説明

漏洩検出システム

【課題】プラントの配管、ガス容器等からガスが漏洩したことを検出する場合に、風向及び風速の影響を低減するとともに、迅速にガスの漏洩を検出すること。
【解決手段】漏洩検出システム1は、プラントにおいて配管110、111、112あるいはガス容器100、101からガスが漏洩したときの音を検出でき、かつプラントに設置される複数の音響検出器2A、2B、2C、2Dと、少なくとも、複数の音響検出器2A、2B、2C、2Dが検出した音の情報が得られた時間に基づいて、配管110、111、112等からガスが漏洩した位置を求める漏洩予測装置5と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスを取り扱うプラントにおいて、配管あるいはガスを蓄える容器等からのガスの漏洩を検出することに関する。
【背景技術】
【0002】
石炭ガス化炉、石炭ガス化複合発電プラント又は化学プラント等の各種のプラントは、様々な種類のガスを通過させる配管及び前記ガスを蓄えるガス容器等を有する。このため、万一、前記配管等からガスが漏洩した場合、これを検知することが必要である。ガスを取り扱う各種のプラントにおいて、ガスの漏洩を検出する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3025503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ガスの漏洩を検出する手段として、いくつかのガス検出器が知られている。例えば、拡散式・吸引式ガス検出器又は光学式ガス検出器等がある。拡散式・吸引式ガス検出器の場合、風向及び風速によりガスの拡散方向が異なり、ガス検出器が設置されている位置をガスが通らないおそれがある。その結果、ガスの漏洩を検出する精度が低下したり、ガスが漏洩してから検出されるまでの応答が遅くなったりするおそれがある。
【0005】
光学式ガス検出器の場合、光が透過又は拡散する必要があるため、プラントのガス容器及び配管のレイアウトの関係上、死角が発生する。プラントが有する配管等の外面を監視する場合、死角のエリアは少なくなるが、ガスが漏洩した位置の検出には風向風速、検出濃度・時間から予測する必要がある。その結果、ガスの漏洩を検出する精度が低下したり、ガスが漏洩してから検出されるまでの応答が遅くなったりするおそれがある。
【0006】
本発明は、プラントの配管、ガス容器等からガスが漏洩したことを検出する場合に、風向及び風速の影響を低減するとともに、迅速にガスの漏洩を検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る漏洩検出システムは、プラントにおいてガスを内封する機器から前記ガスが漏洩したときの音を検出でき、かつ前記プラントに設置される複数の音響検出器と、少なくとも、前記複数の音響検出器が検出した音の情報が得られた時間に基づいて、前記機器から前記ガスが漏洩した位置を求める漏洩予測装置と、を含むことを特徴とする。
【0008】
この漏洩検出システムは、プラントの配管又はガスを蓄える容器(ガス容器)等からガスが漏洩したときの音と、その音を複数の音響検出器が検出したときの時間とに基づいて、ガスが漏洩した位置を予測する。このため、ガスが検出器に到達しなくともガスの漏洩を検出できる。すなわち、この漏洩検出システムは、ガスの拡散の影響を考慮する必要はないので、ガスの漏洩を検出し、漏洩した位置を予測する際には、風向及び風速の影響を低減でき、かつ、迅速にガスの漏洩を検出して、ガスが漏洩した位置を迅速に予測することができる。
【0009】
本発明の望ましい態様として、前記音の情報は、前記音の音質を含み、前記漏洩予測装置は、前記音質に基づいて漏洩したガスの種類を予測することが好ましい。ガスの種類は、ガスが漏洩したときに発生する音に依存する。このため、この漏洩検出システムは、ガスが漏洩したときの音の情報として前記音の音質(周波数)を用いて漏洩したガスの種類を予測することができる。
【0010】
本発明の望ましい態様として、前記音の情報は、前記音の音圧を含み、前記漏洩予測装置は、前記音圧に基づいて漏洩した部分の孔の大きさを予測することが好ましい。このように、ガスが漏洩したときに発生する音の情報として、当該音の音圧を用いることにより、ガスが漏洩した箇所の孔の寸法を予測することができる。
【0011】
本発明の望ましい態様として、前記プラントの運転状態に起因する暗騒音の情報を記憶する記憶装置を有し、前記漏洩予測装置は、前記音響検出器が検出した前記音の情報を前記暗騒音の情報で補正することが好ましい。このようにすれば、音響検出器が検出した音から、プラントの運転状態に起因する暗騒音を除外してガスの漏洩した音を取得できるので、ガスが漏洩した位置を求める際の精度低下を抑制できる。
【0012】
本発明の望ましい態様として、前記漏洩予測装置は、前記音響検出器が検出した音の変化量と持続時間との少なくとも一方を前記暗騒音の情報として、前記音響検出器が検出した前記音の情報を補正することが好ましい。このようにすれば、音の変化量と持続時間との少なくとも一方から、個々の暗騒音に特有なパターンを抽出し、これを利用して暗騒音の発生及び暗騒音の種類を特定することができる。
【0013】
本発明の望ましい態様として、前記記憶装置は、前記ガスを内封する機器の位置情報と、前記機器の条件とを対応付けて記憶し、前記漏洩予測装置は、前記機器から前記ガスが漏洩した位置と、前記機器の条件とに基づいて、前記ガスが漏洩した機器の位置を求めることが好ましい。このように、ガスを内封する機器の位置情報に対して、機器の条件(機器が内封し、かつ取り扱うガスの情報)を対応付けておくことで、予測されたガスの漏洩位置に存在する機器の情報を利用してガスが漏洩した機器をさらに詳細に予測することができる。
【0014】
本発明の望ましい態様として、前記音響検出器の他に、ガス検出器を有することが好ましい。このように、音響検出器以外のガス検出器を用いることで、さらに高い精度でガスの漏洩を検出することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、プラントの配管、ガス容器等からガスが漏洩したことを検出する場合に、風向及び風速の影響を低減するとともに、迅速にガスの漏洩を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施形態1に係る漏洩検出システムの構成図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る漏洩検出システムが、ガスの漏洩を検出する処理手順を示すフローチャートである。
【図3】図3は、音響検出器と配管類との位置関係を模式的に示した平面図である。
【図4】図4は、音響検出器と配管類との位置関係を模式的に示した平面図である。
【図5】図5は、音響検出器と配管類との位置関係を模式的に示した平面図である。
【図6】図6は、プラントの運転時における音圧の時間変化の一例を示す図である。
【図7】図7は、音響検出器が検出したプラントの音を補正する方法を示す模式図である。
【図8】図8は、ガスが漏洩した配管類を特定する際に用いるデータベースを示す模式図である。
【図9】図9は、実施形態3に係る漏洩検出システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0018】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係る漏洩検出システムの構成図である。漏洩検出システム1は、石炭ガス化炉、石炭ガス化複合発電プラント又は化学プラント等といった、ガスを取り扱う種々のプラントにおいて、ガスを通過させる配管及び前記ガスを蓄える容器(ガス容器)等からのガスの漏洩を検出するものである。
【0019】
ガスを取り扱うプラントは、ガスを通過させる配管110、111、112及びガスを蓄えるガス容器100、101を有する。配管110、111、112及びガス容器100、101は、いずれもプラントにおいて、ガスを内封する機器である。以下、前記機器を配管類という。漏洩検出システム1は、複数の音響検出器2A、2B、2C、2Dと、漏洩予測装置5とを含んでいる。以下において、複数の音響検出器2A、2B、2C、2Dそれぞれを区別する必要がない場合には、単に音響検出器2という。図1には、4個の音響検出器2A、2B、2C、2Dが示されているが、音響検出器2の数は3個以上あればよく、4個に限定されるものではない。
【0020】
音響検出器2は、プラント、特に、配管類の近傍に設置されている。そして、音響検出器2は、配管類からガスが漏洩したときに発生する音を検出できる機能を有している。音響検出器2は、音圧(音の大きさ)及び周波数(音質)の両方を検出できることが好ましい。このような音響検出器として、例えば、音を電気信号に変換するマイクロフォンが用いられる。音響検出器2は、プラント内における不特定の位置でガスの漏洩が発生したことを検出する必要があることから、指向性を有さない又は指向性の低い特性を有することが好ましい。
【0021】
漏洩予測装置5は、例えば、コンピュータである。漏洩予測装置5は、音響検出器2が検出した音、すなわち配管類からガスが漏洩したときに発生する音(漏洩音)の情報(漏洩音情報)が得られた時間に少なくとも基づいて、配管類からガスが漏洩した位置(漏洩位置)を求める。漏洩音情報は、漏洩音の音圧、周波数、持続時間等を含む。本実施形態において、漏洩予測装置5は、記憶装置6を有する。記憶装置6は、漏洩予測装置5が漏洩位置を予測する際に用いるコンピュータプログラム又はデータを記憶している。
【0022】
それぞれの音響検出器2A、2B、2C、2Dは、伝送変換器3A、3B、3C、3D及び信号変換器4を介して漏洩予測装置5と電気的に接続されている。伝送変換器3A、3B、3C、3Dは、音響検出器2A、2B、2C、2Dが検出した音の電気信号を、例えば、ディジタル信号に変換して信号変換器4に送信する装置である。信号変換器4は、伝送変換器3A、3B、3C、3Dから送られてきた信号を、漏洩予測装置5が利用できる書式に変換する装置である。
【0023】
本実施形態において、信号変換器4と伝送変換器3A、3B、3C、3Dとの間は、有線で通信しているが、無線で通信してもよい。また、図1に示すように、信号変換器4の他に信号変換器4’を用いて、音響検出器2A、2B、2C、2Dからの情報伝達経路を二重化してもよい。このようにすれば、一方の情報伝達経路に何らかの異常が発生した場合でも、漏洩予測装置5は、音響検出器2A、2B、2C、2Dが検出した音の情報を取得できるので、漏洩検出システム1の信頼性が向上する。次に、漏洩検出システム1が配管類からのガスの漏洩を検出する処理手順を説明する。
【0024】
図2は、実施形態1に係る漏洩検出システムが、ガスの漏洩を検出する処理手順を示すフローチャートである。ステップS101において、漏洩検出システム1の漏洩予測装置5は、複数の音響検出器2のうち少なくとも1つが漏洩音を検出した場合(ステップS101、Yes)、処理をステップS102に進める。漏洩予測装置5は、複数の音響検出器2が漏洩音を検出していない場合、漏洩音の監視を継続する(ステップS101、No)。
【0025】
ステップS102において、漏洩予測装置5は、漏洩音を最も早く検出した音響検出器2を特定する。例えば、図1に示す例では、漏洩予測装置5が、複数の音響検出器2A、2B、2C、2Dのうち、最も早い時刻に漏洩音を検出したものを、漏洩音を最も早く検出した音響検出器2として特定する。次に、ステップS103へ進み、漏洩予測装置5は、音響検出器2が検出した漏洩音情報と、漏洩音情報が得られた時間(時刻)とに基づき、漏洩音を検出した音響検出器2からガスが漏洩した位置までの距離を求める。そして、ステップS104において、漏洩予測装置5は、前記距離を用いて、ガスが漏洩した位置を求める。このような処理手順によって、漏洩検出システム1は、プラントの配管類からガスが漏洩した位置を求める(予測する)。次に、ガスが漏洩した位置を漏洩予測装置5が求める方法を、より詳細に説明する。
【0026】
図3、図4は、音響検出器と配管類との位置関係を模式的に示した平面図である。この例において、ガス容器101からガスが漏洩したとする。ガス容器101の周りには、4個の音響検出器2A、2B、2C、2Dが設置されている。ガスの漏洩位置をOとし、Oを原点とした2次元のα−β座標系を考える。この例においては、α−β座標系における第3象限から第1象限へ向かう方向に風WDが吹いており、ガス容器101から漏洩したガスは、G1で示す領域に拡散している。
【0027】
音響検出器2Aが漏洩音を検出した時刻をta、音響検出器2Bが漏洩音を検出した時刻をtb、音響検出器2Cが漏洩音を検出した時刻をtc、音響検出器2Dが漏洩音を検出した時刻をtdとする。音響検出器2Aが漏洩音を最も早く検出したとする。最も早く漏洩音を検出した音響検出器2Aが漏洩音を検出した時刻と、これ以外の音響検出器2B、2C、2Dが漏洩音を検出した時刻との差を検出時間差Δtとする。音響検出器2Bの検出時間差はΔtb=tb−ta、音響検出器2Cの検出時間差はΔtc=tc−ta、
音響検出器2Dの検出時間差はΔtd=td−taとなる。
【0028】
音速をcとすると、音響検出器2A、2B、2C、2Dが漏洩音を検出した時点において、大気の状態は一定とみなすことができるので、音速cは一定とみなすことができる。音は、検出時間差Δtb、Δtc、Δtdによってそれぞれc×Δtb、c×Δtc、c×Δtd進行する。図4に示すように、最も早く漏洩音を検出した音響検出器2Aと漏洩位置Oとの距離をXとすると、音響検出器2Bと漏洩位置Oとの距離はX+c×Δtb、音響検出器2Cと漏洩位置Oとの距離はX+c×Δtc、音響検出器2Dと漏洩位置Oとの距離はX+c×Δtdとなる。図4に示す例では、xb=c×Δtb、xc=c×Δtc、xd=c×Δtdである。
【0029】
図4に示すように、ガス容器101の周りの音響検出器2A、2B、2C、2Dは、長方形の4個の角に設置される。すなわち、音響検出器2Aと音響検出器2Bとを結ぶ直線と、音響検出器2Dと音響検出器2Cとを結ぶ直線とは平行であり、音響検出器2Aと音響検出器2Dとを結ぶ直線と、音響検出器2Bと音響検出器2Cとを結ぶ直線とは平行である。また、音響検出器2Aと音響検出器2Bとを結ぶ直線は、音響検出器2Aと音響検出器2Dとを結ぶ直線及び音響検出器2Bと音響検出器2Cとを結ぶ直線と直交し、音響検出器2Dと音響検出器2Cとを結ぶ直線は、音響検出器2Aと音響検出器2Dとを結ぶ直線及び音響検出器2Bと音響検出器2Cとを結ぶ直線と直交する。
【0030】
音響検出器2Aと音響検出器2Bとの距離をLa、音響検出器2Bと音響検出器2Cとの距離をLb、音響検出器2Cと音響検出器2Dとの距離をLc、音響検出器2Dと音響検出器2Aとの距離をLdとする。なお、La=Lc、Lb=Ldである。α軸と平行な方向における音響検出器2Aと漏洩位置Oとの距離をλa、β軸と平行な方向における音響検出器2Bと漏洩位置Oとの距離をλb、α軸と平行な方向における音響検出器2Cと漏洩位置Oとの距離をλc、β軸と平行な方向における音響検出器2Dと漏洩位置Oとの距離をλdとする。
【0031】
この場合、次の式(1)〜式(4)が成り立つ。
X=√(λa+λb)・・・(1)
X+c×Δtb=√{λb+(La−λa)}・・・(2)
X+c×Δtc=√{(La−λa)+(Lb−λb)}・・・(3)
X+c×Δtd=√{(Lb−λb)+λa}・・・(4)
【0032】
式(1)〜式(4)から、Xを求める。式(1)〜式(4)において、Δtb、Δtc、Δtdは既知の値である。また、La、Lbは、音響検出器2A、2B、2C、2Dが設置される位置の情報(座標)から求めることができる。本実施形態において、音響検出器2A、2B、2C、2Dの位置の情報(座標)は、図1に示す記憶装置6に記憶されている。λa、λb及びXは未知数であるが、3個の未知数に対して4個の式が存在するので、λa、λb及びXは、式(1)〜式(4)から求めることができる。図1に示す漏洩予測装置5は、既知のΔtb、Δtc、Δtd、La、Lbを式(1)〜式(4)に与えてX、すなわち、最も早く漏洩音を検出した音響検出器2Aと漏洩位置Oとの距離を求める。
【0033】
Xを求めた後、漏洩予測装置5は、Δtb、Δtc、Δtdを用いて、音響検出器2Bと漏洩位置Oとの距離X+c×Δtb、音響検出器2Cと漏洩位置Oとの距離X+c×Δtc及び音響検出器2Dと漏洩位置Oとの距離X+c×Δtdを求める。漏洩予測装置5は、これらの値及び音響検出器2A、2B、2C、2Dの位置の情報(座標)を用いて、漏洩位置Oの位置(座標)を求めることができる。この手法においては、4個の音響検出器2A、2B、2C、2Dは、それぞれが長方形(正方形を含む)の4個の角に位置するように設置されている必要がある。次に、ガスが漏洩した位置を漏洩予測装置5が求める他の方法を説明する。
【0034】
図5は、音響検出器と配管類との位置関係を模式的に示した平面図である。図5は、ガスが漏洩したガス容器101の周りに、3個の音響検出器2A、2B、2Cが設置された例を示している。この例において、ガス容器101から漏洩したガスは、G1で示す領域に拡散している。音響検出器2Aと音響検出器2Bとの距離をYa、音響検出器2Bと音響検出器2Cとの距離をYb、音響検出器2Cと音響検出器2Aとの距離をYcとする。これらは、音響検出器2A、2B、2C、2Dが設置される位置の情報(座標)から求めることができるため、既知の値である。
【0035】
この例においては、音響検出器2Cが時刻tcに漏洩音を最も早く検出したとする。音響検出器2Aが漏洩音を検出した時刻をta、音響検出器2Bが漏洩音を検出した時刻をtbとする。音響検出器2Aの検出時間差はΔta=ta−tc、音響検出器2Bの検出時間差はΔtb=tb−tcである。音響検出器2Cと漏洩位置Oとの距離はXcである。xa=c×Δta、xb=c×Δtbとすると、音響検出器2Aと漏洩位置Oとの距離Xa=Xc+xa、音響検出器2Bと漏洩位置Oとの距離Xb=Xc+xbとなる。c、Δta、Δtbは既知なので、xa、xbは既知である。
【0036】
音響検出器2A、2B、2Cを頂点とする三角形の面積をS、音響検出器2A、2Bと漏洩位置Oとを頂点とする三角形TR1の面積をS1、音響検出器2B、2Cと漏洩位置Oとを頂点とする三角形TR2の面積をS2、音響検出器2C、2Aと漏洩位置Oとを頂点とする三角形TR3の面積をS3とする。この場合、面積S、S1、S2、S3は、下記の式(5)〜式(8)で求めることができる。ここで、s=(Ya+Yb+Yc)/2、s1=(Ya+Xa+Xb)/2、s2=(Yb+Xb+Xc)/2、s3=(Yc+Xc+Xa)/2である。
【0037】
S=√{s×(s−Ya)×(s−Yb)×(s−Yc)}・・・(5)
S1=√{s1×(s1−Ya)×(s1−Xa)×(s1−Xb)}・・・(6)
S2=√{s2×(s2−Yb)×(s2−Xb)×(s2−Xc)}・・・(7)
S3=√{s3×(s3−Yc)×(s3−Xc)×(s3−Xa)}・・・(8)
【0038】
S=S1+S2+S3である。式(5)〜式(8)において、Ya、Yb、Ycは既知である。Xa=Xc+xa、Xb=Xc+xbであるが、上述した通り、xa、xbは既知である。したがって、式(5)〜式(8)においてはXcのみが未知数である。したがって、方程式S=S1+S2+S3は、Xcを未知数とする一次方程式になるので、漏洩予測装置5は、既知の値を前記方程式に与えてXcについて解くことにより、Xc、すなわち、最も早く漏洩音を検出した音響検出器2Cと漏洩位置Oとの距離を求めることができる。
【0039】
Xcを求めた後、漏洩予測装置5は、Δta、Δtbを用いて、音響検出器2Aと漏洩位置Oとの距離Xa=X+xa、音響検出器2Bと漏洩位置Oとの距離Xb=X+xbを求める。漏洩予測装置5は、これらの値及び音響検出器2A、2B、2Cの位置の情報(座標)を用いて、漏洩位置Oの位置(座標)を求めることができる。この手法においては、3個の音響検出器2A、2B、2C相互の位置関係及びこれらと漏洩位置Oとの位置関係が把握できれば、漏洩位置Oの位置(座標)を求めることができる。
【0040】
漏洩予測装置5は、上述した方法により、少なくとも、複数の音響検出器2が検出した漏洩音情報が得られた時間に基づいて、漏洩位置Oの位置(座標)を求めることができる。この例は、3個の音響検出器2A、2B、2Cで囲まれる領域にガスの漏洩箇所があることが必要である。3個の音響検出器2A、2B、2Cで囲まれる領域外に存在するガスの漏洩箇所に対して、上述した手法を用いてXcを求めようとすると、Xcの値は正しい値にはならない。このため、Xcの値が正しい値にならない場合(例えば、負の値となる場合)には、3個の音響検出器2A、2B、2Cで囲まれる領域外にガスの漏洩箇所が存在すると判断することができる。
【0041】
この場合、漏洩予測装置5は、3個の音響検出器2A、2B、2Cのうち、最も早く漏洩音を検出した音響検出器(この例では符号2Cのもの)に隣接し、かつ、残りの2個の音響検出器とは異なる音響検出器を選択する。そして、選択した音響検出器と、最も早く漏洩音を検出した音響検出器と、前回において2番目に早く漏洩音を検出した音響検出器とから得られる漏洩音の検出時刻を用いて、Xcを求める。漏洩予測装置5は、これを繰り返して、Xcが正しい値(例えば、正の値)となったときのXcを用いて、ガスが漏洩した位置を求める。なお、漏洩予測装置5が漏洩位置Oの位置(座標)を求める方法は、上述したものに限定されない。
【0042】
配管類から漏洩したガスは、風向あるいは風速によって拡散の状態に影響を受ける。ガス検出器による漏洩検出は、ガスが拡散してきて初めて検出するので、ガスの拡散の状態によってはガスの漏洩の検出が遅れることがある。漏洩検出システム1は、漏洩音情報が得られた時間及び複数の音響検出器2の位置の情報に基づき、漏洩位置Oの位置を求める。このため、ガスの拡散の状態の影響に係わらず、漏洩したガスを検出し、漏洩位置Oの位置を求めることができる。
【0043】
また、漏洩検出システム1において、ガスの漏洩を検出するまでの時間は、音響検出器2の位置と漏洩位置Oとの距離を音速cで除した値になる。このため、漏洩検出システム1は、ガス検出器と比較して、極めて短い時間でガスの漏洩を検出することができる。また、漏洩検出システム1は、風速あるいは風向によらず、ガスが漏洩した位置の近傍に存在する音響検出器2が最大の音圧を検出して最大の電気信号を発生する。そして、ガスが漏洩した位置から遠い音響検出器2ほど、検出する音圧は小さくなるので、発生する電気信号も小さくなる。したがって、漏洩検出システム1は、音響検出器2が発生する電気信号の大きさ、すなわち、漏洩音の音圧の大きさに基づいて、音響検出器2と漏洩位置Oとの距離を推定することもできる。例えば、漏洩音の音圧の分布から、音響検出器2と漏洩位置Oとの距離を推定し、推定された前記距離に基づいて漏洩位置Oを求めることができる。さらに、漏洩検出システム1は、ガス検出器で検出できないガス種、例えば、空気又は窒素等でも、漏洩音により検出することができる。
【0044】
漏洩検出システム1の漏洩予測装置5は、漏洩音情報に含まれる漏洩音の音質、すなわち周波数に基づき、漏洩したガスの種類を予測することができる。一般に、分子量が小さい物資ほど音速が大きくなり、結果として周波数が高くなる傾向がある。これを利用して、漏洩予測装置5は、漏洩音の周波数からガスの種類を予測する。例えば、漏洩音の周波数とガスの種類とを対応付けて記憶装置6に記憶しておく。そして、漏洩予測装置5は、音響検出器2が検出した漏洩音の周波数に対応するガスを、漏洩したガスの種類とする。このようにして、漏洩検出システム1の漏洩予測装置5は、漏洩したガスの種類を予測することができる。なお、漏洩したガスの種類を予測する場合、さらに漏洩音の音圧を用いてもよい。このようにすれば、ガスの種類を予測する精度が向上する。
【0045】
また、漏洩検出システム1の漏洩予測装置5は、漏洩音情報に含まれる漏洩音の音圧に基づいて、ガスが漏洩した部分の孔の大きさを予測することができる。ガスが漏洩した部分の孔の径をDとし、前記孔からガスが漏洩することによって発生する漏洩音の音圧をLpとすると、両者の関係は式(9)のようになる。Lp0は、ガスが漏洩する孔の径(直径)が0.05mmである場合において、所定の位置での音圧である。Lp0は、実験等により予め求めておき、図1に示す記憶装置6に保存しておく。
Lp=Lp0−20log(0.05/D)・・・(9)
【0046】
例えば、ガスが漏洩する孔の径が0.05mmである場合において、所定の位置でLpが100dBであるとき、ガスが漏洩する孔の径が0.005mmになるとLpは80dBになる。漏洩位置Oにおける漏洩音の音圧Lpは、この漏洩音を検出した音響検出器2と漏洩位置Oとの距離をXとすると、式(10)で求めることができる。式(10)中のLsは、漏洩位置Oとの距離がXである音響検出器2が検出した漏洩音の音圧である。
Lp=Ls+11+20logX・・・(10)
【0047】
音響検出器2と漏洩位置Oとの距離Xは、上述した方法で求めることができる。したがって、漏洩予測装置5は、式(10)に、音響検出器2が検出した漏洩音の音圧Lsと、音響検出器2と漏洩位置Oとの距離Xとを与えることにより、漏洩位置Oにおける漏洩音の音圧Lpを求めることができる。そして、漏洩予測装置5は、記憶装置6から読み出したLp0と、求めた音圧Lpとを式(9)に与え、Dについて解くことにより、ガスが漏洩する孔の径Dを求めることができる。
【0048】
(実施形態2)
図6は、プラントの運転時における音圧の時間変化の一例を示す図である。図7は、音響検出器が検出したプラントの音を補正する方法を示す模式図である。プラントを運転している場合、プラントの運転状態、例えば、弁の開閉、排気動作等に起因する騒音(暗騒音)が発生する。例えば、図6に示す例では、プラントは、時間t2〜t3の間で弁動作をし、時間t4〜t5の間で減圧排気動作をし、t5で機器の動作が終了している(実線SR)。弁動作及び減圧排気動作をしている間は、このような動作が発生する前後と比較して、音圧が大きくなっている。
【0049】
暗騒音によって、図1に示す音響検出器2が検出した音の中から漏洩音を特定する際の精度が低下することがある。本実施形態において、漏洩検出システム1は、図1に示す記憶装置6が暗騒音の情報を記憶し、漏洩予測装置5は、音響検出器2が検出した漏洩音情報を暗騒音の情報で補正する。このようにすることで、音響検出器2が検出した音の中から漏洩音を特定する際の精度低下を抑制できるので、ガスが漏洩した位置を求める際の精度低下を抑制できる。
【0050】
例えば、予めプラントの暗騒音による音圧の変化(例えば、図6、図7の実線SR)を取得して、記憶装置6に記憶させておく。暗騒音がない場合、音響検出器2が検出する音の音圧は、図6、図7の実線SBで示すようになる。漏洩検出システム1がプラントのガスの漏洩を監視する場合、音響検出器2が検出したプラントの音の情報(より具体的には音圧)は、例えば、図7の実線SRgで示すようになる。漏洩予測装置5は、音響検出器2が検出した、プラントの全騒音(図7の実線SRg)から、暗騒音(図7の実線SR)を減算することにより、図7の実線SGで示す補正値(プラント音補正値)が得られる。図7に示す例では、t=t4’においてガスの漏洩音が検出されるが、暗騒音が除去された分、確実に漏洩音を検出することができる。
【0051】
この場合、漏洩予測装置5は、例えば、音響検出器2が検出した音の変化量と持続時間との少なくとも一方を暗騒音の情報、より具体的には暗騒音の発生源を特定する情報として用いて、音響検出器2が検出した漏洩音情報を補正してもよい。例えば、配管類から発生する音あるいはプラントが有する機器(弁、ポンプ等)が動作したときに発生する音(より具体的には音圧)の変化量又は音の持続時間を予め取得し、記憶装置6に記憶させておく。漏洩予測装置5は、音響検出器2が音を検出した場合、例えば、当該音の変化量と、記憶装置6に記憶させた変化量とを比較し、両者が合致するものを選択する。そして、漏洩予測装置5は、選択した音の変化量で、現時点において音響検出器2が検出した音(音圧)を補正する。漏洩予測装置5は、このようにして得られたプラント音補正値に基づいて、ガスの漏洩が発生した位置を求める。音の持続時間でも同様にプラント音補正値を求めることができる。また、音の変化量及び音の持続時間の両方を用いてプラント音補正値を求めてもよい。この場合、プラントのどの機器が動作しているかをより正確に判定できるので、プラント音補正値を求める精度が向上する。
【0052】
このように、本実施形態では、プラントの配管類から発生する音、あるいはプラントが有する機器が動作したときに発生する音の変化量と持続時間との少なくとも一つを暗騒音の発生源を特定するための情報として用いて、音響検出器2が検出した漏洩音情報を暗騒音の情報で補正する。このようにすることで、暗騒音の発生源の特定精度が向上するので、対応する暗騒音のパターンを特定する精度も同時に向上する。その結果、音響検出器2が検出した音の中から漏洩音を特定する際の精度低下を抑制できるので、音響検出器2によるガスの漏洩検出の精度を向上させることができる。なお、音の変化量の代わりに、単位時間あたりにおける音の変化量、すなわち、音の変化率を用いてもよい。
【0053】
(実施形態3)
図8は、ガスが漏洩した配管類を特定する際に用いるデータベースを示す模式図である。本実施形態は、配管類からガスが漏洩した位置と、配管類の条件とに基づいて、ガスが漏洩した配管の位置を求める点に特徴がある。上述した実施形態1及び実施形態2では、ガスの漏洩が発生した領域を求めることができるが、前記領域内に複数の配管類が存在する場合、いずれの配管類からガスが漏洩したかを求めるのは困難である。本実施形態において、漏洩予測システム1は、図1に示す記憶装置6に、ガスを内封する機器、すなわち配管類の位置情報と、配管類の条件とを対応付けて記憶させておき、漏洩予測装置5は、配管類からガスが漏洩した位置と、配管類の条件とに基づいて、ガスが漏洩した配管類の位置を求める。このようにすることで、どの配管類からガスが漏洩したかを求めることができるので、ガスの漏洩源を求める際の精度が向上する。
【0054】
図8に示すデータベース10は、配管等種別M、配管等位置B、圧力P、温度τ、ガス種Sがそれぞれ対応付けられて記述されている。これらのうち、圧力P、温度τは、配管類が内封し、かつ取り扱うガスの情報である。この情報が、配管類の条件である。例えば、配管等種別がM1の配管又はガス容器又は機器(以下、配管等という)は、配管等位置がB1の位置に設置されている。そして、配管等種別がM1の配管等は、圧力P1、温度τ1のガス種がS1のガスを内封している。例えば、上述した実施形態1において、ガスの漏洩が発生した領域及びガス種Sを求めることができる。したがって、図1に示す漏洩検出システム1の漏洩予測装置5は、ガスの漏洩が発生した領域に存在する配管等を、データベース10の配管等位置Bから検索し、検索によって絞り込まれた配管等から、ガス種Sを内封する配管をガスの漏洩が発生した配管として特定することができる。実施形態3は、このようにして、ガスが漏洩した配管等を特定できるので、より精密にガスの漏洩を監視することができる。
【0055】
(実施形態4)
図9は、実施形態3に係る漏洩検出システムの構成図である。漏洩検出システム1aは、上述した実施形態1の漏洩検出システム1と略同様であるが、音響検出器2に加えてこれとは異なる種類のガス検出器を有する点が異なる。本実施形態では、信号変換器4を介して拡散式ガス検出器7Aと、吸引式ガス検出器7Bと、光学式ガス検出器7Cとを漏洩予測装置5に接続する。このように、漏洩検出システム1aは、音響検出器2以外のガス検出器を用いることで、さらに高い精度でガスの漏洩を検出することができる。なお、音響検出器2以外のガス検出装置を設置する位置は、音響検出器2の設置位置に拘束されない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上のように、本発明に係る漏洩検出システムは、プラントの配管あるいはガス容器からガスが漏洩したことを検出することに有用である。
【符号の説明】
【0057】
1、1a 漏洩検出システム
2、2A、2B、2C、2D 音響検出器
3A、3B、3C、3D 伝送変換器
4 信号変換器
5 漏洩予測装置
6 記憶装置
7A 拡散式ガス検出器
7B 吸引式ガス検出器
7C 光学式ガス検出器
10 データベース
100、101 ガス容器
110、111、112 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントにおいてガスを内封する機器から前記ガスが漏洩したときの音を検出でき、かつ前記プラントに設置される複数の音響検出器と、
少なくとも、前記複数の音響検出器が検出した音の情報が得られた時間に基づいて、前記機器から前記ガスが漏洩した位置を求める漏洩予測装置と、
を含むことを特徴とする漏洩検出システム。
【請求項2】
前記音の情報は、前記音の音質を含み、前記漏洩予測装置は、前記音質に基づいて漏洩したガスの種類を予測する請求項1に記載の漏洩検出システム。
【請求項3】
前記音の情報は、前記音の音圧を含み、前記漏洩予測装置は、前記音圧に基づいて漏洩した部分の孔の大きさを予測する請求項1又は2に記載の漏洩検出システム。
【請求項4】
前記プラントの運転状態に起因する暗騒音の情報を記憶する記憶装置を有し、
前記漏洩予測装置は、前記音響検出器が検出した前記音の情報を前記暗騒音の情報で補正する請求項1から3のいずれか1項に記載の漏洩検出システム。
【請求項5】
前記漏洩予測装置は、前記音響検出器が検出した音の変化量と持続時間との少なくとも一方を前記暗騒音の情報として、前記音響検出器が検出した前記音の情報を補正する請求項4に記載の漏洩検出システム。
【請求項6】
前記記憶装置は、前記ガスを内封する機器の位置情報と、前記機器の条件とを対応付けて記憶し、
前記漏洩予測装置は、前記機器から前記ガスが漏洩した位置と、前記機器の条件とに基づいて、前記ガスが漏洩した機器の位置を求める請求項1から5のいずれか1項に記載の漏洩検出システム。
【請求項7】
前記音響検出器の他に、ガス検出器を有する請求項1から6のいずれか1項に記載の漏洩検出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−132847(P2012−132847A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286706(P2010−286706)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】