説明

減速機及び歯車ポンプ

【課題】静粛性及び耐久性を両立させる。
【解決手段】減速機20では、複数のアウタピン42の各々の噛合面42Aは、モータシャフト16の接線方向を長軸方向とする楕円弧により形成されており、複数の外歯44の各々の被噛合面44Aは、噛合面42Aと面接触状態で噛み合うように形成されている。この構成によれば、例えば、噛合面42Aが円弧状に形成された場合に比して、噛合面42A及び被噛合面44Aが滑らかに接触するので、静粛性を向上させることができる。また、噛合面42A及び被噛合面44Aが上記構成とされることにより、複数の外歯44の歯底の曲面が滑らかになるので、これにより、インナギア24、ひいては、減速機20の耐久性を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機及び歯車ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内周面に円弧歯を備えるアウタロータと、外周面にトロコイド歯を有するインナロータとを備えたトロコイドギアが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−187883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この種の減速機及びこれを備えた歯車ポンプでは、静粛性及び耐久性を両立させることが課題とされる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、静粛性及び耐久性を両立させることができる減速機及びこれを備えた歯車ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の減速機は、各々の噛合面が回転軸の接線方向を長軸方向とする楕円弧により形成された複数の内歯を有するアウタギアと、前記回転軸に偏芯状態で取り付けられ、前記噛合面と面接触状態で噛み合う被噛合面が形成された複数の外歯を有するインナギアと、を備えている。
【0007】
この減速機によれば、複数の内歯の各々の噛合面は、回転軸の接線方向を長軸方向とする楕円弧により形成されており、複数の外歯の各々の被噛合面は、噛合面と面接触状態で噛み合うように形成されている。従って、例えば、噛合面が円弧状に形成された場合に比して、噛合面及び被噛合面が滑らかに接触するので、静粛性を向上させることができる。
【0008】
また、噛合面及び被噛合面が上記構成とされることにより、複数の外歯の歯底の曲面が滑らかになるので、これにより、インナギア、ひいては、減速機の耐久性を確保することができる。
【0009】
また、前記課題を解決するために、請求項2に記載の減速機は、各々の噛合面が回転軸の径方向を長軸方向とする楕円弧により形成された複数の内歯を有するアウタギアと、前記回転軸に偏芯状態で取り付けられ、前記噛合面と面接触状態で噛み合う被噛合面が形成された複数の外歯を有するインナギアと、を備えている。
【0010】
この減速機によれば、複数の内歯の各々の噛合面は、回転軸の径方向を長軸方向とする楕円弧により形成されており、複数の外歯の各々の被噛合面は、噛合面と面接触状態で噛み合うように形成されている。従って、例えば、噛合面及び被噛合面が円弧状に形成された場合に比して、複数の外歯の歯厚が増加するので、これにより、インナギア、ひいては、減速機の耐久性を向上させることができる。
【0011】
また、噛合面及び被噛合面が上記構成とされることにより、噛合面及び被噛合面が滑らかに接触するので、静粛性を確保することができる。
【0012】
また、前記課題を解決するために、請求項3に記載の減速機は、各々の噛合面に、第一噛合面と、前記第一噛合面よりも曲率の大きな第二噛合面が形成された複数の内歯を有するアウタギアと、前記回転軸に偏芯状態で取り付けられ、前記第一噛合面と面接触状態で噛み合う第一被噛合面と、前記第二噛合面と面接触状態で噛み合う第二被噛合面とが形成された複数の外歯を有するインナギアと、を備えている。
【0013】
この減速機によれば、第二噛合面は、第一噛合面よりも曲率が大きく形成されている。従って、例えば、第二噛合面及び第二被噛合面が第一噛合面及び第一被噛合面と同一の曲率で形成された場合に比して、複数の外歯の歯厚が増加するので、これにより、インナギア、ひいては、減速機の耐久性を向上させることができる。
【0014】
また、第一噛合面は、第二噛合面よりも曲率が小さく形成されているので、第一噛合面と第一被噛合面とが噛み合う方向にアウタギア及びインナギアが相対回転される場合には、第一噛合面及び第一被噛合面が滑らかに接触するので、静粛性を向上させることができる。
【0015】
請求項4に記載の減速機は、請求項3に記載の減速機において、前記第一噛合面及び前記第二噛合面の一方が、円弧状とされ、前記第一噛合面及び前記第二噛合面の他方が、楕円弧状とされたものである。
【0016】
この減速機によれば、第一噛合面が円弧状に形成されると共に、第二噛合面が楕円弧状に形成されており、その形状が簡単であるので、静粛性及び耐久性を容易に両立させることができる。
【0017】
また、前記課題を解決するために、請求項5に記載の歯車ポンプは、前記回転軸としてのモータシャフトを有するモータ部と、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の減速機を有すると共に、前記アウタギア及び前記インナギアの間の隙間が圧力室とされ、且つ、前記圧力室と連通される吸入ポート及び吐出ポートが形成されたポンプ部と、を備えている。
【0018】
この歯車ポンプによれば、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の減速機を有しているので、静粛性及び耐久性を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第一実施形態に係る歯車ポンプの一部断面を含む側面図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る減速機の断面図である。
【図3】図2に示される減速機の要部拡大図である。
【図4】本発明の第二実施形態に係る減速機の要部拡大図である。
【図5】本発明の第三実施形態に係る減速機の断面図である。
【図6】図5に示される減速機の要部拡大図である。
【図7】図5に示される減速機の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[第一実施形態]
はじめに、本発明の第一実施形態について説明する。
【0021】
図1に示されるように、本発明の第一実施形態に係る歯車ポンプ10は、モータ部12と、ポンプ部14とを備えている。モータ部12は、後述する減速機20への回転軸として、モータシャフト16を有している。
【0022】
ポンプ部14は、ハウジング18の内部に設けられた減速機20を有している。減速機20は、アウタギア22とインナギア24とを備えている。
【0023】
アウタギア22には、インナギア24が内接噛合されている。インナギア24は、モータシャフト16に偏芯状態(偏芯量はA)で取り付けられており、モータシャフト16の回転に伴って偏芯回転される。このアウタギア22及びインナギア24は、ハウジング18に内嵌されたスペーサ26により径方向の動きが規制されており、また、ケーシング28及びカバー30により軸方向の動きが規制されている。
【0024】
このアウタギア22及びインナギア24の間の隙間は、圧力室32とされている。また、カバー30及びケーシング28には、圧力室32と連通される吸入ポート34及び吐出ポート36がそれぞれ形成されている。
【0025】
そして、このポンプ部14では、インナギア24が偏芯回転されることに伴って、圧力室32の位置が変化し、これにより、吸入ポート34を介して外部から圧力室32に流体が吸入され、この流体が圧力室32から吐出ポート36を介して外部に吐出される。
【0026】
ここで、上述の減速機20を構成するアウタギア22とインナギア24とは、より具体的には、次のように構成されている。
【0027】
すなわち、図2,図3に示されるように、アウタギア22は、複数の内歯としてのアウタピン42を有している。この複数のアウタピン42は、モータシャフト16の接線方向を長軸方向とする楕円状に形成されている。この複数のアウタピン42には、モータシャフト16側に凸を成す噛合面42Aがそれぞれ形成されており、この各々の噛合面42Aは、モータシャフト16の接線方向を長軸方向とする楕円弧により形成されている。
【0028】
一方、インナギア24は、複数の外歯44を有している。この複数の外歯44の各々の被噛合面44Aは、噛合面42Aと面接触状態で噛み合うように形成されている。
【0029】
次に、本発明の第一実施形態の作用及び効果について説明する。
【0030】
本発明の第一実施形態に係る減速機20によれば、複数のアウタピン42の各々の噛合面42Aは、モータシャフト16の接線方向を長軸方向とする楕円弧により形成されており、複数の外歯44の各々の被噛合面44Aは、噛合面42Aと面接触状態で噛み合うように形成されている。従って、例えば、図3の想像線(二点鎖線)で示されるように、噛合面42Aが円弧状に形成された場合に比して、噛合面42A及び被噛合面44Aが滑らかに接触するので、静粛性を向上させることができる。
【0031】
また、噛合面42A及び被噛合面44Aが上記構成とされることにより、複数の外歯44の歯底の曲面が滑らかになるので、これにより、インナギア24、ひいては、減速機20の耐久性を確保することができる。
【0032】
また、本発明の第一実施形態に係る歯車ポンプ10によれば、上述の減速機20を有しているので、静粛性及び耐久性を両立させることができる。
【0033】
次に、本発明の第一実施形態の変形例について説明する。
【0034】
本発明の第一実施形態において、減速機20は、歯車ポンプ10に備えられていたが、その他の駆動装置に備えられても良い。
【0035】
また、アウタギア22は、複数のアウタピン42を有していたが、複数の噛合面42Aが形成された複数の内歯を有する環状に構成されていても良い。
【0036】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について説明する。
【0037】
図4に示される本発明の第二実施形態に係る減速機50は、上述の本発明の第一実施形態に係る減速機20に対し、次の如く構成が変更されている。
【0038】
すなわち、複数のアウタピン42は、モータシャフト16(図2参照)の径方向を長軸方向とする楕円状に形成されている。そして、これにより、この複数のアウタピン42における各々の噛合面42Aは、モータシャフト16の径方向を長軸方向とする楕円弧により形成されている。また、複数の外歯44の各々の被噛合面44Aは、噛合面42Aと面接触状態で噛み合うように形成されている。
【0039】
なお、図4において、L1は、複数のアウタピン42の中心を通過するトロコイド中心曲線(共通曲線)を表している。
【0040】
次に、本発明の第二実施形態の作用及び効果について説明する。
【0041】
本発明の第二実施形態に係る減速機50によれば、複数のアウタピン42の各々の噛合面42Aは、モータシャフト16の径方向を長軸方向とする楕円弧により形成されており、複数の外歯44の各々の被噛合面44Aは、噛合面42Aと面接触状態で噛み合うように形成されている。従って、例えば、図4の想像線(二点鎖線)で示されるように、噛合面42A及び被噛合面44Aが円弧状に形成された場合に比して、複数の外歯44の歯厚が増加するので、これにより、インナギア24、ひいては、減速機50の耐久性を向上させることができる。
【0042】
また、噛合面42A及び被噛合面44Aが上記構成とされることにより、噛合面42A及び被噛合面44Aが滑らかに接触するので、静粛性を確保することができる。
【0043】
このように、この減速機50によれば、静粛性及び耐久性を両立させることができる。
【0044】
なお、本発明の第二実施形態に係る減速機50についても、上述の本発明の第一実施形態に係る減速機20と同様の変形例を採用することができる。
【0045】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態について説明する。
【0046】
図5,図6に示される本発明の第三実施形態に係る減速機60は、上述の本発明の第一実施形態に係る減速機20に対し、次の如く構成が変更されている。
【0047】
すなわち、複数のアウタピン42は、モータシャフト16の周方向一方側(R1側)が円弧状に形成され、モータシャフト16の周方向他方側(R2側)がモータシャフト16の径方向を長軸方向とする楕円状に形成されている。そして、これにより、複数のアウタピン42における各々の噛合面には、円弧状とされた第一噛合面42A1と、楕円弧状とされた第二噛合面42A2とが形成されている。また、第二噛合面42A2は、第一噛合面42A1よりも曲率が大きく形成されている。
【0048】
一方、複数の外歯44の各々の被噛合面には、第一噛合面42A1と面接触状態で噛み合う第一被噛合面44A1と、第二噛合面42A2と面接触状態で噛み合う第二被噛合面44A2とが形成されている。
【0049】
次に、本発明の第三実施形態の作用及び効果について説明する。
【0050】
本発明の第三実施形態に係る減速機60によれば、第二噛合面42A2は、第一噛合面42A1よりも曲率が大きく形成されている。従って、例えば、図6の想像線(二点鎖線)で示されるように、第二噛合面42A2及び第二被噛合面44A2が第一噛合面42A1及び第一被噛合面44A1と同一の曲率を有する円弧状に形成された場合に比して、複数の外歯44の歯厚が増加するので、これにより、インナギア24、ひいては、減速機60の耐久性を向上させることができる。
【0051】
また、第一噛合面42A1は、第二噛合面42A2よりも曲率が小さく形成されているので、第一噛合面42A1と第一被噛合面44A1とが噛み合う方向にアウタギア22及びインナギア24が相対回転される場合には、第一噛合面42A1及び第一被噛合面44A1が滑らかに接触するので、静粛性を向上させることができる。
【0052】
また、この減速機60によれば、第一噛合面42A1が円弧状に形成されると共に、第二噛合面42A2が楕円弧状に形成されており、その形状が簡単であるので、静粛性及び耐久性を容易に両立させることができる。
【0053】
次に、本発明の第三実施形態の変形例について説明する。
【0054】
本発明の第三実施形態において、第一噛合面42A1は、円弧状とされ、第二噛合面42A2は、楕円弧状とされていたが、図7に示されるように、第一噛合面42A1は、円弧状とされ、第二噛合面42A2は、第一噛合面42A1よりも曲率が大きい円弧状とされていても良い。
【0055】
なお、図7において、L2は、第一噛合面42A1の中心を通過するトロコイド中心曲線(共通曲線)を表しており、L3は、第二噛合面42A2の中心を通過するトロコイド中心曲線(共通曲線)を表している。
【0056】
また、第一噛合面42A1は、楕円弧状とされ、第二噛合面42A2は、第一噛合面42A1よりも曲率が大きい円弧状とされていても良い。
【0057】
このように構成されていても、本実施形態と同様の作用及び効果を奏することができる。
【0058】
また、本発明の第三実施形態に係る減速機60についても、上述の本発明の第一実施形態に係る減速機20と同様の変形例を採用することができる。
【0059】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0060】
10・・・歯車ポンプ、12・・・モータ部、14・・・ポンプ部、16・・・モータシャフト(回転軸)、18・・・ハウジング、20,50,60・・・減速機、22・・・アウタギア、24・・・インナギア、26・・・スペーサ、28・・・ケーシング、30・・・カバー、32・・・圧力室、34・・・吸入ポート、36・・・吐出ポート、42・・・アウタピン(内歯)、42A・・・噛合面、42A1・・・第一噛合面、42A2・・・第二噛合面、44・・・外歯、44A・・・被噛合面、44A1・・・第一被噛合面、44A2・・・第二被噛合面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々の噛合面が回転軸の接線方向を長軸方向とする楕円弧により形成された複数の内歯を有するアウタギアと、
前記回転軸に偏芯状態で取り付けられ、前記噛合面と面接触状態で噛み合う被噛合面が形成された複数の外歯を有するインナギアと、
を備えた減速機。
【請求項2】
各々の噛合面が回転軸の径方向を長軸方向とする楕円弧により形成された複数の内歯を有するアウタギアと、
前記回転軸に偏芯状態で取り付けられ、前記噛合面と面接触状態で噛み合う被噛合面が形成された複数の外歯を有するインナギアと、
を備えた減速機。
【請求項3】
各々の噛合面に、第一噛合面と、前記第一噛合面よりも曲率の大きな第二噛合面が形成された複数の内歯を有するアウタギアと、
前記回転軸に偏芯状態で取り付けられ、前記第一噛合面と面接触状態で噛み合う第一被噛合面と、前記第二噛合面と面接触状態で噛み合う第二被噛合面とが形成された複数の外歯を有するインナギアと、
を備えた減速機。
【請求項4】
前記第一噛合面及び前記第二噛合面の一方は、円弧状とされ、
前記第一噛合面及び前記第二噛合面の他方は、楕円弧状とされている、
請求項3に記載の減速機。
【請求項5】
前記回転軸としてのモータシャフトを有するモータ部と、
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の減速機を有すると共に、前記アウタギア及び前記インナギアの間の隙間が圧力室とされ、且つ、前記圧力室と連通される吸入ポート及び吐出ポートが形成されたポンプ部と、
を備えた歯車ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−219978(P2012−219978A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89143(P2011−89143)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【Fターム(参考)】