説明

溶着条件の決定方法

【課題】一対の樹脂成形体を溶着により接合する際の、好適な溶着条件を決定する方法を提供する。
【解決手段】樹脂成形体の接合部が溶融する際に吸収する熱を考慮する。特に、レーザー溶着法等の光により、一対の樹脂成形体を溶着により接合する場合には、光のビーム径、光の透過率等を考慮して、光から樹脂に供給される供給エネルギーを算出し、この供給エネルギーを用いて、熱拡散係数D、光の走査速度等を考慮して、光から樹脂が吸収する吸収エネルギーを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶着条件の決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂からなる樹脂成形体同士を相互に接合する方法としては、締結用部品(ボルト、ビス、クリップ等)や接着剤を使用する方法の他に、熱板溶着法(例えば、特許文献1参照)、振動溶着法(例えば、特許文献2参照)、超音波溶着法(例えば、特許文献3参照)、レーザー溶着法(例えば、特許文献4参照)等の溶着法が知られている。
【0003】
熱板溶着法は、一対の樹脂成形体の接合部を高温の熱型に接触させて溶融し、冷えて固まる前に接合部を押し付けて接合する方法である。振動溶着法及び超音波溶着法は、一方の樹脂成形体を固定し他方の樹脂成形体を加圧しながら振動又は超音波波動を加えることにより、摩擦エネルギーによって接合部を溶融させて接合する方法である。レーザー溶着法は、接合する一対の樹脂成形体の一方をレーザー光吸収性材料で構成し、他方をレーザー光透過性材料で構成し、これらを重ねた後、透過性材料の側からレーザー光を照射することにより、透過性材料を通過したレーザー光が吸収性材料の表面を加熱して該材料を溶融させると同時に、熱伝達により透過性材料も溶融させ、一対の樹脂成形体を接合する方法である。
【0004】
上記のような一対の樹脂成形体を溶着する方法は、一対の樹脂成形体の一方又は双方を溶融して接合する点で共通する。溶融させるための条件等(溶着条件)により、接合部の強度が異なるため、好適な溶着条件で一対の樹脂成形体を接合することが求められる。
【0005】
しかしながら、一対の樹脂成形体を溶着させるための好適な溶着条件は、樹脂の種類、加熱条件等の様々な因子の影響を受けるため、経験的に決定されるのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−028977号公報
【特許文献2】特開2005−319613号公報
【特許文献3】特開2006−264699号公報
【特許文献4】特開2001−071384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、好適な溶着条件を決定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、樹脂成形体の接合部が溶融する際に吸収する熱を考慮することで、好適な溶着条件を決定できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
(1) 光に対して透過性を有する光透過性樹脂成形体と、光に対して吸収性を有する光吸収性樹脂成形体とを重ね合わせて重ね合わせ部を形成し、前記光透過性樹脂成形体側から前記重ね合わせ部に向けて前記光を所定の走査速度、所定の出力エネルギーで照射して、前記光透過性樹脂成形体と前記光吸収性樹脂成形体との溶着体を製造する第一工程と、前記光透過性樹脂成形体の前記光に対する透過率をT、前記光の照射中心から距離rの位置の出力エネルギー流束をガウス関数q(r)、前記光のビーム径をd、としたときに、前記重ね合わせ部中の前記距離rの位置に供給される前記光の供給エネルギーEsを下記数式(I)から算出する第二工程と、
【数1】

前記光吸収性樹脂成形体の熱拡散係数をD、単位長さ当たりの前記光の走査時間をt、としたときに、前記重ね合わせ部の前記距離rの位置において前記光吸収性樹脂成形体側で吸収される吸収エネルギーEaを下記数式(II)から算出する第三工程と、
【数2】

(数式(II)中、aは係数、Dは前記光吸収性樹脂成形体の熱拡散係数、tは単位長さ当たりの前記光の走査時間、Eは吸収エネルギー)
前記溶着体において、前記光透過性樹脂成形体と前記光吸収性樹脂成形体との溶着部の溶着強度を測定する第四工程と、前記所定の出力エネルギーを変更して、前記第一工程から前記第四工程を繰り返す工程を一回以上行う第五工程と、前記第一工程から前記第五工程の結果に基づいて、前記吸収エネルギーEaと前記溶着強度との関係を導出する第六工程と、前記第六工程の結果に基づいて、前記光透過性樹脂成形体と前記光吸収性樹脂成形体とを溶着する際の前記光の照射条件を決定する第七工程と、を有する溶着条件の決定方法。
【0010】
(2) 前記第六工程は、前記吸収エネルギーEaと前記溶着強度とをプロットしたグラフに基づいて前記関係を導出する工程であり、前記関係は溶着強度の極大値を有する(1)に記載の溶着条件決定方法。
【0011】
(3) 前記出力エネルギー流速が、下記数式(III)で表す平均化した出力エネルギー流束qである(1)又は(2)に記載の溶着条件決定方法。
【数3】

【0012】
(4) 前記吸収エネルギーEaと溶着強度との関係に基づいて、溶着強度が大きくなる吸収エネルギーの範囲(ΔE(EaLからEaHの範囲))を設定する工程と、EaLの定数倍EaL×a’、前記光吸収性樹脂成形体を構成する樹脂材料の密度、比熱から下記式(c)を用いて算出される昇温幅から導出される、溶融時の重ね合わせ部における前記樹脂材料の温度が融点になるようなa’を算出する工程と、
【数4】


(式(IV)中の、比熱、密度は樹脂成形体の比熱と密度である。)
aHの定数倍EaH×a”、前記光吸収性樹脂成形体を構成する樹脂材料の密度、比熱から上記式(c)を用いて算出される昇温幅から導出される、溶融時の重ね合わせ部における前記樹脂材料の温度が熱分解点になるようなa”を算出する工程と、導出されたa’からa”の範囲で任意の定数を選択工程より求められることを特徴とする、(1)から(3)のいずれかに記載の溶着条件決定方法。
【0013】
(5) 前記係数aは、0.18以上0.21以下である(1)から(4)のいずれかに記載の溶着条件決定方法。
【0014】
(6) 前記光吸収性樹脂成形体が、ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を成形してなる成形体である(5)に記載の溶着条件決定方法。
【0015】
(7) 少なくとも一方の樹脂成形体を熱により溶融させて、一対の樹脂成形体を溶着するための溶着条件を決定する方法であって、前記熱による溶融の際に樹脂成形体が吸収する吸収エネルギーと、溶着体の溶着強度との関係を導出し、前記吸収エネルギーと溶着強度との関係に基づいて、溶着条件を決定する方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、樹脂成形体の接合部が溶融する際に吸収する熱を考慮することで、好適な溶着条件を容易に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)は、吸収エネルギーと溶着強度との関係を示す図であり、(b)は吸収エネルギーと溶着強度との関係を示し、溶着強度が極大値を有する場合を示す図である。
【図2】走査速度V、V、Vのそれぞれの条件での、吸収エネルギーと溶着強度との関係を示す図である。
【図3】EaL、EaHでの光の出力エネルギーと光の走査速度との関係を示す図である。
【図4】(a)は溶着体を模式的に示した斜視図であり、(b)は溶着前の光透過性樹脂成形体と光吸収性樹脂成形体の端面を模式的に表した図である。
【図5】実施例の溶着強度の測定方法を示す図である。
【図6】(a)は実施例、走査速度変更評価の溶着強度と吸収エネルギーとの関係を示す図である。(b)は実施例、走査速度変更評価、厚み変更評価の溶着強度と吸収エネルギーとの関係を示す図である。
【図7】実施例、走査速度変更評価、厚み変更評価の光の出力エネルギーと光の走査速度との関係を示す図である。
【図8】形状変更評価の溶着体を示す模式図である。
【図9】形状変更評価の溶着強度と吸収エネルギーとの関係を示す図である。
【図10】(a)は評価2−1の溶着強度と出力エネルギーとの関係を示す図であり、(b)は評価2−2の溶着強度と供給エネルギーとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0019】
本発明の溶着条件の決定方法は、樹脂成形体の接合部が溶融する際に吸収する熱を考慮する。熱板溶着法、振動溶着法、超音波溶着法、レーザー溶着法等のいずれの溶着法であっても、樹脂成形体の接合部には熱が与えられ、接合部は熱を吸収して溶融する。この接合部が吸収する熱に着目して溶着条件を決定すれば、好適な溶着条件を容易に決定できる。以下、レーザー溶着法等の光による溶着法を例に、本発明の溶着条件の決定方法を説明する。
【0020】
本実施形態の溶着条件の決定方法は、第一工程から第七工程を備える。
第一工程では光に対して透過性を有する光透過性樹脂成形体と、光に対して吸収性を有する光吸収性樹脂成形体とを準備し、所定の走査速度、所定の出力エネルギーの光を用いて、これらの樹脂成形体を溶着により接合する。
第二工程では第一工程で用いた光が、その光の照射中心から距離rの位置に供給する供給エネルギーを算出する。
第三工程では第一工程で用いた光の照射中心から距離rの位置で、光吸収性樹脂成形体に吸収される吸収エネルギーを算出する。
第四工程では第一工程で接合した溶着体の溶着強度を測定する。
第五工程では使用する光の出力エネルギーを変更し、第一工程から第四工程を繰り返し行う手順を少なくとも一回行う。
第六工程では第四工程及び第五工程の結果に基づいて、吸収エネルギーと溶着強度との関係を導出する。
第七工程では、溶着強度の大きい吸収エネルギーになるように出力等の溶着条件を決定する。
【0021】
本実施形態によれば、第二工程で光のビーム径、光の透過率等を考慮して供給エネルギーを算出し、第三工程で光吸収性樹脂成形体の熱拡散係数D、光の走査速度等を考慮して吸収エネルギーを算出する。その結果、溶着強度が大きくなる吸収エネルギーは、溶着される樹脂成形体の形状、光の走査速度等によらない。したがって、接合する樹脂成形体の形状を変化させたり、光の走査速度を変更したりしても、本発明の方法により決定された溶着条件を好適な条件として採用することができる。以下、各工程について詳細に説明する。
【0022】
[第一工程]
第一工程では、光に対して透過性を有する光透過性樹脂成形体と、光に対して吸収性を有する光吸収性樹脂成形体とを重ね合わせて重ね合わせ部を形成し、上記光透過性樹脂成形体側から上記重ね合わせ部に向けて光を所定の走査速度、所定の出力エネルギーで照射して、上記光透過性樹脂成形体と上記光吸収性樹脂成形体との溶着体を製造する。
【0023】
先ず、光透過性樹脂成形体について説明する。光透過性樹脂成形体に含まれる樹脂は、所望の光を透過させる性質を成形体に付与することができればよい。例えば、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、変性ポリフェニレンエーテル(m―PPE)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブデン、6ナイロン、66ナイロン、11ナイロン、12ナイロン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド等のフッ素樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。
【0024】
光透過性樹脂成形体には、本発明の効果を害さない範囲で、上記のような光透過性を有する樹脂以外の樹脂を含むものであってもよく、また、核剤、着色剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の添加剤を添加してもよい。
【0025】
光透過性樹脂成形体は、従来公知の方法で成形することができる。従来公知の成形方法としては、例えば、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形、押出成形、ブロー成形等種々の成形方法を挙げることができる。
【0026】
上記のような成形方法で成形された光透過性樹脂成形体は、光吸収性樹脂成形体と接合するための接合予定部を有する。
【0027】
次いで、光吸収性樹脂成形体について説明する。光吸収性樹脂成形体に含まれる樹脂としては、例えば、光透過性樹脂成形体の原料となる樹脂と同様のものを挙げることができ、さらに光の透過率を減少させるためにカーボンブラック、染料や顔料等の所定の着色剤を混入させたり、炭素繊維、カーボンブラック等の光を吸収する材料を含有させたりすることで、光吸収性樹脂成形体にすることができる。
【0028】
光吸収性樹脂成形体についても、光透過性樹脂成形体と同様に、従来公知の樹脂、添加剤を含有することができ、また、従来公知の成形方法で成形することができる。また、従来公知の方法で成形された光吸収性樹脂成形体は光透過性樹脂成形体と接合するための接合予定部を有する。
【0029】
次いで、溶着体の製造について説明する。光透過性樹脂成形体と光吸収性樹脂成形体とを溶着により接合することで得られる溶着体は、従来公知のレーザー溶着装置、フラッシュランプを備えた溶着装置等を使用して製造することができる。例えば以下のようにして、溶着体が製造される。
【0030】
光透過性樹脂成形体の接合予定部と光吸収性樹脂成形体の接合予定部とを重ね合わせ、重ね合わせ部を形成する。重ね合わせ部では、光透過性樹脂成形体の接合予定部の少なくとも一部と光吸収性樹脂成形体の接合予定部の少なくとも一部が接する。
光透過性樹脂成形体側から上記重ね合わせ部に向けて、光軸に垂直な方向の断面が円形の光が、所定の走査速度、所定の出力エネルギーで照射される。したがって、照射領域は円形になる。
光透過性樹脂成形体を透過した光は、光吸収性樹脂成形体に吸収され熱に変換される。この熱は、光吸収性樹脂成形体の重ね合わせ部付近を溶融する。また、この熱は重ね合わせ部を介して光透過性樹脂成形体に伝達される。この伝達された熱は光透過性樹脂成形体を溶融する。
溶融した光吸収性樹脂成形体の接合予定部と、溶融した光透過性樹脂成形体の接合予定部とが重なり合うことで、光吸収性樹脂成形体と光透過性樹脂成形体とが溶着により接合され、溶着体が製造される。
【0031】
[第二工程]
第二工程では、上記光透過性樹脂成形体の第一工程で用いた光に対する透過率をT、この光の照射中心から距離rの位置の出力エネルギー流束をガウス関数q(r)、この光のビーム径をd、としたときに、重ね合わせ部中の距離rの位置に供給される光の供給エネルギーEsを下記数式(I)から算出する。
【数5】

【0032】
供給エネルギーEsとは、重ね合わせ部中の上記距離rの位置に供給される光の供給エネルギーである。即ち、第一工程で照射される光の出力エネルギーから光透過性樹脂成形体を透過する際に消失するエネルギーを差し引いたものである。以下、透過率T、出力エネルギー流束q(r)、ビーム径dについて説明する。
【0033】
透過率Tは、第一工程で用いた光が上記光透過性樹脂成形体を実際に透過する率を表す。実際に透過する率を使用するため、同じ材料からなる成形体を光が透過する場合であっても、透過する経路の長さによって使用する透過率は異なる。透過率Tを考慮した式(I)は、光が光透過性樹脂成形体を透過することによるエネルギー消失を考慮することができる。透過率は所定厚みの板状サンプルの片側からレーザー光を照射し、反対側から透過光強度をパワーメーターで測定した結果である。
【0034】
光の照射中心から距離rの位置の光の出力エネルギー流束q(r)は、以下の式(a)で表すようなガウス型の分布を示す。本工程は、光が光透過性樹脂成形体内を透過することにより、この出力エネルギー流速がどの程度減少するかを考慮する工程である。rの位置は特に限定されないが、rの位置の決め方によって供給エネルギーEsの値は異なる。本発明では、透過率、ビーム径を考慮することで、rをどのように設定しても好適な溶着条件を決定することができる。
また、重ね合わせ部の所定の単位面積に着目すると、光が走査されることで、その単位面積の位置と光の照射中心との間の距離は変化し、その単位面積に供給されるエネルギーも変化するが、本発明では透過率、ビーム径を考慮するため、このような変化があっても、好適な溶着条件を決定することができる。
【数6】

(式(a)中のPは光の出力、πは円周率である)
【0035】
本発明において、出力エネルギー流束として下記式(III)で表される平均化した出力エネルギー流速を用いることが好ましい。平均化した出力エネルギー流速qを用いることで、より容易な方法で接合部の全体を考慮して好適な溶着条件を決定することができる。
【数7】

【0036】
光の照射領域は上記の通り円形になり、ビーム径dは、重ね合わせ部での光の光軸方向の断面の直径である。ビーム径が広がるほど、光が単位面積を通過する時間が長くなる。このため、重ね合わせ部に供給されるエネルギーを求めるためには、ビーム径を考慮する必要がある。ビーム径の測定方法は、例えば、実施例で示すように溶着体を接合部から破壊し、溶着跡から溶着幅を実測することで求めることができる。
【0037】
[第三工程]
第三工程では、光吸収性樹脂成形体の熱拡散係数をD、単位長さ当たりの光の走査時間をt、としたときに、重ね合わせ部の上記距離rの位置において光吸収性樹脂成形体側で吸収される吸収エネルギーEaを下記数式(II)から算出する。
【数8】

(数式(II)中、aは係数、Dは前記光吸収性樹脂成形体の熱拡散係数、tは単位長さ当たりの前記光の走査時間、Eは吸収エネルギー)
【0038】
吸収エネルギーEaとは、重ね合わせ部の上記距離rの位置において光吸収性樹脂成形体側で吸収されるエネルギーを指す。上記重ね合わせ部に供給される供給エネルギーEsから反射等により吸収されないエネルギーを除いたエネルギーを指す。
【0039】
光吸収性樹脂成形体に吸収された光により発生する熱は、光吸収性樹脂成形体の内部へ拡散する。したがって、光吸収性樹脂成形体で吸収されるエネルギーを考慮するためには熱の拡散を考慮する必要がある。上記式(II)で表されるようにして拡散係数を考慮することで、光吸収性樹脂成形体に吸収されるエネルギーを適切に評価でき、その結果、好適な溶着条件を容易に決定することができる。なお、熱拡散係数Dは例えばホットディスク法により測定することが出来るが、樹脂材料の特性データを用いれば計算(熱拡散率D=熱伝導率κ/(密度ρ×比熱C))で求めることができる。
【0040】
単位長さ当たりの光の走査時間が短ければ、上記重ね合わせ部内の所定の単位面積に光が照射される時間が短くなるため、光吸収性樹脂成形体が吸収するエネルギーが小さくなる。一方、単位長さ当たりの光の走査時間が長い場合、上記重ね合わせ部内の所定の単位面積に光が照射される時間が長くなるため、光吸収性樹脂成形体が吸収するエネルギーが大きくなる。以上より、光吸収性樹脂成形体に吸収されるエネルギーを考慮するためには、単位長さ当たりの光の走査時間を考慮する必要がある。
【0041】
係数aは、発生した熱の内、光吸収性樹脂成形体側で吸収されずに消失するエネルギーを考慮するためのものである。後述する通り、本発明では、係数aのおよその範囲を決定することができる。なお、後述する通り、係数aの値は、溶着条件を決定する際には重要ではなく、溶着条件を決定する際には任意の定数を使用することができる。
【0042】
[第四工程]
第四工程では、第一工程で作製した溶着体において、光透過性樹脂成形体と光吸収性樹脂成形体との溶着部の溶着強度を測定する。溶着強度の測定方法は特に限定されないが、光透過性樹脂成形体と光吸収性樹脂成形体とが重なる面に対して、垂直な方向に力を加えて、溶着強度を測定する方法等が挙げられる。
【0043】
[第五工程]
第五工程では、第一工程で用いた光の所定の出力エネルギーを変更して、上記第一工程から上記第四工程を繰り返す工程を一回以上行う。回数は特に限定されないが、複数回行うことでより好適な溶着条件を決定できる。
【0044】
[第六工程]
第六工程では、上記第一工程から上記第五工程の結果に基づいて、上記吸収エネルギーEaと上記溶着強度との関係を導出する。上記吸収エネルギーと上記溶着強度との関係の導出方法は、特に限定されないが、例えば、図1(a)に示すようなグラフ上で吸収エネルギーと溶着強度との関係を求める方法が簡易で好ましい。そして、図1(b)に示すように、溶着強度の極大値を有するグラフを得ることが好ましい。後述する、第七工程でこの極大値の付近のデータに基づいて溶着条件を決定することでより好適な溶着条件が得られる。なお、極大値の位置は図1(b)に示すように、およその位置が分かる程度でよい。なお、吸収エネルギーがEa1の時に溶着強度がFであり、Ea2の時に溶着強度がFであり、Ea3の時に溶着強度がFであるとする。
【0045】
ここで、本発明の第六工程で得られる上記吸収エネルギーEと上記溶着強度との関係についてさらに説明する。図1のグラフは、第一工程で設定した所定の走査速度の条件のデータである。この第一工程での光の走査速度をVとして、さらに、走査速度を変更した場合の(V、Vの場合)上記吸収エネルギーEと上記溶着強度との関係を図2に示した。なお、走査速度Vの場合、吸収エネルギーがEa1の時に溶着強度がF’であり、Ea2の時に溶着強度がF’であり、Ea3の時に溶着強度がF’であるとする。走査速度Vの場合、吸収エネルギーがEa1の時に溶着強度がF”であり、Ea2の時に溶着強度がF”であり、Ea3の時に溶着強度がF”であるとする。
【0046】
図2に示す通り、上記吸収エネルギーを基準とすることで、光の走査速度によらず、溶着強度が極大値を示す吸収エネルギーの位置が非常に近くなる。このような結果が得られることについて、さらに以下で説明する。
【0047】
上記の通り、光により発生する熱が光吸収性樹脂成形体の接合予定部を溶融し、また、その熱が光透過性樹脂成形体の接合予定部にも伝達して光透過性樹脂を溶融し、溶融した部分同士が重なることにより、光透過性樹脂成形体と光吸収性樹脂成形体とが接合する。溶着強度は、溶融の程度で決まると考えられ、溶融の程度は、光により発生する熱で決まると考えられる。光により発生する熱は、光吸収性樹脂成形体が吸収する熱で決まるため、光吸収性樹脂成形体の吸収する熱を適切に評価できていれば、光の走査速度によらず、溶着強度が極大値を示す吸収エネルギーの位置が非常に近くなると考えられる。本発明によれば、吸収エネルギーを上述のようにして適切に評価することができるため、図2に示すような結果になる。
【0048】
なお、係数aがずれることは、図2の全てのグラフが同じように+X方向又は−X方向に平行移動することを意味する。このような平行移動が生じても、光の走査速度によらず、溶着強度が極大値を示す吸収エネルギーの位置が非常に近くなる関係が得られる。したがって、aがどのような値になっても好適な溶着条件を決定することができる。詳細は後述する。
【0049】
[第七工程]
第七工程では、上記第六工程の結果に基づいて、光透過性樹脂成形体と光吸収性樹脂成形体とを溶着する際の光の照射条件を決定する。光の照射条件とは、光の出力エネルギーの条件、光の走査速度の条件である。光の出力エネルギーと光の走査速度との関係は、式(I)、(II)から以下の式(b)で表すことができる。以下、溶着条件を決定する手順について、図1(b)の結果を用いて、さらに詳細に説明する。
【数9】

(式(b)中のlは単位長さ、Vは光の走査速度とする。その他は上記の通りである。)
【0050】
先ず、図1(b)から溶着強度が大きい吸収エネルギーの範囲を決定する。ここでは、EaLからEaHの範囲(ΔEの範囲)が、溶着強度の高い範囲とする。
【0051】
にEaLを代入し、VにVを代入し、r、d、D、l、T、については、上述の工程で使用した数字を代入する。その結果、図3の破線で示されるような関係が得られる。EにEaHを代入し上記と同様の方法でPとVとの関係を求めると、図3の実線で示されるような関係が得られる。図3に示すような、実線と破線で挟まれる領域(図3中の斜線部分)に含まれる光の出力エネルギー、光の走査速度を照射条件とすることで、得られる溶着体の溶着強度は大きくなる。
【0052】
なお、aの値を任意の定数とし、実際のaの値と異なっていた場合、例えば、aを2倍大きく見積もった場合、Eの値は、2倍大きい値が式(b)に代入されることになる。しかし、式(b)は1/aを含むため、任意に決めた定数aが実際の係数aの値とずれていたとしても、この1/aで補正することができる。したがって、任意に決めた定数aが実際のaの値からずれていることは、好適な溶着条件の決定に問題を生じない。
【0053】
なお、出力エネルギー流速として、上記数式(III)で表す平均化した出力エネルギー流速qを用いた場合、Pはq/Pで表される定数αを用いて、Pを式中に導入する。即ち、q=P×αを式(I)のq(r)に代入する。平均化した出力エネルギー流速を用いた場合、式(b)は式(b’)のように変形される。
【数10】

【0054】
[定数aの確認、導出方法]
定数aの確認、導出方法について、図1(b)の結果を用いて説明する。溶着強度の大きいΔEの範囲では、溶着による接合時、光吸収性樹脂成形体が充分に溶融する程度に樹脂の温度が高まり、且つ樹脂が熱分解しない程度に樹脂の温度が高まっていると考えられる。ここで、充分に溶融する程度に樹脂の温度を高めるために必要な吸収エネルギーがEaL以上であり、樹脂が熱分解しない程度に樹脂成形体に熱を与えるために必要な吸収エネルギーがEaH以下であると考えられる。所定の吸収エネルギーの場合に、光により発生する熱の影響を受けて、どの程度樹脂の温度が上昇するか(昇温幅)を、下記の式(c)から求めることができる。
【数11】

(式(c)中の、比熱、密度は樹脂成形体の比熱と密度である。)
【0055】
aL、光吸収性樹脂成形体を構成する樹脂(以下、単に「樹脂」という場合がある)の比熱、密度を代入すると(c)から昇温幅が導出される。ΔTaLとする。同様に吸収エネルギーEaHの場合の昇温幅も導出できΔTaHとする。室温23℃で光吸収性樹脂成形体と光透過性樹脂成形体との溶着を行ったとすると、吸収エネルギーがEaLの場合、溶着による接合時の樹脂材料の温度は(23℃+ΔTaL)になると考えられる。一方、吸収エネルギーがEaHの場合には(23℃+ΔTaH)になると考えられる。
【0056】
(23℃+ΔTaL)が、光吸収性樹脂成形体が充分に溶融する程度の温度でなければならない。充分に溶融する温度とは、およそ、光吸収性樹脂成形体を構成する樹脂材料の融点以上であると考えられる。また、(23℃+ΔTaH)は、およそ、樹脂材料が熱分解しない温度でなければならない。したがって、(23℃+ΔTaL)が上記樹脂材料の融点以上であり、(23℃+ΔTaH)が上記樹脂材料の熱分解点以下であれば、係数aは適切であったことになる。
【0057】
仮に、いずれかが上記の条件を満たさない場合には次のようにして適切なaを導出することができる。先ず、EaL×a’を吸収エネルギーとしたときに、(23℃+ΔTaL)が融点になるa’を導出する。次いで、EaL×a”を吸収エネルギーとしたときに、(23℃+ΔTaH)が熱分解点になるa”を導出する。a’以上a”以下が適切なaの範囲であるから。この範囲でaを決定することで適切な係数aの値が得られる。例えばa’、a”の平均を算出して係数aの値とする方法で、適切なaの値を求めることができる。なお、融点、熱分解点については、融点付近、熱分解点付近の温度を使用しても、適切な係数aを決定することができる。なお、aの値は、およそ0.18以上0.21以下になると予測される。
【0058】
以上、レーザー溶着法等の光による溶着法を例に本発明を説明したが、少なくとも一方の樹脂成形体を熱により溶融させて、一対の樹脂成形体を溶着するための溶着条件を決定する場合においては、熱による溶融の際に樹脂成形体が吸収する吸収エネルギーと、溶着体の溶着強度との関係を導出し、吸収エネルギーと溶着強度との関係に基づいて、適切な溶着条件を決定することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0060】
<実施例1>
実施例1では、図4に示すような鍋型(底無し)の溶着体を製造する際の好適な溶着条件を決定した。図4(a)は溶着体を模式的に示した斜視図であり、図4(b)は溶着前の光透過性樹脂成形体と光吸収性樹脂成形体の端面を模式的に表した図である。本体が光吸収性樹脂成形体であり、蓋が光透過性樹脂成形体である。図4(b)に示されるように、本体は筒状であり、溶着体は底の無い鍋型になる。光吸収性樹脂成形体はポリブチレンテレフタレート樹脂(商品名「ジュラネックス(登録商標)711SA」、ウィンテックポリマー社製、比熱1.01Jg−1−1、密度1.43g/cm、熱拡散係数D=0.222×10−6mm/s)からなり、光透過性樹脂成形体はポリブチレンテレフタレート樹脂(商品名「ジュラネックス(登録商標)730LW」、ウィンテックポリマー社製、比熱1.14Jg−1−1、密度1.49g/cm、熱拡散係数D=0.200×10−6mm/s)からなる。
【0061】
[第一工程]
図4に示す光吸収性樹脂成形体と光透過性樹脂成形体との溶着体をレーザー溶着で製造した。レーザー溶着装置としては、ライスター社製のレーザー溶接システム(商品名「NOVOLAS C」)を使用した。レーザー光の条件は、出力8W、波長940nm、焦点径0.6mmであった。走査速度5mm/secの条件で、環状の重ね合わせ部を一周させることで溶着体を製造した。
【0062】
[第二工程]
上記式(III)を用いて平均化エネルギー流速を算出した。平均化エネルギー流束は4.3W・mm−2であり、出力が8Wであるから、出力の0.54倍が平均化エネルギー流束である(0.54は上述のαにあたる。)。また、光吸収性樹脂成形体の原料である樹脂材料の透過率は0.27(成形体の厚み1.5mmを透過する場合)であり、レーザー径は1.43mmであった(後述する第四工程の溶着強度測定後に溶着跡から導出(輪状の溶着跡の半径方向の幅))。式(I)から重ね合わせ部に供給される平均の供給エネルギーEsは1.7W・mm−2となった。
【0063】
[第三工程]
上記式(II)を用いて吸収エネルギーを算出した。計算に用いる熱拡散係数Dは、光吸収性樹脂成形体の原料である樹脂材料の熱拡散係数と光透過性樹脂成形体の原料である樹脂材料の熱拡散係数との平均値0.211とした。単位長さは1mmとし、aは1/2とした。aを1/2とした理由は、供給された熱の半分が光吸収性樹脂成形体側に、そしてもう半分が輻射により、光透過性樹脂成形体側に吸収されると考えたためである。Eは0.83J・mm−3と算出された。
【0064】
[第四工程]
溶着体の溶着強度は、オリエンテック社製の万能試験機(商品名「テンシロンUTA50KN」)を用いて、図5に示すように溶着体を固定治具に固定し、テストスピード5mm/minの条件で矢印方向に蓋の中心に力Fを加えて、溶着強度を測定した。溶着強度は126Nであった。
【0065】
[第五工程]
6つの異なる出力エネルギーにおけるそれぞれの上記吸収エネルギー、溶着強度を、上記と同様にして測定した。
【0066】
[第六工程]
第四工程、第五工程の結果から、7組の溶着強度、吸収エネルギーが得られ、これらをグラフ上にプロットした(菱形のプロット)。このグラフを図6に示した。なお、図6に示す他の曲線は以下の評価で導出したものである。また、本実施例においてグラフは市販の表計算ソフトを用いて作製した。
【0067】
[第七工程]
図6のグラフから、吸収エネルギーが0.95〜1.35J/mmの範囲を溶着強度が高い範囲であると設定した。上記式(b’)を用いて、吸収エネルギーが0.95J/mmの場合、1.35J/mmの場合それぞれについて、P(光の出力エネルギー)と、V(光の走査速度)との関係を導出した。これらの関係を式(V)、(VI)に表した。吸収エネルギーが0.95J/mmの場合の式(V)、吸収エネルギーが1.35J/mmの場合の式(VI)をグラフにして、図7に示した。式(V)を表す直線(白抜き四角を繋いだ直線)と式(VI)を表す直線(黒四角を繋いだ直線)とに挟まれる領域に溶着条件を設定すれば、溶着強度の大きい溶着体が得られる。
【数12】

【数13】

【0068】
<係数aの導出>
先ず、上記数式(c)を用いて、昇温幅を導出する。ここで、比熱、密度については、光吸収性樹脂成形体に含まれるポリブチレンテレフタレート樹脂と光透過性樹脂成形体に含まれるポリブチレンテレフタレート樹脂の平均を使用した。
【0069】
吸収エネルギーが0.95J/mmでは昇温幅が605℃であり、1.35J/mmでは昇温幅が860℃であった。吸収エネルギーが0.95J/mmでの昇温幅が、230℃(ポリブチレンテレフタレートの融点)−測定時の樹脂の温度、となる係数aは0.18である。また、1.35J/mmでの昇温幅が、375℃(ポリブチレンテレフタレート樹脂の熱分解点)−測定時の樹脂の温度、となる係数aは0.21である。0.18〜0.21の範囲で係数aを決定すればよいことが確認された。
【0070】
<評価1>
上記の実施例のようにして決定した溶着条件の汎用性について評価を行った。具体的には、走査速度を変更した評価(走査速度変更評価)、蓋側の光透過性樹脂成形体の厚みを変更した評価(厚み変更評価)、光透過性樹脂成形体及び光透過性樹脂成形体の形状を変更した評価(形状変更評価)を行った。
【0071】
[走査速度変更評価]
走査速度の条件を10mm/sに変更し、第五工程で7組の吸収エネルギーと溶着強度とを導出した以外は上記の実施例と同様にして、溶着強度と吸収エネルギーとの関係を導出した(図6の四角(内部がドット模様)を繋いだ曲線)。また、走査速度の条件を20mm/sに変更し、第五工程で7組の吸収エネルギーと溶着強度とを導出した以外は上記の実施例と同様にして、溶着強度と吸収エネルギーとの関係を導出した(図6の白抜き三角を繋いだ曲線)。走査速度の条件によらず、溶着強度が極大になる吸収エネルギーはほぼ同じ値である。したがって、走査速度が異なる条件になっても、実施例の方法で決定した溶着条件を採用することができる。
【0072】
[厚み変更評価]
光透過性樹脂成形体の厚みを1.5mmから1.0mmに変更し、走査速度の条件を20mm/sに変更した以外は実施例と同様にして溶着強度と吸収エネルギーとの関係を導出し、さらに走査速度の条件を30mm/s、50mm/sに変更し、吸収エネルギーと溶着強度との関係を導出した。結果は図6(b)上に示した(プロットと結果の関係については表1参照)。ここで、厚みが1.0mmの場合、透過率Tは0.41であり、レーザー径は0.77であり、αが1.86であった。
【0073】
光透過性樹脂成形体の厚みを1.5mmから2.0mmに変更した以外は実施例と同様にして溶着強度と吸収エネルギーとの関係を導出し、さらに走査速度の条件を7.5mm/s、10mm/sに変更し、吸収エネルギーと溶着強度との関係を導出した。結果を図6(b)にしめした。(プロットと条件との関係は表1参照)。ここで、厚みが2.0mmの場合、透過率Tは0.19であり、レーザー径は2.43であり、αが0.19であった。
なお、本評価結果を示した図6(b)には、図6(a)の結果も併せて示した(プロットと条件との関係は表1参照)。
【表1】

【0074】
上記「走査速度変更評価」の結果から確認されるように、走査速度が異なっても、吸収エネルギーと溶着強度との関係は、ほぼ同じ曲線で表すことができる。そこで、厚みごとに分けて、溶着強度と吸収エネルギーとの関係を図6(b)に曲線で示した。上記厚みによらず、溶着強度が極大になる吸収エネルギーはほぼ同じ値である。したがって、上記厚みの条件が異なる条件になっても、実施例の方法で決定された溶着条件を採用することができる。なお、図7には、厚みごとに、P(光の出力エネルギー)とV(光の走査速度)との関係を導出し、グラフ化したものを図示した(蓋厚みが1mmtの場合は白抜き丸、黒丸、蓋厚みが2mmtの場合は白抜き三角、黒三角で表し、それぞれ各点を繋いで直線で表した。)。
【0075】
[形状変更評価]
光透過性樹脂成形体の形状、光吸収性樹脂成形体の形状を図8に示すような、板状に変更し、図8に示すように重ね合わせ、図8に示す5.5mmの部分にレーザーを走査して溶着した。レーザーの照射条件は焦点径を1.2mmに変更した以外は実施例と同様である。
また、第四工程を、チャック間距離50mm、テストスピード5mm/minの条件の引っ張りせん断強度評価に変更し、実施例と同様に溶着強度と吸収エネルギーとの関係を導出した。導出結果は上述の実施例、評価と同様にしてグラフ化した。グラフを図9に示し、各プロットと条件との関係は表2に示した。
【表2】

【0076】
図9の結果から確認されるように、形状を変更しても、吸収エネルギー0.95〜1.35J/mmの範囲は、溶着強度が高い範囲といえることが確認された。したがって、光透過性樹脂成形体の形状が異なる形状に変更されても、実施例の方法で決定された溶着条件を採用することができる。
【0077】
<評価2>
評価2では、溶着強度と吸収エネルギーとの関係の導出に変えて、溶着強度と出力エネルギーとの関係を導出する評価(評価2−1)、溶着強度と下記式(VII)で表す供給エネルギーとの関係を導出する評価(評価2−2)を行った。
【0078】
[評価2−1]
実施例の結果を溶着強度と出力エネルギーとの関係に変更した。変更後のグラフを図10(a)に示した(条件とプロットとの関係は表3に示した)。
【表3】

【0079】
[評価2−2]
実施例の結果を溶着強度と上記供給エネルギーとの関係に変更した。変更後のグラフを図10(b)に示した(条件とプロットとの関係を表3と同様である)。
【数14】

【0080】
図10の結果から明らかなように、本発明のようにして導出する吸収エネルギーを考慮しなければ、溶着強度の極大値の横軸方向の位置がずれてしまい、本発明のように好適な溶着条件を容易に決定することができない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光に対して透過性を有する光透過性樹脂成形体と、光に対して吸収性を有する光吸収性樹脂成形体とを重ね合わせて重ね合わせ部を形成し、前記光透過性樹脂成形体側から前記重ね合わせ部に向けて前記光を所定の走査速度、所定の出力エネルギーで照射して、前記光透過性樹脂成形体と前記光吸収性樹脂成形体との溶着体を製造する第一工程と、
前記光透過性樹脂成形体の前記光に対する透過率をT、前記光の照射中心から距離rの位置の出力エネルギー流束をガウス関数q(r)、前記光のビーム径をd、としたときに、前記重ね合わせ部中の前記距離rの位置に供給される前記光の供給エネルギーEsを下記数式(I)から算出する第二工程と、
【数1】

前記光吸収性樹脂成形体の熱拡散係数をD、単位長さ当たりの前記光の走査時間をt、としたときに、前記重ね合わせ部の前記距離rの位置において前記光吸収性樹脂成形体側で吸収される吸収エネルギーEaを下記数式(II)から算出する第三工程と、
【数2】

(数式(II)中、aは係数、Dは前記光吸収性樹脂成形体の熱拡散係数、tは単位長さ当たりの前記光の走査時間、Eは吸収エネルギー)
前記溶着体において、前記光透過性樹脂成形体と前記光吸収性樹脂成形体との溶着部の溶着強度を測定する第四工程と、
前記所定の出力エネルギーを変更して、前記第一工程から前記第四工程を繰り返す工程を一回以上行う第五工程と、
前記第一工程から前記第五工程の結果に基づいて、前記吸収エネルギーEaと前記溶着強度との関係を導出する第六工程と、
前記第六工程の結果に基づいて、前記光透過性樹脂成形体と前記光吸収性樹脂成形体とを溶着する際の前記光の照射条件を決定する第七工程と、を有する溶着条件の決定方法。
【請求項2】
前記第六工程は、前記吸収エネルギーEaと前記溶着強度とをプロットしたグラフに基づいて前記関係を導出する工程であり、前記関係は溶着強度の極大値を有する請求項1に記載の溶着条件決定方法。
【請求項3】
前記出力エネルギー流速が、下記数式(III)で表す平均化した出力エネルギー流束qである請求項1又は2に記載の溶着条件決定方法。
【数3】

【請求項4】
前記吸収エネルギーEaと溶着強度との関係に基づいて、溶着強度が大きくなる吸収エネルギーの範囲(ΔE(EaLからEaHの範囲))を設定する工程と、
aLの定数倍EaL×a’、前記光吸収性樹脂成形体を構成する樹脂材料の密度、比熱から下記式(c)を用いて算出される昇温幅から導出される、溶融時の重ね合わせ部における前記樹脂材料の温度が融点になるようなa’を算出する工程と、
【数4】

(式(IV)中の、比熱、密度は樹脂成形体の比熱と密度である。)
aHの定数倍EaH×a”、前記光吸収性樹脂成形体を構成する樹脂材料の密度、比熱から上記式(c)を用いて算出される昇温幅から導出される、溶融時の重ね合わせ部における前記樹脂材料の温度が熱分解点になるようなa”を算出する工程と、
導出されたa’からa”の範囲で任意の定数を選択工程より求められることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の溶着条件決定方法。
【請求項5】
前記係数aは、0.18以上0.21以下である請求項1から4のいずれかに記載の溶着条件決定方法。
【請求項6】
前記光吸収性樹脂成形体が、ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を成形してなる成形体である請求項5に記載の溶着条件決定方法。
【請求項7】
少なくとも一方の樹脂成形体を熱により溶融させて、一対の樹脂成形体を溶着するための溶着条件を決定する方法であって、前記熱による溶融の際に樹脂成形体が吸収する吸収エネルギーと、溶着体の溶着強度との関係を導出し、前記吸収エネルギーと溶着強度との関係に基づいて、溶着条件を決定する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−240626(P2011−240626A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−115480(P2010−115480)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】