渦流計測用センサ及び渦流計測方法
【課題】外径が大きく変化するような高周波焼入れ部品を検査する場合であっても高い検出精度で焼入れ深さ測定試験を行うことができ、また、焼入れ深さの計測にあたってリフトオフの影響を排除することで計測精度を向上させることが可能となる、渦流計測用センサ及び渦流計測方法を提供する。
【解決手段】渦流計測用センサは、励磁部及び検出部を備えたプローブ30と、演算部41と、を具備し、励磁部は、x軸方向に軸心方向を向けて、非磁性ボビン31に対して巻回される第一励磁コイル51と、y軸方向に軸心方向を向けて、第一励磁コイル51に対して交差して、非磁性ボビン31に対して巻回される第二励磁コイル52とが、非磁性ボビン31に巻回されて構成され、検出部は、第一励磁コイル51と第二励磁コイル52との二つの交差部分のうち、下側の一方に配設された検出コイル61を備える。
【解決手段】渦流計測用センサは、励磁部及び検出部を備えたプローブ30と、演算部41と、を具備し、励磁部は、x軸方向に軸心方向を向けて、非磁性ボビン31に対して巻回される第一励磁コイル51と、y軸方向に軸心方向を向けて、第一励磁コイル51に対して交差して、非磁性ボビン31に対して巻回される第二励磁コイル52とが、非磁性ボビン31に巻回されて構成され、検出部は、第一励磁コイル51と第二励磁コイル52との二つの交差部分のうち、下側の一方に配設された検出コイル61を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦流計測用センサ及び渦流計測方法に関し、より詳細には、渦流計測による焼入れ深さの検査精度を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車やオートバイのエンジン部品や足回り部品等の機械部品には、金属(導電体)を高周波誘導加熱して焼入れを行う、高周波焼入れを施した鋼材(以下、鋼材とする)が使用されている。前記鋼材の高周波焼入れにおいては、表面焼入れの硬化層深さ(以下、焼入れ深さとする)及びその硬度について、有効硬化層深さ及び全硬化層深さが規格されている。このため、鋼材の品質を保証するために、焼入れ深さ及び硬度を測定して評価する必要がある。
【0003】
従来、前記鋼材の焼入れ深さ及び硬度は、サンプルとして抜き取られた鋼材を部分的に切断し、その断面強度をビッカース硬度計等の各種硬度計にて測定し、その結果から焼入れ深さ及び硬度を評価していた。
しかし、この破壊検査による手法ではサンプルとして使用した鋼材が廃棄されるため、材料コストの上昇に繋がっていた。また、検査に要する時間が長くなる上に、インラインでの全数検査が不可能であるため、単発的に発生する不良を発見できずに次工程に搬出してしまう可能性があった。
【0004】
そこで、非破壊検査である渦流式検査を用いて、鋼材の焼入れ深さ及び硬度を測定する技術が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
渦流式検査は、交流電流を流した励磁コイルを前記鋼材の近くに接近させて交流磁場を発生させ、該交流磁場によって鋼材に渦電流を生じさせ、該渦電流により誘起された誘導磁場を検出コイルにより検出するものである。つまり、該渦流式検査により、鋼材を廃棄することなく、短時間で、かつ全数検査によって鋼材の焼入れ深さ及び硬度を定量的に測定することが可能となるのである。
前記渦流式検査は、上記の鋼材の焼入れ深さ及び硬度を測定するための焼入れ深さ/硬度測定試験(以下、焼入れ深さ測定試験とする)のほか、検査対象物の表面に生じた割れ等の傷を検出するための探傷試験や、検査対象物に含まれる異物を検出するための異材判別試験等にも用いられている。
【0005】
前記鋼材は、母材と硬化層に生じるマルテンサイトとの間での透磁率に差が生じる。従って、渦電流センサを用いて鋼材を測定すれば、焼入れ深さの変化に伴って検出コイルが検出する電圧(振幅)が変化する。また、検出コイルが検出する電圧は硬化層深さの増加とともに単調に減少するのである。焼入れ深さ測定試験においては、これらの現象を利用して鋼材の焼入れ深さを算定することができるのである。
【0006】
例えば、前記特許文献1に記載の技術によれば、貫通コイルを用いて軸物部品の軸部の焼入れ深さを検査する構成としている。貫通コイルは、軸線方向を鋼材に対して垂直に向けたコイルでプローブを構成して焼入れ深さを行うプローブ型のコイル(以下、単に「プローブ型コイル」とする)に比較して磁界が強く、鋼材との距離を精密に制御する必要もないため、焼入れ深さ測定試験に適しているのである。
しかし、貫通コイルの測定部分である内周の径は一定であるため、測定部位の貫通コイルに対する充填率(貫通コイルの内周横断面積に対する鋼材の測定部位における横断面積の割合)は、鋼材の測定部位における外径によって変化する。充填率が低くなると渦流式検査の検査精度は指数関数的に低下するため、前記従来技術によれば、鋼材の外径が測定部位ごとに変化することにより、検査精度に差が発生するという問題があった。
また、検査対象物である鋼材は貫通コイルに挿通する必要があるため、外径がほぼ一定である軸物部品に限られていた。つまり、例えばクランクシャフトのように外径が大きく変化するような部品を検査対象物とすることは難しかったのである。
【0007】
また、前記特許文献2の他の実施例に記載の技術によれば、プローブ型コイルを用いて鋼材の焼入れ深さを測定する構成としている。
前記焼入れ深さ測定試験については、他の探傷試験や異材判別試験と比較して、ノイズ成分に対する検出する信号成分の比率が小さいため、より高い検出精度が求められる。しかし、プローブ型コイルは磁界が弱く、また鋼材との距離を精密に制御する必要があるため、探傷試験や異材判別試験には適用することができるものの、焼入れ深さ測定試験に採用することは困難であった。
【0008】
また、プローブ型コイルを用いて鋼材の焼入れ深さ測定試験を行った場合、鋼材の焼入れ深さの変化に起因する出力値の変化と、リフトオフ(鋼材に対するプローブ型コイルの計測距離)の変化に起因する出力値の変化と、が同じ特性をもって出力される。具体的には、図16に示す如く、焼入れ深さが変化した場合でも、リフトオフが変化した場合でも、出力値である渦流計測値X、YのXY座標平面における変化が同じ方向に表れるのである。このため、焼入れ深さの計測にあたってリフトオフの影響を大きく受けることとなるため、計測精度を向上させることが困難であった。
【0009】
一方、鋼材の検査対象面と平行な方向に軸線を向けた二つの励磁コイルを直交させ、励磁コイルの交差部分に検出コイルを設けた構成により、渦流式検査を行う技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
前記特許文献3に記載の技術によれば、二つの励磁コイルを、軸線を直交させて組合せ、励磁コイルの交差部分に検出コイルを配設する。そして、検出コイルを鋼材に対向させた状態(即ち、二つの励磁コイルの軸線が鋼材の検査対象面と平行な状態)で励磁コイルに交流電圧を加えて渦流式検査を行うのである。
【0011】
しかし、前記特許文献3に記載の技術は、いずれも渦流式検査による探傷試験に用いられるものであり、焼入れ深さ測定試験に適用することは困難であった。即ち、焼入れ深さ測定試験は前記の如く、探傷試験よりもノイズ成分に対する検出する信号成分の比率が小さいため、より高い検出精度が求められる。また、探傷試験は検出信号における傷信号の有無で判断できるものであるのに対して、焼入れ深さ測定試験は検出信号の大きさを計測する必要がある。これらのことから、焼入れ深さ測定試験は探傷試験よりもリフトオフの影響を受けやすくなるため、従来の技術における渦流式検査による探傷試験の構成では焼入れ深さ測定試験を精度良く行うことはできなかったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−133694号公報
【特許文献2】特開2007−40865号公報
【特許文献3】特開2009−69090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明は上記現状に鑑み、外径が大きく変化するような高周波焼入れ部品を検査する場合であっても高い検出精度で焼入れ深さ測定試験を行うことができ、また、焼入れ深さの計測にあたってリフトオフの影響を排除することで計測精度を向上させることが可能となる、渦流計測用センサ及び渦流計測方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0015】
即ち、請求項1においては、計測対象部品に対して所定の交流励磁信号を印加するための励磁部、及び、印加された前記交流励磁信号によって計測対象部品に発生する検出信号を検出するための検出部、を備えたプローブと、前記検出信号を渦流計測値として算出するための演算部と、を具備する、渦流計測用センサであって、前記励磁部は、第一の軸方向に軸心方向を向けて配設された第一励磁コイルと、第一の軸方向と直交する第二の軸方向に軸心方向を向けて第一励磁コイルに対して交差して配設された第二励磁コイルと、を備え、前記検出部は、第一励磁コイルと第二励磁コイルとの二つの交差部分のうち一方に配設された検出コイルを備え、前記検出コイルが計測対象部品の計測部に対向する姿勢で、前記プローブを前記計測対象部品に近接配置した状態で、前記第一励磁コイル及び前記第二励磁コイルのそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加え、計測対象部品における前記検出コイルに対向する部分に、第一の軸方向の第一磁界及び第二の軸方向の第二磁界を発生させるとともに、それぞれの磁界により渦電流を生じさせ、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号として前記検出コイルで検出し、前記演算部が前記検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ深さの測定を行うものである。
【0016】
請求項2においては、前記検出部は、前記検出コイルに対して第一の軸方向の片側又は両側に隣接して配設された一個又は二個の焼入れ判別コイルを備え、前記検出コイル及び前記焼入れ判別コイルが計測対象部品の計測部に対向する姿勢で、前記プローブを前記計測対象部品に近接配置した状態で、前記第一励磁コイル及び前記第二励磁コイルのそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加え、計測対象部品における前記焼入れ判別コイルに対向する部分に、第一の軸方向及び第二の軸方向と直交する方向の磁界を発生させるとともに、前記磁界により渦電流を生じさせ、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号として前記焼入れ判別コイルで検出し、前記演算部が前記焼入れ判別コイルの前記検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ又は未焼入れの判別を行うものである。
【0017】
請求項3においては、前記検出部は、前記焼入れ判別コイルの前記検出コイルの側とは反対側に、前記焼入れ判別コイルと直交して配設された一個又は二個の直交焼入れ判別コイルを備え、前記検出コイル及び前記焼入れ判別コイルが計測対象部品の計測部に対向し、前記直交焼入れ判別コイルが計測対象部品の前記計測部と直交する直立部に対向する姿勢で、前記プローブを前記計測対象部品に近接配置した状態で、前記第一励磁コイル及び前記第二励磁コイルのそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加え、計測対象部品の前記直立部に、第一の軸方向の磁界を発生させるとともに、前記磁界により渦電流を生じさせ、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号として前記直交焼入れ判別コイルで検出し、前記演算部が前記焼入れ判別コイル及び前記直交焼入れ判別コイルの前記検出信号を渦流計測値として算出することにより、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ又は未焼入れの判別を行うものである。
【0018】
請求項4においては、計測対象部品に対して所定の交流励磁信号を印加するための励磁部、及び、印加された前記交流励磁信号によって計測対象部品に発生する検出信号を検出するための検出部、を備えたプローブと、前記検出信号を渦流計測値として算出するための演算部と、を具備し、第一の軸方向に軸線を向けた柱状に形成される、渦流計測用センサであって、前記励磁部は、第一の軸方向に軸心方向を向けて巻回された第一励磁コイルと、第一の軸方向と直交する第二の軸方向に軸心方向を向けて、第一励磁コイルに対して交差して巻回された第二励磁コイルと、第一の軸方向と直交し、第二の軸方向に対してそれぞれ等しく傾斜した方向に軸心方向を向けて、第一励磁コイルに対して交差して巻回された第三励磁コイル及び第四励磁コイルと、を備え、前記検出部は、第一励磁コイルと第二励磁コイルとの二つの交差部分のうち一方に配設された第一検出コイルと、第一励磁コイルと第三励磁コイルとの二つの交差部分のうち第一検出コイルに隣接する側に配設された第二検出コイルと、第一励磁コイルと第四励磁コイルとの二つの交差部分のうち第一検出コイルに隣接する側に配設された第三検出コイルと、を備え、前記第一検出コイルが計測対象部品の計測部に対向する姿勢で、前記プローブを前記計測対象部品に近接配置した状態で、前記第一励磁コイル、第二励磁コイル、第三励磁コイル、及び、第四励磁コイルのそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加え、計測対象部品に磁界を発生させるとともに、それぞれの磁界により渦電流を生じさせ、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号として前記第一検出コイル、第二検出コイル、及び、第三検出コイルで検出し、前記演算部が前記検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ深さの測定を行うものである。
【0019】
請求項5においては、計測対象部品に対して所定の交流励磁信号を印加するための励磁部、及び、印加された前記交流励磁信号によって計測対象部品に発生する検出信号を検出するための検出部、を備えたプローブと、前記検出信号を渦流計測値として算出するための演算部と、を具備する、渦流計測用センサであって、前記励磁部は、第一の軸方向に軸心方向を向けて配設された第一励磁コイルと、第一の軸方向と直交する第二の軸方向に軸心方向を向けて第一励磁コイルに対して交差して配設された第二励磁コイルと、を備え、前記検出部は、第一励磁コイルと第二励磁コイルとの二つの交差部分の双方に配設された二個の検出コイルを備え、中空状の計測対象部品に挿入し、それぞれの前記検出コイルが計測対象部品の内周面に対向する姿勢で、前記プローブを前記計測対象部品に近接配置した状態で、前記第一励磁コイル及び前記第二励磁コイルのそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加え、計測対象部品におけるそれぞれの前記検出コイルに対向する部分に、第一の軸方向の第一磁界及び第二の軸方向の第二磁界を発生させるとともに、それぞれの磁界により計測対象部品に渦電流を生じさせ、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号としてそれぞれの前記検出コイルで検出し、前記演算部が前記検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ深さの測定を行うものである。
【0020】
請求項6においては、請求項1に記載の渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、渦流計測方法であって、既知の焼入れ深さで焼入れされた予備計測対象部品を複数種類の焼入れ深さごとに準備し、前記予備計測対象部品に対する焼入れ測定時における前記渦流計測用センサと前記予備計測対象部品との計測距離を複数設定して、前記渦流計測用センサによって、前記測定距離毎にそれぞれの前記予備計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値としての予備計測値X0及びY方向の渦流計測値としての予備計測値Y0を、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに算出する、予備計測工程と、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに検出した前記予備計測値X0及び予備計測値Y0に対して、前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記予備計測値X0に対応する予備回転値X1、及び前記予備計測値Y0に対応する予備回転値Y1をそれぞれ算出し、前記位相回転処理を行う際には、前記焼入れ深さが同じであれば前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方の値が略一定となるように位相回転角を設定する、予備回転工程と、前記予備回転工程において値が略一定となった、前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さと、の関係を示す、焼入れ深さ検量線を作成する、検量線作成工程と、前記渦流計測用センサによって計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値x0及びY方向の渦流計測値y0を算出する、計測工程と、前記渦流計測値x0及び渦流計測値y0に対して、前記予備回転工程における位相回転処理と同じ位相回転角で前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記渦流計測値x0に対応する回転計測値x1、及び渦流計測値y0に対応する回転計測値y1を算出する、回転工程と、前記回転計測値x1及び回転計測値y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、焼入れ深さ測定工程と、を備えるものである。
【0021】
請求項7においては、請求項2に記載の渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、渦流計測方法であって、焼入れ又は未焼入れが既知の焼入れ予備計測対象部品を複数準備して、前記渦流計測用センサにおける前記焼入れ判別コイルによって、それぞれの前記焼入れ予備計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号を焼入れ予備計測値として前記焼入れ判別コイルごとに算出する、焼入れ予備計測工程と、前記焼入れ予備計測値を示す焼入れ判別基準を前記焼入れ判別コイルごとに算出する、基準算出工程と、既知の焼入れ深さで焼入れされた予備計測対象部品を複数種類の焼入れ深さごとに準備し、前記予備計測対象部品に対する焼入れ測定時における前記渦流計測用センサと前記予備計測対象部品との計測距離を複数設定して、前記渦流計測用センサによって、前記測定距離毎にそれぞれの前記予備計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値としての予備計測値X0及びY方向の渦流計測値としての予備計測値Y0を、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに算出する、予備計測工程と、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに検出した前記予備計測値X0及び予備計測値Y0に対して、前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記予備計測値X0に対応する予備回転値X1、及び前記予備計測値Y0に対応する予備回転値Y1をそれぞれ算出し、前記位相回転処理を行う際には、前記焼入れ深さが同じであれば前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方の値が略一定となるように位相回転角を設定する、予備回転工程と、前記予備回転工程において値が略一定となった、前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さと、の関係を示す、焼入れ深さ検量線を作成する、検量線作成工程と、前記渦流計測用センサにおける焼入れ判別コイルによって、計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号を焼入れ渦流計測値として前記焼入れ判別コイルごとに算出する、焼入れ計測工程と、対応する前記焼入れ判別コイルに基づいて算出した、前記焼入れ渦流計測値と、前記焼入れ判別基準と、を比較することにより、計測対象部品における、焼入れ又は未焼入れの判別を行う、焼入れ判別工程と、前記焼入れ判別工程で、全ての焼入れ判別部位に焼入れがされていると判別された計測対象部品において、前記渦流計測用センサによって検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値x0及びY方向の渦流計測値y0を算出する、計測工程と、前記渦流計測値x0及び渦流計測値y0に対して、前記予備回転工程における位相回転処理と同じ位相回転角で前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記渦流計測値x0に対応する回転計測値x1、及び渦流計測値y0に対応する回転計測値y1を算出する、回転工程と、前記回転計測値x1及び回転計測値y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、焼入れ深さ測定工程と、を備えるものである。
【0022】
請求項8においては、請求項3に記載の渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、渦流計測方法であって、計測部と、該計測部と直交する直立部と、を有し、焼入れ又は未焼入れが既知の焼入れ予備計測対象部品を複数準備して、前記渦流計測用センサにおける前記焼入れ判別コイル及び前記直交焼入れ判別コイルによって、それぞれの前記焼入れ予備計測対象部品の計測部及び直交部における検出信号を検出し、該検出信号を焼入れ予備計測値として前記焼入れ判別コイル及び前記直交焼入れ判別コイルごとに算出する、焼入れ予備計測工程と、前記焼入れ予備計測値を示す焼入れ判別基準を前記焼入れ判別コイル及び前記直交焼入れ判別コイルごとに算出する、基準算出工程と、既知の焼入れ深さで焼入れされた予備計測対象部品を複数種類の焼入れ深さごとに準備し、前記予備計測対象部品に対する焼入れ測定時における前記渦流計測用センサと前記予備計測対象部品との計測距離を複数設定して、前記渦流計測用センサによって、前記測定距離毎にそれぞれの前記予備計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値としての予備計測値X0及びY方向の渦流計測値としての予備計測値Y0を、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに算出する、予備計測工程と、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに検出した前記予備計測値X0及び予備計測値Y0に対して、前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記予備計測値X0に対応する予備回転値X1、及び前記予備計測値Y0に対応する予備回転値Y1をそれぞれ算出し、前記位相回転処理を行う際には、前記焼入れ深さが同じであれば前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方の値が略一定となるように位相回転角を設定する、予備回転工程と、前記予備回転工程において値が略一定となった、前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さと、の関係を示す、焼入れ深さ検量線を作成する、検量線作成工程と、前記渦流計測用センサにおける焼入れ判別コイルによって、計測対象部品の前記計測部における検出信号を検出し、該検出信号を焼入れ渦流計測値として前記焼入れ判別コイルごとに算出する、焼入れ計測工程と、前記渦流計測用センサにおける直交焼入れ判別コイルによって、計測対象部品の前記直立部における検出信号を検出し、該検出信号を直交焼入れ渦流計測値として前記直交焼入れ判別コイルごとに算出する、直交焼入れ計測工程と、対応する前記焼入れ判別コイル及び前記直交焼入れ判別コイルに基づいて算出した、前記焼入れ渦流計測値及び前記直交焼入れ渦流計測値と、前記焼入れ判別基準と、を比較することにより、計測対象部品の計測部及び直立部における、焼入れ又は未焼入れの判別を行う、焼入れ判別工程と、前記焼入れ判別工程で、全ての前記計測部及び直立部に焼入れがされていると判別された計測対象部品において、前記渦流計測用センサによって検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値x0及びY方向の渦流計測値y0を算出する、計測工程と、前記渦流計測値x0及び渦流計測値y0を前記予備回転工程における位相回転処理と同じ位相回転角で位相回転処理を行い、回転計測値x1及び回転計測値y1を算出する、回転工程と、前記回転計測値x1及び回転計測値y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、焼入れ深さ測定工程と、を備えるものである。
【0023】
請求項9においては、請求項4に記載の渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、渦流計測方法であって、既知の焼入れ深さで焼入れされた予備計測対象部品を複数種類の焼入れ深さごとに準備し、前記予備計測対象部品に対する焼入れ測定時における前記渦流計測用センサと前記予備計測対象部品との計測距離を複数設定して、前記渦流計測用センサによって、前記測定距離毎にそれぞれの前記予備計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値としての予備計測値X0及びY方向の渦流計測値としての予備計測値Y0を、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに算出する、予備計測工程と、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに検出した前記予備計測値X0及び予備計測値Y0に対して、前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記予備計測値X0に対応する予備回転値X1、及び前記予備計測値Y0に対応する予備回転値Y1をそれぞれ算出し、前記位相回転処理を行う際には、前記焼入れ深さが同じであれば前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方の値が略一定となるように位相回転角を設定する、予備回転工程と、前記予備回転工程において値が略一定となった、前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さと、の関係を示す、焼入れ深さ検量線を作成する、検量線作成工程と、前記渦流計測用センサの前記第一検出コイルによって計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の第一渦流計測値x01及びY方向の第一渦流計測値y01をそれぞれ算出する、第一計測工程と、前記渦流計測用センサの前記第二検出コイルによって計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の第二渦流計測値x02及びY方向の第二渦流計測値y02をそれぞれ算出する、第二計測工程と、前記渦流計測用センサの前記第三検出コイルによって計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の第三渦流計測値x03及びY方向の第三渦流計測値y03をそれぞれ算出する、第三計測工程と、それぞれの前記第一渦流計測値x01及び第一渦流計測値y01、前記第二渦流計測値x02及び第二渦流計測値y02、並びに、前記第三渦流計測値x03及び第三渦流計測値y03を、前記予備回転工程における位相回転処理と同じ位相回転角で位相回転処理を行い、それぞれの渦流計測値に対応する、第一回転計測値x11及び第一回転計測値y11、第二回転計測値x12及び第二回転計測値y12、並びに、第三回転計測値x13及び第三回転計測値y13を算出する、回転工程と、前記第一回転計測値x11及び第一回転計測値y11のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品の第一検出コイルに対向する部分における焼入れ深さの測定を行う、第一焼入れ深さ測定工程と、前記第二回転計測値x12及び第二回転計測値y12のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品の第二検出コイルに対向する部分における焼入れ深さの測定を行う、第二焼入れ深さ測定工程と、前記第三回転計測値x13及び第三回転計測値y13のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品の第三検出コイルに対向する部分における焼入れ深さの測定を行う、第三焼入れ深さ測定工程と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0025】
本発明により、外径が大きく変化するような高周波焼入れ部品を検査する場合であっても高い検出精度で焼入れ深さ測定試験を行うことができ、また、焼入れ深さの計測にあたってリフトオフの影響を排除することで計測精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】焼入部材の深さ方向の層状態、硬さ及び透磁率の関係を示す図。
【図2】本実施形態に係る渦流計測を行うための装置構成を示す模式図。
【図3】渦流計測における交流励磁信号と検出信号との関係を示す図。
【図4】(a)は第一実施形態に係る渦流計測用センサの構成を示す概略図、(b)は同じく渦流計測用センサの側面図。
【図5】(a)は第一実施形態に係る渦流計測用センサで生じる磁界分布を示した図、(b)は同じく渦流計測用センサで生じる磁界強度の相対的な変化を示した図。
【図6】第一実施形態に係る渦流計測用センサにおける予備計測値を示した図。
【図7】同じく予備回転値を示した図。
【図8】同じく検量線を示す概略図。
【図9】(a)は第二実施形態に係る渦流計測用センサの構成を示す側面図、(b)は第三実施形態に係る渦流計測用センサの構成を示す側面図。
【図10】第二実施形態に係る渦流計測用センサにおける検出コイルで検出した渦流計測値を示した図。
【図11】第二実施形態に係る渦流計測用センサにおける第一の焼入れ判別コイルで検出した渦流計測値を示した図。
【図12】第二実施形態に係る渦流計測用センサにおける第二の焼入れ判別コイルで検出した渦流計測値を示した図。
【図13】(a)、(b)、(c)はそれぞれ第三実施形態に係る渦流計測用センサにおける計測状態を示す側面図。
【図14】(a)は第四実施形態に係る渦流計測用センサの構成を示す概略図、(b)は同じく渦流計測用センサにおける計測状態を示す側面図。
【図15】(a)は第五実施形態に係る渦流計測用センサの構成を示す概略図、(b)は同じく渦流計測用センサにおける計測状態を示す側面図。
【図16】従来技術に係る渦流計測用センサで検出した渦流計測値を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【0028】
本発明は渦流計測用センサが有する、励磁部である励磁コイル、及び、検出部である検出コイルを、それぞれ複数のコイルによって構成するとともに、それらのコイルの配置や連結方法等を工夫することにより、渦流計測の適用範囲の拡大を図ろうとするものである。以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の実施の形態では、渦流計測用センサによる渦流計測が高周波焼入等による焼入部品の焼入品質(焼入深さ・焼入硬さ)の検査に用いられる場合を主な例として説明する。つまり、渦流計測用センサを用いた渦流計測が行われることにより、計測対象部品である焼入部品の焼入品質が検査される。
【0029】
図1に、焼入が施された鋼材(S45C等)である焼入部材の深さ(表面からの距離)方向の層状態、硬さ及び透磁率の関係を示す。図1に示すように、焼入部材においては、その概略的な組織構成として、表面側から、焼入が施された部分である硬化層1と、母材の部分である母層2とが、境界層3を介して形成される。硬さ変化曲線4を参照すると、硬化層1と母層2とは異なる硬さとなり、硬化層1の硬さが母層2のそれよりも大きくなる。境界層3においては、硬さは硬化層1側から母層2側にかけて漸減する。硬さの具体例としては、ビッカース硬さ(Hv)で、硬化層1ではHv=600〜700、母層2ではHv=300程度の硬さを示す。
【0030】
一方、透磁率変化曲線5を参照すると、焼入部材の表面からの距離に対する透磁率の変化は、焼入部材の表面からの距離に対する硬さの変化に対して略逆比例の関係となる。つまり、透磁率については、硬化層1の透磁率が母層2のそれよりも小さくなるとともに、境界層3においては硬化層1側から母層2側にかけて漸増する。本実施形態に係る渦流計測においては、このような焼入部材における、表面からの距離に対する硬さと透磁率との関係が利用される。
【0031】
本実施形態に係る渦流計測を行うための装置構成の概略(計測原理)について、図2を用いて説明する。図2に示すように、渦流計測においては、計測対象部品であるワーク(磁性体)6の計測部位6aに対して、励磁部である励磁コイル7及び検出部である検出コイル8を有する渦流計測用センサ9が所定の位置にセットされる。このような構成において、励磁コイル7に電流が供給されると、励磁コイル7の周囲に磁界が発生する。すると、電磁誘導によって磁性体であるワーク6の計測部位6aの表面近傍に渦電流が発生する(図2中の矢印C1参照)。計測部位6aの表面における渦電流の発生にともない、検出コイル8を磁束が貫通し、検出コイル8に誘起電圧が発生する。そして、検出コイル8によって誘起電圧が計測されるのである。
【0032】
励磁コイル7は、その両端(両端子)が、交流電源10に接続される。交流電源10は、励磁コイル7に対して所定の交流励磁信号(励磁用交流電圧信号)V1を印加する。検出コイル8は、その両端(両端子)が、計測装置11に接続される。計測装置11は、励磁コイル7に交流電源10からの交流励磁信号V1が印加されたときの検出コイル8から得られる検出信号(前記誘起電圧についての電圧信号)V2の大きさと、検出信号V2の交流励磁信号V1に対する位相差(位相遅れ)Φ(図3参照)とを検出する。ここで、計測装置11には、位相差Φを検出するため、増幅された位相検波として、交流励磁信号V1(波形)が与えられる。
【0033】
検出コイル8によって検出される検出信号V2は、計測部位6a(ワーク6)の透磁率を反映する。つまり、計測部位6aの透磁率が高くなると、前述のような渦電流の発生にともなう磁束が増して検出信号V2が大きくなる。逆に、計測部位6aの透磁率が低くなると、渦電流の発生にともなう磁束が減って検出信号V2が小さくなる。この渦電流に基づく検出信号V2を定量化(数値化)するため、図3に示すように、検出信号V2の大きさの値である振幅値Yと、検出信号V2の交流励磁信号V1に対する位相差Φに起因する値である値X(=YcosΦ)とが着目され、次のような知見が得られている。
【0034】
まず、検出信号V2の振幅値Yは、焼入表面硬さ(焼入された部分の硬さ)との間に相関を有するということがある。すなわち、図1における硬さ変化曲線4と透磁率変化曲線5との比較からわかるように、焼入表面硬さが低いときには透磁率は高いという関係がある。透磁率が高いと、交流励磁信号V1が励磁コイル7に印加されたときに生じる磁束は増し、計測部位6aの表面に誘導される渦電流も増大する。これにともない、検出コイル8によって検出される検出信号V2の振幅値Yも増大する。したがって、逆に、検出コイル8によって検出される検出信号V2の振幅値Yから、渦電流が発生している計測部位6aを貫く磁束、つまり透磁率が導かれる。これにより、図1に示す硬さ変化曲線4と透磁率変化曲線5との関係から焼入表面硬さがわかる。
【0035】
次に、検出信号V2の交流励磁信号V1に対する位相差Φに起因する値Xは、焼入深さ(焼入硬化層の深さ)との間に相関を有するということがある。すなわち、焼入深さが深くなること、つまり焼入部材において焼入された硬化層1が増大することは、透磁率の低い範囲が深さ方向に増すこととなり、交流励磁信号V1に対して検出信号V2の位相遅れが増すこととなる。これにより、位相差Φに起因する値の大小から、焼入深さの深浅がわかる。
【0036】
以上のような計測原理によって焼入部品の焼入品質の検査を行うための渦流計測においては、前述したように励磁コイル及び検出コイルを有する渦流計測用センサが用いられる。以下、渦流計測用センサの構成を、本発明の実施形態として説明する。
【0037】
[第一実施形態]
まず、本発明の第一実施形態に係る渦流計測用センサについて、図4及び図5を用いて説明する。なお、本明細書では、各図に示す矢印でx軸方向、y軸方向、及び、z軸方向を示すものとする。
【0038】
図4(a)及び(b)に示す如く、本実施形態に係る渦流計測用センサは、ケース32に収容された励磁部及び検出部を備えるプローブ30と、演算部41と、を具備する。
励磁部は前記の如く、計測対象部品と対向して配置された状態で、所定の交流励磁信号(前記交流励磁信号V1参照)が印加される。検出部は、交流励磁信号が印加された励磁部により計測対象部品に生じた渦電流による検出信号(前記検出信号V2参照)を検出するのである。また、演算部41は、後述する検出コイル61と電機的に接続されており、検出信号を渦流計測値として算出するのである。
【0039】
励磁部は、第一励磁コイル51と、第二励磁コイル52とが、略立方体形状の非磁性ボビン31に巻回されて構成されている。具体的には、第一励磁コイル51は、第一の軸方向であるx軸方向に軸心方向を向けて、非磁性ボビン31に対して巻回されるのである。また、第二励磁コイル52は、第一の軸方向と直交する第二の軸方向であるy軸方向に軸心方向を向けて、第一励磁コイル51に対して交差して、非磁性ボビン31に対して巻回されるのである。換言すれば、第一励磁コイル51と第二励磁コイル52とは、非磁性ボビン31の上面と下面とで交差するように、直交して配設されているのである。
第一励磁コイル51及び第二励磁コイル52のそれぞれの両端(両端子)は、図示しない交流電源に接続されている。つまり、第一励磁コイル51及び第二励磁コイル52は計測対象部品に対して所定の交流励磁信号を印加するための励磁コイルである。
【0040】
検出部は、第一励磁コイル51と第二励磁コイル52との二つの交差部分のうち、下側の一方に配設された検出コイル61を備える。検出コイル61は、XY平面(非磁性ボビン31の下面)における、第一励磁コイル51と第二励磁コイル52との下側の交差部分の略中央部に配置されている。
本実施形態においては、検出コイル61には薄膜プレーナコイルが用いられるが、パンケーキコイル等、他のコイルを用いることも可能である。
検出コイル61の両端(両端子)は、演算部41が具備する図示しない計測装置に接続されている。つまり、検出コイル61は交流励磁信号が印加された計測対象部品から渦電流による検出信号を検出するのである。
【0041】
上記の如く構成された渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う場合は、検出コイル61が計測対象部品の計測部に対向する姿勢で、プローブ30を計測対象部品に近接配置した状態で、交流電源により第一励磁コイル51及び第二励磁コイル52のそれぞれに電圧を印加する。つまり、焼入れ深さの測定を行う際には、第一励磁コイル51及び第二励磁コイル52は、その軸心が計測対象部品における計測部位の表面に対して平行となるように配置される。
第一励磁コイル51に電流が流れた瞬間には、図4(b)に示す如く右ネジの法則に従って第一励磁コイル51の周囲に回転磁界が発生する。この際、図4(b)に示す如く、プローブ30の中央部付近ではx軸方向の水平磁界Hxが、プローブ30の両端部付近ではz軸方向の垂直磁界が強く発生する。詳細には、図5(a)に示す如く、プローブ30の水平位置xにおいて中央部付近では水平磁界Hxが強くなり、両端部付近では垂直磁界Hzが強くなるのである。
【0042】
前記水平磁界Hxは、垂直磁界Hzと比較して、リフトオフ(計測対象部品に対する渦流計測用センサの計測距離、すなわち計測時における計測対象部品と渦流計測用センサとの距離)の変化による相対的な磁界強度の減衰が小さいという特徴がある。具体的には図5(b)に示す如く、リフトオフが大きくなったときの磁界強度の減衰は、垂直磁界Hzよりも水平磁界Hxの方が小さくなるのである。即ち、渦流計測においては、水平磁界Hxを用いた方がリフトオフの影響を受けにくくなるのである。
【0043】
上記により、本実施形態においては、第一励磁コイル51によって発生した磁界のうち、第一磁界としてx軸方向に発生する水平磁界Hx(第二励磁コイル52によっては第二磁界としてy軸方向に発生する水平磁界Hy)を渦流計測に用いる構成としている。即ち、計測対象部品における検出コイル61に対向する部分に水平磁界Hx及び水平磁界Hyを発生させる。そして、この水平磁界Hx及び水平磁界Hyにより電磁誘導を起こし、電磁誘導によって磁性体である計測対象部品に渦電流を発生させるのである。さらに、計測対象部品の表面における渦電流の発生にともない、検出コイル61に磁束を貫通させ、検出コイル61に誘起電圧を発生させる。そして、検出コイル61によって誘起電圧を検出信号として計測するのである。そして、演算部41が検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ深さの測定を行うのである。
【0044】
本実施形態においては上記の如く、リフトオフによる磁界強度の減衰が小さい水平磁界を渦流計測に用いているため、焼入れ深さ測定試験においてもリフトオフの影響を受けにくいのである。即ち、検出信号の大きさを計測する必要があり、ノイズ成分に対する検出する信号成分の比率が小さいため、より高い検出精度が求められる焼入れ深さ測定試験においても、リフトオフの変化の影響を受けにくいため、渦流計測を精度良く行うことが可能となるのである。
【0045】
次に、本実施形態に係る渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う渦流計測方法について、図6から図8を用いて説明する。
本実施形態に係る渦流計測方法は、予備計測工程と、予備回転工程と、検量線作成工程と、計測工程と、回転工程と、焼入れ深さ測定工程と、を備える。以下、各工程について具体的に説明する。
【0046】
まず、予備計測工程では、既知の焼入れ深さで焼入れされた予備計測対象部品を複数種類の焼入れ深さごとに準備する。本実施形態においては図6中の凡例に示す如く、焼入れ深さがそれぞれ1.4mm、2.8mm、4.2mmの予備計測対象部品を用いることとしている。
そして、予備計測対象部品に対する焼入れ測定時におけるリフトオフを複数設定して、渦流計測用センサによって、リフトオフごとにそれぞれの予備計測対象部品における検出信号を検出する。本実施形態においては図6中の凡例に示す如く、リフトオフを大・中・小の3パターンで渦流計測を行うこととしている。
さらに、図6に示す如く、検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値としての予備計測値X0及びY方向の渦流計測値としての予備計測値Y0を、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに算出するのである。
【0047】
本工程においては、予備計測対象部品の焼入れ深さの変化に起因する出力値の変化と、リフトオフ(予備計測対象部品に対するプローブ型コイルの計測距離)の変化に起因する出力値の変化と、が異なる特性をもって出力される。具体的には図6に示す如く、焼入れ深さが増加した場合は、出力値である予備計測値X0、Y0が焼入れ深さに対してそれぞれ逆の相関を示すのである。より詳細には、焼入れ深さが増加した場合、予備計測値X0は増加し、予備計測値Y0は減少することにより、予備計測値X0、Y0がXY座標平面において左上から右下に向かってプロットされるのである。一方、リフトオフが増加した場合は、出力値である予備計測値X0、Y0がリフトオフに対してそれぞれ同じ相関を示すのである。より詳細には、リフトオフが増加した場合、予備計測値X0、Y0はともに減少することにより、予備計測値X0、Y0がXY座標平面において右上から左下に向かってプロットされるのである。
【0048】
次に、予備回転工程では、焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに検出した予備計測値X0及び予備計測値Y0に対して、前記XY座標平面における位相回転処理を行う。具体的には、焼入れ深さが同じであれば予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方の値が略一定となるように位相回転角θを設定し、予備計測値X0に対応する予備回転値X1、及び予備計測値Y0に対応する予備回転値Y1をそれぞれ算出するのである。本実施形態においては図7に示す如く、焼入れ深さが同じであれば予備回転値Y1の値が略一定となるように位相回転角θを設定している。
【0049】
本工程の位相回転処理は、以下の数式1及び数式2によって、予備計測値X0に対応する予備回転値X1、及び予備計測値Y0に対応する予備回転値Y1を算出する。
【0050】
【数1】
【0051】
【数2】
【0052】
即ち、上記数式1及び数式2に予備計測値X0、Y0、及び位相回転角θを代入した際に、図7に示す如く焼入れ深さが同じであれば予備回転値Y1が略一定となるように、位相回転角θが設定されるのである。
【0053】
次に、検量線作成工程では、予備回転工程において値が略一定となった予備回転値Y1と、焼入れ深さと、の関係を示す、焼入れ深さ検量線を作成する。具体的には図8に示す如く、横軸に既知の焼入れ深さとして1.4mm、2.8mm、4.2mmの値をとり、縦軸にそれぞれの焼入れ深さに対応する予備回転値Y1の値をとって座標平面を作成する。そして、それぞれの点の間を均等に通るように直線で焼入れ深さ検量線を引くのである。なお、予備回転工程で予備回転値X1の値が略一定となるように位相回転角θを設定した場合は、予備回転値X1と焼入れ深さとの関係を示す焼入れ深さ検量線を作成するのである。また、本実施形態においては直線で焼入れ深さ検量線を作成しているが、焼入れ深さ検量線は2次関数による放物線等、他の関数式で表されるものであっても差し支えない。
【0054】
次に、計測工程では、前記の如く渦流計測用センサによって計測対象部品における検出信号を検出し、検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値x0及びY方向の渦流計測値y0を算出する。
【0055】
次に、回転工程では、渦流計測値x0及び渦流計測値y0に対して、予備回転工程における位相回転処理と同じ位相回転角θでXY座標平面における位相回転処理を行い、渦流計測値x0に対応する回転計測値x1、及び渦流計測値y0に対応する回転計測値y1を算出する。
【0056】
そして、焼入れ深さ測定工程では、回転計測値y1と、焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う。具体的には、図8に示す縦軸で回転計測値y1をとり、焼入れ深さ検量線上で対応する点の焼入れ深さを計測対象部品の焼入れ深さとして測定するのである。なお、予備回転値X1と焼入れ深さとの関係を示す焼入れ深さ検量線を作成した場合は、回転計測値x1と焼入れ深さ検量線との関係から計測対象部品における焼入れ深さの測定を行うのである。
【0057】
本実施形態に係る渦流計測方法は上記の如く構成することにより、外径が大きく変化するような高周波焼入れ部品を検査する場合であっても高い検出精度で焼入れ深さ測定試験を行うことができる。即ち、渦流計測用センサを計測対象部品に近接させて渦流計測する構成であるため、計測対象部品の外径が変化してもその影響を受けることがないのである。
【0058】
本実施形態に係る渦流計測方法は、焼入れ深さの計測にあたってリフトオフの影響を排除することで計測精度を向上させることが可能となる。
具体的には前記の如く、計測対象部品の焼入れ深さの変化に起因する出力値の変化と、リフトオフの変化に起因する出力値の変化と、が異なる特性をもって出力される。このため、予備計測値X0及び予備計測値Y0に対してXY座標平面における位相回転処理を行うことにより、リフトオフによる影響が無く、焼入れ深さにのみ起因して変化する予備回転値Y1を得ることができるのである。そして、予備回転値Y1と焼入れ深さとの関係に基づく検量線を用いて焼入れ深さの測定を行うのである。これにより、焼入れ深さの計測にあたってリフトオフの影響を排除することができるため、計測精度を向上させることができるのである。
【0059】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係る渦流計測用センサについて、図9(a)を用いて説明する。なお、本実施形態以降で説明する渦流計測用センサについて、既出の実施形態と共通する部分に関しては詳細な説明を省略するものとする。また、本実施形態以降で説明する渦流計測用センサについては、励磁部及び検出部を収容するケースについての図示を省略している。
【0060】
図9(a)に示す如く、本実施形態に係る渦流計測用センサは、前記第一実施形態と同様に励磁部及び検出部を備えたプローブ130を具備する。
励磁部は、第一励磁コイル151と、図示しない第二励磁コイルとが、略立方体形状の非磁性ボビン131に巻回されて構成されている。即ち、第一励磁コイル151と第二励磁コイルとは、非磁性ボビン131の上面と下面とで交差するように、直交して配設されている。
検出部は、第一励磁コイル151と第二励磁コイルとの二つの交差部分のうち、下側の一方に配設された検出コイル161を備える。
【0061】
本実施形態においては、検出部は、検出コイル161に対してx軸方向の両側に隣接して配設された二個の焼入れ判別コイル162a・162bを備えている。
検出コイル161は、X軸方向における、第一励磁コイル151の略中央部に配置されており、焼入れ判別コイル162a・162bは、X軸方向における、第一励磁コイル151の両端部に配置されている。
本実施形態においては、焼入れ判別コイル162a・162bには薄膜プレーナコイルが用いられるが、パンケーキコイル等、他のコイルを用いることも可能である。また、1個の焼入れ判別コイル162aを検出コイル161の片側のみに隣接して配設する構成にすることも可能である。
焼入れ判別コイル162a・162bのそれぞれの両端(両端子)は、図示しない演算部が具備する計測装置に接続されている。つまり、焼入れ判別コイル162a・162bは交流励磁信号が印加された計測対象部品から渦電流による検出信号を検出するのである。
【0062】
上記の如く構成された渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う場合は、検出コイル161及び焼入れ判別コイル162a・162bが計測対象部品の計測部に対向する姿勢で、プローブ130を計測対象部品に近接配置した状態で、交流電源により第一励磁コイル151及び第二励磁コイルのそれぞれに交流電圧を印加する。第一励磁コイル151に電流が流れた瞬間には、右ネジの法則に従って第一励磁コイル151の周囲に回転磁界が発生する。この際、図9(a)に示す如く、プローブ130の中央部付近ではx軸方向の水平磁界が、プローブ130の両端部付近ではz軸方向の垂直磁界が強く発生する。
【0063】
計測対象部品に焼入れがなされている場合、透磁率が大きく変化する。ここで、水平磁界と垂直磁界のうち、透磁率の変化の影響を受けやすいのは垂直磁界であるため、焼入れ又は未焼入れの判別を行う際は垂直磁界による透磁率の変化を読み取った方が効率的かつ確実となるのである(図10から図12参照)。
【0064】
本実施形態においては上記の如く、第一励磁コイル151によって発生した磁界のうち、垂直磁界を焼入れ又は未焼入れの判別を行うための渦流計測に用いる構成としている。即ち、計測対象部品における焼入れ判別コイル162a・162bに対向する部分に垂直磁界を発生させる。そして、この垂直磁界により電磁誘導を起こし、電磁誘導によって磁性体である計測対象部品に渦電流を発生させるのである。さらに、計測対象部品の表面における渦電流の発生にともない、焼入れ判別コイル162a・162bに磁束を貫通させ、焼入れ判別コイル162a・162bに誘起電圧を発生させる。そして、焼入れ判別コイル162a・162bによって誘起電圧を検出信号として計測するのである。そして、演算部が焼入れ判別コイル162a・162bの検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ又は未焼入れの判別を行うのである。
【0065】
本実施形態においては上記の如く、透磁率の変化の影響を受けやすい垂直磁界を渦流計測に用いているため、効率的かつ確実に焼入れ又は未焼入れの判別を行うことが可能となるのである。
【0066】
次に、本実施形態に係る渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う渦流計測方法について、図10から図12を用いて説明する。なお、本実施形態以降で説明する渦流計測方法について、既出の実施形態と共通する部分については詳細な説明を省略するものとする。
【0067】
本実施形態に係る渦流計測方法は、焼入れ予備計測工程と、基準算出工程と、予備計測工程と、予備回転工程と、検量線作成工程と、焼入れ計測工程と、焼入れ判別工程と、計測工程と、回転工程と、焼入れ深さ測定工程と、を備える。以下、各工程について具体的に説明する。
【0068】
まず、焼入れ予備計測工程においては、焼入れ又は未焼入れが既知の焼入れ予備計測対象部品を複数準備する。本実施形態においては図10中の凡例に示す如く、焼入れ深さがそれぞれ1.0mm、2.5mm、4.0mmの焼入れ予備計測対象部品と、3個の未焼入れの焼入れ予備計測対象部品とを用いることとしている。
そして、渦流計測用センサにおける焼入れ判別コイル162a・162bによって、それぞれの焼入れ予備計測対象部品における検出信号を検出し、検出信号を焼入れ予備計測値として算出するのである。
【0069】
図10から図12はそれぞれ、検出コイル161、焼入れ判別コイル162a・162bで検出した渦流計測値である焼入れ予備計測値を示している。それぞれのコイルで検出した渦流計測値をch1からch3として表記している。
図10に示す如く、検出コイル161により水平磁界を渦流計測に用いて検出した渦流計測値(ch1)は、焼入れの有無による差異がないため、焼入れ又は未焼入れの判別を行うことが困難である。
一方、図11及び図12に示す如く、焼入れ判別コイル162a・162bにより垂直磁界を渦流計測に用いて検出した渦流計測値Y(ch2・ch3)は、焼入れの有無による差異が大きく表れているため、焼入れ又は未焼入れの判別を行うことができるのである。
【0070】
次に、基準算出工程では、焼入れ予備計測値を示す焼入れ判別基準を焼入れ判別コイル162a・162bごとに算出する。即ち、図11及び図12に示す如く、焼入れの有無による渦流計測値Y(ch2・ch3)の値に基づいて、焼入れ又は未焼入れの境界を示す焼入れ判別基準YJ2・YJ3をそれぞれ算出するのである。この場合、焼入れ判別基準YJ2・YJ3は、焼入れが有りの場合の渦流計測値Yと焼入れが無しの場合の渦流計測値Yとをできるだけ確実に分離することができる値に設定することが好ましい。
【0071】
次に、前記実施形態の如く、予備計測工程、予備回転工程、及び、検量線作成工程を行う。
【0072】
次に、焼入れ計測工程では、渦流計測用センサにおける焼入れ判別コイル162a・162bによって、計測対象部品における検出信号を検出し、検出信号を焼入れ渦流計測値として焼入れ判別コイル162a・162bごとに算出する。
【0073】
次に、焼入れ判別工程では、対応する焼入れ判別コイル162a・162bに基づいて算出した、焼入れ渦流計測値と、焼入れ判別基準YJ2・YJ3と、を比較することにより、計測対象部品における、焼入れ又は未焼入れの判別を行う。具体的には、焼入れ判別コイル162a・162bで検出した渦流計測値Yである焼入れ渦流計測値が、それぞれ焼入れ判別基準YJ2・YJ3を越えているか否かにより、焼入れ又は未焼入れを判別するのである。
【0074】
次に、計測工程では、焼入れ判別工程で、全ての焼入れ判別部位(焼入れ判別コイル162a・162bのそれぞれに対向する部位)に焼入れがされていると判別された計測対象部品において、渦流計測用センサによって検出信号を検出し、検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値x0及びY方向の渦流計測値y0を算出する。
【0075】
次に、前記第一実施形態の如く、回転工程、及び、焼入れ深さ測定工程を行い、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行うのである。
【0076】
本実施形態においては上記の如く、透磁率の変化の影響を受けやすい垂直磁界を焼入れ又は未焼入れの判別を行うための渦流計測に用いているため、効率的かつ確実に焼入れ又は未焼入れの判別を行うことが可能となる。これにより、焼入れ深さの測定を行う前に焼入れ又は未焼入れの判別を行い、焼入れが充分されていない計測対象部品の焼入れ深さの測定を行わないことにより、渦流計測の効率を向上させることができるのである。
【0077】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態に係る渦流計測用センサについて、図9(b)を用いて説明する。
図9(b)に示す如く、本実施形態に係る渦流計測用センサは、前記第一実施形態と同様に励磁部及び検出部を備えたプローブ230を具備する。
励磁部は、第一励磁コイル251と、図示しない第二励磁コイルとが、略立方体形状の非磁性ボビン231に巻回されて構成されている。即ち、第一励磁コイル251と第二励磁コイルとは、非磁性ボビン231の上面と下面とで交差するように、直交して配設されている。
検出部は、第一励磁コイル251と第二励磁コイルとの二つの交差部分のうち、下側の一方に配設された検出コイル261と、検出コイル261に対してx軸方向の両側に隣接して配設された二個の焼入れ判別コイル262a・262bと、を備える。
【0078】
本実施形態においては、検出部は、焼入れ判別コイル262a・262bの検出コイル261の側とは反対側に、焼入れ判別コイル262a・262bと直交して配設された二個の直交焼入れ判別コイル263a・263bを備えている。
検出コイル261は、X軸方向における、第一励磁コイル251の略中央部に配置されており、焼入れ判別コイル262a・262b及び直交焼入れ判別コイル263a・263bは、X軸方向における、第一励磁コイル251の両端部に配置されている。
また、検出コイル261及び焼入れ判別コイル262a・262bは、それぞれ非磁性ボビン231の下面のX軸方向における略中央部及び両端部に配設され、直交焼入れ判別コイル263a・263bは、非磁性ボビン231の下面のX軸方向における両端に隣接する両側面の下端部に配設されている。
本実施形態においては、直交焼入れ判別コイル263a・263bには薄膜プレーナコイルが用いられるが、パンケーキコイル等、他のコイルを用いることも可能である。また、1個の直交焼入れ判別コイル263aを焼入れ判別コイル262a・262bの何れかに隣接して配設する構成にすることも可能である。
直交焼入れ判別コイル263a・263bのそれぞれの両端(両端子)は、図示しない演算部が具備する計測装置に接続されている。つまり、直交焼入れ判別コイル263a・263bは交流励磁信号が印加された計測対象部品から渦電流による検出信号を検出するのである。
【0079】
本実施形態における計測対象部品は、図13に示す如く、計測部と、前記計測部の両端に位置し、前記計測部と直交する直立部と、を有するクランクシャフトC(クランクシャフトCのピン部又はジャーナル部)であるものとする。上記の如く構成された渦流計測用センサを用いて、クランクシャフトCにおける焼入れ深さの測定を行う場合は、図13(a)から(c)に示す如く、検出コイル261及び焼入れ判別コイル262a・262bがクランクシャフトCの計測部に対向し、直交焼入れ判別コイル263a・263bがクランクシャフトCの計測部と直交する直立部に対向する姿勢で、プローブ230をクランクシャフトCに近接配置する。そして、その状態で、第一励磁コイル251及び第二励磁コイルのそれぞれに交流電圧を加え、クランクシャフトCの計測部の両端部、及び直立部に、図9(b)に示す如くx軸方向の磁界を発生させるのである。即ち、クランクシャフトCにおける焼入れ判別コイル262a・262bに対向する部分、及び直交焼入れ判別コイル263a・263bに対向する部分に垂直磁界を発生させるのである。
【0080】
さらに、前記垂直磁界により交流励磁信号として渦電流を生じさせ、渦電流により発生した誘起電圧を検出信号として焼入れ判別コイル262a・262b及び直交焼入れ判別コイル263a・263bで検出する。そして、演算部が焼入れ判別コイル262a・262b及び直交焼入れ判別コイル263a・263bの検出信号を渦流計測値として算出することにより、渦流計測値に基づいてクランクシャフトCにおける焼入れ又は未焼入れの判別を行うのである。
【0081】
図13(a)はクランクシャフトCにおいて計測部、直立部ともに焼入れ部分CQを有する場合について示している。この場合は、焼入れ判別コイル262a・262b及び直交焼入れ判別コイル263a・263bの全てで検出した渦流計測値において焼入れされていると判断される。
【0082】
図13(b)はクランクシャフトCにおいて計測部のみに焼入れ部分CQを有する場合について示している。この場合は、焼入れ判別コイル262a・262bで検出した渦流計測値においては焼入れされていると判断されるが、直交焼入れ判別コイル263a・263bで検出した渦流計測値においては焼入れされていないと判断される。
【0083】
図13(c)はクランクシャフトCにおいて計測部及び片側(直交焼入れ判別コイル263aに近接する側)の直立部のみに焼入れ部分CQを有する場合について示している。この場合は、焼入れ判別コイル262a・262b及び直交焼入れ判別コイル263aで検出した渦流計測値においては焼入れされていると判断されるが、直交焼入れ判別コイル263bで検出した渦流計測値においては焼入れされていないと判断される。
【0084】
本実施形態においては上記の如く、クランクシャフトCが、計測部と直交する直立部を有する形状であっても、直交焼入れ判別コイル263a・263bに対向する部分に生じる垂直磁界を渦流計測に用いているため、直立部の焼入れ又は未焼入れの判別を行うことが可能となるのである。
【0085】
次に、本実施形態に係る渦流計測用センサを用いて、計測対象部品であるクランクシャフトCにおける焼入れ深さの測定を行う渦流計測方法について説明する。
【0086】
本実施形態に係る渦流計測方法は、焼入れ予備計測工程と、基準算出工程と、予備計測工程と、予備回転工程と、検量線作成工程と、焼入れ計測工程と、焼入れ判別工程と、計測工程と、回転工程と、焼入れ深さ測定工程と、を備える。以下、各工程について具体的に説明する。
【0087】
まず、焼入れ予備計測工程においては、計測部と、該計測部と直交する直立部と、を有し、焼入れ又は未焼入れが既知の焼入れ予備計測対象部品であるクランクシャフトCを複数準備する。そして、渦流計測用センサにおける焼入れ判別コイル262a・262b及び直交焼入れ判別コイル263a・263bによって、それぞれの焼入れクランクシャフトCの計測部及び直交部における検出信号を検出し、検出信号を焼入れ予備計測値として焼入れ判別コイル262a・262b及び直交焼入れ判別コイル263a・263bごとに算出するのである。
【0088】
次に、基準算出工程では、焼入れ予備計測値を示す焼入れ判別基準を焼入れ判別コイル262a・262b及び直交焼入れ判別コイル263a・263bごとに算出する。
【0089】
次に、前記第一実施形態の如く、予備計測工程、予備回転工程、検量線作成工程、及び、焼入れ計測工程を行う。
【0090】
次に、直交焼入れ計測工程では、渦流計測用センサにおける直交焼入れ判別コイル263a・263bによって、クランクシャフトCの直立部における検出信号を検出し、検出信号を直交焼入れ渦流計測値として直交焼入れ判別コイル263a・263bごとに算出する。
【0091】
次に、焼入れ判別工程では、対応する焼入れ判別コイル262a・262b及び直交焼入れ判別コイル263a・263bに基づいて算出した、焼入れ渦流計測値及び前記直交焼入れ渦流計測値と、焼入れ判別基準と、を比較することにより、クランクシャフトCの計測部及び直立部における、焼入れ又は未焼入れの判別を行う。
【0092】
次に、計測工程では、焼入れ判別工程で、図13(a)の如く全ての計測部及び直立部に焼入れがされていると判別されたクランクシャフトCにおいて、渦流計測用センサによって検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値x0及びY方向の渦流計測値y0を算出する。
【0093】
次に、前記第一実施形態の如く、回転工程、及び、焼入れ深さ測定工程を行い、クランクシャフトCにおける焼入れ深さの測定を行うのである。
【0094】
本実施形態においては上記の如く、クランクシャフトCが、計測部と直交する直立部を有する形状であっても、直交焼入れ判別コイル263a・263bに対向する部分に生じる垂直磁界を渦流計測に用いているため、直立部の焼入れ又は未焼入れの判別を行うことが可能となる。これにより、焼入れ深さの測定を行う前に焼入れ又は未焼入れの判別を行い、焼入れが充分されていないクランクシャフトCの焼入れ深さの測定を行わないことにより、渦流計測の効率を向上させることができるのである。
【0095】
[第四実施形態]
次に、本発明の第四実施形態に係る渦流計測用センサについて、図14(a)及び(b)を用いて説明する。
図14(a)及び(b)に示す如く、本実施形態に係る渦流計測用センサは、前記第一実施形態と同様に励磁部及び検出部を備え、x軸方向に軸線を向けた八角柱状に形成されたプローブ330を具備している。なお、プローブ330の形状は八角柱状に限定されるものではない。
【0096】
励磁部は、それぞれが八角柱状の非磁性ボビン331に巻回された第一励磁コイル351と、第二励磁コイル352と、第三励磁コイル353と、第四励磁コイル354と、を備える。
第一励磁コイル351は、x軸方向に軸心方向を向けて非磁性ボビン331に巻回される。第二励磁コイル352は、y軸方向に軸心方向を向けて、第一励磁コイル351に対して交差して非磁性ボビン331に巻回される。第三励磁コイル353及び第四励磁コイル354は、x軸方向と直交し、y軸方向に対してそれぞれ等しく傾斜した方向に軸心方向を向けて、第一励磁コイル351に対して交差して非磁性ボビン331に巻回される。
【0097】
それぞれの励磁コイルの両端(両端子)は、図示しない交流電源に接続されている。つまり、それぞれの励磁コイルは計測対象部品であるクランクシャフトCに対して所定の交流励磁信号を印加するための励磁コイルである。
【0098】
検出部は、第一検出コイル361と、第二検出コイル362と、第三検出コイル363と、を備える。
第一検出コイル361は、第一励磁コイル351と第二励磁コイル352との二つの交差部分のうち一方に配設される。第二検出コイル362は、第一励磁コイル351と第三励磁コイル353との二つの交差部分のうち第一検出コイル361に隣接する側に配設される。第三検出コイル363は、第一励磁コイル351と第四励磁コイル354との二つの交差部分のうち第一検出コイル361に隣接する側に配設される
【0099】
それぞれの検出コイルの両端(両端子)は、図示しない演算部が具備する計測装置に接続されている。つまり、それぞれの検出コイルは交流励磁信号が印加されたクランクシャフトCから渦電流による検出信号を検出するのである。
【0100】
上記の如く構成された渦流計測用センサを用いて、クランクシャフトCにおける、計測部と前記計測部の両端に位置し前記計測部に対して直交する直立部とを有する部分(クランクシャフトCのピン部又はジャーナル部)の、焼入れ部分CQの焼入れ深さの測定を行う場合は、図14(b)に示す如く、第一検出コイル361がクランクシャフトCの計測部に対向し、第二検出コイル362及び第三検出コイル363が計測部と直立部との境界部分に対向する姿勢で、プローブ330をクランクシャフトCに近接配置させる。即ち、第二検出コイル362及び第三検出コイル363は、クランクシャフトCの計測部の両端に形成されるR部に対向するのである。この状態で、第一励磁コイル351、第二励磁コイル352、第三励磁コイル353、及び、第四励磁コイル354のそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加えるのである。そして、クランクシャフトCに磁界を発生させる。
【0101】
この際、第一検出コイル361、第二検出コイル362、及び、第三検出コイル363の周囲には、第二励磁コイル352、第三励磁コイル353、及び、第四励磁コイル354により、図14(b)に示す如く回転磁界が発生する。即ち、第二励磁コイル352、第三励磁コイル353、及び、第四励磁コイル354により、それぞれの検出コイルに対して水平な水平磁界が強く発生するのである。そして、この水平磁界により電磁誘導を起こし、電磁誘導によって磁性体であるクランクシャフトCに渦電流を発生させるのである。さらに、クランクシャフトCの表面における渦電流の発生にともない、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号として第一検出コイル361、第二検出コイル362、及び、第三検出コイル363で検出し、演算部が前記検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいてクランクシャフトCにおける焼入れ深さの測定を行うのである。
【0102】
次に、本実施形態に係る渦流計測用センサを用いて、計測対象部品であるクランクシャフトCにおける焼入れ深さの測定を行う渦流計測方法について、図14(b)を用いて説明する。
本実施形態に係る渦流計測方法は、予備計測工程と、予備回転工程と、検量線作成工程と、第一計測工程と、第二計測工程と、第三計測工程と、回転工程と、第一焼入れ深さ測定工程と、第二焼入れ深さ測定工程と、第三焼入れ深さ測定工程と、を備える。以下、各工程について具体的に説明する。
【0103】
まず、前記第一実施形態の如く、予備計測工程、予備回転工程、及び、検量線作成工程を行う。
【0104】
次に、第一計測工程では、渦流計測用センサの第一検出コイル361によってクランクシャフトCにおける検出信号を検出し、検出信号よりXY座標平面におけるX方向の第一渦流計測値x01及びY方向の第一渦流計測値y01をそれぞれ算出する。
続いて、第二計測工程、第三計測工程においても同様に、第二検出コイル362及び第三検出コイル363によってクランクシャフトCにおける検出信号を検出し、検出信号よりXY座標平面におけるX方向の第二渦流計測値x02及びY方向の第二渦流計測値y02、第三渦流計測値x03及びY方向の第三渦流計測値y03をそれぞれ算出する。
【0105】
次に、回転工程では、それぞれの第一渦流計測値x01及び第一渦流計測値y01、第二渦流計測値x02及び第二渦流計測値y02、並びに、第三渦流計測値x03及び第三渦流計測値y03を、予備回転工程における位相回転処理と同じ位相回転角で位相回転処理を行う。そして、それぞれの渦流計測値に対応する、第一回転計測値x11及び第一回転計測値y11、第二回転計測値x12及び第二回転計測値y12、並びに、第三回転計測値x13及び第三回転計測値y13を算出する。
【0106】
次に、第一焼入れ深さ測定工程では、第一回転計測値x11及び第一回転計測値y11のうち何れか一方と、焼入れ深さ検量線と、の関係から、クランクシャフトCの第一検出コイル361に対向する部分における焼入れ深さの測定を行う。
続いて、第二焼入れ深さ測定工程においても同様に、第二回転計測値x12及び第二回転計測値y12のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、クランクシャフトCの第二検出コイル362に対向する部分における焼入れ深さの測定を行う。
さらに、第三焼入れ深さ測定工程においても同様に、第三回転計測値x13及び第三回転計測値y13のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、クランクシャフトCの第三検出コイル363に対向する部分における焼入れ深さの測定を行うのである。
【0107】
本実施形態においては上記の如く、リフトオフによる磁界強度の減衰が小さい水平磁界を渦流計測に用いているため、焼入れ深さ測定試験においてもリフトオフの影響を受けにくいのである。さらに、クランクシャフトCのR部に対向する部分にも第三励磁コイル353及び第四励磁コイル354を巻回するとともに、第二検出コイル362及び第三検出コイル363を配設することにより、水平磁界を用いてR部における焼入れ深さを測定することができるのである。
【0108】
[第五実施形態]
次に、本発明の第五実施形態に係る渦流計測用センサについて、図15(a)及び(b)を用いて説明する。
図15(a)に示す如く、本実施形態に係る渦流計測用センサは、前記第一実施形態と同様に励磁部及び検出部を備えたプローブ430を具備する。
励磁部は、第一励磁コイル451と、第二励磁コイル452とが、略立方体形状の非磁性ボビン431に巻回されて構成されている。即ち、第一励磁コイル451と第二励磁コイル452とは、非磁性ボビン431の上面と下面とで交差するように、直交して配設されている。
検出部は、第一励磁コイル451と第二励磁コイル452との二つの交差部分の双方に配設された検出コイル461・462を備える。
【0109】
上記の如く構成された渦流計測用センサを用いて、計測対象部品である中空状のワークWにおける焼入れ深さの測定を行う場合は、図15(b)に示す如く、プローブ430をワークWに挿入する。そして、それぞれの検出コイル461・462がワークWの内周面に対向する姿勢で、プローブ430をワークWに近接配置した状態で、第一励磁コイル451及び第二励磁コイル452のそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加えるのである。そして、ワークWに磁界を発生させる。
【0110】
この際、検出コイル461・462に対向する部分では、第一励磁コイル451及び第二励磁コイル452により、それぞれの検出コイルに対して水平な水平磁界が強く発生する。そして、この水平磁界により電磁誘導を起こし、電磁誘導によって磁性体であるワークWに渦電流を発生させるのである。さらに、ワークWの表面における渦電流の発生にともない、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号として検出コイル461・462で検出し、演算部が前記検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいてワークWにおける焼入れ部分WQの焼入れ深さの測定を行うのである。
【0111】
本実施形態においては上記の如く、リフトオフによる磁界強度の減衰が小さい水平磁界を渦流計測に用いているため、焼入れ深さ測定試験においてもリフトオフの影響を受けにくいのである。さらに、第一励磁コイル451と第二励磁コイル452との二つの交差部分の双方に検出コイル461・462を配設することにより、中空状のワークWにおいても同時に水平磁界を用いて焼入れ深さを測定することができるのである。
【符号の説明】
【0112】
30 プローブ
31 非磁性ボビン
41 演算部
51 第一励磁コイル
52 第二励磁コイル
61 検出コイル
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦流計測用センサ及び渦流計測方法に関し、より詳細には、渦流計測による焼入れ深さの検査精度を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車やオートバイのエンジン部品や足回り部品等の機械部品には、金属(導電体)を高周波誘導加熱して焼入れを行う、高周波焼入れを施した鋼材(以下、鋼材とする)が使用されている。前記鋼材の高周波焼入れにおいては、表面焼入れの硬化層深さ(以下、焼入れ深さとする)及びその硬度について、有効硬化層深さ及び全硬化層深さが規格されている。このため、鋼材の品質を保証するために、焼入れ深さ及び硬度を測定して評価する必要がある。
【0003】
従来、前記鋼材の焼入れ深さ及び硬度は、サンプルとして抜き取られた鋼材を部分的に切断し、その断面強度をビッカース硬度計等の各種硬度計にて測定し、その結果から焼入れ深さ及び硬度を評価していた。
しかし、この破壊検査による手法ではサンプルとして使用した鋼材が廃棄されるため、材料コストの上昇に繋がっていた。また、検査に要する時間が長くなる上に、インラインでの全数検査が不可能であるため、単発的に発生する不良を発見できずに次工程に搬出してしまう可能性があった。
【0004】
そこで、非破壊検査である渦流式検査を用いて、鋼材の焼入れ深さ及び硬度を測定する技術が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
渦流式検査は、交流電流を流した励磁コイルを前記鋼材の近くに接近させて交流磁場を発生させ、該交流磁場によって鋼材に渦電流を生じさせ、該渦電流により誘起された誘導磁場を検出コイルにより検出するものである。つまり、該渦流式検査により、鋼材を廃棄することなく、短時間で、かつ全数検査によって鋼材の焼入れ深さ及び硬度を定量的に測定することが可能となるのである。
前記渦流式検査は、上記の鋼材の焼入れ深さ及び硬度を測定するための焼入れ深さ/硬度測定試験(以下、焼入れ深さ測定試験とする)のほか、検査対象物の表面に生じた割れ等の傷を検出するための探傷試験や、検査対象物に含まれる異物を検出するための異材判別試験等にも用いられている。
【0005】
前記鋼材は、母材と硬化層に生じるマルテンサイトとの間での透磁率に差が生じる。従って、渦電流センサを用いて鋼材を測定すれば、焼入れ深さの変化に伴って検出コイルが検出する電圧(振幅)が変化する。また、検出コイルが検出する電圧は硬化層深さの増加とともに単調に減少するのである。焼入れ深さ測定試験においては、これらの現象を利用して鋼材の焼入れ深さを算定することができるのである。
【0006】
例えば、前記特許文献1に記載の技術によれば、貫通コイルを用いて軸物部品の軸部の焼入れ深さを検査する構成としている。貫通コイルは、軸線方向を鋼材に対して垂直に向けたコイルでプローブを構成して焼入れ深さを行うプローブ型のコイル(以下、単に「プローブ型コイル」とする)に比較して磁界が強く、鋼材との距離を精密に制御する必要もないため、焼入れ深さ測定試験に適しているのである。
しかし、貫通コイルの測定部分である内周の径は一定であるため、測定部位の貫通コイルに対する充填率(貫通コイルの内周横断面積に対する鋼材の測定部位における横断面積の割合)は、鋼材の測定部位における外径によって変化する。充填率が低くなると渦流式検査の検査精度は指数関数的に低下するため、前記従来技術によれば、鋼材の外径が測定部位ごとに変化することにより、検査精度に差が発生するという問題があった。
また、検査対象物である鋼材は貫通コイルに挿通する必要があるため、外径がほぼ一定である軸物部品に限られていた。つまり、例えばクランクシャフトのように外径が大きく変化するような部品を検査対象物とすることは難しかったのである。
【0007】
また、前記特許文献2の他の実施例に記載の技術によれば、プローブ型コイルを用いて鋼材の焼入れ深さを測定する構成としている。
前記焼入れ深さ測定試験については、他の探傷試験や異材判別試験と比較して、ノイズ成分に対する検出する信号成分の比率が小さいため、より高い検出精度が求められる。しかし、プローブ型コイルは磁界が弱く、また鋼材との距離を精密に制御する必要があるため、探傷試験や異材判別試験には適用することができるものの、焼入れ深さ測定試験に採用することは困難であった。
【0008】
また、プローブ型コイルを用いて鋼材の焼入れ深さ測定試験を行った場合、鋼材の焼入れ深さの変化に起因する出力値の変化と、リフトオフ(鋼材に対するプローブ型コイルの計測距離)の変化に起因する出力値の変化と、が同じ特性をもって出力される。具体的には、図16に示す如く、焼入れ深さが変化した場合でも、リフトオフが変化した場合でも、出力値である渦流計測値X、YのXY座標平面における変化が同じ方向に表れるのである。このため、焼入れ深さの計測にあたってリフトオフの影響を大きく受けることとなるため、計測精度を向上させることが困難であった。
【0009】
一方、鋼材の検査対象面と平行な方向に軸線を向けた二つの励磁コイルを直交させ、励磁コイルの交差部分に検出コイルを設けた構成により、渦流式検査を行う技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
前記特許文献3に記載の技術によれば、二つの励磁コイルを、軸線を直交させて組合せ、励磁コイルの交差部分に検出コイルを配設する。そして、検出コイルを鋼材に対向させた状態(即ち、二つの励磁コイルの軸線が鋼材の検査対象面と平行な状態)で励磁コイルに交流電圧を加えて渦流式検査を行うのである。
【0011】
しかし、前記特許文献3に記載の技術は、いずれも渦流式検査による探傷試験に用いられるものであり、焼入れ深さ測定試験に適用することは困難であった。即ち、焼入れ深さ測定試験は前記の如く、探傷試験よりもノイズ成分に対する検出する信号成分の比率が小さいため、より高い検出精度が求められる。また、探傷試験は検出信号における傷信号の有無で判断できるものであるのに対して、焼入れ深さ測定試験は検出信号の大きさを計測する必要がある。これらのことから、焼入れ深さ測定試験は探傷試験よりもリフトオフの影響を受けやすくなるため、従来の技術における渦流式検査による探傷試験の構成では焼入れ深さ測定試験を精度良く行うことはできなかったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−133694号公報
【特許文献2】特開2007−40865号公報
【特許文献3】特開2009−69090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明は上記現状に鑑み、外径が大きく変化するような高周波焼入れ部品を検査する場合であっても高い検出精度で焼入れ深さ測定試験を行うことができ、また、焼入れ深さの計測にあたってリフトオフの影響を排除することで計測精度を向上させることが可能となる、渦流計測用センサ及び渦流計測方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0015】
即ち、請求項1においては、計測対象部品に対して所定の交流励磁信号を印加するための励磁部、及び、印加された前記交流励磁信号によって計測対象部品に発生する検出信号を検出するための検出部、を備えたプローブと、前記検出信号を渦流計測値として算出するための演算部と、を具備する、渦流計測用センサであって、前記励磁部は、第一の軸方向に軸心方向を向けて配設された第一励磁コイルと、第一の軸方向と直交する第二の軸方向に軸心方向を向けて第一励磁コイルに対して交差して配設された第二励磁コイルと、を備え、前記検出部は、第一励磁コイルと第二励磁コイルとの二つの交差部分のうち一方に配設された検出コイルを備え、前記検出コイルが計測対象部品の計測部に対向する姿勢で、前記プローブを前記計測対象部品に近接配置した状態で、前記第一励磁コイル及び前記第二励磁コイルのそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加え、計測対象部品における前記検出コイルに対向する部分に、第一の軸方向の第一磁界及び第二の軸方向の第二磁界を発生させるとともに、それぞれの磁界により渦電流を生じさせ、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号として前記検出コイルで検出し、前記演算部が前記検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ深さの測定を行うものである。
【0016】
請求項2においては、前記検出部は、前記検出コイルに対して第一の軸方向の片側又は両側に隣接して配設された一個又は二個の焼入れ判別コイルを備え、前記検出コイル及び前記焼入れ判別コイルが計測対象部品の計測部に対向する姿勢で、前記プローブを前記計測対象部品に近接配置した状態で、前記第一励磁コイル及び前記第二励磁コイルのそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加え、計測対象部品における前記焼入れ判別コイルに対向する部分に、第一の軸方向及び第二の軸方向と直交する方向の磁界を発生させるとともに、前記磁界により渦電流を生じさせ、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号として前記焼入れ判別コイルで検出し、前記演算部が前記焼入れ判別コイルの前記検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ又は未焼入れの判別を行うものである。
【0017】
請求項3においては、前記検出部は、前記焼入れ判別コイルの前記検出コイルの側とは反対側に、前記焼入れ判別コイルと直交して配設された一個又は二個の直交焼入れ判別コイルを備え、前記検出コイル及び前記焼入れ判別コイルが計測対象部品の計測部に対向し、前記直交焼入れ判別コイルが計測対象部品の前記計測部と直交する直立部に対向する姿勢で、前記プローブを前記計測対象部品に近接配置した状態で、前記第一励磁コイル及び前記第二励磁コイルのそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加え、計測対象部品の前記直立部に、第一の軸方向の磁界を発生させるとともに、前記磁界により渦電流を生じさせ、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号として前記直交焼入れ判別コイルで検出し、前記演算部が前記焼入れ判別コイル及び前記直交焼入れ判別コイルの前記検出信号を渦流計測値として算出することにより、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ又は未焼入れの判別を行うものである。
【0018】
請求項4においては、計測対象部品に対して所定の交流励磁信号を印加するための励磁部、及び、印加された前記交流励磁信号によって計測対象部品に発生する検出信号を検出するための検出部、を備えたプローブと、前記検出信号を渦流計測値として算出するための演算部と、を具備し、第一の軸方向に軸線を向けた柱状に形成される、渦流計測用センサであって、前記励磁部は、第一の軸方向に軸心方向を向けて巻回された第一励磁コイルと、第一の軸方向と直交する第二の軸方向に軸心方向を向けて、第一励磁コイルに対して交差して巻回された第二励磁コイルと、第一の軸方向と直交し、第二の軸方向に対してそれぞれ等しく傾斜した方向に軸心方向を向けて、第一励磁コイルに対して交差して巻回された第三励磁コイル及び第四励磁コイルと、を備え、前記検出部は、第一励磁コイルと第二励磁コイルとの二つの交差部分のうち一方に配設された第一検出コイルと、第一励磁コイルと第三励磁コイルとの二つの交差部分のうち第一検出コイルに隣接する側に配設された第二検出コイルと、第一励磁コイルと第四励磁コイルとの二つの交差部分のうち第一検出コイルに隣接する側に配設された第三検出コイルと、を備え、前記第一検出コイルが計測対象部品の計測部に対向する姿勢で、前記プローブを前記計測対象部品に近接配置した状態で、前記第一励磁コイル、第二励磁コイル、第三励磁コイル、及び、第四励磁コイルのそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加え、計測対象部品に磁界を発生させるとともに、それぞれの磁界により渦電流を生じさせ、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号として前記第一検出コイル、第二検出コイル、及び、第三検出コイルで検出し、前記演算部が前記検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ深さの測定を行うものである。
【0019】
請求項5においては、計測対象部品に対して所定の交流励磁信号を印加するための励磁部、及び、印加された前記交流励磁信号によって計測対象部品に発生する検出信号を検出するための検出部、を備えたプローブと、前記検出信号を渦流計測値として算出するための演算部と、を具備する、渦流計測用センサであって、前記励磁部は、第一の軸方向に軸心方向を向けて配設された第一励磁コイルと、第一の軸方向と直交する第二の軸方向に軸心方向を向けて第一励磁コイルに対して交差して配設された第二励磁コイルと、を備え、前記検出部は、第一励磁コイルと第二励磁コイルとの二つの交差部分の双方に配設された二個の検出コイルを備え、中空状の計測対象部品に挿入し、それぞれの前記検出コイルが計測対象部品の内周面に対向する姿勢で、前記プローブを前記計測対象部品に近接配置した状態で、前記第一励磁コイル及び前記第二励磁コイルのそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加え、計測対象部品におけるそれぞれの前記検出コイルに対向する部分に、第一の軸方向の第一磁界及び第二の軸方向の第二磁界を発生させるとともに、それぞれの磁界により計測対象部品に渦電流を生じさせ、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号としてそれぞれの前記検出コイルで検出し、前記演算部が前記検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ深さの測定を行うものである。
【0020】
請求項6においては、請求項1に記載の渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、渦流計測方法であって、既知の焼入れ深さで焼入れされた予備計測対象部品を複数種類の焼入れ深さごとに準備し、前記予備計測対象部品に対する焼入れ測定時における前記渦流計測用センサと前記予備計測対象部品との計測距離を複数設定して、前記渦流計測用センサによって、前記測定距離毎にそれぞれの前記予備計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値としての予備計測値X0及びY方向の渦流計測値としての予備計測値Y0を、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに算出する、予備計測工程と、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに検出した前記予備計測値X0及び予備計測値Y0に対して、前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記予備計測値X0に対応する予備回転値X1、及び前記予備計測値Y0に対応する予備回転値Y1をそれぞれ算出し、前記位相回転処理を行う際には、前記焼入れ深さが同じであれば前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方の値が略一定となるように位相回転角を設定する、予備回転工程と、前記予備回転工程において値が略一定となった、前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さと、の関係を示す、焼入れ深さ検量線を作成する、検量線作成工程と、前記渦流計測用センサによって計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値x0及びY方向の渦流計測値y0を算出する、計測工程と、前記渦流計測値x0及び渦流計測値y0に対して、前記予備回転工程における位相回転処理と同じ位相回転角で前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記渦流計測値x0に対応する回転計測値x1、及び渦流計測値y0に対応する回転計測値y1を算出する、回転工程と、前記回転計測値x1及び回転計測値y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、焼入れ深さ測定工程と、を備えるものである。
【0021】
請求項7においては、請求項2に記載の渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、渦流計測方法であって、焼入れ又は未焼入れが既知の焼入れ予備計測対象部品を複数準備して、前記渦流計測用センサにおける前記焼入れ判別コイルによって、それぞれの前記焼入れ予備計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号を焼入れ予備計測値として前記焼入れ判別コイルごとに算出する、焼入れ予備計測工程と、前記焼入れ予備計測値を示す焼入れ判別基準を前記焼入れ判別コイルごとに算出する、基準算出工程と、既知の焼入れ深さで焼入れされた予備計測対象部品を複数種類の焼入れ深さごとに準備し、前記予備計測対象部品に対する焼入れ測定時における前記渦流計測用センサと前記予備計測対象部品との計測距離を複数設定して、前記渦流計測用センサによって、前記測定距離毎にそれぞれの前記予備計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値としての予備計測値X0及びY方向の渦流計測値としての予備計測値Y0を、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに算出する、予備計測工程と、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに検出した前記予備計測値X0及び予備計測値Y0に対して、前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記予備計測値X0に対応する予備回転値X1、及び前記予備計測値Y0に対応する予備回転値Y1をそれぞれ算出し、前記位相回転処理を行う際には、前記焼入れ深さが同じであれば前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方の値が略一定となるように位相回転角を設定する、予備回転工程と、前記予備回転工程において値が略一定となった、前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さと、の関係を示す、焼入れ深さ検量線を作成する、検量線作成工程と、前記渦流計測用センサにおける焼入れ判別コイルによって、計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号を焼入れ渦流計測値として前記焼入れ判別コイルごとに算出する、焼入れ計測工程と、対応する前記焼入れ判別コイルに基づいて算出した、前記焼入れ渦流計測値と、前記焼入れ判別基準と、を比較することにより、計測対象部品における、焼入れ又は未焼入れの判別を行う、焼入れ判別工程と、前記焼入れ判別工程で、全ての焼入れ判別部位に焼入れがされていると判別された計測対象部品において、前記渦流計測用センサによって検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値x0及びY方向の渦流計測値y0を算出する、計測工程と、前記渦流計測値x0及び渦流計測値y0に対して、前記予備回転工程における位相回転処理と同じ位相回転角で前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記渦流計測値x0に対応する回転計測値x1、及び渦流計測値y0に対応する回転計測値y1を算出する、回転工程と、前記回転計測値x1及び回転計測値y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、焼入れ深さ測定工程と、を備えるものである。
【0022】
請求項8においては、請求項3に記載の渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、渦流計測方法であって、計測部と、該計測部と直交する直立部と、を有し、焼入れ又は未焼入れが既知の焼入れ予備計測対象部品を複数準備して、前記渦流計測用センサにおける前記焼入れ判別コイル及び前記直交焼入れ判別コイルによって、それぞれの前記焼入れ予備計測対象部品の計測部及び直交部における検出信号を検出し、該検出信号を焼入れ予備計測値として前記焼入れ判別コイル及び前記直交焼入れ判別コイルごとに算出する、焼入れ予備計測工程と、前記焼入れ予備計測値を示す焼入れ判別基準を前記焼入れ判別コイル及び前記直交焼入れ判別コイルごとに算出する、基準算出工程と、既知の焼入れ深さで焼入れされた予備計測対象部品を複数種類の焼入れ深さごとに準備し、前記予備計測対象部品に対する焼入れ測定時における前記渦流計測用センサと前記予備計測対象部品との計測距離を複数設定して、前記渦流計測用センサによって、前記測定距離毎にそれぞれの前記予備計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値としての予備計測値X0及びY方向の渦流計測値としての予備計測値Y0を、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに算出する、予備計測工程と、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに検出した前記予備計測値X0及び予備計測値Y0に対して、前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記予備計測値X0に対応する予備回転値X1、及び前記予備計測値Y0に対応する予備回転値Y1をそれぞれ算出し、前記位相回転処理を行う際には、前記焼入れ深さが同じであれば前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方の値が略一定となるように位相回転角を設定する、予備回転工程と、前記予備回転工程において値が略一定となった、前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さと、の関係を示す、焼入れ深さ検量線を作成する、検量線作成工程と、前記渦流計測用センサにおける焼入れ判別コイルによって、計測対象部品の前記計測部における検出信号を検出し、該検出信号を焼入れ渦流計測値として前記焼入れ判別コイルごとに算出する、焼入れ計測工程と、前記渦流計測用センサにおける直交焼入れ判別コイルによって、計測対象部品の前記直立部における検出信号を検出し、該検出信号を直交焼入れ渦流計測値として前記直交焼入れ判別コイルごとに算出する、直交焼入れ計測工程と、対応する前記焼入れ判別コイル及び前記直交焼入れ判別コイルに基づいて算出した、前記焼入れ渦流計測値及び前記直交焼入れ渦流計測値と、前記焼入れ判別基準と、を比較することにより、計測対象部品の計測部及び直立部における、焼入れ又は未焼入れの判別を行う、焼入れ判別工程と、前記焼入れ判別工程で、全ての前記計測部及び直立部に焼入れがされていると判別された計測対象部品において、前記渦流計測用センサによって検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値x0及びY方向の渦流計測値y0を算出する、計測工程と、前記渦流計測値x0及び渦流計測値y0を前記予備回転工程における位相回転処理と同じ位相回転角で位相回転処理を行い、回転計測値x1及び回転計測値y1を算出する、回転工程と、前記回転計測値x1及び回転計測値y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、焼入れ深さ測定工程と、を備えるものである。
【0023】
請求項9においては、請求項4に記載の渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、渦流計測方法であって、既知の焼入れ深さで焼入れされた予備計測対象部品を複数種類の焼入れ深さごとに準備し、前記予備計測対象部品に対する焼入れ測定時における前記渦流計測用センサと前記予備計測対象部品との計測距離を複数設定して、前記渦流計測用センサによって、前記測定距離毎にそれぞれの前記予備計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値としての予備計測値X0及びY方向の渦流計測値としての予備計測値Y0を、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに算出する、予備計測工程と、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに検出した前記予備計測値X0及び予備計測値Y0に対して、前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記予備計測値X0に対応する予備回転値X1、及び前記予備計測値Y0に対応する予備回転値Y1をそれぞれ算出し、前記位相回転処理を行う際には、前記焼入れ深さが同じであれば前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方の値が略一定となるように位相回転角を設定する、予備回転工程と、前記予備回転工程において値が略一定となった、前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さと、の関係を示す、焼入れ深さ検量線を作成する、検量線作成工程と、前記渦流計測用センサの前記第一検出コイルによって計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の第一渦流計測値x01及びY方向の第一渦流計測値y01をそれぞれ算出する、第一計測工程と、前記渦流計測用センサの前記第二検出コイルによって計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の第二渦流計測値x02及びY方向の第二渦流計測値y02をそれぞれ算出する、第二計測工程と、前記渦流計測用センサの前記第三検出コイルによって計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の第三渦流計測値x03及びY方向の第三渦流計測値y03をそれぞれ算出する、第三計測工程と、それぞれの前記第一渦流計測値x01及び第一渦流計測値y01、前記第二渦流計測値x02及び第二渦流計測値y02、並びに、前記第三渦流計測値x03及び第三渦流計測値y03を、前記予備回転工程における位相回転処理と同じ位相回転角で位相回転処理を行い、それぞれの渦流計測値に対応する、第一回転計測値x11及び第一回転計測値y11、第二回転計測値x12及び第二回転計測値y12、並びに、第三回転計測値x13及び第三回転計測値y13を算出する、回転工程と、前記第一回転計測値x11及び第一回転計測値y11のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品の第一検出コイルに対向する部分における焼入れ深さの測定を行う、第一焼入れ深さ測定工程と、前記第二回転計測値x12及び第二回転計測値y12のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品の第二検出コイルに対向する部分における焼入れ深さの測定を行う、第二焼入れ深さ測定工程と、前記第三回転計測値x13及び第三回転計測値y13のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品の第三検出コイルに対向する部分における焼入れ深さの測定を行う、第三焼入れ深さ測定工程と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0025】
本発明により、外径が大きく変化するような高周波焼入れ部品を検査する場合であっても高い検出精度で焼入れ深さ測定試験を行うことができ、また、焼入れ深さの計測にあたってリフトオフの影響を排除することで計測精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】焼入部材の深さ方向の層状態、硬さ及び透磁率の関係を示す図。
【図2】本実施形態に係る渦流計測を行うための装置構成を示す模式図。
【図3】渦流計測における交流励磁信号と検出信号との関係を示す図。
【図4】(a)は第一実施形態に係る渦流計測用センサの構成を示す概略図、(b)は同じく渦流計測用センサの側面図。
【図5】(a)は第一実施形態に係る渦流計測用センサで生じる磁界分布を示した図、(b)は同じく渦流計測用センサで生じる磁界強度の相対的な変化を示した図。
【図6】第一実施形態に係る渦流計測用センサにおける予備計測値を示した図。
【図7】同じく予備回転値を示した図。
【図8】同じく検量線を示す概略図。
【図9】(a)は第二実施形態に係る渦流計測用センサの構成を示す側面図、(b)は第三実施形態に係る渦流計測用センサの構成を示す側面図。
【図10】第二実施形態に係る渦流計測用センサにおける検出コイルで検出した渦流計測値を示した図。
【図11】第二実施形態に係る渦流計測用センサにおける第一の焼入れ判別コイルで検出した渦流計測値を示した図。
【図12】第二実施形態に係る渦流計測用センサにおける第二の焼入れ判別コイルで検出した渦流計測値を示した図。
【図13】(a)、(b)、(c)はそれぞれ第三実施形態に係る渦流計測用センサにおける計測状態を示す側面図。
【図14】(a)は第四実施形態に係る渦流計測用センサの構成を示す概略図、(b)は同じく渦流計測用センサにおける計測状態を示す側面図。
【図15】(a)は第五実施形態に係る渦流計測用センサの構成を示す概略図、(b)は同じく渦流計測用センサにおける計測状態を示す側面図。
【図16】従来技術に係る渦流計測用センサで検出した渦流計測値を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【0028】
本発明は渦流計測用センサが有する、励磁部である励磁コイル、及び、検出部である検出コイルを、それぞれ複数のコイルによって構成するとともに、それらのコイルの配置や連結方法等を工夫することにより、渦流計測の適用範囲の拡大を図ろうとするものである。以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の実施の形態では、渦流計測用センサによる渦流計測が高周波焼入等による焼入部品の焼入品質(焼入深さ・焼入硬さ)の検査に用いられる場合を主な例として説明する。つまり、渦流計測用センサを用いた渦流計測が行われることにより、計測対象部品である焼入部品の焼入品質が検査される。
【0029】
図1に、焼入が施された鋼材(S45C等)である焼入部材の深さ(表面からの距離)方向の層状態、硬さ及び透磁率の関係を示す。図1に示すように、焼入部材においては、その概略的な組織構成として、表面側から、焼入が施された部分である硬化層1と、母材の部分である母層2とが、境界層3を介して形成される。硬さ変化曲線4を参照すると、硬化層1と母層2とは異なる硬さとなり、硬化層1の硬さが母層2のそれよりも大きくなる。境界層3においては、硬さは硬化層1側から母層2側にかけて漸減する。硬さの具体例としては、ビッカース硬さ(Hv)で、硬化層1ではHv=600〜700、母層2ではHv=300程度の硬さを示す。
【0030】
一方、透磁率変化曲線5を参照すると、焼入部材の表面からの距離に対する透磁率の変化は、焼入部材の表面からの距離に対する硬さの変化に対して略逆比例の関係となる。つまり、透磁率については、硬化層1の透磁率が母層2のそれよりも小さくなるとともに、境界層3においては硬化層1側から母層2側にかけて漸増する。本実施形態に係る渦流計測においては、このような焼入部材における、表面からの距離に対する硬さと透磁率との関係が利用される。
【0031】
本実施形態に係る渦流計測を行うための装置構成の概略(計測原理)について、図2を用いて説明する。図2に示すように、渦流計測においては、計測対象部品であるワーク(磁性体)6の計測部位6aに対して、励磁部である励磁コイル7及び検出部である検出コイル8を有する渦流計測用センサ9が所定の位置にセットされる。このような構成において、励磁コイル7に電流が供給されると、励磁コイル7の周囲に磁界が発生する。すると、電磁誘導によって磁性体であるワーク6の計測部位6aの表面近傍に渦電流が発生する(図2中の矢印C1参照)。計測部位6aの表面における渦電流の発生にともない、検出コイル8を磁束が貫通し、検出コイル8に誘起電圧が発生する。そして、検出コイル8によって誘起電圧が計測されるのである。
【0032】
励磁コイル7は、その両端(両端子)が、交流電源10に接続される。交流電源10は、励磁コイル7に対して所定の交流励磁信号(励磁用交流電圧信号)V1を印加する。検出コイル8は、その両端(両端子)が、計測装置11に接続される。計測装置11は、励磁コイル7に交流電源10からの交流励磁信号V1が印加されたときの検出コイル8から得られる検出信号(前記誘起電圧についての電圧信号)V2の大きさと、検出信号V2の交流励磁信号V1に対する位相差(位相遅れ)Φ(図3参照)とを検出する。ここで、計測装置11には、位相差Φを検出するため、増幅された位相検波として、交流励磁信号V1(波形)が与えられる。
【0033】
検出コイル8によって検出される検出信号V2は、計測部位6a(ワーク6)の透磁率を反映する。つまり、計測部位6aの透磁率が高くなると、前述のような渦電流の発生にともなう磁束が増して検出信号V2が大きくなる。逆に、計測部位6aの透磁率が低くなると、渦電流の発生にともなう磁束が減って検出信号V2が小さくなる。この渦電流に基づく検出信号V2を定量化(数値化)するため、図3に示すように、検出信号V2の大きさの値である振幅値Yと、検出信号V2の交流励磁信号V1に対する位相差Φに起因する値である値X(=YcosΦ)とが着目され、次のような知見が得られている。
【0034】
まず、検出信号V2の振幅値Yは、焼入表面硬さ(焼入された部分の硬さ)との間に相関を有するということがある。すなわち、図1における硬さ変化曲線4と透磁率変化曲線5との比較からわかるように、焼入表面硬さが低いときには透磁率は高いという関係がある。透磁率が高いと、交流励磁信号V1が励磁コイル7に印加されたときに生じる磁束は増し、計測部位6aの表面に誘導される渦電流も増大する。これにともない、検出コイル8によって検出される検出信号V2の振幅値Yも増大する。したがって、逆に、検出コイル8によって検出される検出信号V2の振幅値Yから、渦電流が発生している計測部位6aを貫く磁束、つまり透磁率が導かれる。これにより、図1に示す硬さ変化曲線4と透磁率変化曲線5との関係から焼入表面硬さがわかる。
【0035】
次に、検出信号V2の交流励磁信号V1に対する位相差Φに起因する値Xは、焼入深さ(焼入硬化層の深さ)との間に相関を有するということがある。すなわち、焼入深さが深くなること、つまり焼入部材において焼入された硬化層1が増大することは、透磁率の低い範囲が深さ方向に増すこととなり、交流励磁信号V1に対して検出信号V2の位相遅れが増すこととなる。これにより、位相差Φに起因する値の大小から、焼入深さの深浅がわかる。
【0036】
以上のような計測原理によって焼入部品の焼入品質の検査を行うための渦流計測においては、前述したように励磁コイル及び検出コイルを有する渦流計測用センサが用いられる。以下、渦流計測用センサの構成を、本発明の実施形態として説明する。
【0037】
[第一実施形態]
まず、本発明の第一実施形態に係る渦流計測用センサについて、図4及び図5を用いて説明する。なお、本明細書では、各図に示す矢印でx軸方向、y軸方向、及び、z軸方向を示すものとする。
【0038】
図4(a)及び(b)に示す如く、本実施形態に係る渦流計測用センサは、ケース32に収容された励磁部及び検出部を備えるプローブ30と、演算部41と、を具備する。
励磁部は前記の如く、計測対象部品と対向して配置された状態で、所定の交流励磁信号(前記交流励磁信号V1参照)が印加される。検出部は、交流励磁信号が印加された励磁部により計測対象部品に生じた渦電流による検出信号(前記検出信号V2参照)を検出するのである。また、演算部41は、後述する検出コイル61と電機的に接続されており、検出信号を渦流計測値として算出するのである。
【0039】
励磁部は、第一励磁コイル51と、第二励磁コイル52とが、略立方体形状の非磁性ボビン31に巻回されて構成されている。具体的には、第一励磁コイル51は、第一の軸方向であるx軸方向に軸心方向を向けて、非磁性ボビン31に対して巻回されるのである。また、第二励磁コイル52は、第一の軸方向と直交する第二の軸方向であるy軸方向に軸心方向を向けて、第一励磁コイル51に対して交差して、非磁性ボビン31に対して巻回されるのである。換言すれば、第一励磁コイル51と第二励磁コイル52とは、非磁性ボビン31の上面と下面とで交差するように、直交して配設されているのである。
第一励磁コイル51及び第二励磁コイル52のそれぞれの両端(両端子)は、図示しない交流電源に接続されている。つまり、第一励磁コイル51及び第二励磁コイル52は計測対象部品に対して所定の交流励磁信号を印加するための励磁コイルである。
【0040】
検出部は、第一励磁コイル51と第二励磁コイル52との二つの交差部分のうち、下側の一方に配設された検出コイル61を備える。検出コイル61は、XY平面(非磁性ボビン31の下面)における、第一励磁コイル51と第二励磁コイル52との下側の交差部分の略中央部に配置されている。
本実施形態においては、検出コイル61には薄膜プレーナコイルが用いられるが、パンケーキコイル等、他のコイルを用いることも可能である。
検出コイル61の両端(両端子)は、演算部41が具備する図示しない計測装置に接続されている。つまり、検出コイル61は交流励磁信号が印加された計測対象部品から渦電流による検出信号を検出するのである。
【0041】
上記の如く構成された渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う場合は、検出コイル61が計測対象部品の計測部に対向する姿勢で、プローブ30を計測対象部品に近接配置した状態で、交流電源により第一励磁コイル51及び第二励磁コイル52のそれぞれに電圧を印加する。つまり、焼入れ深さの測定を行う際には、第一励磁コイル51及び第二励磁コイル52は、その軸心が計測対象部品における計測部位の表面に対して平行となるように配置される。
第一励磁コイル51に電流が流れた瞬間には、図4(b)に示す如く右ネジの法則に従って第一励磁コイル51の周囲に回転磁界が発生する。この際、図4(b)に示す如く、プローブ30の中央部付近ではx軸方向の水平磁界Hxが、プローブ30の両端部付近ではz軸方向の垂直磁界が強く発生する。詳細には、図5(a)に示す如く、プローブ30の水平位置xにおいて中央部付近では水平磁界Hxが強くなり、両端部付近では垂直磁界Hzが強くなるのである。
【0042】
前記水平磁界Hxは、垂直磁界Hzと比較して、リフトオフ(計測対象部品に対する渦流計測用センサの計測距離、すなわち計測時における計測対象部品と渦流計測用センサとの距離)の変化による相対的な磁界強度の減衰が小さいという特徴がある。具体的には図5(b)に示す如く、リフトオフが大きくなったときの磁界強度の減衰は、垂直磁界Hzよりも水平磁界Hxの方が小さくなるのである。即ち、渦流計測においては、水平磁界Hxを用いた方がリフトオフの影響を受けにくくなるのである。
【0043】
上記により、本実施形態においては、第一励磁コイル51によって発生した磁界のうち、第一磁界としてx軸方向に発生する水平磁界Hx(第二励磁コイル52によっては第二磁界としてy軸方向に発生する水平磁界Hy)を渦流計測に用いる構成としている。即ち、計測対象部品における検出コイル61に対向する部分に水平磁界Hx及び水平磁界Hyを発生させる。そして、この水平磁界Hx及び水平磁界Hyにより電磁誘導を起こし、電磁誘導によって磁性体である計測対象部品に渦電流を発生させるのである。さらに、計測対象部品の表面における渦電流の発生にともない、検出コイル61に磁束を貫通させ、検出コイル61に誘起電圧を発生させる。そして、検出コイル61によって誘起電圧を検出信号として計測するのである。そして、演算部41が検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ深さの測定を行うのである。
【0044】
本実施形態においては上記の如く、リフトオフによる磁界強度の減衰が小さい水平磁界を渦流計測に用いているため、焼入れ深さ測定試験においてもリフトオフの影響を受けにくいのである。即ち、検出信号の大きさを計測する必要があり、ノイズ成分に対する検出する信号成分の比率が小さいため、より高い検出精度が求められる焼入れ深さ測定試験においても、リフトオフの変化の影響を受けにくいため、渦流計測を精度良く行うことが可能となるのである。
【0045】
次に、本実施形態に係る渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う渦流計測方法について、図6から図8を用いて説明する。
本実施形態に係る渦流計測方法は、予備計測工程と、予備回転工程と、検量線作成工程と、計測工程と、回転工程と、焼入れ深さ測定工程と、を備える。以下、各工程について具体的に説明する。
【0046】
まず、予備計測工程では、既知の焼入れ深さで焼入れされた予備計測対象部品を複数種類の焼入れ深さごとに準備する。本実施形態においては図6中の凡例に示す如く、焼入れ深さがそれぞれ1.4mm、2.8mm、4.2mmの予備計測対象部品を用いることとしている。
そして、予備計測対象部品に対する焼入れ測定時におけるリフトオフを複数設定して、渦流計測用センサによって、リフトオフごとにそれぞれの予備計測対象部品における検出信号を検出する。本実施形態においては図6中の凡例に示す如く、リフトオフを大・中・小の3パターンで渦流計測を行うこととしている。
さらに、図6に示す如く、検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値としての予備計測値X0及びY方向の渦流計測値としての予備計測値Y0を、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに算出するのである。
【0047】
本工程においては、予備計測対象部品の焼入れ深さの変化に起因する出力値の変化と、リフトオフ(予備計測対象部品に対するプローブ型コイルの計測距離)の変化に起因する出力値の変化と、が異なる特性をもって出力される。具体的には図6に示す如く、焼入れ深さが増加した場合は、出力値である予備計測値X0、Y0が焼入れ深さに対してそれぞれ逆の相関を示すのである。より詳細には、焼入れ深さが増加した場合、予備計測値X0は増加し、予備計測値Y0は減少することにより、予備計測値X0、Y0がXY座標平面において左上から右下に向かってプロットされるのである。一方、リフトオフが増加した場合は、出力値である予備計測値X0、Y0がリフトオフに対してそれぞれ同じ相関を示すのである。より詳細には、リフトオフが増加した場合、予備計測値X0、Y0はともに減少することにより、予備計測値X0、Y0がXY座標平面において右上から左下に向かってプロットされるのである。
【0048】
次に、予備回転工程では、焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに検出した予備計測値X0及び予備計測値Y0に対して、前記XY座標平面における位相回転処理を行う。具体的には、焼入れ深さが同じであれば予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方の値が略一定となるように位相回転角θを設定し、予備計測値X0に対応する予備回転値X1、及び予備計測値Y0に対応する予備回転値Y1をそれぞれ算出するのである。本実施形態においては図7に示す如く、焼入れ深さが同じであれば予備回転値Y1の値が略一定となるように位相回転角θを設定している。
【0049】
本工程の位相回転処理は、以下の数式1及び数式2によって、予備計測値X0に対応する予備回転値X1、及び予備計測値Y0に対応する予備回転値Y1を算出する。
【0050】
【数1】
【0051】
【数2】
【0052】
即ち、上記数式1及び数式2に予備計測値X0、Y0、及び位相回転角θを代入した際に、図7に示す如く焼入れ深さが同じであれば予備回転値Y1が略一定となるように、位相回転角θが設定されるのである。
【0053】
次に、検量線作成工程では、予備回転工程において値が略一定となった予備回転値Y1と、焼入れ深さと、の関係を示す、焼入れ深さ検量線を作成する。具体的には図8に示す如く、横軸に既知の焼入れ深さとして1.4mm、2.8mm、4.2mmの値をとり、縦軸にそれぞれの焼入れ深さに対応する予備回転値Y1の値をとって座標平面を作成する。そして、それぞれの点の間を均等に通るように直線で焼入れ深さ検量線を引くのである。なお、予備回転工程で予備回転値X1の値が略一定となるように位相回転角θを設定した場合は、予備回転値X1と焼入れ深さとの関係を示す焼入れ深さ検量線を作成するのである。また、本実施形態においては直線で焼入れ深さ検量線を作成しているが、焼入れ深さ検量線は2次関数による放物線等、他の関数式で表されるものであっても差し支えない。
【0054】
次に、計測工程では、前記の如く渦流計測用センサによって計測対象部品における検出信号を検出し、検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値x0及びY方向の渦流計測値y0を算出する。
【0055】
次に、回転工程では、渦流計測値x0及び渦流計測値y0に対して、予備回転工程における位相回転処理と同じ位相回転角θでXY座標平面における位相回転処理を行い、渦流計測値x0に対応する回転計測値x1、及び渦流計測値y0に対応する回転計測値y1を算出する。
【0056】
そして、焼入れ深さ測定工程では、回転計測値y1と、焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う。具体的には、図8に示す縦軸で回転計測値y1をとり、焼入れ深さ検量線上で対応する点の焼入れ深さを計測対象部品の焼入れ深さとして測定するのである。なお、予備回転値X1と焼入れ深さとの関係を示す焼入れ深さ検量線を作成した場合は、回転計測値x1と焼入れ深さ検量線との関係から計測対象部品における焼入れ深さの測定を行うのである。
【0057】
本実施形態に係る渦流計測方法は上記の如く構成することにより、外径が大きく変化するような高周波焼入れ部品を検査する場合であっても高い検出精度で焼入れ深さ測定試験を行うことができる。即ち、渦流計測用センサを計測対象部品に近接させて渦流計測する構成であるため、計測対象部品の外径が変化してもその影響を受けることがないのである。
【0058】
本実施形態に係る渦流計測方法は、焼入れ深さの計測にあたってリフトオフの影響を排除することで計測精度を向上させることが可能となる。
具体的には前記の如く、計測対象部品の焼入れ深さの変化に起因する出力値の変化と、リフトオフの変化に起因する出力値の変化と、が異なる特性をもって出力される。このため、予備計測値X0及び予備計測値Y0に対してXY座標平面における位相回転処理を行うことにより、リフトオフによる影響が無く、焼入れ深さにのみ起因して変化する予備回転値Y1を得ることができるのである。そして、予備回転値Y1と焼入れ深さとの関係に基づく検量線を用いて焼入れ深さの測定を行うのである。これにより、焼入れ深さの計測にあたってリフトオフの影響を排除することができるため、計測精度を向上させることができるのである。
【0059】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係る渦流計測用センサについて、図9(a)を用いて説明する。なお、本実施形態以降で説明する渦流計測用センサについて、既出の実施形態と共通する部分に関しては詳細な説明を省略するものとする。また、本実施形態以降で説明する渦流計測用センサについては、励磁部及び検出部を収容するケースについての図示を省略している。
【0060】
図9(a)に示す如く、本実施形態に係る渦流計測用センサは、前記第一実施形態と同様に励磁部及び検出部を備えたプローブ130を具備する。
励磁部は、第一励磁コイル151と、図示しない第二励磁コイルとが、略立方体形状の非磁性ボビン131に巻回されて構成されている。即ち、第一励磁コイル151と第二励磁コイルとは、非磁性ボビン131の上面と下面とで交差するように、直交して配設されている。
検出部は、第一励磁コイル151と第二励磁コイルとの二つの交差部分のうち、下側の一方に配設された検出コイル161を備える。
【0061】
本実施形態においては、検出部は、検出コイル161に対してx軸方向の両側に隣接して配設された二個の焼入れ判別コイル162a・162bを備えている。
検出コイル161は、X軸方向における、第一励磁コイル151の略中央部に配置されており、焼入れ判別コイル162a・162bは、X軸方向における、第一励磁コイル151の両端部に配置されている。
本実施形態においては、焼入れ判別コイル162a・162bには薄膜プレーナコイルが用いられるが、パンケーキコイル等、他のコイルを用いることも可能である。また、1個の焼入れ判別コイル162aを検出コイル161の片側のみに隣接して配設する構成にすることも可能である。
焼入れ判別コイル162a・162bのそれぞれの両端(両端子)は、図示しない演算部が具備する計測装置に接続されている。つまり、焼入れ判別コイル162a・162bは交流励磁信号が印加された計測対象部品から渦電流による検出信号を検出するのである。
【0062】
上記の如く構成された渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う場合は、検出コイル161及び焼入れ判別コイル162a・162bが計測対象部品の計測部に対向する姿勢で、プローブ130を計測対象部品に近接配置した状態で、交流電源により第一励磁コイル151及び第二励磁コイルのそれぞれに交流電圧を印加する。第一励磁コイル151に電流が流れた瞬間には、右ネジの法則に従って第一励磁コイル151の周囲に回転磁界が発生する。この際、図9(a)に示す如く、プローブ130の中央部付近ではx軸方向の水平磁界が、プローブ130の両端部付近ではz軸方向の垂直磁界が強く発生する。
【0063】
計測対象部品に焼入れがなされている場合、透磁率が大きく変化する。ここで、水平磁界と垂直磁界のうち、透磁率の変化の影響を受けやすいのは垂直磁界であるため、焼入れ又は未焼入れの判別を行う際は垂直磁界による透磁率の変化を読み取った方が効率的かつ確実となるのである(図10から図12参照)。
【0064】
本実施形態においては上記の如く、第一励磁コイル151によって発生した磁界のうち、垂直磁界を焼入れ又は未焼入れの判別を行うための渦流計測に用いる構成としている。即ち、計測対象部品における焼入れ判別コイル162a・162bに対向する部分に垂直磁界を発生させる。そして、この垂直磁界により電磁誘導を起こし、電磁誘導によって磁性体である計測対象部品に渦電流を発生させるのである。さらに、計測対象部品の表面における渦電流の発生にともない、焼入れ判別コイル162a・162bに磁束を貫通させ、焼入れ判別コイル162a・162bに誘起電圧を発生させる。そして、焼入れ判別コイル162a・162bによって誘起電圧を検出信号として計測するのである。そして、演算部が焼入れ判別コイル162a・162bの検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ又は未焼入れの判別を行うのである。
【0065】
本実施形態においては上記の如く、透磁率の変化の影響を受けやすい垂直磁界を渦流計測に用いているため、効率的かつ確実に焼入れ又は未焼入れの判別を行うことが可能となるのである。
【0066】
次に、本実施形態に係る渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う渦流計測方法について、図10から図12を用いて説明する。なお、本実施形態以降で説明する渦流計測方法について、既出の実施形態と共通する部分については詳細な説明を省略するものとする。
【0067】
本実施形態に係る渦流計測方法は、焼入れ予備計測工程と、基準算出工程と、予備計測工程と、予備回転工程と、検量線作成工程と、焼入れ計測工程と、焼入れ判別工程と、計測工程と、回転工程と、焼入れ深さ測定工程と、を備える。以下、各工程について具体的に説明する。
【0068】
まず、焼入れ予備計測工程においては、焼入れ又は未焼入れが既知の焼入れ予備計測対象部品を複数準備する。本実施形態においては図10中の凡例に示す如く、焼入れ深さがそれぞれ1.0mm、2.5mm、4.0mmの焼入れ予備計測対象部品と、3個の未焼入れの焼入れ予備計測対象部品とを用いることとしている。
そして、渦流計測用センサにおける焼入れ判別コイル162a・162bによって、それぞれの焼入れ予備計測対象部品における検出信号を検出し、検出信号を焼入れ予備計測値として算出するのである。
【0069】
図10から図12はそれぞれ、検出コイル161、焼入れ判別コイル162a・162bで検出した渦流計測値である焼入れ予備計測値を示している。それぞれのコイルで検出した渦流計測値をch1からch3として表記している。
図10に示す如く、検出コイル161により水平磁界を渦流計測に用いて検出した渦流計測値(ch1)は、焼入れの有無による差異がないため、焼入れ又は未焼入れの判別を行うことが困難である。
一方、図11及び図12に示す如く、焼入れ判別コイル162a・162bにより垂直磁界を渦流計測に用いて検出した渦流計測値Y(ch2・ch3)は、焼入れの有無による差異が大きく表れているため、焼入れ又は未焼入れの判別を行うことができるのである。
【0070】
次に、基準算出工程では、焼入れ予備計測値を示す焼入れ判別基準を焼入れ判別コイル162a・162bごとに算出する。即ち、図11及び図12に示す如く、焼入れの有無による渦流計測値Y(ch2・ch3)の値に基づいて、焼入れ又は未焼入れの境界を示す焼入れ判別基準YJ2・YJ3をそれぞれ算出するのである。この場合、焼入れ判別基準YJ2・YJ3は、焼入れが有りの場合の渦流計測値Yと焼入れが無しの場合の渦流計測値Yとをできるだけ確実に分離することができる値に設定することが好ましい。
【0071】
次に、前記実施形態の如く、予備計測工程、予備回転工程、及び、検量線作成工程を行う。
【0072】
次に、焼入れ計測工程では、渦流計測用センサにおける焼入れ判別コイル162a・162bによって、計測対象部品における検出信号を検出し、検出信号を焼入れ渦流計測値として焼入れ判別コイル162a・162bごとに算出する。
【0073】
次に、焼入れ判別工程では、対応する焼入れ判別コイル162a・162bに基づいて算出した、焼入れ渦流計測値と、焼入れ判別基準YJ2・YJ3と、を比較することにより、計測対象部品における、焼入れ又は未焼入れの判別を行う。具体的には、焼入れ判別コイル162a・162bで検出した渦流計測値Yである焼入れ渦流計測値が、それぞれ焼入れ判別基準YJ2・YJ3を越えているか否かにより、焼入れ又は未焼入れを判別するのである。
【0074】
次に、計測工程では、焼入れ判別工程で、全ての焼入れ判別部位(焼入れ判別コイル162a・162bのそれぞれに対向する部位)に焼入れがされていると判別された計測対象部品において、渦流計測用センサによって検出信号を検出し、検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値x0及びY方向の渦流計測値y0を算出する。
【0075】
次に、前記第一実施形態の如く、回転工程、及び、焼入れ深さ測定工程を行い、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行うのである。
【0076】
本実施形態においては上記の如く、透磁率の変化の影響を受けやすい垂直磁界を焼入れ又は未焼入れの判別を行うための渦流計測に用いているため、効率的かつ確実に焼入れ又は未焼入れの判別を行うことが可能となる。これにより、焼入れ深さの測定を行う前に焼入れ又は未焼入れの判別を行い、焼入れが充分されていない計測対象部品の焼入れ深さの測定を行わないことにより、渦流計測の効率を向上させることができるのである。
【0077】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態に係る渦流計測用センサについて、図9(b)を用いて説明する。
図9(b)に示す如く、本実施形態に係る渦流計測用センサは、前記第一実施形態と同様に励磁部及び検出部を備えたプローブ230を具備する。
励磁部は、第一励磁コイル251と、図示しない第二励磁コイルとが、略立方体形状の非磁性ボビン231に巻回されて構成されている。即ち、第一励磁コイル251と第二励磁コイルとは、非磁性ボビン231の上面と下面とで交差するように、直交して配設されている。
検出部は、第一励磁コイル251と第二励磁コイルとの二つの交差部分のうち、下側の一方に配設された検出コイル261と、検出コイル261に対してx軸方向の両側に隣接して配設された二個の焼入れ判別コイル262a・262bと、を備える。
【0078】
本実施形態においては、検出部は、焼入れ判別コイル262a・262bの検出コイル261の側とは反対側に、焼入れ判別コイル262a・262bと直交して配設された二個の直交焼入れ判別コイル263a・263bを備えている。
検出コイル261は、X軸方向における、第一励磁コイル251の略中央部に配置されており、焼入れ判別コイル262a・262b及び直交焼入れ判別コイル263a・263bは、X軸方向における、第一励磁コイル251の両端部に配置されている。
また、検出コイル261及び焼入れ判別コイル262a・262bは、それぞれ非磁性ボビン231の下面のX軸方向における略中央部及び両端部に配設され、直交焼入れ判別コイル263a・263bは、非磁性ボビン231の下面のX軸方向における両端に隣接する両側面の下端部に配設されている。
本実施形態においては、直交焼入れ判別コイル263a・263bには薄膜プレーナコイルが用いられるが、パンケーキコイル等、他のコイルを用いることも可能である。また、1個の直交焼入れ判別コイル263aを焼入れ判別コイル262a・262bの何れかに隣接して配設する構成にすることも可能である。
直交焼入れ判別コイル263a・263bのそれぞれの両端(両端子)は、図示しない演算部が具備する計測装置に接続されている。つまり、直交焼入れ判別コイル263a・263bは交流励磁信号が印加された計測対象部品から渦電流による検出信号を検出するのである。
【0079】
本実施形態における計測対象部品は、図13に示す如く、計測部と、前記計測部の両端に位置し、前記計測部と直交する直立部と、を有するクランクシャフトC(クランクシャフトCのピン部又はジャーナル部)であるものとする。上記の如く構成された渦流計測用センサを用いて、クランクシャフトCにおける焼入れ深さの測定を行う場合は、図13(a)から(c)に示す如く、検出コイル261及び焼入れ判別コイル262a・262bがクランクシャフトCの計測部に対向し、直交焼入れ判別コイル263a・263bがクランクシャフトCの計測部と直交する直立部に対向する姿勢で、プローブ230をクランクシャフトCに近接配置する。そして、その状態で、第一励磁コイル251及び第二励磁コイルのそれぞれに交流電圧を加え、クランクシャフトCの計測部の両端部、及び直立部に、図9(b)に示す如くx軸方向の磁界を発生させるのである。即ち、クランクシャフトCにおける焼入れ判別コイル262a・262bに対向する部分、及び直交焼入れ判別コイル263a・263bに対向する部分に垂直磁界を発生させるのである。
【0080】
さらに、前記垂直磁界により交流励磁信号として渦電流を生じさせ、渦電流により発生した誘起電圧を検出信号として焼入れ判別コイル262a・262b及び直交焼入れ判別コイル263a・263bで検出する。そして、演算部が焼入れ判別コイル262a・262b及び直交焼入れ判別コイル263a・263bの検出信号を渦流計測値として算出することにより、渦流計測値に基づいてクランクシャフトCにおける焼入れ又は未焼入れの判別を行うのである。
【0081】
図13(a)はクランクシャフトCにおいて計測部、直立部ともに焼入れ部分CQを有する場合について示している。この場合は、焼入れ判別コイル262a・262b及び直交焼入れ判別コイル263a・263bの全てで検出した渦流計測値において焼入れされていると判断される。
【0082】
図13(b)はクランクシャフトCにおいて計測部のみに焼入れ部分CQを有する場合について示している。この場合は、焼入れ判別コイル262a・262bで検出した渦流計測値においては焼入れされていると判断されるが、直交焼入れ判別コイル263a・263bで検出した渦流計測値においては焼入れされていないと判断される。
【0083】
図13(c)はクランクシャフトCにおいて計測部及び片側(直交焼入れ判別コイル263aに近接する側)の直立部のみに焼入れ部分CQを有する場合について示している。この場合は、焼入れ判別コイル262a・262b及び直交焼入れ判別コイル263aで検出した渦流計測値においては焼入れされていると判断されるが、直交焼入れ判別コイル263bで検出した渦流計測値においては焼入れされていないと判断される。
【0084】
本実施形態においては上記の如く、クランクシャフトCが、計測部と直交する直立部を有する形状であっても、直交焼入れ判別コイル263a・263bに対向する部分に生じる垂直磁界を渦流計測に用いているため、直立部の焼入れ又は未焼入れの判別を行うことが可能となるのである。
【0085】
次に、本実施形態に係る渦流計測用センサを用いて、計測対象部品であるクランクシャフトCにおける焼入れ深さの測定を行う渦流計測方法について説明する。
【0086】
本実施形態に係る渦流計測方法は、焼入れ予備計測工程と、基準算出工程と、予備計測工程と、予備回転工程と、検量線作成工程と、焼入れ計測工程と、焼入れ判別工程と、計測工程と、回転工程と、焼入れ深さ測定工程と、を備える。以下、各工程について具体的に説明する。
【0087】
まず、焼入れ予備計測工程においては、計測部と、該計測部と直交する直立部と、を有し、焼入れ又は未焼入れが既知の焼入れ予備計測対象部品であるクランクシャフトCを複数準備する。そして、渦流計測用センサにおける焼入れ判別コイル262a・262b及び直交焼入れ判別コイル263a・263bによって、それぞれの焼入れクランクシャフトCの計測部及び直交部における検出信号を検出し、検出信号を焼入れ予備計測値として焼入れ判別コイル262a・262b及び直交焼入れ判別コイル263a・263bごとに算出するのである。
【0088】
次に、基準算出工程では、焼入れ予備計測値を示す焼入れ判別基準を焼入れ判別コイル262a・262b及び直交焼入れ判別コイル263a・263bごとに算出する。
【0089】
次に、前記第一実施形態の如く、予備計測工程、予備回転工程、検量線作成工程、及び、焼入れ計測工程を行う。
【0090】
次に、直交焼入れ計測工程では、渦流計測用センサにおける直交焼入れ判別コイル263a・263bによって、クランクシャフトCの直立部における検出信号を検出し、検出信号を直交焼入れ渦流計測値として直交焼入れ判別コイル263a・263bごとに算出する。
【0091】
次に、焼入れ判別工程では、対応する焼入れ判別コイル262a・262b及び直交焼入れ判別コイル263a・263bに基づいて算出した、焼入れ渦流計測値及び前記直交焼入れ渦流計測値と、焼入れ判別基準と、を比較することにより、クランクシャフトCの計測部及び直立部における、焼入れ又は未焼入れの判別を行う。
【0092】
次に、計測工程では、焼入れ判別工程で、図13(a)の如く全ての計測部及び直立部に焼入れがされていると判別されたクランクシャフトCにおいて、渦流計測用センサによって検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値x0及びY方向の渦流計測値y0を算出する。
【0093】
次に、前記第一実施形態の如く、回転工程、及び、焼入れ深さ測定工程を行い、クランクシャフトCにおける焼入れ深さの測定を行うのである。
【0094】
本実施形態においては上記の如く、クランクシャフトCが、計測部と直交する直立部を有する形状であっても、直交焼入れ判別コイル263a・263bに対向する部分に生じる垂直磁界を渦流計測に用いているため、直立部の焼入れ又は未焼入れの判別を行うことが可能となる。これにより、焼入れ深さの測定を行う前に焼入れ又は未焼入れの判別を行い、焼入れが充分されていないクランクシャフトCの焼入れ深さの測定を行わないことにより、渦流計測の効率を向上させることができるのである。
【0095】
[第四実施形態]
次に、本発明の第四実施形態に係る渦流計測用センサについて、図14(a)及び(b)を用いて説明する。
図14(a)及び(b)に示す如く、本実施形態に係る渦流計測用センサは、前記第一実施形態と同様に励磁部及び検出部を備え、x軸方向に軸線を向けた八角柱状に形成されたプローブ330を具備している。なお、プローブ330の形状は八角柱状に限定されるものではない。
【0096】
励磁部は、それぞれが八角柱状の非磁性ボビン331に巻回された第一励磁コイル351と、第二励磁コイル352と、第三励磁コイル353と、第四励磁コイル354と、を備える。
第一励磁コイル351は、x軸方向に軸心方向を向けて非磁性ボビン331に巻回される。第二励磁コイル352は、y軸方向に軸心方向を向けて、第一励磁コイル351に対して交差して非磁性ボビン331に巻回される。第三励磁コイル353及び第四励磁コイル354は、x軸方向と直交し、y軸方向に対してそれぞれ等しく傾斜した方向に軸心方向を向けて、第一励磁コイル351に対して交差して非磁性ボビン331に巻回される。
【0097】
それぞれの励磁コイルの両端(両端子)は、図示しない交流電源に接続されている。つまり、それぞれの励磁コイルは計測対象部品であるクランクシャフトCに対して所定の交流励磁信号を印加するための励磁コイルである。
【0098】
検出部は、第一検出コイル361と、第二検出コイル362と、第三検出コイル363と、を備える。
第一検出コイル361は、第一励磁コイル351と第二励磁コイル352との二つの交差部分のうち一方に配設される。第二検出コイル362は、第一励磁コイル351と第三励磁コイル353との二つの交差部分のうち第一検出コイル361に隣接する側に配設される。第三検出コイル363は、第一励磁コイル351と第四励磁コイル354との二つの交差部分のうち第一検出コイル361に隣接する側に配設される
【0099】
それぞれの検出コイルの両端(両端子)は、図示しない演算部が具備する計測装置に接続されている。つまり、それぞれの検出コイルは交流励磁信号が印加されたクランクシャフトCから渦電流による検出信号を検出するのである。
【0100】
上記の如く構成された渦流計測用センサを用いて、クランクシャフトCにおける、計測部と前記計測部の両端に位置し前記計測部に対して直交する直立部とを有する部分(クランクシャフトCのピン部又はジャーナル部)の、焼入れ部分CQの焼入れ深さの測定を行う場合は、図14(b)に示す如く、第一検出コイル361がクランクシャフトCの計測部に対向し、第二検出コイル362及び第三検出コイル363が計測部と直立部との境界部分に対向する姿勢で、プローブ330をクランクシャフトCに近接配置させる。即ち、第二検出コイル362及び第三検出コイル363は、クランクシャフトCの計測部の両端に形成されるR部に対向するのである。この状態で、第一励磁コイル351、第二励磁コイル352、第三励磁コイル353、及び、第四励磁コイル354のそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加えるのである。そして、クランクシャフトCに磁界を発生させる。
【0101】
この際、第一検出コイル361、第二検出コイル362、及び、第三検出コイル363の周囲には、第二励磁コイル352、第三励磁コイル353、及び、第四励磁コイル354により、図14(b)に示す如く回転磁界が発生する。即ち、第二励磁コイル352、第三励磁コイル353、及び、第四励磁コイル354により、それぞれの検出コイルに対して水平な水平磁界が強く発生するのである。そして、この水平磁界により電磁誘導を起こし、電磁誘導によって磁性体であるクランクシャフトCに渦電流を発生させるのである。さらに、クランクシャフトCの表面における渦電流の発生にともない、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号として第一検出コイル361、第二検出コイル362、及び、第三検出コイル363で検出し、演算部が前記検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいてクランクシャフトCにおける焼入れ深さの測定を行うのである。
【0102】
次に、本実施形態に係る渦流計測用センサを用いて、計測対象部品であるクランクシャフトCにおける焼入れ深さの測定を行う渦流計測方法について、図14(b)を用いて説明する。
本実施形態に係る渦流計測方法は、予備計測工程と、予備回転工程と、検量線作成工程と、第一計測工程と、第二計測工程と、第三計測工程と、回転工程と、第一焼入れ深さ測定工程と、第二焼入れ深さ測定工程と、第三焼入れ深さ測定工程と、を備える。以下、各工程について具体的に説明する。
【0103】
まず、前記第一実施形態の如く、予備計測工程、予備回転工程、及び、検量線作成工程を行う。
【0104】
次に、第一計測工程では、渦流計測用センサの第一検出コイル361によってクランクシャフトCにおける検出信号を検出し、検出信号よりXY座標平面におけるX方向の第一渦流計測値x01及びY方向の第一渦流計測値y01をそれぞれ算出する。
続いて、第二計測工程、第三計測工程においても同様に、第二検出コイル362及び第三検出コイル363によってクランクシャフトCにおける検出信号を検出し、検出信号よりXY座標平面におけるX方向の第二渦流計測値x02及びY方向の第二渦流計測値y02、第三渦流計測値x03及びY方向の第三渦流計測値y03をそれぞれ算出する。
【0105】
次に、回転工程では、それぞれの第一渦流計測値x01及び第一渦流計測値y01、第二渦流計測値x02及び第二渦流計測値y02、並びに、第三渦流計測値x03及び第三渦流計測値y03を、予備回転工程における位相回転処理と同じ位相回転角で位相回転処理を行う。そして、それぞれの渦流計測値に対応する、第一回転計測値x11及び第一回転計測値y11、第二回転計測値x12及び第二回転計測値y12、並びに、第三回転計測値x13及び第三回転計測値y13を算出する。
【0106】
次に、第一焼入れ深さ測定工程では、第一回転計測値x11及び第一回転計測値y11のうち何れか一方と、焼入れ深さ検量線と、の関係から、クランクシャフトCの第一検出コイル361に対向する部分における焼入れ深さの測定を行う。
続いて、第二焼入れ深さ測定工程においても同様に、第二回転計測値x12及び第二回転計測値y12のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、クランクシャフトCの第二検出コイル362に対向する部分における焼入れ深さの測定を行う。
さらに、第三焼入れ深さ測定工程においても同様に、第三回転計測値x13及び第三回転計測値y13のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、クランクシャフトCの第三検出コイル363に対向する部分における焼入れ深さの測定を行うのである。
【0107】
本実施形態においては上記の如く、リフトオフによる磁界強度の減衰が小さい水平磁界を渦流計測に用いているため、焼入れ深さ測定試験においてもリフトオフの影響を受けにくいのである。さらに、クランクシャフトCのR部に対向する部分にも第三励磁コイル353及び第四励磁コイル354を巻回するとともに、第二検出コイル362及び第三検出コイル363を配設することにより、水平磁界を用いてR部における焼入れ深さを測定することができるのである。
【0108】
[第五実施形態]
次に、本発明の第五実施形態に係る渦流計測用センサについて、図15(a)及び(b)を用いて説明する。
図15(a)に示す如く、本実施形態に係る渦流計測用センサは、前記第一実施形態と同様に励磁部及び検出部を備えたプローブ430を具備する。
励磁部は、第一励磁コイル451と、第二励磁コイル452とが、略立方体形状の非磁性ボビン431に巻回されて構成されている。即ち、第一励磁コイル451と第二励磁コイル452とは、非磁性ボビン431の上面と下面とで交差するように、直交して配設されている。
検出部は、第一励磁コイル451と第二励磁コイル452との二つの交差部分の双方に配設された検出コイル461・462を備える。
【0109】
上記の如く構成された渦流計測用センサを用いて、計測対象部品である中空状のワークWにおける焼入れ深さの測定を行う場合は、図15(b)に示す如く、プローブ430をワークWに挿入する。そして、それぞれの検出コイル461・462がワークWの内周面に対向する姿勢で、プローブ430をワークWに近接配置した状態で、第一励磁コイル451及び第二励磁コイル452のそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加えるのである。そして、ワークWに磁界を発生させる。
【0110】
この際、検出コイル461・462に対向する部分では、第一励磁コイル451及び第二励磁コイル452により、それぞれの検出コイルに対して水平な水平磁界が強く発生する。そして、この水平磁界により電磁誘導を起こし、電磁誘導によって磁性体であるワークWに渦電流を発生させるのである。さらに、ワークWの表面における渦電流の発生にともない、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号として検出コイル461・462で検出し、演算部が前記検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいてワークWにおける焼入れ部分WQの焼入れ深さの測定を行うのである。
【0111】
本実施形態においては上記の如く、リフトオフによる磁界強度の減衰が小さい水平磁界を渦流計測に用いているため、焼入れ深さ測定試験においてもリフトオフの影響を受けにくいのである。さらに、第一励磁コイル451と第二励磁コイル452との二つの交差部分の双方に検出コイル461・462を配設することにより、中空状のワークWにおいても同時に水平磁界を用いて焼入れ深さを測定することができるのである。
【符号の説明】
【0112】
30 プローブ
31 非磁性ボビン
41 演算部
51 第一励磁コイル
52 第二励磁コイル
61 検出コイル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測対象部品に対して所定の交流励磁信号を印加するための励磁部、及び、印加された前記交流励磁信号によって計測対象部品に発生する検出信号を検出するための検出部、を備えたプローブと、前記検出信号を渦流計測値として算出するための演算部と、を具備する、渦流計測用センサであって、
前記励磁部は、第一の軸方向に軸心方向を向けて配設された第一励磁コイルと、第一の軸方向と直交する第二の軸方向に軸心方向を向けて第一励磁コイルに対して交差して配設された第二励磁コイルと、を備え、
前記検出部は、第一励磁コイルと第二励磁コイルとの二つの交差部分のうち一方に配設された検出コイルを備え、
前記検出コイルが計測対象部品の計測部に対向する姿勢で、前記プローブを前記計測対象部品に近接配置した状態で、前記第一励磁コイル及び前記第二励磁コイルのそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加え、計測対象部品における前記検出コイルに対向する部分に、第一の軸方向の第一磁界及び第二の軸方向の第二磁界を発生させるとともに、それぞれの磁界により渦電流を生じさせ、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号として前記検出コイルで検出し、前記演算部が前記検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、
ことを特徴とする、渦流計測用センサ。
【請求項2】
前記検出部は、前記検出コイルに対して第一の軸方向の片側又は両側に隣接して配設された一個又は二個の焼入れ判別コイルを備え、
前記検出コイル及び前記焼入れ判別コイルが計測対象部品の計測部に対向する姿勢で、前記プローブを前記計測対象部品に近接配置した状態で、前記第一励磁コイル及び前記第二励磁コイルのそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加え、計測対象部品における前記焼入れ判別コイルに対向する部分に、第一の軸方向及び第二の軸方向と直交する方向の磁界を発生させるとともに、前記磁界により渦電流を生じさせ、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号として前記焼入れ判別コイルで検出し、前記演算部が前記焼入れ判別コイルの前記検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ又は未焼入れの判別を行う、
ことを特徴とする、請求項1に記載の渦流計測用センサ。
【請求項3】
前記検出部は、前記焼入れ判別コイルの前記検出コイルの側とは反対側に、前記焼入れ判別コイルと直交して配設された一個又は二個の直交焼入れ判別コイルを備え、
前記検出コイル及び前記焼入れ判別コイルが計測対象部品の計測部に対向し、前記直交焼入れ判別コイルが計測対象部品の前記計測部と直交する直立部に対向する姿勢で、前記プローブを前記計測対象部品に近接配置した状態で、前記第一励磁コイル及び前記第二励磁コイルのそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加え、計測対象部品の前記直立部に、第一の軸方向の磁界を発生させるとともに、前記磁界により渦電流を生じさせ、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号として前記直交焼入れ判別コイルで検出し、前記演算部が前記焼入れ判別コイル及び前記直交焼入れ判別コイルの前記検出信号を渦流計測値として算出することにより、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ又は未焼入れの判別を行う、
ことを特徴とする、請求項2に記載の渦流計測用センサ。
【請求項4】
計測対象部品に対して所定の交流励磁信号を印加するための励磁部、及び、印加された前記交流励磁信号によって計測対象部品に発生する検出信号を検出するための検出部、を備えたプローブと、前記検出信号を渦流計測値として算出するための演算部と、を具備し、第一の軸方向に軸線を向けた柱状に形成される、渦流計測用センサであって、
前記励磁部は、第一の軸方向に軸心方向を向けて巻回された第一励磁コイルと、第一の軸方向と直交する第二の軸方向に軸心方向を向けて、第一励磁コイルに対して交差して巻回された第二励磁コイルと、第一の軸方向と直交し、第二の軸方向に対してそれぞれ等しく傾斜した方向に軸心方向を向けて、第一励磁コイルに対して交差して巻回された第三励磁コイル及び第四励磁コイルと、を備え、
前記検出部は、第一励磁コイルと第二励磁コイルとの二つの交差部分のうち一方に配設された第一検出コイルと、第一励磁コイルと第三励磁コイルとの二つの交差部分のうち第一検出コイルに隣接する側に配設された第二検出コイルと、第一励磁コイルと第四励磁コイルとの二つの交差部分のうち第一検出コイルに隣接する側に配設された第三検出コイルと、を備え、
前記第一検出コイルが計測対象部品の計測部に対向する姿勢で、前記プローブを前記計測対象部品に近接配置した状態で、前記第一励磁コイル、第二励磁コイル、第三励磁コイル、及び、第四励磁コイルのそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加え、計測対象部品に磁界を発生させるとともに、それぞれの磁界により渦電流を生じさせ、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号として前記第一検出コイル、第二検出コイル、及び、第三検出コイルで検出し、前記演算部が前記検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、
ことを特徴とする、渦流計測用センサ。
【請求項5】
計測対象部品に対して所定の交流励磁信号を印加するための励磁部、及び、印加された前記交流励磁信号によって計測対象部品に発生する検出信号を検出するための検出部、を備えたプローブと、前記検出信号を渦流計測値として算出するための演算部と、を具備する、渦流計測用センサであって、
前記励磁部は、第一の軸方向に軸心方向を向けて配設された第一励磁コイルと、第一の軸方向と直交する第二の軸方向に軸心方向を向けて第一励磁コイルに対して交差して配設された第二励磁コイルと、を備え、
前記検出部は、第一励磁コイルと第二励磁コイルとの二つの交差部分の双方に配設された二個の検出コイルを備え、
中空状の計測対象部品に挿入し、それぞれの前記検出コイルが計測対象部品の内周面に対向する姿勢で、前記プローブを前記計測対象部品に近接配置した状態で、前記第一励磁コイル及び前記第二励磁コイルのそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加え、計測対象部品におけるそれぞれの前記検出コイルに対向する部分に、第一の軸方向の第一磁界及び第二の軸方向の第二磁界を発生させるとともに、それぞれの磁界により計測対象部品に渦電流を生じさせ、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号としてそれぞれの前記検出コイルで検出し、前記演算部が前記検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、
ことを特徴とする、渦流計測用センサ。
【請求項6】
請求項1に記載の渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、渦流計測方法であって、
既知の焼入れ深さで焼入れされた予備計測対象部品を複数種類の焼入れ深さごとに準備し、前記予備計測対象部品に対する焼入れ測定時における前記渦流計測用センサと前記予備計測対象部品との計測距離を複数設定して、前記渦流計測用センサによって、前記測定距離毎にそれぞれの前記予備計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値としての予備計測値X0及びY方向の渦流計測値としての予備計測値Y0を、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに算出する、予備計測工程と、
前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに検出した前記予備計測値X0及び予備計測値Y0に対して、前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記予備計測値X0に対応する予備回転値X1、及び前記予備計測値Y0に対応する予備回転値Y1をそれぞれ算出し、前記位相回転処理を行う際には、前記焼入れ深さが同じであれば前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方の値が略一定となるように位相回転角を設定する、予備回転工程と、
前記予備回転工程において値が略一定となった、前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さと、の関係を示す、焼入れ深さ検量線を作成する、検量線作成工程と、
前記渦流計測用センサによって計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値x0及びY方向の渦流計測値y0を算出する、計測工程と、
前記渦流計測値x0及び渦流計測値y0に対して、前記予備回転工程における位相回転処理と同じ位相回転角で前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記渦流計測値x0に対応する回転計測値x1、及び渦流計測値y0に対応する回転計測値y1を算出する、回転工程と、
前記回転計測値x1及び回転計測値y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、焼入れ深さ測定工程と、を備える、
ことを特徴とする、渦流計測方法。
【請求項7】
請求項2に記載の渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、渦流計測方法であって、
焼入れ又は未焼入れが既知の焼入れ予備計測対象部品を複数準備して、前記渦流計測用センサにおける前記焼入れ判別コイルによって、それぞれの前記焼入れ予備計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号を焼入れ予備計測値として前記焼入れ判別コイルごとに算出する、焼入れ予備計測工程と、
前記焼入れ予備計測値を示す焼入れ判別基準を前記焼入れ判別コイルごとに算出する、基準算出工程と、
既知の焼入れ深さで焼入れされた予備計測対象部品を複数種類の焼入れ深さごとに準備し、前記予備計測対象部品に対する焼入れ測定時における前記渦流計測用センサと前記予備計測対象部品との計測距離を複数設定して、前記渦流計測用センサによって、前記測定距離毎にそれぞれの前記予備計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値としての予備計測値X0及びY方向の渦流計測値としての予備計測値Y0を、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに算出する、予備計測工程と、
前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに検出した前記予備計測値X0及び予備計測値Y0に対して、前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記予備計測値X0に対応する予備回転値X1、及び前記予備計測値Y0に対応する予備回転値Y1をそれぞれ算出し、前記位相回転処理を行う際には、前記焼入れ深さが同じであれば前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方の値が略一定となるように位相回転角を設定する、予備回転工程と、
前記予備回転工程において値が略一定となった、前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さと、の関係を示す、焼入れ深さ検量線を作成する、検量線作成工程と、
前記渦流計測用センサにおける焼入れ判別コイルによって、計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号を焼入れ渦流計測値として前記焼入れ判別コイルごとに算出する、焼入れ計測工程と、
対応する前記焼入れ判別コイルに基づいて算出した、前記焼入れ渦流計測値と、前記焼入れ判別基準と、を比較することにより、計測対象部品における、焼入れ又は未焼入れの判別を行う、焼入れ判別工程と、
前記焼入れ判別工程で、全ての焼入れ判別部位に焼入れがされていると判別された計測対象部品において、前記渦流計測用センサによって検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値x0及びY方向の渦流計測値y0を算出する、計測工程と、
前記渦流計測値x0及び渦流計測値y0に対して、前記予備回転工程における位相回転処理と同じ位相回転角で前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記渦流計測値x0に対応する回転計測値x1、及び渦流計測値y0に対応する回転計測値y1を算出する、回転工程と、
前記回転計測値x1及び回転計測値y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、焼入れ深さ測定工程と、を備える、
ことを特徴とする、渦流計測方法。
【請求項8】
請求項3に記載の渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、渦流計測方法であって、
計測部と、該計測部と直交する直立部と、を有し、焼入れ又は未焼入れが既知の焼入れ予備計測対象部品を複数準備して、前記渦流計測用センサにおける前記焼入れ判別コイル及び前記直交焼入れ判別コイルによって、それぞれの前記焼入れ予備計測対象部品の計測部及び直交部における検出信号を検出し、該検出信号を焼入れ予備計測値として前記焼入れ判別コイル及び前記直交焼入れ判別コイルごとに算出する、焼入れ予備計測工程と、
前記焼入れ予備計測値を示す焼入れ判別基準を前記焼入れ判別コイル及び前記直交焼入れ判別コイルごとに算出する、基準算出工程と、
既知の焼入れ深さで焼入れされた予備計測対象部品を複数種類の焼入れ深さごとに準備し、前記予備計測対象部品に対する焼入れ測定時における前記渦流計測用センサと前記予備計測対象部品との計測距離を複数設定して、前記渦流計測用センサによって、前記測定距離毎にそれぞれの前記予備計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値としての予備計測値X0及びY方向の渦流計測値としての予備計測値Y0を、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに算出する、予備計測工程と、
前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに検出した前記予備計測値X0及び予備計測値Y0に対して、前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記予備計測値X0に対応する予備回転値X1、及び前記予備計測値Y0に対応する予備回転値Y1をそれぞれ算出し、前記位相回転処理を行う際には、前記焼入れ深さが同じであれば前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方の値が略一定となるように位相回転角を設定する、予備回転工程と、
前記予備回転工程において値が略一定となった、前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さと、の関係を示す、焼入れ深さ検量線を作成する、検量線作成工程と、
前記渦流計測用センサにおける焼入れ判別コイルによって、計測対象部品の前記計測部における検出信号を検出し、該検出信号を焼入れ渦流計測値として前記焼入れ判別コイルごとに算出する、焼入れ計測工程と、
前記渦流計測用センサにおける直交焼入れ判別コイルによって、計測対象部品の前記直立部における検出信号を検出し、該検出信号を直交焼入れ渦流計測値として前記直交焼入れ判別コイルごとに算出する、直交焼入れ計測工程と、
対応する前記焼入れ判別コイル及び前記直交焼入れ判別コイルに基づいて算出した、前記焼入れ渦流計測値及び前記直交焼入れ渦流計測値と、前記焼入れ判別基準と、を比較することにより、計測対象部品の計測部及び直立部における、焼入れ又は未焼入れの判別を行う、焼入れ判別工程と、
前記焼入れ判別工程で、全ての前記計測部及び直立部に焼入れがされていると判別された計測対象部品において、前記渦流計測用センサによって検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値x0及びY方向の渦流計測値y0を算出する、計測工程と、
前記渦流計測値x0及び渦流計測値y0を前記予備回転工程における位相回転処理と同じ位相回転角で位相回転処理を行い、回転計測値x1及び回転計測値y1を算出する、回転工程と、
前記回転計測値x1及び回転計測値y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、焼入れ深さ測定工程と、を備える、
ことを特徴とする、渦流計測方法。
【請求項9】
請求項4に記載の渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、渦流計測方法であって、
既知の焼入れ深さで焼入れされた予備計測対象部品を複数種類の焼入れ深さごとに準備し、前記予備計測対象部品に対する焼入れ測定時における前記渦流計測用センサと前記予備計測対象部品との計測距離を複数設定して、前記渦流計測用センサによって、前記測定距離毎にそれぞれの前記予備計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値としての予備計測値X0及びY方向の渦流計測値としての予備計測値Y0を、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに算出する、予備計測工程と、
前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに検出した前記予備計測値X0及び予備計測値Y0に対して、前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記予備計測値X0に対応する予備回転値X1、及び前記予備計測値Y0に対応する予備回転値Y1をそれぞれ算出し、前記位相回転処理を行う際には、前記焼入れ深さが同じであれば前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方の値が略一定となるように位相回転角を設定する、予備回転工程と、
前記予備回転工程において値が略一定となった、前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さと、の関係を示す、焼入れ深さ検量線を作成する、検量線作成工程と、
前記渦流計測用センサの前記第一検出コイルによって計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の第一渦流計測値x01及びY方向の第一渦流計測値y01をそれぞれ算出する、第一計測工程と、
前記渦流計測用センサの前記第二検出コイルによって計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の第二渦流計測値x02及びY方向の第二渦流計測値y02をそれぞれ算出する、第二計測工程と、
前記渦流計測用センサの前記第三検出コイルによって計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の第三渦流計測値x03及びY方向の第三渦流計測値y03をそれぞれ算出する、第三計測工程と、
それぞれの前記第一渦流計測値x01及び第一渦流計測値y01、前記第二渦流計測値x02及び第二渦流計測値y02、並びに、前記第三渦流計測値x03及び第三渦流計測値y03を、前記予備回転工程における位相回転処理と同じ位相回転角で位相回転処理を行い、それぞれの渦流計測値に対応する、第一回転計測値x11及び第一回転計測値y11、第二回転計測値x12及び第二回転計測値y12、並びに、第三回転計測値x13及び第三回転計測値y13を算出する、回転工程と、
前記第一回転計測値x11及び第一回転計測値y11のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品の第一検出コイルに対向する部分における焼入れ深さの測定を行う、第一焼入れ深さ測定工程と、
前記第二回転計測値x12及び第二回転計測値y12のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品の第二検出コイルに対向する部分における焼入れ深さの測定を行う、第二焼入れ深さ測定工程と、
前記第三回転計測値x13及び第三回転計測値y13のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品の第三検出コイルに対向する部分における焼入れ深さの測定を行う、第三焼入れ深さ測定工程と、を備える、
ことを特徴とする、渦流計測方法。
【請求項1】
計測対象部品に対して所定の交流励磁信号を印加するための励磁部、及び、印加された前記交流励磁信号によって計測対象部品に発生する検出信号を検出するための検出部、を備えたプローブと、前記検出信号を渦流計測値として算出するための演算部と、を具備する、渦流計測用センサであって、
前記励磁部は、第一の軸方向に軸心方向を向けて配設された第一励磁コイルと、第一の軸方向と直交する第二の軸方向に軸心方向を向けて第一励磁コイルに対して交差して配設された第二励磁コイルと、を備え、
前記検出部は、第一励磁コイルと第二励磁コイルとの二つの交差部分のうち一方に配設された検出コイルを備え、
前記検出コイルが計測対象部品の計測部に対向する姿勢で、前記プローブを前記計測対象部品に近接配置した状態で、前記第一励磁コイル及び前記第二励磁コイルのそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加え、計測対象部品における前記検出コイルに対向する部分に、第一の軸方向の第一磁界及び第二の軸方向の第二磁界を発生させるとともに、それぞれの磁界により渦電流を生じさせ、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号として前記検出コイルで検出し、前記演算部が前記検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、
ことを特徴とする、渦流計測用センサ。
【請求項2】
前記検出部は、前記検出コイルに対して第一の軸方向の片側又は両側に隣接して配設された一個又は二個の焼入れ判別コイルを備え、
前記検出コイル及び前記焼入れ判別コイルが計測対象部品の計測部に対向する姿勢で、前記プローブを前記計測対象部品に近接配置した状態で、前記第一励磁コイル及び前記第二励磁コイルのそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加え、計測対象部品における前記焼入れ判別コイルに対向する部分に、第一の軸方向及び第二の軸方向と直交する方向の磁界を発生させるとともに、前記磁界により渦電流を生じさせ、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号として前記焼入れ判別コイルで検出し、前記演算部が前記焼入れ判別コイルの前記検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ又は未焼入れの判別を行う、
ことを特徴とする、請求項1に記載の渦流計測用センサ。
【請求項3】
前記検出部は、前記焼入れ判別コイルの前記検出コイルの側とは反対側に、前記焼入れ判別コイルと直交して配設された一個又は二個の直交焼入れ判別コイルを備え、
前記検出コイル及び前記焼入れ判別コイルが計測対象部品の計測部に対向し、前記直交焼入れ判別コイルが計測対象部品の前記計測部と直交する直立部に対向する姿勢で、前記プローブを前記計測対象部品に近接配置した状態で、前記第一励磁コイル及び前記第二励磁コイルのそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加え、計測対象部品の前記直立部に、第一の軸方向の磁界を発生させるとともに、前記磁界により渦電流を生じさせ、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号として前記直交焼入れ判別コイルで検出し、前記演算部が前記焼入れ判別コイル及び前記直交焼入れ判別コイルの前記検出信号を渦流計測値として算出することにより、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ又は未焼入れの判別を行う、
ことを特徴とする、請求項2に記載の渦流計測用センサ。
【請求項4】
計測対象部品に対して所定の交流励磁信号を印加するための励磁部、及び、印加された前記交流励磁信号によって計測対象部品に発生する検出信号を検出するための検出部、を備えたプローブと、前記検出信号を渦流計測値として算出するための演算部と、を具備し、第一の軸方向に軸線を向けた柱状に形成される、渦流計測用センサであって、
前記励磁部は、第一の軸方向に軸心方向を向けて巻回された第一励磁コイルと、第一の軸方向と直交する第二の軸方向に軸心方向を向けて、第一励磁コイルに対して交差して巻回された第二励磁コイルと、第一の軸方向と直交し、第二の軸方向に対してそれぞれ等しく傾斜した方向に軸心方向を向けて、第一励磁コイルに対して交差して巻回された第三励磁コイル及び第四励磁コイルと、を備え、
前記検出部は、第一励磁コイルと第二励磁コイルとの二つの交差部分のうち一方に配設された第一検出コイルと、第一励磁コイルと第三励磁コイルとの二つの交差部分のうち第一検出コイルに隣接する側に配設された第二検出コイルと、第一励磁コイルと第四励磁コイルとの二つの交差部分のうち第一検出コイルに隣接する側に配設された第三検出コイルと、を備え、
前記第一検出コイルが計測対象部品の計測部に対向する姿勢で、前記プローブを前記計測対象部品に近接配置した状態で、前記第一励磁コイル、第二励磁コイル、第三励磁コイル、及び、第四励磁コイルのそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加え、計測対象部品に磁界を発生させるとともに、それぞれの磁界により渦電流を生じさせ、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号として前記第一検出コイル、第二検出コイル、及び、第三検出コイルで検出し、前記演算部が前記検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、
ことを特徴とする、渦流計測用センサ。
【請求項5】
計測対象部品に対して所定の交流励磁信号を印加するための励磁部、及び、印加された前記交流励磁信号によって計測対象部品に発生する検出信号を検出するための検出部、を備えたプローブと、前記検出信号を渦流計測値として算出するための演算部と、を具備する、渦流計測用センサであって、
前記励磁部は、第一の軸方向に軸心方向を向けて配設された第一励磁コイルと、第一の軸方向と直交する第二の軸方向に軸心方向を向けて第一励磁コイルに対して交差して配設された第二励磁コイルと、を備え、
前記検出部は、第一励磁コイルと第二励磁コイルとの二つの交差部分の双方に配設された二個の検出コイルを備え、
中空状の計測対象部品に挿入し、それぞれの前記検出コイルが計測対象部品の内周面に対向する姿勢で、前記プローブを前記計測対象部品に近接配置した状態で、前記第一励磁コイル及び前記第二励磁コイルのそれぞれに交流励磁信号として交流電圧を加え、計測対象部品におけるそれぞれの前記検出コイルに対向する部分に、第一の軸方向の第一磁界及び第二の軸方向の第二磁界を発生させるとともに、それぞれの磁界により計測対象部品に渦電流を生じさせ、該渦電流により発生した誘起電圧を検出信号としてそれぞれの前記検出コイルで検出し、前記演算部が前記検出信号を渦流計測値として算出し、該渦流計測値に基づいて計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、
ことを特徴とする、渦流計測用センサ。
【請求項6】
請求項1に記載の渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、渦流計測方法であって、
既知の焼入れ深さで焼入れされた予備計測対象部品を複数種類の焼入れ深さごとに準備し、前記予備計測対象部品に対する焼入れ測定時における前記渦流計測用センサと前記予備計測対象部品との計測距離を複数設定して、前記渦流計測用センサによって、前記測定距離毎にそれぞれの前記予備計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値としての予備計測値X0及びY方向の渦流計測値としての予備計測値Y0を、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに算出する、予備計測工程と、
前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに検出した前記予備計測値X0及び予備計測値Y0に対して、前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記予備計測値X0に対応する予備回転値X1、及び前記予備計測値Y0に対応する予備回転値Y1をそれぞれ算出し、前記位相回転処理を行う際には、前記焼入れ深さが同じであれば前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方の値が略一定となるように位相回転角を設定する、予備回転工程と、
前記予備回転工程において値が略一定となった、前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さと、の関係を示す、焼入れ深さ検量線を作成する、検量線作成工程と、
前記渦流計測用センサによって計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値x0及びY方向の渦流計測値y0を算出する、計測工程と、
前記渦流計測値x0及び渦流計測値y0に対して、前記予備回転工程における位相回転処理と同じ位相回転角で前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記渦流計測値x0に対応する回転計測値x1、及び渦流計測値y0に対応する回転計測値y1を算出する、回転工程と、
前記回転計測値x1及び回転計測値y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、焼入れ深さ測定工程と、を備える、
ことを特徴とする、渦流計測方法。
【請求項7】
請求項2に記載の渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、渦流計測方法であって、
焼入れ又は未焼入れが既知の焼入れ予備計測対象部品を複数準備して、前記渦流計測用センサにおける前記焼入れ判別コイルによって、それぞれの前記焼入れ予備計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号を焼入れ予備計測値として前記焼入れ判別コイルごとに算出する、焼入れ予備計測工程と、
前記焼入れ予備計測値を示す焼入れ判別基準を前記焼入れ判別コイルごとに算出する、基準算出工程と、
既知の焼入れ深さで焼入れされた予備計測対象部品を複数種類の焼入れ深さごとに準備し、前記予備計測対象部品に対する焼入れ測定時における前記渦流計測用センサと前記予備計測対象部品との計測距離を複数設定して、前記渦流計測用センサによって、前記測定距離毎にそれぞれの前記予備計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値としての予備計測値X0及びY方向の渦流計測値としての予備計測値Y0を、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに算出する、予備計測工程と、
前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに検出した前記予備計測値X0及び予備計測値Y0に対して、前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記予備計測値X0に対応する予備回転値X1、及び前記予備計測値Y0に対応する予備回転値Y1をそれぞれ算出し、前記位相回転処理を行う際には、前記焼入れ深さが同じであれば前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方の値が略一定となるように位相回転角を設定する、予備回転工程と、
前記予備回転工程において値が略一定となった、前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さと、の関係を示す、焼入れ深さ検量線を作成する、検量線作成工程と、
前記渦流計測用センサにおける焼入れ判別コイルによって、計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号を焼入れ渦流計測値として前記焼入れ判別コイルごとに算出する、焼入れ計測工程と、
対応する前記焼入れ判別コイルに基づいて算出した、前記焼入れ渦流計測値と、前記焼入れ判別基準と、を比較することにより、計測対象部品における、焼入れ又は未焼入れの判別を行う、焼入れ判別工程と、
前記焼入れ判別工程で、全ての焼入れ判別部位に焼入れがされていると判別された計測対象部品において、前記渦流計測用センサによって検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値x0及びY方向の渦流計測値y0を算出する、計測工程と、
前記渦流計測値x0及び渦流計測値y0に対して、前記予備回転工程における位相回転処理と同じ位相回転角で前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記渦流計測値x0に対応する回転計測値x1、及び渦流計測値y0に対応する回転計測値y1を算出する、回転工程と、
前記回転計測値x1及び回転計測値y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、焼入れ深さ測定工程と、を備える、
ことを特徴とする、渦流計測方法。
【請求項8】
請求項3に記載の渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、渦流計測方法であって、
計測部と、該計測部と直交する直立部と、を有し、焼入れ又は未焼入れが既知の焼入れ予備計測対象部品を複数準備して、前記渦流計測用センサにおける前記焼入れ判別コイル及び前記直交焼入れ判別コイルによって、それぞれの前記焼入れ予備計測対象部品の計測部及び直交部における検出信号を検出し、該検出信号を焼入れ予備計測値として前記焼入れ判別コイル及び前記直交焼入れ判別コイルごとに算出する、焼入れ予備計測工程と、
前記焼入れ予備計測値を示す焼入れ判別基準を前記焼入れ判別コイル及び前記直交焼入れ判別コイルごとに算出する、基準算出工程と、
既知の焼入れ深さで焼入れされた予備計測対象部品を複数種類の焼入れ深さごとに準備し、前記予備計測対象部品に対する焼入れ測定時における前記渦流計測用センサと前記予備計測対象部品との計測距離を複数設定して、前記渦流計測用センサによって、前記測定距離毎にそれぞれの前記予備計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値としての予備計測値X0及びY方向の渦流計測値としての予備計測値Y0を、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに算出する、予備計測工程と、
前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに検出した前記予備計測値X0及び予備計測値Y0に対して、前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記予備計測値X0に対応する予備回転値X1、及び前記予備計測値Y0に対応する予備回転値Y1をそれぞれ算出し、前記位相回転処理を行う際には、前記焼入れ深さが同じであれば前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方の値が略一定となるように位相回転角を設定する、予備回転工程と、
前記予備回転工程において値が略一定となった、前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さと、の関係を示す、焼入れ深さ検量線を作成する、検量線作成工程と、
前記渦流計測用センサにおける焼入れ判別コイルによって、計測対象部品の前記計測部における検出信号を検出し、該検出信号を焼入れ渦流計測値として前記焼入れ判別コイルごとに算出する、焼入れ計測工程と、
前記渦流計測用センサにおける直交焼入れ判別コイルによって、計測対象部品の前記直立部における検出信号を検出し、該検出信号を直交焼入れ渦流計測値として前記直交焼入れ判別コイルごとに算出する、直交焼入れ計測工程と、
対応する前記焼入れ判別コイル及び前記直交焼入れ判別コイルに基づいて算出した、前記焼入れ渦流計測値及び前記直交焼入れ渦流計測値と、前記焼入れ判別基準と、を比較することにより、計測対象部品の計測部及び直立部における、焼入れ又は未焼入れの判別を行う、焼入れ判別工程と、
前記焼入れ判別工程で、全ての前記計測部及び直立部に焼入れがされていると判別された計測対象部品において、前記渦流計測用センサによって検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値x0及びY方向の渦流計測値y0を算出する、計測工程と、
前記渦流計測値x0及び渦流計測値y0を前記予備回転工程における位相回転処理と同じ位相回転角で位相回転処理を行い、回転計測値x1及び回転計測値y1を算出する、回転工程と、
前記回転計測値x1及び回転計測値y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、焼入れ深さ測定工程と、を備える、
ことを特徴とする、渦流計測方法。
【請求項9】
請求項4に記載の渦流計測用センサを用いて、計測対象部品における焼入れ深さの測定を行う、渦流計測方法であって、
既知の焼入れ深さで焼入れされた予備計測対象部品を複数種類の焼入れ深さごとに準備し、前記予備計測対象部品に対する焼入れ測定時における前記渦流計測用センサと前記予備計測対象部品との計測距離を複数設定して、前記渦流計測用センサによって、前記測定距離毎にそれぞれの前記予備計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の渦流計測値としての予備計測値X0及びY方向の渦流計測値としての予備計測値Y0を、前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに算出する、予備計測工程と、
前記焼入れ深さ及び前記計測距離ごとに検出した前記予備計測値X0及び予備計測値Y0に対して、前記XY座標平面における位相回転処理を行い、前記予備計測値X0に対応する予備回転値X1、及び前記予備計測値Y0に対応する予備回転値Y1をそれぞれ算出し、前記位相回転処理を行う際には、前記焼入れ深さが同じであれば前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方の値が略一定となるように位相回転角を設定する、予備回転工程と、
前記予備回転工程において値が略一定となった、前記予備回転値X1と予備回転値Y1のうち何れか一方と、前記焼入れ深さと、の関係を示す、焼入れ深さ検量線を作成する、検量線作成工程と、
前記渦流計測用センサの前記第一検出コイルによって計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の第一渦流計測値x01及びY方向の第一渦流計測値y01をそれぞれ算出する、第一計測工程と、
前記渦流計測用センサの前記第二検出コイルによって計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の第二渦流計測値x02及びY方向の第二渦流計測値y02をそれぞれ算出する、第二計測工程と、
前記渦流計測用センサの前記第三検出コイルによって計測対象部品における検出信号を検出し、該検出信号よりXY座標平面におけるX方向の第三渦流計測値x03及びY方向の第三渦流計測値y03をそれぞれ算出する、第三計測工程と、
それぞれの前記第一渦流計測値x01及び第一渦流計測値y01、前記第二渦流計測値x02及び第二渦流計測値y02、並びに、前記第三渦流計測値x03及び第三渦流計測値y03を、前記予備回転工程における位相回転処理と同じ位相回転角で位相回転処理を行い、それぞれの渦流計測値に対応する、第一回転計測値x11及び第一回転計測値y11、第二回転計測値x12及び第二回転計測値y12、並びに、第三回転計測値x13及び第三回転計測値y13を算出する、回転工程と、
前記第一回転計測値x11及び第一回転計測値y11のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品の第一検出コイルに対向する部分における焼入れ深さの測定を行う、第一焼入れ深さ測定工程と、
前記第二回転計測値x12及び第二回転計測値y12のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品の第二検出コイルに対向する部分における焼入れ深さの測定を行う、第二焼入れ深さ測定工程と、
前記第三回転計測値x13及び第三回転計測値y13のうち何れか一方と、前記焼入れ深さ検量線と、の関係から、計測対象部品の第三検出コイルに対向する部分における焼入れ深さの測定を行う、第三焼入れ深さ測定工程と、を備える、
ことを特徴とする、渦流計測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−2705(P2012−2705A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138787(P2010−138787)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(505009519)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(505009519)
【Fターム(参考)】
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