋳造金型302の外部より導かれる第二配管部材306と接続されるとともに、他端部において前記可動金型322の凹部322aと連通される。
また、第二配管部材306は、一方の端部において第二連通経路322gと接続されるとともに、他方の端部において、減圧手段である真空ポンプ308と接続される。
【0028】
なお、凹部322aの内部容積は、通常キャビティ324の内部容積に比べて大容量となるところ、このような大容量の空間部を瞬時に減圧するために、減圧鋳造装置301では、大出力の真空ポンプ308を設けるとともに、第二配管部材306の中途部において、大型の真空タンク307と電磁式バルブ309とを設けている。
【0029】
そして、凹部322a内の減圧については、真空ポンプ308によって真空タンク307内を予め減圧しておき、電磁式バルブ309の開閉動作を制御することで行われる。つまり、電磁式バルブ309が「開状態」となることで、凹部322a内の気体は真空タンク307内に流れ込み、前記凹部222a内が減圧されるようになっている。
【0030】
このような別実施例における減圧鋳造装置301を用いれば、キャビティ324内を減圧する際に、可動金型322の凹部322a内も同時に減圧することが可能となり、可動金型322に形成される複数の隙間322f・322f・・・の両端部における気圧差をなくし、離型剤や冷却水などからなる水分の、キャビティ324内への侵入を防ぐこともできる。
【0031】
しかし、その一方では前述のとおり、大出力の真空ポンプ308や、大型の真空タンク307が必要となり、減圧鋳造装置301全体として、設備コストが嵩張ることとなっていた。
【0032】
そこで、設備コストが嵩張ることもなく、離型剤や冷却水などからなる水分の、キャビティ内への侵入を低減する対策案として、「特許文献2」に示すような技術が開示されている。
【0033】
即ち、前記「特許文献2」では、固定金型と、該固定金型と近接離間可能に対向して配設される可動金型と、これら固定金型と可動金型との間に配設される可動中間金型と、から構成される鋳造金型を備える減圧鋳造金型に関する技術が開示されており、前記可動中間金型は、前記固定金型と前記可動金型との近接離間方向に対して直交、且つ放射状に移動可能な複数の金型部位によって構成される。
【0034】
そして、鋳造製品の脱型の際は、先ず、前記可動中間金型、および可動金型が、前記固定金型に対して同時に離間し、続いて前記可動中間金型が鋳造製品を保持した状態で、前記可動中間金型が前記可動金型に対して離間することで、鋳造製品は可動金型に付設される入れ子ユニットより抜脱されることとなる。
その後、前記可動中間金型が、前記鋳造金型の外方向に向かって放射状に移動することで、鋳造製品の脱型が完了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0035】
【特許文献1】特開2001−129654号公報
【特許文献2】特開2005−231066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
前記「特許文献2」に示すような技術によれば、鋳造金型に押出しピンを設ける必要はなく、加えて、大出力の真空ポンプや、大型の真空タンクなども必要なくなるため、設備コストも嵩張ることもなく、離型剤や冷却水などからなる水分の、キャビティ内への侵入を低減することも可能であるとも思える。
【0037】
しかし、鋳造製品と前記中子ユニットとの間における離型抵抗が大きいため、前記可動中間金型が前記可動金型に対して離間する際に、鋳造製品と可動中間金型との間に発生する剪断方向の反力によって、可動中間金型に対する前記鋳造製品の所定の姿勢を保持することは難しく、このような減圧鋳造装置によって実際に鋳造製品の脱型をおこなうとすれば、脱型中に鋳造製品を破損させる可能性もある。
また、取出しロボットによって鋳造製品の所定の姿勢を保持しようとしても、前記可動中間金型によって保持された状態では、前記取出しロボットによって把持することも現実的に難しい。
【0038】
本発明は、以上に示した現状の問題点を鑑みてなされたものであり、良好な鋳造品質を確保するべく、鋳造金型より鋳造製品を押出すための押出しピンと、該鋳造金型に形成される押出しピン用の貫通孔と、の隙間を介して離型剤や冷却水などがキャビティ内へ侵入するのを防ぐために、押出しピン自身を廃止するとともに、鋳造製品を破損させることなく、鋳造金型より確実に脱型することが可能な減圧鋳造装置および減圧鋳造法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0039】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0040】
即ち、請求項1においては、複数の分割された金型群から構成される鋳造金型のキャビティ内を減圧して鋳造製品を鋳造する減圧鋳造装置であって、前記複数の金型群のうち何れか一つの金型部位において、キャビティ側の側面から該キャビティに向かって突設される複数の入れ子を備え、前記複数の入れ子は、前記キャビティに対して進退する方向へ移動可能に配設されるものである。
【0041】
請求項2においては、請求項2に記載の減圧鋳造装置であって、前記複数の入れ子を備える金型部位は、キャビティ側の面と該キャビティ側の面とは反対側の面とを連通する貫通孔を有し、前記複数の入れ子は、前記貫通孔に貫装されるとともに、前記複数の入れ子における、前記キャビティ側とは反対側の端部は、スライド板によって連結されるものである。
【0042】
請求項3においては、請求項2に記載の減圧鋳造装置であって、前記貫通孔の貫通方向において、前記貫通孔の断面形状は、前記スライド板の断面形状に比べて小さく形成され、前記複数の入れ子を備える金型部位のキャビティ側の面とは反対側の面における前記貫通孔の外周部と、前記スライド板との間には、環状のシール部材が設けられるものである。
【0043】
請求項4においては、請求項1乃至請求項3のうちのいずれか一項に記載の減圧鋳造装置であって、前記鋳造製品は、シリンダーブロックであり、前記複数の入れ子は複数のボアピン入れ子を有して構成され、前記複数のボアピン入れ子は、前記スライド板に対して、前記複数の入れ子の突出方向に沿って移動可能に、前記スライド板と連結されるものである。
【0044】
請求項5においては、請求項4のうちのいずれか一項に記載の減圧鋳造装置であって、前記ボアピン入れ子の前記スライド板側の端部には、短柱部材からなる係止部が形成され、前記スライド板は前記係止部のキャビティ側の面に係止する第一の係止面と、前記係止部のキャビティ側の面とは反対側の面に係止する第二の係止面とを備え、前記係止部が前記第一の係止面および第二の係止面に係止することで、前記ボアピン入れ子のスライド板に対する移動が規制されるものである。
【0045】
請求項6においては、複数の分割された金型群から構成される鋳造金型のキャビティ内を減圧して鋳造製品を鋳造する減圧鋳造方法であって、前記複数の金型群のうち何れか一つの金型部位において、キャビティ側の側面から該キャビティに向かって突設される複数の入れ子を備え、前記複数の入れ子は、前記キャビティに対して進退する方向へ移動可能に配設され、前記鋳造製品の前記鋳造金型からの脱型は、前記鋳造金型を「型開き」した後に、前記複数の入れ子を前記キャビティに対して退行することで行われるものである。
【0046】
請求項7においては、請求項6に記載の減圧鋳造方法であって、前記複数の入れ子を備える金型部位は、キャビティ側の面と該キャビティ側の面とは反対側の面とを連通する貫通孔を有し、前記複数の入れ子は、前記貫通孔に貫装されるとともに、前記複数の入れ子における、前記キャビティ側とは反対側の端部は、スライド板によって連結され、前記スライド板を前記キャビティに対して退行させることで、前記複数の入れ子は前記キャビティに対して退行するものである。
【0047】
請求項8においては、請求項7に記載の減圧鋳造方法であって、前記貫通孔の貫通方向において、前記貫通孔の断面形状は、前記スライド板の断面形状に比べて小さく形成され、前記複数の入れ子を備える金型部位のキャビティ側の面とは反対側の面における前記貫通孔の外周部と、前記スライド板との間には、環状のシール部材が設けられ、前記金型部位のキャビティ側の面とは反対側の面と、前記スライド板とによって前記シール部材を押圧することで、前記貫通孔におけるキャビティ側と該キャビティの反対側とは隔絶されるものである。
【0048】
請求項9においては、請求項6乃至請求項8に記載の減圧鋳造方法であって、前記鋳造製品は、シリンダーブロックであり、前記複数の入れ子は複数のボアピン入れ子を有して構成され、前記複数のボアピン入れ子は、前記スライド板に対して、前記複数の入れ子の突出方向に沿って移動可能に、前記スライド板と連結され、前記スライド板が前記キャビティに対して退行する際は、前記ボアピン入れ子以外の複数の入れ子が退行した後に、前記ボアピン入れ子が退行するものである。
【0049】
請求項10においては、請求項9に記載の減圧鋳造方法であって、前記ボアピン入れ子の前記スライド板側の端部には、短柱部材からなる係止部が形成され、前記スライド板は前記係止部のキャビティ側の面に係止する第一の係止面と、前記係止部のキャビティ側の面とは反対側の面に係止する第二の係止面とを備え、前記係止部が前記第一の係止面および第二の係止面に係止することで、前記ボアピン入れ子のスライド板に対する移動が規制されるものである。
【発明の効果】
【0050】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0051】
即ち、本発明における減圧鋳造装置および減圧鋳造法に拠れば、良好な鋳造品質を確保するべく、鋳造金型より鋳造製品を押出すための押出しピンと、該鋳造金型に形成される押出しピン用の貫通孔と、の隙間を介して離型剤や冷却水などがキャビティ内へ侵入するのを防ぐために、押出しピン自身を廃止するとともに、鋳造製品を破損させることなく、鋳造金型より確実に脱型することが可能な減圧鋳造装置および減圧鋳造法を提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の第一実施例に係る減圧鋳造装置の全体的な構成を示した側面断面図。
【図2】同じく図1に示すX方向から見た減圧鋳造装置の背面断面図。
【図3】鋳造製品の脱型時における減圧鋳造装置(第一実施例)の動作を示した図であり、(a)は射出チップによって鋳造製品のビスケット部が押出された状態を示した減圧鋳造装置の側面断面図、(b)は移動金型およびスライド金型が各々「開方向」に移動した状態を示した減圧鋳造装置の側面断面図、(c)は取出しロボットによって鋳造製品が支持されるとともに可動入れ子ユニットが鋳造製品より引き抜かれた状態を示した減圧鋳造装置の側面断面図。
【図4】本発明の第二実施例に係る減圧鋳造装置の全体的な構成を示した側面断面図。
【図5】鋳造製品の脱型時における減圧鋳造装置(第二実施例)の可動入れ子ユニットの動作を示した図であり、(a)は移動金型およびスライド金型が各々「開方向」に移動した直後の状態を示した可動入れ子ユニット近傍の側面断面図、(b)は先ず鋳抜きピンが引き抜かれた状態を示した可動入れ子ユニット近傍の側面断面図、(c)は鋳抜きピンとともにボアピンが引き抜かれた状態を示した可動入れ子ユニット近傍の側面断面図。
【図6】従来の減圧鋳造装置の全体的な構成を示した側面断面図。
【図7】従来の別実施例に係る減圧鋳造装置の全体的な構成を示した側面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0053】
次に、発明の実施の形態を説明する。
【0054】
[減圧鋳造装置(第一実施例)1の全体構成]
先ず、第一実施例に係る減圧鋳造装置1の全体構成について、図1を用いて説明する。
なお、以下の説明に関しては、便宜上、図1における矢印Aの方向を前方と規定して記載する。また、図1においては、図面上の上下方向を減圧鋳造装置1の上下方向と規定して、以下説明する。
【0055】
本実施例(第一実施例)における減圧鋳造装置1は、例えばエンジン部品のひとつであるシリンダーブロックなどのように、内部空間を有する部品(鋳造製品)を減圧鋳造法によって鋳造するための装置である。
即ち、減圧鋳造装置1は、鋳造金型2の内部に形成される空間部(以下、「キャビティ」と記す)24に入れ子を設けて減圧し、鋳造製品を鋳造する装置である。
減圧鋳造装置1は、主に鋳造金型2や可動入れ子ユニット3などを有して構成される。
【0056】
先ず始めに、鋳造金型2の全体構成について説明する。
鋳造金型2は、該鋳造金型2のキャビティ24内に溶融された金属(以下、「溶融金属」と記す)20を流し込み、鋳造製品の形状を形成するための部位である。
鋳造金型2は、固定金型21や可動金型22やスライド金型23・23・・・など、複数の金型に分割して構成される。
【0057】
固定金型21は、鋳造金型2を構成する金型群21・22・23・23・・・の中で基準となる部位であり、チャック装置などを介して、減圧鋳造装置1に備えられる固定プラテン11に着脱可能に固定保持される。
【0058】
固定金型21の後方には、後述するスライド金型23・23・・・が配設され、該スライド金型23・23・・・の後方には、後述する可動金型22がさらに配設される。
つまり、固定金型21と可動金型22とは、スライド金型23・23・・・を間に挟んで、前後方向に互いに対向して、近接離間可能に配設される。
そして、固定金型21、可動金型22、およびスライド金型23・23・・・にて囲まれた空間がキャビティ24として構成されている。
【0059】
固定金型21の後面において、背面視中央部には、長手方向を左右方向(水平方向、且つ固定金型21と可動金型22との近接離間方向に対する直交方向)とする略長方体形状の突出部21aが後方(キャビティ24側)へ突出して設けられ、該突出部21aの後端面には、前方に向かって円錐台形状に窪んだ複数の凹部21b・21b・・・が、一定の間隔を有して左右方向に並置して形成される。
【0060】
そして、鋳造金型2を用いて鋳造製品を鋳造する際は、可動金型22のキャビティ224側の側面より前方(キャビティ24側)に向かって突出される複数のボアピン入れ子33・33・・・の前端部が、凹部21b・21b・・・と当接することで、ボアピン入れ子33・33・・・の前端部は突出部21a・21a・・・によって支持されるようになっている。
【0061】
一方、固定金型21には、前後方向に射出スリーブ25が貫設される。
射出スリーブ25は、キャビティ24内に溶融金属20を流し込む際の供給経路となる部位である。
【0062】
射出スリーブ25は中空形状の部材からなり、その後端部は固定金型21に貫設される。
即ち、固定金型21には、射出スリーブ25の内周部25aを介して、前後方向に貫通する溶融金属20の供給経路が形成され、内周部25aの後端部はキャビティ24の湯道24aと連通される。
【0063】
一方、射出スリーブ25の前端上部には給湯口25bが開口され、該給湯口25bを介して、溶融金属20はラドル27から射出スリーブ25の内周部25aに供給されるようになっている。
【0064】
射出スリーブ25の内周部25aには射出チップ26が内装される。
射出チップ26は、射出スリーブ25の内周部25aに供給された溶融金属20を、キャビティ24内へ押し込むための部位である。
【0065】
射出チップ26は、内周部25aの正面視断面形状と略同一の正面視断面形状を有する短柱部材から形成され、内周部25aと同軸上に配設される。
また、射出チップ26の前端面(射出チップ26において、キャビティ24側とは反対側の端面)には、前方へと延出する支持軸26aが設けられ、該支持軸26aの前端部は、図示せぬアクチュエータなどと連結される。
【0066】
そして、前記アクチュエータによって、支持軸26aを前後方向(内周部25aの軸心方向)に移動させることで、射出チップ26は、射出スリーブ25の内周部25aに沿って前後方向に摺動するようになっている。
【0067】
可動金型22は、前述の通り固定金型21の後方において、該固定金型21と対向して配設され、チャック装置などを介して、減圧鋳造装置1に備えられる可動プラテン12に着脱可能に固定保持される。
【0068】
そして、可動プラテン12が水平前後方向に移動することで、可動金型22は固定金型21に対して近接離間するように、前後方向に移動可能に設けられる。
【0069】
可動金型22の前面(キャビティ24側の側面)は略平面状に形成される一方、該可動金型22の裏面側にあたる後面の中央部には、略直方体形状からなる凹部22aが、当該略直方体形状の長手方向を左右方向に向けて、可動金型22の後面から前面近傍に渡って形成される。
また、凹部22aの前端面22bにおいて、その背面視中央部には、前記凹部22aに比べて小さな断面積からなる断面視略長方形状の第一貫通孔22cが、当該略長方形状の長手方向を左右方向に向けて形成される。
更に、第一貫通孔22cの外周部近傍には、前後方向に貫通する断面視円形状の複数の第二貫通孔22e・22e・・・がさらに形成され、これら第二貫通孔22e・22e・・・は後端部において、凹部22aと連通される。
【0070】
そして、これら凹部22aと第一貫通孔22cと第二貫通孔22e・22e・・・とを介して、後述する可動入れ子ユニット3が可動金型22の内部に内装され、可動金型22の前面からは、可動入れ子ユニット3のボアピン入れ子33・33・・・やウォータージャケット入れ子34などが、キャビティ24に向かって前方に延出される。
【0071】
可動金型22の内部には第一連通経路22dが形成され、該第一連通経路22dは、一端部において鋳造金型2の外部より導かれる第一配管部材4と接続されるとともに、他端部においてキャビティ24と連通される。
また、第一配管部材4は、一方の端部において第一連通経路22dと接続されるとともに、他方の端部において、減圧手段である真空ポンプ6と接続される。
そして、真空ポンプ6の運転を制御することで、キャビティ24内の気圧は減圧される。
【0072】
スライド金型23・23・・・は、前述の通り、前後方向に互いに対向して配設される固定金型21と可動金型22との間に配設され、複数の金型に分割して構成される。
【0073】
そして、これら複数のスライド金型23・23・・・は、減圧鋳造装置1に備えられる図示せぬアクチュエータなどによって、垂直面(可動金型22の移動方向に対して直交する平面)上を、固定金型21の中央部を中心とする正面視放射状に各々スライド移動可能に設けられる。
【0074】
ここで、これら複数のスライド金型23・23・・・における各々の対向側の側面(即ち、各々のスライド金型23・23・・・に関する移動方向の交差点に臨む側面)には、鋳造製品の外形の一部分に対応した形状の凹部23a・23a・・・が各々形成され、正面視において、これらスライド金型23・23・・・が、固定金型21の中央部に向かって各々移動して合体することでこれら複数の凹部23a・23a・・・も合体され、一つの鋳造製品に関する外形に沿ったキャビティ24の側面(正面視において、可動金型22の移動方向を中心とした外周面)が形成される。
【0075】
そして、可動金型22が固定金型21に向かって前方に移動し、互いに合体された複数のスライド金型23・23・・・を固定金型21と可動金型22とで挟持することで、これら複数の凹部23a・23a・・・によって形成されるキャビティ24の側面部の前後両側は、固定金型21と可動金型22とによって塞がれ、鋳造製品の全表面部に亘る外形に対応した形状の、キャビティ24が形成されることとなる。
【0076】
このように、鋳造金型2は、複数の金型群21・22・23・23・・・によって構成され、固定金型21と可動金型22とを互いに水平前後方向に対向して配置し、さらに、固定金型21と可動金型22との間にスライド金型23・23・・・を配設して構成される。
【0077】
また、これら金型群21・22・23・23・・・は固定金型21を基準として、可動金型22が前後方向(固定金型21と可動金型22との対向方向)へ移動可能に、またスライド金型23・23・・・が直交方向(可動金型22の移動方向に対する直交方向)へ、固定金型21の中央部を中心とする正面視放射状に各々移動可能に、各々構成される。
【0078】
そして、可動金型22が固定金型21に対して離間した後方位置に位置し、且つ複数のスライド金型23・23・・・が固定金型21に対して離間した外方位置に位置する状態より、可動金型22が固定金型21に向かって前方へと移動し、且つ複数のスライド金型23・23・・・垂直面上を固定金型21に向かって各々スライド移動することで、鋳造金型2は「型閉じ」される。
その結果、鋳造金型2の内部には、固定金型21と可動金型22と複数のスライド金型23・23・・・とによって囲まれるキャビティ24が形成される。
【0079】
一方、このような「型閉じ」状態にある鋳造金型2において、可動金型22が固定金型21に対して離間方向(後方)に移動し、且つ複数のスライド金型23・23・・・が垂直面上を固定金型21に対して離間する外方向に各々スライド移動することで、鋳造金型2は「型開き」されるのである。
【0080】
次に、可動入れ子ユニット3について説明する。
可動入れ子ユニット3は、内部に空間部を有する鋳造製品の鋳造において、キャビティ24内に溶融金属20を流し込む前に、前記鋳造製品の空間部にあたる部分として、予めキャビティ24内に配設するための部材である入れ子を、鋳造金型2を構成する複数の金型群21・22・23・・・のうち何れか一つの金型部位である可動金型22の前面からキャビティ24側に向かって突設するとともに、前後方向(キャビティ24に対して進退する方向)へ移動可能に設けたものである。
【0081】
即ち、本実施例における減圧鋳造装置1においては、例えばシリンダーブロックを鋳造製品として鋳造するところ、前記シリンダーブロックは、複数のシリンダーボア部や、これらシリンダーボア部の周囲全体をまとめて取り囲むようにして配設されるウォータージャケット部などの空間部を有して構成される。
【0082】
よって、キャビティ24内に溶融金属20を流し込む前には、これら各々の空間部に相当するボアピン入れ子33・33・・・やウォータージャケット入れ子34などを、予めキャビティ24内に配設しておく必要がある。
【0083】
一方、鋳造製品の脱型時においては、鋳造金型2を「型開き」するとともに、これらボアピン入れ子33・33・・・やウォータージャケット入れ子34などより鋳造製品を引き抜く必要がある。
【0084】
そこで、本実施例における可動入れ子ユニット3は、鋳造時にキャビティ24内に突出されるボアピン入れ子33・33・・・やウォータージャケット入れ子34などを一つの構造体としてユニット化し、可動金型22に形成される凹部22aや第一貫通孔22cや第二貫通孔22e・22e・・・を介して、可動金型22に対して前後方向へ移動可能に設けることで、鋳造製品の脱型の際は、複数の押出しピンなど設けることなく、容易にこれらボアピン入れ子33・33・・・やウォータージャケット入れ子34などから鋳造製品を引き抜くことができるようになっている。
【0085】
[可動入れ子ユニット3]
次に、可動入れ子ユニット3の具体的な構成について、図1、および図2を用いて説明する。
図1に示すように、可動入れ子ユニット3は入れ子部31やスライド板32などにより構成され、前記入れ子部31は、主に複数のボアピン入れ子33・33・・・や鋳抜きピン35・35・・・、およびウォータージャケット入れ子34などにより構成される。
【0086】
ボアピン入れ子33・33・・・は各々中実の丸棒部材から形成され、可動金型22の第一貫通孔22cを介して、該可動金型22の後面より前方(可動金型22に対する固定金型21側の方向)に向かって延出するようにして配設される。
【0087】
即ち、これら複数のボアピン入れ子33・33・・・は、軸心方向を前後方向(固定金型21と可動金型22との近接離間方向)に向けて、互いに一定の間隔を有して左右方向(水平、且つボアピン入れ子33の軸心方向に対して直交方向)に並設される。
【0088】
各ボアピン入れ子33の前端部には、前方に向かって徐々に正面視断面形状が縮径するテーパー部33aが形成され、前述した固定金型21の後面に形成される凹部21bと当接されるようになっている。
【0089】
即ち、可動金型22が前方に移動し、ボアピン入れ子33の前端部が固定金型21の凹部21bに向かって移動する際、平面視において、凹部21bとボアピン入れ子33の前端部との間に、例え軸心の僅かなズレが生じていたとしても、ボアピン入れ子33の前端部は、テーパー部33aを介して凹部21bによってズレが矯正され正規の位置に押し戻される。
よって、ボアピン入れ子33の前端部は固定金型21の凹部21bによって、確実に当接されるのである。
【0090】
なお、各ボアピン入れ子33の前後方向中途部には、断面を僅かに縮径させた段付き領域33bが形成される。
そして、後述するように、ウォータージャケット入れ子34の内周部において、これら複数のボアピン入れ子33・33・・・の外周部にシリンダーライナー37を設ける際は、前記段付き領域33b・33b・・・によってシリンダーライナー37の内周部は確実に係止されるようになっている。
従って、鋳造金型2のキャビティ24内に溶融金属20が流し込まれる際においても、該溶融金属20の圧力によってシリンダーライナー37が移動することもなく、所定の配設位置を保持することができるのである。
【0091】
ウォータージャケット入れ子34は、キャビティ24内に挿入され、鋳造製品の空間部を実際に形成する本体部34aと、該本体部34aを支持する基部34bとにより構成される。
【0092】
本体部34aは正面視において、長手方向を左右方向(複数のボアピン入れ子33・33・・・の配設方向)とする略長方形状の筒状部材からなり、複数のボアピン入れ子33・33・・・の周囲全体をまとめて取り囲むようにして、前方に延出するようにして配設される。
【0093】
より具体的には、図2に示すように、本体部34aは、内周部に配設される複数のボアピン入れ子33・33・・・・に対して、各ボアピン入れ子33の正面視断面形状に沿って円弧状に湾曲させた形状を有して形成され、前方に向かって延出するようにして配設される。
【0094】
本体部34aの後端部には基部34bが設けられる。
基部34bは、長手方向を左右方向とする直方体形状の部材からなり、正面視断面形状は、可動金型22の第一貫通孔22cの正面視断面形状と略同じ形状にて形成される。
【0095】
また、基部34bには、前後方向に貫通する複数の貫通孔34c・34c・・・が穿孔され、これら貫通孔34c・34c・・・は、ボアピン入れ子33・33・・・の断面積と略同じ断面積を有して各々形成されるとともに、正面視において、これらボアピン入れ子33・33・・・の配設位置と同じ箇所に形成される。
【0096】
そして、基部34bには、複数の貫通孔34c・34c・・・を介してボアピン入れ子33・33・・・の後端部が挿嵌されるとともに、前記貫通孔34c・34c・・・の正面視外周部において、本体部34aの後端部が固設される。
【0097】
ここで図2に示すように、ウォータージャケット入れ子34の内周部において、これら複数のボアピン入れ子33・33・・・の外周部には、繊維成形体などからなるシリンダーライナー37が配設される。
【0098】
即ち、シリンダーライナー37は、ウォータージャケット入れ子34と、これら複数のボアピン入れ子33・33・・・と、の間に挟持された状態のまま鋳造金型2のキャビティ24内に投入される。
【0099】
そして、後述のとおり、鋳造製品に関する鋳造金型2からの脱型の際には、可動入れ子ユニット3を後方に向かって摺動することで、入れ子部31はキャビティ24内より引き抜かれるとともにシリンダーライナー37はキャビティ24内に留まり、鋳造製品に固着されるのである。
【0100】
ウォータージャケット入れ子34の外周部近傍には、複数の鋳抜きピン35・35・・・が配設される(図2を参照)。
鋳抜きピン35は、鋳造製品に形成される穴部を鋳抜くためのピンであり、本実施例においては、例えばシリンダーブロックにおいて、シリンダーボア部近傍に設けられる、ボルトなどの締結穴を形成するために設けられる。
【0101】
鋳抜きピン35は丸棒部材から形成され、後端部から前端部に向かうにつれて、僅かに断面を縮径する先細り形状に形成される。
そして、鋳抜きピン35は、軸心方向を前後方向(固定金型21と可動金型22との対向方向)に向けて、各々予め定められた箇所(平面視において、鋳造製品におけるボルトなどの締結穴を形成する箇所)に配設されるとともに、鋳抜きピン35の後端部は可動金型22の第二貫通孔22eに挿通され、凹部22a内に臨んでいる。
【0102】
スライド板32は、複数のボアピン入れ子33・33・・・や鋳抜きピン35・35・・・、およびウォータージャケット入れ子34などからなる入れ子部31の基部となる部位である。
【0103】
スライド板32は略長方形状の板状部材からなり、平面部の形状は、可動金型22に形成される凹部22aの正面視断面形状と略同程度に形成される。
つまり、スライド板32において、ボアピン入れ子33や鋳抜きピン35やウォータージャケット入れ子34などの複数の入れ子が設けられる側面の平面形状は、可動金型22に形成される第一貫通孔22cの貫通方向と直交する断面形状に比べて大きく形成されるとともに、第二貫通孔22eの配設箇所は、正面視において、スライド板32の平面内に収まるようになっている。
【0104】
また、スライド板32は、前記凹部22aの内部において、長手方向を左右方向に向けつつ、平面部を前後方向に向けて配設される。
【0105】
そして、スライド板32の前面において、その正面視中央部には、これら複数のボアピン入れ子33・33・・・や鋳抜きピン35・35・・・、およびウォータージャケット入れ子34などの後端部が各々固設される。
つまり、これら複数のボアピン入れ子33・33・・・や鋳抜きピン35・35・・・、およびウォータージャケット入れ子34などからなる複数の入れ子は、可動金型22の裏面側(後方側)の端部において、スライド板32によって連結される。
【0106】
また、可動入れ子ユニット3は、第一、および第二貫通孔22c・222e・22e・・・を介して、これら複数のボアピン入れ子33・33・・・や鋳抜きピン35・35・・・、およびウォータージャケット入れ子34が前方に向かって各々延出するようにして、可動金型22内に内装されるとともに、スライド板32の後面には、油圧シリンダーのロッド36の先端部が、ボルトなどの締結部材(図示せず)を介して着脱可能に固設される。
【0107】
そして、前記油圧シリンダーのロッド36を後方に向かって移動させることで、スライド板32は可動金型22の凹部22a内を後方に向かって摺動し、これら複数のボアピン入れ子33・33・・・や鋳抜きピン35・35・・・、およびウォータージャケット入れ子34は、後方に向かって一斉に移動される。
【0108】
このように、これらボアピン入れ子33やウォータージャケット入れ子34や鋳抜きピン35など複数の入れ子を有して構成される可動入れ子ユニット3は、可動金型22において、キャビティ24側の側面(前面)と対向する裏面側の方向(後方)に向かって移動可能に配設される。
【0109】
なお、可動金型22の凹部22aの前端面22bにおいて、その中央部には、環状のシール部材28が、第一、および第二貫通孔22c・22e・22e・・・をまとめて取り囲むようにして配設される。
【0110】
そして、前記油圧シリンダーによって可動入れ子ユニット3が前方に移動され、これらボアピン入れ子33やウォータージャケット入れ子34や鋳抜きピン35など複数の入れ子が、可動金型22の前面よりキャビティ24側に向かって突設される状態において、スライド板32の前面と凹部22aの前端面22bとによってシール部材28は押圧され、該シール部材28によって、凹部22aの内部は第一、および第二貫通孔22c・22e・22e・・・の内部に対して密閉される。
つまり、鋳造金型2の「型閉め」状態において、可動入れ子ユニット3を前方に移動することで、凹部22aの内部とキャビティ24の内部との間はシール部材28によってシールされ、キャビティ24の内部は凹部22aの内部に対して確実に密閉されるのである。
【0111】
[脱型方法(第一実施例)]
次に、第一実施例に係る減圧鋳造装置1の脱型方法について、図3を用いて説明する。
なお、以下の説明に関しては、便宜上、図3における矢印Aの方向を前方と規定して記載する。また、図3においては、図面上の上下方向を減圧鋳造装置1の上下方向と規定して、以下説明する。
【0112】
図3(a)に示すように、減圧鋳造装置1によって鋳造製品(以下、溶融金属20と区別するため、「鋳造製品20A」と記す)を鋳造するには、先ず、固定金型21とスライド金型23・23・・・とにおけるキャビティ24に臨む側面に離型剤を塗布した後、鋳造金型2を「型閉じ」する。
また、鋳造金型2の「型閉じ」に合わせて、可動入れ子ユニット3を前方に摺動させて、シリンダーライナー37(図1、および図2を参照)を含む入れ子部31をキャビティ24内に内装する。
【0113】
一方、鋳造金型2の「型閉じ」が完了すれば、真空ポンプ6(図1を参照)を起動してキャビティ24内を減圧し、該キャビティ24内の気圧が、予め定められた数値にまで到達すれば、キャビティ24内に溶融金属を流し込む。
【0114】
そして、図示せぬ供給経路を介して鋳造金型2に冷却水を供給することで、鋳造金型2が冷却されるとともに、キャビティ24内の溶融金属20も冷却されて凝固し、鋳造製品20Aが鋳造される。
【0115】
なお、キャビティ24内に充填された溶融金属20の一部は、シリンダーライナー37の内部に浸入した状態で冷却されることとなり、シリンダーライナー37は鋳造製品20Aに固着される。
【0116】
一方、キャビティ24内を減圧する際には、既に可動入れ子ユニット3が前方に摺動されていることから、可動金型22の凹部22aに配設されるシール部材28は、可動入れ子ユニット3のスライド板32によって押圧された状態にある。
【0117】
即ち、前記凹部22aの内部とキャビティ24の内部とは、シール部材28によってシールされて確実に気密的・液密的に分断された状態となっており、このような状態において、キャビティ24内の気圧を減圧したとしても、例えば前記凹部22a内に残留する少量の冷却水や離型剤などが、第一、および第二貫通孔22c・22e・22e・・・を介してキャビティ24内に吸い込まれることもないのである。
【0118】
キャビティ24内の溶融金属20が十分に凝固し、鋳造製品20Aの成形が完成すると、真空ポンプ6(図1を参照)を停止してキャビティ24内の減圧を停止し、鋳造製品20Aに関する鋳造金型2からの脱型が開始される。
即ち、図3(b)に示すように、可動金型22や複数のスライド金型23・23・・・が固定金型21に対して各々離間する方向(後方)に移動され、鋳造金型2は「型開き」状態となる。
より具体的には、複数のスライド金型23・23・・・を含めて、可動金型22が後方へと移動し、その後、複数のスライド金型23・23・・・が垂直面上を各々移動することで、鋳造金型2は「型開き」状態となる。
【0119】
一方、射出スリーブ25内に内装される射出チップ26は、可動金型22の後方への移動に追従して、鋳造製品20Aの湯口ビスケット20aを押圧しつつ、後方へと移動される。
【0120】
このように、鋳造金型2が「型開き」状態となった直後においては、鋳造製品20Aは、略平面状に形成される可動金型22の前面に後端面(鋳造製品20Aにおける可動金型22に臨む端面)を当接しつつ、前記可動金型22の前面から前方に向かって延出される入れ子部31によって掛止されるとともに、射出チップ26によって湯口ビスケット20aを押止される。
【0121】
鋳造金型2の「型開き」が完了すると、鋳造製品20Aは、減圧鋳造装置1に備えられる取出しロボット8によって一端部を把持される。
その後、図3(c)に示すように、射出チップ26が前方へと移動することで、鋳造製品20Aは射出チップ26の押止状態より開放され、また、可動入れ子ユニット3が後方へ移動することで、入れ子部31は鋳造製品20Aより引き抜かれる。
つまり、鋳造製品20Aは、略平面状に形成される可動金型22の前面に後端面を押し当てつつ、取出しロボット8のみによって支持される状態となる。
【0122】
なお、可動入れ子ユニット3が後方へ移動することで、入れ子部31はシリンダーライナー37からも引き抜かれることとなる。
つまり、シリンダーライナー37は、内部に染み込んだ溶融金属20によって、ボアピン入れ子33・33・・・の段付き領域33b・33b・・・による係止力に比べて、より一層強固に鋳造製品に固着され、キャビティ24内に留まることとなる。
【0123】
その後、鋳造製品20Aは取出しロボット8によって鋳造金型2より取出され、鋳造製品20Aに関する鋳造金型2からの脱型が完了するのである。
【0124】
[減圧鋳造装置(第二実施例)101の全体構成]
次に、第二実施例に係る減圧鋳造装置101の全体構成について、図4を用いて説明する。
なお、以下の説明に関しては、便宜上、図4における矢印Aの方向を前方と規定して記載する。また、図4においては、図面上の上下方向を減圧鋳造装置101の上下方向と規定して、以下説明する。
【0125】
本実施例(第二実施例)における減圧鋳造装置101は、前述の第一実施例における減圧鋳造装置1と基本構造を同じくし、可動入れ子ユニット103の構成について、一部異なる点を有する。
以下、第一実施例における減圧鋳造装置1と同一の構成からなる箇所については、前記減圧鋳造装置1と同一の符号を付記するとともに説明を省略し、可動入れ子ユニット103の構成について詳述する。
【0126】
[可動入れ子ユニット103]
本実施例(第二実施例)における可動入れ子ユニット103は、一つの油圧シリンダー(図示せず)によって前後方向に摺動可能に構成される。
また、可動入れ子ユニット103は、鋳造製品20Aに関する鋳造金型2からの脱型時において、鋳造製品20Aより入れ子部131を引き抜く際に、ボアピン入れ子133と、鋳抜きピン135・135・・・を含むウォータージャケット入れ子134との間に、タイム・ラグ(これら部材群133・134・135・135・・・が移動を開始する時間のズレ)を生じるように構成される。
以下、可動入れ子ユニット103の具体的構成について説明する。
【0127】
可動入れ子ユニット103は、入れ子部131やスライド板132などにより構成され、前記入れ子部131は、主に複数のボアピン入れ子133・133・・・や鋳抜きピン135・135・・・、およびウォータージャケット入れ子134などにより構成される。
【0128】
なお、ウォータージャケット入れ子134や鋳抜きピン135・135・・・については、前述した第一実施例におけるウォータージャケット入れ子34や鋳抜きピン35・35・・・と、構造を同じくするため、以下説明を省略する。
【0129】
ボアピン入れ子133は、本体部133Aと連結部133Bと係止部133Cとにより形成される。
本体部133Aは中実の丸棒部材からなり、前述した第一実施例におけるボアピン入れ子33と同形状に形成される。
【0130】
即ち、本体部133Aの前端部には前方に向かって徐々に正面視断面形状が縮径するテーパー部133aが形成され、該テーパー部133aは、固定金型21の後面に形成される凹部21bと確実に当接されるようになっている。
また、本体部133Aの前後方向中途部には、断面を僅かに縮径させた段付き領域133bが形成され、該段付き領域133bによって、シリンダーライナー37の内周部が確実に係止されるようになっている。
【0131】
本体部133Aの後端面には、連結部133Bが設けられる。
連結部133Bは、本体部133Aに比べて小さな断面積を有する丸棒部材から形成され、本体部133Aと同軸上、且つ後方に向かって延出して設けられる。
【0132】
連結部133Bの後端面には、係止部133Cが設けられる。
係止部133Cは、連結部133Bに比べて大きな断面積を有する短柱部材から形成され、本実施例においては、本体部133Aの断面積と略同程度の断面積を有して形成される。
そして、係止部133Cは、連結部133Bの後端部において、該連結部133Bと同軸上に設けられる。
【0133】
このように、ボアピン入れ子133は、これら本体部133Aと連結部133Bと係止部133Cとを同軸上に配設しつつ一体的に形成される。
そして、このような形状によって形成された複数のボアピン入れ子133・133・・・は、可動金型22の第一貫通孔22cを介して、該可動金型22の後面より前方側(可動金型22に対する固定金型21側)に向かって延出するようにして配設される。
【0134】
即ち、これら複数のボアピン入れ子133・133・・・は、軸心方向を前後方向(固定金型21と可動金型22との対向方向)に向けつつ係止部133C・133C・・・を後方に向けて、互いに一定の間隔を有して左右方向(水平、且つボアピン入れ子133の軸心方向に対して直交方向)に並設される。
【0135】
スライド板132は、主に前側板132aや中間板132bや後側板132cなどにより構成される。
前側板132aは略長方形状の板状部材からなり、平面部の形状は、可動金型22に形成される凹部22aの正面視断面形状と略同程度に形成される。
また、前側板132aは前記凹部22aの内部において、長手方向を左右方向に向けつつ、平面部を前後方向に向けて配設される。
【0136】
前側板132aの上下方向中央部には、前後方向に貫通する複数の貫通孔132d・132d・・・が穿孔される。
前側板132aの厚み寸法は、連結部133B・133B・・・の軸心方向の長さ寸法に比べて小さく形成されるとともに、前記貫通孔132d・132d・・・は、正面視において、複数のボアピン入れ子133・133・・・が配設される位置と同じ位置に形成されるとともに、その断面形状は、連結部133B・133B・・・の断面形状と略同一となるようにして形成される。
【0137】
また、前側板132aの前面の上下方向中央部には、ウォータージャケット入れ子134が前方に延出するようにして固設され、該ウォータージャケット入れ子134の基部134bに形成される複数の貫通孔134c・134c・・・は、前側板132aに形成されるこれら複数の貫通孔132d・132d・・・と各々連通される。
【0138】
そして、複数のボアピン入れ子133・133・・・は、各々係止部133Cを後方に向けつつ前方より前側板132aに挿嵌される。
その結果、複数のボアピン入れ子133・133・・・は、本体部133Aの後端部をウォータージャケット入れ子134の基部134bに形成される貫通孔134c・134c・・・に挿入され、且つ連結部133Bを前側板132aの貫通孔132d・132d・・・に挿入された状態によって、各々前側板132aの前面から前方へ延出するようにして配設される。
【0139】
なお、前側板132aの前面において、ウォータージャケット入れ子134の該周部近傍には、複数の鋳抜きピン135・135・・・が前方へ延出するようにして配設され、これら鋳抜きピン135・135・・・は、可動金型22の第二貫通孔22e・22e・・・を貫通することで、前方(可動金型22に対するキャビティ24側)に突出するようになっている。
【0140】
中間板132bは略長方形状の板状部材からなり、平面部の形状は、可動金型22に形成される凹部22aの正面視断面形状と略同程度に形成される。
また、中間板132bは前記凹部22aの内部において、長手方向を左右方向に向けつつ、平面部を前後方向に向けて配設される。
【0141】
中間板132bの上下方向中央部には、前後方向に貫通する複数の貫通孔132e・132e・・・が穿孔される。
前記貫通孔132e・132e・・・は、正面視において、複数のボアピン入れ子133・133・・・が配設される位置と同じ位置に形成されるとともに、その断面形状は、係止部133C・133C・・・の断面形状と略同一となるようにして形成される。
なお、中間板132bの厚み寸法(図4に示す寸法Y)は、各ボアピン入れ子133の係止部133Cの厚み寸法(図4に示す寸法Z)に比べて、幾分大きくなっている。
つまり、後側板132cは、係止部133Cの軸心方向の長さ寸法に比べて大きな間隔を有して、前側板132aに対して離間して配設される。
【0142】
そして、このような形状からなる中間板132bは、可動金型22の凹部22a内において、自身の前面を前側板132aの後面に密接させて該前側板132aに貼設され、その結果、前側板132aの貫通孔132d・132d・・・を介して後方へと突出されたボアピン入れ子133・133・・・の係止部133C・133C・・・が、中間板132bの貫通孔132e・132e・・・に各々挿入される。
【0143】
後側板132cは略長方形状の板状部材からなり、平面部の形状は、可動金型22に形成される凹部22aの正面視断面形状と略同程度に形成される。
また、後側板132cは前記凹部22aの内部において、長手方向を左右方向に向けつつ、平面部を前後方向に向けて配設される。
【0144】
そして、このような形状からなる後側板132cは、可動金型22の凹部22a内において、自身の前面を中間板132bの後面に密接させて該中間板132bに貼設され、その結果、中間板132bの貫通孔132e・132e・・・の後端部は後側板132cの前面により塞がれる。
【0145】
このように、スライド板132は、略長方形状からなる三枚の前側板132aと中間板132bと後側板132cと、を互いに平面部を密接させつつ貼設することによって形成される。
【0146】
即ち、スライド板132は、ボアピン入れ子133側(前側)に配設される前側板132aと、ボアピン入れ子133の軸心方向に沿って、前側板132aに対して、ボアピン入れ子133側と対向する側(後側)に配設される後側板132cと、を有して構成され、これら前側板132aと後側板132cとの間に中間板132bが挟持される。
【0147】
その結果、前側板132aの貫通孔132d・132d・・・と、中間板132bの貫通孔132e・132e・・・とが互いに連通され、スライド板132の前部には、側面断面視「T」字状の複数の凹部132f・132f・・・が形成される。つまり、スライド板132には、スライド板132の前面に開口する小径孔と、前記小径孔の後方に連設され前記小径孔よりも大径の大径穴とで構成される複数の凹部132f・132f・・・が形成されている。
【0148】
そして、これら凹部132f・132f・・・によって、ボアピン入れ子133・133・・・の連結部133B・133B・・・、および係止部133C・133C・・・は、前後方向に摺動可能に支持されるとともに、前記係止部133C・133C・・・の前面、および後面が、それぞれ前側板132a、および後側板132cと当接することで、ボアピン入れ子133・133・・・の前後方向への移動が規制されるのである。
【0149】
換言すれば、複数のボアピン入れ子133・133・・・は、スライド板132の前面、即ちウォータージャケット入れ子134や複数の鋳抜きピン135・135・・・など、他の入れ子が設けられる側面において、前側板132aと後側板132cとの間隙に限り、スライド板132に対して、これらウォータージャケット入れ子134や複数の鋳抜きピン135・135・・・など複数の入れ子の突出方向に沿って移動可能に、スライド板132と連結されるのである。
【0150】
ここで、可動入れ子ユニット103は、第一、および第二貫通孔22c・222e・22e・・・を介して、これら複数のボアピン入れ子133・133・・・や鋳抜きピン135・135・・・、およびウォータージャケット入れ子134が前方に向かって各々延出するようにして、可動金型22内に内装されるとともに、スライド板32(後側板132C)の後面には、油圧シリンダーのロッド136の先端部が、ボルトなどの締結部材(図示せず)を介して着脱可能に固設される。
【0151】
そして、前記油圧シリンダーのロッド136を後方に向かって移動させることで、スライド板132は可動金型22の凹部22a内を後方に向かって摺動し、これら複数のボアピン入れ子133・133・・・や鋳抜きピン135・135・・・、およびウォータージャケット入れ子134は、後方に向かって移動される。
【0152】
より具体的には、ロッド136を前方に向かって移動すると、後側板132cの前面と、ボアピン入れ子133・133・・・の係止部133C・133C・・・の後端面と、が当接され、これらボアピン入れ子133・133・・・は、前側板132aの前面に設けられるウォータージャケット入れ子134や鋳抜きピン135・135・・・とともに、前方へと摺動される。
【0153】
一方、ロッド136を後方に向かって移動すると、先ず、前側板132aの前面に設けられるウォータージャケット入れ子134や鋳抜きピン135・135・・・が後方に向かって摺動される。
【0154】
その後、前側板132aの後面とボアピン入れ子133・133・・・の係止部133C・133C・・・の前端面と、が当接された時点より、これらボアピン入れ子133・133・・・は、ウォータージャケット入れ子134や鋳抜きピン135・135・・・とともに、後方に向かって摺動されることとなる。
【0155】
このように、本実施例(第二実施例)における可動入れ子ユニット103は、入れ子部131を後方に向かって摺動させる場合において、ボアピン入れ子133と、鋳抜きピン135・135・・・を含むウォータージャケット入れ子134との移動開始に、タイム・ラグを生じるように構成される。
【0156】
なお、可動金型22の凹部22aの前端面22bにおいて、その背面視中央部には、環状の第一シール部材128が、第一、および第二貫通孔22c・22e・22e・・・をまとめて取り囲むようにして配設される。
【0157】
また、複数のボアピン入れ子133・133・・・において、本体部133A・133A・・・の後端面には環状の第二シール部材129・129・・・が各々配設される。
【0158】
そして、前記油圧シリンダーによって可動入れ子ユニット103が前方に移動されることで、前側板132aの前面と、凹部22aの前端面22bとによって第一シール部材128は押圧され、また、前側板132aの前面と、ボアピン入れ子133・133・・・の本体部133A・133A・・・の後端面とによって第二シール部材129・129・・・は押圧される。
【0159】
その結果、これら押圧された第一シール部材128と第二シール部材129・129・・・とによって、凹部22aの内部は第一、および第二貫通孔22c・22e・22e・・・の内部と隔絶されることとなり、鋳造金型2の「型閉め」状態において、可動入れ子ユニット3を前方に移動することで、凹部22aの内部はシール部材28によって、キャビティ24の内部と隔絶されるのである。
【0160】
[脱型方法(第二実施例)]
次に、第二実施例に係る減圧鋳造装置101の脱型方法について、図5を用いて説明する。
なお、以下の説明に関しては、便宜上、図5における矢印Aの方向を前方と規定して記載する。また、図5においては、図面上の上下方向を減圧鋳造装置101の上下方向と規定して、以下説明する。
【0161】
本実施例(第二実施例)における減圧鋳造装置101は、前述のとおり、鋳造製品20Aに関する鋳造金型2からの脱型時において、鋳造製品20Aより入れ子部131を引き抜く際に、ボアピン入れ子133と、鋳抜きピン135を含むウォータージャケット入れ子134との間に、タイム・ラグを生じるように構成した点に関して、第一実施例における減圧鋳造装置1と異なる。
【0162】
よって、以下の説明においては、鋳造金型2のキャビティ24(図4を参照)内に流し込まれた溶融金属20が冷却されて凝固し、鋳造製品20Aが成形されるまでの動作については省略し、主に、鋳造金型2の「型開き」が完了し、鋳造製品20Aより入れ子部131が引き抜かれる際の動作について詳述する。
【0163】
キャビティ24内の溶融金属20が十分に凝固し、鋳造製品20Aの成形が完成すると、鋳造金型2は直ちに「型開き」状態となり、鋳造製品20Aに関する鋳造金型2からの脱型が開始される。
【0164】
即ち、図5(a)に示すように、鋳造金型2の「型開き」が完了した直後においては、鋳造製品20Aは、取出しロボット8によって一端部を把持されつつ、射出チップ26の押圧力によって、略平面状に形成される可動金型22の前面に、後端面(鋳造製品20Aにおける可動金型22に臨む端面)を押し当てられた状態によって保持される。
【0165】
なお、この時点においては、鋳造製品20Aの内部には、可動入れ子ユニット103の入れ子部131が挿嵌されており、該可動入れ子ユニット103によって鋳造製品20Aは掛止される。
【0166】
鋳造金型2の「型開き」が完了すると、鋳造製品20Aは、減圧鋳造装置101に備えられる取出しロボット8によって一端部を把持される。
その後、図5(b)に示すように、射出チップ26が前方へと移動することで、鋳造製品20Aは射出チップ26の押止状態より開放され、可動入れ子ユニット103が後方への摺動を開始する。
【0167】
可動入れ子ユニット103が後方へと摺動すると、先ずウォータージャケット入れ子134と鋳抜きピン135とが後方へと摺動される。
即ち、これらウォータージャケット入れ子134と鋳抜きピン135とは、スライド板132(前側板132a)の前面に直接固設されており、該スライド板132の後方への摺動に追従して、これらウォータージャケット入れ子134と鋳抜きピン135は、後方へと摺動される。
【0168】
一方、ボアピン入れ子133は、連結部133B、および係止部133Cを介して、スライド板132に形成される凹部132f内を前後方向に摺動可能に支持されるため、スライド板132が後方への摺動を開始しても、直ちには後方へと摺動せず、鋳造製品20Aの内部に留まることとなる。
【0169】
そして、スライド板132の後方への移動距離が、中間板132bの厚み寸法(図4に示す寸法Y)と、ボアピン入れ子133の係止部133Cの厚み寸法(図4に示す寸法Z)との差分(Y−Z)に達すると、前記係止部133Cの前端面は前側板132aの後面と当接される。
【0170】
その後、図5(c)に示すように、可動入れ子ユニット103がさらに後方へと摺動すると、ボアピン入れ子133は、係止部133Cを介してスライド板132の前側板132aによって後方へと引き抜かれるとともに、前側板132aの前面に固設されるウォータージャケット入れ子134や鋳抜きピン135もさらに後方へと摺動される。
【0171】
そして、鋳造製品20Aより、これらボアピン入れ子133やウォータージャケット入れ子134や鋳抜きピン135からなる入れ子部131が完全に抜けきると、鋳造製品20Aは、略平面状に形成される可動金型22の前面に、後端面(鋳造製品20Aにおける可動金型22に臨む端面)を押し当てつつ、取出しロボット8のみによって支持される状態となる。
【0172】
その後、鋳造製品20Aは取出しロボット8によって鋳造金型2より取出され、鋳造製品20Aに関する鋳造金型2からの脱型が完了するのである。
【0173】
以上のように、第一、および第二本実施例における減圧鋳造装置1(101)は、複数の分割された、固定金型21や可動金型22やスライド金型23・23・・・などからなる金型群から構成される鋳造金型2のキャビティ24内を減圧して鋳造製品20Aを鋳造する減圧鋳造装置1(101)であって、前記複数の金型群21・22・23・・・のうち何れか一つの金型部位(本実施例においては、可動金型22)において、キャビティ24側の側面(可動金型22の前面)から該キャビティ24に向かって突設される、ボアピン入れ子33(133)やウォータージャケット入れ子34(134)や鋳抜きピン35(135)などの複数の入れ子を備え、前記複数の入れ子33・34・35(133・134・135)は、前記キャビティ24に対して進退する方向(可動金型22における前後方向)へ移動可能に配設されることとしている。
【0174】
また、第一、および第二本実施例の減圧鋳造装置1(101)に拠る減圧鋳造方法は、複数の分割された、固定金型21や可動金型22やスライド金型23・23・・・などからなる金型群から構成される鋳造金型2のキャビティ24内を減圧して鋳造製品20Aを鋳造する減圧鋳造装置1(101)であって、前記複数の金型群21・22・23・・・のうち何れか一つの金型部位(本実施例においては、可動金型22)において、キャビティ24側の側面(可動金型22の前面)から該キャビティ24に向かって突設される、ボアピン入れ子33(133)やウォータージャケット入れ子34(134)や鋳抜きピン35(135)などの複数の入れ子を備え、前記複数の入れ子33・34・35(133・134・135)は、前記キャビティ24に対して進退する方向(可動金型22における前後方向)へ移動可能に配設され、前記鋳造製品20Aの前記鋳造金型2からの脱型は、前記鋳造金型2を「型開き」した後に、前記複数の入れ子33・34・35(133・134・135)を前記キャビティ24に対して退行(後方へ移動)することで行われることとしている。
【0175】
このような構成を有することで、第一、および第二本実施例の減圧鋳造装置1(101)、および減圧鋳造方法によれば、良好な鋳造品質を確保するべく、鋳造金型より鋳造製品を押出すための押出しピンと、該鋳造金型に形成される押出しピン用の貫通孔と、の隙間を介して離型剤や冷却水などがキャビティ内へ侵入するのを防ぐために、押出しピン自身を廃止するとともに、鋳造製品を破損させることなく、鋳造金型より確実に脱型することが可能な減圧鋳造装置および減圧鋳造法を提供することができる。
【0176】
即ち、第一、および第二本実施例における減圧鋳造装置1(101)、および減圧鋳造方法においては、鋳造金型2を「型開き」した後に、複数の入れ子33・34・35(133・134・135)自身を可動金型22の後面側に移動して、複数の入れ子33・34・35(133・134・135)を鋳造製品20Aの内部より引き抜くため、あえて、これら複数の入れ子33・34・35(133・134・135)から鋳造製品を押出すための押出しピンを設ける必要もない。
【0177】
また、これら複数の入れ子33・34・35(133・134・135)が可動金型22の後面側に移動すると、鋳造製品20Aとこれら複数の入れ子33・34・35(133・134・135)との離型抵抗によって、鋳造製品20Aも可動金型22の後面側に移動しようとするが、鋳造製品20Aは、途中可動金型22に堰きとめられる。
つまり、鋳造製品20Aの内部よりこれら複数の入れ子33・34・35(133・134・135)を引き抜く際は、鋳造製品20Aは、その後端面(複数の入れ子33・34・35(133・134・135)が挿嵌される側の端面)において、略平面状に形成される可動金型22の前面(複数の入れ子33・34・35(133・134・135)が突設される側の面)と当接される。
【0178】
よって、鋳造製品20Aの内部よりこれら複数の入れ子33・34・35(133・134・135)を引き抜く際に生じる反力は、略平面状に形成される可動金型22の前面全体で受けることとなり、従来のような、鋳造製品20Aとスライド金型23・23・・・(可動中間金型)との間に発生する剪断方向の反力によって、鋳造製品20Aを保持する場合に比べて、より安定的に鋳造製品20Aの姿勢を保持することができる。
従って、鋳造製品20Aは、脱型中に破損する心配もなく、確実に鋳造金型2より脱型される。
【0179】
また、第一、および第二本実施例における減圧鋳造装置1(101)では、前記複数の入れ子33・34・35(133・134・135)を備える可動金型(金型部位)22は、キャビティ24側の面(可動金型22の前面)と該キャビティ24側の面とは反対側の面(可動金型22の後面)とを連通する第一・第二貫通孔22c・22eを有し、前記複数の入れ子33・34・35(133・134・135)は、前記第一・第二貫通孔22c・22eに貫装されるとともに、前記複数の入れ子33・34・35(133・134・135)における、前記キャビティ24側とは反対側の端部(複数の入れ子33・34・35(133・134・135)の後端部)は、スライド板32(132)によって連結されることとしている。
【0180】
また、第一、および第二本実施例における減圧鋳造方法では、前記複数の入れ子33・34・35(133・134・135)を備える可動金型(金型部位)22は、キャビティ24側の面(可動金型22の前面)と該キャビティ24側の面とは反対側の面(可動金型22の後面)とを連通する第一・第二貫通孔22c・22eを有し、前記複数の入れ子33・34・35(133・134・135)は、前記第一・第二貫通孔22c・22eに貫装されるとともに、前記複数の入れ子33・34・35(133・134・135)における、前記キャビティ24側とは反対側の端部(複数の入れ子33・34・35(133・134・135)の後端部)は、スライド板32(132)によって連結され、前記スライド板32(132)を前記キャビティに対して退行(後方へ移動)させることで、前記複数の入れ子は前記キャビティに対して退行(後方へ移動)することとしている。
【0181】
このように、これら複数の入れ子33・34・35(133・134・135)は、前記スライド板32(132)を介して一斉に移動する構成としたため、これら複数の入れ子33・34・35(133・134・135)を移動させるためのアクチュエータについては、前記スライド板32(132)を移動させるための油圧シリンダー1基のみで足り、経済的である。
【0182】
また、第一、および第二本実施例における減圧鋳造装置1(101)、および減圧鋳造方法においては、前記第一・第二貫通孔22c・22eの貫通方向(可動金型22における前後方向)において、前記第一・第二貫通孔22c・22eの断面形状(の合計)は、前記スライド板32(132)の断面形状に比べて小さく形成され、前記複数の入れ子33・34・35(133・134・135)を備える可動金型(金型部位)22のキャビティ24側の面(可動金型22の前面)とは反対側の面(可動金型22の後面)における前記第一・第二貫通孔22c・22eの外周部と、前記スライド板32(132)との間には、環状のシール部材28(128)が設けられることとしている。
【0183】
また、第一、および第二本実施例における減圧鋳造方法では、前記第一・第二貫通孔22c・22eの貫通方向(可動金型22における前後方向)において、前記第一・第二貫通孔22c・22eの断面形状(の合計)は、前記スライド板32(132)の断面形状に比べて小さく形成され、前記複数の入れ子33・34・35(133・134・135)を備える可動金型(金型部位)22のキャビティ24側の面(可動金型22の前面)とは反対側の面(可動金型22の後面)における前記第一・第二貫通孔22c・22eの外周部と、前記スライド板32(132)との間には、環状のシール部材28(128)が設けられ、前記可動金型(金型部位)22のキャビティ24側の面(可動金型22の前面)とは反対側の面(可動金型22の後面)と、前記スライド板32(132)とによって前記シール部材28(128)を押圧することで、前記第一・第二貫通孔22c・22eにおけるキャビティ24側と該キャビティ24の反対側とは隔絶されることとしている。
【0184】
このような構成を有することで、可動金型22の前記複数の入れ子33・34・35(133・134・135)が設けられるキャビティ24側(前面側)と、スライド板32(132)側(後面側)とは、前記第一・第二貫通孔22c・22eによって連通されることなく、シール部材28(128)によって確実に隔絶される。
【0185】
よって、図7に示すような従来の減圧鋳造装置301のように、例えばキャビティ324内を減圧する際に、可動金型322の裏面側に設けられる凹部322a内も同時に減圧して、これら複数の隙間322f・322f・・・の両端部における気圧差をなくし、離型剤や冷却水などからなる水分の、キャビティ224内への侵入を防ぐための減圧手段(真空タンク307や真空ポンプ308など)を設ける必要もなくなる。
よって鋳造金型2(具体的には可動金型22)の構造も簡素化することができ、設備全体として経済的である。
【0186】
また、第二実施例における減圧鋳造装置101、および鋳造方法においては、前記鋳造製品20Aは、シリンダーブロックであり、前記複数の入れ子133・134・135は複数のボアピン入れ子133・133・・・を有して構成され、前記複数のボアピン入れ子133・133・・・は、前記スライド板132に対して、前記複数の入れ子133・134・135の突出方向(可動金型22における前後方向)に沿って移動可能に、前記スライド板132と連結されることとしている。
【0187】
また、本実施例における減圧鋳造方法では、前記鋳造製品20Aは、シリンダーブロックであり、前記複数の入れ子133・134・135は複数のボアピン入れ子133・133・・・を有して構成され、前記複数のボアピン入れ子133・133・・・は、前記スライド板132に対して、前記複数の入れ子133・134・135の突出方向(可動金型22における前後方向)に沿って移動可能に、前記スライド板132と連結され、前記スライド板132が前記キャビティ24に対して退行(後方へ移動)する際は、前記ボアピン入れ子133・133・・・以外の複数の入れ子(ウォータージャケット入れ子134や鋳抜きピン135など)が退行(後方へ移動)した後に、前記ボアピン入れ子133・133・・・が退行(後方へ移動)することとしている。
【0188】
このように、スライド板132を可動金型22の後面側に向かって移動する際、ボアピン入れ子133と、鋳抜きピン135を含むウォータージャケット入れ子134との間に、タイム・ラグを生じるように構成することで、スライド板132に設けられるアクチュエータの出力を低減することができ、設備全体として経済的である。
【0189】
即ち、鋳造製品20Aより、これら複数の入れ子部133・134・135を引き抜く際は、先ず、鋳抜きピン135を含むウォータージャケット入れ子134が鋳造製品20Aより引き抜かれ、その後、ボアピン入れ子133が該鋳造製品20Aより引き抜かれる。
【0190】
よって、前記アクチュエータに必要な出力としては、スライド板132の移動直後においては、鋳造金型2との離型抵抗が比較的小さな鋳抜きピン135を含むウォータージャケット入れ子134を、鋳造製品20Aより引き抜くための出力で足り、その後は、これら鋳抜きピン135を含むウォータージャケット入れ子134に比べれば、鋳造金型2との離型抵抗は比較的大きいものの、ボアピン入れ子133のみを鋳造製品20Aより引き抜くための出力で足りる。
【0191】
従って、設備全体としてみれば、スライド板132に設けられるアクチュエータについて、これら複数の入れ子部133・134・135を鋳造製品20Aより引き抜くために必要な出力を低減することができるのである。
【0192】
また、第二実施例における減圧鋳造装置101、および減圧鋳造方法においては、前記ボアピン入れ子133の前記スライド板132側の端部には、短柱部材からなる係止部133Cが形成され、前記スライド板132は前記係止部133Cのキャビティ24側の面に係止する第一の係止面(前側板132aの後面)と、前記係止部133Cのキャビティ24側の面とは反対側の面に係止する第二の係止面(後側板132cの前面)とを備え、前記係止部133Cが前記第一の係止面(前側板132aの後面)および第二の係止面(後側板132cの前面)に係止することで、前記ボアピン入れ子133・133・・・のスライド板132に対する移動が規制される、こととしている。
【0193】
このような構成を有することで、他に別途、ボアピン入れ子133にアクチュエータを設けるなど複雑な構造を有することもなく、ボアピン入れ子133と、鋳抜きピン135を含むウォータージャケット入れ子134との間に、タイム・ラグを生じるような構成を実現することができ、経済的である。
【符号の説明】
【0194】
1 減圧鋳造装置(第一実施例)
2 鋳造金型
20A 鋳造製品
21 固定金型
22 可動金型
22c 第一貫通孔
22e 第二貫通孔
23 スライド金型
24 キャビティ
28 シール部材
32 スライド板
33 ボアピン入れ子
34 ウォータージャケット入れ子
35 鋳抜きピン
101 減圧鋳造装置(第二実施例)
128 第一シール部材
132 スライド板
132a 前側板
132c 後側板
133 ボアピン入れ子
133C 係止部
134 ウォータージャケット入れ子
135 鋳抜きピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の分割された金型群から構成される鋳造金型のキャビティ内を減圧して鋳造製品を鋳造する減圧鋳造装置であって、
前記複数の金型群のうち何れか一つの金型部位において、キャビティ側の側面から該キャビティに向かって突設される複数の入れ子を備え、
前記複数の入れ子は、前記キャビティに対して進退する方向へ移動可能に配設される、
ことを特徴とする減圧鋳造装置。
【請求項2】
前記複数の入れ子を備える金型部位は、キャビティ側の面と該キャビティ側の面とは反対側の面とを連通する貫通孔を有し、
前記複数の入れ子は、前記貫通孔に貫装されるとともに、
前記複数の入れ子における、前記キャビティ側とは反対側の端部は、スライド板によって連結される、
ことを特徴とする、請求項1に記載の減圧鋳造装置。
【請求項3】
前記貫通孔の貫通方向において、前記貫通孔の断面形状は、前記スライド板の断面形状に比べて小さく形成され、
前記複数の入れ子を備える金型部位のキャビティ側の面とは反対側の面における前記貫通孔の外周部と、前記スライド板との間には、環状のシール部材が設けられる、
ことを特徴とする、請求項2に記載の減圧鋳造装置。
【請求項4】
前記鋳造製品は、シリンダーブロックであり、
前記複数の入れ子は複数のボアピン入れ子を有して構成され、
前記複数のボアピン入れ子は、
前記スライド板に対して、前記複数の入れ子の突出方向に沿って移動可能に、前記スライド板と連結される、
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項3のうちのいずれか一項に記載の減圧鋳造装置。
【請求項5】
前記ボアピン入れ子の前記スライド板側の端部には、短柱部材からなる係止部が形成され、
前記スライド板は前記係止部のキャビティ側の面に係止する第一の係止面と、前記係止部のキャビティ側の面とは反対側の面に係止する第二の係止面とを備え、
前記係止部が前記第一の係止面および第二の係止面に係止することで、前記ボアピン入れ子のスライド板に対する移動が規制される、
ことを特徴とする、請求項4に記載の減圧鋳造装置。
【請求項6】
複数の分割された金型群から構成される鋳造金型のキャビティ内を減圧して鋳造製品を鋳造する減圧鋳造方法であって、
前記複数の金型群のうち何れか一つの金型部位において、キャビティ側の側面から該キャビティに向かって突設される複数の入れ子を備え、
前記複数の入れ子は、前記キャビティに対して進退する方向へ移動可能に配設され、
前記鋳造製品の前記鋳造金型からの脱型は、前記鋳造金型を「型開き」した後に、前記複数の入れ子を前記キャビティに対して退行することで行われる、
ことを特徴とする、減圧鋳造方法。
【請求項7】
前記複数の入れ子を備える金型部位は、キャビティ側の面と該キャビティ側の面とは反対側の面とを連通する貫通孔を有し、
前記複数の入れ子は、前記貫通孔に貫装されるとともに、
前記複数の入れ子における、前記キャビティ側とは反対側の端部は、スライド板によって連結され、
前記スライド板を前記キャビティに対して退行させることで、前記複数の入れ子は前記キャビティに対して退行する、
ことを特徴とする、請求項6に記載の減圧鋳造方法。
【請求項8】
前記貫通孔の貫通方向において、前記貫通孔の断面形状は、前記スライド板の断面形状に比べて小さく形成され、
前記複数の入れ子を備える金型部位のキャビティ側の面とは反対側の面における前記貫通孔の外周部と、前記スライド板との間には、環状のシール部材が設けられ、
前記金型部位のキャビティ側の面とは反対側の面と、前記スライド板とによって前記シール部材を押圧することで、前記貫通孔におけるキャビティ側と該キャビティの反対側とは隔絶される、
ことを特徴とする、請求項7に記載の減圧鋳造方法。
【請求項9】
前記鋳造製品は、シリンダーブロックであり、
前記複数の入れ子は複数のボアピン入れ子を有して構成され、
前記複数のボアピン入れ子は、
前記スライド板に対して、前記複数の入れ子の突出方向に沿って移動可能に、前記スライド板と連結され、
前記スライド板が前記キャビティに対して退行する際は、前記ボアピン入れ子以外の複数の入れ子が退行した後に、前記ボアピン入れ子が退行する、
ことを特徴とする、請求項6乃至請求項8に記載の減圧鋳造方法。
【請求項10】
前記ボアピン入れ子の前記スライド板側の端部には、短柱部材からなる係止部が形成され、
前記スライド板は前記係止部のキャビティ側の面に係止する第一の係止面と、前記係止部のキャビティ側の面とは反対側の面に係止する第二の係止面とを備え、
前記係止部が前記第一の係止面および第二の係止面に係止することで、前記ボアピン入れ子のスライド板に対する移動が規制される、
ことを特徴とする、請求項9に記載の減圧鋳造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−147960(P2011−147960A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10467(P2010−10467)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】