説明

滑性処理板材及び商品陳列棚板

【課題】滑り性が良好であるとともに、実用的な耐久性を有する滑性処理板材及び該板材を用いた商品陳列棚を提供すること。
【解決手段】基板12上に、樹脂粉末により梨地(サテン面)とされている表面塗膜(滑性塗膜:梨地塗膜)を備えた商品陳列棚板22。梨地を形成する樹脂粉末として、ポリアミド(ナイロン)粉末14と少量のフッ素樹脂粉末16とを含むものを使用する。滑性塗膜は液状塗料で形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑性処理板材及び該滑性処理板材を用いた商品陳列棚に関する。さらに詳しくは、樹脂粉末により梨地(サテン面)とされている表面塗膜を備えた滑性処理板材及び商品陳列棚板に係る。
【背景技術】
【0002】
上記のような滑性処理板材及び該滑性処理板材を用いた商品陳列棚板として、特許文献1に下記記載がある。
【0003】
「従来、商品陳列棚の上に置かれた商品は、最前列の商品が顧客により購入された際には、人力で商品の並べ替えを行い、常に最前列に商品が陳列されるよう留意する必要があり、多大な手間と労力を強いられてきた。
【0004】
そこで、近年、これら問題点を解消する方法として、棚板の前側を下方に傾斜させると共に棚板の商品載置面に多数のローラをマット状に敷き詰めて、このローラの回転により商品が最前列に自動的に並ぶようにした商品陳列棚が開発されるようになってきた。しかしながら、このような陳列棚にあっては、部品点数が多く製造が容易でないばかりか、極めて高価になるという問題点がある。
【0005】
この問題点に対して、陳列棚に滑り性を向上させた板材を用い、板材に傾斜を設けることにより、商品の自重で板材表面を滑らせて、商品の配置をコントロールする技術が検討されている。
【0006】
下記にあげる特許文献が、これらの代表的なものとして挙げられるものである。下記特許文献にて開示されている技術は、いずれもフッ素系樹脂を用いて板材表面の滑りやすさを向上させる技術であり、特許文献1は四フッ化エチレン樹脂を用いて表面を滑りやすくしたものである。また、特許文献2は、フッ素樹脂粉末を塗料中に配合し、塗膜表面にフッ素樹脂粉末を配向させ表面を滑りやすくさせたものである。
【0007】
[特許文献1]特開平8−57413号公報
[特許文献2]特開平8−183137号公報
しかしながら特許文献1及び2に開示された技術は、以下のような問題点を有していた。
すなわち、フッ素樹脂粉末を添加した塗料に関しては、陳列した商品が滑る際の摩擦によってフッ素樹脂粉末が塗膜から脱落し、塗膜の滑り性の持続性(耐久性)が充分でないことが問題となっていた。また、四フッ化エチレン樹脂を用いた場合には、焼き付け温度が従来の塗料と比較して、非常に高温(例えば、特許文献1では240℃〜300℃)となるため、製造コストが高くなることが問題となっていた。」
そして、上記課題を解決するために、特許文献1では、「板材表面に、ポリオレフィン系添加剤を、塗膜中に0.05〜10質量%含み、動摩擦係数0.25以下の凹凸状粉体塗料塗膜を形成したことを特徴とする板材」(請求項1)及び「該板材を棚板に用い、棚板を、塗膜を形成した面を上にして水平面に対して5°以上の角度で前側が下方に傾斜してあることを特徴とする陳列棚」(請求項2)が提案されている。
【特許文献1】特開2006-88563号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、梨地の滑性塗膜(表面塗膜)を備えた滑性処理板材において、上記特許文献等に記載されていない、新規な構成で、滑り性が良好であるとともに、実用的な耐久性を有する滑性処理板材及び該板材を用いた商品陳列棚を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意開発に努力をする過程で、梨地を形成する樹脂粉末としてポリアミド粉末と少量のフッ素樹脂粉末とを組み合わせれば、フッ素樹脂粉末の脱落乃至摩耗が発生し難く、滑り性に優れ、かつ、実用的な耐久性が得られることを知見して、下記構成の滑性処理板材及び商品陳列棚に想到した。梨地塗膜に滑り性に優れ、かつ、実用的な耐久性が得られる理由は、ポリアミドは、相対的に摩擦係数が小さく耐摩耗性及び自己潤滑性に優れているためであると推定される。
【0010】
基板上に、樹脂粉末により梨地(サテン面)とされている表面塗膜を備えた滑性処理板材において、梨地を形成する樹脂粉末が、ポリアミド粉末とフッ素樹脂粉末との組合せとされて、実用的な滑り性及び表面耐久性が滑性塗膜に付与されていることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の滑性処理板の望ましい態様について説明する。ここでは、商品陳列棚板を例に採り説明する。製品(商品)等の滑り性が要求される、工場や物流等における製品搬送路面形成部材としての適用も期待できる。
【0012】
本実施形態の滑性処理板は、基本的には、基板12上に、樹脂粉末14、16により梨地(サテン面)に形成された滑性塗膜(表面塗膜:梨地塗膜)17を備えたものである(図1参照)。
【0013】
基板12は、棚板の場合、0.5〜2.0mmtのスチール板(鋼板)とする。ステンレス板やアルミニウム板等の他の金属板、さらには、めっき処理したものでであってもよい。基板12としては、通常、梨地塗膜17との接着性の見地から、基板本体19にプライマー処理20を形成したものを使用する。この際、両面が防錆・美装等のために、塗膜処理(例えば粉体塗装)20,20した汎用棚板を代替使用可能である。該粉体塗装の塗膜形成樹脂としては、後述の滑性塗膜と同様な樹脂、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル等を使用可能である。
【0014】
上記構成において、梨地を形成する樹脂粉末として、ポリアミド粉末14とフッ素樹脂粉末16との組合せを採用する。なお、ポリアミド粉末やフッ素樹脂粉末以外の滑性付与剤も適宜添加することができる。例えば、超高分子ポリエチレン、ケイ素樹脂等の粉末も適宜組み合わせることができる。
【0015】
ここで、ポリアミドとしては、通常、相対的に摩擦係数が小さく耐摩耗性及び自己潤滑性に優れている直鎖脂肪族ポリアミド(ナイロン)を使用するが、芳香族ポリアミド(アラミド)であってもよい。
【0016】
ナイロンとしては、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12等を例示できる。
【0017】
これらのうちで、ナイロン66やナイロン6が、汎用性に富む。ポリアミド粉末は、平均粒径20〜60μm、望ましくは25〜50μmの範囲から、適宜、選定して使用する。平均粒径が小さすぎると、表面に露出してフッ素樹脂との協働による滑性付与作用を奏し難い。平均粒径が大きすぎると、表面塗膜からの離脱が発生し易くなる。
【0018】
また、フッ素樹脂とは、フッ化炭化水素の重合体を意味し、下記のものポリフルオロエチレン系のものを例示できる。
【0019】
ポリテトラフルオロエチレン(PTEF)
ポリクロロトリフルオロエチレン
ポリテトラフルオロエチレン/ポリエチレン混合系
ペルフルオロアルキドビニルエーテルおよびヘキサフルオロプロピレンとのそれぞれの共重合体
ポリフッ化ビニリデン
ポリフッ化ビニル、など。
【0020】
これらのうちで、表面摩擦抵抗が小さいPTFEが望ましい。
【0021】
そして、フッ素樹脂粉末は、平均粒径5〜40μm、の範囲から、適宜、選定して使用する。平均粒径が小さすぎると、フッ素樹脂は他の樹脂成分に比して比重が高く(例えば、PTFEの場合2.1〜2.2)の表面塗膜の下側界面側に沈降し易く、滑性改善作用を奏するために、多量のフッ素樹脂が必要となるともに、下側界面層との接着性に悪影響を与えるおそれがある。平均粒径が大きすぎると、表面塗膜からの離脱が発生し易くなる。
【0022】
ここで、ポリアミド粉末に対するフッ素樹脂粉末の混合質量比(後者/前者)=0.5/9.5〜5/5で、望ましくは1.5/8.5〜4/6とする。
【0023】
ポリアミド粉末の比率が過多では、商品陳列棚板に適用した場合、商品容器の底部形状等によっては商品用滑り性を付与し難くなることがある。
【0024】
他方、フッ素樹脂粉末の比率が過多では、商品陳列棚板に適用した場合、前記特開平8−57413号公報に記載の問題点「陳列した商品が滑る際の摩擦によってフッ素樹脂粉末が塗膜から脱落し、塗膜の滑り性の持続性(耐久性)が充分でない。」が発生し易くなるとともに、相対的に塗料コストが嵩む。
【0025】
本発明の表面塗膜(滑性塗膜)17の塗膜母材(マトリックス)18を形成する母材樹脂としては、特に限定されず、前述の特許文献1に記載のような下記各種塗料用樹脂を単独又は複数種組み合わせて使用可能である。
【0026】
変性ポリエステル(ポリエステル−ウレタン硬化系樹脂、ポリエステル−エポキシ硬化系樹脂)、アミノ樹脂(メラミン樹脂、尿素樹脂、グアナミン樹脂等)、エポキシ系樹脂、アルキド樹脂、アミノ・アルキッド樹脂、フェノール樹脂、アクリル系樹脂、アクリル−ポリエステル系樹脂、ポリエステル、ブロックイソシアネート樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、アミド樹脂、ABS樹脂、ノボラック樹脂、フェノキシ樹脂、ブチラール樹脂、ケトン樹脂等を挙げることができる。
【0027】
また、本実施形態における滑性塗膜(表面塗膜)17の厚みは、通常、30〜80μm、望ましくは35〜60μmとする。塗膜が薄すぎると、所要の耐久性を得難く、厚すぎても過剰品質となり、省資源の見地から望ましくない。
【0028】
ここで、滑性塗膜(梨地塗膜)17中における前記梨地形成樹脂粉末(ポリアミド粉末14やフッ素樹脂粉末16等)の含有率は、5〜30質量%、望ましくは10〜20質量%とする。樹脂粉末の含有率が過少では、表面に梨地を形成し難いとともに、所要の表面滑性を得難い。他方、樹脂粉末の含有率が過多では、相対的に結合材(母材)樹脂の比率が過少となり、樹脂粉末が離脱し易くなる。
【0029】
そして、上記梨地塗膜の形成に使用する塗料の形態は、特に限定されないが、多品種少量生産の場合は、粉体塗料の如く、特別な設備を必要とせず、スプレーや刷毛塗りなどの手作業的塗布が可能な液状形(溶液形、エマルション形、サスペンション;油性(有機溶剤)乃至水性の双方)が望ましい。
【0030】
ちなみに、特許文献1段落0010に「粉体塗料以外の塗料、例えば有機溶剤系塗料又は水系塗料を用いた場合は、滑り性は良好であるものの粉体塗料ほどの膜厚を確保することが困難となり、滑り性の耐久性が劣るので好ましくない。」と記載されている。
【0031】
しかし、本実施形態では、樹脂粉末としてポリアミド粉末とともに少量のフッ素樹脂粉末を併用することにより、所要の耐久性が得られることを知見したものである。
【0032】
そして、上記液状塗料を使用する場合は、通常、スプレー塗布乃至刷毛塗りにより梨地塗膜を形成する。
【0033】
このとき、基板12としては、前述のものを使用する。
【0034】
そして、上記液状形の塗料を基板12の製品載置予定面側に塗布後、通常、焼付け処理を行う。塗料が熱硬化性でない場合は、必然的ではない。該焼付け処理の条件は、樹脂粉末が溶融せず、母材が合理的な時間で硬化可能な温度なら特に限定されない。例えば、エポキシ系樹脂、アミノ系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂(いずれも熱硬化性)の場合、焼付け条件:120〜170℃×10〜30minとする。
【0035】
次に、本実施形態の商品陳列棚板22の使用態様を説明する。
【0036】
商品陳列棚板22を、商品陳列棚の支柱(フレーム)24、24に組み付けて使用する。なお、図2(a)は商品陳列棚板22を支柱24、24間に組み付けた斜視図であり、(b)は側面図である。
【0037】
商品陳列棚板22は、左右の支柱24、24の各々に設けてある係止孔26にブラケット28の係止爪28aを介して係止し、左右のブラケット28、28の上に棚板(板材)22を載せて係合してある。棚板22は滑性処理面22aを上にして組み付け、水平面に対して、所定角度(通常、5〜15°)αで前方に向かって下方へ傾斜している。棚板22の前端には落下防止板(図例では透明矩形板)30が取り付けられている
該棚板22の商品載置面22aには、ペットボトル入り飲食品や缶入り飲食品等の商品が前後方向(奥行き方向)に列をなすようにして陳列される。そして、最前列の一つを取り除くとその後側にある商品が自重により棚板上を滑って順次前側に繰り出される。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の効果を確認するために行った比較例とともに行った実施例について説明をする。
【0039】
汎用の棚板(スチール板)の上に表1に示す各組成処方のサテン塗料(比較例1、実施例1〜3)を塗布して、150℃×20minの条件で焼付け硬化させて、平均塗膜厚40μmの各実施例の棚板を調製した。
【0040】
【表1】

こうして調製した棚板を、傾斜角度8°になるように組み付けた後、表2に示す仕様の各飲食品ボトル・缶(サンプル)について、下記滑り性能試験及び耐久性能試験を行った。
【0041】
表2における各飲料ボトル・缶の後の括弧内の表示はそれぞれ下記底部形状を意味する。
【0042】
・菊座底:PETボトルにおける炭酸飲料用特有の菊座型(凹凸型)底面
・平面底:PETボトルにおける外周面全体が接地する底面
・カシメ底:底部と側面がカシメて製造されている缶の底面
・プレス底:底部と側面が一体で製造されている缶の底面
<滑り性能試験>
表示の各飲料ボトル・缶、各10個をそれぞれ異なる位置で棚板の一番奥から前端止板まで滑らせて、目視により下記基準にしたがって判定した。
【0043】
◎:全体的に全個数滑り性が良好である。
【0044】
○:滑りスピード遅いものが稀に現れるが、概ね良好である。
【0045】
□:滑りスピードが全体的に若干遅いが止まるものはない。
【0046】
<耐久性能試験>
同一箇所で表示の各飲料ボトル・缶について棚板の一番奥から落下防止板まで表示の回数滑らせ後の滑り性を、上記と同様にして判定した。
【0047】
<試験結果と分析>
表2に示す試験結果から、フッ素樹脂/ナイロン混合質量比(PTFE/PA6)が、PTFE/PA6=1.5/8.5〜4/6の範囲が安定した滑り性とともに耐久性が得られることが分かる。耐久性を重視する場合は、PTFE/PA6=1.5/8.5以上2/8未満の範囲が、滑り性を重視する場合は、PTFE/PA6=2/8以上4/6未満の範囲が望ましいことが分かる。滑り性を特に重視し耐久性を若干犠牲にする場合は、PTFE/PA6=4/6以上でも実用化可能であることが分かる。なお、通常の使用態様では、滑り繰り返し回数15000回で問題は無いとされている。
【0048】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明における滑性処理板材のモデル断面図である。
【図2】(a)は商品陳列棚板を支柱間に組み付けた斜視図であり、(b)はその側面図である。
【符号の説明】
【0050】
12 基板
14 梨地形成樹脂粉末(ポリアミド粉末)
16 梨地形成樹脂粉末(フッ素樹脂粉末)
17 滑性塗膜(表面塗膜、梨地塗膜)
18 塗膜母材(マトリックス)
22 商品陳列棚板




【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、樹脂粉末により梨地(サテン面)に形成された滑性塗膜(表面塗膜)を備えた滑性処理板材において、
前記梨地を形成する樹脂粉末が、ポリアミド粉末とフッ素樹脂粉末との組合せとされて、実用的な滑り性及び表面耐久性が前記滑性塗膜に付与されていることを特徴とする滑性処理板材。
【請求項2】
前記ポリアミド粉末が平均粒径20〜60μmの範囲から、前記フッ素樹脂粉末が平均粒径5〜40μmの範囲からそれぞれ選択されるとともに、前記ポリアミド粉末に対する前記フッ素樹脂粉末の混合質量比(後者/前者)=0.5/9.5〜5/5であることを特徴とする請求項1記載の滑性処理板材。
【請求項3】
前記滑性塗膜の厚みが30〜80μmであるとともに、前記樹脂粉末の塗膜中の含有率が5〜30質量%であることを特徴とする請求項1又は2記載の滑性処理板材。
【請求項4】
前記滑性塗膜と前記基板との間に、適宜、下地塗膜が形成されていることを特徴とする請求項1、2又は3記載の滑性処理板材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一記載の滑性処理板材における前記滑性塗膜を液状塗料で形成することを特徴とする滑性処理板材の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一記載の滑性処理板材で形成され、前記滑性塗膜の面を商品載置面として、前方への傾斜角度5〜15°の範囲で棚フレームに組み付け可能とされていることを特徴とする商品陳列棚板。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−307866(P2008−307866A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160643(P2007−160643)
【出願日】平成19年6月18日(2007.6.18)
【出願人】(000213138)中日産業株式会社 (20)
【Fターム(参考)】