説明

溶断溶着方法、及び燃料用フィルタ

【課題】合成樹脂製の生地を積層状態にしてなる対象物を、切断端面で各生地同士を強固に溶着させながら切断できるようにする。
【解決手段】合成樹脂製の生地を積層状態にしてなる対象物Mを、ホーン体Hと刃体Eとの間に挟持した後、このホーン体Hに前記対象物Mの溶融をもたらす超音波振動を生じさせて前記挟持位置Pにおいて前記刃体Eによる対象物Mの切断とこの切断端面での前記生地同士の溶着とをなす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、合成樹脂製の生地を積層状態にしてなる対象物を、切断しながらその切断箇所において各生地同士を適切に溶着させ合わせ得る方法、及び、この方法によって袋状に生成されてなる燃料用フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性合成樹脂を主体とした生地を積層状態にした状態から、これに刃物を押しつけると共に、この刃物の周囲のコイルに高周波電流を流して、かかる積層された生地をこの刃物の押しつけ位置で切断すると共に溶着させ合わせる手法として、特許文献1に示されるものがある。(高周波誘導加熱)
【0003】
しかしながら、かかる手法にあっては、刃物の受け治具側を高温にし難いため、前記生地の積層枚数が多くなるとこの受け治具側において各生地同士をその切断端面において適切に溶着させ難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】登録実用新案第3018138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明にかかる溶断溶着方法が解決しようとする主たる問題点は、合成樹脂製の生地を積層状態にしてなる対象物を、切断端面で各生地同士を強固に溶着させながら切断できるようにする点にある。また、この発明にかかる燃料用フィルタが解決しようとする主たる問題点は、前記対象物に対する溶断によってこの対象物から適切に生成可能な袋状をなす燃料用フィルタを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を達成するため、この発明にあっては、第一の観点から、溶断溶着方法を、合成樹脂製の生地を積層状態にしてなる対象物を、ホーン体と刃体又は刃状のホーン体とその受け体との間に挟持した後、このホーン体に前記対象物の溶融をもたらす超音波振動を生じさせて前記挟持位置において前記刃体による対象物の切断とこの切断端面での前記生地同士の溶着とをなすものとした。また、前記課題を達成するため、この発明にあっては、第二の観点から、溶断溶着方法を、合成樹脂製の生地を積層状態にしてなる対象物を、刃状の電極とこれと対をなす電極との間に挟持した後、この挟持位置において両電極間に対象物の溶融をもたらす電界を生じさせて対象物の切断とこの切断端面での前記生地同士の溶着とをなすものとした。また、燃料用フィルタを、燃料を透過させる合成樹脂製の生地を積層状態にしてなる対象物に対して、前記溶断溶着方法によって施される切断部によって、又は、この切断部とこの対象物を二つ折りにした箇所とによって、この対象物を燃料ポンプに連通される内部空間を持った袋状にしてなるものとした。
【発明の効果】
【0007】
前記第一の観点にかかる溶断溶着方法によれば、刃体又は刃状のホーン体により、また、第二の観点にかかる溶着溶断方法によれば、刃状の電極により、切断端面で各生地同士を強固に溶着させながら切断することができる。したがって、前記対象物に対して生成すべき袋状の燃料用フィルタの外郭に倣った切断部を前記方法によって施すことにより、かかる燃料用フィルタを適切に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は溶断溶着方法の実施状態を示した構成図であり、対象物をホーン体と刃体とで挟持する直前の状態を示している。
【図2】図2は図1の状態から対象物をホーン体と刃体で挟持して挟持位置において対象物を切断すると共に、切断端面に溶着を施した状態を示している。
【図3】図3は溶断溶着方法の実施状態を示した構成図であり、対象物を刃状のホーン体とその受け体とで挟持する直前の状態を示している。
【図4】図4は溶断溶着方法の実施状態を示した構成図であり、対象物を刃状の電極とこれと対をなす電極とで挟持する直前の状態を示している。
【図5】図5は燃料用フィルタの断面構成図である。
【図6】図6は図5の燃料用フィルタと構成の一部を異ならせる他の燃料用フィルタの断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図1〜図6に基づいて、この発明の典型的な実施の形態について、説明する。この実施の形態にかかる溶断溶着方法は、合成樹脂製の生地を積層状態にしてなる対象物Mを、切断しながらその切断箇所において各生地同士を適切に溶着させ合わせ得るものである。また、この実施の形態にかかる燃料用フィルタ1はかかる溶着溶断方法によって袋状に生成されてなるものである。
【0010】
合成樹脂製の生地としては、典型的には、熱可塑性合成樹脂よりなるか、この熱可塑性合成樹脂を主体として、シート状ないしはマット状をなすものが予定される。
【0011】
先ず、かかる生地を積層状態にしてなる対象物Mを、ホーン体Hと刃体Eとの間に配置し、両者によって挟持する。(図1及び図2)刃体Eは、刃先をホーン体Hの受け部とするように構成される。対象物Mに周回状をなす切断を施す場合には、刃体Eは前記挟持方向に直交する向きの断面を周回状にして従って前記刃先を周回状に備えた例えばリング状をなし、ホーン体Hもこれに対応したリング状をなす。
【0012】
次いで、ホーン体Hに前記対象物Mの溶融をもたらす超音波振動を生じさせて前記挟持位置Pにおいて前記刃体Eによる対象物Mの切断とこの切断端面での前記生地同士の溶着とをなす。ホーン体Hは公知の超音波溶着装置を構成する固定振動子に接続される。ホーン体Hに前記超音波振動が生じると前記挟持位置Pにおいて対象物Mは瞬間的に溶融する。かかるホーン体Hの受け部は刃体Eであるので、これと同時に、かかる刃体Eにより対象物Mは切断され、それと共に、切断端面において対象物Mを構成する生地同士の溶着がなされる。積層された生地同士は、超音波振動により、ホーン体Hの側から刃体Eの側に亘って偏頗なく切断端面において溶着され合う。したがって、かかる溶着溶断方法によれば、前記対象物Mが多数枚の前記生地を積層させてなるものであっても、その切断端面における各生地の溶着状態を強固なものとすることができる。また、溶着と切断とを別個にその順で行う場合には溶着範囲内での切断を適切に行えるように溶着代を比較的大きく確保せざるを得ないところ、かかる溶着溶断方法によれば対象物Mに対する切断と溶着とを同時になすことができることから、対象物Mの切断部の溶着代の幅を最小化することができる。
【0013】
前記超音波振動による切断と溶着は、ホーン体Hを刃状に構成し、このホーン体Hの刃先とこのホーン体Hの受け体Jとの間に前記対象物Mを挟持することによっても、可能である。(図3)
【0014】
また、前記のような切断と溶着は、対象物を刃状の電極Aとこれと対をなす電極A’との間に挟持した後、この挟持位置において両電極A、A’間に対象物Mの溶融をもたらす電界を生じさせることによっても、可能である。(高周波誘電加熱/図4)
【0015】
図5は、以上に説明した溶着溶断方法によって、前記対象物Mから生成される袋状をなす燃料用フィルタ1の一例を示している。かかる燃料用フィルタ1は、幅広の上下両面を備えた扁平の袋状を呈し、典型的には燃料タンク2の底部2aにその下側の面を接しさせると共に、その袋内空間1aを燃料ポンプ側2bに連通させるように燃料タンク2内に配されて用いられる。かかる燃料用フィルタ1は燃料を透過させる合成樹脂製の生地を積層状態にしてなる対象物Mに対し、前記溶着溶断方法を用いて生成される。かかる生地としては、メッシュ状をなすもの及び不織布状をなすものが予定される。
【0016】
より具体的には、かかる燃料用フィルタ1は、前記対象物Mに対して、前記溶断溶着方法によって施される切断部1bによって、この対象物Mを燃料ポンプに連通される袋内空間1aを持った袋状にしてなる。典型的には、前記生地の二枚以上を積層させてなる燃料用フィルタ1の上側の面を構成する対象物Mと、同じく前記生地の二枚以上を積層させてなる燃料用フィルタ1の下側の面を構成する対象物Mとを、上下に重ね合わせた状態で、生成すべき燃料用フィルタ1の外郭形状に倣った周回状をなす切断部1bをかかる上下の対象物Mに施す。上下の対象物Mは切断部1bによって溶着され扁平な袋状をなす燃料用フィルタ1となる。燃料用フィルタ1内には、かかる切断部1bの形成に先立って上下の対象物M間に挟み入れた間隔形成部材1cが収められる。燃料用フィルタ1の上側の面を構成する対象物Mには貫通孔1dが予め形成され、この貫通孔1dを通じて燃料用フィルタ1に取り付けられた接続管部1eを介して燃料用フィルタ1は燃料ポンプ側2bにその袋内空間1aを連通させる。燃料用フィルタ1の上下両面間には、前記間隔形成部材1cにより、常時一定の間隔が形成され、燃料用フィルタ1の全体が燃料の濾過に有効に機能するようになっている。
【0017】
図6は、かかる燃料用フィルタ1を、前記対象物Mに対して、前記溶断溶着方法によって施される切断部1bとこの対象物Mを二つ折りにした箇所1fとによって、この対象物Mを燃料ポンプに連通される袋内空間1aを持った袋状にして構成させた例を示している。典型的には、前記生地の二枚以上を積層させてなる対象物Mを燃料用フィルタ1の内側となる面が向き合うように二つ折りにした状態で、この折った箇所1fが生成される燃料用フィルタ1の外郭の一部となるようにかかる二つ折りにした対象物Mに生成すべき燃料用フィルタ1の外郭形状に倣った切断部1bを施す。二つ折りにした対象物Mは切断部1bによって折った箇所以外の箇所を溶着され扁平な袋状をなす燃料用フィルタ1となる。
【0018】
かかる燃料用フィルタ1は、前記切断部1bの溶着代1gの幅を最小化し得ることから、燃料の濾過に有効に機能する面積、つまり、有効濾過面積を最大化し得る特長を有している。また、前記間隔形成部材1cを囲むようにして形成された切断部1b、つまり、前記切断端面において積層された各生地は、間隔形成部材1cに影響されることなく強固に溶着される。
【符号の説明】
【0019】
M 対象物
H ホーン体
E 刃体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製の生地を積層状態にしてなる対象物を、ホーン体と刃体又は刃状のホーン体とその受け体との間に挟持した後、このホーン体に前記対象物の溶融をもたらす超音波振動を生じさせて前記挟持位置において前記刃体による対象物の切断とこの切断端面での前記生地同士の溶着とをなすようにしたことを特徴とする溶断溶着方法。
【請求項2】
合成樹脂製の生地を積層状態にしてなる対象物を、刃状の電極とこれと対をなす電極との間に挟持した後、この挟持位置において両電極間に対象物の溶融をもたらす電界を生じさせて対象物の切断とこの切断端面での前記生地同士の溶着とをなすようにしたことを特徴とする溶断溶着方法。
【請求項3】
燃料を透過させる合成樹脂製の生地を積層状態にしてなる対象物に対して、請求項1又は請求項2に記載の溶断溶着方法によって施される切断部によって、又は、この切断部とこの対象物を二つ折りにした箇所とによって、この対象物を燃料ポンプに連通される内部空間を持った袋状にしてなる燃料用フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−179790(P2012−179790A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−43677(P2011−43677)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【出願人】(000135209)株式会社ニフコ (972)
【Fターム(参考)】