説明

溶融亜鉛めっき鋼板の4重スキンパス圧延機およびスキンパス圧延方法

【課題】設備コストの大幅な上昇をもたらさずに低荷重で溶融亜鉛めっき鋼板の金属ストリップを耳しわが発生することなくスキンパス圧延する大径の4重スキンパス圧延機およびスキンパス圧延方法を提供する。
【解決手段】溶融亜鉛めっき鋼板の4重スキンパス圧延機であって、フラット形状または放物線パターンの凸型クラウン形状を有する上下一対のバックアップロールと、放物線パターンの凸型クラウン形状21と、板端部より150mm内側から板端部より150mm外側の範囲内においてロール端部に向かってロール径が増大するテーパークラウン形状20を有する上下一対のワークロールと、前記ワークロールのロール軸端部に、前記ワークロールに対し垂直方向のベンディング力を付加するベンダー装置と、を備えることを特徴とする、溶融亜鉛めっき鋼板の4重スキンパス圧延機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融亜鉛めっき鋼板の金属ストリップを圧延機入側で潤滑油を供給しながら、あるいは無潤滑でスキンパス圧延した際に、耳しわを防止した表面性状の良好な製品を製造することが可能な圧延機および圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融亜鉛めっき鋼板は、自動販売機や自動車などに使用されており、CGLラインと呼ばれる設備で熱処理、めっき処理が行われた後、スキンパス圧延機で矯正されて出荷される。溶融亜鉛めっき鋼板は板厚が1mm前後で比較的厚く、また、材料の降伏応力も300MPa未満で比較的軟らかいので、圧延荷重が低く、板幅1m当たり980KN程度である。このため、エッジドロップのある金属ストリップをめっき処理後スキンパス圧延する際に、板端部の圧下不足により耳しわと呼ばれる外観不良が生じる場合があった。
【0003】
図1は板端部に生じた耳しわと呼ばれている外観不良の写真である。この耳しわは、この場合板端から約50mm内側まで発生している。耳しわの発生した部分は商品にならないのでこの部分は切り捨てられる。この例では全幅で100mm切り捨てる必要があり、大きな歩留り低下を招いている。
【0004】
この原因はスキンパス圧延時の板端部の圧下不足により、エッジドロップのある板端部に被圧延材の降伏応力以上の引っ張り力が作用し、これにより材料が引っ張り変形して表面にリューダース帯が発生するためである。従って、スキンパス圧延時の板端部の圧下不足を解消する手段を講じれば良い。その対策として、(1)圧下率(伸び率)を上げて、または、摩擦係数を上げて圧延荷重を増大する、(2)ワークロールにディクリースベンダーを設置する、(3)ワークロールに特殊なロールプロフィルを付与する。(4)小径ワークロールの圧延機に改造する。などが考えられる。
圧延荷重を増大する方法に関して、圧下率を上げる場合では圧下率を上げると2次加工性が劣化するので実質上圧下率は上げられない。また、摩擦係数を上げる場合では、摩擦係数を上げると表面に焼き付きやムラなどが発生するため実用的ではない。大径ワークロールにディクリースベンダーを設置することは耳しわ防止に有効であるものの、板形状としては全体的に大きな端伸びとなり、平坦度を悪化させてしまう。小径ワークロールにディクリースベンダーを設置することは耳しわ防止に非常に有効であり、板形状としても平坦度は確保できるものの、大きな設備改造が必要となり、製造コストの増大を招く(例えば特許文献1参照)。
ワークロールに胴端にゆくに従ってロール径が増大するよう特殊なクラウンを付与することは圧延荷重が高い場合には有効である(たとえば特許文献2、特許文献3参照)ものの、本発明の対象のような4重スキンパス圧延機で圧延荷重が低い場合ではクラウン付与部にワークロールとバックアップロールとが接触しない部分が生じ、板形状としては平坦度を満足する場合もあるが、圧延後の製品に圧延方向に筋状のマークを新たに発生させることとなる。
【特許文献1】特開平2005−81429号公報
【特許文献2】特開平2002−66608号公報
【特許文献3】特開平2006−130546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述した問題を解決するものであって、設備コストの大幅な上昇をもたらさずに、低荷重でスキンパス圧延される溶融亜鉛めっき鋼板の金属ストリップの耳しわを防止可能なスキンパス圧延する大径の4重スキンパス圧延機およびスキンパス圧延方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は次の通りである.
(1)溶融亜鉛めっき鋼板の4重スキンパス圧延機であって、 フラット形状または放物線パターンの凸型クラウン形状を有する上下一対のバックアップロールと、放物線パターンの凸型クラウン形状と、板端部前後の一定範囲内においてロール端部に向かってロール径が増大するテーパークラウン形状を有する上下一対のワークロールと、前記ワークロールのロール軸端部に、前記ワークロールに対し垂直方向のベンディング力を付加するベンダー装置と、を備えることを特徴とする、溶融亜鉛めっき鋼板の4重スキンパス圧延機。
(2)前記テーパークラウン形状は、板端部より150mm内側から板端部より150mm外側の範囲内とし、上下いずれか片方の前記ワークロールにおいて両板端部に設けられていてもよい。
(3)前記テーパークラウン形状は、ワークロールのシフト能力範囲内において板端部より150mm内側から板端部より150mm外側の範囲内とし、前記上下のワークロールにおいて板端部に1つずつ設けられ、
前記上下のワークロールは、前記テーパークラウン形状が鋼板に対し点対称となるように配置され、
前記ワークロールをワークロール胴長方向にシフトさせるワークロールシフト装置を備えていてもよい。
(4)溶融亜鉛めっき鋼板のスキンパス圧延方法であって、溶融亜鉛めっき鋼板の金属ストリップの板幅と、所望とする軽圧下率における圧延荷重をもとに、上下一対のバックアップロールおよび/または上下一対のワークロールにクラウン量を付与し、前記上下のワークロールにおいて板端部前後の一定範囲内においてロール端部に向かってロール径が増大するテーパークラウン形状を付与し、圧延中の前記金属ストリップの圧延機出側板形状が所望の板形状となるように圧延機のワークロールベンダー力を制御することを特徴とする、溶融亜鉛めっき鋼板のスキンパス圧延方法。
(5)前記テーパークラウン形状は、板端部より150mm内側から板端部より150mm外側の範囲内とし、上下いずれか片方の前記ワークロールにおいて両板端部に設けられていてもよい。
(6)前記テーパークラウン形状は、ワークロールのシフト能力範囲内において板端部より150mm内側から板端部より150mm外側の範囲内とし、前記上下のワークロールにおいて板端部に1つずつ設けられ、前記テーパークラウンが鋼板に対し点対称の位置になるように前記上下のワークロールが配置され、圧延中の前記金属ストリップの圧延機出側板形状が所望の板形状となるように圧延機のワークロールシフト量を制御することとしてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、板端部より150mm内側から板端部より150mm外側の範囲内においてロール端部に向かってロール径が増大するテーパークラウン形状を有するワークロールと該ワークロールのロール軸端部に垂直方向のベンディング力を付加する装置を用いるので、既存の圧延機のワークロールを研削加工するだけで良いという利点がある。板端部に当たるワークロール部を研削加工する際、上あるいは下のワークロール1本で本発明を実施する場合には該ワークロールの両端を、上下ワークロール2本で本発明を実施する場合には該ワークロールの片側をそれぞれ研削加工することが好ましい。ワークロール1本で本発明を実施する場合には該ワークロールを上あるいは下に組み込み、ワークロール2本で本発明を実施する場合には該ワークロールを上下に組み込む必要がある。ただし、ワークロールの両端を研削加工する方法では、対応できる板幅は基準値に対し±30mm程度であるので、板幅毎に研削加工したワークロールを有する必要がある。従って、製造する板幅の種類が多いとワークロール保有本数は多くなるものの、同一幅の金属ストリップを多量に製造する圧延機には大きな効果がある。また、鋼種によってはワークロールベンダーを使用しても形状制御能力が不足する場合があるので、バックアップロールに凸クラウンを付ける必要がある。
また、本発明では、片側の板端部より150mm内側から板端部より150mm外側の範囲内においてロール端部に向かってロール径が増大するテーパークラウン形状を有するワークロールを上下で点対称に配置すると共に、上下ワークロールをワークロール胴長方向にシフトするシフト装置を有するので、上述した板幅制約が解消されワークロールの保有本数を減少させることができる。ただし、鋼種によってはワークロールベンダーを使用しても形状制御能力が不足する場合があるので、バックアップロールに凸クラウンを付ける必要がある。従って、多様な板幅の金属ストリップを製造する圧延機には大きな効果がある。
さらにまた、本発明は、上述した圧延機におけるバックアップロールの凸クラウンおよびワークロールクラウン量を決定し、圧延中の該金属ストリップの圧延機出側板形状が所望の板形状となるように該板圧延機のワークロールベンダー力あるいはワークロールシフト量を制御する形状制御方法を表すもので本方法により各圧延機の好ましい形状制御が可能となる。
以上のことから、本発明は、設備コストの大幅な上昇をもたらさずに低荷重で溶融亜鉛めっき鋼板の金属ストリップを耳しわが発生することなくかつ良好な板形状が得られるスキンパス圧延する大径の4重スキンパス圧延機およびスキンパス圧延方法を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図2は、本発明を実施した大径ワークロールの4重スキンパス圧延機を示す構成図である。通常、タンデム冷間圧延機で圧延されて薄くなった金属ストリップは、CGLと呼ばれるメッキラインで、熱処理とメッキ処理がなされた後にスキンパス圧延される。
スキンパス圧延される前の金属ストリップはトリムされてないのが普通であり、したがって、スキンパス圧延される前の金属ストリップには冷間タンデム圧延によって形成されたエッジドロップが存在する。
【0009】
エッジドロップとは、金属ストリップを圧延機で圧延した際のワークロールの扁平に起因する板端部における板厚の急激な減少挙動のことをいい、ロール径、ロールのヤング率、圧延荷重等の影響を受け、通常板端から30〜50mm程度内側までの範囲で生じる。
このようなエッジドロップが生じた金属ストリップSをCGLにてメッキめっき処理し、図2に示す大径の圧延機でスキンパス圧延を行う場合に適用される、本発明の内容について以下に示す。
【0010】
図2は4重スキンパス圧延機を示している。図示してはいないけれども、この4重スキンパス圧延機の上流には冷間タンデム圧延機で圧延された金属ストリップを熱処理・メッキ処理するラインが設置されており、溶融亜鉛めっきされた金属ストリップSが連続的に供給される。また、図示してはいないけれども、この4重スキンパス圧延機の下流にはスキンパス圧延された金属ストリップSを検査・ケミカル処理・せん断・巻き取る装置が設置されている。図2において圧延機のワ−クロールは上ワークロール1と下ワークロール1’から構成されており、各ワークロールはそれぞれ上ワークロールチョック7および下ワークロールチョック7’によって支持されている。これらのワークロールのロールプロフィルは変更可能となっている。また、これらのワークロールの表面は、需要家のニーズに応じて表面粗さが決められており、平滑なブライトと呼ばれるものが使用される。
【0011】
形状制御手段として、上下ワークロールチョック7、7’を支点として上下ワークロール1、1’の垂直方向の撓みを制御するためのインクリースおよびディクリースベンダー力を付与することが可能なベンダー装置12が配置されている。また、図2においては図示してはいないが、上下ワークロールを板幅方向にシフト可能なワークロールシフト装置が配備されている。バックアップロールは上バックアップロール2と下バックアップロール2’から構成されており、各バックアップロール2、2’はそれぞれ上バックアップロールチョック8および下バックアップロールチョック8’によって支持されている。各バックアップロール2、2’のプロフィルはフラットが基本であるが、上記ベンダーによる形状制御能力が不足する場合の鋼種に関して、各バックアップロール2、2’に凸クラウンを付与する場合がある。また、場合によっては各バックアップロール2、2’のロールプロフィルが油圧等によって制御可能なバックアップロール2、2’を使用する場合がある。
【0012】
上バックアップロールチョック8上部には、荷重検出装置10が配置され、ワークサイドおよびドライブサイドの荷重が検出される。また、荷重検出装置10の上部には電動圧下装置11が配置されており、金属ストリップSを圧延する際のパスライン調整が行われる。ここで、この金属ストリップSはトリムされていない冷間タンデム圧延後の金属ストリップを熱処理・溶融亜鉛めっきしたものであり、エッジドロップを有している。
【0013】
さらに、下バックアップロールチョック8’下部には、圧延力を付与するための油圧圧下装置9が配置されている。これらの装置およびチョック等は圧延機のハウジング13内に納められている。圧延機の入側および出側には入側および出側デフレクターロール5、6が配置されている。なお、図示していないが,入側および出側デフレクターロール5、6にはパルスジェネレータが設置されており、入側および出側の金属ストリップSの板速度を検出しマスフロー一定則からスキンパス圧延時における伸び率が検出される。なお、図示していないが、圧延機入側ではスキンパス圧延潤滑油がロールバイト入り口にむかって供給されている。
【0014】
また、図3および図4には上下ワークロール1、1’の金属ストリップS圧延時の説明図を示す。なお、図3は、上下ワークロール1、1’の両者において、両板端部にテーパークラウン形状20が設けられている場合を示しており、図4は、上下のワークロール1、1’において各ワークロールの一方の板端部にテーパークラウン形状20が1つずつ設けられ、上下のワークロール1、1’が、テーパークラウン形状20が鋼板に対し点対称となるように配置されている場合を示している。なお、点対称とは、上のワークロール1に設けられたテーパークラウン形状20と下のワークロール1’に設けられたテーパークラウン形状20が、鋼板の縦断面における中心点について対称の位置にあることである。図3および図4において、上下のワークロール1、1’の中央部近傍にはクラウン形状21が形成されており、上下のワークロール1、1’は両端を軸受け22によって支持されている。ここで、上下のワークロール1、1’は、ロール端部に設けられたワークロールシフト装置23によりロール胴長方向にシフト自在となっている。
【0015】
本発明は、設備コストの大幅な上昇をもたらさずに低荷重で溶融亜鉛めっき鋼板の金属ストリップSを耳しわが発生することなくかつ良好な板形状が得られるスキンパス圧延する大径の4重スキンパス圧延のスキンパス圧延方法として、例えば図3のa)に示すような放物線パターンの凸型クラウン形状を有しさらに少なくとも片側の板端部より150mm内側から板端部より150mm外側の範囲内においてロール端部に向かってロール径が増大するテーパークラウン形状を有するワークロール1、1’を採用する。また、必要に応じて凸型クラウンロールをバックアップロール2、2’に採用する。なお、本発明におけるテーパークラウンとは、ワークロール1、1’における板端部に設けられる鋼板幅方向外側への傾斜部を意味する。テーパークラウン形状の傾斜としては、テーパ角が0.01度〜0.04度であることが好ましい。これは、テーパ角が0.01度以下では、板端部の圧下の効果がなくなってしまい、一方でテーパ角が0.04度以上ではバックアップロールとワークロールの間に非接触部(隙間)が生じてしまうからである。
【0016】
また、上述したように、本発明においては少なくとも片側の板端部より150mm内側から板端部より150mm外側の範囲内においてロール端部に向かってロール径が増大するテーパークラウン形状を有することが好ましい。これにより、金属ストリップSの板形状(平坦度)を乱すことなく、圧下不足である板端部をより圧下することが可能となる。板端部から150mm以上離れた多くの範囲でワークロールにテーパークラウン形状を形成した場合、ワークロール全体が撓み、板形状が悪化するため、テーパークラウン形状を形成するのは上記板端部より150mm内側から板端部より150mm外側の範囲内であることが好ましい。
【0017】
図5のa)とb)とc)には、本発明のワークロールクラウンの一例を示す。図5a)に示すワークロールの形状は放物線パターンの凸型クラウンを有し、さらに板端部より150mm内側から板端部より150mm外側の範囲内においてロール端部に向かってロール径が増大するテーパークラウン形状20を有する。
このワークロールの形状におけるクラウンは、板幅および圧延荷重レベル毎に換える必要がある。ロールクラウンをワークロールの両端に付ける場合には、ワークロールのクラウンを必ずしも上下ワークロール1、1’に付ける必要は無く、上ワークロール1または下ワークロール1’のどちらか一方だけでも良い。
【0018】
また、図5のb)とc)に示したワークロールの形状においてクラウンを片側だけに付与し、かつ、上下ワークロール1、1’を鋼板に対して点対称に配置し、さらに上下ワークロール1、1’を胴長方向にシフト可能にすることによって、上述した板幅制約はほぼ解消され、クラウン加工したロールの保有本数は著しく減少可能とできる。また、バックアップロール2、2’にロールクラウンが制御可能なロールを用いることによってクラウンを付与したバックアップロールの保有本数も著しく減少可能となる。
【0019】
【表1】

【0020】
従来技術を確認するために表1の圧延条件で図5のe)に示すフラットなワークロールを用いてスキンパス圧延を行った.その際のワークロールベンダーはフラットな形状になるように調整された。
【0021】
スキンパス圧延後の金属ストリップの表面と形状を調査した結果、ワークロールがフラットなロールを用いた場合、ワークロールベンダーが−30KN/chockで板形状はフラットとなったが、耳しわが板端から40mm内側の範囲で発生した。また、ワークロールベンダーが−150KN/chockで耳しわは解消したが、板形状は急峻度端3%の端伸びとなった。製品として許容される最大急峻度1%の端伸びの際のワークロールベンダーは−80KN/chockであったが、その際、耳しわが板端から30mm内側の範囲で発生した。
従って、従来技術のフラットワークロールでは、耳しわの防止と板形状の平坦度との双方を同時に満足させる条件は存在しなかった。
【0022】
次に従来技術である図5のd)に示すようなワークロールで胴端にゆくに従ってロール径が増大するクラウンのロールを用いた場合、クラウン量を適正にすると製品として許容される最大急峻度1%の端伸びの際のワークロールベンダーは+30KN/chockであり、その際、耳しわが板端から5mm内側の範囲で発生し、効果が認められたものの、板端部にワークロールとバックアップロールとが接触しない部分(隙間)が生じ、その隙間部のワークロール位置相当部のロール粗度が他の部分より粗くなり、圧延された金属ストリップの表面に連続した筋状の欠陥(模様)が2コイル圧延した後に顕著に発生した。この筋状の欠陥は板端か30mm内側の部分で発生し、最終的にはこの部分はトリムすることとなった。
従って、従来技術の胴端にゆくに従ってロール径が増大するよう特殊なクラウンのロールを用いた場合では、耳しわの防止と板形状の平坦度との双方を同時に満足させることは可能となったが新たに筋状の欠陥が発生し、歩留まり向上の効果は得られなかった。この原因は圧延荷重が小さいために十分なワークロールたわみとロール扁平が得られなかったためである。
【実施例】
【0023】
本発明のスキンパス圧延機は、従来用いていたものとワークロールクラウン以外は同一のものである。
ワークロールは図5のa)に示したように胴長にわたって直径当たり100ミクロンの放物線パターンの凸型クラウンを有し、さらに少なくとも片側の板端部より30mm内側から板端部より50mm外側の範囲内においてロール端部に向かってロール径が増大する直径当たり50ミクロンテーパークラウンを有する。
【0024】
本発明の実施例として、図5のa)に示したワークロールを上下ワークロールとして組み込み、表1に示したスキンパス圧延条件で圧延した。その結果、製品として許容される最大急峻度1%の端伸びの際のワークロールベンダーは−10KN/chockであり、その際、耳しわおよび筋状の欠陥は発生しなかった。従って、従来板端から約30mm程度内側の範囲で発生した不良部(合計で約60mm)をなくすことが可能となり、効果が認められた。
【0025】
従来技術としては、前述したように、フラットワークロールでは、耳しわの防止と板形状の平坦度との双方を同時に満足させる条件は存在しなかったし、従来技術の胴端にゆくに従ってロール径が増大するよう特殊なクラウンのロールを用いた場合では、耳しわの防止と板形状の平坦度との双方を同時に満足させることは可能となったが新たに筋状の欠陥が発生し、歩留まり向上の効果は得られなかった。
【0026】
以上のことから明らかなように、従来技術で歩留まりを改善することができなかったが、本発明では放物線パターンの凸型クラウンを有しさらに片側の板端部より150mm内側から板端部より150mm外側の範囲内においてロール端部に向かってロール径が増大するテーパークラウンを有するワークロールを採用することによって,平坦度の良好な、耳しわを防止可能で、かつ、筋状の欠陥も発生しない溶融亜鉛めっき鋼板のスキンパス圧延が可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、溶融亜鉛めっき鋼板の金属ストリップを圧延機入側で潤滑油を供給しながら、あるいは無潤滑でスキンパス圧延した際に、耳しわを防止した表面性状の良好な製品を製造することが可能な圧延機および圧延方法に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】耳しわの写真である。
【図2】本発明のスキンパス圧延機の1実施の形態を示す構成図である。
【図3】両板端部にテーパークラウン形状20が設けられている場合の上下ワークロール1、1’の金属ストリップS圧延時の説明図である。
【図4】一方の板端部にテーパークラウン形状20が1つずつ設けられ、上下のワークロール1、1’が、テーパークラウン形状20が鋼板に対し点対称となるように配置されている場合の上下ワークロール1、1’の金属ストリップS圧延時の説明図である。
【図5】a)本発明のワークロールプロフィルの例を示す図である。b)本発明のワークロールプロフィルの例を示す図である。c)本発明のワークロールプロフィルの例を示す図である。d)従来技術のワークロールプロフィルの例を示す図である。e)従来技術のワークロールプロフィル(フラット)の例を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 :上ワークロール
1’:下ワークロール
2 :上バックアップロール
2’:下バックアップロール
5 :入側デフレクターロール
6 :出側デフレクターロール
7 :上ワークロールチョック
7’:下ワークロールチョック
8 :上バックアップロールチョック
8’:下バックアップロールチョック
9 :油圧圧下装置
10 :荷重検出装置
11 :電動圧下装置
12 :ベンダー装置
13 :ハウジング
20 :テーパークラウン形状
21 :クラウン形状
22 :軸受け
23 :ワークロールシフト装置
S :金属ストリップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融亜鉛めっき鋼板の4重スキンパス圧延機であって、
フラット形状または放物線パターンの凸型クラウン形状を有する上下一対のバックアップロールと、
放物線パターンの凸型クラウン形状と、板端部前後の一定範囲内においてロール端部に向かってロール径が増大するテーパークラウン形状を有する上下一対のワークロールと、
前記ワークロールのロール軸端部に、前記ワークロールに対し垂直方向のベンディング力を付加するベンダー装置と、を備えることを特徴とする、溶融亜鉛めっき鋼板の4重スキンパス圧延機。
【請求項2】
前記テーパークラウン形状は、板端部より150mm内側から板端部より150mm外側の範囲内とし、上下いずれか片方の前記ワークロールにおいて両板端部に設けられていることを特徴とする、請求項1に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の4重スキンパス圧延機。
【請求項3】
前記テーパークラウン形状は、ワークロールのシフト能力範囲内において板端部より150mm内側から板端部より150mm外側の範囲内とし、前記上下のワークロールにおいて板端部に1つずつ設けられ、
前記上下のワークロールは、前記テーパークラウン形状が鋼板に対し点対称となるように配置され、
前記ワークロールをワークロール胴長方向にシフトさせるワークロールシフト装置を備えることを特徴とする、請求項1に記載の溶融亜鉛めっき鋼板の4重スキンパス圧延機。
【請求項4】
溶融亜鉛めっき鋼板のスキンパス圧延方法であって、
溶融亜鉛めっき鋼板の金属ストリップの板幅と、所望とする軽圧下率における圧延荷重をもとに、上下一対のバックアップロールおよび/または上下一対のワークロールにクラウン量を付与し、
前記上下のワークロールにおいて板端部前後の一定範囲内においてロール端部に向かってロール径が増大するテーパークラウン形状を付与し、
圧延中の前記金属ストリップの圧延機出側板形状が所望の板形状となるように圧延機のワークロールベンダー力を制御することを特徴とする、溶融亜鉛めっき鋼板のスキンパス圧延方法。
【請求項5】
前記テーパークラウン形状は、板端部より150mm内側から板端部より150mm外側の範囲内とし、上下いずれか片方の前記ワークロールにおいて両板端部に設けられることを特徴とする、請求項4に記載の溶融亜鉛めっき鋼板のスキンパス圧延方法。
【請求項6】
前記テーパークラウン形状は、ワークロールのシフト能力範囲内において板端部より150mm内側から板端部より150mm外側の範囲内とし、前記上下のワークロールにおいて板端部に1つずつ設けられ、前記テーパークラウンが鋼板に対し点対称の位置になるように前記上下のワークロールが配置され、圧延中の前記金属ストリップの圧延機出側板形状が所望の板形状となるように圧延機のワークロールシフト量を制御することを特徴とする、請求項4に記載の溶融亜鉛めっき鋼板のスキンパス圧延方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−89121(P2010−89121A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261496(P2008−261496)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】