説明

湾曲形状サファイア単結晶部品の製造方法

【課題】 製造がし易く、低コストで、寸法精度の良い湾曲した形状のサファイア単結晶部品を製造する方法を提供する。
【解決手段】 サファイア単結晶1にセラミックス製の治具2を用いて荷重を加えながら、1520℃〜1800℃で2時間加熱処理する塑性変形を用いて曲げ加工することによって湾曲形状サファイア単結晶部品を製造するものであり、サファイア単結晶に対してc軸との角度θが15°〜45°となる方向に荷重をかけるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機械装置などに用いる湾曲形状サファイア単結晶部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サファイア単結晶は広い波長に亘って透明であり、高硬度、高強度、耐薬品性が強いため、非常に有用な材料である。そのため、サファイア単結晶は、歯車の軸受けをはじめ、時計用風防、半導体レーザー用の窓材(特開2005−136119号公報第2頁段落0004参照)、高温・高圧用容器用の窓材(特開2005−329330号公報第4頁段落0015及び図1参照)、分析セル、圧力センサ用ダイヤフラム、コインセンサー用窓など古くから多くの用途に使われている。また、サファイア単結晶がGaN系LED基板として有用であることが見出され、GaN薄膜の成長用基板として多く用いられるようになった(特開平6−291366号公報第3頁第3欄段落0009、第4欄段落0013〜0015参照)。
しかしながら、サファイア単結晶はモース硬度が9と高い硬脆材であり、延性や展性が殆んどなく、塑性変形しにくい材料として知られている。そのため、目的とする形状を備えたサファイア単結晶部品を得るために、ダイヤモンド工具などを用いて、時間をかけて切削加工が行われているのが現状である(特開2000−65960号公報第3頁第4欄段落0015〜0016参照)。
【特許文献1】特開2005−136119号公報
【特許文献2】特開2005−329330号公報
【特許文献3】特開平6−291366号公報
【特許文献4】特開2000−65960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来は、湾曲した形状のサファイア単結晶部品を製造する場合、素材であるバルク状のサファイア単結晶から切削加工を行う方法が一般的である。しかし、この製造方法では、素材のロスが多くて加工時間が長いために、非常に高価なものとなってしまう。また湾曲面の鏡面研磨が難しいという問題がある。
他の製造方法として、サファイア単結晶を製造する際に、湾曲形状に結晶を引き上げた後、機械加工を施す方法も提案されているが、この製造方法においても、結晶成長が難しく、そして加工が難しく、また鏡面を得るのが困難であり、さらに寸法精度が良くないなどの多くの問題がある。
本発明の目的は、加工がし易く、低コストで、寸法精度の良い湾曲した形状のサファイア単結晶部品を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明者らは、切削加工なしにサファイア単結晶の塑性変形を用いる曲げ加工方法に着目し、研究を重ねた結果、サファイア単結晶の特定方向に荷重をかけながら熱処理すれば、湾曲形状のサファイア単結晶部品を容易に製造できることを見出した。
望ましい加熱処理温度は1520℃〜1800℃であり、大気中であれば1520℃〜1650℃である。大気中で熱処理する場合、曲げ加工に用いる治具としてセラミックス製のものであれば、サファイア単結晶との付着を防止することができる。このため、予め必要とされる部分に鏡面加工がされているサファイア単結晶の場合には鏡面を損なわない利点がある。サファイア単結晶の曲げ加工過程において、荷重をかける方向としてサファイア単結晶のc軸との角度が15°〜45°の方向が良く、n(11−23)面の法線方向に対して垂直な方向に荷重をかけるのが製造工程上好都合である。サファイア単結晶の加熱処理前に予め必要される部分を鏡面研磨しておくことが湾曲形状のサファイア単結晶の加工のし易さに寄与する。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、切削加工することなく、湾曲した板状やロッド状など適宜の形状を有するサファイア単結晶部品を寸法精度良く製造することが可能となり、製造がし易くなり、そのため製造のコストダウンを図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
通常、最終目的とする湾曲形状サファイア単結晶部品では、湾曲面が鏡面研磨されている必要があるため、予め、図1に示すように、サファイア単結晶1を研削、研磨により板状、ロッド(円柱)状などの適宜の形状に成形しておき、図示の例ではロッド状に成形されている。
サファイア単結晶1の曲げ加工の過程では、治具2を用いて曲げようとする形状の半径方向、すなわち荷重をかける方向(荷重方向)とサファイア単結晶1のc軸との角度θが15°〜45°になるようにする。
またn(11−23)面は、n面の法線方向とc軸との角度が61.2°であるため、n面の法線方向と垂直に荷重をかければ、荷重の方向とc軸との角度が28.8°となる。加工の際、n面はX線回折装置で結晶方位を特定することができるので、本発明に好都合である。
特に、図示するように、ロッド状のサファイア単結晶1を曲げ加工する場合には、端面1aをn面にすれば、このサファイア単結晶に垂直に荷重をかければ、容易に目的とする湾曲形状が得られるため製造が容易である。
サファイア単結晶1を曲げ加工する際に用いる治具2は、例えばアルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素などのセラミックス製のものであるが、特に、大気中で熱処理ができ、比較的安価に入手できるアルミナ製のものが好適である。また、サファイア単結晶部品として、肉厚部品を製造する場合には、高温で熱処理すれば良いが、その場合には、タングステン、モリブデン、イリジウムなどの高融点金属製の治具2を使用し、非酸化雰囲気中で熱処理することによって湾曲形状部品を得ることができる。
熱処理温度は、大気中であれば、1520℃〜1650℃の範囲で曲げ加工ができる。1520℃未満の温度では十分に曲げることができず、1650℃を超える温度の場合には治具2との付着が起こりやすくなり、好ましくない。
肉厚のサファイア単結晶1を曲げ加工する場合には、1650℃よりも高い温度で熱処理することにより短時間で容易に曲げ加工ができる。この場合、タングステンなどの高融点金属製の治具2を用いれば良いが、湾曲面を鏡面研磨した後に曲げる場合には、鏡面が損なわれることもあるため、追加工が必要な場合がある。
したがって、湾曲面を鏡面研磨した後に曲げ加工をする場合には、セラミックス製の治具2を用い、大気中1520℃〜1650℃で熱処理すれば、鏡面を損なうことなく目的とする湾曲形状の部品を製造することができる。
【実施例】
【0007】
(実施例1〜4、比較例1〜3)
実施例1〜4及び比較例1〜3に使用した試料は、図1に示す側面を予め研磨してあるロッド状のサファイア単結晶1を直径1mm、長さ40mmとし、表1に示すような方位関係で作成したものである。
また治具2として、高純度アルミナセラミックス製のものを用いて、この治具に荷重50gを加えながら大気雰囲気中1560℃で2時間保持して、曲げ加工の可否を調べた。
その結果、表1に示す実施例1〜4において、荷重方向とc軸とのなす角度θが15°〜45°のときのみ曲げ加工が可能であった。角度θが0°、60°及び90°である比較例1、比較例2及び比較例3では、曲げ加工ができなかった。
【0008】
【表1】

【0009】
(実施例5〜11、比較例4,5)
実施例5〜11及び比較例4,5において、曲げ加工が可能な実施例2の試料を用いて、熱処理温度を1500℃〜1800℃に変えて曲げ加工の可否を調べた。
いずれもの例も、保持時間は2時間とし、荷重方向とc軸との角度を28.8°とした。実施例5〜9及び比較例4,5では大気中で熱処理し、アルミナ製の治具を用い、また実施例10,11では還元中で熱処理し、モリブデン製の治具を用いた。
表2に示すように、熱処理温度が1500℃では曲げ加工はできず(比較例4)、1520℃以上では曲げ加工を実施することができた(実施例5〜11)。大気雰囲気中で処理する場合、1700℃では曲げ加工用の治具2との固着(比較例5)、サファイア単結晶1の側面に予め施しておいた鏡面研磨面の荒れが見られた。
試料である研磨したサファイア単結晶1を熱処理する場合は、1520℃〜1650℃の範囲が望ましい(実施例5〜9)。熱処理温度が1700℃以上の場合は大気雰囲気では処理できないため、還元雰囲気中でモリブデン製の治具を用いて曲げ熱処理を行ったところ、研磨面の荒れは見られたが、治具との付着はなかった(実施例10,11)。
なお、表2に示すように、実施例2においても治具との付着はなかった。
【0010】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0011】
以上のことから、本発明は、従来、塑性変形性がなく曲げ加工が不可能とされていたサファイア単結晶において、荷重をかける方位を限定して熱処理を実施すれば、曲げ加工が可能であることを示している。 本発明はサファイア単結晶の新たな加工方法を提案し、特にある曲率を有したロッド状(円柱状)のサファイア単結晶や板状サファイア単結晶の新しい加工方法として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1〜11及び比較例1〜5に使用した試料であるサファイア単結晶を示す斜視図であって、曲げ加工時の荷重方向とサファイア単結晶の方位関係を示す図である。
【符号の説明】
【0013】
1 サファイア単結晶
1a 端面
2 治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サファイア単結晶に荷重を加えながら熱処理することを特徴とする湾曲形状サファイア単結晶部品の製造方法。
【請求項2】
熱処理温度は、1520℃〜1800℃であることを特徴とする請求項1に記載の湾曲形状サファイア単結晶部品の製造方法。
【請求項3】
サファイア単結晶に対して、c軸との角度が15°〜45°の方向に荷重をかけて熱処理を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の湾曲形状サファイア単結晶部品の製造方法。
【請求項4】
サファイア単結晶のn(11−23)面の法線方向に対して垂直方向に荷重をかけながら熱処理を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の湾曲形状サファイア単結晶部品の製造方法。
【請求項5】
セラミックス製の治具を用いてサファイア単結晶に荷重をかけながら、大気中1520℃〜1650℃で熱処理することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の湾曲形状サファイア単結晶部品の製造方法。
【請求項6】
サファイア単結晶の予め必要とされる部分を鏡面研磨した後に熱処理を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の湾曲形状サファイア単結晶部品の製造方法。
【請求項7】
サファイア単結晶をロッド状に形成し、側面を鏡面研磨した後に熱処理を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の湾曲形状サファイア単結晶部品の製造方法。


【図1】
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