説明

準安定性医薬組成物

【課題】スプレーまたはエアゾールなどの揮発性媒体を用いて経皮吸収の増強を達成すること。
【解決手段】1以上の生理的に活性な薬剤;および
揮発性の薬学的に許容され得る溶媒;
を含み、揮発性溶媒の蒸発時に生理的に活性な薬剤が準安定な沈着物を形成する、経皮送達のための医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、生理的に活性な薬剤の経皮送達のための組成物に関し、該組成物の使用に関し、生理的に活性な薬剤の経皮送達方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
生理的に活性な薬剤の安全で効果的な投与方法が絶えず求められている。多くの薬剤に関して、その投与型は、患者のコンプライアンスを高く保つために可能な限り単純で非侵襲性であることが重要である。経口投与は、従うには比較的単純な型であるため、一般に用いられる1つの投与型である。しかしながら、胃腸内の炎症および肝臓での薬剤代謝と関連する複雑な状況のため、経口投与経路もまた複雑である。
【0003】
皮膚を介した生理的に活性な薬剤の投与(「経皮薬剤送達」)は、比較的単純な投薬型を提供するだけでなく、生理的に活性な薬剤の体循環中への放出に関して比較的ゆっくりで制御された経路をも提供するので、注目を高めつつある。しかしながら、経皮薬剤送達は、皮膚が天然のバリアとして機能し、したがって皮膚を介した薬剤の輸送が複雑な機構であるという事実により複雑化されている。
【0004】
構造的に、皮膚は、比較的薄く最も外側の層(「表皮」)および厚めの内側領域(「真皮」)、の二つの主要部分からなる。表皮の最も外側の層(「角質層」)は、ケラチンで満たされた平らな死細胞からなる。角質層の平らな死細胞間領域は、皮膚の天然バリア性質を担う層板相を形成する脂質で満たされている。
【0005】
皮膚の表面に適用される生理的に活性な薬剤の効果的な経皮送達(「局所適用」)のために、薬剤はまず媒体から角質層へ分配されなければならず、次に典型的には角質層から生存表皮および真皮へとそれから血流へと分配される前に角質層内に拡散されなければならない。
【0006】
媒体中の生理的に活性な薬剤の濃度(「熱力学活性」)を最大にするために、生理的に活性な薬剤を飽和溶液または固体として存在させることは一般的である。
【0007】
真皮層を介する輸送(「経皮吸収」)に関連する経皮送達に伴う問題のいくつかを解消するために、生理的に活性な薬剤は一般的に1以上の薬剤透過エンハンサーと組み合わせて製剤される。例えば、含水エタノールは、一般的に局所適用の製剤において媒体として使用されるし、エタノールが、溶媒牽引効果のために皮膚を介する活性な薬剤の流れを増大させ得る透過エンハンサーとして作用し得ることは公知である(非特許文献1)。透過エンハンサーは、一部の個人において皮膚の炎症を引き起こすことが知られている。本発明では、エタノールは皮膚に少量適用されるため、薬剤およびエンハンサーを皮膚上に広げる中間溶媒として作用するので、透過エンハンサーとしては作用しないようである。問題の組成物の乾燥時間は2分より短く、インビトロでの重量損失測定により、エタノールは表面温度32℃のブタの皮膚で1分以内に蒸発し、残った全てが薬剤であることが以前に確認されていた。エタノールまたは類似する脂質抽出溶媒の皮膚への2分より短い曝露時間は、皮膚のバリア機能を変化させないようである(非特許文献2)。
【0008】
特許文献1は、経皮送達系において特定の溶媒および溶解した修飾剤を皮膚安定化剤と組み合せて真溶液を形成し、そして肌への刺激を最小化した。特許文献2は、皮膚を介した生理的に活性な非閉塞性の送達を説明しているが、この組成物は流動を増大する透過エンハンサーに依存する。透過エンハンサーを使用せずに製剤された組成物は、一般的に生理的に活性な分子の有意な量を皮膚を介して送達するのに充分に効果的ではない。皮膚感染症および炎症状態の局所的治療におけるフルオロキノロンの使用を説明する特許文献3に見られるように、アルコールおよびアセトン媒体を含む組成物は、抗生物質の局所送達に使用されてきた。しかしながら、係る組成物は、本質的に生理的に活性な分子の透過能力が低い。
【0009】
低い透過能力を克服するために、生理的に活性な分子は最大化された熱力学的活性を有しなければならない。特許文献4によると、安定な形状にされた粒子の使用は、医薬製剤の製造に特によく適しており、そこでは継続される遊離および均質な生物学的利用能が特に所望されている。皮膚を介した高い透過率を達成するためには、溶解する薬剤濃度は、それが高い結晶化傾向を有するほどに高い必要があるかもしれないことが示された。結果として、薬剤が保存の間に再結晶する傾向を示すために、経皮貼付剤は、しばしば熱力学活性的に不安定である(非特許文献3)および(非特許文献4)。
【0010】
揮発性溶媒中におけるテストステロンの使用は、先に開示されている(Westerら、1976)。しかしながら、水で割らないアセトン中に溶解させたテストステロンからなるこれらの組成物は、長期にわたる曝露条件下で皮膚を脱脂する(脂質を除去する)性質を有しており、したがって本発明の主体である組成物とは対照的に皮膚の炎症を引き起こすという不都合を欠点としている。
【0011】
本発明の背景の議論は、本発明の前後関係を説明するために本明細書中に含まれる。これは、言及される物質のいずれかが、いずれかの請求項の優先日にオーストラリアまたは他のいずれかの国において公表されているか、公知であるか、または共通の一般的な知識の一部であることを容認するものとして捉えられるべきではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第6444234号
【特許文献2】米国特許第6299900号
【特許文献3】米国特許第6017912号
【特許文献4】米国特許第6528094号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】「J. Pharm. Sci」(Bernerら、78(5)、402-406、1989)
【非特許文献2】「J. Invest. Dermatol」(Abramsら、101、609-613、1993)
【非特許文献3】「Int. J. Pharm.」(Xinghangら、142(1)、115-119、1996)
【非特許文献4】「Eur. J. Pharm. & Biopharm.」(Latschら、印刷中、校正刷り、2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、スプレーまたはエアゾールなどの揮発性媒体を用いて経皮吸収の増強を達成することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
即ち、本発明の要旨は、
〔1〕1以上の生理的に活性な薬剤;および
揮発性の薬学的に許容され得る溶媒;
を含み、揮発性溶媒の蒸発時に生理的に活性な薬剤が準安定な沈着物を形成する、経皮送達のための医薬組成物、
〔2〕アポモルヒネ、フェンタニル、ロピニロール、リバスチグミン、ブスピロン、リザトリプタン、抗コリン作用薬、エチニルエストラジオールまたは薬学的に許容され得る前記のいずれかの塩もしくは誘導体からなる群より選択される1以上の生理的に活性な化合物;および
揮発性の薬学的に許容され得る溶媒;
を含み、揮発性溶媒の蒸発時に生理的に活性な薬剤が準安定な沈着物を形成する、経皮送達のための医薬組成物、
〔3〕キャリアがハイドロフルオロカーボン高圧ガスを含み、エアゾールとしての該組成物の局所適用が揮発性キャリアの蒸発時に準安定な沈着物を提供する、〔1〕記載の医薬組成物、
〔4〕非揮発性透過エンハンサーを実質的に含まない〔1〕記載の医薬組成物、
〔5〕高圧ガスがHFC−134aである〔3〕記載の医薬組成物、
〔6〕ハイドロフルオロカーボン高圧ガスが、医薬組成物全体の15〜50体積%である〔3〕記載の医薬組成物、
〔7〕該組成物をチャンバーから送達するためのバルブ、該組成物をエアゾールとして分散するためのノズルおよび計量された投与量のエアゾールをノズルから提供する手段を含むスプレー塗布器装置のチャンバー内に含まれ、高圧ガスを液体形態で保つようにチャンバー内で圧力をかけた状態で維持されている、〔1〕記載の医薬組成物、
〔8〕揮発性溶媒および高圧ガスが活性な薬剤の単相溶液を提供する〔1〕記載の医薬組成物、
〔9〕0.1%〜10%の生理的に活性な薬剤;ならびに85重量%〜99.8重量%の揮発性溶媒および高圧ガスを含む〔1〕記載の医薬組成物、
〔10〕生理的に活性な薬剤が揮発性溶媒中において0.05%以上の飽和溶解度を有する〔1〕記載の医薬組成物、
〔11〕生理的に活性な薬剤成分が600ダルトンより小さい分子量および200℃より低い融点を有する〔1〕記載の医薬組成物、
〔12〕生理的に活性な薬剤がアポモルヒネ、フェンタニル、ロピニロール、リバスチグミン、ブスピロン、リザトリプタン、エチニルエストラジオールまたはその薬学的に許容され得る塩もしくは誘導体からなる群より選択される1以上の化合物を含む、〔1〕記載の医薬組成物、
〔13〕生理的に活性な薬剤がテストステロン、MENT(7−メチル−19−テストステロン)、またはその薬学的に許容され得る塩もしくは誘導体からなる〔1〕記載の医薬組成物、
〔14〕揮発性溶媒が大気圧および温度32℃において35mmHgより高い蒸気圧を有する〔1〕記載の医薬組成物、
〔15〕揮発性溶媒が1以上の低級アルコールを含む〔1〕記載の医薬組成物、
〔16〕揮発性溶媒の少なくとも60重量%が1以上の低級アルコールを含む〔1〕記載の医薬組成物、
〔17〕揮発性溶媒が本質的に1以上の低級アルカノールからなる〔1〕記載の医薬組成物、
〔18〕低級アルコールがエタノールおよびイソプロパノールから選択される〔16〕記載の医薬組成物、
〔19〕濃化剤が医薬組成物全体の0.1重量%〜20重量%存在する〔1〕記載の医薬組成物、
〔20〕濃化剤がセルロース誘導体、より好ましくはヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピル−メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、またはその混合物である〔19〕記載の医薬組成物、
〔21〕濃化剤がCARBOPOLである〔19〕記載の医薬組成物、
〔22〕〔1〕記載の医薬組成物のスプレーを被験体の皮膚に適用し、揮発性溶媒の蒸発の際に活性な薬剤の準安定性沈着物を形成することを含み、それにより角質層から生存表皮への生理学的に活性な薬剤の分配が増強される、生理的に活性な物質の増強された浸透吸収を提供するための治療方法
に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、スプレーまたはエアゾールなどの揮発性媒体を用いた経皮吸収の増強が達成される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、薬剤の飽和溶液と比較した準安定組成物から皮膚を介して浸透する薬剤の累積量のプロットを示す。
【図2】図2は、エタノールからの蒸発前後におけるベースDSCプロフィールの1例を示す。
【図3】図3は、揮発性溶媒からの蒸発前および24時間後における各モデル薬剤の融点のプロットを示す。
【図4】図4は、エタノールおよびイソプロピルアルコールからの蒸発後におけるヒト表皮を介するフェンタニルの拡散プロフィールのプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の要旨
本発明は、発明者の揮発性スプレーおよびエアゾールの研究から、ならびに特に限られた投与量の製剤に関して、スプレーまたはエアゾールなどの揮発性媒体を用いて経皮吸収の相当な増強が皮膚内での準安定な沈着物(deposit)のインサイチュ形成から得られ得るという理解から生じる。
【0019】
これらのタイプの医薬組成物を用いた先の研究は、皮膚内への分配の速度および範囲は添加される透過エンハンサーが有っても無くてもすでに十分有効であることを示唆している(「J. Pharm. Sci.」(Morganら、87(10)、1213-1218、1998))。本発明は、少なくとも部分的には、生理的に活性な薬剤の経皮吸収における増大が、本来よりも低い融点を有する準安定な薬剤のインサイチュでの慎重な形成により達成され得るか、さもなければ商業的製造業者により決まりきった手順で供給される様々な結晶性の多形体から達成され得るという理解から生じる。この融点の低下は、表皮および真皮を介したならびに血流への薬剤の拡散を増加方向へ移動させる。本発明を実現するために本発明者らは、生理的に活性な薬剤および揮発性溶媒のいくつかの組み合わせが、局所的に使用された場合にインサイチュで準安定な固体を形成することを見出した。
【0020】
したがって、本発明は、
1以上の生理的に活性な薬剤;および
揮発性の薬学的に許容され得る溶媒
を含む組成物を提供し、ここで、生理的に活性な薬剤は揮発性溶媒の蒸発時に準安定な沈着物を形成する。より低い融点の準安定な沈着物は、少なくとも部分的には、アルコール溶媒和物、準安定な多形体、準安定な非晶質固体、またはこれらの混合物などの準安定な偽多形体(pseudopolymorph)のいずれかから生じる。典型的には準安定な沈着物により提供される融点(大気圧において)の低下は、1〜50℃および好ましくは2〜30℃の範囲内であろう。
【0021】
固体沈殿物(例えば薬剤の塩誘導体)または高い融点の結晶性多形体とは異なり、準安定な沈着物は揮発性溶媒の蒸発時に容易に皮膚に分配し、角質層を介して容易に拡散する。より高い融点の結晶性沈着物の皮膚での形成は、皮膚の炎症のより高い傾向および経皮吸収効率の低下につながる(拡散輸送に先立つ結晶の融解に高いエネルギーが必要なため)。
【0022】
準安定な沈着物をヒトの皮膚へすり込むことが所望され得るような場合において準安定な沈着物はまた、優れた肌触りおよび感触を有する。
【0023】
本発明の組成物は、本質的に透過エンハンサーを含まない。透過エンハンサーは、角質層の拡散抵抗を減少させるために角質層の物理化学的性質を可逆的に傷つけたり、または変化させることにより皮膚透過能を増加させる効果を有する。透過エンハンサーは、一般的に大気圧および通常の皮膚温度である32℃で、100より大きい分子量および10mmHg未満の蒸気圧を有する脂肪親和性で非揮発性化合物である。
【0024】
改善された経皮吸収効率を提供することに加えて、本発明の組成物はまた、刺激性の透過エンハンサーが除去されているためにベンジルアルコールスプレーなどの他のいくつかの送達系よりも低い刺激性をも提供し得る。また、本発明の医薬組成物は、安定な単相溶液として存在し、したがって薬剤の貯蔵寿命の間、結晶性の性質(または多形復原力)を有しないため、本発明の組成物は既存型の経皮貼付剤の保存が直面する結晶化および/または過飽和を伴う問題を回避し得る。本発明の別の有利な点は、これらのインサイチュで形成する準安定な組成物から皮膚内への迅速な分配であり、これは、皮膚が生理的に活性な薬剤に対する天然の結晶性インヒビターとして作用し得ること、さらには皮膚内での準安定沈着物の安定性を改善することを意味する。これは、所望される投薬間隔(典型的には24時間ごとに1回である)での生理的に活性な薬剤の整合性および信頼性のある送達プロフィールにつながる。
【0025】
本発明はまた、1以上の生理的に活性な薬剤を含む局所的スプレー組成物の使用工程を含む方法である準安定な薬剤製剤をホストへ送達する方法、および揮発性溶媒が蒸発して活性な薬剤を含む準安定な沈着物を形成するようなホストの皮膚に対して揮発性の薬学的に許容され得る溶媒を提供する。
【0026】
本発明はさらに、生理的に活性な薬剤の経皮投与のために患者の皮膚へのスプレー使用するための組成物であって、
(i)生理的に活性な薬剤;
(ii)揮発性の薬学的に許容され得る溶媒;および
(iii)高圧ガス、好ましくはハイドロフルオロカーボン;
を含む組成物を提供し、ここで該組成物はスプレーとして皮膚へ使用される場合、患者の皮膚に準安定な沈着物を形成する。
【0027】
本発明はまた、圧力をかけた状態で組成物を維持するためのチャンバー、チャンバー内に含まれる生理的に活性な薬剤、皮膚に使用されると揮発し易い薬学的に許容され得る溶媒および好ましくはチャンバー内の圧力をかけた状態で少なくとも部分的に液体状で維持される高圧ガスを含む混合物、ならびに混合物の送達を提供するためのバルブ手段からなる生理的に活性な薬剤の経皮投与のためのスプレー装置を提供し、ここで該混合物は皮膚上に生理的に活性な薬剤の準安定な沈着物を提供する。高圧ガスは、好ましくはHFC-134aまたはHFC-227などのハイドロフルオロカーボンである。HFC-134aは最も好ましい高圧ガスである。ハイドロフルオロカーボンは、好ましくは容積で医薬組成物全体の15〜50%であり、より好ましくは容積で全組成物の20〜40%である。
【0028】
本発明はさらに、患者における病気の治療または予防用の薬物製造のための活性な薬剤の使用を提供し、ここで該組成物は、生理的に活性な薬剤および揮発性のキャリアを含み、典型的には経皮投与のために患者の皮膚に局所的に使用され、ここで揮発性溶媒は蒸発して活性な薬剤を含む準安定な沈着物を形成する。
【0029】
さらに、準安定な組成物は、既存のフィルム形成スプレーまたはエアゾールに見られるスプレーノズル閉塞という不都合を回避する。
【0030】
本発明はまた、上記のとおりその中の高圧ガスがHFC-134aであるチャンバー内に含まれる組成物を提供する。揮発性溶媒および活性な分子は、好ましくは活性な分子の単相溶液を提供するであろう。
【0031】
本明細書中で使用される場合、「非晶質の」という語句は実質的に非結晶性を意味する。他に明記されない限り、非晶質という語句はその範囲にいくらかの結晶度を示す状態を含むことが認識されよう。
【0032】
本発明の生理的に活性な薬剤および揮発性溶媒の組み合せは、商業的製造業者により決まりきった手順で供給されるまたはメタノールもしくはクロロホルムからの結晶化で得られる多様な結晶性の多形体に見られるよりも低い融点を有する準安定な沈着物をともに形成するものに機能的に限定される。この理由のため、活性な薬剤は、ホストの皮膚へ組成物を使用する際に揮発性溶媒のみが生理的温度で蒸発するよう、揮発性溶媒に比べて比較的非揮発性であることが好ましい。
【0033】
実際には、生理的に活性な薬剤は、アポモルヒネ、フェンタニル、ロピニロール、リバスチグミン、ブスピロン、リザトリプタン、抗コリン作用薬(オキシブチニン、トルテロジンおよびダリフェナシンなど)、テストステロン、MENT(7-メチル-19-テストステロン)、エチニル(ethyinyl)エストラジオール、または薬学的に許容され得る前記いずれかの塩もしくは誘導体を含む一覧表に記載され、600ダルトンより小さい分子量および200℃より低い融点を有する、薬効が強く脂肪親和性の生理的に活性な薬剤の範囲から選択され得ることが見出された。
【0034】
薬剤および溶媒は、一般的に完全に混合する能力を有し、そのため溶媒は薬剤の結晶面と相互作用を行うであろう。したがって、薬剤は典型的には、溶媒中において0.05%w/w以上、より好ましくは0.1%w/w以上の飽和溶解度を有するであろう。
【0035】
好ましくは、揮発性溶媒は、大気圧および通常の皮膚温度である32℃で、35mmHgより高い蒸気圧を有する。揮発性溶媒は、好ましくは低級アルコールを含む。より好ましくは、揮発性溶媒は、重量で揮発性溶媒成分全体の少なくとも60%の低級アルコールを含む。
【0036】
最も好ましくは、揮発性溶媒成分は、本質的に1以上の低級アルコールからなる。好ましい低級アルコールは、エタノール、イソプロパノールおよびその混合物である。
【0037】
都合のよいことに、該組成物は生理的に活性な薬剤および揮発性溶媒を含む局所的スプレー組成物であり、該方法は組成物をホストの皮膚上にスプレーして生理的に活性な物質を含む準安定な沈着物を形成する工程を含む。
【0038】
上記の各ケースにおいて準安定な沈着物は、好ましくはホストの表皮中に形成される。
【0039】
発明の詳細な説明
本発明の利益は、組成物が安定であることであり、それは薬剤の貯蔵寿命の間に過飽和または結晶化しにくいことを意味する。これは、含まれる活性な薬剤の結晶化が過去に問題を呈した経皮貼付剤とよい対照をなし得る。したがって本発明の組成物は、先行技術の経皮貼付剤の貯蔵寿命問題に直面することなく、貯蔵寿命の間、一次容器中に保管され得る。
【0040】
本発明の組成物は、約0.1%〜約10%の生理的に活性な薬剤および約85%〜約99.8%の揮発性溶媒を含み得る。
【0041】
任意に、媒体はさらなる製薬上の賦形剤、例えばCARBOPOLおよびセルロース誘導体などのゲル剤を有し得る。
【0042】
本発明は、これから以下の実施例を参考にして説明されようとしている。実施例は本発明の実例として提供されることおよびそれらは決して本発明の範囲を限定していないことが理解されるべきである。
【実施例】
【0043】
実施例1
準安定な薬剤沈着物のインサイチュ形成
角質層内における薬剤の準安定な沈着物の形成により、図1(レベルは非検出)に示すとおり、薬剤の飽和溶液または皮膚表面における固体薬剤の単純な拡散と比較して皮膚を介した薬剤の透過が増大することが期待され得る。
【0044】
実施例2
揮発性溶媒と混合した種々の活性な薬剤の融点低下
図2および3に示すとおり、揮発性溶媒の蒸発後に薬剤の準安定な沈着物を形成する能力は、溶媒蒸発から24時間後に達せられた融点の低下により決定し得る。
原料
フェンタニル
ブスピロン
テストステロン
エチニルエストラジオール(EE2)
95%EtOH
イソプロピルアルコール(IPA)
クロロホルム
アセトン
以下の表中に示すとおり、選択した活性な薬剤は種々の範囲の物理化学的性質を示した。
【0045】
選択された薬剤−物理化学的性質
【数1】

【0046】
方法
活性な薬剤および揮発性溶媒の種々の%w/v混合物を調製した:次に10マイクロリットルのアルミニウムマイクロ−DSCパンを50マイクロリットルのアルミニウムDSCパンの中に置き、各製剤の5マイクロリットルのアリコートを10マイクロリットルのDSCパンの中へピペットで移した。揮発性溶媒を蒸発させ、充分な残渣が残るまでさらにアリコートを再度注いだ。
【0047】
パン(pan)を環境温度および相対湿度33%で24時間維持した。この後、パンを覆い、密封した。次に、窒素流中で、10℃/分で、薬剤に依存した温度範囲内でDSCを行った。
【0048】
結果
各溶媒の蒸発により融点変化が生じた(図2)。溶媒蒸発後におけるブスピロンのDSC分析からより安定した融点の低下が示された(図3)。対照的に、フェンタニル、テストステロンおよびEE2では、溶媒に非常に依存した融点の低下が見られた。各ケースにおいて化合物ベースと比較した場合、イソプロピルアルコールが融点変化において最も有意な差異を示した。我々が見出したことには、融点低下は、組成物が経皮吸収に関して増加を有するであろうことを示唆する。さらに、角質層が結晶化を妨げ、その結果、溶媒に沈着される準安定な固体が角質層内に生じ得る。
【0049】
実施例3 経皮透過における準安定な組成物の効果
組成物中に使用される溶媒の選択は、所望される薬理学的効果を達成するために経皮透過(その1例は図4に示される)により測定されるような所望される経皮送達プロフィールに基づいて選択し得る。
前記の実施例は、限定していることを意味せず、揮発性溶媒の組み合せはまた、所望される薬理学的効果を得るために使用し得ると考えられ、例えば、重量ベースで;
エタノール : IPA 20-80:20-80
エタノール : アセトン
もしくはIPA またはクロロホルム 60-90:10-40
またはその混合物
である。
【0050】
拡散研究
皮膚を介した準安定な組成物の送達プロフィールを決定するために拡散研究を行った。
【0051】
製剤
エタノール中のフェンタニル(1モル)
イソプロピルアルコール中のフェンタニル(1モル)
全ての製剤を、適量の生理的に活性な分子を容積測定フラスコ中で正確に計量することで調製し、適切な揮発性溶媒で容積を合わせた。
【0052】
方法
インビトロでの拡散実験は、32℃に維持されたヒトの表皮を用いて、ステンレススチール製のフロースルー拡散セルを用いて行った。受容溶液は0.002%NaN3中の10%EtOHまたは0.002%NaN3中の20%EtOHのいずれかからなるものであった。各条件に対して8個のセルを適切なドナー相5μlで処理し、それぞれが製剤に応じて限られた投与量であった。試料を適切な時点で回収し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した。
【0053】
表1.受容溶液解析のHPLC条件
【0054】
【表1】

【0055】
結果
モデル化合物としてフェンタニルを用いて、エタノールおよびイソプロピルアルコール蒸発後の拡散実験を行った。
【0056】
ヒト表皮によるフェンタニル拡散プロフィールは、溶媒依存性である送達プロフィールに変化を示す(図5)。エタノールからの蒸発後、フェンタニルは、S字状、一次拡散プロフィールを示し、これは皮膚を介したイニシャルバーストが制限されていることを示す。しかし、イソプロピルアルコールからの蒸発後、フェンタニルは0次放出速度プロフィールを示す。それゆえ、残留傾向(leaving tendency)は、揮発性溶媒ビヒクルを変更することにより修正されうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の生理的に活性な薬剤;および
揮発性の薬学的に許容され得る溶媒;
を含み、揮発性溶媒の蒸発時に生理的に活性な薬剤が準安定な沈着物を形成する、経皮送達のための医薬組成物。
【請求項2】
アポモルヒネ、フェンタニル、ロピニロール、リバスチグミン、ブスピロン、リザトリプタン、抗コリン作用薬、エチニルエストラジオールまたは薬学的に許容され得る前記のいずれかの塩もしくは誘導体からなる群より選択される1以上の生理的に活性な化合物;および
揮発性の薬学的に許容され得る溶媒;
を含み、揮発性溶媒の蒸発時に生理的に活性な薬剤が準安定な沈着物を形成する、経皮送達のための医薬組成物。
【請求項3】
キャリアがハイドロフルオロカーボン高圧ガスを含み、エアゾールとしての該組成物の局所適用が揮発性キャリアの蒸発時に準安定な沈着物を提供する、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
非揮発性透過エンハンサーを実質的に含まない請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
高圧ガスがHFC−134aである請求項3記載の医薬組成物。
【請求項6】
ハイドロフルオロカーボン高圧ガスが、医薬組成物全体の15〜50体積%である請求項3記載の医薬組成物。
【請求項7】
該組成物をチャンバーから送達するためのバルブ、該組成物をエアゾールとして分散するためのノズルおよび計量された投与量のエアゾールをノズルから提供する手段を含むスプレー塗布器装置のチャンバー内に含まれ、高圧ガスを液体形態で保つようにチャンバー内で圧力をかけた状態で維持されている、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項8】
揮発性溶媒および高圧ガスが活性な薬剤の単相溶液を提供する請求項1記載の医薬組成物。
【請求項9】
0.1%〜10%の生理的に活性な薬剤;ならびに85重量%〜99.8重量%の揮発性溶媒および高圧ガスを含む請求項1記載の医薬組成物。
【請求項10】
生理的に活性な薬剤が揮発性溶媒中において0.05%以上の飽和溶解度を有する請求項1記載の医薬組成物。
【請求項11】
生理的に活性な薬剤成分が600ダルトンより小さい分子量および200℃より低い融点を有する請求項1記載の医薬組成物。
【請求項12】
生理的に活性な薬剤がアポモルヒネ、フェンタニル、ロピニロール、リバスチグミン、ブスピロン、リザトリプタン、エチニルエストラジオールまたはその薬学的に許容され得る塩もしくは誘導体からなる群より選択される1以上の化合物を含む、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項13】
生理的に活性な薬剤がテストステロン、MENT(7−メチル−19−テストステロン)、またはその薬学的に許容され得る塩もしくは誘導体からなる請求項1記載の医薬組成物。
【請求項14】
揮発性溶媒が大気圧および温度32℃において35mmHgより高い蒸気圧を有する請求項1記載の医薬組成物。
【請求項15】
揮発性溶媒が1以上の低級アルコールを含む請求項1記載の医薬組成物。
【請求項16】
揮発性溶媒の少なくとも60重量%が1以上の低級アルコールを含む請求項1記載の医薬組成物。
【請求項17】
揮発性溶媒が本質的に1以上の低級アルカノールからなる請求項1記載の医薬組成物。
【請求項18】
低級アルコールがエタノールおよびイソプロパノールから選択される請求項16記載の医薬組成物。
【請求項19】
濃化剤が医薬組成物全体の0.1重量%〜20重量%存在する請求項1記載の医薬組成物。
【請求項20】
濃化剤がセルロース誘導体、より好ましくはヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピル−メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、またはその混合物である請求項19記載の医薬組成物。
【請求項21】
濃化剤がCARBOPOLである請求項19記載の医薬組成物。
【請求項22】
請求項1記載の医薬組成物のスプレーを被験体の皮膚に適用し、揮発性溶媒の蒸発の際に活性な薬剤の準安定性沈着物を形成することを含み、それにより角質層から生存表皮への生理学的に活性な薬剤の分配が増強される、生理的に活性な物質の増強された浸透吸収を提供するための治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−248250(P2010−248250A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172167(P2010−172167)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【分割の表示】特願2004−514438(P2004−514438)の分割
【原出願日】平成15年6月24日(2003.6.24)
【出願人】(504468403)アクラックス ディーディーエス ピーティーワイ エルティーディー (1)
【Fターム(参考)】