説明

溶剤溶解型光硬化性組成物を用いた微細構造体の製造方法

【課題】 室温での光ナノインプリントが可能であり、且つ硬化物の溶剤溶解性に優れる光硬化性組成物とリフトオフ法を併用することにより、容易に微細構造体を作製可能な微細構造体の製造方法とその製造方法により得られた優れたパターンを有する微細構造体、ならびに該微細構造体からなるハードディスク、グレーティング、半導体材料、MEMS作成用材料、ホログラム、導波路、プラズモンデバイス、及び偏光板又は偏光フィルムを提供する。
【解決手段】 本発明の微細構造体の製造方法は、重合性モノマーを含み、前記重合性モノマーのうち90重量%以上が1種又は2種以上の単官能のラジカル重合性モノマーであり、前記1種又は2種以上の単官能のラジカル重合性モノマーの重合物のガラス転移点が25℃以上であり、且つ硬化物が溶剤に溶解可能な光硬化性組成物を使用して、リフトオフ法により微細構造体を作製することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リフトオフ法に適した転写性を示し、且つ硬化物が溶解除去可能な光硬化性組成物を用いて微細構造体を製造する方法及び該製造方法により作製された微細構造体に関する。また、本発明は、該微細構造体からなるハードディスク、グレーティング、半導体材料、MEMS作成用材料、ホログラム、導波路、プラズモンデバイス、及び偏光板又は偏光フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
リフトオフ法は、従来から微細加工時にフォトリソグラフィー法と共に使用されてきた手法の一つである。本手法を用いることで超微細加工が可能となり、特に基板上に金属層ついで樹脂層を設ける所謂2層法等を併用することにより基板の深堀等が可能となる。また、金属等の微細パターン形成においてCVD法との併用で容易に高容量ディスク(ディスクリートトラックメディア、パターンドメディア)作成に使用されている。
【0003】
リフトオフプロセスを用いる場合には、使用樹脂は転写性が優れる点と同時に使用後の除去性に優れる特徴を有する必要がある。一般に熱可塑性樹脂は溶解性に優れるが、塗膜形成において溶剤に溶解した樹脂溶液として使用する必要があると同時に樹脂のガラス転移温度(Tg)付近まで加熱し、熱インプリント法により転写した後、室温付近まで温度を下げて使用モールドを剥離して転写工程が終了する。このため、加熱及び冷却に多くの時間が必要であり、スループットの点で問題が残る。更に、熱膨張・収縮によるパターン転写精度が劣ると言った問題点も残っている。
【0004】
一方、室温で精度良く且つ高いスループットを有するUV硬化を利用したUVナノインプリントが注目されている。基板上に液状のモノマーを塗布した後、転写モールドを乗せ、UV等の光により硬化させモールド形状を精度良く基板上の樹脂に転写する方法である。本手法を用いることにより室温にて瞬時に転写が可能であるため、パターン精度、高スループットが期待できる。しかしながら、リフトオフプロセスに使用する場合、UVにより架橋した硬化物は溶媒等への溶解性が悪く、形成パターンを容易に除去する事が非常に困難であった。さらに、硬化樹脂除去過程において、樹脂を膨潤させ除去可能であるが、完全溶解が難しく不溶成分が作成したパターン上に付着し、欠陥の原因となる事があった。
【0005】
例えば、特許文献1では、リフトオフ手法とディスクリートトラックメディアの作製法が報告されている。レジストとしては、溶剤溶解性に優れる熱可塑性の樹脂としてポリメチルメタクリレート及びポリ(メチルメタクリレート−メタクリル酸コポリマー)が使用されている。この場合には、熱転写が必須であり、転写時間・精度に問題が残る。特許文献2では、パターンドメディアの作製手法としてリフトオフ及びナノインプリント手法が用いられている。同様に、特許文献3においては、リフトオフ法を用いた立体画像表示装置用の波長板の作成を行った例が報告されている。何れも、熱可塑性樹脂或いは3次元架橋のUV硬化性樹脂の使用を前提に波長板の作成手法が記載されているが、具体的な材料報告が無く、実質的に上記問題点の解決には至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−319074号公報
【特許文献2】特開2008−90999号公報
【特許文献3】特開2005−352378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、室温での光ナノインプリント(UVナノインプリント)が可能であり、且つ硬化物が溶剤溶解性に優れる光硬化性組成物(UV硬化樹脂)とリフトオフ法(リフトオフプロセス)を併用することにより、容易に微細構造体を作製可能な微細構造体の製造方法とその製造方法により得られた微細構造体、ならびに該微細構造体からなるハードディスク、グレーティング、半導体材料、MEMS作成用材料、ホログラム、導波路、プラズモンデバイス、及び偏光板又は偏光フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、重合性モノマー成分のうち、90重量%以上が1種又は2種以上の単官能のラジカル重合性モノマーであり、且つ前記1種又は2種以上の単官能のラジカル重合性モノマーの重合物のガラス転移点が25℃以上である、溶解除去可能な光硬化性組成物を用い、リフトオフプロセスと併用することで優れた微細構造体開発に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、重合性モノマーを含み、前記重合性モノマーのうち90重量%以上が1種又は2種以上の単官能のラジカル重合性モノマーであり、前記1種又は2種以上の単官能のラジカル重合性モノマーの重合物のガラス転移点が25℃以上であり、且つ硬化物が溶剤に溶解可能な光硬化性組成物を使用して、リフトオフ法により微細構造体を作製することを特徴とする微細構造体の製造方法を提供する。
好ましくは、前記単官能のラジカル重合性モノマーは、(メタ)アクリル酸エステル化合物、スチレン系化合物、及びビニルエーテル化合物から選択された少なくとも1種の化合物である。
また好ましくは、前記単官能のラジカル重合性モノマーとして、分子内に環状構造を有するラジカル重合性モノマーを少なくとも用いることができる。
更に好ましくは、前記分子内に環状構造を有するラジカル重合性モノマーは、下記式(I)
【化1】

[式(I)中、R1は−H,又は−CH3;R2は下記式(Ia)〜(Ic)
【化2】

{式(Ia)中、R3は、−(C24x−,−(C24O)x−,−(CH2CH(CH3)O)x−,−C(CH32−,又は−C(CH3)(C25)−;xは0〜5の整数;R4〜R8は、同一または異なって、−(CH2)−,−(C(CH32)−,又は−O−;R10〜Rl2は、同一または異なって、−H、またはCl〜5の炭化水素基;a1〜a6は、それぞれ0〜3の整数;rは0〜5の整数;a5が0の場合、R8−R9の結合は2重結合でも良い。また、a5及びa6が共に1の場合、R7−R8の結合は2重結合でも良い;R9は、a4が1〜3の時はC−R13、a4が0の時は、−(CH2)−,−(C(CH32)−,又は−O−;R13は水素原子またはCl〜5の炭化水素基を示す。また、式(Ib)中、R16は、−(C24y−,−(C24O)y−,−(CH2CH(CH3)O)y−,−C(CH32−,又は−C(CH3)(C25)−;yは0〜5の整数;Rl7〜R19は、同一または異なって、−H,−OH,−COOH,又はCl〜5の炭化水素基を示す。また、式(Ic)中、R20〜R26は、同一または異なって、−H,−OH,−COOH,又はC1〜5の炭化水素基;sは0〜5の整数を示す}
で表される基を示す]
で表される化合物又は下記式(II)
【化3】

[式(II)中、R30〜R36は、同一または異なって、−H,−OH,−COOH,又はCl〜5の炭化水素基;tは0〜5の整数を示す]
で表される化合物である。
特に好ましくは、前記分子内に環状構造を有するラジカル重合性モノマーが、下記式(1)〜(3)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物である。
【化4】

[式(1)〜(3)中、R41〜R43は、同一または異なって、−Hまたは−CH3を示す]
前記溶剤は、ケトン、エーテル、エステル、アルコール、脂肪族炭化水素、及び芳香族炭化水素から選択された少なくとも1種の溶剤であってもよい。
本発明の微細構造体の製造方法は、好ましくは、支持体上に形成された前記光硬化性組成物からなる層にパターンを有するモールドを押し当て露光・硬化して樹脂層を形成する露光・硬化工程(A)と、該露光・硬化工程後、該樹脂層からモールドを剥離するモールド剥離工程(B)と、該モールド剥離工程後、該樹脂層にドライエッチング及び/又はウエットエッチングすることによりパターンを作成するエッチング工程(C)と、該エッチング工程により作成されたパターンを有する該樹脂層に無機化合物又は有機化合物を蒸着する蒸着工程(D)と、該蒸着工程後、溶剤で該樹脂層を取り去ることで支持体上に該無機化合物又は有機化合物のパターンが形成された微細構造体を作製する樹脂取り去り工程(G)とを有している。
前記蒸着工程(D)において、樹脂層の側壁部分(側壁部)に無機化合物又は有機化合物が蒸着した工程(E)を経由する場合には、側壁部分に蒸着した無機化合物又は有機化合物の為、樹脂溶解が著しく阻害され所望のパターン形状を得られない事がある。特に、樹脂層からなるパターン形状がテーパーを有する台形である場合には、顕著に観察される。そこで、前記前記蒸着工程(D)において、CVD法により前記無機化合物又は有機化合物を蒸着させ、樹脂層の側壁部に前記無機化合物又は有機化合物が蒸着された蒸着工程(E)となった場合には、前記蒸着工程後、加熱処理及び/又はUV照射する事により、パターンを有する樹脂層の線膨張及び/又は硬化収縮を行い、前記無機化合物又は有機化合物の蒸着面に亀裂及び/又はシワを生じさせ、溶解現像性を促進する加熱処理・UV照射工程(F)をさらに含んでいてもよい。
また、本発明は、上記微細構造体の製造方法により得られる微細構造体を提供する。
さらに本発明は、前記微細構造体からなるハードディスク、グレーティング、半導体材料、MEMS作成用材料、ホログラム、導波路、プラズモンデバイス、及び偏光板又は偏光フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の微細構造体の製造方法は、上記発明の光硬化性組成物を光照射等により硬化させて得られる微細構造体をリフトオフプロセスにより、プラズモンデバイス等の金属等の無機化合物又は有機化合物で形成されたナノパターン作製に有用である事が判った。更には、優れた微細パターンを有する微細構造体、該微細構造体からなる偏光板又は偏光フィルム、次世代ハードディスクであるディスクリートトラックメディア、パターンメディア、グレーティング用途、半導体材料、MEMS作成用材料、フラットスクリーン、ホログラム、導波路、精密機械部品およびセンサが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の微細構造体の製造方法の一例を示すフロー図(工程図)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<微細構造体の製造方法>
本発明の微細構造体の製造方法は、重合性モノマーを含み、前記重合性モノマーのうち90重量%以上が1種又は2種以上の単官能のラジカル重合性モノマーであり、前記1種又は2種以上の単官能のラジカル重合性モノマーの重合物のガラス転移点が25℃以上であり、且つ硬化物が溶剤に溶解可能な光硬化性組成物を使用し、リフトオフ法により微細構造体を作製することを特徴とする。
【0013】
<光硬化性組成物>
本発明の微細構造体の製造方法において使用される光硬化性組成物は、前記重合性モノマーのうち90重量%以上が1種又は2種以上の単官能のラジカル重合性モノマーであり、前記1種又は2種以上の単官能のラジカル重合性モノマーの重合物のガラス転移点が25℃以上であり、且つ硬化物が溶剤に溶解可能である。単官能のラジカル重合性モノマーの量が90重量%より少なく、多官能のラジカル重合性モノマーが多い場合には、硬化物の溶剤溶解性が低下し、溶剤で硬化物を除去することが困難となる。また、1種又は2種以上の単官能のラジカル重合性モノマーの重合物のガラス転移点が25℃未満であると、転写性、モールドからの剥離性が悪くなる。
【0014】
<ラジカル重合性モノマー>
ラジカル重合システムに使用できるモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル[例えば、(メタ)アクリル酸C1-10アルキルエステル等];ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、シクロペンテニル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、2−(ジシクロペンテニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−(ジシクロペンタニルオキシ)エチル(メタ)アクリレートなどの分子内に環状構造(脂肪族環状構造又は芳香族環状構造)を有する(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレンビニルナフタレンなどのスチレン系化合物;メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、フェニルビニルエーテル等のビニルエーテル化合物が挙げられる。
【0015】
また、単官能のラジカル重合性モノマーには、親水性基を有するラジカル重合性モノマーも含まれる。親水性基として、例えば、水酸基、カルボキシル基、第4級アンモニウム基、アミノ基、複素環式基等が挙げられる。親水性基を有するラジカル重合性モノマーの具体例としては、例えば、ヒドロキシスチレン等のフェノール性水酸基を有する化合物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアダマンチルアクリレート、カプロラクトン変性2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル類;メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソオクチルオキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;(メタ)アクリル酸、β−カルボキシエチル(メタ)アクリレート等のカルボキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸へのε−カプロラクトン付加物等の不飽和カルボン酸のラクトン変性物;上記水酸基を有するモノマーに酸無水物を付加した化合物;2−アミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;2−ビニルピロリドン等のビニル基を有する複素環式化合物(含窒素複素環式化合物等)などを挙げることができる。
【0016】
本発明では、前記ラジカル重合性モノマーの重合物のガラス転移点が25℃以上(例えば、25〜220℃)、特に40℃以上(例えば、40〜220℃)となるように、1種又は2種以上の単官能のラジカル重合性モノマーを選択して使用する。重合物のガラス転移点は、公知の方法により計算により算出できる。また、DSC(示差走査熱量測定)によりガラス転移点を求めることもできる。
【0017】
前記単官能のラジカル重合性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル化合物、スチレン系化合物、及びビニルエーテル化合物から選択された少なくとも1種の化合物であることが好ましく、また、分子内に環状構造を有することが好ましい。
【0018】
具体的な例としては、例えば、下記式(I)
【化5】

[式(I)中、R1は−H,又は−CH3;R2は下記式(Ia)〜(Ic)
【化6】

{式(Ia)中、R3は、−(C24x−,−(C24O)x−,−(CH2CH(CH3)O)x−,−C(CH32−,又は−C(CH3)(C25)−;xは0〜5の整数;R4〜R8は、同一または異なって、−(CH2)−,−(C(CH32)−,又は−O−;R10〜Rl2は、同一または異なって、水素原子またはCl〜5の炭化水素基;a1〜a6は、それぞれ0〜3の整数;rは0〜5の整数;a5が0の場合、R8−R9の結合は2重結合でも良い。また、a5及びa6が共に1の場合、R7−R8の結合は2重結合でも良い;R9は、a4が1〜3の時はC−R13、a4が0の時は、−(CH2)−,−(C(CH32)−,又は−O−;R13は水素原子またはCl〜5の炭化水素基を示す。また、式(Ib)中、R16は、−(C24y−,−(C24O)y−,−(CH2CH(CH3)O)y−,−C(CH32−,又は−C(CH3)(C25)−;yは0〜5の整数;Rl7〜R19は、同一または異なって、−H,−OH,−COOH,又はCl〜5の炭化水素基を示す。また、式(Ic)中、R20〜R26は、同一または異なって、−H,−OH,−COOH,又はC1〜5の炭化水素基;sは0〜5の整数を示す}
で表される基を示す]
で表される化合物又は下記式(II)
【化7】

[式(II)中、R30〜R36は、同一または異なって、−H,−OH,−COOH,又はCl〜5の炭化水素基;tは0〜5の整数を示す]
で表される化合物が挙げられる。
【0019】
なかでも、前記式(1)で表されるジシクロペンタニルメタクリレート、式(2)で表されるジシクロペンタニルオキシエチルメタクリレート、式(3)で表されるジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレートが好適である。
【化8】

式(1)〜(3)中、R41〜R43は、同一または異なって、−Hまたは−CH3を示す。
【0020】
また、単官能のラジカル重合性モノマーとして、親水性基を有するラジカル重合性モノマーも好ましい。本発明において、親水性基(特に、フェノール性水酸基、カルボキシル基、複素環式基等)を有するラジカル重合性モノマーを多く含む(例えば、重合性モノマー全体の10重量%以上含む)硬化性組成物の硬化物は、アルカリ現像液に溶解しやすくなる。一方、親水性基(特に、フェノール性水酸基、カルボキシル基、複素環式基等)を有するラジカル重合性モノマーの含有量の少ない(例えば、重合性モノマー全体の10重量%未満である)硬化性組成物の硬化物は、有機溶剤に溶解しやすくなる。
【0021】
ラジカル重合性モノマーとしては、特に、ガラス転移点温度の高い、環状構造を含む(メタ)アクリレートである、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンタニル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレート、イソボロニルメタ)アクリレート及びシクロペンテニル(メタ)アクリレート等が好ましい。
【0022】
本発明の微細構造体の製造方法で使用される光硬化性組成物に含まれる1種又は2種以上の重合性モノマーのうち、単官能のラジカル重合性モノマーの含有量の総和は90重量%以上(例えば、90〜100重量%)である。本発明の微細構造体の製造方法で使用される光硬化性組成物において、特に好ましい態様として、(1)硬化性組成物中に含まれる重合性モノマーの40重量%以上(より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは60重量%以上)が、分子内に環状構造(特に、脂肪族環状構造)を有する単官能の(メタ)アクリル酸エステルである硬化性組成物、(2)硬化性組成物中に含まれる重合性モノマーの10重量%以上(より好ましくは15重量%以上、特に好ましくは20重量%以上)が、フェノール性水酸基を有する単官能のラジカル重合性モノマー、カルボキシル基を有する単官能のラジカル重合性モノマー、複素環式基を有する単官能のラジカル重合性モノマーから選択された1種又は2種以上のモノマーである硬化性組成物、(3)硬化性組成物中に、分子内に環状構造を有する単官能の(メタ)アクリル酸エステル[好ましくは、分子内に脂肪族環状構造(特に、橋架け環骨格)を有する単官能の(メタ)アクリル酸エステル]を含み、且つ硬化性組成物中に含まれる重合性モノマーの10重量%以上(より好ましくは15重量%以上、特に好ましくは20重量%以上)が、フェノール性水酸基を有する単官能のラジカル重合性モノマー、カルボキシル基を有する単官能のラジカル重合性モノマー、複素環式基を有する単官能のラジカル重合性モノマーから選択された1種又は2種以上のモノマーである硬化性組成物などが挙げられる。
【0023】
<ポリマー>
本発明の微細構造体の製造方法で使用される光硬化性組成物は、さらに、1種又は2種以上の単官能のラジカル重合性モノマーを重合して得られるポリマーであって、且つガラス転移点が25℃以上(例えば、25〜220℃)、特に40℃以上(例えば、40〜220℃)のポリマーを含有していてもよい。このようなポリマーを含有することにより、組成物の塗布性が向上する。また、これらのラジカル重合性モノマーを重合して得られるポリマーのガラス転移転温度が、室温(25℃)以上となる組合せで用いることにより、十分な硬化性及びモールド剥離性を持ち、優れた転写性を示し且必要に応じて溶解除去可能な光硬化性組成物及びその硬化物を作製する事が可能となった。
【0024】
上記のポリマーの単量体である単官能のラジカル重合性モノマーとしては、前記に例示したものを使用できる。
【0025】
前記ポリマーの含有量は、前記単官能のラジカル重合性モノマーと前記ポリマーの合計量に対して、通常0〜60重量%(例えば3〜60重量%)、好ましくは0〜50重量%(例えば3〜50重量%)、さらに好ましくは0〜40重量%(例えば5〜40重量%)程度である。
【0026】
<溶剤>
本発明の微細構造体の製造方法で使用される光硬化性組成物が溶解可能な溶剤としては、例えば、ケトン系溶剤、グリコールエーテルなどのエーテル系溶剤、酢酸エステルなどのエステル系溶剤、アルコール系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、及び石油系溶剤などの溶剤が挙げられる。
【0027】
具体的な溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル等のエーテル類;セロソルブ、メチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの酢酸エステル類;エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類;オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のエステル類;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサなどの石油系溶剤等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のエステル系溶媒が好ましい。
【0028】
<ラジカル重合開始剤>
本発明の微細構造体の製造方法で使用される光硬化性組成物は、ラジカル重合開始剤として、例えば感放射線性ラジカル重合開始剤を含んでいてもよい。感放射線性ラジカル重合開始剤としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾイン・ベンゾインアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オンなどのアセトフェノン類;2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン、2−アミルアントラキノンなどのアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−イソプロピルチオキサントンなどのチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどのケタール類;ベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;キサントン類;1,7−ビス(9−アクリジニル)ヘプタンなどの公知慣用の感放射線性ラジカル重合開始剤を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
また、これらの感放射線性ラジカル重合開始剤は、N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、ペンチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、トリエチルアミン、トリエタノールアミンなどの三級アミン類のような公知慣用の光増感剤の1種あるいは2種以上と組み合わせて用いることができる。
【0030】
たとえば市販されている感放射線性ラジカル重合開始剤の例としてはCiba社から入手可能なIrgacure(登録商標)907(2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン)、Irgacure(登録商標)184(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)、Irgacure(登録商標)500(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾフェノン)、およびIrgacure(登録商標)タイプのその他の光開始剤;Darocur(登録商標)1173、1116、1398、1174および1020(Merck社から入手可能)等が挙げられる。熱開始剤としては、とりわけジアシルペルオキシド類、ペルオキシジカーボネート類、アルキルペルエステル類、ジアルキルペルオキシド類、ペルケタール類、ケトンペルオキシド類およびアルキルヒドロペルオキシドの形態の有機過酸化物である。こうした熱開始剤の具体例は、ジベンゾイルペルオキシド、過安息香酸t−ブチルおよびアゾビスイソブチロニトリルである。
【0031】
<界面活性剤>
本発明の微細構造体の製造方法で使用される光硬化性組成物は、フッ素又はシリコーン系界面活性剤を含んでいてもよい。フッ素系界面活性剤はモールド離型性向上に有効であり、特に好ましい。フッ素系界面活性剤(含フッ素界面活性剤)としては、アニオン性含フッ素界面活性剤、カチオン性含フッ素界面活性剤、両性含フッ素界面活性剤、又はノニオン性含フッ素界面活性剤が好ましい。含フッ素界面活性剤は、疎水性、水溶性何れも使用可能である。例えば、アニオン性含フッ素界面活性剤としては、サーフロンS−111(セイミケミカル社製)、フロラーFC−143(3M社製)、メガファックF−114(大日本インキ工業社製)などが挙げられる。カチオン性含フッ素界面活性剤としては、サーフロンS−121(セイミケミカル社製)、フロラーFC−134(3M社製)、メガファックF−150(大日本インキ工業社製)などが挙げられる。両性含フッ素界面活性剤としては、サーフロンS−132(セイミケミカル社製)、フロラーFX−172(3M社製)、メガファックF−120(大日本インキ工業社製)などが挙げられる。ノニオン性含フッ素界面活性剤としては、サーフロンS−145、S−393、KH−20、KH−40(セイミケミカル社製)、フロラードFC−170、FC−430(3M社製)、メガファックF−141(大日本インキ工業社製)などが挙げられる。シリコーン系界面活性剤としては、公知のものを使用できる。
【0032】
<その他の添加物>
本発明の微細構造体の製造方法で使用される光硬化性組成物は、必要に応じて、前記以外の樹脂(バインダー樹脂)、モノマー、オリゴマー、増感剤、ナノスケール粒子などを含んでいてもよい。
【0033】
<微細構造体の製造工程>
本発明の微細構造体の製造方法では、上記溶剤に溶解可能な光硬化性組成物を使用し、リフトオフ法により、光硬化性組成物に加工を施して微細構造体を得る。例えば、本発明の微細構造体の製造方法は、支持体上に形成された前記光硬化性組成物からなる層にパターンを有するモールドを押し当て露光・硬化して樹脂層を形成する露光・硬化工程(A)と、該露光・硬化工程後、該樹脂層からモールドを剥離するモールド剥離工程(B)と、該モールド剥離工程後、該樹脂層にドライエッチング及び/又はウエットエッチングすることによりパターンを作成するエッチング工程(C)と、該エッチング工程により作成されたパターンを有する該樹脂層に無機化合物又は有機化合物を蒸着する蒸着工程(D)と、該蒸着工程後、溶剤で該樹脂層を取り去ることで支持体上に該無機化合物又は有機化合物のパターンが形成された微細構造体を作製する樹脂取り去り工程(G)とを含んでいる。
【0034】
前記蒸着工程(D)において、CVD法により前記無機化合物又は有機化合物を蒸着させることが好ましい。樹脂層の側壁部分(側壁部)に金属等が蒸着した工程(E)を経由する場合には、側壁部分に蒸着した金属等の蒸着物の為、樹脂溶解が著しく阻害され所望のパターン形状を得られない事がある。特に、樹脂層からなるパターン形状がテーパーを有する台形である場合には、側壁部分への蒸着が顕著に観察される。そこで、前記蒸着工程後、加熱処理及び/又はUV照射する事により、パターンを有する樹脂層の線膨張及び/又は硬化収縮を行い、前記無機化合物又は有機化合物の蒸着面に亀裂及び/又はシワを生じさせ、溶解現像性を促進する加熱処理・UV照射工程(F)を行うことが好ましい。
【0035】
微細構造体の製造方法の一例の概略を図1に示す。図1において、(A)は露光・硬化工程、(B)はモールド剥離工程、(C)はエッチング工程、(D)及び(E)は蒸着工程、(F)は加熱処理・UV照射工程、(G)は樹脂取り去り工程、1は支持体(基板)、2は光硬化性組成物及び/またはその硬化物からなる層(被膜)、3はモールド、4は蒸着膜、4’は蒸着膜4のうち樹脂層の側壁部分への蒸着膜、5は亀裂である。加熱処理・UV照射工程(F)は必要に応じて使用する事ができる。
【0036】
露光・硬化工程(A)では、支持体上1に形成された光硬化性組成物からなる層2にパターンを有するモールド3を押し当て露光・硬化する。より詳細には、例えば、(A1)上記本発明の微細構造体の製造方法で使用される光硬化性組成物からなる被膜2を支持体1上に形成する工程、(A2)前記被膜2にパターンを有するモールド3をプレスしてパターンを転写する工程、(A3)パターンが転写された被膜2を露光・硬化させる工程を含んでいる。
【0037】
工程(A1)において、光硬化性組成物を塗布する支持体としては、たとえばガラス、シリカガラス、フィルム、プラスチック、またはシリコンウエハ等を用いることができる。これらの支持体は、表面に接着促進被膜が形成されていてもよい。前記接着促進被膜は、支持体に対して光硬化性組成物の十分なぬれを確保する有機重合体で形成することができる。このような接着促進被膜を形成する有機重合体としては、例えばノボラック類、スチレン類、(ポリ)ヒドロキシスチレン類および/または(メタ)アクリレート類を含有する芳香族化合物含有重合体または共重合体等が挙げられる。接着促進被膜は、上記有機重合体を含む溶液をスピンコーティングなどの公知の方法で支持体上に塗布することにより形成できる。
【0038】
光硬化性組成物はそれ自体で、あるいは有機溶媒の溶液として塗布することができる。前記有機溶媒は、組成物を希釈することによりペースト化し、容易に塗布工程を可能とし、次いで乾燥させて造膜し、接触露光を可能とするために用いられる。このような有機溶媒としては、具体的には、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類;セロソルブ、メチルセロソルブ、カルビトール、メチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの酢酸エステル類;エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類;オクタン、デカンなどの脂肪族炭化水素;石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサなどの石油系溶剤等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
工程(A1)において、光硬化性組成物からなる層(被膜)は、硬化性組成物を支持体上に、たとえばスピンコーティング、スリットコーティング、スプレーコーティング、またはローラーコーティングなどの公知の方法で塗布することにより形成できる。被膜(塗布時の硬化性組成物)の粘度は、好ましくは1mPa・s〜10Pa・s、好ましくは1mPa・s〜1000mPa・s程度である。上記方法で形成される光硬化性組成物の被膜(硬化前の被膜)の厚みは、例えば0.01〜1μm、好ましくは0.01〜0.5μm程度である。被膜形成後、50〜120℃程度の温度で30秒〜20分程度プレベイクしてもよい。
【0040】
工程(A2)に用いるパターンを有するモールドとしては、例えば、インプリントスタンプ(ナノスタンパ)であって、表面に凹凸からなる転写パターンが形成されたナノインプリント用転写スタンプを使用できる。具体的には、シリコーン、ガラス、及びシリカガラス等を素材とするスタンパを用いることができる。なかでも、シリコーンゴムスタンパによれば、パターン転写後の樹脂離れが良好である点で有利である。また、本発明におけるインプリントスタンプとして、微細パターンが形成された金型を用いることも可能である。
【0041】
工程(A2)におけるパターンの転写では、転写スタンプを被膜上に置いた後に、転写スタンプを室温(約25℃)にて、0.01秒〜5分、好ましくは0.1秒〜120秒、特に0.1〜60秒程度の持続時間、10kPa〜100MPaの圧力下でプレスする。パターン転写後の被膜の厚みは、例えば50nm〜10μm、好ましくは150〜1000nm程度である。
【0042】
工程(A3)において、転写スタンプが被膜上に静止している間に、熱硬化および/またはUV硬化を実施する。UV透過性転写スタンプの場合は、UV線による硬化が好ましい。約80〜150℃に約1〜10分間の加熱、および/または0.01秒〜120秒のUV照射後、被膜を硬化させる。UV照射時間は、好ましくは0.01秒〜60秒、より好ましくは0.01秒〜30秒とすることができる。
【0043】
モールド剥離工程(B)では、上記露光・硬化工程後、該光硬化性組成物を硬化させた被膜(樹脂層)2からモールド3を剥離し、微細パターンが形成された微細構造化構成物を得る。
【0044】
この微細構造化構成物を走査電子顕微鏡を用いて調査すると、標的基板上にインプリントされた微細構造だけでなく、30nm未満の厚さを有する被膜の構造化されていない残留層が残っていることがわかる。 次のマイクロエレクトロニクス中への使用では、急峻な壁面傾斜および高い縦横比(アスペクト比)を達成するために、残留層を取り除く必要が有る。このため、さらに工程(C)として、硬化被膜にエッチングを施す工程を設ける。
【0045】
エッチング工程(C)では、上記モールド剥離工程後、該光硬化性組成物からなる樹脂層2にドライエッチング及び/又はウエットエッチングすることによりパターンを作成する。エッチング工程(C)において、硬化被膜(残留層)のエッチングは、例えば酸素プラズマ又はCHF3/O2ガス混合物により行うことができる(ドライエッチング)。また、テトラヒドロフラン等の有機溶剤及び/又はアルカリ現像液によりウェットエッチングすることもできる。本発明によれば、硬化被膜が溶剤に溶解可能であるため、ウェットエッチングが容易である。溶剤としては、前記例示のものが使用できる。
【0046】
蒸着工程(D)では、エッチング工程により作成されたパターンを有する樹脂層2に無機化合物又は有機化合物を蒸着する。蒸着は、化学気相析出法(CVD法)が好ましく用いられる。蒸着する無機化合物又は有機化合物としては、例えば、クロム、金、銀、銅、アルミニウム、TiC、TiN、TiB2、WC、SiC、BN、Al23、ITOなどの金属又は金属酸化物、ペンタセン等の上記溶剤には不溶の有機半導体用の有機物が挙げられる。蒸着膜の厚さは、例えば、2nm〜1μmとすることができる。図1において、蒸着工程(D)では、蒸着態様の一例としてパターン側壁に蒸着膜がない状態を示したが、蒸着条件によってはパターン側壁に蒸着される場合がある[蒸着工程(E)]。パターン形状がテーパーを有する台形である場合には、特に顕著に観察されやすい。
【0047】
加熱処理・UV照射工程(F)では、蒸着工程後、蒸着条件によってパターン側壁に蒸着された場合、側壁部分に蒸着した金属等の為、樹脂溶解が著しく阻害され所望のパターン形状を得られない事がある。そのため、パターンを有する樹脂層2に加熱処理をする事により、パターンを有する樹脂層2を図中の白抜き矢印で示すように線膨張させ、前記無機化合物又は有機化合物の蒸着面に亀裂5を生じさせることができる。また、加熱処理・UV照射工程(F)では、蒸着工程後、パターンを有する樹脂層2にUV照射する事により、パターンを有する樹脂層2を硬化収縮させ、前記無機化合物又は有機化合物の蒸着面にシワを生じさせてもよい。加熱処理・UV照射工程(F)により、前記無機化合物又は有機化合物の蒸着面に亀裂および/またはシワを生じさせることで樹脂層の溶解現像性が促進され、後の樹脂取り去り工程での樹脂層の除去をよりスムーズに行うことができる。加熱処理、UV照射は、両方行ってもよく、片方だけ行っても良い。加熱処理・UV照射工程(F)での加熱処理、UV照射は、前記工程(A3)と同様の条件とすることができる。
【0048】
樹脂取り去り工程(G)では、蒸着工程後、溶剤で該樹脂層を取り去ることにより支持体1上に該無機化合物又は有機化合物が蒸着された微細構造体を作製する。溶剤としては前記例示のものが使用でき、なかでも、シクロヘキサノンなどのケトン類が好ましい。
【0049】
(微細構造体)
本発明の微細構造体の製造方法により得られる微細構造体は、転写性、モールド剥離性に優れ、しかも溶剤溶解性に優れた光硬化性組成物を使用しているため、レジスト膜除去、蒸着膜転写に優れた微細なパターンを有している。
【0050】
(ハードディスク、グレーティング、半導体材料、MEMS作成用材料、ホログラム、導波路、プラズモンデバイス、偏光板又は偏光フィルム)
本発明の微細構造体からなるハードディスク、グレーティング、半導体材料、MEMS作成用材料、ホログラム、導波路、プラズモンデバイス、及び、偏光板又は偏光フィルムは、転写性、モールド剥離性に優れ、しかも溶剤溶解性に優れた光硬化性組成物を使用して製造した微細構造体からなるため、レジスト膜除去、蒸着膜転写に優れた微細なパターンを有している。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0052】
製造例1[ポリマー(A−1)の合成]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素導入管を備えた1Lのセパラブルフラスコに、シクロへキサノン125gを導入し、95℃に昇温後、ジシクロペンタニルメタクリレート(前記式(1)においてR41が−CH3の化合物;日立化成工業社製、「FA−513M」)150g及び2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(日本ヒドラジン工業社製、「ABN−E」)6g、シクロへキサノン212gを共に3時間かけて滴下した。滴下後4時間熟成して目的のポリマー(A−1)を得た。得られたポリマーのTgは175℃であった。
【0053】
製造例2[ポリマー(A−2)の合成]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素導入管を備えた1Lのセパラブルフラスコに、シクロへキサノン125gを導入し、95℃に昇温後、ジシクロペンタニルアクリレート(前記式(1)においてR41が−Hの化合物;日立化成工業社製、「FA−513A」)150g及び2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(日本ヒドラジン工業社製、「ABN−E」4g、シクロへキサノン212gを共に3時間かけて滴下した。滴下後4時間熟成して目的のポリマー(A−2)を得た。得られたポリマーのTgは120℃であった。
【0054】
製造例3[ポリマー(A−3)の合成]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下ロート及び窒素導入管を備えた1Lのセパラブルフラスコに、シクロへキサノン125gを導入し、95℃に昇温後、ブチルアクリレート(和光純薬社製)150g及び2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(日本ヒドラジン工業社製、「ABN−E」4g、シクロへキサノン212gを共に3時間かけて滴下した。滴下後4時間熟成して目的のポリマー(A−3)を得た。得られたポリマーのTgは120℃であった。
【0055】
実施例1〜18、比較例1〜4
1)光硬化性組成物調製
表1に記載した種類及び量(重量部)の樹脂、モノマー、開始剤を混合した後、0.05ミクロンメッシュのフィルターを通して液調整を行った。また、必要に応じて固形分が50重量%となるように溶剤(シクロヘキサノン)を入れ光硬化性組成物を調製した。
【0056】
2)塗膜調製
上記で調製した光硬化性組成物を基材(シリコンウエハ)上にスピンコートした後、90℃で1分間プレベイクし、膜厚300nmの塗膜を作製した。
【0057】
3)微細構造の標的基板上への転写
インプリンティング装置はコンピュータで制御された試験器(明昌機工社製NM−0403モデル)であり、これは装荷、緩和速度、加熱温度等をプログラムすることで規定された圧力を特定の時間維持することが可能である。また、付帯する高圧水銀燈による、UV放射線により光化学的に硬化が開始される。
具体的には、ステージの上に上記方法で調製した光硬化性組成物を塗布したシリコンウエハを載せ、ついで600nmのライン&スペース及び500nmのナノピラー構造を有する石英製のモールドを載せた後、表1に示す所定の圧力まで30秒かけて転写圧を高め、転写圧を維持したまま石英モールド側から表1に示す条件でUV照射を行い、光硬化性組成物を硬化させ、インプリントパターンを形成した。なお、プレス時間は、プレスを行い残膜が十分薄くなるまでモールドを押し付け、その後圧をかけたままUV露光を行うため、表1ではこれらの合計時間を示した。
【0058】
4)残膜処理
残膜処理は、アルバック社製NE−550を用いて、バイアス電力 600w、アルゴン/酸素(90/10)ガスを90/10sccmでレート流し、プラズマエッチングによリ、残膜除去を行った。
【0059】
5)Crコート(Cr蒸着)
電子ビーム蒸着機に電圧5KeVかけ、5分間でCrを500nm厚になるようにCVD法を用いてインプリントパターン上にコーティング(蒸着)した。
【0060】
6)レジスト除去
Crコートしたインプリントパターンにシクロヘキサノンを吹きつけインプリントパターンと同時に樹脂上のCrの除去を行い、残ったCrのパターンの形状からリフトオフによるパターン形成を確認した。
【0061】
評価方法:
1)インプリントパターン
光硬化後の転写パターンの確認を行った。
○:矩形の取れたパターン形成。
×:硬化塗膜が液状でパターン形状維持不可能。
【0062】
2)レジスト膜除去
シクロヘキサンノン中に浸漬し、レジスト除去の確認を行った。
○:1分以内にレジストが完全に除去できた。
×:殆どレジストが除去できなかった。
【0063】
3)Cr転写性
○:モールドパターン通りのCr形成が確認できた。
×:Cr転写が確認できなかった。
【0064】
実施例19
表1に示す実施例4の組成を用いてCrコートを行った基板を100℃×5分間加熱処置を行った後、シクロヘキサノンを吹きつけインプリントパターンと同時に樹脂上のCrの除去を行った。その結果、樹脂及び樹脂上のCrの除去時間が従来の1分程度から20秒に短縮され、加熱処理によりリフトオフプロセスのスループット向上が見込める事が判った。
【0065】
実施例20
実施例19と同様に表1に示す実施例4の組成を用いてCrコートを行った基板に更に2000mJ/cm2のUV露光を行った後、シクロヘキサノンを吹きつけインプリントパターンと同時に樹脂上のCrの除去を行った。その結果、樹脂及び樹脂上のCrの除去時間が従来の1分程度から30秒程度に短縮され、UV露光処理によりリフトオフプロセスのスループット向上が見込める事が判った。
【0066】
【表1】

【0067】
表1で用いたポリマー、モノマー及び開始剤を以下に示す。
1)ナノインプリント組成物
(1)ポリマー
A−1:製造例1で得られたポリマー
A−2:製造例2で得られたポリマー
A−3:製造例3で得られたポリマー
(2)モノマー
B−1:FA−513M(日立化成品製、ジシクロペンタニルメタクリレート;前記式(1)においてR41が−CH3の化合物)
B−2:FA−513A(日立化成品製、ジシクロペンタニルアクリレート;前記式(1)においてR41が−Hの化合物)
B−3:FA−512A(日立化成品製、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート;前記式(3)においてR43が−Hの化合物)
B−4:FA−512M(日立化成品製、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート;前記式(3)においてR43が−CH3の化合物)
B−5:IBOA(ダイセルサイテック社製、イソボロニルアクリレート)
B−6:HAD(ダイセル化学工業社製)ヒドロキシアダマンチルアクリレート)
B−7:St(和光純薬製、スチレン)
B−8:2−VNA(新日鐵化学社製、2−ビニルナフタレン)
B−9:MMA(和光純薬製、メチルメタクリレート)
B−10:EA(和光純薬製、エチルアクリレート)
B−11:BA(和光純薬製、ブチルアクリレート)
B−12:PETIA(ダイセルサイテック社製、ペンタエリスリトールトリアクリレート)
B−13:TMPTA(ダイセルサイテック社製、トリメチロールプロパントリアクリレート)
(3)開始剤
C−1:チバスペシャルティケミカルズ社製、「Irgacure907」
【符号の説明】
【0068】
1 支持体
2 光硬化性組成物及び/またはその硬化物からなる層
3 モールド
4 蒸着膜
4’ 蒸着膜4のうち樹脂層の側壁部分への蒸着膜
5 亀裂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性モノマーを含み、前記重合性モノマーのうち90重量%以上が1種又は2種以上の単官能のラジカル重合性モノマーであり、前記1種又は2種以上の単官能のラジカル重合性モノマーの重合物のガラス転移点が25℃以上であり、且つ硬化物が溶剤に溶解可能な光硬化性組成物を使用して、リフトオフ法により微細構造体を作製することを特徴とする微細構造体の製造方法。
【請求項2】
前記単官能のラジカル重合性モノマーが、(メタ)アクリル酸エステル化合物、スチレン系化合物、及びビニルエーテル化合物から選択された少なくとも1種の化合物である、請求項1記載の微細構造体の製造方法。
【請求項3】
前記単官能のラジカル重合性モノマーとして、分子内に環状構造を有するラジカル重合性モノマーを少なくとも用いる、請求項1又は2記載の微細構造体の製造方法。
【請求項4】
前記分子内に環状構造を有するラジカル重合性モノマーが、下記式(I)
【化1】

[式(I)中、R1は−H,又は−CH3;R2は下記式(Ia)〜(Ic)
【化2】

{式(Ia)中、R3は、−(C24x−,−(C24O)x−,−(CH2CH(CH3)O)x−,−C(CH32−,又は−C(CH3)(C25)−;xは0〜5の整数;R4〜R8は、同一または異なって、−(CH2)−,−(C(CH32)−,又は−O−;R10〜Rl2は、同一または異なって、水素原子またはCl〜5の炭化水素基;a1〜a6は、それぞれ0〜3の整数;rは0〜5の整数;a5が0の場合、R8−R9の結合は2重結合でも良い。また、a5及びa6が共に1の場合、R7−R8の結合は2重結合でも良い;R9は、a4が1〜3の時はC−R13、a4が0の時は、−(CH2)−,−(C(CH32)−,又は−O−;R13は水素原子またはCl〜5の炭化水素基を示す。また、式(Ib)中、R16は、−(C24y−,−(C24O)y−,−(CH2CH(CH3)O)y−,−C(CH32−,又は−C(CH3)(C25)−;yは0〜5の整数;Rl7〜R19は、同一または異なって、−H,−OH,−COOH,又はCl〜5の炭化水素基を示す。また、式(Ic)中、R20〜R26は、同一または異なって、−H,−OH,−COOH,又はC1〜5の炭化水素基;sは0〜5の整数を示す}
で表される基を示す]
で表される化合物又は下記式(II)
【化3】

[式(II)中、R30〜R36は、同一または異なって、−H,−OH,−COOH,又はCl〜5の炭化水素基;tは0〜5の整数を示す]
で表される化合物である、請求項1〜3の何れかの項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項5】
前記分子内に環状構造を有するラジカル重合性モノマーが、下記式(1)〜(3)で表される化合物から選択された少なくとも1つの化合物である、請求項4に記載の微細構造体の製造方法。
【化4】

[式(1)〜(3)中、R41〜R43は、同一または異なって、−Hまたは−CH3を示す]
【請求項6】
前記溶剤が、ケトン、エーテル、エステル、アルコール、脂肪族炭化水素、及び芳香族炭化水素から選択された少なくとも1種の溶剤である、請求項1〜5の何れかの項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項7】
支持体上に形成された前記光硬化性組成物からなる層にパターンを有するモールドを押し当て露光・硬化して樹脂層を形成する露光・硬化工程(A)と、該露光・硬化工程後、該樹脂層からモールドを剥離するモールド剥離工程(B)と、該モールド剥離工程後、該樹脂層にドライエッチング及び/又はウエットエッチングすることによりパターンを作成するエッチング工程(C)と、該エッチング工程により作成されたパターンを有する該樹脂層に無機化合物又は有機化合物を蒸着する蒸着工程(D)と、該蒸着工程後、溶剤で該樹脂層を取り去ることで支持体上に該無機化合物又は有機化合物のパターンが形成された微細構造体を作製する樹脂取り去り工程(G)とを有する、請求項1〜6の何れかの項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項8】
前記蒸着工程(D)において、CVD法により前記無機化合物又は有機化合物を蒸着させ、樹脂層の側壁部に前記無機化合物又は有機化合物が蒸着された蒸着工程(E)となった場合には、前記蒸着工程後、加熱処理及び/又はUV照射する事により、パターンを有する樹脂層の線膨張及び/又は硬化収縮を行い、前記無機化合物又は有機化合物の蒸着面に亀裂及び/又はシワを生じさせ、溶解現像性を促進する加熱処理・UV照射工程(F)をさらに含む、請求項7記載の微細構造体の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8記載の何れかの項に記載の製造方法により得られる微細構造体。
【請求項10】
請求項9記載の微細構造体からなるハードディスク。
【請求項11】
請求項9記載の微細構造体からなるグレーティング。
【請求項12】
請求項9記載の微細構造体からなる半導体材料。
【請求項13】
請求項9記載の微細構造体からなるMEMS作成用材料。
【請求項14】
請求項9記載の微細構造体からなるホログラム。
【請求項15】
請求項9記載の微細構造体からなる導波路。
【請求項16】
請求項9記載の微細構造体からなるプラズモンデバイス。
【請求項17】
請求項9記載の微細構造体からなる偏光板又は偏光フィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2011−181704(P2011−181704A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44779(P2010−44779)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】