説明

潤滑剤組成物とそれを用いた減速機および電動パワーステアリング装置

【課題】温度の影響を極力排除しながら、減速機の回転トルク、および電動パワーステアリング装置の操舵トルクを過剰に上昇させることなしに、ラトル音を、より一層、効果的に低減することができる緩衝材粒子入りの潤滑剤組成物と、それを用いた減速機および電動パワーステアリング装置を提供すること。
【解決手段】潤滑剤と、無機または有機の硬質微粒子を内包させた緩衝粒子を含む潤滑剤組成物であって、前記緩衝材粒子の平均粒径(du)と硬質微粒子の平均粒径(ds)の比(du/ds)が2000以下であり、硬質微粒子を緩衝材粒子1個あたり2個以上の割合で、かつ緩衝材粒子の平均粒径が50μm以下であるとき体積分率が10体積%以下の割合となるようにした潤滑剤組成物。潤滑剤組成物を充填した減速機と減速機を組み込んだ電動パワーステアリング装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウォームとウォームホイール等の、小歯車と大歯車とを有する減速機等に好適に用いることができる潤滑剤組成物と、前記潤滑剤組成物を充填した減速機と、前記減速機を備えた電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用の電動パワーステアリング装置には減速機が用いられる。例えばコラム型EPSでは、電動モータの回転を、前記減速機においてウォーム等の小歯車からウォームホイール等の大歯車に伝えて、回転速度を減速すると共に出力を増幅した後、ステアリングシャフトに付与することで、ステアリング操作をトルクアシストしている。前記小歯車と大歯車の噛み合いには、適度なバックラッシが必要である。
【0003】
しかし、バックラッシが大きすぎる場合には、例えば、前記両歯車の回転を逆転させた際や、石畳等の悪路を走行してタイヤからの反力が入力(キックバック)された際等に、バックラッシに起因してラトル音(歯打ち音)が発生する場合があり、それが車室内に騒音として伝わると、運転者に不快感を与えることになる。そのため、従来は、適正なバックラッシとなるように、小歯車と大歯車との組み合わせを選別して減速機を組み立てる、いわゆる層別組み立てが採用されてきたが、層別組み立ての作業には手間がかかるため、前記減速機を組み込んだ電動パワーステアリング装置の生産性を向上できないという問題があった。
【0004】
また、ウォームホイールの軸の偏芯によって発生する操舵トルクのむらは、層別組み立てをしても解消されなかった。また、これらの問題は、電動パワーステアリング装置の減速機に限らず、小歯車と大歯車とを備えた一般の減速機においても生じていた。そこで、これらの問題を解決するため、ウォーム軸をウォームホイールの方向へ偏倚可能に配置すると共に、前記ウォーム軸を、ばね等を用いて、弾性的に、ウォームホイールへ向けて偏倚させることによって、実質的に、両者間のバックラッシを無くするようにした電動パワーステアリング装置が提案された(特許文献1等参照)。しかし、前記構成では、減速機の構造が複雑になる分、電動パワーステアリング装置の製造コストが嵩むという問題があった。
【0005】
そこで、軟質樹脂やゴム等(以下「軟質樹脂等」と総称する場合がある)からなる緩衝材粒子を含む潤滑剤組成物を、減速機の、少なくとも小歯車と大歯車との噛み合い部分を含む領域に充填することが提案された(特許文献2、3等参照)。前記潤滑剤組成物を用いると、緩衝材粒子が、両歯車の歯面間に介在して、歯面同士の衝突を緩衝する緩衝材としての働きをするため、減速機の構造には手を加えずに、ラトル音を低減させることができる。
【0006】
また近時、前記緩衝材粒子を含む潤滑剤組成物について、例えば、自動車のエンジンルーム内等での使用を考慮して、高い耐熱性を有することや、より広い温度範囲で、ラトル音を安定して良好に低減させること等が求められるようになってきており、前記要求に対応するために、例えば緩衝材粒子を構成する軟質樹脂等の分子構造を変更したりすることが提案された(特許文献4、5等参照)。具体的には、例えば、前記軟質樹脂等を構成する繰り返し単位のもとになる出発原料の種類や組成比等を選択したり、架橋構造を有する軟質樹脂等の場合はその架橋密度を調整したりすることで、前記軟質樹脂等の物性、特に耐熱温度や、ラトル音の低減効果に直接に関係する弾性率等を調整することが提案された。
【特許文献1】特開2000−43739号公報
【特許文献2】特開2003−214529号公報
【特許文献3】特開2004−162018号公報
【特許文献4】特開2005−263989号公報
【特許文献5】特開2007−153994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、ラトル音の低減効果を向上するために、前記分子構造等の変更のみによって、軟質樹脂等の弾性率を単純に高くするだけでは、緩衝材粒子が硬くなりすぎて、小歯車と大歯車との噛み合い部分に噛み込んだ際に抵抗となって、減速機の回転トルク、ひいては電動パワーステアリング装置の操舵トルクを過剰に上昇させるといった問題を生じるおそれがあった。また、軟質樹脂等の弾性率は温度依存性が高く、温度によって大きく変化することから、特に低温時に、弾性率が過剰に上昇するのを防止しながら、通常の使用温度範囲において、緩衝材粒子が適度な弾性率を有するように調整するのが難しいという問題もあった。
【0008】
本発明の目的は、温度の影響を極力排除しながら、減速機の回転トルク、および電動パワーステアリング装置の操舵トルクを過剰に上昇させることなしに、ラトル音を、より一層、効果的に低減することができる緩衝材粒子入りの潤滑剤組成物と、それを用いた減速機および電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、発明者は、緩衝材粒子の構造と、弾性率との関係について検討を行った。その結果、緩衝材粒子中に、前記緩衝材粒子を構成する軟質樹脂等よりも硬質で、かつ粒径の小さい無機または有機の硬質微粒子を内包させると、前記緩衝材粒子に荷重を加えた際の変形量を、硬質微粒子を含まない場合に比べて小さくできる、つまり硬質微粒子を内包させることで、緩衝材粒子の見かけの弾性率を向上できることが明らかとなった。
【0010】
そこで、発明者はさらに検討した結果、例えば、先に説明したように軟質樹脂等の分子構造を変更したりすることで、緩衝材粒子の耐熱性や弾性率、あるいは弾性率の温度特性等の基本的な特性をある程度のレベルに設定した上に、さらに硬質微粒子を内包させると共に、内包させる硬質微粒子の平均粒径dや緩衝材粒子の平均粒径d、あるいは硬質微粒子の体積分率Vを所定の範囲に設定すると、前記緩衝材粒子の見かけの弾性率を、温度に依存する軟質樹脂等の弾性率の変化の範囲を外れて微調整できるため、前記温度の影響を極力排除しながら、減速機の回転トルク、ならびに電動パワーステアリング装置の操舵トルクを過剰に上昇させることなしに、ラトル音を、より一層、効果的に低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、潤滑剤と、軟質樹脂またはゴムからなる緩衝材粒子とを含み、前記緩衝材粒子が、前記軟質樹脂またはゴムよりも硬質の、無機または有機の硬質微粒子を、
(a) 式(1):
【0012】
【数1】

【0013】
〔式中Vは、硬質微粒子を内包させた緩衝材粒子の総体積に占める、前記硬質微粒子の体積分率(体積%)、dは緩衝材粒子の平均粒径、dは硬質微粒子の平均粒径を示す。〕
によって求められる、緩衝材粒子1個あたりに内包される硬質微粒子の平均個数Nが2個以上、
(b) 前記緩衝材粒子の平均粒径dと、硬質微粒子の平均粒径dとから、式(2):
【0014】
【数2】

【0015】
によって求められる、両粒子の平均粒径の比Rが2000以下で、かつ
(c) 緩衝材粒子の平均粒径dが50μm以下であるとき、体積分率Vが10体積%以下、
の全てを満足する範囲で内包していることを特徴とする潤滑剤組成物である。
前記本発明において、式(1)で求められる、緩衝材粒子1個あたりに内包される硬質微粒子の平均個数Nが2個以上に限定されるのは、前記平均個数Nが2個未満では、先に説明した、硬質微粒子を内包させることによる、緩衝材粒子の見かけの弾性率を高める効果が得られず、ラトル音を、効率よく低減できないためである。
【0016】
また、式(2)で求められる、緩衝材粒子の平均粒径dと、硬質微粒子の平均粒径dとの比Rが2000以下に限定されるのは、前記比Rが2000を超える場合には、緩衝材粒子に対する硬質微粒子の大きさが小さすぎて、同じ体積分率を確保するために、より多数の硬質微粒子を内包させる必要が生じる結果、緩衝材粒子が硬くなりすぎると共に、前記緩衝材粒子の粒径が、相対的に大きくなるため、前記硬くて大きい緩衝材粒子が小歯車と大歯車の歯面間に噛み込まれる等して、減速機の回転トルク、ひいては電動パワーステアリング装置の操舵トルクが過剰に上昇するためである。
【0017】
さらに、緩衝材粒子の平均粒径dが50μm以下であるとき、体積分率Vが10体積%以下に限定されるのは、前記小粒径の緩衝材粒子に、前記体積分率Vの範囲を超える多量の硬質微粒子を内包させると、緩衝材粒子が硬くなりすぎるため、前記硬くて小さい緩衝材粒子が、小歯車と大歯車の歯面間に噛み込まれる等して、前記硬くて小さい緩衝材粒子を含む潤滑剤組成物の粘度が高くなりすぎることと相まって、減速機の回転トルク、ひいては電動パワーステアリング装置の操舵トルクが過剰に上昇するためである。
【0018】
前記緩衝材粒子、および硬質微粒子の平均粒径の具体的な範囲は、特に限定されないが、緩衝材粒子の平均粒径dは30μm以上、300μm以下であるのが好ましい。平均粒径が前記範囲未満である緩衝材粒子では、小歯車と大歯車の歯面間に介在して、歯面同士の衝突を緩衝してラトル音を低減する効果が十分に得られないおそれがあり、前記範囲を超える粒径の大きい緩衝材粒子では、前記歯面間に噛み込まれる等して、減速機の回転トルク、ひいては電動パワーステアリング装置の操舵トルクが上昇したり、あるいは摺動音が発生したりするおそれがある。
【0019】
また、硬質微粒子の平均粒径dは、前記好適な平均粒径dを有する緩衝材粒子中に内包させた際に、(a)ないし(c)を全て満足させることを考慮すると0.1μm以上、20μm以下であるのが好ましい。本発明の減速機は、小歯車と大歯車とを備え、両歯車の噛み合い部分を含む領域に、前記本発明の潤滑剤組成物を充填したものであるため、騒音が小さい上、電動パワーステアリング装置の操舵トルクを十分に低減できる点で好ましい。また、本発明の電動パワーステアリング装置は、操舵補助用の電動モータの出力を、前記減速機を介して減速して舵取装置に伝えるものであるため、車室内での騒音を、コスト安価に低減できる点で好ましい。
【0020】
なお、特開2005−23212号公報には、緩衝材粒子として、緩衝材からなる内核の外周を、それよりも軟らかい緩衝材からなる外殻で被覆した二重構造を有する緩衝材粒子を含む潤滑剤組成物が記載されている。しかし、前記内核は、前記公報の段落[0018]の記載から明らかなように、本発明における硬質微粒子に相当するものではなく、緩衝材粒子それ自体に相当するものであり、外殻は、さらに軟質の緩衝材からなるものであって、その構造、ならびに内核および外殻の機能が、本発明における緩衝材粒子の構造、ならびに緩衝材粒子および硬質微粒子の機能とは全く異なっている。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、温度の影響を極力排除しながら、減速機の回転トルク、および電動パワーステアリング装置の操舵トルクを過剰に上昇させることなしに、ラトル音を、より一層、効果的に低減することができる緩衝材粒子入りの潤滑剤組成物と、それを用いた減速機および電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
〈潤滑剤組成物〉
本発明の潤滑剤組成物は、潤滑剤と、軟質樹脂またはゴムからなる緩衝材粒子とを含み、前記緩衝材粒子が、前記軟質樹脂またはゴムよりも硬質の、無機または有機の硬質微粒子を、
(a) 式(1):
【0023】
【数3】

【0024】
〔式中Vは、硬質微粒子を内包させた緩衝材粒子の総体積に占める、前記硬質微粒子の体積分率(体積%)、dは緩衝材粒子の平均粒径、dは硬質微粒子の平均粒径を示す。〕
によって求められる、緩衝材粒子1個あたりに内包される硬質微粒子の平均個数Nが2個以上、
(b) 前記緩衝材粒子の平均粒径dと、硬質微粒子の平均粒径dとから、式(2):
【0025】
【数4】

【0026】
によって求められる、両粒子の平均粒径の比Rが2000以下で、かつ
(c) 緩衝材粒子の平均粒径dが50μm以下であるとき、体積分率Vが10体積%以下、
の全てを満足する範囲で内包していることを特徴とするものである。
前記本発明によれば、緩衝材粒子に対して所定の大きさを有する硬質微粒子を、所定の体積分率、および平均個数の範囲で内包させることによって、前記緩衝材粒子の見かけの弾性率を、温度に依存する軟質樹脂等の弾性率の変化の範囲を外れて微調整できるため、前記温度の影響を極力排除しながら、減速機の回転トルク、ならびに電動パワーステアリング装置の操舵トルクを過剰に上昇させることなしに、ラトル音を、より一層、効果的に低減することが可能となる。
【0027】
本発明において、式(1)で求められる、緩衝材粒子1個あたりに内包される硬質微粒子の平均個数Nが2個以上に限定されるのは、前記平均個数Nが2個未満では、先に説明した、硬質微粒子を内包させることによる、緩衝材粒子の見かけの弾性率を高める効果が得られず、ラトル音を、効率よく低減できないためである。なお、平均個数Nは、前記範囲内でも5×10個以下であるのが好ましい。内包させる硬質微粒子の平均個数Nが前記範囲を超える場合には、緩衝材粒子が硬くなりすぎて、前記硬い緩衝材粒子が小歯車と大歯車の歯面間に噛み込まれる等して、減速機の回転トルク、ひいては電動パワーステアリング装置の操舵トルクを過剰に上昇させるおそれがある。
【0028】
また、本発明において、式(2)で求められる、緩衝材粒子の平均粒径dと、硬質微粒子の平均粒径dとの比Rが2000以下に限定されるのは、前記比Rが2000を超える場合には、緩衝材粒子に対する硬質微粒子の大きさが小さすぎて、同じ体積分率を確保するために、より多数の硬質微粒子を内包させる必要が生じる結果、緩衝材粒子が硬くなりすぎると共に、前記緩衝材粒子の粒径が、相対的に大きくなるため、前記硬くて大きい緩衝材粒子が小歯車と大歯車の歯面間に噛み込まれる等して、減速機の回転トルク、ひいては電動パワーステアリング装置の操舵トルクが過剰に上昇するためである。
【0029】
なお、先に説明したように、1個の緩衝材粒子中に2個以上の硬質微粒子を内包させる必要があることと、前記2個以上の硬質微粒子を内包させた状態で、前記硬質微粒子が、十分な量の軟質樹脂等によって結着された構造を維持して、緩衝材粒子が、小歯車と大歯車の歯面間に介在して、両歯面からの圧縮を受けた際に破損したりせずに、緩衝材としての機能を十分に発揮できるようにすることとを考慮すると、前記比Rは、前記範囲内でも5以上、1500以下であるのが好ましい。
【0030】
さらに、本発明において、緩衝材粒子の平均粒径dが50μm以下であるとき、体積分率Vが10体積%以下に限定されるのは、前記小粒径の緩衝材粒子に、前記体積分率Vの範囲を超える多量の硬質微粒子を内包させると、緩衝材粒子が硬くなりすぎるため、前記硬くて小さい緩衝材粒子が、小歯車と大歯車の歯面間に噛み込まれる等して、前記硬くて小さい緩衝材粒子を含む潤滑剤組成物の粘度が高くなりすぎることと相まって、減速機の回転トルク、ひいては電動パワーステアリング装置の操舵トルクが過剰に上昇するためである。
【0031】
なお、緩衝材粒子の平均粒径dが50μm以下であるとき、硬質微粒子の体積分率Vは、前記範囲内でも0.05体積%以上、6.00体積%以下であるのが好ましい。体積分率Vが前記範囲未満では、先に説明した、硬質微粒子を内包させることによる、緩衝材粒子の見かけの弾性率を高める効果が十分に得られず、ラトル音を、効率よく低減できないおそれがあるためである。緩衝材粒子の平均粒径dが50μmを超える場合も、同様の理由で、硬質微粒子の体積分率Vは0.05体積%以上であるのが好ましい。
【0032】
また、平均粒径dが50μmを超える緩衝材粒子における、硬質微粒子の体積分率Vは15.0体積%以下であるのが好ましい。前記緩衝材粒子に、前記体積分率Vの範囲を超える多量の硬質微粒子を内包させると、やはり緩衝材粒子が硬くなりすぎて、前記硬くて大きい衝材粒子が、小歯車と大歯車の歯面間に噛み込まれる等して、減速機の回転トルク、ひいては電動パワーステアリング装置の操舵トルクが過剰に上昇するおそれがある。
【0033】
前記緩衝材粒子、および硬質微粒子の平均粒径の具体的な範囲は、特に限定されないが、緩衝材粒子の平均粒径dは30μm以上、300μm以下であるのが好ましい。平均粒径が前記範囲未満である緩衝材粒子では、小歯車と大歯車の歯面間に介在して、歯面同士の衝突を緩衝してラトル音を低減する効果が十分に得られないおそれがあり、前記範囲を超える粒径の大きい緩衝材粒子では、前記歯面間に噛み込まれる等して、減速機の回転トルク、ひいては電動パワーステアリング装置の操舵トルクが上昇したり、あるいは摺動音が発生したりするおそれがある。
【0034】
また、硬質微粒子の平均粒径dは、前記好適な平均粒径dを有する緩衝材粒子中に内包させた際に、(a)ないし(c)を全て満足させることを考慮すると0.1μm以上、20μm以下であるのが好ましい。なお、本発明では、緩衝材粒子の平均粒径d、および硬質微粒子の平均粒径dを、それぞれ、レーザー回折・散乱法によって測定した粒度分布の体積平均径でもって表すこととする。また、硬質微粒子を内包させた緩衝材粒子の総体積に占める、前記硬質微粒子の体積分率は、硬質微粒子が内包された緩衝材粒子を製造する際における、前記緩衝材粒子を構成する軟質樹脂、またはそのもとになる出発原料の仕込み量と、硬質微粒子の仕込み量と、前記軟質樹脂の比重と、硬質微粒子を構成する無機または有機の材料の比重とから求めることができる。
【0035】
緩衝材粒子としては、小歯車と大歯車の噛み合い部分に介在して、両歯車の歯面間の衝突を緩衝することによって、ラトル音を減少させる機能を付与するために、ゴム弾性を有する種々の、軟質樹脂またはゴムからなる粒子が、いずれも使用可能である。前記緩衝材粒子のもとになる軟質樹脂としては、例えばポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリイミド樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。
【0036】
また、ゴムとしては、例えばエチレン−プロピレン共重合ゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(EPDM)、シリコーンゴム、ウレタンゴム(U)等の耐油性のゴムが挙げられる。また、オレフィン系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、フッ素系等の耐油性の熱可塑性エラストマーを用いて、緩衝材粒子を形成してもよい。中でも、繰り返し単位のもとになる出発原料として、ポリオールと、架橋剤と、ポリイソシアネートとを反応させて合成されるポリウレタン樹脂からなる緩衝材粒子が好ましい。
【0037】
前記ポリウレタン樹脂からなる緩衝材粒子は、前記各成分の混合液を、前記各成分を溶解しない非水系の分散媒中に、液滴状に分散させた状態で反応させてポリウレタン樹脂を合成する、いわゆる分散重合法によって製造することができる。前記分散重合法によれば、分散媒中に分散した液滴の球状を維持しながら、なおかつ粒径の揃ったポリウレタン樹脂製の緩衝材粒子を、効率よく製造できるという利点がある。また、先に説明したように、前記各成分の種類と配合割合とを調整することによって、緩衝材粒子の弾性率や硬さ等を、任意の範囲で調整できるという利点もある。
【0038】
ポリウレタン樹脂からなる緩衝材粒子に硬質微粒子を内包させるためには、前記分散重合法において、非水系の分散媒中に液滴状に分散させる、ポリオール等の混合液中に、前記硬質微粒子を、所定の割合で添加すればよい。また、分散重合法以外の、他の製造工程によって形成される緩衝材粒子中に硬質微粒子を内包させるためには、前記製造工程の任意の段階で、緩衝材粒子を構成するゴムや樹脂中に、前記前記硬質微粒子を、所定の割合で添加すればよい。
【0039】
緩衝材粒子の形状は、不定形粒状その他の形状であっても構わなが、潤滑剤組成物の流動性を向上することや、歯面間での転がり性を向上して、減速機の回転トルク、ひいては電動パワーステアリング装置の操舵トルクが上昇するのを抑制すること等を考慮すると、先に説明した球状であるのが好ましい。また、緩衝材粒子を形成する軟質樹脂等の弾性率は、例えば潤滑剤組成物の使用温度の範囲内において10−1MPa以上、10MPa以下、特に5×10−1MPa以上、10MPa以下であるのが好ましい。弾性率が前記範囲未満では、小歯車と大歯車との噛み合いの衝撃を緩衝して、ラトル音を低減する効果が十分に得られず、車室内での騒音を、十分に低減できないおそれがある。
【0040】
弾性率を前記範囲に調整した軟質樹脂等からなる緩衝材粒子中に、前記緩衝材粒子に対して所定の大きさを有する硬質微粒子を、所定の体積分率、および平均個数の範囲で内包させることで、その見かけの弾性率を、温度に依存する軟質樹脂等の弾性率の変化の範囲を外れて微調整できるため、前記温度の影響を極力排除しながら、減速機の回転トルク、および電動パワーステアリング装置の操舵トルクを過剰に上昇させることなしに、ラトル音を、より一層、効果的に低減することができる。緩衝材粒子に内包させる硬質微粒子としては、前記緩衝材粒子を構成する軟質樹脂等よりも硬質である、無機または有機の、種々の微粒子が使用可能である。
【0041】
このうち、無機の硬質微粒子としては、例えば無水シリカ、タルク、アルミナ等の1種または2種以上の粉末が挙げられる。また、有機の硬質微粒子としては例えばナイロン、フッ素樹脂(PTFE等)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の1種または2種以上の粉末が挙げられる。硬質微粒子が、緩衝材粒子を構成する軟質樹脂等に対してどの程度、硬質であるかは特に限定されないが、前記緩衝材粒子中に内包させた際に、緩衝材粒子の見かけの弾性率を十分に向上させることを考慮すると、前記硬質微粒子を構成する有機または無機材料の弾性率が、先に説明した軟質樹脂等の弾性率の10倍以上、特に50倍以上、15000倍以下程度であるのが好ましい。
【0042】
本発明の潤滑剤組成物における、前記緩衝材粒子の含有割合は、前記潤滑剤組成物の総量の5質量%以上、50質量%以下、特に20質量%以上、40質量%以下であるのが好ましい。含有割合が前記範囲未満では、緩衝材粒子による、小歯車と大歯車との噛み合いの衝撃を緩衝して、ラトル音を低減する効果が十分に得られず、車室内での騒音を、十分に低減できないおそれがある。また、前記範囲を超える場合には、前記緩衝材粒子を含む潤滑剤組成物の粘度が高くなりすぎて、減速機の回転トルク、ひいては電動パワーステアリング装置の操舵トルクが上昇したり、摺動音が発生して、却って、車室内での騒音が大きくなったりするおそれがある。
【0043】
緩衝材粒子と共に潤滑剤組成物を構成する潤滑油としては、動粘度が5m/s(40℃)以上、200mm/s(40℃)以下、特に、20m/s(40℃)以上、100mm/s(40℃)以下であるものを用いるのが好ましい。前記潤滑油としては合成炭化水素油〔例えばポリαオレフィン油(PAO)〕が好ましいが、シリコーン油、フッ素油、エステル油、エーテル油等の合成油や鉱油等を用いることもできる。潤滑油はそれぞれ単独で使用できる他、2種以上を併用しても良い。潤滑剤組成物は、液状であってもよいし、半固形状の、いわゆるグリースであってもよい。グリースは、緩衝材粒子を添加した状態でのちょう度が、NLGI(National Lubricating Grease Institute)番号で表してNo.2ないしNo.00、混和ちょう度(25℃)が265ないし475、特に355ないし430であるのが好ましい。
【0044】
潤滑剤組成物をグリースにするためには、増ちょう剤を添加すればよい。増ちょう剤としては、石けん系増ちょう剤、ウレア系増ちょう剤、有機系増ちょう剤、無機系増ちょう剤等の、従来公知の種々の増ちょう剤が挙げられる。また、石けん系増ちょう剤としては、アルミニウム石けん、カルシウム石けん、リチウム石けん、ナトリウム石けん等の金属石けん型増ちょう剤、リチウム−カルシウム石けん、ナトリウム−カルシウム石けん等の混合石けん型増ちょう剤、アルミニウムコンプレックス、カルシウムコンプレックス、リチウムコンプレックスナトリウムコンプレックス等のコンプレックス型増ちょう剤等が挙げられ、特にリチウムステアレート等のリチウム石けんが好ましい。
【0045】
また、ウレア系増ちょう剤としてはポリウレア等が挙げられ、有機系増ちょう剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ナトリウムテレフタラート等が挙げられる。さらに無機系増ちょう剤としては、有機ベントナイト、グラファイト、シリカゲル等が挙げられる。液状の、またはグリースとしての潤滑剤組成物には、必要に応じて、フッ素樹脂(PTFE等)、二硫化モリブデン、グラファイト、ポリオレフィン系ワックス(アマイド等を含む)等の固体潤滑剤、リン系や硫黄系の極圧添加剤、トリブチルフェノール、メチルフェノール等の酸化防止剤、防錆剤、金属不活性剤、粘度指数向上剤、油性剤等を添加してもよい。
【0046】
本発明の潤滑剤組成物は、先に説明したコラム型EPSだけでなく、ラック型EPS、ピニオン型EPS等の、種々の方式の電動パワーステアリング装置の減速機に充填して使用することができる他、例えば、前記ステアリングシャフトと、ラックアンドピニオン機構等の操舵機構との間を繋ぐ中間軸に組み込まれるスプライン継手等の、種々の動力伝達部品に充填することで、ラトル音等の異音を低減するために機能させることができる。
【0047】
〈減速機および電動パワーステアリング装置〉
図1は、本発明の、一実施形態にかかる電動パワーステアリング装置の、概略断面図である。また、図2は、図1のII−II線に沿う断面図である。図1を参照して、この例の電動パワーステアリング装置においては、ステアリングホイール1を取り付けている入力軸としての第1の操舵軸2と、ラックアンドピニオン機構等の舵取装置(図示せず)に連結されている、出力軸としての第2の操舵軸3とが、トーションバー4を介して、同軸的に連結されている。
【0048】
第1および第2の操舵軸2、3を支持するハウジング5は、例えば、アルミニウム合金からなり、車体(図示せず)に取り付けられている。ハウジング5は、互いに嵌め合わされるセンサハウジング6と、ギヤハウジング7とによって構成されている。具体的には、ギヤハウジング7は、筒状をなし、その上端の環状縁部7aが、センサハウジング6の下端外周の環状段部6aに嵌め合わされている。ギヤハウジング7には、減速機構としてのウォームギヤ機構8が収容され、センサハウジング6には、トルクセンサ9、制御基板10等が収容されている。ギヤハウジング7にウォームギヤ機構8を収容することで、減速機50が構成されている。
【0049】
ウォームギヤ機構8は、第2の操舵軸3の軸方向中間部に、一体回転可能で、かつ、軸方向移動が規制されたウォームホイール12と、このウォームホイール12と噛み合わされていると共に、電動モータMの回転軸32に、スプライン継手33を介して連結されているウォーム軸11(図2参照)とを備えている。このうち、ウォームホイール12は、第2の操舵軸3に、一体回転可能に結合された、環状の芯金12aと、芯金12aの周囲を取り囲んで外周面部に歯が形成された、合成樹脂部材12bとを備えている。芯金12aは、例えば、合成樹脂部材12bの樹脂成形時に、金型内にインサートされる。そして、このインサートした状態での樹脂成形によって、芯金12aと合成樹脂部材12bとが結合、一体化されている。第2の操舵軸3は、ウォームホイール12を軸方向の上下に挟んで配置される、第1および第2の転がり軸受13、14によって、回転自在に支持されている。
【0050】
第1の転がり軸受13の外輪15は、センサハウジング6の下端の筒状突起6b内に設けられた軸受保持孔16に嵌め入れられて、保持されている。また、外輪15は、その上端面が、環状の段部17に当接されることで、センサハウジング6に対する軸方向上方への移動が規制されている。一方、第1の転がり軸受13の内輪18は、第2の操舵軸3に、締まりばめによって嵌め合わされている。また、内輪18の下端面は、ウォームホイール12の芯金12aの上端面に当接されている。
【0051】
第2の転がり軸受14の外輪19は、ギヤハウジング7の軸受保持孔20に嵌め入れられて、保持されている。また外輪19は、その下端面が、環状の段部21に当接されることで、ギヤハウジング7に対する、軸方向下方への移動が規制されている。一方、第2の転がり軸受14の内輪22は、第2の操舵軸3に、一体回転可能で、かつ、軸方向の相対移動が規制された状態で、取り付けられている。また、内輪22は、第2の操舵軸3の段部23と、第2の操舵軸3のねじ部に締め込まれるナット24との間に挟持されている。
【0052】
トーションバー4は、第1および第2の操舵軸2、3を貫通している。トーションバー4の上端4aは、連結ピン25により、第1の操舵軸2と一体回転可能に連結され、下端4bは、連結ピン26により、第2の操舵軸3と一体回転可能に連結されている。第2の操舵軸3の下端は、図示しない中間軸を介して、先に説明したように、ラックアンドピニオン機構等の舵取装置に連結されている。連結ピン25は、第1の操舵軸2と同軸に配置される第3の操舵軸27を、第1の操舵軸2と一体回転可能に連結している。第3の操舵軸27は、ステアリングコラムを構成するチューブ28内を貫通している。
【0053】
第1の操舵軸2の上部は、例えば、針状ころ軸受からなる第3の転がり軸受29を介して、センサハウジング6に回転自在に支持されている。第1の操舵軸2の下部の縮径部30と、第2の操舵軸3の上部の孔31とは、第1および第2の操舵軸2、3の相対回転を、所定の範囲に規制するように、回転方向に所定の遊びを設けて、嵌め合わされている。
図2を参照して、ウォーム軸11は、ギヤハウジング7によって保持される第4および第5の転がり軸受34、35によって、それぞれ、回転自在に支持されている。第4および第5の転がり軸受34、35の内輪36、37は、ウォーム軸11の、対応するくびれ部に嵌合されている。外輪38、39は、ギヤハウジング7の軸受保持孔40、41に、それぞれ保持されている。ギヤハウジング7は、ウォーム軸11の周面の一部に対して、径方向に対向する部分7bを含んでいる。
【0054】
ウォーム軸11の一端部11aを支持する第4の転がり軸受34の外輪38は、ギヤハウジング7の段部42に当接して位置決めされている。一方、内輪36は、ウォーム軸11の位置決め段部43に当接されることによって、他端部11b側への移動が規制されている。また、ウォーム軸11の、他端部11b(継手側端部)の近傍を支持する第5の転がり軸受35の内輪37は、ウォーム軸11の位置決め段部44に当接されることによって、一端部11a側への移動が規制されている。
【0055】
外輪39は、予圧調整用のねじ部材45によって、第4の転がり軸受34側へ付勢されている。ねじ部材45は、ギヤハウジング7に形成されるねじ孔46にねじ込まれることで、一対の転がり軸受34、35に予圧を付与すると共に、ウォーム軸11を、軸方向に位置決めしている。47は、予圧調整後のねじ部材45を止定するため、当該ねじ部材45に係合されるロックナットである。
【0056】
ギヤハウジング7内において、ウォーム軸11とウォームホイール12の噛み合い部分Aを少なくとも含む領域には、先に述べた、本発明の潤滑剤組成物が充てんされる。すなわち、潤滑剤組成物は、噛み合い部分Aのみに充てんされてもよいし、噛み合い部分Aとウォーム軸11の周縁全体に充てんされてもよいし、ギヤハウジング7内全体に充てんされてもよい。なお、本発明は、図1、2の実施形態には限定されない。例えば、本発明の減速機の構成は、電動パワーステアリング装置以外の他の装置用の、減速機に適用することができる等、本発明の特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で、種々の変形を施すことができる。
【実施例】
【0057】
〈実施例1〉
(緩衝材粒子)
緩衝材粒子として、ポリウレタン樹脂からなり、硬質微粒子として無水シリカを内包させた球状の粒子を用意した。レーザー回折・散乱法を利用した粒度分布測定装置〔日機装(株)製の登録商標マイクロトラック〕を用いて測定した、前記緩衝材粒子の平均粒径(体積平均径)dは30μm、無水シリカの平均粒径(体積平均径)dは5μmであった。また、25℃での弾性率は、前記ポリウレタン樹脂が8.7MPa、無水シリカが101GPaであった。
【0058】
前記緩衝材粒子は、ポリウレタン樹脂を構成する繰り返し単位のもとになる出発原料としてのポリオールと、架橋剤と、ポリイソシアネートとを、無水シリカと共に、前記各成分を溶解しない非水系の分散媒中に、液滴状に分散させた状態で反応させてポリウレタン樹脂を合成する分散重合法によって製造した。硬質微粒子を内包させた緩衝材粒子の総体積に占める、前記硬質微粒子の体積分率Vは、前記製造時における、各成分の仕込み量を調整して6.00体積%とした。また、式(1)によって求められる、緩衝材粒子1個あたりに内包される硬質微粒子の平均個数Nは12.96個、式(2)によって求められる、両粒子の平均粒径の比Rは6であった。
【0059】
(グリースの調製)
潤滑剤としての合成炭化水素油〔PAO8グレード、動粘度30mm/s(40℃)〕と、カルシウムスルフォネート系増ちょう剤とを、3本ロールミルを用いて混合しながら、さらに同じ潤滑剤と、先に用意した緩衝材粒子とを加えて混合して、潤滑剤組成物としての、ちょう度がNLGI番号で表してNo.00であるグリースを調製した。緩衝材粒子の含有割合は、グリースの総量の30質量%であった。
【0060】
〈実施例2ないし5、比較例1ないし4〉
前記粒度分布測定装置を用いて測定した平均粒径dが表1に示す値である3種の無水シリカを使用すると共に、分散重合法による緩衝材粒子の製造条件、および各成分の仕込み量を調整して製造した、前記表1に示す各特性を有する緩衝材粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ちょう度がNLGI番号で表してNo.00であるグリースを調製した。無水シリカ、およびポリウレタン樹脂の弾性率は、いずれも実施例1と同じであった。
【0061】
〈参考例1〉
硬質微粒子としての無水シリカを添加せずに分散重合法を実施して製造した、前記無水シリカを内包しない、ポリウレタン樹脂のみからなる緩衝材粒子を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、ちょう度がNLGI番号で表してNo.00であるグリースを調製した。前記緩衝材粒子の、粒度分布測定装置を用いて測定した平均粒径dは150μmであった。また、ポリウレタン樹脂の弾性率は、実施例1と同じであった。
【0062】
〈実機試験〉
実施例1ないし5、比較例1ないし4、ならびに参考例1で調製したグリースを、図1、2に示す電動パワーステアリング装置の減速機に充填して、ラトル音および摺動音が複合した異音[dB(A)]、および操舵トルク(N・m)を測定した。また、異音の測定値を参考例1と比較した際に、その低減効果が10%以上あったものを良好(○)、10%未満であったものを不良(×)として評価した。さらに、操舵トルクの測定値を参考例1と比較した際に、そのトルク上昇率が10%以下であったものを良好(○)、10%を超えたものを不良(×)として評価した。なお、ウォームギヤ機構8としては、鉄系の金属製のウォーム軸11と、合成樹脂部材12bがポリアミド樹脂系の樹脂で形成されたウォームホイール12とを組み合わせたものを用いた。バックラッシは2′とした。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1より、緩衝材粒子の平均粒径dが50μm以下で、かつ硬質微粒子の体積分率Vが10体積%を超えた比較例1のグリース、または、式(2)によって求められる、緩衝材粒子と硬質微粒子の平均粒径の比Rが2000を超えた比較例4のグリースを用いた場合には、共に、電動パワーステアリング装置の操舵トルクが過剰に上昇することが判った。また、式(1)によって求められる、緩衝材粒子1個あたりに内包される硬質微粒子の平均個数Nが2個未満であった比較例2、3のグリースを用いた場合には、共に、異音を効率よく低減できないことが判った。
【0065】
これに対し、緩衝材粒子中に、硬質微粒子を、前記(a)ないし(c)を全て満足する範囲で内包させた、実施例1ないし5のグリースを用いた場合には、いずれも、電動パワーステアリング装置の操舵トルクを過剰に上昇させることなしに、異音を、より一層、効果的に低減できることが確認された。
〈弾性率の温度依存性の評価〉
図3に示すように、実施例3、および参考例1で製造した緩衝材粒子101を、平面状とされた石英製のベース102上に載置し、その上から、先端面が平面状とされた石英製の検出棒103の、前記先端面を、緩衝材粒子101に当接させた状態で、前記緩衝材粒子101を、検出棒103によって、一定の荷重Fを加えて、ベース102の方向に圧縮した際の、前記ベース102の表面と、検出棒103の先端面との間の間隔Gを測定し、測定結果から、式(3):
【0066】
【数5】

【0067】
〔式中、Rは緩衝材粒子101の圧縮前の半径、Sは、緩衝材粒子101の半径Rと、前記間隔Gとから、式(4):
【0068】
【数6】

【0069】
によって求められる、緩衝材粒子101の圧縮変形量、Eは緩衝材粒子101の弾性率、νはポアソン比(=0.49)を示す。〕
に基づいて、緩衝材粒子101の弾性率Eを求める操作を、測定温度−40℃〜+100℃までの温度範囲で、5℃おきに、測定温度を変化させながら実施して、前記測定温度による、緩衝材粒子101の弾性率Eの推移を求めた。結果を、図4に示す。図4より、緩衝材粒子に、硬質微粒子としての無水シリカを含有させることによって、前記緩衝材粒子の見かけの弾性率を、温度に依存する軟質樹脂等の弾性率の変化の範囲を外れて微調整できることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の、一実施形態にかかる電動パワーステアリング装置としてのコラム型EPSの概略断面図である。
【図2】図1のII−II線に沿う断面図である。
【図3】緩衝材粒子の見かけの弾性率を測定する方法を説明する断面図である。
【図4】図3の方法で測定された、実施例3、および参考例1の緩衝材粒子における、見かけの弾性率の、測定温度による推移を示すグラフである。
【符号の説明】
【0071】
A:噛み合い部分、 M:電動モータ、 11:ウォーム軸(小歯車)、 12:ウォームホイール(大歯車)、 50:減速機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤と、軟質樹脂またはゴムからなる緩衝材粒子とを含む潤滑剤組成物において、前記緩衝材粒子が、前記軟質樹脂またはゴムよりも硬質の、無機または有機の硬質微粒子を、
(a) 式(1):
【数1】

〔式中Vは、硬質微粒子を内包させた緩衝材粒子の総体積に占める、前記硬質微粒子の体積分率(体積%)、dは緩衝材粒子の平均粒径、dは硬質微粒子の平均粒径を示す。〕
によって求められる、緩衝材粒子1個あたりに内包される硬質微粒子の平均個数Nが2個以上、
(b) 前記緩衝材粒子の平均粒径dと、硬質微粒子の平均粒径dとから、式(2):
【数2】

によって求められる、両粒子の平均粒径の比Rが2000以下で、かつ
(c) 緩衝材粒子の平均粒径dが50μm以下であるとき、体積分率Vが10体積%以下、
の全てを満足する範囲で内包していることを特徴とする潤滑剤組成物。
【請求項2】
緩衝材粒子の平均粒径dが30μm以上、300μm以下、硬質微粒子の平均粒径dが0.1μm以上、20μm以下である請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
小歯車と大歯車とを備え、両歯車の噛み合い部分を含む領域に、請求項1または2に記載の潤滑剤組成物を充填したことを特徴とする減速機。
【請求項4】
操舵補助用の電動モータの出力を、請求項3に記載の減速機を介して減速して舵取装置に伝えることを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−102578(P2009−102578A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277816(P2007−277816)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】