説明

湿度センサの劣化診断方法

【課題】湿度センサが元々備えている感湿素子、感温素子及び加熱手段を利用して、感湿素子に加熱クリーニングが必要な程度の劣化が生じているか自己診断する。
【解決手段】湿度計測装置は、相対湿度及び温度を計測する湿度エレメント及び温度エレメントと、湿度エレメントの加熱クリーニングを行うヒータとを備える湿度センサを2つ有する。湿度計測装置の第1の露点算出部21が、一方の湿度センサを用いて、計測環境雰囲気中の相対湿度及び温度から第1の露点温度を求める。第2の露点算出部22が、他方の湿度センサを用いて、ヒータ加熱中の相対湿度及び温度から第2の露点温度を求める。加熱していない通常計測中の湿度センサの露点温度と加熱中の湿度センサの露点温度に差が生じる場合は湿度エレメントが計測環境雰囲気によって劣化しているからであり、劣化判定部23が、第1の露点温度と第2の露点温度の差に基づいて通常計測中の感湿エレメントにクリーニングが必要な程度の劣化が生じているかを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計測環境雰囲気中に設置される湿度センサの劣化を診断する湿度センサの劣化診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
湿度センサには、上部電極と下部電極の間に感湿層を挿入したものを感湿素子(湿度検出素子)として用い、湿度の変化に応じてその電気抵抗値が変化する抵抗変化式、湿度の変化に応じて静電容量が変化する容量変化式などがある。
【0003】
これら何れの方式の湿度センサも、測定現場に設置されると、測定環境に直接曝されて湿度を測定するため、測定環境の雰囲気(例えば、硫化物、有機溶剤等のガス)によって感湿素子が劣化していく。ただし、感湿素子を加熱して(加熱クリーニングと呼ぶ)、感湿素子を劣化させる原因となる雰囲気の成分を除去すれば、感湿素子をこの劣化から回復させることができることが一般的に知られている。従来、この知見を利用して、定期的に加熱クリーニングを行ったり(例えば、特許文献1参照)、湿度センサの劣化の度合いを検出して加熱クリーニングの条件(加熱温度及び加熱時間)を変更したり(例えば、特許文献2参照)していた。
【0004】
特許文献1に開示された湿度検出装置は、加熱用ヒータを備えた湿度検知素子と、ヒータに電力を加えて湿度検知素子を一定温度に保つためのヒータ制御回路と、このヒータ制御回路に接続されて一定間隔で加熱クリーニングを開始させるタイマ回路と、湿度検知素子に接続されて湿度検知素子のインピーダンス変化を測定する発振回路とを備えて、定期的に加熱クリーニングを実施していた。
また、特許文献2に開示された湿度センサの制御装置は、上記特許文献1と同様にインピーダンス変化式の感湿素子部をヒータにより加熱して、汚れ物質を除去するものであるが、加熱クリーニングを行う場合には湿度センサの劣化に応じて加熱温度を500〜1200℃に設定すると共に、加熱時間を数秒〜10分程度に設定していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−172776号公報
【特許文献2】特開2003−166963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の湿度センサは以上のように構成されているので、感湿素子にクリーニングが必要な程度の劣化が生じていない場合にも定期的な加熱クリーニングが行われてしまい、加熱クリーニングの機会が増えて感湿素子の寿命を短くしていた。
また、感湿素子を劣化させる原因となる雰囲気の成分が有機溶剤等の場合には加熱クリーニングで成分を除去可能であるが、硫化物のような潮解性物質の場合には、感湿素子を加熱するよりも洗浄した方が効果的に除去することが可能である。しかし、従来は潮解性物質に対しても一律に加熱クリーニングを行っていたため、除去効率が落ちると共に、加熱クリーニングの機会が増えて感湿素子の寿命を短くしてしまうという課題があった。
【0007】
また、従来の湿度センサは、感湿素子の劣化原因が有機溶剤によるものか潮解性物質によるものかを判定する構成になっていないため、劣化原因を判定する場合は分析者が現場に出向いて、分析用の器具を用いて判定する必要がある。そのため、作業が煩わしいという課題があった。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、湿度センサが元々備えている感湿素子、感温素子及び加熱手段を利用して、感湿素子にクリーニングが必要な程度の劣化が生じているか自己診断することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明に係る湿度センサの劣化診断方法は、計測環境雰囲気中に設置され、感湿素子及び感温素子を2個ずつ有して、当該2個の感湿素子を交互に計測用又は非計測用に切り替えて、一方の計測用感湿素子及び感温素子は計測期間中に相対湿度及び温度を計測すると共に、他方の非計測用感湿素子及び感温素子は一方の計測用感湿素子及び感温素子の計測期間中に加熱クリーニングを行うことが可能な加熱手段を備える湿度センサの劣化診断方法であって、計測用感湿素子及び感温素子の計測環境雰囲気中の相対湿度及び温度の計測値に基づき得られる露点温度を第1の露点温度として求める第1の露点温度算出ステップと、加熱手段による加熱中の非計測用感湿素子及び感温素子の計測環境雰囲気中の相対湿度及び温度の計測値に基づき得られる露点温度を第2の露点温度として求める第2の露点温度算出ステップと、第1の露点温度と第2の露点温度の差に基づいて、計測用感湿素子にクリーニングが必要な程度の劣化が生じているかを判定する劣化判定ステップとからなるものである。
【0010】
請求項2の発明に係る湿度センサの劣化診断方法は、第1の露点温度算出ステップで求めた第1の露点温度と、第2の露点温度算出ステップで求めた第2の露点温度とを比較して相対的高低差を求める高低差算出ステップと、相対的高低差と第1の閾値とを比較する比較ステップとを備え、劣化判定ステップは、第1の露点温度よりも第2の露点温度の方が高く、かつ、第1の閾値よりも相対的高低差の方が大きい場合に、計測環境雰囲気中の有機溶剤により計測用感湿素子にクリーニングが必要な程度の劣化が生じていると判定するようにしたものである。
【0011】
請求項3の発明に係る湿度センサの劣化診断方法は、劣化判定ステップで、計測用感湿素子に有機溶剤によりクリーニングが必要な程度の劣化が生じていると判定された場合に、当該計測用感湿素子を非計測用に切り替えて加熱手段によって加熱クリーニングすると共に、他方の非計測用感湿素子を計測用に切り替えて計測を続ける加熱クリーニングステップを備えるようにしたものである。
【0012】
請求項4の発明に係る湿度センサの劣化診断方法は、第1の露点温度算出ステップで求めた第1の露点温度と、第2の露点温度算出ステップで求めた第2の露点温度とを比較して相対的高低差を求める高低差算出ステップと、相対的高低差と第2の閾値とを比較する比較ステップとを備え、劣化判定ステップは、第1の露点温度よりも第2の露点温度の方が低く、かつ、第2の閾値よりも相対的高低差の方が大きい場合に、計測環境雰囲気中の潮解性物質により計測用感湿素子にクリーニングが必要な程度の劣化が生じていると判定するようにしたものである。
【0013】
請求項5の発明に係る湿度センサの劣化診断方法は、劣化判定ステップで、計測用感湿素子に潮解性物質によりクリーニングが必要な程度の劣化が生じていると判定された場合に、当該計測用感湿素子を非計測用に切り替えて洗浄クリーニングを実施するよう報知すると共に、他方の非計測用感湿素子を計測用に切り替えて計測を続ける洗浄報知ステップを備えるようにしたものである。
【0014】
請求項6の発明に係る湿度センサの劣化診断方法は、計測環境雰囲気中に設置され、相対湿度及び温度を計測する計測用感湿素子及び感温素子と、計測用感湿素子及び感温素子の非計測期間中に計測用感湿素子の加熱クリーニングを行う加熱手段と、計測用感湿素子及び感温素子の非計測期間中に相対湿度及び温度を計測する非計測用感湿素子及び感温素子とを備える湿度センサの劣化診断方法であって、非計測用感湿素子及び感温素子の計測環境雰囲気中の相対湿度及び温度の計測値に基づき得られる露点温度を第1の露点温度として求める第1の露点温度算出ステップと、加熱手段による加熱中の計測用感湿素子及び感温素子の計測環境雰囲気中の相対湿度及び温度の計測値に基づき得られる露点温度を第2の露点温度として求める第2の露点温度算出ステップと、第1の露点温度と第2の露点温度の差に基づいて、計測用感湿素子にクリーニングが必要な程度の劣化が生じているかを判定する劣化判定ステップとからなるものである。
【0015】
請求項7の発明に係る湿度センサの劣化診断方法は、第1の露点温度算出ステップで求めた第1の露点温度と、第2の露点温度算出ステップで求めた第2の露点温度とを比較して相対的高低差を求める高低差算出ステップと、相対的高低差と第1の閾値とを比較する比較ステップとを備え、劣化判定ステップは、第1の露点温度よりも第2の露点温度の方が高く、かつ、第1の閾値よりも相対的高低差の方が大きい場合に、計測環境雰囲気中の有機溶剤により計測用感湿素子にクリーニングが必要な程度の劣化が生じていると判定するようにしたものである。
【0016】
請求項8の発明に係る湿度センサの劣化診断方法は、劣化判定ステップで、計測用感湿素子に有機溶剤によりクリーニングが必要な程度の劣化が生じていると判定された場合に、加熱手段によって加熱クリーニングする加熱クリーニングステップを備えるようにしたものである。
【0017】
請求項9の発明に係る湿度センサの劣化診断方法は、第1の露点温度算出ステップで求めた第1の露点温度と、第2の露点温度算出ステップで求めた第2の露点温度とを比較して相対的高低差を求める高低差算出ステップと、相対的高低差と第2の閾値とを比較する比較ステップとを備え、劣化判定ステップは、第1の露点温度よりも第2の露点温度の方が低く、かつ、第2の閾値よりも相対的高低差の方が大きい場合に、計測環境雰囲気中の潮解性物質により計測用感湿素子にクリーニングが必要な程度の劣化が生じていると判定するようにしたものである。
【0018】
請求項10の発明に係る湿度センサの劣化診断方法は、劣化判定ステップで、計測用感湿素子に潮解性物質によりクリーニングが必要な程度の劣化が生じていると判定された場合に、洗浄クリーニングを実施するよう報知する洗浄報知ステップを備えるようにしたものである。
【0019】
請求項11の発明に係る湿度センサの劣化診断方法は、第1の露点温度の代わりに、計測用感湿素子及び感温素子の計測環境雰囲気中の相対湿度及び温度の計測値に基づき得られる水蒸気圧を用い、かつ、第2の露点温度の代わりに、加熱手段による加熱中の非計測用感湿素子及び感温素子の計測環境雰囲気中の相対湿度及び温度の計測値に基づき得られる水蒸気圧を用いるようにしたものである。
【0020】
請求項12の発明に係る湿度センサの劣化診断方法は、第1の露点温度の代わりに、非計測用感湿素子及び感温素子の計測環境雰囲気中の相対湿度及び温度の計測値に基づき得られる水蒸気圧を用い、かつ、第2の露点温度の代わりに、加熱手段による加熱中の計測用感湿素子及び感温素子の計測環境雰囲気中の相対湿度及び温度の計測値に基づき得られる水蒸気圧を用いるようにしたものである。
【発明の効果】
【0021】
請求項1及び請求項6の発明によれば、通常計測中の第1の露点温度と加熱中の第2の露点温度の差に基づいて、感湿素子にクリーニングが必要な程度の劣化が生じているか自己診断することができる。また、湿度センサが元々備えている感湿素子、感温素子及び加熱手段を利用して自己診断できるので、分析者及び他の分析用の器具は不要である。
【0022】
請求項2及び請求項7の発明によれば、感湿素子が有機溶剤により劣化すると通常計測中に比べて加熱中の湿度計測値が低い方にシフトするが、感湿素子が加熱されることにより有機溶剤の影響がなくなるので通常計測中の第1の露点温度よりも加熱中の第2の露点温度の方が高くなるという傾向を判定するようにしたので、感湿素子を劣化させる因子が計測環境雰囲気中の有機溶剤であると推定することができる。
【0023】
請求項3及び請求項8の発明によれば、感湿素子を劣化させる因子が有機溶剤であると推定された場合に加熱手段を働かせて加熱クリーニングを行うようにしたので、適切な時期に適切なクリーニングを行うことができる。
【0024】
請求項4及び請求項9の発明によれば、感湿素子が潮解性物質により劣化すると通常計測中に比べて加熱中の湿度計測値が高い方にシフトするが、感湿素子が加熱されることにより潮解性物質の影響がある程度抑えられるので通常計測中の第1の露点温度よりも加熱中の第2の露点温度の方が低くなるという傾向を判定するようにしたので、感湿素子を劣化させる因子が計測環境雰囲気中の潮解性物質であると推定することができる。
【0025】
請求項5及び請求項10の発明によれば、感湿素子を劣化させる因子が潮解性物質であると推定された場合に、加熱クリーニングよりも効果的に劣化から回復させることができる洗浄クリーニングを行うよう報知するようにしたので、適切な時期に適切なクリーニングを行うことができる。
【0026】
請求項11及び請求項12の発明によれば、露点温度の代わりに水蒸気圧を用いても、感湿素子の劣化を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の実施の形態1に係る湿度計測装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す湿度計測装置の具体的構成例を示し、図2(a),(b)は湿度計測装置全体の平面図、図2(c)は湿度センサの側面図である。
【図3】実施の形態1の劣化診断処理部の構成を示すブロック図である。
【図4】実施の形態1の劣化診断処理部による劣化診断処理を説明する説明図である。
【図5】実施の形態1の劣化診断処理部の動作を示すフローチャートである。
【図6】この発明の実施の形態2に係る湿度計測装置の劣化判定処理を説明する説明図である。
【図7】実施の形態2の劣化診断処理部の動作を示すフローチャートであり、図5に示すステップST7のサブルーチンである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る湿度計測装置の構成を示すブロック図である。図1に示す湿度計測装置は、計測環境雰囲気中に設置されて相対湿度を計測する湿度センサ1a,1bを備え、この湿度センサ1a,1bの劣化診断を行うものである。図2(a),(b)は湿度計測装置の具体的構成例を示す平面図である。湿度計測装置は、図2(a)に示すように装置本体と一体に湿度センサ1a,1bを備える構成であっても、図2(b)に示すように装置本体と湿度センサ1a,1bとをケーブル線で接続する構成であってもよい。なお。図2(a),(b)では湿度センサ1a,1bがカバーで覆われている。
【0029】
湿度センサ1a,1bは、相対湿度を計測する湿度エレメント(感湿素子)2a,2bと、温度を計測する温度エレメント(感温素子)3a,3bと、湿度エレメント2a,2bを加熱クリーニングするためのヒータ(加熱手段)4a,4bとをそれぞれ備える。図2(c)は湿度センサ1aの一例を示す側面図である。図2(c)に示す湿度センサ1aは、温度エレメント3a及びヒータ4aを白金抵抗素子等を用いて一体に構成しているが、別体であってもよい。この温度エレメント3a及びヒータ4aが、湿度エレメント2aの感湿面31とは逆側の面に接着剤等で固定されている。湿度エレメント2aはリード線32によって湿度入力変換部5に接続して湿度検出信号を出力する。また、温度エレメント3a及びヒータ4aはリード線33によって温度入力変換部6及びヒータ駆動部11に接続して、温度検出信号を出力すると共にヒータ駆動のための制御信号を受ける。図示は省略するが、湿度センサ1bも湿度センサ1aと同様の構成である。
【0030】
湿度入力変換部5は、湿度エレメント2a,2bが出力する湿度検出信号を電圧信号に変換し、温度入力変換部6は、温度エレメント3a,3bが出力する温度検出信号を電圧信号に変換し、入力切替部7が何れかの電圧信号を選択的にA/D変換部8へ出力する。A/D変換部8は、アナログ信号である電圧信号をデジタル信号に変換して、制御部9へ出力する。制御部9は、湿度及び温度のデジタル信号を用いて所定の換算を行って湿度計測値(以下、単に湿度と言う場合は相対湿度を指す)及び温度計測値を求める。なお、本実施の形態ではA/D変換部8を湿度入力信号及び温度入力信号で兼用するために入力切替部7で入力を切り替えるように構成したが、入力切替部7を用いずそれぞれにA/D変換部を備えるように構成してもよい。
【0031】
制御部9は、湿度計測装置の湿度計測及び劣化診断の処理内容を記述したプログラムを格納したメモリと、このプログラムをメモリから読み出して実行するCPUから構成される。制御部9は、A/D変換部8から入力される湿度計測値及び温度計測値を表示部12に表示すると共に、出力部13からデータ出力を行う。また、制御部9は、スイッチ等で構成された設定入力部14をユーザが操作して設定した設定条件に応じて、例えば湿度計測を開始及び終了させたり、加熱クリーニングを実施したり、劣化診断を実施したりする。
【0032】
タイマ部10は、制御部9から指示された所定時間、ヒータ駆動部11を駆動させてヒータ4を加熱させる。
【0033】
次に、本実施の形態1に係る湿度計測装置の劣化診断処理について説明する。なお、以下の説明において、湿度センサ1a,1bを区別する必要のないときは湿度センサ1と称する。同様に、湿度エレメント2a,2bを湿度エレメント2と称し、温度エレメント3a,3bを温度エレメント3と称し、ヒータ4a,4bをヒータ4と称する。
図3は、実施の形態1に係る湿度計測装置の劣化診断処理部20の構成を示すブロック図である。本実施の形態1の劣化診断処理部20は第1の露点算出部21、第2の露点算出部22及び劣化判定部23で構成され、加熱制御部24及び洗浄報知部25は含まないものとする。なお、加熱制御部24及び洗浄報知部25の詳細は、後述する実施の形態2で説明する。この劣化診断処理部20は図1に示す制御部9に相当し、後述する劣化診断の処理内容を記述したプログラムをCPUが実行することによって劣化診断処理部20内部の各部として機能する。
【0034】
図4は、実施の形態1の劣化診断処理部20の劣化診断処理を説明する説明図である。図4に示す空気線図において、縦軸は水蒸気圧を示し、横軸は温度を示し、空気線図中には相対湿度5%、7.9%、10%、50%及び100%の飽和水蒸気圧曲線を示す。露点温度(適宜、露点とも称す)は、相対湿度と温度から求めることができ、圧力変化のない環境で加湿及び除湿が行われない場合、相対湿度又は温度が変化しても露点が一定であることは周知の通りである。例えば、図4の相対湿度50%、温度25℃の加熱前ポイントAにおいては、露点は13.9℃となる。この状態で湿度エレメント2をヒータ4で加熱し、湿度エレメント2の温度を60℃まで上昇させたとする。このとき、湿度エレメント2の計測する湿度計測値は7.9%になり、露点演算値は湿度エレメント2を加湿する前の13.9℃と同じ値になるはずである(加熱中ポイントB1)。これは、湿度エレメント2加熱前後で露点は変わっていない(即ち空気中の水分量は変化していない)ためである。
【0035】
一般的に、湿度エレメント2は環境の影響を受けて劣化しやすく、特に有機溶剤及び潮解性物質(例えば硫化物)の付着等により湿度計測値がシフトする。よって、湿度エレメント2は温度エレメント3に比べて劣化しやすい。このことから、露点の値が加熱前後で変化している場合、原因は温度エレメント3の劣化ではなく湿度エレメント2の劣化であると推定できる。
湿度エレメント2が薬品等により劣化しており、出力が高めにシフトしている場合、加熱前後の露点は一致せず、加熱前の露点に比べて加熱中の露点が高くなる。例えば、湿度エレメント2の温度を加熱前ポイントAの25℃から60℃まで上昇させると、劣化によって湿度計測値が7.9%より高い10%にシフトしているために、加熱前ポイントAの露点に比べて加熱中ポイントB2の露点が高くなる。
同様に、湿度エレメント2が薬品等により劣化しており、出力が高めにシフトしている場合、加熱前後の露点は一致せず、加熱前の露点に比べて加熱中の露点が低くなる。例えば、湿度エレメント2の温度を加熱前ポイントAの25℃から60℃まで上昇させると、劣化によって湿度計測値が7.9%より低い5%にシフトしているために、加熱前ポイントAの露点に比べて加熱中ポイントB3の露点が低くなる。
【0036】
このように、加熱前の露点と加熱中の露点を比較することにより、湿度エレメント2の湿度計測値が高くなっているか低くなっているかがわかり、湿度エレメント2の劣化を判定することができる。本実施の形態では、加熱前ポイントA及び加熱中ポイントB1(又はB2,B3)を湿度センサ1a,1bで同時に計測する。そして、加熱前ポイントAの露点に相当する第1の露点温度を第1の露点算出部21が算出し、加熱中ポイントB1,B2,B3の露点に相当する第2の露点温度を第2の露点算出部22が算出する。そして、劣化判定部23が、第1の露点温度と第2の露点温度を比較して、湿度エレメント2の劣化有無を判定する。なお、劣化診断処理における加熱は、加熱クリーニングのための加熱に比べて低温で足りるため、湿度エレメント2に加熱クリーニングほどの劣化を与えない。
【0037】
次に、劣化診断処理部20の動作を説明する。図5は、劣化診断処理部20の動作を示すフローチャートである。劣化診断処理は、制御部9がユーザから開始の指示を受けて開始してもよいし、制御部9が定期的に開始してもよい。劣化診断処理が開始されると、先ず、湿度センサ1a(計測用感湿素子及び感温素子)によって計測された計測雰囲気中の湿度計測値及び温度計測値を、第1の露点算出部21が取得する(ステップST1)。また、制御部9がヒータ4bによって湿度エレメント2bを所定温度(例えば60℃)に加熱し、第2の露点算出部22が湿度センサ1b(非計測用感湿素子及び感温素子)の計測した湿度計測値及び温度計測値を取得する(ステップST2)。ステップST1及びステップST2はどちらが先でもよいし、あるいは、湿度測定装置が湿度入力変換部5、温度入力変換部6、入力切替部7及びA/D変換部8を湿度センサ1a,1b毎に備えている場合にはステップST1及びステップST2を同時に行ってもよい。
【0038】
続いて、第1の露点算出部21がステップST1で取得した湿度センサ1aの湿度計測値及び温度計測値から第1の露点温度を算出し(ステップST4、第1の露点温度算出ステップ)、第2の露点算出部22がステップST3で取得した加熱中の湿度センサ1bの湿度計測値及び温度計測値から第2の露点温度を算出する(ステップST5、第2の露点温度算出ステップ)。続いて、劣化判定部23が、第1の露点温度と第2の露点温度を比較して(ステップST6、劣化判定ステップ)、差がなければ(ステップST6“Yes”)、湿度エレメント2は劣化していないと判断して劣化診断処理を終了する。なお、第1の露点温度と第2の露点温度は完全に一致した場合だけでなく略一致であってもよい。
【0039】
他方、第1の露点温度と第2の露点温度に差があれば(ステップST6“No”)、劣化判定部23がステップST7の劣化判定処理で、湿度エレメント2が劣化していることを示す判定結果を表示部12又は出力部13へ出力する。湿度センサ1a,1bは同じ計測環境雰囲気中に置かれているので、相対湿度及び温度が変化しても湿度センサ1a,1bの計測値も同じ様に推移するため、第1の露点温度及び第2の露点温度も同じになるはずである。しかし、湿度エレメント2aが雰囲気中の成分により劣化した場合には、求められる第1の露点温度は真の値からずれが生じる。これに対して、湿度エレメント2bは加熱により劣化状態が回復しているので、求められる第2の露点温度は真の値に近く、第1の露点温度と第2の露点温度との差が加熱していない湿度エレメント2aの劣化の程度を示すことになる。従って、加熱していない湿度エレメント2aにクリーニングが必要な程度の劣化が生じているかを自己診断することができる。
【0040】
なお、ステップST7の劣化判定処理において、劣化判定部23が湿度エレメント2の湿度計測値が高い値にシフトしているか、低い値にシフトしているかを判断して、判定結果に含めてもよい。また、劣化の判定結果を受けて、制御部9がタイマ部10及びヒータ駆動部11を制御してヒータ4に加熱クリーニングを実施させてもよい。
【0041】
また、加熱する湿度エレメントを、湿度エレメント2bから湿度エレメント2aに切り替えて一連の劣化診断処理を行えば、湿度エレメント2aに劣化が生じているかを自己診断することができる。また、劣化診断処理のためにどちらか一方の湿度センサの通常の計測を中断して加熱しても、他方の湿度センサは通常の計測を続行させておくことができるため、途切れることなく連続して湿度計測を実施可能である。
【0042】
以上のように、実施の形態1によれば、計測雰囲気中に設置され、湿度エレメント2a,2b及び温度エレメント3a,3bを有して、当該2個の湿度エレメント2a,2bを交互に計測用又は非計測用に切り替えて、一方の計測用湿度エレメント及び温度エレメントは計測期間中に相対湿度及び温度を計測すると共に、他方の非計測用湿度エレメント及び温度エレメントは前記一方の計測用湿度エレメント及び温度エレメントの計測期間中に加熱クリーニングを行うことが可能なヒータ4a,4bを備える湿度センサの劣化診断方法であって、湿度計測装置の第1の露点算出部21が、計測用湿度エレメント及び温度エレメントの計測環境雰囲気中の相対湿度及び温度の計測値に基づき得られる露点温度を第1の露点温度として求める第1の露点温度算出ステップと、第2の露点算出部22が、ヒータ4a又はヒータ4bによる加熱中の非計測用湿度エレメント及び温度エレメントの計測環境雰囲気中の相対湿度及び温度の計測値に基づき得られる露点温度を第2の露点温度として求める第2の露点温度算出ステップと、劣化判定部23が、第1の露点温度と第2の露点温度の差に基づいて、計測用湿度エレメントにクリーニングが必要な程度の劣化が生じているかを判定する劣化判定ステップを行うように構成した。2個の湿度エレメント2は同一計測環境雰囲気に置かれているので、相対湿度及び温度が変化しても露点温度は同じはずであるが、計測用の湿度エレメント2は雰囲気中の成分により劣化し、求められる第1の露点温度は真の値からずれが生じるのに対し、非計測用の湿度エレメント2は加熱により劣化状態が回復しているので求められる第2の露点温度は真の値に近く、第1の露点温度と第2の露点温度との差は計測用の湿度エレメント2の劣化の程度を示しているので、計測用の湿度エレメント2にクリーニングが必要な程度の劣化が生じているかを自己診断することができる。また、湿度センサ1に元々備えられた部材である湿度エレメント2、温度エレメント3及びヒータ4を利用して、自己の劣化診断が可能であり、分析者及び他の分析用の器具は不要である。
【0043】
実施の形態2.
本実施の形態においても、図1〜5を援用して、湿度計測装置による湿度センサ1a,1bの劣化診断方法を説明する。以下の説明においても、上記実施の形態1と同様に、湿度センサ1a,1bを区別する必要がないときは湿度センサ1と称することとし、湿度センサ1内の各部についても同様とする。
上記実施の形態1で説明した通り、湿度エレメント2は計測環境雰囲気の影響を受けて劣化しやすく、特に有機溶剤及び潮解性物質の付着等により湿度計測値がシフトする。そこで、本実施の形態2では、このシフトの性質を利用して、湿度エレメント2の劣化原因が有機溶剤か潮解性物質かを判定する。
【0044】
加熱前の露点と比較して加熱中の露点が高くなっている場合、即ち図4に示す加熱前ポイントAから加熱中ポイントB1に移行した場合、湿度エレメント2の劣化によって、湿度計測値が加熱前に低く計測されていたか、加熱中に低く計測されていたことになる。通常、加熱すると相対湿度は下がることから、加熱中の相対湿度計測は加熱前より低湿側で行われていることになる。そこで、横軸に相対的な基準湿度をとり、縦軸に加熱前後の湿度計測値のシフト量をとったグラフを図6に示す。図6に示すシフトC、即ち高湿側よりも低湿側のシフト量が大きくなる傾向は、有機溶剤による劣化で見られる。
同様に、加熱前の露点と比較して加熱中の露点が低くなっている場合、即ち図4に示す加熱前ポイントAから加熱中ポイントB3に移行した場合、湿度エレメント2の劣化によって、湿度計測値が加熱前に高く計測されていたか、加熱中に低く計測されていたことになる。図6に示すシフトD、即ち高湿側より低湿側のシフト量が小さくなる傾向は、潮解性物質の付着による劣化で見られる。
【0045】
なお、有機溶剤が劣化原因の場合は、加熱クリーニングによって湿度エレメント2を回復させることができる。一方、潮解性物質が原因の場合は、加熱クリーニングを行っても湿度エレメント2を完全に回復させることはできず、完全に回復させるためには洗浄クリーニングを行う必要がある。
【0046】
このように、湿度エレメント2が計測環境雰囲気中の有機溶剤により劣化すると湿度計測値は低い値へシフトするが、第2の露点温度算出のために湿度エレメント2が加熱されることにより有機溶剤の影響がなくなる。従って、加熱前の湿度計測値及び温度計測値から算出した第1の露点温度よりも、加熱中の湿度計測値及び温度計測値から算出した第2の露点温度の方が高くなる。そこで、実施の形態2では、劣化診断処理部20の劣化判定部23がこの場合の劣化因子を有機溶剤と推定する。
他方、湿度エレメント2が計測環境雰囲気中の潮解性物質により劣化すると湿度計測値は高い値へシフトするが、湿度エレメント2が加熱されることにより、このシフトはある程度抑えられるため、第1の露点温度よりも第2の露点温度の方が低くなる。そこで、劣化判定部23が、この場合の劣化因子を潮解性物質と推定する。
【0047】
また、劣化診断処理部20は、第1の露点算出部21、第2の露点算出部22及び劣化判定部23に加えて、図3に示す加熱制御部24及び洗浄報知部25を新たに備える構成とする。この加熱制御部24は、劣化判定部23が出力する判定結果に従って、タイマ部10及びヒータ駆動部11を制御して、ヒータ4に、劣化が生じていると判定された湿度エレメント2の加熱クリーニングを実施させる。また、洗浄報知部25は、劣化判定部23が出力する判定結果に従って、表示部12又は出力部13に、劣化が生じていると判定された湿度エレメント2の洗浄クリーニングを行う必要があることを表示又は出力する。
【0048】
次に、劣化診断処理部20の動作を説明する。図7は、実施の形態2の劣化診断処理部20の動作を示すフローチャートであり、図5のステップST7のサブルーチンである。湿度計測装置はステップST6までの動作を上記実施の形態1と同様に行い、ステップST6において、劣化判定部23が第1の露点温度と第2の露点温度を比較して第1の露点温度と第2の露点温度に差があり劣化が生じていると判定した場合に、図7に示すステップST7−1〜ステップST7−8の劣化判定を行う。
【0049】
劣化判定部23は、第1の露点温度と第2の露点温度を比較して、相対的な高低差を求める(ステップST7−1、高低差算出ステップ)。続いて、劣化判定部23は、第1の露点温度よりも第2の露点温度の方が高い場合には有機溶剤による劣化と判断し(ステップST7−2“Yes”)、この劣化が加熱クリーニングが必要な程度か否か判定するために相対的高低差と第1の閾値を比較する(ステップST7−3、比較ステップ)。そして、劣化判定部23は、第1の露点温度よりも第2の露点温度の方が高く、かつ、第1の閾値よりも相対的高低差の方が大きい場合に、通常の計測を行っている湿度エレメント2に計測環境雰囲気中の有機溶剤によりクリーニングが必要な程度の劣化が生じていると判定して、加熱制御部24へ有機溶剤劣化サインを出力する(ステップST7−4、劣化判定ステップ)。
【0050】
劣化診断処理の間、湿度エレメント2aが通常の計測を行って、湿度エレメント2bが加熱中だったとする。その場合、加熱制御部24は、有機溶剤劣化サインを受け付けると、湿度エレメント2bの加熱を終了して放熱した後で通常の計測用に切り替える。続いて加熱制御部24は、通常の計測を行っている湿度エレメント2aを非計測に切り替えて、タイマ部10及びヒータ駆動部11を制御して加熱クリーニングを実施する(ステップST7−5、加熱クリーニングステップ)。湿度エレメントの切り替えにより、通常の計測を連続して行いつつ、劣化診断処理及び加熱クリーニングも実施できる。
なお、ステップST7−3において相対的高低差が第1の閾値未満であった場合には、劣化判定部23が加熱クリーニングが必要な程度の劣化ではないと判定して、一連の劣化診断処理を終了する。
【0051】
他方、第1の露点温度よりも第2の露点温度の方が低い場合には潮解性物質による劣化と判断し(ステップST7−3“No”)、劣化判定部23は続いて、この劣化が洗浄クリーニングが必要な程度か否か判定するために相対的高低差と第2の閾値を比較する(ステップST7−6、比較ステップ)。そして、劣化判定部23は、第1の露点温度よりも第2の露点温度の方が低く、かつ、第2の閾値よりも相対的高低差の方が大きい場合に、湿度エレメント2は計測環境雰囲気中の潮解性物質によりクリーニングが必要な程度の劣化が生じていると判定して、洗浄報知部25へ潮解性物質劣化サインを出力する(ステップST7−7、劣化判定ステップ)。
【0052】
劣化診断処理の間、上記同様、湿度エレメント2aが通常の計測を行って、湿度エレメント2bが加熱中だったとする。その場合、洗浄報知部25は、潮解性物質劣化サインを受け付けると、表示部12に洗浄クリーニングを行う旨を表示させるか、出力部13から洗浄クリーニングを行う旨のデータ出力を行わせるかして、通常の計測を行っている湿度エレメント2aについての洗浄クリーニングの必要性を報知する(ステップST7−8、洗浄報知ステップ)。このとき、洗浄報知部25は、湿度エレメント2bの加熱を終了して放熱した後で通常の計測用に切り替えると共に、通常の計測を行っている湿度エレメント2aを非計測用に切り替えた後で、湿度エレメント2aについての洗浄クリーニングの必要性を報知してもよい。湿度エレメントの切り替えにより、通常の計測を連続して行いつつ、劣化診断処理及び洗浄クリーニングも実施できる。
なお、ステップST7−6において相対的高低差が第2の閾値未満であった場合には、劣化判定部23が洗浄クリーニングが必要な程度の劣化ではないと判定して、一連の劣化診断処理を終了する。
【0053】
以上のように、実施の形態2によれば、湿度エレメント2が計測環境雰囲気中の有機溶剤により劣化すると湿度計測値は低い方にシフトするが、湿度エレメント2がヒータ4に加熱されることにより有機溶剤の影響がなくなるので、第1の露点算出部21が算出する通常計測中の第1の露点温度よりも第2の露点算出部22が算出する加熱中の第2の露点温度の方が高くなる。これを利用して、劣化判定部23を、第1の露点温度よりも第2の露点温度の方が高く、かつ、第1の閾値よりも第1の露点温度と第2の露点温度の相対的高低差の方が大きい場合に、計測環境雰囲気中の有機溶剤により通常計測中の湿度エレメント2にクリーニングが必要な程度の劣化が生じていると判定するように構成した。このため、湿度センサ1の湿度エレメント2を劣化させる因子が計測環境雰囲気中の有機溶剤であると推定することができる。
【0054】
また、劣化判定部23が、通常計測中の湿度センサ1の湿度エレメント2に、計測環境雰囲気中の有機溶剤によりクリーニングが必要な程度の劣化が生じていると判定した後に、加熱制御部24が、劣化診断のために加熱していた湿度センサを通常の計測用に切り替え、劣化が生じていると判定された通常計測中の湿度センサをヒータ4によって加熱クリーニングさせるようにしたので、適切な時期に適切なクリーニングを行うことができる。
【0055】
また、湿度エレメント2が計測環境雰囲気中の潮解性物質により劣化すると湿度計測値は高い方にシフトするが、湿度エレメント2がヒータ4に加熱されることにより潮解性物質の影響がある程度抑えられるので、第1の露点算出部21が算出する通常計測中の第1の露点温度よりも第2の露点算出部22が算出する加熱中の第2の露点温度の方が低くなる。これを利用して、劣化判定部23を、第2の閾値よりも第1の露点温度と第2の露点温度の相対的高低差の方が大きい場合に、計測環境雰囲気中の潮解性物質により湿度エレメント2にクリーニングが必要な程度の劣化が生じていると判定するように構成した。このため、湿度センサ1の湿度エレメント2を劣化させる因子が計測環境雰囲気中の潮解性物質であると推定することができる。
【0056】
また、劣化判定部23が、通常計測中の湿度センサ1の湿度エレメント2に、計測環境雰囲気中の潮解性物質によりクリーニングが必要な程度の劣化が生じていると判定した後に、洗浄報知部25が、劣化診断のために加熱していた湿度センサを通常の計測用に切り替えると共に、劣化が生じていると判定された通常計測中の湿度センサについて、加熱クリーニングよりも効果的に劣化から回復させることができる洗浄クリーニングを行うよう報知するようにしたので、適切な時期に適切なクリーニングを行うことができる。
【0057】
なお、上記実施の形態1,2では、湿度センサ1aと湿度センサ1bを通常計測用と劣化診断加熱用(非計測用)に切り替えるようにしたが、どちらか一方の湿度センサを通常計測専用(計測用)にし、他方を劣化診断専用(非計測用)に構成してもよい。例えば、湿度センサ1aを通常計測専用にした場合、湿度センサ1aは湿度エレメント2a、温度エレメント3a及びヒータ4aを備えるように構成し、他方の劣化診断専用の湿度センサ1bは、湿度エレメント2b及び温度エレメント3bのみ備えるように構成し、ヒータ4bは必要ない。
湿度計測装置は、劣化診断処理を開始すると、通常計測専用の湿度センサ1aは通常計測を中断してヒータ4aの加熱を行い、加熱中の相対湿度計測値及び温度計測値から第2の露点温度を算出する。湿度計測装置は、加熱中の湿度センサ1aの計測値取得と略同時に劣化診断専用の湿度センサ1bの計測値も取得して、湿度センサ1bの計測値から第1の露点温度を算出する。第1の露点温度と第2の露点温度が一致しなければ、加熱されていない劣化診断専用の湿度センサ1bが真の値からずれていることになる。従って、湿度センサ1bと同一環境雰囲気中にある通常計測専用の湿度センサ1aにも、劣化診断のために加熱したのである程度の劣化回復はしているにしろ、同様の劣化が生じていると推定できる。このため、上記実施の形態1,2と同様の方法によって、通常計測専用の湿度センサ1aの劣化診断が可能となる。さらに、湿度計測装置を、劣化原因が有機溶剤であれば通常計測専用の湿度センサ1aの加熱クリーニングを実施し、劣化原因が潮解性物質であれば通常計測専用の湿度センサ1aに洗浄クリーニングが必要である旨を報知するように構成してもよい。
【0058】
また、上記実施の形態1,2では、第1及び第2の露点温度を比較して劣化判定を行うようにしたが、露点温度に代えて第1及び第2の水蒸気圧を算出して比較することにより劣化判定を行うよう構成してもよい。これは、露点温度と水蒸気圧が1対1の関係にあるためである。この構成の場合でも、上記実施の形態1,2と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0059】
1a,1b 湿度センサ
2a,2b 湿度エレメント(感湿素子)
3a,3b 温度エレメント(感温素子)
4a,4b ヒータ(加熱手段)
5 湿度入力変換部
6 温度入力変換部
7 入力切替部
8 A/D変換部
9 制御部
10 タイマ部
11 ヒータ駆動部
12 表示部
13 出力部
14 設定入力部
20 劣化診断処理部
21 第1の露点算出部
22 第2の露点算出部
23 劣化判定部
24 加熱制御部
25 洗浄報知部
31 感湿層
32 リード線
33 リード線
A 加熱前ポイント
B1,B2,B3 加熱中ポイント
C,D シフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
計測環境雰囲気中に設置され、感湿素子及び感温素子を2個ずつ有して、当該2個の感湿素子を交互に計測用又は非計測用に切り替えて、一方の計測用感湿素子及び感温素子は計測期間中に相対湿度及び温度を計測すると共に、他方の非計測用感湿素子及び感温素子は前記一方の計測用感湿素子及び感温素子の計測期間中に加熱クリーニングを行うことが可能な加熱手段を備える湿度センサの劣化診断方法であって、
前記計測用感湿素子及び感温素子の計測環境雰囲気中の相対湿度及び温度の計測値に基づき得られる露点温度を第1の露点温度として求める第1の露点温度算出ステップと、
前記加熱手段による加熱中の前記非計測用感湿素子及び感温素子の計測環境雰囲気中の相対湿度及び温度の計測値に基づき得られる露点温度を第2の露点温度として求める第2の露点温度算出ステップと、
前記第1の露点温度と前記第2の露点温度の差に基づいて、前記計測用感湿素子にクリーニングが必要な程度の劣化が生じているかを判定する劣化判定ステップとからなる湿度センサの劣化診断方法。
【請求項2】
請求項1に記載の湿度センサの劣化診断方法において、
第1の露点温度算出ステップで求めた第1の露点温度と、第2の露点温度算出ステップで求めた第2の露点温度とを比較して相対的高低差を求める高低差算出ステップと、
前記相対的高低差と第1の閾値とを比較する比較ステップとを備え、
劣化判定ステップは、前記第1の露点温度よりも前記第2の露点温度の方が高く、かつ、前記第1の閾値よりも前記相対的高低差の方が大きい場合に、計測環境雰囲気中の有機溶剤により計測用感湿素子にクリーニングが必要な程度の劣化が生じていると判定することを特徴とする湿度センサの劣化診断方法。
【請求項3】
請求項2に記載の湿度センサの劣化診断方法において、
劣化判定ステップで、計測用感湿素子に有機溶剤によりクリーニングが必要な程度の劣化が生じていると判定された場合に、当該計測用感湿素子を非計測用に切り替えて加熱手段によって加熱クリーニングすると共に、他方の非計測用感湿素子を計測用に切り替えて計測を続ける加熱クリーニングステップを備えることを特徴とする湿度センサの劣化診断方法。
【請求項4】
請求項1に記載の湿度センサの劣化診断方法において、
第1の露点温度算出ステップで求めた第1の露点温度と、第2の露点温度算出ステップで求めた第2の露点温度とを比較して相対的高低差を求める高低差算出ステップと、
前記相対的高低差と第2の閾値とを比較する比較ステップとを備え、
劣化判定ステップは、前記第1の露点温度よりも前記第2の露点温度の方が低く、かつ、前記第2の閾値よりも前記相対的高低差の方が大きい場合に、計測環境雰囲気中の潮解性物質により計測用感湿素子にクリーニングが必要な程度の劣化が生じていると判定することを特徴とする湿度センサの劣化診断方法。
【請求項5】
請求項4に記載の湿度センサの劣化診断方法において、
劣化判定ステップで、計測用感湿素子に潮解性物質によりクリーニングが必要な程度の劣化が生じていると判定された場合に、当該計測用感湿素子を非計測用に切り替えて洗浄クリーニングを実施するよう報知すると共に、他方の非計測用感湿素子を計測用に切り替えて計測を続ける洗浄報知ステップを備えることを特徴とする湿度センサの劣化診断方法。
【請求項6】
計測環境雰囲気中に設置され、
相対湿度及び温度を計測する計測用感湿素子及び感温素子と、
前記計測用感湿素子及び感温素子の非計測期間中に前記計測用感湿素子の加熱クリーニングを行う加熱手段と、
前記計測用感湿素子及び感温素子の非計測期間中に相対湿度及び温度を計測する非計測用感湿素子及び感温素子とを備える湿度センサの劣化診断方法であって、
前記非計測用感湿素子及び感温素子の計測環境雰囲気中の相対湿度及び温度の計測値に基づき得られる露点温度を第1の露点温度として求める第1の露点温度算出ステップと、
前記加熱手段による加熱中の前記計測用感湿素子及び感温素子の計測環境雰囲気中の相対湿度及び温度の計測値に基づき得られる露点温度を第2の露点温度として求める第2の露点温度算出ステップと、
前記第1の露点温度と前記第2の露点温度の差に基づいて、前記計測用感湿素子にクリーニングが必要な程度の劣化が生じているかを判定する劣化判定ステップとからなる湿度センサの劣化診断方法。
【請求項7】
請求項6に記載の湿度センサの劣化診断方法において、
第1の露点温度算出ステップで求めた第1の露点温度と、第2の露点温度算出ステップで求めた第2の露点温度とを比較して相対的高低差を求める高低差算出ステップと、
前記相対的高低差と第1の閾値とを比較する比較ステップとを備え、
劣化判定ステップは、前記第1の露点温度よりも前記第2の露点温度の方が高く、かつ、前記第1の閾値よりも前記相対的高低差の方が大きい場合に、計測環境雰囲気中の有機溶剤により計測用感湿素子にクリーニングが必要な程度の劣化が生じていると判定することを特徴とする湿度センサの劣化診断方法。
【請求項8】
請求項7に記載の湿度センサの劣化診断方法において、
劣化判定ステップで、計測用感湿素子に有機溶剤によりクリーニングが必要な程度の劣化が生じていると判定された場合に、加熱手段によって加熱クリーニングする加熱クリーニングステップを備えることを特徴とする湿度センサの劣化診断方法。
【請求項9】
請求項6に記載の湿度センサの劣化診断方法において、
第1の露点温度算出ステップで求めた第1の露点温度と、第2の露点温度算出ステップで求めた第2の露点温度とを比較して相対的高低差を求める高低差算出ステップと、
前記相対的高低差と第2の閾値とを比較する比較ステップとを備え、
劣化判定ステップは、前記第1の露点温度よりも前記第2の露点温度の方が低く、かつ、前記第2の閾値よりも前記相対的高低差の方が大きい場合に、計測環境雰囲気中の潮解性物質により計測用感湿素子にクリーニングが必要な程度の劣化が生じていると判定することを特徴とする湿度センサの劣化診断方法。
【請求項10】
請求項9に記載の湿度センサの劣化診断方法において、
劣化判定ステップで、計測用感湿素子に潮解性物質によりクリーニングが必要な程度の劣化が生じていると判定された場合に、洗浄クリーニングを実施するよう報知する洗浄報知ステップを備えることを特徴とする湿度センサの劣化診断方法。
【請求項11】
請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載の湿度センサの劣化診断方法において、
第1の露点温度の代わりに、計測用感湿素子及び感温素子の計測環境雰囲気中の相対湿度及び温度の計測値に基づき得られる水蒸気圧を用い、かつ、第2の露点温度の代わりに、加熱手段による加熱中の非計測用感湿素子及び感温素子の計測環境雰囲気中の相対湿度及び温度の計測値に基づき得られる水蒸気圧を用いることを特徴とする湿度センサの劣化診断方法。
【請求項12】
請求項6から請求項10のうちのいずれか1項記載の湿度センサの劣化診断方法において、
第1の露点温度の代わりに、非計測用感湿素子及び感温素子の計測環境雰囲気中の相対湿度及び温度の計測値に基づき得られる水蒸気圧を用い、かつ、第2の露点温度の代わりに、加熱手段による加熱中の計測用感湿素子及び感温素子の計測環境雰囲気中の相対湿度及び温度の計測値に基づき得られる水蒸気圧を用いることを特徴とする湿度センサの劣化診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−237130(P2010−237130A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−87202(P2009−87202)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)
【Fターム(参考)】