説明

潤滑剤分配のための突起を備えた、フリーホイールベルトプーリに用いられる保持器

【課題】フリーホイールユニットの内部で潤滑剤を分配するための手段を有するフリーホイールベルトプーリを提供する。
【解決手段】フリーホイールベルトプーリ1が、引張手段伝動装置におけるねじり振動を減衰するために使用されていて、フリーホイールユニット2を有しており、該フリーホイールユニットが、アウタスリーブ10とインナスリーブ11とを有しており、アウタスリーブとインナスリーブとの間に、フリーホイールクラッチ7と、少なくとも1つの転がり軸受け8,9とが配置されており、フリーホイールクラッチの締付けエレメント14と、転がり軸受けの転動体15,16とが、保持器17に案内されている。保持器が、該保持器に外側で一体に結合された突起23,24,25を有しており、該突起が、保持器の回転時にフリーホイールユニットの内部での潤滑剤の均等な分配を保証している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フリーホイールベルトプーリであって、該フリーホイールベルトプーリが、引張手段伝動装置におけるねじり振動を減衰するために使用されていて、フリーホイールユニットを有しており、該フリーホイールユニットが、アウタスリーブとインナスリーブとを有しており、アウタスリーブとインナスリーブとの間に、フリーホイールクラッチと、転がり軸受けとして形成された少なくとも1つの支持軸受けとが配置されており、フリーホイールクラッチの締付けエレメントと、転がり軸受けの転動体とが、保持器に案内されているフリーホイールベルトプーリに関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト伝動装置における振動特性を減少させるための手段として、ドイツ連邦共和国特許出願公開第102004040810号明細書に基づき、特にオルタネータを駆動するために、オーバランニングオルタネータプーリ(OAP:Overrunning Alternator Pulley)とも呼ばれるフリーホイールベルトプーリを使用することが公知である。この公知のフリーホイールベルトプーリの構造は、フリーホイールと少なくとも1つの支持軸受けとを含むフリーホイールユニットを有している。このフリーホイールユニットでは、フリーホイールのインナスリーブとアウタスリーブとの間において、転がり軸受けの転動体が保持器に配置されている。フリーホイールユニットはオルタネータの駆動軸とベルトプーリとの間に挿入されていて、駆動部材の角速度がオルタネータの角速度よりも低くなった場合に駆動部材の分離を可能にする。これによって、内燃機関の回転むらと、これに相俟ったトルク変動とが、オルタネータの駆動部材に伝達されないことを保証することができる。摩擦減少および寿命の改善のためには、フリーホイールユニット内に潤滑剤が供給されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】ドイツ連邦共和国特許出願公開第102004040810号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、フリーホイールユニットの内部で潤滑剤を分配するための手段を有するフリーホイールベルトプーリを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題を解決するために本発明に係るフリーホイールベルトプーリによれば、保持器が、該保持器に外側で一体に結合された突起を有しており、該突起が、保持器の回転時にフリーホイールユニットの内部での潤滑剤の均等な分配を保証している。
【0006】
本発明に係るフリーホイールベルトプーリの有利な態様によれば、保持器の、潤滑剤の分配のために設けられた突起が、ほぼ半径方向に方向付けられており、かつ/または羽根状の横断面を形成している。
【0007】
本発明に係るフリーホイールベルトプーリの有利な態様によれば、保持器の、前記潤滑剤を分配するための突起が、横断面で見て翼状に形成されている。
【0008】
本発明に係るフリーホイールベルトプーリの有利な態様によれば、保持器の、前記潤滑剤を分配するための突起が、傾斜してまたは傾けられて交互に位置決めされている。
【0009】
本発明に係るフリーホイールベルトプーリの有利な態様によれば、保持器の、前記潤滑剤を分配するための突起が、保持器の少なくとも1つの中間ゾーンに対応配置されており、該中間ゾーンが、締付けエレメントと転動体とを収容するために規定されたポケットの間に形成されている。
【0010】
本発明に係るフリーホイールベルトプーリの有利な態様によれば、保持器の、前記潤滑剤を分配するための突起が、保持器の少なくとも一方の端面に位置決めされている。
【0011】
本発明に係るフリーホイールベルトプーリの有利な態様によれば、保持器が、突起を介してフリーホイールユニットのアウタスリーブまたはインナスリーブの縁部に案内されている。
【0012】
本発明に係るフリーホイールベルトプーリの有利な態様によれば、保持器が、プラスチックまたは1つの金属薄板材料から製造されている。
【0013】
本発明に係るフリーホイールベルトプーリの有利な態様によれば、保持器が、前記潤滑剤を分配するための突起を含めてプラスチック射出成形法によって製造可能である。
【0014】
本発明に係るフリーホイールベルトプーリの有利な態様によれば、保持器が、前記潤滑剤を分配するための突起を含めて1つの金属薄板材料からチップなしの変形加工法によって製造されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、潤滑剤をフリーホイールユニットの内部において、保持器に対応配置された付加的な突起によって分配するという思想に基づいている。フリーホイールユニット内での潤滑剤の分配は、フリーホイールベルトプーリの寿命および疲れ限度に対して重要である。本発明によれば、保持器が、回転時に潤滑剤をフリーホイールユニットの内部で均等に分配する突起に一体に結合されている。有利には、保持器のこの突起は、運転状態において、潤滑剤、特に潤滑グリースのより良好な十分な混合と、フリーホイールユニットの全ての回転構成部材もしくは運動構成部材の最適な負荷とを招く。この効果は、特に運転状態において、より高い温度が発生させられる場合に有利であり、これによって、保持器の回転運動が常に潤滑剤に渦流を発生させる。これによって、転動体の接触面もしくは締付けエレメントと、インナスリーブまたはアウタスリーブに設けられた対応面との間に十分な潤滑膜が形成される。さらに、本発明によって、潤滑剤でのフリーホイールユニットの有利なより高い充填度が可能となる。有利には、本発明によって、摩擦を著しく減少させることができ、フリーホイールユニットの故障を阻止することができる。また、本発明における手段に相俟ったフリーホイールベルトプーリが、有利には、より高い限界回転数に対して使用可能となる。
【0016】
本発明の有利な態様によれば、保持器が、潤滑剤分配のために、ほぼ半径方向に方向付けられた、羽根状の横断面を形成する突起を有している。このような形式の突起に相俟った保持器の使用によって、フリーホイールユニットの内部で潤滑剤を、潤滑剤の要求が高い領域に適切に供給することが可能となる。羽根状の横断面に対して択一的には、保持器が、本発明によれば、翼状にまたはタービン羽根状に形成された突起を有していてよい。
【0017】
有利には、フリーホイールユニットの保持器に周方向で配置された、潤滑剤を分配するための突起が、傾斜してまたは傾けられて交互に方向付けられている。このコンセプトは、同じく潤滑剤への渦流発生もしくは潤滑剤の分配に有利な影響を与える。
【0018】
本発明によれば、保持器の突起が少なくとも保持器の中間ゾーンに配置されている。この中間ゾーンは、フリーホイールの締付けエレメントと転がり軸受けの転動体とに対して規定されたポケットの間に形成されている。本発明の有利な改良態様は、保持器の、潤滑剤を分配するための突起を、締付けエレメントと転動体との間の中間ゾーンだけでなく、保持器の少なくとも一方の端部面または端面にも位置決めすることを提案している。この態様では、保持器が端側の突起を介してフリーホイールユニットのインナスリーブまたはアウタスリーブの少なくとも一方の縁部に案内されているのと同時にインナスリーブまたはアウタスリーブの縁部に対する保持器の軸方向の間隔を規定していることが提案されている。
【0019】
対応する突起を含めた本発明における保持器は、有利には媒体耐性を有するプラスチックまたは1つの金属薄板材料から製造されている。このためには、製造法として、特に多い個数に対して廉価なプラスチック射出成形法が使用されてよい。1つの金属薄板材料から成る保持器には、チップ(切削屑)なしの変形加工法または深絞り加工法が適している。
【0020】
本発明の有利な更なる特徴は、本発明の実施の形態を示す以下の説明から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】公知先行技術におけるフリーホイールベルトプーリの断面図である。
【図2】本発明により形成された保持器の第1の実施の形態の展開図である。
【図3】本発明により形成された保持器の第2の実施の形態の斜視図である。
【図4】本発明により形成された保持器の第3の実施の形態の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明を実施するための形態を図面につき詳しく説明する。
【0023】
図1には、一般的な構造のフリーホイールベルトプーリ1が縦断面図で示してある。このフリーホイールベルトプーリ1はフリーホイールユニット2を有している。このフリーホイールユニット2は、半径方向内側でボス3によって仕切られかつ半径方向外側でブシュ4によって仕切られた構成スペース内に組み込まれている。ボス3は、たとえばオルタネータに対応配置された駆動軸5に相対回動不能に位置固定されており、ブシュ4はベルトプーリ6によって取り囲まれている。フリーホイールユニット2は、締付けころ式フリーホイールまたは締付け体式フリーホイールとして形成されたフリーホイールクラッチ7を有している。このフリーホイールクラッチ7の両側には、転がり軸受け8,9として形成された支持軸受けが対応配置されている。フリーホイールユニット2は、外側でアウタスリーブ10によって仕切られ、内側でインナスリーブ11によって仕切られる。両スリーブ10,11は、有利には、それぞれ摩擦接続的にブシュ4内に圧入されているかまたはボス3にプレス嵌めされている。フリーホイールクラッチ7の締付けエレメント14と、転がり軸受け8,9の転動体15,16とは、保持器17内に挿入されていて、案内されている。アウタスリーブ10の両側に一体成形された、半径方向内側に向けられた縁部12,13は、それぞれ保持器17に対する軸方向ストッパを形成している。個々の構成要素を潤滑するためには、フリーホイールユニット2が部分的に潤滑剤、特に潤滑グリースで充填されている。
【0024】
図2には、保持器17が詳細図で示してある。この保持器17は、互いに異なる形で形成された2種類のポケットを有している。これらのポケットは、締付けエレメント14と転動体15,16とを収容しかつ案内するために設けられている。長方形に形成された中央のポケット18は締付けエレメント14に対して規定されており、別の側方のポケット19,20は転動体15,16に対して規定されている。保持器17の中間ゾーン21,22には、半径方向に方向付けられた突起23,24,25が周方向で互いに間隔を置いて配置されている。この突起23,24,25は、フリーホイールベルトプーリ1の運転状態において、フリーホイールユニット2の内部で潤滑剤を有効に分配する。この潤滑剤の分配に影響を与えるためには、保持器17が、種々異なる形で成形された突起を有している。半径方向の付設部として形成された突起23のほかに、保持器17は、羽根状のまたは翼状の横断面を備えた突起24,25を有している。互いに逆方向に方向付けられた突起24,25を交互に配置することによって、所望の最適な潤滑剤分配を実現することができる。これに対して択一的には、保持器17に専ら、たとえば突起24だけを装着することが提案される。
【0025】
図3には、フリーホイールベルトプーリ1に対して規定された保持器27が詳細な斜視図として示してある。図3のフリーホイールベルトプーリ1では、フリーホイールユニット2の片側にしか転がり軸受けが対応配置されていない。したがって、保持器27はただ1つの中間ゾーン21しか形成していない。この中間ゾーン21は、専ら半径方向に方向付けられた突起23だけを有している。
【0026】
図4には、別の保持器変化形態が示してある。この保持器変化形態によれば、保持器28が、図3に示した中間ゾーン21の範囲に設けられた突起23に対して補足的に、一方の端面29に対応配置された、半径方向に方向付けられた突起26を有している。この突起26は、保持器28の、同時に潤滑剤蓄え部として働く端面側の歯形成形部を形成している。突起26を外側に配置することによって、保持器28が、組付け状態において、突起26を介してアウタスリーブ10の縁部12;13に直接支持されている。
【符号の説明】
【0027】
1 フリーホイールベルトプーリ
2 フリーホイールユニット
3 ボス
4 ブシュ
5 駆動軸
6 ベルトプーリ
7 フリーホイールクラッチ
8 転がり軸受け
9 転がり軸受け
10 アウタスリーブ
11 インナスリーブ
12 縁部
13 縁部
14 締付けエレメント
15 転動体
16 転動体
17 保持器
18 ポケット
19 ポケット
20 ポケット
21 中間ゾーン
22 中間ゾーン
23 突起
24 突起
25 突起
26 突起
27 保持器
28 保持器
29 端面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フリーホイールベルトプーリ(1)であって、該フリーホイールベルトプーリ(1)が、引張手段伝動装置におけるねじり振動を減衰するために使用されていて、フリーホイールユニット(2)を有しており、該フリーホイールユニット(2)が、アウタスリーブ(10)とインナスリーブ(11)とを有しており、アウタスリーブ(10)とインナスリーブ(11)との間に、フリーホイールクラッチ(7)と、転がり軸受け(8,9)として形成された少なくとも1つの支持軸受けとが配置されており、フリーホイールクラッチ(7)の締付けエレメント(14)と、転がり軸受け(8,9)の転動体(15,16)とが、保持器(17)に案内されているフリーホイールベルトプーリにおいて、保持器(17,27,28)が、該保持器(17,27,28)に外側で一体に結合された突起(23,24,25,26)を有しており、該突起(23,24,25,26)が、保持器(17,27,28)の回転時にフリーホイールユニット(2)の内部での潤滑剤の均等な分配を保証していることを特徴とする、フリーホイールベルトプーリ。
【請求項2】
保持器(17,27,28)の、潤滑剤の分配のために設けられた突起(23,24,25,26)が、ほぼ半径方向に方向付けられており、かつ/または羽根状の横断面を形成している、請求項1記載のフリーホイールベルトプーリ。
【請求項3】
保持器(17,27,28)の、前記潤滑剤を分配するための突起(23,24,25,26)が、横断面で見て翼状に形成されている、請求項1記載のフリーホイールベルトプーリ。
【請求項4】
保持器(17)の、前記潤滑剤を分配するための突起(24,25)が、傾斜してまたは傾けられて交互に位置決めされている、請求項1記載のフリーホイールベルトプーリ。
【請求項5】
保持器(17,27,28)の、前記潤滑剤を分配するための突起(23,24,25,26)が、保持器(17,27,28)の少なくとも1つの中間ゾーン(21,22)に対応配置されており、該中間ゾーン(21,22)が、締付けエレメント(14)と転動体(15,16)とを収容するために規定されたポケット(18,19,20)の間に形成されている、請求項1記載のフリーホイールベルトプーリ。
【請求項6】
保持器(28)の、前記潤滑剤を分配するための突起(26)が、保持器(28)の少なくとも一方の端面に位置決めされている、請求項1記載のフリーホイールベルトプーリ。
【請求項7】
保持器(28)が、突起(26)を介してフリーホイールユニット(2)のアウタスリーブ(10)またはインナスリーブ(11)の縁部(12,13)に案内されている、請求項6記載のフリーホイールベルトプーリ。
【請求項8】
保持器(17,27,28)が、プラスチックまたは1つの金属薄板材料から製造されている、請求項1記載のフリーホイールベルトプーリ。
【請求項9】
保持器(17,27,28)が、前記潤滑剤を分配するための突起(23,24,25,26)を含めてプラスチック射出成形法によって製造可能である、請求項8記載のフリーホイールベルトプーリ。
【請求項10】
保持器(17,27,28)が、前記潤滑剤を分配するための突起(23,24,25,26)を含めて1つの金属薄板材料からチップなしの変形加工法によって製造されている、請求項8記載のフリーホイールベルトプーリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−104492(P2013−104492A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249064(P2011−249064)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(510068035)シェフラー テクノロジーズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (69)
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Industriestrasse 1−3, D−91074 Herzogenaurach, Germany
【Fターム(参考)】