説明

減速機、ロボットハンド、ロボットおよび電子機器

【課題】バックラッシュの発生と貫通ピンの磨耗とを抑制できる減速機を提供する。
【解決手段】中空部の内周に複数のギア歯が形成されたリングギアと、複数のギア歯が前記リングギアの前記内周のギア歯と噛合する公転ギアと、前記公転ギアの中心位置に回動可能に設けられた円形カムを回動させて前記公転ギアを前記中心軸周りに公転させる第1回転軸と、前記公転ギアの貫通孔に挿入された貫通ピンと、前記貫通ピンを挿入し連結される連結孔を有し、前記リングギアの前記中空部に前記公転ギアを収納する第1蓋体および第2蓋体と、前記第2蓋体と連結されて前記公転ギアの自転による回動を出力する第2回転軸と、前記連結孔と前記貫通ピンとに接し、弾性を有する弾性部と、を備え、前記弾性部が前記貫通ピンと接する場所の面積の総和は、前記弾性部が前記連結孔と接する場所の面積の総和より大きい減速機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機、ロボット、ロボットハンドおよび電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
モーター等の動力源から得られる動力は、そのまま使用するには回転速度が高すぎたりトルクが不足したりすることが多い。そこで、減速機を用いて適した回転速度まで減速させて、必要な回転数と必要なトルクを発生させることが広く実施されている。
【0003】
大きな減速比が得られる減速機が特許文献1に開示されている。減速機はリングギアを備え、リングギアの内側にリングギアよりも少し小さく且つリングギアよりも歯数が少ない公転ギアを設けておく。公転ギアの中心位置には公転ギアに対して回動可能な状態で円形カムが設けられている。円形カムからはリングギアの中心軸上の位置に第1回転軸が立設されており、第1回転軸によってリングギアの中心軸周りに円形カムを回動させると、公転ギアはリングギアに噛合しながらリングギアの中心軸周りに公転する。このような構成では、公転ギアがリングギアの中心軸周りを一回公転する間に、公転の方向とは逆方向にリングギアとの歯数差分だけ公転ギアが自転するようになっている。従って、公転ギアの自転の動きを取り出すことで、第1回転軸に入力された回動を大きく減速させることができる。
【0004】
公転ギアの自転の動きは、公転ギアに設けられた貫通孔と、貫通孔に挿入された貫通ピンとによって取り出される。貫通孔と貫通ピンとの間にはクリアランスが設けられており、このクリアランスによって公転ギアの公転の動きを吸収しつつ、公転ギアが自転する動きを貫通ピンで取り出す。こうして貫通ピンで取り出した公転ギアの自転の動きは、貫通ピンが連結された第2回転軸から外部に出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−240852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した特許文献1に記載の減速機には、バックラッシュが発生し易いという問題があった。すなわち、第1回転軸の入力が第2回転軸から出力されるまでの間には、リングギアと公転ギアとが噛み合う部分で生じる通常のバックラッシュに加えて、公転ギアの貫通孔と貫通ピンとが当接する部分で生じるバックラッシュも存在する。後者のバックラッシュは、製造誤差に起因して生じるバックラッシュであり、その分だけ全体として大きなバックラッシュが発生し易くなる。その結果、第1回転軸の回転方向を反転するとき入力に対して出力トルクが得られない期間が発生していた。あるいは、第2回転軸に大きながたつきが発生した。また、貫通ピンは貫通孔と摺動してトルクを伝達するため、貫通ピンは磨耗する。
【0007】
そこで、公転ギアの貫通孔と貫通ピンとが当接する部分にバックラッシュが発生することを抑制もしくは回避し、貫通ピンの磨耗が抑制できる減速機が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、少なくとも上述の課題の一つを解決するように、下記の形態または適用例として実現され得る。
【0009】
〔適用例1〕本適用例の減速機は、中空部を有し、前記中空部の内周に複数のギア歯が形成されたリングギアと、複数のギア歯が形成され、前記リングギアの前記内周のギア歯と噛合する公転ギアと、前記公転ギアの中心位置に、前記公転ギアに対して回動可能に設けられた円形カムと、前記円形カムに設けられ、前記リングギアの中心軸上に位置し、前記中心軸周りに前記円形カムを回動させて前記公転ギアを前記中心軸周りに公転させる第1回転軸と、前記公転ギアに形成された貫通孔に挿入された貫通ピンと、前記貫通ピンを挿入し連結される連結孔を有し、前記リングギアの前記中空部に前記公転ギアを収納する第1蓋体および第2蓋体と、前記第2蓋体と連結され、前記中心軸上に設けられて前記公転ギアの自転による回動を出力する第2回転軸と、前記連結孔と前記貫通ピンとの間に位置し前記連結孔と前記貫通ピンとに接し、弾性を有する弾性部と、を備え、前記弾性部が前記貫通ピンと接する場所の面積の総和は、前記弾性部が前記連結孔と接する場所の面積の総和より大きいことを特徴とする。
【0010】
本適用例によれば、第1回転軸を回動させることにより、円形カムが中心軸周りに回動する。そして、円形カムが回動して公転ギアが中心軸周りに公転する。公転ギアはリングギアと噛み合っており、公転ギアが公転するとき、並行して公転ギアが自転する。公転ギアが自転する方向は公転する方向とは逆方向であり、公転ギアが自転する角度はリングギアと公転ギアとの歯数差に相当する角度となる。公転ギアの自転の動きは公転ギアの貫通孔に挿入された貫通ピンに伝達される。貫通ピンに伝達された公転ギアの自転は第1回転軸の回動に対して減速されている。減速された回動が貫通ピンが連結される連結孔を有する第2蓋体を介して、第2蓋体に固定された第2回転軸から出力される。
【0011】
連結孔と貫通ピンとの間には弾性部が設置され、弾性部は連結孔および貫通ピンに接する。そして、貫通ピンは弾性部を介して貫通孔を加勢する。従って、公転ギアが回動するときには公転ギアのトルクが貫通ピンに伝達され、貫通ピンから弾性部が変形して連結孔に伝達される。公転ギアの回転方向が切り替わるとき公転ギアのトルクの変化に応じて弾性部の変形量が変わる。このため、弾性部を介して連結孔と貫通ピンとが接する状態が保たれるので、連結孔と貫通ピンとの間に、バックラッシュの発生を抑制もしくは回避することができる。
【0012】
また、第1回転軸が回動するとき貫通ピンと連結孔とは相対的に回動する。弾性部は連結孔と貫通ピンとに挟まれているので、弾性部は連結孔および貫通ピンと摺動する。そして、弾性部の貫通ピンと接する場所の曲率は連結孔と接する場所の曲率より大きいので、公転ギアが回動するときに弾性部の貫通ピン側は連結孔側よりも圧力が大きくなり磨耗し易くなっている。本適用例では、弾性部の貫通ピン側の面積の総和は連結孔側の面積の総和より広くなっている。従って、弾性部は貫通ピン側と貫通孔側とが同様に磨耗するので磨耗による寿命を長くすることができる。
【0013】
〔適用例2〕上記適用例にかかる減速機において、前記弾性部の形状は円筒形であり、前記弾性部の前記貫通孔と接する面には前記円筒形の円周方向に延在する溝部を有することを特徴とする。
【0014】
本適用例によれば、弾性部の形状は円筒形であり、弾性部は貫通孔と接する。弾性部は貫通孔と接する面には円周方向に延在する溝部を有する。弾性部が貫通ピンと貫通孔とに押圧されるとき、溝部があることで弾性部が弾性変形し易くなるため、弾性部に弾力性を持たせることができる。そして、貫通孔側の面は溝部があるので、貫通孔と接する面積が狭くなる。従って、弾性部の貫通ピン側の面積の総和を貫通孔側の面積の総和より広くすることができる。
【0015】
〔適用例3〕上記適用例にかかる減速機において、前記溝部は断面形状が三角形であることを特徴とする。
【0016】
本適用例によれば、溝部は断面形状が三角形であるため、溝部が開くように弾性部が弾性変形させることができる。従って、弾性部に弾力性を持たせ易くすることができる。
【0017】
〔適用例4〕上記適用例にかかる減速機において、前記三角形の頂角が円弧状となっていることを特徴とする。
【0018】
本適用例によれば、溝部の頂角が円弧状となっているため、頂角に応力が集中することを防止することができる。その結果、弾性部に反復荷重が加わるときにも弾性部の寿命を長くすることができる。
【0019】
〔適用例5〕上記適用例にかかる減速機において、前記弾性部の前記貫通ピンと接する面の数は1面であり、前記貫通孔と接する面の数は2面であることを特徴とする。
【0020】
本適用例によれば、貫通ピン側の面の数は1面であることから貫通ピン側の面を複数にする加工が不要である。従って、生産性良く弾性部を製造することができる。
【0021】
〔適用例6〕上記適用例にかかる減速機において、前記弾性部は前記貫通ピンの軸方向を向く側面を有し、前記弾性部の前記貫通孔と接する面と前記側面とが交差する場所には前記貫通孔と接する前記面と斜めに交差する斜面が形成されていることを特徴とする。
【0022】
本適用例によれば、弾性部には貫通孔と接する前記面と斜めに交差する斜面が形成されているため、弾性部を貫通孔に設置し易くすることができる。
【0023】
〔適用例7〕上記適用例にかかる減速機において、前記弾性部の材質はステンレス鋼であることを特徴とする。
【0024】
本適用例によれば、弾性部の材質はステンレス鋼となっている。ステンレス鋼は普通鋼より強度が高いため、反復荷重が加わる弾性部を長寿命にすることができる。
【0025】
〔適用例8〕上記適用例にかかる減速機において、前記弾性部の前記貫通ピンと接する面にはDLCコーティング膜が形成されていることを特徴とする。
【0026】
本適用例によれば、弾性部が貫通ピンと接する面にはDLC(Diamond Like Carbon)コーティング膜が形成されている。DLCコーティング膜は高硬度で耐摩耗性に優れているため、弾性部の貫通ピン側の面の磨耗を抑制することができる。
【0027】
〔適用例9〕上記適用例にかかる減速機において、前記弾性部の前記貫通孔と接する面にはDLCコーティング膜が形成されていることを特徴とする。
【0028】
本適用例によれば、弾性部の貫通孔側と接する面にはDLCコーティング膜が形成されている。DLCコーティング膜は高硬度で耐摩耗性に優れているため、弾性部が貫通孔と接する面の磨耗を抑制することができる。
【0029】
〔適用例10〕本適用例にかかる減速機であって、中空部を有し、前記中空部の内周に複数のギア歯が形成されたリングギアと、複数のギア歯が形成され、前記リングギアの前記内周のギア歯と噛合する公転ギアと、前記公転ギアの中心位置に、前記公転ギアに対して回動可能に設けられた円形カムと、前記円形カムに設けられ、前記リングギアの中心軸上に位置し、前記中心軸周りに前記円形カムを回動させて前記公転ギアを前記中心軸周りに公転させる第1回転軸と、前記公転ギアに形成された貫通孔に挿入される貫通ピンと、前記貫通ピンを挿入し連結される連結孔を有し、前記リングギアの前記中空部に前記公転ギアを収納する第1蓋体および第2蓋体と、前記第2蓋体と連結され、前記中心軸上に設けられて前記公転ギアの自転による回動を出力する第2回転軸と、前記連結孔と前記貫通ピンとの間に位置し前記連結孔と前記貫通ピンとに接し、弾性を有する弾性部と、を備え、前記弾性部は、前記貫通孔側に円周方向に延在する溝部を有することを特徴とする。
【0030】
本適用例によれば、連結孔と貫通ピンとの間には弾性部が設置され、弾性部は貫通ピンに接する。そして、弾性部は貫通ピンを介して連結孔を加勢する。従って、公転ギアが回動するときには弾性部が変形して公転ギアのトルクが連結孔に伝達される。公転ギアの回転方向が切り替わるとき公転ギアのトルクの変化に応じて弾性部の変形量が変わる。このため、弾性部を介して連結孔と貫通ピンが接する状態が保たれるので、連結孔と貫通ピンとの間に、バックラッシュの発生を抑制もしくは回避することができる。
【0031】
また、弾性部は連結孔側に円周方向に延在する溝部を有する。弾性部が貫通ピンと連結孔とに押圧されるとき溝部が変形するように弾性部を弾性変形させることができるため、弾性部に弾力性の機能を持たせることができる。そして、弾性部は公転ギアに固定して設置されているため、貫通ピンと接する場所以外が磨耗することを防止できる。従って、磨耗の抑制により、弾性部の寿命を長くすることができる。
【0032】
〔適用例11〕本適用例にかかるロボットハンドであって、モーターと、前記モーターの出力を減速する減速機と、前記減速機の出力により可動する可動部と、を有し、前記減速機が上記のいずれか一項に記載の減速機であることを特徴とする。
【0033】
本適用例によれば、ロボットハンドはモーターと減速機と可動部とを有している。減速機はモーターの出力を減速する。これにより、モーターが出力するトルクを高くすることができる。そして、高トルクの出力を用いて可動部を動作させることができる。減速機は上記適用例に記載の減速機である。従って、減速機は貫通ピンと連結孔との間にバックラッシュの発生が抑制されている。さらに、貫通ピンと連結孔との間に長寿命の弾性部を備えている。従って、本適用例のロボットハンドは、貫通ピンと連結孔との間に長寿命の弾性部を備え、貫通ピンと連結孔との間のバックラッシュの発生が抑制された減速機を備えたロボットハンドとすることができる。
【0034】
〔適用例12〕本適用例にかかるロボットであって、モーターと、前記モーターの出力を減速する減速機と、前記減速機の出力により可動する可動部と、を有し、前記減速機が上記のいずれか一項に記載の減速機であることを特徴とする。
【0035】
本適用例によれば、ロボットはモーターと減速機と可動部とを有している。減速機はモーターの出力を減速する。これにより、モーターが出力するトルクを高くすることができる。そして、高トルクの出力を用いて可動部を動作させることができる。減速機は上記適用例に記載の減速機である。従って、減速機は貫通ピンと連結孔との間にバックラッシュの発生が抑制されている。さらに、貫通ピンと連結孔との間に長寿命の弾性部を備えている。従って、本適用例のロボットは、貫通ピンと連結孔との間に長寿命の弾性部を備え、貫通ピンと連結孔との間のバックラッシュの発生が抑制された減速機を備えたロボットとすることができる。
【0036】
〔適用例13〕本適用例にかかる電子機器であって、モーターと、前記モーターの出力を減速する減速機と、前記減速機の出力により可動する可動部と、を有し、前記減速機が上記のいずれか一項に記載の減速機であることを特徴とする。
【0037】
本適用例によれば、電子機器はモーターと減速機と可動部とを有している。減速機はモーターの出力を減速する。これにより、モーターが出力するトルクを高くすることができる。そして、高トルクの出力を用いて可動部を動作させることができる。減速機は上記適用例に記載の減速機である。従って、減速機は貫通ピンと連結孔との間にバックラッシュの発生が抑制されている。さらに、貫通ピンと連結孔との間に長寿命の弾性部を備えている。従って、本適用例の電子機器は、貫通ピンと連結孔との間に長寿命の弾性部を備え、貫通ピンと連結孔との間のバックラッシュの発生が抑制された減速機を備えた電子機器とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】第1の実施形態にかかる減速機の外観を示す概略斜視図。
【図2】減速機の内部構造を示す概略分解斜視図。
【図3】減速機の内部構造を示す概略断面図。
【図4】減速機の動作を説明するための模式図。
【図5】第1公転ギアの回転トルクを出力する方法を説明するための模式図。
【図6】弾性部の作用を説明する、(a)は主要部組立模式断面図、(b)は(a)に示すB部詳細図。
【図7】(a)は弾性部を示す要部模式断面図、(b)は弾性部の変形を説明するための要部模式断面図。
【図8】比較例にかかる弾性部を示す要部模式断面図。
【図9】第3の実施形態にかかる弾性部を示す要部模式断面図。
【図10】第4の実施形態にかかり、(a)は、ロボットハンドの構造を示す模式平面図、(b)は、ロボットの構造を示す模式平面図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照して、本発明に係る実施形態を説明する。
【0040】
(第1の実施形態)
図1は、減速機の外観を示す概略斜視図である。図1に示すように、減速機1は円柱状の本体部2を備えている。本体部2の軸方向の一方には第1回転軸3が設けられており、本体部2の軸方向の他方には第2回転軸4が設けられている。第1回転軸3および第2回転軸4は同じ中心軸5を中心として回動する。そして、本体部2の軸も中心軸5と同一線上に配置されている。本体部2を固定した状態で第1回転軸3を回動させると、その回動が本体部2内の機構によって減速されて第2回転軸4から出力される。つまり、第1回転軸3が高速回転する入力軸であり、第2回転軸4が低速回転する出力軸となっている。
【0041】
図2は、減速機1の内部構造を示す概略分解斜視図である。図2に示すように、減速機1は、本体部2の外周を構成する円筒形のリングギア6を備えている。従って、リングギア6の内部は空洞部6cとなっている。リングギア6の内周には複数のギア歯6aが形成されている。また、リングギア6の内側には、公転ギアとしての第1公転ギア7と第2公転ギア8とが設置されている。第1公転ギア7および第2公転ギア8の外周はリングギア6の内周よりも少し小さくなっている。第1公転ギア7の外周には複数のギア歯7aが配置され、第2公転ギア8の外周には複数のギア歯8aが配置されている。ギア歯7aの歯数とギア歯8aの歯数とは同じ数となっている。またギア歯7aの歯数とギア歯8aの歯数は、ギア歯6aの歯数より少ない数となっている。そして、ギア歯7aおよびギア歯8aがギア歯6aと噛み合うように第1公転ギア7および第2公転ギア8はリングギア6に配置されている。
【0042】
第1公転ギア7の中央には軸孔7bが設けられており、第2公転ギア8の中央には軸孔8bが設けられている。軸孔7bには第1ベアリング9が設置され、軸孔8bには第2ベアリング10が設置されている。第1回転軸3には円形カムとしての第1偏心カム11および第2偏心カム12が設置されている。第1偏心カム11および第2偏心カム12の外形は円形であり外形の中心は中心軸5に対して偏心して配置されている。中心軸5に対する偏心量は第1偏心カム11および第2偏心カム12共に同じ量となっている。そして、第1偏心カム11の中心と中心軸5と第2偏心カム12の中心とがなす角度を偏心角とするとき、偏心角は180度となっている。つまり、第1偏心カム11の中心と中心軸5と第2偏心カム12の中心とは同一直線上に配置されている。
【0043】
第1公転ギア7には、第1公転ギア7の中央を中心とする同心円上の4か所に第1貫通孔7cが設けられている。各第1貫通孔7cには第1公転ギア7の自転の動きを取り出すための貫通ピン13が挿入され、第1公転ギア7の回動によって第1貫通孔7cに挿入された貫通ピン13が押圧され、貫通ピン13が移動させられる。同様に、第2公転ギア8には、第2公転ギア8の中央を中心とする同心円上の4か所に第2貫通孔8cが設けられている。各第2貫通孔8cには、第2公転ギア8の自転の動きを取り出すための貫通ピン13が挿入され、第2公転ギア8の回動によって第2貫通孔8cに挿入された貫通ピン13が押圧され、移動させられる。
【0044】
本体部2の第1回転軸3側に配置される円板状の第1蓋体16には、各貫通ピン13が取り付けられる第1連結孔16aを有し、第1連結孔16aの内周壁には、形状が略円筒形であって弾性を有する弾性部としての第1弾性部14が嵌め込まれ、第1弾性部14の内周壁が貫通ピン13に接触するように設置されている。第1公転ギア7および第2公転ギア8の回動によって第1公転ギア7および第2公転ギア8に固定された貫通ピン13は移動させられ、第1弾性部14を介して第1蓋体16の連結孔16aを押圧し、第1蓋体16を回動させる。
【0045】
本体部2の第2回転軸4側に配置される円板状の第2蓋体18には、各貫通ピン13が取り付けられる第2連結孔18aを有し、第2連結孔18aの内周壁には、形状が略円筒形であって弾性を有する弾性部としての第2弾性部15が嵌め込まれ、第2弾性部15の内周壁が貫通ピン13に接触するように設置されている。第1公転ギア7および第2公転ギア8の回動によって第1公転ギア7および第2公転ギア8に固定された貫通ピン13は移動させられ、第2弾性部15を介して第2蓋体18の第2連結孔18aを押圧し、第2蓋体18を回動させる。また第2蓋体18には、第2回転軸4が図示しない固着手段によって固着され、第2蓋体18の回動が第2回転軸4の回転として出力される。
【0046】
このように貫通ピン13を介して第1蓋体16と第2蓋体18は第1回転軸3側と第2回転軸4側とで連結される。図3(a)に貫通ピン13を含む部分の模式図的な概略断面図、図3(b)に図3(a)に示すA方向矢視の第1公転ギア7と第2公転ギア8との矢視図を示す。図3(a)に示すように、第1蓋体16と第2蓋体18とは中心軸5の軸方向で所定の隙間をもってリングギア6を挟んで配置され、貫通ピン13の第2蓋体18側に設けた貫通ピンねじ部13aにナット17をねじ込むことで、第1蓋体16と第2蓋体18とは、第1蓋体16の第1連結孔16aに装着された第1弾性部14と第2蓋体18の第2連結孔18aに装着された第2弾性部15とを介して連結される。これにより、第1蓋体16および第2蓋体18はリングギア6に対して回動可能になっている。
【0047】
第1蓋体16の中央には中心孔16bが形成され、第1回転軸3は中心孔16bに挿入されている。そして、第1回転軸3において第1偏心カム11および第2偏心カム12が設置された一端は第1ベアリング9および第2ベアリング10と連結される。第1回転軸3の他端は本体部2の外に突出して設置される。第2蓋体18の中央には第2回転軸4が図示しない固定手段によって固定され、第2蓋体18の回転トルクが第2回転軸4の回転トルクとして出力される。
【0048】
図3(b)は、図3(a)に示すA矢視方向の第1公転ギア7と第2公転ギア8との配置を示す矢視図であり、その他の構成の図示は省略してある。図3(b)に示すように第1公転ギア7および第2公転ギア8は上述した通りリングギア6のギア歯6aのピッチ径p6の中心、すなわち中心軸5に対して、軸孔7b,8bにベアリング9,10を介して嵌合される偏心カム11,12によって、偏心量22を有して、偏心させて配置される。なお、偏心量22の詳細は後述する。このように配置された第1公転ギア7と第2公転ギア8とを貫通する貫通ピン13は、第1公転ギア7の第1貫通孔7cと第2公転ギア8の第2貫通孔8cとを貫通するように装着され、更に偏心して配置される公転ギア7,8の貫通孔7c,8cの双方の内周壁と貫通ピン13の外形面が接するように貫通ピン13が形成される。このように構成することによって、公転ギア7,8の自転を貫通孔7c,8cが貫通ピン13を付勢することで貫通ピン13を移動させ、貫通ピン13が連結される蓋体16,18が回動し、第2蓋体18に固定された第2回転軸4より回転トルクが出力される。
【0049】
図4は、減速機の動作を説明するための模式図である。リングギア6の内側には、リングギア6よりも小さな第1公転ギア7および図示しない第2公転ギア8が設けられている。第1公転ギア7と第2公転ギア8とは同様の動作をする。動作説明を分かりやすくするために第1公転ギア7の動作を説明する。図4(a)に示すように、第1公転ギア7は、リングギア6の中心位置に対して偏心した状態となっている。そして、リングギア6と第1公転ギア7とは一箇所で噛合している。また、第1公転ギア7の中心には軸孔7bが設けられており、この軸孔7bには第1ベアリング9を介して第1偏心カム11が嵌め込まれている。第1回転軸3を回動させると第1偏心カム11が回動して、第1回転軸3の中心軸5を中心とする公転運動を第1公転ギア7に生じさせる。尚、本明細書中で「公転」とは、ある点の周りを物体が周回する動きのことを称する。
【0050】
また、第1公転ギア7と第1偏心カム11との間は第1ベアリング9によって回動可能となっているが、第1公転ギア7とリングギア6とはギア歯7aおよびギア歯6aによって噛合している。このため第1公転ギア7は、リングギア6のギア歯との噛合によって自転を行いながら、第1回転軸3の中心軸5を中心とする公転を行うこととなる。
【0051】
尚、本明細書中で「自転」とは、ある物体の内部の点を通る軸を中心軸として回動する動きのことを称する。例えば、第1公転ギア7の中心7dを通る軸を中心軸として第1公転ギア7が回動する動きのことを称する。
【0052】
第1偏心カム11は図中上側に偏心している。従って、第1公転ギア7が図中上側でリングギア6と噛み合っている。尚、第1公転ギア7が自転する様子が把握できるように、第1公転ギア7に矢印19が表示されている。この矢印19が図面上で真上を指している状態から開始する。
【0053】
図4(b)に示すように、第1回転軸3を時計回り方向に45度だけ回動させる。これにより、第1偏心カム11の働きによって、第1公転ギア7も時計回り方向に45度だけ公転する。また、第1公転ギア7は、リングギア6に噛合しているからギア歯の数に相当する角度だけ反時計回り方向に自転する。図4(a)と図4(b)とを比較すれば明らかなように、第1偏心カム11が時計回り方向に45度回転したことに伴って、第1公転ギア7も時計回り方向に45度だけ公転し図中右上側に偏心した位置に移動している。また、第1公転ギア7に描かれた矢印19の向きは、図4(a)と同様にほぼ図面上の真上を指している。これは、第1公転ギア7を時計回り方向に公転させたときに、リングギア6との噛合によって第1公転ギア7に生じた反時計回り方向の自転が、時計回り方向の公転をほぼ打ち消したためである。
【0054】
図4(c)に示すように、第1回転軸3を時計回り方向に更に45度だけ回転させる。これにより、第1公転ギア7が時計回り方向に90度だけ公転した状態となる。また、第1公転ギア7が、リングギア6と噛み合いながらこの位置まで公転することに伴って、第1公転ギア7はギア歯7aとギア歯6aとがかみ合った歯の数に相当する角度だけ、反時計回り方向に自転している。また、第1公転ギア7に設けられた矢印19の向きは、図4(b)と同様に、依然としてほぼ図面上の真上を指した状態となっている。
【0055】
第1回転軸3を更に時計回り方向に更に45度、90度、135度、180度、225度、270度と回転させることにより、第1公転ギア7は、図4(d)〜図4(i)に示した状態へと移動する。第1回転軸3をちょうど一回転させると、図4(i)に示した状態となる。また、第1公転ギア7に表示された矢印19の向きは、図4(a)と比較すると、第1公転ギア7とリングギア6との歯数の差の分だけ、反時計回り方向に回転する。
【0056】
例えば、第1公転ギア7の歯数がリングギア6の歯数よりも1だけ少ない場合、第1公転ギア7に生じる時計回り方向の公転と反時計回り方向の自転とは、ほぼ打ち消し合う大きさになっている。厳密には、一回分の公転につき、ギア歯7a一枚分だけ第1公転ギア7が自転する角度の方が大きくなる。これは、第1公転ギア7のギア歯7aの数がリングギア6のギア歯6aの数よりも一歯だけ少なく形成されていることに起因する。その結果、第1公転ギア7がリングギア6と噛み合いながら時計回り方向に一回公転するためには、第1公転ギア7は反時計回り方向に一回と、更に一歯分だけ余分に自転しなければならない。
【0057】
このように、第1回転軸3を1回動させるとリングギア6とのギア歯の数の差に相当する歯数分だけ第1公転ギア7が逆方向に自転することとなる。例えば、リングギア6の歯数を50枚とし第1公転ギア7の歯数を49枚とするとき第1回転軸3を1回転させる毎に第1公転ギア7が50分の1回転(従って360度/50=7.2度)だけ、逆方向に自転する。
【0058】
また、第1回転軸3を回動させたときの第1公転ギア7の動きは次のように考えることもできる。まず、第1回転軸3を回動させると、第1偏心カム11によって第1公転ギア7は、第1回転軸3の中心軸5を中心とする公転を行う。一方で、第1公転ギア7はリングギア6と噛み合っているので、第1公転ギア7はリングギア6の上を転がりながら自転することとなる。
【0059】
このように、第1公転ギア7の歯数をリングギア6に対して少しだけ少ない歯数に設定しておく。これにより、第1偏心カム11を回動して第1公転ギア7を駆動することにより、第1公転ギア7をほとんど自転させることなくリングギア6と噛合させて第1公転ギア7を転がすことができる。そして、例えば、リングギア6に対して第1公転ギア7を図3(a)に示す位置から開始して図4(i)に示す位置まで移動させる。この間に、第1公転ギア7はリングギア6と第1公転ギア7との歯数の差に相当する角度の自転しか生じない。
【0060】
尚、上述したように第1回転軸3を1回転させると、第1公転ギア7は一回公転する。このことは、第1回転軸3を高速で回動させると第1公転ギア7が高速で公転することを示している。これに伴う振動の発生が懸念される。しかし、減速機1には第1公転ギア7と第2公転ギア8との2つのギアが設けられている。第1公転ギア7と第2公転ギア8とは互いに半周期ずつずれて公転するようになっている。このため、一方の第1公転ギア7の揺動によって生じる振動が、他方の第2公転ギア8の揺動による振動で打ち消される。従って、減速機1全体としては振動の発生を回避することが可能となっている。
【0061】
図5は、第1公転ギア7の回転トルクを出力する方法を説明するための模式図である。第1公転ギア7の回転トルクを出力する方法と第2公転ギア8の回転トルクを出力する方法とは同様の方法である。従って、第1公転ギア7の回転トルクを出力する方法を説明し、第2公転ギア8の回転トルクを出力する方法の説明は省略する。まず、第1貫通孔7cの大きさについて説明する。図5(a)に示すように、ギア歯6aとギア歯7aとを噛合させたときの第1公転ギア7の中心7dとリングギア6の中心6bとの間隔を偏心量22とする。換言すると、偏心量22は、図5(a)に示すように、第1公転ギア7とリングギア6とをその中心7d,6dを合致させて配置した場合の第1公転ギア7のピッチ円p7の半径とリングギア6のピッチ円p6の半径との差である。そして、第1貫通孔7cの内径の半径と貫通ピン13の半径との差を孔ピン半径差23とする。そして、孔ピン半径差23と偏心量22とは略同じにする。
【0062】
図5(b)に示すように、第1偏心カム11によって第1公転ギア7を図中上側に偏心させる。すると、第1公転ギア7は偏心量22だけ上方向に偏心するので、貫通ピン13の側面の下側と第1貫通孔7cの内周壁の下側とが当接した状態となる。次に、図5(c)に示すように、第1公転ギア7が、第1偏心カム11によって図中右側に移動させられる。このとき貫通ピン13の左側側面が第1貫通孔7cの内周壁の左側と当接する。同様に、図5(d)に示すように、第1公転ギア7が図中下側に移動するとき貫通ピン13の上側が第1貫通孔7cの内周の上側と当接する。図5(e)に示すように、第1公転ギア7が図中左側に移動するとき貫通ピン13の右側側面が第1貫通孔7cの内周壁の右側と当接する。
【0063】
このように、減速機1では、第1貫通孔7cの内径の半径を貫通ピン13の半径に対して孔ピン半径差23に相当する分だけ大きくしておく。これにより、第1公転ギア7が自転するとき第1貫通孔7cの位置が移動し、第1貫通孔7cの動きは第1貫通孔7cに当接して配置される貫通ピン13に伝達される。そして、貫通ピン13は第1公転ギア7の自転の動きを取り出すことができる。
【0064】
こうして取り出された第1公転ギア7の自転は、貫通ピン13が取り付けられた本体部2の第2蓋体18および第1蓋体16に第2弾性部15および第1弾性部14を介して伝達される。その結果、第2蓋体18に固定された第2回転軸4は第1公転ギア7の自転に対応して回動し、第1公転ギア7が自転するトルクが減速機1の外部に出力される。同様に、第2公転ギア8が自転するトルクも減速機1の外部に出力される。
【0065】
図5(b)〜図5(e)に示すように、第1公転ギア7がリングギア6の内側に沿って公転するとき貫通ピン13と第1貫通孔7cとは常にどこか一箇所で接触し、接触する箇所は常に移動している。減速機1を構成する部材の寸法が製造上の理由により変動するとき、この変動に対応して貫通ピン13と第1蓋体16および第2蓋体18とを連結する第1弾性部14および第2弾性部15が、貫通ピン13と連結孔16a,18aとの間で弾性変形し、貫通ピン13が弾性部14,15の弾性変形範囲で公転ギア7,8に対して相対的に可動させることができる(図3参照)。この貫通ピン13の可動によって、貫通ピン13と第1貫通孔7cとが干渉し減速機1がロック状態となることを防止することができる。
【0066】
図6は、弾性部14,15の作用を説明する主要部模式断面図である。図6(a)は主要部組立模式断面図、図6(b)は図6(a)に示すB部詳細図、を示す。上述した図3を用いた減速機1の動作説明において、図6(a)に示すように貫通孔7c,8cに接して移動する貫通ピン13は、第1回転軸3に装着される偏心カム11,12の加工精度、その偏心カム11,12にベアリング9,10を介して公転ギア7,8が装着される軸孔7b,8bの加工精度、そして軸孔7b,8bに対する貫通孔7c,8cの加工精度、と各部位の加工精度のばらつきによって、軸孔7b,8bを貫いて装着される貫通ピン13は、傾きを有する貫通ピン13A、あるいは片寄せされた貫通ピン13Bのような状態を発生する場合がある。
【0067】
このような傾きを有する貫通ピン13A、あるいは片寄せされた貫通ピン13Bのような状態においても、ロック状態を発生させないため弾性部14,15を蓋体16,17の連結孔16a,18aに次のように装着する。図6(b)に示す拡大断面図は、弾性部14,15の連結孔16a,18aへの組込み状態を状態C、片寄せされた貫通ピン13B、もしくは傾きを有する貫通ピン13Aの状態を状態Dとして、併記した図である。まず状態Cにおいて、連結孔16a,18aに組み込まれる弾性部14,15の外径D11は、連結孔16a,18aの内径D4に対して所定の量、大きくしてある。すなわち連結孔16a,18aに弾性部14,15は圧入される。また、弾性部14,15が貫通ピン13と接する部位の内径D12は貫通ピン13の外径D3に対して小さくしてある。すなわち弾性部14,15に対して貫通ピン13はシメシロを有して組み込まれる。
【0068】
図6(b)に示す状態Dのように、貫通ピン13に対してδの片寄せがされた貫通ピン13Bでは、弾性部14,15は貫通ピン13の図示左側では貫通ピン13によって圧縮された部位がδ分の圧縮量が減少し、図示右側では貫通ピン13によって圧縮された部位がδ分の圧縮量が増加し、弾性部14Aもしくは弾性部15Aへの変形が生じる。このように弾性部14,15が弾性変形の形態を変形させることによって、貫通ピン13の傾きを有する貫通ピン13A、あるいは片寄せされた貫通ピン13B、のような状態を発生した場合であっても、弾性部14A,15Aのように変形することによって連結孔16a,18aと相対的に摺動可能とする、すなわち蓋体16,18に対して回転可能に連結することができ、貫通ピン13のロック状態を回避することができる減速機1を得ることができる。
【0069】
図7は弾性部の変形を説明するための要部模式断面図である。第1弾性部14と第2弾性部15とは同じ構造となっている。第1弾性部14について説明し第2弾性部15の説明を省略するが、第2弾性部15も第1弾性部14と同様の挙動をして同様の効果を有する。図7に示すように、第1弾性部14が上述したように貫通ピン13Aもしくは貫通ピン13Bのような状態になり、第1蓋体16と貫通ピン13とに押圧されるとき、第1弾性部14の溝部14cを挟む場所が離れる向きに弾性変形する。従って、第1弾性部14は直径方向の厚みが伸縮する弾性部材として機能する。
【0070】
溝部14cは断面形状が三角形となっており、第1外周面14b側が開くように変形する。このため、三角形の頂角となる場所には応力が集中し易くなっている。そして、頂角となる場所は円弧状に形成されている。これにより、三角形の頂角となる場所には応力が集中することを緩和することが可能になっている。
【0071】
第1弾性部14の第1外周面14b側には溝部14cおよび面取り14eが形成されている。従って、第1弾性部14における第1外周面14bの総面積は第1内周面14aの総面積より狭くなっている。第1公転ギア7の回動において、貫通ピン13Aもしくは貫通ピン13Bのような状態(図6参照)によって、貫通ピン13が第1弾性部14を押圧する。このとき、貫通ピン13は第1内周面14aを摺動するので、第1内周面14aは磨耗する。また、第1外周面14bも第1貫通孔7cと摺動するが、第1外周面14bは第1内周面14aに比べて曲面の半径が長く曲率が小さいため圧力が小さくなる。従って、第1外周面14bは第1内周面14aに比べて磨耗し難くなっている。本実施形態では、第1弾性部14における第1内周面14aの総面積を第1外周面14bの総面積より広くしている。従って、第1内周面14aが貫通ピン13と擦れても磨耗し難くすることができる。
【0072】
第1弾性部14の第1内周面14aの数は1面であり、第1外周面14bの数は2面となっている。換言すれば、第1弾性部14の第1内周面14aの数は、第1外周面14bの数より少なくなっている。面の数が増えると面を区切る場所の面積が広くなる。従って、貫通ピン13と接する場所の面積を第1貫通孔7cと接する面積より確実に広く大きな面積にすることができる。そして、貫通ピン13側の面を複数にする加工が不要なため、生産性良く第1弾性部14を製造することができる。
【0073】
第1弾性部14および第2弾性部15の材質は強度が高く反復荷重に耐性がある材質であれば良く、特に限定されない。ステンレス鋼、超硬鋼等を用いることができる。本実施形態では、例えば、第1弾性部14および第2弾性部15の材質にステンレス鋼を用いている。ステンレス鋼は普通鋼より強度が高いため、反復荷重が加わる第1弾性部14および第2弾性部15を長寿命にすることができる。
【0074】
第1弾性部14の第1内周面14aおよび第1外周面14bにはDLCコーティング膜が形成されている。同様に、第2弾性部15の第2内周面15aおよび第2外周面15bにはDLCコーティング膜が形成されている。DLCコーティング膜は高硬度で耐摩耗性に優れているため、弾性部14,15の磨耗を抑制することができる。
【0075】
(比較例)
図8は、比較例にかかる弾性部を示す要部模式断面図である。図8に示すように、貫通ピン13と第1蓋体16との間には第3弾性部24が設置されている。各第1連結孔16aの内周には形状が略円筒形であって、弾性を有する弾性部としての第3弾性部24が嵌め込まれ、第3弾性部24の内周壁が貫通ピン13に接触するように設置されている。従って、第1公転ギア7の回動において、貫通ピン13Aもしくは貫通ピン13Bのような状態(図6参照)によって、貫通ピン13が第3弾性部24を押圧する。
【0076】
第3弾性部24が貫通ピン13と接する面を第3内周面24aとし、第3弾性部24が第1蓋体16と接する面を第3外周面24bとする。第3外周面24bには円周方向に溝部24cが形成されている。第3弾性部24の貫通ピン13の軸方向を向く面は第1蓋体16側より貫通ピン13側が凹んだ斜面24dが形成されている。これにより、第1蓋体16と貫通ピン13との間に荷重が加わるとき第3弾性部24は変形し易くなっている。第3弾性部24の変形が大きいと第1公転ギア7の回動において、貫通ピン13Aもしくは貫通ピン13Bのような状態(図6参照)が生じた場合、貫通ピン13の回動のふらつきが抑制し難くなり、第3弾性部24の構造ではバックラッシュを抑え難くなる。また、第3外周面24bの面積の総和に比べて第3内周面24aの面積の総和が小さくなるので、第3内周面24aの面が磨耗し易くなってしまう。その結果、第3弾性部24の寿命が短くなる。
【0077】
上述したように、本実施形態によれば、以下の効果を有する。
(1)本実施形態によれば、第1蓋体16の第1連結孔16aと第2蓋体18の第2連結孔18aと、貫通ピン13との間には第1弾性部14と第2弾性部15が設置され、弾性部14,15は連結孔16a,18aおよび貫通ピン13に接する。そして、弾性部14,15は貫通ピン13と連結孔16a,18aとの間で弾性変形する。従って、部品加工のばらつきから、第1公転ギア7および第2公転ギア8が回動することで生じる貫通ピン13の傾きや片寄りを、弾性部14,15が変形して第1公転ギア7、第2公転ギア8のロックや回動の軋みなどが抑制される。また、公転ギア7,8の回転方向が切り替わるとき公転ギア7,8のトルクの変化に応じて貫通ピン13の傾き量や片寄り量が変わっても、弾性部14,15と連結孔16a,18aが接する状態が保たれるため、貫通ピン13と連結孔16a,18aとの間におけるバックラッシュの発生を抑制もしくは回避することができる。
【0078】
(2)本実施形態によれば、第1回転軸3が回動するとき貫通ピン13と第1連結孔16aとは相対的に回動する。第1弾性部14は第1連結孔16aと貫通ピン13とに挟まれているので、第1弾性部14は第1連結孔16aおよび貫通ピン13と摺動する。そして、第1内周面14aの曲率は第1外周面14bの曲率より大きいので、第1公転ギア7が回動するときに第1内周面14aは第1外周面14bよりも圧力が大きくなり磨耗し易くなっている。本実施形態では、第1内周面14aの面積の総和は第1外周面14bの面積の総和より広くなっている。従って、第1弾性部14は第1内周面14aと第1外周面14bとが同様に磨耗する構造となっているので、磨耗による第1弾性部14の寿命が短くなることを抑制することができる。尚、この内容は第2弾性部15においても同様の効果を有する。
【0079】
(3)本実施形態によれば、第1弾性部14の形状は円筒形であり、第1内周面14aと第1外周面14bとを有している。第1弾性部14は第1外周面14bに円周方向の溝部14cを有する。第1弾性部14が貫通ピン13と第1連結孔16aとに押圧されるとき溝部14cが開くように弾性変形させることができるため、第1弾性部14に弾力性を持たせることができる。さらに、第1弾性部14の第1内周面14aの面積の総和を第1外周面14bの面積の総和より広くすることができる。
【0080】
(4)本実施形態によれば、溝部14cの頂角が円弧状となっているため、頂角に応力が集中することを防止することができる。その結果、第1弾性部14は破壊され難くなるため、寿命を長くすることができる。尚、この内容は第2弾性部15においても同様の効果を有する。
【0081】
(5)本実施形態によれば、第1内周面14aの数は第1外周面14bの数より少なくなっている。面の数が多くなる程、面を区切る場所の面積が増える。従って、貫通ピン13と接する場所である第1内周面14aの面積を第1連結孔16aと接する場所である第1外周面14bの面積より広い面積にすることができる。尚、この内容は第2弾性部15においても同様の効果を有する。
【0082】
(6)本実施形態によれば、第1内周面14aの数は1面であり、第1外周面14bの数は2面である。従って、貫通ピン13と接する場所の面積を第1連結孔16aと接する面積より確実に広い面積にすることができる。そして、貫通ピン13側の面を複数にする加工が不要なため、生産性良く第1弾性部14を製造することができる。尚、この内容は第2弾性部15においても同様の効果を有する。
【0083】
(7)本実施形態によれば、第1弾性部14には面取り14eが形成されているため、第1弾性部14を第1連結孔16aに設置し易くすることができる。尚、この内容は第2弾性部15においても同様の効果を有する。
【0084】
(8)本実施形態によれば、第1弾性部14および第2弾性部15の材質はステンレス鋼となっている。ステンレス鋼は普通鋼より強度が高いため、反復荷重が加わる第1弾性部14および第2弾性部15を長寿命にすることができる。
【0085】
(9)本実施形態によれば、第1弾性部14の第1内周面14aおよび第1外周面14bにはDLC(Diamond Like Carbon)コーティング膜が形成されている。DLCコーティング膜は高硬度で耐摩耗性に優れているため、第1弾性部14の磨耗を抑制することができる。尚、この内容は第2弾性部15においても同様の効果を有する。
【0086】
(10)本実施形態によれば、リングギア6に第1公転ギア7と第2公転ギア8との2つの公転ギアが設置されている。そして、ギア歯7aがギア歯6aと噛み合う場所とギア歯8aがギア歯6aと噛み合う場所と中心軸5とは同一直線上に配置されている。これにより、ギア歯7aがギア歯6aから受ける力の向きはギア歯8aがギア歯6aから受ける力の向きと逆の向きとなる。従って、リングギア6、第1公転ギア7、第2公転ギア8の間でバランス良くトルクを伝達することができる。その結果、減速機1は振動を小さくすることができる。
【0087】
(第2の実施形態)
次に、減速機1の第2の実施形態について図9の弾性部を示す要部模式断面図を用いて説明する。本実施形態が第1の実施形態と異なるところは、第1弾性部14および第2弾性部15の断面形状が異なる点にある。尚、第1の実施形態と同じ点については説明を省略する。
【0088】
すなわち、本実施形態では、図9(a)に示すように、貫通ピン13と第1蓋体16との間に第4弾性部25を配置しても良い。また、貫通ピン13と第2蓋体18との間に第4弾性部25を配置しても良い。第4弾性部25が貫通ピン13と接する面を第4内周面25aとし、第4弾性部25が第1蓋体16と接する面を第4外周面25bとする。第4内周面25aの一部が貫通ピン13と接し、第4外周面25bが第1蓋体16と接するように第4弾性部25が配置されている。
【0089】
第4外周面25bには断面が矩形の溝部25cが形成されている。そして、溝部25cの角は円弧状に形成されている。第4弾性部25は貫通ピン13の軸方向を向く一対の側面25dを有している。貫通ピン13と第1蓋体16との間に荷重が加わるとき溝部25cと側面25dとの間の部材が変形する。これにより、第4弾性部25は弾力性を備えた構造となっている。そして、第4内周面25aの面積の総和は第4外周面25bの面積の総和より広くなっている。その他の点は第1弾性部14と同様であり、説明を省略する。
【0090】
図9(b)に示すように、貫通ピン13と第1蓋体16との間に第5弾性部26を配置しても良い。また、貫通ピン13と第2蓋体18との間に第5弾性部26を配置しても良い。第5弾性部26が貫通ピン13と接する面を第5内周面26aとし、第5弾性部26が第1蓋体16と接する面を第5外周面26bとする。第5内周面26aの一部が貫通ピン13と接し、第5外周面26bが第1蓋体16と接するように第5弾性部26が配置されている。
【0091】
第5外周面26bには断面が矩形の溝部26cが形成されている。そして、溝部26cの角は円弧状に形成されている。第5弾性部26は貫通ピン13の軸方向を向く2つの側面26dを有している。側面26dは貫通ピン13の軸方向に対して斜めになっている。そして、溝部26cと側面26dとの距離は第5外周面26bに接近するほど短くなっている。貫通ピン13と第1蓋体16との間に荷重が加わるとき溝部26cと側面26dとの間の部材が変形する。側面26dが斜面になっているため、第5弾性部26は変形し易くなっている。これにより、第5弾性部26は弾力性を備えた構造となっている。そして、第5内周面26aの面積の総和は第5外周面26bの面積の総和より広くなっている。その他の点は第1弾性部14と同様であり、説明を省略する。
【0092】
図9(c)に示すように、貫通ピン13と第1蓋体16との間に第6弾性部27を配置しても良い。また、貫通ピン13と第2蓋体18との間に第6弾性部27を配置しても良い。第6弾性部27が貫通ピン13と接する面を第6内周面27aとし、第6弾性部27が第1蓋体16と接する面を第6外周面27bとする。第6内周面27aの一部が貫通ピン13と接し、第6外周面27bが第1蓋体16と接するように第6弾性部27が配置されている。
【0093】
第6外周面27bには断面が三角形の溝部27cが2箇所形成されている。そして、溝部27cの角は円弧状に形成されている。第6弾性部27は貫通ピン13の軸方向を向く2つの側面27dを有している。貫通ピン13と第1蓋体16との間に荷重が加わるとき2つの溝部27cの間と溝部27cおよび側面27dとの間の部材が変形する。これにより、第6弾性部27は弾力性を備えた構造となっている。そして、第6内周面27aの面積の総和は第6外周面27bの面積の総和より広くなっている。その他の点は第1弾性部14と同様であり、説明を省略する。
【0094】
図9(d)に示すように、貫通ピン13と第1蓋体16との間に第7弾性部28を配置しても良い。また、貫通ピン13と第2蓋体18との間に第7弾性部28を配置しても良い。第7弾性部28が貫通ピン13と接する面を第7内周面28aとし、第7弾性部28が第1蓋体16と接する面を第7外周面28bとする。第7内周面28aの一部が貫通ピン13と接し、第7外周面28bの一部が第1蓋体16と接するように第7弾性部28が配置されている。
【0095】
第7外周面28bには断面が四角形の溝部28cが2箇所形成されている。そして、溝部28cの第7内周面28a側の角は円弧状に形成されている。第7弾性部28は貫通ピン13の軸方向を向く2つの側面28dを有している。貫通ピン13と第1蓋体16との間に荷重が加わるとき2つの溝部28cの間と溝部28cおよび側面28dとの間の部材が変形する。これにより、第7弾性部28は弾力性を備えた構造となっている。そして、第7内周面28aの面積の総和は第7外周面28bの面積の総和より広くなっている。その他の点は第1弾性部14と同様であり、説明を省略する。
【0096】
図9(e)に示すように、貫通ピン13と第1蓋体16との間に第8弾性部29を配置しても良い。また、貫通ピン13と第2蓋体18との間に第8弾性部29を配置しても良い。第8弾性部29が貫通ピン13と接する面を第8内周面29aとし、第8弾性部29が第1蓋体16と接する面を第8外周面29bとする。第8内周面29aの一部が貫通ピン13と接し、第8外周面29bの一部が第1蓋体16と接するように第8弾性部29が配置されている。
【0097】
第8外周面29bには断面が三角形の溝部29cが形成されている。そして、溝部29cの第8内周面29a側の角は円弧状に形成されている。第8弾性部29は貫通ピン13の軸方向を向く2つの側面29dを有している。側面29dは第8内周面29aと第8外周面29bとの間が凹んでいる。貫通ピン13と第1蓋体16との間に荷重が加わるとき溝部29cと側面29dとの間の部材が変形する。側面29dが凹んだ形状となっていることにより第8弾性部29は変形し易くなっている。これにより、第8弾性部29は弾力性を備えた構造となっている。そして、第8内周面29aの面積の総和は第8外周面29bの面積の総和より広くなっている。その他の点は第1弾性部14と同様であり、説明を省略する。
【0098】
図9(f)に示すように、貫通ピン13と第1蓋体16との間に第9弾性部30を配置しても良い。また、貫通ピン13と第2蓋体18との間に第9弾性部30を配置しても良い。第9弾性部30が貫通ピン13と接する面を第9内周面30aとし、第9弾性部30が第1蓋体16と接する面を第9外周面30bとする。第9内周面30aの一部が貫通ピン13と接し、第9外周面30bが第1蓋体16と接するように第9弾性部30が配置されている。
【0099】
第9弾性部30の内部には断面が三角形の溝部としての空洞部30cが形成されている。そして、空洞部30cの角は円弧状に形成されている。空洞部30cの断面形状は三角形に限らず、多角形、楕円形等を採用することができる。第9弾性部30は貫通ピン13の軸方向を向く2つの側面30dを有している。貫通ピン13と第1蓋体16との間に荷重が加わるとき空洞部30cと側面30dとの間の部材が変形する。これにより、第9弾性部30は弾力性を備えた構造となっている。そして、第9外周面30bと側面30dとが交差する場所には面取り30eが形成されている。第9外周面30bが第1蓋体16と接する幅は第9内周面30aが貫通ピン13と接する幅より短くなっている。これにより、第9内周面30aの面積の総和は第9外周面30bの面積の総和より広くなっている。その他の点は第1弾性部14と同様であり、説明を省略する。
【0100】
図9(g)に示すように、貫通ピン13と第1蓋体16との間に第10弾性部31を配置しても良い。また、貫通ピン13と第2蓋体18との間に第10弾性部31を配置しても良い。第10弾性部31が貫通ピン13と接する面を第10内周面31aとし、第10弾性部31が第1蓋体16と接する面を第10外周面31bとする。第10内周面31aの一部が貫通ピン13と接し、第10外周面31bの一部が第1蓋体16と接するように第10弾性部31が配置されている。
【0101】
第10弾性部31は貫通ピン13の軸方向を向く2つの側面31dを有している。各側面31dには溝部31cが形成されている。貫通ピン13と第1蓋体16との間に荷重が加わるとき溝部31cが変形する。これにより、第10弾性部31は弾力性を備えた構造となっている。第10外周面31bには面取り31eが形成されている。そして、第10外周面31bが第1蓋体16と接する幅は第10内周面31aが貫通ピン13と接する幅より短くなっている。これにより、第10内周面31aの面積の総和は第10外周面31bの面積の総和より広くなっている。その他の点は第1弾性部14と同様であり、説明を省略する。
【0102】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態として、減速機1を配置したロボットハンドとロボットの一実施形態について図10を用いて説明する。尚、第1の実施形態、第2の実施形態と同じ点については説明を省略する。
【0103】
上述したように、第1および第2の実施形態の減速機1は、第1公転ギア7および第2公転ギア8と貫通ピン13の部品の加工精度による部品間のロックや軋みに繋がる貫通ピン13の傾きや片寄りを、貫通ピン13と弾性部14,15の弾性変形が吸収し、減速機1のロックや軋みが発生することを防止している。これにより、出力の遅れや第2回転軸4のガタつきを防止することができる。そして、第1弾性部14および第2弾性部15は磨耗し難くなっている。このため、本実施形態の減速機1は、ロボットハンドの関節等のように、精密な動作が要求される部分に取り付けられる減速機として特に適している。
【0104】
図10(a)は、ロボットハンドの構造を示す模式平面図である。すなわち、本実施形態では、図10(a)に示すように、ロボットハンド33はハンド本体部34を備えている。そして、ハンド本体部34には2本の向かい合う指部35が設置されている。指部35は3つの関節部36と3つの可動部37とが交互に接続して配置されている。
【0105】
関節部36にはモーターと減速機1が配置されている。尚、減速機1は第1の実施形態、第2の実施形態にて説明した減速機である。減速機1はモーターの出力を減速する。これにより、モーターが出力するトルクを高くする。そして、高トルクの出力を用いて可動部37を動作させている。ロボットハンド33は制御装置38を備えている。そして、制御装置38はモーターを駆動させて関節部36を回動させる。これにより、可動部37を人間の指のように所望の形態に変形させることが可能になっている。
【0106】
図10(b)は、ロボットの構造を示す模式平面図である。すなわち、本実施形態では、図10(b)に示すように、ロボット39はロボット本体部40を備えている。ロボット本体部40には2つの腕部41が設置されている。そして、腕部41は3つの関節部43と2つの可動部42とが交互に接続して配置されている。そして、腕部41の一端はロボット本体部40に設置され、他端にはロボットハンド33が設置されている。
【0107】
関節部43にはモーターと減速機1が配置されている。尚、減速機1は第1の実施形態、第2の実施形態にて説明した減速機である。減速機1はモーターの出力を減速する。これにより、モーターが出力するトルクを高くする。そして、高トルクの出力を用いて可動部42を動作させている。ロボット39は制御装置38を備えている。そして、制御装置38はモーターを駆動させて関節部43を回動させる。これにより、腕部41を人間の腕のように所望の形態に変形させることが可能になっている。
【0108】
上述したように、本実施形態によれば、以下の効果を有する。
(1)本実施形態によれば、関節部36および関節部43に減速機1が組み込まれている。減速機1では第1公転ギア7および第2公転ギア8と貫通ピン13の部品の加工精度による部品間のロックや軋みに繋がる貫通ピン13の傾きや片寄りを、貫通ピン13と弾性部14,15の弾性変形が吸収し、減速機1のロックや軋み、バックラッシュの発生が抑制もしくは回避されている。このため、関節部36および関節部43の出力の遅れやガタつきが防止されて、関節の動きを滑らかにすることができる。
【0109】
(2)本実施形態によれば、減速機1は貫通ピン13と第1連結孔16aおよび第2連結孔18aとの間に長寿命の第1弾性部14および第2弾性部15を備えている。従って、ロボットハンド33およびロボット39が有する減速機1は、貫通ピン13と第1連結孔16aおよび第2連結孔18aとの間に長寿命の第1弾性部14および第2弾性部15を備えている。従って、ロボットハンド33およびロボット39は、貫通ピン13と第1弾性部14および第2弾性部15との間のバックラッシュの発生が抑制もしくは回避された減速機1を備えたロボットハンドおよびロボットとすることができる。
【0110】
以上、本実施例の減速機1について説明したが、本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。変形例を以下に述べる。
(変形例1)
前記第1の実施形態では、第1公転ギア7および第2公転ギア8の2つの公転ギアを配置した。公転ギアの個数は2つに限らず1つでも良く3つ以上でも良い。公転ギアが1つでも安定して減速できるときには公転ギアは1つでも良い。このとき、第2回転軸4とリングギア6との間に軸受けを配置するのが好ましい。公転ギアの数を減らせるので、生産性良く製造できる。公転ギアを3つ以上にするとき、公転ギアとリングギア6とが接触する場所が増えるため、第2回転軸4の振動を減らせることができる。
【0111】
(変形例2)
前記第1の実施形態では、第1弾性部14および第2弾性部15の外径を第1連結孔16aおよび第2連結孔18aの直径より大きくした。さらに、第1弾性部14および第2弾性部15の内径を貫通ピン13の外径より小さくした。この配置を変更しても良い。第1弾性部14および第2弾性部15の内径を貫通ピン13の外径と略同じ直径にする。そして、第1弾性部14および第2弾性部15の外径を第1連結孔16aおよび第2連結孔18aの直径より大きくする。そして、第1連結孔16aおよび第2連結孔18aに第1弾性部14および第2弾性部15を圧入することで、第1弾性部14および第2弾性部15の内径が実質的に貫通ピン13の外径より小さくなる。この場合にも同様の効果を得ることができる。
【0112】
(変形例3)
前記第2の実施形態では、第1弾性部14が第1連結孔16aに固定され、第2弾性部15が第2連結孔18aに固定された。第1弾性部14は第1蓋体16と一体となるように形成され、第2弾性部15は第2蓋体18と一体となるように形成されても良い。例えば、図7(g)に示す溝部31cと同様な形状の溝を第1蓋体16に形成しても良い。部品点数を減らせるため、生産性良く製造することができる。
【0113】
(変形例4)
前記第3の実施形態では、ロボットハンド33には2つの指部35が設置された。指部35の数は1つでも良く、3つ以上でも良い。1つの指部35には3つの関節部36が配置された。1つの指部35に配置される関節部36の数は1つまたは2つでも良く、4つ以上でも良い。ロボットハンド33が把持する物品に合わせて指部35の数や関節部36の数を設定して良い。物品に合わせることにより、品質良く物品を把持することができる。
【0114】
(変形例5)
前記第3の実施形態では、ロボット39には2つの腕部41が設置された。腕部41の数は1つでも良く、3つ以上でも良い。1つの腕部41には3つの関節部43が配置された。1つの腕部41に配置される関節部43の数は1つまたは2つでも良く、4つ以上でも良い。ロボット39が作業する内容や環境に合わせて腕部41の数や関節部43の数を設定して良い。作業内容や環境に合わせることにより、品質良く作業を行うことができる。
【0115】
(変形例6)
前記第3の実施形態では、ロボットハンド33およびロボット39に減速機1が活用された例を示したが、これに限らない。モーターの回転を減速機で減速し、可動部を可動する電子機器の減速機に減速機1を用いることができる。電子機器としては、例えば、プリンター、工作機械、自動車、光磁気ディスクの読取装置で読取ヘッドを移動する機構、音響装置のつまみを遠隔制御する機構等の各種の用途に減速機1を用いることができる。
【符号の説明】
【0116】
1…減速機、2…本体、3…第1回転軸、4…第2回転軸、5…中心軸、6…リングギア、7…第1公転ギア、8…第2公転ギア、9…第1ベアリング、10…第2ベアリング、11…第1偏心カム、12…第2偏心カム、13…貫通ピン、14…第1弾性部、15…第2弾性部、16…第1蓋体、17…ナット、18…第2蓋体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空部を有し、前記中空部の内周に複数のギア歯が形成されたリングギアと、
複数のギア歯が形成され、前記リングギアの前記内周のギア歯と噛合する公転ギアと、
前記公転ギアの中心位置に、前記公転ギアに対して回動可能に設けられた円形カムと、
前記円形カムに設けられ、前記リングギアの中心軸上に位置し、前記中心軸周りに前記円形カムを回動させて前記公転ギアを前記中心軸周りに公転させる第1回転軸と、
前記公転ギアに形成された貫通孔に挿入された貫通ピンと、
前記貫通ピンを挿入し連結される連結孔を有し、前記リングギアの前記中空部に前記公転ギアを収納する第1蓋体および第2蓋体と、
前記第2蓋体と連結され、前記中心軸上に設けられて前記公転ギアの自転による回動を出力する第2回転軸と、
前記連結孔と前記貫通ピンとの間に位置し前記連結孔と前記貫通ピンとに接し、弾性を有する弾性部と、を備え、
前記弾性部が前記貫通ピンと接する場所の面積の総和は、前記弾性部が前記連結孔と接する場所の面積の総和より大きい、
ことを特徴とする減速機。
【請求項2】
請求項1に記載の減速機であって、
前記弾性部の形状は円筒形であり、前記弾性部の前記貫通孔と接する面には前記円筒形の円周方向に延在する溝部を有する、
ことを特徴とする減速機。
【請求項3】
請求項2に記載の減速機であって、
前記溝部は断面形状が三角形である、
ことを特徴とする減速機。
【請求項4】
請求項3に記載の減速機であって、
前記三角形の頂角が円弧状となっている、
ことを特徴とする減速機。
【請求項5】
請求項4に記載の減速機であって、
前記弾性部の前記貫通ピンと接する面の数は1面であり、前記貫通孔と接する面の数は2面である、
ことを特徴とする減速機。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の減速機であって、
前記弾性部は前記貫通ピンの軸方向を向く側面を有し、前記弾性部の前記貫通孔と接する面と前記側面とが交差する場所には前記貫通孔と接する前記面と斜めに交差する斜面が形成されている、
ことを特徴とする減速機。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の減速機であって、
前記弾性部の材質はステンレス鋼である、
ことを特徴とする減速機。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の減速機であって、
前記弾性部の前記貫通ピンと接する面にはDLCコーティング膜が形成されている、
ことを特徴とする減速機。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の減速機であって、
前記弾性部の前記貫通孔と接する面にはDLCコーティング膜が形成されている、
ことを特徴とする減速機。
【請求項10】
中空部を有し、前記中空部の内周に複数のギア歯が形成されたリングギアと、
複数のギア歯が形成され、前記リングギアの前記内周のギア歯と噛合する公転ギアと、
前記公転ギアの中心位置に、前記公転ギアに対して回動可能に設けられた円形カムと、
前記円形カムに設けられ、前記リングギアの中心軸上に位置し、前記中心軸周りに前記円形カムを回動させて前記公転ギアを前記中心軸周りに公転させる第1回転軸と、
前記公転ギアに形成された貫通孔に挿入される貫通ピンと、
前記貫通ピンを挿入し連結される連結孔を有し、前記リングギアの前記中空部に前記公転ギアを収納する第1蓋体および第2蓋体と、
前記第2蓋体と連結され、前記中心軸上に設けられて前記公転ギアの自転による回動を出力する第2回転軸と、
前記連結孔と前記貫通ピンとの間に位置し前記連結孔と前記貫通ピンとに接し、弾性を有する弾性部と、を備え、
前記弾性部は、前記貫通孔側に円周方向に延在する溝部を有する、
ことを特徴とする減速機。
【請求項11】
モーターと、前記モーターの出力を減速する減速機と、前記減速機の出力により可動する可動部と、を有し、前記減速機が請求項1〜10のいずれか一項に記載の減速機である、
ことを特徴とするロボットハンド。
【請求項12】
モーターと、前記モーターの出力を減速する減速機と、前記減速機の出力により可動する可動部と、を有し、前記減速機が請求項1〜10のいずれか一項に記載の減速機である、
ことを特徴とするロボット。
【請求項13】
モーターと、前記モーターの出力を減速する減速機と、前記減速機の出力により可動する可動部と、を有し、前記減速機が請求項1〜10のいずれか一項に記載の減速機である、
ことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−104498(P2013−104498A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249412(P2011−249412)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】