説明

減衰力発生装置

【課題】上下方向の振動とロール方向の振動を減衰する減衰力発生装置を提供する。
【解決手段】減衰力発生装置において、第1ビスカスカップリング22は、第1ハウジング30と左シャフト部12Lの相対回転により減衰力を発生する。第2ビスカスカップリング24は、車体に固定される第2ハウジング36と、第1ハウジング30と連動して回転する空芯部50の相対回転により減衰力を発生する。伝達機構は、左シャフト部12Lおよび右シャフト部12Rの回転を第1ハウジング30に伝達する。右シャフト部12Rは空芯部50に回転可能に内挿される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスカスカップリングを備える減衰力発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車体に伝達される上下方向の振動を抑制する手段として、それぞれの車輪に設けられたサスペンション装置が知られている。また、車体のロール方向の振動を抑制する手段として、スタビライザが知られている。これらのサスペンション装置およびスタビライザの設置スペースを小さくすることが望まれている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、左右のロッドの外端部は左右の車輪支持部材にそれぞれ連結され、左右のロッドの内端部は1つのロールダンパに接続され、車輪の上下動に応じてロッドが回転し、左右のロッドの相対回転に応じてロールダンパが減衰作用を発揮するロールダンパ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−182832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術において、これだけでは、車両の上下方向の十分な減衰を担うことができず、左右の車輪支持部材にショックアブソーバは引き続き必要となる。したがって、特許文献1の技術では、減衰機構として、ショックアブソーバを4つとロールダンパ装置を2つが車両に必要となり、それぞれの設置スペースを取られる。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、集約化した減衰力発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の減衰力発生装置は、第1シャフトおよび第2シャフトと、第1ハウジングと第1シャフトとの相対回転により減衰力を発生する第1ビスカスカップリングと、外部に固定される第2ハウジングと、第1ハウジングと連動して回転する空芯部との相対回転により減衰力を発生する第2ビスカスカップリングと、第1シャフトおよび第2シャフトの回転を第1ハウジングに伝達する伝達機構と、を備える。第2シャフトは、空芯部に回転可能に内挿される。
【0008】
この態様によると、第1ビスカスカップリングおよび第2ビスカスカップリングは、第1シャフトおよび第2シャフトから入力されるそれぞれの回転の向きが同方向であっても逆方向であっても、減衰力を発生することができる。また、空芯部に第2シャフトを回転可能に内挿することで、第2シャフトの回転を伝達機構に伝えることができ、第1ビスカスカップリングと第2ビスカスカップリングと伝達機構を1つにまとめることができる。
【0009】
第1ビスカスカップリングは、第1ハウジングの内周面に設けられたアウタープレートと、第1シャフトの外周面に設けられたインナープレートと、を有してもよい。第2ビスカスカップリングは、第2ハウジングの内周面に設けられたアウタープレートと、空芯部の外周面に設けられたインナープレートと、を有してもよい。これにより、インナープレートとアウタープレートとの回転速度差に応じて減衰力を発生することができる。
【0010】
伝達機構は、ディファレンシャル機構であって、第1シャフトおよび第2シャフトの回転量の和の半分の回転量を第1ハウジングに伝達してもよい。これにより、第1ビスカスカップリングと第2ビスカスカップリングとは、第1シャフトおよび第2シャフトの回転が同位相である場合も逆位相である場合も減衰力を発生することができる。
【0011】
第1シャフトおよび第2シャフトは、それぞれ湾曲するよう形成され、それぞれの一端が左右の車輪保持部材のいずれか一方に接続可能に設けられ、それぞれの他端が伝達機構に接続され、第2ハウジングは、車体に固定される部位を有してもよい。これによって、第1ビスカスカップリングにより車体のロール方向の振動を減衰することができ、第2ビスカスカップリングにより車体の上下方向の振動を減衰することができる。また、従来では車両に4つのショックアブソーバと2つのスタビライザとが設けられていたが、これら6つを2つに集約することができる。これにより、小型化および軽量化が可能となり、車輪周りの省スペース化を実現する。
【0012】
本発明の別の態様もまた、減衰力発生装置である。この装置は、第1シャフトおよび第2シャフトと、外部に固定されたアウターハウジングと、アウターハウジングと第1シャフトとの相対回転に応じて減衰力を発生する第1ビスカスカップリングと、アウターハウジングと第2シャフトとの相対回転に応じて減衰力を発生する第2ビスカスカップリングと、アウターハウジング内に設けられ、第1シャフトと第2シャフトとの相対回転に応じて減衰力を発生する第3ビスカスカップリングと、を備える。
【0013】
この態様によると、1つの減衰力発生装置で、第1シャフトおよび第2シャフトから入力された回転および相対回転のそれぞれに対して減衰力を発生することができる。具体的には、第1ビスカスカップリングと第2ビスカスカップリングは、第1シャフトと第2シャフトの回転のそれぞれに対して減衰力を発生する。また、第3ビスカスカップリングは、第1シャフトと第2シャフトの相対回転に対して減衰力を発生することができる。
【0014】
第3ビスカスカップリングは、第1シャフトと連動して回転するインナーハウジングの内周面に設けられたアウタープレートと、第2シャフトの外周面に設けられたインナープレートと、を有してもよい。インナーハウジングは、第1シャフトの端部に連結され、第2シャフトの端部を囲んでもよい。これにより、アウターハウジングの内部に第1シャフトと第2シャフトの相対回転に対して減衰力を発生する第3ビスカスカップリングを形成することができる。
【0015】
第1ビスカスカップリングは、アウターハウジングの内周面に設けられたアウタープレートと、第1シャフトの外周面に設けられたインナープレートと、ビスカスカップリング装置を有してもよい。第2ビスカスカップリングは、アウターハウジングの内周面に設けられたアウタープレートと、第2シャフトの外周面に設けられたインナープレートと、を有してもよい。これにより、インナープレートとアウタープレートとの回転速度差に応じて減衰力を発生することができる。
【0016】
第1シャフトおよび第2シャフトは、それぞれ湾曲するよう形成され、それぞれの一端が左右の車輪保持部材のいずれか一方に接続可能に設けられ、それぞれの他端がアウターハウジングに挿入され、アウターハウジングは車体に固定される部位を有してもよい。これにより、第1ビスカスカップリングと第2ビスカスカップリングは、左右の車輪のそれぞれの振動に対して減衰力を発生する。また、第3ビスカスカップリングは、第1シャフトと第2シャフトの相対回転に対して減衰力を発生することができ、車両のロール方向の振動に対して減衰力を発生することができる。また、従来では車両に4つのショックアブソーバと2つのスタビライザとが設けられていたが、これら6つを2つに集約することができ、小型化および軽量化が可能となり、車輪周りの省スペース化を実現する。
【0017】
本発明のさらに別の態様もまた、減衰力発生装置である。この装置は、それぞれ湾曲するよう形成され、それぞれの一端が左右の車輪保持部材に接続可能に設けられる第1シャフトおよび第2シャフトと、一体化され、第1シャフトおよび第2シャフトから入力された回転に対して減衰力を発生する複数のビスカスカップリングと、を備える。複数のビスカスカップリングのうちの少なくとも一つは、第1シャフトと第2シャフトの回転の差分に応じた減衰力を発生し、複数のビスカスカップリングのうちの少なくとも一つは、第1シャフトおよび第2シャフトの少なくともいずれかの回転に応じた減衰力を発生する。
【0018】
この態様によると、複数のビスカスカップリングは、車体の上下方向の振動と、車体のロール方向の振動を減衰することができる。従来車両に設けられていた4つのショックアブソーバと2つのスタビライザとを2つに集約することができ、小型化および軽量化が可能となり、車輪周りの省スペース化を実現する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、減衰力発生装置を集約化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態に係る減衰力発生装置の概略構成を示す図である。
【図2】第1実施形態に係るビスカスカップリング装置の断面図である。
【図3】第2実施形態に係るビスカスカップリング装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、実施形態に係る減衰力発生装置100の概略構成を示す。減衰力発生装置100は、ビスカスカップリング装置10、右シャフト15Rおよび左シャフト15L(以下、総称する場合は「シャフト15」という)を備える。減衰力発生装置100は、車両の前輪側および後輪側にそれぞれ設けられる。
【0022】
右シャフト15Rおよび左シャフト15Lは、右シャフト部12R、左シャフト部12L(以下、総称する場合は「シャフト部12」という)と、右アーム部14Rおよび左アーム部14L(以下、総称する場合は、「アーム部14」という)をそれぞれ有する。右アーム部14Rの一端は右車輪16Rを保持する車輪保持部材(図示せず)に、左アーム部14Lの一端は左車輪16Lを保持する車輪保持部材(図示せず)に、それぞれ連結されている。以下、右車輪16Rおよび左車輪16Lを総称する場合は、「車輪16」という。右アーム部14Rおよび左アーム部14Lの他端は、右シャフト部12Rおよび左シャフト部12Lにそれぞれ繋がっている。すなわち、シャフト15は、湾曲するようL字状に形成され、左右の車輪16にそれぞれ接続可能に設けられる。
【0023】
シャフト部12は車幅方向に延び、アーム部14はシャフト部12の車輪側の一端から湾曲して車両前方または車両後方に延びる。シャフト部12は、アーム部14へと湾曲する箇所の手前部分において、車体に固定された支持部材(不図示)によって回転可能に支持されてよい。フロントのアーム部14は、左右の前輪をそれぞれ支持するロアアーム(不図示)等にボールジョイント(不図示)等を介して回動可能に取り付けられる。リアのアーム部14は、左右の後輪に駆動力を伝達する車軸を支持するリヤアクスルハウジング(不図示)もしくはロアアーム等にボールジョイント等を介して回動可能に取り付けられる。
【0024】
右シャフト15Rおよび左シャフト15Lは、車載状態において、コの字状に設けられる。右シャフト部12Rおよび左シャフト部12Lの一端は、相対回転可能にビスカスカップリング装置10に接続されている。右シャフト部12Rおよび左シャフト部12Lは、同軸に配置される。シャフト15は、車輪16の振動をビスカスカップリング装置10に伝達する伝達部材として機能する。ビスカスカップリング装置10は、一部が車体に固定されている。
【0025】
右アーム部14Rは、右車輪16RのストロークSRに応じて、回転量θR回転する。また、左アーム部14Lは、左車輪16LのストロークSLに応じて、回転量θL回転する。右シャフト部12Rおよび左シャフト部12Lは、右アーム部14Rおよび左アーム部14Lに連動して、それぞれアーム部14の軸方向にθRおよびθL回転する。そして、ビスカスカップリング装置10には、右シャフト部12Rおよび左シャフト部12LからθRおよびθLの回転が入力される。すなわち、車輪16の上下のストロークがシャフト15により回転に変換されて、ビスカスカップリング装置10に伝達される。
【0026】
図2は、第1実施形態に係るビスカスカップリング装置10の断面図である。ビスカスカップリング装置10は、ディファレンシャル機構20、第1ビスカスカップリング22および第2ビスカスカップリング24を備える。ビスカスカップリング装置10の外形は、円筒形状に形成される。
【0027】
ディファレンシャル機構20は、車輪16からの振動を第1ビスカスカップリング22および第2ビスカスカップリング24に伝達する伝達機構として機能する。ディファレンシャル機構20は、第1ハウジング30の一部と、係合部34と、シャフト部12の端部とを有する。シャフト部12のそれぞれの端部がディファレンシャル機構20に接続されている。ディファレンシャル機構20は、第1ハウジング30内の一部に設けられる。すなわち、第1ハウジング30内には、第1ビスカスカップリング22およびディファレンシャル機構20が設けられ、第1ビスカスカップリング22とディファレンシャル機構20を仕切る内壁44が設けられている。内壁44の中央には貫通孔が形成され、その貫通孔に左シャフト部12Lが挿通されている。内壁44の貫通孔には、軸受(不図示)が設けられ、左シャフト部12Lを回転可能に支持する。
【0028】
右シャフト部12Rのビスカスカップリング装置10側の端部42R、および左シャフト部12Lの端部42L(以下、総称する場合は「端部42」という)は、円盤状のギアに形成され、ディファレンシャル機構20の第1ハウジング30内において対向配置される。また、端部42は、シャフト部12と同様にそれぞれ回転する。
【0029】
係合部34は、シャフト部12の端部42と係合し、ピニオンギアとして機能する。2つの係合部34は、シャフト部12の端部42を挟んで対向配置され、第1ハウジング30の内周面に連結される。すなわち、シャフト部12の回転は係合部34を介して第1ハウジング30に伝達される。右シャフト部12Rおよび左シャフト部12Lの回転が同じ向きで同じ回転量である場合には、係合部34自体は全く回転せず、右シャフト部12Rおよび左シャフト部12Lの回転量がずれている場合に、ずれに応じて係合部34が回転する。
【0030】
第1ビスカスカップリング22は、第1ハウジング30の一部と、第1インナープレート26と、第1アウタープレート28と、第1ビスカスカップリング22に挿通された左シャフト部12Lの一部とを有する。第1ハウジング30の左車輪16L側の端面46には、中央に貫通孔が形成され、その貫通孔に左シャフト部12Lが挿通されている。端面46の貫通孔には、軸受(不図示)が設けられ、左シャフト部12Lを回転可能に支持する。第1ビスカスカップリング22には、円筒形状の第1ハウジング30に囲繞され、密閉された空間である第1流体室32が形成される。第1流体室32にはシリコンオイルなどの粘性流体が充填され、左シャフト部12Lと内壁44の貫通孔の間、および左シャフト部12Lと端面46の貫通孔の間がオイルシール(不図示)により封止される。
【0031】
左シャフト部12Lの外周面には、複数枚の第1インナープレート26が設けられ、また第1ハウジング30の筒部48の内周面には、複数枚の第1アウタープレート28が設けられている。複数枚の第1インナープレート26と複数枚の第1アウタープレート28は交互に間隔をあけて配置される。
【0032】
第2ビスカスカップリング24は、空芯部50と、第2ハウジング36と、第2インナープレート38と、第2アウタープレート40とを有する。第2ハウジング36は、円筒形状に形成され、車体に固定される部位を有する。たとえば、第2ハウジング36の外周面が、サスペンションメンバや車体ボディなどの車体に、ビスや溶接などにより固定される。第2ハウジング36のそれぞれの端面54には、中央に貫通孔が形成され、それらの貫通孔に空芯部50が挿通されている。端面54の貫通孔には、軸受(不図示)が設けられ、空芯部50を回転可能に支持する。第2ビスカスカップリング24には、第2ハウジング36に囲繞され、密閉された空間である第2流体室52が形成される。第2流体室52にはシリコンオイルなどの粘性流体が充填され、空芯部50と端面54の貫通孔の間がオイルシール(不図示)により封止される。
【0033】
空芯部50は、内径がシャフト部12の外径より少し大きい円筒形状に形成され、第1ハウジング30の端面の中央孔から突出するように、第1ハウジング30に連結される。空芯部50と第1ハウジング30とは一体化されており、空芯部50は第1ハウジング30と連動して回転する。空芯部50には、右シャフト部12Rが回転可能に内挿される。
なお、空芯部50と右シャフト部12Rの間には軸受(不図示)が設けられ、右シャフト部12Rを回転可能に支持してもよい。このように構成することで、第1ビスカスカップリング22と第2ビスカスカップリング24とディファレンシャル機構20を一体化することができる。
【0034】
空芯部50には、複数枚の第2インナープレート38が設けられ、また第1ハウジング30の筒部48の内周面には、複数枚の第2アウタープレート40が設けられている。複数枚の第2インナープレート38と複数枚の第2アウタープレート40は交互に間隔をあけて配置される。
【0035】
ここで、第1ビスカスカップリング22および第2ビスカスカップリング24は、第1伝達部材と第2伝達部材の相対回転により減衰力を発生する。第1ビスカスカップリング22では、第1ハウジング30が第1伝達部材として機能し、第1シャフトが第2伝達部材として機能する。
【0036】
第2ビスカスカップリング24では、第2ハウジング36が第1伝達部材として機能し、空芯部50が第2伝達部材として機能する。第1伝達部材と第2伝達部材の相対回転により、それぞれに連結されている複数枚のインナープレートとアウタープレートとが差動回転し、その回転差に応じて粘性流体にせん断力が発生して、トルクが発生する。この発生トルクT0は、ビスカスカップリング装置10における減衰力となる。
【0037】
以下、ビスカスカップリングにおける発生トルクT0の計算式を示す。
【数1】

【0038】
Sn:プレート間隔(ピッチ)
N:流体動粘度
e:密度
ra:プレート重なり領域の大径
ri:プレート重なり領域の小径
Δn:回転速度差
なお、プレート間隔はアウタープレートとインナープレートの間隔をいい、プレート重なり領域はアウタープレートとインナープレートとをシャフト部12の軸方向にみて重なっている領域をいう。発生トルクT0は、回転速度差に対してリニアに比例して発生している。
【0039】
ディファレンシャル機構20は、右シャフト部12Rおよび左シャフト部12Lの回転量の和の半分の回転量を第1ハウジング30に伝達する。すなわち、第1ハウジング30は、右シャフト部12Rの回転量θRおよび左シャフト部12Lの回転量θLに応じて、(θR+θL)/2回転する。
【0040】
第1ビスカスカップリング22では、第1伝達部材として第1ハウジング30は、(θR+θL)/2回転し、第2伝達部材として左シャフト部12Lは、θL回転する。したがって、第1ビスカスカップリング22に生じる相対回転量は、(θR−θL)/2となり、第1ビスカスカップリング22は右シャフト部12Rおよび左シャフト部12Lの回転の差分に応じた減衰力を発揮する。
【0041】
第1ビスカスカップリング22では、右車輪16RのストロークSRと、左車輪16LのストロークSLとが上下逆方向である場合に減衰力が発生する。すなわち、第1ビスカスカップリング22は、車両が旋回するときなどに発生するロール方向の振動を減衰することができる。
【0042】
一方、第2ビスカスカップリング24では、第1伝達部材として第2ハウジング36は、固定されているため回転せず、第2伝達部材として空芯部50は、第1ハウジング30と同様に(θR+θL)/2回転する。したがって、第2ビスカスカップリング24に生じる相対回転量は、(θR+θL)/2となり、第2ビスカスカップリング24は右シャフト部12Rおよび左シャフト部12Lの回転の和に応じた減衰力を発揮する。
【0043】
第2ビスカスカップリング24では、右車輪16RのストロークSRと、左車輪16LのストロークSLとが上下に同じ方向である場合に減衰力が発生する。すなわち、車両が直進するときなどに発生する上下振動を減衰することができる。
【0044】
以上より、従来では車両に4つのショックアブソーバと2つのスタビライザとが設けられていたが、これらを2つに集約することができる。これにより、小型化および軽量化が可能となり、車輪周りの省スペース化を実現する。また、第1ビスカスカップリング22および第2ビスカスカップリング24は、右シャフト部12Rおよび左シャフト部12Lから入力されるそれぞれの回転の向きが同方向であっても逆方向であっても、減衰力を発生することができる。これにより、減衰力発生装置100は車両旋回時の安定性を高めることができる。
【0045】
なお、以上に説明した第1ビスカスカップリング22と第2ビスカスカップリング24との位置を転換して車両に組み付けてよい。また、ビスカスカップリング装置10は、車両以外に用いられてよく、その場合第2ハウジング36の外周面の一部は回転を規制可能な外部に固定されてよい。
【0046】
また、第1ビスカスカップリング22および第2ビスカスカップリング24のプレート間隔、流体動粘度、密度およびプレート重なり領域の少なくともいずれか一つの基礎設定を変更することで、第1ビスカスカップリング22および第2ビスカスカップリング24が発生する減衰力を調整することができる。すなわち、第1ビスカスカップリング22および第2ビスカスカップリング24は、同じ相対回転速度が入力された場合、それぞれが異なる減衰力を発生するようにしてもよい。これにより、車体の上下振動またはロールに対して発生する減衰力を調整することができ、たとえば、旋回に対して安定性が良い車両や、直進に対して安定性が良い車両を設計できる。
【0047】
図3は、第2実施形態に係るビスカスカップリング装置84の断面図である。ビスカスカップリング装置84は、第1ビスカスカップリング78、第3ビスカスカップリング80および第2ビスカスカップリング82を備える。第1ビスカスカップリング78および第2ビスカスカップリング82および第3ビスカスカップリング80は、第1伝達部材と第2伝達部材の相対回転により減衰力を発生する。ビスカスカップリング装置84の外形は、円筒形状に形成される。
【0048】
ビスカスカップリング装置84は、図1に示すビスカスカップリング装置10に代わって車両に組み付けられる。右シャフト部62Rと左シャフト部62L(以下、総称する場合は「シャフト部62」という)は、図1に示す左右の車輪16にアーム部14を介してそれぞれつながれる。すなわち、シャフト部62とアーム部14は、一体化されてシャフト15を形成する。
【0049】
アウターハウジング60は、円筒形状に形成され、車体に固定される部位を有する。たとえば、アウターハウジング60の外周面が、サスペンションメンバや車体ボディなどの車体に、ビスや溶接などにより固定される。アウターハウジング60の両端面92には、中央に貫通孔が形成され、それぞれの貫通孔に右シャフト部62Rと左シャフト部62Lが挿入されている。両端面92の貫通孔には、軸受(不図示)が設けられ、それぞれ右シャフト部62Rと左シャフト部62Lを回転可能に支持する。
【0050】
第1ビスカスカップリング78は、アウターハウジング60と左シャフト部62Lとの相対回転に応じて減衰力を発生する。第1ビスカスカップリング78は、内周面に複数枚のアウタープレート64を有し、第1伝達部材として機能するアウターハウジング60の一部と、外周面に複数枚のインナープレート66を有し、第2伝達部材として機能する左シャフト部62Lの一部と、を備える。複数枚のインナープレート66と複数枚のアウタープレート64は交互に間隔をあけて配置される。第1ビスカスカップリング78には、アウターハウジング60およびインナーハウジング72の左シャフト部62L側の端面94に囲繞され、密閉された空間である第1流体室86が形成される。第1流体室86にはシリコンオイルなどの粘性流体が充填され、左シャフト部62Lと貫通孔の間がオイルシール(不図示)により封止される。
【0051】
第2ビスカスカップリング82は、アウターハウジング60と右シャフト部62Rとの相対回転に応じて減衰力を発生する。第2ビスカスカップリング82は、内周面に複数枚のアウタープレート68を有し、第1伝達部材として機能するアウターハウジング60の一部と、外周面に複数枚のインナープレート70を有し、第2伝達部材として機能する右シャフト部62Rの一部と、を備える。複数枚のインナープレート70と複数枚のアウタープレート68は交互に間隔をあけて配置される。第2ビスカスカップリング82には、アウターハウジング60およびインナーハウジング72の右シャフト部62R側の端面96に囲繞され、密閉された空間である第2流体室90が形成される。第2流体室90にはシリコンオイルなどの粘性流体が充填され、右シャフト部62Rと貫通孔の間がオイルシール(不図示)により封止される。
【0052】
第3ビスカスカップリング80は、アウターハウジング60に囲まれ、右シャフト部62Rと左シャフト部62Lの相対回転に応じて減衰力を発生する。第3ビスカスカップリング80は、アウターハウジング60の内部に形成される。アウターハウジング60の中央には、アウタープレートが設けられていない空間が形成されており、そこにインナーハウジング72が配置される。第3ビスカスカップリング80は、内周面に複数枚のアウタープレート74を有し、左シャフト部62Lと連動して回転し、第1伝達部材として機能するインナーハウジング72と、外周面に複数枚のインナープレート76を有し、第2伝達部材として機能する左シャフト部62Lの一部と、を備える。複数枚のインナープレート76と複数枚のアウタープレート74は交互に間隔をあけて配置される。インナーハウジング72と右シャフト部62Rは一体化されてよい。
【0053】
インナーハウジング72の左シャフト部62L側の端面94には、中央に貫通孔が形成され、その貫通孔に左シャフト部62Lが挿通されている。端面94の貫通孔には、軸受(不図示)が設けられ、左シャフト部62Lを回転可能に支持する。円筒形状のインナーハウジング72は、右シャフト部62Rの端部に連結され、左シャフト部62Lの端部を囲む。インナーハウジング72の外径は、アウターハウジング60の内径より微少に小さくなるように形成される。このように構成することで、第1ビスカスカップリング78と第2ビスカスカップリング82と第3ビスカスカップリング80を一体化することができる。
【0054】
右シャフト部62Rの回転量をθRとし、左シャフト部62Lの回転量をθLとする。第1ビスカスカップリング78では、第1伝達部材として機能するアウターハウジング60は回転せず、第2伝達部材として機能する左シャフト部62LはθL回転するため、相対回転量はθLとなる。これにより、第1ビスカスカップリング78は、左シャフト部62Lの回転に応じた減衰力を発生することができる。
【0055】
第2ビスカスカップリング82では、第1伝達部材として機能するアウターハウジング60は回転せず、第2伝達部材として機能する右シャフト部62RはθR回転するため、相対回転量はθRとなる。これにより、第2ビスカスカップリング82は、右シャフト部62Rの回転に応じた減衰力を発生することができる。第1ビスカスカップリング78および第2ビスカスカップリング82は、それぞれ、左右の車輪にそれぞれ取り付けられていた従来のショックアブソーバと同じ役割を果たすことができ、右シャフト部62Rおよび左シャフト部62Lの回転に対してそれぞれ独立に減衰力を発生し、車体の上下方向の振動を減衰することができる。
【0056】
第3ビスカスカップリング80では、第1伝達部材として機能するインナーハウジング72はθR回転し、第2伝達部材として機能する左シャフト部62LはθL回転するため、相対回転量はθR−θLとなる。これにより、右シャフト部62Rおよび左シャフト部62Lの回転の差分に応じて減衰力を発生することができ、ロール方向の振動を減衰することができる。
【0057】
以上より、従来では車両に4つのショックアブソーバと2つのスタビライザとが設けられていたが、これらを簡易な構成で2つに集約することができる。これにより、小型化および軽量化が可能となり、車輪周りの省スペース化を実現する。また、1つのビスカスカップリング装置84で、右シャフト部62Rおよび左シャフト部62Lから入力された回転および相対回転のそれぞれに対して減衰力を発生することができる。具体的には、第1ビスカスカップリング78と第2ビスカスカップリング82は、右シャフト部62Rおよび左シャフト部62Lの回転のそれぞれに対して減衰力を発生する。また、第3ビスカスカップリング80は、右シャフト部62Rと左シャフト部62Lの相対回転に対して減衰力を発生することができる。
【0058】
なお、減衰力発生装置100は、車両以外に用いられてよく、その場合アウターハウジング60の外周面の一部は回転を規制可能な外部に固定されてよい。
【0059】
以上、本発明をいくつかの実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態はあくまで例示であり、実施の形態どうしの任意の組合せ、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスの任意の組合せなどの変形例もまた、本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能である。
【0060】
たとえば、L字状のシャフト15に替えて、車輪16の上下運動を回転運動に変換可能なリンク機構を用いてよい。
【符号の説明】
【0061】
10 ビスカスカップリング装置、 12R 右シャフト部、 12L 左シャフト部、 14R 右アーム部、 14L 左アーム部、 16R 右車輪、 16L 左車輪、 20 ディファレンシャル機構、 22 第1ビスカスカップリング、 24 第2ビスカスカップリング、 26 第1インナープレート、 28 第1アウタープレート、 30 第1ハウジング、 32 第1流体室、 34 係合部、 36 第2ハウジング、 38 第2インナープレート、 40 第2アウタープレート、 42 端部、 44 内壁、 46 端面、 48 筒部、 50 空芯部、 52 第2流体室、 54 端面、 60 アウターハウジング、 62R 右シャフト部、 62L 左シャフト部、 64 アウタープレート、 66 インナープレート、 68 アウタープレート、 70 インナープレート、 72 インナーハウジング、 74 アウタープレート、 76 インナープレート、 78 第1ビスカスカップリング、 80 第3ビスカスカップリング、 82 第2ビスカスカップリング、 84 ビスカスカップリング装置、 86 第1流体室、 88 第3流体室、 90 第2流体室、 92,94,96 端面、 100 減衰力発生装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1シャフトおよび第2シャフトと、
第1ハウジングと前記第1シャフトとの相対回転により減衰力を発生する第1ビスカスカップリングと、
外部に固定される第2ハウジングと、前記第1ハウジングと連動して回転する空芯部との相対回転により減衰力を発生する第2ビスカスカップリングと、
前記第1シャフトおよび前記第2シャフトの回転を前記第1ハウジングに伝達する伝達機構と、を備え、
前記第2シャフトは、前記空芯部に回転可能に内挿されることを特徴とする減衰力発生装置。
【請求項2】
前記第1ビスカスカップリングは、
前記第1ハウジングの内周面に設けられたアウタープレートと、
前記第1シャフトの外周面に設けられたインナープレートと、を有し、
前記第2ビスカスカップリングは、
前記第2ハウジングの内周面に設けられたアウタープレートと、
前記空芯部の外周面に設けられたインナープレートと、を有することを特徴とする請求項1に記載の減衰力発生装置。
【請求項3】
前記伝達機構は、ディファレンシャル機構であって、前記第1シャフトおよび前記第2シャフトの回転量の和の半分の回転量を前記第1ハウジングに伝達することを特徴とする請求項1または2に記載の減衰力発生装置。
【請求項4】
前記第1シャフトおよび前記第2シャフトは、それぞれ湾曲するよう形成され、それぞれの一端が左右の車輪保持部材のいずれか一方に接続可能に設けられ、それぞれの他端が前記伝達機構に接続され、
前記第2ハウジングは、車体に固定される部位を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の減衰力発生装置。
【請求項5】
第1シャフトおよび第2シャフトと、
外部に固定されたアウターハウジングと、
前記アウターハウジングと前記第1シャフトとの相対回転に応じて減衰力を発生する第1ビスカスカップリングと、
前記アウターハウジングと前記第2シャフトとの相対回転に応じて減衰力を発生する第2ビスカスカップリングと、
前記アウターハウジング内に設けられ、前記第1シャフトと前記第2シャフトとの相対回転に応じて減衰力を発生する第3ビスカスカップリングと、を備えることを特徴とする減衰力発生装置。
【請求項6】
前記第3ビスカスカップリングは、
前記第1シャフトと連動して回転するインナーハウジングの内周面に設けられたアウタープレートと、
前記第2シャフトの外周面に設けられたインナープレートと、を有し、
前記インナーハウジングは、前記第1シャフトの端部に連結され、前記第2シャフトの端部を囲むことを特徴とする請求項5に記載の減衰力発生装置。
【請求項7】
前記第1ビスカスカップリングは、
前記アウターハウジングの内周面に設けられたアウタープレートと、
前記第1シャフトの外周面に設けられたインナープレートと、ビスカスカップリング装置を有し、
前記第2ビスカスカップリングは、
前記アウターハウジングの内周面に設けられたアウタープレートと、
前記第2シャフトの外周面に設けられたインナープレートと、を有することを特徴とする請求項5または6に記載の減衰力発生装置。
【請求項8】
前記第1シャフトおよび前記第2シャフトは、それぞれ湾曲するよう形成され、それぞれの一端が左右の車輪保持部材のいずれか一方に接続可能に設けられ、それぞれの他端が前記アウターハウジングに挿入され、
前記アウターハウジングは車体に固定される部位を有することを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の減衰力発生装置。
【請求項9】
それぞれ湾曲するよう形成され、それぞれの一端が左右の車輪保持部材のいずれか一方に接続可能に設けられる第1シャフトおよび第2シャフトと、
一体化され、第1シャフトおよび第2シャフトから入力された回転に対して減衰力を発生する複数のビスカスカップリングと、を備え、
前記複数のビスカスカップリングのうちの少なくとも一つは、前記第1シャフトと前記第2シャフトの回転の差分に応じた減衰力を発生し、
前記複数のビスカスカップリングのうちの少なくとも一つは、前記第1シャフトおよび前記第2シャフトの少なくともいずれかの回転に応じた減衰力を発生することを特徴とする減衰力発生装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−286041(P2010−286041A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−139993(P2009−139993)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】