説明

漏洩電流測定装置及び測定方法

【課題】400V級の星形配電方式の電源から給電される配電線、この配電線に接続される負荷設備の対地絶縁抵抗を通じて流れる漏洩電流の測定値の信頼度を向上する。
【解決手段】処理演算部16を備え、処理演算部は、星形配電方式の電源1から入力された三相のうちのいずれか1相の対地電圧及び3線のうちのいずれか2線間の線間電圧と、零相変流器9が配電線4から検出した零相電流Iとを信号処理し、入力電圧と零相電流Iとの位相差を計測して信号処理する基本波処理部3と、演算部14を備える。演算部は、零相電流Iの入力電圧に対する位相角θを演算し、零相電流Iの値とから、入力電圧に対する有効成分及び無効成分を算出し、その実効値から健全な1相を除く各相合計の漏洩電流Igrの値及びその信頼度を演算する。漏洩電流Igrの値、対地静電容量のアンバランスに起因するアンバランス差電流値は表示部15に表示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電路及び電気機器の電圧印加部分から接地部分へ流れる漏洩電流を測定する漏洩電流測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電路及び電気機器の絶縁状態を調べる方法として、被測定部分を停電させて、絶縁抵抗計で測定する方法が広く用いられている。このような方法は、停電が許されない配電線や連続操業の工場等に適用することができない。
【0003】
そこで、被測定電路や電気機器を停電させることなく、活線のまま電路及び電気機器の絶縁状態を調べる技術が提案され、用いられている。この種の技術として、零相変流器を用いて、電路及び電気機器の電圧印加部分から接地部分へ流れる電流である零相電流Iを検知するようにしたものがある。この零相変流器によって検出される零相電流Iは、電路及び電気機器の電圧印加部分と接地部分間の絶縁抵抗を介して流れる漏洩電流Igrと、この電圧印加部分と接地部分間に通常存在する対地静電容量を介して流れる漏洩電流Igcとのベクトル和で構成されている。
【0004】
ところで、現在一般に実用されている200V級三相3線のうちの1線が接地されている配電方式で実用化されている漏洩電流を測定する技術は、近年大口需要家で採用が増加し、かつ、海外の配電方式の標準となっている変圧器の低圧側三相巻線を星形に結線し、この星形に結線した三相巻線の中性点を接地した電源から給電が行われる400V級三相4線式又は三相3線式配電方式(以下、星形配電方式というの電線路及び機器の絶縁測定には適用できない。
【0005】
現在、星形配電方式では、接地線や4本又は3本の配電線を一括して零相変流器によって零相電流Iを測定し、この値を基に絶縁を監視する方法が広く行われている。
【0006】
このとき、電路や電気機器の電圧印加部分と接地部分との間に存在する対地静電容量の値が三相とも同じ(この状態をバランス状態という。)場合には、各相の対地静電容量を通じて流れる漏洩電流Igcの3相分の合計値は0となり、したがって零相電流Iの値は、この配電系統のうちの1点で、対地絶縁抵抗を通じて地絡したときに流れる地絡電流の値を示す。
【0007】
ところで、星形配電方式は、大きさが等しく、位相差を120度とする三相対地電圧や三相線間電圧、それに単相線間電圧や単相対地電圧が配電線を介して電気機器等の三相及び単相負荷設備に印加されている。これらの配電線や負荷設備の対地静電容量の値は、三相の各相で異なるアンバランス状態となっている。現在の方式では、このアンバランス状態が漏洩電流Igrの測定値に及ぼす影響について明確にしたものはなく、漏洩電流Igrの測定値の信頼性を大きく低下させている。
【0008】
また、ある1相に対地絶縁抵抗に流れる漏洩電流Igrが存在するとき、三相の各相で対地静電容量の値を異にするアンバランスの度合い軽微であれば、漏洩電流Igrの値として零相電流Iの値を用いることができるが、例えば、同じ値の漏洩電流Igrが2つの相に発生したときには、2つの相の漏洩電流の位相が120度異なっているため、2倍の値を示さず、ベクトル合成された1相分の漏洩電流Igrの値しか示さない。また、この系統の負荷は、配電線の3〜4線間又は2線間にまたがって接続され、例えば2線間に接続された変圧器巻線の中央点が地絡したとき、漏洩電流Igrの値は、この中央点の対地電圧が三相端子の対地電圧の半分の値であるので、漏洩電流の値も、同一の対地漏洩抵抗を通じて三相端子で地絡した値の半分になり、その大きさで故障程度を判断する漏洩電流測定装置にあっては、対地漏洩抵抗に対して、絶縁状態が良いという評価をしたことになる。その結果、絶縁状態の判断を誤ることになり、絶縁に対する対策を怠れば重大故障に発展する可能性がある。
【0009】
さらに、接地線を計器に接続して対地電圧を入力して絶縁状態を測定するような方式を採用した装置にあっては、測定場所で有効な接地点が存在しない場合には絶縁状態の測定そのものが不可能となる。
【0010】
絶縁状態を測定する他の方法として、配電線に低周波の低電圧を供給して漏洩電流Igrを測定する方法ある。この方法は、全ての回路に適用可能ではあるが、設備が複雑であるうえ接地が必要であり、安価に提供することが困難である。
【0011】
なお、この種の漏洩電流計測の先行技術として、特開平3−179271号公報(特許文献1)や、特開2002−125313号公報(特許文献2)に記載されるものがある。
【特許文献1】特開平3−179271号公報
【特許文献2】特開2002−125313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、星形配電方式を採用した配電系統において、三相の各相で対地静電容量の値を異にするアンバランスの程度が電路及び電気機器の電圧印加部分と接地部分間の絶縁抵抗を介して流れる漏洩電流Igrの測定値に及ぼす影響を明確にして、漏洩電流Igrの測定値の信頼度を向上させ、2相又は相間に発生した漏洩電流Igrの過小な計測値を、対地漏洩抵抗の値に相当する正常な値として計測し、測定の際に入力する電圧要素を三相対地電圧のうちの1相の対地電圧、又は3つの線間電圧のうちの1つの線間電圧のみとする漏洩電流測定装置及び測定方法を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述したような技術課題を解決するために提案される本発明は、変圧器の二次側巻線を星形に結線し、三相の電圧端子をR,S,Tとし、星形結線の接地された中性点をNとする電源から給電される三相4線式又は三相3線式の配電方式の電路及び電気機器の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrを測定する漏洩電流測定装置において、上記二次側巻線の各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERT及び上記二次側巻線の各端子R,S,Tと中性点N間に発生する対地電圧E,E,Eのいずれかを測定する電圧検出手段と、三相の各配電線に流れる電流のベクトル和である零相電流Iを検出する零相電流検出手段と、上記電圧検出手段によって検出された上記電圧線間電圧ESR,ETS,ERT又は上記対地電圧E,E,Eのいずれかが入力され、上記入力されたいずれかの電圧線間電圧ESR,ETS,ERT又は対地電圧E,E,Eを基準電圧とし、この基準電圧と上記零相電流Iとの位相を比較する位相比較手段と、上記基準電圧に対して、上記零相電流Iを同相の有効成分Aと、これと直角の位相差を有する無効成分Bに分離した計測値を求め、上記各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERT又は上記各端子R,S,Tと中性点N間に発生する対地電圧E,E,Eのいずれかを基準電圧としたときに得られる上記零相電流Iの有効成分Aとこれと直角の位相差を有する無効成分Bとに基づいて、R相、S相、T相のうちの2相に発生する上記漏洩電流Igrの合計値、R相、S相、T相のうちの1相に発生する上記漏洩電流Igrの値、R相、S相、T相のうちの2相間若しくは3相間に接続される負荷の内部で発生する上記漏洩電流Igrの値を演算する演算手段とを備える。
【0014】
そして、上記各端子R,S,Tと中性点N間に発生する対地電圧E,E,Eのいずれかを基準電圧とするときの値をEとするとき、上記各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERTのいずれかを基準電圧とするときには、この基準電圧の値を√3Eとして上記零相電流Iとの位相比較が行われ、上記漏洩電流Igrの演算が行われる。
【0015】
ここで、上記演算手段は、より具体的には、上記各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERTのいずれかの電圧を基準電圧としたとき、式(B−√3A)の値、式(B+√3A)の値、式(−2B)の値のうちの最大の値を、上記R,S,Tの各端子に接続される電路及び電気機器全体の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrとして演算する。
【0016】
また、上記演算手段は、上記各端子R,S,Tと中性点N間に発生する対地電圧E,E,Eのいずれかを基準電圧としたとき、式(A−√3B)の値、式(A+√3B)の値、式(−2A)の値のうちの最大の値を、上記R,S,Tの各端子に接続される電路及び電気機器全体の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrとして演算する。
【0017】
さらに、上記演算手段は、上記漏洩電流Igrに含まれる上記R,S,Tの各端子に接続される上記電路及び電気機器又はそのいずれか一方の各相の対地静電容量の値の不一致に起因する電流値を(−2I)から(2I)の間の値として演算する。
【0018】
本発明に係る漏洩電流測定装置は、表示手段を備え、上記演算手段によって演算された結果を上記表示手段に表示して告知することが望ましい。
【0019】
さらに、本発明に係る漏洩電流測定装置は、警報手段を備え、上記演算手段において求められる上記漏洩電流Igrの値が所定の値を超えたときに上記警報手段より警報を発することにより、漏洩電流Igrの値が所定の値を超えたことを告知することができる。
【0020】
さらにまた、本発明に係る漏洩電流測定装置は、さらに遮断手段を備えることにより、上記演算手段において求められる上記漏洩電流Igrの値が所定の値を超えたときに上記遮断手段により電路を遮断することを可能とする。
【0021】
また、本発明は、変圧器の二次側巻線を星形に結線し、三相の電圧端子をR,S,Tとし、星形結線の接地された中性点をNとする電源から給電される三相4線式又は三相3線式の配電方式の電路及び電気機器の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrを測定する漏洩電流の測定方法において、上記二次側巻線の各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERT及び上記二次側巻線の各端子R,S,Tと中性点N間に発生する対地電圧E,E,Eのいずれかを測定する電圧検出工程と、三相の各配電線に流れる電流のベクトル和である零相電流Iを検出する零相電流検出工程と、上記電圧検出工程によって検出された上記線間電圧ESR,ETS,ERT又は上記対地電圧E,E,Eのいずれかが入力され、上記入力されたいずれかの線間電圧ESR,ETS,ERT又は対地電圧E,E,Eを基準電圧とし、この基準電圧と上記零相電流Iとの位相を比較する位相比較工程と、上記基準電圧に対して、上記零相電流Iを同相の有効成分Aと、これと直角の位相差を有する無効成分Bに分離した計測値を求め、上記各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERT又は上記各端子R,S,Tと中性点N間に発生する対地電圧E,E,Eのいずれかを基準電圧としたときに得られる上記零相電流Iの有効成分Aとこれと直角の位相差を有する無効成分Bとに基づいて、R相、S相、T相のうちの2相に発生する上記漏洩電流Igrの合計値、R相、S相、T相のうちの1相に発生する上記漏洩電流Igrの値、R相、S相、T相のうちの2相間若しくは3相間に接続される負荷の内部で発生する上記漏洩電流Igrの値を演算する演算工程とを備える。
【0022】
そして、上記各端子R,S,Tと中性点N間に発生する対地電圧E,E,Eのいずれかを基準電圧とするときの値をEとするとき、上記各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERTのいずれかを基準電圧とするときには、この基準電圧の値を√3Eとして上記零相電流Iとの位相比較が行われ、上記漏洩電流Igrの演算が行われる。
【0023】
ここで、上記演算手段は、より具体的には、上記各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERTのいずれかの電圧を基準電圧としたとき、式(B−√3A)の値、式(B+√3A)の値、式(−2B)の値のうちの最大の値を、上記R,S,Tの各端子に接続される電路及び電気機器全体の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrとして演算する。
【0024】
また、演算工程は、上記各端子R,S,Tと中性点N間に発生する対地電圧E,E,Eのいずれかを基準電圧としたとき、式(A−√3B)の値、式(A+√3B)の値、式(−2A)の値のうちの最大の値を、上記R,S,Tの各端子に接続される電路及び電気機器全体の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrとして演算する。
【発明の効果】
【0025】
上述したように、本発明は、変圧器の二次側巻線の3端子R,S,Tが、接地極Gに接続されている2次側巻線の中性点Nに対して三相対地電圧を発生する星形配電方式において、従来過小な値として測定されていた、2相間若しくは3相間に接続される負荷の内部の漏電故障の際発生する地絡電流の測定値を、電路及び電気機器の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrの値に相当した値として測定するので、高い信頼性をもって対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrを測定できる。
【0026】
特に、本発明を、配電線に接続される負荷設備に漏電故障が生じたような場合に、大きな事故を誘発する危険性が大きい400V級の高電圧の配電系統に用いられる星形配電方式に適用することにより、漏電事故を高い信頼性をもって防止することが可能となる。
【0027】
また、本発明は、変圧器の二次側巻線の3端子R,S,Tが、接地極Gに接続されている2次側巻線の中性点Nに対して三相対地電圧を発生する星形配電方式において、電路及び電気機器の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrを測定する際、電圧入力のための接地端子を必要としない線間電圧を入力しても漏洩電流Igrの測定が可能であるので、確実な接地端子が欠如している配電系統の末端部分でも確実な計測が可能である。
【0028】
さらに、従来用いられ、あるいは提案されている漏洩電流Igrを検出して電路を遮断する遮断装置においては、電路や電気機器の電圧印加部分と接地部分との間に存在する対地静電容量の値を三相間で異にするアンバランスに起因する零相電流Iの増加を見込んで、零相電流Iを検知して動作する漏電遮断器の故障動作電流を過大な値に設定していたが、本発明においては、上述したようなアンバランス状態が計測結果に及ぼす影響の程度を数値で示すことが可能となり、故障動作電流値設定時に、この数値を反映させた調整を行うことで、故障動作電流を過大な値に設定することなく漏電遮断機を動作させることができるので、より安全に、系統や負荷の保護が可能になり、不測の停電事故を少なくすることができる。
【0029】
さらにまた、本発明は、演算手段によって演算された結果を表示手段に表示するようにしているので、配電系統の状態を常時監視することができる。
【0030】
さらにまた、本発明は、警報手段を備えることにより、漏洩電流Igrが異常状態になったことを音などの警報により告知することができるので、事故を未然に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明を適用した漏洩電流測定装置及びその測定方法の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0032】
図1は、変圧器の低圧側三相巻線を星形に結線した星形配電方式を採用した配電系統に、本発明に係る漏洩電流測定装置を適用した一例を示す概略系統図である。なお、星形配電方式は、変圧器の低圧側の三相巻線を星形に結線した電源から給電される400V級の三相3線方式、若しくは図1に示すように、星形巻線の中性点に接続されて接地された中性線を含む三相4線方式がある。
【0033】
本発明に係る漏洩電流測定装置は、この星形の三相3線若しくは三相4線の配電方式を採用した配電系統の電路及び電気機器の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrを測定する。
【0034】
本発明に係る漏洩電流測定装置が適用される三相3線若しくは三相4線の星形の配電方式を採用した配電系統は、図1に示すように、配電用の三相変圧器の低圧側に星形に結線された巻線1を備える。この星形巻線1は、三相の接続線である配電線4を介して負荷設備5に接続されている。
【0035】
この星形巻線1をさらに具体的に説明すると、星形巻線1は、星形を構成するように結線された3つの巻線1a,1b,1cを有し、これらの巻線1a,1b,1cの一方の端子である三相端子R,S,Tのそれぞれに三相の配電線4,4,4を接続し、各巻線1a,1b,1cの他端を共通に結合して中性点Nとしている、この中性点Nは、接地線8を介して接地極Gに接続されている。なお、三相4線式の配電系統にあっては、中性点Nには、さらに配電線としての中性線4が接続されている。
【0036】
そして、星形巻線1を構成する3つの巻線1a,1b,1cの一方の端子である三相端子R,S,Tの間には、図1に示すように三相の線間電圧ESR,ETS,ERTが発生している。また、これらの巻線1a,1b,1cの他端を結合した接地点である中性点Nから三相の各端子R,S,Tに対する間には三相の対地電圧E,E,Eが発生している。三相の各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERT及び中性点Nから三相の各端子R,S,Tに対し発生する三相の対地電圧E,E,Eは、各配電線4,4,4及び中性線4を介して、負荷設備5に印可される。なお、中性線4と各配電線4,4,4との間には対地電圧E,E,Eが印可され、線間電圧ESR,ETS,ERTが例えば440Vのとき、対地電圧E,E,Eは、その√3分の1の254Vで、照明や家庭内で使用可能な電圧とされている。そのため、三相4線式配電方式は、三相動力負荷や照明などの単相負荷が混在する配電系統を用いる需要家や海外で広く普及している。
【0037】
また、三相の配電線4,4,4及びそれらに接続された負荷設備5には対地静電容量C,C,Cが存在する。具体的には、三相のうちの端子Rと負荷設備5とを接続する配電線4及び負荷設備5のR相には対地静電容量Cが存在し、これらの静電容量C,C,Cには、常時、対地電流IgcR,IgcS,IgcTが流れている。また、三相の配電線4,4,4及びそれらに接続された負荷設備5には対地漏洩抵抗rR,rS,rTが生ずることがある。これら対地漏洩抵抗rR,rS,rTには、漏洩電流IgrR,IgrS,IgrTが流れる。なお、中性線4にも対地静電容量は存在するが、対地電圧がほぼ0であるため、対地漏洩電流は省略する。
【0038】
上述したような星形の三相3線若しくは三相4線の配電方式を採用した配電系統の電路及び電気機器の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrを測定する本発明に係る漏洩電流測定装置は、基本波処理部3、演算部14、表示部15を備えた処理演算部16を備える。そして、三相3線式の配電方式を採用した配電系統に発生する漏洩電流Igrを測定する場合には、処理演算部16を構成する基本波処理部3に、各配電線4,4,4に流れる電流のベクトル和である零相電流Iが、これを検出する零相変流器9を介して入力される。そして、三相4線式の配電方式を採用した配電系統に発生する漏洩電流Igrを測定する場合には、処理演算部16を構成する基本波処理部3に、各配電線4,4,4及び中性線4に流れる電流のベクトル和である零相電流Iが、これを検出する零相変流器9を介して入力される。
【0039】
さらに、配電線4及び負荷設備5に生じた対地静電容量Cを流れる対地電流IgcR、配電線4及び負荷設備5に生じた対地静電容量Cを流れる対地電流IgcS、配電線4及び負荷設備5に生じた対地静電容量Cを流れる対地電流IgcT、配電線4及び負荷設備5に生じた対地漏洩抵抗rRを流れる漏洩電流IgrR,配電線4及び負荷設備5に生じた対地漏洩抵抗rSを流れる漏洩電流IgrS、配電線4及び負荷設備5に生じた対地漏洩抵抗rTを流れる漏洩電流IgrTの各電流のベクトル和である零相電流Iが接地線8を経由して三相巻線の中性点Nに帰還されるとともに零相変流器9を介して基本波処理部3に入力される。
【0040】
ここで、星形結線された三相3線又は三相4線式の配電方式を採用した配電系統で発生する対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrの測定方法及びその原理、さらに上記対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrの測定値に含まれる、三相R,S,Tの各相の対地静電容量C,C,Cの値の不一致に起因する電流値を測定する測定方法及びその原理について説明する。
【0041】
図1に示すように変圧器の低圧側三相巻線を星形に結線した三相3線又は三相4線の配電方式を用いた配電系統図において、各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERTと、各端子R,S,Tから星形巻線の接地点である中性点Nに対して発生する対地電圧E,E,Eは、ベクトルで図2のように示すことができる。
【0042】
ここで、漏洩電流Igr等を測定する際、漏洩電流測定装置に入力する測定の基準になる基準電圧Eは、図3に示すように、横軸である実数軸上で基準ベクトルとして表される。
【0043】
ところで、星形結線された三相3線又は三相4線の配電方式においては、各端子R,S,Tと中性点N間に発生する対地電圧E,E,Eのいずれかの値をEとするとき、各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERTのいずれかの値は√3Eとなる。
【0044】
そこで、端子Sと端子Rとの間に発生する線間電圧ESRを基準電圧とするとき、その値は対地電圧E,E,Eの値Eに対し√3Eとして示され、対地電圧E,E,Eは下記の式(1)〜(3)のようにベクトル記号法により示すことができる。
【0045】
=0.5√3E−j0.5E ・・・(1)
=−0.5√3E−j0.5E ・・・(2)
=jE ・・・(3)
そして、R相の配電線4及び負荷設備5に生じた対地静電容量Cを流れる対地電流IgcR、S相の配電線4及び負荷設備5に生じた対地静電容量Cを流れる対地電流IgcS、T相の配電線4及び負荷設備5に生じた対地静電容量Cを流れる対地電流IgcTは、2π×商用周波数(50Hz又は60Hz)を角周波数ωとすると、下記の式(4)〜(6)で示すことができる。
【0046】
IgcR=jωC=0.5ωCE+j0.5√3ωCE ・・・(4)
IgcS=jωC=0.5ωCE−j0.5√3ωCE ・・・(5)
IgcT=jωC=−ωCE ・・・(6)
また、端子Rに接続されたR相の配電線4及び負荷設備5、S相の配電線4及び負荷設備5、T相の配電線4及び負荷設備5にそれぞれ対地漏洩抵抗rR,rS,rTが存在するとすれば、対地漏洩抵抗rR,rS,rT中を流れる漏洩電流IgrR,IgrS,IgrTは、下記の式(7)〜(9)で示すことができる。
【0047】
IgrR=E/rR=0.5√3E/rR−j0.5E/rR ・・・(7)
IgrS=E/rS=−0.5√3E/rS−j0.5E/rS ・・・(8)
IgrT=E/rT=jE/rT ・・・(9)
巻線1の中性点Nと接地極Gとの間を接続する接地線8に流れる電流である零相電流Iは、R,S,Tの各相の配電線4,4,4に流れる電流、さらに、三相4線式にあっては中性点Nに接続される中性線4に流れる電流をも加えた電流のベクトル和、つまり上記式(4)〜(6)及び式(7)〜(9)を加えたものであり、下記の式(10)で表すことができる。
={0.5√3(1/rR−1/rS)+0.5ωC+0.5ωC−ωC}E+
j{1/rT−0.5/rR−0.5/rS+0.5√3(ωC−ωC)}E
・・・(10)
ここで、漏洩電流Igrを測定する際、この漏洩電流測定装置に入力される線間電圧ESR,ETS,ERT中のいずれかを基準電圧√3Eとするとき、上記式(10)で表される零相電流Iと、基準電圧√3Eと同位相の零相電流Iの有効成分Aと、基準電圧√3Eより90度位相が進んだ零相電流Iの無効成分Bの関係は図3のベクトル図のように表される。
【0048】
ここで、EωCはR相の対地静電容量Cの中を流れる漏洩電流IgcRであり、EωC及びEωCはS相及びT相の対地静電容量C,Cの中を流れる漏洩電流IgcS,IgcTであり、E/rR,E/rS,E/rTは、それぞれ対地漏洩抵抗rR,rS,rT中を流れる漏洩電流IgrR,IgrS,IgrTとなるので、基準電圧として入力された例えば線間電圧ESRと同位相の零相電流Iの有効成分Aは、図3に示すベクトル図のI及び上記式(10)の実数部分であるので、下記の式(11)により示すことができる。
A=0.5√3(IgrR−IgrS)+0.5IgcR+0.5IgcS−IgcT
・・・(11)
上記基準電圧として入力された線間電圧ESRから90度位相が進んだ零相電流Iの無効成分Bは、ベクトル図である図3のI及び式(10)の虚数部分であるので、下記の式(12)により示すことができる。
B=IgrT−0.5IgrR−0.5IgrS+0.5√3(IgcR−IgcS )
・・・(12)
ここで、零相電流Iと、基準電圧√3Eとの間の位相角をθとすると、図3から分かるように、上記有効成分AはIcosθで表され、上記無効成分BはIsinθで表される。
【0049】
ところで、零相電流Iの有効成分A、無効成分Bの値を実際に測定して求めるにあたっては、処理演算部16の基本処理部3へ入力される基準電圧√3Eと零相電流Iの波形から、後述する図5に示すように、基準電圧√3Eと零相電流Iとの間の位相の遅れを測定し、演算部14で零相電流Iを基準電圧√3Eと同位相の有効成分Aと基準電圧√3Eより90度位相が進んだ無効成分Bとに分解して出力する。すなわち、演算部14は、基準電圧√3Eと零相電流Iとの位相角θに基づいて、上記有効成分Aと無効成分Bとを検出する。
【0050】
次に、
X=B−√3A ・・・(13)
Y=B+√3A ・・・(14)
Z=−2B ・・・(15)
とおき、上記式(13)〜(15)に上記式(11)、(12)のA,Bを代入すると次の式(16)〜(18)が得られる。
【0051】
X=IgrT+IgrS−2IgrR+√3(IgcT−IgcS )・・・(16)
Y=IgrR+IgrT−2IgrS+√3(IgcR−IgcT )・・・(17)
Z=IgrS+IgrR−2IgrT+√3(IgcS−IgcR )・・・(18)
ここで、三相の配電方式においては、三相の各相に同時に漏洩電流Igrは流れないものとすれば、上記式(16)の−2IgrR、式(17)の−2IgrS、式(18)の−2IgrT部分は抹消され、且つ、IgcR,IgcS,IgcTの値が等しいバランス状態のときは、X、Y、Zの値は、1相に漏洩電流Igrが流れた場合のIgrの測定値、又は2相に漏洩電流Igrが流れた場合の2相分合計の漏洩電流Igrの値を示す。
【0052】
従って、上記式(13)〜(15)で示されるX、Y、Zの値のうちの最大の値が1相の漏洩電流Igrの測定値又は2相の漏洩電流Igrの合計の測定値、さらには後で説明する線間負荷中に発生した対地漏洩抵抗に相当する対地漏洩電流Igrの測定値として出力される。
【0053】
以上式(1)〜(18)を含んだ部分の説明では、端子Sと端子Rとの間に発生する線間電圧ESRを基準電圧としていたが、他の線間電圧ETS,ERTを基準電圧としても、上述の式(13)〜(15)は全く同様に適用が可能で、式(16)〜(18)のX、Y、Zとその右辺の式との組み合わせが入れ替わるだけであり、それらの最大の値を漏洩電流Igrの測定値とする漏洩電流Igrの値は同じ値であるので、三相線間電圧のいずれの相の電圧を入力しても同じ測定結果が得られ、測定の際の入力電圧の選定間違いが発生することはない。
【0054】
前述の式(16)〜(18)からは、漏洩電流Igrの測定値は、配電線又はその接続端子で1相又は2相が地絡したときの測定値を表しているが、線間にまたがる負荷中で発生したときも対地漏洩電流Igrの測定には同じ式(16)〜(18)が適用可能であることを以下に説明する。
【0055】
例えば、二次側巻線を星形に結線した星形結線変圧器の二次側巻線の接地された中性点Nに対して対地電圧がEであるR相とS相の2線間に接続された負荷変圧器コイルの中央点である線間負荷中央点Mが漏洩抵抗rを通じて地絡したとき、この線間負荷中央点Mの接地点Nに対する対地電圧ENMの大きさは、図2のベクトル図から明らかなように0.5Eであり、対地漏洩電流は0.5E/rとなり、零相電流Iの値を漏洩電流Igrの値とする従来の漏洩電流の計測器はこの値を計測する。
【0056】
しかるに、上記地絡が線間負荷中央点Mでなく、対地電圧がEである端子R又はS付近で発生すると対地漏洩電流はE/rとなり、同じ漏洩抵抗rに対して、線間負荷中央点Mでの地絡による対地漏洩電流の測定値はこの値の半分となってしまう。そこで、漏電故障の程度を定格電圧時の対地漏洩電流値で評価するような漏洩電流測定装置にあっては、故障の程度を過小評価することになってしまう。その結果、適確に漏電故障を発見することが困難となり、漏洩電流の測定を行いながら漏電による事故を発見できなくなる虞がある。
【0057】
本発明は上述のような過小な値を示す漏洩電流Igrの測定値でなく、対地電圧Eを対地漏洩抵抗rの値で除して得られる漏洩電流Igrの測定値は、2相が地絡したときは2倍の測定値を示すことを上述した式(1)〜(15)を使用し検証する。なお、二次側巻線の端子Rと端子Sとの間に発生する線間電圧ESRの値は、対地電圧の値をEとしたとき√3Eとなり、三相の配電線4,4,4及びそれらに接続された負荷設備5に存在するそれぞれの対地静電容量C,C,Cは等しいものとして検証する。
【0058】
まず、線間負荷中央点Mのみに対地漏洩抵抗rが存在する場合は、線間負荷中央点Mの接地点Nに対する対地電圧ENMは−j0.5Eとなるので、線間負荷中央点Mから対地漏洩抵抗rを通過する対地漏洩電流INMは、−j0.5E/r,IgrR,IgrS,IgrTがすべて0であり、対地電流IgcR,IgcS,IgcTの値は全て等しくなる。これを前述の式(10)〜(12)に代入すると、Aは0、Bは−0.5E/rとなる。このA、Bを前述の式(13)〜(15)に代入すると、X、Yは共に−0.5E/rとなり、ZはE/rとなり、X,Y,Zの値の最大値E/rが漏洩電流Igrの測定値、つまり定格電圧時の対地漏洩電流値として表示される。本発明に係る漏洩電流測定装置においては、対地漏洩電流値の表示は、処理演算部16の表示部15で行われる。
【0059】
次に、R相及びS相に対地漏洩抵抗rが存在する場合には、Aは0となり、Bは−E/rとなる。このA及びBを式(13)〜(15)に代入すると、X及びYは共に−E/rとなり、Zは2E/rとなり、X,Y,Zの値の最大値2E/rがR相とS相の合計漏洩電流Igrの測定値として表示される。この表示も、処理演算部16の表示部15で行われる。
【0060】
次に、前述の式(16)〜(18)のX,Y,Zの右辺の√3以下の値は、バランス状態のときは、IgcR,IgcS,IgcTが等しいため0となり、X,Y,Zのうちの最大値が前述したIgr測定値となるが、アンバランス状態では対地電流IgcR,IgcS,IgcTの値が等しくないため、それらの差の値の√3倍の値が、アンバランス状態に起因する値として漏洩電流Igrの測定値に含まれる。以下、上記アンバランス状態に起因する値を零相電流Iの値から求める。
【0061】
零相電流Iの値は、前記式(11)、(12)のA,Bの値から、下記の式(19)により示すことができる。
【0062】
=A+B
=IgrR(IgrR−IgrS)+IgrS(IgrS−IgrT)+IgrT(IgrT−IgrR)+(IgcR+√3IgrT)(IgcR−IgcS)+(IgcS+√3IgrR)(IgcS−IgcT)+(IgcT+√3IgrS)(IgcT−IgcR) ・・・・・(19)
この式(19)で、漏洩電流IgrR,IgrS,IgrTの値を0とおくと、零相電流Iの値は下記の式(20)に示すようになる。
【0063】
=IgcR(IgcR−IgcS)+IgcS(IgcS−IgcT)+IgcT(IgcT−IgcR) ・・・・・(20)
ここで、零相電流Iの最小値を求めるため、上記式(20)中のIgcRを変数として微分し0とおくと、下記の式(21)の条件を得る。
【0064】
IgcR=0.5(IgcS+IgcT) ・・・(21)
次に、上記式(21)を上記式(20)に代入すると、零相電流Iの最小値として下記の式(22)を得る。
【0065】
=(√3/2)(IgcT−IgcS) ・・・(22)
そして、上記式(22)の結果を式(16)に代入すると、下記の式(23)を得る。
【0066】
X=IgrT+IgrS−2IgrR+2I ・・・(23)
漏洩電流Igrは、三相同時に流れることはないので、上記式(23)中の(−2IgrR)を抹消し、IgcS,IgcTを変数として零相電流Iの最小の値を計算し、その結果を前記式(16)〜(18)に代入すると下記の式(24)〜(26)を得る。
【0067】
X=IgrT+IgrS±2I・・・(24)
Y=IgrR+IgrT±2I・・・(25)
Z=IgrS+IgrR±2I・・・(26)
式(24)〜(26)から、X、Y、Zの最大値である漏洩電流Igrの測定値の中に、上述したように三相R,S,Tの各相に発生するの対地静電容量C,C,Cの値が異なるアンバランス状態にあるとき、漏洩電流Igrの測定値に影響を及ぼす値である±2Iを含む。
【0068】
なお、上記式(24)〜(26)中の2Iの値は、零相電流Iが最小条件で求めた値であるが、他の条件では2倍より小さな値、例えば、対地電流IgcS,IgcTが共に0のときには√3倍を示すので、最大の値の2倍が限界の値となる。
【0069】
また、零相電流Iの値は、基本的な測定値であるので、±2Iの値で、漏洩電流Igrの測定値を修正することができるが、零相電流Iの値が過大なときはアンバランスの度合いも過大であり、漏洩電流Igrの測定値の信頼性は低下する。
【0070】
上述の式(1)〜(26)を用いた説明は、二次側巻線の各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERTのいずれかを基準電圧として入力した場合について説明したが、接地点である中性点Nに対して発生する対地電圧E,E,Eを基準電圧として入力した場合にも、同じ理論で同じ結果を得ることができる。例えば、基準電圧Eとして入力された対地電圧Eと同位相の零相電流I有効成分Aは下記の式(27)により示すことができる。
【0071】
=IgrR−0.5IgrS−0.5IgrT+0.5√3(IgcS−IgcT )
・・・(27)
上記基準電圧Eから90度位相が進んだ零相電流Iの無効成分Bは、下記の式(28)により示すことができる。
=0.5√3(IgrT−IgrS)+IgcR−0.5IgcS−0.5IgcT
・・・(28)
また、
=A−√3B ・・・(29)
=A+√3B ・・・(30)
=−2A ・・・(31)
とおき、上記式(29)〜(31)に前記式(27)、(28)のA,Bを代入すると下記の式(32)〜(34)が得られる。
【0072】
=IgrR+IgrS−2IgrT+√3(IgcS−IgcR)・・・(32)
=IgrR+IgrT−2IgrS+√3(IgcR−IgcT)・・・(33)
=IgrS+IgrT−2IgrR+√3(IgcT−IgcS)・・・(34)
上記式(32)〜(34)で示されるX、Y、Zの値のうちの最大の値が、1相又は2相の合計、又は線間負荷中に発生し対地漏洩抵抗に相当する対地漏洩電流Igrの測定値となるが、式(32)〜(34)の右辺は、X、Y、Zを表す式(16)〜(18)の右辺のいずれかと一致しており、それらのうちの最大の値を漏洩電流Igrの値とするので、両者の漏洩電流Igrの値は同じものとなる。
【0073】
次に、図1に示す処理演算部16を構成する基本波処理部3の具体的な構成について、図4を参照して説明する。この基本波処理部3は、電圧検出器21と、第1の増幅器22と、第1のローパスフィルタ(LPF)23と、第1の実効値変換器28と、零相電流(I)検出器24と、第2の増幅器25と、第2のローパスフィルタ(LPF)26と、第2の実効値変換器29と、位相差計測器27とを備える。
【0074】
図4において、電圧検出器21には、R,S,Tの各相の各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERTのいずれか、又は変圧器巻線の各端子R,S,Tと中性点N間に発生する対地電圧E,E,Eのいずれかが基準電圧として入力される。ここで、対地電圧E,E,Eのいずれかを基準電圧とするときの値をEとするとき、上記各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERTのいずれかを基準電圧とするときの値は√3Eとされる。
【0075】
なお、図1に示す系統図においては、線間電圧ESRが入力されている。そして、第1の増幅器22は電圧検出器21の検出感度に応じて、電圧検出器21から出力される基準電圧を適切な値になるまで増幅する。第1のローパスフィルタ23は、基準電圧として入力される電圧の周波数である基本波周波数を超える周波数成分を減衰させて基準電圧基本波周波数波形を取り出す。
【0076】
そして、零相電流検出器24には、三相3線式の配電方式にあっては、R,S,Tの各相の配電線4,4,4に流れる電流のベクトル和である零相電流Iが入力される。また、三相4線式の配電方式にあっては、R,S,T及び接地相であるN相の各相の配電線4,4,4及び中性線4の4線に流れる電流のベクトル和である零相電流Iが入力される。第2の増幅器25は、零相電流検出器24の検出感度に応じて、零相電流検出器24から出力される零相電流Iを適切な値になるまで増幅する。第2のローパスフィルタ26は、零相電流Iの基本波周波数を超える周波数成分を減衰させて基本波周波数波形を取り出す。
【0077】
そして、位相差計測器27は、基準電圧として入力された各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERTのいずれか、三相変圧器の巻線1a,1b,1cの接地点である中性点Nに対して発生する対地電圧E,E,Eのいずれかと、零相電流Iとの位相差を計測する。ここで基準電圧Eとして入力された各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERTのいずれかと、三相変圧器の巻線1a,1b,1cの接地点である中性点Nに対して発生する対地電圧E,E,Eのいずれかと、零相電流Iとの位相差を図5に示す。基本波処理部3において、第1のローパスフィルタ23は出力された基準電圧Eの波形と、第2のローパスフィルタ26から出力された零相電流Iの波形を、例えばオペアンプゼロクロッシング回路に入力すると、それらの出力波形は、図5に示すように、基準電圧Eに対してはEで示すようになり、零相電流Iに対してはIで示すようになる。基準電圧E及び零相電流Iの出力波形の波高値を一致させて、出力波形EとIの差を求める。その差の絶対波形は、図5に示す|E−I|波形になる。図5に示す|E−I|波形及びI波形の突出部分の面積をそれぞれS,Sとすれば、Sは基準電圧Eと零相電流Iとの位相差角θに比例し、Sは位相差180度に比例する。このS,Sに比例した電圧は、演算部14に出力される。
【0078】
そして、第1の実効値変換器28は、基準電圧Eの基本周波数波形を両波整流して実効値に比例したアナログ値に変換し、演算部14に入力する。第2の実効値変換器29は、零相電流Iの基本周波数波形を両波整流して実効値に比例したアナログ値に変換して演算部14に入力する。
【0079】
そして、演算部14は、位相差計測器27が計測した基準電圧Eと零相電流Iとの位相差角θを用いて、零相電流Iを基準電圧Eと同位相の有効成分Aと、基準電圧Eより90度位相が進んだ無効成分Bとに分解して出力する。
【0080】
なお、位相差計測器27が検出する基準電圧Eと零相電流Iとの位相差角θは、次の式(35)から算出される。
【0081】
θ=(180S)/S ・・・(35)
ここで、演算部14は、Icosθの値を零相電流Iの有効成分Aの値として、Isinθの値を零相電流Iの無効成分Bの値として演算し出力する。これら零相電流Iと、零相電流Iの有効成分A及び無効成分Bの関係は、前述したように、図3のベクトル図に示すように表される。
【0082】
そして、演算部14において、上述したような演算処理が行われ、R,S,T相の対地漏洩抵抗rR,rS,rTが1相又は2相、あるいは2相間にまたがる負荷の中に存在しているとき、それらの中に流れる電流値又は2相分の合計電流値を漏洩電流Igrの値として測定し、その値を必要に応じて表示部15に表示させる。さらに、演算部14は、R,S,T相の対地漏洩抵抗rR,rS,rTの中に流れる電流値に含まれる、対地静電容量C,C,Cのアンバランスに起因するアンバランス差電流値を演算して測定し、この値を必要に応じて表示部15に表示させる。
【0083】
本発明に係る漏洩電流測定装置及びこの測定装置を用いた測定方法においては、前述した零相電流Iの有効成分Aと無効成分Bを上述した式(13)〜(15)又は式(29)〜(31)に代入する演算処理を演算部14により行うことにより、R,S,Tの各相の対地漏洩抵抗rR,rS,rTが1相又は2相、あるいは2相間にまたがる負荷の中に存在しているとき、それらの中に流れる電流値又は2相分の合計電流値の値の測定が実現される。また、前述の零相電流Iの値の±2倍の値を、対地漏洩抵抗rR,rS,rT中を流れる電流値に含まれる、対地静電容量C,C,Cのアンバランスに起因する、アンバランス差電流値の測定が実現される。
【0084】
また、本発明に係る漏洩電流測定装置は、図6に示すように、配電線4の途中に遮断器19を設け、演算部14の演算の結果により、遮断器の遮断動作を制御する構成としてもよい。本発明に係る漏洩電流測定装置は、演算部14により演算されて測定された対地漏洩抵抗rR,rS,rTの中を流れる漏洩電流Igrの測定結果を制御信号とし、この制御信号に基づいて配電線4の途中に設けた遮断器19を動作させることにより、配電線4及び負荷設備5を電源供給部から遮断する。
【0085】
本発明に係る漏洩電流測定装置においては、上述のようにさらに遮断器19を設けることにより、漏洩電流Igrの検出と共に、漏洩電流Igrが所定の値を超えたとき配電線4及び負荷設備5を電源供給部から遮断するようにすることができるので、三相3線又は三相4線の配電回路及びこの配電回路に接続された負荷設備を絶縁不良に伴う重大事故から守ることができる。
【0086】
さらに、本発明に係る漏洩電流測定装置では、演算部14の演算の結果により、対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrの値が所定の値より大きくなったことが判定された場合には、その判定信号を制御信号として、音や発光等の警報装置18を動作させ、音や発光等を用いて警報を発するようにしてもよい。このような警報装置18を設けることにより、漏電に起因する事故を確実に防止することができる。なお、この警報装置18は、図6に示すように、演算部14の判定信号を制御信号として動作されるものであるので、演算部14からの判定信号が入力されるように、この演算部14に接続される。
【0087】
本発明に係る漏洩電流測定装置及び測定方法は、国際標準方式として広く世界の配電系統において採用されている400V級星形配電方式を採用した配電系統や電気機器における絶縁測定に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】三相星形電源で配電される配電線、この配電線に接続された負荷設備の漏洩電流Igrの測定に本発明に係る漏洩電流測定装置を適用した構成例を示す概略系統図である。
【図2】星形電源系統の対地電圧対地電圧E,E,E、線間電圧ESR,ETS,ERT及び負荷中央点Mの接地点Nに対する対地電圧ENMの関係を示すベクトル図である。
【図3】零相電流I、基準電圧として入力される対地電圧E又は線間電圧ESR、位相角θ、零相電流Iの有効成分A、零相電流Iの無効成分Bの関係を示すベクトル図である。
【図4】本発明に係る漏洩電流測定装置を構成する信号処理部の詳細を示すブロック図である。
【図5】位相差がθの入力電圧Eと零相電流Iの波形と、位相判定のためのゼロクロッシング回路の出力波形の関係を示す。
【図6】本発明に係る漏洩電流測定装置に遮断器及び警報装置を配置した配置構成の一例を示すブロック回路図である。
【符号の説明】
【0089】
1 星形配電電源、3 基本波処理部、4,4,4 配電線、4 中性線、5 負荷設備、8 接地線 9 零相変流器、14 演算部、15 表示部、16 処理演算部、18 警報装置、19 遮断器、C,C,C 対地静電容量、rR,rS,rT 対地漏洩抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変圧器の二次側巻線を星形に結線し、三相の電圧端子をR,S,Tとし、星形結線の接地された中性点をNとする電源から給電される三相4線式又は三相3線式の配電方式の電路及び電気機器の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrを測定する漏洩電流測定装置において、
上記二次側巻線の各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERT及び上記二次側巻線の各端子R,S,Tと中性点N間に発生する対地電圧E,E,Eのいずれかを測定する電圧検出手段と、
三相の各配電線に流れる電流のベクトル和である零相電流Iを検出する零相電流検出手段と、
上記電圧検出手段によって検出された上記電圧線間電圧ESR,ETS,ERT又は上記対地電圧E,E,Eのいずれかが入力され、上記入力されたいずれかの電圧線間電圧ESR,ETS,ERT又は対地電圧E,E,Eを基準電圧とし、この基準電圧と上記零相電流Iとの位相を比較する位相比較手段と、
上記基準電圧に対して、上記零相電流Iを同相の有効成分Aと、これと直角の位相差を有する無効成分Bに分離した計測値を求め、上記各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERT又は上記各端子R,S,Tと中性点N間に発生する対地電圧E,E,Eのいずれかを基準電圧としたときに得られる上記零相電流Iの有効成分Aとこれと直角の位相差を有する無効成分Bとに基づいて、R相、S相、T相のうちの2相に発生する上記漏洩電流Igrの合計値、R相、S相、T相のうちの1相に発生する上記漏洩電流Igrの値、R相、S相、T相のうちの2相間若しくは3相間に接続される負荷の内部で発生する上記漏洩電流Igrの値を演算する演算手段と
を備えることを特徴とする漏洩電流測定装置。
【請求項2】
上記各端子R,S,Tと中性点Nとの間に発生する対地電圧E,E,Eのいずれかを基準電圧とするときの値をEとするとき、上記各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERTのいずれかを基準電圧とするときには、この基準電圧の値を√3Eとして上記零相電流Iとの位相比較が行われ、上記漏洩電流Igrの演算が行われることを特徴とする請求項1記載の漏洩電流測定装置。
【請求項3】
上記演算手段は、上記各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERTのいずれかの電圧を基準電圧としたとき、式(B−√3A)の値、式(B+√3A)の値、式(−2B)の値のうちの最大の値を、上記R,S,Tの各端子に接続される電路及び電気機器全体の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrとして演算することを特徴とする請求項1又は2に記載の漏洩電流測定装置。
【請求項4】
上記演算手段は、上記各端子R,S,Tと中性点N間に発生する対地電圧E,E,Eのいずれかを基準電圧としたとき、式(A−√3B)の値、式(A+√3B)の値、式(−2A)の値のうちの最大の値を、上記R,S,Tの各端子に接続される電路及び電気機器全体の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrとして演算することを特徴とする請求項1又は2に記載の漏洩電流測定装置。
【請求項5】
上記演算手段は、上記漏洩電流Igrに含まれる上記R,S,Tの各端子に接続される上記電路及び電気機器又はそのいずれか一方の各相の対地静電容量の値の不一致に起因する電流値を(−2I)から(2I)の間の値として演算することを特徴とする請求項3又は4に記載の漏洩電流測定装置。
【請求項6】
当該漏洩電流測定装置は、さらに表示手段を備え、上記演算手段によって演算された結果が上記表示手段に表示されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の漏洩電流測定装置。
【請求項7】
当該漏洩電流測定装置は、さらに警報手段を備え、上記演算手段において求められる上記漏洩電流Igrの値が所定の値を超えたときに上記警報手段より警報を発することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の漏洩電流測定装置。
【請求項8】
当該漏洩電流測定装置は、さらに遮断手段を備え、上記演算手段において求められる上記漏洩電流Igrの値が所定の値を超えたときに上記遮断手段により電路を遮断することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載の漏洩電流測定装置。
【請求項9】
変圧器の二次側巻線を星形に結線し、三相の電圧端子をR,S,Tとし、星形結線の接地された中性点をNとする電源から給電される三相4線式又は三相3線式の配電方式の電路及び電気機器の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrを測定する漏洩電流の測定方法において、
上記二次側巻線の各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERT及び上記二次側巻線の各端子R,S,Tと中性点N間に発生する対地電圧E,E,Eのいずれかを測定する電圧検出工程と、
三相の各配電線に流れる電流のベクトル和である零相電流Iを検出する零相電流検出工程と、
上記電圧検出工程によって検出された上記線間電圧ESR,ETS,ERT又は上記対地電圧E,E,Eのいずれかが入力され、上記入力されたいずれかの線間電圧ESR,ETS,ERT又は対地電圧E,E,Eを基準電圧とし、この基準電圧と上記零相電流Iとの位相を比較する位相比較工程と、
上記基準電圧に対して、上記零相電流Iを同相の有効成分Aと、これと直角の位相差を有する無効成分Bに分離した計測値を求め、上記各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERT又は上記各端子R,S,Tと中性点N間に発生する対地電圧E,E,Eのいずれかを基準電圧としたときに得られる上記零相電流Iの有効成分Aとこれと直角の位相差を有する無効成分Bとに基づいて、R相、S相、T相のうちの2相に発生する上記漏洩電流Igrの合計値、R相、S相、T相のうちの1相に発生する上記漏洩電流Igrの値、R相、S相、T相のうちの2相間若しくは3相間に接続される負荷の内部で発生する上記漏洩電流Igrの値を演算する演算工程と
を備えることを特徴とする漏洩電流の測定方法。
【請求項10】
上記各端子R,S,Tと中性点Nとの間に発生する対地電圧E,E,Eのいずれかを基準電圧とするときの値をEとするとき、上記各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERTのいずれかを基準電圧とするときには、この基準電圧の値を√3Eとして上記零相電流Iとの位相比較が行われ、上記漏洩電流Igrの演算が行われることを特徴とする請求項9記載の漏洩電流の測定方法。
【請求項11】
上記演算工程は、上記各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERTのいずれかの電圧を基準電圧としたとき、式(B−√3A)の値、式(B+√3A)の値、式(−2B)の値のうちの最大の値を、上記R,S,Tの各端子に接続される電路及び電気機器全体の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrとして演算することを特徴とする請求項9又は10に記載の漏洩電流の測定方法。
【請求項12】
上記演算工程は、上記各端子R,S,T間に発生する線間電圧ESR,ETS,ERTのいずれかの電圧を基準電圧としたとき、式(B−√3A)の値、式(B+√3A)の値、式(−2B)の値のうちの最大の値を、上記R,S,Tの各端子に接続される電路及び電気機器全体の対地絶縁抵抗に起因する漏洩電流Igrとして演算することを特徴とする請求項9又は10に記載の漏洩電流の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−127860(P2010−127860A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305377(P2008−305377)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(309040790)パトックス.ジャパン株式会社 (8)
【Fターム(参考)】