説明

漏れ光によるき裂貫通検出方法

【課題】 表面き裂を持つ配管や圧力容器からのき裂貫通の検出において、内部に封入・加圧した溶媒によらずに、漏れ光によりき裂貫通を検出する方法を提供する。
【解決手段】 金属製の配管または圧力容器の表面または内部の欠陥、き裂、切欠き等からのき裂の成長によるき裂貫通を検出する方法であって、配管または圧力容器の壁面の片面に光が侵入しないように遮光して暗空間を作るとともに、前記壁面の対面に照明または自然光を照射して明空間を作り、前記暗空間の欠陥、き裂、切欠き等を見込む位置に受光素子を配し、漏れ光侵入を計測することにより、き裂の貫通を検出することを特徴とする、漏れ光によるき裂貫通検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の配管や圧力容器において、き裂貫通を漏れ光により検出する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
配管や容器では、疵や欠陥からき裂が成長し、貫通に至ることにより内容物が漏洩することを防止することが安全上重要である。き裂が貫通に至るまでの実験は数多くなされているが、非特許文献1にあるように、試験体を密閉容器とし水等の液体で若干の内圧を加えてその漏洩により貫通を検出するのが一般的である。
【0003】
一方、薄い不透明素材のピンホールや欠陥の検出では、漏れ光を利用した光学的検出法が用いられる場合があるが、例えば、特許文献1にあるように、厚さとピンホール寸法が同程度の場合に用いられる手法であり、また、割れのように開口量が小さい場合には、特許文献2のように、内圧により開口量を大きくして測定する方法が用いられている。したがって、1mm以上の厚さのある材料において、き裂のように開口量が小さいものの検出には適用されなかった。
【特許文献1】特開2002−257740号公報
【特許文献2】特開2000−065757号公報
【非特許文献1】日本ガス協会「高圧ガス導管液状化耐震設計指針及び資料編」(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
表面き裂を持つ配管や圧力容器のモデル破壊試験では、通常、試験体を密閉容器とし水やガス等の液体または気体で若干の内圧を加えてその漏洩により貫通を検出するのが一般的である。このような貫通直後のき裂は開口量が小さいことから、そのき裂の貫通は、液体の滲み出しを目視により観察するか、石鹸水を利用して泡が発生するのを目視で観察する等の方法で検出される。
【0005】
しかしながら、このように試験体を密閉するためには溶接等により密閉構造とする必要があり、内容媒質の封入・加圧のためのバルブやポンプも必要となる。また、液体で加圧する場合には、液体の重量が付加的な荷重を生ずるため、実験結果に影響する。気体で加圧する場合には万が一破壊した場合の危険が伴うため安全対策が重要となる。さらに、液体・気体を問わず圧力をかける場合には、内圧自体が試験結果に影響を与える可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、表面き裂を持つ金属製の配管や圧力容器からのき裂貫通の検出において、内部に封入・加圧した溶媒によらずに、漏れ光によりき裂貫通を検出する方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために光学的計測方法を適用することを試みた。一般に、金属の脆性破壊や延性破壊で生じるき裂では、き裂面は必ずしも平坦でなく、むしろ起伏が大きく、方向も随時変えながら進展するのが一般的である。したがって、き裂貫通直後の開口量が小さい状態では、配管や圧力容器の表面からの目視で、き裂貫通を判断するのは困難である。しかし、本発明者らは、延性破壊や脆性破壊のようにき裂進展が比較的短時間に生ずる場合、破面は生成直後の新生面であり光の反射率が大きい点に着目すれば、開口量が小さく、また起伏が大きいため、破面の空間を光が直進できないき裂貫通直後の状態でも、破面での反射により漏れ光が板厚を横切って到達可能であると考えた。本発明は、このような着想に基づき、さらに検討して初めて完成されたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)金属製の配管または圧力容器の表面または内部の欠陥、き裂、切欠き等からのき裂の成長によるき裂貫通を検出する方法であって、配管または圧力容器の壁面の片面に光が侵入しないように遮光して暗空間を作るとともに、前記壁面の対面に照明または自然光を照射して明空間を作り、前記暗空間の欠陥、き裂、切欠き等を見込む位置に受光素子を配し、漏れ光侵入を計測することにより、き裂の貫通を検出することを特徴とする、漏れ光によるき裂貫通検出方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属製の配管または圧力容器等に存在する欠陥、き裂、切欠き等からのき裂成長によるき裂貫通を、配管または圧力容器に、貫通を計測するための付加的な圧力を加えることなく測定することができるため、より安全に、かつ、より正確に金属製の配管または圧力容器等の破壊特性を評価することができる等、その産業上有用な著しい効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施の形態を、図1を用いて説明する。すなわち、本発明は、金属製の配管または圧力容器1の表面または内部の欠陥、き裂、切欠き等2からのき裂の成長によるき裂貫通を検出する方法であって、配管または圧力容器の壁面の片面に光が侵入しないように遮光して暗空間3を作るとともに、前記壁面の対面(暗空間3と逆側の壁面)に照明または自然光5を照射し明空間4を作り、その暗空間の欠陥、き裂、切欠き等を見込む位置に受光素子6を配し、漏れ光侵入を計測することにより、き裂の貫通を検出することを特徴とする。
【0010】
図2は、内面側切欠き付き金属配管溶接部の引張り試験に、本発明を適用する場合について説明するものである。
【0011】
配管では漏洩が生じることが配管としての機能を損なうことになるため、き裂の板厚貫通が重要な損傷の判断基準になる。配管21の溶接部相当位置に溶接欠陥を模擬した内面側表面切欠き22を付与し、引張り試験により、切欠きからの破壊について評価する試験においては、切欠きの板厚貫通の有無を調査する必要がある。この様な試験の際、配管の内面側に、切欠きから300mm以内の位置で、切欠き正面から30度以内の角度に、フォトダイオード23を固定する。フォトダイオードは、その指向性の範囲内のなるべく中央にき裂を見込む方向に固定するのが好ましい。また、フォトダイオードは、なるべく感度の高いものが望ましく、光電子倍増管等の高感度受光素子で代用することも可能である。
【0012】
配管両端に暗幕24を配して暗空間26を作り出すが、その際、フォトダイオードの出力を確認しながら、ノイズレベルが低くなるよう、暗幕の取り付けおよびフォトダイオードの感度を調節する。次に、配管外面側の切欠き位置から1m以内の距離で、切欠き位置の正面から30度以内の位置に、60Wの電球と同等以上の明るさの照明25を配置し、照明25から投光した上でフォトダイオード出力を測定しながら引張り試験を実施する。
【0013】
このような引張り試験では、切欠きより延性き裂または脆性き裂が発生して貫通に至るが、これらのき裂は必ずしも平坦でなく、き裂が貫通しても照明光はフォトダイオードまで直進では到達できない。しかしながら、金属材料の新たに形成された延性破面および脆性破面は反射率が高いため、照明光はき裂表面で反射を繰り返してフォトダイオードに到達することが出来る。このため、き裂が貫通した直後の開口量が小さい状態でフォトダイオードによる検知が可能である。
【0014】
次に、圧力容器用鋼表面切欠き付き引張り試験において、き裂貫通を検出する場合の実施形態を、図3を用いて説明する。
【0015】
圧力容器用鋼溶接部の表面切欠き付き試験片31の引張り試験において、切欠きからのき裂の貫通の有無を調査する場合がある。これは、圧力容器では、き裂の貫通による漏洩が重要な損傷の判断基準になるのは配管の場合と同様であるが、圧力容器全体で試験をするのが試験機の能力上困難なため、作成した溶接継手に切欠きを付与して載荷可能な寸法の引張り試験が行われる。
【0016】
この様な試験の際、表面切欠き32から300mm以内の位置で、切欠き正面から30度以内のなるべく正面の位置に、フォトダイオード33を固定する。フォトダイオードはその指向性の範囲内のなるべく中央にき裂を見込む方向に固定する。フォトダイオードはなるべく感度の高いものが望ましい。
【0017】
この様な平板の試験片の場合、遮光して暗空間37を作成するのは配管の場合より困難であるが、周囲を内面に黒色塗装した不透明のボックス34で囲い、試験片とボックスの隙間をテープ35により遮光して暗空間を作ることができる。ボックスは遮光を確実にするため2重にするのが好ましい。またその際、フォトダイオードの出力を確認しながら、ノイズレベルが低くなるよう、暗幕の取り付けおよびフォトダイオードの感度を調節する。次に、試験片のボックスと反対側の切欠き位置から1m以内の距離で、切欠き位置の正面から30度以内の位置に、60Wの電球と同等以上の明るさの照明36を配置し、照明25から投光した上でフォトダイオード出力を測定しながら引張り試験を実施する。
【0018】
このような引張り試験の場合も、切欠きより延性き裂または脆性き裂が発生して貫通に至るが、配管の引張り試験と同様これらのき裂は必ずしも平坦でなく、き裂が貫通しても照明光はフォトダイオードまで直進では到達できない。この場合も、照明光はき裂表面で反射を繰り返してフォトダイオードに到達することが出来る。このため、き裂が貫通した直後の開口量が小さい状態でフォトダイオードによる検知が可能であることは配管の引張り試験の場合と同様である。
【実施例】
【0019】
図2に用いた手法により、鋼管の引張り試験を実施した。切欠きの変形状態を測定するためダブルクリップゲージにより開口量を測定した。荷重、試験機ストローク、フォトダイオード出力を図4に示す。開口時点でフォトダイオードに微小出力が生じ、き裂貫通を検知した。
【0020】
図3に用いた手法により、表面切欠き付き広幅試験を実施した。試験は2体実施した。試験結果を表1に示す。試験片1では、フォトダイオードでのき裂貫通検知後直ちに除荷した。試験片2では、試験片1のき裂検知位置より手前の変位7.2mmでき裂貫通検知が無いことを確認し除荷した。両試験片とも試験後切欠き位置で切断、研磨し切断面を観察してき裂の貫通の有無を調査した。その結果を表1に併記した。表1から、本発明の方法で、き裂の検知が確実になされたことが分かる。
【0021】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】欠陥等を持つ金属部材に明空間と暗空間を作りき裂貫通を検出する本発明を、概略的に示す図である。
【図2】内部を暗空間とした金属配管の引張り試験に本発明を適用した場合を模式的に説明する図である。
【図3】切欠き側を暗空間とした表面切欠き付き引張り試験に本発明を適用した場合を模式的に説明する図である。
【図4】内部を暗空間とした金属配管の引張り試験に本発明を適用した場合の、荷重、試験機ストローク、フォトダイオード出力の経時変化の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
1 配管または圧力容器
2 欠陥等
3 暗空間
4 明空間
5 照明または自然光
6 受光素子
21 配管
22 切欠き
23 フォトダイオード
24 暗幕
25 照明
26 暗空間
31 試験片
32 切欠き
33 フォトダイオード
34 ボックス
35 テープ
36 照明
37 暗空間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の配管または圧力容器の表面または内部の欠陥、き裂、切欠き等からのき裂の成長によるき裂貫通を検出する方法であって、配管または圧力容器の壁面の片面に光が侵入しないように遮光して暗空間を作るとともに、前記壁面の対面に照明または自然光を照射して明空間を作り、前記暗空間の欠陥、き裂、切欠き等を見込む位置に受光素子を配し、漏れ光侵入を計測することにより、き裂の貫通を検出することを特徴とする、漏れ光によるき裂貫通検出方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−14687(P2008−14687A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−184029(P2006−184029)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】