説明

溶鋼精錬用取鍋及び溶鋼の精錬方法

【課題】 底部に攪拌用ガスの吹込みプラグを有する溶鋼精錬用取鍋において、従来に比較して格段に攪拌強度を高めることのできる溶鋼精錬用取鍋を提供するとともに、この溶鋼精錬用取鍋を使用した、強攪拌下での溶鋼の精錬方法を提供する。
【解決手段】 本発明の溶鋼精錬用取鍋1は、底部にガス吹き用の吹込みプラグ4を2つ以上有する取鍋であって、吹込みプラグの設置される取鍋底部の側壁の内径をDとしたときに、隣接する吹込みプラグの中心間の距離が、D/6以上D/4以下であることを特徴とし、本発明の精錬方法は、前記取鍋に収容された溶鋼5を、下記の(1)式により算出される溶鋼攪拌動力密度εが1000W/トン以上となる攪拌条件下で攪拌することを特徴とする。
ε=(0.0285×QAr×T/Wm)×log[1+(760×H)/(148×P)]…(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、底部に攪拌用ガスの吹込みプラグを有する溶鋼精錬用取鍋及びこの溶鋼精錬用取鍋を使用した溶鋼の精錬方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄鋼製品に対する品質要求が以前にも増して厳格化しており、これに対処するべく、溶鋼の脱炭、脱酸、脱硫、介在物除去及び最終成分調整を取鍋内にて行う取鍋精錬が一般的に実施されている。この取鍋精錬を効率的に行うためには取鍋内の溶鋼を攪拌することが重要であり、従って、電磁力の利用、真空槽への吸い上げ、浸漬ランスからのガス吹込みなど、様々な攪拌方法が行われている。そのなかで、取鍋底部に吹込みプラグを配置し、この吹込みプラグから攪拌用ガスを吹込んで攪拌するガス攪拌方法が、効率的であり、また設備的にも容易であることから広く利用されている。
【0003】
この底吹きガス攪拌方法では、一般的に、ポーラス煉瓦からなる吹込みプラグを取鍋底部に設け、この吹込みプラグからArガスや窒素ガスなどの不活性ガスを溶鋼中に吹込んで溶鋼を流動・攪拌している。この場合、最適な攪拌条件とするために、吹込みプラグの設置数を増加してガス流量を増大したり、吹込みプラグの設置位置を特定したりして、攪拌強度や攪拌効率を制御している。
【0004】
特に、VOD炉(Vacuum Oxygen Decarburization Furnace)のように、減圧下で酸素ガスを供給して脱炭精錬し、その後、脱炭精錬中に生じた酸化物をAlやFe−Si合金などの還元剤を添加して還元・脱酸を行うプロセスにおいては、脱炭時の脱炭効率や到達炭素濃度、及び、還元後の溶鋼中酸素濃度に及ぼすガス攪拌の影響が大きく、従来から、攪拌用ガスの流量を規定することが試みられている(例えば、特許文献1を参照)。また、複数の吹込みプラグを配置することも試みられている(例えば、特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開平1−287218号公報
【特許文献2】実開昭61−55055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
年々厳しくなる鉄鋼製品への品質要求に伴い、溶鋼の清浄性に対する要求も厳しくなっており、更に、不純物の低減ニーズが高まりつつあることからも、取鍋精錬における溶鋼攪拌技術の改善は、重要な技術開発であることが明らかである。
【0006】
しかしながら、前述した従来の取鍋精錬方法では、取鍋底部に設置する吹込みプラグの制約上から、それほど多くのガス流量が確保できないこと、及び、取鍋底面の物理的制約上から、吹込みプラグの設置場所、個数ともに制限があり、攪拌ガス流量を大幅に増大させることは困難であった。
【0007】
また、仮に大流量のガス吹きが可能な吹込みプラグが開発されたとしても、大流量のガス吹きは、吹込まれたガスが溶鋼を離脱する際の溶鋼飛散の増大といった操業上のトラブルを増加させるという不具合を生じ、また、溶鋼上に存在するスラグは高粘性であるため、気泡がスラグから抜け出ずにスラグのフォーミングを発生させ、それに伴う高温物質の精錬設備への飛散による大規模な設備トラブルなどを生じる危険性があった。更に、特許文献2のように、吹込みプラグを取鍋の側壁近傍に配置すると、攪拌効果は促進されるが、取鍋側壁の耐火物の損耗が激しくなるという問題も発生した。
【0008】
このように、従来の底吹きガス攪拌方法では、現状以上の溶鋼攪拌の改善は困難といわざるを得なかった。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、底部に攪拌用ガスの吹込みプラグを有する溶鋼精錬用取鍋において、溶鋼を離脱する際のガスによる溶鋼の飛散量を増大させることなく、従来に比較して格段に攪拌強度を高めることのできる溶鋼精錬用取鍋を提供するとともに、この溶鋼精錬用取鍋を使用した、強攪拌下での溶鋼の精錬方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく研究・検討を実施した。その結果、吹込みプラグを2つ以上配置し、2つ以上配置した吹込みプラグのそれぞれの相対位置を規定することで、攪拌ガス流量の増加だけでは制御できなかった溶鋼の流動形態を、取鍋耐火物の損傷を抑え且つ溶鋼の飛散といったトラブルを生じることなく、溶鋼の脱炭反応などの精錬に有効な形態に制御できるとの知見を得た。
【0011】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、第1の発明に係る溶鋼精錬用取鍋は、底部にガス吹き用の吹込みプラグを2つ以上有する溶鋼精錬用取鍋であって、前記吹込みプラグの設置される取鍋底部の側壁の内径をDとしたときに、隣接する吹込みプラグの中心間の距離が、D/6以上D/4以下であることを特徴とするものである。
【0012】
第2の発明に係る溶鋼精錬用取鍋は、第1の発明において、前記吹込みプラグのうち少なくとも1つは、取鍋底部の側壁からD/6以上離れた位置に設置されていることを特徴とするものである。
【0013】
第3の発明に係る溶鋼の精錬方法は、第1または第2の発明に記載の溶鋼精錬用取鍋に収容された溶鋼を、下記の(1)式により算出される溶鋼攪拌動力密度が1000W/トン以上となる攪拌条件下でArガスにより攪拌することを特徴とするものである。
【0014】
【数1】

【0015】
但し、(1)式において、εは溶鋼攪拌動力密度(W/トン)、QArは底吹きArガスの総流量(NL/分)、Tは溶鋼温度(K)、Wmは溶鋼質量(トン)、hは溶鋼深さ(cm)、Pは雰囲気圧力(torr)である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る溶鋼精錬用取鍋によれば、それぞれの吹込みプラグから吹込まれたガス気泡が互いに干渉し合うことで、ガス気泡の浮上に水平方向の流れが加わり、これによって溶鋼表面でのガスの鉛直方向の浮上速度が低下し、その結果、攪拌ガス供給量を増加しても取鍋内溶鋼の盛り上がりが抑制されて、溶鋼を離脱する際のガスによる溶鋼飛散量が減少するので、攪拌用ガスの供給量を増加することができ、溶鋼の強攪拌が可能となり、取鍋精錬での処理時間の短縮、それに伴う溶鋼温度降下量の低減など、工業上有益な効果がもたらされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を具体的に説明する。先ず、本発明に至った経緯について説明する。
【0018】
本発明者らは、底部に複数個の攪拌用ガスの吹込みプラグを有する溶鋼精錬用取鍋において、従来に比較して格段に攪拌効率を高めることを目的として水モデル実験を実施した。実験では、吹込みプラグの設置位置を変更するとともに、ガス供給量を変化させた。この水モデル実験から、以下の知見が得られた。
【0019】
溶鋼精錬用取鍋の底部に設置した吹込みプラグから攪拌用ガスを吹込んだ場合、ガスが溶鋼中を浮上し、このガスの浮上に伴って溶鋼が攪拌されるが、ガスが溶鋼の表面から雰囲気中に抜ける際に、溶鋼やスラグの持つ粘性によって取鍋内の湯面或いはスラグが上昇する。このとき、吹込みプラグの設置される取鍋底部の側壁の内径をDとすると、各吹込みプラグ間の距離をD/4よりも大きくして、D/4よりも離れた位置で各々の吹込みプラグからガスを吹込んだ場合、各吹込みプラグからのガス気泡は互いに干渉することなく、吹込みプラグの鉛直方向上方に浮上するため、吹込みプラグからのガスの吹込み流量の増加に伴って溶鋼湯面の盛り上がりは大きくなること、つまり、溶鋼を離脱する際のガスによる溶鋼飛散量がガス供給量に応じて増大することが分かった。
【0020】
一方、各吹込みプラグ間の距離をD/6よりも短い距離で設置した場合、複数の吹込みプラグを配置する効果が減少し、あたかも1つの吹込みプラグからガスが供給されたものに類似したガスの浮上現象が生じるため、取鍋内溶鋼湯面の盛り上がりは、吹込みプラグ数とガス供給量に応じて、D/4を超えて離れた位置に設置した場合に比較して更に大きくなることが分かった。つまり、溶鋼を離脱する際のガスによる溶鋼飛散量が更に増大することが分かった。
【0021】
これに対して、各吹込みプラグ間の距離をD/6以上D/4以下の範囲内とした場合には、それぞれの吹込みプラグから吹込まれたガス気泡が互いに干渉し合い、ガス気泡の浮上に水平方向の流れが加わることにより、溶鋼表面におけるガスの鉛直方向の浮上速度が低下し、取鍋内溶鋼の盛り上がりが抑制されることが分かった。つまり、溶鋼攪拌動力密度を高めるべく攪拌ガスの供給量を増加しても、取鍋内溶鋼の盛り上がりが抑制され、溶鋼を離脱する際のガスによる溶鋼飛散量を従来と比較して大幅に少なくすることが可能であることが分かった。
【0022】
また、吹込みプラグを取鍋底部の側壁からD/6未満の位置に設置した場合には、取鍋側壁と吹込みプラグとの間隔が短く、取鍋側壁の近傍をガスが浮上することから、取鍋側壁近傍の溶鋼流速が速くなり、取鍋耐火物の損傷が激しくなることも確認できた。つまり、取鍋側壁からD/6以上離れた位置に設置することが好ましいことも分かった。
【0023】
本発明は上記実験結果に基づくものであり、本発明に係る溶鋼精錬用取鍋は、底部にガス吹き用の吹込みプラグを2つ以上有する溶鋼精錬用取鍋であって、前記吹込みプラグの設置される取鍋底部の側壁の内径をDとしたときに、吹込みプラグの中心間の距離が、D/6以上D/4以下であることを特徴とする。この場合に、吹込みプラグのうち少なくとも1つは取鍋底部の側壁からD/6以上離れた位置に設置することが好ましい。
【0024】
次いで、本発明に係る溶鋼精錬用取鍋の例、並びに、それを使用した溶鋼の精錬方法を説明する。
【0025】
図1は、本発明に係る溶鋼精錬用取鍋の例を示す側断面概略図、図2は、図1に示す溶鋼精錬用取鍋の概略平面図であり、溶鋼精錬用取鍋1は、外殻を形成する鉄皮2と、この鉄皮2の内側に施工された耐火物3とで構成されており、溶鋼精錬用取鍋1の底部(「敷」ともいう)の耐火物3に嵌合してポーラス煉瓦からなる複数個の吹込みプラグ4が設置されている。ここでは、プラグ4が3個設置された例を示している。尚、図2では、溶鋼精錬用取鍋1の側壁を省略している。また、図1中の符号5は溶鋼、6はスラグである。
【0026】
各吹込みプラグ4はガス導入管(図示せず)と連結されていて、ArガスやHeガスなどの希ガス或いは窒素ガスなどの非酸化性ガスが攪拌用ガスとして、各吹込みプラグ4から溶鋼精錬用取鍋1の内面側に吹込まれるようになっている。この場合に、溶鋼精錬用取鍋1の底部の側壁の内径をDとしたときに、各吹込みプラグ4の中心間の距離dがD/6以上D/4以下となるように、各吹込みプラグ4が設置されている。
【0027】
吹込みプラグ4の具体的な設置方法を、図3及び図4を参照して説明する。図3は、吹込みプラグ4を2つ設置し且つ1つ目の吹込みプラグ4aを溶鋼精錬用取鍋1の中心位置に設置した例である。この場合、2つ目の吹込みプラグ4bは、1つ目の吹込みプラグ4aを中心とする半径D/6の円弧と、半径D/4の円弧と、で囲まれる領域Aに設置する必要があり、領域Aの任意の位置に設置すればよい。この場合には、1つ目の吹込みプラグ4aが溶鋼精錬用取鍋1の中心位置に設置されているので、2つ目の吹込みプラグ4bは、自ずと取鍋側壁からD/6以上離れた位置に設置されることになる。
【0028】
吹込みプラグ4は取鍋側壁からD/6以上離れた位置に設置することが好ましく、吹込みプラグ4aを溶鋼精錬用取鍋1の中心位置からずらした位置に設置する場合には、吹込みプラグ4bが取鍋側壁からD/6以上離れた位置に設置されるように、吹込みプラグ4aの設置位置を考慮することが好ましい。この場合に、当然ながら吹込みプラグ4aも取鍋側壁からD/6以上離れた位置に設置することが好ましい。
【0029】
図4は、吹込みプラグ4を3つ設置し且つ1つ目の吹込みプラグ4aを溶鋼精錬用取鍋1の中心位置に設置した例である。2つ目の吹込みプラグ4bは、1つ目の吹込みプラグ4aを中心とする半径D/6の円弧と、半径D/4の円弧と、で囲まれる領域Aに設置する必要があり、領域Aの任意の位置に設置すればよい。3つ目の吹込みプラグ4cは、2つ目の吹込みプラグ4bを中心とする半径D/6の円弧と、半径D/4の円弧と、で囲まれる領域Bが、前記領域Aと重なり合う位置に設置する必要があり、この重なり合う位置の任意の位置に設置すればよい。図4は、各吹込みプラグ4の中心位置が正三角形を形成するように配置した例である。
【0030】
この場合も、1つ目の吹込みプラグ4aを溶鋼精錬用取鍋1の中心位置に設置していることから、吹込みプラグ4b及び吹込みプラグ4cは自ずと取鍋側壁からD/6以上離れた位置に設置されることになるが、1つ目の吹込みプラグ4aを溶鋼精錬用取鍋1の中心位置からずらした位置に設置する場合には、吹込みプラグ4b及び吹込みプラグ4cが取鍋側壁からD/6以上離れた位置に設置されるように、吹込みプラグ4aの設置位置を考慮することが好ましい。この場合に、当然ながら吹込みプラグ4aも取鍋側壁からD/6以上離れた位置に設置することが好ましい。
【0031】
図示はしないが、吹込みプラグ4を4つ設置する場合も、それぞれの吹込みプラグ間の距離dがD/6以上D/4以下となるように、各吹込みプラグ4を配置すればよい。
【0032】
このようにして構成される本発明に係る溶鋼精錬用取鍋1を使用して溶鋼5を精錬するにあたり、攪拌ガスによる溶鋼飛散量を抑制できることからガス攪拌強度を従来に比較して高くすることが可能であるので、溶鋼攪拌動力密度が1000W/トン以上となる攪拌条件下で攪拌することが好ましい。溶鋼攪拌動力密度の上限は特に規定する必要はないが、溶鋼攪拌動力密度が或る程度以上に高くなると、精錬の反応律速が溶鋼の攪拌、つまり溶鋼側の物質移動律速から別の要因(例えば化学反応律速)になり、攪拌強度をそれ以上に上げる意味がなくなることから、5000W/トン程度の溶鋼攪拌動力密度を上限とすればよい。
【0033】
尚、攪拌用ガスとしてArガスを使用したときの溶鋼攪拌動力密度は、下記の(1)式で与えられる。但し、(1)式において、εは溶鋼攪拌動力密度(W/トン)、QArは底吹きArガスの総流量(NL/分)、Tは溶鋼温度(K)、Wmは溶鋼質量(トン)、hは溶鋼深さ(cm)、Pは雰囲気圧力(torr)である。
【0034】
【数2】

【0035】
従って、溶鋼精錬用取鍋1に収容された溶鋼5の質量(Wm)、溶鋼5の深さ(h)、雰囲気の圧力(P)、溶鋼温度(T)に基づき、(1)式を用いて溶鋼攪拌動力密度(ε)が1000W/トン以上となる底吹きArガスの総流量(QAr)を求め、求めたArガスの総流量(QAr)以上のArガス流量を各吹込みプラグ4に分配し、各吹込みプラグ4から溶鋼5にArガスを吹込めばよい。各吹込みプラグ4からの吹込み流量は均等とする必要はなく、各吹込みプラグ4からの吹込み流量の総流量が求めたArガスの総流量(QAr)以上となるようにすればよい。
【0036】
このように本発明に係る溶鋼精錬用取鍋1によれば、それぞれの吹込みプラグ4から吹込まれたガス気泡が互いに干渉し合うことで、ガス気泡の浮上に水平方向の流れが加わり、これによって溶鋼表面におけるガスの鉛直方向の浮上速度が低下し、その結果、ガス供給量を増加しても取鍋内溶鋼5の盛り上がりが抑制されて、溶鋼5を離脱する際のガスによる溶鋼飛散量が減少するので、攪拌用のガス供給量を従来に比較して増加することができ、溶鋼5の強攪拌が可能となり、取鍋精錬を効率的に実施することが達成される。
【実施例1】
【0037】
容量が190トン規模の溶鋼精錬用取鍋の底部に3つの吹込みプラグを、前述した図4に示す配置(d=D/5)で設置し、この溶鋼精錬用取鍋に185トンのステンレス溶鋼(Cr含有量:18質量%)を収容して、吹込みプラグからArガスを吹込みながらVOD炉にて脱炭精錬を実施した(本発明例)。このときの溶鋼温度(T)は1650℃(=1923K)、VOD炉内の雰囲気圧力(P)は3.8torr、溶鋼高さ(h)は210cmであり、溶鋼攪拌動力密度(ε)が1000W/トン以上となるように(1)式により底吹きArガスの総流量(QAr)を求め、各吹込みプラグからのArガス吹込み流量を各々750NL/分とした。このときの溶鋼攪拌動力密度(ε)は1636W/トンとなる。また、脱炭用の上吹き酸素ガスは、精錬の初期は25Nm3/分で供給し、溶鋼中の炭素濃度が0.06質量%に達した以降は18Nm3/分で供給した。
【0038】
また、比較のために、2つの吹込みプラグが取鍋側壁からD/6以内であり、且つ3つの吹込みプラグの中心間の距離が全てD/6未満の配置で3つの吹込みプラグを配置した溶鋼精錬用取鍋を用い、上記と同一の条件で、酸素ガスを上吹きするとともに攪拌用Arガスを吹込んで、VOD炉にてステンレス溶鋼(Cr含有量:18質量%)の脱炭精錬を実施した(比較例)。
【0039】
精錬中の取鍋内溶鋼の盛り上がり高さをレーザー光距離計により測定した結果を図5に示す。図5では、比較例での盛り上がり高さを基準とする指数で表示しており、攪拌用ガス流量を同一とした場合、本発明例では比較例に比べて盛り上がり高さが40%程度低くなることが確認できた。
【0040】
図6は、脱炭精錬中の溶鋼中炭素濃度の推移を本発明例と比較例とで対比して示す図であり、本発明例では攪拌が効率的になることから、溶鋼中炭素濃度は迅速に低下し、脱炭精錬時間をおよそ5分短縮できることが分かった。
【0041】
また、図7は、VOD炉にて上記の条件のステンレス鋼の脱炭精錬を連続して10チャージ実施した後の溶鋼精錬用取鍋のスラグライン部(スラグと接触する部位)の損耗状況を調査した結果を示す図であり、図7では、比較例における耐火物溶損量を基準とする指数で表示している。図7に示すように、本発明例では耐火物の溶損が抑制されることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る溶鋼精錬用取鍋の例を示す側断面概略図である。
【図2】図1に示す溶鋼精錬用取鍋の概略平面図である。
【図3】本発明における吹込みプラグの具体的な設置位置の例を示す図である。
【図4】本発明における吹込みプラグの具体的な設置位置の他の例を示す図である。
【図5】精錬中の取鍋内溶鋼の盛り上がり高さを本発明例と比較例とで対比して示す図である。
【図6】脱炭精錬中の溶鋼中炭素濃度の推移を本発明例と比較例とで対比して示す図である。
【図7】溶鋼精錬用取鍋のスラグライン部の損耗状況を本発明例と比較例とで対比して示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1 溶鋼精錬用取鍋
2 鉄皮
3 耐火物
4 吹込みプラグ
5 溶鋼
6 スラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部にガス吹き用の吹込みプラグを2つ以上有する溶鋼精錬用取鍋であって、前記吹込みプラグの設置される取鍋底部の側壁の内径をDとしたときに、隣接する吹込みプラグの中心間の距離が、D/6以上D/4以下であることを特徴とする溶鋼精錬用取鍋。
【請求項2】
前記吹込みプラグのうち少なくとも1つは、取鍋底部の側壁からD/6以上離れた位置に設置されていることを特徴とする、請求項1に記載の溶鋼精錬用取鍋。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の溶鋼精錬用取鍋に収容された溶鋼を、下記の(1)式により算出される溶鋼攪拌動力密度が1000W/トン以上となる攪拌条件下でArガスにより攪拌することを特徴とする、溶鋼の精錬方法。
【数1】

但し、(1)式において、εは溶鋼攪拌動力密度(W/トン)、QArは底吹きArガスの総流量(NL/分)、Tは溶鋼温度(K)、Wmは溶鋼質量(トン)、hは溶鋼深さ(cm)、Pは雰囲気圧力(torr)である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−70815(P2010−70815A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240235(P2008−240235)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】