説明

溶鋼中炭素濃度の調整方法

【課題】RH式真空脱ガス処理中に、その処理後の溶鋼中C濃度を0.010〜0.050%の範囲とする溶鋼のC濃度調整方法であって、そのRH処理後のC濃度を目標値±0.001%以内に制御する方法を提供することである。
【解決手段】RH式真空脱ガス処理中に、その処理中溶鋼のC濃度を0.005〜0.010%高める加炭処理を行うことによって、その加炭処理後の溶鋼中C濃度を0.010〜0.050%の範囲とする。その加炭処理開始前にその溶鋼中のAl濃度を0.01%〜0.10%とし、かつ、そのRH真空槽内雰囲気圧力を67〜1330Paとしてから、炭剤粉末とCaO粉末とを混合した加炭剤粉末を、そのRH真空槽内に設置した上吹きランスを通じて、C質量換算速度を加炭対象溶鋼のトン当たり0.024〜0.058kg/minとして、その溶鋼へ上吹き添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼工程におけるRH式真空脱ガス処理装置を用いた処理において、溶鋼中に加炭剤を添加することによる高精度な炭素濃度調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼中の炭素(以下、「C」ともいう)は、鋼の強さや硬さを制御する元素であり、近年の鋼材の高品質化に伴い鋼中のC濃度の狭い範囲での制御に対する要求が高くなっている。そのため、溶鋼段階における高い精度でのC濃度の調整方法が求められている。
【0003】
溶鋼中のC濃度を高精度で調整する方法としては、真空脱ガス処理中においてC濃度を目標とするC濃度より一旦低下させ、その後に加炭剤を添加して目標とするC濃度に調整する方法が近年行われている。その一例として、特許文献1には、C濃度が0.003〜0.03%(本明細書において特に断りがない限り濃度または化学組成に関する「%」は「質量%」を意味する)の炭素鋼を、真空脱ガス設備を用いて溶製するに際し、溶鋼中C濃度を0.003%未満まで一旦脱炭した後、炭素含有物質を添加してC濃度を調整する方法が記載されている。その実施例の説明では、目標C濃度0.007%に対して、比較例としての排ガス中成分および排ガス流量に基づくC濃度推定方法の精度が±0.003%である一方、その発明の実施例の精度は±0.001%であったと記載されている。
【0004】
しかし、その方法ではC濃度の調整精度を高めるために、真空脱炭処理中にC濃度を一旦0.003%未満に低下させる必要がある。したがって、その実施例として説明されているC濃度が0.004〜0.010%の溶鋼を製造するには適していても、C濃度が0.010%以上の溶鋼を製造するためには加炭量が多くなってしまうので、操業効率や加炭精度向上等に改善の余地があるものと考えられる。
【0005】
また、特許文献2には、C濃度が0.07%以上である鋼種を真空脱ガス処理装置を用いて精錬する際に、脱ガス処理中に溶鋼に添加する炭素含有副原料の添加歩留まりを過去の操業実績に基づいて関数化し、その添加量を決定して脱ガス処理後の溶鋼中C濃度を制御する方法が記載されている。しかし、その方法は真空脱炭処理を行わないことを前提としているので、C濃度が0.005%以下の鋼種の溶製には適さないし、その方法によるC濃度の調整精度は目標値±5%とされているので、目標C濃度を0.050%に拡張して考えてもその精度は±0.0025%にとどまる。
【0006】
さらに、特許文献1に記載された方法も特許文献2に記載された方法も、その加炭方法には加炭剤を原料投入孔から溶鋼中に投入する方法を用いていて、その加炭剤は合金鉄や炭材(コークス)であり、特許文献1には、炭材の使用は安価という利点はあるものの、歩留まりが安定しないので好ましくないと記載されている。
【0007】
この加炭時の加炭剤添加歩留まりを安定化させる手段としては、特許文献3に炭素材と生石灰とを混合した加炭剤の使用が記載されている。しかし、その加炭剤の使用目的は電気炉でのスクラップ溶解時に酸化雰囲気でも安定して加炭を行うことであり、RH処理でのC濃度が0.010〜0.050%の範囲における高精度C濃度制御を目的とした使い方は、全く想定されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−27128号公報
【特許文献2】特開2010−174320号公報
【特許文献3】特開2003−171713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、製鋼工程におけるRH式真空脱ガス処理中に、その処理後の溶鋼中C濃度を0.010〜0.050%の範囲とする溶鋼のC濃度調整方法であって、そのRH処理後のC濃度を目標値±0.001%以内に制御する方法を提供することである。
【0010】
この課題を解決するには、特許文献1に記載された方法ではC濃度の調整精度を高めるために、脱炭処理中にC濃度を一旦0.003%未満に低下させなければならないので、操業効率および加炭精度の点で不十分と考える。また、特許文献2に記載された方法は、C濃度が0.010〜0.050%の範囲とする溶鋼のC濃度調整方法としては、その加炭処理前に真空脱炭処理を大概必要とするので応用することができない。その上、その方法の目標C濃度を0.050%に拡張して考えても、その調整精度は±0.0025%になるので本発明の目的を達することができない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)対象とする溶鋼成分
本発明は、製鋼工程におけるRH式真空脱ガス処理中に、その処理後の溶鋼中C濃度を0.010〜0.050%の範囲とする溶鋼のC濃度調整方法である。このようなC濃度範囲にある鉄鋼製品の生産量は多いが、従来、そのC濃度を狭い範囲で制御する要求には十分に応えることができていない。
【0012】
本発明では、RHでの真空脱炭処理後にその溶鋼中C濃度を迅速に分析し、その分析値に基づいて加炭剤の添加量を調整する方法を基本として、その調整時に溶鋼中C濃度を0.005〜0.010%増加させて、RH処理後のC濃度を目標値±0.001%以内に制御することを目指す。
【0013】
真空脱炭処理での溶鋼中C濃度の制御は、特許文献1に比較例として記載されている方法が一般的に用いられており、その制御精度は目標値±0.003%程度である。このようなC濃度の誤差の存在を前提として、そのC濃度を分析後に加炭処理してC濃度の制御精度を目標値±0.001%以内に高めるためには、0.005%以上を安定して加炭できる技術でないと加炭処理時に加炭量が不足する場合があると考えられる。また、0.005%未満の加炭量ではその加炭量が少ないために加炭処理時の加炭歩留まりのバラツキの影響が現れ難いので、新たな発明の必要性が低い。一方、RH処理後C濃度を目標値±0.001%以内という高精度で制御するためには、0.010%を超えるような加炭量では制御困難度が増すと考えられるし、溶鋼中C濃度が0.010〜0.050%という溶鋼を対象としていることや、真空脱炭処理後のC濃度の予測制御精度が±0.003%程度であることを考えると、加炭処理による加炭量は0.010%以下で実際十分と考えられる。
【0014】
したがって、本発明では、加炭調整処理後のC濃度が0.010〜0.050%の範囲とする溶鋼のC濃度調整を目的として、その加炭処理前溶鋼中C濃度を0.005〜0.010%増加させる操作を発明の実施内容とする。
【0015】
また、前記した目的を達成するためには、RHでの真空脱炭処理後に溶鋼を脱酸し、炭剤と酸素との反応を抑制する必要がある。そのため、脱酸元素であるAl濃度を加炭処理前に0.01%以上に高めておく。Al濃度が0.01%未満では脱酸が不十分となり脱炭反応が生じる場合があるからである。一方、0.10%を超えて高くなると脱酸の効果が飽和する。そこで、Al濃度は0.01%以上0.10%以下とする。
【0016】
(2)使用する加炭剤とその供給方法
加炭処理により高精度で溶鋼中C濃度を制御するためには、加炭剤の添加歩留まりを高位安定化させることが重要である。Cを主体とする炭剤は、特許文献1にも記載されているように、加炭に関してはフェロマンガンやフェロクロムといった合金鉄に比べ安価という利点があるが、炭剤は合金鉄に比べ比重が小さいために、原料投入孔から溶鋼中に投入する方法では真空脱ガス槽内を減圧するための真空排気の排ガスとともに排出されやすく、加炭歩留まりは低位となる。また、この排ガスとともに排出される量は処理毎に異なり、ばらつきが大きいため、歩留まりを正確に予測することが困難である。
【0017】
そこで、加炭処理を安価に、かつ安定した加炭歩留まりで行う手段として、炭剤粉末を真空槽内の溶鋼直上に設置した上吹きランスから上吹き添加する方法を用いることにする。RH式真空脱ガス処理装置には、溶鋼へ脱硫剤を上吹き添加する目的等で上吹きランスが設置されているので、そのランスから溶鋼へ炭剤粉末を吹き付けることに基本的な支障は無い。
【0018】
但し、本発明は溶鋼中C濃度を0.005〜0.010%増加させる時、加炭処理後のC濃度を目標値±0.001%以内に制御する技術であるから、加炭処理時の加炭剤添加精度は、その対象溶鋼トン当たりの含有C質量に換算して0.001kg程度の制御精度が必要となる。このような微量の添加を100〜300トンクラスの溶鋼を対象として、RH操業中に短い時間内に高精度で行うことは実際容易ではない。
【0019】
そこで、炭剤粉末に炭剤よりも比重の大きい他の粉末を混合することで、集塵されることによる炭剤損失のバラツキをさらに軽減することを考えた。これは炭剤に他の粉末が混合されることで、加炭剤としての見かけの比重が大きくなるためである。また、炭剤に他の粉末を混合することで加炭剤としての総質量が多くなるため、混合率を適度に調整することによって加炭速度の調整を容易にする効果もあり、加炭剤添加精度を一層高めることができると考える。
【0020】
この他の粉末として、CaOが適当である。CaOは比重が炭剤よりも大きいことと、精錬工程において脱硫剤として一般的に用いられており、RH式真空脱ガス処理中に使用が容易なためである。
【0021】
但し、真空槽内の雰囲気圧力も調整する。雰囲気圧力が67Pa未満となると上吹き噴流により発生するスプラッシュが顕著となって、操業が不安定となる。一方、1330Paを超えて大きい場合、噴流の減衰により加炭剤粉末の溶鋼への侵入が減少する。そこで、真空層内の雰囲気圧力は67Pa以上1330Pa以下とする。
【0022】
(3)加炭剤の供給速度
上記した加炭処理においては、加炭剤によるC添加質量を対象溶鋼トン当たり0.10kg程度必要とする場合も想定されるところ、その添加時間が短すぎると加炭剤の添加歩留まりが安定しない。一方、その添加時間は必要以上に長くしても添加歩留まりの安定化効果が上がらないばかりか、RH処理時間が延長されて溶鋼温度の低下等の弊害を招いてしまう。
【0023】
そこで、この加炭剤添加歩留まりと加炭処理時間とを勘案して、加炭剤粉末の供給速度を決定する必要があるが、この供給速度が溶鋼量や処理装置によらない事が必要であるため、溶鋼量を15kgとしたるつぼ実験と、溶鋼量250ton規模のRH処理とに変化させて調査検討を行った。
【0024】
i)溶鋼量15kgのるつぼ実験
るつぼ内に装入した15kgの原料鉄を、高周波誘導加熱により1873Kまで昇温した。鉄浴温度が安定した後、Mn、Si、Alといった合金元素を添加し、溶鋼成分をC濃度が0.005〜0.040%、Al濃度が0.01〜0.10%になるように調整した。その後、溶鋼サンプルを採取して迅速分析を行い、分析によりC濃度が判明したら、そのC濃度に対して0.005〜0.010%高い濃度範囲内に加炭処理後の目標C濃度を定め、加炭剤中のC濃度から、その目標C濃度まで加炭するに必要な加炭剤質量を決定した。
【0025】
加炭剤上吹き前に雰囲気圧力を400Paまで減圧し、その後直ちに上吹きランスを溶鋼直上まで降下させて、この上吹きランスから加炭剤を上吹き添加した。上吹き時には、加炭剤供給速度は対象溶鋼トン当たり0.3〜3.0kg/min(以後、0.3〜3.0kg/(t・min)と記載。)とし、加炭剤中のC濃度を2〜5%、かつ、そのCaO質量とC質量との比(CaO質量/C質量)を18以上とした範囲で変化させることで、加炭剤供給速度と加炭剤中のC濃度の積で表されるC換算の供給速度を変化させた。この加炭剤中のCaOとCは、それぞれ最大粒径が0.1mm以下の試薬を用いた。なお、それらを混合した際の加炭剤中のC濃度を2〜5%、およびCaO質量とC質量との比を18以上とした範囲は、加炭剤としてそれらのC粉とCaO粉とを添加した際の加炭歩留まりの安定性と加炭剤全体としての添加質量の増加負担とを勘案して定めた。上吹きが終了したら、再度サンプル採取を行った。採取したサンプルは定量分析に供した。
【0026】
ii)溶鋼量250トンのRH試験
転炉で溶銑を脱りん脱炭精錬して250トンの溶鋼を製造し、さらにRH型真空脱ガス処理装置を用いて真空脱炭精錬を行った後、合金元素を添加して溶鋼の成分調整を行って、C濃度:0.005〜0.040%、Al濃度:0.01〜0.10%の範囲内の、本発明に係る脱炭処理前の目標値に調整した。サンプルを採取し迅速分析を行った結果、いずれも本発明に係る加炭処理後の目標C濃度に対して0.005%〜0.010%低い濃度に、±0.003%の精度で制御されていた。そのC濃度分析値が判明した後、その目標C濃度まで加炭するに必要な炭剤上吹き質量を加炭剤中C濃度から決定した。直ちに、真空槽内の溶鋼上部に設置した上吹きランスから加炭剤を上吹き添加した。上吹き添加に際し、真空槽内の雰囲気圧力は67〜400Paとした。
【0027】
また、加炭剤中のCには最大粒径0.1mm以下のコークス粉を用い、CaOには最大粒径0.1mm以下の生石灰粉を用いた。その加炭剤上吹き速度は0.3〜3.0kg/(t・min)とし、加炭剤中のC濃度を2〜5%の範囲で、かつ、そのCaO/C質量比を18以上の範囲で変化させることで、C換算の供給速度を変化させた。上吹き終了後、通常の溶鋼環流処理を行ってから溶鋼サンプルを採取し、そのサンプルを化学分析に供した。
【0028】
加炭剤上吹き後の目標C濃度と実際のC濃度との差異と、加炭剤粉末の供給速度と加炭剤中のC濃度の積で示されるC換算での上吹き速度との関係を、図1にグラフで示す。図1に示すグラフより、C質量換算での加炭剤上吹き速度を0.058kg/(t・min)以下とすることによって、目標C濃度から加炭剤上吹き後のC濃度の差異を±0.001%以下とすることができる。また、C質量換算での加炭剤上吹き速度が0.024kg/(t・min)未満になると、加炭剤上吹き後のC濃度と目標C濃度との差異はほとんど変わらなくなり効果が飽和した。
【0029】
なお、これらの結果は、調査した加炭剤中のC濃度2〜5質量%の範囲では変わらなかったので、加炭処理能率を考えると、加炭剤中のC濃度は高めの3〜5質量%の方が好ましいと言える。
【0030】
また、これらの結果は15kg実験、RH試験ともに同様であった。そのため、溶鋼量や処理装置が大きく変わっても同様の結果が得られる事が分かった。その結果、本発明に係る技術的特徴は、次のように纏めて記載することができる。
(1)RH式真空脱ガス処理中に、その処理中溶鋼のC濃度を0.005〜0.010%高める加炭処理を行うことによって、その加炭処理後の溶鋼中C濃度を0.010〜0.050%の範囲とする溶鋼のC濃度調整方法であって、
その加炭処理開始前にその溶鋼中のAl濃度を0.01%〜0.10%とし、かつ、そのRH真空槽内雰囲気圧力を67〜1330Paとしてから、
炭剤粉末とCaO粉末とを混合した加炭剤粉末を、そのRH真空槽内に設置した上吹きランスを通じて、その加炭剤供給速度と加炭剤中C濃度から算出されるC質量換算速度を加炭対象溶鋼のトン当たり0.024〜0.058kg/minとして、その溶鋼へ上吹き添加することを特徴とする溶鋼中炭素濃度の調整方法。
【0031】
(2)前記加炭剤粉末が、C質量濃度2〜5%、かつ、CaO質量とC質量との比(CaO質量/C質量)が18以上に調整したものであることを特徴とする、(1)に記載した溶鋼中炭素濃度の調整方法。
【発明の効果】
【0032】
本発明によって、溶鋼中C濃度が0.010〜0.050%の範囲内にあって、かつ、そのC濃度が目標値±0.001%以内に制御された溶鋼を、安定して溶製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、目標C濃度からの加炭処理後C濃度の差異と本発明に係る混合加炭剤のC質量供給速度との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
RH式真空脱ガス装置を用いて本発明に係る溶鋼中炭素濃度の調整方法を実施する際の、本発明の実施方法を説明する。
【0035】
1)成分調整
転炉で脱炭脱りん精錬を行った後、RHで必要に応じて脱炭処理を行い、さらにMnやAl等の成分調整と溶鋼の温度調整を済ませる。この成分調整と温度調整を行った後の溶鋼中C濃度は、0.01〜0.05%の範囲の製品目標C濃度以下であって、かつその製品目標C濃度から0.005〜0.010%下の範囲の濃度になるように、転炉およびRHで脱炭制御を行う。ただし、RHによる脱炭制御の精度はC濃度=0.010〜0.050%の領域でも目標値±0.003%程度なので、成分調整と温度調整を行った後に溶鋼サンプルを採取し、そのC濃度を分析するなどして確認する。この時、Al濃度を0.01〜0.10%の範囲とする。
【0036】
2)加炭剤上吹き
成分調整が終了し、溶鋼中のC濃度を確認した後、真空槽内の溶鋼直上に上吹き用ランスを下降させて設置する。この時、上吹き用ランスノズルの形状としてはストレート、スパイク、ラバールなどいかなる形状でもよいが、粉末の溶鋼への侵入を促進する観点から超音速噴流が得られるスパイクまたはラバールが好ましい。また上吹きランスと溶鋼との間の距離は1〜4mが好ましい。1m未満ではスプラッシュの発生が顕著で操業が不安定となり、4mを超えて大きいと噴流の減衰により粉末の溶鋼への着地が減少するためである。上吹きランスから粉末のキャリヤーガスとしてArガスを0.008〜0.04Nm/(t・min)で吹き付ける。0.008Nm/(t・min)未満では粉末の搬送が不安定となり、0.04Nm/(t・min)を超えて大きいとスプラッシュの発生が顕著となる場合がある。
【0037】
加炭剤は、炭剤粉とCaO粉とを混合したものを用いる。炭剤には炭素粉末やコークス粉等があり、さらにはCaCのように炭化物を用いても良く、それぞれ最大粒径を0.1mm以下の粉末とすることで、C成分を等価で置き換えることができる。CaOには生石灰を用いることが好適であるが、CaO源としての含有CaO濃度を80%以上とすれば、石灰石などのCaO含有物質を用いてもよい。但し、いずれも最大粒径を0.1mm以下の粉末として用いる必要がある。
【0038】
加炭剤供給量は、上吹きしようとしている加炭剤を本発明に係る加炭調整条件で使用した場合の加炭歩留まりを予め求めておいて、真空脱炭処理後に採取した溶鋼サンプルのC濃度と処理後の目標C濃度との差に対する加炭剤必要量を計算して求めても良いが、本発明に係る加炭調整方法での加炭歩留まりのバラツキは小さいので、加炭歩留まり95%を予定しておいても良い。
【0039】
但し、加炭剤供給速度と加炭剤中C濃度とから算出されるC質量換算の供給速度は、対象溶鋼トン当たりで0.024kg/min以上0.058kg/min以下である事が必要である。また、加炭剤中C濃度は2〜5%であって、そのCaO/C質量比は18以上が好ましい。加炭剤中C濃度は、3〜5%であることが一層好ましい。
3)加炭剤添加処理後の処理
加炭剤の上吹き添加終了後においてAl濃度が成分規格の範囲を超えて高い場合、規格内まで低減するために上吹きランスから酸素ガスを吹き付けてもよい。
【実施例】
【0040】
250t転炉で脱りん脱炭精錬した後、RHで脱炭処理を行い、さらにMn濃度やAl濃度などの成分調整と溶鋼の温度調整を行った。この時、RH処理終了時(本発明に係る加炭処理終了時)の目標C濃度が0.016%であったため、RHでの脱炭処理後のMn濃度やAl濃度などの成分調整と溶鋼の温度調整を行った後のC濃度は0.009%を目標とした。その後、溶鋼サンプルを採取し、C濃度を分析して確認した結果、この脱炭処理後の成分調整と温度調整を行った後の溶鋼中のC濃度は、0.006%以上0.011%以下の範囲内であった。なお、Al濃度は0.01〜0.10%の範囲内にあった。
【0041】
C以外の成分調整が終了した後、真空槽内の溶鋼直上に上吹きランスを下降させて設置した。Arガスをキャリアーガスとして0.016Nm/(t・min)で導入し、Arガスとともに炭剤とCaOとを混合した加炭剤粉末を1.0kg/(t・min)で吹き付けた。加炭剤の吹き付け質量は、分析により判明したC濃度から目標のC濃度である0.0160%まで加炭するために必要な加炭剤質量を加炭剤中のC濃度から算出した。加炭剤中のCには最大粒径0.1mm以下のコークス粉を用い、CaOには最大粒径0.1mm以下の生石灰粉を用いた。
【0042】
吹き付け後に再度サンプルを採取し、化学分析によりC濃度の変化を測定した。
結果を表1に示す。表1より、加炭剤(粒径4mm以下のコークス粉)を合金鉄投入口から添加した比較例(No1、2)においては、目標C濃度からのC濃度の差異は0.0020および0.0011%であった。一方、本発明の実施例である混合加炭剤を上吹きランスから上吹き添加した実施例(No3〜5)では、目標C濃度からのC濃度の差異は0.0002〜0.0007%であった。
【0043】
このように、本発明のC濃度調整方法を用いることで、従来の加炭剤添加方法を用いた比較例と比べて加炭処理時のC濃度調整を高精度に行うことができ、溶鋼中C濃度0.010〜0.050%の範囲にある溶鋼のC濃度を、目標C濃度±0.001%の範囲に制御することができる。
【0044】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
RH式真空脱ガス処理中に、その処理中溶鋼のC濃度を0.005〜0.010質量%高める加炭処理を行うことによって、その加炭処理後の溶鋼中C濃度を0.010〜0.050質量%の範囲とする溶鋼のC濃度調整方法であって、
その加炭処理開始前にその溶鋼中のAl濃度を0.01%〜0.10質量%とし、かつ、そのRH真空槽内雰囲気圧力を67〜1330Paとしてから、
炭剤粉末とCaO粉末とを混合した加炭剤粉末を、そのRH真空槽内に設置した上吹きランスを通じて、その加炭剤供給速度と加炭剤中C濃度から算出されるC質量換算速度を加炭対象溶鋼のトン当たり0.024〜0.058kg/minとして、その溶鋼へ上吹き添加することを特徴とする溶鋼中炭素濃度の調整方法。
【請求項2】
前記加炭剤粉末が、C質量濃度2〜5%、かつ、CaO質量とC質量との比(CaO質量/C質量)が18以上に調整したものであることを特徴とする、請求項1に記載した溶鋼中炭素濃度の調整方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−36056(P2013−36056A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170315(P2011−170315)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000006655)新日鐵住金株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】