説明

潤滑剤組成物及び転動装置

【課題】高温下においても酸化劣化しにくい潤滑剤組成物を提供する。また、高温下においても長寿命な転動装置を提供する。
【解決手段】深溝玉軸受は、外周面に軌道面1aを有する内輪1と、軌道面1aに対向する軌道面2aを内周面に有し内輪1の径方向外方に配された外輪2と、両軌道面1a,2a間に転動自在に配された複数の転動体3と、内輪1及び外輪2の間に複数の転動体3を保持する保持器4と、内輪1及び外輪2の間の隙間の開口を覆う密封装置5,5と、を備えている。そして、内輪1及び外輪2の間に形成され転動体3が内設された空隙部内には、軌道面1a,2aと転動体3との間の潤滑を行うグリース状の潤滑剤組成物Gが配されている。この潤滑剤組成物Gは、基油,増ちょう剤,抗酸化剤,及び補酵素Qを含有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑剤組成物に関する。また、本発明は、転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等の転動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転動装置の潤滑に使用される潤滑油,グリース等の潤滑剤組成物には、潤滑剤組成物に含まれる基油等の酸化を抑制して転動装置の長寿命化を図るために、抗酸化剤(酸化防止剤)が添加されている。潤滑剤組成物に添加される抗酸化剤としては、工業用途としてはアミン系抗酸化剤,フェノール系抗酸化剤,フェノチアジンが多用され、まれに食品機械用途としては、トコフェロール(ビタミンE),ジブチルパラクレゾール(DBPC),ブチルヒドロキシアニソール(BHA),ブチルヒドロキノン(TBHQ),没食子酸イソプロピル等が用いられることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−323053号公報
【特許文献2】特開2008−248990号公報
【特許文献3】特開平4−72392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、転がり軸受等の転動装置の使用条件は近年益々厳しくなっており、転動装置の使用環境はさらに高温化しているので、酸化劣化が生じやすい高温下での寿命のさらなる向上が求められている。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、高温下においても酸化劣化しにくい潤滑剤組成物を提供することを課題とする。また、本発明は、高温下においても長寿命な転動装置を提供することを併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明の潤滑剤組成物は、基油,抗酸化剤,及び補酵素Qを含有することを特徴とする。
このような本発明の潤滑剤組成物においては、前記抗酸化剤は食品添加剤であることが好ましい。また、前記抗酸化剤は、フェノール類,ポリフェノール類,フラボノイド類,カロテノイド類,ビタミン類,ビタミン様物質,及び有機酸のうちの少なくとも1種であることが好ましい。さらに、前記ビタミン類は、d−α−トコフェロール,d−δ−トコフェロール,d−α−トコフェロール及びd−δ−トコフェロールの混合物,並びにdl−α−トコフェロールのうちの少なくとも1種であることが好ましい。
【0006】
また、本発明の転動装置は、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、前記両軌道面と前記転動体との間の潤滑を行う潤滑剤と、を備える転動装置において、前記潤滑剤を前記のような潤滑剤組成物としたことを特徴とする。
【0007】
なお、本発明は種々の転動装置に適用することができる。例えば、転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリングである。また、本発明における内方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には内輪、同じくボールねじの場合にはねじ軸、同じくリニアガイド装置の場合には案内レール、同じく直動ベアリングの場合には軸をそれぞれ意味する。また、外方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には外輪、同じくボールねじの場合にはナット、同じくリニアガイド装置の場合にはスライダ、同じく直動ベアリングの場合には外筒をそれぞれ意味する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の潤滑剤組成物は、高温下においても酸化劣化しにくい。また、本発明の転動装置は、高温下においても長寿命である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る転動装置の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。
【図2】潤滑剤組成物の加熱試験の結果を示すグラフである。
【図3】潤滑剤組成物の加熱試験の結果を示すグラフである。
【図4】転がり軸受の寿命試験の結果を示すグラフである。
【図5】転がり軸受の寿命試験の結果を示すグラフである。
【図6】転がり軸受の寿命試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る潤滑剤組成物及び転動装置の実施の形態を、図1の部分縦断面図を参照しながら詳細に説明する。
図1の深溝玉軸受は、外周面に軌道面1aを有する内輪1と、軌道面1aに対向する軌道面2aを内周面に有し内輪1の径方向外方に配された外輪2と、両軌道面1a,2a間に転動自在に配された複数の転動体(玉)3と、内輪1及び外輪2の間に複数の転動体3を保持する保持器4と、内輪1及び外輪2の間の隙間の開口を覆うシールのような密封装置5,5と、を備えている。なお、保持器4や密封装置5は備えていなくてもよい。
【0011】
そして、内輪1及び外輪2の間に形成され転動体3が内設された空隙部(軸受空間)内には、軌道面1a,2aと転動体3との間の潤滑を行うグリース状の潤滑剤組成物Gが配されている。この潤滑剤組成物Gは、基油,増ちょう剤,抗酸化剤,及び補酵素Qを含有してなる。
従来の潤滑剤には、通常は抗酸化剤が添加されているので、高温下においても基油等の成分の酸化が生じにくいが、抗酸化剤が酸化され潤滑剤中の抗酸化剤の量が減少すると、抗酸化作用が徐々に低下して行き、基油等の成分の酸化が進むおそれがあった。しかしながら、潤滑剤組成物Gには補酵素Qが添加されているので、抗酸化剤が酸化される際に生じるフリーラジカルが補酵素Qに補足される。すなわち、酸化された抗酸化剤が、補酵素Qにより抗酸化剤に戻される。その結果、抗酸化剤の酸化が抑制されるので、高温下においても抗酸化剤の抗酸化作用が長期間にわたって維持されることとなる。
【0012】
以下に、潤滑剤組成物Gを構成する各成分について、さらに詳細に説明する。
〔抗酸化剤について〕
抗酸化剤の種類は特に限定されるものではなく、潤滑剤に一般的に使用される抗酸化剤を問題なく使用することができる。例えば、アミン系抗酸化剤,フェノール系抗酸化剤,硫黄系抗酸化剤,ジチオリン酸亜鉛,ジチオカルバミン酸亜鉛,ジブチルパラクレゾール(DBPC),ブチルヒドロキシアニソール(BHA),ブチルヒドロキノン(TBHQ),没食子酸イソプロピルがあげられる。
【0013】
ただし、食品添加剤として用いられる抗酸化剤が好ましい。そうすれば、潤滑剤組成物Gや、これを備える転がり軸受等の転動装置を、食品機械や医薬品用機械に使用することができる。食品添加剤として用いられる抗酸化剤としては、フェノール類,ポリフェノール類,フラボノイド類,カロテノイド類,ビタミン類,ビタミン様物質,有機酸があげられる。
【0014】
フェノール類の具体例としては、BHA,ブチルヒドロキシトルエン(BHT),TBHQがあげられる。また、ポリフェノール類の具体例としては、ブドウ種子抽出物,プロアントシアニジン,油溶化カテキンがあげられる。さらに、フラボノイド類の具体例としては、大豆イソフラボンがあげられる。さらに、カロテノイド類の具体例としては、β−カロテン,リコピン,アスタキサンチンがあげられる。
【0015】
さらに、ビタミン類の具体例としては、ビタミンA類,ビタミンB類,ビタミンC類,ビタミンD類,ビタミンE類,及びビタミンK類があげられる。ビタミンA類としては、例えばレチナール,レチノール,レチノイン酸,デヒドロレチナールがあげられ、ビタミンB類としては、例えばチアミン,チアミンジスルフィド,ジセチアミン,オクトチアミン,シコチアミン,ビスイブチアミン,ビスベンチアミン,プロスルチアミン,ベンフォチアミン,フルスルチアミン,リボフラビン,フラビンアデニンジヌクレオチド,ピリドキシン,ピリドキサール,ヒドロキソコバラミン,シアノコバラミン,メチルコバラミン,デオキシアデノコバラミン,葉酸,テトラヒドロ葉酸,ジヒドロ葉酸,ニコチン酸,ニコチン酸アミド,ニコチニックアルコール,パントテン酸,パンテノール,ビオチン,コリン,イノシトールがあげられる。
【0016】
また、ビタミンC類としては、例えばアスコルビン酸及びその誘導体,エリソルビン酸及びその誘導体があげられ、ビタミンD類としては、例えばエルゴカルシフェロール,コレカルシフェロール,ヒドロキシコレカルシフェロール,ジヒドロキシコレカルシフェロール,ジヒドロタキステロールがあげられる。
さらに、ビタミンE類としては、例えばトコフェロール及びその誘導体や、ユビキノン誘導体があげられる。トコフェロールとしては、特に限定されるものではないが、d−α−トコフェロール,d−δ−トコフェロール,dl−α−トコフェロールがあげられる。d−α−トコフェロールとd−δ−トコフェロールの混合物等、上記3種のトコフェロールのうちの2種又は3種の混合物を使用してもよい。また、ビタミンK類としては、例えばフィトナジオン,メナキノン,メナジオン,メナジオール,納豆抽出物,納豆菌抽出物があげられる。さらに、その他のビタミン類として、カルニチン,フェルラ酸,γ−オリザノール,オロチン酸,ルチン,エリオシトリン,ヘスペリジン等があげられる。
【0017】
また、ビタミン様物質の具体例としては、チオクト酸,ユビキノールがあげられる。さらに、有機酸の具体例としては、フィチン酸があげられる。
これらの抗酸化剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0018】
〔補酵素Qについて〕
補酵素Qの種類は特に限定されるものではないが、補酵素Q10が特に好ましい。補酵素Qは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
〔基油について〕
基油の種類は特に限定されるものではなく、一般的な潤滑剤において基油として使用される鉱物系潤滑油や合成潤滑油を使用することができる。その種類は特に限定されるものではないが、鉱物系潤滑油としては、パラフィン系鉱物油,ナフテン系鉱物油,及びそれらの混合油を使用でき、また、合成潤滑油としては、合成炭化水素油,エーテル油,及びエステル油等を使用できる。
【0019】
具体的には、合成炭化水素油としてはポリα−オレフィン油等を、エーテル油としてはジアルキルジフェニルエーテル油,アルキルトリフェニルエーテル油,アルキルテトラフェニルエーテル油等を、エステル油としてはジエステル油,ネオペンチル型ポリオールエステル油,これらのコンプレックスエステル油,芳香族エステル油,炭酸エステル油,グリセリンエステル油等を使用することができる。
これらの基油は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0020】
〔増ちょう剤について〕
増ちょう剤の種類は特に限定されるものではなく、潤滑剤において一般的に使用される増ちょう剤を問題なく使用することができる。例えば、アルミニウム石けん,バリウム石けん,カルシウム石けん,リチウム石けん,ナトリウム石けん等の金属石けんや、リチウム複合石けん,カルシウム複合石けん,アルミニウム複合石けん等の金属複合石けんがあげられる。また、ジウレア,トリウレア,テトラウレア,ポリウレア等のウレア化合物や、シリカ,シリカゲル,ベントナイト等の無機系化合物も好適に使用可能である。さらに、ウレタン化合物、ウレア・ウレタン化合物、テレフタルアミド酸ナトリウム等も好適に使用可能である。さらに、アミノ酸系ゲル化剤や多糖類エステル等のゲル化剤も、好適に使用可能である。これらの増ちょう剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0021】
〔添加剤について〕
潤滑剤組成物Gには、その各種性能をさらに向上させるために、潤滑剤に一般的に使用される添加剤をさらに添加しても差し支えない。例えば、防錆剤,耐摩耗剤,極圧剤,油性向上剤,金属不活性化剤等があげられる。
防錆剤としては、例えば、スルホン酸金属塩,エステル系防錆剤,アミン系防錆剤,ナフテン酸金属塩,コハク酸誘導体,脂肪酸があげられる。極圧剤としては、例えば、リン系極圧剤,ジチオリン酸亜鉛,有機モリブデンがあげられる。油性向上剤としては、例えば、脂肪酸,動植物油があげられる。金属不活性化剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA),ベンゾトリアゾールがあげられる。
【0022】
これらの添加剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよい。潤滑剤組成物Gにおける添加剤の合計の含有量は、本発明の目的を損なわない程度であれば特に限定されるものではない。
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては転がり軸受の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。さらに、本発明は、転がり軸受に限らず、他の種類の様々な転動装置に対して適用することができる。例えば、ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリングである。
【0023】
〔実施例〕
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。27種の潤滑油と5種のグリースをそれぞれ調製して、各潤滑油について加熱試験を行うとともに、各グリースによって潤滑された転がり軸受の寿命試験を行った。
【0024】
【表1】

【0025】
まず、潤滑油について説明する。実施例1〜13の潤滑油は、40℃における動粘度が32.6mPa・sのポリオールエステル油を基油とし、これに抗酸化剤及び補酵素Q10をそれぞれ2.5質量%添加したものである。各潤滑油に添加した抗酸化剤の種類は、それぞれ表1に示す通りであるが、実施例10については、2種の抗酸化剤を1.25質量%ずつ使用した。また、実施例13については、d−α−トコフェロール及びd−δ−トコフェロールの混合物として市販されている天然型ビタミンEを有効成分として2.5質量%添加した。
【0026】
また、比較例1〜14の潤滑油は、40℃における動粘度が32.6mPa・sのポリオールエステル油を基油とし、これに抗酸化剤を5質量%添加したものである。各潤滑油に添加した抗酸化剤の種類は、それぞれ表1に示す通りであるが、比較例10については、2種の抗酸化剤を2.5質量%ずつ使用し、比較例13については、d−α−トコフェロール及びd−δ−トコフェロールの混合物として市販されている天然型ビタミンEを有効成分として5質量%添加した。また、比較例14については、工業用酸化防止剤を5質量%使用した。この工業用酸化防止剤は、4種の抗酸化剤からなる。すなわち、アミン系抗酸化剤であるN−フェニル−1−ナフチルアミン(PAN)1質量%及びVanLube81(商品名)3質量%、フェノチアジン(2−メトキシフェノチアジン)0.5質量%、フェノール系抗酸化剤であるDBPC0.5質量%である。
【0027】
【表2】

【0028】
次に、グリースについて説明する。実施例21のグリースは、40℃における動粘度が32.6mPa・sのポリオールエステル油を基油、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムを増ちょう剤とし、これに抗酸化剤及び補酵素Q10をそれぞれ2.5質量%添加したものである。添加した抗酸化剤の種類は、表2に示す通りdl−α−トコフェロールである。
【0029】
実施例22のグリースは、40℃における動粘度が12.8mPa・sの中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)を基油、アルミニウム複合石けんを増ちょう剤とし、これに抗酸化剤及び補酵素Q10をそれぞれ2.5質量%添加したものである。添加した抗酸化剤の種類は、表2に示す通りdl−α−トコフェロールである。
実施例23のグリースは、40℃における動粘度が12.8mPa・sの中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)を基油、デキストリンパルミテートを増ちょう剤とし、これに抗酸化剤及び補酵素Q10をそれぞれ2.5質量%添加したものである。添加した抗酸化剤の種類は、表2に示す通りd−α−トコフェロールである。
【0030】
実施例24のグリースは、40℃における動粘度が12.8mPa・sの中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)を基油、デキストリンパルミテートを増ちょう剤とし、これに抗酸化剤及び補酵素Q10をそれぞれ2.5質量%添加したものである。添加した抗酸化剤の種類は、表2に示す通りd−α−トコフェロール及びd−δ−トコフェロールの混合物として市販されている天然型ビタミンEである。
【0031】
実施例25のグリースは、40℃における動粘度が12.8mPa・sの中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)を基油、ウレア化合物を増ちょう剤とし、これに抗酸化剤及び補酵素Q10をそれぞれ2.5質量%添加したものである。添加した抗酸化剤の種類は、表2に示す通りd−δ−トコフェロールである。なお、ウレア化合物は、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート(MDI)1モルとステアリルアミン2モルとを反応させて合成したものである。
【0032】
実施例26のグリースは、40℃における動粘度が32mPa・sの菜種油を基油、デキストリンパルミテートを増ちょう剤とし、これに抗酸化剤及び補酵素Q10をそれぞれ2.5質量%添加したものである。添加した抗酸化剤の種類は、表2に示す通りd−δ−トコフェロールである。
実施例27のグリースは、40℃における動粘度が32mPa・sの菜種油を基油、デキストリンパルミテートを増ちょう剤とし、これに抗酸化剤及び補酵素Q10をそれぞれ2.5質量%添加したものである。添加した抗酸化剤の種類は、表2に示す通りd−α−トコフェロール及びd−δ−トコフェロールの混合物として市販されている天然型ビタミンEである。
【0033】
なお、実施例21〜27における増ちょう剤の添加量は12質量%である。これらのグリースの混和ちょう度及び不混和ちょう度は、表2に示す通りである。
また、比較例21のグリースは、40℃における動粘度が32.6mPa・sのポリオールエステル油を基油、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムを増ちょう剤とし、これに抗酸化剤を5質量%添加したものである。添加した抗酸化剤の種類は、表2に示す通りdl−α−トコフェロールである。
【0034】
比較例22のグリースは、40℃における動粘度が12.8mPa・sの中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)を基油、アルミニウム複合石けんを増ちょう剤とし、これに抗酸化剤を5質量%添加したものである。添加した抗酸化剤の種類は、表2に示す通りdl−α−トコフェロールである。
比較例23のグリースは、40℃における動粘度が12.8mPa・sの中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)を基油、デキストリンパルミテートを増ちょう剤とし、これに抗酸化剤を5質量%添加したものである。添加した抗酸化剤の種類は、表2に示す通りd−α−トコフェロールである。
【0035】
比較例24のグリースは、40℃における動粘度が12.8mPa・sの中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)を基油、デキストリンパルミテートを増ちょう剤とし、これに抗酸化剤を5質量%添加したものである。添加した抗酸化剤の種類は、表2に示す通りd−α−トコフェロール及びd−δ−トコフェロールの混合物として市販されている天然型ビタミンEである。
【0036】
比較例25のグリースは、40℃における動粘度が12.8mPa・sの中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)を基油、デキストリンパルミテートを増ちょう剤とし、これに抗酸化剤を5質量%添加したものである。添加した抗酸化剤の種類は、表2に示す通りd−δ−トコフェロールである。なお、ウレア化合物は、ジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート(MDI)1モルとステアリルアミン2モルとを反応させて合成したものである。
【0037】
比較例26のグリースは、40℃における動粘度が32mPa・sの菜種油を基油、デキストリンパルミテートを増ちょう剤とし、これに抗酸化剤を5質量%添加したものである。添加した抗酸化剤の種類は、表2に示す通りd−δ−トコフェロールである。
比較例27のグリースは、40℃における動粘度が32mPa・sの菜種油を基油、デキストリンパルミテートを増ちょう剤とし、これに抗酸化剤を5質量%添加したものである。添加した抗酸化剤の種類は、表2に示す通りd−α−トコフェロール及びd−δ−トコフェロールの混合物として市販されている天然型ビタミンEである。
なお、比較例21〜27における増ちょう剤の添加量は12質量%である。これらのグリースの混和ちょう度及び不混和ちょう度は、表2に示す通りである。
【0038】
〔加熱試験について〕
上記の潤滑油40gをステンレス製のシャーレに入れ、160℃のオーブン中で加熱した。そして、一定時間毎に潤滑油を抜き取って、40℃における動粘度と、n−ヘキサンに溶解しない部分の割合(n−ヘキサン不溶解分)を測定した。
336時間加熱後の40℃における動粘度(mPa・s)及びn−ヘキサン不溶解分(質量%)を表3に示す。実施例1,比較例1,及び比較例14については、経時変化を図2,3のグラフに示す。
【0039】
【表3】

【0040】
図2のグラフ及び表3から分かるように、補酵素Q10を含有する実施例1〜13は、補酵素Q10を含有しない比較例1〜13に比べて、酸化劣化の度合いを示す粘度の増加が抑制されており、工業用酸化防止剤を用いた比較例14と同等以上であった。
また、図3のグラフ及び表3から分かるように、補酵素Q10を含有する実施例1〜13は、補酵素Q10を含有しない比較例1〜14に比べて、n−ヘキサン不溶解分(スラッジ,ガム)の発生が低く抑えられており、n−ヘキサン不溶解分が発生するという欠点を有する工業用酸化防止剤よりも優れていた。
【0041】
〔転がり軸受の寿命試験について〕
実施例21,22、及び、比較例21,22のグリースについては、呼び番号6305VVC3Eの転がり軸受に3.4gを封入し、環境温度120℃、アキシアル荷重98N、回転速度10000min-1の条件で回転させた。そして、転がり軸受を回転させる駆動モーターが過負荷にて停止するまでの時間を測定し、この時間を寿命とした。
【0042】
また、実施例23〜25、及び、比較例23〜25のグリースについては、呼び番号6303VVC3Eの転がり軸受に1.0gを封入し、環境温度80℃、ラジアル荷重198N、回転速度24000min-1の条件で回転させた。そして、転がり軸受を回転させる駆動モーターが過負荷にて停止するまでの時間を測定し、この時間を寿命とした。
さらに、実施例26,27、及び、比較例26,27のグリースについては、呼び番号6303VVC3Eの転がり軸受に1.0gを封入し、環境温度80℃、ラジアル荷重198N、回転速度24000min-1の条件で回転させた。そして、転がり軸受を回転させる駆動モーターが過負荷にて停止するまでの時間を測定し、この時間を寿命とした。
【0043】
なお、1種のグリースについて2回ずつ寿命の測定を行った。結果を図4〜6のグラフに示す。
図4〜6のグラフから分かるように、補酵素Q10を含有する実施例21〜27は、補酵素Q10を含有しない比較例21〜27に比べて長寿命であった。また、基油としてMCTを用いた場合(実施例22〜25)や基油として菜種油を用いた場合(実施例26,27)も、基油としてポリオールエステル油を用いた場合(実施例21)と同様に、長寿命化効果が奏された。
【符号の説明】
【0044】
1 内輪
1a 軌道面
2 外輪
2a 軌道面
3 転動体
G 潤滑剤組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油,抗酸化剤,及び補酵素Qを含有することを特徴とする潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記抗酸化剤が食品添加剤であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記抗酸化剤がフェノール類,ポリフェノール類,フラボノイド類,カロテノイド類,ビタミン類,ビタミン様物質,及び有機酸のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記ビタミン類がd−α−トコフェロール,d−δ−トコフェロール,d−α−トコフェロール及びd−δ−トコフェロールの混合物,並びにdl−α−トコフェロールのうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の潤滑剤組成物。
【請求項5】
外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、前記両軌道面と前記転動体との間の潤滑を行う潤滑剤と、を備える転動装置において、前記潤滑剤を請求項1〜4のいずれか一項に記載の潤滑剤組成物としたことを特徴とする転動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−126880(P2012−126880A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133118(P2011−133118)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】