説明

潜在性硬化剤の製造方法

【課題】潜在性と低温速硬化性を犠牲にすることなく、多孔性樹脂粒子へのイミダゾール溶液の浸透量を今まで以上に増大させることができるように、潜在性硬化剤を製造する。
【解決手段】多孔性樹脂粒子にイミダゾール化合物が保持されてなる潜在性硬化剤は、多官能イソシアネート化合物を有機溶剤に溶解させて得た油相を、水に水溶性ポリペプチドと界面活性剤とを溶解させて得た水相に乳化させ、次いで界面重合させ、更に、タンパク質分解酵素を投入して酵素分解処理を行い、その後、多孔性樹脂粒子を回収し、回収した多孔性樹脂粒子にイミダゾール化合物溶液を浸透させることにより製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂等を主成分とする熱硬化型樹脂組成物の硬化を、比較的低温で開始させることができる潜在性硬化剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性エポキシ樹脂組成物の潜在性硬化剤として、多官能イソシアネート化合物の界面重合物である多孔性樹脂粒子にイミダゾール化合物が保持されてなるマイクロカプセル型の潜在性硬化剤が提案されている(特許文献1)。この潜在性硬化剤は、多官能イソシアネート化合物を酢酸エチルに溶解させた油相を、水に界面活性剤と分散剤としてポリビニルアルコールとを溶解させた水相中に乳化させて水中油滴型乳化物を調製し、この乳化物を加熱することにより油相中の多官能イソシアネート化合物を界面重合させて多孔性樹脂粒子を形成し、この多孔性樹脂粒子を回収し、乾燥した後、エタノールにイミダゾール化合物を溶解させたイミダゾール化合物溶液に浸漬して多孔性樹脂粒子にイミダゾール化合物溶液を浸透させ、イミダゾール化合物溶液が浸透した多孔性樹脂粒子を回収、洗浄し、乾燥することにより製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−291053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1が提案している潜在性硬化剤は、潜在性と低温速硬化性とに関しては比較的意図した特性が得られているものの、熱硬化性エポキシ樹脂組成物の設計自由度を向上させるために、潜在性硬化剤をより少ない量で配合した場合であっても意図した硬化特性を実現できるようにすることが求められている。換言すれば、潜在性と低温速硬化性を犠牲にすることなく、多孔性樹脂粒子へのイミダゾール化合物溶液の浸透量を今まで以上に増大させながら潜在性硬化剤を製造できるようにすることが求められている。
【0005】
本発明の目的は、以上の従来の技術の課題を解決しようとするものであり、潜在性と低温速硬化性を犠牲にすることなく、多孔性樹脂粒子へのイミダゾール溶液の浸透量を今まで以上に増大させることができるように、潜在性硬化剤を製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、多孔性樹脂粒子へのイミダゾール溶液の浸透量が、多官能イソシアネート化合物を含有する油相と水相とを乳化する際に使用する当該水相に配合する分散剤により大きく影響を受けるという仮定の下、様々な分散剤を検討した結果、イソシアネート基に対して反応性を有するアミノ基を有するゼラチン等の水溶性ポリペプチドを分散剤として使用し、更に、界面重合後にタンパク質分解酵素で酵素処理することにより上述の目的を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得た多孔性樹脂粒子にイミダゾール化合物が保持されてなる潜在性硬化剤の製造方法であって、以下の工程(A)〜(E):
工程(A)
多官能イソシアネート化合物を有機溶剤に溶解させて得た油相を、水に水溶性ポリペプチドと界面活性剤とを溶解させて得た水相に乳化させることにより水中油滴型乳化物を得る工程;
工程(B)
水中油滴型乳化物を加熱することにより油相中の多官能イソシアネート化合物を界面重合させて多孔性樹脂粒子を形成する工程;
工程(C)
多孔性樹脂粒子が分散している界面重合反応液にタンパク質分解酵素を投入し、多孔性樹脂粒子を酵素分解処理する工程;
工程(D)
酵素分解処理を受けた多孔性樹脂粒子を界面重合反応液から回収する工程;及び
工程(E)
回収した多孔性樹脂粒子を、イミダゾール化合物を有機溶剤に溶解して得たイミダゾール化合物溶液と混合し、多孔性樹脂粒子にイミダゾール化合物溶液を浸透させ、多孔性樹脂粒子にイミダゾール化合物が保持されてなる潜在性硬化剤を取得する工程
を有する製造方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、上述の製造方法により得られた潜在性硬化剤と、熱硬化型樹脂とを含有することを特徴とする熱硬化型樹脂組成物、当該熱硬化型樹脂組成物中に、異方性導電接続用導電粒子を分散させフィルム化してなる異方性導電接着フィルム、並びに当該熱硬化型樹脂組成物をフィルム化してなる太陽電池用接着フィルムを提供する。
【発明の効果】
【0009】
イミダゾール化合物が多孔性樹脂粒子に保持されてなる潜在性硬化剤を製造するための本発明の製造方法においては、界面重合の際、水相に分散剤としてゼラチン等の水溶性ポリペプチドを使用する。このような水溶性ポリペプチドは、イソシアネート基に反応するアミノ基やカルボキシル基を有する。従って、本発明の製造方法の中間生成物である多孔性樹脂粒子の表面もしくはその近傍には、水溶性ポリペプチドに由来するポリペプチド構造部が導入されることになる。本発明の製造方法では、界面重合後、そのようなポリペプチド構造部が導入された多孔性樹脂粒子をタンパク質分解酵素処理する。この結果、ポリペプチド構造部がアミノ酸やオリゴペプチドに分解されるため、分散剤としてポリビニルアルコールを使用して界面重合により得た従来の多孔性樹脂粒子の場合に比べ、多孔性樹脂粒子のイミダゾール溶液浸透性が向上する。従って、本発明の製造方法により得られた潜在性硬化剤を熱硬化性樹脂組成物に配合した場合、従来の潜在性硬化剤よりも少ない配合量で同等の硬化特性を実現することが可能となり、また、そのような熱硬化性樹脂組成物は良好な低温速硬化性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1A】図1Aは、実施例1の多孔性樹脂粒子の粒度分布図である。
【図1B】図1Bは、実施例1の多孔性樹脂粒子の電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図1C】図1Cは、実施例1の多孔性樹脂粒子の電子顕微鏡写真(20000倍)である。
【図1D】参考例1の多孔性樹脂粒子の電子顕微鏡写真(5000倍)である。
【図2】実施例1〜3の熱硬化型脂組成物のDSC測定図である。
【図3】実施例1並びに実施例4及び5の熱硬化型樹脂組成物のDSC測定図である。
【図4】実施例1及び実施例6〜8の熱硬化型樹脂組成物のDSC測定図である。
【図5】比較例1の潜在性硬化剤、実施例1の多孔性樹脂粒子及び実施例6の潜在性硬化剤のTG−DTA測定図である。
【図6】実施例9の試験結果のDSC測定図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得た多孔性樹脂粒子にイミダゾール化合物が保持されてなる潜在性硬化剤の製造方法であって、以下の工程(A)〜(E)を有する。以下、工程毎に詳細に説明する。
【0012】
<工程(A)>
工程(A)は、多官能イソシアネート化合物を有機溶剤に溶解させて得た油相を、水に水溶性ポリペプチドと界面活性剤とを溶解させて得た水相に乳化させることにより水中油滴型乳化物を得る工程である。
【0013】
工程(A)においては、まず、多官能イソシアネート化合物を有機溶剤に溶解させ、界面重合における油相となる溶液を調製する。ここで、有機溶剤は、揮発性であることが好ましい。この理由は以下の通りである。即ち、通常の界面重合法で使用するような沸点が300℃を超える高沸点溶剤を用いた場合、界面重合の間に有機溶剤が揮発しないために、イソシアネートと水との接触確率が増大せず、それらの間での界面重合の進行度合いが不十分となるからである。そのため、界面重合させても良好な保形性の重合物が得られ難く、また、得られた場合でも重合物に高沸点溶剤が取り込まれたままとなり、熱硬化型樹脂組成物に配合した場合に、高沸点溶剤が熱硬化型樹脂組成物の硬化物の物性に悪影響を与えるからである。このため、油相を調製する際に使用する有機溶剤として、揮発性のものを使用する。
【0014】
このような有機溶剤としては、多官能イソシアネート化合物の良溶剤(溶解度が好ましくは0.1g/ml(有機溶剤)以上)であって、水に対しては実質的に溶解せず(水の溶解度が0.5g/ml(有機溶剤)以下)、大気圧下での沸点が100℃以下のものが好ましい。このような有機溶剤の具体例としては、アルコール類、酢酸エステル類、ケトン類等が挙げられる。中でも、高極性、低沸点、貧水溶性の点で酢酸エチルを好ましく使用することができる。
【0015】
有機溶剤の使用量は、多官能イソシアネート化合物に対し、少なすぎると潜在性が低下し、多すぎると熱応答性が低下するので、好ましくは1.5〜5質量倍、より好ましくは1.5〜3質量倍である。なお、比較的有機溶剤の量を多くすると、乳化の際にイソシアネート基の加水分解が抑制され、水相中の水溶性ポリペプチドのアミノ基と、油相中のイソシアネート化合物のイソシアネート基との反応が競合的に進行し、界面重合後に得られる多孔性樹脂粒子の形状がいびつな球状になる傾向がある。他方、比較的有機溶剤の量を少なくすると、イソシアネート化合物の界面重合性が向上し、界面重合後に得られる多孔性樹脂粒子の形状が真球状になる傾向がある。
【0016】
なお、有機溶剤の使用量範囲内において、有機溶剤の使用量を比較的多く使用すること等により油相となる溶液の粘度を下げることができる。粘度を下げると撹拌効率が向上するため、反応系における油相滴をより微細化かつ均一化することが可能になり、結果的に得られる潜在性硬化剤の粒子径をサブミクロン〜数ミクロン程度の大きさに制御しつつ、粒度分布を単分散とすることが可能となる。このような観点から、油相となる溶液の粘度を1〜500mPa・sに設定することが好ましい。
【0017】
多官能イソシアネート化合物を有機溶剤に溶解させる際には、大気圧下、室温で混合撹拌するだけでもよいが、必要に応じ、加熱してもよい。
【0018】
また、本発明で使用する多官能イソシアネート化合物としては、好ましくは一分子中に2個以上のイソシアネート基、好ましくは3個のイソシアネート基を有する化合物が挙げられる。このような3官能イソシアネート化合物の更に好ましい例としては、トリメチロールプロパン1モルにジイソシアネート化合物3モルを反応させた式(2)のTMPアダクト体、ジイソシアネート化合物3モルを自己縮合させた式(3)のイソシアヌレート体、ジイソシアネート化合物3モルのうちの2モルから得られるジイソシアネートウレアに残りの1モルのジイソシアネートが縮合した式(4)のビュウレット体が挙げられる。
【0019】
【化1】

【0020】
上記(2)〜(4)において、置換基Rは、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた部分である。このようなジイソシアネート化合物の具体例としては、トルエン2,4−ジイソシアネート、トルエン2,6−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサヒドロ−m−キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンジフェニル−4,4′−ジイソシアネートが挙げられる。
【0021】
次に、水に界面活性剤および水溶性ポリペプチドを溶解させた水相を調製する。水溶性ポリペプチドは、後述する多孔性樹脂粒子を水相に分散させるための分散剤として機能するものである。
【0022】
水溶性ポリペプチドの水溶性のレベルは、40℃の蒸留水100gに少なくとも1g以上溶解するレベルである。このような水溶性ポリペプチドとしては、コラーゲンペプチド、ゼラチン、カゼイン等が挙げられる。特に平均分子量の観点から、ゼラチンが好ましく、更に、シングルミクロンメーターの粒子径の制御を可能にするという観点から、酸処理を施したゼラチンを好ましく使用することができる。また、ゲルネットワーク形成の観点から、比較的低いゼリー強度のゼラチンを好ましく使用することができる。具体的には、JIS K6503−2001によるゼリー強度10〜250を示すゼラチンを使用することが好ましい。更に、乳化分散安定性の観点から、重量平均分子量1000〜110000のゼラチンを使用することが好ましい。
【0023】
水としては、蒸留水、イオン交換水を好ましく使用することができる。水に対するゼラチン等の水溶性ポリペプチドの含有量は、少なすぎると乳化が不安定化し、多すぎると乳化分散性が低下するので、水100質量部に対し、好ましくは0.1〜50質量部、より好ましくは0.1〜10質量部である。また、ゼラチン等の水溶性ポリペプチドは、使用した多官能イソシアネート化合物に対し、少なすぎると低反応性となり、多すぎると高反応性となるので、多官能イソシアネート化合物100質量部に対し、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは1〜30質量部である。
【0024】
水相には、乳化安定性のために界面活性剤を含有させる。界面活性剤としては、イソシアネート反応性及びノンハロゲンの観点からアルキルベンゼンスルホン酸塩を好ましく使用できる。また、界面活性剤の含有量は、少なすぎると乳化安定性が低下し、多すぎると微細粒子形成及び発泡を生じる為、好ましくは、蒸留水等の水100質量部に対し、好ましくは0.001〜10質量部、より好ましくは0.001〜0.1質量部である。
【0025】
工程(A)においては、以上説明した多官能イソシアネート化合物が有機溶剤に溶解した油相を、界面活性剤とゼラチンとを含有する水相に投入し、乳化させ、水中油滴型乳化物を形成するが、油相の水相に対する混合割合は、油相が少なすぎると多分散化し、多すぎると微細化により凝集が生ずるので、水相100質量部に対し、好ましくは5〜80質量部である。
【0026】
乳化条件としては、油相の体積平均粒子径が好ましくは0.5〜100μm、より好ましくは0.5〜30μmとなるような撹拌条件(例えば、撹拌装置ホモジナイザー;撹拌速度6000〜25000rpm、大気圧下、室温、撹拌時間1〜30分)が挙げられる。
【0027】
<工程(B)>
工程(B)は、工程(A)で調製した水中油滴型乳化物を加熱することにより油相中の多官能イソシアネート化合物を界面重合させて多孔性樹脂粒子を形成する工程である。
【0028】
界面重合は、工程(A)に引き続いて行うことができ、例えば、公知の羽根付き撹拌棒を備えた撹拌装置を用い、10〜300rpmの撹拌速度で、通常、大気圧下、温度30〜80℃、撹拌時間2〜12時間、加熱撹拌することにより行うことができる。なお、工程(A)と工程(B)とを同時に行うこともできる。
【0029】
このような多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得られる多孔性樹脂粒子は、界面重合の間にイソシアネート基の一部が加水分解を受けてアミノ基となり、そのアミノ基とイソシアネート基とが反応して尿素結合を生成してポリマー化するものであり、多孔性ポリウレアである。また、分散剤である水溶性ポリペプチドも、そのアミノ基もしくはカルボキシル基がイソシアネート基と反応するものであるため、界面重合により水溶性ポリペプチド由来のポリペプチド構造部が多孔性樹脂粒子の表面又はその近傍に導入される。
【0030】
<工程(C)>
工程(C)は、工程(B)で調製された多孔性樹脂粒子が分散している界面重合反応液にタンパク質分解酵素を一度にもしくは少しずつ投入し、多孔性樹脂粒子を酵素分解処理する工程である。この酵素分解処理により、多孔性樹脂粒子の表面又は表面近傍に導入されたポリペプチド構造部が酵素分解され、その結果、多孔性樹脂粒子内部へのイミダゾール化合物溶液の浸透性が向上する。
【0031】
タンパク質分解酵素としては、公知のタンパク質分解酵素を使用することができ、例えば、プロテアーゼN「アマノG」、ニューラーゼF3G、プロメラインF(天野エンザイム(株))等を挙げることができる。タンパク質分解酵素の使用量としては、少なすぎるとペプチド構造部の分解不足となり、多すぎると残留異物となるので、使用したゼラチン等の水溶性ポリペプチド100質量部に対し、好ましくは0.1〜50質量部、より好ましくは1〜30質量部である。
【0032】
なお、酵素処理は、タンパク質分解酵素が投入された界面重合反応液を撹拌しながら酵素活性温度域(例えば、30〜60℃)に調整することにより行うことができる。撹拌時間は、温度、求める分解の程度等により変動するが、通常1〜12時間である。
【0033】
<工程(D)>
工程(D)は、工程(C)で酵素分解処理を受けた多孔性樹脂粒子を界面重合反応液から回収する工程である。回収した多孔性樹脂粒子は、更に乾燥処理することが好ましい。回収手法としては特に限定は無く、公知の手法により行うことができる。また、回収した後、水や炭化水素系溶媒等の有機溶媒で洗浄してもよい。乾燥処理は、自然乾燥、真空乾燥などの公知の乾燥手法により行うことができる。回収もしくは乾燥後の多孔性樹脂粒子に対し、一次粒子化のためにジェットミル等を用いて解砕処理を施すことができる。
【0034】
<工程(E)>
工程(E)は、工程(D)で得た多孔性樹脂粒子を、イミダゾール化合物を有機溶剤に溶解して得たイミダゾール化合物溶液と混合し、多孔性樹脂粒子にイミダゾール化合物溶液を浸透させ、必要に応じて回収、洗浄、乾燥することにより、多孔性樹脂粒子にイミダゾール化合物が保持されてなる潜在性硬化剤を取得する工程である。
【0035】
イミダゾール化合物としては、エポキシ樹脂などの硬化剤として使用されている公知のイミダゾール化合物を使用することができる。例えば、2−メチルイミダゾール(融点137〜145℃)、2−ウンデシルイミダゾール(融点69〜74℃)、2−ヘプタデシルイミダゾール(融点86〜91℃)、1,2−ジメチルイミダゾール(融点約36℃)、2−エチル−4−メチルイミダゾール(融点約41℃)、2−フェニルイミダゾール(融点137〜147℃)、2−フェニル−4−メチルイミダゾール(融点174〜184℃)、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール(融点約50℃)、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール(融点約40℃)等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいが2種以上を併用することもできる。これらのイミダゾール化合物の中でも、硬化活性の良好な2−メチルイミダゾールを使用することが好ましい。
【0036】
なお、イミダゾール化合物が、2種のイミダゾール化合物を含有する場合、2−メチルイミダゾール(融点137〜145℃)と、それと同等の又はより低い融点を有する別のイミダゾール化合物とを含有することが好ましい。具体的には、融点137〜145℃の2−メチルイミダゾールと、融点約41℃の2−エチル−4−メチルイミダゾールまたは融点137〜147℃の2−フェニルイミダゾールとを含有することが好ましい。この場合、イミダゾール化合物の50質量%以上が2−メチルイミダゾールであることが好ましい。
【0037】
上述したようなイミダゾール化合物を溶解させる有機溶剤としては、イミダゾール化合物の良溶剤(溶解度が好ましくは0.1g/ml(有機溶剤)以上)であって、大気圧下での沸点が100℃以下のものが好ましい。このような有機溶剤の具体例としては、アルコール類、酢酸エステル類、ケトン類等が挙げられる。中でも、高極性、低沸点でエタノールが好ましい。
【0038】
有機溶剤の使用量は、イミダゾール化合物に対し、少なすぎると、多孔性樹脂粒子のイミダゾール溶液浸透性が低下し、多すぎると、多孔性樹脂粒子内へ浸透するイミダゾール化合物の絶対量が減少するので、好ましくは1〜5質量倍、より好ましくは1〜3質量倍である。
【0039】
イミダゾール化合物溶液には、イミダゾール化合物の硬化特性を改善するために、更にエポキシ化合物の硬化促進剤として用いられている第三級アミン化合物を含有させることが好ましい。このような第三級アミンとしては、ジメチルエタノールアミン、ジメチルベンジルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン等を挙げることができる。中でも、硬化促進効果の点から、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールを好ましく使用することができる。
【0040】
このような第三級アミン化合物の使用量は、イミダゾール化合物に対し、少なすぎると速硬化性が低下し、多すぎると低温硬化性が低下するので、好ましくは0.1〜1.0質量倍、より好ましくは0.1〜0.8質量倍である。
【0041】
以上説明したようなイミダゾール化合物溶液と、工程(D)で取得した酵素分解処理した多孔性樹脂粒子とを混合し、それにより多孔性樹脂粒子にイミダゾール化合物溶液を浸透させる。通常、この浸透操作は、加温もしくは室温下で24時間の撹拌により行う。浸透処理後、イミダゾール化合物溶液から多孔性樹脂粒子を、常法により回収し、好ましくは水で洗浄し、真空乾燥することにより、多孔性樹脂粒子にイミダゾール化合物が保持されてなる潜在性硬化剤を取得することができる。この潜在性硬化剤に対しては、必要によりジェットミルなどにより解砕処理を施すことができる。
【0042】
なお、このようにして得られた潜在性硬化剤は、その熱安定性及び潜在性の向上のために、表面並びにその近傍のイミダゾール化合物を加熱処理により昇華除去することが好ましい。この場合、潜在性硬化剤の凝集を防止するために、イミダゾール化合物の融点を超えない温度で加熱処理をすることが好ましい。例えば、イミダゾール化合物として2−メチルイミダゾール(融点137〜145℃)を使用した場合、加熱処理温度は80〜120℃である。加熱処理時間は、通常0.25〜1時間である。
【0043】
以上説明した本発明の製造方法によれば、多官能イソシアネート化合物の種類や使用量、水溶性ポリペプチドの種類や使用量、界面重合条件、タンパク質分解酵素処理条件等を変化させること等により、潜在性硬化剤の硬化特性をコントロールすることができる。例えば、重合温度を低くすると硬化温度を低下させることができ、反対に、重合温度を高くすると硬化温度を上昇させることができる。
【0044】
このようにして得られた潜在性硬化剤は、従来のイミダゾール系潜在性硬化剤と同様の用途に使用することができ、熱硬化型樹脂と併用することにより、低温速硬化性の熱硬化型樹脂組成物を与えることができる。
【0045】
熱硬化型樹脂組成物における本発明の潜在性硬化剤の含有量は、少なすぎると十分に硬化せず、多すぎるとその組成物の硬化物の樹脂特性(例えば、可撓性)が低下するので、熱硬化型樹脂100質量部に対し1〜70質量部、好ましくは1〜50質量部である。
【0046】
熱硬化型樹脂としては、熱硬化型エポキシ樹脂、熱硬化型尿素樹脂、熱硬化型メラミン樹脂、熱硬化型フェノール樹脂等を使用することができる。中でも、硬化後の接着強度が良好な点を考慮すると、熱硬化型エポキシ樹脂を好ましく使用することができる。
【0047】
このような熱硬化型エポキシ樹脂としては、液状でも固体状でもよく、エポキシ当量が通常100〜4000程度であって、分子中に2以上のエポキシ基を有するものが好ましい。例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、エステル型エポキシ化合物、脂環型エポキシ化合物等を好ましく使用することができる。また、これらの化合物にはモノマーやオリゴマーが含まれる。
【0048】
本発明の熱硬化型樹脂組成物には、必要に応じてシリカ、マイカなどの充填剤、シランカップリング剤、顔料、帯電防止剤などを含有させることができる。
【0049】
本発明の熱硬化型樹脂組成物は、本発明の潜在性硬化剤、熱硬化型樹脂及び必要に応じて添加される他の添加剤とを、常法に従って均一に混合撹拌することにより製造することができる。
【0050】
このようにして得られた本発明の熱硬化型樹脂組成物は、本発明の潜在性硬化剤を使用しているため、潜在性硬化剤を従来よりも比較的少ない量で配合しても、低温速硬化性を損なわずに硬化可能である。
【0051】
このような本発明の熱硬化型樹脂組成物は、フィルム化して太陽電池用接着フィルムとして好ましく使用することができる。また、当該組成物に公知の異方性導電接続用導電粒子を分散させフィルム化して異方性導電接着フィルムとしても好ましく使用することができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0053】
実施例1
<多孔性樹脂粒子の調製>
蒸留水840質量部と、界面活性剤(ニューレックスR−T、日油(株))0.05重量部と、ゼラチン(AP100微粉、新田ゼラチン(株))8質量部とを、温度計を備えた3リットルの界面重合容器に入れ、均一に混合した。この混合液に、更に、メチレンジフェニル−4,4′−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(D−109、三井化学(株))150質量部を、酢酸エチル450質量部に溶解した油相を投入し、体積換算平均粒子径が10μm以下となるように、室温で7200rpmのホモジナイザー(T−65D、IKAジャパン(株))を用いて5分間、乳化混合し、水中油滴型乳化物を得た。
【0054】
引き続いて、乳化物を羽根付き撹拌棒で撹拌しながら80℃まで加熱し、この温度で3時間撹拌を続けることにより界面重合を行い、多孔性樹脂粒子が水相に分散した重合反応液を得た。
【0055】
界面重合終了後、重合反応液を40℃に調整し、酵素(プロテアーゼN「アマノG」、天野エンザイム(株))を0.8質量部投入し、40℃で6時間撹拌することにより多孔性樹脂粒子の酵素処理を行った。酵素処理後、重合反応液から多孔性樹脂粒子を濾過により濾取し、水洗し、乾燥することにより実施例1の球状の多孔性樹脂粒子を得た。
【0056】
得られた多孔性樹脂粒子について、その粒度分布を粒度分布測定装置(SD−2000、シスメックス(株))を用いて測定し、得られた分布図を図1Aに示す。また、電子顕微鏡写真を図1B(倍率5000倍)と図1C(倍率20000倍)とに示す。参考のために、油相調製時に酢酸エチルの使用量を450質量部から200質量部に変更した以外同様に調製した参考例1の多孔性樹脂粒子の電子顕微鏡写真(倍率5000倍)を図1Dに示す。
【0057】
図1Aから、平均粒子径(体積換算)が2.5μmであり、最大粒子径が6.6μmであることがわかる。
【0058】
また、図1B、1C、1Dから、油相中の酢酸エチルの量を減らすと界面重合後に得られる多孔性樹脂粒子の形状が真球状になり、逆に多くすると、真球から歪んだ球状になることがわかる。また、いずれの場合も表面凹凸が形成されていないこともわかる。これらの結果は、酢酸エチルの量が多くなると、乳化時にイソシアネート基の加水分解が抑制され、水相中のゼラチンのアミノ基とイソシアネート化合物のイソシアネート基との反応が競合的に進行し、逆に少ないとイソシアネート化合物の界面重合性が向上するために得られたと考えられる。なお、真球状になることにより、イミダゾール化合物溶液の浸透性が低下することが予想され、また、表面凹凸がないことは、ジェットミル解砕処理による潜在性硬化剤の硬化特性への悪影響が抑制されることが期待される。
【0059】
<イミダゾール化合物の浸透処理>
得られた実施例1の多孔性樹脂粒子10質量部を、エタノール60質量部に、融点が137〜145℃の2−メチルイミダゾール(2MZ−H、四国化成工業(株))40質量部を溶解した溶液100質量部に投入し、30℃で6時間、200rpmで撹拌した。その後、室温で20時間撹拌を続けた。撹拌終了後、イミダゾール化合物の浸透処理が施された多孔性樹脂粒子を濾取し、蒸留水で洗浄後、真空乾燥し、更に、ジェットミル(AO−JET MILL、(株)セイシン企業)で解砕処理をし、一次粒子化した。これにより潜在性硬化剤を得た。
【0060】
<熱硬化型樹脂組成物の調製>
ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(EP828、三菱化学(株))80質量部に、得られた潜在性硬化剤20質量部を、混練機(あわとり練太郎、(株)シンキー)を用いて均一に混合することにより熱硬化型樹脂組成物を得た。
【0061】
<熱硬化型樹脂組成物のDSC測定>
得られた熱硬化型樹脂組成物について、示差熱走査熱量計(DSC)(DSC6200、セイコーインスツル(株))を用いて示差熱走査熱量測定を行った(評価量5mg、昇温速度10℃/分)。得られた結果を表1及び図2に示す。ここで、潜在性硬化剤の硬化特性に関し、発熱開始温度は硬化開始温度を意味しており、発熱ピーク温度は最も硬化が活性となる温度を意味しており、総発熱量は、硬化反応の開始から完結までに発生した熱量を意味している。
【0062】
実施例2
2−メチルイミダゾールに代えて、融点が41℃の2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ、四国化成工業(株))を使用すること以外、実施例1と同様にして潜在性硬化剤を調製し、更にそれを用いて熱硬化型樹脂組成物を調製した。得られた熱硬化型樹脂組成物について、実施例1と同様に示差熱走査熱量測定を行い、得られた結果を表1及び図2に示す。
【0063】
実施例3
2−メチルイミダゾールに代えて、融点が137〜147℃の2−フェニルイミダゾール(2PZ−PW、四国化成工業(株))を使用すること以外、実施例1と同様にして潜在性硬化剤を調製し、更にそれを用いて熱硬化型樹脂組成物を調製した。得られた熱硬化型樹脂組成物について、実施例1と同様に示差熱走査熱量測定を行い、得られた結果を表1及び図2に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1及び図2から、多孔性樹脂粒子に融点が137℃のイミダゾール化合物を浸透させて得た潜在性硬化剤を使用した実施例1および3の熱硬化型樹脂組成物は、110℃前後の発熱開始温度と140℃弱の発熱ピーク温度を示しており、従って、潜在性を示しながらも、低温速硬化性を実現できたことがわかる。また、多孔性樹脂粒子に融点が41℃のイミダゾール化合物を浸透させて得た潜在性硬化剤を使用した実施例2の熱硬化型樹脂組成物は、発熱開始温度が100℃程度にまでシフトしており、良好な低温速硬化性を有することがわかる。しかも、実施例1および3と同等の総発熱量を示したことがわかる。
【0066】
実施例4
2−メチルイミダゾールの配合量を40質量部のうちの10質量部を、液状の第三級アミン系硬化促進剤として2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(ルベアック−DMP−30、ナカライテクス(株))に代えること以外、実施例1と同様にして潜在性硬化剤を調製し、更にそれを用いて熱硬化型樹脂組成物を調製した。得られた熱硬化型樹脂組成物について、実施例1と同様に示差熱走査熱量測定を行い、得られた結果を表2及び図3に示す。
【0067】
実施例5
2−メチルイミダゾールの配合量を40質量部のうちの20質量部を、液状の第三級アミン系硬化促進剤として2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(ルベアック−DMP−30、ナカライテクス(株))に代えること以外、実施例1を繰り返すことにより、実施例1と同様にして潜在性硬化剤を調製し、更にそれを用いて熱硬化型樹脂組成物を調製した。得られた熱硬化型樹脂組成物について、実施例1と同様に示差熱走査熱量測定を行い、得られた結果を表2及び図3に示す。参考のために、併せて実施例1の結果も表2および図3に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
表2及び図3から、イミダゾール化合物の一部を液状の第三級アミン系硬化促進剤に代替することにより、イミダゾール化合物の熱時流動性を向上させ、その結果、発熱開始温度および発熱ピーク温度をそれぞれ低温側にシフトさせることができ、低温速硬化性を向上させ得ることがわかった。ただ、第三級アミン系硬化促進剤の割合を増加させ過ぎると低温側への発熱開始温度および発熱ピーク温度のシフトの程度が低減することがわかった。
【0070】
実施例6
2−メチルイミダゾールの配合量を40質量部のうちの10質量部を、融点が41℃の2−エチル−4−メチルイミダゾール(2E4MZ、四国化成工業(株))を使用すること以外、実施例1と同様にして潜在性硬化剤を調製し、更にそれを用いて熱硬化型樹脂組成物を調製した。得られた熱硬化型樹脂組成物について、実施例1と同様に示差熱走査熱量測定を行い、得られた結果を表3及び図4に示す。
【0071】
実施例7
2−メチルイミダゾールの配合量を40質量部のうちの10質量部を、融点が137〜147℃の2−フェニルイミダゾール(2PZ−PW、四国化成工業(株))を使用すること以外、実施例1と同様にして潜在性硬化剤を調製し、更にそれを用いて熱硬化型樹脂組成物を調製した。得られた熱硬化型樹脂組成物について、実施例1と同様に示差熱走査熱量測定を行い、得られた結果を表3及び図4に示す。
【0072】
実施例8
2−メチルイミダゾールの配合量を40質量部のうちの10質量部を、融点が174〜184℃の2−フェニル−4−メチルイミダゾール(2P4MZ、四国化成工業(株))を使用すること以外、実施例1と同様にして潜在性硬化剤を調製し、更にそれを用いて熱硬化型樹脂組成物を調製した。得られた熱硬化型樹脂組成物について、実施例1と同様に示差熱走査熱量測定を行い、得られた結果を表3及び図4に示す。参考のために、併せて実施例1の結果も表3および図4に示す。
【0073】
【表3】

【0074】
表3および図4から、2−メチルイミダゾールと、それと同等又はそれ以下の融点を有するイミダゾール化合物とを併用することにより、発熱開始温度および発熱ピーク温度をそれぞれ低温側にシフトさせることができ、低温速硬化性を向上させ得ることがわかった。なお、2−メチルイミダゾールよりも、約40℃ほど高い融点のイミダゾール化合物を併用した実施例8の場合、併用の効果は見られなかった。
【0075】
比較例1
ゼラチン(AP100微粉、新田ゼラチン(株))8質量部に代えて、ポリビニルアルコール(PVA−205、(株)クラレ)4質量部を使用すること以外は、実施例1と同様にして潜在性硬化剤を調製した。得られた潜在性硬化剤について、熱重量測定−示差熱分析装置(TG−DTA)(TG/DTA6200、セイコーインスツル(株))を用いて、加熱重量減少率を測定(評価量5mg、昇温速度10℃/分)した。得られた結果を表4及び図5に示す。参考のために、併せて、イミダゾール化合物浸透処理前の実施例1で調製した多孔性樹脂粒子、並びに実施例6で調製した潜在性硬化剤についても加熱重量減少率を測定した。得られた結果を表4及び図5に示す。なお、重量減少率は、初期重量に対する、260℃(熱分解開始温度)加熱時の減少重量の割合であり、カプセル化率は、重量減少率からイミダゾール化合物溶液浸透前の実施例1の多孔性樹脂粒子の重量減少率を減じた値である。

【0076】
【表4】

【0077】
従来の潜在性硬化剤のように、ポリビニルアルコールを界面重合時の分散剤として使用した比較例1の従来の潜在性硬化剤に比べ、ポリビニルアルコールに代えてゼラチンを使用した実施例6の潜在性硬化剤は、多孔性樹脂粒子内へのイミダゾール化合物の浸透量が飛躍的に増大していることがわかった。
【0078】
実施例9(潜在性硬化剤の加熱処理の影響)
試験例A: 実施例4を繰り返すことにより潜在性硬化剤を調製し、更にそれを用いて熱硬化型樹脂組成物を調製し、得られた熱硬化型樹脂組成物について、実施例1と同様に示差熱走査熱量測定を行い、得られた結果を表5及び図6に示す(実施例4に相当)。
【0079】
試験例B: 実施例4で調製した潜在性硬化剤を120℃で30分間加熱処理をし、その加熱処理済み潜在性硬化剤を用いて、実施例4と同様に熱硬化型樹脂組成物を調製し、得られた熱硬化型樹脂組成物について、実施例1と同様に示差熱走査熱量測定を行い、得られた結果を表5及び図6に示す。
【0080】
試験例C: 実施例4を繰り返すことにより潜在性硬化剤を調製し、更にそれを用いて熱硬化型樹脂組成物を調製し、続いて55℃で7時間、熱エージング処理を行い、その後、熱エージング処理済み熱硬化型樹脂組成物について、実施例1と同様に示差熱走査熱量測定を行い、得られた結果を表5及び図6に示す。
【0081】
試験例D:実施例4で調製した潜在性硬化剤を120℃で30分間加熱処理をし、その加熱処理済み潜在性硬化剤を用いて、実施例4と同様に熱硬化型樹脂組成物を調製し、続いて55℃で7時間、熱エージング処理を行い、その後、熱エージング処理済み熱硬化型樹脂組成物について、実施例1と同様に示差熱走査熱量測定を行い、得られた結果を表5及び図6に示す。














【0082】
【表5】

【0083】
表5及び図6の結果から、潜在性硬化剤を、熱硬化型樹脂組成物に配合する前に加熱処理することにより、表面並びに近傍のイミダゾール化合物を昇華除去すると、熱安定性が向上し、潜在性が高まることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
イソシアネート化合物が多孔性樹脂粒子に保持されてなる潜在性硬化剤を製造するための本発明の製造方法においては、界面重合の際、水相に分散剤としてゼラチン等の水溶性ポリペプチドを使用する。このような水溶性ポリペプチドは、イソシアネート基に反応するアミノ基やカルボキシル基を有する。従って、本発明の製造方法の中間生成物である多孔性樹脂粒子の表面もしくはその近傍には、水溶性ポリペプチドに由来するポリペプチド構造が導入されることになる。本発明の製造方法では、界面重合後、そのようなポリペプチド構造部が導入された多孔性樹脂粒子をタンパク質分解酵素で処理をする。この結果、ポリペプチド構造がアミノ酸やオリゴペプチドに分解されるため、分散剤としてポリビニルアルコールを使用して界面重合により得た従来の多孔性樹脂粒子の場合に比べ、多孔性樹脂粒子のイミダゾール溶液浸透性が向上する。従って、本発明の製造方法により得られた潜在性硬化剤を熱硬化型樹脂組成物に配合した場合、従来の潜在性硬化剤よりも少ない配合量で同等の硬化特性を実現することが可能となり、また、そのような熱硬化型樹脂組成物は良好な低温速硬化性を示す。よって、本発明の製造方法は、ICチップ等の電子部品を配線基板に過大なヒートショックを与えずに接合させなければならない場合に使用する熱硬化型樹脂組成物用の潜在性硬化剤の製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多官能イソシアネート化合物を界面重合させて得た多孔性樹脂粒子にイミダゾール化合物が保持されてなる潜在性硬化剤の製造方法であって、以下の工程(A)〜(E):
工程(A)
多官能イソシアネート化合物を有機溶剤に溶解させて得た油相を、水に水溶性ポリペプチドと界面活性剤とを溶解させて得た水相に乳化させることにより水中油滴型乳化物を得る工程;
工程(B)
水中油滴型乳化物を加熱することにより油相中の多官能イソシアネート化合物を界面重合させて多孔性樹脂粒子を形成する工程;
工程(C)
多孔性樹脂粒子が分散している界面重合反応液にタンパク質分解酵素を投入し、多孔性樹脂粒子を酵素分解処理する工程;
工程(D)
酵素分解処理を受けた多孔性樹脂粒子を界面重合反応液から回収する工程;及び
工程(E)
回収した多孔性樹脂粒子を、イミダゾール化合物を有機溶剤に溶解して得たイミダゾール化合物溶液と混合し、多孔性樹脂粒子にイミダゾール化合物溶液を浸透させ、多孔性樹脂粒子にイミダゾール化合物が保持されてなる潜在性硬化剤を取得する工程
を有する製造方法。
【請求項2】
工程(A)において、油相が、多官能イソシアネート化合物を1.5〜5重量倍の有機溶剤に溶解させたものである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
水溶性ポリペプチドが、ゼラチンである請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
該ゼラチンとして、JISK6503−2001によるゼリー強度が10〜250を示すものを使用する請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
工程(E)におけるイミダゾール化合物溶液が、更に第三級アミン化合物を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
第三級アミン化合物が、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールを含有する請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
イミダゾール化合物が、2種のイミダゾール化合物を含有する請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
イミダゾール化合物が、融点137〜145℃の2−メチルイミダゾールと、それと同等の又はより低い融点を有する別のイミダゾール化合物を含有する請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
イミダゾール化合物が、融点137〜145℃の2−メチルイミダゾールと、融点41℃の2−エチル−4−メチルイミダゾールまたは融点137〜147℃の2−フェニルイミダゾールとを含有する請求項7記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の潜在性硬化剤と、熱硬化型樹脂とを含有することを特徴とする熱硬化型樹脂組成物。
【請求項11】
熱硬化型樹脂が熱硬化型エポキシ樹脂である請求項10記載の熱硬化型樹脂組成物。
【請求項12】
請求項10又は11記載の熱硬化型樹脂組成物中に、異方性導電接続用導電粒子を分散させフィルム化してなる異方性導電接着フィルム。
【請求項13】
請求項10又は11記載の熱硬化型樹脂組成物をフィルム化してなる太陽電池用接着フィルム。

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図1D】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−280914(P2010−280914A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2010−209707(P2010−209707)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】