説明

溶液製膜方法及び減圧チャンバ

【課題】溶液製膜方法における厚みムラ故障を抑える。
【解決手段】減圧チャンバ150は、各シール板152〜158により箱型状に形成される。中空部150a内には、仕切り板160〜163が略左右対称に配置されている。遮風板170は、背面170cと各シール板152、160の前端とが固定するように設けられる。溝175は、流延ビード200の幅方向に伸びるように底面170bに形成される。この溝175により、底面170bに突起部177a〜177cが形成される。遮風板170に設けられる、溝175の形状、大きさ、形成ピッチや、突起部177a〜177cの形状等の調節により、Q1/Q2の値が1/100以上1/4以下で略一定になるように保持する。Q1は、底面170bと周面72aとの間を通って、減圧ゾーンへ流入する空気A1の流量であり、Q2は、開口部150cの近傍の空気A2が中空部150aへ流入する量である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液製膜方法及び減圧チャンバに関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースエステル、特に、58.0%〜62.5%の平均酢化度を有するセルローストリアセテート(以下、TACと称する)から形成されるTACフィルムは、その強靭性と難燃性とから、写真感光材料のフィルム用支持体として利用されている。また、TACフィルムは光学等方性に優れていることから、近年市場の拡大している液晶表示装置の偏光板の保護フィルムなどに用いられている。
【0003】
TACフィルムは、通常溶液製膜方法により製造されている。溶液製膜方法は、ポリマをジクロロメタンや酢酸メチルを主溶媒とする混合溶媒に溶解した高分子溶液であるドープを調製してから、このドープを流延ダイから吐出させ流延ビードを形成させて支持体上に流延することにより、流延膜を形成する。そして、この流延膜が支持体上で自己支持性を有するものとなった後に、支持体から湿潤フィルムとして剥ぎ取る。湿潤フィルムは溶媒を多量に含んでいるため、テンタ装置などにより更に乾燥させ、フィルムが得られる。
【0004】
この溶液製膜方法においては、ドープを流延ダイから流延する際に、流延ビードの形成を安定化させる目的で、流延ビードの背面側を減圧させる方法が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2000−210961号公報
【特許文献2】特開2000−210959号公報
【特許文献3】特開2002−160241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の方法では、流延する面(キャスト面)に対するノズルや流延ダイ(口金)のスリット間隙部の機械的精度を向上させているため、コスト高の原因となっている。特許文献2記載の方法では、吸引ノズルの上流側にチャンバ(バッファ)を設けることで、流延ビード背面の圧力を所定の範囲に制御している。しかし、この方法でも製膜速度を高速にすると減圧度を大きくする必要があり、流延ビード横からの流入風ないし支持体同伴風による流延幅方向における気流のムラや流延ビード端部が不安定になるという問題が生じている。さらに、特許文献3記載の方法では、キャスト面と減圧装置(吸引装置)との空隙を極力狭くしている。この方法でも、吸引装置の機械的精度を向上させる必要がありコスト高の原因となる。また、支持体のキャスト面が略同一位置を移動させるため支持体の駆動装置に、より精密な駆動を行うものを用いる必要が生じ、やはりコスト高の原因となる。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するものであり、簡単な構成で厚みムラの発生が抑制されたフィルムを得ることができる溶液製膜方法及び減圧チャンバを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、エンドレスに走行する支持体の上に、ポリマと溶媒とを含むドープを流延ダイから流延ビードとして流延して、前記支持体上に流延膜を形成し、前記流延膜を前記支持体から湿潤フィルムとして剥ぎ取り、この剥ぎ取り後の湿潤フィルムを乾燥してフィルムを得る溶液製膜方法において、側部遮風板と後部遮風板とからなる減圧チャンバ本体により、前記流延ビードに対して前記支持体の走行方向上流側をコ字形に覆って前記流延ビードの上流側を減圧し、前記流延ビードの側方と前記減圧チャンバとの間から流入する風量をQ1とし、それ以外の減圧チャンバと前記支持体との間から流入する風量をQ2としたときに、Q1/Q2の値を1/100以上1/4以下とするように、流延ビード側方遮風部材により前記風量Q1を制限することを特徴とする。
【0008】
前記流延ビード側方遮風部材は、流延ビードの側方近くで流延ビードに対し前記上流側に設けられる遮風板と、前記遮風板の下端で前記支持体との間に設けられるラビリンスシールとからなり、前記流延ビードの幅方向に伸びるように、前記ラビリンスシールに形成される溝の形状、大きさ、または形成ピッチを調節して前記風量Q1を制限することが好ましい。
【0009】
前記溝が、前記風量Q1の流入風の流入方向に向かうに従い次第に拡開するように構成されていることが好ましい。
【0010】
本発明は、エンドレスに走行する支持体の上に、ポリマと溶媒とを含むドープを流延ダイから流延ビードとして流延して、前記支持体上に流延膜を形成し、前記流延膜を前記支持体から湿潤フィルムとして剥ぎ取り、この剥ぎ取り後の湿潤フィルムを乾燥してフィルムを得る溶液製膜設備に用いられ、前記流延ビードに対して前記支持体走行方向上流側を減圧する減圧チャンバにおいて、前記流延ビードに対して前記上流側に設けられ、側部遮風板と後部遮風板とにより前記流延ビードをコ字形に覆って前記流延ビードの上流側を減圧する減圧チャンバ本体と、前記流延ビードの側方と前記即部遮風板との間から流入する風量をQ1とし、それ以外の減圧チャンバと前記支持体との間から流入する風量をQ2としたときに、Q1/Q2の値を1/100以上1/4以下とするように、前記風量Q1を制限する流延ビード側方遮風部材とを備えることを特徴とする。
【0011】
前記流延ビード側方遮風部材は、流延ビードの側方近くで流延ビードに対し前記上流側に設けられる遮風板と、前記遮風板の下端で前記支持体との間に設けられるラビリンスシールとからなり、前記支持体の幅方向に伸びるように、前記ラビリンスシールに形成される溝の形状、大きさ、または形成ピッチを調節して前記風量Q1を制限することが好ましい。
【0012】
前記溝が、前記風量Q1の流入風の流入方向に向かうに従い次第に拡開するように構成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、前記流延ビードの側方と前記減圧チャンバとの間から流入する風量をQ1とし、それ以外の減圧チャンバと前記支持体との間から流入する風量をQ2としたときに、Q1/Q2の値を1/100以上1/4以下とするように、流延ビード側方遮風部材により前記風量Q1を制限するため、厚みムラ故障を誘発する流延ビードの圧力変動を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施形態に限定されるものではない。
【0015】
[原料]
セルロースアシレートは、セルロースの水酸基への置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するセルロースアシレートを用いることが好ましい。以下、下記式を満たすセルロースアシレートをTACと称する。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
但し、式中A及びBは、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはセルロースの水酸基の水素原子に対するアセチル基の置換度、またBはセルロースの水酸基の水素原子に対する炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子を用いることが好ましい。なお、本発明に用いられるポリマはTACに限定されるものではない。
【0016】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1)を意味する。
【0017】
全アシル置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.00上〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0018】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときは、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.2〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また更に、セルロースアシレートの6位の置換度が0.75以上であることが好ましく、さらに好ましくは0.80以上であり特に好ましくは0.85以上であるセルロースアシレートを用いることである。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)が作製できる。特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。更に粘度が低く濾過性の良い溶液の作製が可能となる。
【0019】
セルロースアシレートは、リンター,パルプのどちらから得られたものでも良い。
【0020】
本発明のセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でも良く特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ケプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル基、ブタノイル基である。
【0021】
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、本発明において、ドープとはポリマを溶媒に溶解または分散して得られるポリマ溶液または分散液を意味している。
【0022】
炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フイルムの機械的強度など及びフイルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを一種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%が好ましく、5重量%〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0023】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えるため、ジクロロメタンを用いない溶媒組成も提案されている。この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく、特に酢酸メチルが好ましく用いられる。また、これらを適宜混合して用いる。これらのエーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−,−CO−及び−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であれば良い。
【0024】
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0141]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載は本発明にも適用できる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤,光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤などの添加剤、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されている。
【0025】
[ドープ製造方法]
図1にドープ製造ライン10を示す。ドープ製造ライン10には、溶媒を貯留するための溶媒タンク11と、溶媒とTACなどとを混合するための溶解タンク13と、TACを供給するためのホッパ14、添加剤液を貯留するための添加剤タンク15とが備えられている。さらに、後述する膨潤液を加熱するための加熱装置26と、調製されたドープの温度を調整する温調機27と、濾過装置28とを備えている。さらに、調製されたドープを濃縮するフラッシュ装置31,濾過装置35なども備えられている。また、溶媒を回収するための回収装置32と、回収された溶媒を再生するための再生装置33とが備えられている。そして、ドープ製造ライン10には、ストックタンク30を介してフイルム製造ライン40が接続されている。
【0026】
初めに、溶媒タンク11と溶解タンク13とを接続する配管に設けられたバルブ12を開き、溶媒を溶媒タンク11から溶解タンク13に送る。次に、ホッパ14に入れられているTACを計量しながら溶解タンク13に送り込む。添加剤タンク15と溶解タンク13とを接続する配管に設けられたバルブ16の開閉操作を行って、必要量の添加剤溶液を添加剤タンク15から溶解タンク13に送り込む。なお、添加剤は溶液として送り込む方法以外にも、例えば添加剤が常温で液体の場合には、その液体の状態で溶解タンク13に送り込むことも可能である。また、添加剤が固体の場合には、ホッパを用いて溶解タンク13に送り込むことも可能である。添加剤を複数種類添加する場合には、添加剤タンク15中に複数種類の添加剤を溶解させた溶液を入れておくこともできる。または、多数の添加剤タンクを用いてそれぞれに添加剤が溶解している溶液を入れて、それぞれ独立した配管により溶解タンク13に送り込むこともできる。
【0027】
前述した説明においては、溶解タンク13に入れる順番が、溶媒(混合溶媒の場合も含めた意味で用いる)、TAC、添加剤であったが、この順番に限定されるものではない。TACを計量しながら溶解タンク13に送り込んだ後に、好ましい量の溶媒を送液することもできる。また、添加剤は必ずしも溶解タンク13に予め入れる必要はなく、後の工程でTACと溶媒との混合物(以下、これらの混合物もドープと称する場合がある)に混合させることもできる。
【0028】
溶解タンク13には、その外面を包み込むジャケット17と、モータ18により回転する第1攪拌機19とが備えられている。さらに、溶解タンク13には、モータ20により回転する第2攪拌機21が取り付けられていることが好ましい。なお、第1攪拌翼19は、アンカー翼であることが好ましく、第2攪拌翼21は、ディゾルバータイプのものを用いることが好ましい。ジャケット17に伝熱媒体を流して溶解タンク13内を−10℃〜55℃の範囲に温度調整することが好ましい。第1攪拌翼19,第2攪拌翼21を適宜選択して回転させることでTACが溶媒中で膨潤した膨潤液22を得ることができる。
【0029】
膨潤液22をポンプ25により加熱装置26に送液する。加熱装置26は、ジャケット付き配管を用いることが好ましく、更に膨潤液22を加圧できる構成であることが好ましい。膨潤液22を加熱または加圧加熱条件下でTACなどを溶媒に溶解させてドープを得る。なお、この場合に膨潤液22の温度は、0℃〜97℃であることが好ましい。加熱溶解法及び冷却溶解法を適宜選択して行うことでTACを溶媒に十分溶解させることが可能となる。温調機27によりドープの温度を略室温とした後に、濾過装置28により濾過を行いドープ中の不純物を取り除く。濾過装置28の濾過フィルタの平均孔径が100μm以下であることが好ましい。また、濾過流量は、50L/時以上であることが好ましい。濾過後のドープは、バルブ29を介してストックタンク30に入れられる。
【0030】
前記ドープは、後述する原料ドープとして用いることが可能である。しかしながら、膨潤液22を調製した後にTACを溶解させる方法は、TACの濃度を上昇させるほど時間がかかりコストの点で問題が生じる場合がある。その場合には、目的とするTAC濃度より低濃度のドープを調製した後に目的とする濃度のドープを調製する濃縮工程を行うことが好ましい。濾過装置28で濾過されたドープを、バルブ29を介してフラッシュ装置31に送液する。フラッシュ装置31内でドープ中の溶媒の一部を蒸発させる。蒸発した溶媒は、凝縮器(図示しない)により液体とした後に回収装置32で回収する。その溶媒は再生装置33によりドープ調製用の溶媒として再生を行い再利用することがコストの点から有利である。
【0031】
濃縮されたドープをフラッシュ装置31からポンプ34を用いて抜き出す。さらに、ドープ中の泡抜きを行うことが好ましい。泡抜きは、公知のいずれの方法により行っても良く、例えば超音波照射法が挙げられる。その後に濾過装置35に送液して異物の除去を行う。なお、この際にドープの温度が0℃〜200℃であることが好ましい。そして、ストックタンク30にドープを入れる。
【0032】
これらの方法により、TAC濃度が5重量%〜40重量%のドープを製造することができる。なお、製造されたドープ(以下、原料ドープと称する)36は、ストックタンク30に貯蔵される。
【0033】
上述したドープ製造ライン10での、素材、原料、添加剤の溶解方法、濾過方法、脱泡、添加方法については、特開2005−104148号の[0517]段落から[0616]段落が詳しい。これらの記載も本発明に適用できる。
【0034】
[溶液製膜方法]
図2にフイルム製造ライン40を示す。ストックタンク30には、モータ41で回転する攪拌翼42が取り付けられている。攪拌翼42を回転させることで原料ドープ36を攪拌して常に濃度等を均一にしている。ストックタンク30と後述するフィードブロックとの間には、中間層用ドープ流路43と裏面用ドープ流路44と表面層用ドープ流路45とが接続されている。原料ドープ36は、それぞれの流路43,44,45に設けられているポンプ46,47,48により送液される。ポンプ46,47,48は、図示しない制御部に接続する。この制御部により、ポンプ46,47,48は、所定の流量で各ドープを送り出す。
【0035】
(ポンプ)
ポンプ46〜48は、中間層用ドープ54,裏面層用ドープ59,表面層用ドープ64を所定の流量でフィードブロック69に送液する。このポンプ46〜48としては、ギアポンプを用いることが好ましい。このギアポンプとしては、公知のギアポンプであればいずれでもよい。
【0036】
中間層用ドープ流路43には、配管を介してストックタンク50が接続する。ストックタンク50には、中間層用添加液51が貯留する。流路43とストックタンク50とを接続する配管には、ポンプ52が設けられる。ストックタンク50中の中間層用添加液51は、ポンプ52により中間層用ドープ流路43に送液され、中間層用ドープ流路43中の原料ドープ36に添加される。その後、原料ドープ36と中間層用添加液51とは、中間層用ドープ流路43に設けられる静止型混合器(スタティックミキサ)53により攪拌混合されて均一となる。以下、このドープを中間層用ドープ54と称する。中間層用添加液51には、例えば紫外線吸収剤,レターデーション制御剤や可塑剤などの添加剤が予め含まれた溶液(または分散液)が入れられている。
【0037】
裏面用ドープ流路44には、配管を介してストックタンク55が接続する。ストックタンク55には、裏面用添加液56が貯留する。流路44とストックタンク55とを接続する配管には、ポンプ57が設けられる。ストックタンク55中の裏面用添加液56は、ポンプ57により裏面用ドープ流路44に送液され、裏面用ドープ流路44中の原料ドープ36に添加される。その後、原料ドープ36と裏面用添加液56とは、裏面用ドープ流路44に設けられる静止型混合器58により攪拌混合されて均一となる。以下、このドープを裏面層用ドープ59と称する。裏面用添加液56には、支持体である流延ドラムからの剥離を容易とする剥離促進剤(例えば、クエン酸エステルなど)、フイルムをロール状に巻き取った際にフイルム面間での密着を抑制するマット剤(例えば、二酸化ケイ素など)や劣化防止剤などの添加剤が予め含有されている。なお、裏面用添加液56には、可塑剤,紫外線吸収剤やレターデーション制御剤などの光学特性制御剤などの添加剤が含まれていても良い。
【0038】
表面層用ドープ流路45には、配管を介してストックタンク60が接続される。ストックタンク60には、表面層用添加液61が貯留する。流路45とストックタンク60とを接続する配管には、ポンプ62が設けられる。ストックタンク60中の表面層用添加液61は、ポンプ62により表面層用ドープ流路45に送液され、表面層用ドープ流路45中の原料ドープ36に添加される。その後、原料ドープ36と表面層用添加液61とは、表面層用ドープ流路45に設けられる静止型混合器63により攪拌混合されて均一となる。以下、このドープを表面層用ドープ64と称する。表面層用添加液61には、フイルムをロール状に巻き取った際にフイルム面間での密着を抑制するマット剤(例えば、二酸化ケイ素など)や劣化防止剤などの添加剤が予め含有されている。なお、表面層用添加液61には、剥離促進剤,可塑剤,紫外線吸収剤やレターデーション制御剤などの光学特性制御剤などの添加剤が含まれていても良い。
【0039】
(ドープの粘性)
本実施形態では、基層を形成するドープ(以下、基層形成用ドープと称する)として中間層用ドープ54を用い、表層を形成するドープ(以下、表層形成用ドープと称する)として、裏面層用ドープ59,表面層用ドープ64を用いる。基層形成用ドープとしては、製造する光学機能性フイルムの強度や光学的機能に適するドープを用い、表層形成用ドープとしては、光学機能性フイルムの平面性や滑り性を良くするためのドープを用いる。また、上記に加え、表層形成用ドープとして、基層形成用ドープよりも粘性が低いものを用いることが好ましい。これにより、後述する乾燥工程などにおいて、後述する流延膜や湿潤フイルムの表面におけるスジやムラの生成や、厚さムラなどを防ぐことができる。
【0040】
流延室68には、各ドープ54、59、64とから積層ドープをつくるフィードブロック69と、積層ドープを流延する流延ダイ70と、積層ドープから流延膜71をつくる支持体であるキャスティングドラム(以下、流延ドラムと称する)72と、流延ドラム72から流延膜71を剥ぎ取って、湿潤フイルム73とする剥取ローラ74と、流延室68内の温度を所定の範囲で略一定に保つ温調設備77と、流延室68内に蒸発している有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)78とが備えられている。流延室68の温度が−10℃以上57℃以下の範囲で略一定に保たれていることが好ましい。凝縮器78によって凝縮液化した有機溶媒は、回収装置79により回収され再生させた後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。
【0041】
流延ダイ70は、フィードブロック69の下流側に配される。流延ダイ70の下流には流延ドラム72が設けられている。中間層用ドープ54,裏面層用ドープ59,表面層用ドープ64は、ポンプ46〜48により、フィードブロック69にそれぞれ所望の流量で送液される。各ドープ54、59、64は、フィードブロック69内で合流し、積層ドープとなって流延ダイ70へ送られる。
【0042】
(フィードブロック)
フィードブロック69は、1つのドープ出口(図示しない)を有する。フィードブロック69の内部には、第1〜第3流路(図示しない)が設けられている。第1流路は、フィードブロック69を貫通するように鉛直下向きに延びるように、配管43とドープ出口とを連通する。第2流路は、配管44と第1流路の途中に設けられる合流部と連通する。第3流路は、配管45と第1流路の途中に設けられる合流部と連通する。また、合流部近傍の第2流路及び第3流路には、適宜、ディストリビューションピンが設けられる。このディストリビューションピン及びポンプ46〜48などにより、第1〜第3流路を通過する各ドープ54、49、64の流量を独立に調節することができる。
【0043】
(流延ダイ)
流延ダイ70は、フィードブロック69のドープ出口と連通するドープ入口を有する。また、流延ダイ70の先端には、積層ドープを流出する流出口70a(図3参照)を備える。また、流延ダイ70の内部に形成されるダイ流路は、ドープ入口と流出口70aとを連通する。
【0044】
流延ダイ70及びフィードブロック69の材質としては、析出硬化型のステンレス鋼が好ましく、その熱膨張率が2×10−5(℃−1)以下であることが好ましい。そして、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316製と略同等の耐腐食性を有するものも、この流延ダイ70の材質として用いることができ、さらに、ジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有するものを用いられる。さらに、鋳造後1ヶ月以上経過したものを研削加工して流延ダイ70を作製することが好ましい。これにより流延ダイ70及びフィードブロック69内を積層ドープが一様に流れ、後述する流延膜71にスジなどが生じることが防止される。流延ダイ70及びフィードブロック69の接液面の仕上げ精度は、表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。
【0045】
流出口70a(図3参照)のスリットのクリアランスは、自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲で調整可能とされている。流延ダイ70のリップ先端の接液部の角部分について、そのRは全巾にわたり50μm以下とされている。また、流延ダイ70内部における剪断速度が1(1/秒)〜5000(1/秒)となるように調整されていることが好ましい。このような流延ダイ70を用いることにより、表面にスジが形成されず、厚さムラのない流延膜71を流延ドラム72の周面72a上に形成することができる
【0046】
流延ダイ70の幅は、特に限定されるものではないが、最終製品となるフイルムの幅の1.1倍〜2.0倍であることが好ましい。また、製膜中の温度が所定温度に保持されるように、この流延ダイ70に温調機(図示しない)を取り付けることが好ましい。また、流延ダイ70にはコートハンガー型のものを用いることが好ましい。さらに、厚み調整ボルト(ヒートボルト)を流延ダイ70の幅方向において所定の間隔で設け、ヒートボルトによる自動厚み調整機構が流延ダイ70に備えられていることがより好ましい。ヒートボルトは予め設定されるプログラムによりポンプ(高精度ギアポンプが好ましい)46〜48の送液量に応じてプロファイルを設定し製膜を行うことが好ましい。また、フイルム製造ライン40中に図示しない厚み計(例えば、赤外線厚み計)のプロファイルに基づく調整プログラムによってフィードバック制御を行っても良い。流延エッジ部を除いて製品フイルムの幅方向の任意の2点の厚み差は1μm以内に調整し、幅方向厚みの最小値と最大値との差が3μm以下となるように調整することが好ましく、2μm以下に調整することがより好ましい。また、厚み精度は±1.5μm以下に調整されているものを用いることが好ましい。
【0047】
流延ダイ70のリップ先端には、硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムメッキ、窒化処理方法などが挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削でき気孔率が低く脆くなく耐腐食性が良く、かつ流延ダイ70と密着性が良いものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC),Al23,TiN,Cr23などが挙げられるが、なかでも特に好ましくはWCである。WCコーティングは、溶射法で行うことができる。
【0048】
(流延ドラム)
略円筒状または円柱形状に形成される流延ドラム72は、駆動装置によりその軸32bを中心に回転する。この駆動装置によって、流延ドラム72は、その周面72aは所定の走行方向Z1に所定速度(10m/分以上300m/分以下)で回転する。流延ドラム72の周面72aは、クロムメッキ処理が施され、十分な耐腐食性と強度を有する。また、流延ドラム72の周面72aの温度を所望の温度に保つために、流延ドラム72に伝熱媒体循環装置75が取り付けられている。この伝熱媒体循環装置75にて所望の温度に保持されている伝熱媒体が、流延ドラム72内の伝熱媒体流路を通過することにより、流延ドラム72の周面72aの温度を所望の温度に保持できる。
【0049】
流延室68の下流には、湿潤フイルム73を乾燥させてフイルム85とするピンテンタ86と、このフイルム85を乾燥させながら延伸するクリップテンタ87とが設けられている。フイルム85は、クリップテンタ87の所定条件下の延伸処理によって、所望の光学特性が付与される。なお、ピンテンタ86は、固定手段として複数のピンを有する乾燥装置であり、クリップテンタ87は、把持手段としてクリップを有する乾燥装置である。なお、クリップテンタ87は省略しても良い。
【0050】
クリップテンタ87の下流には耳切装置88が設けられている。この耳切装置88には、クラッシャ89が備えられており、ここで、フイルム85の両側端部は切断された後、クラッシャ89に送り込まれて粉砕される。粉砕されたフイルム細片は、原料ドープとして再利用される。
【0051】
耳切装置88の下流には乾燥室105が設けられている。乾燥室105には、多数のローラ104と吸着回収装置106とが備えられている。さらに、乾燥室105に併設された冷却室107の下流には、強制除電装置(除電バー)108が設けられている。また、本実施形態では、強制除電装置108の下流側に、ナーリング付与ローラ109を設けている。
【0052】
ナーリング付与ローラ109の下流には巻取り室110が設けられている。巻取室110の内部には、巻取ローラ111とプレスローラ112とが備えられている。十分に乾燥したフイルム85は、プレスローラ112により所望のテンションを付与されながら、巻取ローラ111に巻き取られる。なお、テンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましい。巻き取られるフイルム85は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。
【0053】
また、フイルム85の幅は、600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、フイルム85の幅が2500mmより大きい場合にも効果がある。フイルム85の厚みは、15μm以上100μm以下の薄いフイルムを製造する際にも適用できる。
【0054】
(減圧チャンバ)
次に、図3及び図4を用いて、減圧チャンバ150及び減圧チャンバ150の近傍の詳細について説明する。流延工程において、流延ダイ70は流出口70aから流延ドラム72の周面72aへ積層ドープを流延する。このとき、積層ドープは、流出口70aから流延ドラム72の周面72aにかけて、流延ビード200を形成する。
【0055】
減圧チャンバ150は、流延ダイ70と剥取ローラ74との間の、周面72aの近傍に配される(図2参照)。減圧チャンバ150は、−10Pa〜−2000Paの範囲で背面200a側を減圧することができる。背面200a側を−350Pa以上−2000Pa以下に減圧することが好ましい。この減圧チャンバ150による減圧度は、周面72aの走行速度など、製造条件に応じて適宜決定されることが好ましい。
【0056】
なお、本明細書において、「流延ビード200の背面200a側を−X(Pa)以下に減圧する」とは、前面側よりもX(Pa)以上低くなるように、背面200a側を減圧することをいう。背面200aとは、周面72aの走行方向Z1からみて上流側の流延ビード200の面をいい、前面とは、走行方向Z1からみて下流側の流延ビード200の面をいう。
【0057】
減圧チャンバ150は、図示しない吸引装置と接続する。減圧チャンバ150は、上部シール板152、フロントシール板153、左右で一対のサイドシール板157、エンドシール板158により、中空部150aを有する箱型状に形成され、1つの側面の下部に開口部150b、底面に開口部150cを有する。こうして、減圧チャンバ150は、流延ビード200の背面200a側をコ字形に覆うように配される。
【0058】
中空部150a内には、サイドシール板157と平行になるように、サイドシール板157側から中央側に向かって、複数の仕切り板160、161、162、163が略左右対称に配置されている。これら仕切り板160〜163は、上部シール板152に固定されて取り付けられている。また、一対の仕切り板160は、流延ダイ70の側面70bと接する或いはその近傍に配され、一対の仕切り板161〜163は、前端が流延ダイ70の斜面70cと当接するように配される。仕切り板162、163の後端には、これら仕切り板162、163の間隔を保持する保持板165を固定してもよい。保持板165は、周面72aに対して起立するように設けられることが好ましい。保持板165の両側端部は、一対の仕切り板161にそれぞれ固定する。これら仕切り板160〜163によって、中空部150a内の幅方向両端部における気流は、周面72aの走行方向Z1と略逆向きになる。なお、仕切り板162、163の数や配置ピッチは、流延ビード200の幅に応じて、適宜増減することが好ましい。
【0059】
遮風板170は、板状に形成され、周面72aに対して起立するように設けられる前面170aと、周面72aと対向する底面170bと、周面72aに対して起立するように設けられる背面170cとを有する。前面170a及び背面170cと周面72aとの角度は、特に限定されないが、例えば、略90°であることが好ましい。一対の遮風板170は、上部シール板152、サイドシール157及び仕切り板160の前端と背面170cとが固定するように設けられる。遮風板170により、サイドシール157及び仕切り板160との間の開口部150bは塞がれ、残りの開口部150bは、背面200a近傍と連通する。また、流延ダイ70と当接する遮風板170には、パッキン(図示しない)が設けられることが好ましい。
【0060】
底面170bには、溝175が形成される。溝175は、流延ビード200の幅方向に伸びるように形成される。この溝175により、底面170bに突起部177a〜177cが形成される。突起部177aは、周面72aとの間隔が走行方向Z1に向かうにつれて小さくなるように形成される。同様にして、突起部177b、及び突起部177cも、周面72aとの間隔が走行方向Z1に向かうにつれて小さくなるように形成される。こうして、底面170bに、いわゆるラビリンスシールが形成される。
【0061】
さらに、減圧チャンバ150の温度を所定の温度に保つため、ジャケット(図示しない)を取り付けることが好ましい。減圧チャンバ150の温度は特に限定されるものではないが、10℃以上50℃以下の範囲であることが好ましい。また、流延ビード200の形状を所望のものにたもつため流延ダイ70のエッジ部に吸引装置(図示しない)を取り付けることが好ましい。エッジ吸引風量は、1L/分〜100L/分の範囲であることが好ましい。
【0062】
流延ダイ70の流出口70aから流出するドープが、局所的に乾燥固化することを防止するために溶媒供給装置(図示しない)を流出口の端部近傍に取り付けることが好ましい。ドープを可溶化する溶媒(例えば、ジクロロメタン86.5重量部,メタノール13重量部,n−ブタノール0.5重量部の混合溶媒)を流延ビード200の端部とスリットとの気液界面に供給することが好ましい。なお、この液を供給するポンプの脈動率は5%以下のものを用いることが好ましい。
【0063】
次に、図2を用いて、フイルム製造ライン40によりフイルム85を製造する方法の一例を説明する。ストックタンク30では、ジャケット30cの内部に伝熱媒体を流すことにより原料ドープ36の温度を25以上35℃以下の範囲で略一定に調整するとともに、攪拌翼30bの回転により常に均一化している。
【0064】
原料ドープ36は、ポンプ46〜48により、各配管44〜46に送られる。配管44〜46では、適宜添加剤などが添加され、原料ドープ36が、それぞれ、中間層用ドープ54、裏面層用ドープ59、表面層用ドープ64となる。そして、各ドープ54、59、64は、フィードブロック69へ送られる。フィードブロック69は、各ドープ54、59、64から積層ドープをつくり、流延ダイ70におくる。
【0065】
流延ドラム72の周面72aは、駆動装置により走行方向Z1へ所定の走行速度(50m/分以上300m/分以下)で走行する。また、伝熱媒体循環装置75により、流延ドラム72の周面72aの温度は−20℃以上10℃以下の範囲内で略一定となるように調整されている。また、30℃以上35℃以下の範囲で保持されている積層ドープを、流延ダイ70から流延ドラム72の周面72a上に流延する。原料ドープ36は、流延ドラム72の周面72a上で流延膜71を形成する。こうして、流延ドラム72の周面72a上では、流延膜71が冷却固化(ゲル化)され、流延膜71に自己支持性を持たせることができる。流延膜71の冷却が進行すると、結晶の基となる架橋点が形成されて流延膜71のゲル化が促進される。剥取ローラ74を用いて、ゲル化、及びゲル化の進行により自己支持性を有するものとなった流延膜71を、流延ドラム72から剥ぎ取って湿潤フイルム73とする。そして、剥取ローラ74はこの湿潤フイルム73をピンテンタ86に案内する。
【0066】
ピンテンタ86では、多数のピンを湿潤フイルム73の両側端部に差し込み固定した後、この湿潤フイルム73を搬送する間に乾燥を促進させてフイルム85とする。そして、まだ溶媒を含んでいる状態のフイルム85をクリップテンタ87に送り込む。
【0067】
クリップテンタ87では、チェーンの動きにより無端で走行する多数のクリップによりフイルム85の両側端部を挟持した後、このフイルム85を搬送する間に、乾燥を促進させる。このとき、対面するクリップの幅を拡げてフイルム85の幅方向に張力を付与することでフイルム85を延伸する。このように、フイルム85の幅方向への延伸処理により、フイルム85中の分子が配向し、フイルム85に所望のレターデーションを付与、或いは、フイルム85のレターデーションを調節することができる。
【0068】
クリップテンタ87から送り出されたフイルム85は、耳切装置88によりの両側端部が切断される。両側端部が切断されたフイルム85は、乾燥室105と冷却室107とを経由し、巻取室110内の巻取ローラ111で巻き取られる。なお、耳切装置88によって切断された両側端部は、クラッシャ89により粉砕されて、ドープ調製用チップとなり再利用される。
【0069】
図3及び図4のように、流延工程において、流延ダイ70は流出口70aから流延ドラム72の周面72aへ積層ドープを流延する。このとき、積層ドープは、流出口70aから流延ドラム72の周面72aにかけて、流延ビード200を形成する。そして、周面72a上に流延された積層ドープは流延膜71となる。この流延膜71は、周面72aの走行によって走行方向Z1に所定の走行速度で搬送される。
【0070】
周面72aの走行により、周面72aの近傍には、同伴風が発生する。この同伴風は、周面72a近傍において、走行方向Z1の上流側から下流側へ流れる。同伴風は、エンドシール板158と周面72aとの隙間から、開口部150cと周面72aとの間の範囲(以下、減圧ゾーンと称する)に流入する。減圧ゾーンに流入した同伴風は、走行方向Z1、すなわち、流延ビード200の背面200aへ向かって流れる。保持板165や遮風板170は、同伴風の背面200a近傍への流入を遮る。減圧チャンバ150は、中空部150a又は開口部150c、或いは、これらの近傍にある空気を吸引する。
【0071】
この空気の吸引により減圧ゾーンにおける圧力が低下するため、流延ビード200の背面200aと開口部150bとの間の空気が、開口部150bを介して、減圧ゾーンへ流入する。流延ビード200の両側端部近傍の空気A1は、遮風板170の底面170bと周面72aとの間を通って、減圧ゾーンへ流入する。こうして、流延ビード200の背面200a側が、所定の圧力まで減圧される。
【0072】
背面200aと前面200bとの間の圧力差が変動すると、その圧力差に応じて流延ビード200は振動する。この圧力差の変動は、背面200a側の減圧の際にも生ずる。流延ビード200の振動、特に後に製品のフイルムとなる流延ビード200の幅方向中央部の振動を抑えるためには、背面200a側近傍の空気の圧力振動の周波数成分のうちf0−20(Hz)以上f0+20(Hz)以下の周波数の圧力変動の最大値Pmaxが1Pa以下となるようにすることが必要である。この空気の圧力振動には、減圧によるホワイトノイズを含む。また、f0とは、流延ビード200の固有振動数(Hz)であり、フイルムの厚みムラ周波数から、或いはFUJI FILM RESEARCH&DEVELOPMENT(No.46−2001)に記載される液膜の周波数応答実験から求めることができる。
【0073】
遮風板170を設けることにより、遮風板170の底面170bと周面72aとの間を通って、減圧ゾーンへ流入する空気A1の流量をQ1と、開口部150cの近傍の空気A2が中空部150aへ流入する量をQ2との比である、Q1/Q2の値を所定の範囲に調節することができる。Q1が多くなると圧力変動が抑制されず、Q2が多くなると、フィルムの表面に凹凸が生じる面状ムラ故障となるため好ましくない。このQ1/Q2の値を1/100以上1/4以下で略一定になるように保持することにより、背面200a側の空気の流出入が抑制されることで、流延ビード200の幅方向中央部近傍の空気の圧力振動を抑え、結果として、流延ビード200の幅方向中央部における振動を抑えることができる。
【0074】
また、この遮風板170に設けられる、溝175の形状、大きさ、形成ピッチや、突起部177a〜177cの形状、底面170bと周面72aとの距離の調節により、Q1/Q2の値が所望の範囲となるように調節することができる。また、遮風板170のみならず、間隔CL1の調節により、流量Q2を調節することも可能である。
【0075】
流量Q1及びQ2は、公知の流量センサなどを用いて計測する他、製造実験などの結果に基づいて、減圧チャンバ150の減圧度P1や周面72aの走行速度V1などの製造条件から求めることも可能である。
【0076】
また、同伴風の背面200a近傍への遮風効果を発揮させるため、底面170bと周面72aとの間隔CL1は0.1mm以上3mm以下であることが好ましく、略0.5mmであることが好ましい。間隔CL1が3mmを超えると、遮風効果が発揮されなくなり、厚さムラ故障が発生するため好ましくない。間隔CL1が0.1mm未満であると、遮風板170と周面72aとの接触が生じるおそれがあるため好ましくない。接触によって生じた損傷を有する周面72aを用いて、流延工程を行うと、損傷跡が流延膜に転写される結果、フイルムの面状故障となるからである。
【0077】
したがって、遮風板170を減圧チャンバ150に設けることにより、Q1/Q2の値を所望の範囲で略一定になるように保持し、背面200a近傍の空気の整流作用を発揮することができるため、厚みムラ故障を誘発する、幅方向中央部の流延ビード200の振動を抑えることができる。
【0078】
上記実施形態では、板状に形成された遮風板170を流延ビード側方遮風部材として用いたが、本発明はこれに限られず、ブロック状などその他の形状であってもよい。また、上記実施形態では、いわゆるラビリンスシールと一体となっている遮風板170を用いたが、本発明はこれに限らず、遮風板とラビリンスシールとを用いてもよい。
【0079】
上記実施形態では、遮風板170を減圧チャンバ150に設けたが、本発明はこれに限らず、流延ダイ70に設けてもよい。
【0080】
上記実施形態では、遮風板170を、サイドシール板157と仕切板160との間の開口部150bを塞ぐように設けたが、本発明はこれに限らず、仕切り板160〜162との間における開口部150bや、一方のサイドシール板157から他方のサイドシール板157までの開口部150bを塞ぐように遮風板170を設けてもよい。
【0081】
上記実施形態では、上部シール板152の前端と背面170cとが固定するように、遮風板170を設けたが、本発明はこれに限られず、上部シール板152の後端近傍に設けてもよいし、前端と後端との間の上部シール板152に設けてもよい。
【0082】
上記実施形態では、遮風板170を減圧チャンバ150に取り付けたが、本発明はこれに限らず、遮風板170を流延ダイ70に取り付けても良い。この場合には、例えば、前面170a上に空気が通過する溝を設ける、或いは、前面170近傍に空気が通過する流路を設けてもよい。
【0083】
上記実施形態では、いわゆる共流延により積層構造を有するフイルム85を製造したが、本発明はこれに限らず、単一のドープからなる単層のフイルムを製造する場合にも、当然にして、適用可能である。
【0084】
上記実施形態では、支持体として流延ドラムを用いたが、本発明はこれに限らず、流延バンドを用いても良い。
【0085】
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フイルム回収方法まで、特開2005−104148号の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されている。これらの記載も本発明に適用できる。
【0086】
[性能・測定法]
(カール度・厚み)
巻き取られたセルロースアシレートフイルムの性能及びそれらの測定法は、特開2005−104148号の[0112]段落から[0139]段落に記載されている。これらも本発明にも適用できる。
【0087】
[表面処理]
前記セルロースアシレートフイルムの少なくとも一方の面が表面処理されていることが好ましい。前記表面処理が真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理またはアルカリ処理の少なくとも一種であることが好ましい。
【0088】
[機能層]
(帯電防止・硬化層・反射防止・易接着・防眩)
前記セルロースアシレートフイルムの少なくとも一方の面が下塗りされていても良い。
【0089】
さらに前記セルロースアシレートフイルムをベースフイルムとして、他の機能性層を付与した機能性材料として用いることが好ましい。前記機能性層が帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層及び光学補償層から選択される少なくとも1層を設けることが好ましい。
【0090】
前記機能性層が、少なくとも一種の界面活性剤を0.1mg/m〜1000mg/m含有することが好ましい。また、前記機能性層が、少なくとも一種の滑り剤を0.1mg/m〜1000mg/m含有することが好ましい。さらに、前記機能性層が、少なくとも一種のマット剤を0.1mg/m〜1000mg/m含有することが好ましい。さらには、前記機能性層が、少なくとも一種の帯電防止剤を1mg/m〜1000mg/m含有することが好ましい。セルロースアシレートフイルムに、種々様々な機能、特性を実現するための表面処理機能性層の付与方法は、上記以外にも、特開2005−104148号の[0890]段落から[1087]段落に詳細な条件、方法も含めて記載されている。これらも本発明に適用できる。
【0091】
(用途)
前記セルロースアシレートフイルムは、特に偏光板保護フイルムとして有用である。セルロースアシレートフイルムを偏光子に貼り合わせた偏光板を、液晶層に通常は2枚貼って液晶表示装置を作製する。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、公知の各種配置とすることができる。特開2005−104148号には、液晶表示装置として、TN型,STN型,VA型,OCB型,反射型、その他の例が詳しく記載されている。この方法は、本発明にも適用できる。また、同出願には光学的異方性層を付与した、セルロースアシレートフイルムや、反射防止、防眩機能を付与したセルロースアシレートフイルムについての記載もある。更には適度な光学性能を付与し二軸性セルロースアシレートフイルムとして光学補償フイルムとしての用途も記載されている。これは、偏光板保護フイルムと兼用して使用することもできる。これらの記載は、本発明にも適用できる。特開2005−104148号の[1088]段落から[1265]段落に詳細が記載されている。
【0092】
また、本発明の製造方法により光学特性に優れるセルローストリアセテートフイルム(TACフイルム)を得ることができる。前記TACフイルムは、偏光板保護フイルムや写真感光材料のベースフイルムとして用いることができる。さらにテレビ用途などの液晶表示装置の視野角依存性を改良するための光学補償フイルムとしても使用可能である。特に偏光板の保護膜を兼ねる用途に効果的である。そのため、従来のTNモードだけでなくIPSモード、OCBモード、VAモードなどにも用いられる。また、前記偏光板保護膜用フイルムを用いて偏光板を構成しても良い。
【0093】
次に、本発明の実施例を説明する。以下の各実施例では、詳細を実施例1で説明し、実施例2、3、比較例1〜3については、実施例1と異なる条件のみを説明する。
【実施例1】
【0094】
[ドープ組成]
セルローストリアセテートを混合溶媒に溶解し、適量の可塑剤を添加したものをドープAとした。混合溶媒としては、ジクロロメタン、メタノール及び1−ブタノールとからなる混合溶媒を用いた。可塑剤としては、トリフェニルフォスフェート、及びビフェニルジフェニルフォスフェートを用いた。このドープAに適量の紫外線吸収剤を添加したものを中間層用ドープ54とした。中間層用ドープ54の粘度は、700ポイズであった。
【0095】
また、このドープAと同一の組成であり、セルローストリアセテートの含有濃度が低いドープに、紫外線吸収剤、コロイダルシリカ及び劣化防止剤を適度に添加したものを、裏面層用ドープ59及び表面層用ドープ64とした。裏面層用ドープ59及び表面層用ドープ64の粘度は、それぞれ200ポイズであった。
【0096】
流延ダイ70、フィードブロック69及び配管にジャケット(図示しない)を設けてジャケット内に供給する伝熱媒体の入口温度を36℃とし、流延ダイ70、フィードブロック69、配管は製膜時にはすべて略36℃に保温した。流延ダイ70はコートハンガータイプのものを用い、厚み調整ボルト(ヒートボルト)が20mmピッチに設けられており、ヒートボルトによる自動厚み調整機構を具備しているものを使用した。ヒートボルトは予め設定したプログラムにより高精度ギアポンプの送液量に応じたプロファイルを設定することもでき、フイルム製造ライン40内に設置した赤外線厚み計(図示しない)のプロファイルに基づいた調整プログラムによってフィードバック制御も可能な性能を有するものである。流延エッジ部20mmを除いたフイルムで50mm離れた任意の2点の厚み差は1μm以内であり、幅方向厚みの最小値で最も大きな差が3μm/m以下となるように調整した。また、各層の平均厚み精度は両外層が±2%以下、主流が±1%以下に制御され、全体厚みは±1.5%以下となるように調整した。
【0097】
流延ダイ70の材質は析出硬化型のステンレス鋼であり、熱膨張率が2×10-5(℃−1)以下の素材であり、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316製と略同等の耐腐食性を有する素材を使用した。また、ジクロロメタン,メタノール,水の混合液に3ヶ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有する素材を使用した。流延ダイ70及びフィードブロック69の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であり、スリットのクリアランスは1.5mmに調整した。ダイリップ先端の接液部の角部分について、Rはスリット全巾に亘り50μm以下になるように加工した。ダイ内部での剪断速度は1(1/秒)〜5000(1/秒)の範囲であった。また、流延ダイ70のリップ先端には、溶射法によりWCコーティングをおこない硬化膜を設けた。
【0098】
さらに流延ダイ70のスリット端には流出するドープが、局所的に乾燥固化することを防止するために、ドープを可溶化する前記混合溶媒を流延ビード端部とスリット気液界面に片側で0.5ml/分で供給した。この液を供給するポンプの脈動率は5%以下のものを用いた。
【0099】
支持体として円筒状の流延ドラム72として利用した。流延ドラム72の周面72aにはクロムメッキ及び鏡面加工処理が施され、周面72aの表面粗さは0.05μm以下であった。その材質はSUS316製であり、十分な耐腐食性と強度を有するものを用いた。流延ドラム72は、図示しない制御部の制御の下、軸72bの駆動により回転した。流延速度、すなわち、周面72aの走行方向における速度V1は、略50m/分とした。このときに、流延ドラム72の速度変動を0.5%以下とした。また1回転の幅方向の蛇行が、1.5mm以下に制限されるように流延ドラム72の両端位置を検出して制御した。流延ダイ70の直下におけるダイリップ先端と流延ドラム72との上下方向の位置変動は200μm以下にした。流延ドラム72は、風圧変動抑制手段(図示しない)を有した流延室68内に設置した。
【0100】
流延ドラム72は、周面72aの温度の調整を行うことができるように、内部に伝熱媒体を送液できるものを用いた。伝熱媒体循環装置75は、流延ドラム72に伝熱媒体を流した。流延直前の周面72a中央部の温度は略0℃であった。なお、流延ドラム72には、表面欠陥がないものが好ましく、30μm以上のピンホールは皆無であり、10μm〜30μmのピンホールは1個/m2以下、10μm未満のピンホールは2個/m2以下であるものを用いた。
【0101】
流延室68の温度は、温調設備77を用いて35℃に保った。流延バンド72上の乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、酸素濃度を5vol%に保持するため空気を窒素ガスで置換した。また、流延室68内の溶媒を凝縮回収するために、凝縮器(コンデンサ)78を設け、その出口温度は、−10℃に設定した。
【0102】
そして、各ドープ54、59、64を、フィードブロック69へ所定の流量で送った。フィードブロック69及び流延ダイ70は、目的とするTACフイルムの膜厚(表面層,中間層,裏面層)がそれぞれ4μm,73μm,3μmであり、製品厚みが80μm、流延幅を1700mmとなるように、各ドープ54、59、64の流量を調整して、積層ドープの流延を行った。
【0103】
積層ドープは、流出口70aから周面72aにかけて、流延ビード200を形成した。また、周面72a上の積層ドープは、流延膜71となった。流延膜71は、流延ドラム72により冷却ゲル化し、その結果、流延膜71に自己支持性が発現した。
【0104】
流延ダイ70の1次側には、流延ドラム72の周面72aとの距離CL1を1.2mmとして設置した遮風板170を有する減圧チャンバ150を設置した。流延ビード200の長さが、ビードの長さが4mm±20mmとなるように減圧度を設定した。そのときの減圧チャンバ150の減圧度P1は−100Paであり、Q1/Q2の値は略1/5であった。このときの流延ビード200の固有振動数f0は80Hzであった。流延ビード200近傍の圧力変動をなす周波数成分のうち、60Hz以上100Hz以下の周波数の圧力変動の最大値Pmaxが0.7Paであった。流延ビード200近傍の圧力変動の周波数解析は、圧力変動のFFT解析を用いた。
【0105】
剥取ローラ74により、流延ドラム72から流延膜71を湿潤フイルム73として剥ぎ取った。このときの剥取テンションは10kgf/mであり、剥取不良を抑制するために流延バンド72の速度に対して剥取速度(剥取ローラドロー)は、100.1%〜110%の範囲で適切に調整した。
【0106】
湿潤フイルム73をピンテンタ86に送り、湿潤フイルム73に乾燥風をあてて、湿潤フイルム73を乾燥した。この乾燥処理が施された湿潤フイルム73をフイルム85として、耳切装置88で行った。NT型カッターにより両側50mmの耳をカットし、カットした耳はカッターブロワ(図示しない)によりクラッシャ89に風送して平均80mm程度のチップに粉砕した。このチップは、再度ドープ調製用原料としてTACフレークと共にドープ製造の際に原料として利用した。クリップテンタ87の乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、酸素濃度を5vol%に保持するため空気を窒素ガスで置換した。後述する乾燥室105で高温乾燥させる前に、100℃の乾燥風が供給されている予備乾燥室(図示しない)でフイルム85を予備加熱した。
【0107】
フイルム85を乾燥室105で高温乾燥した。乾燥室105を4区画に分割して、上流側から120℃,130℃,130℃,130℃の乾燥風を送風機(図示しない)から給気した。フイルム85のローラ104による搬送テンションは100N/巾として、最終的に残留溶媒量が、0.3重量%になるまでの約10分間乾燥した。前記ローラ104のラップ角度は、90度および180度とした。前記ローラ104の材質はアルミ製もしくは炭素鋼製であり、表面にはハードクロム鍍金を施した。ローラ104の表面形状はフラットなものとブラストによりマット化加工したものとを用いた。ローラ104の回転による振れは全て50μm以下であった。また、テンション100N/巾でのローラ撓みは0.5mm以下となるように選定した。
【0108】
乾燥風に含まれる溶媒ガスは、吸着回収装置106を用いて吸着回収除去した。吸着剤は活性炭であり、脱着は乾燥窒素を用いて行った。回収した溶媒は、水分量0.3重量%以下に調整してドープ調製用溶媒として再利用した。乾燥風には溶媒ガスの他、可塑剤,UV吸収剤,その他の高沸点物が含まれるので冷却除去する冷却器およびプレアドソーバーでこれらを除去して再生循環使用した。そして、最終的に屋外排出ガス中のVOC(揮発性有機化合物)は10ppm以下となるよう、吸脱着条件を設定した。また、全蒸発溶媒のうち凝縮法で回収する溶媒量は90重量%であり、残りの大部分は吸着回収により回収した。
【0109】
乾燥されたフイルム85を第1調湿室(図示しない)に搬送した。乾燥室105と第1調湿室との間の渡り部には、110℃の乾燥風を給気した。第1調湿室には、温度50℃、露点が20℃の空気を給気した。さらに、フイルム85のカールの発生を抑制する第2調湿室(図示しない)にフイルム85を搬送した。第2調湿室では、フイルム85に直接90℃,湿度70%の空気をあてた。
【0110】
調湿後のフイルム85は、冷却室107で30℃以下に冷却して両端耳切りを行った。搬送中のフイルム帯電圧は、常時−3kV〜+3kVの範囲となるように強制除電装置(除電バー)108を設置した。さらにフイルム85の両端にナーリング付与ローラ109でナーリングを行った。ナーリングは片側からエンボス加工を行うことで付与し、ナーリングする幅は10mmであり、最大高さは平均厚みよりも平均12μm高くなるように押し圧を設定した。
【0111】
そして、フイルム85を巻取室110に搬送した。巻取室110は、室内温度28℃,湿度70%に保持した。さらに、フイルム帯電圧が−1.5kV〜+1.5kVになるようにイオン風除電装置(図示しない)も設置した。全工程を通しても平均乾燥速度は20重量%(乾量基準溶媒)/分であった。また巻き緩み、シワもなく、10Gでの衝撃テストにおいても巻きずれが生じなかった。また、ロール外観も良好であった。
【0112】
フイルム85のフイルムロールを25℃、55%RHの貯蔵ラックに1ヶ月保管して、さらに上記と同様に検査した結果、いずれも有意な変化は認められなかった。さらにロール内においても接着も認められなかった。また、フイルム85を製膜した後に、流延バンド72上にはドープから形成された流延膜71の剥げ残りは全く見られなかった。
【実施例2】
【0113】
本実施例では、周面72aの走行方向における速度V1を略80m/分としたこと、及び減圧チャンバ150の減圧度P1を−500Paとしたこと以外は実施例1と同様にしてフイルム85をつくった。このとき、Q1/Q2の値は略1/10であり、流延ビード200の固有振動数f0は150Hzであった。また、流延ビード200近傍の圧力変動をなす周波数成分のうち、130Hz以上170Hz以下の周波数成分の圧力変動の最大値Pmaxが0.8Paであった。
【実施例3】
【0114】
本実施例では、遮風板170を流延ドラム72の周面72aとの距離CL1を0.5mmとして設置した以外は実施例1と同様にしてフイルム85をつくった。このとき、Q1/Q2の値は略1/100であり、流延ビード200の固有振動数f0は80Hzであった。また、流延ビード200近傍の圧力変動をなす周波数成分のうち、60Hz以上100Hz以下の周波数成分の圧力変動の最大値Pmaxが0.9Paであった。
【0115】
[比較例1]
本実施例では、遮風板170の溝175の形状、大きさ、形成ピッチ或いは、突起部177a〜177cの形状を調節して、Q1/Q2の値を略1/125としたこと以外は実施例1と同様にしてフイルムをつくった。流延ビード200の固有振動数f0は80Hzであった。また、流延ビード200近傍の圧力変動をなす周波数成分のうち、60Hz以上100Hz以下の周波数成分の圧力変動の最大値Pmaxが0.6Paであった。しかし、Q2の比率が増えたことで、面状ムラ故障が発生した。
【0116】
[比較例2]
本実施例では、遮風板170を取り外したこと以外は実施例1と同様にしてフイルムをつくった。Q1/Q2の値は略1/3であった。流延ビード200の固有振動数f0は80Hzであった。また、流延ビード200近傍の圧力変動をなす周波数成分のうち、60Hz以上100Hz以下の周波数成分の圧力変動の最大値Pmaxが1.5Paであった。
【0117】
[比較例3]
本実施例では、遮風板170を取り外したこと、周面72aの走行方向における速度V1を略80m/分としたこと、及び減圧チャンバ150の減圧度P1を−500Paとしたこと以外は実施例1と同様にしてフイルムをつくった。Q1/Q2の値は略1/3であった。流延ビード200の固有振動数f0は150Hzであった。また、流延ビード200近傍の圧力変動をなす周波数成分のうち、130Hz以上170Hz以下の周波数成分の圧力変動の最大値Pmaxが1.8Paであった。
【0118】
実施例1〜3、比較例1〜3で得られたフイルムについて、次の方法で測定して、厚みムラ評価を行った。測定方法は、フイルムを25℃,60RH%下でアンリツ電気社製、電子マイクロメーターを用いて、5箇所を測定した。測定値の平均値と偏差とから相対標準偏差RSD(=偏差/平均値×100%)を算出した。そして相対標準偏差からフイルムの厚みムラを以下基準で行った。
◎: 0.25%未満
○: 0.25%以上0.50 %未満
△: 0.50%以上1.25%未満
×: 1.25%以上
【0119】
表1に、実施例1〜3、比較例1〜3おける、距離CL1、周面72aの速度V1、減圧度P1、遮風板170の有無、流量比Q1/Q2、流延ビード200の固有振動数f0、所定の周波数の圧力変動の最大値Pmax、及び厚みムラ評価結果を示す。
【0120】
【表1】

【0121】
実施例1〜3、比較例1〜3より、遮風板170を減圧チャンバ150に設け、Q1/Q2の値を所定の範囲保持することにより、流延ビード200近傍の空気の圧力振動をなす周波数成分のうち、流延ビード200の固有振動数近傍の圧力変動を抑えることができるため、流延ビード200、特に流延ビードの中央部の振動を抑え、結果として、厚みムラ故障や面状故障を抑えることができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】ドープ製造ラインの概要を示す説明図である。
【図2】フイルム製造ラインの概要を示す説明図である。
【図3】流延工程における流延ダイの流出口及び減圧チャンバの近傍についての側面図及び断面図である。
【図4】減圧チャンバ及びその近傍を流延ドラムの周面側からみたときの平面図である。
【符号の説明】
【0123】
40 フイルム製造ライン
70 流延ダイ
70a 流出口
71 流延膜
72 流延ドラム
72a 周面
73 湿潤フイルム
74 剥取ローラ
86 ピンテンタ
150 減圧チャンバ
150a 中空部
150b、150c 開口部
170 遮風板
170a 前面
170b 底面
170c 背面
175 溝
177a〜177c 突起部
200 流延ビード
200a 背面
200b 前面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドレスに走行する支持体の上に、ポリマと溶媒とを含むドープを流延ダイから流延ビードとして流延して、前記支持体上に流延膜を形成し、前記流延膜を前記支持体から湿潤フィルムとして剥ぎ取り、この剥ぎ取り後の湿潤フィルムを乾燥してフィルムを得る溶液製膜方法において、
側部遮風板と後部遮風板とからなる減圧チャンバ本体により、前記流延ビードに対して前記支持体の走行方向上流側をコ字形に覆って前記流延ビードの上流側を減圧し、
前記流延ビードの側方と前記減圧チャンバとの間から流入する風量をQ1とし、それ以外の減圧チャンバと前記支持体との間から流入する風量をQ2としたときに、Q1/Q2の値を1/100以上1/4以下とするように、流延ビード側方遮風部材により前記風量Q1を制限することを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項2】
前記流延ビード側方遮風部材は、流延ビードの側方近くで流延ビードに対し前記上流側に設けられる遮風板と、前記遮風板の下端で前記支持体との間に設けられるラビリンスシールとからなり、前記流延ビードの幅方向に伸びるように、前記ラビリンスシールに形成される溝の形状、大きさ、または形成ピッチを調節して前記風量Q1を制限することを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。
【請求項3】
前記溝が、前記風量Q1の流入風の流入方向に向かうに従い次第に拡開するように構成されていることを特徴とする請求項2記載の溶液製膜方法。
【請求項4】
エンドレスに走行する支持体の上に、ポリマと溶媒とを含むドープを流延ダイから流延ビードとして流延して、前記支持体上に流延膜を形成し、前記流延膜を前記支持体から湿潤フィルムとして剥ぎ取り、この剥ぎ取り後の湿潤フィルムを乾燥してフィルムを得る溶液製膜設備に用いられ、前記流延ビードに対して前記支持体走行方向上流側を減圧する減圧チャンバにおいて、
前記流延ビードに対して前記上流側に設けられ、側部遮風板と後部遮風板とにより前記流延ビードをコ字形に覆って前記流延ビードの上流側を減圧する減圧チャンバ本体と、
前記流延ビードの側方と前記即部遮風板との間から流入する風量をQ1とし、それ以外の減圧チャンバと前記支持体との間から流入する風量をQ2としたときに、Q1/Q2の値を1/100以上1/4以下とするように、前記風量Q1を制限する流延ビード側方遮風部材とを備えることを特徴とする減圧チャンバ。
【請求項5】
前記流延ビード側方遮風部材は、
流延ビードの側方近くで流延ビードに対し前記上流側に設けられる遮風板と、
前記遮風板の下端で前記支持体との間に設けられるラビリンスシールとからなり、
前記支持体の幅方向に伸びるように、前記ラビリンスシールに形成される溝の形状、大きさ、または形成ピッチを調節して前記風量Q1を制限することを特徴とする請求項4記載の減圧チャンバ。
【請求項6】
前記溝が、前記風量Q1の流入風の流入方向に向かうに従い次第に拡開するように構成されていることを特徴とする請求項5記載の減圧チャンバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−246721(P2008−246721A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88142(P2007−88142)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】