説明

湿式塗装ブース循環水処理剤及び湿式塗装ブース循環水の処理方法

【課題】湿式塗装ブース循環水に添加し、該循環水中の余剰塗料を容易に、かつ効率的に凝集分離し得る、湿式塗装ブース循環水処理剤及び湿式塗装ブース循環水の処理方法を提供する。
【解決手段】(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩由来のカチオン性構成単位を有し、かつ前記第四級アンモニウム塩の窒素原子にベンジル基が結合してなるカチオン性重合体を含むことを特徴とする湿式塗装ブース循環水処理剤及び当該処理剤を湿式塗装ブース循環水に添加して、該循環水中の余剰塗料を容易に、かつ効率的に凝集分離する湿式塗装ブース循環水の処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は湿式塗装ブース循環水処理剤及び湿式塗装ブース循環水の処理方法、さらに詳しくは、湿式塗装ブース循環水中の余剰塗料を容易に、かつ効率的に凝集分離することができる、第四級アンモニウム塩の窒素原子にベンジル基が結合した特定のカチオン構成単位を有するカチオン性重合体を含む湿式塗装ブース循環水処理剤及び湿式塗装ブース循環水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車工業や家庭電器、金属製品製造業等の塗装工程では、様々な塗料がスプレー塗装されている。工業的に使用されている塗料は溶剤型塗料と水性塗料とに大別され、各塗料は単独又は組み合わせて使用されている。
このうち、水性塗料は、水可溶型、ディスパージョン型、エマルジョン型の3つに大別されるが、いずれも水を主溶媒とするため、引火性がなく、安全かつ衛生的であり、溶剤による公害発生の恐れがないなどの利点を有することから、近年、特にその応用範囲が拡大されてきた。
ところで、各種工業等における塗装工程では、一般に被塗装物に噴霧された塗料の歩留りは必ずしも100%ではなく、例えば自動車工業においては、60〜80%程度であり、使用塗料の40〜20%は次工程で除去すべき過剰塗料である。この過剰に噴霧された余剰塗料は凝集処理されて湿式塗装ブース水系から排出され、一方、処理水は循環使用される。
この場合、水性塗料は水に可溶ないし分散して固液分離が難しいために、この湿式塗装ブースの循環水に残留して蓄積し、次のような問題をひきおこす。
【0003】
(a)循環水は高粘性、高粘稠となり、循環ポンプの負荷を増大させ、著しい場合には循環不可能となり、操業が停止する。
(b)析出して不溶化した塗料や、塗料以外のゴミ、SS成分が、ノズルや配管系の閉塞障害や、水膜板等への付着障害を引き起こす。
(c)発泡障害を生じる。
(d)循環水が高COD、高BODとなるため腐敗し、腐敗臭により、作業環境が悪化する。また、高COD、高BODのため、廃水処理が困難となり、処理装置の負荷が増大する。
このような問題を解決するために、従来、循環水中の余剰塗料を凝集分離することが行われており、この凝集分離に当たり、(1)カチオン系ポリマー(カチオン系高分子凝集剤)とアニオン系ポリマー(アニオン系高分子凝集剤)とを併用添加する方法(例えば、特許文献1参照)、(2)カチオン化セルローズとカチオン系ポリマーとを併用添加する方法(例えば、特許文献2参照)、(3)無機凝集剤と高分子ポリマーを併用添加する方法(例えば、特許文献3参照)が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特公平4−2317号公報
【特許文献2】特開平7−713号公報
【特許文献3】特開昭52−71538号公報
【特許文献4】特開2004−337671号公報
【特許文献5】特開2004−351362号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来法のうち、(1)のカチオン系ポリマーとアニオン系ポリマーとを使用する方法では、効果が不十分であり、カチオン系ポリマーとアニオン系ポリマーとの使用量や使用比率、処理対象の水性塗料の種類や濃度により凝集効果が大きく異なるため、薬注制御が比較的難しく、安定処理に欠けるきらいがあるという問題点がある。
また、(2)のカチオン化セルローズを用いる方法は、薬剤コストが高くつき、実用性に乏しい。(3)の無機凝集剤と高分子ポリマーとを用いる方法は、最適な凝集条件(pH、薬剤濃度等)を設定することが難しく、安定処理が困難である上に、金属フロックが生成するため、塗料スラッジ量が増大する;無機凝集剤からの塩類濃度が増大し、設備の腐食の問題がある;水性塗料に配合されている発泡性物質を分離除去することができないため、塗料ブースでの発泡を抑えることができない;といった問題がある。
【0006】
さらに、(4)フェノール樹脂とカチオン系ポリマーを併用する湿式塗装ブース循環水の処理方法(例えば、特許文献4参照)、(5)高分子逆相エマルションを必須成分とする湿式塗装ブース循環水用塗料ミスト処理剤(例えば、特許文献5参照)が開示されている。
しかしながら、上記(4)の処理方法においては、フェノール樹脂と組み合わせて使用するカチオン系ポリマーについて限定されておらず、例示されたものは低分子量のポリマーであり、必ず充分な凝集効果や凝集粕浮上効果が得られるとは限らない。
一方、上記(5)の処理剤においては、高分子逆相エマルションと、(a)無機多価金属、(b)疎水性高分子エマルション、(c)粘土鉱物のいずれかと組み合わせて使うことが示されている。ここで例示されている疎水性高分子エマルションには、本発明で使用するポリマーも含まれるが、ベンジル基(C66CH2−)を含む本発明のポリマーが特に優れていることは明示されていない。
【0007】
本発明は、上記の公知技術の問題点を解決したもので、湿式塗装ブース循環水に添加し、該循環水中の余剰塗料を容易に、かつ効率的に凝集分離し得る湿式塗装ブース循環水処理剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、当該処理剤を湿式塗装ブース循環水に添加して、該循環水中の余剰塗料を容易に、かつ効率的に凝集分離し得る湿式塗装ブース循環水の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、第四級アンモニウム塩の窒素原子にベンジル基が結合した特定のカチオン構成単位を有するカチオン性重合体を含む処理剤が、その目的に適合し得ることを見出した。
また、上記処理剤に、さらにフェノール系樹脂、有機もしくは無機凝結剤及び消泡剤の中から選ばれる少なくとも1種を含有させることにより、循環水中の余剰塗料の固液分離、粕浮上、排出を安定的に行い得ることを見出した。
本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
[1](メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩由来のカチオン性構成単位を有し、かつ前記第四級アンモニウム塩の窒素原子にベンジル基が結合してなるカチオン性重合体を含むことを特徴とする湿式塗装ブース循環水処理剤、
[2]カチオン性重合体が、(メタ)アクリルアミドと(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩との共重合体である上記[1]に記載の湿式塗装ブース循環水処理剤、
[3]カチオン性重合体が、ジアルキルアミノアルキル(メタ)クリレートの第四級アンモニウム塩と(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩との共重合体である上記[1]に記載の湿式塗装ブース循環水処理剤、
[4]カチオン性重合体が、(メタ)アクリルアミドとジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの第四級アンモニウム塩と(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩との共重合体である上記[1]に記載の湿式塗装ブース循環水処理剤、
[5](メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩が、(メタ)アクリロイルオキシアルキルベンジルジアルキルアンモニウム塩である上記[1]〜[4]のいずれかに記載の湿式塗装ブース循環水処理剤、
[6]さらに、フェノール系樹脂、有機もしくは無機凝集剤及び消泡剤の中から選ばれる少なくとも1種を含む上記[1]〜[5]のいずれかに記載の湿式塗装ブース循環水処理剤、
[7]湿式塗装ブース循環水に上記[1]〜[5]のいずれかに記載の湿式塗装ブース循環水処理剤を所定量添加することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法、及び
[8]さらに、フェノール系樹脂、有機もしくは無機凝結剤及び消泡剤の中から選ばれる少なくとも1種を含む湿式塗装ブース循環水処理剤を所定量添加する前記[7]記載の湿式塗装ブース循環水の処理方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の湿式塗装ブース循環水処理剤及び湿式塗装ブース循環水の処理方法によれば、湿式塗装ブース循環水中の余剰塗料を容易に、かつ効率的に凝集分離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の湿式塗装ブース循環水処理剤(以下、単にブース処理剤と称することがある。)は、(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩由来のカチオン性構成単位を有し、かつ前記第四級アンモニウム塩の窒素原子にベンジル基が結合してなるカチオン性重合体(以下、カチオン性重合体(M)と称する。)を含むことを特徴とする。
本発明のブース処理剤に用いられるカチオン性重合体(M)のカチオン性構成単位としては、下記一般式(I)で表される(A)構成単位を好ましく挙げることができる。
【0011】
【化1】

【0012】
一般式(I)において、R1は水素原子又はメチル基を示し、R2及びR3は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を示す。炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。
1は、炭素数2〜4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基を示し、具体的にはエチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、各種ブチレン基が挙げられる。(X1a-は、価数aの陰イオンを示す。aは、通常1〜3の整数である。当該陰イオンの具体例としては、塩素イオン、フッ素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、メチル硫酸イオン、過塩素酸イオンなどが挙げられるが、これらの中でハロゲンイオンが好適である。
本発明においては、一般式(I)で表される(A)構成単位は、重合体中に2種以上の異なるものが導入されていてもかまわない。
当該(A)構成単位を形成する単量体の(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩としては、(メタ)アクリロイルオキシアルキルベンジルジアルキルアンモニウム塩を挙げることができる。具体的には、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウム塩、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジエチルアンモニウム塩、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルエチルメチルアンモニウム塩、[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウム塩、[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジエチルアンモニウム塩、[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]ベンジルエチルメチルアンモニウム塩、[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジメチルアンモニウム塩、[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジエチルアンモニウム塩、[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルエチルメチルアンモニウム塩、[3−(メタクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジメチルアンモニウム塩、[3−(メタクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジエチルアンモニウム塩、[3−(メタクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルエチルメチルアンモニウム塩などが挙げられる。
これらの単量体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
このように、第四級アンモニウム塩の窒素原子にベンジル基が結合してなる(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩由来のカチオン性構成単位を有する重合体は、疎水性の強い上記ベンジル基に、余剰塗料の疎水性部分、後述のフェノール系樹脂の疎水性部分や消泡剤の疎水性部分が結合し、さらに、この重合体はカチオン性を有するので、アニオンに荷電した塗料粒子、アニオン性であるフェノール系樹脂とも結びつきやすく、結果として、強固なフロックを形成する。また、該重合体が強い疎水性であることから、このフロックは水と分離しやすく、浮上しやすいという効果を奏する。
【0013】
本発明のブース処理剤においては、カチオン性重合体(M)として、前記(A)構成単位と共に、ノニオン性構成単位及び/又は他のカチオン性構成単位を有する共重合体を用いることができる。上記ノニオン性構成単位及び他のカチオン性構成単位については特に制限はないが、以下に示す共重合体を好ましく用いることができる。
本発明の処理剤においては、カチオン性重合体(M)として、前記(A)構成単位と共に、下記一般式(II)で表されるノニオン性の(B)構成単位を有する共重合体(以下、共重合体(M−a)と称する。)を好ましく用いることができる。
【0014】
【化2】

【0015】
一般式(II)において、R4は水素原子又はメチル基を示し、R5及びR6は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜3のアルキル基又はジメチルアミノアルキル基を示す。炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基及びイソプロピル基が挙げられる。ジメチルアミノアルキル基としては、2−ジメチルアミノエチル基、3−ジメチルアミノプロピル基などが挙げられる。
本発明においては、一般式(II)で表される(B)構成単位は、共重合体(M−a)中に2種以上の異なるものが導入されていてもかまわない。
当該(B)構成単位を形成する単量体としては、例えばアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジイソプロピルアクリルアミド、N−エチル−N−メチルアクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、N,N−ジイソプロピルメタクリルアミド、N−エチル−N−メチルメタクリルアミド、N−(2−ジメチルアミノエチル)アクリルアミド、N−(2−ジメチルアミノエチル)メタクリルアミド、N−(3−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド、N−(3−ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミドなどの(メタ)アクリルアミド類が挙げられる。
これらの単量体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
当該共重合体(M−a)中の前記(A)構成単位と(B)構成単位の含有割合は、余剰塗料に対する凝集性能などの観点から、モル比で2:8〜9:1が好ましく、3:7〜6:4がより好ましい。
【0016】
本発明の処理剤においては、カチオン性重合体(M)として、前記(A)構成単位と共に、下記一般式(III)で表されるカチオン性の(C)構成単位を有する共重合体(以下、共重合体(M−b)と称する。)を好ましく用いることができる。
【0017】
【化3】

【0018】
一般式(III)において、R7は水素原子又はメチル基を示し、R8、R9及びR10は、それぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を示す。炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。
2は、炭素数2〜4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基を示し、具体的にはエチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、各種ブチレン基が挙げられる。(X2b-は、価数bの陰イオンを示す。bは、通常1〜3の整数である。当該陰イオンの具体例としては、塩素イオン、フッ素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、メチル硫酸イオン、過塩素酸イオンなどが挙げられるが、これらの中でハロゲンイオンが好適である。
本発明においては、一般式(III)で表される(C)構成単位は、共重合体(M−b)中に2種以上の異なるものが導入されていてもかまわない。
当該(C)構成単位を形成する単量体としては、(メタ)アクリロイルオキシアルキル(トリアルキル)アンモニウム塩を挙げることができる。具体的には、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム塩、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリエチルアンモニウム塩、[2−(アクリロイルオキシ)エチル]エチルジメチルアンモニウム塩、[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウム塩、[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]トリエチルアンモニウム塩、[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]エチルジメチルアンモニウム塩、[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]トリメチルアンモニウム塩、[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]トリエチルアンモニウム塩、[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]エチルジメチルアンモニウム塩、[3−(メタクリロイルオキシ)プロピル]トリメチルアンモニウム塩、[3−(メタクリロイルオキシ)プロピル]トリエチルアンモニウム塩、[3−(メタクリロイルオキシ)プロピル]エチルジメチルアンモニウム塩などが挙げられる。
これらの単量体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
当該共重合体(M−b)中の前記(A)構成単位と(C)構成単位の含有割合は、余剰塗料に対する凝集性能などの観点から、モル比で8:2〜2:8が好ましく、6:4〜4:6がより好ましい。
【0019】
本発明の処理剤においては、カチオン性重合体(M)として、前記(A)構成単位と共に、前記ノニオン性の(B)構成単位と前記カチオン性の(C)構成単位とを有する共重合体(以下、共重合体(M−c)と称する。)を、特に好ましく用いることができる。
当該共重合体(M−c)中の前記(A)構成単位、(B)構成単位及び(C)構成単位の含有割合は、余剰塗料に対する凝集性能などの観点から、モル基準で、それぞれ5〜90%、30〜90%及び0〜90%であることが好ましく、10〜40%、50〜70%及び10〜40%であることがより好ましい。
当該共重合体(M−c)の代表例としては、アクリルアミド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミド/[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリド、アクリルアミド/[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[3−(アクリロイルオキシ)プロピル]トリメチルアンモニウムクロリドなどを挙げることができる。
【0020】
本発明の処理剤に用いられるカチオン性重合体(M)の重量平均分子量は、余剰塗料の凝集性能などの観点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により、溶離液として0.1モル/L塩化ナトリウム水溶液を用いて測定したポリエチレングリコール換算の値で、600万以上であることが好ましく、900万〜1100万であることがより好ましい。
このカチオン性重合体の重合方法については特に制限はなく、一般的な重合方法を採用することができる。例えば、水溶液重合であれば、重合開始剤として過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩や、レドックス系の開始剤などを用いることができる。また、逆相の懸濁重合であれば、重合開始剤として前記と同様なものを用いることができるし、一方逆相のエマルション重合であれば、前記重合開始剤以外に、アゾビスイソブチロニトリルや過酸化ベンゾイルなどの水不溶性開始剤を用いて重合を行ってもよい。
当該カチオン性重合体(M)は、水溶液、懸濁液、乳化液のいずれの形態でも用いることができる。
【0021】
本発明の処理剤においては、前述のカチオン性重合体(M)と共に、さらにフェノール系樹脂、有機もしくは無機凝結剤及び消泡剤の中から選ばれる少なくとも1種を含むことができる。
上記フェノール系樹脂の作用については、必ずしも明確ではないが、次のように推定される。
フェノール系樹脂をアルカリ水溶液等に溶解させて湿式塗装ブース循環水に注入すると、フェノール系樹脂は、溶解状態又はコロイド状で分散する。この際、カチオン性重合体(M)が存在するとフェノール系樹脂は荷電中和されて凝結、不溶化する。一方、循環水中に溶解又はコロイド状に分散している塗料もカチオン性重合体(M)により、荷電中和されて凝結、不溶化するが、フェノール系樹脂がカチオン性重合体(M)で不溶化する際、この凝結した塗料を巻き込んだ形でフロック化して凝集する。塗料を巻き込んだ形で凝集したフェノール系樹脂のフロックは、ある程度の大きさの粒子となるので、循環水から分離除去され易く、浮上分離、遠心分離、濾過などの方法で容易に分離除去することができる。
【0022】
本発明で使用されるフェノール系樹脂としては、フェノール、クレゾール、キシレノール等のフェノール類とホルムアルデヒド等のアルデヒドとの縮合物あるいはその変性物であって、架橋硬化する前のフェノール系樹脂が挙げられる。具体的には、フェノールとホルムアルデヒドとの縮合物、クレゾールとホルムアルデヒドとの縮合物、キシレノールとホルムアルデヒドとの縮合物、これらのフェノール系樹脂をアルキル化して得られるアルキル変性フェノール系樹脂、ポリビニルフェノールなどを挙げることができる。これらのフェノール系樹脂はノボラック型であっても、レゾール型であってもよい。分子量は1,000以下であることが好ましい。これらは1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらのフェノール系樹脂は水に難溶であるので、水に溶解可能な溶媒に溶解ないし分散させるなどして溶液状又はエマルジョンとして用いるのが好ましい。使用される溶媒としてはアセトン等のケトン、酢酸メチル等のエステル、メタノール等のアルコール等の水溶性有機溶媒、アルカリ水溶液、アミン等が挙げられるが水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液などのアルカリ水溶液に溶解して用いるのが好ましい。
フェノール系樹脂をアルカリ水溶液として用いる場合、このアルカリ水溶液はアルカリ剤濃度1〜25質量%、フェノール系樹脂濃度1〜50質量%の範囲とすることが好ましい。
本発明の処理剤においては、前述のカチオン性重合体(M)と当該フェノール系樹脂の使用割合は、当該フェノール系樹脂を、カチオン性重合体(M)に対して、通常5〜20倍質量、好ましくは10〜15倍質量の割合で用いるのが有利である。
【0023】
前記有機凝結剤としては、例えばジメチルジアリルアンモニウムクロリド重合物、アルキルアミン−エピクロルヒドリン縮合物、エチレンイミン重合物、アルキレンジクロリド−ポリアルキレンポリアミン縮合物、ジメチルアミノエチルアクリレート系重合物、ジメチルアミノエチルメタクリレート系重合物、ポリビニルアミジンなどのカチオン性有機高分子化合物を挙げることができる。これらの有機凝結剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、無機凝結剤としては、例えばポリ塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、ポリ硫酸鉄、その他一般の水処理で用いられている多価金属塩などが挙げられる。これら無機凝結剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの凝結剤は、不粘着化された塗料の凝結によるフロック粒子の形成などの目的で用いられるが、凝結性能、腐食抑制、発泡抑制などの観点から、無機凝結剤よりも、有機凝結剤の方が好ましい。
本発明の処理剤においては、前述のカチオン性重合体(M)と当該有機凝結剤の使用割合は、当該有機凝結剤を、カチオン性重合体(M)に対して、通常0.1〜2倍質量、好ましくは1〜1.5倍質量の割合で用いるのが有利である。
当該有機凝結剤は、水溶液の形態で用いることが好ましい。
【0024】
一方、前記消泡剤に特に制限はなく、湿式塗装ブース循環水用として、従来使用されている消泡剤の中から任意のものを適宣選択して用いることができる。この消泡剤としては、例えば疎水性有機溶剤、脂肪酸多価金属塩、疎水性無機粉体、消泡性非イオン系界面活性剤などを用いることができる。
疎水性有機溶剤としては、例えばパラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、石油系溶剤などが挙げられ、脂肪酸多価金属塩としては、例えばラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、エルカ酸などの脂肪酸のマグネシウム、アルミニウム、カルシウム、鉄、亜鉛、ニッケル、バリウムなどの金属塩が挙げられる。
疎水性無機粉体としては、例えば疎水性シリカ、アルミナ、酸化マグネシウムなどが挙げられ、非イオン系界面活性剤としては、例えばグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン(プルロニック型・テトロニック型)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル型などが挙げられる。
これらの消泡剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
当該消泡剤は、余剰塗料の固液分離、粕浮上、排出を安定的に行うために用いられる。
本発明の処理剤においては、当該消泡剤の使用量は、前述のカチオン性重合体(M)に対して、通常3〜30倍質量、好ましくは3〜10倍質量の範囲で選定される。
【0025】
本発明の湿式塗装ブース循環水処理剤は、必須成分として、第四級アンモニウム塩の窒素原子にベンジル基が結合してなる、(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩由来の構成単位を有するカチオン性重合体(M)を含み、さらに必要に応じ、フェノール系樹脂、有機もしくは無機凝結剤及び消泡剤の中から選ばれる少なくとも1種を含むものである。
本発明の湿式塗装ブース循環水の処理方法は、必須成分のカチオン性重合体(M)、及び必要に応じて用いられるフェノール系樹脂、有機もしくは無機凝結剤、消泡剤を、湿式塗装ブース循環水に対しそれぞれ所定量添加するが、これらをそれぞれ同じ場所に添加してもよく、異なる場所に添加してもよい。また、これらの全ての成分を含む処理剤を一度に添加しても、分割して異なる場所に添加してもよい。
湿式塗装ブース循環水に対する本発明の処理剤の添加量は、塗料スラッジの浮上分離性を考慮して決定されるが、前記カチオン性重合体(M)の濃度が、通常10〜300mg/L程度、好ましくは20〜100mg/Lになるように選定される。
本発明の処理剤及び処理方法によれば、このように湿式塗装ブース循環水に添加することにより、該循環水中の余剰塗料を容易に、かつ効率的に凝集分離することができる。
本発明の処理剤を、湿式塗装ブース循環水に添加することにより形成された余剰塗料の凝集フロックは、例えば浮上分離、ウェッジワイヤ、ロータリースクリーン、バースクリーン、サイクロン、遠心分離機、ろ過装置などで分離回収される。分離回収されたスラッジは、重力脱水後、あるいは通常の方法で脱水後、焼却、埋立処理される。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各薬剤の性能は、以下に示す方法に従って評価した。
<試験方法>
1Lビーカーに、栃木県野木町上水800mL及び塗料(水性アクリル系塗料)8mLを入れ、マグネチックスターラ(500rpm)で攪拌しながら、薬剤を所定量添加して3分間攪拌し、10分静置後のスラリーの状態を観察し、凝集性及び浮上性を下記の基準で評価すると共に、濁度を下記の方法で測定した。
(1)凝集性
◎:10mm以上のフロック
○:5mm以上10mm未満のフロック
△:2mm以上5mm未満のフロック
×:2mm未満のフロック
(2)浮上性
◎:ほぼ全量浮上
○:半分量程度浮上
△:一部浮上
×:ほぼ浮上なし
(3)濁度
JIS K 0101の9.2に基づき測定した透過光濁度(濁度標準液として
カオリンを使用)で表される値である。
【0027】
実施例1及び比較例1〜4
上塗り塗料(水性アクリル系塗料)1質量%溶液に表1に示す種類と量の各ポリマーを添加し、薬剤の性能評価を行った。その結果を表1に示す。なお、ポリマーを添加しないブランクについても同様に評価した(参考例1)。
【0028】
【表1】

[注]
ポリマー1:アクリルアミド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]ベンジルジメチルアンモニウムクロリド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド共重合物、共重合モル比66/17/17、重量平均分子量1000万
ポリマー2:ジメチルアミノエチルメタクリレート・メチルクロリドの重合物、重量平均分子量900万
ポリマー3:アクリルアミド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリドの共重合物、共重合モル比90/10、重量平均分子量600万
ポリマー4:アクリルアミド/アクリル酸ナトリウム共重合物、共重合モル比
77/23、重量平均分子量800万
ポリマー5:[2−(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド/[2−(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド/アクリル酸/アクリルアミド共重合物、共重合モル比15/15/10/60、重量平均分子量900万
表1から分かるように、実施例1の薬剤は、比較例1〜4の薬剤に比べて優れた性能を有している。
【0029】
実施例2及び比較例5〜8
上塗り塗料(水性アクリル系塗料)1質量%溶液に、表2に示す種類と量の各ポリマーと、ポリマー6を600mg/L及びポリマー7を150mg/L添加し、薬剤の性能評価を行った。その結果を表2に示す。なお、ポリマー6を600mg/L及びポリマー7を150mg/L添加した以外は、他のポリマーを添加しないものについても同様に評価した(参考例2)。
【0030】
【表2】

[注]
ポリマー1〜ポリマー5については、表1の脚注と同じである。
ポリマー6:フェノール・ホルムアルデヒド縮合物、ノボラック型、分子量約1700
ポリマー7:ジメチルアミン・エピクロルヒドリン縮合物、重量平均分子量10万
表2から分かるように、実施例2の薬剤は、比較例5〜8の薬剤に比べて、優れた性能を有している。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の湿式塗装ブース循環水処理剤及びそれを用いる本発明の湿式塗装ブース循環水の処理方法は、湿式塗装ブース循環水中の余剰塗料を容易に、かつ効率的に凝集分離することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩由来のカチオン性構成単位を有し、かつ前記第四級アンモニウム塩の窒素原子にベンジル基が結合してなるカチオン性重合体を含むことを特徴とする湿式塗装ブース循環水処理剤。
【請求項2】
カチオン性重合体が、(メタ)アクリルアミド類と(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩との共重合体である請求項1に記載の湿式塗装ブース循環水処理剤。
【請求項3】
カチオン性重合体が、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの第四級アンモニウム塩と(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩との共重合体である請求項1に記載の湿式塗装ブース循環水処理剤。
【請求項4】
カチオン性重合体が、(メタ)アクリルアミド類とジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの第四級アンモニウム塩と(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩との共重合体である請求項1に記載の湿式塗装ブース循環水処理剤。
【請求項5】
(メタ)アクリル酸エステルの第四級アンモニウム塩が、(メタ)アクリロイルオキシアルキルベンジルジアルキルアンモニウム塩である請求項1〜4のいずれかに記載の湿式塗装ブース循環水処理剤。
【請求項6】
さらに、フェノール系樹脂、有機もしくは無機凝結剤及び消泡剤の中から選ばれる少なくとも1種を含む請求項1〜5のいずれかに記載の湿式塗装ブース循環水処理剤。
【請求項7】
湿式塗装ブース循環水に請求項1〜5のいずれかに記載の湿式塗装ブース循環水処理剤を所定量添加することを特徴とする湿式塗装ブース循環水の処理方法。
【請求項8】
さらに、フェノール系樹脂、有機もしくは無機凝結剤及び消泡剤の中から選ばれる少なくとも1種を含む湿式塗装ブース循環水処理剤を所定量添加する請求項7記載の湿式塗装ブース循環水の処理方法。

【公開番号】特開2008−149250(P2008−149250A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−339106(P2006−339106)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】