説明

溶剤型再剥離用粘着剤組成物および再剥離用粘着製品

【課題】光学用フィルムの表面保護フィルムに適用することを目的として、高速剥離性に優れた粘着剤層を形成し得る溶剤型再剥離用粘着剤組成物を見出し、良好な特性の再剥離用粘着製品を提供する。
【解決手段】ガラス転移温度(Tg)が0℃以上の高Tgポリマー(A)と、この高Tgポリマーよりも低いTgを有し、感圧接着性を示す低Tgポリマー(B)および溶剤を含む溶剤型再剥離用粘着剤組成物であって、上記粘着剤組成物から得られる粘着剤層において、高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)とは相溶することなく海島構造を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被着体に貼着した後、再度剥離される再剥離用であって、高速剥離でも優れた剥離性を示す再剥離用粘着製品と、この粘着製品を製造するための溶剤型の粘着剤組成物に関する。より詳細には、光学用偏光板(TAC)、位相差板、EMI(電磁波)シールドフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム等といった光学用部材の表面を保護するための再剥離用粘着製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイやプラズマディスプレイ等には、種々の機能を有する光学用フィルム、例えば、光学用偏光板(TAC)、位相差板、EMI(電磁波)シールドフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム等が積層されて用いられている。これらの光学用フィルムは、ディスプレイの製造工程中や性能検査段階での表面の損傷を防止するために、その表面に保護フィルムが貼着されており、最終的に機能複合フィルム製造時や液晶パネル組み立て工程で剥離除去される。
【0003】
表面保護フィルムとしては、性能検査を妨害しない透明性、気泡等の噛み込みを許さない貼り付け性が必要であると共に、被着体への貼付後の粘着力増加や被着体への糊残りがないこと等が必要である。さらに、最近では、ディスプレイの大型化に伴って保護フィルムも大面積化してきたため、剥離工程が機械化され、その結果、機械による高速剥離が可能であることも重要な要求特性となってきた。
【0004】
しかし、剥離速度が高速になればなるほど、剥離力(粘着力)は増大する傾向にあるため、剥離機械に大きな負荷をかけることとなる。また、剥離時に、滑らかに剥離する部分となかなか剥離しない部分とが生じてバリバリという音を立てながら剥離する現象(ジッピング剥離)が起こって、光学用フィルム表面が損傷したり、破断してしまうことがあった。
【0005】
このため、保護フィルムの高速剥離性を改善する試みが多数行われている。例えば、特許文献1には、常温では粘着性を有しない高Tgの(メタ)アクリル系ポリマーと、十分な粘着力を有する低Tgの(メタ)アクリル系ポリマーとをブレンドすることで、浮きや剥がれがなく(それなりの粘着性を有し)、かつ、高速剥離性が良好な、保護フィルム用の感圧接着剤が開示されている。
【0006】
上記のような保護フィルム用の粘着製品は、剥離されることが前提のため、一般の粘着製品に比べてかなり低い粘着力(微粘着)に設計されている。しかしながら、高TgポリマーのTgが高すぎると、元々、低レベルの粘着力であるために、低温時の粘着性がほとんどなくなったり、経時的に架橋が進行して被着体に貼り付かなくなるという不都合を起こすことがあった。また、一般的に異種のポリマーは、数少ない例外を除いてブレンドしても非相溶であり、同じ(メタ)アクリル系ポリマーといえども相分離を起こしてしまう。このように相溶性が劣った粘着剤は、塗膜にしたときにヘイズが大きくなり、光学用途の保護フィルムとしては不適なものとなる場合がある。また、保護フィルムを製造するために、塗工に適した粘度まで溶剤で粘着剤組成物を希釈すると、一層分離しやすくなって、1日程度の放置で粘着剤組成物が相分離してしまい、再度、撹拌混合を行う必要があったり、使用できなくなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−146151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明では、光学用フィルムの表面保護フィルムに適用することを主たる目的として、高速剥離性に優れた粘着剤層、さらに好ましくはヘイズの小さい粘着剤層を形成し得る溶剤型再剥離用粘着剤組成物を見出し、良好な特性の再剥離用粘着製品を提供することを課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の溶剤型再剥離用粘着剤組成物は、ガラス転移温度(Tg)が0℃以上の高Tgポリマー(A)と、この高Tgポリマーよりも低いTgを有し、感圧接着性を示す低Tgポリマー(B)および溶剤を含む溶剤型再剥離用粘着剤組成物であって、上記粘着剤組成物から得られる粘着剤層において、高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)とが相溶することなく海島構造を形成しているところに要旨を有する。
【0010】
上記高Tgポリマー(A)、上記低Tgポリマー(B)および上記溶剤を混合し、高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)の合計量が不揮発分で30質量%である溶液を調製した後、密封して25℃で24時間放置した場合に、高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)とが相分離しない場合には、組成物としての保存安定性に優れている上に、ヘイズの小さい粘着剤層を形成することができ、好ましい。
【0011】
高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)とが海島構造を採っている場合、粘着剤組成物を架橋させずに得られた塗膜の動的粘弾性を測定すると、上記高Tgポリマー(A)に由来するtanδのピークと、上記低Tgポリマー(B)に由来するtanδのピークとが別々に観察される。また、後述する光学的観察方法によっても海島構造を確認することができる。
【0012】
高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)との合計量を100質量%としたときに、高Tgポリマー(A)が4〜35質量%、低Tgポリマー(B)が65〜96質量%であることが好ましい。この場合は、低Tgポリマー(B)が連続相となり、高Tgポリマー(A)が島状に分散して存在することとなる。
【0013】
本発明の溶剤型再剥離用粘着剤組成物は、高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)とを別々に重合した後、ブレンドしたものであってもよく、高Tgポリマー(A)の存在下で、上記低Tgポリマー(B)用モノマーの重合を行うことにより得たものであってもよい。
【0014】
本発明の再剥離用粘着製品は上記溶剤型再剥離用粘着剤組成物から得られた粘着剤層が支持基材の少なくとも片面に形成されているものである。この再剥離用粘着製品のヘイズは3%以下が好ましい。
【0015】
厚み20μmの粘着剤層が厚み38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム基材上に形成された粘着製品を用いてアクリル板に対する180゜粘着力を測定した場合に、0.3m/分の低速剥離では0.05〜0.3N/25mm、30m/分の高速剥離では0.5〜3N/25mmであり、かつ高速剥離における粘着力を低速剥離における粘着力で除した値が15.0以下であると、優れた高速剥離性を発現する再剥離用粘着製品となるため、本発明の好ましい実施態様である。
【0016】
なお、粘着剤組成物の分離度合いの評価方法、海島構造の光学的確認方法、動的粘弾性の測定方法、粘着製品試料の作製方法および粘着力の測定方法は、後で詳述する。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、高Tgポリマーと低Tgポリマーとが海島構造を採っているため、高Tgポリマーの長所と低Tgポリマーの長所を併せ持つ粘着剤とすることができ、その結果、高速剥離性を改善することができた。また、ヘイズの小さい粘着製品を得ることにも成功した。
【0018】
従って、光学用フィルムの表面保護のために好適な再剥離用粘着製品を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、本発明にかかる溶剤型再剥離用粘着剤組成物について説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。本発明の溶剤型再剥離用粘着剤組成物は、乾燥させる(溶剤を除去する)ことによって粘着製品となるものであって、後述する条件によって測定されるアクリル板に対する低速剥離における180゜粘着力が10N/25mm以下の場合を指すものとする。また、本発明における「ポリマー」には、ホモポリマーはもとより、コポリマーや三元以上の共重合体も含まれるものとする。本発明の「モノマー」は、いずれも付加重合型モノマーである。
【0020】
まず、本発明の溶剤型再剥離用粘着剤組成物における第1の必須成分は、ガラス転移温度(Tg)が0℃以上の高Tgポリマー(A)である。この高Tgポリマーの存在によって高速剥離力の増大を抑制する。
【0021】
ここで、ポリマーのTgは、DSC(示差走査熱量測定装置)、DTA(示差熱分析装置)、TMA(熱機械測定装置)によって求めることができる。また、ホモポリマーのTgは各種文献(例えばポリマーハンドブック等)に記載されているので、コポリマーのTgは、各種ホモポリマーのTgn(K)と、モノマーの質量分率(Wn)とから下記式によって求めることもできる。
【0022】
【数1】

ここで Wn ;各単量体の質量分率
Tgn;各単量体のホモポリマーのTg(K)
【0023】
主要ホモポリマーのTgを示せば、ポリアクリル酸は106℃、ポリメチルアクリレートは8℃、ポリエチルアクリレートは−22℃、ポリn−ブチルアクリレートは−54℃、ポリ2−エチルヘキシルアクリレートは−70℃、ポリ2−ヒドロキシエチルアクリレートは−32℃、ポリ2−ヒドロキシエチルメタクリレートは71℃、ポリメチルメタクリレートは105℃、ポリ酢酸ビニルは32℃、ポリアクリロニトリルは125℃、ポリスチレンは100℃である。
【0024】
本発明で用いられる高Tgポリマー(A)は、Tgが0℃以上であれば特に限定されず、ホモポリマーでも、2種以上のモノマーを共重合したポリマーでも構わない。高速剥離性をより一層改善するには、Tgは10℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、30℃以上がさらに好ましい。ただし、高Tgポリマー(A)のTgが高すぎると、再剥離用の微粘着タイプとはいえ、粘着力不足に陥ることがあるので、80℃未満が好ましく、75℃以下が好ましく、70℃以下がさらに好ましい。
【0025】
本発明の粘着剤組成物から得られる粘着剤層のヘイズを小さくするには、高Tgポリマ
ー(A)が酢酸ビニル由来のユニットを有していることが好ましい。酢酸ビニル系ポリマーの屈折率と、低Tgポリマー(B)の主体となる(メタ)アクリレート系ポリマー(特に、2−エチルヘキシルアクリレートやブチルアクリレートを含むポリマー)との屈折率が近似しているため、ヘイズが小さくなるからである。従って、高Tgポリマー(A)は、酢酸ビニルを70質量%以上有しているモノマーから得られたものであることが好ましい。酢酸ビニルは90質量%以上がより好ましい。最も好ましい高Tgポリマー(A)は、ポリ酢酸ビニル(酢酸ビニルホモポリマー)である。なお、酢酸ビニルと組み合わせて使用できる他のモノマーは、ホモポリマーのTgが高い(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、スチレン等が好ましいが、後述する低Tgポリマーの原料モノマーとして使用できるモノマーも、高TgポリマーのTgが0℃以上になるように種類と量を選択すれば使用可能である。高Tgポリマーの分子量は、質量平均分子量(Mw)で2000〜10万程度が好ましい。
【0026】
本発明の溶剤型再剥離用粘着剤組成物に含まれる第2の必須成分は、感圧接着性を示す低Tgポリマー(B)である。この低Tgポリマー(B)は、上記高Tgポリマー(A)のTg(0℃以上)よりも低いことが要件であり、「感圧接着性を示す」と言うためにはTgが0℃未満であることが好ましい。より好ましくは−20℃以下、さらに好ましくは−35℃以下である。ただし、低Tgポリマー(B)のTgが−80℃より低くなると、凝集力が低下して、糊残りが起こりやすくなる傾向にあるため好ましくない。
【0027】
この低Tgポリマー(B)を得るには、アルキル(メタ)アクリレート(b−1)と官能基含有モノマー(b−2)を組み合わせて用いることが好ましい。上記アルキル(メタ)アクリレート(b−1)は粘着力の確保に必要であり、官能基含有モノマー(b−2)は、後述する架橋剤と反応させるための官能基を低Tgポリマー(B)に導入するためのモノマーである。
【0028】
アルキル(メタ)アクリレート(b−1)は、粘着特性の観点から、アルキル基の炭素数が4〜12であることが好ましい。この炭素数は、好ましくは4〜10、より好ましくは4〜8である。上記炭素数が4未満(3以下)であるか、または、12を超える(13以上)と、粘着力が低下するおそれがある。具体的には、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート等が挙げられ、なかでもブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレートおよびイソオクチルアクリレートがより好ましい。これらは、1種のみ用いてもよいし2種以上を併用してもよく、限定はされない。
【0029】
官能基含有モノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、フタル酸とプロピレングリコールとから得られるポリエステルジオールのモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリル酸、ケイ皮酸およびクロトン酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸およびシトラコン酸等の不飽和ジカルボン酸;これら不飽和ジカルボン酸のモノエステル等のカルボキシル基含有モノマー;アミノ基、アミド基、エポキシ基等のいずれかを有する(メタ)アクリレート類等が挙げら
れる。中でも、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類が好ましい。
【0030】
低Tgポリマー(B)の原料モノマー100質量%中、アルキル(メタ)アクリレート(b−1)は、50〜99.9質量%の範囲で用いることが好ましい。より好ましくは60〜99.7質量%、さらにより好ましくは70〜99.5質量%である。アルキル(メタ)アクリレート(b−1)の使用量が上記範囲内であれば、得られる粘着剤は、充分な粘着力およびタックを示すものとなるが、50質量%より少ないと、粘着力や被着体への濡れ性が不足するおそれがあり、99.9質量%を超えると架橋点となる官能基含有モノマー(b−2)の量が少な過ぎて、高速粘着力が大きくなり過ぎるおそれがある。
【0031】
官能基含有モノマー(b−2)は、0.1〜10質量%が好ましい。官能基が少ないと、架橋反応の速度が遅くなったり、高速粘着力が大きくなり過ぎるが、10質量%を超えて使用すると、粘着剤の粘着力や被着体への濡れ性が低下傾向となるため好ましくない。官能基含有モノマー(b−2)の使用量は、0.3〜8質量%がより好ましく、0.5〜6質量%がさらに好ましい。
【0032】
低Tgポリマーの合成に当たっては、その他のモノマー(b−3)を共重合させても良い。その他のモノマー(b−3)とは、上記アルキル(メタ)アクリレート(b−1)および官能基含有モノマー(b−2)と共重合することができ、かつ、(b−1)、(b−2)以外のモノマーである。例えば、前記アルキル(メタ)アクリレート(b−1)以外のアルキル(メタ)アクリレート;エチレンおよびブタジエン等の脂肪族不飽和炭化水素類ならびに塩化ビニル等の脂肪族不飽和炭化水素類のハロゲン置換体;スチレンおよびα−メチルスチレン等の芳香族不飽和炭化水素類;酢酸ビニル等のビニルエステル類;ビニルエーテル類;アリルアルコールと各種有機酸とのエステル類;アリルアルコールと各種アルコールとのエーテル類;アクリロニトリル等の不飽和シアン化化合物;等が挙げられる。これらは、1種のみ用いてもよいし2種以上を併用してもよく、限定はされない。上記その他のモノマー(b−3)は、原料モノマー混合物100質量%中、0〜49.9質量%が好ましい。49.9質量%を超えると、結果的に、アルキル(メタ)アクリレート(b−1)か官能基含有モノマー(b−2)の量が少なくなるため、所望の粘着特性が得られない。より好ましい上限は40質量%、さらに好ましい上限は30質量%である。
【0033】
低Tgポリマー(B)の最も好ましい実施態様は、2−エチルヘキシルアクリレートと、ブチルアクリレートと、ヒドロキシエチルアクリレートを含む原料モノマー混合物から得られたポリマーである。このポリマーは、粘着特性が良好である上に、高Tgポリマー(A)のベストモードであるポリ酢酸ビニルとの屈折率が近似しているため、得られる粘着剤層のヘイズを小さくすることができるからである。2−エチルヘキシルアクリレートと、ブチルアクリレートと、ヒドロキシエチルアクリレートの合計を100質量%としたときに、2−エチルヘキシルアクリレートは20〜80質量%、ブチルアクリレートは20〜80質量%、ヒドロキシエチルアクリレートは0.5〜5質量%が好ましい。もちろん、上述した(b−1)〜(b−3)も併用可能であるが、ヘイズが重視される用途に適用する場合には、2−エチルヘキシルアクリレートと、ブチルアクリレートと、ヒドロキシエチルアクリレート以外のモノマーは、10質量%以下とすることが好ましい。
【0034】
上記低Tgポリマー(B)は、粘着特性を良好にする点から、Mwが20万以上であることが好ましい。なお、後述する製造方法を採用した場合、低Tgポリマー(B)のみの分子量は測定できないが、本発明の高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)との混合物全体でのMwは、10万〜80万が好ましい。
【0035】
高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)は、Tgが異なり組成も異なるため、相溶しない。本発明では、高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)は海島構造を形成
していなければならない。海島構造はミクロな相分離状態であって、量の多い方が海(連続相)となるが、本発明では、高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)の合計量を100質量%としたときに、高Tgポリマー(A)が4〜35質量%、低Tgポリマー(B)が65〜96質量%であることが好ましいので、低Tgポリマー(B)が連続相となり、高Tgポリマー(A)が島となって分散することとなる。島状に分散している高Tgポリマー(A)の作用によって、高速剥離の際の粘着力の増大やジッピング現象を抑制することができる。この効果を発揮させるには、高Tgポリマーは4〜35質量%が好ましい。少ないと、上記効果が不充分となり、多すぎると、粘着力や被着体への濡れ性が不足することがある。
【0036】
本発明の粘着剤組成物を製造するには、詳細は後述するが、ブレンド法と二段重合法とが採用できる。ブレンド法を採用する場合の高Tgポリマー(A)の好適量は4〜20質量%程度であり、二段重合法を採用する場合の高Tgポリマー(A)の好適量は10〜35質量%程度であることが、本発明者等により見出された。これは、高Tgポリマー(A)からなる島の直径が、ブレンド法の場合は1.0〜100μm程度であり、二段重合法の場合は0.5〜50μm程度であることから、島の大きいブレンド法の方が高Tgポリマー(A)の効果を発現しやすいため、量が幾分少な目であっても高速剥離性が良好になるのではないかと推測される。
【0037】
なお本発明では、粘着剤組成物を塗工・乾燥して得られた粘着剤層を、光学顕微鏡、透過型電子顕微鏡、走査型電子顕微鏡、位相差顕微鏡、偏光顕微鏡、走査型トンネル顕微鏡、顕微ラマン等で観察することにより、海島構造の有無を判断する。好ましい海島構造の形態は、島状部分がほぼ球状で連続相(海)の中に分散しており、個々の島状物の平均直径が0.1〜100μm程度のものである。光学顕微鏡、位相差顕微鏡および偏光顕微鏡を用いても、このような海島構造の有無が観察可能である。
【0038】
ブレンド法による海島構造を有する粘着剤組成物と、二段重合法による海島構造を有する粘着剤組成物は、以下の分離度チェックを行うと明確に区別できる。すなわち、高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)と溶剤とから、不揮発分30質量%の溶液を調製し、これを例えば試験管等に注ぎ入れ、密封した後、25℃で24時間放置したときの分離状態をチェックすればよいのである。高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)とがブレンド法で得られた相分離し易い海島構造である場合は、24時間放置後には分離してしまうが、二段重合法で得られた相分離しにくい海島構造であれば、24時間では全く分離しない。上記方法で調製した溶液は、濁り状態が溶液全体で均一であれば、濁っていても良い。上記条件で24時間放置した後、液柱の上部や下部に透明な部分が発生していたり、濁りの程度の異なる2相に別れている場合には、「分離した」と判断する。なお、溶液中の高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)の質量比は、前記した好適範囲内とする。
【0039】
この分離度チェックに用い得る溶剤は、塗工時に用いる溶剤であれば良く、特に限定されないが、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類;シクロヘキサン等の脂環族炭化水素類;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられ、単独で、または2種以上を混合して用いればよい。
【0040】
上記の分離度チェックで分離しないが、2種類のポリマーが含まれている組成物であることを確認するには、例えば、動的粘弾性のtanδの測定で、Tgが2つ観察されるかどうかをチェックすればよい。動的粘弾性のtanδは、例えば、レオメーター(ティー・エイ・インスツルメント社製;「ARES」)を用い、ずりモード、パラプレート法(8mmφ)によって、角振動周波数6.28rad/s、測定温度範囲−50〜150℃で測定するとよい。
【0041】
前記したように、屈折率の近似した高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)を用いれば、ブレンド法であっても二段重合法であっても、ヘイズが3%以下の透明性に優れた粘着製品を得ることができる。ヘイズは小さいほど好ましく、例えば、濁度計等で測定可能である。なお、本発明のヘイズは、例えばポリエチレンテレフタレート等の透明フィルム(支持基材)に粘着剤層を設けた粘着製品の状態での測定値を採用する。
【0042】
次に、本発明の溶剤型再剥離用粘着剤組成物の製造方法について説明する。まず、ブレンド法は、高Tgポリマー(A)と、低Tgポリマー(B)とを別々に重合し、その後、両者を混合(ブレンド)する方法である。重合方法は特に限定されないが、溶液重合が簡便である。高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)とを、同一もしくは相溶し得る溶媒で重合すれば、ブレンド時に脱溶剤工程が不要となり、さらに簡便である。なお、ブレンドする際には、ディスパー等で高速撹拌することが好ましい。
【0043】
一方、二段重合法は、まず、高Tgポリマー(A)のためのモノマー(以下、「モノマー(A)」という。)を溶液重合で重合した後、この高Tgポリマー(A)溶液の存在下で、低Tgポリマー(B)用のモノマー(以下、「モノマー(B)」という。)の重合を行う方法である。この二段重合法で得られる粘着剤組成物は前記分離度チェックでも分離を起こさないが、これは、モノマー(B)の重合時に、高Tgポリマー(A)に低Tgポリマー(B)がグラフトしたようなポリマーが一部生成し、これが、海と島の両方に対して親和性を有する界面活性剤的作用を発揮して、島を安定化させるためではないかと考えられる。また、このために、ブレンド法よりも島の直径が小さくなると考えられる。
【0044】
二段重合法では、モノマー(A)の重合率が70〜95質量%程度になってから、モノマー(B)を反応器へ添加し始めることが好ましい。この方法だと、分離を起こさないからである。重合率(質量%)は、反応容器内のモノマーがポリマー(不揮発分)に転化した質量の割合であり、不揮発分測定で簡単に求められる。低Tgモノマー(B)は、重合開始剤と共に反応器へ滴下することが好ましい。分子量を大きくすることができる。
【0045】
別途重合した高Tgポリマー(A)を、高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)の二段重合が終わった後に加えてもよい。後添加される高Tgポリマー(A)の組成は、分散安定性の点からは最初に重合した高Tgポリマー(A)と同じであることが好ましいが、分子量は異なっていてもよく、これにより、一層、高速剥離の粘着力低減効果が現れる。
【0046】
ブレンド法、二段重合法のいずれにおいても、溶液重合で用いられる溶媒としては、具体的には、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類;シクロヘキサン等の脂環族炭化水素類;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられるが、上記重合反応を阻害しなければ、特に限定されない。これらの溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を適宜混合して用いることもできる。溶媒の使用量は、適宜決定すればよい。本発明の溶剤型再剥離用粘着剤組成物は、溶剤を必須成分とするが、重合溶媒と同じ溶剤を用いることが好ましい。重合終了によって得られたものをそのまま溶剤型再剥離用粘着剤組成物原料として使用することができるからである。
【0047】
重合反応温度や反応時間等の反応条件は、例えば、モノマーの組成や量等に応じて、適宜設定すればよく、特に限定されない。また、反応圧力も特に限定されるものではなく、常圧(大気圧)、減圧、加圧のいずれであってもよい。なお、重合反応は、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下で行うことが望ましい。
【0048】
重合触媒(重合開始剤)としては、限定はされないが、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ラウロイルパーオキサイド、商品名「ナイパーBMT−K40」(日本油脂社製;m−トルオイルパーオキサイドとベンゾイルパーオキサイドの混合物)等の有機過酸化物や、アゾビスイソブチロニトリル、商品名「ABN−E」[日本ヒドラジン工業;2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)]等のアゾ系化合物等の公知のものを利用することができる。また、例えば、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類に代表される公知の分子量調節剤を用いてもよい。
【0049】
本発明の粘着剤組成物には、架橋剤を配合することが好ましい。架橋剤としては、高Tgポリマー(A)および/または低Tgポリマー(B)の有する官能基と反応し得る官能基を1分子中に2個以上有する化合物を用いる。
【0050】
例えば、低Tgポリマー(B)がヒドロキシル基を有しているなら、イソシアネート化合物が好ましく、カルボキシル基を有しているなら、イソシアネート化合物やエポキシ化合物等が好ましい。反応性の点では、ヒドロキシル基とイソシアネート化合物の組合せが最も好ましい。
【0051】
イソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物;「スミジュールN」(住友バイエルウレタン社製;スミジュールは登録商標)等のビュレットポリイソシアネート化合物;「デスモジュールIL」、「デスモジュールHL」(いずれもバイエルA.G.社製;デスモジュールは登録商標)、「コロネートEH」(日本ポリウレタン工業社製;コロネートは登録商標)等として知られるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物;「スミジュールL」(住友バイエルウレタン社製)等のアダクトポリイソシアネート化合物;「コロネートL」(日本ポリウレタン社製)等のアダクトポリイソシアネート化合物;「デュラネートD201」(旭化成社製;デュラネートは登録商標)等のポリイソシアネート化合物等を挙げることができる。これらは、単独で使用し得るほか、2種以上を併用することもできる。また、これらの化合物のイソシアネート基を活性水素を有するマスク剤と反応させて不活性化したいわゆるブロックイソシアネートも使用可能である。
【0052】
エポキシ化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジルトルイジン等が挙げられる。
【0053】
これらの架橋剤は、高Tgポリマー(A)および低Tgポリマー(B)が有する官能基の合計を1当量としたときに、0.1〜5当量となるように添加することが好ましい。架橋剤量が少なすぎると、得られる粘着剤の凝集力が不足して糊残りを起こすことがあるが、多すぎると粘着力が不足したり、粗面に対する濡れ性が低下する。より好ましい架橋剤量は0.2〜4当量であり、さらに好ましくは0.3〜2当量である。
【0054】
本発明の溶剤型再剥離用粘着剤組成物の不揮発分は、特に限定はされないが、例えば、10〜80質量%であることが好ましく、より好ましくは20〜60質量%、さらに好ま
しくは25〜45質量%である。上記不揮発分が10質量%未満であると、塗布した後等の乾燥が長時間となり、生産性が低下するおそれがある。また、80質量%を超えると、組成物全体の粘度が高くなり、ハンドリング性および塗布性に欠け、実用性に乏しくなるおそれがある。粘着剤組成物の溶剤は、前記した重合溶媒がいずれも使用可能であり、前記したように重合溶媒と同じ溶剤が好ましい。
【0055】
本発明の粘着剤組成物には、公知の架橋促進剤、粘着付与剤、改質剤、顔料、着色剤、充填剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤等の添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲で加えてもよい。
【0056】
また、海島構造を破壊しない程度であれば相溶化剤を添加してもよい。相溶化剤としては特に限定されないが、例えば(メタ)アクリレートと酢酸ビニルのブロックコポリマーやグラフトコポリマー等や、イオン的相互作用による相溶化剤(特定の官能基を有する化合物やポリマー等)等を用いることができる。相溶化剤の添加量は、溶剤型再剥離用粘着剤組成物中の樹脂成分(ポリマー(A)とポリマー(B)との合計量)100質量部当たり、0〜20質量部程度が好ましい。
【0057】
本発明の粘着剤組成物は、再剥離用粘着製品の製造に用いられる。基材あるいは離型紙の上に粘着剤組成物を塗布し、その乾燥塗膜を形成することによって、基材の片面に粘着剤層が形成されている粘着製品(粘着テープまたはシート)、基材の両面に粘着剤層が形成されている粘着製品、基材を有しない粘着剤層のみの粘着製品を得ることができる。紙基材の粘着製品を製造する場合は、離型紙の上に粘着剤組成物を塗布し、粘着剤層を形成した後、紙基材に転写する方法も、採用できる。粘着剤層の形成にあたっては、溶剤が飛散する条件(例えば50〜120℃で60〜180秒程度)での加熱乾燥を行うことが望ましい。
【0058】
基材としては、上質紙、クラフト紙、クレープ紙、グラシン紙等の従来公知の紙類;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、セロファン等のプラスチック;織布、不織布等の繊維製品;これらの積層体等が利用できる。光学用フィルムの表面保護に用いる場合には、基材は、ポリエチレンテレフタレート等の透明フィルムが好ましい。
【0059】
粘着剤組成物を基材に塗布する方法は、特に限定されるものではなく、ロールコーティング法、スプレーコーティング法、ディッピング法等の公知の方法を採用することができる。この場合、粘着剤組成物を基材に直接塗布する方法、離型紙等に粘着剤組成物を塗布した後、この塗布物を基材上に転写する方法等いずれも採用可能である。粘着剤組成物を塗布した後、乾燥させることにより、基材上に粘着剤層が形成される。
【0060】
基材上に形成された粘着剤の表面には、例えば、離型紙を貼着してもよい。粘着剤表面を好適に保護・保存することができる。剥離紙は、粘着製品を使用する際に、粘着剤表面から引き剥がされる。なお、シート状やテープ状等の基材の片面に粘着剤面が形成されている場合は、この基材の背面に公知の離型剤を塗布して離型剤層を形成しておけば、粘着剤層を内側にして、粘着シート(テープ)をロール状に巻くことにより、粘着剤層は、基材背面の離型材層と当接することとなるので、粘着剤表面が保護・保存される。
【0061】
本発明の粘着剤組成物から得られる再剥離用粘着製品は、180゜粘着力が、0.3m/分の低速剥離では0.05〜0.3N/25mm、30m/分の高速剥離では0.5〜3N/25mmであることが好ましい。低速剥離粘着力が上記範囲であれば、光学部材の表面保護シートとして充分であり、高速剥離粘着力が上記範囲であれば、ジッピング等の不都合を起こすことなく、滑らかに剥離が可能だからである。また、高速剥離粘着力を低
速剥離粘着力で除した値が15.0以下であると、高速剥離の際の粘着力の増大が抑制できたということができる。この180゜粘着力は、厚み20μmの粘着剤層が厚み38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム基材上に形成された粘着製品を用いて、23℃で、アクリル板に対する180゜粘着力を測定した場合の値を採用する。なお、上記単位「N/25mm」において、「/25mm」の部分は、被着体に圧着させた粘着シートの幅を意味する。
【実施例】
【0062】
以下実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお以下特にことわりのない場合、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ示すものとする。
【0063】
合成例1(二段重合)
高Tgポリマー用モノマーとして酢酸ビニル(VAC)70部を、溶媒として酢酸エチル210部を用い、よく混合し、温度計、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えたフラスコに添加した。窒素ガスを流通させながら、フラスコの内温を75℃まで上昇させ、重合開始剤である「ナイパー(登録商標)BMT−K40」(日本油脂社製;m−トルオイルパーオキサイドとベンゾイルパーオキサイドの混合物)0.09部をフラスコに投入して、重合を開始させた。
【0064】
反応開始から1.5時間経過した後、ブースター(後添加開始剤)として、「ABN−E」(日本ヒドラジン工業社製;2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル))0.25部添加した後、さらに76℃で1.5時間熟成し、ポリ酢酸ビニル溶液を得た。この時点での酢酸ビニルの重合率は、73%であった。
【0065】
続いて同じフラスコに、低Tgポリマー用モノマーとして、n−ブチルアクリレート120部、2−エチルヘキシルアクリレート268部および2−ヒドロキシエチルアクリレート12部と、前記「ナイパーBMT−K40」0.5部と、酢酸エチル105部をよく混合してモノマー溶液を調製し、滴下ロートから1時間かけて均等に滴下した。滴下終了後、1.5時間経過後に、ブースターとして前記「ABN−E」0.2部を酢酸エチル200部と共に添加し、さらに78℃で2.5時間熟成し、ポリマー溶液No.1を得た。光学顕微鏡を用いて観察した結果、海島構造であることが確認できた。
【0066】
合成例2(二段重合)
高Tgポリマー用モノマーとして酢酸ビニル(VAC)100部を、溶媒として酢酸エチル185部を用い、よく混合し、温度計、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えたフラスコに添加した。窒素ガスを流通させながら、フラスコの内温を75℃まで上昇させ、前記「ABN−E」0.05部をフラスコに投入して、重合を開始させた。
【0067】
後は、合成例1と全く同様にして二段重合を行い、ポリマー溶液No.2を得た。光学顕微鏡により、海島構造であることを確認した。
【0068】
合成例3
酢酸ビニル250部と、分子量調整剤として「チオカルコール(登録商標)−20」(花王社製;n−ドデシルメルカプタン)1.25部を秤量し、よく混合して、モノマー混合物を調製した。このモノマー混合物の50%と酢酸エチル375部とを、温度計、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えたフラスコに添加した。残りのモノマー混合物と前記「ナイパーBMT−K40」0.16部からなる滴下用モノマー混合物を滴下ロートに入れ、よく混合した。窒素ガスを流通させながら、フラスコの内温を73℃まで上昇させ、前記「ナイパーBMT−K40」0.32部をフラスコに投入して、重合を開始させた。重合開始剤の投入後、10分経過してから、滴下用モノマー混合物の滴下を開始した。滴下用モノマー混合物は1時間かけて均等に滴下した。滴下終了後、酢酸エチル38部をフラスコに添加した。また、滴下終了後1時間後に、ブースターとして前記「ABN−E」を0.125部添加した後、さらに76℃で1.5時間熟成し、ポリ酢酸ビニル溶液を得た。この時点での酢酸ビニルの重合率は、82%であった。
【0069】
合成例1で製造したポリマー溶液No.1の不揮発分100部に対し、上記ポリ酢酸ビニル溶液の不揮発分が10部となるように両者を混合し、よく撹拌して、ポリマー溶液No.3を得た。光学顕微鏡により、海島構造であることを確認した。
【0070】
合成例4(低Tgポリマーの一段重合)
n−ブチルアクリレート485部および2−ヒドロキシエチルアクリレート15部を秤量し、よく混合してモノマー混合物を調製した。このモノマー混合物の40%と酢酸エチル240部とを、温度計、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えたフラスコに添加した。残りのモノマー混合物60%と前記「ナイパーBMT−K40」0.3部からなる滴下用モノマー混合物を滴下ロートに入れ、よく混合した。窒素ガスを流通させながら、フラスコの内温を84℃まで上昇させ、前記「ナイパーBMT−K40」0.4部をフラスコに投入して、重合を開始させた。重合開始剤の投入後、10分経過してから、滴下用モノマー混合物の滴下を開始した。滴下用モノマー混合物は1時間かけて均等に滴下した。滴下終了後、トルエン42部をフラスコに添加した。また、滴下終了後1.5時間後に、酢酸エチル165部とブースターとして前記「ナイパーBMT−K40」を0.25部添加した後、さらに85℃で2.5時間熟成し、トルエン360部を添加してポリマー溶液No.4を得た。
【0071】
合成例5(一段重合)
n−ブチルアクリレート120部、2−エチルヘキシルアクリレート268部および2−ヒドロキシエチルアクリレート12部、酢酸ビニル100部を秤量し、よく混合してモノマー混合物を調製した。このモノマー混合物の40%と酢酸エチル240部とを、温度計、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えたフラスコに添加した。残りのモノマー混合物60%と前記「ナイパーBMT−K40」0.75部からなる滴下用モノマー混合物を滴下ロートに入れ、よく混合した。窒素ガスを流通させながら、フラスコの内温を82℃まで上昇させ、前記「ナイパーBMT−K40」0.5部をフラスコに投入して、重合を開始させた。重合開始剤の投入後、10分経過してから、滴下用モノマー混合物の滴下を開始した。滴下用モノマー混合物は1時間かけて均等に滴下した。滴下終了後、酢酸エチル305部をフラスコに添加した。また、滴下終了後1.5時間後に、酢酸エチル220部とブースターとして前記「ABN−E」を0.2部添加した後、さらに77℃で2.5時間熟成し、ポリマー溶液No.5を得た。
【0072】
合成例6(ブレンド)
モノマー組成を、n−ブチルアクリレート150部、2−エチルヘキシルアクリレート335部、2−ヒドロキシエチルアクリレート15部とした以外は、合成例4と同様にして、低Tgポリマーのポリマー溶液を得た。
【0073】
上記低Tgポリマーのポリマー溶液の不揮発分100部に対し、合成例3で合成したポリ酢酸ビニル溶液の不揮発分が10部となるように両者を混合し、よく撹拌して、ポリマー溶液No.6を得た。光学顕微鏡により、海島構造であることを確認した。
【0074】
合成例7(ブレンド)
モノマー組成を、n−ブチルアクリレート150部、2−エチルヘキシルアクリレート
335部、2−ヒドロキシエチルアクリレート15部とした以外は、合成例4と同様にして、低Tgポリマー溶液を得た。
【0075】
上記低Tgポリマー溶液の不揮発分100部に対し、合成例3で合成したポリ酢酸ビニル溶液の不揮発分が3部となるように両者を混合し、よく撹拌して、ポリマー溶液No.7を得た。光学顕微鏡により、海島構造であることを確認した。
【0076】
合成例8(ブレンド)
モノマー組成を、n−ブチルアクリレート335部、2−エチルヘキシルアクリレート150部、2−ヒドロキシエチルアクリレート15部とした以外は、合成例4と同様にして、低Tgポリマー溶液を得た。
【0077】
別途、メチルメタクリレート190部、n−ブチルアクリレート15部、2−ヒドロキシエチルアクリレート12.5部、前記「チオカルコール−20」32.5部を秤量し、よく混合し、モノマー混合物を調製した。このモノマー混合物の50%と酢酸エチル188部とを、温度計、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えたフラスコに添加した。残りのモノマー混合物50%と前記「ナイパーBMT−K40」0.125部からなる滴下用モノマー混合物を滴下ロートに入れ、よく混合した。窒素ガスを流通させながら、フラスコの内温を82℃まで上昇させ、前記「ナイパーBMT−K40」0.25部をフラスコに投入して、重合を開始させた。重合開始剤の投入後、10分経過してから、滴下用モノマー混合物の滴下を開始した。滴下用モノマー混合物は1時間かけて均等に滴下した。滴下終了後、酢酸エチル58部をフラスコに添加した。また、滴下終了後1.5時間後に、ブースターとして前記「ナイパーBMT−K40」を0.125部添加した後、さらに85℃で2.5時間熟成し、高Tgポリマー溶液を得た。
【0078】
最初に合成した低Tgポリマー溶液の不揮発分100部に対し、上記高Tgポリマー溶液の不揮発分が15部となるように両者を混合し、よく撹拌して、ポリマー溶液No.8を得た。光学顕微鏡により、海島構造であることを確認した。
【0079】
合成例9(ブレンド)
高Tgポリマー用のモノマーとして、メチルメタクリレート250部と前記「チオカルコール20」1.0部のみを用いた以外は合成例8と同様にして高Tgポリマー溶液を得た。合成例8と同じ低Tgポリマー溶液の不揮発分100部に対し、上記高Tgポリマー溶液の不揮発分が20部となるように両者を混合し、よく撹拌して、ポリマー溶液No.9を得た。光学顕微鏡により、海島構造であることを確認した。
【0080】
実験例
各ポリマー溶液No.1〜9について合成方法をまとめて表1に、各特性を表2に示した。なお、特性評価方法は以下の通りである。
【0081】
[Tg]
前記計算式で計算したTgである。
【0082】
[質量平均分子量(Mw)]
GPC測定装置:Liquid Chromatography Model 510 (Waters社製)を用いて、下記条件で行った。
検出器:M410示差屈折計
カラム:Ultra Styragel Linear(7.8mm×30cm;‘Styragel’は登録商標)
Ultra Styragel 100Å (7.8mm×30cm)
Ultra Styragel 500Å (7.8mm×30cm)
溶媒:テトラヒドロフラン(THFと略記)
試料濃度は0.2%、注入量は200マイクロリットル/回で、ポリスチレン標準試料換算値をMwとした。
【0083】
なお、二段重合の場合は、二段目のモノマーをフラスコに添加する前に、高Tgポリマー(A)をサンプリングし、Mwを測定した。また、二段重合終了後にポリマー混合物全体のMwを測定した。
【0084】
[tanδ]
レオメーター(ティー・エイ・インスツルメント社製;「ARES」)を用い、ずりモード、パラプレート法(8mmφ)によって、角振動周波数6.28rad/s、測定温度範囲−50〜150℃で測定した。
【0085】
[分離の有無]
ポリマー溶液No.1〜9について、それぞれ不揮発分が30質量%となるように酢酸エチルで濃度調整を行い、ビーカーに50g採取する。手で充分に撹拌した後、12mmφの試験管に液柱の高さが100mmになるまで注ぎ入れ、溶剤が揮発しないように試験管の開口部をシールする。試験管立てに立てて、25℃の雰囲気下に24時間静置して、分離の状態を目視で観察する。濁りの程度が溶液全体において均一で、分離の境界が認められないものを「分離なし」とした。透明な部分が液柱の上部や下部に発生している場合や、濁りの程度の異なる2相が形成されている場合(例えば、液柱上部90mmでは濁りが強く、下部10mmでは、上部より、やや濁りの少ない状態の場合など)は、「分離あり」と判断した。
【0086】
[粘着特性]
ポリマー溶液を取り、酢酸エチルで不揮発分を34%に調整した。ポリマー100部当たり、架橋促進剤としてジブチルチンジラウリレート250ppm(質量基準)と、架橋剤として「デュラネート(登録商標)D−201」(ヘキサメチレンジイソシアネート系;2官能;旭化成社製)が10部に相当する量を加えてよく撹拌し、粘着剤組成物を得た。
【0087】
支持基材としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ株式会社製;厚さ38μm)を用い、粘着剤組成物を乾燥後の厚さが20μmとなるように塗布した後、100℃で2分間乾燥させることにより、粘着フィルムを作成した。粘着剤表面に離型処理を施したPETフィルムを貼着して保護した後、40℃の雰囲気下で3日間養生した。養生後の粘着フィルムは、23℃、相対湿度65%の雰囲気で24時間調湿した後、25mm幅で適当な長さに切断して、試験テープを作製した。なお、離型フィルムは試験を実施する際に引き剥がした。
【0088】
厚さ3mmのアクリル板(日本テストパネル株式会社製の標準試験板)を被着体とし、23℃、相対湿度65%の雰囲気下でアクリル板に上記試験テープを2kgのゴムローラで1往復させて圧着する。圧着後25分放置した後、剥離速度を、低速剥離では0.3m/min、高速剥離では30m/minとし、23℃の雰囲気下で、JIS K 6854に準じて180゜剥離粘着力を測定した。表2には、低速剥離粘着力、高速剥離粘着力、および、高速剥離粘着力を低速剥離粘着力で除した値(「高速/低速」として示した)を併記した。
【0089】
[ヘイズ(%)]
濁度計(日本電子工業社製;「NDH−2000」)を用い、JIS K 7105に準じて、上記試験テープのヘイズ(%)を測定した。
【0090】
なお、表1においては、各モノマーと分子量調整剤を次のように略記した。右の数字は、ポリマーハンドブックに掲載されているホモポリマーのTg(K)の値である。
【0091】
VAC :酢酸ビニル 305K
BA :n−ブチルアクリレート 219K
2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート 203K
HEA :2−ヒドロキシエチルアクリレート 241K
MMA :メチルメタクリレート 378K
DM :ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
表2から明らかな通り、二段重合を行った実施例1〜3の粘着剤組成物は、分離を起こさず保存安定性に優れている。また、高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)とをバランスよく配合しているため、高速剥離粘着力が小さく、高速/低速の値も15.0以下であった。比較例1は低Tgポリマー(B)のみからなるため、高速剥離粘着力が大きすぎた。高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)を一括で重合させた比較例2でも、高速剥離粘着力が大きく、ジッピング剥離を起こしていた。
【0095】
高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)とをブレンドした実施例4と参考例1と
の比較から、高Tgポリマー(A)が少なすぎると粘着特性は劣化していくことがわかった。
【0096】
また、実施例5と参考例2は、屈折率が2EHAやBAのポリマーとは異なるMMA系のポリマーを高Tgポリマー(A)として用いたため、ヘイズについてはあまりよくないが、参考例2では、高Tgポリマー(A)のTgが高すぎるため低速での剥離力が小さすぎ、粘着力が不足するおそれがあることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の溶剤型再剥離用粘着剤組成物は、高Tgポリマーと低Tgポリマーとが海島構造を採っているため、高Tgポリマーと低Tgポリマーとの併用によって高速剥離性を改善することができた。また、ヘイズの小さい粘着剤層を形成することもできた。
【0098】
従って、上記粘着剤組成物を用いて得られる粘着製品は、光学用偏光板(TAC)、位相差板、EMI(電磁波)シールドフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム等といった光学用部材の表面を保護するための再剥離用粘着製品として利用可能である。また、その他のプラスチックや金属板の表面の保護フィルムとしても利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度(Tg)が0℃以上の高Tgポリマー(A)と、この高Tgポリマーよりも低いTgを有し、感圧接着性を示す低Tgポリマー(B)および溶剤を含む溶剤型再剥離用粘着剤組成物であって、
上記粘着剤組成物から得られる粘着剤層において、高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)とが相溶することなく海島構造を形成していることを特徴とする溶剤型再剥離用粘着剤組成物。
【請求項2】
上記高Tgポリマー(A)、上記低Tgポリマー(B)および上記溶剤を混合し、高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)の合計量が不揮発分で30質量%である溶液を調製した後、密封して25℃で24時間放置した場合に、高Tgポリマー(A)と低Tgポリマー(B)とが相分離しない請求項1に記載の溶剤型再剥離用粘着剤組成物。
【請求項3】
上記粘着剤組成物を架橋させずに得られた塗膜について動的粘弾性を測定した場合、上記高Tgポリマー(A)に由来するtanδのピークと、上記低Tgポリマー(B)に由来するtanδのピークとが別々に観察されるものである請求項1または2に記載の溶剤型再剥離用粘着剤組成物。
【請求項4】
上記高Tgポリマー(A)と上記低Tgポリマー(B)との合計量を100質量%としたときに、高Tgポリマー(A)が4〜35質量%、低Tgポリマー(B)が65〜96質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の溶剤型再剥離用粘着剤組成物。
【請求項5】
上記低Tgポリマー(B)が連続相であって、上記高Tgポリマー(A)が島状に分散して存在しているものである請求項4に記載の溶剤型再剥離用粘着剤組成物。
【請求項6】
上記高Tgポリマー(A)の存在下で、上記低Tgポリマー(B)用モノマーの重合を行うことにより得られるものである請求項1〜5のいずれかに記載の溶剤型再剥離用粘着剤組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の溶剤型再剥離用粘着剤組成物から得られた粘着剤層が支持基材の少なくとも片面に形成されていることを特徴とする再剥離用粘着製品。
【請求項8】
ヘイズが3%以下である請求項7に記載の再剥離用粘着製品。
【請求項9】
厚み20μmの粘着剤層が厚み38μmのポリエチレンテレフタレートフィルム基材上に形成された粘着製品を用いてアクリル板に対する180゜粘着力を測定した場合に、0.3m/分の低速剥離では0.05〜0.3N/25mm、30m/分の高速剥離では0.5〜3N/25mmであり、かつ高速剥離における粘着力を低速剥離における粘着力で除した値が15.0以下である請求項7または8に記載の再剥離用粘着製品。

【公開番号】特開2012−144742(P2012−144742A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−99105(P2012−99105)
【出願日】平成24年4月24日(2012.4.24)
【分割の表示】特願2006−256312(P2006−256312)の分割
【原出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】