説明

減速機および電動パワーステアリング装置

【課題】動力伝達効率が高く低騒音の減速機および電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】本電動パワーステアリング装置1は、操舵補助用の電動モータ18の出力回転を、減速機19を介してステアリングシャフト4に伝達する。減速機19は、平行軸伝達機構として、入力ギヤ29および入力プーリ33が同行回転する入力軸27と、出力ギヤ32および出力プーリ34が同行回転する出力軸23とを有している。入力ギヤ29および出力ギヤ32は、互いに一体に回転する第1および第2の中間ギヤ30,31を介して間接的に噛み合う。入力プーリ33および出力プーリ34は、テンショナ36によって張力が付与されたベルト35を介して連結されている。張力が、ベルト35を介して入力ギヤ29および出力ギヤ32に伝達され、互いに対向する一対の歯面を当接させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機、およびこれを備える電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング装置は、操舵補助用の電動モータと、この電動モータの出力回転を減速する減速機とを有している(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には、互いにかみあう一対の歯車を有した減速機が記載されている。
【特許文献1】特開2001−130421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、歯車で動力伝達する減速機では、一対の歯車の互いに噛み合う歯面間に遊びがあるので、操舵補助力が作用していない状態で、路面から車輪への突き上げ力(逆入力)が作用すると、互いに噛み合う歯車の歯面同士が衝突して、異音(歯打ち音)が生じる。また、特許文献1では、ウォームギヤが用いられるので、動力の伝達効率が低い。
そこで、本発明の目的は、異音の発生を抑制できて動力伝達効率が高い減速機および電動パワーステアリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の減速機(19)は、電動モータ(18)の出力回転を減速するための平行軸伝達機構(26)を備え、この平行軸伝達機構は、入力ギヤ(29)および入力プーリ(33)が同行回転する入力軸(27)と、出力ギヤ(32)および出力プーリ(34)が同行回転する出力軸(23)と、を含み、入力ギヤおよび出力ギヤは、直接または中間ギヤ(30,31)を介して間接的に噛み合い、入力プーリおよび出力プーリは、テンショナ(36)によって張力が付与されたベルト(35)を介して連結されていることを特徴とする。
【0005】
本発明によれば、例えば、電動モータが停止していて平行軸伝達機構が動力伝達していないときに、テンショナによってベルトが引っ張られることにより、各ギヤの歯面が互いに当接するまで、入力プーリおよび出力プーリの少なくとも一方が微小回転する。従って、電動モータの停止中に出力軸からの逆入力を受けたときに、一対の歯面の衝突に伴う異音(歯打ち音)の発生を防止することができる。また、電動モータの回転方向が切り換えられるときに、各ギヤの回転方向が切り換わるに際して、対応するギヤは、互いの歯の歯面同士が接し合わない遊び領域を通過することになる。しかし、対応するギヤは、プーリおよびベルトを介して互いに連結されている。従って、対応するギヤが上記遊び領域を通過するときに、両ギヤ間の相対速度が低減される。その結果、電動モータの回転方向が切り換わるときに、歯面間の衝突が緩和されるので、歯打ち音による異音の発生を防止することができる。また、電動モータの回転方向が切り換えられるときには、対応するギヤが上記遊び領域を通過するときであっても、トルクがプーリおよびベルトを介して伝達されるので、トルク伝達がスムーズになされる。さらに、平行軸伝達機構のギヤとして、動力伝達効率の高い平歯車や斜歯歯車を採用することが可能となる。
【0006】
また、本発明において、上記入力ギヤおよび出力ギヤは、中間ギヤを介して同じ回転方向(CW1,CW3,CCW1,CCW3)に回転するように連結されており、上記ベルトは、上記入力プーリおよび出力プーリに順掛けで巻き掛けられている場合がある。この場合、入力軸から出力軸へ無理なく回転を伝達することができる。また、ベルトが順掛けなので、組み立てやすい。
【0007】
また、本発明において、上記入力ギヤおよび出力ギヤは、直接噛み合い、上記ベルトは、上記入力プーリおよび出力プーリに、たすき掛け状に巻き掛けられている場合がある。この場合、入力軸から出力軸へ無理なく回転を伝達することができる。また、入力ギヤと出力ギヤとが直接に噛み合うので、構造を簡素化できる。
また、本発明の電動パワーステアリング装置(1)は、操舵補助用の電動モータの出力回転を、上記本発明の減速機を用いて減速することを特徴とする。本発明によれば、例えば、悪路を直進走行するときに異音の発生を抑制できる。また、操舵方向を切り換えるときには、電動モータの回転方向の切り換えに伴う歯面間の衝突が緩和されるので、歯打ち音による異音の発生を防止することができる。また、操舵方向を切り換えるときには、上述のように、対応するギヤの歯面同士が互いに当接していないときであっても、トルクがプーリおよびベルトを介して伝達されるので、操舵補助力の応答性が向上し、ひいては操舵感が向上する。従って、低騒音で快適な操舵補助を実現することができる。
【0008】
なお、上記括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素の参照符号を示すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。本実施形態では、減速機を電動パワーステアリング装置に適用する場合に則して説明するが、減速機を電動パワーステアリング装置以外の装置に適用することもできる。
図1は、本発明の第1の実施形態の電動パワーステアリング装置の模式図である。図1を参照して、電動パワーステアリング装置1は、操向輪2を操舵するために操舵部材としてのステアリングホイール3に加えられる操舵トルクを伝達するステアリングシャフト4と、ステアリングシャフト4からの操舵トルクにより操向輪2を操舵するための例えばラックアンドピニオン機構からなる操舵機構5と、ステアリングシャフト4および操舵機構5の間に設けられてこの間において回転を伝達するための軸継手としての中間軸ユニット6とを有している。
【0010】
ステアリングシャフト4は、ステアリングコラム7の内部を挿通して、ステアリングコラム7により回転自在に支持されている。ステアリングコラム7はブラケット8を介して車体9に支持されている。ステアリングシャフト4の一方の端部にステアリングホイール3が連結されていて、回転自在に支持されている。ステアリングシャフト4の他方の端部に中間軸ユニット6が連結されている。中間軸ユニット6は、中間軸としての動力伝達軸10と、中間軸ユニット6の両端部に設けられた自在継手11,12とを有している。
【0011】
操舵機構5は、ピニオン軸13と、自動車の左右方向(直進方向と直交する方向である。)に延びる転舵軸としてのラックバー14と、ピニオン軸13およびラックバー14を支持するラックハウジング15とを有している。ピニオン軸13は、ピニオンを有し、このピニオンのピニオン歯13aと、ラックバー14のラック歯14aとが互いに噛み合っている。ラックバー14の各端部はそれぞれ、タイロッドおよびナックルアーム(図示せず)を介して対応する操向輪2に連結されている。
【0012】
ステアリングホイール3が操舵されると、その操舵トルクがステアリングシャフト4等を介して操舵機構5に伝達される。これにより操向輪2が操舵される。
電動パワーステアリング装置1は、操舵トルクに応じて操舵補助力を得られるようになっている。すなわち、電動パワーステアリング装置1は、操舵トルクを検出するトルクセンサ16と、制御部としてのECU(Electronic Control Unit :電子制御ユニット)17と、操舵補助用の電動モータ18と、歯車伝達装置としての減速機19とを有している。電動モータ18および減速機19は、ステアリングコラム7に設けられている。
【0013】
ステアリングコラム7は、コラムチューブ20と、センサハウジング21Aと、減速機ハウジング21Bとを有している。コラムチューブ20の端部と、センサハウジング21Aと、減速機ハウジング21Bとは、互いに固定されている。センサハウジング21Aが、トルクセンサ16を収容して支持している。減速機ハウジング21Bは、電動モータ18を支持し、減速機19の後述する複数のギヤ29〜32を収容している。
【0014】
ステアリングシャフト4は、軸方向下部として、入力軸22と、出力軸23と、トーションバー24とを有し、軸方向上部としての連結軸25を有している。入力軸22および出力軸23は、トーションバー24を介して同一の軸線上で互いに連結されている。入力軸22は、操舵トルク入力軸であり、連結軸25を介してステアリングホイール3に連なっている。出力軸23は、中間軸ユニット6に連なっている。入力軸22に操舵トルクが入力されたときに、トーションバー24が弾性ねじり変形し、これにより、入力軸22および出力軸23が相対回転する。
【0015】
トルクセンサ16は、トーションバー24を介する入力軸22および出力軸23間の相対回転変位量に基づいてトルクを検出し、トルク検出結果をECU17へ出力する。
ECU17は、上述のトルク検出結果や図示しない車速センサから与えられる車速検出結果等に基づいて、電動モータ18を制御する。
ステアリングホイール3が操作されると、操舵トルクがトルクセンサ16により検出され、トルク検出結果および車速検出結果等に応じて電動モータ18が操舵補助力を発生させる。操舵補助力は、減速機19を介して操舵機構5に伝達される。これとともに、ステアリングホイール3の動きも、操舵機構5に伝わる。その結果、車輪2が操舵されるとともに、操舵が補助される。
【0016】
図2は、図1の減速機19の正面図である。図1と図2を参照して、減速機19は、平行軸伝達機構26と、この平行軸伝達機構26を収容する上述の減速機ハウジング21Bとを備えている。減速機19は、操舵補助用の電動モータ18の出力回転を減速する。
平行軸伝達機構26は、第1の軸であり且つ動力入力軸としての入力軸27と、第2の軸としての中間軸28と、第3の軸としての上述の出力軸23と、これらの軸27,28,23を支持する複数の軸受(図示せず)とを有している。平行軸伝達機構26は、第1のギヤとしての入力ギヤ29と、第2のギヤであり且つ中間ギヤとしての第1および第2の中間ギヤ30,31と、第3のギヤとしての出力ギヤ32とを有している。また、平行軸伝達機構26は、入力プーリ33と、出力プーリ34と、ベルト35と、テンショナ36とを有している。
【0017】
テンショナ36は、テンションプーリ37と、テンションプーリ37を回動自在に支持する支持部材38と、テンションプーリ37の中心軸線の位置を調節可能に支持部材38を固定する固定部材39とを有している。
支持部材38は、長尺部材からなる。支持部材38の長手方向に関する支持部材38の一端は、減速機ハウジング21Bに設けられた支軸38aの中心軸線の回りに回動自在に支持されている。長手方向に関する支持部材38の他端が、テンションプーリ37を支持している。支持部材38を支軸38aの中心軸線の回りに回動させることにより、テンションプーリ37の位置を調節することができる。調節された状態を維持するために、長手方向に関する支持部材38の中間部には、長孔からなる挿通孔38bが形成されている。この挿通孔38bは、支持部材38の長手方向に垂直に交差して円弧状に延びており、固定部材39が挿通している。
【0018】
固定部材39は、ボルトからなる。このボルトの軸部の雄ねじが、支持部材38の挿通孔38bを通して、減速機ハウジング21Bのねじ孔にねじ込まれている。固定部材39による締結を緩めた状態で、支持部材38およびテンションプーリ37の位置を調節することができる。固定部材39は、支持部材38を減速機ハウジング21Bに締め付けた状態で、支持部材38の移動を規制している。
【0019】
入力軸27は、減速機ハウジング21Bに軸受を介して回動自在に支持されている。中間軸28および出力軸23も、入力軸27と同様に回動自在に支持されている。
入力軸27には、入力ギヤ29および入力プーリ33が同行回転するように連結されている。具体的には、入力ギヤ29と、入力プーリ33と、入力軸27とは、互いに別体で形成され、入力ギヤ29および入力プーリ33が、入力軸27と一体回転するように、入力軸27に固定されている。また、入力軸27と、入力ギヤ29と、入力プーリ33との少なくとも2つが、一体に形成されていてもよい。入力軸27は、軸継手(図示せず)を介して電動モータ18の出力軸18aに、連動できるように連結されており、電動モータ18により駆動される。
【0020】
中間軸28には、第1の中間ギヤ30と、第2の中間ギヤ31とが、当該中間軸28を介して一体回転できるように互いに連結されている。具体的には、中間軸28と、第1の中間ギヤ30と、第2の中間ギヤ31とは、互いに別体で形成され、第1の中間ギヤ30は、中間軸28に一体回転できるように互いに固定されているとともに、第2の中間ギヤ31は、中間軸28に一体回転できるように互いに固定されている。中間軸28と第1の中間ギヤ30と第2の中間ギヤ31との少なくとも2つが、一体に形成されてもよい。
【0021】
出力軸23には、出力ギヤ32および出力プーリ34が同行回転するように連結されている。具体的には、出力軸23と、出力ギヤ32と、出力プーリ34とは、互いに別体で形成され、出力ギヤ32および出力プーリ34が、出力軸23と一体回転するように、出力軸23に固定されている。また、出力軸23と、出力ギヤ32と、出力プーリ34との少なくとも2つが、一体に形成されていてもよい。
【0022】
入力ギヤ29と、第1および第2の中間ギヤ30,31と、出力ギヤ32とは、それぞれ金属、例えば鋼製の斜歯歯車からなる。入力ギヤ29は、第1の中間ギヤ30よりも小径である。第1の中間ギヤ30は、第2の中間ギヤ31よりも大径である。第2の中間ギヤ31は、出力ギヤ32よりも小径である。なお、互いに噛み合う少なくとも一対のギヤが平歯車である場合も考えられる。また、入力ギヤ29と、第1の中間ギヤ30と、第2の中間ギヤ31と、出力ギヤ32との少なくとも一部が、金属以外の材料、例えば合成樹脂材料により形成される場合も考えられる。
【0023】
入力軸27と、中間軸28と、出力軸23とは、互いに所定距離を隔てて、互いに平行に配置されている。駆動ギヤとしての入力ギヤ29と、従動ギヤとしての第1の中間ギヤ30とが、互いに噛み合っている。また、駆動ギヤとしての第2の中間ギヤ31と、従動ギヤとしての出力ギヤ32とが、互いに噛み合っている。このように、入力ギヤ29および出力ギヤ32は、第1および第2の中間ギヤ30,31を介して間接的に噛み合っている。入力ギヤ29および出力ギヤ32は、第1および第2の中間ギヤ30,31を介して連結されており、入力ギヤ29および出力ギヤ32が同じ回転方向に連動するようになっている。例えば入力ギヤ29が時計回りCW1に回転すると、出力ギヤ32も時計回りCW3に回転する。逆に、入力ギヤ29が反時計回りCCW1に回転すると、出力ギヤ32も反時計回りCCW3に回転する。
【0024】
入力プーリ33と、出力プーリ34と、テンションプーリ37とが、入力軸27の軸方向に関して、互いに同じ位置に配置されており、ベルト35を巻き掛けられている。
ベルト35は、無端状の歯付きベルトである。これに伴い、入力プーリ33、出力プーリ34およびテンションプーリ37は、歯付きプーリとされている。なお、ベルト35としては、平ベルト、丸ベルト、Vベルト等の種々の歯無しベルトであってもよい。この場合、各プーリ33,34,37は、歯無しベルトに対応する形状の歯無しプーリとされる。本実施形態では、ベルト35が歯付きベルトである場合に則して説明する。
【0025】
入力プーリ33は、相対的に小径である。出力プーリ34は、相対的に大径である。入力プーリ33と出力プーリ34との間の減速比の値は、入力ギヤ29と出力ギヤ32との間の全体的な減速比と等しい値とされている。これにより、ベルト35に無理がかからなくて済む。ここで、入力ギヤ29と出力ギヤ32との間の全体的な減速比としては、本実施形態では、入力ギヤ29および第1の中間ギヤ30による減速比の値と、第2の中間ギヤ31および出力ギヤ32による減速比の値との積である。
【0026】
なお、入力プーリ33と出力プーリ34との間の減速比は、入力ギヤ29と出力ギヤ32との間の全体的な減速比と等しい値に近似した値、例えば上述の等しい値の95〜105%の範囲内の値に設定されることも考えられる。この場合、後述するようにベルト35の張力をテンショナ36により自律的に調節するようにすることが、ベルト35に無理を掛けないためには好ましい。本実施形態では、入力プーリ33と出力プーリ34との間の減速比は、入力ギヤ29と出力ギヤ32との間の全体的な減速比の値と等しい場合に則して説明する。
【0027】
入力プーリ33と出力プーリ34とテンションプーリ37との回転中心軸線同士は、互いに平行に配置されている。ベルト35は、入力プーリ33および出力プーリ34に順掛けで巻き掛けられている。これら両プーリ33,34はベルト35を介して互いに連結され、同じ回転方向に連動するようになっている。例えば入力プーリ33が時計回りCW1に回転すると、出力プーリ34も時計回りCW3に回転する。逆に、入力プーリ33が反時計回りCCW1に回転すると、出力プーリ34も反時計回りCCW3に回転する。
【0028】
テンションプーリ37は、入力プーリ33および出力プーリ34とは異なる位置に配置されている。テンションプーリ37は、入力プーリ33の軸方向から見たときに、入力プーリ33および出力プーリ34の共通接線Xに角度D1で交差する方向に平行な方向M1に位置調節できるようにされている。角度D1は、例えば90°が好ましく、45〜135°の範囲内の値の角度とされている。これにより、入力プーリ33および出力プーリ34を均等に引っ張ること(矢印T参照)ができるように、ベルト35に張力を付与することができる。テンションプーリ37の中心軸線の位置を、共通接線Xから、遠ざけるほどに、張力が大きくなる。
【0029】
ベルト35に張力をテンショナ36により付与することで、入力ギヤ29と出力ギヤ32との間の動力伝達経路における互いに噛み合う対をなすギヤ29,30,31,32の互いに対向し対をなす歯面同士が、互いに当接するようになっている。
すなわち、組立時に、先ず、入力ギヤ29と出力ギヤ32とが間接的に噛みあった状態とされ、且つベルト35が、各プーリ33,34,37に巻き掛けられて、ベルト35と各プーリ33,34,37との歯同士が、互いに噛み合った状態とされる。このとき、ベルト35は緩められた状態、具体的には、張力が相対的に小さくされた状態か、張力がかかっていない状態か、多少弛みが生じた状態のいずれかである。
【0030】
このような状態では、互いに対向し対をなす歯面間に隙間がある場合がある。この場合であっても、以下のように張力が相対的に大きくされた状態では、対をなす歯面同士が互いに当接するようになる。すなわち、テンショナ36によりベルト35に張力が付与されると、張力が相対的に大きくされた状態であって、ベルト35が張られて弛みが生じていない状態になる。このとき、各ギヤ29,30,31,32の噛み合いと、ベルト35と各プーリ33,34,37との噛み合いは維持されている。
【0031】
具体的には、テンションプーリ37を方向M1に移動させると、ベルト35を介して入力プーリ33は、ひいては入力ギヤ29は、時計回りCW1の向きに回動しようとする。また、ベルト35を介して出力プーリ34は、ひいては出力ギヤ32は、反時計回りCCW3の向きに回動しようとする。これに伴い、出力ギヤ32の歯面と第2の中間ギヤ31の歯面との間の隙間に見合う回転角度で、出力ギヤ32が回動すると、出力ギヤ32の歯面が第2の中間ギヤ31の歯面に当接する。そして、第2の中間ギヤ31が、ひいては第1の中間ギヤ30が、時計回りCW2に回動しようとする。第1の中間ギヤ30の歯面と入力ギヤ29の歯面との間の隙間に見合う回転角度で、第1の中間ギヤ31が回動すると、第1の中間ギヤ30の歯面と入力ギヤ29の歯面とが互いに当接する。これに伴い、入力ギヤ29は、第1の中間ギヤ30から反時計回りCCW1向きに回動させる力を受けることになるが、上述のように既にベルト35から時計回りCW1の向きに回動させる力を受けており、これらの回動させる力は互いに釣り合うようになる。従って、対をなす歯面同士が当接して、この状態が維持される。なお、上述の説明では、入力ギヤ29が回転しない場合について説明したが、これには限らず、例えば出力ギヤ32が回転しない場合や、全ギヤ29〜32が回転する場合も考えられる。
【0032】
動力伝達しない状態、例えば車両の直進状態であって操舵操作がなされていない状態では、上述のように、各ギヤ29,30,31,32において互いに対向し対をなす歯面同士が当接して、この状態が維持される。また、通例、入力軸27に連結される電動モータ18は、ECU17の制御下にあるので、電動モータ18の出力軸18aは回動自在とされていない。従って、出力軸23からの逆入力、例えば路面からの突き上げ力が、ベルト35の張力と同じ向きCCW3に作用したときには、歯面同士は当接した状態にあるので、歯面同士の衝突は生じず、歯打ち音の発生は防止される。また、逆入力が、ベルト35の張力と逆向きCW3に作用したときには、ベルト35の張力に抗して出力ギヤ32を回動させることになるので、張力が逆入力を緩和し、歯面同士の衝突が、ひいては歯打ち音の発生が抑制される。ベルト35が逆入力を緩和するダンパーとして機能する。
【0033】
また、動力伝達するときには、入力軸27から出力軸23への動力伝達は、複数のギヤ29,30,31,32を介する第1の経路と、ベルト35を介する第2の経路とを介してなされる。入力軸27の回転が第1の経路をへて出力軸23に伝達されたときの出力軸23の回転方向と、入力軸27の回転が第2の経路をへて出力軸23に伝達されたときの出力軸23の回転方向とは、同じである。また、同様に、第1および第2の経路に関して、入力軸27と出力軸23との間の回転速度の比(減速比)も等しいので、問題なく動力伝達がなされる。
【0034】
また、入力軸27が時計回りCW1に回動して動力伝達するときには、各ギヤ29,30,31,32において互いに対向し対をなす歯面同士は当接した状態が維持されるので、歯打ち音は生じない。
また、入力軸27が時計回りCW1から反時計回りCCW1に回動して動力伝達するように、入力軸27の回転方向が切り換わるときには、回転が切り換えられた動力は、先ず、ベルト35のみを介して伝達された後、歯面同士が当接することにより伝達されるようになる。動力がベルト35のみにより伝達されている間は、歯面同士が当接しない状態で、互いに対をなすギヤ29,30(またはギヤ31,32でもよい)同士が連れ回りするようになる。また、伝達トルクが徐々に大きくなるのに伴い、互いに対をなすギヤ29,30,31,32同士が連れ回りする間に、互いに対向する歯面同士の相対速度が徐々に小さくなり、やがて伝達トルクが所定値を超えて大きくなると、歯面同士が当接するようになり、歯車によるトルク伝達がなされる。従って、互いに対向する歯面同士の相対速度が小さくなり、歯面同士の衝突が緩和され、異音の発生が抑制される。
【0035】
また、ベルト機構(具体的には、このベルト機構は、プーリ33,34およびベルト35により構成される。)のみを用いた動力伝達は、歯車の回転方向が切り換えられた当初(回転方向が切り換えられた後の伝達トルクが所定値よりも小さいとき)のみでなされるので、トルクは、主に歯車により伝達される。従って、減速機19の全体としての動力伝達効率を高く維持できる。例えば、全体の伝達トルクに対するベルト35のみによる伝達トルクは、3〜8N・mの範囲内とされている。
【0036】
このように本実施形態の減速機19は、電動モータ18の出力回転を減速するための平行軸伝達機構26を備えている。この平行軸伝達機構26は、入力ギヤ29および入力プーリ33が同行回転する入力軸27と、出力ギヤ32および出力プーリ34が同行回転する出力軸23とを含んでいる。入力ギヤ29および出力ギヤ32は、第1および第2の中間ギヤ30,31を介して間接的に噛み合っている。入力プーリ33および出力プーリ34は、テンショナ36によって張力が付与されたベルト35を介して連結されている。
【0037】
本実施形態によれば、例えば、電動モータ18が停止していて平行軸伝達機構26が動力伝達していないときに、テンショナ36によってベルト35が引っ張られることにより、各ギヤ29,30,31,32の歯面が互いに当接するまで、入力プーリ33および出力プーリ34の少なくとも一方が微小回転する。従って、電動モータ18の停止中に出力軸23からの逆入力(例えば、路面からの突き上げ力)を受けたときに、一対の歯面の衝突に伴う異音(歯打ち音)の発生を防止することができる。
【0038】
また、電動モータ18の回転方向が切り換えられるときに、各ギヤ29,30,31,32の回転方向が切り換わるに際して、対応するギヤ(例えば、ギヤ29,30が互いに対応し、ギヤ31,32が互いに対応する。)は、互いの歯の歯面同士が接し合わない遊び領域を通過することになる。しかし、対応するギヤは、プーリ33,34およびベルト35を介して互いに連結されている。従って、対応するギヤが上記遊び領域を通過するときに、両ギヤの互いに対向する歯面間の相対速度が低減される。その結果、電動モータ18の回転方向が切り換わるときに、歯面間の衝突が緩和されるので、歯打ち音による異音の発生を防止することができる。
【0039】
また、電動モータ18の回転方向が切り換えられるときには、対応するギヤが上記遊び領域を通過するときであっても、トルクがプーリ33,34およびベルト35を介して伝達されるので、トルクがスムーズに立ち上がって伝達される。さらに、平行軸伝達機構26のギヤ29,30,31,32として、動力伝達効率の高い平歯車や斜歯歯車を採用することが可能となる。これらの平歯車や斜歯歯車は、ベルト35に比べて、高強度の材料、例えば鋼等の金属により形成できるので、小型化も可能となる。
【0040】
また、減速機19の動力伝達は、主にギヤ29,30,31,32を介してなされるので、減速機19を小型化できる。また、ベルト35、各プーリ33,34およびテンショナ36により構成されたベルト機構は、主に異音の発生を抑制するために設けられているので、小さな動力を伝達できる程度の簡素な構造で済み、小型化できる。
また、本実施形態では、入力ギヤ29および出力ギヤ32は、中間ギヤとしての第1および第2の中間ギヤ30,31を介して同じ回転方向に回転するように連結されている。ベルト35は、入力プーリ33および出力プーリ34に順掛けで巻き掛けられたオープンベルト35である。入力プーリ33と出力プーリ34とは、ベルト35を介して互いに同じ向きに回転するようになっている。この場合、入力軸27に対して出力軸23が連動する方向は、ベルト35を介したときと、中間ギヤを介したときとで一致しているので、回転が無理なく伝達される。また、ベルト35が順掛けなので、組み立て易い。
【0041】
また、中間軸28の軸方向からみたときに、当該中間軸28の中心軸線は、入力プーリ33と、出力プーリ34と、テンションプーリ37との中心軸線を結ぶ三角形状の内側に配置されている。これにより、テンショナ36による張力が、ベルト35、入力プーリ33を介して入力ギヤ29を、中間軸28に向けて付勢する。同様に、張力が、出力ギヤ32を、中間軸28に向けて付勢する。その結果、入力ギヤ29と第1の中間ギヤ30との中心軸線同士の間隔は、例えば、軸受の内部隙間分で短くなり、両ギヤ29,30の歯面間の隙間量(バックラッシュ量)を小さくできる。同様に、出力ギヤ32と第2の中間ギヤ31との歯面間の隙間量を小さくすることができる。
【0042】
また、電動パワーステアリング装置1は、操舵補助用の電動モータ18の出力回転を、本実施形態の減速機19を用いて減速している。これにより、例えば、悪路を直進走行するときに異音の発生を抑制できる。また、操舵補助時には、対をなす歯面同士が互いに当接するので、異音が生じる虞はない。また、操舵方向を切り換えるときには、電動モータ18の回転方向の切り換えに伴う歯面間の衝突が緩和されるので、歯打ち音による異音の発生を防止することができる。また、操舵方向を切り換えるときには、上述のように、対をなす歯面が互いに当接していない状態であっても、トルクがプーリ33,34およびベルト35を介して伝達されるので、操舵補助力の応答性が向上する。例えば、両方向の操舵補助力を速やかに切り換えて、スムーズに立ち上げることができ、ひいては操舵感を向上することができる。従って、低騒音で快適な操舵補助を実現することができる。
【0043】
また、本実施形態の減速機19では、異音の抑制にテンショナ36を利用するので、互いに対向する一対の歯面間の隙間量を小さな値に厳密に管理する従来の方法を採用せずに済む。従って、歯面間の隙間量を十分に確保することができるので、従来の方法では低温や高温状態で歯面間の隙間がなくなったり、隙間が過大になることがあったが、このようなことは本実施形態では生じない。操舵補助動作と異音の抑制効果を、広い温度範囲で確実に得ることができる。また、歯面間の隙間量の管理を厳しくせずに済むので、製造コストを低減できる。歯面間の遊びが許容されるので、動力伝達時にスムーズに噛み合うことができる結果、動力伝達効率を高くでき、また、噛み合い音の発生を抑制できる。
【0044】
また、本実施形態について、以下のような変形例を考えることができる。以下の説明では、上述の実施形態と異なる点を中心に説明し、同様の構成については同じ符号を付して説明を省略する。
例えば、図3は、本発明の第2の実施形態の減速機19を有する電動パワーステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。図4は、図3の減速機19の正面図である。本実施形態の減速機19は、1段減速の歯車減速機である。入力ギヤ29および出力ギヤ32は、直接噛み合っており、互いに逆向きに回転するようになっている。ベルト35は、入力プーリ33および出力プーリ34に、たすき掛け状に巻き掛けられている。入力プーリ33および出力プーリ34は、互いに逆向きに回転するようになっている。
【0045】
本実施形態でも、第1の実施形態と同様に、ベルト35にテンショナ36により張力を付与することにより、入力ギヤ29および出力ギヤ32の互いに対向し対をなす歯面同士を当接させることができ、ひいては歯打ち音の発生を抑制できる。また、ベルト35を介したときの入力ギヤ29に対して出力ギヤ32が連動する方向と、直接に噛み合うときの入力ギヤ29に対して出力ギヤ32が連動する方向とは、一致している。これにより、入力軸27から出力軸23へ無理なく回転を伝達することができる。また、入力ギヤ29と出力ギヤ32とが直接に噛み合うので、構造を簡素化できて、小型化できる。
【0046】
図5は、テンショナ36の変形例の正面図である。図5を参照して、テンショナ36は、テンションプーリ37と、支持部材38と、張力に抗する方向に支持部材38を弾力的に付勢する付勢部材40とを有している。付勢部材40は、弾性体としてのばね部材からなり、支持部材38と、減速機ハウジング21Bとの間に介在して、ベルト35に張力を付与するように、支持部材38を付勢する。この場合、入力軸27および出力軸23の軸間距離に応じて、また、ベルト35の長さに応じて、張力を一定になるように自律的に調節することができる。
【0047】
また、第1の実施形態の中間ギヤは、入力ギヤ29および出力ギヤ32にともに噛み合うアイドラであってもよい。
また、電動パワーステアリング装置としては、上述のコラムタイプの電動パワーステアリング装置1の他、ピニオンタイプやラックタイプの電動パワーステアリング装置であってもよい。ここで、コラムタイプでは、減速機19の出力ギヤ23がステアリングコラム7に支持されたステアリングシャフト4と一体化される。また、ピニオンタイプでは、出力ギヤが操舵機構のピニオン軸に一体回転する。ラックタイプでは、出力ギヤがラックバーを直線移動するように駆動するためのねじ機構の雌ねじ部材と一体回転する。その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態の電動パワーステアリング装置の模式図である。
【図2】図1の減速機の正面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態の電動パワーステアリング装置の模式図である。
【図4】図4の減速機の正面図である。
【図5】テンショナの変形例の正面図である。
【符号の説明】
【0049】
1…電動パワーステアリング装置、18…電動モータ、19…減速機、23…出力軸、26…平行軸伝達機構、27…入力軸、29…入力ギヤ、30…第1の中間ギヤ(中間ギヤ)、31…第2の中間ギヤ(中間ギヤ)、32…出力ギヤ、33…入力プーリ、34…出力プーリ、35…ベルト、36…テンショナ、CW1,CW3,CCW1,CCW3…回転方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータの出力回転を減速するための平行軸伝達機構を備え、
この平行軸伝達機構は、入力ギヤおよび入力プーリが同行回転する入力軸と、出力ギヤおよび出力プーリが同行回転する出力軸と、を含み、
入力ギヤおよび出力ギヤは、直接または中間ギヤを介して間接的に噛み合い、
入力プーリおよび出力プーリは、テンショナによって張力が付与されたベルトを介して連結されていることを特徴とする減速機。
【請求項2】
請求項1において、上記入力ギヤおよび出力ギヤは、中間ギヤを介して同じ回転方向に回転するように連結されており、上記ベルトは、上記入力プーリおよび出力プーリに順掛けで巻き掛けられていることを特徴とする減速機。
【請求項3】
請求項1において、上記入力ギヤおよび出力ギヤは、直接噛み合い、上記ベルトは、上記入力プーリおよび出力プーリに、たすき掛け状に巻き掛けられていることを特徴とする減速機。
【請求項4】
操舵補助用の電動モータの出力回転を、請求項1から3の何れか1項の減速機を用いて減速することを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−8121(P2009−8121A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−167852(P2007−167852)
【出願日】平成19年6月26日(2007.6.26)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】