説明

渦流探傷プローブ、渦流探傷装置、及び渦流探傷方法

【課題】細管内面の欠陥を探傷することができると共に、探傷信号に含まれるプローブのリフトオフに起因する誤差をなくすことができる渦流探傷プローブ、渦流探傷装置、及び渦流探傷方法を提供する。
【解決手段】本発明による渦流探傷装置1aは、パイプ状の細管2の内面に存在する欠陥を検査するものであり、細管2の内面に存在する欠陥の情報を含む探傷信号を検出し出力する渦流探傷コイル3と、渦流探傷コイル3のリフトオフ量に応じたリフトオフ信号を出力するリフトオフ検出手段4とを備えた渦流探傷プローブ5aを用いる。この渦流探傷装置1aに、渦流探傷コイル3から出力された探傷信号を受信する欠陥信号処理手段6と、リフトオフ検出手段4が出力したリフトオフ信号を受信するリフトオフ信号処理手段7と、リフトオフ信号処理手段7が受信したリフトオフ信号を用いて、欠陥信号処理手段6が受信した探傷信号を補正する探傷結果補正部8と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細径の管体内面に存在する傷等の欠陥を検査するための渦流探傷プローブ、渦流探傷装置、及び渦流探傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
引抜加工等により成形された鋼管やアルミ管等の管体の外表面や内表面には、引き抜き方向に沿った傷やしわなどの欠陥が形成されることがある。このような欠陥が形成された管体は、不良品として出荷対象から除く必要があるため、出荷前に欠陥の有無及び欠陥の深さを検査することは必須である。
このような管体表面の欠陥を検査する方法として渦流探傷法があり、渦流探傷法を応用した欠陥検出装置が多数開発されている。この欠陥検出装置においては、管体表面に渦電流を発生させて欠陥を検出するための渦流探傷プローブが備えられており、正確な欠陥検出にとって、渦流探傷プローブと管体表面との離間距離であるリフトオフ量を一定に保つことが重要である。
【0003】
そのため、渦流探傷プローブと管体表面との離間距離であるリフトオフ量を一定に保つための技術が様々に開発されると共に、リフトオフ量の変動に応じて欠陥の検出結果を補正する技術も開発されている。
特許文献1には、原子力発電プラント等に設置された配管内面の洗浄、点検、検査、予防保全、補修等の作業を行う配管内作業装置および作業方法が開示されている。この文献に開示された配管内作業装置は、配管の内側から前記配管に対して作業を行う作業ヘッドと、前記配管内に設けられ気体注入により膨張する膨張体を有し前記作業ヘッドを支持する支持装置と、を備えている。
【0004】
特許文献2には、引抜管内面に生ずる縦傷を検出する渦流探傷方法、挿入型プローブ及び該挿入型プローブを用いた渦流探傷装置が開示されている。この文献に開示された挿入型プローブは、検査対象管の管内に挿入して渦流探傷を行なう挿入型プローブであって、前記検査対象管の内面周方向に渦電流を発生させる励磁コイルと前記渦電流の変化を検出する一対の検出コイルを備えてなるセンサ部と、該センサ部を保持すると共に前記検査対象管の内面に沿うように外周部が形成されたホルダ部とを有し、外径がホルダ部よりも大径に形成されて前記ホルダ部に着脱可能に構成された適用径用ホルダを備えている。
【0005】
特許文献3には、原子力発電プラントなどにおいて表面・表層欠陥の検査に用いられる渦電流探傷プローブおよび渦電流探傷システムが開示されている。この文献に開示された渦電流探傷プローブは、光を送受信する非磁性の距離センサを渦電流探傷測定コイルに併設し、前記距離センサが受信する被検体との距離信号によって渦電流探傷信号を補正するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−206021号公報
【特許文献2】特開2008−292280号公報
【特許文献3】特開2006−138784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3に開示されるような技術が既に存在しているが、細径の管体内面を検査するに際しては、以下のような問題がある。
特許文献1の配管内作業装置は、膨張体によって管体内部でプローブを支持する構成となっている。この膨張体によってプローブのリフトオフ量を一定に保つことが可能であるが、膨張体が膨らむまでは、プローブが支持されていないフリーの状態となるので、リフトオフ量が変動してしまう。それだけでなく、膨張体は弾性体で構成されているので、膨張体が膨らんだ後でもプローブの揺動を防止することはできず、リフトオフ量の変動を抑制するのは困難である。これに加えて、管体内面を全面にわたって探傷する場合は、管体
またはプローブを回転させる必要がある。その場合、膨張体と管体の間に摩擦が発生するので、膨張体が損傷する恐れがある。
【0008】
特許文献2の挿入型プローブは、円柱状のホルダ部を有することで、センサ部と管体内面との距離(リフトオフ量)の変化の影響を少なくしている。管体の径が大きくなった場合でも、プローブ径を調整する適用径用ホルダを用いて、プローブ径を管体の内径に近づけることで、リフトオフ量の変化の影響を少なくしている。
しかし、挿入型プローブを管体内で移動させなくてはならないため、プローブと管体内面との間に、ある程度の間隔(クリアランス)を確保しなくてはならない。そうすると、このクリアランスによって、挿入型プローブの管体径方向への移動を許してしまうので、リフトオフ量は変動してしまう。
【0009】
そもそも細径の管体にとって、特許文献1の膨張体や特許文献2のホルダなどのようにプローブ以外の部材を挿入することは困難であるが、仮に挿入できたとしても、プローブ以外の部材を用いて、リフトオフ量の変動を抑制し一定に保つことは困難である。
そこで、特許文献3に開示されるように、リフトオフ量の変動に応じて欠陥の検出結果を補正する技術が存在する。
【0010】
特許文献3に開示の渦流探傷プローブは、リフトオフ量の変動に応じて渦電流探傷信号を補正するものである。この渦流探傷プローブにおいて、光学式距離センサが内挿型プローブに併設されているが、光学式距離センサは、レーザ発振器やレンズをはじめ、多くの構成部品が必要であるので大きくならざるを得ず、細径の管体内に用いるのは困難である。
【0011】
そこで本発明は、上記問題点に鑑み、細径の管体内面の微少欠陥を探傷することができると共に、探傷信号に含まれるプローブのリフトオフに起因する誤差をなくすことができる渦流探傷プローブ、渦流探傷装置、及び渦流探傷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
本発明の渦流探傷プローブは、パイプ状の管体の内面に存在する欠陥の情報を含む探傷信号を、渦流探傷によって検出し出力する渦流探傷コイルと、前記管体内面からの前記渦流探傷コイルのリフトオフ量に応じたリフトオフ信号を出力するリフトオフ検出手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
ここで、前記渦流探傷コイルは、前記管体の軸方向に沿って長尺な第1磁性ヨークを備えるソレノイドコイルであってもよい。
また、前記リフトオフ検出手段は、前記管体の軸方向に沿って前記渦流探傷コイルよりも短尺なU字型の第2磁性ヨークを備えたソレノイドコイルであって、前記管体内面において周方向を向くとともに閉じられた磁界を形成するものであってもよい。
【0014】
また、前記リフトオフ検出手段は、前記U字型の第2磁性ヨークの両端が、前記管体の内面を向くように且つ前記管体内面の周方向に沿うように配置されていてもよい。
ここで、前記渦流探傷コイルは、前記管体の径方向に沿って前記管体内面に対して起立した状態となるように配置された板状の第1磁性ヨークと、前記管体の軸方向に沿って前記第1磁性ヨークに巻回された導線とを備えるソレノイドコイルであり、前記渦流探傷コイル及び前記リフトオフ検出手段は、前記管体の径方向において互いに反対側となる内面を向き、前記管体の軸方向における同じ位置に配置されていてもよい。
【0015】
また、前記渦流探傷コイルは、板状の第1磁性ヨークと、前記管体の軸方向に沿って前記第1磁性ヨークに巻回された導線と、を備えるソレノイドコイルであり、前記板状の第1磁性ヨークが、前記管体の径方向に沿って前記管体内面に対して起立した状態となるように配置され、前記渦流探傷コイル及び前記リフトオフ検出手段は、前記管体の径方向において互いに反対側となる内面を向き、前記管体の軸方向における互いに重ならない位置に近接して配置されていてもよい。
【0016】
また、前記リフトオフ検出手段は、前記リフトオフ量に応じたキャパシタンス変化を出力する電気容量式のセンサであってもよい。
本発明の渦流探傷装置は、上述の渦流探傷プローブと、前記渦流探傷プローブの渦流探
傷コイルから出力された探傷信号を受信する欠陥信号処理手段と、前記リフトオフ検出手段が出力したリフトオフ信号を受信するリフトオフ信号処理手段と、前記リフトオフ信号処理手段が受信したリフトオフ信号を用いて、前記欠陥信号処理手段が受信した探傷信号を補正する探傷結果補正部と、を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明の渦流探傷方法は、上述の渦流探傷プローブを用いる渦流探傷方法において、前記渦流探傷プローブの渦流探傷コイルから出力された探傷信号を受信する第1受信ステップと、前記リフトオフ検出手段が出力したリフトオフ信号を受信する第2受信ステップと、前記第2受信ステップで受信したリフトオフ信号を用いて、前記第1受信ステップで受信した探傷信号を補正する補正ステップと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、細径の管体内面の微少欠陥を探傷することができると共に、探傷信号に含まれるプローブのリフトオフに起因する誤差をなくすことができる渦流探傷プローブ、渦流探傷装置、及び渦流探傷方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態による渦流探傷装置の検査対象となる細管を一方の開口から見たときの状態を示す図である。
【図2】第1実施形態による渦流探傷装置の構成を示すブロック図である。
【図3】検査中の細管を一方の開口から見たときの探傷コイルとリフトオフ手段の配置を示す図である。
【図4】検査中の細管を側面から見たときの第1実施形態による渦流探傷プローブの構成を示す図である。
【図5】細管の検査によって得られたデータを示す図である。
【図6】検査中の細管を側面から見たときの第2実施形態による渦流探傷プローブの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を、図を基に説明する。
(第1実施形態)
図1〜図4を参照しながら、以下に、本発明の第1実施形態による渦流探傷装置1aについて説明する。
図1に示すように、本実施形態による渦流探傷装置1aは、例えば引抜加工により成形された鋼管やアルミ管等のパイプ状の管体の内表面に存在する欠陥の存在を検査するものであり、主に管体の長手方向に沿って形成された縦傷の存在を検査する。渦流探傷装置1aは、特に、管体の内径が10mm前後の細径管(以下、細管という)2の内表面に存在する縦傷を検出する。
【0021】
渦流探傷装置1aは、渦流探傷コイル3とリフトオフ検出手段4を有する渦流探傷プローブ5aと、渦流探傷プローブ5aの渦流探傷コイル3から出力された探傷信号を受信する欠陥信号処理手段6と、リフトオフ検出手段4が出力したリフトオフ信号を受信するリフトオフ信号処理手段7と、リフトオフ信号処理手段7が受信したリフトオフ信号を用いて、欠陥信号処理手段6が受信した探傷信号を補正する探傷結果補正部8と、を備えている。
【0022】
渦流探傷装置1aは、さらに、検査対象である細管2を保持し回転させる回転駆動装置9と、渦流探傷プローブ5aを並進運動させる並進駆動装置10と、回転駆動装置9及び並進駆動装置10を制御する駆動制御装置11とを備えている。
図2〜図4を参照しながら、本実施形態による渦流探傷装置1aの構成について詳細に説明する。
【0023】
渦流探傷プローブ5aは、細管2に挿入されて細管2の内面の欠陥を検出するものであり、その外観は、例えば細管2の内径よりも小さな径の円柱状のプローブ筐体12である。よって、渦流探傷プローブ5aは、細管2の内面との間で摩擦のない遊嵌状態で細管2に挿入される。
図3は、渦流探傷プローブ5aが挿入された細管2を、渦流探傷プローブ5aの挿入方
向から見た断面を示す図である。この図に示すように、その渦流探傷プローブ5a内には、プローブの下半分でほぼ6時の方向を向くように、細管2の内面の欠陥を検出するためのセンサである渦流探傷コイル3が備えられている。同じく渦流探傷プローブ5a内において、プローブ筐体12の上半分でほぼ12時の方向を向くように、細管2の内面と渦流探傷プローブ5aとの離間距離であるリフトオフ量を検出するリフトオフ検出手段4が備えられている。
【0024】
図3及び図4に示すように、渦流探傷コイル3は、第1磁性ヨーク13に導線が巻回されたソレノイドコイルであり、細管2の内面に存在する欠陥の情報(欠陥信号)を含む探傷信号を、渦流探傷によって検出し出力するものである。
第1磁性ヨーク13は、長方形状の平板とされた磁性部材であって、長辺と短辺を有している。短辺の長さは長辺のおよそ半分程度であると共に、プローブ筐体12の径の半分よりも小さいものとなっている。また、第1磁性ヨーク13の厚みは、短辺の長さに対して薄肉となっている。
【0025】
この長方形状の第1磁性ヨーク13に例えば銅からなる導線が巻回されて、渦流探傷コイル3が構成されている。導線は、第1磁性ヨーク13の表面で、一方の短辺から他方の短辺へわたすように長辺に沿ってコイル状に巻回されている。
本実施形態では、この渦流探傷コイル3を2つ用いている。この2つの渦流探傷コイル3を、互いが接触しない程度に所定間隔を隔てて、互いの第1磁性ヨーク13が略平行となるように配置する。
【0026】
図3に示すように、互いに平行に配置された2つの渦流探傷コイル3は、第1磁性ヨーク13の長辺が細管2の軸心方向に沿うと共に、短辺が細管2の径方向を向くようにプローブ筐体12内に収納され、プローブ筐体12の側面から軸心に向かって直立している。
このように構成及び配置された渦流探傷コイル3において、プローブ筐体12の側面と対向する第1磁性ヨーク13の長辺及び厚みを含む側面は、紙面に向かってプローブ筐体12の側面のほぼ6時の方向に位置し、細管2の内面を探傷するための探傷面として機能する。
【0027】
また図4を参照すると、渦流探傷コイル3は、プローブ筐体12の径方向に沿って直立するように、プローブ筐体12の長手方向(軸芯方向)のほぼ中央に配置されている。
上述のように構成及び配置された渦流探傷コイル3を細管2に挿入し、一方のコイルユニットに、数100kHzから数MHzの周波数の交流電流を加えて励磁すると、励磁によって発生した磁界は、探傷面直下の細管2の内面近傍の磁界を変化させるため、その磁界変化を打ち消す磁界が内面近傍で発生する。これによって、探傷面の周方向に沿って、つまり、細管2の軸方向に沿って循環するように、探傷面直下の細管2の内面において渦電流が流れる。
【0028】
この渦電流が流れる領域を測定エリアと呼ぶと、測定エリアは、細管2の軸方向に沿って形成された縦傷の多くの部分を平行に含むことができる。従って、渦流探傷コイル3の渦電流は縦傷からの影響を大きく受けて流れが乱れる。
測定エリアを流れる渦電流は、同じく細管2の内面近傍の磁界変化を生み、この磁界変化の影響を受けた他方のコイルユニットに交流電流が発生する。この交流電流は、電流の大きさや周波数として測定エリア内における欠陥の情報を含んでいるので、後述する欠陥信号処理手段6へ探傷信号として出力される。
【0029】
なお、ここでは2つの渦流探傷コイルで励磁と検出を別々に行う相互誘導型について説明したが、各コイルがそれぞれ独立に励磁・検出を行ってその差動を出力とする差動方式でも同様の効果が期待できる。
図3及び図4に示すように、リフトオフ検出手段4は、U字型の第2磁性ヨーク14に導線が巻回されたソレノイドコイルであり、細管2の内面からの渦流探傷コイル3のリフトオフ量に応じたリフトオフ信号を出力するものである。
【0030】
第2磁性ヨーク14は、U字型形状を呈する磁性部材から構成され、平板状の基片14aと、基片14aの長辺方向の両端側から略垂直となるように突出した一対の突出片14bとを有している。
各突出片14bの突出長さは、プローブ筐体12の径と同等か若干短くなっている。さらに、突出片14bの幅W(プローブ筐体12を細管2に挿入した際の、プローブ筐体12の軸心に沿った長さ)は、基片14aの長辺より短く、かつ、渦流探傷コイル3の第1磁性ヨーク13の長辺よりも十分に短い。
【0031】
リフトオフ検出手段4は、このようなU字型の第2磁性ヨーク14の基片14aに導体を巻回することで構成される。
図3に示すように、リフトオフ検出手段4は、プローブ筐体12の径方向において、渦流探傷コイル3の背面側で、渦流探傷コイル3とは反対の方向を向くように配置されていると共に、当該プローブ筐体12の径を中心にして紙面左右方向にほぼ対称となるように配置されている。
【0032】
このように配置されたリフトオフ検出手段4の突出片14bの先端面は、渦流探傷コイル3の2つの第1磁性ヨーク13のほぼ真ん中を通るプローブ筐体12の径方向において、渦流探傷コイル3の探傷面と反対の方向を向いている。
さらに、リフトオフ検出手段4の基片14aの長手方向は、プローブ筐体12の軸心方向に直交していて、1対の突出片14bの先端面はプローブ筐体12の側面の周方向に沿って並んでいる。
【0033】
図4を参照しながら、さらに説明する。図4は、渦流探傷プローブ5aが挿入された細管2を、渦流探傷プローブ5aの挿入方向に対して垂直となる側方から見た断面図である。
図4を参照すると、リフトオフ検出手段4は、U字型の第2磁性ヨーク14の幅Wがプローブ筐体12の軸心方向に沿うように配置されており、U字型の第2磁性ヨーク14の幅Wは、プローブ筐体12の軸心方向において渦流探傷コイル3よりも短い。U字型の第2磁性ヨーク14は、プローブ筐体12の軸心方向において、渦流探傷コイル3の長手方向の長辺の範囲内で同じ位置に配置されている。
【0034】
このように構成及び配置されたリフトオフ検出手段4の導体に所定周波数の交流電流を供給すると、供給された電流に応じた磁界が、巻回された導体の周囲に発生する。発生した磁界は、第2磁性ヨーク14によってU字型に沿って循環するように形成されるので、コイル端及びヨークの突出片14bの端部で発散することなく閉じた磁界となる。このようにリフトオフ検出手段4は、磁界が漏れない閉じた磁界を形成する部材、つまり磁気回路が閉じた部材であるので、渦流探傷コイル3が近傍に配置されても、渦流探傷コイル3が形成する磁界にほとんど影響を及ぼすことはない。
【0035】
さらに、上述のようにリフトオフ検出手段4を配置すると、プローブ筐体12の周方向に沿って、つまり、検査対象となる細管2の周方向に沿って第2磁性ヨーク14の一方の脚部側から他方の脚部側に向かう磁界が発生する。このような向きの磁界によって誘起される渦電流は、細管2内面の縦傷の一部からしか影響を受けないので、縦傷から受ける影響が小さく乱れも小さいものとなり、縦傷からの影響が少ないリフトオフ量の検出が可能となる。
【0036】
このとき、リフトオフ検出手段4のインピーダンスは、リフトオフ量に応じた値となっているが、リフトオフ量が変動すると渦電流が発する磁界からの影響も変動するので、インピーダンスが変化する。このインピーダンス変化を、後述するリフトオフ信号処理手段7で検出して、リフトオフ量を表す信号とする。
上述のように、本実施形態による渦流探傷装置1aは、渦流探傷コイル3の背面側のリフトオフ検出手段4で検出したリフトオフ量を、渦流探傷コイル3のリフトオフ量として扱う。
【0037】
図2を参照しつつ、渦流探傷装置1aの構成についてさらに説明する。
欠陥信号処理手段6は、欠陥検出コイルから出力された欠陥の情報を含む探傷信号を受信して、例えば電圧信号へ変換し、渦流探傷データとして後述する探傷結果補正部へ出力するものである。この電圧信号には、細管2内面からの渦流探傷コイル3のリフトオフ量に対応する信号と、欠陥に対応する信号が含まれている。
【0038】
リフトオフ信号処理手段7は、リフトオフ検出手段4のインピーダンス変化を検出し、
検出したインピーダンス変化をリフトオフ量の変動を表す電圧信号へ変換し、リフトオフ測定データとして後述する探傷結果補正部へ出力するものである。リフトオフ信号処理手段7は、例えば、ブリッジ回路などで構成されている。
探傷結果補正部8は、リフトオフ信号処理手段7から出力されたリフトオフ測定データを用いて、欠陥信号処理手段6から出力された渦流探傷データを補正するものであり、例えば、パソコンなどで構成されている。
【0039】
探傷結果補正部8は、渦流探傷データからリフトオフ測定データを差し引いて補正し、リフトオフに起因する信号が含まれない補正された渦流探傷データを作成する。
以上のような構成を有する渦流探傷装置1aによって、渦流探傷プローブ5aを細管2内に挿入すると、細管2の内面の欠陥を検出することができる。本実施形態では、正確な検出と自動化を目的として、渦流探傷プローブ5aを細管2内へ挿入する並進駆動装置10と、細管2を保持して回転させる回転駆動装置9とを備えている。
【0040】
図2を参照して、並進駆動装置10及び回転駆動装置9について、以下に説明する。
並進駆動装置10は、例えば、先端側に渦流探傷プローブ5aを保持する円柱状のシャフト15を有するリニアスライダである。渦流探傷プローブ5aの軸芯とシャフト15の軸芯とが一致するように、渦流探傷プローブ5aはシャフト15に取り付けられている。
この並進駆動装置10のリニアスライダは、後述する駆動制御装置11に制御されて、シャフト15を軸心方向に沿って水平に移動(並進運動)させることで、細管2に対して渦流探傷プローブ5aを挿脱するものである。尚、シャフト15の径は、検査対象となる細管2の内径よりも小さい。
【0041】
回転駆動装置9は、検査対象となる細管2の一端(渦流探傷プローブ5aが挿入される側とは反対側)を把持し細管2を水平に保持する把持部と、把持部を回転させるステッピングモータで構成されている。回転駆動装置9のステッピングモータは、シーケンサやPLCで構成された駆動制御装置11により制御されて、細管2を軸心周りに所定速度で回転させるものとなっている。
【0042】
図2に示すように、回転駆動装置9と並進駆動装置10は、並進駆動装置10のシャフト15と回転駆動装置9に取り付けられた細管2が、互いの軸心を一致させて対向するように配置されている。
図3に示すように、シャフト15の一端に取り付けられた渦流探傷プローブ5aは、挿入方向から見て細管2の断面とほぼ同軸心となるように挿入される。これによって、渦流探傷プローブ5aと細管2内面の離間距離は、渦流探傷プローブ5aの全周にわたって、ほぼ一定となる。
【0043】
並進駆動装置10のシャフト15が紙面左方向に向かって水平方向に移動すると、シャフト15に取り付けられた渦流探傷プローブ5aは細管2内に挿入され、細管2の一端側から他端側まで移動する。このとき同時に、回転駆動装置9は、把持部を回転させて細管2を軸心回りに回転させる。これによって、渦流探傷プローブ5aは、細管2内の全面にわたって螺旋状に検査することができる。
【0044】
図5を参照しながら、このような構成の渦流探傷装置1aの動作について説明する。
まず、渦流探傷プローブ5aの校正を行う。回転駆動装置9に細管2を取り付け、渦流探傷プローブ5aを細管2に挿入する。この状態で、渦流探傷コイル3とリフトオフ検出手段4に交流電流を供給して、渦流探傷コイル3からの渦流探傷データとリフトオフ検出手段4からのリフトオフ測定データを得る。これらのデータを参照しながら、両データに含まれるリフトオフ量に対応する信号のレベルがほぼ同じになるように、供給する交流電流の大きさ及び周波数を調整する。
【0045】
渦流探傷プローブ5aの校正が終わると、駆動制御装置11の制御の下で、回転駆動装置9及び並進駆動装置10を駆動させる。並進駆動装置10によって渦流探傷プローブ5aが細管2内に挿入されるのに合わせて回転駆動装置9によって細管2が回転し、細管2の内表面のほぼ全面を螺旋状に辿って欠陥が検出される。
図5(a)及び(b)に示すように、渦流探傷プローブ5aが細管2内に挿入されると、ほぼ同時に欠陥信号処理手段6によって縦傷の影響を受けた渦流探傷データが得られる
と共に、リフトオフ信号処理手段7によって縦傷の影響をほとんど受けていないリフトオフ測定データが得られる。
【0046】
図5(a)に示す渦流探傷データでは、細管2の長手方向の位置において、矢印で示すように2カ所で欠陥信号が検出されている。
図5(c)に示すように、探傷結果補正部8は、これら渦流探傷データとリフトオフ測定データを受け取り、渦流探傷データからリフトオフ測定データを差し引き、補正後の渦流探傷データを得る。このように補正された渦流探傷データには、リフトオフ量に起因する信号はほとんど含まれておらず、欠陥である縦傷に起因する2カ所の信号を高いS/N比で検出することができる。
【0047】
上記の手順に加えて、補正後の渦流探傷データに対して周波数フィルタなどを用いた処理を行えば、探傷精度をさらに向上させることができる。
本実施形態による渦流探傷装置1aを用いることで、渦流探傷コイル3の背面側のリフトオフ検出手段4でリフトオフ量を検出できると共に、検出したリフトオフ量を渦流探傷コイル3のリフトオフ量として扱うことができる。また、渦流探傷装置1aを用いることで、細管2の内面に存在する欠陥を測定する際に、リフトオフ量を厳密に一定にしなくとも、リフトオフ量の変動の影響がほとんどない良好な検査結果を得ることができる。
(第2実施形態)
図6を参照しながら、本発明の第2実施形態による渦流探傷装置1bについて説明する。
【0048】
本実施形態による渦流探傷装置1bは、第1実施形態による渦流探傷装置1aにおいて異なる構成の渦流探傷プローブ5bを備えた構成となっている。
図6に示すように、本実施形態による渦流探傷装置1bの渦流探傷プローブ5bは、プローブ筐体12bを有し、プローブ筐体12bの内部に渦流探傷コイル3及び2つのリフトオフ検出手段4を備えている。渦流探傷コイル3及びリフトオフ検出手段4は、第1実施形態で説明したものと同様の構成を有している。プローブ筐体12bは、第1実施形態のプローブ筐体12aよりも小さな径の円柱形状である。
【0049】
渦流探傷プローブ5bのプローブ筐体12bにおいて、渦流探傷コイル3及びリフトオフ検出手段4が向く方向は、第1実施形態と同じく、プローブ筐体12bの径方向において互いに反対となっている。その上で、渦流探傷コイル3をプローブ筐体12bのほぼ中央位置に配置し、リフトオフ検出手段4を、プローブ筐体12bの軸芯に沿って渦流探傷コイル3の両端側(渦流探傷プローブ5bの挿入方向に沿って渦流探傷コイル3の前後側)に配置する。
【0050】
つまり、渦流探傷コイル3とリフトオフ検出手段4は、細管2の軸方向における互いに重ならない位置に近接して配置されている。このように、第1実施形態のプローブ筐体12aよりも小さな径のプローブ筐体12bを用いて、渦流探傷コイル3とリフトオフ検出手段4を配置すると、渦流探傷プローブ5b全体の径を小さくすることができるので、第1実施形態における細管2よりも細い管を検査することができる。
【0051】
本実施形態におけるリフトオフ信号処理手段7は、2つのリフトオフ検出手段4からリフトオフ測定データを取得し、それらデータの平均を用いることで、渦流探傷コイル3の位置において取得したリフトオフ測定データとして扱うことができる。
このように、本実施形態による渦流探傷装置1bを用いることで、非常に細い細管の内面に存在する欠陥を測定する際に、リフトオフ量を厳密に一定にしなくとも、リフトオフ量の変動の影響がほとんどない良好な検査結果を得ることができる。
【0052】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、動作条件や測定条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【0053】
例えば、リフトオフ検出手段4として、ソレノイドコイルに代えて、例えば、コンデンサなどを用いた電気容量式のセンサを用いることができる。電気容量式のセンサを用いれ
ば、リフトオフ量に応じたキャパシタンス変化を出力することができるので、リフトオフ検出手段4の機能を実現することが可能である。
また、第2実施形態において用いたリフトオフ検出手段4の個数は2つであったが、1つだけであってもよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0054】
1a,1b 渦流探傷装置
2 細管
3 渦流探傷コイル
4 リフトオフ検出手段
5a,5b 渦流探傷プローブ
6 欠陥信号処理手段
7 リフトオフ信号処理手段
8 探傷結果補正部
9 回転駆動装置
10 並進駆動装置
11 駆動制御装置
12a,12b プローブ筐体
13 第1磁性ヨーク
14 第2磁性ヨーク
15 シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイプ状の管体の内面に存在する欠陥の情報を含む探傷信号を、渦流探傷によって検出し出力する渦流探傷コイルと、
前記管体内面からの前記渦流探傷コイルのリフトオフ量に応じたリフトオフ信号を出力するリフトオフ検出手段と、を備えることを特徴とする渦流探傷プローブ。
【請求項2】
前記渦流探傷コイルは、前記管体の軸方向に沿って長尺な第1磁性ヨークを備えるソレノイドコイルであることを特徴とする請求項1に記載の渦流探傷プローブ。
【請求項3】
前記リフトオフ検出手段は、前記管体の軸方向に沿って前記渦流探傷コイルよりも短尺なU字型の第2磁性ヨークを備えたソレノイドコイルであって、前記管体内面において周方向を向くとともに閉じられた磁界を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の渦流探傷プローブ。
【請求項4】
前記リフトオフ検出手段は、前記U字型の第2磁性ヨークの両端が、前記管体の内面を向くように且つ前記管体内面の周方向に沿うように配置されていることを特徴とする請求項3に記載の渦流探傷プローブ。
【請求項5】
前記渦流探傷コイルは、前記管体の径方向に沿って前記管体内面に対して起立した状態となるように配置された板状の第1磁性ヨークと、前記管体の軸方向に沿って前記第1磁性ヨークに巻回された導線とを備えるソレノイドコイルであり、
前記渦流探傷コイル及び前記リフトオフ検出手段は、前記管体の径方向において互いに反対側となる内面を向き、前記管体の軸方向における同じ位置に配置されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の渦流探傷プローブ。
【請求項6】
前記渦流探傷コイルは、板状の第1磁性ヨークと、前記管体の軸方向に沿って前記第1磁性ヨークに巻回された導線と、を備えるソレノイドコイルであり、前記板状の第1磁性ヨークが、前記管体の径方向に沿って前記管体内面に対して起立した状態となるように配置され、
前記渦流探傷コイル及び前記リフトオフ検出手段は、前記管体の径方向において互いに反対側となる内面を向き、前記管体の軸方向における互いに重ならない位置に近接して配置されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の渦流探傷プローブ。
【請求項7】
前記リフトオフ検出手段は、前記リフトオフ量に応じたキャパシタンス変化を出力する電気容量式のセンサであることを特徴とする請求項1または2に記載の渦流探傷プローブ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の渦流探傷プローブと、
前記渦流探傷プローブの渦流探傷コイルから出力された探傷信号を受信する欠陥信号処理手段と、
前記リフトオフ検出手段が出力したリフトオフ信号を受信するリフトオフ信号処理手段と、
前記リフトオフ信号処理手段が受信したリフトオフ信号を用いて、前記欠陥信号処理手段が受信した探傷信号を補正する探傷結果補正部と、を備えることを特徴とする渦流探傷装置。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の渦流探傷プローブを用いる渦流探傷方法において、
前記渦流探傷プローブの渦流探傷コイルから出力された探傷信号を受信する第1受信ス
テップと、
前記リフトオフ検出手段が出力したリフトオフ信号を受信する第2受信ステップと、
前記第2受信ステップで受信したリフトオフ信号を用いて、前記第1受信ステップで受信した探傷信号を補正する補正ステップと、を備えることを特徴とする渦流探傷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−145486(P2012−145486A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4849(P2011−4849)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】