説明

溶融金属吐出装置

【課題】 構造が小型、簡単で高速移動ができ、従って生産効率が高く、しかもメンテナンス頻度が極めて少なく、維持が容易で安価に得ることができる溶融金属吐出装置の提供を目的とする。
【解決手段】 溶融金属吐出装置は、第1の開口が下端に設けられ、第2の開口が第1の開口よりも上側に設けられているシリンジ筒と、シリンジ筒の第2の開口に挿入され、往復運動するピストンと、ピストンが挿入されたシリンジ筒を昇温する第1の加熱装置と、シリンジ筒の第1の開口と対向し、接合金属が収容される貯留槽と、貯留槽を昇温する第2の加熱装置とを備えている。ピストンの外周またはシリンジ筒の内周に溝部が設けられていて、溝部の全周に貯留槽に収容された接合金属と同じ成分の接合金属が配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶融半田などの溶融金属を吸引し、吸引した溶融金属を塗布対象物に所定量吐出する場合に好ましく用いられる溶融金属吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属と金属、半導体素子とセラミック基板、或いはセラミック基板とベース基板などの接合に、半田等のろう材が用いられている。接合部分には空気が介在しないこと、また接合境界面に酸化物層が生成されていないことが望ましい。良好な接合品質を得るため、接合に溶融半田などの溶融金属が使用されることが多い。
【0003】
具体例として、特許文献1が開示する半田ボール形成装置は、溶融半田を貯留する半田貯留部、溶融半田の温度を所定の範囲に保持するヒータ、溶融半田や圧縮非酸化性ガスの連通路、溶融半田を吐出するオリフィス、半田貯留部へ圧縮非酸化性ガスの供給を制御する切替弁、溶融半田直上の圧縮非酸化性ガスの圧力を所定圧力に維持する排気通路と放出弁から構成されている。切替弁の弁体は、ピエゾアクチュエータにより駆動される。切替弁に電磁弁を用いることもできる。圧縮非酸化性ガスを半田貯留部に供給すると、半田貯留部内の溶融半田が押し出される。
【0004】
他の具体例には、特許文献2に記載されている注射器状器具にて溶融半田を吐出する装置、および特許文献3に記載されているシリンジ内の溶融はんだをプランジャーにより圧送する装置がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−77141号公報(第1頁、図1)
【特許文献2】特開2009−178639号公報(第1頁、図1)
【特許文献3】特開平10−137930号公報(第1頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている半田ボール形成装置は、半田貯留部や半田を吐出するための多くの部品(各種弁・アクチュエータ)を有しており、大型でかつ高価となる。半田は微少の酸素でも酸化膜が発生し、溶融半田の各経路への付着と壁面への堆積が生じる。酸化膜を定期的に清掃しなければ、酸化膜の経路への詰まり、吐出した半田への酸化膜の混入により、接合する際に品質劣化が生じる。これを回避するには、経路を構成する部材の交換、もしくは清掃が必要となる。交換の場合、多大な費用を要し、清掃をする場合には、多大な時間を要する。また製造上、塗布したい位置へ半田塗布機構を移動させることが生じる。この装置は大型で高速移動に適していないため、生産効率が高くない。
【0007】
特許文献2が開示する溶融半田吐出装置は、吸入した溶融金属を目的物に吐出するノズルを有する溶融金属保持容器と、この溶融金属保持容器に収容された溶融金属を所定の温度に保持する加熱装置と、溶融金属保持容器内の圧力を制御することにより溶融金属をノズルから吸入させる、または吐出させる圧力制御部品と、圧力制御部品に係わる耐熱シールを備えたものである。この耐熱シールには、摺動性と耐熱性を両立した、テフロン(登録商標)のようなフッ素樹脂を主成分とする材料が好ましく用いられている。しかし、圧力制御部品に取付けられた耐熱シールは、溶融金属保持容器の内部を摺動するため、長期間使用するといくら摺動性がよくても磨耗する。結果、溶融金属保持容器は気密を維持できず、溶融金属の吐出量がばらついたりする。さらに磨滅した際には溶融金属が吸引・吐出できなくなる。耐熱シールは、フッ素樹脂を主成分とする材料であれば、おおよそ300℃程度の耐熱が限界で、それ以上の高温の溶融金属には使用できない。
【0008】
特許文献3の半田吐出装置は、半田が溶融状態で充填貯蔵されたシリンジ、シリンジ内の溶融半田を圧送するプランジャー、プランジャーを駆動・制御する機器から構成されている。この構成では、大量の半田を塗布しようとすると、シリンジを大型にする必要がある。大型化した装置は高速移動には適さないので、シリンジを小型化すると頻繁にシリンジ内に半田を供給する必要があり生産効率が低下する。さらに定期的な清掃も、部品点数が多いため時間を要する。一方、プランジャーとシリンジをシールする材料には、グラファイト、またはグラファイトにボロンナイトライドを添加した材料を用いている。シールは、半田の成分と異なる成分で構成されているにも関わらず、半田と接する構造となっている。塗布作業を繰返すことでシール成分が半田に混入するので、接合品質の低下の要因となる。
【0009】
この発明は、上記のような従来技術の課題を解決するためになされたものである。すなわち、構造が小型、簡単で高速移動ができ、従って生産効率が高く、しかもメンテナンス頻度が極めて少なく、維持が容易で安価に得ることができる溶融金属吐出装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願に係わる溶融金属吐出装置は、第1の開口が下端に設けられ、第2の開口が第1の開口よりも上側に設けられているシリンジ筒と、シリンジ筒の第2の開口に挿入され、往復運動するピストンと、ピストンが挿入されたシリンジ筒を昇温する第1の加熱装置と、シリンジ筒の第1の開口と対向し、接合金属が収容される貯留槽と、貯留槽を昇温する第2の加熱装置とを備えている。ピストンの外周またはシリンジ筒の内周に溝部が設けられていて、溝部の全周に貯留槽に収容された接合金属と同じ成分の接合金属が配設されている。ピストンの外周またはシリンジ筒の内周に溝部が設けられていて、溝部の全周に貯留槽に収容された接合金属と同じ成分の接合金属が配設されている。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、溶融金属の吸入口と吐出口を同一のノズルにした溶融金属保持容器を用い、溶融金属を貯留する貯留槽と、溶融金属を吐出する部分とを別に構成したことにより、吐出機構部を小型で簡素にできる。従って高速移動が容易で生産効率を高めることができる。また、小型で構造が簡単であることにより、安価でありメンテナンスも容易である。
【0012】
溶融金属保持容器内の圧力を制御する圧力制御部品には、吸引、吐出する溶融金属と同じ成分で構成された溶融金属シールを用いている。溶融金属を溶融金属保持容器に吸入し、目的物へ吐出する動作を繰返すことによるシールの磨耗や熱による損傷が減少するので、メンテナンスが容易となり、安価で生産効率がよい装置が得られる。さらに、高温の溶融金属が扱えることで、異なった融点の接合材の選択肢が拡がり、さらなる高度な接合が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施の形態1に係わる溶融金属吐出装置の要部を模式的に示す断面図である。
【図2】実施の形態1に係わる図で、第1の形態を有する溝部が形成されたピストンを示す図(a)と、溝部に金属シールが巻き回された状態を示す図(b)と、ピストンがシリンジ筒に挿入された状態を示す断面図(c)と、シリンジ筒の中で金属シールが溶融している状態を示す断面図(d)である。
【図3】実施の形態2に係わる図で、溝部の第2の形態を示す断面図(a)と、溝部の第3の形態を示す断面図(b)である。
【図4】実施の形態3に係わり、シリンジ筒の先端形状を説明する図で、ノズルの第1の形態を示す図(a)と、ノズルの第2の形態を示す図(b)と、ノズルの第3の形態を示す図(c)と、ノズルの第4の形態を示す図(d)である。
【図5】実施の形態4に係わる図で、先端にピンが形成されているピストンを説明する図である。
【図6】実施の形態5に係わる図で、シリンジ筒の内周に設けられている溝部を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1に基づいて実施の形態1を説明する。図1は、溶融金属吐出装置の概略的な構成を示している。溶融金属吐出装置8は貯留槽1、貯留ヒータ3、雰囲気炉6、吐出機構部7、移動機構部14から構成されている。なお、以下、各図を通じて同一符号は同一もしくは相当部分を示すものとする。
【0015】
貯留槽1はろう材等の接合金属を溶融状態で収容する。貯留槽1の内底部には、収容された接合金属を溶融状態に保持するための貯留ヒータ3が設置されている。シリンジ保温ヒータ4は、シリンジ5の周囲を囲む円筒状のヒータ内蔵ブロックからなる。シリンジ5は、ピストン(圧力制御部品)5aとシリンジ筒5bから構成されていて、貯留槽1に対して別設されている。円柱状のピストン5aは途中に溝部5hが形成されている。シリンジ筒5bの底部にはシリンジ筒の本体よりも小径であるノズル5cが形成されている。ノズル5cは貯留槽1に対向している。
【0016】
シリンジ保温ヒータ4は、温度センサを含む温度制御装置12によってシリンジ5を所定の温度範囲内に制御する。シリンジ保温ヒータ4と温度制御装置12が第1の加熱装置を構成する。貯留ヒータ3は、温度制御装置11によって溶融金属2を所定の温度範囲内に制御する。貯留ヒータ3と温度制御装置11が第2の加熱装置を構成する。シリンジ保温ヒータ4の代わりに、放射、誘導加熱、対流熱伝達などの手段によってシリンジ5を加熱するようにしてもよい。シリンジ保温ヒータ4とシリンジ5とアクチュエータ10は吐出機構部7を構成している。
【0017】
ピストン5aはシリンジ筒5bと協働してシリンジ5の内部圧力を制御する。シリンジ5は、溶融金属2をノズル5cから吸入し、または吐出する。シリンジ内の溶融金属5dは塗布対象物の目的個所に吐出される。アクチュエータ10はピストン5aをシリンジ筒5bとは独立して図の矢印の方向(上下)に往復移動させる。移動機構部14は吐出機構部7を、例えば、互いに直交するX、Y、Zの3軸方向に任意に移動制御する。
【0018】
雰囲気炉6は、貯留槽1、吐出機構部7、移動機構部14およびセラミック基板などの塗布対象物を囲んでいる。雰囲気炉6の内部は例えば窒素、アルゴン等の不活性ガス、または水素等の還元性ガス、またはそれらの混合ガスで満たされている。なお、本願では便宜上これらを「非酸化性ガス」と呼ぶ。雰囲気炉6は、貯留槽1を低酸素雰囲気にして、溶融金属2の酸化を抑制する。
【0019】
溶融金属2の材料は、特に限定されるものではない。一例を挙げれば、接合用のろう材として好ましく用いることができるものとして、Sn、Pb、Zn、Ga、In、Bi、Au、Ag、Cu、またはこれらを主成分とする混合物、あるいはこれらの1種類以上を含む合金類を挙げることができる。シリンジ5の材質は、例えば溶融金属2がSn、またはPbを主成分とする半田の場合、ガラス、ステンレス、セラミクスなどを好ましく用いることができる。
【0020】
これらの材質の組み合わせを用いた場合にはピストン5aとシリンジ筒5bに半田が付着し難い。溶融した半田はノズル5cに残ることなく、塗布対象物へすべて塗布される。シリンジ5として、例えばガラスなどの熱を伝え難い材料を用いた場合には、シリンジ5にシリンジ保温ヒータ4を直接取り付けて加熱し、シリンジ内の溶融金属5dを溶融状態に効率よく維持できる。
【0021】
シリンジ5の構造についてより具体的に説明する。シリンジ筒5bには2箇所の開口があり、上側の開口からピストンが挿入され、下側の開口(ノズル)から溶融金属を吸入および吐出する。ピストン5aの外周径はシリンジ筒5bの内径よりも小さいので、両者の間には隙間が存在する。隙間の大きさは、ピストン5aがシリンジ筒5bをスムーズに往復運動できるように設定されている。シリンジ5の気密は、溶融金属シール5eにより保たれる。溶融金属シール5eはピストン5aの溝部5hに溶融状態で収納され、ピストン5aの上下移動とともに、溶融金属シール5eも移動する。溶融金属シール5eは、対象物に吐出するシリンジ内の溶融金属5dと同じ材質の金属を用い、上記のとおり、ピストン5aの溝部5hに溶融状態で収納する。
【0022】
ピストン5aとシリンジ筒5bの材質を同じにすることにより、ピストン5aとシリンジ筒5bの隙間はシリンジ5を加熱した場合でも同程度の隙間に維持できる。この隙間は、シリンジ筒5bの内径に対し、ピストン5aの直径を0.05〜0.1mm程度小さくすることが望ましい。この寸法関係にすることで、溶融金属2で形成された溶融金属シール5eも溝部5hに安定的に収まり、シリンジ5の気密を安定的に保持することが可能である。仮にこの隙間に溶融金属の酸化膜が入り込んだとしても、酸化膜は脆いため、ピストン5aの摺動抵抗は大きな影響を受けない。ただし、隙間がこれより小さいと、酸化膜が隙間に噛み込み摺動抵抗が大きくなる。
【0023】
溶融金属シール5eの形成方法を図2に基づいて説明する。図2(a)はシリンジ5のピストン5aを示していて、ピストン5aには溝部5hが加工されている。図2(b)は、溝部5hにワイヤー状の金属9を巻いた状態を示している。ワイヤー状の金属9は溶融金属2と同じ成分からなる接合用のろう材(接合金属)を線状に加工したものである。図2(c)はピストン5aをシリンジ筒5bに挿入した状態を表している。シリンジ保温ヒータ4でワイヤー状の金属9の融点以上に加熱すると、図2(d)のように溶融金属シール5eが形成される。図2ではワイヤー状の金属9をピストン5aに巻くことで溶融金属シール5eを形成する例を示したが、金属9はリボン状でもよい。
【0024】
次に、上記のように構成された実施の形態1の動作について説明する。まず、雰囲気炉6及びシリンジ5の内部を予め窒素ガスなどの非酸化性ガスで充満させておく。貯留槽1にはろう材としての溶融金属2が貯留され、貯留ヒータ3で溶融金属2は所定温度に保持されている。シリンジ5は、シリンジ保温ヒータ4により接合金属の融点以上の温度に加熱されている。ピストン5aの溝部5hの温度は、接合金属の融点以上に上がるので、接合金属は溶融状態で収納されている。ピストン5aはシリンジ筒5bの底部にまで押し込まれた状態にある。
【0025】
次に、移動機構部14によりシリンジ5のノズル5cを貯留槽1に貯留されている溶融金属2に浸す。アクチュエータ10によりピストン5aを上昇させると、シリンジ5の内部が減圧され、ノズル5cを通りシリンジ5に溶融金属2が吸入される。その後、移動機構部14によりシリンジ5を上昇させ、塗布対象物の目的位置にシリンジ5を移動する。アクチュエータ10によりピストン5aを所定量下降させると、ノズル5cから溶融金属2が塗布対象物の目的位置に所定量塗布される。
【0026】
溶融金属2を吸引する量は、溶融金属2を塗布する対象物に必要な量程度吸引すればよい。吸引量は、シリンジ5に設けられたピストン5aを上昇するストロークの長さで増減し、塗布量も、シリンジ5のピストン5aを下降するストロークの長さで増減できる。多点塗布する場合は、予め多点塗布するのに必要な合計量の溶融金属2を吸引しておく。塗布位置の始点にシリンジ5を移動させ、ピストン5aを所要ストローク下降させ、始発位置で先ず塗布する。さらに次の塗布位置へシリンジ5を移動させ、ピストン5aを所要ストローク下降させて塗布する。この動作を順次繰返すことで多点塗布は容易に実施できる。上記一連の動作を自動制御によって行わせることは容易である。
【0027】
上記のようにこの実施の形態1によれば、溶融金属2の貯留槽1と、吐出機構部7を別体で構成し、溶融金属2を補給する吸入口と塗布する吐出口を同一のノズル5cとした。シリンジ5の内部圧力は、ピストン5aを上方に引くことにより、外部の圧力よりも低下する。シリンジ5は溶融金属2をノズル5cから吸引して内部空間に保留し、該内部空間の圧力を上昇させることでシリンジ内の溶融金属5dを塗布対象物に吐出する。このように、本願に係る溶融金属吐出装置は構成が簡単であり、安価に提供することができる。
【0028】
また、溶融金属2の貯留槽1は、吐出機構部7とは別に配置されるため、吐出機構部7をコンパクトで軽量に構成することができる。該吐出機構部7は高速に移動するので、生産性の高い処理が可能となる。さらに溶融金属2を非酸化性雰囲気下で任意の位置に、任意の量を塗布できることで、高品質な接合を得ることができる。
【0029】
また、ピストン5aや、溶融金属2と接触する面を、該溶融金属と化学反応を生じない材質、例えば不動体化した酸化膜を持つ金属またはセラミクスあるいはガラスなどで構成した場合には、余計な成分が混入しないため、吸引したときと同様の成分状態で塗布することができ、接合品質の劣化を防止できる。
【0030】
また、溶融金属2が接触する気体を、非酸化性ガスとしたことにより、溶融金属2の表面の酸化が防止できる。溶融金属2の表面が酸化すると、ノズル5cからその酸化膜も吐出されるので、接合しようとする2部品の間に混入し、接合品質が劣化する。これに対して、この実施の形態1では、上記構成によりそのような懸念がなく高品質な接合が得られる。さらに、ピストン5aとシリンジ筒5bを同一の材質とした場合には、シリンジ保温ヒータ4で加熱しても、ピストン5aとシリンジ筒5bの隙間が保たれるので、気密の確保が図られる。ピストン5aの動きやすさに変化はないので、溶融金属2の吐出量も高精度に制御することができる。
【0031】
また、吸引、吐出動作を繰返すと、シリンジ5の内部を溶融金属シール5eが摺動する。溶融金属シール5eは、溶融状態の金属であるため磨耗による劣化がなく、またシール面に合わせて自由に形状を変えることができる。吐出機構部7は長期間に渡り、溶融金属を安定的に吐出することが可能になり、メンテナンスが不要な状態で効率よく部品を生産することが可能になる。仮に溶融金属シール5eの一部が落下して吐出する溶融金属2に混入したとしても、部品の接合品質に悪影響を与えることはない。
【0032】
実施の形態2.
実施の形態2を図3に基づいて説明する。図3は、ピストン5aに加工されている溝部の形態を2例示している。溝部5hの変化に伴い溶融金属シール5eの形状も異なっている。図3(a)では実施の形態1よりも溶融金属シール5eの長さを長くしている。これにより溶融金属シール5eが酸化によりシールを形成している溶融金属が減ってもシール性が長期間維持できるようになる。図3(b)では、溝部5hと溶融金属シール5eを3個設置している。これも、図3(a)同様、シール性を長期間維持できるようにしたものであり、複数に分かれてシールを形成していることにより、シール性を維持している。
【0033】
要はシリンジ5の気密が、溶融金属2と同じ材料で維持されていれば、溶融金属シール5eの形はどんな形状でも問題ない。図3(b)では溶融金属シール5eを3個設置した例を記載したが、これより増減しても問題ない。また、溶融金属2を吸引し、シリンジ筒5bの内で、溶融金属2と溶融金属シール5eが繋がっていても問題ない。
【0034】
実施の形態3.
実施の形態3を図4に基づいて説明する。シリンジ筒5bの底部5iにはノズル5cが設けられていて、シリンジ内には溶融金属が蓄えられている。図4(a)〜図4(d)はノズル5cの形状における4種類の形態を示す。図4(a)のように、シリンジ筒5bの本体の内径より、ノズル5cの内径を小さくすることにより、塗布量の精度を向上することができる。以下にその説明をする。
【0035】
溶融金属2を対象物に吐出する際、対象物に吐出される溶融金属2とシリンジ内の溶融金属5dは繋がった状態にある。アクチュエータ10を上昇させることで、ノズル5cも上昇し、吐出された溶融金属2とシリンジ内の溶融金属5dは切り離される。この時、溶融金属2の切れる位置により、対象物に塗布される溶融金属2の質量は増減する。つまり、切れる位置を常に一定位置で切れば、溶融金属2の塗布量を精度よく管理できる。
【0036】
これを実現するのが図4(a)の例で、ノズル5cの内径を、シリンジ筒5bの内径より小さくしている。溶融金属2は必ずノズル5cの内径が小さくなった部分で切れるようになり、塗布精度が向上する。図4(b)では、ノズルの出口5jはノズルの付け根(シリンジ筒の底部5iからノズルが始まる部分)よりも細くなっている。ノズル5cの内径を先端に行くほど小さくすれば、吐出後の溶融金属2の切り離される位置が、必ず図4(b)のノズル5cの先端部であるため、さらに塗布精度が向上する。
【0037】
図4(c)では、ノズルとシリンジ筒本体との区別が明確ではなく、シリンジ筒の先端が徐々に口すぼまりになっている。このようにシリンジ筒5bの内径を、ノズル5cの先端にかけて徐々に小さくなるようにすることでも同様に塗布精度が向上する。一方、溶融金属2の塗布精度が気にならない場合は、図4(d)のように、シリンジ筒5bとノズル5cの内径を同じにしてもよい。なお、シリンジ筒5bよりノズル5cの内径を大きくすることも考えられる。
【0038】
実施の形態4.
実施の形態4を図5に基づいて説明する。雰囲気炉6の中を低酸素な濃度に保持すればするほど、コストが高くなる。そこで、酸素濃度を若干高くして、酸化膜の発生が多くなっても安定的に溶融金属2を吸引・吐出できるようにしたものが図5に示す構成である。ピストン5aの先端にノズル5cの内径よりも小径のピン5gを設けている。ピン5gは酸化膜が堆積しやすいノズル5cの詰まりを防止するものである。酸化膜はシリンジ筒5bの内部にも堆積するが、溶融金属シール5eは、溶融状態であるため酸化膜の凸凹にも溶融金属シール5eが自由に形を変えて添うためシール性が劣化せず、シリンジ筒5bの内部気密を保持することが可能である。
【0039】
ここで、雰囲気炉6の中を低酸素濃度に保持することがコスト高となり、図5のようにピストン5aの先端にピン5gを設けることで安定的に溶融金属2を吸引・吐出させることができる点において、溶融金属シール5eも酸化により徐々に酸化膜に変化し、溶融金属シール5eが減ってくる。そこで図3のようなシール形状と図5のピン5gを併用することにより、シール性を長期間維持できる。
【0040】
実施の形態5.
実施の形態5を図6に基づいて説明する。図6は、溝部5hがシリンジ筒5bの内周側に設けられていて、溶融金属シール5eがシリンジ筒5bの挿入口でピストン5aの外周と接していることを示している。ピストン5aが細すぎて、ピストン5aに溶融金属シール5eを形成し難い場合に適している。
【0041】
なお、上記各実施の形態の説明では、溶融金属2をシリンジ5のノズル5cから吐出する際に、目的物を塗布対象物として塗布する場合を例に説明したが、必ずしも塗布のみに限定されるものではない。例えば、目的物に滴下したり、付着させたりすることも可能である。例示した溶融金属2の種類、シリンジ5の形状や材質、圧力制御装置(ピストン)の構成などは、何れもこの発明を実施するための一例に過ぎず、その他の変形や変更が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0042】
1 貯留槽、 2 溶融金属、 3 貯留ヒータ、 4 シリンジ保温ヒータ、 5 シリンジ、 5a ピストン、 5b シリンジ筒、 5c ノズル、 5d シリンジ内の溶融金属、 5e 溶融金属シール、 5g ピン、 5h 溝部、 5i シリンジ筒の底部、 5j ノズルの出口、 6 雰囲気炉、 7 吐出機構部、8 溶融金属吐出装置、 9 ワイヤー状の金属、 10 アクチュエータ、 14 移動機構部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の開口が下端に設けられ、第2の開口が第1の開口よりも上部に設けられているシリンジ筒と、前記シリンジ筒の第2の開口に挿入され、往復運動するピストンと、前記ピストンが挿入された前記シリンジ筒を昇温する第1の加熱装置と、前記シリンジ筒の第1の開口と対向し、接合金属が収容される貯留槽と、前記貯留槽を昇温する第2の加熱装置とを備えた溶融金属吐出装置において、
前記ピストンの外周または前記シリンジ筒の内周に溝部が設けられていて、前記溝部の全周に前記貯留槽に収容された接合金属と同じ成分の接合金属が配設されていることを特徴とする溶融金属吐出装置。
【請求項2】
溝部の全周に配設された接合金属は溶融していることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属吐出装置。
【請求項3】
貯留槽、シリンジ筒、ピストンを囲い、非酸化性ガスで周囲から遮蔽する雰囲気炉を備えていることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属吐出装置。
【請求項4】
溝部がピストンに複数個所設けられていることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属吐出装置。
【請求項5】
シリンジ筒の底部にはシリンジ筒の本体よりも小径であるノズルが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属吐出装置。
【請求項6】
ノズルの出口はノズルの付け根よりも細くなっていることを特徴とする請求項5に記載の溶融金属吐出装置。
【請求項7】
ピストンの先端にノズルの内径よりも細いピンが設けられていることを特徴とする請求項5に記載の溶融金属吐出装置。
【請求項8】
シリンジ筒は下端に向かって徐々に口すぼまりになっていることを特徴とする請求項1に記載の溶融金属吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−194456(P2011−194456A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−66258(P2010−66258)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】