説明

溶接用電源装置及び溶接機

【課題】溶接トランスの偏磁抑制効果をより向上させることができるインバータ溶接機の溶接用電源装置を提供する。
【解決手段】出力制御回路16は、インバータ回路のスイッチング素子をオンさせる駆動パルスをその時々の動作状況に応じたパルス幅に設定し、制御周期毎にその駆動パルスの出力先をA側及びB側駆動信号として対応するスイッチング素子のいずれかに切り替えており、パルス幅がゼロ幅に設定された場合、切替回路30にてその判定がなされると、該切替回路30にて次の制御周期においてもそのゼロ幅判定時の出力先を維持すべく駆動パルスの出力先の切替動作が一時的に禁止される。これにより、パルス幅がゼロ幅に設定された前後の制御周期の駆動パルスは、スイッチング素子に対する出力先が常に異なるようになり、一方の組のスイッチング素子のみが連続でオンすることが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接トランスの偏磁抑制に好適なインバータ溶接機の溶接用電源装置及びその溶接機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インバータ溶接機の溶接用電源装置は、入力交流電源を直流変換回路にて整流平滑化した直流電圧をインバータ回路に供給し、該インバータ回路のスイッチング素子のオンオフ動作にて所定の高周波交流電圧に変換して溶接トランスの一次側に供給し、該溶接トランスの二次側において溶接に適した溶接用直流電圧に変換するように構成されている。
【0003】
ところで、インバータ回路はスイッチング素子を複数用いたブリッジ回路にて構成され、所定のスイッチング素子が交互にオンオフされることで高周波交流電圧の極性の反転が行われるが、使用時において、一方側のスイッチング素子と他方側とでオン時間に偏りが生じる場合がある。この場合、高周波交流電圧が一方の極性側に偏りが生じて、溶接トランスが磁化された状態、所謂偏磁となる。溶接トランスの偏磁は、トランス一次側に過電流を連続して生じさせてインバータ回路のスイッチング素子の破壊を招くことから、偏磁を抑制するための対策を講じることが望まれている。
【0004】
そこで、例えば特許文献1や特許文献2に示されているインバータ溶接機の溶接用電源装置では、インバータ制御周期の最初と最後とを逆の極性(相)とし、これにより高周波交流電圧の一方の極性側への偏倚を生じ難くして、偏磁の抑制がなされるものである。
【0005】
また、例えば特許文献3に示されているインバータ溶接機の溶接用電源装置では、インバータ制御周期の最初の極性を常に逆とするとともに、スイッチング素子をオンさせるインバータ制御周期中の駆動パルス数を奇数個とすることで、同様に高周波交流電圧の一方の極性側への偏倚を生じ難くし、偏磁の抑制がなされるものである。
【特許文献1】特開平8−224664号公報
【特許文献2】特開昭63−108975号公報
【特許文献3】特開平3−118984号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上記した特許文献1〜3にて示されるようなインバータ溶接機の溶接用電源装置では、通常、溶接トランスの一次側電流や二次側電流を検出し、その検出電流値と出力設定値とを一致させるようなフィードバック制御が行われている(特許文献2,3参照)。
【0007】
この場合、検出電流値が出力設定値よりも大き過ぎると、次にオンする予定のスイッチング素子の駆動パルスのパルス幅をゼロ(歯抜け)とし、その回のスイッチング素子をオフとして電流値を急峻に小さくすることが行われる。特に、近年のインバータ回路のスイッチング動作の高速化に伴いフィードバック制御の制御ゲインを高くしていると、一方側のスイッチング素子が連続してオンし、他方側のスイッチング素子が連続してオフするような駆動パルスの設定となることが生じてくる。そうなると、溶接トランスに供給される高周波交流電圧が一方側の極性に偏倚する偏磁状態に陥ってしまう。
【0008】
そのため、上記特許文献1〜3に記載があるように、インバータ制御周期の最初や最後の極性が同じとなって偏磁となるよりもむしろ、一方側の駆動パルスのパルス幅がゼロとなり、一方側のスイッチング素子のみが連続してオンする期間が続く方が偏磁状態に陥り易いため、これを解決して偏磁抑制を図ることが望まれていた。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、溶接トランスの偏磁抑制効果をより向上させることができるインバータ溶接機の溶接用電源装置及びその溶接機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、スイッチング素子を複数用いて構成されたインバータ回路にて、第1組及び第2組のスイッチング素子が交互にオンオフすることで所定の交流電圧を生成し、生成した交流電圧を溶接トランスの一次側に供給し二次側において溶接用直流電圧を生成する構成をなし、前記スイッチング素子をオンさせる駆動パルスをその時々の動作状況に応じたパルス幅に設定し、制御周期毎にその駆動パルスの出力先を前記スイッチング素子の各組のいずれかに切り替えるように制御する出力制御回路を備えてなる溶接用電源装置であって、前記出力制御回路は、前記駆動パルスのパルス幅がゼロ幅か否かを判定するゼロ幅判定手段と、前記ゼロ幅判定手段にて前記駆動パルスのパルス幅がゼロ幅と判定されると、次の制御周期においてもそのゼロ幅判定時の出力先を維持するため前記駆動パルスの出力先の切替動作を一時的に禁止する切替禁止手段とを備えたことをその要旨とする。
【0011】
この発明では、出力制御回路は、インバータ回路のスイッチング素子をオンさせる駆動パルスをその時々の動作状況に応じたパルス幅に設定するとともに、制御周期毎にその駆動パルスの出力先を第1組及び第2組のスイッチング素子のいずれかに切り替えており、その時々の動作状況に応じてパルス幅がゼロ幅に設定された場合、ゼロ幅判定手段にてその判定がなされると、切替禁止手段にて次の制御周期においてもそのゼロ幅判定時の出力先を維持すべく駆動パルスの出力先の切替動作が一時的に禁止される。これにより、パルス幅がゼロ幅に設定された前後の制御周期の駆動パルスは、スイッチング素子に対する出力先が常に異なるようになり、オンするスイッチング素子が常に異なる組で交互となる。そのため、例えばパルス幅がゼロ幅に設定されるタイミングが制御周期の1つおきに同期した場合になっても、一方の組のスイッチング素子のみが連続でオンすることなく交互に各組のスイッチング素子がオンされて、後段の溶接トランスにて一方の極性に偏倚する偏磁の発生がより確実に抑制される。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の溶接用電源装置において、前記出力制御回路は、その時々の動作状況に応じた前記駆動パルスのパルス幅に相当する電圧が内部で生成されるものであり、前記ゼロ幅判定手段は、前記駆動パルスのパルス幅に相当する電圧と、ゼロ幅判定値に相当する電圧とを比較し、その比較結果を出力信号として出力するコンパレータにて構成され、前記切替禁止手段は、前記コンパレータからの出力信号に基づいて、前記駆動パルスの出力先の切替動作を禁止するための出力信号を生成する論理ゲート回路にて構成されていることをその要旨とする。
【0013】
この発明では、ゼロ幅判定手段は、駆動パルスのパルス幅に相当する電圧とゼロ幅判定値に相当する電圧との比較に基づく出力信号を出力するコンパレータにて構成され、切替禁止手段は、コンパレータからの出力信号に基づいて駆動パルスの出力先の切替動作を禁止する出力信号を生成する論理ゲート回路にて構成される。つまり、これらゼロ幅判定手段及び切替禁止手段を簡素に構成でき、装置全体の構成の簡素化に寄与できる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の電源装置にて生成された前記溶接用直流電圧に基づいて溶接を行うように構成された溶接機である。
この発明では、請求項1又は2に記載の電源装置が用いられて溶接機が構成されるため、上記各請求項の作用効果が得られる溶接機を提供できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、溶接トランスの偏磁抑制効果をより向上できるインバータ溶接機の溶接用電源装置及びその溶接機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1は、本実施形態におけるインバータ式アーク溶接機10を示す。アーク溶接機10は、溶接用電源装置11にて生成された溶接用直流電圧をトーチTHに供給し、そのトーチTHから加工対象物Mに向けてアークを生じさせて加工対象物Mのアーク溶接を行う装置である。溶接用電源装置11は、200Vや400V等の三相交流電源に対応であり、一次側整流回路12、インバータ回路13、溶接トランス14、二次側整流回路15、出力制御回路16及び設定装置17を備えている。
【0017】
一次側整流回路12は、ダイオードブリッジ及び平滑コンデンサ等にて構成され、入力される三相交流電源から一次側直流電圧を生成し、生成した直流電圧を後段のインバータ回路13に供給する。
【0018】
インバータ回路13は、4個のIGBTよりなる4個のスイッチング素子S1〜S4を用いたフルブリッジ回路で構成されている。スイッチング素子S1〜S4は、各ゲートに入力される出力制御回路16からの制御信号に基づいて第1組のスイッチング素子S1,S4と第2組のスイッチング素子S2,S3とが交互にオンオフし、これにより一次側整流回路12からの直流電圧を所定の高周波交流電圧に変換している。そして、インバータ回路13は、この高周波交流電圧を後段の溶接トランス14の一次側コイル14aに供給する。
【0019】
また、インバータ回路13の出力端子と溶接トランス14の一次側コイル14aとの間の電源線上には一次側電流検出器18が配置され、該電流検出器18にてインバータ回路13から溶接トランス14の一次側コイル14aに流れた一次側電流値が検出され、その一次側電流値が電圧信号として出力制御回路16に出力されている。
【0020】
溶接トランス14は、一次側コイル14a、二次側コイル14b及び二次側に検出用コイル14cを有してなり、一次側コイル14aと二次側コイル14bとの間で電圧変換を行い、アーク溶接に適した電圧値に変換している。また、二次側に設けられる検出用コイル14cには電圧検出回路19が接続され、該電圧検出回路19にて二次側での電圧積分値(電圧変化)が検出され、その電圧積分値が電圧信号として出力制御回路16に出力されている。
【0021】
溶接トランス14の二次側コイル14bは、二次側整流回路15と接続されている。二次側整流回路15は、ダイオード及び直流リアクトル等にて構成され、溶接トランス14にて所定電圧に調整された高周波交流電圧から溶接用直流電圧を生成し、生成した溶接用直流電圧をトーチTHに供給する。そして、加工対象物Mが二次側コイル14bの中間タップに接続されることで、溶接用直流電圧の供給に基づいてトーチTHから加工対象物Mに対してアークが生じ、アーク溶接が行われるようになっている。
【0022】
また、加工対象物Mと二次側コイル14bの中間タップとの間の電源線上には出力電流検出器20が配置され、該電流検出器20にて加工対象物Mに流れた出力電流値が検出され、その出力電流値が電圧信号として出力制御回路16に出力されている。
【0023】
出力制御回路16は、高周波交流電圧を調整してトーチTHに供給する溶接用直流電圧を調整すべくインバータ回路13のスイッチング制御、この場合、デューティの変更によりスイッチング素子S1〜S4のオンパルス幅を調整するPWM制御を行っている。出力制御回路16には、使用者にて出力設定が可能な設定装置17からその設定に対応する電流設定値が入力され、該制御回路16は、その電流設定値と、出力電流検出器20からの出力電流値と、電圧検出回路19からの電圧積分値とに基づいてインバータ回路13のスイッチング制御を行っている。また、出力制御回路16は、出力電流検出器20からの出力電流値等を用いたフィードバック制御も行っている。
【0024】
図2は、出力制御回路16の具体構成を示している。出力制御回路16には先ず加算器21が備えられており、該加算器21には、設定装置17からの電流設定値と、出力電流検出器20からの出力電流値と、電圧検出回路19からの電圧積分値とが電圧信号としてそれぞれ入力されている。この場合、電流設定値はそのまま加算器21に入力され、出力電流値と電圧積分値とは加算器21に反転入力されている。加算器21の出力信号は、アンプ22にて所定ゲインにて増幅されるとともに反転アンプ23を介して反転されて、第1コンパレータ24のマイナス側入力端子に入力されている。
【0025】
従って、電流設定値が大きくされると、加算器21の出力信号レベルが大きくなって反転アンプ23の出力信号レベルが下降し、電流設定値が小さくされると加算器21の出力信号レベルが小さくなって反転アンプ23の出力信号レベルが上昇する。一方、出力電流値又は電圧積分値のいずれかが大きくなると、加算器21の出力信号レベルが小さくなって反転アンプ23の出力信号レベルが上昇し、出力電流値又は電圧積分値のいずれかが小さくなると加算器21の出力信号レベルが大きくなって反転アンプ23の出力信号レベルが下降する。因みに、反転アンプ23の出力信号は、該信号レベルがその時々のスイッチング素子S1〜S4の駆動パルスの目標パルス幅に相当し、次回のインバータ制御周期の駆動パルスのパルス幅を決定すべく後段の第1コンパレータ24に出力される。
【0026】
第1コンパレータ24のプラス側入力端子には、三角波生成回路25から三角波(ノコギリ波)信号が入力されている。この三角波の周期は、インバータ制御周期に相当する。第1コンパレータ24の出力信号は、3入力のアンド回路よりなる第1アンド回路26の第1入力端子、及び、同じく3入力のアンド回路よりなる第2アンド回路27の第1入力端子に入力されている。そして、第1アンド回路26の出力信号は、第1組のスイッチング素子S1,S4をオンオフ駆動させるA側駆動信号として出力され、第2アンド回路27の出力信号は、第2組のスイッチング素子S2,S3をオンオフ駆動させるB側駆動信号として出力される。
【0027】
つまり、第1コンパレータ24では、反転アンプ23の出力信号と三角波信号とに基づいて、その出力信号レベルより三角波信号レベルが高くなる期間、Hレベルとなる出力信号(ベースパルス信号)が生成される。従って、上記のように電流設定値、出力電流値及び電圧積分値の変化により反転アンプ23の出力信号レベルが上下すると、三角波信号との関係でコンパレータ24の出力信号のHレベルの期間が長短する。因みに、電流設定値が大、出力電流値又は電圧積分値が小さくなると反転アンプ23の出力信号レベルが下降するため、コンパレータ24の出力信号のHレベルの期間が大となる。一方、電流設定値が小、出力電流値又は電圧積分値が大きくなると反転アンプ23の出力信号レベルが上昇するため、コンパレータ24の出力信号のHレベルの期間が小となる。そして、第1及び第2アンド回路26,27の他の入力端子(第2,第3入力端子)に入力される信号がHレベルの時、コンパレータ24の出力信号が各アンド回路26,27の出力信号であるA,B側駆動信号に反映されてスイッチング素子S1〜S4に出力され、該スイッチング素子S1〜S4のオン時間が調整される。
【0028】
第1及び第2アンド回路26,27の第2入力端子には、第2コンパレータ28からの出力信号がそれぞれ入力されている。第2コンパレータ28は、マイナス側入力端子に一次側電流検出器18からの一次側電流値が電圧信号として入力され、プラス側入力端子にはその一次側電流値が過電流かを判定するための過電流判定値に相当する電圧が印加されている。
【0029】
つまり、第2コンパレータ28は、一次側電流値が過電流判定値未満では、Hレベルの出力信号を第1及び第2アンド回路26,27の第2入力端子に出力する。そのため、アンド回路26,27の第3入力端子に入力される信号がHレベルの時、コンパレータ24の出力信号が各アンド回路26,27を介してA,B側駆動信号としてスイッチング素子S1〜S4に出力される。一方、一次側電流値が過電流判定値以上になると、第2コンパレータ28は、Lレベルの出力信号を第1及び第2アンド回路26,27の第2入力端子に出力する。そのため、アンド回路26,27の第3入力端子に入力される信号がHレベルとなっても、アンド回路26,27の出力信号であるA,B側駆動信号がLレベルに固定され、スイッチング素子S1〜S4がオフ状態となる。
【0030】
第1及び第2アンド回路26,27の第3入力端子には、切替回路30からの出力信号がそれぞれ入力されている。切替回路30は、パルス生成回路29にて生成されるパルス信号に基づいて動作する。パルス生成回路29は、三角波生成回路25からの三角波信号にてパルス信号を生成、この場合、三角波信号の一周期はインバータ制御周期の一周期であることから、インバータ制御周期と同期したパルス信号を生成して切替回路30に出力している。従って、切替回路30は、インバータ制御周期と同期した動作を行う。
【0031】
図3は、切替回路30の具体構成を示している。切替回路30には先ず第3アンド回路31が備えられており、該アンド回路31は、一方の入力端子にパルス生成回路29からのパルス信号が入力され、他方の入力端子に第3コンパレータ32の出力信号が入力されている。第3コンパレータ32のプラス側入力端子には、前記アンプ22及び反転アンプ23を経た前記加算器21からの出力信号が入力され、マイナス側入力端子にはパルス幅ゼロに相当するゼロ幅判定値が入力されている。第3アンド回路31の出力信号は、フリップフロップ33のクロック端子CLKに出力されている。
【0032】
フリップフロップ33は、クロック端子CLKに入力される第3アンド回路31の出力信号に基づいて、出力端子Q,バーQからH・Lレベルが交互となる相補の出力信号が出力され、出力端子バーQから出力される出力信号は、図2にて示す第1アンド回路26の第3入力端子に、出力端子Qから出力される出力信号は、第2アンド回路27の第3入力端子にそれぞれ出力されている。
【0033】
つまり、この切替回路30では、第3コンパレータ32からの出力信号がHレベルの時、インバータ制御周期に同期したパルス信号が第3アンド回路31の出力信号としてフリップフロップ33のクロック端子CLKに出力される。フリップフロップ33では、そのパルス信号の1周期毎、即ちインバータ制御周期の1周期毎に出力端子Q,バーQの出力信号の論理が反転され、この相補の出力信号が各アンド回路26,27に出力される。従って、アンド回路26,27は、インバータ制御周期の1周期毎に交互に駆動パルス(Hレベルのパルス)がA側又はB側駆動信号に生じるよう、コンパレータ24の出力信号をA側駆動信号としてスイッチング素子S1,S4に、同出力信号をB側駆動信号としてスイッチング素子S2,S3にそれぞれ交互に出力している。
【0034】
一方、第3コンパレータ32の出力信号がLレベルとなると、フリップフロップ33のクロック端子CLKに入力される第3アンド回路31の出力信号がLレベルに固定される。一方、第3コンパレータ32の出力信号がLレベルとなると、フリップフロップ33のクロック端子CLKに入力される第3アンド回路31の出力信号がLレベルに固定される。すると、フリップフロップ33では、その時の出力端子Q,バーQからの出力信号の論理が保持され、アンド回路26,27では、次のインバータ制御周期でも引き続き同じ側からの駆動信号がスイッチング素子S1〜S4に出力される。
【0035】
ここで、第3コンパレータ32は、反転アンプ23の出力信号レベルとゼロ幅判定値との比較、即ちその時々のスイッチング素子S1〜S4の駆動パルスの目標パルス幅がゼロ幅以下のレベルかゼロ幅を超えるレベルかを判定している。駆動パルスの目標パルス幅がゼロ幅を超える判定では第3コンパレータ32は出力信号をHレベルとし、インバータ制御周期毎に交互に駆動パルスがA側又はB側駆動信号に生じるよう、コンパレータ24の出力信号を交互に切り替えてA側又はB側駆動信号として出力させる。
【0036】
一方、駆動パルスの目標パルス幅がゼロ幅以下の判定では第3コンパレータ32は出力信号をLレベルとし、インバータ制御周期が次の制御周期となっても引き続きコンパレータ24の出力信号を同じ側の駆動信号として出力させる。つまり、現在の制御周期において駆動パルスがゼロ幅に設定された場合、次の制御周期でも同じ側の駆動信号に駆動パルスが反映されるようにし、ゼロ幅に設定された前後の制御周期で駆動パルスが異なる側の駆動信号に反映されるようにしている。従って、常に異なる側のスイッチング素子S1,S4とスイッチング素子S2,S3とが交互にオンするようになり、これにより溶接トランス14が一方の極性に偏倚することが抑制され、偏磁の抑制が図られている。
【0037】
ここで、図6にて、制御ゲインを低ゲインとした場合の電源装置(11)の各所の波形を示すが、同図6においては、図2のa点の電圧波形、即ちその時々の駆動パルスの目標パルス幅を反映する反転アンプ(23)の出力信号レベルの変動が小さいため、A側及びB側駆動信号において制御周期毎に交互に駆動パルスが立ち上がり溶接トランス(13)の偏磁に対する影響は小さいものの、その変動が小さいことは応答性が低いことを意味し、インバータ制御を高速化するとその時々に所望の出力電流が得られず、溶接性能への影響が懸念される。
【0038】
そのため、本実施形態の電源装置11では、インバータ制御の高速化に対応するために高速化対応のスイッチング素子S1〜S4が用いられるとともに、出力制御回路16ではアンプ22が高ゲインに設定され、制御ゲインが高く設定されている。従って、図4にて本実施形態の電源装置11の各所の波形を示すように、その時々の駆動パルスの目標パルス幅を反映する反転アンプ23の出力信号レベル(図2のa点の電圧波形)が大きく変動するものとなる。反面、その出力信号レベルが三角波信号レベルよりも高くなることが多く発生し得る。
【0039】
図5は、制御ゲインが高いが偏磁対応でない仕様の電源装置(11)の各所の波形を示す。具体的には、図3に示す切替回路(30)において、第3アンド回路(31)と第3コンパレータ(32)とを省略し、フリップフロップ(33)のクロック端子CLKにパルス信号を直接入力する構成である。この仕様の場合も図4と同様に、その時々の駆動パルスの目標パルス幅を反映する反転アンプ23の出力信号レベル(図2のa点の電圧波形)が大きく変動する。
【0040】
この場合、例えばインバータ制御周期(三角波信号の1周期)の1つおきの制御周期で、反転アンプ(23)の出力信号レベルが三角波信号レベルよりも高くなることが連続して起きると、B側駆動信号においてのみ駆動パルスが立ち上がることになる。すると、溶接トランス(13)が一方の極性に偏倚する偏磁状態に陥り、一次側電流値が過電流判定値を超えてその間の駆動信号の出力が停止されるが、スイッチング素子(S1〜S4)に対しての負担が大きく、場合によっては破損に至る。
【0041】
これに対して本実施形態では、図4に示すように、インバータ制御周期の1つおきの制御周期で反転アンプ23の出力信号レベルが三角波信号レベルよりも高くなる度に、反転アンプ23の出力信号レベル、即ち駆動パルスの目標パルス幅が切替回路30の第3コンパレータ32においてゼロ幅以下と判定され、図2のc点及びd点の電圧波形に示すように、フリップフロップ33の出力端子Q,バーQからの出力信号の論理が保持される。
【0042】
つまり、インバータ制御周期が次の制御周期となっても引き続きコンパレータ24の出力信号が同じ側の駆動信号として出力されるため、現在の制御周期において駆動パルスがゼロ幅に設定された場合、次の制御周期でも同じ側の駆動信号に駆動パルスが反映され、ゼロ幅に設定された前後の制御周期で駆動パルスが異なる側の駆動信号に反映される。従って、本実施形態の電源装置11では、常に異なる側のスイッチング素子S1,S4とスイッチング素子S2,S3とが交互にオンするようになり、これにより溶接トランス14が一方の極性に偏倚する偏磁が抑制できるようになっている。
【0043】
次に、本実施形態の特徴的な作用効果を記載する。
(1)本実施形態では、出力制御回路16は、インバータ回路13のスイッチング素子S1〜S4をオンさせる駆動パルスをその時々の動作状況(本実施形態では電流設定値、出力電流値及び電圧積分値に基づいて得られる動作状況)に応じたパルス幅に設定するとともに、制御周期毎にその駆動パルスの出力先を第1組のスイッチング素子S1,S4(A側駆動信号)及び第2組のスイッチング素子S2,S3(B側駆動信号)のいずれかに切り替えている。そして、その時々の動作状況に応じてパルス幅がゼロ幅に設定された場合、切替回路30内のコンパレータ32にてその判定がなされると、該切替回路30内のアンド回路31の動作にて次の制御周期においてもそのゼロ幅判定時の出力先を維持すべく、フリップフロップ33における駆動パルスの出力先の切替動作が一時的に禁止される。これにより、パルス幅がゼロ幅に設定された前後の制御周期の駆動パルスは、スイッチング素子S1〜S4に対する出力先が常に異なるようになり、オンするスイッチング素子S1〜S4が常に異なる組で交互となる。そのため、例えばパルス幅がゼロ幅に設定されるタイミングが制御周期の1つおきに同期した場合になっても、一方の組のスイッチング素子S1〜S4のみが連続でオンすることなく交互に各組のスイッチング素子S1〜S4がオンされて、後段の溶接トランス14にて一方の極性に偏倚する偏磁の発生がより確実に抑制される。これにより、溶接トランス14の偏磁抑制効果をより向上できる溶接用電源装置11、及びアーク溶接機10を提供することができる。
【0044】
(2)本実施形態では、切替回路30は、駆動パルスのパルス幅に相当する電圧(反転アンプ23の出力信号レベル)とゼロ幅判定値に相当する電圧との比較に基づく出力信号を出力するコンパレータ32と、該コンパレータ32からの出力信号に基づいて駆動パルスの出力先の切替動作を禁止する出力信号を生成するアンド回路31とを用いて構成されている。つまり、これらコンパレータ32とアンド回路31とを用いて切替回路30を簡素に構成でき、出力制御回路16、ひいては電源装置11全体の構成の簡素化に寄与することができる。
【0045】
尚、本発明の実施形態は、以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、出力制御回路16の回路構成を適宜変更してもよい。例えば、その時々の動作状況に応じた目標オンパルス幅を設定するにあたり、電流設定値、出力電流値及び電圧積分値を用いたが、これら以外の他の検出値を用いてもよい。
【0046】
また、切替回路30において、フリップフロップ33の切替動作を禁止する手段を1つのアンド回路31を用いて構成したが、他の論理ゲート回路を複数組み合わせて構成してもよい。また、駆動パルスのパルス幅のゼロ幅判定を行う手段を1つのコンパレータ32を用いて構成したが、コンパレータ以外の判定回路を用いて構成してもよい。
【0047】
・上記実施形態では、アーク溶接機10の溶接用電源装置11に適用したが、このアーク溶接にはアーク切断も含むものとする。また、アーク溶接以外、例えば抵抗溶接等の他の電気溶接機の溶接用電源装置に適用してもよい。
【0048】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ) スイッチング素子を複数用いて構成されたインバータ回路にて、第1組及び第2組のスイッチング素子が交互にオンオフすることで所定の交流電圧を生成し、生成した交流電圧を溶接トランスの一次側に供給し二次側において溶接用直流電圧を生成する構成の溶接用電源装置において、
前記スイッチング素子をオンさせる駆動パルスをその時々の動作状況に応じたパルス幅に設定し、制御周期毎にその駆動パルスの出力先を前記スイッチング素子の各組のいずれかに切り替えるように制御する制御装置であって、
前記駆動パルスのパルス幅がゼロ幅か否かを判定するゼロ幅判定手段と、
前記ゼロ幅判定手段にて前記駆動パルスのパルス幅がゼロ幅と判定されると、次の制御周期においてもそのゼロ幅判定時の出力先を維持するため前記駆動パルスの出力先の切替動作を一時的に禁止する切替禁止手段と
を備えたことを特徴とする溶接用電源装置の制御装置。
【0049】
このような構成の制御装置を溶接用電源装置に用いれば、上記請求項1と同様の作用効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本実施形態のインバータ溶接機の溶接用電源装置を示す回路図である。
【図2】本実施形態における出力制御回路の具体構成を示す回路図である。
【図3】本実施形態における切替回路の具体構成を示す回路図である。
【図4】高ゲインで偏磁対応の本実施形態の電源装置各所の波形図である。
【図5】高ゲインで偏磁対応でない仕様の電源装置各所の波形図である。
【図6】低ゲイン仕様での電源装置各所の波形図である。
【符号の説明】
【0051】
10…アーク溶接機(溶接機)、11…溶接用電源装置(電源装置)、
13…インバータ回路、14…溶接トランス、16…出力制御回路、
31…第3アンド回路(切替禁止手段)、
32…第3コンパレータ(ゼロ幅判定手段)、
S1〜S4…スイッチング素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子を複数用いて構成されたインバータ回路にて、第1組及び第2組のスイッチング素子が交互にオンオフすることで所定の交流電圧を生成し、生成した交流電圧を溶接トランスの一次側に供給し二次側において溶接用直流電圧を生成する構成をなし、
前記スイッチング素子をオンさせる駆動パルスをその時々の動作状況に応じたパルス幅に設定し、制御周期毎にその駆動パルスの出力先を前記スイッチング素子の各組のいずれかに切り替えるように制御する出力制御回路を備えてなる溶接用電源装置であって、
前記出力制御回路は、
前記駆動パルスのパルス幅がゼロ幅か否かを判定するゼロ幅判定手段と、
前記ゼロ幅判定手段にて前記駆動パルスのパルス幅がゼロ幅と判定されると、次の制御周期においてもそのゼロ幅判定時の出力先を維持するため前記駆動パルスの出力先の切替動作を一時的に禁止する切替禁止手段と
を備えたことを特徴とする溶接用電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接用電源装置において、
前記出力制御回路は、その時々の動作状況に応じた前記駆動パルスのパルス幅に相当する電圧が内部で生成されるものであり、
前記ゼロ幅判定手段は、前記駆動パルスのパルス幅に相当する電圧と、ゼロ幅判定値に相当する電圧とを比較し、その比較結果を出力信号として出力するコンパレータにて構成され、
前記切替禁止手段は、前記コンパレータからの出力信号に基づいて、前記駆動パルスの出力先の切替動作を禁止するための出力信号を生成する論理ゲート回路にて構成されていることを特徴とする溶接用電源装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電源装置にて生成された前記溶接用直流電圧に基づいて溶接を行うように構成されたことを特徴とする溶接機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−12510(P2010−12510A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176952(P2008−176952)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】