説明

溶融金属めっき設備及び溶融めっき鋼帯の製造方法

【課題】鋼帯の走行速度が速くなっても、ガスワイピング装置により鋼帯に吹き付けられるガスの圧力又は流量の増加の影響によりめっき鋼板に表面欠陥が生じることを防止し、かつ設備コストの増加を効果的に抑制する。
【解決手段】溶融亜鉛めっき設備10では、電磁ワイピング装置22がめっき浴14中から引き上げられる鋼帯20に電磁力を作用させ、この電磁力により鋼帯20から余剰な溶融亜鉛Mを払拭する。これにより、ガスワイピング装置24により溶融亜鉛Mを払拭する前に、鋼帯20における溶融亜鉛Mを目標量に近づけておくことができるので、ガスワイピングノズル30から吹き付けられるワイピングガスGにより鋼帯20から払拭すべき溶融亜鉛Mの量を減少できる。この結果、鋼帯20を高速で走行させる際に、ガスワイピング装置24のガスワイピングノズル30が鋼帯20に吹き付けるワイピングガスの圧力又は流量を十分に小さいものにできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属のめっき浴から連続的に引き上げられる鋼帯から余剰な溶融金属を払拭し、鋼帯における溶融金属の付着量を調整する溶融金属めっき設備及び、この溶融金属めっき設備を用いる溶融めっき鋼帯の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の溶融金属めっき設備においては、めっき用の溶融金属が付着した鋼帯面にガスを吹付けるガスワイピングによって、余剰に付着した溶融金属を払拭して溶融金属の付着量を調整することが行われている。ところが、鋼帯の表裏面にそれぞれ対向するガスワイピングノズルからガスを吹付けると、鋼帯のエッジ部付近では、鋼帯の表裏面にそれぞれ対向するガスワイピングノズルから吹出したワイピングガスどうしが衝突し、互いに干渉し、鋼帯のエッジ部付近の付着量が中央側の付着量よりも増大する。
【0003】
上記のような問題を防止できる溶融金属めっき設備としては、例えば、特許文献1に記載されているものが知られている。この特許文献1の溶融金属めっき設備では、溶融めっきポットの溶融金属中から連続的に引き上げられる鋼帯に付着した溶融金属にガスを吹付けて余剰な溶融金属を払拭した後に、移動磁界発生装置(電磁ワイピング装置)により発生した電磁力を鋼帯における両側のエッジ部付近に作用させる。このとき、電磁ワイピング装置は、鋼帯に付着した溶融金属を浴面側に押し下げる電磁力と、鋼帯のエッジから中央に向かう電磁力とを作用させ、これらの電磁力の相互作用により鋼帯の幅方向に沿った溶融金属の付着量を均一化する。
【0004】
特許文献1の溶融金属めっき設備では、4台の電磁ワイピング装置が気体吹きつけ装置(ガスワイピング装置)の上側に配置されている。4台の電磁ワイピング装置は、鋼帯における一端側及び他端側のエッジ部にそれぞれ面するように設置されており、電磁力を鋼帯の両側のエッジ部付近に作用させる。これにより、電磁力によりガスワイピングだけでは、厚くなり易い鋼帯のエッジ付近から余剰な溶融金属を払拭し、鋼帯における溶融金属の付着量を幅方向に沿って均一化する。従って、鋼帯の中央側における溶融金属の付着量(めっき厚)は、実質的にガスワイピングノズルから吹き付けられるガス流のみにより調整される。
【特許文献1】特開平8−53742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような溶融金属めっき設備では、鋼帯の走行速度が速くなるに従って、ガスワイピングノズルから噴射されるガスの圧力又は流量を増加させる必要がある。しかし、鋼帯の走行速度が速くなると共に、ガスの圧力又は流量を増加すると、鋼帯がその厚さ方向に沿ってばたつき、ガスワイピングノズルから鋼帯までの間隔が経時的に変動したり、ガス流により鋼帯から飛散した溶融金属が鋼帯に再付着することにより表面欠陥が発生することがある。
【0006】
上記のような問題を解決するため、ガスワイピング装置に代えて、高出力の電磁ワイピング装置により鋼帯の全幅に対して電磁力を作用させ、この電磁力の作用のみにより鋼帯から余剰な溶融金属を払拭し、鋼帯における溶融金属の付着量を均一化することも考えられる。
しかし、上記のような対応を採った場合には、高出力の電源装置及び電磁ワイピング装置が必要になることから、ガスワイピング装置のみを用いた場合と比較し、設備の製造コストが著しく高いものになり、また強力な電磁力により鋼帯が加熱され、鋼帯とめっき層との界面で、めっき鋼板の品質に悪影響を与える合金化が生じるおそれもある。
【0007】
本発明の目的は、上記事実を考慮し、鋼帯の走行速度が速くなっても、ガスワイピング装置により鋼帯に吹き付けられるガスの圧力又は流量の増加の影響によりめっき鋼板に表面欠陥が生じることを防止でき、かつ設備コストの増加を効果的に抑制できる溶融金属めっき設備及び、溶融めっき鋼帯の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る溶融金属めっき設備は、連続的に浸入する鋼帯にめっき用溶融金属を付着させるめっき浴と、前記めっき浴中から連続的に引き上げられる鋼帯にガスを吹き付け、ガス流により鋼帯に付着した溶融金属を払拭して、鋼帯における溶融金属の付着量を調整するガスワイピング装置と、鋼帯のパスラインに沿って前記めっき浴と前記ガスワイピング装置との間に配置され、前記めっき浴中から引き上げられる鋼帯に付着した溶融金属に電磁力を作用させ、該電磁力により鋼帯から余剰な溶融金属を払拭する電磁ワイピング装置と、を有することを特徴とする。
【0009】
上記構成の溶融金属めっき設備では、電磁ワイピング装置がめっき浴中から引き上げられる鋼帯に電磁力を作用させ、この電磁力により鋼帯から余剰な溶融金属を払拭することにより、ガスワイピング装置のガスにより鋼帯に付着した溶融金属を最終的に調整する前に、鋼帯における溶融金属を目標とする付着量に近づけておくことができるので、ガスワイピング装置のガス(ガス流)により鋼帯から払拭すべき溶融金属の量を減少できる。
【0010】
この結果、上記構成の溶融金属めっき設備によれば、上記のような電磁ワイピング装置がない従来の溶融金属めっき設備と比較し、鋼帯の走行速度が同一であるならば、ガスワイピング装置により鋼帯に吹き付けるガスの適正な圧力又は流量を相対的に低減できるので、鋼帯を高速で走行させる際には、電磁ワイピング装置からの電磁力により鋼帯から余剰な溶融金属を十分に払拭しておけば、ガスワイピング装置が鋼帯に吹き付けるガスの圧力又は流量を十分に小さいものとし、ガス流により鋼帯が厚さ方向に沿ってバタついて、めっき厚が長手方向に沿って周期的に変動することを防止でき、さらにガス流により鋼帯から溶融金属が飛散し、これが鋼帯に再付着することも防止できる。
【0011】
また上記構成の溶融金属めっき設備では、電磁ワイピング装置からの電磁力により鋼帯から余剰な溶融金属の少なくとも一部を払拭すればよいので、電磁ワイピング装置単体で鋼帯から余剰な溶融金属の全てを払拭する必要がある場合と比較し、電磁ワイピング装置及び、その電源装置として低出力のものを用いることができ、かつ電磁力による鋼帯の加熱も効果的に抑制できる。
【0012】
また本発明の請求項2に係る溶融金属めっき設備は、請求項1記載の溶融金属めっき設備において、前記電磁ワイピング装置は、コイル素線が巻回されて構成された磁界発生用コイルを備え、前記磁界発生用コイルを鋼帯の厚さ方向外側に配置し、かつ前記コイル素線を、鋼帯の幅方向及び走行方向により規定される仮想平面へ投影した場合、前記仮想平面内で前記幅方向に沿って鋼帯を横断すると共に、水平方向に対して傾くように配置したことを特徴とする。
【0013】
上記構成の溶融金属めっき設備では、鋼帯の厚さ方向外側に配置される磁界発生用コイルのコイル素線を、鋼帯の幅方向及び走行方向により規定される仮想平面へ投影した場合、前記仮想平面内で前記幅方向に沿って鋼帯を横断すると共に、水平方向に対して傾くように配置したことにより、ガスワイピング装置からのガス流により鋼帯から払拭された溶融金属が飛沫となって電磁ワイピング装置上に飛散した場合でも、この溶融金属の飛沫に対して磁界発生用コイルの電磁力を反発力として作用させることができると共に、この飛沫に対して反発力として作用する電磁力自体を水平方向に対して傾いたものにできる。
【0014】
この結果、磁界発生用コイルが発生する電磁力の一部を溶融金属の飛沫に対して上方への反発力として作用させると共に、この電磁力の水平方向に沿った分力(残りの一部)を溶融金属の飛沫に作用させることより、磁界発生用コイルの上方で溶融金属の飛沫を水平方向へ移動させ、溶融金属の飛沫が磁界発生用コイル及び鋼帯に付着することを阻止できると共に、溶融金属の飛沫を電磁ワイピング装置の側方へ排出できる。
【0015】
本発明の請求項3に係る溶融めっき鋼帯の製造方法は、鋼帯を連続的にめっき浴中に浸入させて、該鋼帯にめっき用溶融金属を付着させるめっき付着工程と、めっき浴中から連続的に引き上げられた鋼帯にガスワイピング装置によりガスを吹き付け、ガス流により鋼帯に付着した溶融金属を払拭して、鋼帯における溶融金属の付着量を調整するガスワイピング工程と、ガスワイピング工程を行う前に、前記めっき浴中から引き上げられた鋼帯に電磁ワイピング装置により電磁力を作用させて、鋼帯から余剰な溶融金属を払拭する電磁ワイピング工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
上記構成の溶融めっき鋼帯の製造方法では、ガスワイピング工程を行う前に、電磁ワイピング装置がめっき浴中から引き上げられる鋼帯に電磁力を作用させ、この電磁力により鋼帯から余剰な溶融金属を払拭することにより、ガスワイピング装置のガスにより鋼帯に付着した溶融金属を最終的に払拭する前に、鋼帯における溶融金属を目標とする付着量に近づけておくことができるので、ガスワイピング装置のガス(ガス流)により鋼帯から払拭すべき溶融金属の量を減少できる。
【0017】
この結果、上記構成の溶融めっき鋼帯の製造方法によれば、上記のような電磁ワイピング工程が行われない従来の溶融めっき鋼帯の製造方法と比較し、鋼帯の走行速度が同一であるならば、ガスワイピング装置により鋼帯に吹き付けるガスの適正な圧力又は流量を相対的に低減できるので、鋼帯を高速で走行させる際には、電磁ワイピング装置からの電磁力により鋼帯から余剰な溶融金属を十分に払拭しておけば、ガスワイピング装置が鋼帯に吹き付けるガスの圧力又は流量を十分に小さいものとし、ガス流により鋼帯が厚さ方向に沿ってバタついて、めっき厚が周期的に変動することを防止でき、さらにガス流により鋼帯から溶融金属が飛散し、これが鋼帯に再付着することも防止できる。
【0018】
また上記構成の溶融めっき鋼帯の製造方法では、電磁ワイピング工程にて、電磁ワイピング装置からの電磁力により鋼帯から余剰な溶融金属の少なくとも一部を払拭すればよいので、電磁ワイピング装置単体で鋼帯から余剰な溶融金属の全てを払拭する必要がある場合と比較し、電磁ワイピング装置及び、その電源装置として低出力のものを用いることができ、かつ電磁力による鋼帯の加熱も効果的に抑制できる。
【0019】
また本発明の請求項4に係る溶融めっき鋼帯の製造方法は、請求項3記載の溶融めっき鋼帯の製造方法において、前記電磁ワイピング装置は、コイル素線が巻回されて構成された磁界発生用コイルを備え、前記磁界発生用コイルを、鋼帯の厚さ方向外側に配置し、かつ前記コイル素線を、鋼帯の幅方向及び走行方向により規定される仮想平面へ投影した場合、前記仮想平面内で前記幅方向に沿って鋼帯を横断すると共に、水平方向に対して傾くように配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明に係る溶融金属めっき設備及び溶融めっき鋼帯の製造方法によれば、鋼帯の走行速度が速くなっても、ガスワイピング装置により鋼帯に吹き付けられるガスの圧力又は流量の増加の影響によりめっき鋼板に表面欠陥が生じることを防止でき、かつ設備コストの増加を効果的に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態に係る溶融亜鉛めっき設備及び、溶融亜鉛めっき鋼帯の製造方法について図面を参照して説明する。
図1には、本発明の実施形態に係る溶融亜鉛めっき設備が模式的に示されている。溶融亜鉛めっき設備10はめっきポット12を備えており、このめっきポット12内には、めっき用金属である亜鉛が溶融状態となっためっき浴14(溶融亜鉛M)が蓄えられている。めっきポット12内には、ポットロール16及び一対のサポートロール18がそれぞれ回動可能に配置されている。ポットロール16及び一対のサポートロール18はめっき浴14中に浸漬されており、一対のサポートロール18は、上下方向(鉛直方向)に沿ってポットロール16の上方に支持されている。
【0022】
20は溶融亜鉛めっき鋼帯(GI)の基材となる長尺帯状の鋼帯である。ここで、GIは非合金型の溶融亜鉛めっき鋼帯を意味しており、合金化溶融亜鉛めっき鋼帯(GA)と区別するための略称である。鋼帯20は、所定の表面処理がなされた後、所定の温度まで加熱された後に、めっき浴14中に案内され、ポットロール16の外周面(ロール面)に下方から巻き付けられ、上方へ延出している。この鋼帯20は、一対のサポートロール18間に挟持されて、ポットロール16のめっき浴14から上方へ延出する。
【0023】
めっき浴14から上方へ延出する鋼帯20は、めっきポット12の上方に配置されたフィードロール(図示省略)により搬送力が伝達され、この搬送力によりめっき浴14中から引き上げられ、鉛直方向と略一致する走行方向(矢印R方向)に沿って上方へ走行する。
溶融亜鉛めっき設備10には、めっき浴14から引き上げられた鋼帯20の走行経路(パスライン)に沿って、下方から電磁ワイピング装置22及びガスワイピング装置24が順に配置されている。
【0024】
図3に示されるように、電磁ワイピング装置22は環状の電磁ヘッド26を備えている。この電磁ヘッド26は、水平方向に沿った断面形状が鋼帯20の幅方向(図1(B)の矢印W方向)に沿って細長い略長方形に形成されており、その中心部に略長方形の中空部27が貫通している。溶融亜鉛めっき設備10では、めっき浴14から引き上げられた鋼帯20が電磁ヘッド26の中空部27を通過しつつ、上方へ移動する。このとき、鋼帯20は、鋼帯20の厚さ方向(図1(A)の矢印T方向)に沿って中空部27の中央に位置するように、サポートロール18及びフィードロール(図示省略)により支持される。
【0025】
電磁ヘッド26には、内周側における高さ方向(矢印H方向)中間部に環状の磁界発生用コイル36が埋設されている。磁界発生用コイル36は、銅線からなるコイル素線38が電磁ヘッド26の内周面に沿って環状に巻回されて構成されている。ここで、電磁ヘッド26は、その長手方向(矢印L方向)が水平方向に対して所定の傾斜角θだけ傾くように配置されている。これにより、電磁ヘッド26に埋設された磁界発生用コイル42のコイル素線38も、長手方向Lに沿った部分を、鋼帯20の幅方向W及び鋼帯の走行方向Rにより規定される仮想平面へ投影した場合、この仮想平面内で水平方向に対して所定の傾斜角θだけ傾くことになる。
【0026】
また、このコイル素線38における長手方向Lに沿って延在する部分は、幅方向Wに沿って鋼帯20を横断している。なお、図1(B)及び図3(B)にて、一点鎖線CLは電磁ヘッド26の長手方向に沿った中心線、細線Hは水平方向と一致する設備の基準線である。
溶融亜鉛めっき設備10は、電磁ワイピング装置22に交流の駆動電圧を供給するための電源装置(図示省略)を備えており、この電源装置は、設備全体を制御するためのプロセスコンピュータ(図示省略)からの制御に従って電磁ヘッド26の磁界発生用コイル36に駆動電圧を印加し、又は電圧印加を停止する。電磁ヘッド26は、磁界発生用コイル36に駆動電圧が印加されると、所定方向の電磁力を発生し、この電磁力を鋼帯20の表面及び裏面にそれぞれ作用させる。
【0027】
ここで、電磁ヘッド26は、その磁界発生用コイル36が幅方向Wに沿って鋼帯20を横断していることから、鋼帯20の表面及び裏面に対して、それぞれ強度分布が長手方向Lに沿って略均一な電磁力を作用させる。具体的には、電磁ヘッド26は、図3(B)に示されるように、その高さ方向Hに沿って上方へ向かう電磁力(矢印群F)と下方へ向かう電磁力(矢印群F)をそれぞれ発生させる。電磁力Fは、鋼帯20の表裏面にそれぞれ付着した溶融亜鉛Mを上方へ押し上げると共に、飛沫となって上方から落下してくる溶融亜鉛Mを上方へ弾くような力(反発力)として作用する。また電磁力Fは、鋼帯20の表裏面にそれぞれ付着した溶融亜鉛Mを下方へ押し下げるような力(払拭力)として作用する。
【0028】
電磁ヘッド26は、鋼帯20が中空部27を通過する際に、鋼帯20の表裏面にそれぞれ付着した溶融亜鉛Mに電磁力F及び電磁力Fを作用させる。これにより、鋼帯20における電磁力Fを受ける領域(電磁ワイピング領域)では、図2に示されるように、電磁力Fにより鋼帯20の表面及び裏面にそれぞれ付着した溶融亜鉛Mの一部が下方へ払拭され、上方へ向かって溶融亜鉛Mの単位面積当たりの付着量が序々に減少し、その厚さ(付着厚)も序々に薄くなる。一方、電磁力Fは、鋼帯20における溶融亜鉛Mの付着量に殆ど影響を与えない。
【0029】
図1(A)に示されるように、ガスワイピング装置24は、鋼帯20のパスラインに沿って電磁ワイピング装置22の上方に配置されており、一対のガスワイピングノズル30を備えている。ガスワイピングノズル30は幅方向Wに沿って細長い形状に形成されている。一対のガスワイピングノズル30は、鋼帯20の表面及び裏面にそれぞれ対向しており、走行方向Rに沿った位置が互いに一致すると共に、鋼帯20の厚さ方向(図1(A)の矢印T方向)に沿って鋼帯20の表面及び裏面からの距離がそれぞれ等しくなっている。
【0030】
ガスワイピングノズル30には、図1(B)に示されるように、鋼帯20へ面して開口するノズル口32が形成されている。このノズル口32は幅方向Wへ細長いスリット状とされており、その長手方向に沿った長さが鋼帯20の幅よりも若干に広くなっている。ノズル口32は、幅方向Wに沿って鋼帯20を横断するように配置されており、その長手方向が幅方向Wと実質的に平行になっている。
【0031】
ガスワイピング装置24は、鋼帯20の走行時に、ガスワイピングノズル30のノズル口32を通して窒素ガス、大気等のワイピングガスG(図2参照)を鋼帯20へ吹き付ける。このとき、ノズル口32は、その開口長が鋼帯20の幅よりも広く、幅方向に沿って鋼帯20を横断していることから、鋼帯20に対し、幅方向Wに沿って圧力及び流量が略均一なワイピングガスG(ガス流)を吹き付ける。このガス流は、鋼帯20の表面及び裏面に付着した溶融亜鉛Mを走行方向に沿って下方へ押し下げるように作用する。これにより、図2に示されるように、鋼帯20におけるノズル口32が対向する領域付近(ガスワイピング領域)では、鋼帯20の移動に従って、鋼帯20の表面及び裏面にそれぞれ付着した溶融亜鉛Mの一部がワイピングガスGにより下方へ払拭され、ガスワイピング領域の下端付近から上端側へ向かって溶融亜鉛Mの単位面積当たりの付着量が序々に減少し、その厚さ(付着厚)も序々に薄くなる。
ガスワイピング領域を通過した鋼帯20は、溶融亜鉛Mの単位面積当たりの付着量が予め設定された目付け量と一致する。この鋼帯20の表面及び裏面には、溶融亜鉛Mの凝固完了後に、それぞれ厚さが精度良く均一化された亜鉛めっき層が形成される。
【0032】
以上説明した溶融亜鉛めっき設備10では、めっき浴14とガスワイピング装置24との間に配置された電磁ワイピング装置22がめっき浴14中から引き上げられる鋼帯20に電磁力Fを作用させ、この電磁力Fにより鋼帯20から余剰な溶融亜鉛Mを払拭することにより、ガスワイピング装置24のワイピングガスGにより鋼帯20に付着した溶融亜鉛Mを最終的に払拭し、付着量を最終調整する前に、鋼帯20における溶融亜鉛Mを目標とする付着量(目付け量)に近づけておくことができるので、ガスワイピングノズル30から吹き付けられるワイピングガスGにより最終的に鋼帯20から払拭すべき溶融亜鉛Mの量(払拭量)を減少できる。
【0033】
この結果、溶融亜鉛めっき設備10によれば、上記のような電磁ワイピング装置22がない従来の溶融金属めっき設備と比較し、鋼帯20の走行速度が同一であるならば、ガスワイピングノズル30により鋼帯20に吹き付けるワイピングガスGの適正な圧力又は流量を相対的に低減できる。したがって、鋼帯20を高速で走行させる際に、電磁ヘッド26からの電磁力Fにより鋼帯20から余剰な溶融亜鉛Mを十分に払拭しておけば、ガスワイピングノズル30が鋼帯20に吹き付けるワイピングガスGの圧力又は流量を十分に小さいものとし、ワイピングガスG(ガス流)により鋼帯20が厚さ方向Tに沿ってバタついて、めっき厚が周期的に変動することを防止でき、さらに鋼帯20から溶融亜鉛Mが飛散し、これが鋼帯20に再付着することも防止できる。
【0034】
また溶融亜鉛めっき設備10では、電磁ヘッド26からの電磁力Fにより鋼帯20から余剰な溶融亜鉛Mの一部を払拭すればよいので、電磁ワイピング装置22単体で鋼帯20から余剰な溶融亜鉛Mの全てを払拭する必要がある場合と比較し、電磁ワイピング装置22及び、その電源装置として低出力のものを用いることができ、かつ電磁力F及び電磁力Fによる鋼帯20の加熱も効果的に抑制できる。従って、鋼帯20が加熱されることにより生じる鋼帯20と亜鉛めっき層34との界面付近で生じる合金化も効果的に抑制できる。
【0035】
また溶融亜鉛めっき設備10では、磁界発生用コイル36のコイル素線38を、幅方向W及び走行方向Rにより規定される仮想平面へ投影した場合、仮想平面内で幅方向Wに沿って鋼帯20を横断すると共に、水平方向に対して所定の傾斜角θだけ傾くように配置した。これにより、ガスワイピングノズル30からのワイピングガスG(ガス流)により鋼帯20から払拭された溶融亜鉛Mが飛沫となって電磁ヘッド26上に飛散した場合でも、この溶融亜鉛Mの飛沫に対して電磁力Fを反発力として作用させることができると共に、この飛沫に対して反発力として作用する電磁力F自体を水平方向に対して傾いたものにできる。
【0036】
この結果、電磁ヘッド26が発生する電磁力Fの一部を溶融亜鉛Mの飛沫に対して上方への反発力として作用させると共に、この電磁力Fの水平方向に沿った分力(残りの一部)を溶融亜鉛Mの飛沫に作用させることより、磁界発生用コイル36の上方で溶融亜鉛Mの飛沫を水平方向へ移動させて、溶融亜鉛Mの飛沫が電磁ヘッド26及び鋼帯20に付着することを阻止できると共に、溶融亜鉛Mの飛沫を電磁ヘッド26の側方(水平方向外側)へ排出できる。
【0037】
ここで、傾斜角θの下限値は、電磁力Fの水平方向の分力により溶融亜鉛Mの飛沫が電磁ヘッド26の上方で移動し得る最小角度である臨界角に応じて決められた値である。すなわち、溶融亜鉛Mの飛沫には、電磁ヘッド26の上側では電磁力Fの垂直方向の分力が作用する。従って、電磁力Fの垂直方向分力に対し、溶融亜鉛Mの飛沫質量が十分に小さいものであれば、この溶融亜鉛Mの飛沫は、電磁力Fによって電磁ヘッド26上では浮遊(磁気浮上)した状態になる。このとき、水平方向へ移動しようとする溶融亜鉛Mの飛沫に作用する抵抗力は空気抵抗のみとなるため、推進力となる電磁力Fの水平方向分力は、溶融亜鉛Mの飛沫に作用する空気抵抗よりも大きいものであれば良い。
【0038】
従って、傾斜角θの下限値を理論的に決定しようとした場合には、溶融亜鉛Mの飛沫質量、電磁力Fの強度及び飛沫に作用する空気抵抗をそれぞれパラメータとする関数式を求める必要があるが、現実的には、溶融亜鉛Mの飛沫を磁気浮上可能とする電磁力Fの強度を、理論的又は実験的に求めることができれば、溶融亜鉛Mに作用する空気抵抗は電磁力Fに対して十分に小さいものであるので、傾斜角θの下限値を十分に小さい値に設定しても、溶融亜鉛Mの飛沫を電磁ヘッド26の水平方向外側へ排出可能になる。また、このような傾斜角θの下限値は実験的にも容易に求めることができる。
【0039】
また傾斜角θの上限値は、電磁力Fの水平方向に沿った分力により鋼帯20上の溶融亜鉛Mが水平方向へ実質的に移動(流動)しないように設定すれば良く、これについては、電磁力Fの強度を一定とした条件下にて、傾斜角θを変化させつつ、めっき厚の幅方向に沿った偏差を測定し、この偏差の測定値と許容値とを比較することにより、求めることが可能である。
【0040】
また、上記構成の溶融亜鉛めっき設備10で行われる本実施形態に係るめっき鋼帯の製造方法では、ガスワイピング工程を行う前に、電磁ヘッド26がめっき浴14中から引き上げられる鋼帯20に電磁力Fを作用させ、この電磁力Fにより鋼帯20から余剰な溶融亜鉛Mを払拭することにより、ガスワイピングノズル30からのワイピングガスGにより鋼帯20に付着した溶融亜鉛Mを最終的に調整する前に、鋼帯20における溶融亜鉛Mを目標とする付着量に近づけておくことができるので、ガスワイピングノズル30からのワイピングガスG(ガス流)により鋼帯20から払拭すべき溶融亜鉛Mの量を減少できる。
【0041】
この結果、本実施形態に係るめっき鋼帯の製造方法によれば、上記のような電磁ワイピング工程が行われない従来の溶融めっき鋼帯の製造方法と比較し、鋼帯20の走行速度が同一であるならば、ガスワイピングノズル30により鋼帯20に吹き付けるワイピングガスGの適正な圧力又は流量を相対的に低減できる。したがって、鋼帯20を高速で走行させる際には、電磁ヘッド26からの電磁力Fにより鋼帯20から余剰な溶融亜鉛Mを十分に払拭しておけば、ガスワイピングノズル30が鋼帯20に吹き付けるワイピングガスGの圧力又は流量を十分に小さいものとし、ワイピングガスGにより鋼帯20が厚さ方向に沿ってバタついて、めっき厚が周期的に変動することを防止でき、さらにワイピングガスGにより鋼帯20から溶融亜鉛Mが飛散し、これが鋼帯20に再付着することを防止できる。
【0042】
また本実施形態に係るめっき鋼帯の製造方法では、電磁ワイピング工程にて、電磁ヘッド26からの電磁力Fにより鋼帯20から余剰な溶融亜鉛Mの一部を払拭すればよいので、電磁ワイピング装置単体で鋼帯20から余剰な溶融亜鉛Mの全てを払拭する必要がある場合と比較し、電磁ワイピング装置22及び、その電源装置として低出力のものを用いることができ、かつ電磁力による鋼帯20の加熱も効果的に抑制できる。
【0043】
なお、本実施形態に係る溶融亜鉛めっき設備10では、電磁ヘッド26として鋼帯20が挿通する中空部27を有する環状のものを1個のみ用いていたが、図4に示されるように、電磁ヘッド40として肉厚プレート状のものを2個用いて、この電磁ヘッド40をそれぞれ鋼帯20の表面及び裏面に対向するように配置しても良い。この場合にも、電磁ヘッド26と同様に、2個の電磁ヘッド40及び、電磁ヘッド40に埋設された磁界発生用コイル42がそれぞれ水平方向に対して所定の傾斜角θだけ傾くように配置される。
【0044】
磁界発生用コイル42は、図4(A)に示されるように、電磁ヘッド40の長手方向Lを長軸方向とする略長円状に形成されており、コイル素線44が略長円状に巻回されることにより構成されている。このコイル素線44は、その長手方向Lに沿った部分が幅方向W及び走行方向Rにより規定される仮想平面へ投影した場合、この仮想平面内で幅方向Wに沿って鋼帯20を横断すると共に、水平方向に対して所定の傾斜角θだけ傾くように配置されている。そして、本実施形態に係る溶融亜鉛めっき設備10では、電磁ヘッド26に代えて電磁ヘッド40を用いることによっても、電磁ヘッド26を用いた場合と同様の作用及び効果を得られる。
【0045】
なお、本実施形態に係る溶融亜鉛めっき設備10及びめっき鋼帯の製造方法では、めっき浴14とガスワイピング装置24との間に、1台の電磁ワイピング装置22のみを配置した場合のみを説明したが、めっき浴14とガスワイピング装置24との間に、2台以上の電磁ワイピング装置22を配置し、これらの電磁ワイピング装置22により鋼帯20から段階的に余剰な溶融亜鉛Mを払拭するようにしても良い。
【実施例】
【0046】
次に、以上説明した本実施形態に係る溶融亜鉛めっき設備10及びめっき鋼帯の製造方法を用いて、鋼帯20に溶融亜鉛Mのめっき層を形成して、溶融亜鉛めっき鋼帯を製造する具体的な条件の一例を実施例として説明する。
本実施例では、鋼帯20として、板厚0.8mm、板幅1000mmの鋼帯を用い、この鋼帯20を230m/分の速度で走行させつつ、めっき浴14から引き上げられた鋼帯20に環状の電磁ヘッド20により電磁力F及び電磁力Fを作用させた後、ガスワイピング装置24のガスワイピングノズル30から噴射されたワイピングガスGを鋼帯20の表裏面にそれぞれ吹き付けた。
【0047】
このとき、鋼帯20の表裏面から電磁ヘッド26の内周面までの距離は5mmとした。電磁ヘッド26として出力は2Mwのものを用い、電源装置により供給される電流の周波数は25kHzに設定した。
またワイピングガスGとしては大気を用い、鋼帯20の表面及び裏面からガスワイピングノズル30までの距離はそれぞれ8mmとした。このガスワイピングノズル30のノズル口32からは、ワイピングガスGを、圧力が80kPaとなるように噴射した。
上記のような条件にて、鋼帯20に対して連続めっきを行った結果、亜鉛めっき層の層厚が十分に均一化された高品質の亜鉛めっき鋼板が得られた。また、鋼帯20とめっき層との界面付近にも、問題となるような合金化が生じなかった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】(A)は本発明の実施形態に係る溶融亜鉛めっき設備の構成を示す側面断面図、(B)は(A)に示される溶融亜鉛めっき設備の正面図である。
【図2】図1に示される溶融亜鉛めっき設備における電磁ワイピング装置及びガスワイピング装置の構成を拡大して示す側面図である。
【図3】図1に示される溶融亜鉛めっき設備における電磁ワイピング装置の構成を示す平面断面及び側面断面図である。
【図4】図1に示される溶融亜鉛めっき設備における電磁ワイピング装置の変形例に係る構成を示す平面断面及び側面断面図である。
【符号の説明】
【0049】
10 溶融亜鉛めっき設備
12 ポット
14 めっき浴
16 ポットロール
18 サポートロール
20 鋼帯
22 電磁ワイピング装置
24 ガスワイピング装置
26 電磁ヘッド
27 中空部
30 ガスワイピングノズル
32 ノズル口
36 磁界発生用コイル
38 コイル素線
40 電磁ヘッド
42 磁界発生用コイル
44 コイル素線
G ワイピングガス
M 溶融亜鉛

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に浸入する鋼帯にめっき用溶融金属を付着させるめっき浴と、
前記めっき浴中から連続的に引き上げられる鋼帯にガスを吹き付け、ガス流により鋼帯に付着した溶融金属を払拭して、鋼帯における溶融金属の付着量を調整するガスワイピング装置と、
鋼帯のパスラインに沿って前記めっき浴と前記ガスワイピング装置との間に配置され、前記めっき浴中から引き上げられる鋼帯に付着した溶融金属に電磁力を作用させ、該電磁力により鋼帯から余剰な溶融金属を払拭する電磁ワイピング装置と、
を有することを特徴とする溶融金属めっき設備。
【請求項2】
前記電磁ワイピング装置は、コイル素線が巻回されて構成された磁界発生用コイルを備え、
前記磁界発生用コイルを鋼帯の厚さ方向外側に配置し、
かつ前記コイル素線を、鋼帯の幅方向及び走行方向により規定される仮想平面へ投影した場合、前記仮想平面内で前記幅方向に沿って鋼帯を横断すると共に、水平方向に対して傾くように配置したことを特徴とする請求項1記載の溶融金属めっき設備。
【請求項3】
鋼帯を連続的にめっき浴中に浸入させて、該鋼帯にめっき用溶融金属を付着させるめっき付着工程と、
めっき浴中から連続的に引き上げられた鋼帯にガスワイピング装置によりガスを吹き付け、ガス流により鋼帯に付着した溶融金属を払拭して、鋼帯における溶融金属の付着量を調整するガスワイピング工程と、
ガスワイピング工程を行う前に、前記めっき浴中から引き上げられた鋼帯に電磁ワイピング装置により電磁力を作用させて、鋼帯から余剰な溶融金属を払拭する電磁ワイピング工程と、
を有することを特徴とする溶融めっき鋼帯の製造方法。
【請求項4】
前記電磁ワイピング装置は、コイル素線が巻回されて構成された磁界発生用コイルを備え、
前記磁界発生用コイルを、鋼帯の厚さ方向外側に配置し、
かつ前記コイル素線を、鋼帯の幅方向及び走行方向により規定される仮想平面へ投影した場合、前記仮想平面内で前記幅方向に沿って鋼帯を横断すると共に、水平方向に対して傾くように配置したことを特徴とする請求項3記載の溶融めっき鋼帯の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−167473(P2009−167473A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7280(P2008−7280)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】