説明

溶融部界面位置検出方法及びその装置

【課題】スポット溶接の最中にワークに生成する溶融部の界面の位置を精度よく且つ効率的に検出する。
【解決手段】第1溶接チップ12に設けられた第1送受信器16から、第1超音波を送信する。第1超音波の一部は溶融部30の界面で反射されて第1反射波X1となり、第1送受信器16に戻る。一方、別の一部は溶融部30を透過する第1透過波Y1となり、第2溶接チップ14に設けられた第2送受信器18に到達する。第1反射波X1の強度が十分に減衰した後、好ましくは位相差が180°となるようにして、第2送受信器18から第2超音波を送信する。第2超音波の一部は溶融部30の界面で反射されて第2反射波X2となり、第2送受信器18に戻る。一方、別の一部は溶融部30を透過する第2透過波Y2となり、第1送受信器16に到達する。以上の第1超音波・第2超音波の送信・受信を交互に繰り返す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに当接してスポット溶接される最中のワークに生成する溶融部の界面の位置を検出する溶融部界面位置検出方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接の一手法であるスポット溶接は、周知の通り、互いに当接したワーク同士を1組の溶接チップで挟持し、これら溶接チップ同士の間に通電を行うことで前記ワーク同士を点状に溶接するものである。この過程において、当接箇所の内部に溶融部が生成し、さらに、この溶融部が成長した後に凝固して、ナゲットと呼称される固相となる。
【0003】
スポット溶接においては、溶融部が如何なるタイミングで成長・凝固するのかを検査することがある。特許文献1には、この種の検査を行うべく、溶融部の界面の位置を検出する方法及び装置が提案されている。すなわち、特許文献1記載の検出方法及び検出装置では、溶接チップに組み込まれた送受信器から溶融部に向けて超音波を送信し、溶融部から反射された反射波、又は溶融部を透過した透過波のいずれか一方を検出するようにしている。
【0004】
すなわち、反射波を検出する場合には一方の溶接チップのみに送受信器を内蔵し、この送受信器で、超音波の送信及び反射波の受信の双方を行う。また、透過波を検出する場合には、一方の溶接チップに送信器を内蔵し、且つ残余の一方の溶接チップに受信器を内蔵して、前記送信器から超音波を送信し、前記受信器で透過波を受信する。
【0005】
これとは別に、本出願人は、特許文献2において、溶融部の界面の位置を一層高精度に検出可能な装置及び方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−248457号公報
【特許文献2】特開2010−38669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
積層されたワーク同士の厚みが互いに相違する場合や、厚みが同一であっても電気抵抗が互いに相違する場合、各ワークの界面が均等に溶融するとは限らず、寧ろ、相違することが一般的である。厚みが大きいワークや電気抵抗が大きいワークでは、多くのジュール熱が発生するので溶融部が成長し易く、逆に、そうではないワークではジュール熱の発生量が少ないからである。
【0008】
例えば、いわゆるハイテン鋼(高抵抗ワーク)と軟鋼(低抵抗ワーク)とを積層してスポット接合を行う場合、本発明者の鋭意検討によれば、軟鋼側で形成される溶融部は、略半球形状となる。このような形状の溶融部に超音波を入射しても散乱反射が多く、このため、溶融部からの反射波を検出することが容易ではない。この現象は、溶融部が形成され始めた初期段階で特に顕著である。
【0009】
従って、特に、反射波のみで溶融部の成長の度合いを精度よく評価することは容易ではない。そこで、図3に示すように、先ず、第1の測定として、ワークW1、W2を挟持する上方の溶接チップ1に第1送受信器2を内蔵し、且つ下方の溶接チップ3に第2送受信器4を内蔵して、第1送受信器2から超音波を送信するとともに、該第1送受信器2で反射波Xを検出し且つ第2送受信器4で透過波Yを検出する。その後、同一の条件下で、第2の測定として、第2送受信器4から超音波を送信するとともに、該第2送受信器4で反射波を検出し且つ第1送受信器2で透過波を検出することも考えられる(いずれも図示せず)。
【0010】
しかしながら、同一条件とはいえ、第1の測定と第2の測定とで同一の結果が得られないこともあり、ナゲットの成長度合いを精度よく評価し得るとは言い難い。また、同一条件で測定を2回行うので、検査効率が良好であるとも言い難い。
【0011】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、溶融部の成長の度合いを精度よく評価することが可能であり、しかも、検査効率を向上し得る溶融部界面位置検出方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するために、本発明は、互いに当接してスポット溶接される最中のワークに生成する溶融部の瞬間界面の位置を検出する溶融部界面位置検出方法であって、
前記ワークを挟持する第1溶接チップ及び第2溶接チップの中の前記第1溶接チップに設けられた第1送受信器から、前記第2溶接チップに設けられた第2送受信器に向けて第1超音波を送信し、前記第1超音波中の前記ワークから反射された第1反射波を前記第1送受信器で受信するとともに、前記第1超音波中の前記ワークを透過した第1透過波を前記第2送受信器で受信する第1送受信工程と、
前記第1反射波が減衰した後、前記第2送受信器から前記第1送受信器に向けて第2超音波を送信し、前記第2超音波中の前記ワークから反射された第2反射波を前記第2送受信器で受信するとともに、前記第2超音波中の前記ワークを透過した第2透過波を前記第1送受信器で受信する第2送受信工程と、
を有し、
前記第1送受信工程及び前記第2送受信工程を交互に繰り返すことを特徴とする。
【0013】
本発明においては、成長途中の溶融部の界面の位置を、第1送受信器側では第1反射波及び第2透過波で検出し、第2送受信器側では第2反射波及び第1透過波で検出するようにしている。すなわち、1つの界面の位置につき、2種類の波で検出を行う。このため、例えば、第1反射波では界面の位置を検出することが容易でない場合であっても、第2透過波で界面の位置を検出することができる。
【0014】
さらに、第1送受信工程及び第2送受信工程を交互に繰り返すので、界面の位置を第1反射波及び第2透過波(第2反射波及び第1透過波)によってリアルタイムで検出することができる。このため、溶融部の成長の度合いを精度よく、しかも、効率よく評価することが可能となる。
【0015】
なお、第1送受信工程及び第2送受信工程を交互に繰り返すことを効率よく実行するためには、第1超音波の送信を指令する制御信号と、第2超音波の送信を指令する制御信号との位相差を180°とすることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、互いに当接してスポット溶接される最中のワークに生成する溶融部の界面の位置を検出する溶融部界面位置検出装置であって、
スポット溶接装置を構成する第1溶接チップに設けられて第1超音波を送信及び受信可能な第1送受信器と、
前記第1溶接チップとともにスポット溶接を行うための第2溶接チップに設けられて第2超音波を送信及び受信可能な第2送受信器と、
前記第1送受信器及び前記第2送受信器に対して前記第1超音波及び前記第2超音波を個々に送信させる制御信号を発する制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、前記第1超音波中の前記ワークから反射した第1反射波が減衰したことを認識して前記第2超音波を送信させる制御信号を発するとともに、前記第2超音波中の前記ワークから反射した第2反射波が減衰したことを認識して前記第1超音波を送信させる制御信号を発することを繰り返すことを特徴とする。
【0017】
このような構成とすることにより、上記した第1送受信工程及び第2送受信工程を効率よく実行することができる。すなわち、ワーク内で成長しつつある溶融部の界面の位置を精度よく、且つ効率よく検出することが可能となる。
【0018】
制御回路は、第1超音波の送信を指令する制御信号と、第2超音波の送信を指令する制御信号との位相差を180°として前記2つの制御信号を発するものであることが好ましい。これにより、第1送受信工程及び第2送受信工程を効率よく繰り返させることができるからである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、成長途中の溶融部の界面の位置に関し、1箇所について反射波及び透過波の2種類で検出を行うようにしている。このため、例えば、反射波では界面の位置を検出することが容易でない場合であっても、透過波で界面の位置を検出することができるようになる。
【0020】
また、反射波及び透過波の進行方向を逆向きにした後に戻すことを繰り返すようにしているので、界面の位置をリアルタイムで検出することができる。このため、溶融部の成長の度合いを精度よく、しかも、効率よく評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係る溶融部界面位置検出装置の要部概略構成図である。
【図2】図2(a)〜図2(f)は、本発明の実施の形態に係る溶融部界面位置検出方法を示す概略フローである。
【図3】別の溶融部界面位置検出方法の概略フローである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る溶融部界面位置検出方法につき、それを実施する検出装置との関連で好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
図1は、本実施の形態に係る溶融部界面位置検出装置(以下、単に検出装置ということもある)10の要部概略構成図である。この検出装置10は、スポット溶接装置に付設される。
【0024】
スポット溶接装置は、図示しないロボットのアーム部先端に配設された開閉可能な図示しない溶接ガンを有する。溶接ガンの先端には、第1溶接チップ12及び第2溶接チップ14が設けられる。図1に示すように、これら第1溶接チップ12及び第2溶接チップ14は、互いに積層された2枚のワークW1、W2を挟持する。従って、第1溶接チップ12の先端は上方のワークW1に当接し、第2溶接チップ14の先端は下方のワークW2に当接する。なお、本実施の形態において、下方のワークW2はハイテン鋼(高抵抗ワーク)からなり、上方のワークW1は軟鋼(低抵抗ワーク)からなる。
【0025】
第1溶接チップ12及び第2溶接チップ14には、それぞれ、第1送受信器16、第2送受信器18が内蔵されている。これら第1送受信器16及び第2送受信器18は、超音波を送信及び受信することが可能である。なお、以下においては、第1送受信器16から送信された超音波を第1超音波と表記し、第2送受信器18から送信された超音波を第2超音波と表記する。
【0026】
第1送受信器16及び第2送受信器18は、信号線20a、20bを介して制御回路22に電気的に接続されている。後述するように、第1超音波及び第2超音波は、制御回路22から発された制御信号を第1送受信器16及び第2送受信器18が受けることに伴って送信される。
【0027】
本実施の形態に係る溶融部界面位置検出方法は、このように構成された検出装置10を用い、以下のようにして実施される。
【0028】
はじめに、互いに積層されたワークW1、W2を前記溶接ガンの第1溶接チップ12及び第2溶接チップ14の間に挿入する。勿論、この時点では溶接ガンは開いており、従って、第1溶接チップ12と第2溶接チップ14は最大に離間している。
【0029】
次に、前記溶接ガンが閉じられ、第1溶接チップ12の先端が上方のワークW1に当接するとともに、第2溶接チップ14の先端が下方のワークW2に当接する。すなわち、ワークW1、W2が第1溶接チップ12及び第2溶接チップ14に挟持される。
【0030】
この挟持の後、制御回路22は、溶接ガンに対して「第1溶接チップ12及び第2溶接チップ14に対して電圧を印加する」との制御信号を発する。これと略同時に、本実施の形態に係る溶融部界面位置検出方法の概略フローである図2(a)のC欄に示すように、第1送受信器16に対し、「第1超音波を送信する」との制御信号を発する。この制御信号を受けた第1送受信器16は、図2(a)の最上図に示すように、第2送受信器18に向けて第1超音波を送信する。
【0031】
第1超音波には横波及び縦波が含まれる。横波の大部分は、ワークW1、W2の界面を透過することができないので、該界面で反射され、第1反射波X1として第1送受信器16に戻る。すなわち、第1送受信器16は第1反射波X1を受信する。図2(a)では溶融部30が形成される前なので、散乱反射はほとんどない。従って、理論上、第1反射波X1の速度は、ワークW1の厚みの2倍を、第1送受信器16より超音波が送信されてから該第1送受信器16が第1反射波X1を受信するまでの時間で除した値に等しい。
【0032】
これに対し、縦波の大部分は前記界面を透過することが可能であり、第1透過波Y1として第2溶接チップ14に入射し、最終的に第2送受信器18に到達する。すなわち、第2送受信器18は第1透過波Y1を受信する。理論上、第1透過波Y1の速度は、ワークW1の厚みとワークW2の厚みとの和を、第1送受信器16より超音波が送信されてから第2送受信器18が第1透過波Y1を受信するまでの時間で除した値に等しい。
【0033】
図2(a)のA欄、B欄に示すように、第1送受信器16は、第2送受信器18が第1透過波Y1を受信するに先んじて、第1反射波X1を受信する。第1反射波X1の強度は、受信初期で最大であり、その後は減衰する。そして、第1反射波X1の強度が受信初期の強度の1/20程度に減衰した際、制御回路22は、図2(b)のD欄に示すように、第2送受信器18に対し、「第2超音波を送信する」との制御信号を発する。この制御信号を受けた第2送受信器18は、図2(b)の最上図に示すように、第1送受信器16に向けて第2超音波を送信する。
【0034】
上記と同様に、第2超音波には横波及び縦波が含まれる。横波の大部分は、ワークW1、W2の界面を透過することができないので、該界面で反射され、第2反射波X2として第2送受信器18に戻る。すなわち、第2送受信器18は第2反射波X2を受信する。
【0035】
一方、第2超音波に含まれる縦波の大部分は前記界面を透過することが可能であり、第2透過波Y2として第1溶接チップ12に入射し、最終的に第1送受信器16に到達する。すなわち、第1送受信器16は第2透過波Y2を受信する。
【0036】
図2(b)のA欄、B欄に示すように、第2送受信器18は、第1送受信器16が第2透過波Y2を受信するに先んじて、第2反射波X2を受信する。第2反射波X2の強度は、受信初期で最大であり、その後は減衰する。そして、第2反射波X2の強度が受信初期の強度の1/20程度に減衰した際、制御回路22は、図2(c)のC欄に示すように、第1送受信器16に対し、「第1超音波を送信する」との制御信号を発する。この制御信号を受けた第1送受信器16は、図2(c)の最上図に示すように、第2送受信器18に向けて第1超音波を再送信する。
【0037】
このことから諒解されるように、制御回路22が第1送受信器16に発する制御信号と、第2送受信器18に発する制御信号との位相差は、180°である。
【0038】
第1溶接チップ12及び第2溶接チップ14に電圧が印加され、これら第1溶接チップ12及び第2溶接チップ14の間に通電がなされているので、上記した信号制御(第1超音波及び第2超音波の送信)がなされる間、ワークW1、W2の界面がジュール熱に基づいて溶融する。その結果、図2(c)の最上図に示すように、溶融部30が形成される。
【0039】
第1超音波に含まれる横波の大部分は、液相である溶融部30を通過することができない。従って、溶融部30の界面で反射され、第1反射波X1として第1送受信器16に戻る。
【0040】
この場合、第1送受信器16より第1超音波が送信されてから該第1送受信器16が第1反射波X1を受信するまでの時間は、前回(図2(a)参照)の第1超音波の送信から第1反射波X1の受信に至るまでの時間に比して短い。第1送受信器16からワークW1、W2の界面までの距離よりも、第1送受信器16から溶融部30の界面までの距離の方が小さいからである。
【0041】
一方、第1超音波に含まれる縦波の大部分は、溶融部30を透過して第1透過波Y1として第2溶接チップ14に入射し、第2送受信器18によって受信される。液相における縦波の伝播速度は、固相における縦波の伝播速度に比して遅いため、第1送受信器16より第1超音波が送信されてから第1透過波Y1を受信するまでの時間は、前回(図2(a)参照)の第1超音波の送信から第1透過波Y1の受信に至るまでの時間に比して長くなる。
【0042】
第1反射波X1によってワークW1側の溶融部30の界面の位置を検出し得るとともに、第1透過波Y1によってワークW2側の溶融部30の界面の位置を検出し得る。結局、溶融部30の成長の度合いを評価することができる。
【0043】
図2(c)のA欄、B欄に示すように、第1送受信器16は、第2送受信器18が第1透過波Y1を受信するに先んじて、第1反射波X1を受信する。第1反射波X1の強度は、受信初期で最大であり、その後は減衰する。そして、第1反射波X1の強度が受信初期の強度の1/20程度に減衰した際、制御回路22は、図2(d)のD欄に示すように、第2送受信器18に対し、「第2超音波を送信する」との制御信号を発する。この制御信号を受けた第2送受信器18は、図2(d)の最上図に示すように、第1送受信器16に向けて第2超音波を再送信する。
【0044】
第2超音波に含まれる横波の大部分は、溶融部30の界面で反射され、第2反射波X2として第2送受信器18に戻る。すなわち、第2送受信器18は第2反射波X2を受信する。
【0045】
溶融部30が成長しているので、第2送受信器18より第2超音波が送信されてから第2反射波X2を受信するまでの時間は、前回(図2(b)参照)の第2超音波の送信から第2反射波X2の受信に至るまでの時間に比して短くなる。これにより、溶融部30の界面の位置が第2送受信器18に一層近接していることが分かる。
【0046】
一方、第2超音波に含まれる縦波の大部分は溶融部30を透過することが可能であり、第2透過波Y2として第1溶接チップ12に入射し、最終的に第1送受信器16に到達する。すなわち、第1送受信器16は第2透過波Y2を受信する。
【0047】
第2送受信器18より第2超音波が送信されてから第1送受信器16が第2透過波Y2を受信するまでの時間は、前回(図2(b)参照)の第2超音波の送信から第2透過波Y2の受信に至るまでの時間に比して長くなる。溶融部30が液相であるため、伝播速度が遅くなるからである。
【0048】
第2反射波X2によってワークW2側の溶融部30の界面の位置を検出し得るとともに、第2透過波Y2によってワークW1側の溶融部30の界面の位置を検出し得る。結局、溶融部30の成長の度合いを評価することができる。
【0049】
図2(d)のA欄、B欄に示すように、第2送受信器18は、第1送受信器16が第2透過波Y2を受信するに先んじて、第2反射波X2を受信する。第2反射波X2の強度は、受信初期で最大であり、その後は減衰する。そして、第2反射波X2の強度が受信初期の強度の1/20程度に減衰した際、制御回路22は、図2(e)のC欄に示すように、第1送受信器16に対し、「第1超音波を送信する」との制御信号を発する。この制御信号を受けた第1送受信器16は、図2(e)の最上図に示すように、第2送受信器18に向けて第1超音波を再送信する。
【0050】
この際には、溶融部30がさらに成長しているので、第1送受信器16より第1超音波が送信されてから第1反射波X1を受信するまでの時間は、前回(図2(c)参照)の第1超音波の送信から第1反射波X1の受信に至るまでの時間に比して短くなる。これにより、溶融部30の界面の位置が第1送受信器16に一層近接していることが分かる。
【0051】
また、第1超音波に含まれる縦波の大部分は、溶融部30を透過して第1透過波Y1として第2溶接チップ14に入射し、第2送受信器18によって受信される。液相である溶融部30が成長しているので、第1送受信器16より第1超音波が送信されてから第2送受信器18が第1透過波Y1を受信するまでの時間は、前回(図2(c)参照)の第1超音波の送信から第1透過波Y1の受信に至るまでの時間に比して長くなる。
【0052】
以上の時間差から、ワークW1、W2側の各々における溶融部30の界面の移動後の位置を検出し得、結局、溶融部30の成長の度合いを評価することができる。
【0053】
図2(e)のA欄、B欄に示すように、第1送受信器16は、第2送受信器18が第2透過波Y2を受信するに先んじて、第1反射波X1を受信する。第1反射波X1の強度は、受信初期で最大であり、その後は減衰する。そして、第1反射波X1の強度が受信初期の強度の1/20程度に減衰した際、制御回路22は、図2(f)のD欄に示すように、第2送受信器18に対し、「第2超音波を送信する」との制御信号を発する。この制御信号を受けた第2送受信器18は、図2(f)の最上図に示すように、第1送受信器16に向けて第2超音波を再送信する。
【0054】
図2(d)に示されるときよりも溶融部30が成長しているので、第2送受信器18より第2超音波が送信されてから該第2送受信器18が第2反射波X2を受信するまでの時間は、前回(図2(d)参照)の第2超音波の送信から第2反射波X2の受信に至るまでの時間に比して短くなる。これにより、溶融部30の界面の位置が第2送受信器18に一層近接していることが分かる。
【0055】
また、第2超音波に含まれる縦波の大部分は、溶融部30を透過して第2透過波Y2として第1溶接チップ12に入射し、第1送受信器16によって受信される。液相である溶融部30が成長しているので、第2送受信器18より第2超音波が送信されてから第1送受信器16が第2透過波Y2を受信するまでの時間は、前回(図2(d)参照)の第2超音波の送信から第2透過波Y2の受信に至るまでの時間に比して長くなる。
【0056】
この過程において、第1透過波Y1及び第2反射波X2によってワークW2側の溶融部30の界面の位置を検出し得るとともに、第1反射波X1及び第2透過波Y2によってワークW1側の溶融部30の界面の位置を検出し得る。結局、溶融部30の成長の度合いを精度よく評価することができる。
【0057】
以降も上記した第1超音波・第2超音波の送信を繰り返すことにより、溶融部30の成長の度合いを評価することができる。
【0058】
このように、本実施の形態においては、成長しつつある溶融部30のワークW2側の界面を、第1透過波Y1及び第2反射波X2によって検出し、且つ溶融部30のワークW1側の界面を、第1反射波X1及び第2透過波Y2によって検出するようにしている。このため、例えば、軟鋼であるワークW1側の溶融部30の界面で散乱反射が生じ、第1反射波X1が検出され難い状況下であっても、該界面を第2透過波Y2によって検出することが可能となる。従って、溶融部30の界面の位置を精度よく評価することができる。
【0059】
しかも、本実施の形態では、第1送受信器16に対する「第1超音波を送信する」との制御信号と、第2送受信器18に対する「第2超音波を送信する」との制御信号とで、位相差を180°にしている。このため、成長しつつある溶融部30の界面の位置をリアルタイムで第1反射波X1及び第2透過波Y2(第2反射波X2及び第1透過波Y1)によって検出することができるので、界面の位置を高精度且つ効率よく評価することができる。
【0060】
本発明は、上記した実施の形態に特に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0061】
例えば、ワークの個数は3枚以上であってもよい。また、異種の金属同士を溶接する場合のみならず、同種の金属同士を溶接するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0062】
10…溶融部界面位置検出装置 12…第1溶接チップ
14…第2溶接チップ 16…第1送受信器
18…第2送受信器 22…制御回路
30…溶融部 X1…第1反射波
X2…第2反射波 Y1…第1透過波
Y2…第2透過波 W1、W2…ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに当接してスポット溶接される最中のワークに生成する溶融部の瞬間界面の位置を検出する溶融部界面位置検出方法であって、
前記ワークを挟持する第1溶接チップ及び第2溶接チップの中の前記第1溶接チップに設けられた第1送受信器から、前記第2溶接チップに設けられた第2送受信器に向けて第1超音波を送信し、前記第1超音波中の前記ワークから反射された第1反射波を前記第1送受信器で受信するとともに、前記第1超音波中の前記ワークを透過した第1透過波を前記第2送受信器で受信する第1送受信工程と、
前記第1反射波が減衰した後、前記第2送受信器から前記第1送受信器に向けて第2超音波を送信し、前記第2超音波中の前記ワークから反射された第2反射波を前記第2送受信器で受信するとともに、前記第2超音波中の前記ワークを透過した第2透過波を前記第1送受信器で受信する第2送受信工程と、
を有し、
前記第1送受信工程及び前記第2送受信工程を交互に繰り返すことを特徴とする溶融部界面位置検出方法。
【請求項2】
請求項1記載の検出方法において、前記第1超音波の送信を指令する制御信号と、前記第2超音波の送信を指令する制御信号との位相差が180°であることを特徴とする溶融部界面位置検出方法。
【請求項3】
互いに当接してスポット溶接される最中のワークに生成する溶融部の界面の位置を検出する溶融部界面位置検出装置であって、
スポット溶接装置を構成する第1溶接チップに設けられて第1超音波を送信及び受信可能な第1送受信器と、
前記第1溶接チップとともにスポット溶接を行うための第2溶接チップに設けられて第2超音波を送信及び受信可能な第2送受信器と、
前記第1送受信器及び前記第2送受信器に対して前記第1超音波及び前記第2超音波を個々に送信させる制御信号を発する制御回路と、
を備え、
前記制御回路は、前記第1超音波中の前記ワークから反射した第1反射波が減衰したことを認識して前記第2超音波を送信させる制御信号を発するとともに、前記第2超音波中の前記ワークから反射した第2反射波が減衰したことを認識して前記第1超音波を送信させる制御信号を発することを繰り返すことを特徴とする溶融部界面位置検出装置。
【請求項4】
請求項3記載の検出装置において、前記制御回路は、前記第1超音波の送信を指令する制御信号と、前記第2超音波の送信を指令する制御信号との位相差を180°として前記2つの制御信号を発することを特徴とする溶融部界面位置検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−72798(P2013−72798A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213150(P2011−213150)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】