説明

準リビング性のポリオレフィンと不飽和酸性試薬とから製造した共重合体、それを用いた分散剤、およびその製造方法

【課題】準リビング性のポリオレフィンと不飽和酸性反応体とから製造した共重合体、それを用いた分散剤およびその製造方法を提供する。
【解決手段】不飽和酸性反応体とエキソ−オレフィン末端準リビング性重合物を含む高分子量ポリオレフィンとの共重合体。
この準リビング性重合物は、例えば適切な準リビング条件下で準リビング性のカチオン性ポリオレフィンを生成させ、このカチオン性ポリオレフィンを選択薬剤と接触させることによりカチオン性ポリオレフィンをエキソ−オレフィン末端準リビング重合物に変えることにより生成させる。カチオン性ポリオレフィンは、例えば(a)カチオン重合可能な単量体をルイス酸の存在下で開始剤と接触させること、(b)tert−ハライド末端ポリオレフィンをルイス酸でイオン化すること、(c)予め形成したポリオレフィンをルイス酸と接触させること、または(d)カチオン重合可能な単量体をカチオン重合条件下で少なくとも2個の第三級ハロゲンを持つイニファと接触させること、のうちの一つにより生成させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示する発明内容は、ポリオレフィン類と不飽和酸性試薬とを用いて製造した共重合体、それを用いた分散剤、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン類と不飽和酸性試薬との共重合体およびそれから製造された分散剤は、潤滑剤や燃料、および他の用途において有用な成分である。例えば、ポリイソブチレン(PIB)と無水コハク酸(SA)との共重合体は、普通は「ポリPIBSA」と呼ばれていて、従来より、PIBを無水マレイン酸およびラジカル開始剤と反応させることにより製造されている。次いで任意に、様々な組成物に使用するために、ポリPIBSAをポリアミンと反応させてポリコハク酸イミドにするか、あるいは誘導体化する。ポリPIBSAの製造方法及びその使用の例については、例えば特許文献1、2、3、4及び5に記載されており、それら各々の内容全部も参照内容として本明細書の記載内容とする。
【0003】
しかし、ポリPIBSAおよび従来法を用いてポリPIBSAから製造された分散剤が、必ずしも様々な気候で有用な特性を有するとは限らない。例えば、従来のポリPIBSAおよび/またはそれから製造された分散剤のコールドクランキングシミュレータ(CCS)粘度及び/又は動粘度(kv)は、厳冬季の気候での使用を意図した潤滑剤でそのポリPIBSAの使用を可能にするのに全ての粘度グレードで適しているわけではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5112507号明細書
【特許文献2】米国特許第5175225号明細書
【特許文献3】米国特許第5616668号明細書
【特許文献4】米国特許第6451920号明細書
【特許文献5】米国特許第6906011号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、様々な気候、例えば0℃を下回る温度で組成物に使用するのに適した特性を有するポリPIBSAのような共重合体およびそれから製造された分散剤が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、準リビング性のポリオレフィンを不飽和酸性試薬と共重合することにより製造した共重合体、そのような共重合体を用いて製造した分散剤、およびそれらの製造方法を提供する。
【0007】
一発明態様では、不飽和酸性反応体とエキソ−オレフィン末端準リビング性のポリオレフィンを含む高分子量ポリオレフィンとの共重合体を提供する。
【0008】
態様によっては、エキソ−オレフィン末端準リビング性のポリオレフィンは、まず好適な準リビング条件下で準リビング性のカチオン性ポリオレフィンを生成させ、次いで準リビング性のカチオン性ポリオレフィンと選択した失活剤とを接触させて、準リビング性のカチオン性ポリオレフィンをエキソ−オレフィン末端準リビング性のポリオレフィンに変換することにより製造される。失活剤は例えば、置換ピロール、置換イミダゾール、ヒンダード第二級アミン、ヒンダード第三級アミンおよび二炭化水素モノスルフィドのうちの少なくとも一種であってよい。
【0009】
態様によっては、準リビング性のカチオン性ポリオレフィンは、下記により製造することができる:(a)少なくとも一種のカチオン重合可能な単量体(例えばイソブチレン)を、ルイス酸と希釈剤の存在下で適切な準リビング条件で開始剤と接触させること、あるいは(b)tert−ハライド末端ポリオレフィンをルイス酸でイオン化すること。
【0010】
本発明の共重合体は、エキソ−オレフィン末端ポリオレフィンをペルオキシドなどのラジカル開始剤の存在下で、不飽和酸性反応体と接触させることにより生成させることができる。
【0011】
態様によっては、エキソ−オレフィン末端ポリオレフィンの数平均分子量は、約500から約10000の間、例えば約900から約5000の間、例えば約900から約2500の間、又は例えば約2000から約4000の間にある。態様によっては、エキソ−オレフィン末端ポリオレフィンのエキソ−オレフィン末端基含量は、少なくとも約90%、又は少なくとも約91%、又は少なくとも約92%、又は少なくとも約93%、又は少なくとも約94%、又は少なくとも約95%、又は少なくとも約96%、又は少なくとも約97%、又は少なくとも約98%、又は少なくとも約99%、又は約100%である。態様によっては、ポリオレフィンの分散指数(DI)は、約1.4未満、又は約1.3未満、又は約1.2未満、又は約1.1未満、又は約1.0である。
【0012】
不飽和酸性反応体は、下記式を有することができる。
【0013】
【化1】

【0014】
式中、XおよびX’は各々独立に、−OH、−Cl、−O−低級アルキルからなる群より選ばれ、あるいは、XとX’は共同して−O−を表わす。例えば、酸性反応体として無水マレイン酸を挙げることができる。
【0015】
態様によっては、共重合体は下記式を有する。
【0016】
【化2】

【0017】
式中、nは1以上であり;R1とR2とは水素であり、R3とR4のうちの一方は低級アルキルで、もう一方は高分子量ポリアルキルであるか、あるいはR3とR4とは水素であり、R1とR2のうちの一方は低級アルキルで、もう一方は高分子量ポリアルキルであり;x:yの比は3:1未満であり、xは少なくとも1(例えば1から3の間)であり、yは少なくとも1(例えば1から3の間)であり、そしてnは1以上(例えば1から20の間、又は1から10の間、又は1から5の間、又は1から3の間、又は2以上)である。高分子量ポリアルキルとしては、炭素原子数少なくとも30、又は炭素原子数少なくとも50のポリイソブチル基を挙げることができる。低級アルキルはメチルであってよい。
【0018】
別の発明態様では、(1)不飽和酸性反応体と、エキソ−オレフィン末端準リビング重合物を含む高分子量ポリオレフィンとの共重合体を、(2)アミン、塩基性窒素数少なくとも2のポリアミンまたはそれらの混合物と、反応させることにより製造されたポリコハク酸イミドを提供する。
【0019】
別の発明態様では、主要量の潤滑粘度の油、および少量の上記ポリコハク酸イミドを含む潤滑油組成物を提供する。
【0020】
別の発明態様では、共重合体の製造方法は、準リビング高分子量エキソ−オレフィン末端ポリオレフィンを生成させること、そしてポリオレフィンをラジカル開始剤(例えばペルオキシド)の存在下で不飽和酸性反応体と接触させて共重合体にすることを含む。
【発明の効果】
【0021】
数ある中でも、ポリPIBSA製造における準リビング性のPIBの使用は、収量の向上した重合物を与える。さらに、ポリPIBSA製造における準リビング性のPIBの使用は、DIの比較的低い重合物を与える。ポリPIBSAの収量の向上は有益である。なぜならば、生成物中の未反応PIBの量が少ないことを意味するからである。この点は有利である。なぜならば、未反応PIBは高価な希釈剤であり、ポリPIBSA中の多量の未反応PIBは生成物の原価全体を高めるからである。また、少ない未反応PIBの存在は有益である。なぜならば、PIBの粘度特性はあまり有用ではなく、結果としてあまり有用でない低温性能をもたらすからである。ポリPIBSAを製造するのに使用する準リビング性のPIBのDIが約1.4から1.0の間にあることは有益である。なぜならば、理論にとらわれることを望まないが、低いDIは、準リビング性のPIBから製造したポリPIBSAおよびポリコハク酸イミドに、低温性能の改善をもたらすからである。収量の向上および分散指数の低下に加えて、準リビング性のPIBを使用して製造したポリPIBSA及びその誘導体は、粘度特性の改善も示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
特に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術及び科学用語は、当該分野の熟練者が一般に理解しているのと同じ意味を有する。本明細書で使用する用語に複数の定義がある場合には、特に断らない限りこの項で規定する定義が優先する。
【0023】
「アルコール」は、本明細書で使用するとき、下記式の化合物を意味する。

R−OH

式中、Rは炭化水素基である。
【0024】
「アルキル」は、本明細書で使用するとき、炭素1乃至20個又は炭素1乃至16個を含む炭素鎖又は基を意味する。そのような鎖又は基は、直線であっても分枝していてもよい。本発明で例となるアルキル基としては、これらに限定されるものではないが、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、イソブチル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチルまたはイソヘキシルが挙げられる。「低級アルキル」は、本明細書で使用するとき、炭素原子数1乃至約6の炭素鎖又は基を意味する。
【0025】
「アルケニル」は、本明細書で使用するとき、炭素2乃至20個又は炭素2乃至16個を含む炭素鎖又は基であって、鎖が二重結合を1つ以上含んでいることを意味する。例としては、これに限定されるものではないが、アリル基が挙げられる。アルケニル炭素鎖又は基の二重結合は、他の不飽和基と共役していてもよい。アルケニル炭素鎖又は基は、1個以上のヘテロ原子で置換されていてもよい。アルケニル炭素鎖又は基は三重結合を1つ以上含んでいてもよい。
【0026】
「アルキニル」は、本明細書で使用するとき、炭素2乃至20個又は炭素2乃至16個を含む炭素鎖又は基であって、鎖が三重結合を1つ以上の含んでいることを意味する。例としては、これに限定されるものではないが、プロパルギル基が挙げられる。アルキニル炭素鎖又は基の三重結合は、他の不飽和基と共役していてもよい。アルキニル炭素鎖又は基は、1個以上のヘテロ原子で置換されていてもよい。アルキニル炭素鎖又は基は二重結合を1つ以上含んでいてもよい。
【0027】
「アリール」は、本明細書で使用するとき、炭素原子約6乃至約30個を含む単環又は多環芳香族基を意味する。アリール基としては、これらに限定されるものではないが、フルオレニル、フェニルまたはナフチルが挙げられる。
【0028】
「アルカリール」は、本明細書で使用するとき、少なくとも1個のアルキル、アルケニル又はアルキニル基で置換されたアリール基を意味する。
【0029】
「アラルキル」は、本明細書で使用するとき、少なくとも1個のアリール基で置換されたアルキル、アルケニル又はアルキニル基を意味する。
【0030】
「芳香族又は脂肪族縮合環」は、本明細書で使用するとき、ピロール又はイミダゾール環の2個の隣接炭素原子で形成された環を意味し、こうして形成された環はピロール又はイミダゾール環に縮合している。縮合芳香環の例としては、ピロール環又はイミダゾール環に縮合したベンゾ基がある。縮合脂肪族環は、ピロール環又はイミダゾール環に縮合した如何なる環状構造であってもよい。
【0031】
「アミド」は、本明細書で使用するとき、下記式の化合物を意味する。
【0032】
【化3】

【0033】
式中、R1〜R3は各々独立に水素または炭化水素基である。
【0034】
「アミン」は、本明細書で使用するとき、下記式の化合物を意味する。
【0035】
【化4】

【0036】
式中、R1〜R3は各々独立に水素または炭化水素基である。
【0037】
「カルボカチオン」及び「カルベニウムイオン」は、本明細書で使用するとき、正に荷電した炭素原子を意味する。
【0038】
「カルボカチオン末端ポリオレフィン」は、本明細書で使用するとき、少なくとも1個のカルボカチオン末端基を含むポリオレフィンを意味する。例としては、これらに限定されるものではないが、下記式の化合物が挙げられる。
【0039】
【化5】

【0040】
「鎖末端濃度」は、本明細書で使用するとき、オレフィン末端基とtert−ハライド末端基とカルベニウムイオンの濃度の合計を意味する。単官能開始剤が使用されるとき、鎖末端濃度はおおよそ開始剤濃度に等しい。多官能開始剤では、開始剤の官能価がxであるなら、鎖末端濃度はおおよそ開始剤濃度のx倍に等しい。
【0041】
「連鎖移動剤」は、本明細書で使用するとき、そのハライドイオンをカルベニウムイオンで置き換えて、新しくカルベニウムイオンを作る化合物を意味する。
【0042】
「共通イオン塩」は、本明細書で使用するとき、生長したカルベニウムイオンと対イオンの対の解離を防ぐために、準リビングカルボカチオン重合条件で行われる反応に任意に添加されるイオン性の塩を意味する。
【0043】
「共通イオン塩前駆体」は、本明細書で使用するとき、準リビング性のカルボカチオン性重合条件で行われる反応に任意に添加されて、ルイス酸とのその場反応により、生長した鎖末端の対アニオンと同じ対アニオンを発生させるイオン性の塩を意味する。
【0044】
「カップリングしたポリオレフィン」は、本明細書で使用するとき、カルボカチオン末端ポリオレフィンが別のポリオレフィンに付加した生成物を意味する。
【0045】
「希釈剤」は、本明細書で使用するとき、液体希釈剤又は化合物を意味する。希釈剤は単独でも二種以上の化合物の混合物でもよい。希釈剤は反応成分を完全に溶解しても部分的に溶解してもよい。例としては、これらに限定されるものではないが、ヘキサンまたは塩化メチルまたはそれらの混合物が挙げられる。
【0046】
「二炭化水素モノスルフィド」は、本明細書で使用するとき、下記式の化合物を意味する。
【0047】
【化6】

【0048】
式中、R1およびR2は各々独立に炭化水素基である。
【0049】
「電子供与体」は、本明細書で使用するとき、一対の電子を別の分子に供与することができる分子を意味する。例としては、これらに限定されるものではないが、ルイス酸と錯体を作ることができる分子が挙げられる。それ以上の例としては、これらに限定されるものではないが、塩基および/または求核物質が挙げられる。それ以上の例としては、これらに限定されるものではないが、プロトンを取り去る又は取り除くことができる分子が挙げられる。
【0050】
「エキソ−オレフィン」は、本明細書で使用するとき、下記式の化合物を意味する。
【0051】
【化7】

【0052】
式中、Rは炭化水素基、例えばメチルまたはエチルである。
【0053】
「エキソ−オレフィン末端基」又は「エキソ−オレフィン系末端基」は、本明細書で使用するとき、末端オレフィン部を意味する。
【0054】
「ハライド」、「ハロ」又は「ハロゲン」は、本明細書で使用するとき、F、Cl、BrまたはIを意味する。
【0055】
「炭化水素基」は、本明細書で使用するとき、炭素原子と水素原子だけを含む一価の線状、分岐又は環状基を意味する。
【0056】
「イニファ」は、本明細書で使用するとき、開始剤としても連鎖移動剤としても作用する化合物を意味する。
【0057】
「開始剤」は、本明細書で使用するとき、カルボカチオンを与える化合物を意味する。例としては、これらに限定されるものではないが、1個以上の第三級末端基を持つ化合物又はポリオレフィン類が挙げられる。開始剤は単官能性でも多官能性でもよい。「単官能開始剤」は、本明細書で使用するとき、開始剤に対しておよそ1化学量論当量のカルボカチオンを与える開始剤を意味する。「多官能開始剤」は、本明細書で使用するとき、開始剤に対しておよそx化学量論当量のカルボカチオンを与える開始剤を意味する、ただし、xは開始剤の官能価を表す。単官能開始剤が使用されるとき、鎖末端濃度はおおよそ開始剤濃度に等しい。多官能開始剤では、開始剤の官能価がxであるなら、鎖末端濃度は開始剤濃度のx倍に等しい。
【0058】
「イオン化ポリオレフィン」は、本明細書で使用するとき、少なくとも1個のカルベニウムイオンを含むポリオレフィンを意味する。
【0059】
「ルイス酸」は、本明細書で使用するとき、一対の電子を受容することができる化学物質を意味する。
【0060】
「単量体」は、本明細書で使用するとき、カルボカチオンと結合して別のカルボカチオンを作ることができるオレフィンを意味する。
【0061】
「ニトロアルカン」は、本明細書で使用するとき、RNO2(ただし、Rはアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルカリールまたはアラルキルである)を意味する。
【0062】
「窒素含有五員芳香環」は、本明細書で使用するとき、芳香環に1個から2個の窒素原子を含み、かつ約1乃至約20個の炭素原子を含む約2乃至4個のアルキル基が環に結合している、ピロール類およびイミダゾール類を意味する。窒素含有五員芳香環化合物の一例としては置換ピロールがある。
【0063】
「全生成物のうちのモルパーセント」は、本明細書で使用するとき、全反応生成物のモル数に対する特定の反応生成物のモル数の比率を百倍したものを意味する。
【0064】
「分散指数」又はDIは、本明細書で使用するとき、重合体の数平均分子量に対する重合体の質量平均分子量の比を意味し、重合体の分子量分布を反映している。分散指数1は、重合体が単分散であることを示す。分散指数が1より大きいのは、重合体に重合体鎖の分子量分布があることを示す。
【0065】
「プロトン受容体」は、本明細書で使用するとき、プロトンを取り去ることができる化合物を意味する。
【0066】
「ピリジン誘導体」は、本明細書で使用するとき、下記式の化合物を意味する。
【0067】
【化8】

【0068】
式中、R1、R2、R3、R4およびR5は各々独立に、水素または炭化水素基であるか;あるいはR1とR2、またはR2とR3、またはR3とR4、またはR4とR5は独立に、炭素原子数約4乃至約7の縮合脂肪族環、または炭素原子数約5乃至約7の縮合芳香環を形成する。
【0069】
「準リビングカルボカチオン重合条件」は、本明細書で使用するとき、準リビングカルボカチオンポリオレフィン類の生成を可能にする準リビング重合条件を意味する。
【0070】
「準リビングカルボカチオンポリオレフィン」は、本明細書で使用するとき、準リビング重合条件で生成したカルボカチオンポリオレフィンを意味する。
【0071】
「準リビング重合」は、本明細書で使用するとき、不可逆的な鎖切断現象無しに進行する重合を意味する。準リビング重合は開始で始まり、その後に生長が続く、ただし、生長(リビング)種は非生長(非リビング)重合体鎖と平衡状態にある。
【0072】
「準リビング重合条件」は、本明細書で使用するとき、準リビング重合を起こすことができる反応条件を意味する。
【0073】
「失活」は、本明細書で使用するとき、カルベニウムイオンを失活剤と反応させることを意味する。
【0074】
「失活剤」は、本明細書で使用するとき、単独でまたは別の化合物と組み合わせて、カルベニウムイオンと反応することができる化合物を意味する。
【0075】
「停止」は、本明細書で使用するとき、ルイス酸の分解により重合工程または失活反応を停止させる化学反応を意味する。
【0076】
「停止剤」は、本明細書で使用するとき、重合工程または失活反応を停止させるが、同時に新たな重合体鎖を開始し得ない化学化合物を意味する。
【0077】
「tert−ハライド末端ポリオレフィン」は、本明細書で使用するとき、少なくとも1個の第三級ハライド末端基を含むポリオレフィンを意味する。例としては、これに限定されるものではないが、下記式の化合物が挙げられる。
【0078】
【化9】

【0079】
式中、Xはハロゲンである。
【0080】
特に断わらない限り、パーセントは全て質量%である。
【0081】
本出願は下記の出願と関連があり、それら各々の内容全部も参照内容として本明細書の記載内容とする。
米国特許出願第11/207366号明細書(2005年8月19日出願)、「エキソ−オレフィン鎖末端を含むポリオレフィンの製造方法」
米国特許出願第11/207377号明細書(2005年8月19日出願)、「エキソ−オレフィン鎖末端を含むポリオレフィンの製造方法」
米国特許出願第11/207264号明細書(2005年8月19日出願)、「エキソ−オレフィン鎖末端を高比率で含むポリオレフィンの製造方法」
米国特許出願第12/055281号明細書(2008年3月25日出願)、「モノスルフィド類を用いた失活によるビニリデン末端ポリオレフィンの製造」
【0082】
[方法]
態様によっては前述したもののような共重合体の製造方法は、(1)準リビング重合物である高分子量ポリオレフィンを供給する工程、そして(2)ポリオレフィンを開始剤の存在下で不飽和酸性試薬と反応させて共重合体にする工程を包含している。
【0083】
態様によっては、ポリオレフィンはエキソ−オレフィン鎖末端を持つ準リビング性のポリオレフィンであり、開始剤はペルオキシドであり、そして不飽和酸性試薬は無水マレイン酸である。そのような態様では得られた共重合体は下記式を有する。
【0084】
【化10】

【0085】
式中、nは1以上であり、
a)R1とR2は水素であり、R3とR4のうちの一方は低級アルキルで、もう一方は高分子量ポリアルキルであるか、あるいは
b)R3とR4は水素であり、R1とR2のうちの一方は低級アルキルで、もう一方は高分子量ポリアルキルである。態様によってはx:yの比は3:1未満であり、xは少なくとも1(例えば1から3の間)であり、yは少なくとも1(例えば1から3の間)であり、そしてnは1より大きい(例えば1から20の間、又は1から10の間、又は1から5の間、又は1から3の間、又は2以上)である。態様によってはR1およびR2は水素であり、R3はメチルであり、そしてR4は高分子量ポリイソブチレン鎖である。
【0086】
例えばポリPIBSAの製造方法のある態様では、ポリオレフィンは下記式の準リビング性のPIBである。
【0087】
【化11】

【0088】
上記のポリオレフィンは、エキソ−オレフィン系末端基のパーセントが比較的多い、例えばエキソ−オレフィン系末端基が90%より多い、又は91%より多い、又は92%より多い、又は93%より多い、又は94%より多い、又は95%より多い、又は96%より多い、又は97%より多い、又は98%より多い、又は99%より多い、又は100%ですらある。また、準リビング性のPIBはDIが比較的低い、例えば約1.4から1.0の間、又は約1.3から1.0の間、又は約1.2から1.0の間、又は約1.1から1.0の間、又は約1.0である。準リビング性のPIBを、ラジカル開始剤、例えばジ−tert−アミルペルオキシドなどのペルオキシド、および不飽和酸性反応体の無水マレイン酸と接触させる。
【0089】
ポリPIBSA製造の従来法は一般に、市販又は従来のPIBを無水マレイン酸およびラジカル開始剤と反応させることにより実施しているが、従来のPIBを使用することの可能な利点に比べて、準リビング性のPIBの使用は複数の利点をもたらす。「従来のPIB」とは、エキソ−オレフィン末端基のパーセントが比較的少ない、例えば約80%未満で、かつ分散指数(DI)が高い、例えば1.4より高いPIBを意味する。そのような従来のPIBはときには、「高メチルビニリデンPIB」又は「高反応性PIB」とも呼ばれる。
【0090】
数ある中でも、ポリPIBSA製造における準リビング性のPIBの使用は、収量の向上した重合物を与え、例えば収量は80%より多い、又は85%より多い、又は90%より多い、又は91%より多い、又は92%より多い、又は93%より多い、又は94%より多い、又は95%より多い、又は96%より多い、又は97%より多い、又は98%より多い、又は99%より多い、又は100%ですらある。反対に、従来PIBを使用して製造したポリPIBSAは一般に収量が比較的少ない、例えば約60〜80%より少ない。さらに、ポリPIBSA製造における準リビング性のPIBの使用は、DIの比較的低い重合物を与え、例えばDIは約1.4から1.0の間、又は約1.3から1.0の間、又は約1.2から1.0の間、又は約1.1から1.0の間である。反対に、従来PIBを使用して製造したポリPIBSAは一般にDIが比較的高い、例えば約1.4より高い。ポリPIBSAの収量の向上は有益である。なぜならば、生成物中の未反応PIBの量が少ないことを意味するからである。これは有利である。なぜならば、未反応PIBは高価な希釈剤であり、ポリPIBSA中の多量の未反応PIBは生成物の原価全体を高めるからである。また、少ない未反応PIBの存在は有益である。なぜならば、PIBの粘度特性はあまり有用ではなく、結果としてあまり有用でない低温性能をもたらすからである。ポリPIBSAを製造するのに使用する準リビング性のPIBのDIが約1.4から1.0の間にあることは有益である。なぜならば、理論にとらわれることを望まないが、低いDIは、準リビング性のPIBから製造したポリPIBSAおよびポリコハク酸イミドに、低温性能の改善をもたらすからである。
【0091】
収量の向上および分散指数の低下に加えて、準リビング性のPIBを使用して製造したポリPIBSA及びその誘導体は、粘度特性の改善も示す。マルチグレード油(例えば10W30油)は、低温におけるSAE10W粘度限度および高温におけるSAE30粘度限度を満たす。所望の粘度目標を満たす方法としては、次のものの使用が挙げられる:1)粘度の異なる基油のブレンド(例えば、100ニュートラル油+600ニュートラル油)、2)粘度指数(VI)の高い非従来型基油、3)コールドクランクシミュレータ(CCS)増粘が低い清浄/防止添加剤パッケージ、および4)配合油の粘度指数を改善する粘度指数向上剤(VI向上剤)。これら四つの変数の適切な組合せを用いることにより、100℃動粘度(kv)が高く、かつ例えば−20℃のCCS粘度が低い配合油を製造することができる。
【0092】
準リビング性のPIBから製造したポリPIBSA及びポリコハク酸イミド類の使用は、上記3)に開示したように、CCS及びkv性能を改善する清浄/防止添加剤パッケージを使用して所望の粘度目標を満たす例である。ある一定の条件では、例えば燃料経済性の高い客車用モーター油(PCMO)配合物では、分散剤はCCS粘度も低く、kvも低いことが望ましいことがある。これは、希釈油に溶解した分散剤のCCSとkvとを測定することにより求めることができる。CCSもkvも低い分散剤は最高の性能であると言える。
【0093】
別の条件では場合によっては、所望の粘度グレードを満たすのにVI向上剤をそれほど必要としないように、分散剤のkvが高く、CCS粘度が低いことが有益である。これは、CCS対kvをプロットしてその傾きを測定することにより求めることができる。傾きが最小の分散剤は性能が改善されている。
【0094】
例えば、後に記載する「実施例」で詳細に説明するように、我々の結果は、MW〜1000のPIBからのポリPIBSAおよびMW〜2300のPIBからのポリPIBSAいずれでも、準リビング性のPIBから誘導したポリPIBSAのCCS粘度とkvが、非準リビング性のPIBから誘導したポリPIBSAに比べて低かったことを明らかにしている。理論にとらわれることを望まないが、これは、実施例1及び3でポリPIBSAを製造するのに使用した準リビング性のPIBの分散指数(DI=1.05−1.11)が、実施例2及び4でポリPIBSAを製造するのに使用した非準リビング性のPIB(DI=1.71〜1.89)より低いという事実に依るものと考えられる。このことは、燃費の優れたPCMO配合物が望まれる油では、準リビング性のPIBから製造したポリPIBSAが、非準リビング性のPIBから製造したポリPIBSAよりも優れた性能をもたらすと予測できることを示している。
【0095】
以降の第2表に示すように、準リビング性のPIB(MW〜1000)から製造したポリPIBSAのCCS対kvプロットの傾きは、非準リビング性のPIB(MW〜1000)から製造したポリPIBSAの傾きよりも小さい。これは、所望の粘度グレードを満たすのにVI向上剤をそれほど必要としない油では、準リビング性のPIB(MW〜1000)から製造したポリPIBSAが、非準リビング性のPIB(MW〜1000)から製造したポリPIBSAよりも優れた性能を示すと予測できることを意味する。
【0096】
さらに、以降の「実施例」の項で詳細に説明するように、結果は、分子量2300準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドのCCS粘度もkvもいずれも、分子量2300非準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドのCCS粘度およびkvより低いことを明らかにしている。このことは、燃費の優れたPCMO配合物が望まれる油では、分子量2300準リビング性のPIBから製造したポリPIBSAが、分子量2300非準リビング性のPIBから製造したポリPIBSAよりも優れた性能をもたらすと予測できることを示している。これは、分子量1000準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドでは当てはまらない。この場合にCCS粘度は、分子量1000非準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドのCCS粘度とほぼ同じであった。さらに、分子量1000準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドのkvは、分子量1000非準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドのkvよりも高かった。これは、燃料経済性の高いPCMO配合物が望まれる場合に、分子量1000準リビング性のPIBから製造したポリPIBSAが、分子量1000非準リビング性のPIBから製造したポリPIBSAよりも優れた性能をもたらさないことを示している。
【0097】
以降の第4表に示すように、分子量1000準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドのCCS対kvプロットの傾き(傾き=186)は、分子量1000非準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドの傾き(傾き=271)よりも小さい。このことは、所望の粘度グレードを満たすのにVI向上剤をそれほど必要としない油では、分子量1000準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドが、分子量1000非準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドよりも優れた性能を示すと予測できることを意味する。これは、所望の粘度グレードを満たすのにVI向上剤をそれほど必要としない油では、分子量2300準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドの場合には当てはまらない。
【0098】
準リビングオレフィン類と不飽和酸性反応体で作られた共重合体を生成させるのに使用することができる種々の反応体及び希釈剤の様々な態様、並びにそのような共重合体生成のために使用できる反応条件の範囲について、これから詳細に説明する。次に、そのような共重合体を使用した分散剤の製造方法の例について説明し、そして幾つかの説明に役立つ実施例を記載する。
【0099】
(I)準リビングエキソ−オレフィン末端ポリオレフィン類
エキソ−オレフィン末端基を持つ準リビング性のPIBのような、エキソ−オレフィン基を末端に持つ準リビングオレフィン類は、種々の好適な方法を用いて製造することができる。以下に、例となる方法を更に説明する。
【0100】
態様によっては準リビング性のポリオレフィンは、エキソ−オレフィン系末端基の比率が比較的高く(例えば、約90%より多い、又は約91%より多い、又は約92%より多い、又は約93%より多い、又は約94%より多い、又は約95%より多い、又は約96%より多い、又は約97%より多い、又は約98%より多い、又は約99%より多い、又は約100%より多い)、かつDIが比較的低い(例えば、約1.0から1.4の間、又は約1.0から1.3の間、又は約1.0から1.2の間、又は約1.0から1.1の間、又は約1)限り、単一種のオレフィンの重合体であってもよいし、あるいは二種以上のオレフィンの共重合体であってもよい。
【0101】
態様によっては準リビング性のポリオレフィンは「高分子量」である。「高分子量ポリオレフィン」は、その反応生成物に潤滑油への可溶性を付与するほど充分な分子量と鎖長を持つポリオレフィン(残存不飽和があるポリオレフィンを含む)を意味する。「潤滑油に可溶性」とは、潤滑油や燃料などの脂肪族及び芳香族炭化水素に、物質が基本的にあらゆる比率で溶解する能力を意味する。一般に炭素数約30以上、又は炭素数50以上のポリオレフィン類は、「高分子量」であり、潤滑油や燃料に溶解すると考えられる。
【0102】
態様によっては準リビング性のポリオレフィンの数平均分子量(Mn)は、約500乃至約10000、又は約900乃至約5000、又は約900乃至約2500、又は約2000乃至約4000である。
【0103】
(A)イオン化ポリオレフィン類を失活させることにより生成した準リビングエキソ−オレフィン末端ポリオレフィン類
態様によっては準リビング性のポリオレフィンは、例えば1個、2個、3個又はそれ以上のカチオン末端基を持つイオン化ポリオレフィンを失活させて、エキソ−オレフィン系末端基にすることにより生成した、エキソ−オレフィン末端ポリオレフィンである。態様によってはイオン化ポリオレフィンは、カチオン末端基を持つポリイソブチレンであり、例えば下記式を有する。
【0104】
【化12】

【0105】
また、準リビング性のポリオレフィンは、エキソ−オレフィン末端ポリイソブチレンであり、例えば下記式を有する。
【0106】
【化13】

【0107】
(1)イオン化ポリオレフィン類
(a)tert−ハライド類からのイオン化ポリオレフィン類
態様によってはイオン化ポリオレフィンを、tert−クロリド末端ポリオレフィン、tert−ブロミド末端ポリオレフィンおよび/またはtert−ヨージド末端ポリオレフィンなどのtert−ハライド末端ポリオレフィンから誘導する。つまり、態様によってはtert−ハライド末端ポリオレフィンをルイス酸と接触させる。ルイス酸は、ポリオレフィンからtert−ハライド基を取り除いてカルボカチオンポリオレフィンにする。
【0108】
tert−ハライド末端ポリオレフィン類は、任意の好適な方法により、例えば当該分野で知られているイニファ法に基づいて製造することができる。
【0109】
(b)予め形成したポリオレフィン類からのイオン化ポリオレフィン類
態様によってはイオン化ポリオレフィンを、予め形成したポリオレフィンから、例えば二重結合を1つ以上持つ予備生成ポリオレフィンから誘導するが、その一部又は実質的に全部は「エンド」であるか、あるいはその一部又は実質的に全部は「エキソ」である。例えば予め形成したポリイソブチレン又はその誘導体を使用することができる。予め形成したポリオレフィンをルイス酸と接触させてイオン化ポリオレフィンが生じる。
【0110】
(c)準リビングカルボカチオン重合条件下でオレフィン単量体から誘導したイオン化ポリオレフィン類
態様によってはイオン化ポリオレフィンを、準リビングカルボカチオン条件でオレフィン単量体から誘導する。そのような条件で準リビング性のカルボカチオン性ポリオレフィンが生じる。そのような条件は任意の好適な方法によって達成することができる。そのような方法の限定的ではない例は、欧州特許第206756B1号明細書及び国際公開第2006/110647A1号パンフレットに記載されていて、それら両方の内容全部も参照内容として本明細書の記載内容とする。
【0111】
態様によっては単量体、開始剤およびルイス酸を使用して、準リビングイオン化ポリオレフィン、例えば準リビングカルボカチオンポリイソブチレン、例えば下記式の化合物を生成させる。
【0112】
【化14】

【0113】
(i)準リビングカルボカチオン重合の開始剤
態様によっては開始剤は、第三級末端基を1個以上持つ化合物又はポリオレフィンである。例えば開始剤は、式:(X’−CRabnc(式中、Ra、RbおよびRcは独立に、アルキル基、芳香族基、アルキル芳香族基のうちの少なくとも一種からなり、同じでも異なっていてもよく、そしてX’は、アセテート、エーテレート、ヒドロキシル基またはハロゲンである)の化合物であってよい。ある態様ではRcの価数はnであり、nは1乃至4の整数である。ある態様ではRa、RbおよびRcは、炭素原子1乃至約20個を含む炭化水素基である。ある態様ではRa、RbおよびRcは、炭素原子1乃至約8個を含む炭化水素基である。ある態様ではX’はハロゲンである。ある態様ではX’は塩素である。ある態様ではRa、RbおよびRcの構造は、生長種又は単量体に似ている。ある態様ではそのような構造は、ポリスチレンには1−フェニルエチル誘導体、あるいはポリイソブチレンには2,4,4−トリメチルペンチル誘導体である。ある態様では開始剤は、ハロゲン化クミル、ジクミル又はトリクミルである。ある態様では塩化物を使用する。
【0114】
例となる開始剤としては、2−クロロ−2−フェニルプロパン、すなわち塩化クミル;1,4−ジ(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼン、すなわちジ(塩化クミル);1,3,5−トリ(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼン、すなわちトリ(塩化クミル);2,4,4−トリメチル−2−クロロペンタン;2−アセチル−2−フェニルプロパン、すなわち酢酸クミル;2−プロピオニル−2−フェニルプロパン、すなわちプロピオン酸クミル;2−メトキシ−2−フェニルプロパン、すなわちクミルメチルエーテル;1,4−ジ(2−メトキシ−2−プロピル)ベンゼン、すなわちジ(クミルメチルエーテル);1,3,5−トリ(2−メトキシ−2−プロピル)ベンゼン、すなわちトリ(クミルメチルエーテル);2−クロロ−2,4,4−トリメチルペンタン(TMPCl);1,3−ジ(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼン;および1,3−ジ(2−クロロ−2−プロピル)−5−tert−ブチルベンゼン(bDCC)を挙げることができる。
【0115】
態様によっては開始剤は、単官能性であっても二官能性であっても多官能性であってもよい。単官能開始剤の例としては、2−クロロ−2−フェニルプロパン、2−アセチル−2−フェニルプロパン、2−プロピオニル−2−フェニルプロパン、2−メトキシ−2−フェニルプロパン、2−エトキシ−2−フェニルプロパン、2−クロロ−2,4,4−トリメチルペンタン、2−アセチル−2,4,4−トリメチルペンタン、2−プロピオニル−2,4,4−トリメチルペンタン、2−メトキシ−2,4,4−トリメチルペンタン、2−エトキシ−2,4,4−トリメチルペンタン、および2−クロロ−2,4,4−トリメチルペンタンを挙げることができる。二官能開始剤の例としては、1,3−ジ(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼン、1,3−ジ(2−メトキシ−2−プロピル)ベンゼン、1,4−ジ(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼン、1,4−ジ(2−メトキシ−2−プロピル)ベンゼン、および5−tert−ブチル−1,3−ジ(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼンを挙げることができる。多官能開始剤の例としては、1,3,5−トリ(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼン、および1,3,5−トリ(2−メトキシ−2−プロピル)ベンゼンが挙げられる。
【0116】
(ii)準リビング重合反応の単量体
態様によっては単量体は、炭化水素単量体、すなわち水素原子と炭素原子だけを含む化合物であり、これらに限定されるものではないが、オレフィン類及びジオレフィン類、および炭素原子数約2乃至約20、例えば炭素原子数約4乃至約8のそのようなものが挙げられる。例となる単量体としては、イソブチレン、スチレン、ベータピネン、イソプレン、ブタジエン、およびこれらの種の置換化合物、例えば2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、またはベータ−ピネンを挙げることができる。単量体の混合物も使用することができる。
【0117】
態様によっては単量体を重合して、分子量が異なっても実質的に均一な重合体を生成させる。ある態様では、重合体の分子量は約300乃至100万g/molを越える。ある態様では、そのような重合体は、分子量が約200乃至10000g/molの低分子量液体又は粘性重合体であるか、あるいは分子量が約100000乃至1000000g/mol又はそれ以上の固体ワックス状乃至塑性又は弾性物質である。
【0118】
(d)イニファ法からのイオン化ポリオレフィン類
態様によっては、イオン化ポリオレフィンを当該分野の熟練者に知られた方法を用いてイニファから誘導する。そのような方法の限定的ではない例は、米国特許第4276394号及び第4568732号の各明細書に記載されていて、それら各々の内容全部も参照内容として本明細書の記載とする。ある態様では単量体をカチオン重合条件で、少なくとも2個の第三級ハロゲンを持つイニファと反応させる。ある態様ではイニファはビニファまたはトリニファである。ある態様ではイニファは、塩化トリクミル、塩化パラジクミルまたは臭化トリクミルである。
【0119】
(e)ルイス酸
本明細書に記載する方法において、態様によってはルイス酸は、非プロトン酸、例えば金属ハロゲン化物または非金属ハロゲン化物である。
【0120】
金属ハロゲン化物ルイス酸の例としては、ハロゲン化チタン(IV)、ハロゲン化亜鉛(II)、ハロゲン化スズ(IV)、およびハロゲン化アルミニウム(III)、例えば四臭化チタン、四塩化チタン、塩化亜鉛、AlBr3、並びにアルキルアルミニウムハライド類、例えばエチルアルミニウムジクロリドおよびメチルアルミニウムブロミドを挙げることができる。非金属ハロゲン化物ルイス酸の例としては、ハロゲン化アンチモン(VI)、ハロゲン化ガリウム(III)、またはハロゲン化ホウ素(III)、例えば三塩化ホウ素、またはトリアルキルアルミニウム化合物、例えばトリメチルアルミニウムを挙げることができる。
【0121】
二種以上のルイス酸の混合物を使用することもできる。一例では、ハロゲン化アルミニウム(III)とトリアルキルアルミニウム化合物との混合物を使用する。ある態様では、トリアルキルアルミニウムに対するハロゲン化アルミニウム(III)の化学量論比は1より大きいが、一方別の態様では、トリアルキルアルミニウムに対するハロゲン化アルミニウム(III)の化学量論比は1より小さい。例えば、化学量論比で約1:1のハロゲン化アルミニウム(III)とトリアルキルアルミニウム化合物、化学量論比で2:1のハロゲン化アルミニウム(III)とトリアルキルアルミニウム化合物、または化学量論比で1:2のハロゲン化アルミニウム(III)とトリアルキルアルミニウムを使用することができる。別の例では、三臭化アルミニウムとトリメチルアルミニウムの混合物を使用する。
【0122】
態様によってはルイス酸を適当な回数のアリコートで、例えば1回のアリコートでも1回より多いアリコート、例えば2回のアリコートでも添加することができる。
【0123】
(f)電子供与体
態様によっては、従来の重合系を準リビング重合系に変えたり、および/または準リビング重合反応の制御を高めるために、電子供与体を使用する。当該分野の熟練者には分かっているように、電子供与体によっては、従来の重合系を準リビング重合系に変えたり、および/または準リビング重合反応の制御を高めることができる。
【0124】
態様によっては電子供与体は、ルイス酸と錯体を形成することができる。ある態様では電子供与体は、塩基および/または求核物質、例えば有機塩基である。ある態様では電子供与体はプロトンを取り去る又は取り除くことができる。例となる電子供与体としては、アミド類、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、および/またはN,N−ジエチルアセトアミド;スルホキシド類、例えばジメチルスルホキシド;エステル類、例えば酢酸メチルおよび/または酢酸エチル;リン酸エステル化合物、例えばリン酸トリメチル、リン酸トリブチル、および/またはヘキサメチルリン酸トリアミド;および酸素含有金属化合物、例えばチタン酸テトライソプロピルを挙げることができる。
【0125】
態様によっては電子供与体は、ピリジンまたはピリジン誘導体、例えば下記式の化合物である。
【0126】
【化15】

【0127】
式中、R1、R2、R3、R4およびR5は各々独立に、水素または炭化水素基であるか;あるいはR1とR2、またはR2とR3、またはR3とR4、またはR4とR5は独立に、炭素原子数約3乃至約7の縮合脂肪族環、または炭素原子数約5乃至約7の縮合芳香環を形成する。態様によっては、R1とR5は各々独立に炭化水素基であり、そしてR2〜R4は水素である。電子供与体として使用できるピリジン誘導体の例としては、2,6−ジ−tert−ブチルピリジン、2,6−ルチジン、2,4−ジメチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、2−メチルピリジン、および/またはピリジンを挙げることができる。他の例となる電子供与体としては、N,N−ジメチルアニリン、および/またはN,N−ジメチルトルイジンが挙げられる。
【0128】
(g)共通イオン塩及びイオン塩前駆体
本明細書に記載する方法において態様によっては、電子供与体に加えてもしくはその代わりに、共通イオン塩又は塩前駆体を任意に反応混合物に添加することができる。ある態様ではそのような塩を、イオン強度を高めたり、遊離イオンを抑えたり、配位子交換体と相互作用させるために使用することができる。テトラ−n−ブチルアンモニウムクロリド、およびテトラ−n−ブチルアンモニウムヨージドは、共通イオン塩前駆体の例である。ある態様では全反応混合物中の共通イオン塩又は塩前駆体の濃度は、約0.0005モル/リットル乃至約0.05モル/リットル、例えば約0.0005モル/リットル乃至約0.025モル/リットル、例えば約0.001モル/リットル乃至約0.007モル/リットルの範囲にあってよい。
【0129】
(2)イオン化ポリオレフィン類からエキソ−オレフィン末端ポリオレフィン類を生じさせる薬剤
カルボカチオン末端基を持つイオン化ポリオレフィンを生成させた後、イオン化ポリオレフィンを好適な反応体と反応させることによって、カルボカチオン末端基をエキソ−オレフィン系末端基に変えることができる。以下に、カルボカチオン末端基をエキソ−オレフィン系末端基に変えるのに適した試薬の一部の例を記載するが、他の多くの種類の薬剤も、エキソ−オレフィン系末端基を持つポリオレフィン類にするのに好適に使用できることを認識されたい。
【0130】
(a)窒素系失活剤
態様によっては窒素系失活剤、例えば置換ピロールまたは置換イミダゾールなどの窒素含有五員芳香環化合物;ヒンダード第二級又は第三級アミン;または窒素含有五員芳香環化合物とヒンダード第二級又は第三級アミンとの混合物を、エキソ−オレフィン系ポリオレフィン類の製造に失活剤として使用する。如何なる理論にも制限されずに、反応は下記の図式で進行することができる。
【0131】
【化16】

【0132】
如何なる理論にも制限されることはないが、態様によっては窒素系失活剤、例えば置換ピロール又はイミダゾールは、ルイス酸(例えばハロゲン化チタン対イオン)と錯体を形成して、ポリオレフィンのカチオン末端基をエキソ−オレフィン末端基に変える。ある態様ではこの変換により窒素系失活剤が再生する。
【0133】
例となる窒素系失活剤についてこれから説明する。
【0134】
態様によっては置換ピロールは下記式を有する。
【0135】
【化17】

【0136】
ある態様では、R1とR4は独立にアルキルであり、そしてR2とR3は独立に、水素またはアルキル、シクロアルキル、アリールまたはアルカリールである。別の態様では、R1とR2は、炭素原子数約6乃至10の縮合芳香環、または炭素原子数約4乃至8の脂肪族環を形成していて、そしてR4はアルキル、シクロアルキル、アリール、アルカリールまたはアラルキルである。別の態様では、R2とR3は、炭素原子数約6乃至10の縮合芳香環、または炭素原子数約4乃至8の脂肪族環を形成し、そしてR1とR4は独立にアルキルである。また別の態様では、R1とR2およびR3とR4は両者とも組として独立に、炭素原子数約6乃至10の縮合芳香環、または炭素原子数約4乃至8の脂肪族環を形成する。
【0137】
態様によっては置換イミダゾールは下記式を有する。
【0138】
【化18】

【0139】
式中、R3は分枝アルキルであり、そしてR1とR2は独立に、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、アルカリールまたはアラルキルであるか;あるいはR1とR2は、炭素原子数約6乃至10の縮合芳香環、または炭素原子数4乃至8の脂肪族環を形成する。
【0140】
好適な窒素含有五員芳香環化合物の限定的ではない例としては、2,5−ジメチルピロール、2,3−ジメチルインドール、およびカルバゾールを挙げることができる。
【0141】
【化19】

【0142】
なお、上記の窒素含有五員芳香環化合物は、次の化合物のうちの一種ではない:2,4−ジメチルピロール、1,2,5−トリメチルピロール、2−フェニルインドール、2−メチルベンズイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、または2,4,5−トリフェニルイミダゾール。
【0143】
ヒンダード第二級又は第三級アミンは下記一般式を有する。
【0144】
【化20】

【0145】
式中、R1、R2およびR3は独立に、水素および炭化水素基、例えばアルキル、シクロアルキル、アリール、アルカリール、アラルキルであるか;あるいはR1とR2、R2とR3またはR1とR3の対うちの少なくとも一つは独立に、炭素原子数約4乃至8の縮合脂肪族環を形成する。
【0146】
態様によってはヒンダード第二級又は第三級アミンは下記式を有する。
【0147】
【化21】

【0148】
式中、R1およびR5のうちの一方は水素であり、もう一方は炭素原子数約3乃至20の分枝アルキル、炭素原子数約10乃至30のアリール、または炭素原子数約11乃至30のアラルキルであり、R2、R3およびR4は独立に、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、アルカリール、アラルキルであるか;あるいはR1とR2、R2とR3、R3とR4およびR4とR5のうちの少なくとも一対は組として独立に、炭素原子数5乃至7の縮合芳香環、または炭素原子数約4乃至8の縮合脂肪族環を形成する;ただし、R1とR2が縮合脂肪族環又は芳香環を形成しているときには、R5は炭素原子数約3乃至20の分岐アルキル、炭素原子数約10乃至30のアリール、または炭素原子数約11乃至30のアラルキルであり、またR4とR5が縮合脂肪族環又は芳香環を形成しているときには、R1は炭素原子数約3乃至20の分岐アルキル、炭素原子数約10乃至30のアリール、または炭素原子数約11乃至30のアラルキルである。
【0149】
他の複素芳香環構造も可能である。例えば、ヒンダード第二級又は第三級アミンは下記式を有することができる。
【0150】
【化22】

【0151】
式中、R1とR4のうちの一方は水素であり、もう一方はアルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキルまたはアルカリールであり、R2とR3のうちの一方は水素であり、もう一方はアルキル、アリール、アラルキルまたはアルカリールであるか;あるいはR1とR2およびR3とR4のうちの少なくとも一対は組として独立に、炭素原子数約5乃至7の縮合芳香環、または炭素原子数約4乃至8の縮合脂肪族環を形成する。
【0152】
あるいは例えば、ヒンダード第二級又は第三級アミンは下記式を有することができる。
【0153】
【化23】

【0154】
式中、R1、R2、R3およびR4は独立に、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール、アルカリール、アラルキルであるか;あるいはR2とR3またはR3とR4のうちの少なくとも一対は組として独立に、炭素原子数約5乃至7の縮合芳香環、または炭素原子数約4乃至8の縮合脂肪族環を形成する;ただし、R1が水素であるときには、R2およびR4は独立に、アルキル、シクロアルキル、アリール、アルカリールまたはアラルキルであり;またR2またはR4が水素であるときには、R1はアルキル、シクロアルキル、アリール、アルカリールまたはアラルキルである。
【0155】
あるいは例えば、ヒンダード第二級又は第三級アミンは下記式を有することができる。
【0156】
【化24】

【0157】
式中、R1、R2およびR3は独立に、水素、アルキル、シクロアルキル、アルカリールまたはアラルキルである。
【0158】
好適なヒンダード第二級又は第三級アミン類の限定的ではない例としては、下記のものが挙げられる。
【0159】
【化25】

【0160】
式中、Rは独立に水素または炭化水素基である。
【0161】
ヒンダード第二級又は第三級アミンは、次の化合物のうちの一種ではない:トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリヘキシルアミン、トリイソオクチルアミン、2−フェニルピリジン、2,3−シクロドデノピリジン、ジ−p−トリルアミン、キナルジン、または1−ピロリジノ−1−シクロペンテン。
【0162】
これ以上の詳細については次のものを参照されたい:米国特許出願第11/207366号明細書(2005年8月19日出願)、「エキソ−オレフィン鎖末端を含むポリオレフィンの製造方法」、その内容全部も参照内容として本明細書の記載とする;米国特許出願第11/207377号明細書(2005年8月19日出願)、「エキソ−オレフィン鎖末端を含むポリオレフィンの製造方法」、その内容全部も参照内容として本明細書の記載とする;および米国特許出願第11/207264号明細書(2005年8月19日出願)、「エキソ−オレフィン鎖末端を高比率で含むポリオレフィンの製造方法」、その内容全部も参照内容として本明細書の記載内容とする。
【0163】
(b)モノスルフィド試薬およびプロトン受容体
態様によってはモノスルフィド試薬、例えば下記式を有する二炭化水素モノスルフィド試薬が、イオン化ポリオレフィンと錯体を形成する。
【0164】
【化26】

【0165】
式中、R1およびR2は各々独立に炭化水素基である。次いで、プロトン受容体を導入して、エキソ−オレフィン系末端基を持つポリオレフィンを生じさせ、任意にモノスルフィド試薬を再生させる。
【0166】
態様によっては、R1とR2は各々独立に、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、アルカリール、アラルキルまたはシクロアルキルである。ある態様では二炭化水素モノスルフィドは、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、ジイソプロピルスルフィド、ジアリルスルフィド、ジイソアミルスルフィド、ジ−sec−ブチルスルフィド、ジイソペンチルスルフィド、ジメタリルスルフィド、メチルtert−オクチルスルフィド、ジノニルスルフィド、ジオクタデシルスルフィド、ジペンチルスルフィド、ジ−tert−ドデシルスルフィド、またはジアリルスルフィドである。
【0167】
如何なる理論にも制限されることはないが、態様によっては二炭化水素モノスルフィドはイオン化ポリオレフィンと反応して、安定なスルホニウムイオン末端ポリオレフィンを生成させる。スルホニウムイオン末端ポリオレフィンは、ルイス酸誘導対イオン、例えば-Ti2Cl9などのハロゲン化チタンとイオン対を形成することができる。錯体とプロトン受容体との反応によって、エキソ−オレフィン系ポリオレフィンが生じ、二炭化水素モノスルフィドが再生する。如何なる理論にも制限されることはないが、ある態様ではプロトン受容体は、スルホニウムイオン末端ポリオレフィンからプロトンを取り去る。如何なる理論にも制限されることはないが、ある態様では二炭化水素モノスルフィドとイオン化ポリオレフィンとプロトン受容体との反応は、下記の図式で説明する反応経路で進行する。
【0168】
【化27】

【0169】
プロトン受容体は、前述した電子供与体と同じ化学式であっても、異なる化学式であってもよい。態様によってはプロトン受容体は有機塩基、例えば下記式を有するアミンである。
【0170】
【化28】

【0171】
式中、R1、R2およびR3は各々独立に、水素または炭化水素基、例えばアルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、アルカリール、アラルキルまたはアリールである。態様によってはR1とR2は共同で、炭素原子数約3乃至約7の環を形成している。ある態様ではプロトン受容体は、−NR12基を1個より多く有する。ある態様ではプロトン受容体は第一級、第二級又は第三級アミンである。好適なアミン類の例としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、n−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、sec−ブチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、アニリン、シクロヘキシルアミン、シクロペンチルアミン、tert−アミルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、およびトリブチルアミンを挙げることができる。
【0172】
態様によってはプロトン受容体は下記式を有するアルコールである。

R−OH
【0173】
式中、Rは炭化水素基であり、例えばRはアルキル、アルケニル、アルキニル、アルカリール、アラルキルまたはアリールである。態様によっては−OHは、第一級、第二級又は第三級炭素に結合している。ある態様ではプロトン受容体は、−OH基を1個より多く有する。好適なアルコールの例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、シクロヘキサノール、シクロペンタノール、およびフェノールを挙げることができる。
【0174】
これ以上の詳細については、米国特許出願第12/055281号明細書(2008年3月25日出願)、「モノスルフィドを用いた失活によるビニリデン末端ポリオレフィンの製造」を参照されたく、その内容全部も参照内容として本明細書の記載内容とする。
【0175】
(B)カリウムtert−ブトキシドを用いて形成された準リビング性のエキソ−オレフィン末端ポリオレフィン
あるいは、準リビング性のエキソ−オレフィン末端ポリオレフィンは、tert−ハライド末端ポリオレフィン(上記参照)をカリウムtert−ブトキシド(t−BuOK)と反応させることによっても製造することができる。一例について簡単に述べれば、tert−ハライド末端ポリオレフィン(例、塩素末端ポリオレフィン)をテトラヒドロフラン(3.0g/100ml)中で還流し、これにt−BuOKのTHF溶液(2.0g/30ml)を10分間かけて滴下し、20時間撹拌し、次いで室温に冷却する。続いて、50mlのn−ヘキサンを加え、数分撹拌し、50mlの蒸留水を加え、さらに10分間撹拌する。そして有機層を150mlの蒸留水で3回洗浄し、分離し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させる。そして、最後に、生成物を濾別し、溶媒を蒸発させ、さらに真空中、75℃で一夜乾燥させる。
【0176】
さらに詳しいことは、ジョセフ P.ケネディ、ビクター S.C.チェンジ、ロバート アラン スミス、ベラ・イワン)著、「多機能開始剤−移動剤(イニファ)による新規なテレケリック重合体及び逐次共重合体 V.α−tert−ブチル−ω−イソプロペニルポリイソブチレン及びα,ω−ジ(イソプロペニル)ポリイソブチレンの合成」、ポリマー・ビュレタン(Polymer Bulletin)、1979年、第1巻、p.575−580を参照されたい。この内容全部も参照内容として本明細書の記載内容とする。
【0177】
(II)不飽和酸性反応体
「不飽和酸性試薬」は、下記一般式のマレイン酸またはフマル酸反応体を意味する。
【0178】
【化29】

【0179】
式中、XおよびX’のうちの少なくとも一方が、反応してアルコールをエステル化したり、アンモニアまたはアミンとアミドまたはアミン塩を形成したり、反応性金属または塩基として反応する金属化合物と金属塩を形成したり、あるいはアシル化剤として機能することができる基であるならば、XおよびX’は同じでも異なっていてもよい。一般にXおよび/またはX’は、−OH、−O−炭化水素、−OM+(ただし、M+は1当量の金属、アンモニウム又はアミンカチオンを表す)、−NH2、−Cl、−Brであり、また一緒にはXおよびX’は、無水物を形成するような−O−であってよい。態様によってはXおよびX’は、両方のカルボキシル機能がアシル化反応の一部となりうるようなものである。無水マレイン酸は使用できる不飽和酸性反応体の一例である。他の好適な不飽和酸性反応体としては、電子欠損オレフィン類、例えばモノフェニルマレイン酸無水物;モノメチル、ジメチル、モノクロロ、モノブロモ、モノフルオロ、ジクロロ及び/又はジフルオロマレイン酸無水物;N−フェニルマレイミドおよび/または他の置換マレイミド類;イソ−マレイミド類;フマル酸;マレイン酸;マレイン酸及び/又はフマル酸水素アルキル類;フマル酸及び/又はマレイン酸ジアルキル類;フマルアニリド酸および/またはマレアミド酸;並びにマレオニトリルおよび/またはフマロニトリルを挙げることができる。
【0180】
本明細書に記載するもののような共重合体に無水マレイン酸を使用することは特に有用である、というのは、共重合体全体にわたって得られた無水コハク酸基をそののち、共重合体の特性を更に改良するために、例えば以降に詳しく説明するように変性させることができるからである。
【0181】
(III)共重合開始剤
種々の開始剤が、準リビング性のポリオレフィンと不飽和酸性反応体との共重合を開始する際に使用するのに適している。態様によっては、例えば開始剤の存在下で単量体を重合して準リビング性のポリオレフィンを生成させる態様では、共重合反応を開始するのに追加の開始剤を使用する必要がない。そのような態様では準リビング反応の開始剤を、共重合反応の開始剤としても使用することができる(共重合開始剤を添加することもできることに留意されたい)。別の態様では共重合開始剤を添加することができる。
【0182】
態様によっては任意の好適なラジカル開始剤によって、共重合を開始することができる。そのような開始剤も当該分野ではよく知られている。
【0183】
ペルオキシド型重合開始剤、アゾ型重合開始剤および放射線は、本明細書に記載する反応のような共重合反応に使用できる開始剤の例である。
【0184】
ペルオキシド型開始剤は、有機物であっても無機物であってもよく、態様によっては式:R3OOR3'(式中、R3は任意の有機基であり、そしてR3'は水素および任意の有機基からなる群より選ばれる)を有する有機物である。R3およびR3'は両方とも有機基であってもよく、例えば任意にハロゲンなどの置換基を持つ炭化水素基、アリール基及びアシル基である。使用できるペルオキシド類の限定的ではない例としては、ジ−tert−アミルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシベンゾエート、ジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド、他の第三級ブチルペルオキシド類、2,4−ジクロロ−ベンゾイルペルオキシド、第三級ブチルヒドロペルオキシド、アセチルヒドロペルオキシド、ジエチルペルオキシカーボネート、および第三級ブチルペルベンゾエート等を挙げることができる。
【0185】
アゾ型化合物も、アルファ、アルファ’−アゾビスイソブチロニトリルに代表されるが、よく知られたラジカル促進物質である。アゾ化合物は、分子中に−N=N−基が存在するものと定義することができ、有機基によって均衡がとられ、そのうちの少なくとも一つは第三級炭素に結合していることが好ましい。他の好適なアゾ化合物としては、これらに限定されるものではないが、p−ブロモベンゼンジアゾニウムフルオロボレート、p−トピジアゾアミノベンゼン、p−ブロモベンゼンジアゾニウムヒドロキシド、アゾメタン、およびフェニルジアゾニウムハライド類を挙げることができる。
【0186】
(IV)希釈剤
共重合反応は無溶媒で行なうことができる、すなわち準リビング性のポリオレフィン、不飽和酸性反応体および開始剤を、適正な比率で一緒にしたのち反応温度で撹拌することができる。不飽和酸性反応体は時間をかけて加えても、一度に全部加えてもよい。
【0187】
あるいは、反応を希釈剤中で行うこともできる。例えば反応体を溶媒中で一緒にすることができる。希釈剤は、反応成分を完全に、ほぼ完全にもしくは部分的に溶解する、単一化合物であっても二種以上の化合物の混合物であってもよい。態様によっては希釈剤は低沸点および/または低凝固点である。
【0188】
各種の好適な希釈剤、例えばアルカン、一ハロゲン化アルキルまたは多ハロゲン化アルキルを使用することができる。好適なノルマルアルカン類の例としては、プロパン、ノルマルブタン、ノルマルペンタン、ノルマルヘキサン、ノルマルヘプタン、ノルマルオクタン、ノルマルノナンおよび/またはノルマルデカンを挙げることができる。好適な分枝アルカン類の例としては、イソブタン、イソペンタン、ネオペンタン、イソヘキサン、3−メチルペンタン、2,2−ジメチルブタンおよび/または2,3−ジメチルブタンを挙げることができる。好適なハロゲン化アルカン類の例としては、クロロホルム、塩化エチル、塩化n−ブチル、塩化メチレン、塩化メチル、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、塩化n−プロピル、塩化イソプロピル、1,2−ジクロロプロパンおよび/または1,3−ジクロロプロパンを挙げることができる。
【0189】
アルケン類および/またはハロゲン化アルケン類も、希釈剤として使用することができ、例えば塩化ビニル、1,1−ジクロロエテンまたは1,2−ジクロロエテンがある。置換ベンゼン類も適している。
【0190】
態様によっては希釈剤は、二硫化炭素、二酸化硫黄、無水酢酸、アセトニトリル、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、メチルシクロヘキサン、クロロベンゼンおよびニトロアルカンのうちの一種又はそれ以上である。
【0191】
種々の希釈剤の混合物も使用することができ、例えばヘキサンと塩化メチルの混合物がある。態様によってはそのような混合物は、容量で約30/70乃至約70/30のヘキサン/塩化メチル、又は例えば容量で約50/50乃至約100/0のヘキサン/塩化メチル、又は例えば容量で約50/50乃至約70/30のヘキサン/塩化メチル、又は例えば容量で約60/40のヘキサン/塩化メチル、又は例えば容量で約50/50のヘキサン/塩化メチルである。
【0192】
反応が終了したのち、揮発物をストリッピングして除くことができる。
【0193】
(V)反応条件
態様によっては、得られる共重合体(例えばポリPIBSA)に所望の特性を付与するために、様々な反応体の量および反応の温度を選択する。
【0194】
用いる開始剤の量は、放射線を除いて、選んだ特定の開始剤、使用するオレフィンおよび反応条件に大いに依存する。態様によっては開始剤は反応媒体に可溶性である。例となる開始剤の濃度は、酸性反応体のモル当り開始剤0.001:1から0.20:1モルの間、例えば0.005:1から0.10:1の間にある。
【0195】
態様によっては重合温度は、開始剤を分解して所望のラジカルを生じさせ、反応体を反応圧(例えば大気圧)で液相で維持できるほど充分に高い。
【0196】
態様によっては反応時間は、酸性反応体と準リビング性のポリオレフィンの共重合体への実質的に完全な変換をもたらすほど充分な時間である。例となる反応時間は1から24時間の間、例えば2から10時間の間にある。
【0197】
上記のように目的の反応は液相で起こる。準リビング性のポリオレフィン、不飽和酸性反応体および開始剤を任意の好適な方法で、例えば準リビング性のポリオレフィンと不飽和酸性反応体とを、開始剤によって発生したラジカルの存在下で充分に接触させるようにして、反応させることができる。例えば、反応はバッチ装置で行うことができ、不飽和酸性反応体と開始剤との混合物に準リビング性のポリオレフィンを最初に全部加えてもよいし、あるいは準リビング性のポリオレフィンを反応ポットに間欠的に又は連続的に加えることもできる。反応体を別の順序で加えることもできる。例えば、準リビング性のポリオレフィンを含む反応ポットに、開始剤と不飽和酸性反応体とを加えることもできる。別の方法では、反応混合物の成分を連続的に撹拌中の反応器に加えながら、生成物の一部を回収トレーン又は他の一連の反応器に連続的に取り出すこともできる。コイル型反応器でも反応を好適に起こすことができ、コイルに沿って一箇所以上で成分を加える。
【0198】
共重合が実質的に終了した後、残った不飽和酸性反応体を任意に、従来技術を用いて、例えば共重合体にかかる圧力を下げて反応体を実質的にストリッピングすることにより取り除くことができる。
【0199】
[準リビング性のポリオレフィンと不飽和酸性反応体とから製造した共重合体を使用した分散剤、およびそれを含む組成物]
準リビング性のポリオレフィンと不飽和酸性反応体とから、例えば上述した方法を用いて製造したポリPIBSA共重合体を、所望の機能性を付与するおよび/または共重合体の他の特性を調整するために、様々な反応体と反応させることができる。そして、得られたポリPIBSA誘導体を種々の組成物、例えば潤滑油や燃料、濃縮物に使用することができる。
【0200】
(I)収量を高める酸によるポリPIBSAの後処理
態様によっては共重合体、例えばポリPIBSAの収量を、ポリPIBSAを高温で強酸の存在下で不飽和酸性試薬と反応させることにより高めることができる。如何なる理論にも制限されることはないが、不飽和酸性反応体は共重合体中の残留未反応ポリオレフィンと反応し、それにより共重合体の収量が上昇する。不飽和酸性試薬は、最初に共重合体を生成させるのに使用したもの(例えば前述したもの)と同じであっても異なっていてもよい。得られる生成物は、ポリPIBSAと酸が触媒として働いた熱的PIBSAとの混合物である。
【0201】
「強酸」は、pKaが約+4未満、例えば約−10乃至+4未満、例えば約−3から+2の間にある酸を意味する。態様によっては強酸は油溶性の強有機酸である。代表的な油溶性強酸の部類は、マレイン酸、マロン酸、リン酸、チオリン酸、ホスホン酸、チオホスホン酸、スルホン酸、硫酸、およびアルファ置換又はニトリロカルボン酸類(ただし、油可溶化基又は基類は炭化水素基であって、炭素原子10乃至76個、例えば炭素原子24乃至40個、例えば炭素原子28乃至36個を含み、そしてアリール基は例えばフェニルである)で代表される。一例として強酸は、アルキルアリールスルホン酸などのスルホン酸であり、例えばアルキル基の炭素原子数は4乃至30である。
【0202】
反応は、過剰な不飽和酸性反応体を用いて高温で強酸の存在下にて行う。反応の生成物を、本明細書では「酸触媒による熱的PIBSA」と称する。
【0203】
態様によっては強酸は、未反応ポリオレフィンの全質量に基づき例えば0.0025%乃至1.0%の範囲の量で存在させる。不飽和酸性反応体を(残留ポリオレフィンを含む)共重合体に時間をかけて、例えば0.5乃至3時間で加えてもよいし、あるいは全部を一度に加えてもよい。不飽和酸性反応体と未反応ポリオレフィンの比は、少なくとも1.0:1、例えば1.0:1乃至4.0:1である。温度は広範囲にわたって変えることができ、例えば180℃乃至240℃であり、また圧力は大気圧でも、減圧でも、過圧でもよい。
【0204】
反応が終了した後、未反応の不飽和酸性反応体を取り除き、反応媒体を冷却し、そして任意に濾過する。
【0205】
これ以上の詳細については、米国特許第6451920号明細書を参照されたく、その内容全部も参照内容として本明細書の記載内容とする。
【0206】
(II)ポリコハク酸イミド類
ポリコハク酸イミドは、前述のようにして製造した共重合体、例えば準リビング性のPIBと無水マレイン酸とから製造したポリPIBSAを、反応条件下でアミンまたはポリアミンと反応させることにより製造することができる。一般にアミンまたはポリアミンは、ポリPIBSA/酸触媒による熱的PIBSA混合物中の酸根当量当り、アミン又はポリアミン0.1乃至1.5当量となるような量で用いる。態様によっては、少なくとも3個の窒素原子と4乃至20個の炭素原子を持つポリアミンを使用する。
【0207】
反応は不活性有機溶媒中で行うことが望ましい。使用できる溶媒は一様ではなく、文献情報源や日常実験により決定することができる。一般に反応は、約60℃乃至180℃、例えば150℃乃至170℃の範囲の温度で、約1乃至10時間、例えば約2乃至6時間で行う。一般に反応はほぼ大気圧で行うが、所望とする反応温度および反応体又は溶媒の沸点に応じて、それより高い圧力でも低い圧力でも用いることができる。
【0208】
反応系に存在する水またはこの反応で発生した水を、反応の過程で共沸または蒸留により反応系から取り除くことができる。反応終了後、系を高温(一般に100℃乃至250℃)、減圧でストリッピングして、生成物中に存在しうる如何なる揮発物も取り除くことができる。
【0209】
アミン又はポリアミン、例えば分子当り少なくとも3個のアミン窒素原子(例、分子当り4乃至12個のアミン窒素)を持つポリアミンを使用する。分子当り約6乃至10個の窒素原子を持つポリアミン類も使用することができる。使用できるポリアルケンポリアミン類は、アルキレン単位当り炭素原子約4乃至20個、例えば炭素原子2乃至3個も含み、態様によっては炭素対窒素比が1:1乃至10:1である。
【0210】
本明細書に記載したもののような共重合体のコハク酸イミド類を製造するのに使用することができる好適なポリアミン類の限定的ではない例としては、次のものが挙げられる:テトラエチレンペンタアミン、ペンタエチレンヘキサアミン、ダゥ(Dow)E−100重質ポリアミン(Mn=303、ダゥケミカル・カンパニー(Dow Chemical Company)製)、およびユニオンカーバイド(Union Carbide)HPA−X重質ポリアミン(Mn=275、ユニオンカーバイド・コーポレーション(Union Carbide Corporation)製)。そのようなポリアミン類には異性体も含まれ、例えば分枝鎖ポリアミン類、および炭化水素置換ポリアミン類を含む置換ポリアミン類がある。HPA−X重質ポリアミンは、平均で分子当りアミン窒素原子およそ6.5個を含む。
【0211】
ポリアミン反応体は、単一化合物であっても、市販のポリアミンを反映して化合物の混合物であってもよい。一般に市販のポリアミンは、一乃至数種の化合物を主とする、平均組成が表示された混合物である。例えば、アジリジンの重合もしくはジクロロエチレンとアンモニアの反応により製造されたテトラエチレンペンタアミンは一般に、低級アミンと高級アミン両方の構成員、例えばトリエチレンテトラアミン、置換ピペラジン類およびペンタエチレンヘキサアミンを含んでいるが、組成物は主としてテトラエチレンペンタアミンであり、全アミン組成物の実験式はテトラエチレンペンタアミンのものに極めて近い。
【0212】
好適なポリアミン類の他の例としては、様々な分子量のアミンの混合物が挙げられる。ジエチレントリアミンと重質ポリアミンの混合物も挙げられる。一例となるポリアミン混合物としては、ジエチレントリアミン20質量%と重質ポリアミン80質量%を含む混合物がある。
【0213】
アミン、例えばモノアミンを用いる態様では、アミンは第一級アミン、第二級アミンまたはそれらの混合物であり、炭素原子数が少なくとも10、例えば炭素原子数が12から18の間であってよい。芳香族、脂肪族、飽和及び不飽和アミン類を用いることができる。使用できるアミン類としては、脂肪族第一級アミン類が挙げられる。好適なアミン類の例としては、これらに限定されるものではないが、オクタデシルアミンおよびドデシルアミンが挙げられる。好適なアミン混合物の例としては、牛脂アミン(主にC18アミン類を含む部分飽和アミン混合物)がある。
【0214】
モノアミンとポリアミンの混合物も使用することができる。また、ポリアルキレンポリアミン類(例えば、商品名ジェファミン(Jeffamine)として供給されている物質)や、アミノアルコール類も好適に使用することができる。
【0215】
(III)ポリエステル類
ポリエステル類は、本明細書に記載したようにして製造した共重合体、例えば準リビング性のPIBと無水マレイン酸から製造したポリPIBSAを、ポリオールと反応条件で反応させることにより製造することができる。ポリオール類は、式:R”(OH)x(式中、R”は炭化水素基であり、そしてxはヒドロキシ基の数を表す整数であって2乃至約10の値である)を有する。態様によってはポリオール類は、炭素原子を30個未満で含み、またヒドロキシ基を2乃至約10個、例えば3乃至6個含む。ポリオール類は例えば、アルキレングリコール類およびポリ(オキシアルキレン)グリコール類、例えばエチレングリコール、ジ(エチレングリコール)、トリ(エチレングリコール)、ジ(プロピレングリコール)、トリ(ブチレングリコール)、ペンタ(エチレングリコール)、並びに2モル以上のエチレングリコール、プロピレングリコール、オクチレングリコールまたはアルキレン基の炭素原子数が12個までの同様のグリコールの縮合により製造された、他のポリ(オキシアルキレン)グリコール類で例示される。他の使用できる多価アルコール類としては、グリセロール、ペンタエリトリトール、2,4−ヘキサンジオール、ピナコール、エリトリトール、アラビトール、ソルビトール、マンニトール、1,2−シクロヘキサンジオール、キシリレングリコール、および1,3,5−シクロヘキサントリオールを挙げることができる。その他の使用できるポリオール類については、米国特許第4034038号明細書(ボーゲル、1977年7月5日発行)に開示されていて、その内容も全て参照内容として本明細書の記載とする。
【0216】
エステル化は例えば、約100℃乃至約180℃、例えば約150℃乃至約160℃の温度で行なうことができる。通常は実質的に大気圧で反応を行うが、例えばより揮発性の反応体では大気圧より高い圧力も用いることができる。態様によっては、反応体を化学量論量で用いる。触媒の不在下で、あるいは酸系触媒、例えば鉱酸、スルホン酸およびルイス型酸等の存在下で反応を行うことができる。好適な反応条件および触媒については、米国特許第3155686号明細書(プリル、外、1964年11月3日発行)に開示されていて、その内容も全て参照内容として本明細書の記載内容とする。
【0217】
(IV)ポリコハク酸イミド類の後処理
前述のようにして製造したポリコハク酸イミド類、例えば準リビング性のPIBと無水マレイン酸とから製造したポリPIBSAを用いて製造したポリコハク酸イミド類の分散性および他の特性を、環状カーボネートとの反応により更に改良することができる。得られた後処理生成物は、ポリアミノ部の1個以上の窒素が、ヒドロキシ炭化水素オキシカルボニル、ヒドロキシポリ(オキシアルキレン)オキシカルボニル、ヒドロキシアルキレン、ヒドロキシアルキレンポリ(オキシアルキレン)またはそれらの混合物で置換されている。
【0218】
態様によっては環状カーボネート後処理は、環状カーボネートとポリアミノ置換基の第二級アミノ基との反応を起こさせるのに充分な条件で行う。一般に反応は、約0℃乃至250℃、例えば100℃乃至200℃、例えば約150℃乃至180℃の温度で行う。
【0219】
反応は無溶媒で行うことができ、任意に触媒(例えば酸性、塩基性又はルイス酸触媒)の存在下で行う。反応体の粘度によっては、不活性な有機溶媒又は希釈剤、例えばトルエンまたはキシレンを用いて反応を行うことが有益である。好適な触媒の例としては、リン酸、三フッ化ホウ素、アルキル又はアリールスルホン酸、およびアルカリ又はアルカリ土類カーボネートを挙げることができる。
【0220】
使用できる環状カーボネートの一例は、1,3−ジオキソラン−2−オン(エチレンカーボネート)であり、好適な結果をもたらし、市販されていて容易に入手できる。
【0221】
後処理反応に用いる環状カーボネートのモル充填量は、態様によってはコハク酸イミドのポリアミノ置換基に含まれる塩基性窒素原子の理論的数に基づく。理論にとらわれることを望まなくても、1当量のテトラエチレンペンタアミンが2当量の無水コハク酸と反応すると、得られたビス−コハク酸イミドは理論的には3個の塩基性窒素原子を含むことになる。よって、モル充填比2は理論上、各塩基性窒素に対して2モルの環状カーボネート、あるいはこの場合には各モル当量のコハク酸イミドに対して6モルの環状カーボネートを加えることを要求する。環状カーボネートと塩基性アミン窒素のモル比は、一般に約1:1乃至約4:1であり、好ましくは約2:1乃至約3:1である。
【0222】
前述のようにして製造したポリコハク酸イミド類、例えば準リビング性のPIBと無水マレイン酸から製造したポリPIBSAを用いて製造したポリコハク酸イミド類の分散性および他の特性を、ホウ酸または同様のホウ素化合物と反応させてホウ酸化分散剤にすることにより、更に改良することができる。ホウ酸に加えて、好適なホウ素化合物の例としては、酸化ホウ素類、ハロゲン化ホウ素類およびホウ酸のエステル類が挙げられる。態様によっては本発明の組成物中の塩基性窒素又はヒドロキシル当量当り、ホウ素化合物約0.1当量乃至約1当量を用いることができる。
【0223】
(V)潤滑油組成物および濃縮物
前述したような準リビング性のPIBと無水マレイン酸から製造したポリPIBSAに基づくポリコハク酸イミド類は、潤滑油の清浄分散添加剤として有用である。一般にそのようなポリコハク酸イミド類は、クランクケース油に用いるなら、全組成物のうちの(活性分に基づき)約1乃至約10質量%、例えば(活性分に基づき)約5質量%未満の量で使用することができる。活性分に基づきとは、組成物の残余に対する添加剤の量を決めるときに、ポリコハク酸イミドの活性成分だけを考慮することを意味する。希釈剤および未反応ポリオレフィンなど他の如何なる不活性分も除外される。特に指示しない限り、潤滑油および最終組成物又は濃縮物を説明するのに、活性成分含量はポリコハク酸イミド類に対して意図している。
【0224】
ポリコハク酸イミド類と一緒に使用される潤滑油は、潤滑粘度の鉱油でも合成油でもよく、好ましくは内燃機関のクランクケースに使用するのに適した油である。クランクケース潤滑油の粘度は一般に、0°F(−17.8℃)で約1300cSt乃至210°F(99℃)で22.7cStである。使用できる鉱油としては、潤滑油組成物に使用するのに適したパラフィン系、ナフテン系及びその他の油が挙げられる。合成油としては、炭化水素合成油および合成エステル類両方が挙げられる。使用できる合成炭化水素油としては、適正な粘度を有するアルファオレフィンの重合体、例えばC6−C12アルファオレフィンの水素化液体オリゴマー類、例えば1−デセン三量体が挙げられる。同様に、適正な粘度のアルキルベンゼン、例えばジドデシルベンゼンも使用することができる。使用できる合成エステル類としては、モノカルボン酸およびポリカルボン酸とモノヒドロキシアルカノールおよびポリオールとのエステル類が挙げられる。例としては、ジドデシルアジペート、ペンタエリトリトールテトラカプロエート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、およびジラウリルセバケート等がある。モノ及びジカルボン酸とモノ及びジヒドロキシアルカノールとの混合物から合成された複合エステル類も使用することができる。
【0225】
炭化水素油と合成油のブレンドも使用できる。例えば、水素化1−デセン三量体10乃至25質量%と150SUS(100°F)鉱油75乃至90質量%とのブレンドは、優れた潤滑油基油を与える。
【0226】
配合物に存在していてもよい他の添加剤としては、(過塩基性及び非過塩基性)清浄剤、さび止め添加剤、消泡剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、酸化防止剤、摩耗防止剤、ジチオリン酸亜鉛類、およびその他各種の公知の添加剤を挙げることができる。
【0227】
前述したようにして製造したポリコハク酸イミド類が、油圧作動油や舶用クランクケース潤滑剤等に分散剤および清浄剤として用いることができることも期待できる。態様によってはポリコハク酸イミドを作動油に、(活性ポリコハク酸イミドに基づき)0.1乃至5質量%、好ましくは(活性ポリコハク酸イミドに基づき)0.5乃至5質量%添加する。
【0228】
ポリコハク酸イミド類は添加剤濃縮物に使用することもでき、濃縮物は態様によっては、有機液体希釈剤を90乃至10%、例えば20乃至60質量%、およびポリコハク酸イミドを(乾燥量に基づき)10乃至90質量%、例えば80乃至40質量%含有する。一般に濃縮物は、輸送や貯蔵の間取扱いを容易にするのに充分な希釈剤を含有している。濃縮物に適した希釈剤としては、任意の不活性希釈剤、好ましくは潤滑粘度の油が挙げられ、それにより濃縮物を潤滑油と容易に混合して潤滑油組成物を製造することができる。希釈剤として使用することができる好適な潤滑油の粘度は、一般には0°F(−17.8℃)で約1300cSt乃至210°F(99℃)で22.7cStの範囲にあるが、潤滑粘度の油を使用することができる。
【0229】
(E)燃料組成物および濃縮物
燃料に使用するとき、前述のようにして製造したポリコハク酸イミド類の所望の分散性を得るために有用な濃度は、使用する燃料の種類、他の清浄剤又は分散剤又は他の添加剤の有無等を含む様々な要因に依存する。態様によっては、基材燃料中のポリコハク酸イミドの濃度範囲は、百万分の10乃至10000質量部、例えば百万分の30乃至5000部である。他の清浄剤が存在するなら、ポリコハク酸イミドをもっと少ない量で使用してもよい。ポリコハク酸イミド類を、沸点が約150〜400°F(65.6〜204.4℃)の範囲にある不活性で安定な親油性溶媒を用いて、燃料濃縮物として配合することもできる。使用できる溶媒は沸点がガソリンまたはディーゼル燃料の沸点範囲にある。ある態様では脂肪族又は芳香族炭化水素溶媒、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、または高沸点の芳香族炭化水素類又は芳香族シンナー類を使用する。炭素原子数約3乃至8の脂肪族アルコール類、例えばイソプロパノール、イソブチルカルビノールおよびn−ブタノール等も炭化水素溶媒と組み合わせて、ポリコハク酸イミドと一緒に使用するのに適している。燃料濃縮物においてポリコハク酸イミドの量は、ある態様では少なくとも5質量%で70質量%以下、例えば5乃至50、例えば10乃至25質量%である。
【実施例】
【0230】
本発明について以下の実施例により更に説明するが、実施例を本発明の範囲を限定するものとみなすべきではない。
【0231】
[実施例A] エキソ−オレフィン末端準リビング性ポリイソブチレンの合成
頭上撹拌器と熱電対を備えた5L四つ口丸底フラスコを、−60℃で維持したヘプタン浴に入れた。この装置および浴を、不活性雰囲気として無水窒素ガスを含むグローブボックス内に封入した。丸底フラスコに次のものを充填した:ヘキサン2144.7mL、塩化メチル1429.8mL、イソブチレン422.5mL(5.17mol)、2−クロロ−2,4,4−トリメチルペンタン19.95g(0.134mol)、2,6−ルチジン14.2mL、およびテトラ−n−ブチルアンモニウムクロリド1.14g。溶液が−60℃で熱平衡に達するまで混合物を撹拌した。次に、TiCl464.7mL(0.59mol)を反応器に充填して、イソブチレンの重合を開始した。重合を15分間を進行させ、その時点で2,5−ジメチルピロール23.2mL(0.228mol)を反応器に充填した。混合物を更に57分間撹拌し、その後メタノール107.5mL(2.657mol)で反応を停止させた。
【0232】
混合物をグローブボックスから取り出し、そして揮発物を環境条件で一晩蒸発させた。有機層を、5%HCl/脱イオンH2O溶液で繰返し抽出し、中性になるまで脱イオンH2Oですすぎ、その後、硫酸マグネシウムで乾燥した。 次に、有機層をセライトとシリカゲル両方でろ過し、最後に減圧蒸留によりヘキサンを取り除いて、PIBおよそ275gを得た。生成物は、エキソ−オレフィン末端基含量97%であり、Mn=2278、DI=1.05であった。
【0233】
[実施例B] エキソ−オレフィン末端準リビング性ポリイソブチレンの合成
ヘキサン1002.8mL、塩化メチル936.5mL、イソブチレン402mL(4.80mol)、2−クロロ−2,4,4−トリメチルペンタン43.249g(0.291mol)、2,6−ルチジン1.248mL、およびテトラ−n−ブチルアンモニウムクロリド1.668gを使用したこと以外は、実施例Aと同じ方法を用いて、準リビング性のPIB(Mn=1007)を製造した。−45℃のこの混合物に、TiCl413.8g(0.073mol)を加えた。重合を60分間を進行させ、その時点でイソプロピルスルフィド46.29mL(0.319mol)を加えた後、追加のTiCl496.05g(0.506mol)を加えた。混合物を更に4分間を撹拌し、その時点でn−ブチルアミン185.99g(2.543mol)を加えた。温度を短時間で−15℃まで上げた。更に6分後、温度を−24℃まで下げ戻し、そしてメタノール94.15mL(2.327mol)を加えて反応を停止させた。この反応からの生成物を希塩酸溶液、次いで水ですすいで精製し、次に無水硫酸マグネシウムで乾燥し、その後ろ過した。この物質を200−450メッシュのシリカゲル(100g)のカラムに通してヘキサンで溶離することにより、生成物を更に精製した。減圧でヘキサンを取り除いてPIB生成物に得た。この反応からのPIB生成物は、Mn=1007、DI=1.10、エキソ−オレフィン末端基含量94%であった。
【0234】
[実施例1] 準リビング性ポリイソブチレンからのポリPIBSA
還流冷却器、頭上撹拌器、加熱マントルおよび二つの注射器ポンプを備えた500mLフラスコに、実施例Bからの準リビング性のPIB(86g、0.085mol、Mn=1007、DI=1.10、エキソ−オレフィン末端基含量94%)を入れた。温度を150℃に上げた。ジ−tert−アミルペルオキシド(1.59g、0.0091mol)、および無水マレイン酸(15.44g、0.157mol)を、2時間かけて二つの注射器ポンプで別々に加えた。無水マレイン酸を80℃より上に加熱したので、試料は液体であった。注射器の針を液体の表面より下に位置させたので、針の先端が互いにちょうど接触した。反応物を更に2時間加熱した。次に、減圧、180℃で2時間かけて蒸留することにより、余分な無水マレイン酸を取り除いた。ポリPIBSAは、SAP価(ASTM D94で決定した鹸化価)141.4mgKOH/gであり、活性分90.2質量%を含んでいた。コハク酸比は1.6であった。コハク酸比は、米国特許第5334321号明細書第5及び6欄に示された方法及び数式に従って算出される比を意味し、その内容も全て参照内容として本明細書の記載とする。普通はコハク酸比は、ポリブチレン尾当りのコハク酸基の数を意味する。本出願との関連ではコハク酸比は、ポリPIBSA共重合体中に存在するポリブテン尾に対する無水コハク酸基の比を意味する。
【0235】
[実施例2(比較例)] 非準リビング性ポリイソブチレンからのポリPIBSA
イソブチレンのBF3触媒による重合によって製造した非準リビング性のPIB100g(0.096mol、Mn=1046、DI=1.71、エキソ−オレフィン末端基含量83%)、ジ−tert−アミルペルオキシド1.74g(0.01mol)、および無水マレイン酸15g(0.153mol)を使用したこと以外は、実施例1に記載した方法と同じようにして、非準リビング性のPIBから誘導したポリPIBSAを製造した。このポリPIBSAは、SAP価123.7mgKOH/gであり、活性分81.6質量%を含んでいた。コハク酸比は1.6であった。
【0236】
[実施例3] 準リビング性ポリイソブチレンからのポリPIBSA
数平均分子量2278、DI=1.05、エキソ−オレフィン末端基含量97%の準リビング性のPIB90.1g(0.04mol)、ジ−tert−アミルペルオキシド1.2g(0.007mol)、および無水マレイン酸6.32g(0.06mol)を使用したこと以外は、実施例1に記載した方法と同じようにして、実施例Aで製造した準リビング性のPIBから誘導したポリPIBSAを製造した。生成物のポリPIBSAは、SAP価58.6mgKOH/g、活性分84.7%、コハク酸比1.5であった。
【0237】
[実施例4(比較例)] 非準リビング性ポリイソブチレンからのポリPIBSA
イソブチレンのBF3触媒による重合によって製造した、数平均分子量2389、DI=1.89、エキソ−オレフィン末端基含量85%の非準リビング性のPIB97.5g(0.041mol)、ジ−tert−アミルペルオキシド1.28g(0.0074mol)、および無水マレイン酸6.4g(0.07mol)を使用したこと以外は、実施例1に記載した方法と同じようにして、非準リビング性のPIBから誘導したポリPIBSAを製造した。生成物のポリPIBSAは、SAP価=56.1mgKOH/g、活性分73.7%、コハク酸比1.7であった。
【0238】
第1表に、実施例1乃至4のデータをまとめて示す。
【0239】
【表1】

【0240】
結果は、準リビング性のPIBから製造したポリPIBSAが有益なことには、非準リビング性のPIBから製造したポリPIBSAよりも、ほぼ同じコハク酸比でSAP価が高く、活性分%も多いことを明らかにしている。理論にとらわれることを望まないが、多い活性分%および高いSAP価は、準リビング性のPIBが非準リビング性のPIBよりも多いエキソ−オレフィン末端基含量%を含むという事実に、少なくとも一部は基づくと考えられる。また、分子量1000のポリPIBSAも一般に分子量2300のポリPIBSAよりSAP価が高いが、理論にとらわれることを望まないが、これは、分子量2300ポリPIBSAに比べて分子量1000ポリPIBSAでは、無水物基が全質量のうちの高いパーセントを占めるからであると考えられる。分子量1000ポリPIBSAは、分子量2300ポリPIBSAよりも活性分%が多いが、理論にとらわれることを望まないが、これは、分子量2300PIBよりも分子量1000PIBの方が二重結合の濃度(ミリモル/mL)が高く、よって分子量1000PIBの方が高い比率で反応するからであると考えられる。
【0241】
(実施例1〜4の結果の比較)
マルチグレード油(例えば10W30油)は、低温でのSAE10W粘度限度および高温でのSAE30粘度限度を満たす。所望の粘度目標を満たす方法の例は、次のものを使用することである:1)粘度の異なる基油のブレンド(例えば、100ニュートラル油+600ニュートラル油)、2)粘度指数(VI)の高い非従来型基油、3)コールドクランクシミュレータ(CCS)増粘が低い清浄/防止添加剤パッケージ、および4)配合油の粘度指数を改善する粘度指数向上剤(VI向上剤)。これら四つの変数の適切な組合せを用いることにより、100℃動粘度(kv)が高く、かつ例えば−20℃のCCS粘度が低い配合油を製造することができる。
【0242】
ある一定の条件では、例えば燃料経済性の高い客車用モーター油(PCMO)配合物では、分散剤のCCS粘度が低くkvも低いことが有益であることがある。これは、希釈油に溶解した分散剤のCCSとkvを測定することにより求めることができる。CCSもkvも低い分散剤は改善された性能を示す。
【0243】
別の条件では場合によっては、所望の粘度グレードを満たすのにVI向上剤をそれほど必要としないためには、分散剤のkvが高くCCS粘度が低いことが有益である。これは、CCS対kvをプロットしてその傾きを測定することにより求めることができる。傾きが最小の分散剤は性能が改善されている。
【0244】
準リビング性のPIBから誘導したポリPIBSAにおける上述した低温特性の改善を、非準リビング性のPIBと比較して実証するために、実施例1〜4の生成物についてコールドクランキングシミュレータ(CCS)粘度および動粘度(kv)を測定した。第2表に、その結果を表示する。この分析では、実施例1〜4のポリPIBSAをまず、シェブロン100ニュートラル希釈油に4質量%と8質量%の用量で溶解した。シェブロン100ニュートラル希釈油は第2種希釈油である。ASTM D445を用いて動粘度(100℃kv)を測定した。ASTM D5293を用いてコールドクランクシミュレータ(CCS)を測定した。第2表に、これらの結果を示す。
【0245】
【表2】

【0246】
結果は、MW〜1000PIBからのポリPIBSAもMW〜2300PIBからのポリPIBSAもいずれも、準リビング性のPIBから誘導したポリPIBSAではCCS粘度とkvが、非準リビング性のPIBから誘導したポリPIBSAに比べて低かったことを明らかにしている。理論にとらわれることを望まないが、これは、実施例1及び3でポリPIBSAを製造するのに使用した準リビング性のPIBの分散指数(DI=1.05−1.11)が、実施例2及び4でポリPIBSAを製造するのに使用した非準リビング性のPIB(DI=1.71−1.89)より低いという事実に依るものと考えられる。このことは、燃料経済性の高いPCMO配合物が望まれる油では、準リビング性のPIBから製造したポリPIBSAが、非準リビング性のPIBから製造したポリPIBSAよりも優れた性能をもたらすと予測できることを示している。
【0247】
第3表で、準リビング性のPIB(MW〜1000)から製造したポリPIBSAのCCS対kvプロットの傾きは、非準リビング性のPIB(MW〜1000)から製造したポリPIBSAの傾きよりも小さい。これは、所望の粘度グレードを満たすのにVI向上剤をそれほど必要としない油では、準リビング性のPIB(MW〜1000)から製造したポリPIBSAが、非準リビング性のPIB(MW〜1000)から製造したポリPIBSAよりも優れた性能を示すと予測できることを意味する。
【0248】
[実施例5] 準リビング性のPIBを用いて製造したポリPIBSAからのビスTEPAポリコハク酸イミドの製造
頭上撹拌器、還流冷却器、ディーン・スターク・トラップ、加熱マントル、温度調節器および窒素流入管を備えた250mL四つ口丸底フラスコに、実施例1からのポリPIBSA(「準リビング性」)26.62g(33.5ミリモル)を入れた。これに、シェブロン100N希釈油21.38gを加えた。温度を150℃に上げ、そしてこれにTEPA3.17g(16.8ミリモル)を加えた。アミン/無水物CMR=0.5。温度を170℃に上げてその状態で一晩保持した。色が褐色になった。次に反応物を冷却した。生成物のポリコハク酸イミド(活性分52%)は、N2.9%、100℃粘度=6725cStであった。
【0249】
[実施例6(比較例)] 非準リビング性のPIBを用いて製造したポリPIBSAからのビスTEPAポリコハク酸イミドの製造
頭上撹拌器、還流冷却器、ディーン・スターク・トラップ、加熱マントル、温度調節器および窒素流入管を備えた500mL四つ口丸底フラスコに、実施例2からのポリPIBSA(非準リビング性)43.54g(48.0ミリモル)を入れた。これに、シェブロン100N希釈油27.52gを加えた。温度を150℃に上げ、そしてこれにTEPA4.53g(24.0ミリモル)を加えた。アミン/無水物CMR=0.5。温度を170℃に上げてその状態で一晩保持した。色が暗褐色になった。次に反応物を冷却した。生成物のポリコハク酸イミド(活性分52%)は、N2.5%、100℃粘度=672.1cStであった。
【0250】
[実施例7] 準リビング性のPIBを用いて製造したポリPIBSAからのビスHPAポリコハク酸イミドの製造
頭上撹拌器、還流冷却器、ディーン・スターク・トラップ、加熱マントル、温度調節器および窒素流入管を備えた250mL四つ口丸底フラスコに、実施例3からのポリPIBSA(準リビング性)25.37g(13.2ミリモル)を入れた。これに、シェブロン100N希釈油17.61gを加えた。温度を150℃に上げ、そしてこれにHPA1.64g(6.0ミリモル)を加えた。アミン/無水物CMR=0.45。温度を170℃に上げてその状態で7時間保持した。次に反応物を冷却した。生成物のポリコハク酸イミド(活性分52%)は、N1.2%、100℃粘度=492cStであった。
【0251】
[実施例8(比較例)] 非準リビング性のPIBを用いて製造したポリPIBSAからのビスHPAポリコハク酸イミドの製造
頭上撹拌器、還流冷却器、ディーン・スターク・トラップ、加熱マントル、温度調節器および窒素流入管を備えた250mL四つ口丸底フラスコに、実施例4からのポリPIBSA(非準リビング性)30.45g(15.2ミリモル)を入れた。これに、シェブロン100N希釈油14.43gを加えた。温度を150℃に上げ、そしてこれにHPA1.88g(6.8ミリモル)を加えた。アミン/無水物CMR=0.45。温度を170℃に上げてその状態で7時間保持した。次に反応物を冷却した。生成物のポリコハク酸イミド(活性分51%)は、N1.5%、100℃粘度=1414cStであった。
【0252】
【表3】

【0253】
第3表のデータは、分子量1000PIBから製造したポリコハク酸イミドのN%の方が、分子量2300PIBから製造したポリコハク酸イミドのN%よりも、同じ活性分では多かったことを明らかにしている。分子量1000「準リビング性」PIBから製造したポリコハク酸イミドの100℃粘度(6725cSt、実施例5)は、分子量1000非準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドの100℃粘度(672cSt、実施例6)よりもずっと高かった。分子量2300準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドの粘度(492cSt、実施例7)は、分子量2300非準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドの粘度(1414cSt、実施例8)に比べて低かった。
【0254】
(実施例5〜8の結果の比較)
準リビング性のPIBから誘導したポリコハク酸イミドにおける低温特性の改善を実証するために、実施例5乃至8の生成物についてコールドクランキングシミュレータ(CCS)粘度および動粘度(kv)を測定した。第4表に、その結果を表示する。この分析では、実施例5〜8のポリコハク酸イミドをまず、シェブロン100ニュートラル希釈油に4質量%と8質量%の用量で溶解した。シェブロン100ニュートラル希釈油は第2種希釈油である。
【0255】
【表4】

【0256】
結果は、分子量2300準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドのCCS粘度もkvもいずれも、分子量2300非準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドのCCS粘度およびkvより低いことを明らかにしている。このことは、燃料経済性の高いPCMO配合物が望まれる油では、分子量2300準リビング性のPIBから製造したポリPIBSAが、分子量2300非準リビング性のPIBから製造したポリPIBSAよりも優れた性能をもたらすと予測できることを示している。これは、分子量1000準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドでは当てはまらない。この場合にCCS粘度は、分子量1000非準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドのCCS粘度とほぼ同じであった。さらに、分子量1000準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドのkvは、分子量1000非準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドのkvよりも高かった。このことは、燃料経済性の高いPCMO配合物が望まれる場合に、分子量1000準リビング性のPIBから製造したポリPIBSAが、分子量1000非準リビング性のPIBから製造したポリPIBSAよりも優れた性能をもたらさないことを示している。
【0257】
分子量1000準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドのCCS対kvプロットの傾き(傾き=186)は、分子量1000非準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドの傾き(傾き=271)よりも小さかった。このことは、所望の粘度グレードを満たすのにVI向上剤をそれほど必要としない油では、分子量1000準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドが、分子量1000非準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドよりも優れた性能を示すと予測できることを意味する。これは、所望の粘度グレードを満たすのにVI向上剤をそれほど必要としない油では、分子量2300準リビング性のPIBから製造したポリコハク酸イミドの場合には当てはまらなかった。
【0258】
本発明について特定の態様に関連して説明したが、本出願は、当該分野の熟練者であれば添付した特許請求の範囲の真意及び範囲から逸脱することなく成しうるような、様々な変更や置換えを包含することを意図するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和酸性反応体とエキソ−オレフィン末端準リビング性のポリオレフィンを含む高分子量のポリオレフィンとの共重合体。
【請求項2】
上記の準リビング性のポリオレフィンが下記の工程により製造されたものである請求項1に記載の共重合体:
(a)適切な準リビング性条件下で準リビング性のカチオン性ポリオレフィンを生成させる工程、そして
(b)準リビング性のカチオン性ポリオレフィンと選択した失活剤とを接触させて、カチオン性ポリオレフィンをエキソ−オレフィン末端準リビング性のポリオレフィンに変換する工程。
【請求項3】
上記のカチオン性ポリオレフィンが、少なくとも一種のカチオン重合可能な単量体をルイス酸と希釈剤の存在下で適切な準リビング条件にて開始剤と接触させることにより生成させたものである請求項2に記載の共重合体。
【請求項4】
上記のカチオン性ポリオレフィンがtert−ハライド末端ポリオレフィンをルイス酸でイオン化することにより生成させたものである請求項2に記載の共重合体。
【請求項5】
失活剤が、置換ピロール、置換イミダゾール、ヒンダード第二級アミン、ヒンダード第三級アミンおよび二炭化水素モノスルフィドのうちの少なくとも一種を含む請求項2に記載の共重合体。
【請求項6】
上記の準リビング性の生成物が、tert−ハライド末端ポリオレフィンとカリウムtert−ブトキシドとの接触により生成したものである請求項1に記載の共重合体。
【請求項7】
上記の共重合体が、開始剤の存在下でのポリオレフィンと不飽和酸性反応体との接触により生成したものである請求項1に記載の共重合体。
【請求項8】
開始剤がペルオキシドを含む請求項7に記載の共重合体。
【請求項9】
上記のポリオレフィンの分子量が約500から約10000の間にある請求項1に記載の共重合体。
【請求項10】
ポリオレフィンの分子量が約900から約5000の間にある請求項1に記載の共重合体。
【請求項11】
コハク酸比が約1から約3の間にある請求項1に記載の共重合体。
【請求項12】
コハク酸比が約1.3から約1.8の間にある請求項1に記載の共重合体。
【請求項13】
ポリオレフィンのエキソ−オレフィン末端基含量が少なくとも90%である請求項1に記載の共重合体。
【請求項14】
ポリオレフィンのエキソ−オレフィン末端基含量が少なくとも95%である請求項1に記載の共重合体。
【請求項15】
ポリオレフィンの分散指数が約1.4未満である請求項1に記載の共重合体。
【請求項16】
ポリオレフィンの分散指数が約1.1未満である請求項1に記載の共重合体。
【請求項17】
不飽和酸性反応体が下記式を有する請求項1に記載の共重合体:
【化1】



(式中、XおよびX’は各々独立に、−OH、−Cl、−O−低級アルキルからなる群より選ばれ、あるいは、XとX’とが共同して−O−を表わす)。
【請求項18】
上記の酸性反応体が無水マレイン酸を含む請求項17に記載の共重合体。
【請求項19】
高分子量のポリオレフィンが、主鎖に炭素原子2個当り少なくとも1つの分岐を持つ高分子量のアルキルビニリデンポリオレフィンを含む請求項1に記載の共重合体。
【請求項20】
カチオン重合可能な単量体がイソブチレンを含む請求項3に記載の共重合体。
【請求項21】
共重合体が下記式を有する請求項1に記載の共重合体:
【化2】




(式中、nは1以上であり、
a)R1とR2とは水素であり、R3とR4のうちの一方は低級アルキルで、もう一方は高分子量ポリアルキルであるか、あるいは
b)R3とR4とは水素であり、R1とR2のうちの一方は低級アルキルで、もう一方は高分子量ポリアルキルであり、そして
x、yおよびnの各々は独立に1以上であって、かつx:yの比は3:1未満である)。
【請求項22】
xおよびyの各々が独立に1から3の間にあり、そしてnが1から20の間にある請求項21に記載の共重合体。
【請求項23】
高分子量ポリアルキルが、炭素原子数少なくとも30のポリイソブチル基を含む請求項21に記載の共重合体。
【請求項24】
低級アルキルがメチルである請求項21に記載の共重合体。
【請求項25】
請求項1に記載の共重合体を、アミン、塩基性窒素数少なくとも2のポリアミンまたはそれらの混合物と反応させることにより製造されたポリコハク酸イミド。
【請求項26】
主要量の潤滑粘度の油、および少量の請求項25に記載のポリコハク酸イミドを含む潤滑油組成物。
【請求項27】
下記の工程を含む共重合体の製造方法:
a)高分子量のエキソ−オレフィン末端準リビング性のポリオレフィンを生成させる工程、そして
b)上記ポリオレフィンを開始剤の存在下で不飽和酸性反応体と接触させることにより共重合体を生成させる工程。
【請求項28】
上記のエキソ−オレフィン末端準リビング性のポリオレフィンが、下記の工程により製造されたものである請求項27に記載の方法:
(a)適切な準リビング性条件下で準リビング性のカチオン性ポリオレフィンを生成させる工程、そして
(b)準リビング性のカチオン性ポリオレフィンと選択した失活剤とを接触させることにより、準リビング性のカチオン性ポリオレフィンを高分子量のエキソ−オレフィン末端準リビング性のポリオレフィンに変換する工程。
【請求項29】
上記の準リビング性のカチオン性ポリオレフィンが、少なくとも一種のカチオン重合可能な単量体をルイス酸と希釈剤の存在下で適切な準リビング条件で開始剤と接触させることにより製造したものである請求項28に記載の方法。
【請求項30】
上記の準リビング性のカチオン性ポリオレフィンが、tert−ハライド末端ポリオレフィンをルイス酸でイオン化することにより製造したものである請求項28に記載の方法。
【請求項31】
失活剤が、置換ピロール、置換イミダゾール、ヒンダード第二級アミン、ヒンダード第三級アミンおよび二炭化水素モノスルフィドのうちの少なくとも一種を含む請求項28に記載の方法。
【請求項32】
上記のポリオレフィンを生成させる工程が、tert−ハライド末端ポリオレフィンをカリウムtert−ブトキシドと接触させることからなる請求項27に記載の方法。
【請求項33】
開始剤がペルオキシドを含む請求項29に記載の方法。
【請求項34】
上記のポリオレフィンの分子量が約500から約10000の間にある請求項27に記載の方法。
【請求項35】
上記のポリオレフィンの分子量が約900から約5000の間にある請求項27に記載の方法。
【請求項36】
上記のポリオレフィンのエキソ−オレフィン末端基含量が少なくとも90%である請求項27に記載の方法。
【請求項37】
上記のポリオレフィンのエキソ−オレフィン末端基含量が少なくとも95%である請求項27に記載の方法。
【請求項38】
不飽和酸性反応体が下記式を有する請求項27に記載の方法:
【化3】



(式中、XおよびX’は各々独立に、−OH、−Cl、−O−低級アルキルからなる群より選ばれ、あるいは、XとX’とは共同して−O−を表わす)。
【請求項39】
酸性反応体が無水マレイン酸を含む請求項38に記載の方法。
【請求項40】
上記のポリオレフィンが、主鎖に炭素原子2個当り少なくとも1つの分岐を持つ高分子量アルキルビニリデンポリオレフィンを含む請求項27に記載の方法。
【請求項41】
カチオン重合可能な単量体がイソブチレンを含む請求項29に記載の方法。

【公表番号】特表2011−517723(P2011−517723A)
【公表日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505063(P2011−505063)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/037517
【国際公開番号】WO2009/129015
【国際公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(598037547)シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー (135)
【Fターム(参考)】