説明

渦電流センサ、研磨装置、めっき装置、研磨方法、めっき方法

【課題】渦電流センサが配置される周囲構造物の材料に影響されることなく、簡単な構成で高感度で且つ安定して導電性膜厚を検出できる渦流センサ及び該渦電流センサを提供すること。
【解決手段】導電性膜が形成された基体の近傍に配置されたセンサコイルを備え、該センサコイルに交流電流を通電することにより、前記導電性膜に渦電流を誘起し、該渦電流により発生する磁束変化をセンサコイルに誘起される誘起電圧により検出して前記導電性膜の膜厚を測定する渦電流センサにおいて、センサコイル21、22、23はセンサヘッド24に配置されており、センサコイル21、22、23はそれぞれA側とB側の一対のコイルからなり、一対のコイルの各コイルに通電した際に、センサヘッド24の一方のコイル周囲を周回する電流Iaが、他方のコイル周囲を周回する電流Ibと絶対値が同じで流れの向きが逆になるように配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦電流センサに係り、特に半導体ウエハ等の基板の表面に形成した導電性膜の膜厚等を検出するのに好適な渦電流センサ、該渦電流センサを備えた研磨装置、めっき装置、研磨方法、めっき方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
渦電流センサの考え方の基本は、交流磁界を生成する励磁コイルを備えている。通常、効率よく交流磁界を発生させるために電気回路の共振現象を利用している。抵抗(R)、インダクタンス(L)、コンデンサ(C)の直列回路からなる直列共振現象は、よく知られているとおり、共振周波数における直列回路のインピーダンスZは、Z=Rとなり、小さい交流電圧Eで最大の交流電流Iを励磁コイルに通電することができる。なお、本明細書及び図面では渦電流センサ等の構造を電気的等価回路に置き換えて論述している。式及び計算は、記号法を使用しているので、本来は式の記号の頭にドット(・)を付け、記号法表記(正弦波交流を表すのに瞬時値ではなく、大きさと位相を表現したベクトル表示)であることを示すところであるが、本明細書及び図面ではドット(・)の表示を省略する。
Z=R+j(ω×L)−{1/(ω×C)}・・・・・・・・・・・・(1)
ω:駆動電圧周波数[Hz]
j:複素数成分を示す記号
【0003】
駆動電圧周波数ωを0〜∞まで変化させたとき、インピーダンス値が最小となるZは、式(1)の右辺2項=0のときとなる。そのとき駆動電圧周波数ω0、インダクタンスL0、コンデンサC0の関係式は(2)式となる。
ω0=1/SQRT(L0×C0)・・・・・・・・・・・・・・・・(2)
そのとき、周波数ω0で駆動できる電流は、(3)式となる。
0=E/R・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
【0004】
発生する磁界(磁束)φは、電流Iに比例する。
φ=(μ×A×N×I)/Lg・・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
μ:透磁率
A:磁路断面積
N:コイルの巻数
g:磁路長
【0005】
この磁界φ内に被検出体が進入すると電磁誘導現象により被検出体側に誘導起電圧Vが発生し二次電流ITが流れる(この二次電流を渦電流と呼び、渦電流センサと呼ばれるものがある。)。
V=NT×(Δφ/Δt)=−LT×(ΔIT/Δt)・・・・・・・(5)
T=V/ZT・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(6)
T:二次回路のコイル巻数
T:二次回路のインダクタンス
T:被検出体側のインピーダンス
【0006】
そのため、励磁コイルの励磁源から見たインピーダンスZは、相互インダクタンスの項が現われ(無視できなくなり)増加することになる。そのため、励磁回路の共振周波数が変化し、駆動交流電流Iの大きさと位相(交流電圧Eに対する)が変化することになる(励磁周波数は変わらない)。従って、磁界φの大きさと位相が変化する。この変化を何で検出するかによって検出方法、呼び方に種類がある。(起電力形、インピーダンス変化形など)
【0007】
例えば、この変化を第2のコイルを備え、該第2のコイルに誘導される誘導電圧によって検出する方法が用いられている。被検出体の影響を顕著に検出するため定常状態の誘導電圧成分をキャンセル(バランス)させるために第3のコイルを備え、第2と第3のコイル両端に発生する誘導電圧の差を検出するとよいとされている。この検出した電位変化を励磁電圧周波数基準で検波し大きさと位相を得て終点検知や膜厚検出をしている。演算により実数部と虚数部を求め終点検知や膜厚検出を管理することもある。
【0008】
研磨テーブル、基板保持具を備え、回転する研磨テーブルの研磨面に回転する基板保持具で保持する被研磨基板を押圧して、被研磨基板と研磨テーブルの研磨面の相対的運動により被研磨基板を研磨する研磨装置(CMP装置)においては、上記膜厚検出器は研磨テーブルに埋め込み固定されている。この研磨テーブルの材質には、アルミニウム、ステンレス、アルミナ、炭化珪素(SiC)などが使われている。特に研磨テーブルの温度制御性を必要とする場合には、アルミニウムや炭化珪素(SiC)を使用し冷却水を通水するなどしている。また、熱容量の大きいステンレスを使用することもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−106805号公報
【特許文献2】特公表2003−534649号公報
【特許文献3】特開2005−11977号公報
【特許文献4】特開昭55−43420号公報
【特許文献5】特開昭61−151402号公報
【特許文献6】特開平05−231809号公報
【特許文献7】特開2007−263981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、渦電流センサに対して、比較的高い固有抵抗材質や良導体薄膜の終点検知や膜厚検出の性能向上の観点から、下記のことが要望されている。
1)感度向上
2)ロバスト性向上(高感度化に伴う外乱排除)
【0011】
上記課題の明確化のために渦電流センサの簡単なモデル式を以下に示す。なお、ここでは静電容量成分を省略している。
0=R0+jωL0+(ω2×M0T2/(Rt+jωLt))・・・・・・・・(7)
0:励磁源インピーダンス[Ω]
0:励磁源抵抗[Ω]
0:励磁源インダクタンス[H]
ω:励磁周波数[rad/sec]
T:被検出体側の二次回路抵抗[Ω]
T:被検出体側の二次回路インダクタンス[H]
0T:励磁コイルと二次回路の相互インダクタンス[H]
式(7)の右辺第三項が被検出体の影響になる。
【0012】
図1は渦電流センサの簡単なモデルを示す。図1(a)に示す回路方程式をベクトル表示で示すと、
(jωL0+R0)I0+jωMI2=E0
(jωLT+RT)I2+jωMI1=0
となり、下記のように変形できる。
〔R0+jω(L0−M)〕I0+jωM(I0+IT)=E0
jωM(I0+IT)+〔RT+jω(LT−M)I2〕=0
上記方程式は、図1(b)に示す回路方程式と同じである。
【0013】
図1(a)、(b)に示す回路の合成インピーダンスは、
0=R0+jω(L0−M)
+1/{jωM+jω(LT−M)+RT}/〔jωM×{jω(LT−M)+RT}〕
=R0+jωL0−jωM)
+〔jωM×(jωLT+RT)+ω22〕/(RT+jωLT
=R0+jωL0
+{−jωM(RT+jωLT)+jωM(RT+jωLT)+ω22
/(RT+jωLT
=R0+jωL0+{ω22/(RT+jωLT)}
となり、被検出体の影響を含んだ励磁源から見たインピーダンスとなる。第3項も実数と虚数に別けると
(RT−jωLT)ω22/{(RT+jωLT)(RT−jωLT)}
=(ω22T−jωω22T)/(RT2+ω2T2
となり、
0=R0+{(ω22)/(RT2+ω2T2)}RT
+jω〔L0−{(ω22)/(RT2+ω2T2)}LT
【0014】
従って、検出感度を向上させるには、下記1)〜4)の方法がある。
1) 式(4)より、
磁界φを大きくする必要がある。そのために、励磁源インダクタンスL0、励磁コイル巻数N0、駆動電源電流I0を増やす選択肢がある。但し、下記のようなデメリットもある。
・励磁コイル巻数N0を増やし、励磁源インダクタンスL0を増大すると、直列共振周波数ωに影響がある。式(1)の右辺第2項=0を満足するには、L0を増大すると、静電容量Cを小さく必要がある。静電容量Cを小さくできない場合には、励磁周波数ωを小さくする必要がある。励磁周波数ωを小さくすると後述するとおり感度の低下をまねく。そのため静電容量Cを小さくする工夫が必要となる。しかし、静電容量Cは、高周波回路になると線間容量や周囲物体との容量も無視できないことが多く、励磁コイルの巻数N0を増やしたことでも静電容量Cが増加することもある。
・駆動電源電圧E0を上げ、駆動電源電流I0を増やす。すると電源系のサイズ増加や消費電力の増加、駆動電源電流I0の増加による発熱の増加が定性的デメリットとしてある。従って、これらのことにも留意する必要がある。
【0015】
2) 上記1)項のデメリットより、
励磁コイル回路の線間容量の削減や有効な磁界φに寄与しないインダクタンス成分の削減。例えば、無駄な配線長さの削減など。この効果分を有効な励磁源インダクタンスL0の増加、直列共振周波数の上昇に振当てる選択肢がある。
【0016】
3) 上記式(5)より、
検出コイルの巻数やコイル径を増し、インダクタンスを増加する。この場合のデメリットは、励磁コイルとの電磁気的結合があるので励磁コイルの駆動電源から見た負荷=回路インピーダンスに検出コイル系との相互インダクタンス成分が加わる。従って、仮に同じ周波数での電流を流そうとした場合には、その大きさと位相に影響を与えることになる。
【0017】
4) 上記式(7)の右辺第3項より、
励磁周波数ωを大きくする(但し、被検出体側のインピーダンス増加への影響もあり)と励磁コイルと二次回路間の相互インダクタンスM0Tを増やす選択肢がある。
ここで、
0T=SQRT(L0×LT)×k・・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
k:結合係数(=0〜1)、励磁コイルと被検出体との距離にも比例する。従って、励磁コイルを被検出体に近づけるという選択肢もある。
【0018】
しかしながら、上記に挙げた選択肢の多くは、感度向上=被検出体以外の周囲の影響も顕著に検出できることを意味している。そのため、比較的高い固有抵抗材質や良導体薄膜の終点検知や膜厚検出の性能向上には、ロバスト性向上(検出センサ側としては)も重要な課題であることが分かる。従来、このロバスト性向上に対しては、周辺環境の工夫により検出感度や検出信号への影響を改善して相対的に安定性を確保してきた。例えば、渦電流センサでは、性能を最大限に引き出す条件としてセンサ周辺を検出ヘッド径の何倍かを空間とすることを推奨している。また、アルミナなどの高抵抗素材とすることもある。
【0019】
検出感度の向上の一つの選択肢として励磁周波数の増加を挙げたが、実際には、交流電流の表皮効果の影響もあるため注意深く設計する必要がある。例えば、コイルの抵抗値Rは、中実の銅線を用いていても励磁周波数によっては中空の銅線と等価な抵抗値を示す。これは、励磁周波数が高くなると表皮深さが薄くなり電流密度の高い領域がコイル線の表面付近のみとなるためである。LCR直列共振回路(反共振特性)を利用しても抵抗Rが増加すれば、励磁電流は減少し、磁界φは減少することになる。従って検出感度へ影響がでる。そのため、コイル線径を励磁電流周波数に合わせて適切な太さを選択すること必要である。
【0020】
また、被検出体の厚さの上限値tmaxと励磁周波数と材質特性から算出される渦電流の表皮深さδとは、tmax≦δとなるように選択する。なお、本願のコイル形状による効果は、励磁周波数の値によらずその効果を発揮する。従って、実施例の励磁周波数は、一例でありその値に限定されるものではない。
【0021】
渦電流センサの周囲導体の影響を下記に説明する。
先ず、従来の渦電流センサの一例を図面を用いて説明する。
〔励磁コイル、検出コイルの周囲に導体がある場合〕
・励磁コイルに注目
図2(a)に示すように、励磁コイル101に励磁電圧E0の励磁交流電源から励磁電流I0を流すと磁束φが発生する。励磁コイル101の近傍に周囲導体102が存在すると、図2(c)に示すように、周囲導体102内に二次電流が発生し、励磁コイル101のインピーダンスZ0が大きくなる。そのため励磁電圧E0一定でも励磁コイル101を駆動する励磁電流I0=E0/Z0は小さくなり、励磁電流I0によって発生する磁界φが小さくなる。被検出体より周囲導体102との距離が近いので、相互誘導の結合力は、周囲導体102側が支配的となる。従って、被検出体の影響によりΔI0、Δφが小さくなり、検出感度が低下する。そのため、一般的にコイル周囲を空間とするか、高抵抗物質としている。図2(b)において、103は周囲導体102の電気等価回路をRとLの直列回路で表している。
【0022】
・検出コイルに注目
図3は、励磁コイル101のインダクタンスL0、検出コイル105のインダクタンスL1、被検出体の等価回路モデルLt、Rt、検出コイル105の周囲導体102による等価回路L、Rを示している。図3に示すように、検出コイル105の近傍に周囲導体102が存在すると、それをRとLの電気等価回路103で示すことができる。励磁電源からみた励磁コイルのインピーダンスZ0が高く(大きく)なり、発生する磁界φが低下(小さく)する。また、RT+jωLT(被検出体)の影響よりもR+jωL(周囲導体)の影響が大きい(距離が近い方が相互誘導の結合力が大きいため)。よって、RT+jωLTによるΔφ/Δtが減少し、検出感度が低下する(検出コイル105の両端電圧V1が小さくなる)。
【0023】
研磨装置(CMP装置)において、渦電流センサが研磨テーブルに固定されている。研磨テーブルの構成材料としては、アルミニウム、ステンレス、アルミナ、炭化珪素(SiC)等が使われている。特に研磨テーブルの温度制御を必要とする場合には、アルミニウムや炭化珪素(SiC)を使用し冷却水を通水するなどしている。また、熱容量の大きいステンレスを使用することもある。そのため、研磨テーブルの構成材料にアルミニウムやステンレスを使いたい場合には、渦電流センサ周辺を電気抵抗の高い別ピース部材を挿入して囲む必要がありデメリットとなる。そのため研磨テーブルの構成材料として炭化珪素(SiC)やアルミナなどの選択肢がある。アルミナを選択した場合には、研磨プロセスによる発熱量を除去する工夫が必要となる。そのため、炭化珪素(SiC)を選択する場合が多い。しかしながら、炭化珪素(SiC)は、セラミックスの中では電気抵抗の低い材質であり、今後、渦電流センサの高感度化を進める上で無視できない材質となってくる。
【0024】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、渦電流センサが配置される周囲構造物の材料に影響されることなく、簡単な構成で高感度で且つ安定して導電性膜厚を検出できる渦電流センサ、該渦電流センサを備えた研磨装置、めっき装置、研磨方法、めっき方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記課題を解決するため本発明は、導電性膜又は導電性膜が形成された基体の近傍に配置されたセンサコイルを備え、該センサコイルに交流電流を通電することにより、導電性膜に渦電流を誘起し、該渦電流により発生する磁束変化をセンサコイルに誘起される誘起電圧により検出して導電性膜の膜厚を測定する渦電流センサにおいて、センサコイルはセンサヘッドに配置されており、センサコイルは少なくとも一対のコイルからなり、一対のコイルを各コイルに通電した際に、センサヘッドの一方のコイル周囲を周回する電流が、他方のコイル周囲を周回する電流と絶対値が同じで流れの向きが逆になるように配置したことを特徴とする。
【0026】
また、本発明は、上記渦電流センサにおいて、センサコイルは、一対のコイルからなる励磁用コイルと、一対のコイルからなる少なくとも1つの検出用コイルを具備することを特徴とする。
【0027】
また、本発明は、上記渦電流センサにおいて、センサヘッドの所定位置に励磁用コイルを配置し、該励磁用コイルの上下に検出用コイルを配置し、一方の検出用コイルを他方の検出用コイルの定常状態の誘導電圧を打ち消すバランスコイルとしたことを特徴とする。
【0028】
また、本発明は、上記渦電流センサにおいて、励磁用コイルの一対のコイルは、同じコイルを左右対称に配置したことを特徴とする。
【0029】
また、本発明は、上記渦電流センサにおいて、検出用コイルの一対のコイルは、同じコイルを左右対称に配置したことを特徴とする。
【0030】
また、本発明は、上記渦電流センサにおいて、励磁用コイルの一対のコイルは、平面8の字状に形成されたコイルであることを特徴とする。
【0031】
また、本発明は、上記渦電流センサにおいて、検出用コイルの一対のコイルは、平面8の字状に形成されたコイルであることを特徴とする。
【0032】
また、本発明は、上記渦電流センサにおいて、平面8の字状に形成されたコイルの交差部の開き角度は90°であることを特徴とする。
【0033】
また、本発明は、上記渦電流センサにおいて、センサヘッドは絶縁体材料で構成されていることを特徴とする。
【0034】
また、本発明は、導電膜が形成された基板を研磨する研磨装置において、基板の導電膜の膜厚を検出する膜厚検出センサとして、上記渦電流センサのいずれかを備えたことを特徴とする。
【0035】
また、本発明は、導電膜を形成するめっき装置において、基板に形成される導電膜の膜厚を検出する膜厚検出センサとして、上記渦電流センサのいずれかを備えたことを特徴とする。
【0036】
また、本発明は、導電膜が形成された基板の該導電膜の膜厚を膜厚センサで監視しながら該導電膜を研磨する研磨方法において、膜厚センサとして上記渦電流センサのいずれかを用いたことを特徴とする。
【0037】
また、本発明は、基板の表面に形成される導電膜の膜厚を膜厚センサで監視しながら、該導電膜を形成するめっき方法において、膜厚センサとして上記渦電流センサのいずれかを用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0038】
本発明は、センサコイルはセンサヘッドに配置されており、センサコイルは少なくとも一対のコイルからなり、一対のコイルを各コイルに通電した際に、センサヘッドの一方のコイル周囲を周回する電流が、他方のコイル周囲を周回する電流と絶対値が同じで流れの向きが逆になるように配置したので、渦電流センサの配置されている周囲構造物の材料に影響されることなく、簡単な構成で高感度で且つ安定して導電性膜厚を検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】渦電流センサの簡単なモデルを示す図である。
【図2】図2は従来の渦電流センサの概略構成例を示す図である。
【図3】図3は従来の渦電流センサの概略構成例を示す図である。
【図4】図4は本発明の先行技術である渦電流センサのコイル構成と動作を説明する図である。
【図5】図5は励磁源インピーダンスZ0の複素平面でのベクトル軌跡を示す図である。
【図6】図6は励磁源インピーダンスZ0と被検出体抵抗RTの関係を示す図である。
【図7】図7は励磁源インピーダンスZ0の複素平面でのベクトル軌跡を示す図である。
【図8】図8は図4に示す渦電流センサのコイルの動作を説明するための図である。
【図9】図9は励磁源インピーダンスZ0の複素平面でのベクトル軌跡を示す図である。
【図10】図10は励磁源インピーダンスZ0の複素平面でのベクトル軌跡を示す図である。
【図11】図11は検出コイルを含むZ0とRTの関係の一例を示す図である。
【図12】図12は実施例1に係る渦電流センサの概略構成例を示す図である。
【図13】図13は図12に示す渦電流センサの動作を説明するための変形例を示す図である。
【図14】図14は図13に示す渦電流センサの等価回路を示す図である。
【図15】図15は図14の等価回路を2つの等価回路に分けた図である。
【図16】図16は実施例1に係る渦電流センサの概略構成例を示す図である。
【図17】図17は図16の渦電流センサを用いる渦電流センサシステムのシステム構成例を示す図である。
【図18】図18は実施例2に係る渦電流センサの概略構成例を示す図である。
【図19】図19は実施例3に係る渦電流センサの概略構成例を示す図である。
【図20】図20は実施例4に係る渦電流センサの概略構成例を示す図である。
【図21】図21は実施例5に係る渦電流センサの概略構成例を示す図である。
【図22】図22は導電膜膜厚センサに本発明に係る渦電流センサを用いる基板研磨装置の要部構成例を示す図である。
【図23】図23は基板めっき装置の概略構成を示す図である。
【図24】図24は図23に示す基板めっき装置に導電膜膜厚センサとして従来の渦電流センサを用いた基板めっき装置の概略構成を示す図である。
【図25】図25は図23に示す基板めっき装置に導電膜膜厚センサとして本発明に係る渦電流センサを用いた基板めっき装置の概略構成を示す図である。
【図26】図26は駆動電源側から見た渦電流センサのインピーダンスの座標の円軌跡を示す図である。
【図27】図27は導電性膜と渦電流センサ20との間のギャップを変化させた場合のインピーダンス座標面における円軌跡の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。図4は本発明に係る渦電流センサに先行する特許文献1に記載されている渦電流センサのセンサコイルの構成例を示す図である。本渦電流センサは、被検出体(導電性膜)の影響を顕著に検出するために、定常状態の誘導電圧成分をキャンセル(バランス)させるために、図4(a)に示すように、第1のコイル(励磁コイル)11の両側(図では上下側)に第1検出コイル12と第2検出コイル13を設け、第1検出コイル12と第2検出コイル13の両端に発生する誘導電圧の差を差電圧検出回路14で検出するように構成している。励磁コイル11、第1検出コイル12、第2検出コイル13はセンサヘッド15に保持されている。図4(b)は本渦電流センサの回路構成を示す図である。
【0041】
上記式(7)で示す第1のコイル(励磁コイル)11の駆動電源E0から見たインピーダンスZ0は、
0=R0+jωL0+(ω2OT2)/(RT+jωLT
=R0+(ω20T2T)/(RT2+ω2T2
+jω〔L0−(ω20T2T)/(RT2+ω2T2)〕
0T=(L0T1/2,k=0〜1=(M0T)/(L0T1/2
Tが0〜∞に変化したときのZ0は、
0(RT=0)=R0+jωL0+(ω20T2)/(0+jωLT
=R0+jω(L0−M0T2/LT
【0042】
0T2=L0T2とおくと、Z0=R0+jωL0(1−k2)となる。
結合係数kは、励磁コイルと被検出体との距離に反比例する。
k=1のとき、Z0=R0
k=0のとき、Z0=R0+jωL0
0(RT=∞)=R0+jωL0+(ω20T2)/(∞+jωLT
=R0+jωL0
複素平面でインピーダンスZ0のベクトルの軌跡を表すと図5に示すようになる。
【0043】
図5のZ0ベクトル軌跡は、式(7)で容量成分を省略したため実数部Re−虚数部Im平面の第一象限の軌跡となる。このZ0ベクトル軌跡を利用して被検出体を検出する場合の特徴は、下記1)〜3)となる。
1)検出感度を大きくする=軌跡の円弧を大きくする=L0を大きくする。
2)被検出体が無い状態でZ0が最大。そのため、所定の電流I0を流すための電圧E0が相対的に大きな値が必要となる。
3).被検出体抵抗:RT=0のとき、Z0は最小となり、そのとき最大電流が流れることになる。
【0044】
また、具体的な回路パラメータを使い計算すると重要な特徴が浮き彫りになる。図6はZ0とRTの関係を示す図である。図6に示す通り、各kでのZ0ベクトル軌跡の同一RTプロットは、直線上にのることが分かる。結合係数kは、センサヘッドと被検出体間の距離に反比例する。しかし、この距離が変化しても同上直線とZ0(Im)軸との角度を計測すれば、被検出体側の二次回路抵抗RTを同定することができることがわかる。被検出体側の膜厚は、被検出体の二次回路抵抗RTに反比例することが分かっているから、センサヘッドと被検出体間の距離変動にロバストな膜厚計測ができることを示している。
【0045】
続いて、上記特徴2)、3)の対策として、励磁周波数での初期励磁源インピーダンスZ0を小さくするためにLCR直列共振回路特性を利用する場合がある。この場合には、式(7)に容量成分項:−j(1/ωC)を加えることになる。
0=R0+jωL0+(ω20T2)/(RT+jωLT)−j1/ωC
=R0+〔(ω20T2)/(RT2+ω2T2)〕RT
+j〔ωL0−ω{(ω20T2)/(RT2+ω2T2)}LT−1/ωC〕
・・・(8)
0(RT=0)=R0+0+j〔ωL0−ω(M0T2)/(LT)〕−1/ωC〕
0T=(LT01/2kとおくと、
0=R0+j〔ωL0−ωL02−1/ωC〕
k=1のとき、
0=R0−j1/ωC
となる。ここで注目する点は複素(Re−Im)平面の第四象限ベクトルの成分であり、Cが小さいほど軌跡円弧大となることである。
【0046】
続いて、RT=∞では、
0(RT=∞)=R0+0+j〔ωL0−0−1/ωC〕
=R0+j(ωL0−1/ωC)
ここで注目する点は、Z0(RT=∞)はkに依存しないことである。ω=1/(L0C)1/2より、
C=1/ω20
0=R0+j(ωL0−ω20/ω)=R0
となる。このベクトル軌跡を図7に示す。ここで注目する点は、図7に示すように、全てのZ0はZ0=R0に収束し、初期状態のインピーダンスZ0は最小値となることである。
【0047】
上記Z0のベクトル軌跡を利用して被検出体を検出する場合の特徴は、下記1)、2)となる。
1)検出感度を大きくする=軌跡の円弧を大きくする=Cを小さくする。言い換えれば、L0を大きくすることを意味している。
2)被検出体抵抗:RT=∞のとき、つまり初期状態(被検出体無しの状態)でZ0最小となり、そのとき最大電流が流れることになる。
【0048】
上記インピーダンスZ0の変化を何で検出するかによって検出方法、呼び方に種類がある。その一つが図4に示す構成の渦電流センサである。図4に示す構成の渦電流センサを図8を用いて整理する。励磁コイル11の両側(図では上下側)に第1検出コイル12と第2検出コイル13が配置されている。第1検出コイル12に誘起される誘起電圧V1=−N1(Δφ/Δt)、第2検出コイル13に誘起される電圧V2=−N2(Δφ/Δt)とし、電位の基準(接地側)を第1検出コイル12はコイルの下側、第2検出コイル13ではコイルの上側としている。第1検出コイル12の誘起電圧V1と第2検出コイル13の誘起電圧V2は反対にしている。よって、誘起電圧V1と誘起電圧V2の電位変位を観察すると定常状態からのΔφ分を検出できる。
【0049】
一定電圧E0で励磁コイル11を駆動した場合の励磁電流I0は、インピーダンスZ0の変化により変化する。励磁電流I0により発生する磁束φは、励磁電流I0に比例する。磁束φは、周波数ωの交番磁束であるから、第1検出コイル12、第2検出コイル13の両端には、電磁誘導現象により誘起電圧V1、V2が発生する。初期状態(RT=∞、或いは被検出体が無い)での起電力成分をキャンセルさせ、初期状態からの変化を観測しやすくするため第1検出コイル12と第2検出コイル13の2つの検出コイルを用いている。
【0050】
次に、上記第1検出コイル12と第2検出コイル13の影響を説明するために、図4の第1検出コイル12と第2検出コイル13、円筒状センサヘッド15の周囲を筒状の周囲部材で囲まれた場合の成分をモデルに置き換え、式(8)に追加する。
0=R0+jωL0
+(ω20T2)/(RT+jωLT
+(ω2012)/(R1+jωL1
+(ω2022)/(R2+jωL2
+(ω20m2)/(Rm+jωLm)−j1/ωC・・・・・・・・(9)
【0051】
ここで、(ω20T2)/(RT+jωLT)は被検出体成分で、(ω2012)/(R1+jωL1)は第1検出コイル12の成分、(ω2022)/(R2+jωL2)は第2検出コイル13の成分、(ω20m2)/(Rm+jωLm)は周囲部材の成分である。そしてそれぞれ、
(ω20T2)/(RT+jωLT)=(ω20T2)(RT−jωLT)/(RT2+ω2T2
(ω2012)/(R1+jωL1)=(ω2012)(R1−jωL1)/(R12+ω212
(ω2022)/(R2+jωL2)=(ω2022)(R2−jωL2)/(R22+ω222
(ω20m2)/(Rm+jωLm)=(ω20m2)(Rm−jωLm)/(Rm2+ω2m2
となる。
【0052】
従って、式(9)の実数部Re、虚数部Imはそれぞれ、
Re) (ω20T2T)/(RT2+ω2T2
+(ω20121)/(R12+ω212
+(ω20222)/(R22+ω222
+(ω20m2m)/(Rm2+ω2m2)+R0
Im) −jω〔(ω20T2T)/(RT2+ω2T2
+(ω20121)/(R12+ω212
+(ω20222)/(R22+ω222
+(ω20m2m)/(Rm2+ω2m2)〕−j1/ωC+jωL0
となる。
【0053】
0(RT=0)=R0+0+〔(ω2012)/(R12+ω212)〕R1
+〔(ω2022)/(R22+ω222)〕R2
+〔(ω20m2)/(Rm2+ω2m2)〕Rm
+j〔ωL0−ω{(ω20T2)/(0+ω2T2)}LT
−ω{(ω2012)/(R12+ω212)}L1
−ω{(ω2022)/(R22+ω222)}L2
−ω{(ω20m2)/(Rm2+ω2m2)}Lm−1/(ωC)〕
【0054】
ここでRm≒∞(周囲部材の材質を絶縁体)とする。Cは第1検出コイル12、第2検出コイル13を含んだ励磁源から見た成分(RT=∞)とωより設定するから、
L=Z0(Im)/ω=L0−〔(ω2012)/(R12+ω212)〕L1
−〔(ω2022)/(R22+ω222)〕L2
C=1/(ω2L)より、1/ωC=ωL
0Tは第1検出コイル12、第2検出コイル13を含んだLとLTとの相互インダクタンスとし、M0T=(LLT1/2kとおくと、
【0055】
0=R0+0+〔(ω2012)/(R12+ω212)〕R1
+〔(ω2022)/(R22+ω222)〕R2+0
+j〔ωL0−ω{(ω2LLT2)/(0+ω2T2)}LT
−ω{(ω2012)/(R12+ω212)}L1
−ω{(ω2022)/(R22+ω222)}L2−ωL〕
0(Im)成分は、−jωLk2=−jω〔−L0+{(ω2012)/(R12+ω212)}L1+{(ω2022)/(R22+ω222)}L2〕k2
k=1のとき、
0=R0+〔(ω2012)/(R12+ω212)〕R1
+〔(ω2022)/(R22+ω222)〕R2
−jω〔−L0+{(ω2012)/(R12+ω212)}L1+{(ω2022)/
(R22+ω222)}L2
ここで注目すべき点は複素(Re−Im)平面の第四象限ベクトルの成分であり、そのベクトルの絶対値(大きさ)が検出コイルの影響分大きくなることである。
【0056】
0(RT=∞)=R0+0+〔(ω2012)/(R12+ω212)〕R1
+〔(ω2022)/(R22+ω222)〕R2
+〔(ω20m2)/(Rm2+ω2m2)〕Rm
+j〔ωL0−0−ω{(ω2012)/(R12+ω212)}L1
−ω{(ω2022)/(R22+ω222)}L2
−ω{(ω20m2)/(Rm2+ω2m2)}Lm−1/(ωC)〕
m≒∞(周囲材質が絶縁体)、Cは第1検出コイル12、第2検出コイル13を含んだL成分とωより設定するから、
ω=1/(LC)1/2
L=Z0(Im)/ω
=〔ωL0−ω{(ω2012)/(R12+ω212)}L1
−ω{(ω2022)/(R22+ω222)}L2〕/ω
=L0−{(ω2012)/(R12+ω212)}L1
−{(ω2022)/(R22+ω222)}L2
よって、C=1/(ω2L)より、1/(ωC)=ωL
【0057】
0=Re成分+jω〔L0−{(ω2012)/(R12+ω212)}L1
−{(ω2022)/(R22+ω222)}L2−L〕
ここで、〔L0−{(ω2012)/(R12+ω212)}L1−{(ω2022)/(R22+ω222)}L2−L〕=0、よってRT=∞で、Z0=Re成分のみ
=R0+〔(ω2012)/(R12+ω212)〕R1
+〔(ω2022)/(R22+ω222)〕R2
このベクトル軌跡を図9に示す。ここで注目する点は、図9に示すように、Z0ベクトルの絶対値(大きさ)に対して変化分の割合が小さくなったことである。
【0058】
以上より、このZ0ベクトル軌跡を利用して被検出体を検出する場合の特徴は、下記1)〜4)となる。
1)検出感度を大きくするには、軌跡の円弧を大きくする。即ちL0を大きくする。
2)第1検出コイル12、第2検出コイル13の影響により初期状態のZ0は大きくなる。即ち、励磁電流I0が低下し、磁束φが低下する。
3)第1検出コイル12、第2検出コイル13の影響によりZ0の変化分が少なくなる。即ち、被検出体の膜厚変化によるZ0の変化が低下する。これは検出感度が低下することを意味している。
4)検出コイルに並列接続する抵抗値は、大きいほどZ0への影響が小さくなる。
【0059】
なお、並列抵抗値の値は、被検出体の膜厚測定レンジ上限抵抗値相当以上にするとよい。ただし、この抵抗値は、図4の可変抵抗器VR2の調整で最終的に決まる。この調整とは、図8の誘起電圧V1、V2の位相調整である。そのため、並列抵抗値とコイルの並列回路の特性根:ωn=R/L[rad/sec]が励磁周波数ωのω/10〜10ωの範囲が良い。
【0060】
一定電圧E0で励磁コイル11を駆動した場合の励磁電流I0は、インピーダンスZ0の変化により変化する。励磁電流I0により発生する磁束φは、該励磁電流I0に比例する。磁束φは、周波数ωの交番磁束であるから第1検出コイル12、第2検出コイル13の両端には、電磁誘導現象により誘導起電圧が発生する。この誘起電圧Vは、V=−N(Δφ/Δt)(N:コイル巻数)であるから、誘起電圧Vを検出することで磁束φの周波数ωでの変動成分を観測でき、よってインピーダンスZ0の変化を観測していることになる。誘起電圧Vを検出した後の詳しい信号処理は、本願の要旨ではないのでその説明は省略する。(例えば特許文献1参照)
【0061】
上記に記載する方法で被検出体の膜厚や研磨プロセスの終点検知などを達成している。基本原理に電磁誘導現象を利用しているから、上記のように周囲の物体が導電体であるとその影響を大きく受ける。Z0ベクトル軌跡に対する円筒状のセンサヘッド15の周囲構造物が比較的抵抗値の低い材質で構成されている場合の影響について説明する。式(9)の周囲材質の項を活かして整理すると、
・被検出体との結合係数:k=1
・Cは第1検出コイル12及び第2検出コイル13を含んだ励磁源からみたL成分(RT=∞)とωより設定する。但し、このL成分には、周囲構造物の材質の影響を含まず、周囲の構造物を絶縁体として設定する。
・M0Tは、第1検出コイル12及び第2検出コイル13と抵抗値の下がった周囲導体のLmを含んだL’とLTとの相互インダクタンスとし、M0T=(L’LTk)1/2とおくと、
L’=Z0(Im)/ω
=〔ωL0−ω{(ω2012)/(R12+ω212)}L1
−ω{(ω2022)/(R22+ω222)}L2
−ω{(ω2022)/(Rm2+ω2m2)}Lm〕/ω
=L0−{(ω2012)/(R12+ω212)}L1
−{(ω2022)/(R22+ω222)}L2
−{(ω2022)/(Rm2+ω2m2)}Lm
0(RT=0)=R0+〔(ω2012)/(R12+ω212)〕R1
+〔(ω2022)/(R22+ω222)〕R2
+〔(ω20m2)/(Rm2+ω2m2)〕Rm
+j〔ωL0−ωL’−ω{(ω2012)/(R12+ω212)}L1
−ω{(ω2022)/(R22+ω222)}L2
−ω{(ω20m2)/(Rm2+ω2m2)}Lm−ωL〕
【0062】
0の虚数(Im)成分Z0(Im)は、L=L0−{(ω2012)/(R12+ω212)}L1−{(ω2022)/(R22+ω222)}L2より、
0(Im)=j〔−ωL’−ω{(ω20m2)/(Rm2+ω2m2)}Lm
=−jω〔−L0+{(ω2012)/(R12+ω212)}L1
+{(ω2022)/(R22+ω222)}L2
0(RT=0)=R0+〔(ω2012)/(R12+ω212)〕R1
+〔(ω2022)/(R22+ω222)〕R2
+〔(ω20m2)/(Rm2+ω2m2)〕Rm
+jω〔L0−{(ω2012)/(R12+ω212)}L1
−{(ω2022)/(R22+ω222)}L2
ここで、注目する点は虚数(Im)成分からLmの項が消えることである。
0(RT=∞)=R0+〔(ω2012)/(R12+ω212)〕R1
+〔(ω2022)/(R22+ω222)〕R2
+〔(ω20m2)/(Rm2+ω2m2)〕Rm
+j〔−ω{(ω20m2)/(Rm2+ω2m2)}Lm
【0063】
このベクトル軌跡を図10に示す。このように、センサヘッド周囲の材質抵抗が下がり、誘導電流が流れる経路を有するとZ0ベクトルは、大きさは増加し、変化が減少(減衰)することが説明できる。
【0064】
良導体でも薄膜化が進むと、その材質内での電子の平均自由工程と膜厚とが近づいてくると抵抗率が上昇する。そのため抵抗率の高い被検出体を検知するために、励磁周波数ωを高くする等の感度向上のため対策が採られる。その結果、周囲構造物の材質の影響を無視できなくなることがある。具体的なパラメータを使い計算した結果を参考例として図11に示す。ここでは、励磁周波数ω=29MHz、周囲材質による電気回路抵抗:Rm=IGΩと1kΩの例を示す。
【0065】
上記のように、渦電流センサの検出感度を向上させる対策の効果を引き出すには、周囲物体の影響を削減する方策を平行して実施する必要がある。本願発明では、比較的高い固有抵抗材質や良導体薄膜の終点検知や膜厚検出の性能向上のために検出感度向上とロバスト性向上を併せて持った渦電流センサを提供する。そのために、励磁コイルや検出コイルの周辺での渦電流(二次電流)発生を防止する磁気回路構造を備えた渦電流センサを提供する。磁気回路を工夫することで渦電流センサの周囲材質が導体であっても発生する誘導起電圧を全体として打ち消すようにする。そのため、周囲材質に二次電流が流れない構造とすることができる。よって、式(9)のRmを∞相当にすることで、周囲材質の影響を削減(理想的には消去)することができる。
【0066】
なお、上述の励磁回路のLCR直列共振回路特性を利用するためのCの設定と記述したが、Cの値は、100pF以下のレベルである。そのため、実際の回路調整では、配線やコイルなどの必要構造物による容量成分(C)を極力抑える工夫をし合わせ込みすることが多い。(配線とGND距離や配線間距離、コイルの巻き方など)
【実施例1】
【0067】
図12は本発明に係る渦電流センサの概略構成を示す。本渦電流センサ20は円環状の励磁コイル21、検出コイル22、23をそれぞれ2個以上(ここではA(左)側とB(右)側の2個)組合せた構成としている。24は励磁コイル21、検出コイル22、23を埋め込んだセンサヘッドであり、該センサヘッド24はプラスチック、セラミック等の絶縁体で構成されている。励磁コイル21をセンサヘッド24の上下方向所定位置に配置し、該励磁コイル21を挟んで検出コイル22、23を上下に配置して構成している。検出コイル22、23の一方の検出コイル(ここでは検出コイル23)を定常状態の誘導電圧成分をキャンセルするバランスコイルとしている。25は周囲導体である。なお、図12(a)、(b)はそれぞれ本渦電流センサ20の平面、断面を示す。
【0068】
上記構成の渦電流センサ20において、A側の励磁コイル21の発生磁界による周囲導体25に誘起される誘起電圧Vaによって流れる電流Iaは、A側の励磁コイル21の周囲を周回するように流れたいが、A側の励磁コイル21とB側の励磁コイル21の間のセンサヘッド24の構成部材が絶縁体であるため、電流Iaは限りなく0に近くなる。また、B側の励磁コイル21の発生磁界による周囲導体25に誘起される誘起電圧Vbによって流れる電流Ibは、B側の励磁コイル21の周囲を周回するように流れたいが、上記のようにセンサヘッド24の構成部材が絶縁体であるため、電流Ibは限りなく0に近くなる。理想的には、A側の励磁コイル21により誘起させる誘起電圧VaとB側の励磁コイル21により誘起される誘起電圧VbはVa=Vbとなる。そのためにはA側の励磁コイル21とB側の励磁コイル21の形状寸法と巻数を同じにする。従って、A側の励磁コイル21とB側の励磁コイル21の周囲を回る周回電流Ia−Ibも0となる。
【0069】
また、A側の検出コイル22、23、及びB側の検出コイル22、23も上記A側及びB側の励磁コイル21と同じに構成され、励磁と検出の相違のみで誘起電圧及び該誘起電圧によって流れる電流は同じであるので、説明は省略する。
【0070】
図12に示す渦電流センサ20を図13(a)、(b)に書き換え、これをベクトル回路で示すと図14のようになり、更に図15(a)、(b)に示すように2つの回路に書き換えることができる。A側のコイルとB側のコイルは巻き方向が互に反対で直列に接続されている。図14の回路において、L01はA側の励磁コイル21を、L02はB側の励磁コイル21をそれぞれ示す。コイルL01、コイルL02に同方向の電流I0を供給したとき、コイルL01で発生する磁束φ1(磁界H1)とコイルL02で発生する磁束φ2〈磁界H2〉の向きが反対となるため、周囲材質の等価電気回路モデルのインダクタンスLm1、Lm2の両端に発生する誘起電圧Vm1と誘起電圧Vm2は互いに向きが反対となる。Lm1とLm2の結合点aは他に継がるルートがない。そのため誘起電圧Vm1+Vm2による電流は流れない。なお、図13(a)において、26は被検出体を示す。
【0071】
m1=Vm1/Zm1=−Nm1(Δφ1/Δt)/(Rm1+Rm2+jωLm1
φ1=(μA0101/L01)I0
m2=Vm2/Zm2=−Nm2(Δφ2/Δt)/(Rm1+Rm2+jωLm2
φ2=(μA0202/L02)I0
多数の起電力を含む回路網の電流分布は、各起電力が1つずつ単独に存在したときの電流分布の和に等しいとする重合せの理により、磁束φ1、φ2は大きさが同じで互いに反対向きの磁束分布とすれば、周囲材質の形状で決まるNm1=Nm2の条件を加えて、誘起電圧Vm1とVm2を比較すると、Vm1=−Vm2より、Vm1+Vm2=0であり、電流Im1とIm2の流れる方向は反対、また同様にLm1=Lm2であるから、
m1=Zm2
よって、
ΣIm=Im1+Im2=0
となる。
【0072】
図16は本発明に係る渦電流センサ20’の概略構成例を示す図である。本渦電流センサ20’が図12の渦電流センサ20と異なる点は、本渦電流センサ20’ではセンサコイルを励磁コイル21のみとしている点である。図17は渦電流センサ20’を用いた渦電流センサシステム構成を示す図である。A側の励磁コイル21であるコイルL01、該コイルL01と巻方向が反対のB側の励磁コイル21であるコイルL02を直列に接続し、該直列回路に駆動電源E0から周波数ωの交流励磁電流I0を供給するようにしている。
【0073】
渦電流センサ20’の信号処理部60は図17に示すように振幅調整器61、位相調整器62、高周波増幅器63、sin成分を検出するsin検波部とcos成分を検出するcos検波部を備えた検波器64で構成されている。駆動電源E0からA側励磁コイル21、B側励磁コイル21に供給される電流I0を電流センサ65で検出し、該電流センサ65からΔI0/Δt=EI相当信号を高周波増幅器63に入力する。振幅調整期器61及び位相調整器62では初期状態(RT=∞)の出力をできるだけ0にするための信号e0を作成し、位相調整器62から信号e0を高周波増幅器63に入力する。また、検波器64には駆動電源E0から検波用基準信号Sが入力される。高周波増幅器63では、(EI−e0)×G=Eout信号を作成し、検波器64に入力する。検波器64ではEoutの実数Re成分と虚数Im成分を検出し、それぞれ出力する。
【実施例2】
【0074】
図18(a)、(b)は本発明に係る渦電流センサ20’’の概略構成例を示す図である。本渦電流センサ20’’が図16、図17に示す渦電流センサ20‘と異なる点は、センサコイルとしてA、B側の励磁コイル21、21であるコイルL01、L02の他に検出コイル22、22であるコイルL11、L12を設けている点である。そして図18(c)に示すようにコイルL01とL02を直列、コイルL11とL12を直列に接続している。コイルL11とL12の直列回路に接続された抵抗R1の両端の電圧V1は、
1=−N1Δφ/Δt≒ΔI0/Δt=EI
となり、図17の信号処理部60と同じ構成の信号処理部60を設けることにより、Eoutの実数Re成分と虚数Im成分を検出することができる。
【実施例3】
【0075】
図19は本発明に係る渦電流センサの概略構成を示す。本渦電流センサ30は、半円環状(D型形状)、即ち、径部と半円弧部で形成された励磁コイル31、検出コイル32、33をそれぞれ2個(ここではA(左)側とB(右)側にそれぞれ2個)を互いに背中合せ、即ち径部と径部を対向させて配置した構成としている。34は励磁コイル31、検出コイル32、33を支持(埋め込んだ)するセンサヘッドであり、該センサヘッド34はプラスチック、セラミック等の絶縁体で構成されている。励磁コイル31をセンサヘッド34の上下方向所定位置に配置し、該励磁コイル31を挟んで検出コイル32、33が上下に配置されている。検出コイル32、33の一方の検出コイル(ここでは検出コイル33)をバランスコイルとしている。35は周囲導体である。このようにA側の励磁コイル31、検出コイル32、33、B側の励磁コイル31、検出コイル32、33の平面形状を半円環状とすることにより、円柱状のセンサヘッド34に配置したとき、無駄なスペースの無いセンサヘッドにすることができる。また、センサヘッド34を円柱状にできるので、センサヘッド34と周囲導体35の間にOリングのシール溝37を設け、Oリング36でシールでき、加工精度を出し易く、良好なシール性能を発揮できる。なお、図19(a)、(b)はそれぞれ本渦電流センサ30の平面、断面を示す。
【0076】
A側の励磁コイル31の発生磁界による周囲導体35に誘起される誘起電圧Vaによって流れる電流Iaは、A側の励磁コイル31の周囲を周回するように流したいが、センサヘッド34が絶縁体であるため、電流Iaは限りなく0に近くなる。また、B側の励磁コイル31の発生磁界による周囲導体35に誘起される誘起電圧Vbによって流れる電流Ibは、B側の励磁コイル31の周囲を周回するように流したいが、センサヘッド34が絶縁体であるため、電流Ibは限りなく0に近くなる。理想的には、A側の励磁コイル31により誘起させる誘起電圧VaとB側の励磁コイル31により誘起される誘起電圧VbはVa=Vbである。そのためにはA側の励磁コイル31とB側の励磁コイル31の形状寸法と巻数を同じにする。従って、A側の励磁コイル31とB側の励磁コイル31の周囲を回る周回電流Ia−Ibも0となる。
【0077】
また、A側の検出コイル32、33、及びB側の検出コイル32、33もA側及びB側の励磁コイル31と同じに構成され、励磁と検出の相違のみで同じであるので、説明は省略する。
【実施例4】
【0078】
図20は本発明に係る渦電流センサの概略構成を示す。本渦電流センサ40は励磁コイル41、検出コイル42、43のいずれもA(左)側とB(右)側の平面形状を8の字形状の一体のコイル、即ちA(左)側とB(右)側の一対のコイルを一体の8の字状コイルに形成している。センサヘッド44のセンサコイル装着部44aは、円柱状のセンサヘッド44の上部を小径部とし、該小径部の中央部に縦溝44bを形成した形状としている。このセンサコイル装着部44aに平面8の字形状の励磁コイル41、検出コイル42、43を下方から上方に検出コイル43、励磁コイル41、検出コイル42の順次装着し、A側とB側を等価な磁気回路としている。センサヘッド44はプラスチック、セラミック等の絶縁体で構成されている。ここでも一方の検出コイル43をバランスコイルとする。なお、図20(a)、(b)はそれぞれ本渦電流センサ40の平面図、断面図、(c)はセンサコイル装着部の斜視図を示す。
【実施例5】
【0079】
図21は本発明に係る渦電流センサの概略構成を示す。本渦電流センサ50は励磁コイル51、検出コイル52、53のいずれもA(左)側とB(右)側の平面を1の平面8の字形状の一体のコイル、即ちA(左)側とB(右)側の一対のコイルを一体の8の字状コイルに形成している。A側とB側が交わる部分の開き角度90°で直交させている。このような平面8の字形状の励磁コイル51、検出コイル52、53はプラスチック、セラミック等の絶縁体で構成されているセンサヘッド54内の上下方向所定の位置に励磁コイル51を配置し、該励磁コイル51を挟んで検出コイル52と検出コイル53を上下に配置している。これによりコイル等価回路定数として容量成分Cを削減している。ここでも一方の検出コイル53をバランスコイルとする。なお、図21の(a)、(b)はそれぞれ本渦電流センサ50の平面、断面を示す。
【0080】
上記実施例1乃至5に示す構成の渦電流センサを導電膜が形成された基板を研磨する基板研磨装置(CMP装置)の膜厚検出センサとして使用すれば、従来の膜厚センサでは、使用できなかった導電体材料、例えばアルミニウムやステンレスを研磨テーブルに使用できる。よってこれら導電体材料のメリットを活用しながら、研磨対象基板の膜厚検出や研磨終点検知を行うことができる。また、比較的高抵抗の被検出体の膜厚や研磨終点を検知するために、励磁周波数を上げた場合でも、導電体材料で構成された研磨テーブルの影響を無視できるレベルまで下げることができる。
【0081】
また、従来の渦電流センサをめっき装置で使用する場合、めっき槽の側壁に絶縁体アダプタを取り付け、渦電流センサの周辺材料の影響を無視できる構造とする必要があった。これに対して、上記実施例1乃至5に示す構成の渦電流センサを用いれば、上記のような絶縁体アダプタは不要となる。また、本願渦電流センサは、電気良導体の中でもその影響を小さくできるので、めっき液内で被めっき体のめっき膜の膜厚や終点の検知を実施することが可能となる。
【0082】
なお、従来の渦電流センサでは、磁界を発生する箇所が1つであったが、上記実施例1乃至5に示す構成の渦電流センサでは、隣り合う2つの箇所(一対の励磁コイル)となるため、磁束分布の広がり方に影響がでる。そのため、励磁コイルと被検出体との距離を近づけるなどの対策が必要となる場合もある。
【0083】
また、本発明に係る渦電流センサは、被検査体の内部欠陥や内部通電の有無を非接触で検出するのにも利用できる。例えば、3次元実装チップの内部接合状態を検出できる。従来の渦電流センサのコイル形状では、磁束が大きく広がり過ぎて、接合不良が一部あっても必要な検出感度が得られがたい。本発明に係る渦電流センサのコイル形状は、2つのコイルを有するから、磁束密度の高い部分が2つのコイル間に発生する。例えば、図19に示すコイル形状とすれば、A(左)側とB(右)側のコイル間にライン状に磁束が集まり、接合不良部の存在を検知しやすく、且つ、場所の特定もしやすくなる。
【0084】
図22は半導体ウエハ等の表面に導電膜が形成された基板を研磨する基板研磨装置において、導電膜の膜厚測定用に本発明に係る渦電流センサを用いた基板研磨装置の要部構成を示す図である。基板研磨装置200は、上面に研磨パッド201が貼り付けられた研磨テーブル202と、基板Wを保持するトップリング210を具備する。この基板研磨装置200において、テーブル支持軸203を介して矢印Aに回転する研磨テーブル202の研磨パッド201上面に、基板板保持面に基板Wを保持し、矢印Bに回転するトップリングの基板Wを当接させ、図示しない研磨液ノズルから研磨パッド201上面に研磨液を供給しながら、基板Wと研磨パッド201の相対運動により、基板Wの表面に形成された導電膜を研磨する。
【0085】
研磨テーブル202内には、本発明に係る渦電流センサ20が埋め込まれており、該渦電流センサ20には、ロータリジョイント206をテーブル支持軸203を通るケーブル205を介して、駆動電源E0から渦電流センサ20の励磁コイルに周波数ωの交流励磁電流I0を供給し、この交流励磁電流I0を電流センサ65で検出するようになっている。該電流センサ65から図17に示すのと同様、ΔI0/Δt=E1相当信号を高周波増幅器63に入力する。また、振幅調整器61及び位相調整器62では初期状態(RT=∞)の出力をできるだけ0にするための信号e0を作成し、位相調整器62から信号e0を高周波増幅器63に入力する。また、検波器64には駆動電源E0から検波用基準信号Sが入力される。高周波増幅器63では、(EI−e0)×G=Eout信号を作成し、検波器64に入力する。検波器64ではEoutの実数Re成分と虚数Im成分を検出し、それぞれ出力する。
【0086】
上記検波器64からの実数Re成分(X)と虚数Im成分(Y)から、基板Wの導電性膜厚を検出する手法として、特許文献7に開示されているように、θ=Tan-1Y/Xに基づく方法と、抵抗成分とリアクタンス成分との合成インピーダンスに基づく手法と、円弧の長さを測る方法がある。ここでは、基板Wの導電性膜厚を、該導電性膜と渦電流センサ20のギャップGの変化に影響されることなく検出できるθ=Tan-1Y/Xに基づく方法を下記に説明する。
【0087】
図26は駆動電源E0側から見たインピーダンスZの座標の円軌跡を示す図である。縦軸リアクタンス成分Xであり、横軸は抵抗成分Rである。点Cは膜厚が例えば100μm以上と極めて大きい(完全導体とみなせる)場合である。この場合には、駆動電源E0から渦電流センサ20の励磁コイル21に励磁電流I0を通電した場合、導電性膜に流れる渦電流が極めて大きく、励磁コイル21と等価的に並列に接続された抵抗成分Rとリアクタンス成分Xが極めて小さくなる。従って、抵抗成分R及びリアクタンス成分Xが共に小さくなる。
【0088】
研磨が進行して導電性膜が薄くなると、励磁コイル21の入力端子から見たインピーダンスZは、C点から開始し等価的な抵抗成分Rが増大し、リアクタンス成分Xも増大する。励磁コイル21の入力端子から見たインピーダンスZの抵抗成分Rが最大となる点をBで示す。このとき励磁コイル21の入力端子から見た渦電流損が最大となる。さらに研磨が進行し、導電性膜がより薄くなると、渦電流が減少し、励磁コイル21の入力端子から見た抵抗成分Rは、渦電流損が徐々に減少するから、徐々に小さくなる。そして、導電性膜が全て研磨により除去されると、そこには渦電流損が存在せず、等価的に並列接続された抵抗成分Rは無限大となり、励磁コイル21の抵抗のみが残ることになる。このときのリアクタンス成分Xは、励磁コイル21自体のリアクタンス成分のみである。この状態を、点Aで示す。
【0089】
図27は導電性膜と渦電流センサ20との間のギャップを変化させた場合のインピーダンス座標面における図26の円軌跡の変化を示す図である。渦電流センサ20によるX成分及びY成分の測定結果からは、図に示すように、導電性膜と渦電流センサ20との間のギャップGにかかわらずに、X成分及びY成分の導電性膜の膜厚毎の出力値を直線(r1〜r3)で結ぶと、その直線が交差する点(中心点)Pを取得することができる。この予備測定直線rn(n:1,2,3・・・)はその交点Pを通過するY成分一定の基準線(図27における水平線)Lに対して、導電性膜の膜厚に応じた仰角(挟角)θで傾斜(勾配)する。
【0090】
このことから、基板Wに形成された導電性膜と渦電流センサ20との間のギャップG(研磨パッド201の厚さ)が変化しても導電性膜のX成分及びY成分の測定結果(出力値)と中心点Pを結ぶ本番測定線rnの基準線Lに対する仰角θを求めれば、予め予備測定済みの導電性膜の膜厚に応じた仰角θの変化傾向などとの相関関係に基づいてその測定対象の導電性膜の膜厚を導出することができる。
【0091】
上記のことは図6の励磁源インピーダンスZ0と被検出体抵抗RTの関係を示す図からも明らかである。即ち、結合係数kは基板Wの導電性膜と渦電流センサ20との間の距離に反比例するが、この距離(係数k)が変化しても同一直線とZ0(Im)軸との角度を計測すれば、被検出体側の二次回路抵抗RTを同定することができるのである。図22の検波器64の出力である実数Re成分と虚数Im成分からθ=tan-1m/Reを導電性膜の膜厚に対して、予め求めておき、このθと測定対象導電性膜を測定して得られたRe成分とIm成分から求めたθ(θ=tan-1m/Re)を比較することにより、対象導電性膜の膜厚を検出できる。
【0092】
上記のように基板研磨装置200で、研磨中に基板Wの導電性膜厚を高精度で検出することにより、例えばエンドポイント等を精度よく検出し、研磨を終了させることができる。即ち、渦電流センサ20で基板Wの導電性膜の膜厚状況を監視しながら、研磨の進捗を知ることができる。
【0093】
なお、ここでは研磨テーブル202、トップリング210を具備し、導電膜が形成された半導体ウエハを基板Wとして研磨する基板研磨装置200を例に説明したが、本発明に係る渦電流センサは、導電膜が形成された被研磨物の該導電膜を研磨する研磨装置の導電膜厚検出のために広く利用できる。なお、上記例では、図12に示す渦電流センサを用いる例を示した、図13、図16、図18、図19、図20、図21に示す渦電流センサでもよいことは当然である。
【0094】
次に、半導体ウエハ等の基板に導電性めっき膜を形成するめっき装置において、基板に形成される導電性膜の膜厚を検出する膜厚検出センサとして、本発明に係る渦電流センサを用いる例について説明する。図23は基板めっき装置の概略構成例を示す図である。なお、ここでは無電解めっき装置を想定して示すので、電解めっき装置であれば、当然備えてる電極やめっき電流供給電源は図示していない。図示するように、めっき装置300は、めっき槽301を備え、該めっき槽301内にめっき液302を収容している。めっき液302に基板ホルダー310の下面に保持した基板Wを浸漬し、基板Wの表面に銅膜等の導電性膜を形成する。導電膜形成中に基板Wを保持した基板ホルダー310を軸311を中心に矢印Aに示すように回転することにより、ポンプ効果によりめっき液302中に矢印Bに示すような旋回流が発生し、基板Wの表面近傍に新鮮なめっき液が積極的に供給される。これにより、基板Wの表面に効率よく導電性めっき膜が形成される。
【0095】
上記構成のめっき装置において、従来の渦電流センサを用いて、基板Wの表面に形成された導電性めっき膜の膜厚を測定するには、図24に示すように、基板Wに対向するめっき槽301の側壁(図では底壁)に非導電性材からなるアダプタ321をOリング322を介在させて気密状態で設け、該アダプタ321の凹部323に渦電流センサヘッド324を挿入設置していた。このように基板Wのめっき面と対向するめっき槽301の側壁に非導電性材からなるアダプタ321を設け、その凹部323に渦電流センサヘッド324を挿入設置した構成では、基板Wのめっき面と渦電流センサヘッド324までの距離Lが大きくなり、渦電流センサの感度が低下する。また、めっき槽301の深さ寸法を小さくすると、基板Wのめっき面とめっき槽301の底面との距離が小さくなり、基板ホルダー310を回転させてもポンプ効果による十分なめっき液302の旋回流が発生せず、基板Wに新鮮なめっき液302を供給できずめっき効率が低下するという問題がある。
【0096】
図25は基板Wの表面に形成された導電性膜の膜厚測定に本発明に係る渦電流センサ20を用いためっき装置の構成例を示す図である。図示するように、基板Wに対向するめっき槽301の側壁(図では底壁)に棒状のセンサホルダー330をOリング331を介在させて気密状態で設け、センサホルダー330の先端部に本発明に係る渦電流センサ20を取り付ける。これにより渦電流センサ20と基板Wのめっき面との距離が小さくなり、渦電流センサ20の感度が向上する。このように渦電流センサ20をめっき液中に浸漬しても、本発明に係る渦電流センサは、センサヘッドの側面に導電体があっても、上記のように影響を受けない渦電流センサであるから、問題がない。
【0097】
基板Wのめっき面に形成される導電性めっき膜の膜厚は、上記基板研磨装置で説明したと同じ方法で検出できる。上記めっき装置において、めっき処理中に渦電流センサ20で基板Wの表面に形成されるめっき膜の膜厚を監視しながら、めっき処理を継続し、所望の膜厚に達したらめっき終了とすることができる。なお、図示は省略するが電解めっき装置においても、めっき処理中に本発明に係る渦電流センサ20で基板Wの表面に形成されるめっき膜の膜厚を監視しながら、めっき処理を継続し、所望の膜厚に達したらめっき終了とすることができる。
【0098】
上記本実施例では、渦電流センサの周囲物体を導体としたが、周囲物体は導体に限らず絶縁体でもよい。また、外乱に対して安定な(ロバストな)検出機能を提供できることに変わりはない。
【0099】
以上、本発明の実施形態例を説明したが、本発明は上記実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、導電性膜又は導電性膜が形成された基体の膜厚を渦電流センサが配置されている周囲構造物の材料に影響されることなく、安定して検出できる渦電流センサを提供できる。従って、基板面に形成された導電性膜を研磨する研磨装置や基板面に導電性膜を形成するめっき装置の膜厚検出や研磨終点検知等に広く利用できる。
【符号の説明】
【0101】
11 励磁コイル
12 第1検出コイル
13 第2検出コイル
14 差電圧検出回路
15 センサヘッド
20 渦電流センサ
21 励磁コイル
22 検出コイル
23 検出コイル
24 センサヘッド
25 周囲導体
26 被検出体
30 渦電流センサ
31 励磁コイル
32 検出コイル
33 検出コイル
34 センサヘッド
35 周囲導体
36 Oリング
37 シール溝
40 渦電流センサ
41 励磁コイル
42 検出コイル
43 検出コイル
44 センサヘッド
45 周囲導体
50 渦電流センサ
51 励磁コイル
52 検出コイル
53 検出コイル
54 センサヘッド
55 周囲導体
50 渦電流センサ
51 励磁コイル
52 検出コイル
53 検出コイル
54 センサヘッド
55 周囲導体
60 信号処理部
61 振幅調整器
62 位相調整器
63 高周波増幅器
64 検波器
65 電流センサ
200 基板研磨装置
201 研磨パッド
202 研磨テーブル
203 テーブル支持軸
205 ケーブル
206 ロータリジョイント
210 トップリング
300 めっき装置
301 めっき槽
302 めっき液
311 軸
321 アダプタ
322 Oリング
323 凹部
324 渦電流センサヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性膜又は導電性膜が形成された基体の近傍に配置されたセンサコイルを備え、該センサコイルに交流電流を通電することにより、前記導電性膜に渦電流を誘起し、該渦電流により発生する磁束変化をセンサコイルに誘起される誘起電圧により検出して前記導電性膜の膜厚を測定する渦電流センサにおいて、
前記センサコイルはセンサヘッドに配置されており、
前記センサコイルは少なくとも一対のコイルからなり、
前記一対のコイルを各コイルに通電した際に、前記センサヘッドの一方のコイル周囲を周回する電流が、他方のコイル周囲を周回する電流と絶対値が同じで流れの向きが逆になるように配置したことを特徴とする渦電流センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の渦電流センサにおいて、
前記センサコイルは、一対のコイルからなる励磁用コイルと、一対のコイルからなる少なくとも1つの検出用コイルを具備することを特徴とする渦電流センサ。
【請求項3】
請求項2に記載の渦電流センサにおいて、
前記センサヘッドの所定位置に前記励磁用コイルを配置し、該励磁用コイルの上下に前記検出用コイルを配置し、一方の検出用コイルを他方の検出用コイルの定常状態の誘導電圧を打ち消すバランスコイルとしたことを特徴とする渦電流センサ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の渦電流センサにおいて、
前記励磁用コイルの一対のコイルは、同じコイルを左右対称に配置したことを特徴とする渦電流センサ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の渦電流センサにおいて、
前記検出用コイルの一対のコイルは、同じコイルを左右対称に配置したことを特徴とする渦電流センサ。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の渦電流センサにおいて、
前記励磁用コイルの一対のコイルは、平面8の字状に形成されたコイルであることを特徴とする渦電流センサ。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の渦電流センサにおいて、
前記検出用コイルの一対のコイルは、平面8の字状に形成されたコイルであることを特徴とする渦電流センサ。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の渦電流センサにおいて、
前記平面8の字状に形成されたコイルの交差部の開き角度は90°であることを特徴とする渦電流センサ。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の渦電流センサにおいて、
前記センサヘッドは絶縁体材料で構成されていることを特徴とする渦電流センサ。
【請求項10】
導電膜が形成された基板を研磨する研磨装置において、
前記基板の導電膜の膜厚を検出する膜厚検出センサとして、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の渦電流センサを備えたことを特徴とする研磨装置。
【請求項11】
導電膜を形成するめっき装置において、
前記基板に形成される導電膜の膜厚を検出する膜厚検出センサとして、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の渦電流センサを備えたことを特徴とするめっき装置。
【請求項12】
導電膜が形成された基板の該導電膜の膜厚を膜厚センサで監視しながら該導電膜を研磨する研磨方法において、
前記膜厚センサとして請求項1乃至9のいずれか1項に記載の渦電流センサを用いたことを特徴とする研磨方法。
【請求項13】
基板の表面に形成される導電膜の膜厚を膜厚センサで監視しながら、該導電膜を形成するめっき方法において、
前記膜厚センサとして請求項1乃至9のいずれか1項に記載の渦電流センサを用いたことを特徴とするめっき方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公開番号】特開2011−64590(P2011−64590A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216012(P2009−216012)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】