説明

溶融めっき鋼材の表面改質処理方法、及び表面改質された溶融金属めっき鋼材

【課題】溶融めっきされた鋼材の表面に高い下地密着性、耐アルカリ性、耐結露錆性、上塗り密着性、耐傷付性にすぐれた表面改質皮膜層を形成する。
【解決手段】鋼材に施された金属溶融めっき表面に、これが活性を有するうちに(A)コロイド分散物、(B)前記コロイド(A)とは金属種において異る追加コロイド成分(a)及び/又は前記コロイド分散物の金属とは異る金属の塩基性化合物成分(b)、及び必要により(C)アルカリ又はアルカリ土類金属化合物成分を含む水性処理液を接触させて、表面改質皮膜層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融めっき鋼材の表面改質処理方法及び表面改質された溶融金属めっき鋼材に係るものである。本発明方法は、建築材料、自動車部品、及び家庭用電気製品用高耐食性材料として有用な表面改質された溶融金属めっき鋼材を製造することができる。
【背景技術】
【0002】
溶融めっき鋼材は、表面清浄化した鋼材を、溶融しためっき金属槽に浸漬し、所定のめっき厚みに制御した後、冷却して製造される。また、鋼材の機能を向上させるために、溶融状態のめっき表面への処理や、冷却後にクロメート処理のような後処理を施すことが多い。
【0003】
溶融状態のめっき表面に処理を施すことは、溶融亜鉛めっき鋼板の場合には、古くから知られており、スパングル抑制、黒変対策、化成性向上、Niフラッシュ効果、耐食性向上等の機能付与を目的としている。処理方法としては、水溶液噴霧、金属および/又は金属酸化物粉末吹付け等が知られている。
【0004】
水溶液噴霧及び金属及び/又は金属酸化物粉末吹付けについては下記の文献が知られている。
1.水溶液噴霧法
(1)リン酸アンモニウム、リン酸ナトリウム水溶液等を用いるスパングル抑制方法(例えば、特許文献1、特許文献2)
(2)コバルト、鉄の硝酸塩、塩化物を用いる黒変対策法(例えば、特許文献3、特許文献4)
(3)リン酸塩水溶液を用いる化成性向上法(例えば、特許文献5)
(4)(硫酸、硝酸、リン酸、フッ酸等)と(Ni化合物またはNi金属)水溶液を用いてNiフラッシュ効果を得る方法。(例えば、特許文献6)
2.金属及び/又は金属酸化物粉末吹付け法
(1)Al,Zn,Si,Zr,Mg等の酸化物を用いるスパングル抑制法(例えば、特許文献7)
(2)塩基性化合物や多価数金属塩粉末を用いる耐食性向上法(例えば、特許文献8)
【0005】
これらの技術のうち、水溶液噴霧による処理は、水溶液中の薬剤成分をめっき層表面に付着、もしくは還元析出させ、目的とする機能を発現させる該物質の形成を狙ったものである。金属及び、又は金属酸化物粉末吹付けによる処理は、溶融めっきとこれらの金属成分の金属間化合物を形成、または金属成分の付着により、目的の機能発現をはかったものである。
【0006】
しかしながら、これまでに検討されてきた水溶液噴霧処理の薬剤成分系の場合には、めっき表面に目的成分を該として付着させたものであり、表面に薬剤成分同士のネットワーク形成による緻密な高機能性皮膜を形成させようとする本発明の主旨とは根本的に異なるものであり、耐アルカリ性の確保も難かしい。また、金属及び/又は金属酸化物粉末吹付けの場合も、めっき表面の処理に対する考え方が本発明の主旨と根本的に異なるものであり、さらにこの場合、吹付け量が少ないと全面被覆ができず、同様に耐アルカリ性の確保が困難となり、多すぎると基材との密着力に問題が生ずる場合がある。
【0007】
また、めっき鋼材はめっきにより鋼材の耐食性能を向上させるものであるが、一時防錆、高耐食、塗装下地、耐指紋、接着性等の機能付与のためには後処理が施されている。この際、めっき後の冷却を含めた処理過程における種々の操業要因により、表面に形成された酸化物等の性状バラツキに起因する反応性の違いによる製品の品質不良が発生することがある。特に、近年環境対策として採用が拡大しているクロメート代替処理においては、代替処理剤の低エッチング性に起因して、めっき表層性状の影響を受けやすく処理不良等の発生が懸念されている。
【0008】
【特許文献1】特開平7−18399公報
【特許文献2】特開平11−100653公報
【特許文献3】特開昭62−156272公報
【特許文献4】特開2001−140052公報
【特許文献5】特開平8−260123公報
【特許文献6】特開平8−296014公報
【特許文献7】特開昭63−157849公報
【特許文献8】特開2002−256405公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、溶融金属めっきが施された鋼材の表面に優れた下地密着性、耐アルカリ性、耐結露錆性、上塗り密着性及び耐傷付性を有する表面改質皮膜層を形成する方法及びそれによって上記優れた特性を有する表面改質された溶融金属めっき鋼材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の溶融金属めっき鋼材の表面改質処理方法は、鋼材表面に溶融金属めっきを施して形成された金属めっき層が、活性状態にあるうちに、この金属めっき層の表面に、(A)金属成分を含むコロイド分散物の1種からなる第一成分と、(B)前記第一成分(A)中のコロイド分散物とは、それに含まれる金属成分において異種の金属成分を含有するコロイド分散物の1種以上からなる追加コロイド成分(a)及び前記第一成分(A)用コロイド分散物に含まれる金属成分とは異種の金属の塩基性化合物の1種以上からなる塩基性化合物成分(b)のいずれか一方又は両方からなる第二成分とを含む水性処理液を接触させて、前記金属めっき層上に、表面改質皮膜層を形成することを特徴とするものである。
本発明の溶融金属めっき鋼材の表面改質処理方法において、前記活性状態にある金属めっき層が、その融点より50℃高い温度から、前記融点より50℃低い温度までの温度範囲内にあることが好ましい。
本発明の溶融金属めっき鋼材の表面改質処理方法において、前記第一成分(A)中の金属成分含有コロイド分散物が、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル及びジルコニアゾルからなることが好ましい。
本発明の溶融金属めっき鋼材の表面改質処理方法において、前記第二成分(B)用追加コロイド成分(a)に含まれる金属成分含有コロイド分散物が、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル及びジルコニアゾルから選ばれ、但し、前記第一成分(A)に含まれるコロイド分散物とは、金属成分において異なるものであることが好ましい。
本発明の溶融金属めっき鋼材の表面改質処理方法において、前記第二成分(B)用塩基性化合物成分(b)に含まれる塩基性化合物が、チタン、バナジウム、ジルコニウム、モリブデン、タングステン、シリコン、及びアルミニウムから選ばれ、但し、前記第一成分(A)に含まれるコロイド分散物の金属成分とは異種の金属の塩基性化合物から選ばれることが好ましい。
本発明の溶融金属めっき鋼材の表面改質処理方法において、前記水性処理液に含まれる、第一成分(A)と第二成分(B)との配合比が、金属酸化物のモル比に換算して100:10〜100:100の範囲内にあることが好ましい。
本発明の溶融金属めっき鋼材の表面改質処理方法において、前記水性処理液がアルカリ金属及びアルカリ土類金属の化合物から選ばれた1種以上からなる第三成分(C)をさらに含んでいてもよい。
本発明の溶融金属めっき鋼材の表面改質方法において、前記第三成分(C)に含まれる、アルカリ金属及びアルカリ土類金属が、リチウム、マグネシウム及びカルシウムから選ばれることが好ましい。
本発明の溶融金属めっき鋼材の表面改質方法において、前記水性処理液に含まれる第一成分と第三成分との配合比が、金属酸化物のモル比に換算して、100:5〜100:20の範囲内にあることが好ましい。
本発明の溶融金属めっき鋼材の表面改質方法において、前記溶融金属めっきが、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、溶融亜鉛−アルミニウム合金めっき、溶融アルミニウムめっき、又は溶融錫系合金めっきであることが好ましい。
本発明の溶融金属めっき鋼材の表面改質方法において、前記表面改質皮膜の皮膜量が、5〜150mg/m2であることが好ましい。
本発明の表面改質された溶融金属めっき鋼材は、鋼材からなる基材と、この基材の表面上に溶融金属めっきにより形成された金属めっき層と、この金属めっき層上に形成された表面改質皮膜層とを有し、前記表面改質皮膜層が、前記溶融金属めっきにより形成された金属めっき層が、活性状態にあるうちに、この金属めっき層の表面に、(A)金属成分を含むコロイド分散物の1種からなる第一成分と、(B)前記第一成分(A)中のコロイド分散物とは、それに含まれる金属成分において異種の金属成分含有コロイド分散物の1種以上からなる追加コロイド成分(a)、及び前記第一成分(A)用コロイド分散物に含まれる金属成分とは異種の金属の塩基性化合物の1種以上からなる塩基性化合物成分(b)から選ばれた少なくとも1種以上からなる第二成分とを含む水性処理液を接触させることによって形成されたものであることを特徴とするものである。
本発明の表面改質された溶融金属めっき鋼材において、前記、表面改質皮膜層形成用水性処理液が、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の化合物の1種以上をさらに含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、溶融めっき表面が活性な状態において、コロイド分散体を主成分とした混合水性媒体で処理し、表面改質により高機能薄膜皮膜を形成させたものであり、処理・装置の簡便性、多機能の発揮、環境負荷軽減代替処理としての活用、さらに溶融めっき鋼材全般への適用が可能であるという汎用性から、工業的な効果も非常に大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の溶融金属めっき鋼材の表面改質処理方法において、鋼材表面に溶融金属めっきを施して形成された金属めっき層が、活性状態にあるうちに、この金属めっき層の表面に、所定成分を含む表面改質用水性処理液を接触させて、前記金属めっき層上に、表面改質皮膜層を形成する。
前記表面改質用水性処理液は、(A)金属成分を含むコロイド分散物の1種からなる第一成分と、(B)前記第一成分(A)中のコロイド分散物とは、それに含まれる金属成分において異種の金属成分を含有するコロイド分散物の1種以上からなる追加コロイド成分(a)及び金属の塩基性化合物の1種以上からなる塩基性化合物成分(b)のいずれか一方又は両方からなる第二成分と、水とを含むものである。
【0013】
本発明方法において、鋼材の形状については、制限はなく、例えば、鋼帯、鋼板、鋼塊、鋼ブロック、鋼パイプ、鋼線材を包含する。鋼材の組成についても格別の制限はなく、例えば極低炭素鋼及びクロム含有鋼などを包含する。
【0014】
本発明方法において、鋼材に施される溶融金属めっきの金属の種類及び組成についても、溶融めっきに供されるものである限り格別の制限はなく、例えば溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、溶融亜鉛−アルミニウム合金めっき、溶融アルミニウムめっき、又は溶融錫系合金めっきなどを包含する。
【0015】
前記溶融金属めっき層の活性状態とは、当該溶融金属めっき層の融点より50℃高い温度から、前記融点より50℃低い温度までの温度範囲にある状態を意味する。例えば、溶融亜鉛めっき層の場合その活性状態は、その融点約420℃±50℃すなわち370〜470℃の温度範囲にあることが好ましく約420℃±30℃、すなわち390〜450℃の範囲内にあることがより好ましい。また55%Al−Zn溶融めっき層の場合、その融点約550℃±50℃、すなわち500〜600℃の温度範囲内にあることが好ましく、さらに好ましくは、融点約550℃±30℃すなわち520〜580℃である。本発明方法において、溶融金属めっき層の温度がその融点+50℃より高いと、エネルギーコスト上の不利を生ずることがあり、また、その融点−50℃より低いと、得られる表面改質皮膜層の品質が不十分になり、例えば、表面改質皮膜層の下地密着性等が不十分になることがある。
【0016】
溶融亜鉛めっきの場合、表面改質処理を、めっき金属の融点以上の温度において施したときは、水性処理液中の薬剤成分が核となりゼロスパングル外観を付与することができ、またそれを、融点より低い温度において施したときは、スパングル状外観を付与することができる。すなわち、亜鉛めっき表面外観を、水性処理液による表面改質処理が施されるときの溶融金属めっき表面温度により選択調整することができる。
また、表面改質処理は、溶融金属めっき表面に未だ堅固な酸化物膜が形成されていない活性状態で施されるので改質皮膜は均一にかつ安定な状態で形成される。
【0017】
本発明方法に用いられる水性処理液に含まれる第一成分(A)は、金属成分を含むコロイド分散物の1種からなるものであり、それがコロイド分散物である限りその金属成分の種類、組成に格別の利点はない。前記第一成分(A)用コロイド分散体の金属成分には珪素が包含される。本発明方法に用いられる第一成分(A)用金属含有コロイド分散物は、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル及びジルコニアゾルから選ばれることが好ましい。
【0018】
本発明方法に用いられる第二成分(B)は追加コロイド成分(a)及び塩基性化合物成分(b)のいずれか一方又は両方からなるものである。追加コロイド成分(a)は第一成分(A)用コロイド分散体とは、それに含まれる金属成分において異種の金属成分を含有するコロイド分散物の1種以上からなるものである。ここで金属成分とは珪素を包含するものである。追加コロイド成分(a)に含まれる金属成分含有コロイド分散物は、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル及びジルコニアゾルから選ばれ、但し、それとともに用いられる第一成分(A)に含まれるコロイド分散物とは、金属成分において互に異るものである。
【0019】
本発明方法に用いられる第二成分(B)用塩基性化合物成分(b)は、金属の塩基性化合物の1種以上からなるものであって、この塩基性化合物は、それが酸と反応して塩基を生成する化合物である限り格別の制限はない。ここで金属とは珪素を包含する。このような塩基性化合物成分(b)用塩基性化合物はチタン、バナジウム、ジルコン、モリブデン、珪素及びアルミニウムの塩基性化合物から選ばれることが好ましく、具体的に述べるならば、チタン、バナジウム、ジルコン、モリブデン、タングステン、珪素及びアルミニウムの酸化物(例えば珪酸ソーダ)、水酸化物(例えば水酸化アルミニウム)酸素酸塩(例えばモリブデン酸アンモニウム)及び炭酸塩(例えば炭酸ジルコニウムアンモニウム)などから選ばれることが好ましい。
【0020】
本発明方法に用いられる水性処理液には、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の化合物から選ばれた1種以上からなる第三成分(C)をさらに含んでいることが好ましい。第三成分(C)用化合物としてはそれが、アルカリ金属及びアルカリ土類金属であればよいが、好ましくは、リチウム、マグネシウム、カルシウムの硝酸塩が用いられる。
【0021】
本発明方法において、水性処理液と、活性状態にある溶融金属めっき層の表面とが接触すると、溶融金属めっき層上に形成された水性処理液層は直ちに加熱、乾燥され、表面改質皮膜層が形成される。この表面改質皮膜層の形成において、第一成分(A)は、皮膜の主骨格を構成し、第二成分(B)(追加コロイド成分(a)及び/又は塩基性化合物成分(b))は、皮膜の補助骨格を構成し、第三成分(C)が含まれるときは、それが、前記主骨格及び補助骨格中に取り込まれているものと考えられる。
第一成分(A)用コロイド分散物に、それに含まれる金属成分とは異種の金属を含む第二成分(B)(追加コロイド成分(a)及び/又は塩基性化合物成分(b))を用いることにより、得られる表面改質皮膜層の皮膜構造が強化されているものと推測され、これが上記のように特定された第1成分(A)と第二成分(B)とを併用することによる効果であると考えられる。
【0022】
皮膜構造形成メカニズムについては、以下のように推定される。
(1)溶融めっき金属が表面活性な状態で、水性処理液中の成分と接触すること。
(2)水存在下、めっき金属表面に、めっき金属とコロイド成分を中心とした各種化合物が反応した水和物中間体が形成されること。
(3)高温条件の下、脱水縮合反応をともない酸素基を介しためっき金属との強固な結合が形成されること。
(4)さらにコロイド成分、塩基性化合物成分の水和物中間体を経由した脱水縮合反応によるネットワーク結合を繰り返しながら立体網目構造が形成されること。
(5)また、処理媒体中にアルカリ・アルカリ土類金属が含まれる場合には、この網目構造の中にその金属が取り込まれること。
(6)めっき最表層に改質された薄膜皮膜が形成されること。
この際、〔0004〕中に記述したように、溶融金属めっき層を、鉄、コバルト、ニッケル化合物等の水溶液で処理しても、高温状態で金属成分が還元析出し、それが核物質として溶融金属めっき層の表面に付着してしまい、このため前述のように水和物中間体を経由してネットワーク皮膜構造を形成するには至らない。
また、コロイド金属成分の塩基性化合物水溶液のみで処理した場合、1)炭酸ジルコニウムアンモニウムのように熱条件下で容易に分解し、金属酸化物構造骨格を形成するもの、及び2)珪酸塩、過酸化金属塩等のように水溶液中で水酸基・オキソ水酸基・ペルオキソ基配位構造を形成するものは、水・熱条件で処理することにより薄膜皮膜が形成される。これは、水・熱条件下で形成された構造物が、水凝集保持力により水和物中間体を形成し、これを経由して、脱水・縮合反応が進行しているものと考えられる。しかしながら、水溶液成分のみで処理し形成された皮膜は、コロイド分散体を主骨格として形成された皮膜に比較して、耐アルカリ性、上塗り塗装性等の機能に劣った結果を示した。この原因については明確ではないが、この原因は、コロイドにより形成された皮膜の場合、コロイドの凝集体に起因すると考えられる凹凸が表面に認められ、それによって、骨格構造形成プロセス、並びに形成された骨格構造形態に違いを生することによるものと推測される。
【0023】
皮膜構造形成に果たす第一成分(A)のコロイド分散体の役割を整理しておくと次のように考えられる。
(1)コロイド粒子の強い水分子凝集保持力により、高温活性状態においても準安定な水和物中間体として存在し、脱水・縮合反応を経由して皮膜構造骨格の形成に寄与する。
(2)コロイドは水媒体中で凝集体として存在しており、水・熱条件下で処理された場合、凝集体コア部での脱水・縮合反応と凝集体外殻部での、基材や他の凝集体または塩基性化合物との脱水・縮合反応により、凹凸形状の形成や緻密で堅固な皮膜形成に寄与する。
【0024】
このようにして形成された薄膜皮膜の発現機能としては、下地密着性、耐アルカリ性、耐結露錆性、上塗り密着性、耐傷付性等があげられ、これらの機能は形成された皮膜構造並びに組成に起因していると推測される。
【0025】
下地密着性は、水存在下、高温かつ表面活性なめっき金属とコロイドを主成分とした薬剤成分との水和物中間体の脱水縮合を経由して形成された酸素基を介した結合の強さにより、耐アルカリ性は、めっき表面に緻密に形成された薄膜皮膜のバリアー性、並びにその皮膜を構成しているコロイドを主骨格とした立体網目構造中で、補助骨格成分金属を含んだ構造として構築されたことによる、構造骨格の強化によるものと考えられる。
【0026】
耐結露錆性は、めっき表面に緻密に形成された薄膜皮膜のバリアー性、皮膜の立体網目構造中に取り込まれたアルカリ・アルカリ土類金属成分の作用により、上塗り密着性は、コロイド分散体の凝集物による皮膜構造の凹凸模様に起因するアンカー効果、形成された網目骨格構造ならびに薄膜皮膜最表層に生成している官能基の反応性により、良好な密着性を確保するものと、また耐傷付性は、めっき表面改質により形成された無機系酸化物皮膜そのものの物理的特性に起因していると考えられる。
【0027】
本発明方法に用いられる水性処理液において、それに含まれる第一成分(A)と、第二成分(B)との配合比は、それぞれの配合量を、金属酸化物のモル量に換算して算出されたモル比が、100:10〜100:100の範囲内になるように特定されることが好ましく、より好ましくは100:30〜100:70である。第一成分(A)と第二成分(B)との配合比が、全記金属酸化物のモル比に換算して、100:10〜100:100の範囲外になると、得られる表面改質皮膜層に形成される主骨格と、補助骨格とにより構成される構造が、本発明の目的を達成する機能特性を発揮するには不適切なものとなることがある。
【0028】
本発明方法において、水性処理液が第三成分(C)を含むときは、第一成分(A)の第三成分(C)に対する配合比はそれぞれの成分の配合量を、含有金属の酸化物のモル比に換算したときのモル比が、100:5〜100:20の範囲内にあるように調製することが好ましくより好ましくは100:10〜100:15である。第三成分(C)の配合量が極小になると、(比(A)/(C)が100/5より大きくなると)、得られる表面改質皮膜層の耐結露錆性が、不十分になることがあり、またそれが極大になると(比(A)/(C)が、100/20より小さくなると)、処理液の分散均一性が不十分になることがある。
【0029】
本発明方法において、水性処理液は、常温において用いられ、活性状態にある溶融金属めっき層の表面に接触せしめられる。常温における水性処理液のpHは、6〜10であることが好ましく、より好ましくは7〜9.5である。水性処理液のpHが6未満であるときは、作業環境に問題が発生することがあり、それが10より高いときは水生処理液の安定性が低下することがある。水性処理液のpH調整剤としては、水酸化アンモン及びリン酸を用いることが好ましい。
【0030】
水性処理液を活性状態にある溶融金属めっき層に接触させるためには、エアースプレー法又は、浸漬クエンチ法を用いることが好ましく、エアースプレー法を用いるときの水性処理液の固形成分合計濃度は、1〜5質量%であることが好ましく、浸漬クエンチ法を用いるときには、水性処理液の固形成分合計濃は0.5〜3質量%とすることが好ましい。
【0031】
水性処理液を活性状態にある溶液金属めっき層表面に接触させると、溶融金属めっき層上に付着した水性処理液層は、短時間内に乾燥し、かつ熱処理を受け表面改質皮膜層を形成する。この表面改質皮膜層の皮膜量は、5〜150mg/m2であることが好ましく、より好ましくは10〜100mg/m2であり、さらに好ましくは15〜50mg/m2である。皮膜層が5mg/m2未満であると所要性能を十分に付与できないことがあり、またそれが150mg/m2を超えると、皮膜層と溶融金属めっき層との密着性が不十分になることがあり、また、それに伴って、皮膜層からパウダーが発生し、処理ラインの運転にトラブルを生ずることがあり、また製品鋼材を加工するときに、加工部分に、剥離などの問題を生ずることがあり、本発明により製造された製品に後加工を施すことがない場合には、表面改質皮膜層の皮膜量が150mg/m2を超えてもよい。
【0032】
本発明方法により形成される表面改質皮膜層中の、第一〜三成分に由来する各金属成分の含有割合は、水性処理液中の第一〜三成分中の各金属成分の含有割合にほぼ一致することが確認されているから、水性処理液の成分組成を管理することにより、得られる表面改質皮膜層中の組成(金属成分の含有割合)を、制御することができる。また皮膜量の制御のために、溶融金属めっき条件、水性処理液による処理方法、条件を勘案して、水性処理液の組成及び含有成分濃度を、制御すればよい。
【0033】
本発明方法により溶融金属めっき層の表面上に形成された表面改質皮膜層の性能は、この表面改質皮膜層に、表面粗度の調製のためのスキンパス・レベラー等による軽度の加工によって劣化を生ずることはない。これは、本発明方法により形成された表面改質皮膜層が、その下地、すなわち溶融金属めっきされた鋼材のめっき層に優れた密着性を有する非晶質極薄皮膜であるからであって、軽度の機械的加工により、クラックを発生することがないことに起因していると考えられる。
【0034】
本願発明方法は、前述のような多種を形状を有する鋼材に、前述のような多種の金属の溶融めっきを施された金属材料に適用し得るものである。
【0035】
本願発明に係る表面改質された溶融金属めっき鋼材は、鋼材からなる基材と、この基材の表面上に溶融金属めっきにより形成された金属めっき層と、この金属めっき層上に形成された表面改質皮膜層とを有するものである。前記表面改質皮膜層は、前記溶融金属めっきにより形成された金属めっき層が、活性状態にあるうちに、この金属めっき層の表面に、(A)金属成分を含むコロイド分散物の1種からなる第一成分と、(B)前記第一成分(A)中のコロイド分散物とは、それに含まれる金属成分において異種の金属成分含有コロイド分散物の1種以上からなる追加コロイド成分(a)、及び前記第一成分(A)用コロイド分散物に含まれる金属成分とは異種の金属の塩基性化合物の1種以上からなる塩基性化合物成分(b)から選ばれた少なくとも1種以上からなる第二成分とを含む水性処理液を接触させることによって形成されたものである。
また前記、表面改質皮膜層形成用水性処理液は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の化合物の1種以上からなる第三成分(C)をさらに含むことができる。
前記活性状態にある溶融金属めっき層、水性処理液に含まれる第一〜三成分の詳細、接触方法などは、前述のとおりである。
【実施例】
【0036】
本発明は実施例によって更に説明する。下記実施例においては、溶融金属めっき鋼材の代表例として溶融亜鉛めっき鋼材を用いるか、本発明は、この例に限定されるものではない。
下記実施例及び比較例において用いられた鋼材、溶融めっき、表面改質皮膜層の形成に用いられた薬剤、金属の定量方法、性能特性の測定方法について下記に説明する。
【0037】
1.基材用鋼材の種類
低炭素アルミキルド鋼
2.溶融めっき処理
基材用鋼材を、溶融亜鉛めっき浴中に460℃で浸漬し、片面当りめっき量:100g/m2の亜鉛めっき層を形成した。
3.表面改質皮膜層の形成
めっき層が、420〜430℃の温度を有し、活性状態にあるうちに、このめっき層上に表面改質皮膜の形成処理を施した。
表面改質皮膜層形成用処理液を、めっき層表面に3kg/cm2の空気圧をもってエアースプレーし、自己潜熱により乾燥し、表面改質皮膜層を形成した。
【0038】
4.表面改質皮膜層形成用処理液成分用材料
第一成分(A)及第二成分(B)用追加ゾル成分(a)
Si:コロイダルシリカ(固形分濃度:20質量%、
商標:スノーテックス0、日産化学工業社製)
Zr:ジルコニアゾル (固形分濃度:10質量%、
商標:ZSL−10A、第一稀元素化学工業社)
Al:アルミナゾル (固形分濃度:20質量%、
商標:アルミナゾル520、日産化学工業社)
Ti:チタニアゾル (固形分濃度:6質量%、
商標:TKS−201、テイカ社)
第二成分(B)用水溶性塩基性成分(b)
珪酸ソーダ33 (日本化学工業社)
炭酸ジルコニウムアンモニウム (日本軽金属社)
モリブデン酸アルミニウム (日本無機化学工業社)
メタバナジン酸アンモニウム (新興化学工業社)
メタタングステン酸アンモニウム (日本新金属社)
第三成分(B)用アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水溶性塩
硝酸マグネシウム
硝酸リチウム
硝酸カルシウム
【0039】
5.皮膜中の成分金属の定量方法
Ca,Mo,Si,Ti,V,W,Zrについて・・・
皮膜を蛍光X線法(測定器:モデルIVIS1000型、
理学電気社)に供して皮膜中の金属量を測定した。
Al,Li,Mgについて
皮膜を溶解し、この溶液を、ICP発光分析法
(測定器:モデル1CPS−1000IV型、島津製作所)
に供して金属量を測定した。
測定された各成分金属量を金属酸化物量に換算してその金属量をもって、皮膜量を表した。
【0040】
6.性能特性の測定方法
(1)下地密着性
表面改質処理を施した処理材から30mmφの試料を4枚打ち抜き、蛍光X線測定用に2枚(a,b)、ICP分析用に2枚(c,d)を供した。打ち抜いたままの試料(a)を蛍光X線にかけ、該当成分の皮膜量を酸化物換算で合計しm1を、試料(c)のICP分析により該当成分の酸化物皮膜量m2をもとめ、M1=m1+m2として改質処理皮膜量が測定される。次に、試料(b,d)上に粘着テープ(日東電工社)を密着させ、その表面を人力で強く押圧した後、粘着テープを迅速に引き剥がす。テープ剥離した試料(b)を蛍光X線測定し、該当成分の皮膜量を酸化物換算で合計しm3を、同様にテープ剥離した試料(d)のICP分析により該当成分の酸化物皮膜量m4をもとめ、M2=m3+m4としてテープ剥離後の皮膜量がもとめられる。下地密着性の評価として皮膜残存率(%)=M2/M1×100を算出し、下地密着性を下記のように表示した。
皮膜残存率 下地密着性
80%以上 3
50%以上80%未満 2
50%未満 1
【0041】
(2)耐アルカリ性
表面改質処理を施した処理材から30mmφの試料を4枚打ち抜き、蛍光X線測定用に2枚(a’,b’)、ICP分析用に2枚(c’,d’)を供した。打ち抜いたままの試料(a’)を蛍光X線にかけ、該当成分の皮膜量を酸化物換算で合計しm1’を、試料(c’)のICP分析により該当成分の酸化皮膜量m2’をもとめ、M1’=m1’+m2’として改質処理皮膜量が測定される。次に耐アルカリ性試験として、試料(b’,d’)を0.1N水酸化ナトリウム水溶液中に、温度30℃において5分間浸漬し、取り出して水洗、乾燥させた。試料b’を蛍光X線で、また試料d’をICP分析により皮膜の酸化物換算量としてそれぞれm3’およびm4’が測定される。耐アルカリ試験後の皮膜量M2’=m3’+m4’としてもとめられる。耐アルカリ性評価として表面改質皮膜層の保持率(%)=M2’/M1’×100を算出し、耐アルカリ性を下記のように表示した。
表面改質皮膜層の保持率 耐アルカリ性
90%以上 4
70%以上90%未満 3
50%以上70%未満 2
50%未満 1
(3)耐結露錆性
供試試料の表面改質皮膜層表面に対して、
(雰囲気温度35℃において、20℃の水を、ノズル圧力:0.1MPa、において、2時間噴霧処理)−(温度:60℃、相対湿度:30%の雰囲気内において、4時間乾燥)−(温度:50℃、相対湿度95%の雰囲気内において、2時間湿潤処理)を1サイクルとする処理を10サイクル施した後、供試表面改質皮膜層上に発生した白錆の合計面積を測定し、皮膜層面積に対する白錆面積率を算出し、上記表面改質皮膜層の耐結露錆性を下記のように表示した。
白錆面積率 耐結露錆性
20%未満 3
20%以上50%未満 2
50%以上 1
【0042】
(4)上塗り密着性
供試試料の表面改質皮膜層上に、ノンクロメート化成処理液(商標:CT−E300、日本パーカライジング社)を、バーコート法により塗布厚さ1μmに塗布し、焼付け温度PMT100℃で焼付けた。基盤目エリクセンテープ剥離テスト法に準拠して、この化成処理層に1mm角の基盤目100個を形成するように鋼板基材地に達する切れ目を入れ、これにエリクセン試験機を用いて、張り出し深さ5mmの押し出しを施し、その表面に粘着テープを、貼りつけ、それを一挙に引き剥がして、残存基盤目数をカウントし、その残存個数により、表面改質皮膜層の上塗り密着性を下記のように表示した。
残存基盤目個数 上塗り密着性
80以上 3
50〜79 2
49以下 1
(5)耐傷付性
供試試料の表面改質皮膜層上に10円硬化を45度の角度で押し当て、1kgの荷重下に速度0.5m/秒で擦り、傷付きの程度を、肉眼で観察し、下記のように判定表示した。
傷付きの程度 耐傷付性
軽度 3
中程度 2
重度 1
【0043】
実施例1
基材用鋼板に施された溶融亜鉛めっき層上に、それが420〜430℃の温度を有し、活性状態にあるうちに、下記処理液による表面改質皮膜層形成用スプレー処理を施した。
処理液組成:
成分 濃度 金属酸化物モル比
シリカゾル 12g/リットル 100
ジルコニアゾル 24g/リットル 50
硝酸マグネシウム 0.5g/リットル 10
水 964g(合計固形分濃度を、0.5質量%にする量)
pH 9
形成された表面改質皮膜層の皮膜層は、5mg/m2であった。
【0044】
実施例2〜5
実施例2〜5のそれぞれにおいて、実施例1と同様にして、表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、実施例2〜5のそれぞれにおいて、実施例1における表面改質皮膜層の皮膜量5mg/m2を、表1に記載のように変更した。
機能特性測定の結果を表2に示す。
【0045】
比較例1
実施例1と同様に製造された溶融亜鉛めっき鋼材の機能特性の測定結果を表2に示す。
【0046】
比較例2
実施例2と同様にして、表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、表面改質処理用処理液を、溶融金属めっき層が室温まで冷却した後に、冷間バーコード塗布し、80℃において60秒間の乾燥焼付けを施した。
【0047】
比較例3
実施例2と同様に鋼材に溶融亜鉛めっきを施し、420〜430℃の温度有する溶融亜鉛めっき層の表面に、ゼロスパングル処理剤(商標:エクセル602、日本パーカライジング社、リン酸塩系処理剤、pH:7、固形分濃度:20g/リットル)をミストスプレーした。
【0048】
比較例4
実施例2と同様にして鋼材に溶融亜鉛めっきを施し、その420〜430℃の温度を有する溶融亜鉛めっき層の表面に、第一成分(A)用コロイド分散体を含まず、珪酸ソーダと炭酸ジルコニウムアンモニウムと、硝酸マグネシウムとを金属酸化物モル比に換算して、100:50:10になるように含む処理液を実施例2と同様にスプレーし、20mg/m2の皮膜層を形成した。
【0049】
実施例6
実施例2と同様にして表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、第一成分(A)用コロイダルシリカの代りにジルコニアゾルを使い、第二成分用ジルコニアゾルの代りにコロイダルシリカを用いた。
【0050】
実施例7
実施例2と同様にして表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、コロイダルシリカの代りに、アルミナゾルを使用した。
【0051】
実施例8
実施例2と同様にして表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、コロイダルシリカの代りにチタニアゾルを使用した。
【0052】
実施例9
実施例2と同様にして表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、使用したコロイダルシリカとジルコニアゾルとのジルコニウム酸化物換算モル比を100:50から100:100に変更した。
【0053】
実施例10
実施例2と同様にして表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、使用したコロイダルシリカと、ジルコニアゾルとの金属酸化物モル比を100:50から100:20に変更した。
【0054】
実施例11
実施例2と同様にして表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、使用したコロイダルシリカと、ジルコニアゾルとの金属酸化物換算モル比を100:10に変更した。
【0055】
比較例5
実施例2と同様にして表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、表面改質処理用処理液に第二成分(B)用ジルコニアゾルを含有させなかった。
【0056】
実施例12
実施例2と同様にして表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、第二成分(B)として、ジルコニアゾルの代りに炭酸ジルコニウムアンモニウムを用いた。使用されたコロイダルシリカと、炭酸ジルコニウムアンモニウムの金属化物換算モル比は100:50であった。
【0057】
実施例13
実施例2と同様にして表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、第二成分(B)として、ジルコニアゾルの代りに、モリブデン酸アンモニウムを用いた。使用されたコロイダルシリカと、モリブデン酸アンモニウムとの金属酸化物換算モル比は100:50であった。
【0058】
実施例14
実施例2と同様にして表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、第2成分(B)として、ジルコニアゾルの代りに、チタニアゾルを用いた。コロイダルシリカと、チタニアゾルとの金属酸化物換算モル比は100:50であった。
【0059】
実施例15
実施例2と同様にして表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、第二成分(B)として、ジルコニアゾルの代りに、メタバナジン酸アンモニウムを用いた。使用されたコロイダルシリカと、メタバナジン酸アンモニウムとの金属酸化物換算モル比は100:50であった。
【0060】
実施例16
実施例2と同様にして表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、第二成分(B)として、ジルコニアゾルの代りに、メタタングステン酸アンモニウムを用いた。使用されたコロイダルシリカと、メタタングステン酸アンモニウムとの金属酸化物換算モル比は100:50であった。
【0061】
実施例17
実施例2と同様にして表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、第二成分(B)において、ジルコニアゾルの使用量を少なくし、かつ炭酸ジルコニウムアンモニウムを追加して、コロイダルシリカと、ジルコニアゾルと、炭酸ジルコニウムアンモニウムとの金属酸化物換算モル比を、100:30:20に変更した。
【0062】
実施例18
実施例2と同様にして表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、第三成分(C)として、硝酸マグネシウムの使用量を、コロイダルシリカと、硝酸マグネシウムとの金属酸化物換算モル比が、100:20になるように変更した。
【0063】
実施例19
実施例2と同様にして表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、第三成分(C)として、硝酸マグネシウムの使用量を、コロイダルシリカと、硝酸マグネシウムとの金属酸化物換算モル比が、100:5になるように変更した。
【0064】
実施例20
実施例2と同様にして表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、表面改質処理用処理液に硝酸マグネシウムを含有させなかった。
【0065】
実施例21
実施例6と同様にして表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、表面改質処理用処理液に硝酸マグネシウムを含有させなかった。
【0066】
実施例22
実施例7と同様にして表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、表面改質処理用処理液に硝酸マグネシウムを含有させなかった。
【0067】
実施例23
実施例8と同様にして表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、表面改質処理用処理液に硝酸マグネシウムを含有させなかった。
【0068】
実施例24
実施例2と同様にして表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、第三成分(C)として、硝酸マグネシウムの代りに、硝酸リチウムを用いた。コロイダルシリカと、硝酸リチウムとの金属酸化物換算モル比は100:10であった。
【0069】
実施例25
実施例2と同様にして表面改質溶融亜鉛めっき鋼材を製造した。但し、第三成分(C)として硝酸マグネシウムの代りに、硝酸カルシウムを用いた。コロイダルシリカと、硝酸カルシウムとの金属酸化物換算モル比は100:10であった。
【0070】
実施例1〜25及び比較例1〜5の表面改質皮膜用処理液の組成(金属酸化物換算モル比)、pH値、形成された皮膜量(含有金属酸化物に換算した量の合計値)を表1に示し、得られた表面改質された溶融亜鉛めっき鋼材の機能性能測定結果を表2に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1の第一成分(A)において、記号の表示事項
Si:コロイダルシリカ
Zr:ジルコニアゾル
Al:アルミナゾル
Ti:チタニアゾル
表1の第二成分(B)−(a)の記号の表示事項
Zr:ジルコニアゾル
Si:コロイダルシリカ
Ti:チタニアゾル
表1の第二成分(B)(b)の記号の表示事項
1 :珪酸ソーダ及び炭酸ジルコニウムアンモニウムとの、金属酸化物換算モル比
100:50の混合物。
Zr*2:炭酸ジルコニウムアンモニウム
Mo*3:モリブデン酸アンモニウム
V*4 :メタバナジン酸アンモニウム
W*5 :メタタングステン酸アンモニウム
表1の第三成分(C)の記号の表示事項
Mg:硝酸マグネシウム
Li:硝酸リチウム
Ca:硝酸カルシウム
【0073】
【表2】

【0074】
実施例1〜25により、下地密着性、耐アルカリ性、耐結露錆性、上塗り密着性、及び耐傷付体性において、実用上バランスよく、満足できる性能を有する表面改質溶融金属めっき鋼材を、本発明方法により得られることが確認された。
【0075】
特に実施例1〜25を比較例1に対比することにより本発明方法による表面改質により、得られる表面改質溶融亜鉛めっき鋼板の耐結露錆性及び耐傷付性が、著しく向上することが明らかにされた。
また、実施例2を比較例2に対比することにより、本発明方法において、表面改質処理を、溶融亜鉛めっき層が、活性状態にある間に施すことにより、下地すなわち溶融めっき鋼材と、表面改質皮膜層との密着性が著しく向上し、かつ耐アルカリ性及び耐結露錆性を向上させることが明らかにされた。
さらに実施例1〜25を比較例2に対比することにより、本発明方法において、特定組成の表面改質処理液による処理を施すことにより、ゼロスパングル処理液を用いた場合にくらべて、耐アルカリ性、耐結露錆性、耐傷付性のすぐれた表面改質皮膜層が得られることが明らかにされた。
さらに、実施例1〜25を、比較例4に対比することにより、本発明方法において、特定組成を有する処理液を用いることにより、珪酸ソーダ及び炭酸ジルコニウムアンモニア(50:50)含有(但し、第一成分(A)を含まない)処理液にくらべて、耐アルカリ性、上塗り塗装性において、優れた表面改質皮膜層が得られることが確認された。
さらに実施例2を比較例5の対比することにより、本発明方法において、用いられる表面改質皮膜形成用処理液を用いることにより、第一成分(A)及び第三成分(C)を含むけれども、第二成分(B)を含まない処理液と用いたときにくらべて、耐アルカリ性、耐結露錆性及び上塗り密着性に優れた表面改質皮膜層が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の溶融めっき/鋼材の表面改質処理方法は、表面改質された溶融金属めっき鋼材を、容易に、かつ効率よく製造することができ、また環境負荷も少ない。また、本発明の表面改質された溶融金属めっき鋼材は建築材料、塗装原板、家電部品材料、自動車部品材料などの広汎な用途に好適な材料である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材表面に溶融金属めっきを施して形成された金属めっき層が、活性状態にあるうちに、この金属めっき層の表面に、(A)金属成分を含むコロイド分散物の1種からなる第一成分と、(B)前記第一成分(A)中のコロイド分散物とは、それに含まれる金属成分において異種の金属成分を含有するコロイド分散物の1種以上からなる追加コロイド成分(a)及び前記第一成分(A)用コロイド分散物に含まれる金属成分とは異種の金属の塩基性化合物の1種以上からなる塩基性化合物成分(b)のいずれか一方又は両方からなる第二成分とを含む水性処理液を接触させて、前記金属めっき層上に、表面改質皮膜層を形成することを特徴とする溶融金属めっき鋼材の表面改質処理方法。
【請求項2】
前記活性状態にある金属めっき層が、その融点より50℃高い温度から前記融点より50℃低い温度までの温度範囲内にある、請求項1に記載の溶融金属めっき鋼材の表面改質処理方法。
【請求項3】
前記第一成分(A)中の金属成分含有コロイド分散物が、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル及びジルコニアゾルから選ばれる、請求項1に記載の溶融金属めっき鋼材の表面改質処理方法。
【請求項4】
前記第二成分(B)用追加コロイド成分(a)に含まれる金属成分含有コロイド分散物が、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル及びジルコニアゾルから選ばれ、但し、前記第一成分(A)に含まれるコロイド分散物とは、金属成分において異なるものである、請求項1に記載の溶融金属めっき鋼材の表面改質方法。
【請求項5】
前記第二成分(B)用塩基性化合物成分(b)に含まれる塩基性化合物が、チタン、バナジウム、ジルコニウム、モリブデン、タングステン、珪素、及びアルミニウムから選ばれ、但し、前記第一成分(A)に含まれるコロイド分散物の金属成分とは異種の金属の塩基性化合物から選ばれる、請求項1に記載の溶融めっき鋼材の表面改質方法。
【請求項6】
前記水性処理液に含まれる、第一成分(A)と第二成分(B)との配合比が、金属酸化物のモル比に換算して100:10〜100:100の範囲内にある、請求項1に記載の、溶融金属めっき鋼材の表面改質方法。
【請求項7】
前記水性処理液がアルカリ金属及びアルカリ土類金属の化合物から選ばれた1種以上からなる第三成分(C)をさらに含む、請求項1に記載の溶融金属めっき鋼材の表面改質方法。
【請求項8】
前記第三成分(C)に含まれる、アルカリ金属及びアルカリ土類金属が、リチウム、マグネシウム及びカルシウムから選ばれる、請求項7に記載の溶融金属めっき鋼材の表面改質方法。
【請求項9】
前記水性処理液に含まれる第一成分と第三成分との配合比が、金属酸化物のモル比に換算して、100:5〜100:20の範囲内にある、請求項7に記載の溶融金属めっき鋼材の表面改質方法。
【請求項10】
前記溶融金属めっきが、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、溶融亜鉛−アルミニウム合金めっき、溶融アルミニウムめっき、又は溶融錫系合金めっきである、請求項1に記載の溶融金属めっき鋼材の表面改質方法。
【請求項11】
前記表面改質皮膜の皮膜量が、5〜150mg/m2である、請求項1に記載の溶融金属めっき鋼材の表面改質方法。
【請求項12】
鋼材からなる基材と、この基材の表面上に溶融金属めっきにより形成された金属めっき層と、この金属めっき層上に形成された表面改質皮膜層とを有し、前記表面改質皮膜層が、前記溶融金属めっきにより形成された金属めっき層が、活性状態にあるうちに、この金属めっき層の表面に、(A)金属成分を含むコロイド分散物の1種からなる第一成分と、(B)前記第一成分(A)中のコロイド分散物とは、それに含まれる金属成分において異種の金属成分含有コロイド分散物の1種以上からなる追加コロイド成分(a)、及び前記第一成分(A)用コロイド分散物に含まれる金属成分とは異種の金属の塩基性化合物の1種以上からなる塩基性化合物成分(b)から選ばれた少なくとも1種以上からなる第二成分とを含む水性処理液を接触させることによって形成されたものであることを特徴とする表面改質された溶融金属めっき鋼材。
【請求項13】
前記、表面改質皮膜層形成用水性処理液が、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の化合物の1種以上をさらに含む、請求項11に記載の表面改質された溶融金属めっき鋼材。

【公開番号】特開2009−57587(P2009−57587A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224174(P2007−224174)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】