説明

溶接方法および電池の製造方法および電池

【課題】 電極板の基板と集電板との溶接を好適に行うことのできる溶接方法および電池の製造方法および電池を提供すること。
【解決手段】 正極集電板110を積層電極体100の正極非充填部P2に溶接する際に,トップハット型のレーザを用いる。そして,そのレーザの照射径Φは,狙いとする溶接幅D1の4〜7倍である。この溶接により製造された電池セル10における正極集電板110の表側の熱影響部の幅は,正極集電板110の裏側の溶接幅の4〜7倍である。負極についても同様である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,溶接方法および電池の製造方法および電池に関する。さらに詳細には,電極板(正極板および負極板)と集電板との溶接に特徴のある溶接方法および電池の製造方法および電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電池は,携帯電話やパーソナルコンピュータ等の電子機器,ハイブリッド車両や電気自動車等の車両など,多岐にわたる分野で利用されている。このような電池は,正極板と負極板と電解質とを備えるものである。また,正極板と負極板とを絶縁するために,これらの間にセパレータを設けることが一般的である。そして,正極板および負極板を交互に配置するとともに,それらの間にセパレータをはさんで積層した積層電極体を用いることが多い。体積エネルギー密度の向上を図るためである。
【0003】
このような積層電極体には,正極板の基板に正極集電板が接合されるとともに,負極板の基板に負極集電板が接合される。好適な集電を行うためには,この接合を確実に行うことが好ましい。接合箇所における接合が不充分であれば,その箇所における電気抵抗が高いからである。接合そのものがなされていなければ,これらの箇所はもちろん導通していない。したがって,その箇所では電流が流れない。
【0004】
そのため,電極板の基板と集電板とを好適に接合するための技術が開発されてきている。例えば,特許文献1には,電極板の基板と集電板とをレーザ溶接する技術が開示されている。これにより,リードの加工や固定等の煩雑な工程を行うことなく,接合を行うことができるとしている。また,特許文献2には,電極板の基板と集電板とを真空中でビーム溶接する技術が開示されている。これにより,接合箇所以外の他の部分に熱による影響を生じさせないようにして接合を行うことができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−042769号公報
【特許文献2】特開2004−006407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが,特許文献1のようにレーザを連続的に走査する場合には,スパッタが発生しやすい。スパッタが電極体の内部に入ると,内部短絡を生ずるおそれがある。また,レーザのエネルギー密度が高いため,電極板が溶融しすぎてしまうおそれがある。この場合には,セパレータに多量の熱が伝わり,セパレータ焼けが生じてしまうこととなる。
【0007】
一方,特許文献2のように真空中でビーム溶接する場合には,溶接を真空中で行う必要がある。この真空状態を実現するため,減圧する工程や復圧する工程などの多くの工程を要する。そして,これらの工程を行うのに時間もかかる。つまり,サイクルタイムが長いものとなってしまう。さらに,真空とするための設備を設ける必要がある。
【0008】
本発明は,前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,電極板の基板と集電板との溶接を好適に行うことのできる溶接方法および電池の製造方法および電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の一態様における溶接方法は,正極板と負極板とをセパレータを間に介在させて交互に配置した電極体を,集電体に溶接する溶接方法である。そして,正極板と負極板との少なくとも一方の集電体への溶接を,バックグラウンドレベルより有意に大きい強度の照射領域である照射径Φが,次の関係
ΦT/Φ ≧ 0.9
ΦT : 0.9T部分強度照射径(最大強度の10%以上の強度である照射領域の径)
を満たすとともに,次の関係
4×D1 ≦ Φ ≦7×D1
D1 : 狙いとする溶接幅
を満たすレーザを用いて行う。かかる溶接方法では,レーザの照射径の中心付近に与える熱量はそれほど多くない。そのため,集電板の穴あきやスパッタの発生がほとんど生じない。また,セパレータ焼けも生じない。そして,集電板を積層電極体に狙いとする溶接幅で溶接することができる。
【0010】
また,本発明の別の態様における電池の製造方法は,電解液中で電極反応を起こす正極板反応部と電解液中で電極反応を起こさない正極板非反応部とを備える正極板と,電解液中で電極反応を起こす負極板反応部と電解液中で電極反応を起こさない負極板非反応部とを備える負極板と,セパレータとを,正極板および負極板を交互にしつつ正極板および負極板の間にセパレータを挟んで配置するとともに,正極板非反応部の少なくとも一部と負極板非反応部の少なくとも一部とを互いに反対方向に突出させるように積層して積層電極体とする積層電極体作成工程と,積層電極体から突出している正極板非反応部に正極集電板を溶接するとともに,積層電極体から突出している負極板非反応部に負極集電板を溶接して溶接体とする集電板溶接工程と,溶接体を電池容器に挿入するとともに電解液を注入した後に電池容器を密閉する電池組立工程とを有する。そして,集電板溶接工程では,バックグラウンドレベルより有意に大きい強度の照射領域である照射径Φが,次の関係
ΦT/Φ ≧ 0.9
ΦT : 0.9T部分強度照射径(最大強度の10%以上の強度である照射領域の径)を満たすとともに,次の関係
4×D1 ≦ Φ ≦7×D1
D1 : 狙いとする溶接幅
を満たすレーザを用い,そのレーザを,積層電極体の一方の端部における正極板非反応部または負極板非反応部の箇所から他方の端部における正極板非反応部または負極板非反応部の箇所まで,積層方向に走査する。かかる電池の製造方法では,レーザの照射径の中心付近に与える熱量はそれほど多くない。そのため,集電板の穴あきやスパッタの発生がほとんど生じない。また,セパレータ焼けも生じない。そして,集電板を積層電極体に狙いとする溶接幅で溶接することができる。
【0011】
上記に記載の電池の製造方法において,正極集電板および負極集電板の少なくとも一方として,積層方向の両端部に屈曲部が形成されたものを用い,集電板溶接工程では,積層方向へのレーザを屈曲部の内側に照射し,そのレーザの照射領域の両端部の積層方向の内側1mm以内もしくは両端部の積層方向の外側1mm以内に,レーザを走査することとしてもよい。温度の上昇しにくい屈曲部付近で,集電板と積層電極体とが未接合となる接合不良をほとんど生じないようにすることができるからである。
【0012】
上記に記載の電池の製造方法において,正極集電板および負極集電板の少なくとも一方として,集電板溶接工程で溶接される領域の厚みがその他の領域の厚みより薄い薄肉部を有するものを用い,集電板溶接工程では,薄肉部に,正極板非反応部もしくは負極板非反応部を溶接するとなおよい。エネルギーの小さいレーザを用いても,溶接幅が不足することなく溶接を行うことができるからである。
【0013】
また,本発明のさらに別の態様における電池は,電解液中で電極反応を起こす正極板反応部と電解液中で電極反応を起こさない正極板非反応部とを備える正極板と,電解液中で電極反応を起こす負極板反応部と電解液中で電極反応を起こさない負極板非反応部とを備える負極板と,セパレータとが,正極板および負極板を交互にしつつ正極板および負極板の間にセパレータを挟んで配置するとともに,正極板非反応部の少なくとも一部と負極板非反応部の少なくとも一部とを互いに反対方向に突出させた状態で積層された積層電極体と,積層電極体から突出している正極板非反応部と溶接された正極集電板と,積層電極体から突出している負極板非反応部と溶接された負極集電板とを有する。そして,正極集電板および負極集電板の少なくとも一方における表側の熱影響部の幅が,その集電板における裏側の溶接幅の4〜7倍である。かかる電池では,積層電極体の内部にスパッタが混入しているおそれがほとんどない。また,セパレータ焼けもほとんど生じていない。そして,必要とする溶接幅で溶接がなされている。
【0014】
また,本発明のさらに別の態様における電池は,電解液中で電極反応を起こす正極板反応部と電解液中で電極反応を起こさない正極板非反応部とを備える正極板と,電解液中で電極反応を起こす負極板反応部と電解液中で電極反応を起こさない負極板非反応部とを備える負極板と,セパレータとが,正極板および負極板を交互にしつつ正極板および負極板の間にセパレータを挟んで配置するとともに,正極板非反応部の少なくとも一部と負極板非反応部の少なくとも一部とを互いに反対方向に突出させた状態で積層された積層電極体と,積層電極体から突出している正極板非反応部と溶接された正極集電板と,積層電極体から突出している負極板非反応部と溶接された負極集電板とを有するものである。そして,正極集電板と正極板非反応部との溶接部および負極集電板と負極板非反応部との溶接部の少なくとも一方では,積層電極体の積層方向における一方の端部から他方の端部にわたる積層方向熱影響部と,一方の端部の側で積層方向熱影響部と少なくとも接触している第1の接触熱影響部と,他方の端部の側で積層方向熱影響部と少なくとも接触している第2の接触熱影響部とが形成されているものである。かかる電池は,積層電極体の積層方向の両端に位置する箇所で,集電板と積層電極体の接合不良がほとんど生じていないものである。
【0015】
上記に記載の電池において,正極集電板および負極集電板の少なくとも一方における表側の熱影響部の幅が,その集電板における裏側の溶接幅の4〜7倍であるとよい。積層電極体の内部にスパッタが混入しているおそれがほとんどないからである。また,セパレータ焼けもほとんど生じていない。そして,必要とする溶接幅で溶接がなされている。
【0016】
上記に記載の電池において,正極集電板および負極集電板の少なくとも一方に,熱影響部の少なくとも一部に薄肉部が形成されているものであるとよい。積層電極体の内部にスパッタが混入している可能性がさらに低いからである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば,電極板の基板と集電板との溶接を好適に行うことのできる溶接方法および電池の製造方法および電池が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態に係る電池を説明するための部分破断斜視図である。
【図2】実施形態に係る電池の積層電極体に集電板を溶接した溶接体の構造を説明するための断面図である。
【図3】実施形態に係る電池の製造方法に用いるレーザの強度分布を説明するための図である。
【図4】第1の実施形態に係る電池の製造方法におけるレーザの走査方法を説明するための断面図である。
【図5】実施形態に係る電池の製造方法におけるレーザ溶接を説明するための断面図である。
【図6】第1の実施形態に係る電池の製造方法におけるレーザ溶接の溶接領域を示す斜視図である。
【図7】第1の実施形態に係る電池の製造方法におけるレーザの出力と照射径との組み合わせによるレーザ溶接の適否を説明するためのグラフ(その1)である。
【図8】第1の実施形態に係る電池の製造方法におけるレーザの出力と照射径との組み合わせによるレーザ溶接の適否を説明するためのグラフ(その2)である。
【図9】従来のキーホール型のレーザ溶接を説明するための斜視図である。
【図10】第1の実施形態に係る電池の製造方法において凹部の形成された集電板を溶接する方法を説明するための断面図である。
【図11】従来の電池の製造方法により製造された溶接体における溶接不良箇所を説明するための断面図である。
【図12】第2の実施形態に係る電池の製造方法におけるレーザの走査方法を説明するための平面図である。
【図13】第2の実施形態に係る電池における集電板の溶接による熱影響部を説明するための平面図である。
【図14】従来の電池の製造方法におけるレーザを走査する長さとレーザを照射する長さとを説明するための平面図である。
【図15】第2の実施形態に係る別の電池の溶接領域の形状を説明するための平面図(その1)である。
【図16】第2の実施形態に係る別の電池の溶接領域の形状を説明するための平面図(その2)である。
【図17】第2の実施形態に係る別の電池の溶接領域の形状を説明するための平面図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,ニッケル水素電池とその製造方法について,本発明を具体化したものである。
【0020】
(第1の実施形態)
1.電池
本実施の形態に係るニッケル水素電池について説明する。図1は,本形態の電池セル10の部分破断斜視図である。図1に示すように,電池セル10は,電池容器11と,封口板12と,安全弁13と,積層電極体100とを有している。電池容器11は,その内部に積層電極体100を挿入されるものであるとともに,電解液を収容するためのケースである。封口板12は,電池セル10を封止するためのものである。安全弁13は,電池セル10の内圧が上昇しすぎた場合に開弁する弁である。積層電極体100には,後述するように,正極集電板および負極集電板が接合されている。これらは,図1の破断した箇所からは見えない位置にある。
【0021】
図2は,電池セル10から溶接体200を抜き出して描いた断面図である。ここでいう溶接体200とは,積層電極体100に正極集電板110および負極集電板120が接合されたものである。積層電極体100は,図2に示すように,正極板Pと,負極板Nと,セパレータSとを有している。そして,正極板Pと負極板Nとの間には必ずセパレータSが間に配置されるように積層されている。正極板Pと負極板Nとを絶縁するためである。ここで,図2中の矢印Fの示す方向は,図1中の矢印Aの示す方向と同じであり,これらの部材の積層方向である。
【0022】
正極板Pは,正極基板の一部に正極活物質が充填されたものである。正極板Pは,正極充填部P1と正極非充填部P2とを備えている。正極充填部P1は,図2に示すように,セパレータSに挟まれている位置にある。正極非充填部P2は,図2に示すように,セパレータSに挟まれていない位置にある。正極充填部P1は,正極基板に正極活物質が充填されている正極板反応部である。一方,正極非充填部P2は,正極基板に正極活物質が充填されていない正極板非反応部である。正極板反応部は,その表面で電極反応が生じる部分であるとともに,実際に発電に寄与する部分である。ここで,正極基板は,例えば発泡ニッケルである。正極活物質は,例えば水酸化ニッケルである。なお,正極活物質は図2には表れていない。発泡ニッケルの表面にはわずかに形成されているにすぎないからである。
【0023】
負極板Nは,負極基板に負極活物質の充填された負極充填部N1(負極板反応部)と負極非充填部N2(負極板非反応部)とを備えている。負極充填部N1は,図2に示すように,セパレータSに挟まれている位置にある。負極非充填部N2は,図2に示すように,セパレータSに挟まれていない位置にある。ここで,負極基板は,例えばニッケルのパンチングメタルである。負極活物質は,例えば水素吸蔵合金である。
【0024】
また,図2に示すように,正極充填部P1と負極充填部N1とは,セパレータSに接して積層されている。正極非充填部P2の一部は,積層電極体100の一方に突出している。正極非充填部P2の先端部PXは,正極集電板110に接合されている。すなわち,正極基板と正極集電板110とは導通している。負極非充填部N2の一部は,積層電極体100の他方に突出している。その突出する方向は,正極非充填部P2の突出している方向の反対側である。負極非充填部N2の先端部NXは,負極集電板120に接合されている。すなわち,負極基板と負極集電板120とは導通している。ここで,各集電板110,120の厚みは0.4〜1mm程度である。電極板P,Nの厚みは50〜200μm程度である。
【0025】
図2に示すように,正極集電板110の両端には屈曲部111が形成されている。屈曲部111には,端面111aが形成されている。端面111aは,電極板P,Nに対して垂直である。同様に,負極集電板120の両端にも屈曲部121が形成されている。
【0026】
2.電極板と集電板との溶接方法
2−1.用いるレーザの強度分布
本形態の溶接方法について説明する。本形態では,レーザ溶接に用いるレーザの種類に特徴がある。したがって,まず本形態で用いるレーザの種類について説明する。本形態で用いるレーザの強度分布を図3に示す。図3において,横軸は中心からの距離である。縦軸はレーザの強度である。実線は,トップハット型のレーザの強度分布を示している。破線は,ガウシアン型のレーザの強度分布を示している。本形態では,図3に示すようなトップハット型のレーザを用いる。
【0027】
図3には,照射径Φの共通するトップハット型のレーザ(実線)とガウシアン型のレーザ(破線)とが描かれている。ここで照射径Φは,バックグラウンドレベルより有意に大きい強度である照射領域の径のことをいう。例えば,レーザの最大強度の1%以上の出力である照射領域の径のことをいう。
【0028】
レーザの最大強度をMとする。0.9M部分強度照射径をΦQとする。0.9M部分強度照射径とは,レーザの強度分布の最大値Mの10%以上の強度である照射領域の径のことをいう。
【0029】
本形態におけるトップハット型のレーザとは,照射径Φと0.9M部分強度照射径ΦQとの比で定義することができる。すなわち,トップハット型のレーザとは,
ΦQ/Φ≧0.9
の関係式を満たすレーザのことをいう。また,ガウシアン型のレーザとは,
ΦQ/Φ<0.8
の関係式を満たすレーザのことをいう。図3には,トップハット型のレーザおよびガウシアン型のレーザの典型例が示されている。
【0030】
図3では,トップハット型のレーザの最大強度をMTとしている。すると,0.9MT部分強度照射径ΦTは,
ΦT/Φ≧0.9 ………(1)
を満たす。図3では,ガウシアン型のレーザの最大強度をMGとしている。すると,0.9MG部分強度照射径ΦGは,
ΦG/Φ<0.8 ………(2)
を満たす。
【0031】
このように,部分強度照射径ΦQが照射径Φに近い値をとるほど,レーザの強度分布の最大値付近はフラットである。これが,トップハット型のレーザの特徴である。部分強度照射径ΦQが照射径Φより充分に小さい値となるほど,レーザの強度分布の最大値付近のフラットな領域は消失する。これが,ガウシアン型のレーザの特徴である。
【0032】
図3に示すように,出力が同じで照射径Φが同じである場合には,次のような特徴がある。トップハット型のレーザの強度は,レーザの照射中心に近い領域ではガウシアン型のレーザの強度より弱く,レーザの照射中心から遠い領域ではガウシアン型のレーザの強度よりも強い。つまり,トップハット型のレーザを用いた場合には,レーザの照射領域の中心付近に与えられる熱量はガウシアン型のレーザを用いた場合より少ない。そのため,スパッタの発生が抑制される。
【0033】
なお,トップハット型のレーザは,遮光体を用いることにより照射することができる(特開平10−109186号公報の段落[0024],図1,図3参照)。また,リアミラーを用いることにより照射することもできる(特開平9−70681号公報の段落[0034],図5,図9,図10参照)。
【0034】
2−2.溶接方法
続いて,上記のトップハット型のレーザを用いた溶接方法について説明する。図4は,本形態のレーザ溶接の方法を説明する図である。レーザ溶接を行うに際して,加圧治具1000により,積層電極体100を,図4中の左右方向(矢印E)に加圧する。加圧治具1000は,積層電極体100の積層方向(図2の矢印Fの方向)の厚みを薄いものとするための治具である。このように加圧しつつ溶接することにより,電池容器11への収容を可能とするとともに,電池の体積エネルギー密度を高いものとするためである。加圧治具1000は,溶接工程に用いるだけであり,電池セル10には残らない。
【0035】
そして,正極集電板110の屈曲部111は,加圧治具1000の上面1001で支持されている。端面111aは,上面1001と対面して加圧治具1000に接触している。このとき,正極板Pの先端部PXは,正極集電板110に接触している。
【0036】
続いて,レーザを正極集電板110に照射しつつ,図4の矢印Bの向きにレーザを走査する。ここでレーザの走査速度は,例えば65mm/secである。もちろん,これ以外の走査速度であってもよい。図4の矢印Bの方向は,図2に示した矢印Fの方向,すなわち積層電極体100の積層方向に平行である。これにより,正極集電板110におけるレーザ照射箇所は加熱されて溶融する。このレーザの照射箇所112を図5に示す。図5は,図2のLL断面に相当する位置を示す断面図である。ただし,図2には溶接後の溶接体200が示されているのに対し,図5には溶接の最中の様子が示されている。図5には,レーザ照射箇所112と,レーザの照射により溶融した溶融部分113とが示されている。溶融部分113は,図5に示すとおり,正極集電板110の厚み方向にわたって形成されている。
【0037】
そして溶融部分113の一部は,正極板Pの先端部PXに接触した状態で先端部PXに濡れ広がる。この段階で,正極集電板110と正極板Pの先端部PXとは導通している。その溶融部分113へのレーザの照射が終了した後に,溶融部分113は冷却されて凝固する。これにより,正極板Pの先端部PXは,正極集電板110に接合される。そのときの溶接幅Dを図5中に示す。この溶接幅Dは,正極集電板110の裏側における溶融部分113の幅である。
【0038】
レーザは,図4の矢印Bの向きに走査されるので,正極集電板110は積層電極体100の積層方向,すなわち図4の左右方向にわたる複数の正極板Pに溶接される。その溶接される溶接領域Rを図6に示す。溶接領域Rは,レーザを照射されることにより,一旦は溶融して再度凝固する熱影響部(Heat Affected Zone)となる部分である。レーザは,図6の矢印Qの方向に沿って走査されることとなる。なお,図5のHAZは,正極集電板110の表側の熱影響部の幅を示している。
【0039】
ここで,レーザの照射径Φと,狙いとする溶接幅D1とは,次の関係を満たしている。
4×D1 ≦ Φ ≦7×D1
正極集電板110の表側の熱影響部の幅HAZを溶接幅Dの4〜7倍とするためである。
【0040】
同様に,負極集電板120を積層電極体100の負極板Nの先端部NXに溶接する。これにより,正極集電板110および負極集電板120が積層電極体100に溶接された溶接体200が作成される。この溶接体200は,図2に示したとおりである。
【0041】
図6に示す溶接領域R,すなわち熱影響部の表面110a側の幅HAZは,レーザの照射径Φにほとんど等しい。すなわち,本形態に係る電池セルの溶接体200では,集電板110,120の溶接幅Dの4〜7倍の幅の熱影響部が,集電板110,120の表面に形成されている。かかる溶接体200を有する電池セル10は,好適な溶接がなされているといえる。つまり,溶接不良がほとんど生じていない。また,集電板110,120に穴が開いていることもなく,スパッタが積層電極体100の内部に入り込むおそれもほとんどない。また,セパレータ焼けも生じていない。
【0042】
2−3.レーザの照射径Φと良品条件との関係
ここで,レーザの照射径Φと良品条件との関係について説明する。図7は,異なるレーザの照射径とレーザの出力のレーザを用いて溶接した場合に,溶接幅Dの不足やセパレータ焼け等の溶接不良が生ずるか否かを示したグラフである。横軸はレーザの出力である。縦軸はレーザの照射径Φである。なお,ここで用いたレーザは,式(1)を満たすトップハット型のレーザである。
【0043】
図7および後述する図8に示す結果は,次の条件で溶接を行ったものである。
集電板110,120の板厚t : 0.4mm
狙いとする溶接幅D1 : 0.5mm
レーザの走査速度 : 65mm/sec
【0044】
図7において,「×」印は,溶接に際して集電板の穴あきやスパッタが生じていることを示している。菱形の印は,セパレータ焼けが生じていることを示している。三角形の印は,溶接幅Dが不足していることを示している。「○」印は,上記のいずれの問題点も生じていないことを示している。すなわち,良品であることを示している。
【0045】
図7には,4つの領域U,V,W,Xが存在する。領域Uは,照射径Φが1.5mm未満のトップハット型のレーザを用いた場合を示す領域である。領域Uでは,図7に示すように,集電板の穴あきやスパッタが発生する。領域Uではレーザの照射径が小さいので,図9に示すようにレーザが正極集電板110を貫通してしまう。つまり,正極集電板110に穴があいてしまうこととなる。領域Uではさらに,溶接幅が不足している。つまり,品質を満足する溶接を行うことができない。
【0046】
照射径Φが2mm以上(D1の4倍以上)の場合には,領域V,W,Xがある。レーザの出力の低い順から領域V,X,Wとなっている。領域Vは,図7中の三角形の印を結んだ線より左側の領域である。領域Wは,図7中の菱形の印を結んだ線より右側の領域である。領域Xは,領域Vと領域Wの中間にある。
【0047】
レーザの出力の低い領域Vでは,溶接幅が不足している。逆にレーザの出力の高い領域Wでは,セパレータ焼けが生じている。領域Xでは,良品品質を満足する溶接体200が作成される。つまり,この溶接体200には,穴あきやスパッタの発生,セパレータ焼け,溶接幅不足といった問題点が生じていないのである。
【0048】
このように,レーザの照射径Φを,狙いとする塗工幅D1の4倍以上としたうえで,レーザの出力を適宜選択すれば,好適なレーザ溶接を行うことができる。一方,レーザの照射径Φが狙いとする溶接幅D1の7倍を超えると,レーザのエネルギー密度は低いものとなる。そのため,溶接幅Dを確保するためにはレーザの出力を高いものとする必要がある。このときの入熱量の総量は大きい。この場合にはセパレータ焼けも発生しやすいため,好ましくない。
【0049】
2−4.ガウシアン型レーザを用いた場合
続いて,本形態のトップハット型のレーザではなく,ガウシアン型のレーザを用いた場合について説明する。図8は,ガウシアン型のレーザを用いた結果を示すグラフである。このとき狙いとする溶接幅は,集電板110,120の板厚t以上の幅である。したがって,図7のトップハット型のレーザを用いた場合と同様に,溶接幅を0.5mmとする。図8で用いたレーザは,式(2)を満たすガウシアン型のレーザである。
【0050】
図8の場合においても,図7に示した場合と同様に,適切なレーザの照射径とレーザの出力を選ぶことにより,良品品質を満足する溶接体200が得られた。ただし,図8において,良品品質を満足するようなレーザの照射径とレーザの出力の組み合わせの領域は,図7に示した領域よりも狭い。すなわち,ガウシアン型のレーザのほうが好適に溶接を行うことができる領域が狭い。逆に,トップハット型のレーザのほうが好適に溶接を行うことができる領域が広い。このように薄いT字型突合せ溶接であって,スパッタの飛散を抑制するとともに,セパレータ焼けを回避する必要のある電池の製造工程においては,トップハット型のレーザが好ましい。
【0051】
以上述べたように,図7に示したように,トップハット型のレーザを用いる場合には,照射径Φが2.0〜3.5mmのレーザを選ぶとよい。ただし,これは狙いとする溶接幅D1が0.5mmの場合である。このときの照射径は,狙いとする溶接幅D1の4〜7倍である。狙いとする溶接幅D1が0.5mmでない場合には,溶接に好適な照射径Φは図7に示したものとは異なることとなる。その場合であっても,照射径が溶接幅の4〜7倍であるレーザを用いればよい。
【0052】
図8に示したように,ガウシアン型のレーザを用いる場合には,照射径Φが2.5〜3.5mmのレーザを選ぶとよい。ただし,これは狙いとする溶接幅D1が0.5mmの場合である。このときの照射径は,狙いとする溶接幅D1の4〜7倍である。狙いとする溶接幅D1が0.5mmでない場合には,溶接に好適な照射径Φは図7に示したものとは異なることとなる。その場合であっても,照射径が溶接幅の4〜7倍であるレーザを用いればよい。
【0053】
集電板110,120として,本形態のものとは板厚の異なるものを用いたとしても,溶接幅の4〜7倍の照射径のトップハット型のレーザを用いることができる。レーザの出力を変えることにより,好適な溶接を行うことができるからである。
【0054】
なお,集電板110,120の板厚tは,前述のものに限らない。例えば,0.4〜1mm程度であるとよい。もちろん,それ以外の値であってもよい。狙いとする溶接幅D1は,集電板110,120の板厚t以上であることが望ましい。溶接強度を保持するとともに,電気抵抗を大きいものとしないためである。
【0055】
3.電池の製造方法
本実施の形態に係る電池の製造方法は,上記の積層電極体100と正極集電板110や負極集電板120との溶接方法を実施することに特徴のあるものである。
【0056】
3−1.電極板作成工程
正極板Pは,正極基板に正極活物質を充填することにより作成される。ここで,正極基板のうち正極活物質を充填された箇所が正極充填部P1となる。正極基板のうち正極活物質を充填されていない箇所が正極非充填部P2となる。負極板Nは,負極基板に負極活物質を塗着することにより作成される。ここで,負極基板のうち負極活物質を充填された箇所が負極充填部N1となる。負極基板のうち負極活物質を充填されていない箇所が負極非充填部N2となる。
【0057】
3−2.積層電極体作成工程
続いて,正極板P,負極板N,セパレータSを積層する。その際に,正極板Pと負極板Nとが交互になるように配置する。そして,正極板Pと負極板Nとの間に必ずセパレータSをはさんだ状態で積層する。その際に,正極板Pの正極非充填部P2が一方から突出するようにするとともに,負極板Nの負極非充填部N2がその反対側に突出するように積み重ねる。これにより,積層電極体100が作成される。
【0058】
3−3.集電板溶接工程
次に,正極集電板110および負極集電板120を積層電極体100に溶接する。図4に,溶接前の積層電極体100と正極集電板110を示す。ここでは,前述のとおり,狙いとする溶接幅の4〜7倍の照射径であるレーザを用いて正極集電板110を正極非充填部P2の先端部PXに溶接する。同様に,負極集電板120を負極非充填部N2の先端部NXに溶接する。これらの接合の順序はどちらでもよい。
【0059】
3−4.電池組立工程
続いて,電池容器11に積層電極体100を挿入する。そして電池容器11の内部に電解液を注入する。これにより,積層電極体100は,電解液に浸されることとなる。続いて,封口板12を電池容器11に接合する。これにより,本形態の電池セル10が組み立てられる。この後,各種の検査工程を行うとよい。以上の工程を経ることにより,本形態の電池セル10が製造される。
【0060】
4.変形例
本形態の変形例について図10に示す。図10に示すように,正極集電板210には,凹部211が形成されている。正極集電板210における凹部211の箇所の厚みは,その他の箇所の厚みの半分程度である。すなわち,凹部211は,薄肉部である。この凹部211の幅は,狙いとする溶接幅D1と同程度である。この凹部210は,正極板Pと溶接される側の反対側に形成されている。
【0061】
なお,溶接に際しては,レーザの照射径を狙いとする溶接幅D1,すなわち凹部211の幅よりもわずかに大きい照射径のレーザを用いるとよい。凹部211の厚みが薄いため,レーザのエネルギーをより小さいものとすることができる。これにより,スパッタの発生を抑制することができる。なお,凹部211は,溶接を施す領域に部分的にプレス処理を施すことにより形成することができる。凹部211の幅D2は,照射径Φよりわずかに小さい。
【0062】
5.まとめ
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係る電池は,正極集電板110を正極非充填部P2の先端部PXに溶接する際にトップハット型のレーザを用いて製造されたものである。負極集電板120を負極非充填部N2の先端部NXに溶接する際も同様である。そのため,溶接幅が充分な溶接を行うことができる。また,積層電極体100でセパレータ焼けがほとんど起こっていない。また,スパッタもほとんど積層電極体100に入っていない。これにより,内部短絡をほとんど生じない電池が実現されている。
【0063】
また,本形態に係る電池の製造方法では,溶接にトップハット型のレーザを用いた。したがって,溶接の際にスパッタがほとんど発生しない。また,正極基板もしくは負極基板を溶融しすぎるおそれがほとんどない。よって,セパレータSを溶融させることがほとんどない。つまり,内部短絡を起こしにくい電池を製造することができる。さらに,ビーム溶接のように真空状態とする必要もない。本形態に係るトップハット型のレーザを用いたレーザ溶接のほうがガウシアン型のレーザを用いたレーザ溶接よりも好適に溶接を行うことができる領域が広い。
【0064】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,ニッケル水素電池に限らない。リチウムイオン電池にも適用することができる。その場合であっても,正極板反応部および正極板非反応部を有する正極板と,負極板反応部および負極板非反応部を有する負極板とを有し,それぞれ正極集電板と負極集電板とに溶接すればよい。その他,正極非充填部P2の先端部PXを正極集電板110に溶接し,あるいは負極非充填部N2の先端部NXを負極集電板120に溶接するような電池であれば,適用することができる。
【0065】
また本形態では,溶接の際に,正極集電板110と正極板Pの先端部PXとが既に接触していることとした。しかし,これらの間にわずかな隙間があってもよい。溶接を行うことができることに変わりないからである。
【0066】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。本形態では,第1の実施形態と同様にトップハット型のレーザを用いる。第1の実施形態と異なる点は,レーザを走査する走査方法である。したがって,レーザの走査方法を中心に説明する。
【0067】
第1の実施形態で述べたように,図2に示した溶接体200の正極集電板110の両端には,屈曲部111が形成されている。屈曲部111の箇所の板厚は,他の箇所の板厚よりも厚い。そのため,積層電極体100の積層方向(図2の矢印F)の端部付近,すなわち屈曲部111の付近の溶接箇所では,その他の溶接箇所に比べて温度が上昇しにくい。レーザの照射箇所の熱が,屈曲部111の方へ逃げるためである。そのため,図11に示すように,屈曲部111の付近で接合不良が生じやすい。これは負極側であっても同様である。
【0068】
屈曲部111の付近で接合不良が生じないようにするためには,屈曲部111の周囲の箇所にその他の箇所より多くの熱を与えるようにすればよい。したがって本形態では,図6の溶接領域Rで示した以外の屈曲部111の周囲の箇所にレーザを照射することを特徴とする。
【0069】
1.溶接方法
本形態のレーザ溶接におけるレーザの走査方法について説明する。レーザの走査方法を図12に示す。図12は,図4中の矢印Cの方向から見た図である。図12に示すように,溶接を施すべき領域は,地点Yから地点Zまでの領域である。地点Y,地点Zは,屈曲部111の形成されている箇所のすぐ内側に位置している。溶接幅は0.5mmである。本形態では,図12に示すように,レーザを3回照射する。
【0070】
1回目のレーザの走査では,地点Y1から地点Y2まで矢印Iの向きにレーザを走査する。矢印Iの向きは,積層電極体100の積層方向(図2の矢印Fの方向)に垂直な方向である。また,矢印Iの向きは,屈曲部111が形成されている方向に平行である。地点Y1から地点Y2までの走査領域には,溶接を施すべき領域の端部である地点Yが含まれている。
【0071】
2回目のレーザの走査では,地点Yから地点Zまで矢印Jの向きにレーザを走査する。矢印Jの向きは,積層電極体100の積層方向(図2の矢印Fの方向)に平行な方向である。また,矢印Jの向きは,矢印Iの向きに垂直な方向である。この2回目のレーザが走査される領域が,溶接を施すべき領域である。
【0072】
3回目のレーザの走査では,地点Z1から地点Z2まで矢印Kの向きにレーザを走査する。矢印Kの向きは,積層電極体100の積層方向(図2の矢印Fの方向)に垂直な方向である。矢印Kの向きは,矢印Iの向きに平行であるとともに,矢印Jの向きに垂直である。また,矢印Kの向きは,屈曲部111が形成されている方向に平行である。地点Z1から地点Z2までの走査領域には,溶接を施すべき領域の端部である地点Zが含まれている。
【0073】
これにより,積層電極体100の積層方向にわたって,確実な溶接を行うことができる。また,1回目の終点と2回目の始点である地点Yとの距離は,比較的短い。この距離は,1回目のレーザを照射し終わってから2回目のレーザを照射し始めるまでにレーザ照射地点を動かす距離である。したがって,1回目のレーザを照射し終わってから2回目のレーザを照射し始めるまでに要する時間は短い。例えば10ミリ秒(10msec)ぐらいである。そのため,2回目のレーザを照射するときには,その始点の温度は1回目のレーザによる加熱を受けたときの温度とそれほど変わらない。そのため,地点Yでは,溶接に充分な熱量が与えられる。そして,熱量のロスもほとんどない。
【0074】
2回目の終点である地点Zと3回目の始点との距離も,比較的短い。そのため,3回目のレーザが地点Zを照射するときには,地点Zの温度は2回目のレーザによる加熱を受けたときの温度とそれほど変わらない。また,熱量のロスもほとんどない。
【0075】
ここで,地点Y1から地点Y2までのレーザの移動距離は1mm程度である。地点Z1から地点Z2までのレーザの移動距離も1mm程度である。レーザによる加熱が不充分となりやすい箇所を余分に加熱するために行う工程であるため,この程度の走査距離で充分である。ただし,この距離は例示であり,適宜変更しても構わない。また,1回目と3回目のレーザの走査速度を変更することにより,屈曲部111の周囲へ与える熱量を調整することもできる。
【0076】
また,地点Yおよび地点Zでは,レーザが都合2回走査されることとなる。そのため,地点Yおよび地点Zでは,地点Yから地点Zまでにわたる他の領域よりも多くの熱が与えられることとなる。
【0077】
以上により,地点Yから地点Zに至るまでの溶接が行われて,積層電極体100の正極板Pの先端部PXが正極集電板110に溶接されるとともに,屈曲部111の周辺にも充分に熱が与えられる。本形態では,溶接範囲の両端である地点Y,Zにレーザが2回照射されることとなる。これにより,確実な溶接が行われることとなる。
【0078】
溶接後の正極集電板110の表側の面の状態について図13により説明する。ここで表側とは,溶接により積層電極体100と溶接されない側のことである。裏側とは,溶接により積層電極体100と溶接される側のことである。正極集電板110の表側の面には,I字形状の熱影響部が形成されている。地点Yから地点Zにかけて熱影響部HAZ2が形成されている。地点Yを含むとともに,積層電極体100の積層方向に垂直に熱影響部HAZ1が形成されている。地点Zを含むとともに,積層電極体100の積層方向に垂直に熱影響部HAZ3が形成されている。
【0079】
熱影響部HAZ1,熱影響部HAZ2,熱影響部HAZ3はそれぞれ,1回目に走査されたレーザ,2回目に走査されたレーザ,3回目に走査されたレーザにより形成された溶接痕である。熱影響部HAZ1,熱影響部HAZ2,熱影響部HAZ3は,互いに接触している。そのため,これらの境目は明確ではない。熱影響部HAZ2は,積層方向に形成された積層方向熱影響部である。熱影響部HAZ1は,第1の接触熱影響部である。熱影響部HAZ3は,第2の接触熱影響部である。
【0080】
2.従来におけるレーザの走査方法との比較
ここで,図12の矢印Iで示す1回目の走査および矢印Kで示す3回目の走査がなかった場合について説明する。その場合,図14のようになる。正極集電板110の端部114は分厚い。つまり,熱容量が大きい。したがって,端部114の付近では,温度が上昇しにくい。端部115の付近についても同様である。したがって,端部114の周辺および端部115の周辺に余計に加熱するために,端部114から端部115までにわたってレーザが走査されることとなる。
【0081】
端部114や端部115にレーザを照射する場合には,レーザ照射領域の半分は正極集電板110に,残りの半分は加圧治具1000の上面1001に照射されることとなる。その場合には,加圧治具1000を損傷させるおそれがある。また,このようにしても,図11に示すように,端部114,115のすぐ内側の箇所で溶接不良が生じるおそれがある。
【0082】
一方,レーザの照射領域を地点Yから地点Zまでとした場合には,図11に示すように,屈曲部111の付近で接合不良が生じやすい。以上述べたように本実施の形態では,積層電極体100の積層方向(図2の矢印F)の端部付近で溶接不良が生じないようにするという問題点を解決することができる。
【0083】
3.電池の製造方法
本形態の電池の製造方法は,前述の溶接方法を用いる。溶接方法以外の電池の製造工程は,第1の実施形態で説明したとおりである。
【0084】
4.電池
本形態の電池の外形は,図1に示した電池セル10の部分破断斜視図で示したものと同様である。第1の実施形態と異なる点は,正極集電板110や負極集電板120に残る熱影響部である。本形態の電池セルには,図13で示すようなI次形状の熱影響部が形成されている。すなわち,積層電極体100の積層方向(図2の矢印Fの方向)に,地点Yから地点Zにわたって熱影響部が形成されている。また,積層電極体100の電極板(正極板Pおよび負極板N)の板面方向に平行に地点Yを通る熱影響部が形成されている。そして,積層電極体100の電極板の板面方向に平行に地点Zを通る熱影響部が形成されている。
【0085】
本形態の電池セルは,前述のとおり溶接不良のほとんどないものである。したがって,積層電極体100の積層方向における両端に配置された正極板Pおよび負極板Nからも好適に集電することができる。
【0086】
5.変形例
5−1.レーザの走査順序
また,レーザを走査する順番を入れ替えてもよい。例えば,1回目のレーザの走査で,矢印Jの向きに地点Yから地点Zまでレーザを走査した後に,2回目のレーザの走査で,地点Y1から地点Y2まで走査し,3回目のレーザの走査で,地点Z1から地点Z2まで走査することとしてもよい。
【0087】
5−2.レーザの走査方向
本形態では,図12に示したように,1回目のレーザを矢印Iの向きに,2回目のレーザを矢印Jの向きに,3回目のレーザを矢印Kの向きに照射した。しかし,このレーザを照射する向きは逆向きであってもよい。また,地点Yから地点Zまでにレーザの走査を,1回目,もしくは3回目に行うこととしてもよい。ただし,最初に地点Yにレーザが走査されてから次に地点Yにレーザが走査されるまでの時間は短いほうがよい。熱効率がよいためである。地点Zについても同様である。
【0088】
5−3.レーザ溶接の熱影響部
本形態では,1回目(図12の矢印I)のレーザと3回目のレーザ(図12の矢印K)は,電極板(正極板Pおよび負極板N)の板面方向に平行に走査することとした。しかし,必ずしも,1回目のレーザと2回目のレーザを電極板(正極板Pおよび負極板N)の板面方向に平行に走査する必要はない。例えば,図15に示すように,電極板の板面方向に平行な方向からずれた方向に走査することとしてもよい。このようにしても,地点Yおよび地点Zに熱が余計に与えられることに変わりないからである。図15の場合においても,熱影響部HAZ5は,熱影響部HAZ4,HAZ6と接触している。
【0089】
また,1回目のレーザと3回目のレーザを,必ずしも地点Yおよび地点Zを通るように走査する必要はない。図16や図17に示すように,地点Yおよび地点Zの周囲をレーザが走査されるようにすればよいからである。図16では,熱影響部HAZ7,HAZ9は,熱影響部HAZ8に交差している。つまり,熱影響部HAZ8は,熱影響部HAZ7,HAZ9に少なくとも接触している。
【0090】
なお,熱影響部HAZ7は,地点Yから積層方向の内側1mm以内の地点を狙ってレーザを走査することにより形成されたものである。熱影響部HAZ9は,地点Zから積層方向の内側1mm以内の地点を狙ってレーザを走査することにより形成されたものである。すなわち,地点Y,Zから積層方向の内側に,狙いとする溶接幅D1の4倍以内の範囲内にレーザを走査することにより形成されたものである。
【0091】
図17でも,熱影響部HAZ11は,熱影響部HAZ10,熱影響部HAZ12に少なくとも接触している。熱影響部HAZ10は,地点Yから積層方向の外側1mm以内の地点を狙ってレーザを走査することにより形成されたものである。熱影響部HAZ12は,地点Zから積層方向の外側1mm以内の地点を狙ってレーザを走査することにより形成されたものである。すなわち,地点Y,Zから積層方向の外側に,狙いとする溶接幅D1の4倍以内の範囲内にレーザを走査することにより形成されたものである。
【0092】
5−4.レーザの種類
本形態では,第1の実施形態と同様に,トップハット型のレーザを用いてレーザ溶接を行うこととした。しかし,トップハット型とは異なるレーザを用いた場合であっても,屈曲部111の付近で温度が上昇しにくいことに変わりない。したがって,トップハット型とは異なるレーザを用いた場合であっても,本形態のレーザの走査方法を用いることができる。また,ビーム溶接やその他の溶接であっても同様に適用できる。
【0093】
5−5.集電板の凹部
第1の実施形態のところで説明したように,図10に示したように,集電板110,120に凹部が形成されているものを用いてもよい。
【0094】
6.まとめ
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係る電池は,正極集電板110を正極非充填部P2の先端部PXに溶接する際にトップハット型のレーザを用いて製造されたものである。負極集電板120を負極非充填部N2の先端部NXに溶接する際も同様である。そのため,積層電極体100でセパレータ焼けがほとんど起こっていない。また,スパッタもほとんど積層電極体100に入っていない。これにより,内部短絡をほとんど生じない電池が実現されている。
【0095】
また,本形態に係る電池の製造方法では,溶接にトップハット型のレーザを用いた。したがって,溶接の際にスパッタがほとんど発生しない。また,正極基板もしくは負極基板を溶融しすぎるおそれがほとんどない。よって,セパレータSを溶融させることがほとんどない。つまり,内部短絡を起こしにくい電池を製造することができる。さらに,ビーム溶接のように真空状態とする必要もない。
【0096】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,ニッケル水素電池に限らない。リチウムイオン電池にも適用することができる。その場合であっても,正極板反応部および正極板非反応部を有する正極板と,負極板反応部および負極板非反応部を有する負極板とを有し,それぞれ正極集電板と負極集電板とに溶接すればよい。その他,正極非充填部P2の先端部PXを正極集電板110に溶接し,あるいは負極非充填部N2の先端部NXを負極集電板120に溶接するような電池であれば,適用することができる。
【符号の説明】
【0097】
10…電池セル
100…積層電極体
110,210…正極集電板
111,121…屈曲部
120…負極集電板
200…溶接体
211…凹部
P…正極板
P1…正極充填部
P2…正極非充填部
PX…先端部
N…負極板
N1…負極充填部
N2…負極非充填部
NX…先端部
S…セパレータ
D…溶接幅
D1…狙いとする溶接幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と負極板とをセパレータを間に介在させて交互に配置した電極体を,集電体に溶接する溶接方法において,
前記正極板と前記負極板との少なくとも一方の前記集電体への溶接を,
バックグラウンドレベルより有意に大きい強度の照射領域である照射径Φが,次の関係
ΦT/Φ ≧ 0.9
ΦT : 0.9T部分強度照射径(最大強度の10%以上の強度である照射領域の径)
を満たすとともに,次の関係
4×D1 ≦ Φ ≦7×D1
D1 : 狙いとする溶接幅
を満たすレーザを用いて行うことを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
電解液中で電極反応を起こす正極板反応部と電解液中で電極反応を起こさない正極板非反応部とを備える正極板と,電解液中で電極反応を起こす負極板反応部と電解液中で電極反応を起こさない負極板非反応部とを備える負極板と,セパレータとを,前記正極板および前記負極板を交互にしつつ前記正極板および前記負極板の間に前記セパレータを挟んで配置するとともに,前記正極板非反応部の少なくとも一部と前記負極板非反応部の少なくとも一部とを互いに反対方向に突出させるように積層して積層電極体とする積層電極体作成工程と,
前記積層電極体から突出している前記正極板非反応部に正極集電板を溶接するとともに,前記積層電極体から突出している前記負極板非反応部に負極集電板を溶接して溶接体とする集電板溶接工程と,
前記溶接体を電池容器に挿入するとともに電解液を注入した後に前記電池容器を密閉する電池組立工程とを有する電池の製造方法において,
前記集電板溶接工程では,
バックグラウンドレベルより有意に大きい強度の照射領域である照射径Φが,次の関係
ΦT/Φ ≧ 0.9
ΦT : 0.9T部分強度照射径(最大強度の10%以上の強度である照射領域の径)
を満たすとともに,次の関係
4×D1 ≦ Φ ≦7×D1
D1 : 狙いとする溶接幅
を満たすレーザを用い,
そのレーザを,前記積層電極体の一方の端部における前記正極板非反応部または前記負極板非反応部の箇所から他方の端部における前記正極板非反応部または前記負極板非反応部の箇所まで,前記積層方向に走査することを特徴とする電池の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の電池の製造方法において,
前記正極集電板および前記負極集電板の少なくとも一方として,前記積層方向の両端部に屈曲部が形成されたものを用い,
前記集電板溶接工程では,
前記積層方向へのレーザを前記屈曲部の内側に照射し,そのレーザの照射領域の両端部の前記積層方向の内側1mm以内もしくは前記両端部の前記積層方向の外側1mm以内に,レーザを走査することを特徴とする電池の製造方法。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の電池の製造方法において,
前記正極集電板および前記負極集電板の少なくとも一方として,前記集電板溶接工程で溶接される領域の厚みがその他の領域の厚みより薄い薄肉部を有するものを用い,
前記集電板溶接工程では,
前記薄肉部に,前記正極板非反応部もしくは前記負極板非反応部を溶接することを特徴とする電池の製造方法。
【請求項5】
電解液中で電極反応を起こす正極板反応部と電解液中で電極反応を起こさない正極板非反応部とを備える正極板と,電解液中で電極反応を起こす負極板反応部と電解液中で電極反応を起こさない負極板非反応部とを備える負極板と,セパレータとが,前記正極板および前記負極板を交互にしつつ前記正極板および前記負極板の間に前記セパレータを挟んで配置するとともに,前記正極板非反応部の少なくとも一部と前記負極板非反応部の少なくとも一部とを互いに反対方向に突出させた状態で積層された積層電極体と,
前記積層電極体から突出している前記正極板非反応部と溶接された正極集電板と,
前記積層電極体から突出している前記負極板非反応部と溶接された負極集電板とを有する電池において,
前記正極集電板および前記負極集電板の少なくとも一方における表側の熱影響部の幅が,
その集電板における裏側の溶接幅の4〜7倍であることを特徴とする電池。
【請求項6】
電解液中で電極反応を起こす正極板反応部と電解液中で電極反応を起こさない正極板非反応部とを備える正極板と,電解液中で電極反応を起こす負極板反応部と電解液中で電極反応を起こさない負極板非反応部とを備える負極板と,セパレータとが,前記正極板および前記負極板を交互にしつつ前記正極板および前記負極板の間に前記セパレータを挟んで配置するとともに,前記正極板非反応部の少なくとも一部と前記負極板非反応部の少なくとも一部とを互いに反対方向に突出させた状態で積層された積層電極体と,
前記積層電極体から突出している前記正極板非反応部と溶接された正極集電板と,
前記積層電極体から突出している前記負極板非反応部と溶接された負極集電板とを有する電池において,
前記正極集電板と前記正極板非反応部との溶接部および前記負極集電板と前記負極板非反応部との溶接部の少なくとも一方では,
前記積層電極体の積層方向における一方の端部から他方の端部にわたる積層方向熱影響部と,
前記一方の端部の側で前記積層方向熱影響部と少なくとも接触している第1の接触熱影響部と,
前記他方の端部の側で前記積層方向熱影響部と少なくとも接触している第2の接触熱影響部とが形成されているものであることを特徴とする電池。
【請求項7】
請求項6に記載の電池において,
前記正極集電板および前記負極集電板の少なくとも一方における表側の熱影響部の幅が,
その集電板における裏側の溶接幅の4〜7倍であることを特徴とする電池。
【請求項8】
請求項5から請求項7までのいずれかに記載の電池において,
前記正極集電板および前記負極集電板の少なくとも一方に,
前記熱影響部の少なくとも一部に薄肉部が形成されているものであることを特徴とする電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−43609(P2012−43609A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183141(P2010−183141)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(399107063)プライムアースEVエナジー株式会社 (193)
【Fターム(参考)】