説明

潤滑油、流体軸受用潤滑油及びそれを用いた流体軸受

【課題】省エネルギー性、低蒸発性、耐熱性、低温特性及び帯電防止性能等のバランスが良好な潤滑油、特には流体軸受用潤滑油、及びこれを用いた流体軸受及び流体軸受の潤滑方法を提供する。
【解決手段】下記一般式(1):
1O−(A1O)−OC−R3−CO−(OA2)−OR2 ・・・ (1)
[式中、R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基又はアリール基であり、A1O及びOA2はそれぞれ独立に、単一又は二種以上の炭素数2〜4のアルキレンからなるモノ又はポリオキシアルキレン基であり、R3は炭素数2〜15のアルキレン基である]で示される化合物を主成分とし、40℃の動粘度が5〜100mm2/sで、全酸価が5mgKOH/g以下で、水酸基価が20mgKOH/g以下である潤滑油。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温流動性に優れ、粘度指数の高いジカルボン酸ジエステルを含有する潤滑油に関し、例えば、軸受油、ギヤー油、冷凍機油、タービン油、油圧作動油、圧縮機油、工作機械油及び金属加工油等の工業用潤滑油、並びに自動車用潤滑油及び船舶用潤滑油等として用いることができる潤滑油に関する。
【0002】
さらに、本発明は、モータ等の回転体の軸受部に用いられる流体軸受用潤滑油、並びにそれを用いた流体軸受及び流体軸受の潤滑方法に関する。
【背景技術】
【0003】
潤滑油は、各種産業分野で広く用いられており、その用途は、主として金属どうしの接触摺動時の接触面における摩擦、摩耗を軽減することである。また、潤滑油に要求される物性としては、利用分野によっても異なるが、一般的には潤滑性、酸化安定性、熱安定性、低温流動性及び粘度特性等が挙げられる。
【0004】
上述したような性能を満たすために、従来、各種潤滑油組成物の基油及び添加剤として、種々の天然物及び合成物が用いられており、具体的に、天然物としては、鉱油、動植物油脂、動植物油由来の脂肪酸が用いられ、合成物としては、α-オレフィンオリゴマー、ポリアルキレングリコール、脂肪酸モノエステル及びジエステル、ポリオール(ヒンダード)エステル、リン酸エステル、ケイ酸エステル、シラン、シリコーン、ポリフェニルエーテル及びフルオロカーボン等が使用されている。そして、これらを単独で又は組み合わせて用いることで、目的とする性能を有する潤滑油組成物が実用化されている。
【0005】
一方、近年の産業分野の多様化及び高度化に伴い、潤滑油の使用条件がより過酷になる中で、従来の合成潤滑油では必要とされる性能を十分に満たすことが難しくなっている。具体的には、使用される温度が-30℃以下の極低温域や、加熱や金属との摺動等により150℃を超える高温域になるなど、使用条件が過酷になりつつある。そして、昨今、こうした条件下においても長時間使用できる潤滑油が要求されており、潤滑油の性能としては、良好な潤滑性、耐熱性、酸化安定性、低温流動性及び高粘度指数が特に重要とされている。このような潤滑油として、ジカルボン酸エステルや、ポリオキシアルキレングリコールとアルコールからなるエーテルや、ポリオキシアルキレングリコールと脂肪族1価カルボン酸からなるエステルを基油とする潤滑油(特許文献1参照)が提案されている。しかしながら、該潤滑油では、過酷な条件で使用される近年の合成潤滑油に求められる諸性能を満たすことができない。
【0006】
一方、映像・音響機器、パソコン等の小型・軽量化、大容量化及び情報処理の高速化の進歩には目覚ましいものがある。これらの電子機器には、各種の回転装置、例えば、FD、MO、zip、ミニディスク、コンパクトディスク(CD)、DVD、ハードディスク等の磁気ディスクや光ディスクを駆動する回転装置が使用されており、これら電子機器の小型・軽量化、大容量化、高速化には、回転装置に不可欠な軸受の改良が大きく寄与している。そして、潤滑油を介して対向するスリーブと回転軸とからなる流体軸受は、ボールベアリングを持たないため、小型・軽量化に好適であり、しかも静寂性、経済性等に優れており、パソコン、音響機器、ビジュアル機器やカーナビゲーション等にその用途を広げてきている。
【0007】
また、流体軸受に使用される潤滑油あるいは軸受用流体としては、オレフィン系、ジエステル系又はネオペンチルポリオールエステル系の合成油、スクワラン及びナフテン系鉱油の1種以上とウレア化合物増稠剤のグリースからなるもの(特許文献2参照)、トリメチロールプロパンの脂肪酸トリエステルを基油とし、ヒンダードフェノール系酸化防止剤及びベンゾトリアゾール誘導体を含有するもの(特許文献3参照)、特定の高分子ヒンダードフェノール系酸化防止剤及び芳香族アミン系酸化防止剤を特定の割合で含有するもの(特許文献4参照)、フェニル基を有する特定のモノカルボン酸エステル及び/又は特定のジカルボン酸ジエステルを基油とするもの(特許文献5参照)、単体組成物を基油とするもの(特許文献6参照)、炭酸エステルを基油とし、硫黄含有フェノール系酸化防止剤及び亜鉛系極圧剤を含有するもの(特許文献7参照)、磁性流体を含有するもの(特許文献8、9、10参照)、特定の炭酸エステルを基油とし、フェノール系酸化防止剤を含有するもの(特許文献11参照)、トリメチロールプロパンと炭素数4〜8の1価脂肪酸とのエステルを基油とするもの(特許文献12参照)等が提案されている。
【0008】
今後、大容量情報の高速処理や、さらなる機器のコンパクト化等の要求が、益々強くなるものと考えられる。また、従来、音響機器やパソコン等の消費電力は、余り大きくないため注目されていなかったが、内蔵電池の長寿命化又は小容量化によって機器の小型化が図れるため、省エネルギー化に対する要求は依然強いものがある。このように、大容量情報の高速処理や、機器の小型化への要求に伴い、流体軸受はより高速回転が要求されている。しかしながら、軸受におけるエネルギーロスは高速になればなるほど大きくなる。
【0009】
従って、流体軸受用の潤滑油として、潤滑性、劣化安定性(寿命)、スラッジ生成防止性、摩耗防止性、腐食防止性等の基本的な性能に加えて、省エネルギー性能を有し、蒸発性が低く、また、帯電防止のために体積抵抗率の低い潤滑油が、情報の高速処理、コンパクト化等の要請に応えるために要望されている。
【0010】
さらに、上述の情報処理機器の使われる場所についても、機器が大衆化して過酷な環境での使用が拡大している。特に車に搭載されて使用されるカーナビゲーション等の機器は、自動車の使用環境を考慮すると、寒冷地から炎天下までの使用に耐えるものでなければならない。従って、車載機器に用いられる軸受用の潤滑油も、-40〜80℃といった広い温度範囲で問題なく使用できるものであることが要求される。そのため、特に、流動点が低く、しかも粘度指数が高い潤滑油が要求されている。
【0011】
【特許文献1】特開昭62−263288号公報
【特許文献2】特開平01−279117号公報
【特許文献3】特開平01−188592号公報
【特許文献4】特閑平01−225697号公報
【特許文献5】特開平04−357318号公報
【特許文献6】特許第2621329号公報
【特許文献7】特開平08−34987号公報
【特許文献8】特開平08−259977号公報
【特許文献9】特開平08−259982号公報
【特許文献10】特開平08−259985号公報
【特許文献11】特開平10−183159号公報
【特許文献12】特開2004−91524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、潤滑性はもとより、省エネルギー性、低蒸発性、耐熱性等の性能、特には低温特性及び帯電防止性能に優れた潤滑油を提供することを目的とする。また、本発明は、かかる潤滑油を用いた流体軸受用潤滑油、及びこれを用いた流体軸受及び流体軸受の潤滑方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定のジカルボン酸ジエステル化合物を主成分とし、特定範囲の動粘度、全酸価及び水酸基価を有する潤滑油が、省エネルギー性、低蒸発性、耐熱性、低温特性及び帯電防止性能に優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
即ち、本発明の潤滑油は、下記一般式(1):
1O−(A1O)−OC−R3−CO−(OA2)−OR2 ・・・ (1)
[式中、R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であり、A1O及びOA2はそれぞれ独立に、単一又は二種以上の炭素数2〜4のアルキレンからなるモノ又はポリオキシアルキレン基であり、R3は炭素数2〜15のアルキレン基である]で示される化合物を主成分とし、40℃の動粘度が5〜100mm2/sで、全酸価が5mgKOH/g以下で、水酸基価が20mgKOH/g以下であることを特徴とし、好ましくは、40℃の動粘度が5〜70mm2/sで、粘度指数が100以上で、全酸価が1mgKOH/g以下で、流動点が-30℃以下で且つ体積抵抗率が1×1013Ω・cm以下である。本発明の潤滑油は、上記一般式(1)において、Rl及びR2がそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基で、かつR3が炭素数4〜8のアルキレン基である化合物を主成分とすることが特に好ましい。
【0015】
また、本発明の潤滑油は、上記一般式(1)で示される化合物に加えて、(a)少なくとも2個の水酸基と少なくとも1個のエステル結合を有する多価アルコール部分エステル化合物及び/又は少なくとも2個の水酸基と少なくとも1個のエーテル結合を有する多価アルコール部分エーテル化合物を0.1〜5重量%、及び/又は(b)ベンゾトリアゾール及び/又はその誘導体を0.1〜5重量%含有することが好ましく、更に、フェノール系酸化防止剤、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、リン酸エステル及びアルキルベンゼンスルホン酸塩からなる群から選択される1種又は2種以上を、それぞれ0.01〜5重量%含有することが更に好ましい。
【0016】
さらに、本発明は、上記潤滑油を流体軸受用潤滑油として用いるものである。
またさらに、本発明は、軸とスリーブからなる流体軸受において、前記の流体軸受用潤滑油を充填して用いる流体軸受であり、さらに、該流体軸受を前記の流体軸受用潤滑油を用いて潤滑する潤滑方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の潤滑油は、上記一般式(1)で示される化合物を主成分とし、40℃の動粘度が5〜100mm2/sで、全酸価が5mgKOH/g以下で、水酸基価が20mgKOH/g以下であることから、省エネルギー性、低蒸発性、耐熱性、低温特性及び帯電防止性能等に優れ、また、そのバランスが良好であり、特に高速化、コンパクト化が進む電子機器の回転装置等の潤滑油として優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の潤滑油は、上記一般式(1)で示される化合物を主成分とする。ここで、一般式(1)のR1及びR2における炭素数1〜20のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、メチルヘキシル基、へプチル基、メチルヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、3,5,5-トリメチルヘキシル基、デシル基、イソデシル基、ラウリル基、トリデシル基、ミリスチル基、イソミリスチル基、セチル基、ステアリル基、イソステアリル基等が挙げられ、炭素数6〜20のアリール基としては、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、ナフチル基、メチルナフチル基等が挙げられる。なお、R1及びR2としては、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、炭素数1〜7のアルキル基が更に好ましい。
【0019】
上記一般式(1)のA1O及びOA2における炭素数2〜4のアルキレンからなるモノ又はポリオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基、各種オキシプロピレン基、各種オキシブチレン基等のモノオキシアルキレン基や、これらモノオキシアルキレン基が好ましくは2〜5個、より好ましくは2〜3個繰り返されてなるポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基等のポリオキシアルキレン基が挙げられる。
【0020】
また、上記一般式(1)のR3における炭素数2〜15のアルキレン基としては、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、ウンデカメチレン基、ドデカメチレン基、トリデカメチレン基等の直鎖状のアルキレン基や、メチルエチレン基、ジメチルエチレン基、メチルエチルエチレン基、エチルエチレン基、ジエチルエチレン基、メチルトリメチレン基、ジメチルトリメチレン基、メチルエチルトリメチレン基、エチルトリメチレン基、ジエチルトリメチレン基、1,1-ジメチルトリメチレン基等の分岐状のアルキレン基が挙げられる。なお、R3としては、炭素数2〜11のアルキレン基が好ましく、炭素数2〜8のアルキレン基が更に好ましい。
【0021】
本発明の潤滑油の主成分である上記一般式(1)で示される化合物は、炭素数4〜17、好ましくは炭素数4〜13、より好ましくは炭素数6〜10の直鎖状又は分岐状の脂肪族二塩基酸と、炭素数2〜4の直鎖状又は分岐状アルキレンを有するアルキレングリコール又はこれらのポリマーであるポリオキシアルキレングリコールと炭素数1〜20、好ましくは1〜7のアルコールとの縮合によって得られる全炭素数3〜30、好ましくは3〜10のオキシアルキレンアルコールとをエステル化することによって得られる。
【0022】
上記直鎖状の脂肪族二塩基酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシル酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸等を挙げることができる。また、上記分岐状の脂肪族二塩基酸としては、メチルコハク酸、ジメチルコハク酸、メチルエチルコハク酸、エチルコハク酸、ジエチルコハク酸、メチルグルタル酸、ジメチルグルタル酸、メチルエチルグルタル酸、エチルグルタル酸、ジエチルグルタル酸、1,1-ジメチル-1,3-ジカルボキシプロパン等を挙げることができる。これらの中でも、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸が好適である。これら脂肪族二塩基酸は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0023】
上記アルキレングリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、トリメチレングリコール(1,3-プロパンジオール)、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、イソブチレングリコール等のモノマーが挙げられる。また、上記ポリオキシアルキレングリコールとしては、上記アルキレングリコールの具体例として挙げたモノマーの一種又は二種以上、好ましくは2〜5個、特に好ましくは2〜3個からなるポリマーが挙げられる。なお、該ポリマーは、ブロックでもランダムでもよい。
【0024】
上記炭素数1〜20のアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、メチルヘキサノール、へプタノール、メチルヘプタノール、オクタノール、2-エチルヘキサノール、ノナノール、イソノナノール、3,5,5-トリメチルヘキサノール、デカノール、イソデカノール、ラウリルアルコール、トリデカノール、ミリスチルアルコール、イソミリスチルアルコール、セタノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、ジメチルフェノール、トリメチルフェノール、ナフトール、メチルナフトール等が好適である。
【0025】
これらのアルコールと上記アルキレングリコール又はポリオキシアルキレングリコールとは、通常の縮合反応により、上記オキシアルキレンアルコールとされる。なお、これらのアルコール、アルキレングリコール及びポリオキシアルキレングリコールは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
本発明の潤滑油に用いる上記一般式(1)で示される化合物は、上記脂肪族二塩基酸と上記オキシアルキレンアルコールとの脱水反応によるエステル化反応、あるいは脂肪族二塩基酸の誘導体である酸無水物、酸クロライド等を経由する一般的なエステル化反応や各誘導体のエステル交換反応によって得ることができる。
【0027】
上記方法で得られる一般式(1)で示される化合物は、未反応で残存する酸及び水酸基を特に制限するものではないが、カルボキシル基の残存量が多いと酸価が高くなり、また、水酸基の残存量が多いと水酸基価が高くなるので、カルボキシル基や水酸基は、できるだけ残存しないことが好ましい。
【0028】
さらに、エステル化の際に混入してくる水分は加水分解に関与する物質であり、また、灰分は加水分解を促進する触媒やスラッジ発生の原因物質になり得ることから、水分含有量及び灰分含有量をできるだけ小さい値に調整することが好ましい。具体的に、水分含有量は、500ppm以下、さらには100ppm以下であることが好ましく、灰分含有量は、10ppm以下、さらには1ppm以下であることが好ましい。水分は、例えば、加熱蒸留、加熱減圧蒸留あるいは不活性ガスの吹き込みにより除去することができ、また、灰分は、吸着処理により除去することができる。灰分を少なくするためには、エステル合成を無触媒で行うことも効果的である。こうすることによって、エステルの加水分解やスラッジの発生を最小に抑えて、安定性の高いエステルを得ることができるので、潤滑油の耐劣化性及び長期安定性が向上し、長寿命化を図ることができる。
【0029】
上記一般式(1)で示される化合物は、潤滑油の主成分として含まれていればよいが、優れた省エネルギー性、低蒸発性、耐熱性、低温特性及び帯電防止性等の要求性能の総てをより確実に且つバランス良く満たす観点から、上記一般式(1)で示される化合物は、潤滑油全量基準で50質量%以上含有されることが好ましく、80質量%以上含有されることがより好ましく、90質量%以上含有されることがより一層好ましく、95質量%以上含有されることが最も好ましい。
【0030】
本発明の潤滑油には、上記一般式(1)で示される化合物に加えて、鉱油、オレフィン重合体、アルキルベンゼン等の炭化水素系油や、ポリグリコール、ポリビニルエーテル、ケトン、ポリフェニルエーテル、シリコーン、ポリシロキサン、パーフルオロエーテル、上記一般式(1)で示される化合物以外のエステルやエーテル等の酸素含有合成油を用いてもよい。
【0031】
本発明の潤滑油は、優れた潤滑性能、省エネルギー性等を得るために、40℃における動粘度が5〜100mm2/sであることを要し、5〜70mm2/sの範囲であることが好ましい。また、本発明の潤滑油は、腐食防止性、耐摩耗性及び安定性を確保する上で、全酸価が5mgKOH/g以下であることを要し、1mgKOH/g以下であることが好ましい。さらに、本発明の潤滑油は、耐吸湿性、安定性向上の観点から、水酸基価が20mgKOH/g以下であることを要し、5mgKOH/g以下であることが好ましい。このような性状を有する潤滑油は、十分に上記エステル化反応を行い、その後適宜公知の方法で精製された上記一般式(1)で示される化合物を用いることにより得ることができる。
【0032】
本発明の潤滑油においては、好ましくは、粘度指数を100以上、より好ましくは120以上、流動点を-30℃以下、体積抵抗率を1×1013Ω・cm以下、より好ましくは1×1011Ω・cm以下とすることにより、特に低温特性や帯電防止性能を優れたものとすることができ、小型・軽量化、大容量化、情報の高速処理化に望まれる映像・音響機器、パソコン等における各種回転装置に好適な流体軸受用の潤滑油として有効に用いることができる。
【0033】
本発明の潤滑油には、基油としての上記一般式(1)で示される化合物に加えて、実用性能を向上させるために、各種の添加剤を配合することができる。このような添加剤として、多価アルコール部分エステル化合物及び/又は多価アルコール部分エーテル化合物、ベンゾトリアゾール及び/又はその誘導体が挙げられる。更に、フェノール系酸化防止剤、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、リン酸エステル及びアルキルベンゼンスルホン酸塩から選択される1種又は2種以上を配合することも効果的である。
【0034】
上記多価アルコール部分エステル及び上記多価アルコール部分エーテルは、2個以上の水酸基を有し、さらに、1個以上の炭化水素基がエーテル結合又はエステル結合で付加されている多価アルコール誘導体であり、油性剤として用いられる。これらの多価アルコール誘導体は、水酸基部分で一方の潤滑部の金属に吸着し、前記エーテル結合又はエステル結合から伸展する炭化水素基が他方の金属との接触を防止して、潤滑作用を向上させるものと考えられる。
【0035】
上記多価アルコール誘導体は、3〜6個の水酸基を有する多価アルコールと、炭素数10〜22のモノオール又は1価脂肪酸との縮合反応によって得ることができる。多価アルコールとして、具体的には、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジグリセリン、エリスリトール、ペンタエリスリトール、トリグリセリン、ソルビトール、マンニトール等が挙げられ、特に3価のアルコールが好ましく、なかでもグリセリンが好ましい。また、該多価アルコールと部分エステルを生成する1価脂肪酸としては、炭素数14〜20のものがより好ましく、具体的には、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、エルカ酸等が挙げられる。また、上記多価アルコールと部分エーテルを生成するモノオールとしては、上記1価脂肪酸に対応する1価のアルコールが挙げられる。これら1価脂肪酸及びモノオールの中でも、オレイン酸及びオレイルアルコールが特に好ましく、すなわち、上記多価アルコール誘導体としては、グリセリンモノオレート及びグリーゼリンモノオレイルエーテルが特に好ましい。
【0036】
上記多価アルコール誘導体は、効果を発揮する有効量を適宜配合すればよく、特にその配合量を限定するものではないが、潤滑油全体を基準として0.1〜5重量%、さらには0.5〜5重量%程度含有されるよう配合することが好ましい。また、上記多価アルコール部分エーテル及び多価アルコール部分エステルは、それぞれ単独で用いても、複数のエーテル化合物又はエステル化合物を用いても、それらの混合物を用いてもよい。
【0037】
上記ベンゾトリアゾール及び/又はその誘導体としては、次の一般式(2)で示される化合物を用いることが好ましい。
【化1】


式中、R4は、水素原子又はメチル基を示し、R5は、水素原子、又は窒素原子及び/又は酸素原子を含有する炭素数0〜20の基を示す。銅の耐摩耗性を向上させることから、ベンゾトリアゾール誘導体が好ましく、さらに、R5が窒素原子を含有する炭素数10〜20の基であることが好ましい。
【0038】
また、上記ベンゾトリアゾール及び/又はその誘導体は、潤滑油全体を基準として0.1〜5重量%、さらには0.5〜5重量%程度含有されるよう配合することが好ましい。添加量が少ないと、特に銅の耐摩耗性を向上させる効果がなく、多すぎると、添加量に見合う効果が得られないばかりでなく、場合によってはスラッジ生成の原因となるので好ましくない。
【0039】
上記フェノール系酸化防止剤としては、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-エチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-n-ブチルフェノール(エチル744)、4,4'-メチレンビス(2,6-ジ-t-ブチルフェノール)、2,2'-チオビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)等が挙げられる。また、アミン系酸化防止剤を使用してもよく、特にフェノール系酸化防止剤とアミン系酸化防止剤の併用により大幅な酸化安定性の向上を図ることができる。
【0040】
上記エポキシ化合物としては、フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、アルキルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、エポキシ化脂防酸モノエステル、エポキシ化植物油等を単独で又は複数混合して使用することができる。これらのエポキシ化合物の中でも、アルキルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物及びエポキシ化脂肪酸モノエステルが好ましい。中でもアルキルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物及びこれらの混合物がより好ましい。これらのエポキシ化合物を添加することにより、一般式(1)で表される化合物の安定性、特に加水分解安定性が大幅に向上する。
【0041】
上記カルボジイミド化合物は、次の一般式(3)で表される化合物である。
6−N=C=N−R7 ・・・ (3)
式中、R6及びR7は、水素又は炭化水素基、あるいは窒素及び/又は酸素を含有する炭化水素基であり、R6及びR7は、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。
【0042】
上記一般式(3)において、R6及びR7が水素、炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜18の芳香族炭化水素基、及び芳香−脂肪族炭化水素基の場合が好ましい。具体的には、水素、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、2-メチルブチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、2-エチルへキシル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル等のアルキル基、プロペニル、ブテニル、イソブテニル、ペンテニル、2-エチルヘキセニル、オクテニル等のアルケニル基、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロペンチル、エチルシクロペンチル等のシクロアルキル基、フェニル、ナフチル等のアリール基、トレイル、イソプロピルフェニル、ジイソプロピルフェニル、トリイソプロピルフェニル、ノニルフェニル等のアルキル置換フェニル等のアリール基、ベンジル、フェネチル等のアラルキル基等をR6及びR7として含有する化合物を挙げることができる。上記カルボジイミド化合物は、酸捕捉剤としての働きを有し、一般式(1)で表される化合物の加水分解安定性を向上させることができる。
【0043】
上記リン酸エステルとしては、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジフェニルハイドロジェンホスフェート、2-エチルへキシルジフェニルホスフェート等が挙げられ、これらの中でも、トリクレジルホスフェート、トリフェニルホスフェートがより好ましい。リン酸エステルを添加することにより、鉄の耐摩耗性を大幅に向上させることができる。
【0044】
上記アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、炭素数1〜20のアルキル基を置換基として持つアルキルベンゼンスルホン酸と炭素数1〜20のアルキルアミンの中和塩等が挙げられる。このイオン系帯電防止剤は、上記一般式(1)で示される化合物に対して親和力があり、静電気を逃がすのに十分な導電性を発揮させることができる。
【0045】
本発明の潤滑油には、上記フェノール系酸化防止剤、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、リン酸エステル及びアルキルベンゼンスルホン酸塩から選択される1種又は2種以上を配合することが好ましい。ここで、これら添加剤の配合量は特に限定されるものではないが、複数の添加剤を配合する場合にも、それぞれの添加剤について、潤滑油全量に対して0.05〜5重量%含有されるように配合することが好ましい。添加量が少ないと効果がなく、多すぎると潤滑油の特性が生かされず、スラッジ生成の原因ともなるので好ましくない。
【0046】
本発明の流体軸受用潤滑油は、上記潤滑油を用いるものであり、また本発明の流体軸受は、この流体軸受用潤滑油を用いることを特徴とする。本発明の流体軸受は、ボールベアリング等の機構を有さず、スリーブと軸とからなり、それらの間に収容された潤滑油によって互いに直接接触することがないように間隔が保持される流体軸受であれば、機械的に特に限定されるものではない。本発明の流体軸受は、回転軸及びスリーブの何れかに又はそれらの両方に動圧発生溝が設けられ、回転軸が動圧によって支持される流体軸受、また回転軸に垂直方向に動圧を生じるようにスラストプレートが設けられている流体軸受等も含む。
【0047】
流体軸受は、非回転時には動圧が生じないためにスリーブと回転軸あるいはスリーブとスラストプレートが部分的あるいは全面接触しており、回転により動圧が生じて非接触状態となる。こうしたことから接触、非接触を繰り返し、スリーブと回転軸あるいはスリーブとスラストプレートの金属摩耗が起こったり、回転中の一時的な接触により焼き付きを起こすことがある。しかしながら、優れた省エネルギー性、耐熱性及び低温特性を有する本発明の流体軸受用潤滑油を用いることによって、長期に亘り高速回転安定性及び耐久性が保持され、特に高速において優れた省エネルギー性を示す。
【0048】
図1に、本発明の流体軸受用潤滑油を装填して用いるのに好ましい流体軸受の一具体例を示す。図1は、該潤滑油を用いる記録ディスク駆動用の流体軸受を装備したモータの概略構成を模式的に示す断面図である。図1において、モータ1は、ブラケット2と、該ブラケット2の中央開口部に一方の端部が外嵌固定されたシャフト4と、該シャフト4に対して相対的に回転自在に保持されたロータ6とを備える。ブラケット2にはステータ12が固定され、これに対向してロータ6に設けられたロータマグネット10との間で、回転駆動力が生じる。
【0049】
また、シャフト4の上部及び下部には、半径方向外方に突出する円盤状の上部スラストプレート4a及び下部スラストプレート4bが配設されており、これらのスラストプレート間のシャフト外側面には、気体介在部22が形成されている。一方、ロータ6は、その外周部に記録ディスクDが載置されるロータハブ6aと、ロータ6の内周側に位置し潤滑油8が保持される微小間隙を介してシャフト4に支持されるスリーブ6bとを備えている。さらにスリーブ6bには、上部及び下部スラストプレートの外側に蓋をする形で、上部カウンタプレート7a及び下部カウンタプレート7bが設けられている。
【0050】
ここで、シャフト4の中央部に設けられた気体介在部22の上部に隣接するシャフト4の外周部から、上部スラストプレート4aの下面、外周面及び上面外周部に至る部分には、対向するスリーブ6bの内周部貫通孔6cの上部から上部カウンタプレート7aの下面に至る部分との間に、微小間隙が形成され、潤滑油8が保持されている。そして、上部スラストプレート4aの下面には、ロータ6の回転にともない潤滑油8中に動圧を発生するスパイラル溝14が形成されており、モータ回転時にロータ部を軸線方向に保持する支持力を発生すると同時に、潤滑油8を矢印Aの方向に押し戻す。さらにスリーブ6bの内周部貫通孔6c上部内面の潤滑油保持部には、アンバランスなヘリンボーン状溝24が形成されており、モータ回転時にロータ部を半径方向に保持する支持力を発生すると同時に、潤滑油8を矢印Bの方向に押し上げる。
【0051】
これらの溝により生じる潤滑油8の動圧により、微小間隙内の潤滑油8に生じる圧力分布は、上部スラストプレート4aの下面内周部Pで最も高くなっている。その結果、仮に潤滑油8内に溶け込んだ空気が気泡化しても、その気泡は前記内周部Pの外側に拡散排除され、下方の気体介在部22空隙部又は上方の上部カウンタプレート7a下面空隙部に至る。そして、これらの空隙部は、直接又は外気連通孔20により大気に解放されており、前記気泡は外気に解放され、潤滑油漏れがなくかつ支持力の高い流体軸受構造を実現している。
【0052】
また、同様の微小間隙、溝、潤滑油保持部の構造が、シャフト4の中央部に設けられた気体介在部22の下部から下部スラストプレート4b及び下部カウンタプレート7bに、上下逆配置で形成されており、この下部動圧軸受部により、ロータ部は一層安定に支持される。また、本構造の流体軸受は、毎分2万回転前後の高速回転においても、回転遠心力による潤滑油8の外周方向への発散が、上部及び下部カウンタプレート7a、7bにより効果的に防止される。さらに、本発明にかかる流体軸受用潤滑油を用いることにより、優れた省エネルギー性及び耐久性を伴いながら、一層高速で安定した回転を実現できる。
【0053】
さらに、本発明は、前記流体軸受を上記に規定した流体軸受用潤滑油で潤滑する流体軸受の潤滑方法である。既に記したように、前記流体軸受用潤滑油を流体軸受に充填して潤滑することにより、長期に亘り高速回転安定性及び耐久性が保持され、かつ優れた省エネルギー性が得られ、長寿命化を達成することができる。
【0054】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0055】
下記のエステル及び添加剤を用いて各種の潤滑油を試作し、その潤滑油性能を評価した。潤滑油のべース基材としては、次に示す本発明に従うエステル(A〜D)、及び比較例としてのエステル(E〜H)を使用した。
A:アジピン酸ジ(n-ブトキシプロピル)エステル
B:セバシン酸ジ(n-ブトキシプロピル)エステル
C:アジピン酸ジ(イソブトキシエトキシエチル)エステル
D:アジピン酸ジ(メトキシジエトキシエチル)エステル
【0056】
E:トリメチロールプロパン(TMP)とn-C7酸とのエステル
F:TMPと、n-C6酸(20mol%)及びn-C7酸(80mol%)の混合酸とのエステル
G:ネオペンチルグリコール(NPG)とn-C10酸とのエステル
H:NPGとn-C9酸とのエステル
【0057】
また、添加剤としては、次のものを用いた。
I:グリセリンモノオレイルエーテル
J:次の一般式(4)で表されるベンゾトリアゾール誘導体
【化2】


K:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール
L:2-エチルヘキシルグリシジルエーテル
M:トリクレジルホスフェート
N:ビス(ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド
【0058】
上記A〜Dのエステル基材及び添加剤を表1に示すように配合して、本発明の潤滑油(実施例1〜10)を調製した。なお、実施例1〜4の潤滑油は、添加剤を含有せず、実施例5〜10の潤滑油は、表1に示すように、上記I〜Nの添加剤を括弧内の数量含有されるよう配合した。また、上記E〜Hのエステル基材を用いて、比較例の潤滑油(比較例1〜4)を調製した。なお、比較例1〜4の潤滑油には、いずれも添加剤を配合しなかった。
【0059】
【表1】

【0060】
調製した実施例1〜10及び比較例1〜4の潤滑油について、それぞれの物性を測定して、実用性能を評価した。なお、物性測定及び性能評価試験は、次の方法で行った。結果を表2に示す。
【0061】
(1)動粘度、粘度指数:JIS K 2283に準じ、キャノン−フェンスケ粘度計を用いて動粘度を測定するとともに粘度指数を算出した。
(2)全酸価:JIS C 2101に準じて測定した。
(3)水酸基価:JIS K 0070に準じて測定した。
(4)体積抵抗率試験:JIS C 2101に準じて、25℃で測定した。
(5)蒸発量:熱重量分析法(TG法)により、120℃に12時間保持したときの重量減少量から求めた。
(6)流動点:JIS K 2269に準じて測定した。
(7)低温流動性:50mlのサンプル瓶に油を20ml入れて-40℃で2日間静置し、潤滑油の流動性(固化状況)を観察した。評価は、2日間静置後に取り出したサンプル瓶を逆さにし、1分以内に流動しないものを固化とした。
(8)熱安定性:内径70mmのシャーレに潤滑油を20ml入れて140℃で2週間エージングして強制的に劣化させ、劣化油の全酸価(JIS K 2501)を測定した。
【0062】
【表2】

【0063】
表2から、実施例1〜10の潤滑油は、いずれも蒸発量が少なく、-40℃において流動性を有し、体積抵抗率が5×1011Ω・cm以下と低く帯電防止能が良好であり、また、劣化後の全酸価が3mgKOH/g以下と熱安定性にも優れ、その他の物性を含めてバランスの良い性能を示していることが分る。従って、実施例1〜10の潤滑油は、流体軸受用潤滑油として有効に使用できるものであることが分る。
【0064】
一方、比較例1〜4の潤滑油は、流体軸受用潤滑油としての物性や性能で劣るものがあり、実用的に用いることはできない。即ち、比較例1及び2の潤滑油は、流動点が低いものの、-40℃で固化するため、潤滑油としての適正に欠ける。また、比較例3の潤滑油は、流動点が高く、固化するとともに蒸発量も多い。比較例4の潤滑油は、固化しやすく、かつ蒸発量が極めて多く、潤滑油、特に流体軸受用潤滑油として適さない。また、比較例1〜4の潤滑油は、いずれも体積抵抗率が高く、帯電防止能が悪い。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の一般式(1)で示される化合物を主成分とする潤滑油は、省エネルギー性、低蒸発性、耐熱性、低温特性及び帯電防止性能等に優れ、且つこれら各性能のバランスが良好であるため、流体軸受用潤滑油としてはもちろんのこと、これ以外の一般の軸受油、ギヤー油、冷凍機油、タービン油、油圧作動油、圧縮機油、工作機械油、金属加工油等の工業用潤滑油、並びに自動車用潤滑油及び船舶用潤滑油等として用いることができ、産業上の利用価値が極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】流体軸受を装備したモータの概略構成を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0067】
1 モータ
2 ブラケット
4 シャフト(軸)
4a 上部スラストプレート
4b 下部スラストプレート
6 ロータ
6a ロータハブ
6b スリーブ
6c 内周部貫通孔
7a 上部カウンタプレート
7b 下部カウンタプレート
8 潤滑油
10 ロータマグネット
12 ステータ
14 スパイラル溝
20 外気連通孔
22 気体介在部
24 ヘリンボーン状溝
D 記録ディスク
P 上部スラストプレートの下面内周部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
1O−(A1O)−OC−R3−CO−(OA2)−OR2 ・・・ (1)
[式中、R1及びR2はそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であり、A1O及びOA2はそれぞれ独立に、単一又は二種以上の炭素数2〜4のアルキレンからなるモノ又はポリオキシアルキレン基であり、R3は炭素数2〜15のアルキレン基である]で示される化合物を主成分とし、40℃の動粘度が5〜100mm2/sで、全酸価が5mgKOH/g以下で、水酸基価が20mgKOH/g以下である潤滑油。
【請求項2】
粘度指数が100以上で、流動点が-30℃以下で、且つ体積抵抗率が1×1013Ω・cm以下である請求項1に記載の潤滑油。
【請求項3】
上記一般式(1)において、Rl及びR2がそれぞれ独立に炭素数1〜20のアルキル基で、R3が炭素数4〜8のアルキレン基である請求項1に記載の潤滑油。
【請求項4】
さらに、(a)少なくとも2個の水酸基と少なくとも1個のエステル結合を有する多価アルコール部分エステル化合物及び/又は少なくとも2個の水酸基と少なくとも1個のエーテル結合を有する多価アルコール部分エーテル化合物を0.1〜5重量%、及び/又は(b)ベンゾトリアゾール及び/又はその誘導体を0.1〜5重量%含有する請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油。
【請求項5】
さらに、フェノール系酸化防止剤、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、リン酸エステル及びアルキルベンゼンスルホン酸塩からなる群から選択される1種又は2種以上を、それぞれ0.01〜5重量%含有する請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑油。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の潤滑油からなる流体軸受用潤滑油。
【請求項7】
軸とスリーブとからなる流体軸受において、請求項6に記載の流体軸受用潤滑油を用いることを特徴とする流体軸受。
【請求項8】
請求項7に記載の流体軸受を、請求項6に記載の流体軸受用潤滑油を用いて潤滑することを特徴とする流体軸受の潤滑方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−96849(P2006−96849A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−283812(P2004−283812)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(304003860)株式会社ジャパンエナジー (344)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【出願人】(000232302)日本電産株式会社 (697)
【Fターム(参考)】