説明

溶加材の製造方法及び溶加材

【課題】脱脂工程又は焼結工程の実施中に押し出し成形体にクラックが発生し易かったり押し出し成形体が分断され易かったりするという問題をはじめとする6つの問題をすべて解決することが可能な溶加材の製造方法を提供する。
【解決手段】第1の平均粒径を有する第1の合金粉末及び第2の平均粒径を有する第2の合金粉末を含む合金粉末と、水溶性のバインダー及び水とを混練してコンパウンドを作製するコンパウンド作製工程S2と、乾燥工程S4と、押し出し工程S6と、押し出し成形体を400℃以上の所定温度にまで加熱する脱脂工程S8と、押し出し成形体を、真空雰囲気の下、950℃〜1150℃の範囲内にある所定温度にまで加熱するC−O反応工程S10と、押し出し成形体を、窒素ガス雰囲気の下、1200℃〜1350℃の範囲内にある所定温度にまで加熱して溶加材とする焼結工程S12とをこの順序で含む溶加材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶加材の製造方法及び溶加材に関する。
【背景技術】
【0002】
溶加材のうち棒状の溶加材(以下、溶加棒という。)として、従来から、Co基合金、Ni基合金、Fe基合金などの難加工材料からなる溶加棒が知られている。このうち、Co基合金としては、例えばステライト(ステライトはデロロ・ステライト・ホールディングス・コーポレーションの登録商標)が知られており、Ni基合金としては、例えばコルモノイ(COLMONOYはウオ−ル・コルモノイコーポレーシヨンの登録商標)、インコネル(INCONELはハンティントン・アロイズ・カナダ・リミテッドの登録商標))などが知られており、Fe基合金としては、例えばJIS D410などのステンレス鋼が知られている。従来、このような難加工材料からなる溶加棒を製造する方法として、押し出し法による溶加棒の製造方法が知られている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【0003】
このうち、特許文献1に記載の溶加棒の製造方法は、難加工材料からなる合金粉末(ステライトNo.6の球状合金粉末)とポリブテン結合剤(熱可塑性樹脂)からなるバインダーとを混練してコンパウンドを作製するコンパウンド作製工程と、コンパウンドを130℃の温度において成形ノズルから押し出して押し出し成形体を作製する押し出し工程と、押し出し工程で作製された押し出し成形体を加熱して押し出し成形体からバインダー成分を除去する脱脂工程(脱脂温度:450℃〜550℃)と、脱脂工程でバインダー成分が除去された押し出し成形体を真空雰囲気(5×10−4Torr)の下にて加熱して溶加棒とする焼結工程(焼結温度:1280℃)とをこの順序で実施するというものである(特許文献1の実施例参照。)。
【0004】
また、特許文献2に記載の溶加棒の製造方法は、難加工材料からなる合金粉末(ステライトNo.6合金のアトマイズ粉末)と、メチルセルロース系バインダーからなるバインダー及び水とを混練してコンパウンドを作製するコンパウンド作製工程と、コンパウンドを成形ノズルから押し出して押し出し成形体を作製する押し出し工程と、押し出し工程で作製された押し出し成形体を加熱して押し出し成形体からバインダー成分を除去する脱脂工程(脱脂温度:200℃)と、脱脂工程でバインダーが除去された押し出し成形体を加熱して溶加棒とする焼結工程(焼結温度:1250℃)とをこの順序で実施するというものである(特許文献2の実施例参照。)。
【0005】
特許文献1に記載の溶加棒の製造方法又は特許文献2に記載の溶加棒の製造方法によれば、上記したように、押し出し法によって溶加棒を製造しているため、難加工材料からなる長尺の溶加棒を製造することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−232904号公報
【特許文献2】特開2001−294906号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の溶加棒の製造方法においては、ポリブテン結合剤(熱可塑性樹脂)からなるバインダーを用いているため、脱脂工程においては非常に柔らかい状態で押し出し成形体が収縮することとなる。また、特許文献1に記載の溶加棒の製造方法においては、合金粉末として比較的大きな粒径(平均粒径:25μm)を有する球状合金粉末を用いているため、各合金粉末間に存在する空間が比較的大きく、脱脂工程〜焼結工程の実施中に押し出し成形体が比較的大きく収縮する。このため、特許文献1に記載の溶加棒の製造方法においては、「(a)脱脂工程〜焼結工程の実施中に押し出し成形体にクラックが発生し易かったり押し出し成形体が分断され(千切れ)易かったりするという問題」及び「(b)脱脂工程〜焼結工程の実施中に真直度や真円度が劣化し易いという問題」がある。
【0008】
また、特許文献1に記載の溶加棒の製造方法においては、上記したように、合金粉末として比較的大きな粒径(平均粒径:25μm)を有する球状合金粉末を用いているため、各合金粉末間に存在する空間が比較的大きい。このため、特許文献1に記載の溶加棒の製造方法においては、焼結工程で合金粉末を十分に焼結することが容易ではないため、「(c)溶加棒の焼結密度を正確に制御することが困難であるという問題」及び「(d)溶加棒を溶接作業に使用する際ビード内部にピンホールが発生し易いという問題」がある。
【0009】
また、特許文献1に記載の溶加棒の製造方法においては、上記したように、ポリブテン結合剤(熱可塑性樹脂)からなるバインダーを用いているため、適度の粘性を有するコンパウンドを作製するためには比較的多量のバインダーを用いる必要がある。このため、脱脂工程中にバインダー成分を十分に除去することが容易ではないため、溶加棒中にバインダー由来の炭素が残存し易くなる。その結果、特許文献1に記載の溶加棒の製造方法においては、「(e)溶加棒中の炭素含有量を正確に制御することが困難であるという問題」がある。
【0010】
また、特許文献1に記載の溶加棒の製造方法においては、焼結工程を真空雰囲気の下にて実施しているため、焼結工程中に合金成分からCrが少量ながらも蒸散し、「(f)溶加棒中のCr含有量を正確に制御することが困難であるという問題」がある。
【0011】
一方、特許文献2に記載の溶加棒の製造方法においては、合金粉末として比較的大きな粒径(例えば、平均粒径:80μm以下。特許文献2の[0019]段落参照。)を有するアトマイズ合金粉末を用いているため、各合金粉末間に存在する空間が比較的大きく、脱脂工程〜焼結工程の実施中に押し出し成形体が比較的大きく収縮する。このため、特許文献2に記載の溶加棒の製造方法においても、特許文献1に記載の溶加棒の製造方法の場合と同様に、「(a)脱脂工程〜焼結工程の実施中に押し出し成形体にクラックが発生し易かったり押し出し成形体が分断され易かったりするという問題」及び「(b)脱脂工程〜焼結工程の実施中に真直度や真円度が劣化し易いという問題」がある。
【0012】
また、特許文献2に記載の溶加棒の製造方法においては、上記したように、合金粉末として比較的大きな粒径(例えば、平均粒径:80μm以下。)を有するアトマイズ合金粉末を用いているため、各合金粉末間に存在する空間が比較的大きい。このため、特許文献2に記載の溶加棒の製造方法においても、特許文献1に記載の溶加棒の製造方法の場合と同様に、焼結工程で合金粉末を十分に焼結することが容易ではないため、「(c)溶加棒の焼結密度を正確に制御することが困難であるという問題」及び「(d)溶加棒を溶接作業に使用する際ビード内部にピンホールが発生し易いという問題」がある。
【0013】
また、特許文献2に記載の溶加棒の製造方法においては、脱脂工程を200℃という比較的低温で実施している。このため、脱脂工程中にバインダー成分を十分に除去することが困難となるため、溶加棒中にバインダー由来の炭素が残存し易くなる。その結果、特許文献2に記載の溶加棒の製造方法においても、特許文献1に記載の溶加棒の製造方法の場合と同様に、「(e)溶加棒中の炭素含有量を正確に制御することが困難であるという問題」がある。
【0014】
なお、特許文献2に記載の溶加棒の製造方法においては、実施例中に焼結工程をどのような雰囲気の下にて実施しているのかは明示されていない。しかしながら、特許文献2の[0031]段落を参照すれば、特許文献2に記載の溶加棒の製造方法においても、焼結工程を真空雰囲気の下にて実施していることが想定され、だとすれば、特許文献2に記載の溶加棒の製造方法においても、特許文献1に記載の溶加棒の製造方法の場合と同様に、焼結工程中に合金成分からCrが少量ながらも蒸散し、「(f)溶加棒中のCr含有量を正確に制御することが困難であるという問題」がある。
【0015】
すなわち、特許文献1に記載の溶加棒の製造方法及び特許文献2に記載の溶加棒の製造方法のいずれの方法においても、「(a)脱脂工程〜焼結工程の実施中に押し出し成形体にクラックが発生し易かったり押し出し成形体が分断され易かったりするという問題」、「(b)脱脂工程〜焼結工程の実施中に真直度や真円度が劣化し易いという問題」、「(c)溶加棒の焼結密度を正確に制御することが困難であるという問題」、「(d)溶加棒を溶接作業に使用する際ビード内部にピンホールが発生し易いという問題」、「(e)溶加棒中の炭素含有量を正確に制御することが困難であるという問題」及び「(f)溶加棒中のCr含有量を正確に制御することが困難であるという問題」の6つの問題がある。なお、これら6つの問題はいずれも、溶加棒を製造したり使用したりする上で極めて重要かつ切実な問題であり、本発明者は、これら6つの問題がすべて解決されることによってはじめて、押し出し法による溶加棒の製造方法が溶加棒の市場で受け入れられる製造方法となると考えている。
【0016】
なお、このような事情は、溶加棒の製造方法の場合だけに存在する事情ではなく、管状の溶加材を含めた溶加材の製造方法全般にわたって存在する。
【0017】
そこで、本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたもので、「(a)脱脂工程〜焼結工程の実施中に押し出し成形体にクラックが発生し易かったり押し出し成形体が分断され易かったりするという問題」、「(b)脱脂工程〜焼結工程の実施中に真直度や真円度が劣化し易いという問題」、「(c)溶加材の焼結密度を正確に制御することが困難であるという問題」、「(d)溶加材を溶接作業に使用する際ビード内部にピンホールが発生し易いという問題」、「(e)溶加材中の炭素含有量を正確に制御することが困難であるという問題」及び「(f)溶加材中のCr含有量を正確に制御することが困難であるという問題」の6つの問題をすべて解決することが可能な溶加材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
[1]本発明の溶加材の製造方法は、第1の平均粒径を有する第1の合金粉末及び前記第1の平均粒径よりも小さい第2の平均粒径を有する第2の合金粉末を含む合金粉末と、水溶性のバインダー及び水とを混練してコンパウンドを作製するコンパウンド作製工程と、前記コンパウンド作製工程で作製された前記コンパウンドを成形ノズルから押し出して押し出し成形体を作製する押し出し工程と、前記押し出し工程で作製された前記押し出し成形体を、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気又は減圧雰囲気の下、400℃以上の所定温度にまで加熱することにより、前記押し出し成形体から前記バインダー成分を除去する脱脂工程と、前記脱脂工程で前記バインダー成分が除去された前記押し出し成形体を、真空雰囲気の下、950℃〜1150℃の範囲内にある所定温度にまで加熱することにより、前記合金粉末の表面及び内部に存在する酸素及びバインダー由来の炭素を反応させて除去するC−O反応工程と、前記C−O反応工程で前記合金粉末の表面及び内部に存在する酸素及びバインダー由来の炭素が除去された前記押し出し成形体を、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気又は不活性ガス及び還元性ガスの混合ガス雰囲気の下、1200℃〜1350℃の範囲内にある所定温度にまで加熱して溶加材とする焼結工程とをこの順序で含むことを特徴とする。
【0019】
本発明の溶加材の製造方法によれば、「(a)脱脂工程〜焼結工程の実施中に押し出し成形体にクラックが発生し易かったり押し出し成形体が分断され易かったりするという問題」、「(b)脱脂工程〜焼結工程の実施中に真直度や真円度が劣化し易いという問題」、「(c)溶加材の焼結密度を正確に制御することが困難であるという問題」、「(d)溶加材を溶接作業に使用する際ビード内部にピンホールが発生し易いという問題」、「(e)溶加材中の炭素含有量を正確に制御することが困難であるという問題」及び「(f)溶加材中のCr含有量を正確に制御することが困難であるという問題」の6つの問題をすべて解決することが可能となる。
【0020】
すなわち、本発明の溶加材の製造方法によれば、水溶性のバインダーを用いていることから、熱可塑性樹脂からなるバインダーを用いる場合とは異なり、加温してもバインダーが軟化することがないため、脱脂工程においては押し出し成形体が変形することなく収縮することとなる。また、本発明の溶加材の製造方法によれば、合金粉末として、第1の平均粒径を有する第1の合金粉末及び前記第1の平均粒径よりも小さい第2の平均粒径を有する第2の合金粉末を含む合金粉末を用いているため、特許文献1に記載の発明又は特許文献2に記載の発明の場合よりも、各合金粉末間に存在する空間を小さくすることができ、これにより、特許文献1に記載の発明又は特許文献2に記載の発明の場合よりも、脱脂工程〜焼結工程における押し出し成形体の収縮量を小さくすることが可能となる。このため、本発明の溶加材の製造方法によれば、「(a)脱脂工程〜焼結工程の実施中に押し出し成形体にクラックが発生し易かったり押し出し成形体が分断され易かったりするという問題」及び「(b)脱脂工程〜焼結工程の実施中に真直度や真円度が劣化し易いという問題」を解決することが可能となる。
【0021】
また、本発明の溶加材の製造方法によれば、上記したように、合金粉末として、第1の平均粒径を有する第1の合金粉末及び第1の平均粒径よりも小さい第2の平均粒径を有する第2の合金粉末を含む合金粉末を用いているため、特許文献1に記載の発明又は特許文献2に記載の発明の場合よりも、各合金粉末間に存在する空間を小さくすることができる。このため、本発明の溶加材の製造方法によれば、焼結性が向上するため、合金粉末を十分に焼結して焼結密度を高くすることが可能となり、「(c)溶加材の焼結密度を正確に制御することが困難であることという問題」及び「(d)溶加材を溶接作業に使用する際ビード内部にピンホールが発生し易いという問題」を解決することが可能となる。
【0022】
また、本発明の溶加材の製造方法によれば、上記したように、合金粉末として、第1の平均粒径を有する第1の合金粉末及び第1の平均粒径よりも小さい第2の平均粒径を有する第2の合金粉末を含む合金粉末を用いていることから、各合金粉末間に存在する空間を小さくすることができるため、用いるバインダーの量をより少量にすることが可能となる。また、本発明の溶加材の製造方法によれば、400℃以上の所定温度にまで加熱することにより脱脂工程を実施している。このため、脱脂工程中にバインダー成分を十分に除去することが可能となり、溶加材中に残存するバインダー由来の炭素を極めて低いレベルにまで低減することが可能となる。その結果、本発明の溶加材の製造方法によれば、「(e)溶加材中の炭素含有量を正確に制御することが困難であるという問題」を解決することが可能となる。また、本発明の溶加材の製造方法によれば、用いるバインダーの量をより少量にすることが可能となることから、脱脂工程〜焼結工程における押し出し成形体の収縮量を小さくすることが可能となるという効果、保形性を向上させることができるという効果及び脱脂工程の時間を短縮できるという効果も得られる。
【0023】
また、本発明の溶加材の製造方法によれば、不活性ガス雰囲気又は還元性ガス雰囲気の下にて焼結工程を実施しているため、焼結工程中に合金成分からCrが蒸散することがなくなり、その結果、「(f)溶加材中のCr含有量を正確に制御することが困難であるという問題」を解決することが可能となる。
【0024】
ところで、合金粉末から溶加材を製造する溶加材の製造方法においては、合金粉末原料がもともと含有する酸素、合金粉末を製造する際に入ってくる酸素と、混練、成形等の工程中に入ってくる酸素の存在によって、製造される溶加材には一定濃度の酸素が不可避的に含まれてしまう。このような状況の下、本発明の溶加材の製造方法においては、真空雰囲気の下ではなく、不活性ガス雰囲気又は還元性ガス雰囲気の下にて焼結工程を実施しているため、合金粉末の表面及び内部に存在する酸素を十分に除去することができなくなるのではないかとも考えられる。
【0025】
しかしながら、本発明の溶加材の製造方法によれば、脱脂工程と焼結工程との間に、押し出し成形体を、真空雰囲気の下、950℃〜1150℃の範囲内にある所定温度にまで加熱することにより、合金粉末の表面及び内部に存在する酸素及びバインダー由来の炭素を反応させて除去するC−O反応工程を実施しているため、合金粉末の表面及び内部に存在する酸素を十分に除去することが可能となる。その結果、合金粉末の表面及び内部に存在する酸素に起因して焼結密度が低下してしまうということがなくなる。
また、本発明の溶加材の製造方法によれば、合金粉末の表面及び内部に存在する酸素を十分に除去することが可能となることから、合金粉末中の酸素含有量よりも低い酸素含有量の溶加材を製造することが可能となる。その結果、溶接を実施する場合に溶接性が向上するという効果、溶接を実施する場合に溶接部分(ビード)の強度が向上するという効果及び溶接を実施する場合に溶接部分(ビード)の靱性が向上するという効果も得られる。
【0026】
なお、本発明の溶加材の製造方法においては、脱脂工程と焼結工程との間に、上記したC−O反応工程を実施することとしているが、当該C−O反応工程は、950℃〜1150℃の範囲内にある所定温度にまでしか温度を上昇させないので、当該C−O反応工程中に合金成分から蒸散するCrの量を極めて低いレベルにすることが可能となる。
【0027】
押し出し成形体を950℃〜1150℃の範囲内にある所定温度にまで加熱することによりC−O反応工程を実施することとしているのは、押し出し成形体を950℃未満の温度にまで加熱しない場合には、十分なC−O反応が起こらないからであり、押し出し成形体を1150℃を超える温度にまで加熱する場合には、当該C−O反応工程中に合金成分から蒸散するCrの量を極めて低いレベルにすることが困難となるからである。
【0028】
なお、上記した各工程において、押し出し成形体の温度を測定する際には、熱電対又は放射温度計を用いて、押し出し成形体の外周部の温度を測定する。
【0029】
[2]本発明の溶加材の製造方法において、前記C−O反応工程においては、前記所定温度が1000℃〜1100℃の範囲内にあることが好ましい。
【0030】
このような方法とすることにより、Crの蒸散量を極めて低いレベルに制限しながら、合金粉末の表面及び内部に存在する酸素を十分に除去することが可能となる。
【0031】
[3]本発明の溶加材の製造方法においては、前記C−O反応工程においては、前記押し出し成形体を前記所定温度にまで加熱した後、真空度が1×10−4Pa〜20Paの範囲内にある所定の真空度に達するまで前記所定温度を保持することが好ましい。
【0032】
押し出し成形体を上記した所定温度にまで加熱すると、合金粉末の表面及び内部に残存する酸素がバインダー由来の炭素と反応することによりCO又はCOが発生するため、一時的に真空度が低下する(又は圧力が高くなる)。しかしながら、押し出し成形体を当該所定温度で所定時間保持すると、合金粉末の表面及び内部に残存する酸素及びバインダー由来の炭素が消費されるに従い、CO又はCOの発生量が少なくなり時間ととともに真空度が高くなる。そこで、上記のような方法とすれば、合金粉末に残存する酸素の量を十分に低減することが可能となる。
【0033】
この場合において、所定の真空度を1×10−4Pa〜20Paの範囲内にするのは、20Paよりも圧力が高い場合にはC−O反応工程中に十分に酸素が除去できない場合があるからであり(特に押し出し成形体の中心部)、1×10−4aよりも圧力を低くしても酸素を除去する効果がそれ程増大しないからである。
【0034】
[4]本発明の溶加材の製造方法においては、窒素ガス雰囲気、アンモニア分解ガス雰囲気又は「窒素ガス及び水素ガスの混合ガス雰囲気」の下、前記焼結工程を実施することが好ましい。
【0035】
窒素ガス(アンモニア分解ガス由来の窒素ガスも含む)は、アルゴンガスのような希ガスとは異なり、高温状態においては合金中に溶け込んでいく(合金マトリクス中に固溶する)ため、上記のような方法とすることにより、「(d)溶加材を溶接作業に使用する際ビード内部にピンホールが発生し易いという問題」をより一層高いレベルで解決することが可能となる。
【0036】
また、窒素ガス(アンモニア分解ガス由来の窒素ガスも含む)はアルゴンガスのような希ガスよりも熱容量が大きいため、アルゴンガスのような希ガスの場合よりも焼結密度を高くすることが可能となる。また、アルゴンガスのような希ガスの場合よりも低い温度で焼結工程を実施することが可能となり、製造コストを低減することが可能となる。
【0037】
また、アンモニア分解ガス雰囲又は「窒素ガス及び水素ガスの混合ガス雰囲気」の下、焼結工程を実施することとした場合には、アンモニア分解ガス由来の水素ガス又は混合ガスに含まれる水素ガスの働きにより、合金粉末の表面及び内部に残存することがある酸素をより一層完全に除去することが可能となり、押し出し成形体の焼結密度をより一層高くすることが可能となる。また、溶接性がより一層高い溶加材を製造することが可能となる。
【0038】
[5]本発明の溶加材の製造方法においては、前記第1の平均粒径は、20μm〜100μmの範囲内にあり、前記第2の平均粒径は、1μm〜20μmの範囲内にあることが好ましい。
【0039】
このような方法とすることにより、各第1の合金粉末間に形成される隙間に第2の合金粉末がうまく入り込むようになり、各合金粉末間に存在する空間を小さくすることが可能となる。
【0040】
[6]本発明の溶加材の製造方法においては、前記コンパウンドにおける前記第1の合金粉末の配合量をAとし、前記コンパウンドにおける前記第2の合金粉末の配合量をBとしたとき、「60%≦A/(A+B)≦95%」なる関係を満たすことが好ましい。
【0041】
このような方法とすることにより、各第1の合金粉末間に形成される隙間に第2の合金粉末がうまく入り込むようになり、各合金粉末間に存在する空間を小さくすることが可能となる。なお、「60%≦A/(A+B)≦95%」なる関係を満たすこととしたのは、A/(A+B)が95%を超える場合には、第2の合金粉末が少なすぎて、各第1の合金粉末間に形成される隙間に第2の合金粉末が十分に入り込まないからであり、A/(A+B)が60%未満である場合には、小さい平均粒径を有し大きい比表面積を有する第2の合金粉末が多すぎて、溶加材中の酸素含有量を低減するのが容易ではなくなるからである。また、コンパウンドを作製する際の操作や、コンパウンドを取り扱う際の操作が煩雑になるからである。
【0042】
[7]本発明の溶加材の製造方法においては、前記第1の合金粉末は、ガスアトマイズ法によって製造された合金粉末であり、前記第2の合金粉末は、水アトマイズ法によって製造された合金粉末であることが好ましい。
【0043】
20μm〜100μmの範囲内にある第1の合金粉末は、ガスアトマイズ法により容易に製造することができる。また、1μm〜20μmの範囲内にある第2の合金粉末は、水アトマイズ法により容易に製造することができる。
【0044】
また、酸素含有量を比較的低くできる反面、平均粒径が比較的大きくなる傾向にあるガスアトマイズ法により第1の合金粉末を製造し、平均粒径を比較的小さくできる反面、酸素含有量が比較的高くなる傾向にある水アトマイズ法により第2の合金粉末を製造することとすれば、第1の合金粉末及び第2の合金粉末を含む合金粉末の酸素含有量を比較的低くしつつ平均粒径を比較的小さくすることができる。
【0045】
[8]本発明の溶加材の製造方法においては、前記コンパウンドに含まれる前記バインダーの割合は、前記合金粉末100重量部に対して1.5重量部〜5.5重量部の範囲内にあることが好ましい。
【0046】
バインダーの割合を、合金粉末100重量部に対して1.5重量部〜5.5重量部の範囲内としたのは、合金粉末100重量部に対するバインダーの割合が5.5重量部を超える場合には、バインダーの量が多すぎて、脱脂工程中にバインダー成分を十分に除去することが容易ではなくなるためであり、合金粉末100重量部に対してバインダーの割合が1.5重量部未満である場合には、バインダーの量が少なすぎて、成形性が低下し、スムーズに押し出し工程を実施できなくなるためである。
【0047】
これらの観点から言えば、前記コンパウンドに含まれる前記バインダーの割合は、前記合金粉末100重量部に対して2重量部〜3.5重量部の範囲内にあることがより一層好ましい。
【0048】
本発明の溶加材の製造方法においては、前記コンパウンドに含まれる前記水の割合は、前記合金粉末100重量部に対して1重量部〜11重量部の範囲内にあることが好ましい。
【0049】
水の割合を、合金粉末100重量部に対して1重量部〜11重量部の範囲内とするのは、合金粉末100重量部に対する水の割合が11重量部を超える場合には、水の量が多すぎて、押し出し工程や乾燥工程中における保形性が低下するためであり、合金粉末100重量部に対して水の割合が1重量部未満である場合には、水の量が少なすぎて、成形性が低下し、スムーズに押し出し工程を実施できなくなるためである。
【0050】
これらの観点から言えば、前記コンパウンドに含まれる前記水の割合は、前記合金粉末100重量部に対して2重量部〜7重量部の範囲内にあることがより一層好ましい。
【0051】
[9]本発明の溶加材の製造方法においては、流れ特性試験機(キャピログラフ)により測定される粘度が1.8P(ポアズ)〜2.5P(ポアズ)の範囲内にあるコンパウンドを用いて前記押し出し工程を実施することが好ましい。
【0052】
流れ特性試験機(キャピログラフ)により測定される粘度を1.8P(ポアズ)〜2.5P(ポアズ)の範囲内としたのは、当該粘度が2.5P(ポアズ)を超える場合には、粘度が高すぎて成形性が低下し、スムーズに押し出し工程を実施できなくなるためであり、当該が1.8P(ポアズ)未満である場合には、粘度が低すぎて保形性が低下するためである。
【0053】
[10]本発明の溶加材の製造方法においては、前記押し出し工程においては、前記成形ノズルから押し出す前記押し出し成形体の押し出し速度に同期して動作する「取り出し・切断装置」を用いて定寸カットしながら、受け部材上に前記押し出し部材を順次載置することが好ましい。
【0054】
このような方法とすることにより、押し出し工程を実施する途中で、押し出し成形体ににクラックが発生したり押し出し成形体が分断されてしまったりすることがなくなる。また、押し出し成形体を順次受け部材上にスムーズに載置することが可能となる。
【0055】
[11]本発明の溶加材の製造方法においては、不活性ガス又は還元性ガスを雰囲気中に導入しながら当該雰囲気を減圧することにより減圧雰囲気とした条件で、前記脱脂工程を実施することが好ましい。
【0056】
このような方法とすることにより、脱脂工程中に合金粉末の表面が酸化されるのを極力防止することが可能となる。また、脱脂工程中にバインダー成分をより一層十分に除去することが可能となり、溶加材中に残存するバインダー由来の炭素を極めて低いレベルにまで低減することが可能となる。
【0057】
[12]本発明の溶加材の製造方法においては、前記押し出し工程と前記脱脂工程との間に、前記押し出し工程で作製された前記押し出し成形体を、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気又は減圧雰囲気の下、5℃〜40℃の範囲内にある第1温度から60℃〜100℃の範囲内にある第2温度まで徐々に昇温することにより前記押し出し成形体を乾燥する乾燥工程をさらに含むことが好ましい。
【0058】
このような方法とすることにより、クラックの発生を極力防止しながら、脱脂工程実施前に押し出し成形体から水分を十分に除去することが可能となる。
【0059】
[13]本発明の溶加材は、本発明の溶加材の製造方法によって製造された溶加材であって、酸素含有量が前記合金粉末の酸素含有量よりも低いことを特徴とする。
【0060】
[14]本発明の溶加材は、本発明の溶加材の製造方法によって製造された溶加材であって、酸素含有量が0.08重量%以下であることを特徴とする。
【0061】
本発明の溶加材は、酸素含有量が合金粉末の酸素含有量よりも低く、酸素含有量が極めて低いため、高い焼結密度及び優れた溶接性を有し、さらには溶接部分(ビード)の強度及び靱性が高い溶接製品を製造可能な溶加材となる。
【0062】
なお、本発明の溶加材においては、酸素含有量が0.05重量%以下であることが好ましく、0.02重量%以下であることがさらに好ましい。
【0063】
本発明の溶加材は、棒状の溶加材(溶加棒)であってもよいし、管状の溶加材(溶加管)であってもよい。管状の溶加材である場合には、中心の孔にフラックスを入れることができ、高い作業性で溶接作業を実施することが可能となる。また、本発明の溶加材は、外形が、円形状であってもよいし、円以外の形状(例えば、三角形、四角形、五角形、六角形その他の多角形。)であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施形態に係る溶加材の製造方法を説明するために示すフローチャートである。
【図2】実施例に係る溶加材の製造方法における各工程のうち「押し出し工程」を説明するために示す図である。
【図3】実施例に係る溶加材の製造方法における各工程のうち「乾燥工程」〜「焼結工程」における熱処理手順を説明するために示す図である。
【図4】実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2における評価結果を示す図である。
【図5】実施例1及び実施例2における焼結工程実施後の外観を示す図である。
【図6】実施例1、比較例1及び比較例2における焼結工程実施後の外観を示す図である。
【図7】実施例1における金属顕微鏡による溶接断面を示す図である。
【図8】実施例2、比較例1及び比較例2における溶接断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
以下、本発明の溶加材の製造方法を実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0066】
[実施形態]
図1は、実施形態に係る溶加材の製造方法を説明するために示すフローチャートである。実施形態に係る溶加材の製造方法は、図1に示すように、コンパウンド準備工程S2、押し出し工程S4、乾燥工程S6、脱脂工程S8、C−O反応工程S10及び焼結工程S12をこの順序で含む。以下、実施形態に係る溶加材の製造方法を工程順に説明する。
【0067】
1.コンパウンド準備工程S2
コンパウンド準備工程S2は、第1の平均粒径を有する第1の合金粉末及び第1の平均粒径よりも小さい第2の平均粒径を有する第2の合金粉末を含む合金粉末と、水溶性のバインダー及び水とを混練してコンパウンドを作製する工程である。
【0068】
合金粉末は、例えば、ステライト合金からなる。第1の合金粉末における第1の平均粒径は、20μm〜100μmの範囲内にあり、第2の合金粉末における第2の平均粒径は、1μm〜20μmの範囲内にある。また、合金粉末は、コンパウンドにおける第1の合金粉末の配合量をAとし、コンパウンドにおける第2の合金粉末との配合量をBとしたとき、「60%≦A/(A+B)≦95%」なる関係を満たす。第1の合金粉末は、例えばガスアトマイズ法によって製造された合金粉末であり、第2の合金粉末は、例えば水アトマイズ法によって製造された合金粉末である。
【0069】
バインダーは、水溶性のバインダー(例えばアルキルセルロース系バインダー)である。コンパウンドに含まれるバインダーの割合は、合金粉末100重量部に対して1.5重量部〜5.5重量部の範囲内にある。また、コンパウンドに含まれる水の割合は、合金粉末100重量部に対して1重量部〜11重量部の範囲内にある。コンパウンドには、バインダー、水以外の成分(アルコール・グリコール類、酸など。)が含まれてもよい。
【0070】
2.押し出し工程S4
押し出し工程S4は、コンパウンド作製工程S2で作製されたコンパウンドを成形ノズルから押し出して押し出し成形体を作製する工程である。
【0071】
押し出し工程S4においては、流れ特性試験機(キャピログラフ)により測定される粘度が1.8P(ポアズ)〜2.5P(ポアズ)の範囲内にあるコンパウンドを用いて押し出し工程を実施する。また、押し出し工程S4においては、成形ノズルから押し出す前記押し出し成形体の押し出し速度に同期して動作する「取り出し・切断装置」を用いて定寸カットしながら、受け部材上に押し出し部材を順次載置する。
【0072】
3.乾燥工程S6
乾燥工程S6は、押し出し工程で作製された押し出し成形体を、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気又は減圧雰囲気の下、5℃〜40℃の範囲内にある第1温度から60℃〜100℃の範囲内にある第2温度まで徐々に昇温することにより前記押し出し成形体を乾燥する工程である。押し出し成形体の昇温は、押し出し成形体を静置した状態で比較的長時間(例えば2時間以上)かけて行ってもよいし、押し出し成形体を回転させながら比較的短時間(例えば10分程度)かけて行ってもよい。当該乾燥工程S6を実施する前に、押し出し成形体を1日〜数日間自然乾燥してもよい。
【0073】
4.脱脂工程S8
脱脂工程工程S8は、押し出し工程S4で作製され、乾燥工程S6で乾燥された押し出し成形体を、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気又は減圧雰囲気の下、400℃以上の所定温度にまで加熱することにより押し出し成形体からバインダー成分を除去する工程である。
【0074】
脱脂工程S8は、不活性ガス又は還元性ガスを雰囲気中に導入しながら当該雰囲気を減圧することにより減圧雰囲気とした条件で、実施してもよい。
【0075】
5.C−O反応工程S10
C−O反応工程S10は、脱脂工程S8でバインダー成分が除去された押し出し成形体を、真空雰囲気の下、950℃〜1150℃(より好ましくは1000℃〜1100℃)の範囲内にある所定温度にまで加熱することにより、合金粉末の表面及び内部に存在する酸素及びバインダー由来の炭素を反応させて除去する工程である。C−O反応工程S10においては、例えば、押し出し成形体を上記した所定温度にまで加熱した後、真空度が1×10−4Pa〜20Paの範囲内にある所定の真空度に達するまで当該所定温度を保持する。
【0076】
6.焼結工程S12
焼結工程S12は、C−O反応工程S10で合金粉末の表面及び内部に存在する酸素及びバインダー由来の炭素が除去された押し出し成形体を、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気又は「不活性ガス及び還元性ガスの混合ガス雰囲気」の下、1200℃〜1350℃の範囲内にある所定温度にまで加熱して溶加材とする工程である。焼結工程S12は、窒素雰囲気中(圧力:例えば0.5気圧〜2気圧)で実施するのが特に好ましい。窒素ガスはアルゴンガスのような希ガスとは異なり高温状態において合金中に溶け込んでいく(合金マトリクス中に固溶する)ため、溶加材を溶接作業に使用する際ビード内部にピンホールが発生し難くなるからである。また、当該圧力が0.5気圧未満になると焼結工程S12中に合金成分からCrが蒸散し易くなる一方において、当該圧力が2気圧を超えると、焼結工程S12中に合金成分に窒素が過剰に含有されるようになるからである。
【0077】
以上の工程を経て、実施形態に係る溶加材を製造することができる。
【0078】
3.実施形態に係る溶加材の製造方法の効果
実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、「(a)脱脂工程〜焼結工程の実施中に押し出し成形体にクラックが発生し易かったり押し出し成形体が分断され易かったりするという問題」、「(b)脱脂工程〜焼結工程の実施中に真直度や真円度が劣化し易いという問題」、「(c)溶加材の焼結密度を正確に制御することが困難であるという問題」、「(d)溶加材を溶接作業に使用する際ビード内部にピンホールが発生し易いという問題」、「(e)溶加材中の炭素含有量を正確に制御することが困難であるという問題」及び「(f)溶加材中のCr含有量を正確に制御することが困難であるという問題」の6つの問題をすべて解決することが可能となる。
【0079】
すなわち、実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、水溶性のバインダーを用いていることから、熱可塑性樹脂からなるバインダーを用いる場合とは異なり、加温してもバインダーが軟化することがないため、脱脂工程においては硬い状態の押し出し成形体が収縮することとなる。また、実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、合金粉末として、第1の平均粒径を有する第1の合金粉末及び前記第1の平均粒径よりも小さい第2の平均粒径を有する第2の合金粉末を含む合金粉末を用いているため、特許文献1に記載の発明又は特許文献2に記載の発明の場合よりも、各合金粉末間に存在する空間を小さくすることができ、これにより、特許文献1に記載の発明又は特許文献2に記載の発明の場合よりも、脱脂工程〜焼結工程における押し出し成形体の収縮量を小さくすることが可能となる。このため、実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、「(a)脱脂工程〜焼結工程の実施中に押し出し成形体にクラックが発生し易かったり押し出し成形体が分断され易かったりするという問題」及び「(b)脱脂工程〜焼結工程の実施中に真直度や真円度が劣化し易いという問題」を解決することが可能となる。
【0080】
また、実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、上記したように、合金粉末として、第1の平均粒径を有する第1の合金粉末及び第1の平均粒径よりも小さい第2の平均粒径を有する第2の合金粉末を含む合金粉末を用いているため、特許文献1に記載の発明又は特許文献2に記載の発明の場合よりも、各合金粉末間に存在する空間を小さくすることができる。このため、実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、焼結性が向上するため、合金粉末を十分に焼結して焼結密度を高くすることが可能となり、「(c)溶加材の焼結密度を正確に制御することが困難であることという問題」及び「(d)溶加材を溶接作業に使用する際ビード内部にピンホールが発生し易いという問題」を解決することが可能となる。
【0081】
また、実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、上記したように、合金粉末として、第1の平均粒径を有する第1の合金粉末及び第1の平均粒径よりも小さい第2の平均粒径を有する第2の合金粉末を含む合金粉末を用いていることから、各合金粉末間に存在する空間を小さくすることができるため、用いるバインダーの量をより少量にすることが可能となる。また、実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、400℃以上の所定温度にまで加熱することにより脱脂工程を実施している。このため、脱脂工程中にバインダー成分を十分に除去することが可能となり、溶加材中に残存するバインダー由来の炭素を極めて低いレベルにまで低減することが可能となる。その結果、実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、「(e)溶加材中の炭素含有量を正確に制御することが困難であるという問題」を解決することが可能となる。また、実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、用いるバインダーの量をより少量にすることが可能となることから、脱脂工程〜焼結工程における押し出し成形体の収縮量を小さくすることが可能となるという効果、保形性を向上させることができるという効果及び脱脂工程の時間を短縮できるという効果も得られる。
【0082】
また、実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気又は「不活性ガス及び還元性ガスの混合ガス雰囲気」の下にて焼結工程を実施しているため、焼結工程中に合金成分からCrが蒸散することがなくなり、その結果、「(f)溶加材中のCr含有量を正確に制御することが困難であるという問題」を解決することが可能となる。
【0083】
また、実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、脱脂工程と焼結工程との間に、押し出し成形体を、真空雰囲気の下、950℃〜1150℃の範囲内にある所定温度にまで加熱することにより、合金粉末の表面及び内部に存在する酸素及びバインダー由来の炭素を反応させて除去するC−O反応工程を実施しているため、合金粉末の表面及び内部に存在する酸素を十分に除去することが可能となる。その結果、合金粉末の表面及び内部に存在する酸素に起因して焼結密度が低下してしまうということがなくなる。
また、実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、合金粉末の表面及び内部に存在する酸素を十分に除去することが可能となることから、合金粉末中の酸素含有量よりも低い酸素含有量の溶加材を製造することが可能となる。その結果、溶接を実施する場合に溶接性が向上するという効果、溶接を実施する場合に溶接部分(ビード)の強度が向上するという効果及び溶接を実施する場合に溶接部分(ビード)の靱性が向上するという効果も得られる。
【0084】
また、実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、C−O反応工程においては、押し出し成形体を所定温度にまで加熱した後、真空度が1×10−4Pa〜20Paの範囲内にある所定の真空度に達するまで当該所定温度を保持することとしているため、合金粉末の表面及び内部に存在する酸素及びバインダー由来の炭素を十分に除去することができる。
【0085】
また、窒素ガス雰囲気、アンモニア分解ガス雰囲気又は「窒素ガス及び水素ガスの混合ガス雰囲気」の下、焼結工程を実施した場合には、窒素ガスが、アルゴンガスのような希ガスとは異なり、高温状態においては合金中に溶け込んでいく(合金マトリクス中に固溶する)ため、「(d)溶加材を溶接作業に使用する際ビード内部にピンホールが発生し易いという問題」をより一層高いレベルで解決することが可能となる。
【0086】
また、窒素ガス雰囲気、アンモニア分解ガス雰囲気又は「窒素ガス及び水素ガスの混合ガス雰囲気」の下、焼結工程を実施した場合には、窒素ガスが、アルゴンガスのような希ガスよりも熱容量が大きいため、アルゴンガスのような希ガスの場合よりも焼結密度を高くすることが可能となる。その結果、「(d)溶加材を溶接作業に使用する際ビード内部にピンホールが発生し易いという問題」をより一層高いレベルで解決することが可能となる。また、焼結工程における焼結温度を低くすることが可能となり、製造コストを低減することが可能となる。
【0087】
また、実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、第1の平均粒径が20μm〜100μmの範囲内にあり、第2の平均粒径が1μm〜20μmの範囲内にあるため、各第1の合金粉末間に形成される隙間に第2の合金粉末がうまく入り込むようになり、各合金粉末間に存在する空間を小さくすることが可能となる。
【0088】
また、実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、コンパウンドにおける第1の合金粉末の配合量をAとし、コンパウンドにおける前記第2の合金粉末との配合量をBとしたとき、「60%≦A/(A+B)≦95%」なる関係を満たすため、各第1の合金粉末間に形成される隙間に第2の合金粉末がうまく入り込むようになり、各合金粉末間に存在する空間を小さくすることが可能となる。
【0089】
また、実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、第1の合金粉末がガスアトマイズ法によって製造された合金粉末であり、第2の合金粉末が水アトマイズ法によって製造された合金粉末であるため、第1の合金粉末及び第2の合金粉末を容易に製造することができる。
【0090】
また、実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、コンパウンドに含まれるバインダーの割合が、合金粉末100重量部に対して1.5重量部〜5.5重量部の範囲内にあり、コンパウンドに含まれる水の割合が、合金粉末100重量部に対して1重量部〜11重量部の範囲内にあるため、乾燥工程又は脱脂工程中にバインダー成分及び水分を十分に除去するとともに、高い成形性をもって押し出し工程を実施可能となる。
【0091】
また、実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、流れ特性試験機(キャピログラフ)により測定される粘度が1.8P(ポアズ)〜2.5P(ポアズ)の範囲内にあるコンパウンドを用いて押し出し工程を実施することとしているため、乾燥工程〜脱脂工程を実施中にバインダー成分及び水分を十分に除去するとともに、高い成形性をもって押し出し工程を実施可能となる。
【0092】
また、実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、押し出し工程においては、成形ノズルから押し出す押し出し成形体の押し出し速度に同期して動作する「取り出し・切断装置」を用いて定寸カットしながら、受け部材上に押し出し部材を順次載置することとしているため、押し出し工程を実施する途中で、押し出し成形体にクラックが発生したり押し出し成形体が分断されてしまったりすることがなくなる。また、押し出し成形体を順次受け部材上にスムーズに載置することが可能となる。
【0093】
また、実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気又は減圧雰囲気の下、脱脂工程を実施することとしているため、合金粉末の表面が酸化されるのを極力防止することが可能となる。
【0094】
また、実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、不活性ガス又は還元性ガスを雰囲気中に導入しながら当該雰囲気を減圧することにより減圧雰囲気とした条件で、脱脂工程を実施することとしているため、脱脂工程中にバインダー成分をより一層十分に除去することが可能となり、溶加材中に残存するバインダー由来の炭素を極めて低いレベルにまで低減することが可能となる。
【0095】
また、実施形態に係る溶加材の製造方法によれば、押し出し工程と脱脂工程との間に、押し出し工程で作製された押し出し成形体を、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気又は減圧雰囲気の下、5℃〜40℃の範囲内にある第1温度から60℃〜100℃の範囲内にある第2温度まで徐々に昇温することにより押し出し成形体を乾燥する乾燥工程をさらに含むため、クラックの発生を極力防止しながら、脱脂工程実施前に押し出し成形体から水分を十分に除去することが可能となる。
【0096】
[実施例]
実施例においては、以下の方法に従って溶加材を製造した。
【0097】
1.コンパウンド準備工程S2
以下の表1に示す原材料を用いてコンパウンドを作製した。
【0098】
[表1]
原材料 含有率
第1の合金粉末(ステライトNo.6相当品) 85.5重量%
第2の合金粉末(ステライトNo.6相当品) 9.5重量%
メチルセルロース系バインダー 2.5重量%
エチレングリコール 0.25重量%
硼酸 0.25重量%
水 2.0重量%
【0099】
すなわち、まず、ガスアトマイズ法によって製造された第1の合金粉末(平均粒径:45μm、粒度分布(2σ):10μm〜75μm)と、水アトマイズ法によって製造された第2の合金粉末(平均粒径:10μm、粒度分布(2σ):1μm〜25μm)とを90重量部対10重量部の割合で混粉して得られる合金粉末95Kg(大同特殊鋼株式会社製、製品名:DAPKCW2、ロット番号:02K1043)を準備した。
【0100】
次に、水2Kg、メチルセルロース(信越化学工業株式会社製)2.5Kg、市販のエチレングリコール0.25Kg及び市販の硼酸0.25Kgを20℃以下の温度で混合して、水性バインダー5.0Kgを作製した。
【0101】
次に、加圧ニーダー(株式会社モリヤマ製、30L)を用いて、合金粉末95Kgと、水性バインダー5Kgとを混練することにより、コンパウンドを作製した。当該コンパウンドは、その後、ペレタイザー(明星金属工業製、「形式:FRP−V32S」を一部改造したもの)を用いて、ペレット状のコンパウンドとした。
【0102】
2.押し出し工程S4
次に、コンパウンド作製工程S2で製造されたペレット状のコンパウンドを、押し出し成形装置(ユニバース株式会社製、形式:V−553)のホッパーに入れるとともに、真空脱泡しながら当該コンパウンドを十分に混合しながら成形ノズルから押し出して押し出し成形体を作製した。作製された押し出し成形体は、直径4.2mm、長さ1000mmの円柱状の形状を有する。
【0103】
押し出し工程S4においては、流れ特性試験機(キャピログラフ(株式会社東洋精機製作所製))により測定される粘度が1.8P(ポアズ)〜2.5P(ポアズ)の範囲内にあるコンパウンドを用いて押し出し工程を実施した。
【0104】
図2は、実施例に係る溶加材の製造方法における各工程のうち「押し出し工程」を説明するために示す図である。図2中、符号100は押し出し成形体を示し、符号200は押し出し成形装置を示し、符号202はホッパーを示し、符号210は成形ノズルを示し、符号210aは後述する成形ノズル(変形例)を示し、符号212は成形ノズルの外筒を示し、符号214は後述する管形成用中子を示し、符号220は「取り出し・切断装置」を示し、符号230は切断装置を示し、符号232は切断装置230の外枠を示し、符号234は金属線からなるカッターを示し、符号240は押し出し成形体100を送る第1ローラー装置を示し、符号242はローラーを示し、符号244はローラー軸を示し、符号250は押し出し成形体100を受けて、後述する受け部材260上に載置する第2ローラー装置を示し、符号252はローラーを示し、符号254はローラー軸を示し、符号260は受け部材を示し、符号262は傾斜部を示す。
【0105】
押し出し工程S4においては、図2に示すように、成形ノズル210から押し出す押し出し成形体100の押し出し速度に同期して動作する「取り出し・切断装置」220を用いて定寸カットしながら、受け部材260上に押し出し部材100を順次載置した。具体的には、押し出し装置から所定長さだけコンパウンドを押し出したところで切断装置230を上方又は下方に移動させることにより、所定長さの押し出し成形体100を作製する。作製された押し出し成形体100は、第1ローラー装置240及び第2ローラー装置250により紙面下方向に沿って送られる。第1ローラー装置240のローラー242及び第2ローラー装置250のローラー252は、押し出し成形体100の押し出し速度に同期して回転している。その後、第2ローラー装置250のローラー252間の間隔を大きくして、押し出し成形体100を受け部材260上に載置する。このとき、受け部材260には傾斜部262が形成されており、押し出し成形体100は、紙面の左方向における所定位置まで転がっていく。
【0106】
3.乾燥工程S6
図3は、実施例に係る溶加材の製造方法における各工程のうち「乾燥工程」〜「焼結工程」における熱処理手順を説明するために示す図である。
押し出し工程S4で作製された押し出し成形体を、2日間自然乾燥した後、減圧乾燥機に入れ、図3に示す熱処理手順に従って、減圧雰囲気(500Pa)の下、20℃(第1温度)から60℃(第2温度)まで3時間かけて昇温した後、60℃の温度で4時間保持することにより押し出し成形体を乾燥した。乾燥工程S6を実施することにより、押し出し成形体から水分が除去される。
【0107】
4.脱脂工程S8
次に、乾燥工程S6で乾燥された押し出し成形体を、真空脱脂焼結装置(島津メクテム株式会社製、製品番号:VHSgrを一部改造したもの)に入れ、図3示す熱処理手順に従って、20℃から600℃まで2時間かけて昇温した後、600℃の温度で3時間保持することにより、脱脂工程S8を行った。脱脂工程S8は、窒素ガスと水素ガスとの混合ガス(混合比6:4)を10L/分の割合で導入しながら実施する。脱脂工程S8を実施することにより、押し出し成形体から残留水分及びバインダー成分並びに酸素が除去される。なお、本実施例においては、脱脂工程S8並びに後述するC−O反応工程S10及び焼結工程S12は、同一の真空脱脂焼結装置を用いて連続して行った。
【0108】
5.C−O反応工程S10
次に、脱脂工程S8でバインダー成分が除去された押し出し成形体を、図3に示す熱処理手順に従って、真空雰囲気の下、600℃から1050℃まで5時間かけて昇温した後、1050℃の温度で3時間保持することにより、C−O反応工程S10を行った。このとき、真空脱脂焼結装置の真空度は、1×10−4Pa〜20Paの範囲内にある所定の真空度に達する。C−O反応工程S10を実施することにより、合金粉末の表面及び内部に存在する酸素及びバインダー由来の炭素がC−O反応により除去される。
【0109】
6.焼結工程S12
次に、C−O反応工程S10で合金粉末の表面及び内部に存在する酸素及びバインダー由来の炭素が除去された押し出し成形体を、図3に示す熱処理手順に従って、窒素ガス雰囲気の下、1050℃から1270℃まで1時間40分かけて昇温した後、1270℃の温度で3時間保持することにより、焼結工程S12を行った。焼結工程S12を実施することにより、実施例に係る溶加材が作製された。実施例に係る溶加材は、直径3.9mm、長さ930mmの円柱状の形状を有し、焼結密度は8.54g/cm(焼結密度比:97%)であった。
【0110】
[試験例]
以下、試験例により本発明の効果を説明する。
試験例は、本発明の溶加材の製造方法が、上記した(a)〜(f)の6つの問題のすべてを解決可能な製造方法であることを示す試験例である。
【0111】
1.試料の調整
上記した実施例と同様の方法により作製した押し出し成形体を実施例1とした。また、焼結工程をアルゴン雰囲気で行うとともに最高焼結温度を1290℃にした条件で焼結工程を行った以外は、上記実施例と同様の方法により作製した溶加材を実施例2とした。また、特許文献1に記載の溶加材の製造方法によって作製した溶加材を比較例1とした。さらにまた、特許文献2に記載の溶加材の製造方法によって作製した溶加材を比較例2とした。但し、いずれの試料についても、炭素含有量が1.26重量%の合金粉末を用いた。また、いずれの試料についても、クロム含有量が30.84重量%の合金粉末を用いた。また、いずれの試料についても、酸素含有量が0.10重量%の合金粉末(第1の合金粉末の酸素含有量:0.012重量%、第2の合金粉末の酸素含有量:0.4重量%)を用いた。また、実施例1及び実施例2においては、いずれの試料についても、窒素含有量が0.070重量%の合金粉末を用いた。
【0112】
2−1.評価方法1
評価方法1における評価は、実施例1及び実施例2並びに比較例1及び比較例2のそれぞれについて押し出し成形体を6本ずつセラミック製セッター上に置いた状態で、真空脱脂焼結装置に入れ、脱脂工程〜焼結工程を連続して実施したとき、溶加材にクラックが発生しているか、押し出し成形体が分断されているかを目視で確認することにより行った(後述する図5及び図6参照。)。評価基準としては、各試料について、6本の溶加材のうち1本でも溶加材にクラックが発生していたり溶加材が分断されていたりした場合には「×」の評価を与え、6本の溶加材のうちクラックが発生していたり分断されていたりした溶加材がなかった場合には「○」の評価を与えた。後述する図4には、当該評価をそのまま記入した。
【0113】
2−2.評価方法2
評価方法2における評価は、実施例1及び実施例2並びに比較例1及び比較例2のそれぞれについて押し出し成形体を6本ずつセラミック製セッター上に置いた状態で、真空脱脂焼結装置に入れ、脱脂工程〜焼結工程を連続して実施したとき、溶加材の真直度や真円度が劣化しているかどうかを、真直度については目視で確認することにより行い、真円度については各試料について任意の10カ所でマイクロメーターを用いて溶加材の長径aと短径bを測定し当該「b/a」を算出するとともにこれらの値を算術平均することにより行った。なお、真直度の評価基準としては、各試料について、6本の溶加材のうち1本でも溶加材の真直度が劣化していた場合には「×」の評価を与え、6本の溶加材のうち真直度が劣化していた溶加材がなかった場合には「○」の評価を与えた。後述する図4には、上記のようにして評価した真直度に関する評価及び上記のようにして算出した「b/a」の値をそのまま記入した。
【0114】
2−3.評価方法3
評価方法3における評価は、実施例1及び実施例2並びに比較例1及び比較例2のそれぞれについて、溶加材の焼結密度を測定することにより行った。後述する図4には、測定された焼結密度を真の密度で除して得られる焼結密度比をそのまま記入した。
【0115】
2−4.評価方法4
評価方法4における評価は、実施例1及び実施例2並びに比較例1及び比較例2のそれぞれについて、溶加材を用いてTIG溶接(溶接速度:30mm/分)を行った後、溶接面を切断し、その溶接断面を金属顕微鏡でミクロ組織観察することにより行った(後述する図7及び図8参照。)。評価基準としては、100倍に拡大して得られる画像中(面積)に直径10μm以上のピンホールが5個以上確認できる場合に「×」の評価を与え、直径10μm以上のピンホールが1〜4個確認できる場合に「○」の評価を与え、直径10μm以上のピンホールが1個も確認できない場合に「◎」の評価を与えた。後述する図4には、当該評価をそのまま記入した。
【0116】
2−5.評価方法5
評価方法5における評価は、実施例1及び実施例2並びに比較例1及び比較例2のそれぞれについて、炭素分析装置(LECOジャパン合同会社製、製品番号:C600)により、溶加材中の炭素含有量を測定することにより行った。後述する図4には、測定された炭素含有量をそのまま記入した。
【0117】
2−6.評価方法6
評価方法6における評価は、実施例1及び実施例2並びに比較例1及び比較例2のそれぞれについて、原子吸光分光光度計(島津製作所製、製品番号:AA−6200)を用いて、溶加材中のクロム含有量を測定することにより行った。後述する図4には、測定されたクロム含有量をそのまま記入した。
【0118】
2−7.評価方法7
評価方法7における評価は、実施例1及び実施例2並びに比較例1及び比較例2のそれぞれについて、酸素・窒素同時分析装置(LECOジャパン合同会社製、製品番号:TC400)を用いて、溶加材中の酸素含有量を測定することにより行った。後述する図4には、測定された酸素含有量をそのまま記入した。
【0119】
2−8.評価方法8
評価方法8における評価は、実施例1及び実施例2のそれぞれについて、酸素・窒素同時分析装置(LECOジャパン合同会社製、製品番号:TC400)を用いて、溶加材中の窒素含有量を測定することにより行った。後述する図4には、測定された窒素含有量をそのまま記入した。
【0120】
3.評価結果
図4は、実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2についての評価結果を示す図である。
【0121】
3−1.評価方法1による評価結果
評価方法1による評価結果を図4に示す。図4からも明らかなように、本発明(実施例1及び実施例2)の溶加材の製造方法は、「(a)脱脂工程〜焼結工程の実施中に押し出し成形体にクラックが発生し易かったり押し出し成形体が分断され易かったりするという問題」を解決可能な方法であることが分かった。
【0122】
図5は、実施例1及び実施例2における焼結工程実施後の外観を示す図である。図5(a)は実施例1における焼結工程実施後の外観を示す図であり、図5(b)は実施例2における焼結工程実施後の外観を示す図である。図6は、実施例1、比較例1及び比較例2における焼結工程実施後の外観を示す図である。
【0123】
本発明(実施例1及び実施例2)の溶加材の製造方法が「(a)脱脂工程〜焼結工程の実施中に押し出し成形体にクラックが発生し易かったり押し出し成形体が分断され易かったりするという問題」を解決可能な方法であることは、図5及び図6からも明らかである。
【0124】
3−2.評価方法2による評価結果
評価方法2による評価結果を図4に示す。図4からも明らかなように、本発明(実施例1及び実施例2)の溶加材の製造方法は、「(b)脱脂工程〜焼結工程の実施中に真直度や真円度が劣化し易いという問題」を解決可能な方法であることが分かった。
【0125】
3−3.評価方法3による評価結果
評価方法3による評価結果を図4に示す。図4からも明らかなように、本発明(実施例1及び実施例2)の溶加材の製造方法の場合に、高い焼結密度比が得られる。このことから、本発明(実施例1及び実施例2)の溶加材の製造方法が、合金粉末を十分に焼結することが可能な方法であり、「(c)溶加材の焼結密度を正確に制御することが困難であるという問題」を解決可能な方法であることが分かった。
【0126】
3−4.評価方法4による評価結果
評価方法4による評価結果を図4に示す。図4からも明らかなように、本発明(実施例1及び実施例2)の溶加材の製造方法は、「(d)溶加材を溶接作業に使用する際ビード内部にピンホールが発生し易いという問題」を解決可能な方法であることが分かった。
【0127】
図7は、実施例1における金属顕微鏡による溶接断面を示す図である。図7(a)は肉盛り部分の平面図であり、図7(b)は肉盛り部分の側面図であり、図7(c)は図7
(b)の四角で示す部分における溶接断面を示す図である。図8は、実施例2、比較例1及び比較例2における溶接断面を示す図である。図8(a)は実施例2における溶接断面を示す図であり、図8(b)は比較例1における溶接断面を示す図であり、図8(c)は比較例2における溶接断面を示す図である。なお、図7(c)において、写真の表面に見えるしわのような模様は、金属の結晶模様である。この結晶模様は、ビード断面を研磨及び化学エッチングする過程で不可避的に形成されるものである。ここで、研磨後に化学エッチングするのは、研磨中にピンホール中に埋まることがある金属の肉を除去するためである。
【0128】
本発明(実施例1及び実施例2)の溶加材の製造方法が「(d)溶加材を溶接作業に使用する際ビード内部にピンホールが発生し易いという問題」を解決可能な方法であることは、図7及び図8からも明らかである。
【0129】
3−5.評価方法5による評価結果
評価方法5による評価結果を図4に示す。図4からも明らかなように、本発明(実施例1及び実施例2)の溶加材の製造方法の場合、溶加材中の炭素含有量が、原材料の合金粉末の炭素含有量である1.26重量%とほぼ同じ値の1.25重量%であった。従って、本発明(実施例1及び実施例2)の溶加材の製造方法が「(e)溶加材中の炭素含有量を正確に制御することが困難であるという問題」を解決可能な方法であることが分かった。
【0130】
3−6.評価方法6による評価結果
評価方法6による評価結果を図4に示す。図4からも明らかなように、本発明(実施例1及び実施例2)の溶加材の製造方法の場合、溶加材中のクロム含有量が、原材料の合金粉末のクロム含有量である30.84重量%とほぼ同じ値の30.84重量%又は30.83重量%であった。従って、本発明(実施例1及び実施例2)の溶加材の製造方法が「(f)溶加材中のCr含有量を正確に制御することが困難であるという問題」を解決可能な方法であることが分かった。
【0131】
3−7.評価方法7による評価結果
評価方法7による評価結果を図4に示す。図4からも明らかなように、本発明(実施例1及び実施例2)の溶加材の製造方法の場合、溶加材中の酸素含有量が、原材料の合金粉末の酸素含有量である0.1重量%よりもかなり低い値である0.011重量%又は0.012重量%であった。従って、本発明(実施例1及び実施例2)の溶加材の製造方法は、合金粉末中の酸素含有量よりも低い酸素含有量を有する溶加材の製造を可能とする方法であることが分かった。
【0132】
3−8.評価方法8による評価結果
評価方法8による評価結果を図4に示す。図4からも明らかなように、本発明(実施例1及び実施例2)の溶加材の製造方法の場合、溶加材中の窒素含有量が0.220重量%又は0.030重量%であった。従って、本発明(実施例1及び実施例2)の溶加材の製造方法は、比較的低い窒素含有量を有する溶加材の製造を可能とする方法であることが分かった。従って、本発明の溶加材の製造方法によって製造される溶加材は、この点からも、溶接時にピンホールが発生し難く、さらには、ビードの靱性が高く溶接品質の良い溶接製品を製造可能な溶加材であることが分かった。
【0133】
以上、本発明の溶加材の製造方法を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態又は実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0134】
(1)上記実施例においては、難加工材料からなる合金粉末としてステライトNo6相当品を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、ステライトNo.6相当品以外のCo基合金からなる合金粉末(例えば、ステライトNo.12相当品、ステライトNo.21相当品、ステライトNo.1相当品など)、Ni基合金からなる合金粉末(例えば、コルモノイ相当品など)、Fe基合金からなる合金粉末(JIS D410などのステンレス鋼など)を用いることもできる。
【0135】
(2)上記実施例においては、第1の合金粉末として平均粒径が45μmの合金粉末を用い、第2の合金粉末として平均粒径が10μmの合金粉末を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、第1の合金粉末として平均粒径が20μm〜100μmの合金粉末を用い、第2の合金粉末として平均粒径が1〜20μmの合金粉末を用いることができる。
【0136】
(3)上記実施例においては、コンパウンドとして、第1の合金粉末の配合量をAとし、第2の合金粉末の配合量をBとしたとき、「A/(A+B)=90%」なる関係を満たすコンパウンドを用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、「60%≦A/(A+B)≦95%」なる関係を満たすコンパウンドを用いることができる。
【0137】
(4)上記実施例においては、水溶性のバインダーとして、メチルセルロース系のバインダーを用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、メチルセルロース系以外のバインダーを用いることができる。
【0138】
(5)上記実施例においては、コンパウンドとして、合金粉末100重量部(95重量%)に対して2.63重量部(2.5重量%)の範囲のバインダーを含有するコンパウンドを用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、合金粉末100重量部に対して1.5重量部〜5.5重量部の範囲のバインダーを含有するコンパウンドを用いることができる。
【0139】
(6)上記実施例においては、押し出し工程と乾燥工程との間に自然乾燥工程を実施したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、押し出し工程と乾燥工程との間に自然乾燥工程を実施しなくてもよい。
【0140】
(7)上記実施例においては、押し出し工程と脱脂工程との間に乾燥工程を実施したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、押し出し工程と脱脂工程との間に乾燥工程を実施しなくてもよい。
【0141】
(8)上記実施例においては、「窒素ガスと水素ガスとの混合ガス」を導入した雰囲気の下で、脱脂工程を実施したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、「窒素ガスと水素ガスとの混合ガス」以外の還元性雰囲気(例えば、純水素ガス雰囲気、アンモニア分解ガス雰囲気。)、不活性ガス雰囲気(例えば、純窒素ガス雰囲気)又はこれらの雰囲気を減圧することにより得られる減圧雰囲気の下、脱脂工程を実施してもよい。
【0142】
(9)上記実施例においては、窒素ガス雰囲気の下、焼結工程を実施したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、窒素ガス雰囲気以外の不活性ガス雰囲気(例えば、Arガス雰囲気。)又は還元性雰囲気(例えば、アンモニア分解ガス雰囲気、窒素ガスと水素ガスとの混合ガス雰囲気。)の下、焼結工程を実施してもよい。
【0143】
(10)上記実施例においては、脱脂工程、C−O反応工程及び焼結工程を1つの真空脱脂焼結装置中で連続して実施したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、脱脂工程、C−O反応工程及び焼結工程をそれぞれ別の焼結装置を用いて実施してもよいし、脱脂工程及びC−O反応工程を1つの焼結装置を用いて実施し、焼結工程を別の焼結装置を用いて実施してもよい。また、脱脂工程を1つの焼結装置を用いて実施し、C−O反応工程及び焼結工程を別の焼結装置を用いて実施してもよい。
【0144】
(11)上記実施例においては、本発明の溶加材の製造方法を用いて溶加棒を製造したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明の溶加材の製造方法を用いて管状の溶加材その他の溶加材を製造してもよい。この場合には、図2のA1の枠内に図示した成形ノズル210に代えて、図2のA1’の枠内に図示した成形ノズル210aを用いればよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の平均粒径を有する第1の合金粉末及び前記第1の平均粒径よりも小さい第2の平均粒径を有する第2の合金粉末を含む合金粉末と、水溶性のバインダー及び水とを混練してコンパウンドを作製するコンパウンド作製工程と、
前記コンパウンド作製工程で作製された前記コンパウンドを成形ノズルから押し出して押し出し成形体を作製する押し出し工程と、
前記押し出し工程で作製された前記押し出し成形体を、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気又は減圧雰囲気の下、400℃以上の所定温度にまで加熱することにより、前記押し出し成形体から前記バインダー成分を除去する脱脂工程と、
前記脱脂工程で前記バインダー成分が除去された前記押し出し成形体を、真空雰囲気の下、950℃〜1150℃の範囲内にある所定温度にまで加熱することにより、前記合金粉末の表面及び内部に存在する酸素及びバインダー由来の炭素を反応させて除去するC−O反応工程と、
前記C−O反応工程で前記合金粉末の表面及び内部に存在する酸素及びバインダー由来の炭素が除去された前記押し出し成形体を、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気又は「不活性ガス及び還元性ガスの混合ガス雰囲気」の下、1200℃〜1350℃の範囲内にある所定温度にまで加熱して溶加材とする焼結工程とをこの順序で含むことを特徴とする溶加材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の溶加材の製造方法において、
前記C−O反応工程においては、前記所定温度が1000℃〜1100℃の範囲内にあることを特徴とする溶加材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の溶加材の製造方法において、
前記C−O反応工程においては、前記押し出し成形体を前記所定温度にまで加熱した後、真空度が1×10−4Pa〜20Paの範囲内にある所定の真空度に達するまで前記所定温度を保持することを特徴とする溶加材の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の溶加材の製造方法において、
窒素ガス雰囲気、アンモニア分解ガス雰囲気又は「窒素ガス及び水素ガスの混合ガス雰囲気」の下、前記焼結工程を実施することを特徴とする溶加材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の溶加材の製造方法において、
前記第1の平均粒径は、20μm〜100μmの範囲内にあり、前記第2の平均粒径は、1μm〜20μmの範囲内にあることを特徴とする溶加材の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の溶加材の製造方法において、
前記コンパウンドにおける前記第1の合金粉末の配合量をAとし、前記コンパウンドにおける前記第2の合金粉末の配合量をBとしたとき、「60%≦A/(A+B)≦95%」なる関係を満たすことを特徴とする溶加材の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の溶加材の製造方法において、
前記第1の合金粉末は、ガスアトマイズ法によって製造された合金粉末であり、前記第2の合金粉末は、水アトマイズ法によって製造された合金粉末であることを特徴とする溶加材の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の溶加材の製造方法において、
前記コンパウンドに含まれる前記バインダーの割合は、前記合金粉末100重量部に対して1.5重量部〜5.5重量部の範囲内にあることを特徴とする溶加材の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の溶加材の製造方法において、
流れ特性試験機(キャピログラフ)により測定される粘度が1.8P(ポアズ)〜2.5P(ポアズ)の範囲内にあるコンパウンドを用いて前記押し出し工程を実施することを特徴とする溶加材の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の溶加材の製造方法において、
前記押し出し工程においては、前記成形ノズルから押し出す前記押し出し成形体の押し出し速度に同期して動作する「取り出し・切断装置」を用いて定寸カットしながら、受け部材上に前記押し出し部材を順次載置することを特徴とする溶加材の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の溶加材の製造方法において、
不活性ガス又は還元性ガスを雰囲気中に導入しながら当該雰囲気を減圧することにより減圧雰囲気とした条件で、前記脱脂工程を実施することを特徴とする溶加材の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の溶加材の製造方法において、
前記押し出し工程と前記脱脂工程との間に、前記押し出し工程で作製された前記押し出し成形体を、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気又は減圧雰囲気の下、5℃〜40℃の範囲内にある第1温度から60℃〜100℃の範囲内にある第2温度まで徐々に昇温することにより前記押し出し成形体を乾燥する乾燥工程をさらに含むことを特徴とする溶加材の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の溶加材の製造方法によって製造された溶加材であって、酸素含有量が前記合金粉末の酸素含有量よりも低いことを特徴とする溶加材。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれかに記載の溶加材の製造方法によって製造された溶加材であって、酸素含有量が0.08重量%以下であることを特徴とする溶加材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−92357(P2012−92357A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225816(P2010−225816)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(509070027)株式会社K・S・A (6)
【Fターム(参考)】