説明

潤滑樹脂が被覆された亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板

【課題】上塗り塗料との密着性や耐食性に優れ、更に成形加工性や耐黒変性にも優れる、亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板を提供する。
【解決手段】亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板の少なくとも一方の表面にめっき層の上層として、平均厚みが0.5〜4μmの潤滑樹脂層を有する。潤滑樹脂層は、主成分であるポリウレタン系樹脂を50〜95質量%含み、酸価が10未満のアクリル−スチレン系樹脂、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂のうちから選ばれた1種又は2種以上の樹脂を合計で5〜50質量%含有し、さらに好ましくは潤滑樹脂層全量に対する質量%で、Zr換算で0.5〜10%のジルコニウム化合物を含有する。なお、ポリウレタン系樹脂のガラス転移点は、30〜60℃、アクリル−スチレン系樹脂のガラス転移点は、30〜60℃とすることが好ましい。フェノール樹脂の水酸基価は、10〜50、エポキシ樹脂のエポキシ当量は、200〜400とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板に係り、とくに3価および6価クロムを含有せず、上塗り塗料との密着性に優れ、さらにロール成形性、耐黒変性、耐食性にも優れる、非クロム型の潤滑樹脂が被覆された亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板は、とくに耐食性に優れることから、屋根材、壁材等の建築部材、防音壁等の土木部材、あるいは自動車、家電製品および産業機器等用の材料として、幅広い分野で利用されつつある。しかし、亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板は、めっき層にアルミニウムを含有することから、溶融亜鉛めっき鋼板に比べて高いめっき層硬さを示す。そのため、亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板は、ロール成形やプレス成形等の加工に際し、めっき鋼板と成形ロールやプレス金型との間の潤滑性が悪く、めっき層が破壊する場合があった。めっき層が破壊されると、生じためっき粉が成形ロールやプレス金型に付着し、そのため、その後に成形された製品に疵を生じ、製品外観を損なううえ、疵から発錆し、製品の耐久性を著しく低下させることになる。
【0003】
このような問題に対し、従来では、亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板を成形加工するに当たり、めっき鋼板表面(めっき層表面)、あるいはめっき層と接触する成形ロールやプレス金型の表面に、潤滑油を塗布し、めっき鋼板と成形ロールやプレス金型との間の潤滑性を向上させていた。しかし、めっき鋼板表面に潤滑油が付着したままでは、例えば、屋根材等として使用する場合には施工時に作業者が足を滑らせる危険性があり、また、成形加工後に上塗り塗装を施す場合には付着している潤滑油を完全に除去する必要があり、工程が複雑になるなどの問題があった。このため、最近では、めっき鋼板表面に潤滑油を塗布することに代えて、めっき鋼板表面に潤滑性に富む樹脂皮膜を被成する潤滑処理を施すことが主流となっている。
【0004】
また、亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板では、めっき鋼板を大気中や湿潤環境下で保管すると、錆が発生し、金属光沢が失われて灰黒色の外観を呈するようになり、商品価値が著しく低下するという問題がある。そのため、耐食性改善のために、亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板表面にクロメート系処理を施すことが多い。しかし、クロメート処理された亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板は、成形加工時に水溶性の潤滑油で潤滑処理されると、クロメートが溶出し、環境汚染を招くという問題があった。とくに6価クロムは有害元素として、土壌汚染や、人体への悪影響が懸念され、6価クロムはもちろん3価クロムをも含有しない表面処理鋼板の要求が高まっている。このため、最近では、めっき鋼板表面にクロメート処理を施すことなく、潤滑性がありしかも耐食性に優れた非クロム型の亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板が要求されている。
【0005】
このような要求に対し、成形加工時の潤滑性付与および発錆の抑制を目的にした、めっき鋼板への潤滑被覆処理が提案されている。
例えば、特許文献1には、アクリル系共重合体微粒子10〜99重量%、ウレタン系樹脂微粒子0〜50重量%、オレフィン系共重合体微粒子0〜40重量%、コロイダルシリカ微粒子1〜40重量%を必須含有してなる水溶液で亜鉛系めっき鋼板を処理し、水洗することなく乾燥して皮膜を形成する亜鉛系めっき鋼板の表面処理方法が記載されている。なお、特許文献1に記載された方法では、厳しい加工を受ける用途に使用される場合には皮膜の疵付きを防止するために、ワックス成分の微粒子を水溶液中に含有してもよいとしている。特許文献1に記載された方法によれば、6価クロムを含まず、また排出することなく、クロメート処理鋼板と同等の耐食性、塗料密着性を有する亜鉛系めっき鋼板を製造できるとしている。
【0006】
また、特許文献2には、水系樹脂を主成分とし、チオカルボニル基含有化合物、有機リン酸および/またはその化合物、あるいはさらに無機リン酸および/またはその化合物を、あるいはさらに水分散性シリカを含有する組成液を塗布して樹脂皮膜を形成してなる高耐食性アルミ系めっき鋼板が記載されている。なお、特許文献2に記載されたアルミ系めっき鋼板では、厳しい加工を受ける場合には、組成液に潤滑剤を含有させてもよいとしている。特許文献2に記載されたアルミ系めっき鋼板は、非クロム型であり、しかも従来のクロメート処理された鋼板より優れた耐食性を有し、さらに潤滑剤を添加することで良好なプレス加工性が確保できるとしている。
【0007】
また、特許文献3には、めっき表層に、水性樹脂および水を主成分とし、チオカルボニル基含有化合物を必須成分とし、さらにりん酸イオン、バナジウム酸化合物および水分散性シリカのうち1種または2種以上を含有する塗料を塗布して形成された有機樹脂被膜層を有する亜鉛めっき鋼材が記載されている。特許文献3に記載された亜鉛めっき鋼材は、非クロム型であり、しかも従来のクロメート含有水性樹脂系防錆めっき材より優れた防錆性を示すとしている。
【0008】
また、特許文献4には、金属材の上層に、りん酸化合物、固形潤滑剤を含み、あるいはさらに微粒シリカを含有する皮膜、あるいは、有機樹脂、チオカルボニル基含有化合物、固形潤滑剤を含み、あるいはさらにりん酸化合物および微粒シリカのうち少なくとも1種以上を含む皮膜、あるいは、有機樹脂、バナジウム酸化合物、固形潤滑剤を含み、あるいはさらにチオカルボニル基含有化合物、りん酸化合物および微粒シリカのうち少なくとも1種以上を含む皮膜、を有する非クロム型表面処理金属材が記載されている。これら皮膜には、密着性向上のためにシランカップリン剤を含んでもよいとしている。特許文献4に記載された非クロム型表面処理金属材は、プレス油を使用せず、また6価クロムを含まず耐食性及び耐かじり性を備えた表面処理金属材となるとしている。
【0009】
また、特許文献5には、亜鉛系めっき鋼板の表面に、ウレタンエラストマーを主剤とし、リンモリブデン酸アルミニウム系防錆剤、シランカップリング剤、潤滑剤を配合した潤滑被膜を形成してなる非クロム型潤滑被膜処理亜鉛系めっき鋼板が記載されている。特許文献5に記載された亜鉛系めっき鋼板は、有害なクロム化合物を使用することなく潤滑被膜が形成でき、プレス加工性やロール成形性に優れ、加工後の表面外観や耐食性、耐黒変性、上塗り性にも優れた亜鉛系めっき鋼板となるとしている。
【特許文献1】特開2000−218230号公報
【特許文献2】特開2000−297384号公報
【特許文献3】特開2000−234176号公報
【特許文献4】特開2000−248384号公報
【特許文献5】特開2000−225178号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記した特許文献1〜5に記載された技術によれば、確かに亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板の、ロール成形時やプレス成形時の潤滑性や耐黒変性については改善されたと言える。しかし、特許文献1〜5に記載された技術によっても、依然として、上塗り塗料との密着性や耐食性が満足できる水準に達しておらず、更なる改善が要望されていた。また、潤滑被膜を形成する際に使用する処理剤の組成に起因した上塗り塗料の剥離という問題もあった。
【0011】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、上塗り塗料との密着性や耐食性に優れ、更に成形時の潤滑性や耐黒変性にも優れる、非クロム型潤滑樹脂が被覆された亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記した目的を達成するため、上塗り塗料との密着性や耐食性に及ぼす、めっき鋼板表面に被成する潤滑被膜(潤滑樹脂層)の種類の影響について鋭意研究した。その結果、ポリウレタン系樹脂を主成分として、該ポリウレタン系樹脂に、低酸価のアクリル−スチレン系樹脂、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂のうちから選ばれた1種又は2種以上の樹脂を混合して樹脂被膜(潤滑樹脂層)を形成することにより、上塗り塗料との密着性が大きく改善でき、しかも同時に成形加工性にも優れた亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板となることを見出した。なお、樹脂被膜(潤滑樹脂層)に、比較的少量のジルコニウム化合物を配合することにより耐食性が改善できることも見出した。
【0013】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)少なくとも一方の表面にめっき層の上層として、平均厚みが0.5〜4μmの潤滑樹脂層を有する亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板であって、前記潤滑樹脂層が、主成分であるポリウレタン系樹脂を50〜95質量%含み、酸価が10未満のアクリル−スチレン系樹脂、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂のうちから選ばれた1種又は2種以上の樹脂を合計で5〜50質量%含有する潤滑樹脂層であり、該潤滑樹脂層がさらにジルコニウム化合物を含有することを特徴とする亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板。
【0014】
(2)(1)において、前記ジルコニウム化合物の含有量が、潤滑樹脂層全量に対する質量%で、Zr換算で0.5〜10%であることを特徴とする亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板。
(3)(1)または(2)において、前記ポリウレタン系樹脂のガラス転移点が、30〜60℃であることを特徴とする亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板。
【0015】
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記アクリル−スチレン系樹脂のガラス転移点が、30〜60℃であることを特徴とする亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板。
(5)(1)ないし(4)のいずれかにおいて、前記フェノール樹脂の水酸基価が、10〜50であることを特徴とする亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板。
(6)(1)ないし(5)のいずれかにおいて、前記エポキシ樹脂のエポキシ当量が、200〜400であることを特徴とする亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、クロム化合物を含有することなく、上塗り塗料との密着性、および成形加工性にも優れ、さらに耐黒変性、耐食性にも優れた、潤滑樹脂層を有する亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板を製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、クロム化合物を含有することなく、複雑な形状の製品を成形加工することも可能となり、亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板独特の外観を生かした意匠性に富む製品や、内外装用建材、家電、厨房機器等への適用も可能となり適用分野の拡大が図れるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板は、少なくとも一方の表面に、めっき層の上層に、潤滑樹脂層を有する。なお、本発明の亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板に形成されるめっき層としては、亜鉛をベースとする、5質量%Al−Zn系、8質量%Al−Zn系、15質量%Al−Zn系等のAl−Zn合金系や、6質量%Al−3質量%Mg−Zn系、11質量%Al−3質量%Mg−Zn系等のAl−Mg−Zn合金系、およびAlをベースとする、55質量%Al−Zn系、75質量%Al−Zn系等のAl−Zn合金系のめっき層が例示できるが、本発明では、これらのめっき層に限定されないことは言うまでもない。また、亜鉛−アルミニウム合金めっき層中には、Mg、Mn、Si、Ti、Ni、Co、Mo、Pb、Sn、Cr、La、Ce、Y、Nb等の合金元素を含有してもよい。
【0018】
本発明では、めっき層の上層として形成される潤滑樹脂層は、平均で0.5〜4μmの厚さを有する。潤滑樹脂層の厚みが0.5μm未満では、めっき層表面の凹凸に起因して均一な膜厚で被覆することが難かしくなり、厚みが薄い部分で潤滑性や耐食性が低下する場合がある。一方、4μmを超えて厚くなると、溶接性、半田付け性が低下する場合がある。このため、潤滑樹脂層の厚みは、平均で0.5〜4μmに限定した。
【0019】
めっき層の上層として形成される本発明における潤滑樹脂層は、ポリウレタン系樹脂を主成分とする。なお、ここでいう「主成分」とは、潤滑樹脂層全体に対する質量%で、50%以上である場合をいう。主成分であるポリウレタン系樹脂は95%を上限とする。ポリウレタン系樹脂を主成分とすることにより、上塗り塗料との密着性が向上する。ポリウレタン系樹脂は、上塗り塗料と潤滑樹脂層との密着性を強化する効果を発揮する。
【0020】
なお、ここでいう「ポリウレタン系樹脂」とは、多イソシアネートと多アルコール(以下、ポリオールという)とがウレタン結合を繰返すことによって得られる高分子化合物を意味し、架橋構造体のウレタンエラストマーを水中に分散させた水系ウレタン樹脂である。
多イソシアネートとしては、
(1)p−フェニレンジイソシアネート、2,4−トルイレンジイソシアネート、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリイソシアネート、キリレンジイソシアネート、ナフタリン1,5−ジイソシアネート、ポリメチレンフェニルイソシアネート等の芳香族多イソシアネート;、
(2)ヘキサメチレンジイソシアネート、リジン・ジイソシアネート、キリレンジイソシアネート、水素添加トルイレンジイソシアネート、水素添加メチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシル・ジメチルメタン、p,p’− ジイソシアネート、ジエチルフマレートジイソシアネート等の非黄変性多イソシアネート;
などが例示されるが、とくに耐候性の観点から、非黄変性多イソシアネートが好ましい。
【0021】
またポリオールとしては、
(1)エチレングリコールやプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等のジオール類;、
(2)グリセリンやトリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、1,2,6−ヘキサントリオールなどの単一ポリオール型;、
(3)アジピン酸やセバチン酸、マレイン酸、ダイマー酸などのジカルボン酸にエチレングリコールやプロピレングリコール、ブチレングリコール、トリメチロールプロパンなどの多価アルコールを結合し末端を水酸基としたもの;、
(4)重合ラクトングリコールエステルやヒマシ油などのポリエステル型;、
(5)エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド、テトラヒドロフランなどのアルキレンオキサイドを開環重合するか、またはグリセリンやトリメチロールプロパンなどの多価アルコールに付加したポリエーテル型;、
(6)上記のポリエステル型とポリエーテル型の複合型;
などが例示されるが、亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板との密着性や長期の耐候性の観点から、ポリエステル型が好ましい。
【0022】
また、本発明で、潤滑樹脂層を構成するポリウレタン系樹脂は、ガラス転移点が30〜60℃の範囲内であることが好ましい。ポリウレタン系樹脂のガラス転移点が30℃未満では、成形時に潤滑樹脂層が押し潰され、めっき層面に疵が発生する場合や、被覆鋼板同士を積層すると、ブロッキングが生じる場合がある。一方、ポリウレタン系樹脂のガラス転移点が60℃を超えて高くなると、めっき層面の損傷は抑制されるが、成形加工時の鋼板の変形や伸びに潤滑樹脂層が追従できず、潤滑樹脂層に微細な割れや剥離などが生じる場合がある。したがって、めっき層の露出や損傷により、亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板の耐食性の低下を招く。このようなことから、本発明では、潤滑樹脂層を構成するポリウレタン系樹脂は、ガラス転移点が30〜60℃の範囲内であることが好ましい。
【0023】
潤滑樹脂層を構成するポリウレタン系樹脂のガラス転移点が30〜60℃の範囲内であれば、潤滑樹脂層を有する亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板の成形加工性を顕著に向上させることができる。
一般に、潤滑樹脂層が成形加工によって摩耗や摩擦を受けると、潤滑樹脂層の温度が上昇する。とくに、成形加工時の鋼板引込み速度が速いほど潤滑樹脂層の温度上昇が大きくなる。本発明の亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板は、主として屋根材等の成形加工形状が比較的緩やかな用途に適用されるため、成形加工時の鋼板引込み速度が比較的遅く、そのため潤滑樹脂層の温度上昇は小さく、気温の変化を考慮しても、概ね25〜45℃程度の範囲となる。本発明では、潤滑樹脂層のガラス転移点(樹脂がゴム状に転移する温度)を、成形加工時の潤滑樹脂層温度より5〜15℃程度高い温度、すなわち30〜60℃の範囲内となるように設定することが望ましい。これにより、成形加工時に潤滑樹脂層が最も滑り、かつ摩耗や摩擦によって潤滑樹脂層が損傷を受けないようになり、亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板の成形加工性が顕著に向上する。
【0024】
本発明における潤滑樹脂層は、主成分である上記したポリウレタン系樹脂以外に、酸価が10未満のアクリル−スチレン系樹脂、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂のうちから選ばれた1種又は2種以上の樹脂を合計で5〜50質量%含有する。主成分であるポリウレタン系樹脂に配合される上記した樹脂の合計が、5質量%未満では、耐アルカリ性が低下する。一方、50質量%を超えて配合すると形成された樹脂層の耐食性や、上塗り塗料との密着性が不足する。このため、潤滑樹脂層における、酸価が10未満のアクリル−スチレン系樹脂、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂のうちから選ばれた1種又は2種以上の樹脂の含有量は合計で5〜50質量%に限定した。
【0025】
なお、ここでいう「アクリル−スチレン系樹脂」とは、アクリル系単量体とスチレン系単量体とを分子中に含有する共重合体の樹脂をいう。アクリル系単量体としては、
(a)ブチルアクリレートやエチルアクリレート、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、カルビトールアクリレートなどの1官能のアクリル単量体;、
(b)アクリル酸エステルや1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリストールジアクリレートなどの2官能のアクリル酸エステル;、
(c)トリメチロールプロパントリアクリレートやトリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリストロールトリアクリレート、ジペンタエリストロールヘキサアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレートなどの3官能のアクリル酸エステル;
などが例示できる。一方、スチレン系単量体としては、α−メチルスチレンやスチレン、p−メトキスチレン、o−クロルスチレン、p−クロルスチレンなどが例示できる。
【0026】
また、このようなアクリル−スチレン系樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。また、樹脂層の形成に用いるアクリル−スチレン系樹脂は、ポリウレタン系樹脂との相溶性、および高い成形加工性を発現させるために、酸価が10未満の樹脂とする。アクリル−スチレン系樹脂の酸価が10以上となると、アクリル−スチレン系樹脂の長期安定性が低下する恐れがある。なお、好ましくは、アクリル−スチレン系樹脂の酸価は2以下である。
【0027】
また、樹脂層の形成に用いる、「フェノール樹脂」は、フェノール、クレゾール、キシレノール、p-アルキルフェノール、p-フェニルフェノール、クロルフェノール、ビスフェノールA、フェノールスルホン酸、レゾルシンなどのフェノール性水酸基を有するものに、ホルマリン、フルフラールなどのアルデヒド類を付加、縮合した高分子である。
フェノール樹脂としては、レゾール型のアルコール可溶性フェノール樹脂、油溶性フェノール樹脂、ロジン型フェノール樹脂、100%フェノール樹脂などが例示できる。なかでも、レゾール型のアルコール可溶性フェノール樹脂が相溶性の観点から好ましい。
【0028】
なお、フェノール樹脂は、水酸基価が、10〜50の範囲のものとすることが好ましい。水酸基価が、10未満では、ポリウレタン系樹脂との相溶性が低下し、50を超えると、被膜が硬く脆くなり、加工性が低下する。
また、樹脂層の形成に用いる「エポキシ樹脂」としては、ポリウレタン系樹脂との相溶性の観点から、エポキシ当量が200〜400の範囲の樹脂とすることが好ましい。エポキシ当量が200未満では、被膜が柔らかくなり疵が発生しやすくなる。一方、400を超えて高くなると硬くなりすぎて加工性が低下する。エポキシ樹脂としては、
ビスフェノール系、ノボラック系、アルキルフェノール系、ポリグリコール系、エステル系、N-グリシジルアミンなどのグリシジル型;、
環状脂肪族エポキシサイド、エポキシ化ブタジエン、エポキシ化グリセライド、反応性低粘度エポキシサイドなどの非グリシジル型;
などが例示できる。なかでも、耐食性の観点からビスフェノール系エポキシ樹脂が好ましい。
【0029】
なお、上記したポリウレタン系樹脂と、酸価が10未満のアクリル−スチレン系樹脂、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂のうちから選ばれた1種又は2種以上の上記した樹脂とは、得られる潤滑樹脂層のガラス転移点が30〜60℃となるように配合することが好ましい。
また、本発明では潤滑樹脂層に、ジルコニウム化合物を含有する。上記した樹脂組成に加えて、ジルコニウム化合物を含有させることにより、潤滑樹脂層が、上塗り塗料との密着性に優れるうえ、さらに所望の優れた成形加工性や優れた耐黒変性、優れた耐食性をも兼備した亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板とすることができる。このような効果を得るために、ジルコニウム化合物は、潤滑樹脂層中に、潤滑樹脂層全量に対する質量%で、Zr換算で0.5%以上、含有することが好ましい。一方、ジルコニウム化合物の含有量が10質量%を超えると、潤滑樹脂層を形成するための樹脂層形成用塗料が不安定となり長期安定性に欠けるうえ、めっき鋼板を長期間使用するとジルコニウムが溶出することによる耐食性の低下を招く恐れがある。このため、潤滑樹脂層中のジルコニウム化合物含有量は潤滑樹脂層全量に対する質量%で、Zr換算で0.5〜10%の範囲に限定することが好ましい。なお、より好ましくは、潤滑樹脂層全量に対する質量%で、Zr換算で1〜7%である。本発明では、上記した樹脂組成の潤滑樹脂層としているため、このような少量のジルコニウム化合物の含有で、所望の優れた成形加工性や優れた耐黒変性、優れた耐食性を確保することができる。
【0030】
なお、使用するジルコニウム化合物としては、
酸化ジルコニウム、酸化ジルコン水和物、ジルコン酸カリウム、ジルコンアンモニウムなどの酸化物およびその関連物質;、
塩化ジルコニウム、臭化ジルコニウム、ヨウ化ジルコニウム、塩素酸ジルコニウムなどのハロゲン化物;、
硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、リン酸ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウムなどの酸素酸塩;、
炭酸ジルコニウムなどの有機酸塩;
が例示できる。なかでも、潤滑樹脂との相溶性の観点から水溶性のリン酸ジルコニウムとすることが好ましい。
【0031】
つぎに、本発明の、潤滑樹脂層を有する亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板の好ましい製造方法について説明する。
表面に亜鉛−アルミニウム合金めっき層を有するめっき鋼板を基板として用意する。また、上記したポリウレタン系樹脂に、アクリル−スチレン系樹脂、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂のうちから選ばれた1種又は2種以上の樹脂を配合し、混合した混合樹脂を、溶媒、好ましくは水にエマルジョン化した塗料とし、あるいは混合樹脂を水溶性樹脂として水に溶かした水溶液とし、該塗料、または該水溶液、にジルコニウム化合物を配合して、潤滑樹脂層形成用塗料とする。なお、潤滑樹脂層形成用塗料には、本発明の目的を損なわない範囲で、例えば他の樹脂、フィラー、界面活性剤、消泡剤、ワックス粒子等を配合することができる。また、従来、塗料用の添加剤として慣用されている添加成分、例えば、チタン白、酸化鉄、カーボンブラックなどの着色顔料、炭酸カルシウムなどの体質顔料、紫外線吸収剤、擦り傷防止剤、防カビ剤、酸化防止剤、帯電防止剤等を添加できる。またさらに、潤滑樹脂層形成用塗料には、公知の添加剤として、レベリング剤、分散剤、はじき防止剤、色別れ防止剤、沈降防止剤、などを必要に応じて配合することもできる。
【0032】
このような潤滑樹脂層形成用塗料を、上記した基板(亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板)の少なくとも一方に塗布する。塗布に際しては、乾燥焼付後の平均厚みで0.5〜4μmとなる塗布量に調整することが好ましい。なお、塗布方法としては、浸漬、スプレー、刷毛塗り、ロールコーター、エアナイフ、静電塗布などの従来既知の方法がいずれも使用できる。
【0033】
塗布された塗料は、ついで乾燥、焼き付けを施されて、潤滑樹脂層となる。塗料の乾燥、焼付には、公知の熱風乾燥装置、遠赤外線加熱装置、誘導加熱装置などがいずれも適用できる。なお、乾燥、焼付は、40〜200℃の範囲の温度で行うことが好ましい。
【実施例】
【0034】
亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板(めっき層:55質量%Al−Zn合金)の両面に、表1に示す潤滑樹脂層形成用塗料を、ロールコーターで所定の乾燥厚み(潤滑樹脂層厚み)となるように塗布し、最高到達温度:90℃、処理時間:7秒の条件で乾燥、焼付し、表1に示す平均厚みの潤滑樹脂層を有する亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板を得た。得られためっき鋼板について、上塗り塗料との密着性試験、成形加工性試験、耐黒変性試験、耐食性試験を実施した。試験方法は次のとおりとした。
(1)上塗り塗料との密着性試験
得られた各めっき鋼板から試験片を採取して、該試験片にウレタンアクリル系常温乾燥型塗料(商品名:レタンPG-80,関西ペイント製)を膜厚:50μmとなるように塗布し、室温で72時間乾燥させ、上塗り塗装を施した。
【0035】
一次試験として、上塗り塗装を施したこれら試験片について、JIS K 5400の規定に準拠して、碁盤目セロハンテープ剥離試験を実施した。
また、二次試験として、上塗り塗装を施したこれら試験片について、さらに沸騰水中に2時間浸漬する処理を施した後、一次試験と同様に、JIS K 5400の規定に準拠して、碁盤目セロハンテープ剥離試験を実施した。
【0036】
碁盤目セロハンテープ剥離試験では、試験片の上塗り塗装面(範囲:70mm×150mm)に、カッターナイフで1mm角のクロスカットを付与し、ついでクロスカットを付与した領域にセロハンテープを圧着したのち、引き剥がし、塗膜が残存する碁盤目の数を測定し、上塗り塗料との密着性を評価した。
評価は、全く異常なし(碁盤目の残存個数:100個)を◎、碁盤目の残存個数が90個以上を○、碁盤目の残存個数が89〜60個を△、碁盤目の残存個数が60個未満を×とした。
(2)成形加工性試験
得られた各めっき鋼板から試験片を採取して、30m/min相当の加工速度で直角形状にロール成形した。ロール成形後に、直角に折り曲げられた部分についてメタルマークの発生の程度について観察し、成形加工性を評価した。評価は、メタルマークの発生なしを○、一部にメタルマークの発生ありを△、全面にメタルマークの発生ありを×、とした。
(3)耐黒変性試験
得られた各めっき鋼板から試験片を採取して、深絞り試験機で直径:50mm、深さ:5mmの円筒絞りを行い、耐黒変性試験用試験片とした。これら試験片を、蒸留水を満たしたデシケータ中に重ね合わせて、20℃で7日間浸漬し、試験片表面の変色の度合を観察し、耐黒変性を評価した。評価は、変色なしの場合を○、ダイス接触部の一部に黒点が認められる場合を△、ダイス接触部の全面に黒点が認められる場合を×、とした。
(4)耐食性試験
得られた各めっき鋼板から試験片を採取して、JIS Z 2371の規定に準拠して、塩水噴霧試験を実施した。噴霧液を5%食塩水(温度:35℃)とし、噴霧時間を240時間とした。試験後、試験片表面の白錆発生状態を調査し、耐食性を評価した。白錆発現面積が0%を○、白錆発現面積が0%超20%以下の場合を△、白錆発現面積が20%超の場合を×とした。
【0037】
得られた結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
本発明例はいずれも、上塗り塗料との密着性に優れ、かつ成形加工性、耐黒変性、耐食性に優れた亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、上塗り塗料との密着性が低下しているか、成形加工性、耐黒変性、耐食性のいずれか、あるいはそれらのいくつか、あるいはそれらの全てが低下している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方の表面にめっき層の上層として、平均厚みが0.5〜4μmの潤滑樹脂層を有する亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板であって、前記潤滑樹脂層が、主成分であるポリウレタン系樹脂を50〜95質量%含み、酸価が10未満のアクリル−スチレン系樹脂、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂のうちから選ばれた1種又は2種以上の樹脂を合計で5〜50質量%含有する潤滑樹脂層であり、該潤滑樹脂層がさらにジルコニウム化合物を含有することを特徴とする亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板。
【請求項2】
前記ジルコニウム化合物の含有量が、潤滑樹脂層全量に対する質量%で、Zr換算で0.5〜10%であることを特徴とする請求項1に記載の亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板。
【請求項3】
前記ポリウレタン系樹脂のガラス転移点が、30〜60℃であることを特徴とする請求項1または2に記載の亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板。
【請求項4】
前記アクリル−スチレン系樹脂のガラス転移点が、30〜60℃であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板。
【請求項5】
前記フェノール樹脂の水酸基価が、10〜50であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板。
【請求項6】
前記エポキシ樹脂のエポキシ当量が、200〜400であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板。


【公開番号】特開2009−107311(P2009−107311A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−284726(P2007−284726)
【出願日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(000200323)JFE鋼板株式会社 (77)
【Fターム(参考)】