説明

漏液検知システム及び漏液検知方法

【課題】漏液の発生を検知し、かつ漏液の検知位置を特定できる漏液検知システム及び漏液検知方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る漏液検知システムは、液体の接触により通電状態が変化する複数のセンサ線(2−1、2−2、2−3,...,2−n)と、複数のセンサ線の何れかに接続され、当該センサ線に電圧を印加する電圧源4と、複数のセンサ線のうち、互いに隣接する2本のセンサ線間に接続され、当該2本のセンサ線の一方を通じて電流を供給されてから所定の遅延時間経過した後、他方のセンサ線に通電させる、少なくとも一つの遅延スイッチ(3−1、3−2、3−3,...,3−n)と、複数のセンサ線の何れかに接続され、少なくとも一つの遅延スイッチの何れかが、センサ線を接続したときに複数のセンサ線に流れる電流の合計値の変化量を検出し、その変化量が第1の基準値を超えたとき、漏液が発生したと判定する検出器5とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏液検知システム及び漏液検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、互いに対して略平行に配設された複数のセンサ線を用いて、漏水を検知する様々な漏液検知システムが開発されている。そのような漏液検知システムでは、複数のセンサ線に跨るように液滴が付着すると、その液滴を通じて電流が流れることにより、センサ線を流れる電流または複数のセンサ線間に印加される電圧が変化する。そこで、漏液検知システムは、そのような電流または電圧の変化を調べることにより、漏液の有無を検出する(例えば、特許文献1−4を参照)。
【0003】
【特許文献1】特開昭61−2034号公報
【特許文献2】特開平7−27811号公報
【特許文献3】特開平9−318482号公報
【特許文献4】特開2001−305004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような漏液検知システムは、できるだけ短時間で漏液の発生箇所を特定するために、漏液の発生を検知するだけでなく、漏液の検知位置を特定できることが望ましい。
【0005】
そこで、本発明は、漏液の発生を検知し、かつ漏液の検知位置を特定できる漏液検知システム及び漏液検知方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの側面によれば、漏液検知システムが提供される。係る漏液検知システムは、液体の接触により通電状態が変化する複数のセンサ線と、複数のセンサ線の何れかに接続され、そのセンサ線に電圧を印加する電圧源と、複数のセンサ線のうち、互いに隣接する2本のセンサ線間に接続され、その2本のセンサ線の一方を通じて電流を供給されてから所定の遅延時間経過した後、他方のセンサ線に通電させる、少なくとも一つの遅延スイッチと、複数のセンサ線の何れかに接続され、複数のセンサ線に流れる電流の合計値について、少なくとも一つの遅延スイッチの何れかが、他方のセンサ線に通電する前後の変化量を検出し、その変化量が第1の基準値を超えたとき、漏液が発生したと判定する検出器とを有する。
【0007】
また、本発明の別の側面によれば、漏液検知方法が提供される。係る漏液検知方法は、液体の接触により通電状態が変化する複数のセンサ線のうちの第1のセンサ線に通電させるステップと、第1のセンサ線から電流を供給された後、所定の遅延時間経過した後に、複数のセンサ線のうちの第2のセンサ線に通電させるステップと、第2のセンサ線に通電したときに、複数のセンサ線に流れる電流の合計値の変化量を検出するステップと、その変化量が第1の基準値を超えているか否か判定し、変化量が第1の基準値を超えている場合、漏液が発生したと判定するステップとを含む。
【0008】
なお、本発明において、複数のセンサ線には、物理的に複数本のセンサ線を含む構成だけでなく、センサ線が物理的に一体である構成、例えば1本のセンサ線の途中において、センサ線の被覆が部分的に除去されて、少なくとも一方の導線が切断され、その切断部分に、遅延スイッチが取り付けられた構成も含まれる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、漏液の発生を検知し、かつ漏液の検出位置を特定できる漏液検知システム及び漏液検知方法を提供することが可能となる。
また本発明によれば、複数の場所において漏液が発生した場合でも、それぞれの漏液の検知位置を特定できる漏液検知システム及び漏液検知方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図を参照しつつ説明する。
本発明の一実施形態による漏液検知システムは、液体の接触によって通電状態が変化する複数のセンサ線を、遅延スイッチを用いて接続したものである。そして、この漏液検知システムでは、その複数のセンサ線の一つに電圧を印加したとき、遅延スイッチによって各センサ線に電圧が印加されるタイミングが異なる。そこで、この漏液検知システムは、各センサ線に電圧が印加されるタイミングにおいて、センサ線に流れる電流の変化量を調べることにより、漏液の発生を検知するだけでなく、漏液の検知位置を特定する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態による漏液検知システム1の概略構成図である。図1に示すように、漏液検知システム1は、複数のセンサ線2−1、2−2、2−3、...、2−nと、複数の遅延スイッチ3−1、3−2、3−3、...、3−nと、電圧源4と、検出装置5とを有する。そして、各遅延スイッチ3−1、3−2、3−3、...、3−nは、それぞれ隣接する2本のセンサ線の間に設置されそれらセンサ線を接続するか、センサ線の終端に設置されてセンサ線と遅延スイッチを含む回路を終端する。そして、複数のセンサ線2−1、2−2、2−3、...、2−nは、1列に接続される。また、電圧源4及び検出装置5は、1列に接続されたセンサ線の一端に接続される。そして、電圧源4は、各センサ線に電圧を印加する。また、検出装置5は、センサ線に流れる電流値の変化量と、電流値が変化するタイミングを計測して、漏液の発生を検知し、漏液の検知位置を特定する。以下、漏液検知システム1の各部について説明する。
【0012】
各センサ線2−1、2−2、2−3、...、2−nは、それぞれ、互いに略平行に設置された2本の導線を有する。各導線は、絶縁被覆で覆われており、互いに絶縁されている。ただし、各センサ線は絶縁被覆の一部が取り除かれた箇所を1又は複数有しており、絶縁被覆が取り除かれたところでは、導線が露出している。そのため、両方の導線が露出しているところに液滴が付着すると、その液滴を通じてそれらの導線が短絡する。したがって、センサ線の一端に電圧源を接続して、センサ線の2本の導線間に電圧を印加したとき、センサ線に液滴が付着していれば、液滴が付着していないときに比べてその導線間に流れる電流が増加する(なお、センサ線の2本の導線の他端が開放されている場合、液滴が付着することによってその導線間に電流が流れる)。そこで、導線間に流れる電流量の変化を検出することにより、漏液の有無を調べることができる。
なお、センサ線として、他のタイプのセンサ線、例えば、互いに異なる抵抗値を持つ3本の導線を有し、それらの導線を通液可能に絶縁したセンサ線を使用してもよい。さらに、センサ線として、絶縁被覆の一部もしくは全部が液滴がしみ込めるようにメッシュ状になっているもの、あるいは、絶縁被覆の外側に一組の導電性の部材(電極)を取付け、その電極が絶縁被覆を貫通して内部のそれぞれの導体に電気的に接続されているものを用いることもできる。
【0013】
遅延スイッチ3−1、3−2、3−3、...、3−nは、2本のセンサ線間に配置され、それらセンサ線を接続するか、センサ線の端部に接続され、センサ線を終端する。本実施形態において、各遅延スイッチは同一の回路構成を有する。そこで、図2に、各遅延スイッチを代表して、遅延スイッチ3−1の等価回路図を示す。図2に示すように、遅延スイッチ3−1は、タイマ回路31及びスイッチ32で構成される。そして、遅延スイッチ3−1は、少なくとも一方のセンサ線2−1について、タイマ回路31を介して、センサ線2−1の2本の導線2−1a、2−1bを接続する。そして、遅延スイッチ3−1は、導線2−1a、タイマ回路31、導線2−1bを経由して、電流が流れることを可能にする。また、スイッチ32は、センサ線2−1の導線2−1aと、他方のセンサ線2−2の導線2−2aとの間に配置される。スイッチ32は、センサ線2−1の導線2−1aと2−1bとの間に電圧が印加されていない状態では、OFFとなっている。そして、タイマ回路31は、導線2−1aと2−1b間に電圧が印加されると、所定の遅延時間を経過した後、スイッチ32をONにする。スイッチ32がONとなることにより、センサ線2−2の導線2−2aと2−2bとの間にも電圧が印加され、センサ線2−2上で発生した漏液を検出することが可能となる。所定の遅延時間は、センサ線に付着した液滴を通じて流れる電流値の振幅の周期よりも長いことが好ましく、例えば、0.5秒、あるいは1秒に設定される。なお、スイッチ32は、導線2−1aと導線2−1b間に印加された電圧が0になると、OFFの状態に戻る。なお、本実施形態において、センサ線の2本の導線間に電圧が印加されていない状態には、それら導線間の電圧が0である状態だけでなく、それら導線間の電圧が、遅延スイッチが動作する閾値よりも低い(すなわち、ONにならない)状態も含む。
【0014】
上記のように、遅延スイッチを操作するために、制御信号を伝送するための導線をセンサ線が備える必要がない。そのため、本発明では、漏液検知に必要な2本の導線のみを有するセンサ線を用いて、漏液検知を行うことができる。しかし、センサ線に制御信号伝送用の導線を別途設け、検出装置5からその導線を通じて制御信号を送信することにより、スイッチの開閉を操作するようにしてもよい。すなわち、電圧源4からの電圧が印加された状態で、電圧印加開始から所定の遅延時間が計時されたときに、検出装置5が制御信号用の導線に信号を流すと、スイッチがONとなるようにしてもよい。この場合、遅延スイッチのタイマ回路を省略することができる。
また、3本の導線を有するセンサ線を使用する場合、遅延スイッチは、少なくとも2本の導線に対して接続されるスイッチを有する。そして、遅延スイッチは、3本の導線のうち、何れか2本の導線間に電圧が印加されてから、所定の遅延時間が経過した後、少なくとも一つのスイッチをONにすることで、本発明と同様の動作を任意の2本の導線間について行うことができる。
【0015】
上記のように、各遅延スイッチは、一方に接続されたセンサ線から電圧を印加されると、所定の遅延時間だけ遅れて他方のセンサ線に電圧を印加する。そのため、電圧源4から遠いセンサ線ほど、電圧が印加されるタイミングが遅くなる。この様子を図3を用いて説明する。
図3は、各センサ線に印加される電圧のタイミングチャートを示す。図3において、一番上から順に、それぞれ、図1に示したセンサ線2−1、センサ線2−2、センサ線2−3及びセンサ2−nに印加される電圧の波形301、302、303及び304が示される。また図3において、横軸は経過時間を表し、縦軸は電圧を表す。そして、各波形に示された電圧値がHであることは、対応するセンサ線には電圧が印加されている状態を表し、その電圧値がLであることは、対応するセンサ線には電圧が印加されていない状態を表す。
波形301が示すように、電圧源4が、時刻t1において、センサ線2−1に対して電圧の印加を開始する(すなわち、電圧源4はONになる)。その後、波形302が示すように、遅延スイッチ3−1による遅延時間τだけ遅れて、センサ線2−2に印加される電圧も立ち上がる。さらに、波形303が示すように、波形302の立ち上がり時間よりも遅延スイッチ3−2による遅延時間τだけ遅れて、センサ線2−3に印加される電圧も立ち上がる。以後、同様に、着目するセンサ線と電圧源4との間に接続された遅延スイッチの数が1個増える度に、そのセンサ線に印加される電圧の立ち上がり時間は、遅延時間τずつ遅くなる。そして、波形304が示すように、n番目のセンサ線2−nに印加される電圧は、時刻t1よりも、τ×(n-1)だけ遅れて立ち上がる。その後、電圧源4が、時刻t2において電圧の印加を止めると(すなわち、電圧源4がOFFになると)、各センサ線に印加される電圧も同時にLに低下する。
【0016】
各遅延スイッチは、公知の遅延スイッチ回路で構成することができる。ただし、漏液に対する検出感度を向上するために、センサ線及び遅延スイッチ回路の消費電流が小さい方が好ましい。また、検出精度を向上するために、センサ線上に液滴が付着していない時にセンサ線に流れる電流と、センサ線上に液滴が付着した時にセンサ線に流れる電流の比率が大きくなることが好ましい。そこで、より少量の漏液を検出可能とし、検出精度を向上できるように、各遅延スイッチは、消費電流の小さい回路で構成することが好ましい。特に、遅延スイッチによる消費電流は、検出対象となる液滴の最小量がセンサ線上に付着した時の、その液滴による消費電流未満であることが好ましく、その消費電流の1/2未満であることがさらに好ましく、1/10未満であることがなお好ましい。例えば、検出対象となる液滴(例えば、純水)による消費電流が約10μAのとき、遅延スイッチを消費電流10μA未満の回路で構成することが好ましい。
【0017】
電圧源4は、各遅延スイッチにより1列に接続された複数のセンサ線のうち、一番端のセンサ線2−1に接続される。そして、電圧源4は、検出装置5による制御にしたがって、一定期間の間、各センサ線に対して電圧を印加する。例えば、電圧源4は、各センサ線の2本の導線の間に、一定期間12Vの電圧を印加する。そして、上記のように、電圧源4から最も遠いセンサ線2−nにも電圧が印加されると、その後電圧源4は、電圧の印加を停止する。そして所定の休止期間を経過した後、電圧源4は、再度電圧の印加を開始する。
【0018】
検出装置5も、遅延スイッチにより1列に接続された複数のセンサ線2の電圧源4が接続されている一端に接続される。そして、検出装置5は、センサ線に流れる電流値の変化量と、電流値が変化するタイミングを計測して、漏液の有無を検知し、漏液の検知位置を特定する。
【0019】
図4に、検出装置5の機能ブロック図を示す。図4に示すように、検出装置5は、電流計51と、タイマ52と、通信部53と、制御部54とを有する。
以下、検出装置5の各部について詳細に説明する。
【0020】
電流計51は、複数のセンサ線全体に流れる電流の合計値を計測する。そして、得られた電流値を制御部54へ送る。タイマ52は、電圧源4がセンサ線に対して電圧の印加を開始した時点からの経過時間を計時する。
【0021】
通信部53は、ディスプレイなどの表示装置、スピーカなどの音声出力装置、キーボードなどの入力装置、及び電圧源4などの外部装置に接続するための入出力インターフェースである。そのため、通信部53は、USB、SCSI、RS232Cなどの規格に準拠したインターフェース回路及びそれらを駆動するドライバソフトウェアなどで構成される。そして通信部53は、検出装置5に接続された外部装置へ制御部54からの制御信号を送信する。あるいは、外部装置から得た情報信号を受信して、制御部54へ渡す。
【0022】
制御部54は、CPU,ROM,RAM等からなる1個もしくは複数個の図示していないマイクロコンピュータ及びその周辺回路で構成され、漏液検知システム1を制御する。また、制御部54は、漏液の発生の検知及び漏液の検知位置の特定を行う判定部として機能する。そして、制御部54は、漏液の発生を検知したとき、通信部53を介してディスプレイに漏液の検知位置を表示させたり、スピーカを通じて警報を発する。
【0023】
図5及び図6を参照しつつ、制御部54の漏液検知動作について説明する。図5は、漏液が発生していない場合に対応し、図6は、漏液が発生してセンサ線2−3上に液滴が付着した場合に対応する。そして、図5(a)及び図6(a)は、漏液検知システム1の各部を流れる電流の詳細を示す。また、図5(b)及び図6(b)は、電流計51の測定値の時間変化を示す。図5(b)及び図6(b)において、横軸は経過時間を表し、縦軸は電流値を表す。
図5(a)に示すように、漏液が発生していない場合、各センサ線からその隣接する遅延スイッチを経由する経路で消費される各電流Iは、ほぼ等しい。そのため、図5(b)に示すように、電流計51で測定される電流値501は、遅延スイッチの遅延時間τが経過する度に、Iずつ増加する。
【0024】
一方、図6(a)に示すように、センサ線2−3上に液滴600が付着した場合、さらに、センサ線2−3から液滴600を経由する経路で電流ILが消費される。そのため、図6(b)に示すように、電流計51で測定される電流値601は、遅延スイッチ3−2がONとなってセンサ線2−3に電圧が印加されたとき(すなわち、電圧源4が電圧の印加を開始してから、各遅延スイッチの遅延時間τの2倍の時間が経過したとき)、(I+IL)増加する。
【0025】
このように、何れかのセンサ線に液滴が付着すると、その液滴を通じて流れる電流に相当する量だけ、電流計51で測定される電流値も増加する。そのため、電流値の変化量が、1個の遅延スイッチ及び1本のセンサ線で消費される電流量よりも大きいか否かを調べることにより、漏液の発生を検知することができる。また、遅延スイッチがONとなる度に、電流計51で測定される電流値が増加するので、電圧源4が電圧の印加を開始してから、漏液の発生を検知したときの経過時間を調べることにより、どのセンサ線上に液滴が付着したかが分かる。
【0026】
そこで、制御部54は、通信部53を介して、電圧源4にセンサ線への電圧印加を開始させると、タイマ52にその開始時間からの経過時間tを計時させる。そして、その経過時間tが、遅延スイッチの遅延時間τ×m(m=1,2,...,n-1)(以下、時間(τ×m)を判定時という)に達する度に、制御部54は、判定時の前後における電流計51から受信した電流値の変化量を、所定の閾値Th1と比較する。所定の閾値Th1は、例えば、1本のセンサ線及び1個の遅延スイッチによる消費電流の推定値に、センサ線上に付着した検知対象の液滴による消費電流の推定最小値を加えた値である。例えば、1本のセンサ線及び1個の遅延スイッチによる消費電流の推定値が10μAであり、液滴による消費電流の推定最小値が20μAのとき、閾値Th1は、30μAに設定される。そして、制御部54は、電流値の変化量が閾値Th1以上であれば、漏液が発生したと判定する。さらに制御部54は、電流値の変化量が閾値Th1以上となったときの判定時から、どの遅延スイッチがONになったとき、すなわち、どのセンサ線にまで電圧が印加されたときに、漏液が発生したか分かるので、漏液が発生したセンサ線を特定できる。なお、制御部54は、最初のセンサ線2−1上での漏液を検出するために、電圧源4が電圧の印加を開始した直後において、電流計51で測定された電流値I0を、閾値Th1と比較する。そして、その電流値I0が閾値Th1以上であれば、制御部54はセンサ線2−1上で漏液が発生したと判定する。
【0027】
図7に示したフローチャートを参照しつつ、本発明の一実施形態による漏液検知システム1の動作を以下に説明する。まず、検出装置5の制御部54は、電圧源4に、センサ線への電圧印加を開始させる(ステップS101)。このとき、遅延スイッチによる遅延が発生する回数mを1に設定する。そして、検出装置5の電流計51は、センサ線2−1に流れる電流値Imを測定する(ステップS102)。なお、制御部54は、この測定値ImをRAMに記憶しておく。ここでIm(m=1,2,...,n-1)は、遅延スイッチ3−(m-1)がONになり、次の遅延スイッチ3−mがONになる前に、電流計51で測定された電流値である。
次に、制御部54は、電流値Imと、前回の電流値の測定値Im-1との差を計算して、電流値の変化量ΔImを求める(ステップS103)。なお、電圧源4が電圧印加を開始した直後(m=1のとき)では、制御部54は、Im-1=0として、変化量ΔImを求める。そして、制御部54は、電流値の変化量ΔImを、閾値Th1と比較する(ステップS104)。その変化量ΔImが、閾値Th1以上場合、制御部54は、電圧源4からm番目に接続されたセンサ線2−m上で漏液が発生したと判定する(ステップS105)。
【0028】
ステップS104において、電流値の変化量ΔImが閾値Th1未満の場合、あるいは、ステップS105の後、制御部54は、タイマ52で計時された経過時間tが、各遅延スイッチの遅延時間τのm倍に達したか否か判定する(ステップS106)。そして制御部54は、経過時間tがτ×mに達するまで、ステップS106を繰り返す。一方、ステップS106において、経過時間tがτ×mに達した場合、制御部54は、所定時間の間、電流値が一定か否か判定する(ステップS107)。そして、制御部54は、電流値が一定でないと判定した場合、mを1インクリメントし(ステップS108)、その後ステップS102〜S107の処理を繰り返す。一方、ステップS107において、制御部54は、電流値が一定であると判定した場合、電圧源4に対して、センサ線への電圧印加を停止させ、タイマ52による計時を終了させる(ステップS109)。そして制御部54は、漏液検知動作を終了する。以後、制御部54は、定期的に上記のステップS101〜S109の動作を繰り返す。あるいは、ステップS107において、予め記憶させておいた遅延スイッチの個数nとmとを比較し、m=nとなったことを判断してタイマ52の計時を終了させても良い。nの値は、設置した遅延スイッチの数を検出器に入力して与えることもできるし、初回の測定を上述の通り行い、その時のmの値を記憶させることでも与えることができる。
【0029】
全ての遅延スイッチがONになった後、全てのセンサ線に流れる電流の合計値は、ほぼ一定になる。そこで、漏液検知システム1は、電流計51で測定される電流値が、遅延時間τよりも長期間にわたって一定になったとき、電圧印加を停止することにより、自動的に漏液検知の測定を終了できる。そのため、制御部54は、漏液検知システム1に含まれるセンサ線の数を予め記憶しなくてもよい。例えば、所定時間は遅延スイッチの遅延時間の2倍に設定される。この場合、例えば、制御部54は、ImとIm-1の差が、センサ線1本と遅延スイッチ1個あたりの消費電流の半分以下であれば、所定時間の間電流値は一定であると判定する。なお、全てのセンサ線に電圧が印加されたことを確認するために、電圧源4から最も離れたセンサ線2−nの終端に、ターミネータを設けてもよい。ターミネータとして、遅延スイッチあるいは遅延スイッチと同じ特性インピーダンスを有する回路を内蔵するものを使用することができる。あるいは、ターミネータとして、ターミネータにより生じる電流の特性が遅延スイッチにより生じる電流の特性と異なるような回路構成を有するものを使用してもよい。そのようなターミネータを使用したシステムの例については後述する。そして、制御部54は、ターミネータを検出すると、電圧源4をOFFするようにしてもよい。
【0030】
上記のように、制御部54は、遅延スイッチの遅延時間にあわせて、電流値の変化量を調べることにより、漏液の発生を検知するだけでなく、漏液の検知位置を特定することができる。さらに、各判定時における電流値の変化量は、その判定時においてONとなった遅延スイッチによって電圧が印加される、1本のセンサ線を流れる電流に依存する。そのため、各判定時において、1本のセンサ線についてのみ、漏液の有無が判定される。したがって、複数個所で同時に漏液が発生したとしても、制御部54は、各漏液検知位置を特定することができる。例えば、経過時間t1及びt3に対応する判定時において、電流値の変化量ΔI1及びΔI3が閾値Th1を超えると、制御部54は、センサ線2−1及びセンサ線2−3の2箇所で漏液が発生したと判定することができる。
【0031】
なお、センサ線に付着した液滴を通る電流値は、時間的に一定でなく、変動する場合がある。そこで、電流値の時間変動による影響を避けるため、制御部54は、上記の各電流値Imを、各判定時到達後、一定時間にわたって電流計51で測定された電流値の平均値としてもよい。その一定時間は、遅延スイッチの遅延時間τより短く、測定された電流値の時間変動周期よりも長い値であり、例えば、その一定時間は、遅延時間τに、0.6あるいは0.8などの係数を乗じた値とすることができる。
【0032】
さらに、制御部54は、電圧源4のON/OFFを繰り返すことにより、各センサ線に電圧を印加したときの電流値の変化量ΔImと閾値Th1との比較を繰り返し行うようにしてもよい。そして制御部54を、特定のセンサ線に対して異常が検知された(すなわち、電圧を印加したときの電流値の変化量が閾値Th1以上となった)累計回数が、所定数(例えば、3回あるいは5回)に到達したとき、その特定のセンサ線上で漏液が発生したと判定するように構成してもよい。このとき、全てのセンサ線に対する測定を完了してから最初のセンサ線に戻って再測定を開始してもよいし、異常を検知したときに最初のセンサ線に戻るようにしてもよい。あるいは、制御部54を、特定のセンサ線に対して、連続して所定回数(例えば、3回あるいは5回)異常が検知されたとき、その特定のセンサ線上で漏液が発生したと判定するように構成してもよい。
このように、制御部54が複数回にわたって異常を検知したときに、漏液が発生したと判定することにより、ノイズなどに起因する誤検出を減らすことができる。
【0033】
また、図5に示すように、本実施形態による漏液検知システムでは、遅延スイッチが1個ONになる度に、1本のセンサ線と1個の遅延スイッチに流れる電流が増加する。そこで、制御部54は、電流計51で測定された電流値の変化量が、1本のセンサ線及び1個の遅延スイッチによる消費電流に相当する量だけ変化した回数に基づいて、漏液が発生したセンサ線を特定してもよい。
以下、上記の変化回数に基づいて漏液が発生したセンサ線の位置を特定する場合の実施形態について説明する。この場合、制御部54は、カウンタを有する。カウンタの初期値は0である。そして制御部54は、電圧源4がセンサ線に対する電圧の印加を開始した後、電流計51で測定された電流値が、所定の閾値Th2以上増加する度に、カウンタの値を1増加させる。カウンタの値は、ONとなった遅延スイッチの数に対応する。所定の閾値Th2は、上記の閾値Th1よりも小さく、1本のセンサ線及び1個の遅延スイッチによる消費電流の推定値よりも、わずかに小さな値に設定される。例えば、1本のセンサ線及び1個の遅延スイッチによる消費電流の推定値が10μAのとき、閾値Th2は、9μAに設定される。
この場合においても、制御部54は、電流値が上記の閾値Th1以上増加したとき、漏液が発生したと判定する。そして漏液が発生したと判定したときのカウンタの値がcであれば、制御部54は、漏液の検知位置を、センサ線2−(c+1)と特定する。
【0034】
図8は、電流値が所定値以上変化した回数に基づいて漏液の検知位置を特定する、漏液検知システム1の動作フローチャートである。
まず、検出装置5の制御部54は、電圧源4に、センサ線への電圧印加を開始させる(ステップS201)。このとき、カウンタの値cを0に設定する。そして、検出装置5の電流計51は、センサ線2−1に流れる電流値Iの変化量ΔIを測定する(ステップS202)。
そして、制御部54は、電流値の変化量ΔIを、閾値Th1と比較する(ステップS203)。その変化量ΔIが、閾値Th1以上場合、制御部54は、電圧源4から(c+1)番目に接続されたセンサ線2−(c+1)上で漏液が発生したと判定する(ステップS204)。
【0035】
ステップS203において、電流値の変化量ΔIが、閾値Th1未満の場合、あるいは、ステップS204の後、電流値の変化量ΔIを、閾値Th2と比較する(ステップS205)。その変化量ΔIが、閾値Th2以上場合、制御部54は、カウンタの値を1インクリメントする(ステップS206)。ステップS205またはS206の後、制御部54は、所定時間の間、電流値が一定か否か判定する(ステップS207)。そして、制御部54は、電流値が一定でないと判定した場合、ステップS202〜S207の処理を繰り返す。一方、ステップS207において、制御部54は、電流値が一定であると判定した場合、電圧源4に対して、センサ線への電圧印加を停止させ、カウンタをリセットする(ステップS208)。そして制御部54は、漏液検知動作を終了する。以後、制御部54は、定期的に上記のステップS201〜S208の動作を繰り返す。
【0036】
なお、遅延スイッチがONとなるタイミングは、電圧源4がセンサ線に電圧の印加を開始したときからの経過時間が、遅延スイッチの遅延時間の整数倍となるタイミングに限定されるはずである。そこで、上記のステップS205において、制御部54は、電圧源4がセンサ線に電圧の印加を開始したときからの経過時間が、遅延スイッチの遅延時間τの略整数倍となる時に限定して、電流値の変化量ΔIを閾値Th2と比較してもよい。このように電流値の変化量ΔIと閾値Th2を比較するタイミングを限定することにより、制御部54は、遅延スイッチがONとなった個数をより正確に計数することができる。さらに、制御部54は、上記のステップS101〜S109に示した処理と、ステップS201〜S208に示した処理を並行して実行し、それぞれの処理によって検知された漏液の検知位置をともに出力するようにしてもよい。
【0037】
以上説明してきたように、本発明の一実施形態による漏液検知システム1は、遅延スイッチを用いて、複数のセンサ線のそれぞれに電圧を印加するタイミングを変更した。そこで、漏液検知システム1は、センサ線に流れる電流値の変化量と、その変化量が大きく変動したときの、電圧印加開始からの経過時間を調べることにより、各センサ線ごとに、漏液の発生を検知することができる。あるいは、漏液検知システム1は、経過時間の代わりに、若しくは経過時間とともに、1本のセンサ線と1個の遅延スイッチによる消費電流に相当する量だけ、電流値が増加した回数を調べることにより、各センサ線ごとに、漏液の有無を調べることができる。そのため、漏液検知システム1は、漏液の発生を検知するだけでなく、漏液の検知位置を特定することができる。また、本漏液検知システム1は、複数個所で漏液が発生した場合でも、各漏液箇所を特定することができる。さらに、各センサ線の長さは、異なっていてもよい。そのため、漏液検知システム1は、センサ線を短くするほど、漏液の検知位置を、より狭い範囲で特定することができる。
【0038】
以上、本発明の好適な実施形態について説明してきたが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。例えば、上記の制御部は、各センサ線と、センサ線の設置場所の対応関係を示したルックアップテーブルを記憶していてもよい。そして、制御部は、あるセンサ線上で漏液の発生を検知すると、そのルックアップテーブルを参照して、漏液の発生が検知されたセンサ線に対応する設置場所を特定する。そして、制御部は、検出装置に内蔵されたディスプレイ、もしくは通信部を介して外部に取付けられたディスプレイにその設置場所を表示させるようにしてもよい。
【0039】
さらに、上記の漏液検知システムを、センサ線の断線や遅延スイッチの故障も検知するように構成することができる。そのために、漏液検知システムの設置時における、センサ線間に接続された遅延スイッチの総数を、予め検出装置に記憶しておく。遅延スイッチの数は、計測の前に入力してもよいし、初回もしくは直近の漏液検知サイクルから検知した、遅延スイッチによる遅延発生回数mの最大値nから得てもよい。断線の検知には、その漏液検知サイクルを行って得られたmの最大値n’と、初回もしくは直近のmの最大値nとを比較し、n>n’となったときにセンサ線の断線もしくは遅延スイッチの故障があったと判断することができる。
あるいは、検出装置は、電圧源に電圧の印加を開始させた時点から、電流計で測定される電流値が、遅延スイッチの遅延時間τよりも長時間にわたって一定となったとき、最後に上記の閾値Th2以上変動した時間までの経過時間teを計時する。そして検出装置は、その経過時間teを、遅延スイッチの遅延時間τで除する。検出装置は、得られた値r(=te/τ、ただし、小数点以下切捨て)を、センサ線間に接続された遅延スイッチの総数と比較する。その得られた値rが、遅延スイッチの総数以上であれば、検出装置は、センサ線は断線していないと判定する。一方、得られた値rが、遅延スイッチの総数未満である場合、検出装置は、電圧源から、(r+1)番目に接続されたセンサ線が断線したと判定する。
【0040】
また、電圧源(あるいは検出装置)から最も離れたセンサ線の終端に、遅延スイッチとは異なる特性の電流を生じるターミネータを接続し、検出装置は、そのターミネータに電流が流れたことを検知できたか否かの判定結果に基づいて、何れかのセンサ線が断線したか否かまたは何れかの遅延スイッチが故障したか否かを判定するようにしてもよい。このようなターミネータを設けることによりセンサ線の終端を検出できるので、検出装置は、センサ線の数及び遅延スイッチの数を予め記憶する必要なく、センサ線の断線または遅延スイッチの故障の有無を検出可能となる。そのため、係るターミネータは、特に、漏液検知システムを敷設した後に、センサ線及び遅延スイッチを増設することが想定される場合に有用である。
図9は、本発明の他の実施形態による、ターミネータを用いてセンサ線の断線または遅延スイッチの故障を検知可能とした漏液検知システム10の概略構成図である。図9において、漏液検知システム10の各要素のうち、図1に示した漏液検知システム1の対応する要素と同様の構成及び機能を有するものについては、その対応する要素と同一の参照番号を付した。図9に示す漏液検知システム10は、図1に示した漏液検知システム1と比較して、電圧源4(あるいは検出装置5)から最も遠いセンサ線2−nの終端に、遅延スイッチ3−nの代わりにターミネータ6が接続されている点で異なる。そのため、以下では、ターミネータ6及びターミネータ6に関連する検出装置5の動作について詳しく説明する。漏液検知システム10のその他の要素については、漏液検知システム1に関する上記の説明を参照されたい。
【0041】
図10に、ターミネータ6の等価回路図を示す。図10に示すように、ターミネータ6は、抵抗61とパルス発振器62とを有する。抵抗61及びパルス発振器62は、センサ線2−nの一方の導線2−naと他方の導線2−nbの間に直列に接続される。ターミネータ6は、電圧源4から各センサ線を介して電圧を印加されると、パルス発振器62によりパルス電流を生じ、そのパルス電流を、ターミネータ6に接続されたセンサ線2−nへ流す。そのため、検出装置5は、そのパルス電流に応じてパルス状に変動する電流を検知すると、ターミネータ6を検出したと判定することができる。ここで、パルス電流の振幅は、1個の遅延スイッチ及び1組のセンサ線に通電されるより増加する電流値よりも数倍大きいことが好ましい。このようにパルス電流の振幅を大きくすることにより、検出装置5は、電圧が印加される遅延スイッチが追加されたことによる電流値の増加と、ターミネータ6に電圧が印加されたことによる電流値の増加またはノイズによる電流値の変動とを区別することが容易となる。そのため、検出装置5はターミネータ6を容易に検出することができる。また、パルス電流の発振周期は、1個の遅延スイッチによる遅延時間よりも短いことが好ましく、1個の遅延スイッチによる遅延時間の1/10〜1/2程度とすることが好ましい。このようにパルス電流の発振周期を設定することにより、検出装置5は、ターミネータ6に電圧が印加されたことによる電流値の変動(例えば、10Hz以下)と、ノイズによる電流値の変動(例えば、1KHz以上)とを容易に区別することができる。なお、パルス発振器62は、公知のパルス発振回路を用いて実現できるため、パルス発振器62の回路の詳細な構成の説明は省略する。
【0042】
図11に、漏液検知システム10における、電流計51の測定値の時間変化を示す。図11において、横軸は経過時間を表し、縦軸は電流値を表す。図11において、時刻tにおいてターミネータ6に電圧が印加されるものとする。この場合、時刻t以前において電流計51で測定される電流値1101は、ターミネータ6に電圧が印加されていないため、図5(b)または図6(b)に示す電流値の測定値の時間変化と同様に、遅延スイッチの遅延時間τを経過するごとにステップ状に増加する。一方、時刻t以降においては、各センサ線及び各遅延スイッチを流れる電流(何れかのセンサ線に液滴が付着している場合には、その液滴を流れる電流も加わる)に、ターミネータ6によるパルス電流が加わる。そのため、電流計51で測定される電流値1101は、時刻t以降においてパルス状に変動する。
【0043】
そこで、検出装置5の制御部54は、パルス状の電流値の変化が検出されると、ターミネータ6を検知し、センサ線の終端まで測定を行ったことを検知する。その結果として、制御部54は、何れのセンサ線も断線しておらず、かつ何れの遅延スイッチも故障していないと判定する。一方、電圧が印加された遅延スイッチが増えたことによるステップ状の電流値の増加を最後に検出してから、1個の遅延スイッチによる遅延時間よりも長く、ターミネータ6に通電されるのに十分な一定期間(この期間は予め定められ、検出装置を制御するプログラムに組み込まれる)が経過しても、上記のようなパルス状の電流値の変化が検出されないとき、制御部54は、何れかのセンサ線が断線しているか、または何れかの遅延スイッチが故障していると判定する。なお、制御部54は、断線したセンサ線または故障した遅延スイッチを、上記の手順にしたがって特定することができる。この場合、制御部54は、断線したセンサ線または故障した遅延スイッチの特定に使用する、漏液検知システム10に接続された遅延スイッチの数を、ターミネータ6が検出された最後の漏液検知サイクルから検知した、遅延スイッチによる遅延発生回数mの最大値nから得ることができる。あるいは、制御部54は、漏液検知システム10の起動時またはリセット時において、漏液検知システム10に接続された遅延スイッチの数を求めるために、ターミネータ6が検出されるまで電圧源4をONにして漏液検知サイクルを実行してもよい。この場合には、制御部54は、起動時またはリセット時に実行された漏液検知サイクルにおいて求めた遅延スイッチの数を、検出装置5が有する記憶装置に記憶しておく。そして制御部54は、センサ線の断線または遅延スイッチの故障を検知したとき、断線したセンサ線または故障した遅延スイッチを特定するために、その記憶装置に記憶された遅延スイッチの数を使用することができる。
【0044】
また、パルス状の電流値の変化を検出するために、例えば、制御部54は、パルス電流の発振周期の略半分の時間差がある二つの時点で電流計51により測定された電流値間の変化量を、連続的に調べる。そして制御部54は、パルス電流の発振周期の数倍程度の期間内に、その変化量の絶対値が所定の閾値を超えた回数が少なくとも2回検出されたとき、パルス状の電流値の変化が検出されたと判定し(すなわち、ターミネータ6が検出されたと判定し)、それ以外の場合には、パルス状の電流値の変化は検出されていないと判定する(すなわち、ターミネータ6は検出されていないと判定する)。なお、所定の閾値は、例えば、ターミネータ6が生じるパルス電流の振幅の半分〜8割程度の値とすることができる。
あるいは、パルス状の電流値の変化を検出するために、ターミネータ6が生じるパルス電流の発振周期の数倍程度の所定期間における、そのパルス電流の時間変化の波形を表した基準波形情報を、検出装置5が有する記憶装置に予め記憶させておいてもよい。この場合、制御部54は、検出された電流値からその所定期間の長さで抽出した電流値の波形を、基準波形情報と、例えば、パターンマッチングを用いて比較する。両波形が一致すると判定した場合には、制御部54は、パルス状の電流値の変化が検出されたと判定し、両波形が一致しないと判定した場合には、制御部54は、パルス状の電流値の変化は検出されていないと判定する。さらに、制御部54は、パルス状の電流値の変化を検出するために、上記の方法の代わりに、あるいは上記の方法と組み合わせて、公知の様々な手法を利用することができる。また、制御部54は、測定された電流値からノイズを軽減して、パルス状の電流値の変化の検出精度を向上するために、電流計51で測定された電流値に対して、ローパスフィルタ処理を行って高周波成分を除去してもよい。この場合には、ローパスフィルタのカットオフ周波数を、ターミネータ6が生じるパルス電流の発振周波数よりも高く、代表的なノイズ成分の周波数よりも低い値、例えば、20Hz〜100Hz程度の値に設定することが好ましい。
【0045】
このように、漏液検知システムにおいて、遅延スイッチにより生じる電流とは特性の異なる電流を生じさせるターミネータを電圧源から最も離れたセンサ線の終端に接続することにより、検出装置は、そのターミネータを検出できたか否かを判定できる。そのため、係る漏液検知システムは、接続されているセンサ線の数及び遅延スイッチの数を予め記憶しておかなくても、途中のセンサ線において生じた断線または遅延スイッチの故障の有無を簡単に判定することができる。さらに、係る漏液検知システムは、1回の漏液検知動作を終了するために、電圧源から供給される電圧をオフにするタイミングをターミネータが検出されたときに設定することにより、そのタイミングを自動的かつ正確に決定できる。
【0046】
なお、ターミネータは、遅延スイッチにより生じる電流とは特性の異なる電流を生じさせるものであればよく、上記の実施形態に限定されない。この場合において、電流の特性には、例えば、波形、電流値の大きさ、電流が流れ始める時間あるいは電流が流れる期間等、あるいはそれらの組み合わせを含む。例えば、ターミネータは、電圧が印加されると、パルス電流を生じる代わりに、正弦波状に時間変化する電流を生じさせるものであってもよい。この場合には、その正弦波の振幅及び発振周期は、上記のパルス電流の振幅及び発振周期と同様に定めることができる。このような正弦波状の電流を生じさせる回路も公知であるため、その回路構成の詳細な説明は省略する。ターミネータがこのような正弦波状に時間変化する電流を生じる場合も、検出装置は、上記のパルス電流を生じるターミネータの検出と同様の手法を用いて、ターミネータが検出されたか否かを判定することができる。
【0047】
あるいは、ターミネータは、遅延スイッチにより生じる電流とは特性の異なる電流を生じさせるものとして、1個の遅延スイッチ及び1本のセンサ線により生じる電流及び何れかのセンサ線に付着した液滴により生じる電流と比較して非常に大きい電流(例えば、1個の遅延スイッチ及び1本のセンサ線により生じる電流の数倍〜数十倍程度の電流)を生じさせるように構成されてもよい。この場合には、ターミネータは、そのターミネータに接続されたセンサ線に含まれる2本の導線間に直列に接続される抵抗を有し、その抵抗値が、遅延スイッチが有する抵抗と1本のセンサの線の抵抗値の合計よりも数分の1から数十分の1程度となる。
【0048】
あるいはまた、ターミネータは、遅延スイッチにより生じる電流とは特性の異なる電流を生じさせるものとして、電圧が印加されてから、遅延スイッチよりも長い所定の遅延時間を経過した後に、電流が立ち上がる(すなわち、電流を生じさせる)ものであってもよい。この場合には、ターミネータは、遅延スイッチと同様の構成を有するものでよい。ただし、遅延時間が長くなるような異なる時定数を有するように、ターミネータのタイマ回路に含まれる抵抗などの素子のパラメータを定めればよい。なお、所定の遅延時間は、例えば、遅延スイッチの遅延時間の数倍程度であり、かつ、上記のように、センサ線の断線を検出するための、電流値が一定となったか否かを判定する期間(例えば、5秒)よりも短い時間(例えば、4秒)とすることが好ましい。そして検出装置は、ターミネータの遅延時間に相当する期間よりも長い期間中、測定された電流値が一定となり、かつ、その後、センサ線の断線を検出するための期間が経過するまでに、測定された電流値が増加すれば、ターミネータが検出されたと判定する。一方、検出装置は、電圧が印加された遅延スイッチが増えたことによるステップ状の電流値の増加を最後に検出してから、センサ線の断線を検出するための期間が経過しても、そのような電流値の立ち上がりを検出できなければ、ターミネータは検出されないと判定し、検出された最後のステップ状の電流値の増加を生じさせた遅延スイッチの次に接続された遅延スイッチが故障したかセンサ線が断線したと判定する。
逆に、ターミネータは、遅延スイッチにより生じる電流とは特性の異なる電流を生じさせるものとして、遅延スイッチの遅延時間よりも短い遅延時間を経過した後に、電流を生じさせるものであってもよい。この場合には、検出装置は、遅延スイッチによる電流の増加を検出した後に、ターミネータの遅延時間に相当する時間が経過した時点で電流値の増加を検出すると、ターミネータが検出されたと判定すればよい。一方、電圧が印加された遅延スイッチが増えたことによるステップ状の電流値の増加が最後に検出されてから、ターミネータの遅延時間に相当する時間が経過しても電流値の増加が検出されることなく、その後さらに、1個の遅延スイッチによる遅延時間よりも長い所定期間を経過しても電流値の増加が検出されなければ、検出装置はターミネータが検出できないと判定する。なお、この場合には、何れかのセンサ線に付着した液滴による生じる電流とターミネータにより生じる電流の区別を容易にするために、ターミネータにより生じる電流の波形または電流値も、一つの遅延スイッチ及び1本のセンサ線により生じる電流値と異なるように、ターミネータを構成することが好ましい。
【0049】
さらにまた、ターミネータは、遅延スイッチにより生じる電流とは特性の異なる電流を生じさせるものとして、積分回路または微分回路など、遅延スイッチとは異なる波形の電流を生じさせる回路を有するものであってもよい。この場合には、検出装置は、ターミネータを検出するために、ターミネータが生じる電流の時間変化の波形を表した基準波形情報を、検出装置が有する記憶装置に予め記憶させておく。そして、検出装置の制御部は、検出された電流値から所定期間の長さで抽出して得られた波形と、基準波形情報とを、例えば、パターンマッチングを用いて比較する。両波形が一致すると判定した場合には、制御部は、ターミネータが検出されたと判定し、両波形が一致しないと判定した場合には、制御部は、ターミネータは検出できないと判定する。
【0050】
また、上記の漏液検知システムでは、センサ線が他の金属等と接触して短絡していることを検出することもできる。そのために、閾値Th1よりも大きく、かつ検出対象の液体の種類および漏液量から想定される電流増加量よりも大きな閾値Th3を設定する。そして、漏液検知システムは、上記の漏液検知と同様に測定したときの電流変化量がTh3を超えたときに、センサ線が金属等の導電体と接触していることを判断することができる。
【0051】
以上のように、当業者は、本発明の範囲内で、実施される形態に合わせて様々な変更を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の一実施形態による漏液検知システムの概略構成図である。
【図2】遅延スイッチの等価回路を示す図である。
【図3】センサ線に印加される電圧のタイミングチャートである。
【図4】検出装置の機能ブロック図である。
【図5】(a)は、漏液の無い場合における、本発明の一実施形態による漏液検知システムの各部を流れる電流を示す図であり、(b)は、電流計の測定値の時間変化を示す図である。
【図6】(a)は、漏液が発生した場合における、本発明の一実施形態による漏液検知システムの各部を流れる電流を示す図であり、(b)は、電流計の測定値の時間変化を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態による漏液検知システムの動作フローチャートである。
【図8】本発明の他の実施形態による漏液検知システムの動作フローチャートである。
【図9】本発明の他の実施形態による、ターミネータを用いてセンサ線の断線または遅延スイッチの故障を検知可能とした漏液検知システムの概略構成図である。
【図10】ターミネータの等価回路を示す図である。
【図11】本発明の他の実施形態による、ターミネータが接続された漏液検知システムにおける、検出装置が有する電流計の測定値の時間変化を示す図である。
【符号の説明】
【0053】
1、10 漏液検知システム
2−1、2−2、2−3、2−n センサ線
3−1、3−2、3−3、3−n 遅延スイッチ
31 タイマ回路
32 スイッチ
4 電圧源
5 検出装置
51 電流計
52 タイマ
53 通信部
54 判定部
6 ターミネータ
61 抵抗
62 パルス発振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体の接触により通電状態が変化する複数のセンサ線と、
前記複数のセンサ線の何れかに接続され、当該センサ線に電圧を印加する電圧源と、
前記複数のセンサ線のうち、互いに隣接する2本のセンサ線間に接続され、当該2本のセンサ線の一方を通じて電流を供給されてから所定の遅延時間経過した後、他方のセンサ線に通電させる、少なくとも一つの遅延スイッチと、
前記複数のセンサ線の何れかに接続され、前記複数のセンサ線に流れる電流の合計値について、前記少なくとも一つの遅延スイッチの何れかが、前記他方のセンサ線に通電する前後の変化量を検出し、該変化量が第1の基準値を超えたとき、漏液が発生したと判定する検出器と、
を有することを特徴とする漏液検知システム。
【請求項2】
前記検出器は、前記電圧源が電圧印加を開始した時から、前記変化量が前記第1の基準値を越えた漏液検知時までの経過時間を計時し、該経過時間と前記所定の遅延時間から、前記少なくとも一つの遅延スイッチのうち、前記漏液検知時において前記他方のセンサ線に通電させた遅延スイッチを特定し、該特定された遅延スイッチにより通電されたセンサ線上で漏液が発生したと判定する、請求項1に記載の漏液検知システム。
【請求項3】
前記検出器は、前記変化量が、前記第1の基準値よりも低い第2の基準値を越えて変化した回数を計数し、かつ、前記変化量が前記第1の基準値を超えた漏液検知時の当該回数に基づいて、前記少なくとも一つの遅延スイッチのうち、前記漏液検知時において前記他方のセンサ線に通電させた遅延スイッチを特定し、該特定された遅延スイッチにより通電されたセンサ線上で漏液が発生したと判定する、請求項1または2に記載の漏液検知システム。
【請求項4】
前記複数のセンサ線のうち、前記電圧源から最も離れたセンサ線の終端に接続されるターミネータをさらに有し、該ターミネータは、前記電圧源から前記複数のセンサ線及び前記少なくとも一つの遅延スイッチを通じて通電されると、前記遅延スイッチにより生じる電流とは異なる特性を持つターミネータ電流を生じさせ、
前記検出器は、前記ターミネータ電流を検出すると、前記ターミネータが検出されたと判定する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の漏液検知システム。
【請求項5】
前記ターミネータ電流は、前記遅延スイッチにより生じる電流と異なる波形を有する、請求項4に記載の漏液検知システム。
【請求項6】
前記ターミネータ電流は所定の周期で電流値が変化する周期波形を有し、前記遅延スイッチにより生じる電流は、時間により変動しない波形を有する、請求項5に記載の漏液検知システム。
【請求項7】
液体の接触により通電状態が変化する複数のセンサ線のうちの第1のセンサ線に通電させるステップと、
前記第1のセンサ線から電流を供給された後、所定の遅延時間経過した後に、前記複数のセンサ線のうちの第2のセンサ線に通電させるステップと、
前記第2のセンサ線に通電したときに、前記複数のセンサ線に流れる電流の合計値の変化量を検出するステップと、
前記変化量が第1の基準値を超えているか否か判定し、前記変化量が該第1の基準値を超えている場合、漏液が発生したと判定するステップと、
を含むことを特徴とする漏液検知方法。
【請求項8】
前記複数のセンサ線は、前記複数のセンサ線のうちの互いに隣接する2本のセンサ線間に接続され、当該2本のセンサ線の一方を通じて電流を供給されてから前記所定の遅延時間経過した後、他方のセンサ線に通電させる、少なくとも一つの遅延スイッチによって接続され、
前記複数のセンサ線に通電を開始した時から、前記変化量が前記第1の基準値を越えた漏液検知時までの経過時間を計時するステップをさらに有し、
前記判定ステップは、前記経過時間と前記所定の遅延時間から、前記少なくとも一つの遅延スイッチのうち、前記漏液検知時において前記第2のセンサ線に通電させた遅延スイッチを特定し、該第2のセンサ線上で漏液が発生したと判定する、請求項7に記載の漏液検知方法。
【請求項9】
前記複数のセンサ線は、前記複数のセンサ線のうちの互いに隣接する2本のセンサ線間に接続され、当該2本のセンサ線の一方を通じて電流を供給されてから前記所定の遅延時間経過した後、他方のセンサ線に通電させる、少なくとも一つの遅延スイッチによって接続され、
前記変化量が、前記第1の基準値よりも低い第2の基準値を越えて変化した回数を計数するステップをさらに有し、
前記判定ステップは、前記変化量が前記第1の基準値を超えた漏液検知時の当該回数に基づいて、前記少なくとも一つの遅延スイッチのうち、前記漏液検知時において前記第2のセンサ線に通電させた遅延スイッチを特定し、該第2のセンサ線上で漏液が発生したと判定する、請求項7または8に記載の漏液検知方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2009−198487(P2009−198487A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265627(P2008−265627)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】