説明

溶液製膜方法

【課題】摺動部の酸化や腐蝕を防止し、製造品質の高い溶液製膜方法を提供する。
【解決手段】ジクロロメタンを含む溶媒にポリマーが溶解した原料ドープ30を調整する。ジクロロメタン含有の原料ドープ30には、塩酸及び塩素イオンが生成される。ポンプ68は、原料ドープ30をインラインミキサ50に送液する。ポンプ68は、ケース、ギア及びシャフトなどの摺動部を備える。インラインミキサ50は、ケース及びエレメントなどの摺動部を備える。これらの摺動部は、17重量%以下のCrと19重量%以下のNiとを含有し、外層に窒化層を備えるステンレス鋼から形成される。摺動部は高い耐食性及び耐磨耗性を備えるため、摺動部と原料ドープ30との接触において、塩酸及び塩素イオンによる摺動部の酸化及び腐蝕が抑制され、製膜ライン稼動時の磨耗による摺動部の耐食性の低下が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液製膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーフィルム(以下、フィルムと称する)は、優れた光透過性や柔軟性および軽量薄膜化が可能であるなどの特長から光学機能性フィルムとして多岐に利用されている。中でも、セルロースアシレートなどを用いたセルロースエステル系フィルムは、強靭性や低複屈折率であることから、写真感光用フィルムをはじめとして、近年市場が拡大している液晶表示装置(LCD)の構成部材である偏光板の保護フィルムまたは光学補償フィルムなどに用いられている。
【0003】
このフィルムの主な製造方法として、溶融押出方法と溶液製膜方法とがある。溶融押出方法とは、ポリマーをそのまま加熱溶解させた後、押出機で押し出してフィルムを製造する方法であり、生産性が高く、設備コストも比較的低額であるなどの特徴を有する。しかし、膜厚精度を調整することが難しく、また、フィルム上に細かいスジ(ダイライン)ができるために、光学機能性フィルムへ使用することができるような高品質のフィルムを製造することが困難である。一方、溶液製膜方法は、溶融押出方法と比べて、光学等方性や厚み均一性に優れるとともに、含有異物の少ないフィルムを得ることができるため、LCD用途などの光学機能性フィルムは、主に溶液製膜方法で製造されている。
【0004】
特許文献1に示すように、この溶液製膜方法は、ドープ製造工程とフィルム製造工程とを備える。ドープ製造工程では、トリアセチルセルロース(以下、TACと称する)などのポリマーをジクロロメタンや酢酸メチルを主溶媒とする膨潤液を調製し、この膨潤液を攪拌しポリマーが溶媒に溶解した原料ドープを調製する。フィルム製造工程では、この原料ドープと所定の添加剤との混合攪拌により流延ドープを調製し、流延ドープを流延ダイより流延ビードを形成させて、キャスティングドラムやエンドレスバンドなどの支持体上に流延して流延膜を形成する。更に、その流延膜が支持体上で冷却され、自己支持性を有するものとなった後、湿潤フィルムとして支持体から剥ぎ取り、この湿潤フィルムを乾燥させたものをフィルムとして巻き取る。
【特許文献1】特開2005−104148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この溶液製膜方法を用いてフィルムを製造した際、錆などの異物がフィルムに混入する異物混入故障が発生した。本発明者は、上記フィルムの異物混入故障の発生要因を鋭意検討した結果、この異物の生成要因が以下であることを見出した。
【0006】
溶液製膜装置の長時間使用の結果、添加剤と原料ドープとを攪拌混合するインラインミキサや、溶媒、膨潤液或いは原料ドープ(以下、これらをまとめて高分子溶液と称する)を所定方向に送液するギアポンプの摺動部が磨耗し、耐食性が低下していた。そして、高分子溶液に含まれるジクロロメタンの分解により生成する塩酸が、この耐食性が低下していた部分を腐蝕或いは酸化させて、この腐蝕或いは酸化により生成した異物が高分子溶液に混入した。更に、インラインミキサやギアポンプなどのような高分子溶液の流速が高い部分では、酸化作用が働きやすく、また、各工程における高分子溶液の加熱がこの腐蝕及び酸化作用の向上に寄与するため、錆や異物が生成されやすい状態にあった。
【0007】
本発明は、上記問題を鑑み、高分子溶液によるインラインミキサやギアポンプなどの摺動部の酸化や腐蝕を防止し、製造品質の高い溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ジクロロメタンを含む溶媒にポリマーが膨潤する膨潤液をつくり、前記膨潤液に含まれる前記ポリマーが、前記溶媒に溶解した原料ドープをつくり、この原料ドープと混合添加剤とからなる混合液を攪拌して、流延ドープをつくり、この流延ドープを支持体上に流延し、この支持体上に流延膜を形成する溶液製膜方法において、17重量%以下のCrと19重量%以下のNiとを含有し、外層に窒化層を備えるステンレス鋼からなる摺動部を用いて、前記溶媒と前記膨潤液と前記混合液と前記原料ドープと前記流延ドープとのうち少なくとも1つを攪拌する、または送液することを特徴とする。
【0009】
前記窒化層が実用硬化深さ5μm以上200μm以下であることが好ましい。また、前記窒化層が、400℃以上500℃以下の窒化処理により生成されることが好ましい。
【0010】
前記ステンレス鋼が、SUS316とSUS316LとSUS420J2とのうちいずれか1つであることが好ましい。
【0011】
前記摺動部がギアポンプのシャフト、ギア及びケーシング並びにインラインミキサの配管及び攪拌翼であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の溶液製膜方法によれば、17重量%以下のCrと19重量%以下のNiとを含有し、外層に窒化層を備えるステンレス鋼からなる摺動部を用いて、ジクロロメタンを含む、前記溶媒と前記膨潤液と前記混合液と前記原料ドープと前記流延ドープとのうち少なくとも1つを攪拌する、または送液するため、これらの高分子溶液による酸化や腐蝕を抑制し、溶液製膜中における異物混入故障の抑制を可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
【0014】
[ドープ製造方法]
図1にドープ製造ライン10を示す。ドープ製造ライン10は、溶媒を格納するための溶媒タンク11と、溶媒とTACなどとを混合するための溶解タンク12と、TACを供給するためのホッパ13と、添加剤を貯留するための添加剤タンク14と、後述する膨潤液を加熱するための加熱装置15と、調製されたドープの温度を調整する温調機16と、濾過装置17と、調製されたドープを濃縮するフラッシュ濃縮装置18と、濾過装置19とを備える。更に、ドープ製造ライン10は、フラッシュ濃縮装置18において揮発した溶媒を回収するための回収装置20と、回収された溶媒を再生するための再生装置21と備える。そして、このドープ製造ライン10は、ストックタンク22を介してフィルム製造ライン23と接続されている。
【0015】
溶媒タンク11には、ジクロロメタンを主成分とする溶媒が貯留する。この溶媒タンク11は、溶媒の温度を、20℃以上40℃以下の範囲に保持する。
【0016】
溶解タンク12には、その外面を包み込むジャケット24と、モータにより回転する第1攪拌機25a、第2攪拌機25bとが備えられている。なお、第1攪拌機25aは、アンカー翼が備えられており、第2攪拌機25bは、ディゾルバータイプの偏芯型撹拌機である。そして、溶解タンク12には、ジャケット24の内部に伝熱媒体を流すことにより温度調整されている。第1攪拌機25a,第2攪拌機25bのタイプを適宜選択して使用することにより、TACが溶媒中で膨潤した膨潤液27を得る。この溶解タンク12において、膨潤液27の温度が、−10℃以上55℃以下の範囲に保持することが好ましい。
【0017】
次に、膨潤液27に接続する加熱装置15は、ジャケット付き配管であることが好ましく、さらに、膨潤液27を加圧することができる構成のものが好ましい。このような加熱装置15を用いることにより、加熱条件(50℃以上200℃以下)下または加圧加熱条件下で膨潤液27中の固形分を溶解させて原料ドープ30を得る。以下、この方法を加熱溶解法と称する。また、膨潤液27を−100℃以上−30℃以下の温度に冷却する冷却溶解法を行うこともできる。加熱溶解法及び冷却溶解法を適宜選択して行うことでTACを溶媒に充分溶解させることが可能となる。原料ドープ30を温調機16により略室温とした後に、濾過装置17により濾過して原料ドープ30中に含まれる不純物を取り除く。濾過後の原料ドープ30は、バルブの開閉操作により、フィルム製造ライン23中のストックタンク22に送られここに貯留される。
【0018】
ところで、上記のように、一旦膨潤液27を調製し、その後にこの膨潤液27を原料ドープ30とする方法は、TACの濃度を上昇させるほど要する時間が長くなり、製造コストの点で問題となる場合がある。その場合には、目的とする濃度よりも低濃度のドープを調製し、その後に目的の濃度とするための濃縮工程を行うことが好ましい。このような方法を用いる際には、濾過装置17で濾過されたドープを、バルブを介してフラッシュ濃縮装置18に送り、このフラッシュ濃縮装置18内でドープ中の溶媒の一部を蒸発させる。蒸発により発生した溶媒ガスは、凝縮器(図示しない)により凝縮されて液体となり回収装置20により回収される。回収された溶媒は再生装置21によりドープ調製用の溶媒として再生されて再利用される。この再利用はコストの点で効果がある。
【0019】
また、フラッシュ濃縮装置18による濃縮処理から得られる原料ドープ30は、フラッシュ濃縮装置18から抜き出され、濾過装置19に送られて、異物が除去される。この濾過装置19において、原料ドープ30の温度は、0℃〜200℃であることが好ましい。そして、原料ドープ30はストックタンク22に送られ、貯蔵される。もちろん、ポリマーの溶媒(混合溶媒の場合も含めて)への溶解性が良好であれば、膨潤・加熱溶解や濃縮を行うことなく直接所望のTAC濃度の原料ドープ30を調製することも可能である。なお、ストックタンク22において、原料ドープ30の温度が、30℃以上40℃以下の範囲で略一定に保たれることが好ましい。
【0020】
以上の方法により、所望のTAC濃度である原料ドープ30を製造することができる。なお、TACフィルムを得る溶液製膜法における素材、原料、添加剤の溶解方法及び添加方法、濾過方法、脱泡などのドープの製造方法については、特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落が詳しい。これらの記載も本発明に適用できる。
【0021】
[溶液製膜方法]
次に、上記で得られた原料ドープ30を用いてフィルム35を製造する方法を説明する。図2はフィルム製造ライン23を示す概略図である。ただし、本発明は、図2に示すようなフィルム製造ライン23に限定されるものではない。フィルム製造ライン23には、ストックタンク22と、濾過装置36と、流延ダイ37と、回転ローラ38a、38bと、この回転ローラ38a、38bに掛け渡された流延バンド39と、テンタ式乾燥機40とが備えられている。更に、テンタ式乾燥機40の下流には、耳切装置41と、乾燥室42と、冷却室43と、巻取室44とが配されている。
【0022】
ストックタンク22に格納される原料ドープ30は濾過装置36へ送液される。濾過装置36により濾過された原料ドープ30は、インラインミキサ50に送られる。このインラインミキサ50は、原料ドープ30と、添加剤製造ライン51からの紫外線吸収剤、マット剤やレターデーション制御剤などの添加剤(以下混合添加剤と称する。)とを攪拌混合し、流延ドープを調製する。そして、インラインミキサ50は、調製した流延ドープを流延ダイ37に送液する。このインラインミキサ50において、原料ドープ30の温度が、30℃以上40℃の範囲にあることが好ましい。
【0023】
流延ダイ37の材質としては、析出硬化型のステンレス鋼が好ましく、その熱膨張率が2×10−5(℃−1)以下であることが好ましい。そして、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有するものも、この流延ダイ37の材質として用いることができ、さらに、ジクロロメタン、メタノール、水の添加液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有するものが用いられる。さらに、鋳造後1ヶ月以上経過したものを研削加工して流延ダイ37を作製することが好ましい。これにより流延ダイ37内を流延ドープが一様に流れ、後述する流延膜にスジなどが生じることが防止される。流延ダイ37の接液面の仕上げ精度は、表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であることが好ましい。流延ダイ37のスリットのクリアランスは、自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲で調整可能とされている。流延ダイ37のリップ先端の接液部の角部分について、そのRは全巾にわたり50μm以下とされている。また、流延ダイ37内部における剪断速度が1(1/秒)〜5000(1/秒)となるように調整されていることが好ましい。
【0024】
流延ダイ37の下流側には、回転ローラ38a、38bに掛け渡された流延バンド39が設けられている。回転ローラ38a、38bは図示しない駆動装置により回転し、この回転に伴い流延バンド39は無端で走行する。流延バンド39は、その移動速度、すなわち流延速度が10m/分〜200m/分で移動できるものであることが好ましい。また、流延バンド39の表面温度を所定の値にするために、回転ローラ38a、38bに伝熱媒体循環装置が取り付けられていることが好ましい。流延バンド39は、その表面温度が−20℃〜40℃に調整可能なものであることが好ましい。本実施形態において用いられている回転ローラ38a、38b内には伝熱媒体流路(図示しない)が形成されており、その中を所定の温度に保持されている伝熱媒体が通過することにより、回転ローラ38a、38bの温度を所定の値に保持されるものとなっている。
【0025】
流延バンド39の幅は特に限定されるものではないが、流延ドープの流延幅の1.1倍〜2倍の範囲のものを用いることが好ましい。また、長さは20m〜200m、厚みは0.5mm〜2.5mmであり、表面粗さは0.05μm以下となるように研磨されていることが好ましい。流延バンド39は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。また、流延バンド39の全体の厚みムラは0.5%以下のものを用いることが好ましい。
【0026】
なお、回転ローラ38a、38bを直接支持体として用いることも可能である。この場合には、回転ムラが0.2mm以下となるように高精度で回転できるものであることが好ましい。この場合には、回転ローラ38a、38bの表面の平均粗さを0.01μm以下とすることが好ましい。そこで、回転ローラ38a、38bの表面にクロムメッキ処理などを行い、十分な硬度と耐久性を持たせる。なお、支持体(流延バンド39や回転ローラ38a、38b)の表面欠陥は最小限に抑制する必要がある。具体的には、30μm以上のピンホールが無く、10μm以上30μm未満のピンホールは1個/m以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m以下であることが好ましい。
【0027】
流延ダイ37、流延バンド39などは流延室54内に収められている。流延室54には、その内部温度を所定の値に保つための温調設備54aと、揮発している有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)54bとが設けられている。そして、凝縮液化した有機溶媒を回収するための回収装置54cが流延室54の外部に設けられている。また、流延ダイ37から流延バンド39にかけて形成される流延ビードの背面部を圧力制御するための減圧チャンバ55が配されていることが好ましく、本実施形態においてもこれを使用している。
【0028】
流延バンド39上に成形される流延膜56中の溶媒を蒸発させるため送風口57a、57b及び、57cが流延バンド39の周面近くに設けられている。また、流延直後の流延膜56に乾燥風が吹き付けられることによる流延膜56の面状変動を抑制するため流延ダイ37近傍の送風口57aには遮風板57dが設けられていることが好ましい。
【0029】
流延膜56は、自己支持性を有するものとなった後に、湿潤フィルム58として剥取ローラ59で支持されながら流延バンド39から剥ぎ取られる。その後に多数のローラが設けられている渡り部60を搬送させて、テンタ式乾燥機40に湿潤フィルム58を送り込む。渡り部60では、送風機を用いて所望の温度の乾燥風を送風することで湿潤フィルム58の乾燥を進行させる。このとき乾燥風の温度が、20℃〜250℃であることが好ましい。なお、渡り部60では下流側のローラの回転速度を上流側のローラの回転速度より速くすることにより湿潤フィルム58にドローテンションを付与させることも可能である。
【0030】
テンタ式乾燥機40の下流に配される耳切装置41には、切り取られたフィルム35の側端部(耳と称される)の屑を細かく切断処理するためのクラッシャが接続されている。耳切装置41の下流に配される乾燥室42には、多数のローラが備えられており、蒸発して発生した溶媒ガスを吸着回収するための吸着回収装置が取り付けられている。そして、乾燥室42の下流に冷却室43が設けられているが、乾燥室42と冷却室43との間に調湿室(図示しない)を設けても良い。冷却室43の下流には、フィルム35の帯電圧を所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)となるように調整するための強制除電装置(除電バー)が設けられている。さらに、フィルム35の両縁にエンボス加工でナーリングを付与するためのナーリング付与ローラが、強制除電装置の下流側に設けられる。また、巻取室44の内部には、フィルム35を巻き取るための巻取ローラ44aと、その巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ44bとが備えられている。
【0031】
[ポンプ]
図1において、溶媒タンク11と溶解タンク12とを接続する配管11aには、ポンプ65やバルブ11cなどが備えられる。このポンプ65及びバルブ11cにより、溶媒タンク11に格納される溶媒が、所定の流量で、溶解タンク12へ送液される。また、ポンプ65と同様に、溶解タンク12とフラッシュ濃縮装置18及び溶解タンク12とストックタンク22とを接続する配管12a、フラッシュ濃縮装置18とストックタンク22とを接続する配管18a、更に、ストックタンク22と流延ダイ37とを接続する配管22a(図2)には、それぞれ、ポンプ66〜68やバルブが備えられる。これらポンプ65〜68は、いわゆるギアポンプであり、溶媒、膨潤液27や原料ドープ30を所定の方向に送液するギアを内部に備える。
【0032】
次に、同様の構成を有するポンプ65〜68の詳細について、ポンプ68を例にあげて説明する。図3のように、ポンプ68は、ケース70と、ギア71a、71bと、シャフト72a、72bとから構成される。ケース70は、吸い込み口73と吐き出し口74と、吸い込み口73と吐き出し口74とを接続する中空部70aとを備える。ポンプ68は、吸い込み口73が配管22a(図2)の上流側(ストックタンク22側)に、吐き出し口74が配管22aの下流側(流延ダイ37側)になるように配される。中空部70aには、略円盤状のギア71a、71bが配される。ギア71a、71bの端面上には、歯75a、75bが所定のピッチで形成される。また、ギア71a、71bは、歯75a、75bが互いに嵌合するように、中空部70aに配される。歯75a、75bが、互いに嵌合する位置を嵌合部76と称する。
【0033】
この吸い込み口73とギア71aとギア71bとが、中空部70aに吸い込み領域78を形成する。吐き出し口74とギア71aとギア71bとが、中空部70aに吐き出し領域79を形成する。隣り合う2つの歯75aと中空部70aの内周面70bとが、搬送領域80を形成する。同様にして、隣り合う2つの歯75bと内周面70bとが搬送領域80を形成する。この歯75a、75bは、この吸い込み領域78に流入した液体が嵌合部76を経由して吐き出し領域79に通過しないよう、且つ、搬送領域80が閉空間になるような形状を有する。
【0034】
シャフト72a、72bは、それぞれギア71a、71b及び、図示しないモータに接続する。このモータの回転により、シャフト72a、72bは所定の方向に回転する。ギア71a、71b、このシャフト72a、72bの回転に従って所定方向に回転する。このシャフト72a、72bの回転により、歯75a、75bは、嵌合部76から吸い込み口73を経由して吐き出し口74に向かうように移動する。
【0035】
このケース70と、ギア71a、71bと、シャフト72a、72bとは、17重量%以下のCrと19重量%以下のNiとを含有し、外層に窒化層を備えるステンレス鋼から形成される。各部品71a、71bと、シャフト72a、72bを形成するステンレス鋼として、SUS316、SUS316LやSUS420J2などが挙げられ、いずれを用いても良い。
【0036】
窒化層は、窒化処理により形成される。この窒化処理では、所定の温度の範囲において、各部品の外層に活性化窒素を浸透させる。この窒化処理により、各部品の外層に窒化化合物からなる窒化層が生成する。この窒化層は実用硬化深さ5μm以上200μm以下であることが好ましい。窒化処理としては、ガス窒化法、塩浴窒化法、タフトライド法、ガス軟窒化法やプラズマ窒化法など、公知の窒化処理を用いることができる。また、この窒化処理の温度の範囲は、400℃以上500℃以下であることが好ましい。
【0037】
[インラインミキサ]
図4に示すように、配管22a上には、添加剤製造ライン51(図2)と接続するノズル51aが配され、このノズル51aの下流にはインラインミキサ50が配される。インラインミキサ50は、ノズル51aの直下に配されるスルーザミキサ84と、スルーザミキサ84の直下に配されるスタティックミキサ85とから構成される。
【0038】
スルーザミキサ84は、筒状のケース84aとエレメント86a、86bとから構成される。ケース85a内に設けられるエレメント86a、86bは、配管22aの長手方向に交互に配置されている。エレメント86a、86bは、複数の細長い仕切板を交互に交差させるように組み付けて形成されている。また、エレメント86aとエレメント86bとは、配管22aを上流側から観察したときに、仕切板の長手方向が直交するようにドープ用配管の軸を中心に90°回転された状態で配置される(図4参照)。
【0039】
スタティックミキサ85は、筒状のケース85aとエレメント86c、86dとから構成される。ケース85a内に備えられるエレメント86c、86dは、配管22aの長手方向に交互に配置されている。エレメント86cは、長方形の板の向かい合う両側端部を180°にねじられた形状に形成される。また、エレメント86dは、エレメント86cと逆の向きにねじられた形状に形成される。エレメント86c、86dは、板の側端部が直交するように、ケース85aの軸を中心に90°回転された状態で配置される。これらエレメント86a〜86dには、図示しないシャフトが接続している。このシャフトの回転により、エレメント86a〜86dが、ケース84a、85aの軸を中心に回転する。
【0040】
また、ケース84a、85a、エレメント86a〜86d、及びエレメント86a〜86dに接続されるシャフトは、ポンプ65〜68と同質の材料から形成される。
【0041】
なお、説明を簡略化するため、図4では、スルーザミキサ84、及び、スタティックミキサ85は、それぞれ2つのエレメントから構成される例を示したが、実際はより複数のエレメントが並べられている。エレメントの数は適宜設定することができるが、スタティックミキサ85のエレメント数は、6以上90以下であることが好ましく、さらには、6以上60以下であることがより好ましい。
【0042】
本実施形態においては、スルーザミキサ84を上流側に、スタティックミキサ85を下流側に配置している。このため、ノズル51aから注入される混合液は、まず、上流側に配置されたスルーザミキサ84を通過する。スルーザミキサ84は分割効果に優れるため、混合添加剤はケース84a内にまんべんなく拡散される。この後、混合添加剤は、スタティックミキサ85を通過する。スタティックミキサ85は転換効果に優れるため、混合添加剤は原料ドープ30に練り込まれるようにして、より細かく攪拌される。
【0043】
スタティックミキサ85を上流側に、スルーザミキサ84を下流側に配置してもよいが、こうすると混合添加剤がケース85aの中央部の原料ドープに練り込まれた後、拡散されるため、スタティックミキサ85の転換効果を十分に生かすことができない。スルーザミキサ84を上流側に、スタティックミキサ85を下流側に配置することで、2種類のタイプの異なるミキサーの利点を活かし、攪拌混合の効率に優れたインラインミキサ50を構成することができる。
【0044】
次に、本発明の作用について説明する。図1に示すように、溶媒タンク11に格納される溶媒は、ポンプ65やバルブ11cの操作により、配管11aを経由して、溶解タンク12に送液される。同様にして、ホッパ13に格納されるTACと、添加剤タンク14からの添加剤とが、溶解タンク12に送られる。これら溶媒、TAC及び添加剤は、溶解タンク12にて第1或いは第2攪拌機25a、25bにより攪拌され、膨潤液27となる。次に、膨潤液27は、ポンプ66、67により、配管12aを経由して、加熱装置15と、温調機16と、濾過装置17と、フラッシュ濃縮装置18とに順次送液され、各装置15〜18にて所定の処理を施され原料ドープ30となる。こうして、所望のTAC濃度に処理された原料ドープ30は、フィルム製造ライン23中のストックタンク22に貯留される。
【0045】
図2のように原料ドープ30は、ストックタンク22に備えられる攪拌翼の回転により均一化されている。この原料ドープ30は、ポンプ68により配管22aを経由して濾過装置36へ送液される。濾過装置36で濾過処理を施された原料ドープ30には、ノズル51a(図4)により、混合添加剤がインライン添加される。そして、インラインミキサ50の混合攪拌により、この混合液は流延ドープとなって、流延ダイ37へ送られる。
【0046】
流延ダイ37から流延バンド39にかけては流延ビードが形成され、流延バンド39上に流延膜56が形成される。流延膜56が自己支持性を有するものとなった後に、湿潤フィルム58として剥取ローラ59で支持されながら流延バンド39から剥ぎ取られる。その後、湿潤フィルム58を多数のローラが設けられている渡り部60へ搬送させた後に、テンタ式乾燥機40に送り込む。テンタ式乾燥機40に送られている湿潤フィルム58は、その両縁がクリップで把持されて搬送されながら乾燥される。湿潤フィルム58は、テンタ式乾燥機40で所定の残留溶媒量まで乾燥された後、フィルム35として送り出される。このフィルム35は、耳切装置41によりの両側端部が切断される。両側端部が切断されたフィルム35は、乾燥室42と冷却室43とを経由し、巻取室44内の巻取ローラ44aで巻き取られる。なお、耳切装置41によって切断された両側端部は、クラッシャにより粉砕されて、ドープ調製用チップとなり再利用される。
【0047】
図3のように、ストックタンク22に格納される原料ドープ30は、配管22aを経由して、ポンプ68の吸い込み口73に流入し、吸い込み領域78に滞留する。ギア71a、71bの回転により、吸い込み領域78に滞留する原料ドープ30は搬送領域80へ搬送される。搬送領域80に閉じ込められた原料ドープ30は、ギア71a、71bの回転により、吐き出し領域79に送液される。送液された原料ドープ30は、吐き出し口74を経由して、配管11aへ流出し、インラインミキサ50に送液される。こうして、ポンプ68は、ストックタンク22に貯留する原料ドープ30を濾過装置36に送液する。
【0048】
ポンプ68により送液された原料ドープ30は、濾過装置36及び配管22aを経て、ケース84a、85aに流入する。添加剤製造ライン51で調製された所定量の混合添加剤は、ノズル51a及びインラインミキサ50の上流側の配管22aを経て、ケース84a、85aに流入する。エレメント86a〜86dの回転により、ケース84a、85a内を流れる原料ドープ30と混合添加剤とが攪拌混合され、流延ドープとなる。この流延ドープは、エレメント86a〜86dの回転により、インラインミキサ50の下流側の配管22aを介して、流延ダイ37(図2)へ送液される。
【0049】
溶媒、膨潤液、原料ドープ30や流延ドープなどの高分子溶液中では、液中のジクロロメタンの一部が分解し、ステンレス鋼の酸化や腐食を誘発する塩酸やハロゲン系元素の塩素イオンが生成する。ポンプ68を構成する各部品70、71a、71b、72a、72bは、17重量%以下のCrと19重量%以下のNiとを含有し、外層に窒化層を備えるステンレス鋼から形成され、窒化化合物からなる窒化層を外層に備える。この窒化化合物は、ステンレス鋼に含まれるAl,Cr,Mo,Ti,Vなどと窒素と化合物である。この窒化化合物は、ステンレス鋼より硬質であり、また化学的に安定な化合物である。各部品70、71a、71b、72a、72bは、より硬質であり、化学的に安定な窒化層を外層に備えるため、耐摩耗性及び耐食性に優れる。すなわち、各部品70、71a、71b、72a、72bは、高分子溶液との接触による酸化及び腐蝕が発生しにくい。また、耐食性の劣化を誘発する各部品70、71a、71b、72a、72bの磨耗を防止することができる。こうして、溶液製膜方法における異物混入故障を防止することができる。
【0050】
インラインミキサ50を構成するケース84a、85aやエレメント86a〜86dなどの摺動部や、ポンプ65〜67も、ポンプ68と同様、耐食性や耐摩耗性が高いため、高分子溶液との接触による酸化、腐食並びに使用による磨耗が抑制される。
【0051】
加えて、高分子溶液の温度や流速も腐蝕の要因となり得る。高分子溶液の温度が高くなるにつれて、高分子溶液中に塩酸や塩素イオンが生成されやすくなり、高分子溶液の流速が大きいと、酸化、腐蝕の反応の機会が増えるためである。このような高温或いは高い流速の高分子溶液が触れる部材に、上記に述べたようなステンレス鋼からなる部材を用いることにより、酸化及び腐蝕が誘発する、フィルムの異物混入を防止することができる。
【0052】
上記実施形態では、ポンプ65〜68として外接ギアポンプを用いると記載したが、これに限らず、内接ギアポンプやその他の公知の送液手段を用いても良い。
【0053】
上記実施形態では、スルーザミキサと、スタティックミキサとからなるインラインミキサを用いて流延ドープを生成すると記載したが、これに限らず、スルーザミキサ或いはスタティックミキサのいずれか一方を用いても良い。
【0054】
上記実施形態で述べた窒化層を備えるステンレス鋼は、ポンプ65〜68やインラインミキサ50などの摺動部品の形成材料に限らず、高分子溶液に接触する各部材の形成材料として用いても良い。例えば、配管11a、12a、18aや22a、溶解タンク12及びストックタンク22、並びにこれらに備えられる攪拌翼やシャフトなどが挙げられる。
【0055】
次に、本発明で用いられるポリマー、溶媒について説明する。ただし、本発明はここに挙げる実施態様に限定されるものではない。
【0056】
[原料]
本実施形態においては、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いているが、本発明はセルロースアシレートに限定されるものではない。セルロースアシレートとしては、トリアセチルセルロース(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)の全てを満足するものがより好ましい。なお、以下の式(I)〜(III)において、A及びBは、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度を表わし、Aはアセチル基の置換度、またBは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACを用いる場合には、その90重量%以上が0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0057】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位,3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位,3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1である)を意味する。
【0058】
全アシル置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6は2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上が好ましく、より好ましくは0.30以上、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)である。
【0059】
セルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでも良いし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていても良い。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位,3位及び6位の水酸基のアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DSBは0.30以上であり、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは25%以上が6位水酸基の置換基であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。さらに、6位のアシル置換度が0.75以上であり、さらには0.80以上であり特には0.85以上であることが好ましい。これらのセルロースアシレートにより溶解性の好ましい溶液(ドープ)をつくることができ、特に非塩素系有機溶媒を使用して、良好なドープをつくることができる。また、粘度が低く、ろ過性の良い溶液が作製可能である。
【0060】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター綿,パルプ綿のどちらから得られたものでも良いが、リンター綿から得られたものが好ましい。
【0061】
炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していても良い。これらの好ましい例としては、プロピオニル、ブタノイル、ペンタノイル、ヘキサノイル、オクタノイル、デカノイル、ドデカノイル、トリデカノイル、テトラデカノイル、ヘキサデカノイル、オクタデカノイル、iso−ブタノイル、t−ブタノイル、シクロヘキサンカルボニル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル、ブタノイル、ドデカノイル、オクタデカノイル、t−ブタノイル、オレオイル、ベンゾイル、ナフチルカルボニル、シンナモイルなどがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル、ブタノイルである。
【0062】
[溶媒]
ドープの溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。なお、ドープは、必ずしも溶液でなくてもよく、分散液であってもよい。
【0063】
上記溶媒の中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度及び光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%が好ましく、5重量%〜20重量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0064】
ところで、最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合の溶媒組成についても検討が進み、この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく用いられる。これらは、互いに混合して用いられることもある。例えば、酢酸メチル、アセトン、エタノール、n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン、エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン、エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。
【0065】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号の[0140]段落から[0195]段落に記載されている。これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤(UV剤),光学異方性コントロール剤,レターデーション制御剤,染料,マット剤,剥離剤,剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落や特願2004−177039の[0052]段落から[0211]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【実施例1】
【0066】
次に、本発明の実施例を説明する。以下の各実施例では、詳細を実施例1で説明し、実施例2〜8については、実施例1と異なる条件のみを説明する。なお、実施例1〜6は本発明の実施様態の例であり、実施例7,8は実施例1〜6に対する比較実験である。
【0067】
(ドープA)
以下のような成分のドープAを調製した。
セルローストリアセテート(置換度2.84、粘度平均重合度306、含水率0.2重量%、ジクロロメタン溶液中6重量%の粘度 315mPa・s、平均粒子径1.5mmであって標準偏差0.5mmである粉体) 100重量部
ジクロロメタン(第1溶媒) 320重量部
メタノール(第2溶媒) 83重量部
1−ブタノール(第3溶媒) 3重量部
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.6重量部
可塑剤B(ジフェニルフォスフェート) 3.8重量部
UV剤a:2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾ
トリアゾール 0.7重量部
UV剤b:2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)−5−
クロルベンゾトリアゾール 0.3重量部
クエン酸エステル混合物(クエン酸、モノエチルエステル、ジエチルエステル、トリエチ
ルエステル混合物) 0.006重量部
微粒子(二酸化ケイ素(平均粒径15nm)、モース硬度 約7) 0.05重量部
【0068】
(試験片の作成)
試験片の母材としてSUS316Lを用いた。この母材から所定の形状のステンレス片を成形した。このステンレス片に窒化処理を施した。窒化処理では、460℃〜470℃に加熱されたアンモニア分解ガス雰囲気(ガス分解率略30%)に、ステンレス片を50時間放置した。この窒化処理により、試験片の外層に実用硬化層深さが150μm以上250μm以下の窒化層が生成した。外層に窒化層を備えるステンレス片を試験片とした。
【0069】
(腐蝕試験)
腐蝕試験では、温度が80℃に保持されたドープAに試験片を4日間浸漬し、その後、常温(23〜25℃)に保持されたドープAに3日間浸漬した。腐蝕試験後、試験片の腐蝕状態を目視により確認した。試験片の表面全体において、腐蝕がほとんどみられなかった。
【実施例2】
【0070】
(ドープB)
以下のような成分のドープBを調製した。
セルローストリアセテート(置換度2.94、粘度平均重合度305、含水率0.5重量%、ジクロロメタン溶液中6重量%の粘度 350mPa・s、平均粒子径1.5mmであって標準偏差0.3mmである粉体) 100重量部
ジクロロメタン(第1溶媒) 390重量部
メタノール(第2溶媒) 60重量部
レターデーション低下剤(化1) 12重量部
波長分散調整剤(化2) 1.8重量部
クエン酸エステル混合物(クエン酸、モノエチルエステル、ジエチルエステル、トリエチ
ルエステル混合物) 0.006重量部
微粒子(二酸化ケイ素(平均粒径15nm)、モース硬度 約7) 0.05重量部
【0071】
【化1】

【0072】
【化2】

【0073】
ドープBを用いて実施例1と同様の腐蝕試験を行った。腐蝕試験後、試験片の腐蝕状態を目視により確認した。試験片の表面全体において、腐蝕がほとんどみられなかった。
【実施例3】
【0074】
試験片の母材としてSUS316を用いた。この母材から所定の形状のステンレス片を成形した。実施例1と同様にして、このステンレス片から試験片を作成した。この試験片を用いて実施例1と同様の腐蝕試験を行った。腐蝕試験後、試験片の腐蝕状態を目視により確認した。試験片の表面全体において、腐蝕がほとんどみられなかった。
【実施例4】
【0075】
ドープBを用いて実施例3と同様の腐蝕試験を行った。腐蝕試験後、試験片の腐蝕状態を目視により確認した。試験片の表面全体において、腐蝕がほとんどみられなかった。
【実施例5】
【0076】
試験片の母材としてSUS420J2を用いた。この母材から所定の形状のステンレス片を成形した。実施例1と同様にして、このステンレス片から試験片を作成した。この試験片を用いて実施例1と同様の腐蝕試験を行った。腐蝕試験後、試験片の腐蝕状態を目視により確認した。試験片の表面全体において、腐蝕がほとんどみられなかった。
【実施例6】
【0077】
ドープBを用いて実施例5と同様の腐蝕試験を行った。腐蝕試験後、試験片の腐蝕状態を目視により確認した。試験片の表面全体において、腐蝕がほとんどみられなかった。
【実施例7】
【0078】
焼き入れ処理が施されたSUS420J2製の試験片を用いて実施例1と同様の腐蝕試験を行った。腐蝕試験後、試験片の腐蝕状態を目視により確認した。試験片の表面全体に腐蝕がみられた。
【実施例8】
【0079】
ドープBを用いて実施例7と同様の腐蝕試験を行った。腐蝕試験後、試験片の腐蝕状態を目視により確認した。試験片の表面全体に腐蝕がみられた。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】ドープの製造ラインを表す説明図である。
【図2】フィルム製膜ラインを表す説明図である。
【図3】ポンプの断面図である。
【図4】インラインミキサの概要を示す透過斜視図である。
【符号の説明】
【0081】
10 ドープ製造ライン
11 溶媒タンク
11a、12a、18a、22a 配管
12 溶解タンク
23 フィルム製造ライン
27 膨潤液
30 原料ドープ
50 インラインミキサ
65〜68 ポンプ
70、84a、85a ケース
71a、71b ギア
72a、72b シャフト
70a 中空部
73 吸い込み口
74 吐き出し口
75a、75b 歯
84 スルーザミキサ
85 スタティックミキサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジクロロメタンを含む溶媒にポリマーが膨潤する膨潤液をつくり、
前記膨潤液に含まれる前記ポリマーが、前記溶媒に溶解した原料ドープをつくり、
この原料ドープと混合添加剤とからなる混合液を攪拌して、流延ドープをつくり、
この流延ドープを支持体上に流延し、
この支持体上に流延膜を形成する溶液製膜方法において、
17重量%以下のCrと19重量%以下のNiとを含有し、外層に窒化層を備えるステンレス鋼からなる摺動部を用いて、前記溶媒と前記膨潤液と前記混合液と前記原料ドープと前記流延ドープとのうち少なくとも1つを攪拌する、または送液することを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項2】
前記窒化層が実用硬化深さ5μm以上200μm以下であることを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。
【請求項3】
前記窒化層が、400℃以上500℃以下の窒化処理により生成されることを特徴とする請求項1または2記載の溶液製膜方法。
【請求項4】
前記ステンレス鋼が、SUS316とSUS316LとSUS420J2とのうちいずれか1つであることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項5】
前記摺動部がギアポンプのシャフト、ギア及びケーシング並びにインラインミキサの配管及び攪拌翼であることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載の溶液製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−253497(P2007−253497A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82072(P2006−82072)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】