説明

湿式塗装ブース循環水の処理方法

【課題】湿式塗装ブース循環水にフェノール系樹脂、凝結剤、及びカチオン性の疎水性ポリマーを添加した後に浮上分離により余剰塗料を分離し、分離された余剰塗料を更に固液分離処理する方法において、浮上分離により含水率や泡含有率が低く脱水性に優れた余剰塗料を得、その後の固液分離処理効率を改善する。
【解決手段】カチオン性の疎水性ポリマーを添加した後に更にアニオン性ポリマーを添加して浮上分離する。好ましくは、湿式塗装ブース循環水にフェノール系樹脂及び凝結剤を添加した後、カチオン性の疎水性ポリマーを添加し、その後浮上装置で浮上分離により余剰塗料を分離するにあたり、アニオン性ポリマーを浮上装置に添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式塗装ブース循環水にフェノール系樹脂、凝結剤、及びカチオン性の疎水性ポリマーを添加した後に浮上分離により余剰塗料を分離し、分離された余剰塗料を更に固液分離処理する湿式塗装ブース循環水の処理方法に係り、特に、この方法において、浮上分離により分離された余剰塗料の脱水性及び余剰塗料からの泡の除去による余剰塗料の圧密性を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車工業や家庭電器、金属製品製造業等の塗装工程では、様々な塗料がスプレー塗装されている。工業的に使用されている塗料は溶剤型塗料と水性塗料とに大別され、各塗料は単独又は組み合わせて使用されている。
このうち、水性塗料は、水可溶型、ディスパージョン型、エマルジョン型の3つに大別されるが、いずれも水を主溶媒とするため、引火性がなく、安全かつ衛生的であり、溶剤による公害発生の恐れがないなどの利点を有することから、近年、特にその応用範囲が拡大されてきた。
【0003】
ところで、各種工業等における塗装工程では、一般に被塗装物に噴霧された塗料の歩留りは必ずしも100%ではなく、例えば自動車工業においては、60〜80%程度であり、使用塗料の40〜20%は次工程で除去すべき過剰塗料である。この過剰に噴霧された余剰塗料を捕集するには、通常、水洗による湿式塗装ブースで処理されており、水洗水は循環使用される。
この場合、水性塗料は水に可溶ないし分散して固液分離が難しいために、この湿式塗装ブースの循環水に残留して蓄積し、次のような問題を引き起こす。
【0004】
(a)循環水が高粘性、高粘稠となり、循環ポンプの負荷を増大させ、著しい場合には循環不可能となり、操業が停止する。
(b)析出して不溶化した塗料や、塗料以外のゴミ、SS成分が、ノズルや配管系の閉塞障害や、水膜板等への付着障害を引き起こす。
(c)発泡障害を生じる。
(d)循環水が高COD、高BODとなるため腐敗し、腐敗臭により、作業環境が悪化する。また、高COD、高BODのため、廃水処理が困難となり、処理装置の負荷が増大する。
【0005】
このような問題を解決するために、湿式塗装ブース循環水を凝集処理して余剰塗料を固液分離することが行われており、湿式塗装ブース循環水の凝集処理方法として、特許文献1には、湿式塗装ブース循環水ラインの上流側において、フェノール系樹脂等の余剰塗料不粘着化剤と有機凝結剤とを循環水に添加することにより微細フロックを形成させ、循環水ラインの下流側において、カチオン性の疎水性ポリマーを添加することにより、粗大フロックを形成させる湿式ブース循環水の処理方法が提案されている。
また、特許文献2には、このような湿式塗装ブース循環水の処理に有効な処理剤として、(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩由来のカチオン性構成単位を有し、かつ前記第四級アンモニウム塩の窒素原子にベンジル基が結合してなるカチオン性ポリマーを含む湿式塗装ブース循環水処理剤が提案されている。
【0006】
従来、湿式塗装ブース循環水に特許文献2等に記載される処理剤等を添加して凝集処理することにより浮上させた固形分(粕)は、循環水ピットにおいて手作業で回収したり、循環水ピットから凝集処理水を浮上装置、好ましくは加圧浮上装置に送給して浮上分離することにより回収したりすることが行われている。いずれの場合も、回収した余剰塗料は、重力濾過、又は加圧脱水、或いは、重力濾過後加圧脱水することにより更に濃縮されて焼却、埋立処分等に供される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−149249号公報
【特許文献2】特開2008−149250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1,2で提案されている処理剤を用いることにより、湿式塗装ブース循環水の余剰塗料の分離効率の改善が図れるが、浮上分離された余剰塗料の含水率は十分に低いものとは言えず、その後の重力濾過や加圧脱水に供する含水固形分容量が多い上に、脱水性も十分ではなく、このため、効率的な濃縮を行うことができないという問題があった。
【0009】
例えば、浮上装置で浮上分離した余剰塗料をフレキシブルコンテナバッグ(以下「フレコンバッグ」と称す。)に回収して、ここで重力濾過し、更に重力濾過後の余剰塗料をプレス機で加圧脱水する場合、浮上分離した余剰塗料の含水率や泡含有率が高く、容量が大きい上に、脱水性(水切れ)や泡切れ性が悪いために、フレコンバッグが早期に満杯になってしまう。また、フレコンバッグでの重力濾過に要する時間も長い。このため、回収余剰塗料を受けるフレコンバッグの交換頻度が高く、フレコンバッグの個数、その載置スペースを広く必要とする。フレコンバッグの交換に際しては、加圧浮上装置の運転を停止する必要があり、浮上分離の効率も悪い。しかも、フレコンバッグでの重力脱水後の含水率、更には、プレス機による加圧脱水後の含水率も十分に低減されず、その後の廃棄処理量も多いために、搬送費等にも影響する。
【0010】
本発明は、上記従来の問題を解決し、湿式塗装ブース循環水にフェノール系樹脂、凝結剤、及びカチオン性の疎水性ポリマーを添加した後に浮上分離により余剰塗料を分離し、分離された余剰塗料を更に固液分離処理する方法において、浮上分離により含水率や泡含有率が低く脱水性に優れた余剰塗料を得ることができ、その後の固液分離処理効率を改善することができる湿式塗装ブース循環水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、湿式塗装ブース循環水にフェノール系樹脂、凝結剤及びカチオン性の疎水性ポリマーを添加して浮上分離する際に、カチオン性の疎水性ポリマー添加後、アニオン性ポリマーを添加することにより、浮上分離で分離される余剰塗料の含水率や泡含有率を低減すると共に、その脱水性や泡切れ性を良好なものとすることができることを見出した。
【0012】
本発明は、このような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0013】
[1] 湿式塗装ブース循環水にフェノール系樹脂、凝結剤、及びカチオン性の疎水性ポリマーを添加した後に浮上分離により余剰塗料を分離し、分離された余剰塗料を更に固液分離処理する湿式塗装ブース循環水の処理方法において、該カチオン性の疎水性ポリマーを添加した後に更にアニオン性ポリマーを添加する工程を有することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【0014】
[2] [1]において、前記カチオン性の疎水性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩由来のカチオン性構成単位を有し、かつ前記第四級アンモニウム塩の窒素原子にベンジル基が結合してなるカチオン性ポリマーであることを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【0015】
[3] [1]又は[2]において、前記アニオン性ポリマーが、(メタ)アクリル酸ナトリウムと(メタ)アクリルアミドの共重合体であることを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【0016】
[4] [3]において、該アニオン性ポリマーのアニオン化度が15〜35モル%であることを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【0017】
[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、前記アニオン性ポリマーがコロイド当量−2.0〜−3.6meq/Lのエマルジョンポリマーであることを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【0018】
[6] [1]ないし[5]のいずれかにおいて、前記湿式塗装ブース循環水系にフェノール系樹脂及び凝結剤を添加し、該フェノール系樹脂及び凝結剤の添加位置よりも下流側の循環水系において前記カチオン性の疎水性ポリマーを添加し、該カチオン性の疎水性ポリマーの添加位置よりも下流側の循環水系において前記アニオン性ポリマーを添加し、その後浮上分離により余剰塗料を分離することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【0019】
[7] [6]において、前記湿式塗装ブース循環水にフェノール系樹脂及び凝結剤を添加した後、カチオン性の疎水性ポリマーを添加し、その後浮上装置で浮上分離により余剰塗料を分離する方法であって、前記アニオン性ポリマーを該浮上装置に添加することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【0020】
[8] [1]ないし[7]のいずれかにおいて、前記アニオン性ポリマーの添加量が前記余剰塗料に対して0.1〜10重量%であることを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、湿式塗装ブース循環水にフェノール系樹脂、凝結剤及びカチオン性の疎水性ポリマーを添加して浮上分離する際に、カチオン性の疎水性ポリマー添加後、アニオン性ポリマーを添加することにより、凝集性に優れたフロックを形成することができ、これにより、浮上分離で分離される余剰塗料の含水率や泡含有率を低減すると共に、その脱水性や泡切れ性を良好なものとすることができる。
このため、浮上分離された余剰塗料の更なる固液分離処理を効率的に行うと共に、廃棄物量の大幅な低減を図り、廃棄コストを削減することができる。
【0022】
即ち、例えば、浮上装置で浮上分離した余剰塗料をフレコンバッグに回収してここで重力濾過し、更に重力濾過後の余剰塗料をプレス機で加圧脱水する場合、フレコンバッグが満杯になるまでの処理量(時間)を大きくすることができると共に、短時間で水抜き及び泡抜きすることができるため、フレコンバッグの交換頻度が低減され、フレコンバッグの個数及びその保管スペースも少なくてすむ。また、フレコンバッグの交換に際して、浮上装置の運転を停止する頻度も低減され、浮上装置の運転効率が高められる。更に、フレコンバッグでの重力脱水後の含水率、プレス機による加圧脱水後の含水率も十分に低減され、その後の廃棄処理容量及び重量も低減されるために、搬送費等の削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例で用いた湿式塗装ブース循環水の処理設備を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明の湿式塗装ブース循環水の処理方法の実施の形態を詳細に説明する。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は「アクリル及び/又はメタクリル」を意味する。「(メタ)アクリロイル」についても同様である。
【0025】
[添加薬剤]
まず、本発明の湿式塗装ブース循環水の処理方法で、湿式塗装ブース循環水に添加する薬剤であるフェノール系樹脂、凝結剤、カチオン性の疎水性ポリマー、及びアニオン性ポリマーについて説明する。
【0026】
<フェノール系樹脂>
本発明で使用されるフェノール系樹脂としては、フェノール、クレゾール、キシレノール等のフェノール類とホルムアルデヒド等のアルデヒド類との縮合物あるいはその変性物であって、架橋硬化する前のフェノール系樹脂が挙げられる。具体的には、フェノールとホルムアルデヒドとの縮合物、クレゾールとホルムアルデヒドとの縮合物、キシレノールとホルムアルデヒドとの縮合物、これらのフェノール系樹脂をアルキル化して得られるアルキル変性フェノール系樹脂、ポリビニルフェノールなどを挙げることができる。これらのフェノール系樹脂はノボラック型であっても、レゾール型であってもよいが、重量平均分子量は3,000以下、好ましくは2,000以下であることが好ましい。これらは1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
これらのフェノール系樹脂は水に難溶であるので、水に溶解可能な溶媒に溶解ないし分散させるなどして溶液状又はエマルジョンとして用いるのが好ましい。使用される溶媒としてはアセトン等のケトン、酢酸メチル等のエステル、メタノール等のアルコール等の水溶性有機溶媒、アルカリ水溶液、アミン等が挙げられるが、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液などのアルカリ水溶液に溶解して用いるのが好ましい。
【0028】
フェノール系樹脂をアルカリ水溶液として用いる場合、このアルカリ水溶液はアルカリ剤濃度1〜25重量%、フェノール系樹脂濃度1〜50重量%の範囲とすることが好ましい。
【0029】
フェノール系樹脂の作用について、必ずしも明確ではないが、次のように推定される。
フェノール系樹脂をアルカリ水溶液等に溶解させて湿式塗装ブース循環水に注入すると、フェノール系樹脂は、溶解状態又はコロイド状で分散する。この際、カチオン性の疎水性ポリマーが存在するとフェノール系樹脂は荷電中和されて凝結、不溶化する。一方、循環水中に溶解又はコロイド状に分散している塗料もカチオン性の疎水性ポリマーにより、荷電中和されて凝結、不溶化するが、フェノール系樹脂がカチオン性の疎水性ポリマーで不溶化する際、この凝結した塗料を巻き込んだ形でフロック化して凝集する。塗料を巻き込んだ形で凝集したフェノール系樹脂のフロックは、ある程度の大きさの粒子となるので、循環水から分離除去され易く、浮上分離、遠心分離、濾過などの方法で容易に分離除去することができる。
【0030】
<凝結剤>
凝結剤としては、無機凝結剤であっても有機凝結剤であっても良く、これらを組み合わせて用いても良い。
【0031】
有機凝結剤としては、例えばジメチルジアリルアンモニウムクロリド重合物、アルキルアミン−エピクロルヒドリン縮合物、エチレンイミン重合物、アルキレンジクロリド−ポリアルキレンポリアミン縮合物、ジメチルアミノエチルアクリレート系重合物、ジメチルアミノエチルメタクリレート系重合物、ポリビニルアミジンなどのカチオン性有機高分子化合物を挙げることができる。これらの有機凝結剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
また、無機凝結剤としては、例えばポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、ポリ硫酸鉄、その他一般の水処理で用いられている多価金属塩などが挙げられる。これら無機凝結剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
これらの凝結剤は、不粘着化された塗料の凝結によるフロック粒子の形成などの目的で用いられるが、凝結性能、腐食抑制、発泡抑制などの観点から、無機凝結剤よりも、有機凝結剤の方が好ましい。有機凝結剤は、0.1〜50重量%程度の水溶液として用いるのが好ましい。
【0034】
<カチオン性の疎水性ポリマー>
カチオン性の疎水性ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩由来のカチオン性構成単位を有し、かつ前記第四級アンモニウム塩の窒素原子にベンジル基が結合してなるカチオン性ポリマーが好ましい。
【0035】
このカチオン性ポリマーのカチオン性構成単位としては、下記一般式(I)で表される構成単位(以下「構成単位(I)」と称す場合がある。)を好ましく挙げることができる。
【0036】
【化1】

【0037】
一般式(I)において、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2及びR3は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を示す。炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。
【0038】
1は、炭素数2〜4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基を示し、具体的にはエチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、各種ブチレン基が挙げられる。(X1a-は、価数aの陰イオンを示す。aは、通常1〜3の整数である。当該陰イオンの具体例としては、塩素イオン、フッ素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、メチル硫酸イオン、過塩素酸イオンなどが挙げられるが、これらの中でハロゲンイオンが好適である。
【0039】
構成単位(I)は、カチオン性の疎水性ポリマー中に2種以上の異なるものが導入されていてもかまわない。
【0040】
構成単位(I)を形成する単量体の(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩としては、(メタ)アクリロイルオキシアルキルベンジルジアルキルアンモニウム塩を挙げることができる。具体的には、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウム塩、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジエチルアンモニウム塩、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルエチルメチルアンモニウム塩、[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウム塩、[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジエチルアンモニウム塩、[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]ベンジルエチルメチルアンモニウム塩、[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジメチルアンモニウム塩、[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジエチルアンモニウム塩、[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルエチルメチルアンモニウム塩、[3−(メタクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジメチルアンモニウム塩、[3−(メタクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジエチルアンモニウム塩、[3−(メタクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルエチルメチルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0041】
これらの単量体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
このように、第四級アンモニウム塩の窒素原子にベンジル基が結合してなる(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩由来のカチオン性構成単位を有するカチオン性ポリマーは、疎水性の強い上記ベンジル基に、余剰塗料の疎水性部分、前述のフェノール系樹脂の疎水性部分や必要に応じて用いられる消泡剤の疎水性部分が結合し、さらに、このポリマーはカチオン性を有するので、アニオンに荷電した塗料粒子、アニオン性であるフェノール系樹脂とも結びつきやすく、結果として、強固なフロックを形成する。また、このポリマーが強い疎水性であることから、このフロックは水と分離しやすく、浮上しやすいという効果を奏する。
【0043】
カチオン性の疎水性ポリマーとして、前記構成単位(I)と共に、ノニオン性構成単位及び/又は他のカチオン性構成単位を有する共重合体を用いることができる。上記ノニオン性構成単位及び他のカチオン性構成単位については特に制限はないが、以下に示す構成単位を含む共重合体を好ましく用いることができる。
【0044】
構成単位(I)と共に、下記一般式(II)で表されるノニオン性の構成単位(以下「構成単位(II)」と称す場合がある。)を有する共重合体(以下、共重合体(I−II)と称す場合がある。)を好ましく用いることができる。
【0045】
【化2】

【0046】
一般式(II)において、R4は水素原子又はメチル基を示し、R5及びR6は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜3のアルキル基又はジメチルアミノアルキル基を示す。炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基及びイソプロピル基が挙げられる。ジメチルアミノアルキル基としては、2−ジメチルアミノエチル基、3−ジメチルアミノプロピル基などが挙げられる。
【0047】
本発明においては、構成単位(II)は、共重合体(I−II)中に2種以上の異なるものが導入されていてもかまわない。
【0048】
構成単位(II)を形成する単量体としては、例えばアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジイソプロピルアクリルアミド、N−エチル−N−メチルアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、N,N−ジイソプロピルメタクリルアミド、N−エチル−N−メチルメタクリルアミド、N−(2−ジメチルアミノエチル)アクリルアミド、N−(2−ジメチルアミノエチル)メタクリルアミド、N−(3−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド、N−(3−ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
【0049】
これらの単量体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
共重合体(I−II)中の前記構成単位(I)と構成単位(II)の含有割合は、余剰塗料に対する凝集性能などの観点から、モル比で2:8〜9:1が好ましく、3:7〜6:4がより好ましい。
【0051】
カチオン性の疎水性ポリマーとして、また、前記構成単位(I)と共に、下記一般式(III)で表されるカチオン性の構成単位(以下「構成単位(III)」と称す場合がある。)を有する共重合体(以下、共重合体(I−III)と称す場合がある。)を好ましく用いることができる。
【0052】
【化3】

【0053】
一般式(III)において、R7は水素原子又はメチル基を示し、R8、R9及びR10は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を示す。炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。
【0054】
2は、炭素数2〜4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基を示し、具体的にはエチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、各種ブチレン基が挙げられる。(X2b-は、価数bの陰イオンを示す。bは、通常1〜3の整数である。当該陰イオンの具体例としては、塩素イオン、フッ素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、メチル硫酸イオン、過塩素酸イオンなどが挙げられるが、これらの中でハロゲンイオンが好適である。
【0055】
本発明においては、構成単位(III)は、共重合体(I−III)中に2種以上の異なるものが導入されていてもかまわない。
【0056】
構成単位(III)を形成する単量体としては、(メタ)アクリロイルオキシアルキル(トリアルキル)アンモニウム塩を挙げることができる。具体的には、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム塩、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリエチルアンモニウム塩、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]エチルジメチルアンモニウム塩、[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム塩、[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]トリエチルアンモニウム塩、[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]エチルジメチルアンモニウム塩、[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]トリメチルアンモニウム塩、[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]トリエチルアンモニウム塩、[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]エチルジメチルアンモニウム塩、[3−(メタクリロイルオキシ)プロピル]トリメチルアンモニウム塩、[3−(メタクリロイルオキシ)プロピル]トリエチルアンモニウム塩、[3−(メタクリロイルオキシ)プロピル]エチルジメチルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0057】
これらの単量体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
共重合体(I−III)中の前記構成単位(I)と構成単位(III)の含有割合は、余剰塗料に対する凝集性能などの観点から、モル比で8:2〜2:8が好ましく、6:4〜4:6がより好ましい。
【0059】
本発明においては、カチオン性の疎水性ポリマーとして、構成単位(I)と共に、ノニオン性の構成単位(II)とカチオン性の構成単位(III)とを有する共重合体(以下、共重合体(I−II−III)と称す場合がある。)を、特に好ましく用いることができる。
【0060】
共重合体(I−II−III)中の前記構成単位(I)、構成単位(II)及び構成単位(III)の含有割合は、余剰塗料に対する凝集性能などの観点から、モル基準で、それぞれ5〜90%、30〜90%及び0〜90%であることが好ましく、10〜40%、50〜70%及び10〜40%であることがより好ましい。
【0061】
共重合体(I−II−III)の代表例としては、アクリルアミド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミド/[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミド/[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリドなどを挙げることができる。
【0062】
本発明に用いられるカチオン性の疎水性ポリマーの重量平均分子量は、余剰塗料の凝集性能などの観点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により、溶離液として0.1モル/L塩化ナトリウム水溶液を用いて測定したポリエチレングリコール換算の値で、600万以上であることが好ましく、900万〜1100万であることがより好ましい。
【0063】
このカチオン性の疎水性ポリマーの重合方法については特に制限はなく、一般的な重合方法を採用することができる。例えば、水溶液重合であれば、重合開始剤として過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩や、レドックス系の開始剤などを用いることができる。また、逆相の懸濁重合であれば、重合開始剤として前記と同様なものを用いることができるし、一方逆相のエマルション重合であれば、前記重合開始剤以外に、アゾビスイソブチロニトリルや過酸化ベンゾイルなどの水不溶性開始剤を用いて重合を行ってもよい。
【0064】
カチオン性の疎水性ポリマーは、水溶液、懸濁液、乳化液のいずれの形態でも用いることができる。
【0065】
<アニオン性ポリマー>
アニオン性ポリマーは、スルホン基やホスホン基等の強酸基を含まないものであり、ポリ(メタ)アクリルアミドの部分加水分解物、(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリル酸ナトリウムの共重合体等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
塗装ブース循環水は中性から弱アルカリ性であり、1次凝集塗料をさらに凝集、脱水する効果が高いことから、好ましくは(メタ)アクリル酸ナトリウムと(メタ)アクリルアミドの共重合体が用いられる。この(メタ)アクリル酸ナトリウムと(メタ)アクリルアミドの共重合体のアニオン化度は高過ぎても低過ぎても凝集不良となるため、15〜35モル%であることが好ましい。
【0067】
また、(メタ)アクリル酸ナトリウムと(メタ)アクリルアミドの共重合体等のアニオン性ポリマーの分子量は、粘度平均分子量で、500万〜1500万、特に800万程度であることが好ましい。アニオン性ポリマーの分子量がこの範囲を外れると凝集性が悪くなる。
【0068】
アニオン性ポリマーは、コロイド当量値−2.0〜−3.6meq/Lのエマルジョンポリマーとして用いることが好ましい。ここで、コロイド当量がこの範囲を外れると凝集性が悪くなる。
【0069】
<その他の薬剤>
本発明の湿式塗装ブース循環水の処理方法においては、上記フェノール系樹脂、凝結剤、カチオン性の疎水性ポリマー及びアニオン性ポリマーの他、消泡剤等の通常の湿式塗装ブース循環水の処理に使用されている各種の薬剤を併用することができる。
【0070】
消泡剤としては特に制限はなく、湿式塗装ブース循環水用として従来使用されている消泡剤の中から任意のものを適宣選択して用いることができる。この消泡剤としては、例えば疎水性有機溶剤、脂肪酸多価金属塩、疎水性無機粉体、消泡性非イオン系界面活性剤などを用いることができる。
【0071】
疎水性有機溶剤としては、例えばパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、石油系溶剤などが挙げられ、脂肪酸多価金属塩としては、例えばラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エルカ酸などの脂肪酸のマグネシウム、アルミニウム、カルシウム、鉄、亜鉛、ニッケル、バリウムなどの金属塩が挙げられる。
【0072】
疎水性無機粉体としては、例えば疎水性シリカ、アルミナ、酸化マグネシウムなどが挙げられ、非イオン系界面活性剤としては、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン(プルロニック型・テトロニック型)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル型などが挙げられる。
【0073】
これらの消泡剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
当該消泡剤は、余剰塗料の固液分離、粕浮上、排出を安定的に行うために用いられる。
【0075】
[薬剤の添加順序]
本発明においては、湿式塗装ブース循環水にまずフェノール系樹脂と凝結剤を添加し、その後カチオン性の疎水性ポリマーを添加した後、アニオン性ポリマーを添加する。
消泡剤等の他の薬剤を併用する場合、その添加箇所については特に制限はない。
【0076】
湿式塗装ブース循環水の処理には、循環水ピットで浮上した余剰塗料を直接回収する場合と、回収装置(浮上装置、好ましくは加圧浮上装置)を別途設けて行う場合とがあるが、好ましくは循環水ピットから循環水の一部を抜き取り、回収装置で浮上分離を行う。
【0077】
従って、具体的には湿式塗装ブース循環水系のいずれかの箇所でフェノール系樹脂及び凝結剤を添加し、このフェノール系樹脂及び凝結剤の添加位置よりも下流側の循環水系においてカチオン性の疎水性ポリマーを添加し、このカチオン性の疎水性ポリマーの添加位置よりも更に下流側の循環水系においてアニオン性ポリマーを添加し、その後浮上分離により固形分を分離することが好ましい。なお、フェノール系樹脂と凝結剤については同時に添加しても、いずれか一方を先に添加しても、どちらでも良い。
【0078】
カチオン性の疎水性ポリマーを配管注入する場合、アニオン性ポリマーは、カチオン性の疎水性ポリマーを注入した位置よりも下流側で配管注入しても良いが、カチオン性の疎水性ポリマーが十分に反応した後にアニオン性ポリマーを添加することが、低含水率で脱水性に優れた余剰塗料(締りの良い凝集フロック)を浮上分離する上で好ましいため、回収装置を用いる場合には、回収装置においてアニオン性ポリマーを添加することが好ましい。
【0079】
即ち、例えば、後述の実施例に示されるように、循環水ピットからの循環水を抜き出して浮上装置で浮上分離を行う場合には、循環水ピットにおいて、湿式塗装ブース循環水にフェノール系樹脂及び凝結剤を添加した後、カチオン性の疎水性ポリマーを循環水ピットから浮上装置への移送配管に配管注入し、その後、浮上装置において、アニオン性ポリマーを添加することが好ましい。
【0080】
[薬剤添加量]
本発明において、フェノール系樹脂、凝結剤、カチオン性の疎水性ポリマー、アニオン性ポリマー、及び必要に応じて添加される消泡剤の添加量は、処理する湿式塗装ブース循環水の種類や用いる薬剤の種類などによっても異なるが、次のような添加量とすることが好ましい。なお、以下において余剰塗料の量は次式において定義される
余剰塗料=使用塗料−塗着塗料−設備塗着塗料
【0081】
フェノール系樹脂の添加量は、湿式塗装ブース循環水に対して、有効成分量(樹脂固形分量)として、通常1mg/L以上、好ましくは5mg/L以上であり、かつ余剰塗料に対して有効成分量として、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上である。フェノール系樹脂の添加量が上記下限よりも少ないと十分な不粘着化効果を得ることができない。しかし、フェノール系樹脂添加量が過度に多くても、添加量に見合う不粘着化効果の向上は得られないことがあり、また発泡が生じることがあることから、湿式塗装ブース循環水に対するフェノール系樹脂の添加量は有効成分量として、好ましくは1,000mg/L以下、特に好ましくは5〜200mg/Lであり、余剰塗料に対して有効成分量として、好ましくは100重量%以下、特に好ましくは0.5〜10重量%である。
【0082】
凝結剤の添加量は、湿式塗装ブース循環水に対して、有効成分量として、通常5mg/L以上、好ましくは10〜30mg/Lであり、また、余剰塗料に対して有効成分量として、通常0.5〜2重量%程度、好ましくは0.8〜1.5重量%である。凝結剤の添加量がこの範囲を外れると凝集性が悪くなる。
【0083】
カチオン性の疎水性ポリマーの添加量は、湿式塗装ブース循環水に対して、有効成分量として、通常1.0mg/L以上、好ましくは1.0〜10mg/L以上であり、かつ余剰塗料に対して有効成分量として、通常0.1〜20重量%程度、好ましくは0.2〜1.0重量%である。カチオン性の疎水性ポリマーの添加量がこの範囲を外れると凝集性が悪くなる。
【0084】
なお、カチオン性の疎水性ポリマーとフェノール系樹脂の使用割合として、フェノール系樹脂を、カチオン性の疎水性ポリマーに対して、通常5〜20重量倍、好ましくは10〜15重量倍の割合で用いるのが有利である。
また、カチオン性の疎水性ポリマーと凝結剤の使用割合は、凝結剤を、カチオン性の疎水性ポリマーに対して、通常0.1〜2重量倍、好ましくは1〜1.5重量倍の割合で用いるのが有利である。
【0085】
アニオン性ポリマーの添加量は、湿式塗装ブース循環水に対して、有効成分として、通常1.0mg/L以上、好ましくは1.0〜10mg/Lであり、また、余剰塗料に対して有効成分量として、通常0.1〜2.0重量%程度、好ましくは0.2重量%である。
また、アニオン性ポリマーは、カチオン性ポリマーに対して0.1〜2.0重量倍、特に0.5〜1重量倍の割合で用いることが好ましい。
【0086】
アニオン性ポリマーの添加量がこの範囲を外れると、アニオン性ポリマーを添加したことによる浮上分離固形分の含水率の低減、脱水性の向上効果を十分に得ることができない。
【0087】
消泡剤を用いる場合、その添加量は、湿式塗装ブース循環水に対して、有効成分量として、通常1.0mg/L以上、好ましくは1.0〜10mg/Lであり、また、余剰塗料に対して有効成分量として、通常0.1〜10重量%程度、好ましくは0.2〜1.0重量%である。
【0088】
[分離固形分の処理]
本発明により浮上分離された固形分は、前述の如く、通常、重力濾過、加圧脱水、或いは重力濾過後加圧脱水された後、焼却、埋立処理される。
【実施例】
【0089】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0090】
なお、実施例及び比較例で用いた薬剤は次の通りである。
フェノール系樹脂:栗田工業(株)製フェノール系樹脂
「クリスタック(登録商標)B310」
(フェノール・ホルムアルデヒド縮合物、ノボラック型、分子量約1700)
凝結剤:栗田工業(株)製有機凝結剤「クリスタック(登録商標)B450」
(ジメチルアミン−エピクロルヒドリン縮合物、重量平均分子量10万)
カチオン性の疎水性ポリマー:栗田工業(株)製
ベンジル基含有カチオン性の疎水性ポリマー
「クリスタック(登録商標)B302」
(アクリルアミド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジル
ジメチルアンモニウムクロリド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]
トリメチルアンモニウムクロリド共重合物、共重合モル比66/17/17、
重量平均分子量1000万)
アニオン性ポリマー:栗田工業(株)製アニオン性ポリマー
「クリフロック(登録商標)EA342」
(アクリル酸ナトリウム−アクリルアミド共重合物、
アニオン化度25モル%、粘度平均分子量800万、
コロイド当量−2.5meq/Lのエマルジョンポリマー)
【0091】
[実施例1]
図1に示す処理設備により、自動車塗装ブース(ベース塗料(水性)とクリア塗料(溶剤系)使用。生産台数1000台/日)循環水の処理を行った。
循環水ピット1にフェノール系樹脂と凝結剤を入れ、さらに加圧浮上装置2の入口配管に工水で連続希釈したカチオン性の疎水性ポリマーを入れ、さらに工水で連続希釈したアニオン性ポリマーを、加圧浮上装置2上部より液面へ滴下した。
加圧浮上装置入口の水質は、SS:4500mg/L、溶解性COD:500mg/L、全蒸発残留物:7500mg/Lであった。
【0092】
各薬剤の添加量(有効成分量)は以下の通りとして、約21時間運転を行った。
フェノール系樹脂:80ml/min、2.0mg/L−循環水、10重量%対余剰塗料
凝結剤:20ml/min、0.5mg/L−循環水、2.5重量%対余剰塗料
カチオン性の疎水性ポリマー:5ml/min、0.1mg/L−循環水、0.6重量%対余剰塗料
アニオン性ポリマー:5ml/min、0.1mg/L−循環水、0.6重量%対余剰塗料
【0093】
加圧浮上装置で浮上分離した余剰塗料(粕)をフレコンバッグ(容量500L)3に回収して8時間放置することにより重力濾過し、その後プレス機(図示せず)で加圧脱水した。
【0094】
[比較例1]
実施例1において、アニオン性ポリマーを添加しなかったこと以外は同様の条件で循環水の処理を行った。
【0095】
[比較例2]
比較例1において、フレコンバッグでの重力濾過時間を24時間としたこと以外は同様の条件で循環水の処理を行った。
【0096】
[比較例3]
比較例1において、フレコンバッグでの重力濾過時間を48時間としたこと以外は同様の条件で循環水の処理を行った。
【0097】
実施例1及び比較例1〜3における、フレコンバッグに回収した直後の余剰塗料の含水率、フレコンバッグでの重力濾過後の余剰塗料の含水率、その後の加圧脱水後の余剰塗料の含水率を表1に示す。また、容量500Lのフレコンバッグが満杯になった時間と、フレコンバッグでの単位時間当たりの脱水量(水切り速度)を表1に併記した。
【0098】
【表1】

【0099】
表1より、アニオン性ポリマーの使用により、浮上分離された余剰塗料の含水率の低減及び脱水性の大幅な向上が図れ、フレコンバッグの満杯時間の延長、交換頻度の低減、重力脱水放置時間の短縮、その後の加圧脱水効率の向上、廃棄物量の低減を図ることができることが分かる。
【符号の説明】
【0100】
1 循環水ピット
2 加圧浮上装置
3 フレコンバッグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式塗装ブース循環水にフェノール系樹脂、凝結剤、及びカチオン性の疎水性ポリマーを添加した後に浮上分離により余剰塗料を分離し、分離された余剰塗料を更に固液分離処理する湿式塗装ブース循環水の処理方法において、
該カチオン性の疎水性ポリマーを添加した後に更にアニオン性ポリマーを添加する工程を有することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記カチオン性の疎水性ポリマーが、(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩由来のカチオン性構成単位を有し、かつ前記第四級アンモニウム塩の窒素原子にベンジル基が結合してなるカチオン性ポリマーであることを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記アニオン性ポリマーが、(メタ)アクリル酸ナトリウムと(メタ)アクリルアミドの共重合体であることを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項4】
請求項3において、該アニオン性ポリマーのアニオン化度が15〜35モル%であることを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記アニオン性ポリマーがコロイド当量−2.0〜−3.6meq/Lのエマルジョンポリマーであることを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記湿式塗装ブース循環水系にフェノール系樹脂及び凝結剤を添加し、該フェノール系樹脂及び凝結剤の添加位置よりも下流側の循環水系において前記カチオン性の疎水性ポリマーを添加し、該カチオン性の疎水性ポリマーの添加位置よりも下流側の循環水系において前記アニオン性ポリマーを添加し、その後浮上分離により余剰塗料を分離することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項7】
請求項6において、前記湿式塗装ブース循環水にフェノール系樹脂及び凝結剤を添加した後、カチオン性の疎水性ポリマーを添加し、その後浮上装置で浮上分離により余剰塗料を分離する方法であって、前記アニオン性ポリマーを該浮上装置に添加することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、前記アニオン性ポリマーの添加量が前記余剰塗料に対して0.1〜10重量%であることを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−72866(P2011−72866A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224648(P2009−224648)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】