説明

溶接用ロボット

【課題】溶接用ロボットの姿勢を変更しても画像センサが邪魔にならないようにする。
【解決手段】溶接用ロボット1において、アーム部15の先端に手首部16を介して溶接ツール17を取り付ける。手首部16に移動手段26を取り付けると共に移動手段26を介して画像センサ25を取り付け、この移動手段26を、画像センサ25を溶接ツール17に対して移動させる構造とする。また、移動手段26を、画像センサ25を手首部16の軸芯に沿って移動させる構造とする。或いは、移動手段26を、画像センサ25を手首部16の軸芯回りに移動させる構造とする。移動手段26を、画像センサ25を手首部16の軸芯に対して垂直方向に移動させる構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多軸の動作によって制御されるアーム部を動かして溶接を行う溶接用ロボットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、多軸の動作によってアーム部を動かしながら溶接を行う溶接用ロボットにおいては、溶接位置などを設定するためにセンシングを行うことが一般に行われている。溶接用ロボットでは、センシング用にセンサが設けられているが、センサを設ける技術として特許文献1や特許文献2に示すものがある。
特許文献1の溶接用ロボットでは、XYZ3軸方向に移動可能なアーム部支持部と、このアーム部支持部に一端が固定されてワーク表面に向かって垂直方向に伸びる軸を有するとともにこの軸のまわりに回動自在な第1アーム部と、この第1アーム部の他端に一端が固定されて垂直方向に対して直角に伸びる軸を有するとともにこの軸のまわりに回動自在な第2アーム部と、この第2アーム部の他端に一端が固定されてレーザ光投射面内にて第2アーム部の軸と斜交する軸を有し、この軸に沿い他端の加工用レーザノズルから被溶接物の端面にレーザ光を出射する第3アーム部とを備え、第3アーム部にトラッキングセンサが固定されている。
【0003】
特許文献2の溶接用ロボットでは、アーム部先端部には溶接トーチ及びレーザセンサが取り付けられ、レーザセンサによってレーザビームでロボット進行方向側のセンシング領域を偏向走査し、CCDカメラでその軌跡を撮像している。そして、この溶接用ロボットでは、撮像した映像に基づいて溶接線の位置が計算されて、計算された溶接線に基づいてトラッキング用の教示データを作成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−9373号公報
【特許文献2】特開平7−104831号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の溶接用ロボットでは、トラッキングセンサが第3アーム部に固定していて移動不能になっているため、例えば、溶接用ロボットの姿勢を変更したときにトラッキングセンサがワークやワーク周辺の機材などに接近して溶接用ロボットによる溶接ができない場合があった。また、特許文献2の溶接用ロボットであっても、レーザセンサがアーム部先端部に固定されているため、特許文献1と同様に、溶接用ロボットの姿勢によっては溶接ができない場合があった。即ち、特許文献1や特許文献2では、溶接用ロボットの姿勢によっては、センシングするためのセンサが邪魔になることがあった。このような場合、溶接用ロボットによる溶接を一時的に中断して、人手によって溶接を行うこともあった。
【0006】
そこで、本発明は、問題点に鑑み、溶接用ロボットの姿勢に関わらず、画像センサが邪魔にならず自由に画像センサを移動させることができる溶接用ロボットを提供するようにしたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明においては以下の技術的手段を講じた。
即ち、本発明における課題解決のための技術的手段は、多軸の動作によって制御されるアーム部を有する溶接用ロボットにおいて、前記アーム部の先端には、手首部を介して溶接ツールが取り付けられ、前記手首部には、移動手段が取り付けられると共に当該移動手段を介して画像センサが取り付けられ、前記移動手段は、前記画像センサを前記溶接ツールに対して移動させることができるように構成されている点にある。
【0008】
前記移動手段は、前記画像センサを前記手首部の軸芯に沿って移動させることができるように構成されていることが好ましい。
前記移動手段は、前記画像センサを前記手首部の軸芯回りに移動させることができるように構成されていることが好ましい。
前記移動手段は、前記画像センサを前記手首部に対して近接離反移動させることができるように構成されていることが好ましい。
【0009】
前記手首部に代えて溶接ツールに移動手段が取り付けられていることが好ましい。
前記移動手段は、前記画像センサを前記溶接ツールに沿って移動させることができるように構成されていることが好ましい。
前記移動手段は、前記画像センサを前記溶接ツール回りに移動させることができるように構成されていることが好ましい。
【0010】
前記移動手段は、前記画像センサを前記溶接ツールに対して近接離反移動させることができるように構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、溶接用ロボットの姿勢に関わらず、画像センサが邪魔にならず自由に画像センサを移動させることができる。それゆえ、例えば、溶接用ロボットにおける溶接を中断することなく溶接を続けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】アーク溶接を行う溶接用ロボットと、この溶接用ロボットを制御する制御装置との全体図である。
【図2】第1実施形態の溶接用ロボットにおける手首部付近の拡大図である。
【図3】第2実施形態の溶接用ロボットにおける手首部付近の拡大図である。
【図4】第2実施形態の溶接用ロボットにおける手首部の断面図である。
【図5】第3実施形態の溶接用ロボットにおける溶接ツール付近の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1実施形態]
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1は、アーク溶接を行う溶接用ロボット1と、この溶接用ロボット1を制御する制御装置2との全体図を示したものである。
図1に示すように、溶接用ロボット1は、例えば、垂直多関節型の6軸のロボットであって、据付ベース3に近い第1軸4から順に、第2軸5、第3軸6、第4軸7、第5軸8及び第6軸9の回転軸を備える。それぞれの回転軸は、据付ベース3から順に設けられた第1リンク部材11、第2リンク部材12、第3リンク部材13、第4リンク部材14、第5リンク部材15(アーム部)によって接続され、据付ベース3から最も離れていて一端が第6軸9に連結される第6リンク部材16(手首部)には、溶接を行う溶接ツール17が設けられている。即ち、溶接用ロボット1の先端部に着目すると、アーム部15の先端には手首部16が設けられ、この手首部16を介して溶接ツール17が設けられているものとなっている。
【0014】
制御装置2は、教示データにしたがって溶接用ロボット1をコントロールすると共に溶接用ロボット1側からのデータの処理を行う制御盤20と、この制御盤20に各種命令や教示位置を入力したり教示プログラムに設定された命令の実行を指示する教示ペンダント21と、教示データをオフラインにて作成等を行うコンピュータ22(パーソナルコンピュータ)とを備えている。
【0015】
以下、本発明の溶接用ロボット1について詳しく説明する。
溶接用ロボット1では、多数の回転軸4〜9の周りにリンク部材11〜16を揺動又は回転させることによって溶接ツール17に設けた溶接トーチ24の向きを変えワークの溶接を行うのが一般的である。溶接トーチ24の向きを変えた場合、手首部16に設けた画像センサ25がワークやワーク周辺の機材(例えば、ワークを支持する台座や設置壁)に干渉することがあり、画像センサ25が溶接トーチ24を動かす制約となることがある。そこで、本発明では、手首部16に移動手段26を取り付け、この移動手段26に画像センサ25を取り付けている。
【0016】
まず、画像センサ25について説明する。図2に示すように、画像センサ25は、CCDカメラ等で構成された撮像部27と、スリット状又はシート状のレーザ光を発光する投光部28と、撮像部27や投光部28を収容するケース29とを備えている。
このような画像センサ25では、投光部28からレーザ光を溶接トーチ24又はワークに向けて出射し、レーザ光を含む溶接トーチ24やワークを撮像部27によって撮像し、撮像した画像を処理することによって距離を計測することができる。
【0017】
図2に示すように、移動手段26は、画像センサ25の干渉を防止すべく当該画像センサ25を移動させるもので、手首部16の軸芯方向に沿って直線移動するスライド装置で構成されている。
このスライド装置26は、例えば、手首部16の軸芯方向に沿って延びていて周面に雄ネジ部が形成された長尺のネジ軸と、このネジ軸に螺合する雌ネジ部を有していて、ネジ軸の回転に伴って当該ネジ軸の軸心に沿って移動する移動体と、を備えたものである(ネジ軸、移動体とも図示省略)。ネジ軸は手首部16の下側に配備されて、当該ネジ軸を移動する移動体に画像センサ25が取り付けられている。撮像部27の光軸及び投光部28のレーザ光の出射方向が溶接トーチ24に向けられるようにケース29内が移動体に装着されている。
【0018】
したがって、スライド装置26の移動体を手首部16の軸芯方向に沿って移動させることにより、画像センサ25をスライド移動させることができる。
このような溶接用ロボット1では、リンク部材11〜14やアーム部15を動かすことによって溶接トーチ24の向きを変えてワークに溶接を行う。このとき、画像センサ25がワークやワーク周辺の機材に近接して干渉しない場合は、画像センサ25の位置を変えず不動のまま溶接を行う。画像センサ25ーがワークや周辺の機材に干渉する場合は、スライド装置26の移動体を干渉しない方向に動かし、画像センサ25が邪魔にならない位置まで退避させる。
【0019】
なお、アーム部15、これとは別のリンク部材11〜14の姿勢を変えることによって画像センサ25の干渉を回避することも考えられるが、多軸(多数の回転軸4〜9)の動作により溶接を行う溶接用ロボット1においてアーム部15や複数のリンク部材11〜14の姿勢を画像センサ25の干渉回避のために動かすことは、溶接条件が変わってしまう可能性がある。本発明では、上述したように移動手段26によって複数のリンク部材リンク部材11〜16の姿勢を変えることなく画像センサ25だけを移動させ、画像センサ25の干渉を回避しているため、溶接条件が変わることなく溶接を継続することができる。
【0020】
また、画像センサ25によって位置の計測を行わない場合は、画像センサ25を溶接トーチ24から離れた場所に退避させることができ、画像センサ25を溶接による熱やスパッタから保護することができる。
さらに、画像センサ25を動かすことによって投光部28から出射されるレーザ光の位置を変えることができ、レーザ光が溶接トーチ24の開先にて多重反射してしまうことを回避することができる。
【0021】
加えて、溶接ツール17の角度によってレーザ光を含む画像を撮像することが難しい場合には、画像センサ25を移動して撮像部27の位置を変えることによって、画像センサ25の死角を無くすことができる。
なお、第1実施形態に示したスライド装置26を手首部16ではなく手首部16の代わりに溶接ツール17に取り付けるようにしてもよい。例えば、溶接トーチ24を支持する支持部材33にスライド装置26を取り付け、このスライド装置26に画像センサ25を取り付けることにより、溶接ツール17(支持部材33又は溶接トーチ24)に沿ってスライド装置26(画像センサ25)を移動できるようにしてもよい。
[第2実施形態]
第1実施形態の溶接用ロボット1では、移動手段26をスライド装置にて構成し、画像センサ25を手首部16の軸芯に沿って移動させていたが、第2実施形態では移動手段26をベアリングなどの回転装置にて構成し、画像センサ25を手首部16の軸芯回りに移動させるようにしたものである。なお、移動手段26以外の構成は、第1実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0022】
図3,4に示すように、手首部16は円筒状又は円柱状に形成されており、手首部16の軸方向中途部にはベアリング26のインナーレース30が嵌め込まれ、ベアリング26のアウタレース31に取付部材32を介して画像センサ25のケース29が取り付けられている。アウタレース31にケース29が取り付けられた状態では、撮像部27の光軸や投光部28の照射方向は溶接ツール17側に向けられている(図3の左側)。アウタレース31は、ステッピングモータ等の回転角度調整機構により回転角度を任意に調整できるようになっていて、手首部16の全周のどの位置でも画像センサ25は停止することができる。なお、アウタレース31は、一回転するものであっても、所定の角度の範囲で揺動するものであってもよい。
【0023】
第2実施形態の溶接用ロボット1によれば、ベアリング26のアウタレース31を周方向に回転させることによって画像センサ25を手首周りに移動させることができ、画像センサ25の干渉を防止することができる。
なお、ベアリング26のアウタレース31に画像センサ25を取り付けるようにしているが、アウタレース31にスライド装置26を取り付け、このスライド装置26に画像センサ25を取り付けてもよい。これにより、画像センサ25を手首部16の軸芯回りに移動させるだけでなく手首部16の軸方向に沿っても移動させることができる。このように、移動手段26をベアリング26とスライド装置26との組合せにすることにより、画像センサ25の移動の自由度を高めることができる。
【0024】
また、第2実施形態に示したベアリング26を手首部16ではなく手首部16の代わりに溶接ツール17に取り付けるようにしてもよい。例えば、溶接トーチ24を支持する支持部材33にベアリング26を取り付け、このベアリング26に画像センサ25を取り付けることによって、溶接ツール17(支持部材33又は溶接トーチ24)の回りに画像センサ25が移動できるようにしてもよい。
[第3実施形態]
第1実施形態や第2実施形態の溶接用ロボット1では、移動手段26をスライド装置やベアリングにて構成し、画像センサ25を手首部16の軸芯に沿って移動させていたが、第3実施形態では移動手段26を昇降装置(リフタ)にて構成し、画像センサ25を溶接トーチ24に対して近接離反移動させるようにしたものである。ここで、近接離反移動とは、溶接トーチ24に対して近づいたり離れたりする移動のことである。なお、移動手段26以外の構成は、第1実施形態や第2実施形態と同様であるため説明を省略する。
【0025】
図5に示すように、昇降装置(リフタ)26は、例えば、複数のリンク体が互いに連結されて菱形状となるパンタグラフにより構成されている。このパンタグラフ26は、伸縮自在であって、当該パンタグラフ26の下側が溶接トーチ24を支持する支持部材33に取り付けられ、上端側にはブラケット34を介して画像センサ25のケース29が揺動自在に取り付けられている。
【0026】
第3実施形態の溶接用ロボット1によれば、パンタグラフ26によって画像センサ25を支持部材33(溶接トーチ24)に対して垂直方向に近接離反移動(近づいたり離れたりする)させることができ、画像センサ25の干渉を防止することができる。
なお、リフタをパンタグラフ26により構成しているが、伸縮自在なシリンダ(油圧シリンダ、ガスシリンダ)で構成しても、その他のもので構成してもよい。また、第3実施形態では、リフタを溶接ツール17に設けているがこれに代え、第1実施形態や第2実施形態のように手首部16に設けても良い。例えば、手首部16にリフタを設けることによって画像センサ25を手首部16に対して垂直方向に近接離反移動させるようにしてもよい。
【0027】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせなどを適宜変更可能である。例えば、上述した様々なスライド装置、回転装置(ベアリング)及び昇降装置(リフタ)を適宜組み合わせることにより、画像センサ25を移動させる移動手段を構成してもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 溶接用ロボット
15 アーム部
16 手首部
17 溶接ツール
25 画像センサ
26 移動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多軸の動作によって制御されるアーム部を有する溶接用ロボットにおいて、
前記アーム部の先端には、手首部を介して溶接ツールが取り付けられ、
前記手首部には、移動手段が取り付けられると共に当該移動手段を介して画像センサが取り付けられ、
前記移動手段は、前記画像センサを前記溶接ツールに対して移動させることができるように構成されていることを特徴とする溶接用ロボット。
【請求項2】
前記移動手段は、前記画像センサを前記手首部の軸芯に沿って移動させることができるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の溶接用ロボット。
【請求項3】
前記移動手段は、前記画像センサを前記手首部の軸芯回りに移動させることができるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の溶接用ロボット。
【請求項4】
前記移動手段は、前記画像センサを前記手首部に対して近接離反移動させることができるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の溶接用ロボット。
【請求項5】
前記手首部に代えて溶接ツールに移動手段が取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の溶接用ロボット。
【請求項6】
前記移動手段は、前記画像センサを前記溶接ツールに沿って移動させることができるように構成されていることを特徴とする請求項5に記載の溶接用ロボット。
【請求項7】
前記移動手段は、前記画像センサを前記溶接ツール回りに移動させることができるように構成されていることを特徴とする請求項5に記載の溶接用ロボット。
【請求項8】
前記移動手段は、前記画像センサを前記溶接ツールに対して近接離反移動させることができるように構成されていることを特徴とする請求項5に記載の溶接用ロボット。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−16806(P2012−16806A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157176(P2010−157176)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】