説明

潤滑油供給装置

【課題】回転機械の交換後、回転機械への潤滑油供給を再開する際に、潤滑油の温度が適切な温度に上昇するのに要する時間を短縮できる潤滑油供給装置を提供する。
【解決手段】回転機械20の軸受5に潤滑油を供給する潤滑油供給装置10。回転機械20には、潤滑油が供給される油流入口3と、軸受5に供給された潤滑油が排出される排油口7とが設けられる。潤滑油が蓄積されるタンク21と、油流入口3に近接して配置され、タンク21からの潤滑油を油流入口3に供給する給油ユニット23と、タンク21から給油ユニット23へ潤滑油を流す給油経路25と、排油口7からタンク21へ潤滑油を流す第1の油戻り経路27aと、回転機械20を回避するように給油ユニット23からタンク21へ潤滑油を流す第2の油戻り経路27bと、を備える。給油ユニット23は、タンク21からの潤滑油を油流入口3へ流す油供給状態と、タンク21からの潤滑油を、油流入口3に供給せずに第2の油戻り経路27bへ流すバイパス状態とに切換可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験対象の回転機械の軸受に潤滑油を供給する潤滑油供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機械は、回転する回転体を有し、その回転の状態を検査するために、試験的に回転体を回転させる。この時、回転体を支持する軸受に潤滑油を供給する潤滑油供給装置が設けられる。前記検査では、例えば、回転体が回転している時に、回転により生じる振動を計測し、計測結果から回転体のアンバランスデータを求める(例えば下記特許文献1)。
【0003】
図1は、従来の潤滑油供給装置を示す。潤滑油供給装置は、タンク51、ポンプ52、給油経路53、給油ユニット54、油戻り経路55、ヒータ56などを備える。
タンク51には、潤滑油が蓄積される。また、ポンプ52は、タンク51内の潤滑油を給油経路53(給油配管)に送り出す。給油経路53は、タンク51からの潤滑油を給油ユニット54まで流す。給油ユニット54は、給油経路53からの潤滑油を回転機械58の油流入口58aに供給する。油戻り経路55(油戻り配管)は、回転機械58の排油口58bから排出された潤滑油をタンクへ戻す。ヒータ56は、タンク51内の潤滑油を加熱する。なお、ポンプ57は、油戻り経路55の潤滑油をタンク51へ送る。
【0004】
給油ユニット54は、図示しない昇降機構により昇降され、図2に示す下降位置にて、回転機械58の油流入口58aと接続する。給油ユニット54は、図1に示す上昇位置から図2に示す下降位置へ下降させられて、油流入口58aを形成する面に押し付けられる。これにより、図2のように、可動部54aがバネ54bに抗して下昇することで、給油路54cが開口し、給油路54cから油流入口58aへ潤滑油が流れる。
【0005】
給油ユニット54を通して、回転機械58に潤滑油を供給する場合には、給油ユニット54は上述の下降位置にあり、図1において、供給元弁59と戻り弁61を開きバイパス弁63を閉じるので、潤滑油は、タンク51、給油経路53、給油ユニット54、回転機械58、油戻り経路55、タンク51の順に流れて循環する。
【0006】
一方、検査対象の回転機械58を交換する場合には、給油ユニット54を上述の上昇位置にするとともに、供給元弁59と戻り弁61を閉じバイパス弁63を開くので、潤滑油は、タンク51、バイパス経路64、タンク51の順に流れて循環する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−039904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、回転機械58を交換し、再び、回転機械58に潤滑油を供給する際に、潤滑油の温度が適切な温度に上昇するまでに時間が掛かってしまう。回転機械58を交換するために、供給元弁59と戻り弁61を閉じバイパス弁63を開くと、供給元弁59から給油ユニット54までの給油経路53部分と、回転機械58の排油口58bとの接続位置から戻り弁61までの戻り経路55部分とには、潤滑油が残った状態となる。このように残った潤滑油は、回転機械58を交換している間に冷めてしまう。しかも、供給元弁59、戻り弁61、およびバイパス弁63は、タンク51に近接して設けられるので、給油経路53と戻り経路55において、潤滑油が、広範囲にわたって上述のように残ることになる。従って、回転機械58の交換後、回転機械58への潤滑油供給を再開する際に、潤滑油の温度が適切な温度に上昇するまでに時間が掛かってしまう。特に、潤滑油供給の再開時に、供給元弁59から給油ユニット54までの給油経路53部分に残っている低温潤滑油が、回転機械58に流入するため、潤滑油の温度が適切な温度に上昇するまでに時間が掛かってしまう。
【0009】
そこで、本発明の目的は、回転機械の交換後、回転機械への潤滑油供給を再開する際に、潤滑油の温度が適切な温度に上昇するのに要する時間を短縮できる潤滑油供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明によると、回転機械の軸受に潤滑油を供給する潤滑油供給装置であって、
前記回転機械には、潤滑油が供給される油流入口と、前記軸受に供給された潤滑油が排出される排油口とが設けられており、
潤滑油が蓄積されるタンクと、
前記油流入口に近接して配置され、タンクからの潤滑油を前記油流入口に供給する給油ユニットと、
前記タンクから前記給油ユニットへ潤滑油を流す給油経路と、
前記排油口からタンクへ潤滑油を流す第1の油戻り経路と、
回転機械を回避するように前記給油ユニットからタンクへ潤滑油を流す第2の油戻り経路と、を備え、
前記給油ユニットは、タンクからの潤滑油を前記油流入口へ流す油供給状態と、タンクからの潤滑油を、前記油流入口に供給せずに第2の油戻り経路へ流すバイパス状態とに切換可能であり、
前記給油ユニットが前記バイパス状態にある場合、潤滑油が、タンク、給油経路、給油ユニット、第2の油戻り経路の順で循環するようになっている、ことを特徴とする潤滑油供給装置が提供される。
【0011】
本発明の好ましい実施形態によると、前記給油ユニットは、
油流入口に接続されタンクからの潤滑油を油流入口へ供給する給油部と、
前記給油部を、油流入口に接続する位置と、油流入口から離間する位置との間で移動させる移動機構と、を有する。
【0012】
また、本発明の好ましい実施形態によると、前記給油ユニットは、3方弁を有し、該3方弁により、前記油供給状態と前記バイパス状態との間で切り換えられ、
3方弁は、前記給油部と共に、前記移動機構により移動させられる可動部に設置されている。
【0013】
本発明の好ましい実施形態によると、前記給油ユニットが前記バイパス状態にある時に、循環している潤滑油を加熱する加熱装置を備える。
【0014】
好ましくは、給油ユニットの給油部には、油流出口形成面と油圧利用シールが設けられ、該油流出口形成面には、タンクからの潤滑油が流れ出る油流出口が形成され、油圧利用シールは、前記油流入口が形成された油流入口形成面と前記油流出口形成面との間に位置し、
この油圧利用シールは、油流出口から油流入口までの流体通過領域を囲むように、前記油流出口形成面に取り付けられ、
さらに、前記油圧利用シールは、前記油流入口形成面に接して前記油流入口を囲む内側先端と、油流入口中心から油流入口外周縁へ向かう方向に前記内側先端から離れて位置し前記流体通過領域を囲む外側部と、前記内側先端から前記外側部まで延び流体通過領域を囲む拡大部と、を有し、
前記流体通過領域内の油圧により前記拡大部が油流入口形成面に押し付けられることで、外部に対する流体通過領域の密閉が維持される。
【発明の効果】
【0015】
上述した本発明によると、給油ユニットが前記バイパス状態にある場合、潤滑油が、タンク、給油経路、回転機械に近接する給油ユニット、油戻り経路の順で循環するので、循環しない潤滑油の量が大幅に低減される。従って、回転機械の交換後、回転機械への潤滑油供給を再開する際に、循環しないで冷めた潤滑油が回転機械に流入する時間を大幅に短縮することができる。本発明の実施形態による他の効果は、以下の説明で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来の潤滑油供給装置の構成例を示す。
【図2】図1の給油ユニットが給油している状態を示す。
【図3】本発明の実施形態による潤滑油供給装置の構成を示す。
【図4】(A)は、図3における油圧利用シール付近の部分拡大図であり、(B)は、(A)のB−B矢視図である。
【図5】図5は、図4(A)の構成において油通過領域に潤滑油を流した状態を示している。
【図6】油圧利用シールの別の構成例を示す。
【図7】油圧利用シールの別の構成例を示す。
【図8】油圧利用シールの別の構成例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための最良の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0018】
[潤滑油供給装置]
図3は、本発明の実施形態による潤滑油供給装置10の構成図である。潤滑油供給装置10は、試験対象の回転機械20の軸受5に潤滑油を供給する装置である。
【0019】
回転機械20には、潤滑油が供給される油流入口3と、軸受5に供給された潤滑油が排出される排油口7とが設けられる。図3の例では、回転機械20は、過給機である。過給機20は、車両や船舶などに搭載されるエンジンの排ガスエネルギーを利用して、エンジンに圧縮空気を供給する装置である。過給機20は、エンジンの排ガスにより回転駆動されるタービン翼9と、タービン翼9と一体的に回転することで圧縮空気をエンジンに供給するコンプレッサ翼11と、一端部にタービン翼9が結合され他端部にコンプレッサ翼11が結合される回転軸13とを有する。また、過給機20は、タービン翼9を内部に収容するタービンハウジング15と、コンプレッサ翼11を内部に収容するコンプレッサハウジング(図示せず)と、回転軸13を支持する軸受5が内部に組み込まれる軸受ハウジング17と、を備える。タービン翼9、コンプレッサ翼11および回転軸13は、振動計測対象回転機械20の回転体を構成する。タービンハウジング15、コンプレッサハウジングおよび軸受ハウジング17は、静止側部である。
【0020】
潤滑油供給装置10は、タンク21、給油ユニット23、給油経路25、第1および第2の油戻り経路27a,27b、加熱装置28などを備える。
【0021】
タンク21には、潤滑油が蓄積される。タンク21には、ポンプ21aが設けられる。ポンプ21aは、タンク21内の潤滑油を給油経路25へ送出する。
【0022】
給油ユニット23は、油流入口3に近接して配置され、給油経路25を通してタンク21から送られてくる潤滑油を油流入口3に供給する。給油ユニット23は、油供給状態とバイパス状態とに切換可能であり、油供給状態では、タンク21からの潤滑油を油流入口3へ流し、バイパス状態では、タンク21からの潤滑油を、油流入口3に供給せずに第2の油戻り経路27bへ流す。
【0023】
給油経路25は、タンク21と給油ユニット23を接続する管であり、タンク21から給油ユニット23へ潤滑油を流す。当該管25は、給油ユニット23が後述のように移動する時に、給油ユニット23の移動に追従できるように、たるんでおり、かつ変形可能であるのがよい。
【0024】
第1の油戻り経路27aは、回転機械20の排油口7とタンク21とを接続する管であり、排油口7からタンク21へ潤滑油を流す。第2の油戻り経路27bは、給油ユニット23(3方弁23c)とタンク21を接続する管であり、回転機械20を回避するように給油ユニット23からタンク21へ潤滑油を流す管である。図3の例では、第1および第2の油戻り経路27aは、排油口7に近接する位置で合流し、当該位置からタンク21までの経路・管を共有している。
なお、油戻り経路27a,27b内の潤滑油をタンク21に送るためのポンプ27cが、油戻り経路27aまたは27b(図3では、経路27a,27bの共有部分)に設けられてよい。
【0025】
加熱装置28は、給油ユニット23が前記油供給状態または前記バイパス状態にある時に、循環している潤滑油を加熱して、当該潤滑油の温度を所望の範囲にする。図3の例では、加熱装置28は、タンク21に設けられているが、他の箇所に設けられてもよい。
【0026】
本実施形態によると、給油ユニット23が前記バイパス状態にある場合、潤滑油が、回転機械20を経由せずに、タンク21、給油経路25、給油ユニット23、第2の油戻り経路27bの順で循環し、給油ユニット23が前記油供給状態にある場合、潤滑油が、タンク21、給油経路25、給油ユニット23、回転機械20、第1の油戻り経路27aの順で循環するようになっている。
【0027】
給油ユニット23について、より詳しく説明する。
【0028】
給油ユニット23は、給油部23a、移動機構23b、および3方弁23cを備える。
給油部23aは、回転機械20の油流入口3に接続されタンク21からの油を油流入口3へ供給する。給油部23a内に、潤滑油の温度を検出する温度センサ(熱電対)を設けてよく、これにより、回転機械20の交換後、当該温度センサによる検出温度が所望の範囲になったことを確認できる。
移動機構23bは、給油部23aを、接続位置と非接続位置との間で移動させる。移動機械が給油部23aを接続位置に移動させることで、給油部23aは油流入口3に接続させられる。一方、移動機構23bが給油部23aを非接続位置に移動させることで、給油部23aは油流入口3から離間させられる。移動機構23bは、例えば、給油部23aを接続位置と非接続位置との間で昇降させる油圧式または空圧式のシリンダ装置であってよいが、給油部23aを接続位置と非接続位置との間で移動させることができれば他の適切な機構であってもよい。
3方弁23cにより、給油ユニット23が、前記油供給状態と前記バイパス状態との間で切り換えられる。すなわち、3方向弁は、前記油供給状態と前記バイパス状態との間で切り換えられ、油供給状態では、タンク21からの潤滑油を、給油部23aと油流入口3へ流し、バイパス状態では、タンク21からの潤滑油を、油流入口3に供給せずに第2の油戻り経路27bへ流す。切り換えは、作業員が所定の操作部23dを操作することで行われてよい。例えば、作業員が操作部23dを操作することで、3方弁23cを前記油供給状態または前記バイパス状態に切り換えるための制御信号が3方弁23cへ出力され、制御信号に従って、3方弁23cが、前記油供給状態または前記バイパス状態に切り換わる。3方弁23cは、給油部23aと共に、移動機構23bにより移動させられる可動部23eに設置されている。
【0029】
上述した潤滑油供給装置10によると、給油ユニット23が前記バイパス状態にある場合、潤滑油が、タンク21、給油経路25、回転機械20に近接する給油ユニット23、第2の油戻り経路27bの順で循環するので、循環しない潤滑油の量が、大幅に低減され、または、ほとんど無くすことができる。例えば、循環しない潤滑油の量を、給油部23aに残留する潤滑油の量程度にすることができる。従って、回転機械20の交換後、回転機械20への潤滑油供給を再開する際に、循環しないで冷めた潤滑油の回転機械20に流入する時間を大幅に短縮することができる。その結果、回転機械20への潤滑油供給を再開する際に、速やかに、適切な温度の潤滑油を回転機械20流入させることができる。
【0030】
[油圧利用シール]
給油部23aは、油圧利用シール29を有する。図4(A)は、図3における油圧利用シール29付近の部分拡大図であり、図4(B)は、図4(A)のB−B矢視図である。
【0031】
油圧利用シール29は、潤滑油が流れ出る油流出口29aと、この油流出口29aからの潤滑油を流入させる油流入口3との接続部分を、潤滑油の圧力(油圧)を利用してシールするものである。油圧利用シール29は、油流出口形成面29bに取り付けられる。油流出口形成面29bは、給油部23aに設けられ、タンク21からの潤滑油が流れ出る油流出口29aが形成される面である。例えば、給油部23aは、内部に潤滑油が流れる円筒形状を有し、当該円筒の先端にフランジ24が設けられ、フランジ24の先端面が油流出口形成面29bとなっていてよい。移動機構23bにより給油部23aが前記接続位置に移動させられた状態で、油圧利用シール29の先端29cが,油流入口3が形成された油流入口形成面33に接触し、油流出口29aから油流入口3までの油通過領域31を囲む。
【0032】
油圧利用シール29は、内側先端29c、外側部29d、および拡大部29eを有する。内側先端29cは、油流入口形成面33に接して油流入口3を囲む。外側部29dは、油流入口3中心から油流入口3外周縁へ向かう方向に内側先端29cから離れて位置し油通過領域31を囲む。拡大部29eは、内側先端29cから外側部29dまで延び油通過領域31を囲む。
【0033】
上述の構成で、給油部23aが接続位置にある時に、油通過領域31内の油圧により拡大部29eが油流入口形成面33に押し付けられることで、外部に対する油通過領域31の密閉が維持される。
【0034】
油圧利用シール29について、より詳細に説明する。
【0035】
この例では、内側先端29cは、油圧利用シール29の中心軸C方向から見た形状が環状であり、外側部29dおよび拡大部29eの各々は、中心軸Cと直交する平面による断面の形状(以下、横断面形状という)が環状である(図4(B)を参照)。また、この例では、内側先端29cは平らな接触面であり、外側部29dの形状は円筒である。この例では、図4(A)に示すように、拡大部29eは、中心軸Cを含む平面による断面の形状(以下、縦断面形状という)が、中心軸Cから外側に傾いた方向であって油流出口29a側へ向かう方向に、内側先端29cから外側部29dまで直線的に延びている。
【0036】
図4(A)は、油圧利用シール29内部の油通過領域31を潤滑油が流れていない状態を示している。一方、図5は、図4(A)の構成において油通過領域31に潤滑油を流した状態を示している。
図5に示すように潤滑油が油通過領域31を通過する時に、潤滑油の圧力(例えば、300〜500kPa)が油圧利用シール29に作用する。これにより、油通過領域31内の油圧により拡大部29eが油流入口形成面33に押し付けられることで、外部に対する油通過領域31の密閉が維持される。本実施形態では、図5のように、油通過領域31内の油圧(例えば、300〜500kPa)により油圧利用シール29は弾性変形し、これにより、拡大部29eが油流入口形成面33に押し付けられる。図5における油圧利用シール29と油流入口形成面33との接触面積は、図4(A)の状態よりも増えている。
【0037】
油圧利用シール29により、油通過領域31内の油圧により拡大部29eが油流入口形成面33に押し付けられることで、外部に対する油通過領域31の密閉(シール)が維持されるので、内側先端29cを油流入口形成面33に接触させるための微小力を、油圧利用シール29から油流入口形成面33に作用させるだけで、油圧によりシールがなされる。従って、油流入口形成面33にほとんど外力を作用させずに、油流出口29aと油流入口3との接続箇所をシールすることができる。
また、油通過領域31内の油圧により油圧利用シール29を弾性変形させることで、拡大部29eを、油流入口形成面33に密着させるように油流入口形成面33に押し付けることができる。これにより、油流出口29aと油流入口3との接続箇所をより確実にシールすることができる。
さらに、拡大部29eの縦断面形状が、油流入口形成面33から外側部29dまで、中心軸Cから傾いた方向であって油流入口3側へ向かう方向へ延びているので、油圧利用シール29に油圧が作用すると、油圧利用シール29が弾性変形して油圧利用シール29(即ち、内側先端29cと拡大部29e)と油流入口形成面33との接触面積が増加する。従って、一層確実にシールがなされる。
【0038】
[回転機械の試験]
回転機械20(この例では過給機)の試験は、この例では、回転体のアンバランス試験であり、次のように行われる。
コンプレッサハウジング(図示せず)が取り外された過給機20の振動計測用タービンハウジング15をボルト35などで振動計測用の支持体32に取り付ける。その後、エンジンの排ガスと同じ程度の圧力を有する圧縮ガスを、タービンハウジング15に形成された流路(図示せず)を通して、タービン翼9に供給することで、タービン翼9、コンプレッサ翼11および回転軸13からなる回転体を回転駆動する。回転体が所定の回転速度に達したら、軸受ハウジング17に取り付けられた加速度ピックアップ37で回転体の振動(即ち、加速度)を計測しつつ、回転角検出器39により回転体の回転角を計測する。これにより、例えば、演算器41が、所定の回転速度において、どの回転角でどの程度の振動(加速度)が生じているかを計測する。なお、この計測データに基づいてアンバランス量を求める。
【0039】
上述の振動計測時において、移動機構23bにより、給油部23aが前記接続位置に位置させられることで、油圧利用シール29の内側先端29cが油流入口形成面33に接触させられている。油流入口形成面33は、この例では、軸受ハウジング17の外表面である。潤滑油が、例えば300〜500kPa程度の圧力で、給油部23aの油流出口29aから油流入口3へ流入する。油流入口3へ流入した潤滑油は、軸受ハウジング17の内部に形成された潤滑油路42を通って軸受5に供給される。軸受5に供給された潤滑油は、その後、排油口7から第1の油戻り経路27aへ排出される。従って、潤滑油は、ポンプ21b、27aにより、タンク21、給油ユニット23の給油部23a、回転機械20、第1の油戻り経路27aの順で循環する。
【0040】
また、上述の振動計測時において、移動機構23bにより、給油部23aを、油流入口3に接続する時に、油圧利用シール29の内側先端29cが油流入口形成面33に作用させる接触圧をできる限り小さくすることが好ましい。なぜなら、油流入口形成面33に作用する接触圧(外力)は、振動計測に悪影響を与え、高精度な振動計測の障害となる。そこで、上述の接触圧が所定の微小値になるように、油圧利用シール29を用いて油流出口29aと油流入口3を接続する。例えば、前記接触圧を検知する圧力センサと、この圧力センサが検知した前記接触圧に基づいて、前記接触圧が所定の微小値となるように移動機構23bの移動を制御する制御部とを設けてよい。この場合、圧力センサは、例えば、前記接触圧(即ち、その反作用力)が作用するように可動部23eに組み込まれた圧電素子であってよい。
【0041】
なお、軸受5に供給された潤滑油は、軸受ハウジング17の内部に形成された排油路(図示せず)を通って、軸受ハウジング17の外面に設けられた排油口7から管27aへ流れる。排油口7と管27aとの接続箇所には、例えば図3に示すシール47が設けられる。排油口7における潤滑油の圧力は小さいので、シール47を軸受ハウジング17の外面に微小力で接触させるだけで、排油が外部に漏れなくなる。従って、排油口7と管27aとの接続には、上述の油圧利用シール29を用いなくてもよい。
【0042】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【0043】
[他の実施形態]
例えば、油圧利用シール29の形状は、図4(A)に示す以外に、図6に示す形状であってもよい。図6の油圧利用シール29は、以下で説明する以外の点は、図4の油圧利用シール29と同じである。
【0044】
図4(A)では、油圧利用シール29も用いて油流出口29aと油流入口3とを接続した接続状態において、油圧利用シール29に油圧が作用していない時には、油圧利用シール29の内側先端29cは油流入口形成面33に面で接触している。
図6の場合には、前記接続状態において、油圧利用シール29に油圧が作用していない時には、図6(A)に示すように、油圧利用シール29の内側先端29cは油流入口形成面33に(円を描く)線で接触している。なお、図6では、図4(B)の場合と同様に、内側先端29cは油圧利用シール29の中心軸C方向から見た形状が環状であり、外側部29dおよび拡大部29eの各々は、横断面形状が環状である。図6の場合、油圧利用シール29は、油圧が作用すると、図6(B)のように弾性変形することで、油圧により拡大部29eが油流入口形成面33に押し付けられる。
【0045】
また、油圧利用シール29の形状は、図7に示す形状であってもよい。図7の油圧利用シール29は、以下で説明する以外の点は、図4の油圧利用シール29と同じである。
図4(A)では、油圧利用シール29に油圧を含めた外力が作用していない状態で、拡大部29eの縦断面形状は内側先端29cから外側部29dまで直線的に延びている。
図7の場合には、油圧利用シール29に油圧を含めた外力が作用していない状態で、図7(A)のように、拡大部29eの縦断面形状が内側先端29cから外側部29dまで曲線状に延びている。図7(B)は、図7(A)の構成において油圧利用シール29に油圧が作用している状態を示す。なお、図7では、図4(B)の場合と同様に、内側先端29cは油圧利用シール29の中心軸C方向から見た形状が環状であり、外側部29dおよび拡大部29eの各々は、横断面形状が環状である。
【0046】
また、油圧利用シール29の形状は、図8に示す形状であってもよい。図8の油圧利用シール29は、以下で説明する以外の点は、図4の油圧利用シール29と同じである。
図8の場合には、油圧利用シール29に油圧を含めた外力が作用していない状態で、図8(A)のように、拡大部29eの縦断面形状は、中心軸Cと直交する方向に、内側先端29cから外側部29dまで延びている。図8(A)において、拡大部29eの全体が、油流入口形成面33に接触している。また、図8の場合、好ましくは、外側部29dは、弾性変形しない、または、弾性変形しにくく剛性が高い材料(例えば金属)で形成され、内側先端29cと拡大部29eは、弾性変形しやすい材料(例えばゴム)で形成される。この構成で、油圧により、拡大部29eの全体が油流入口形成面33に押し付けられて油流入口形成面33に接触する(図8(B)の状態)。図8の場合にも、油圧により拡大部29eは弾性変形するが、この弾性変形量は、図4の場合と比較して小さい。また、図8の場合には、油圧利用シール29に油圧が作用しても、油圧利用シール29と油流入口形成面33との接触面積は、油圧利用シール29に油圧が作用していない図8(A)の状態と同じであってよい。内側先端29cと拡大部29eは、一体成形され、接着剤などにより拡大部29eが外側部29dに水密に結合される。なお、図8では、図4(B)の場合と同様に、内側先端29cは油圧利用シール29の中心軸C方向から見た形状が環状であり、外側部29dおよび拡大部29eの各々は、横断面形状が環状である。
【0047】
また、本発明によると、上述の回転機械20は過給機以外の回転機械(例えば、ターボ圧縮機やガスタービン)であってもよい。
【符号の説明】
【0048】
3 油流入口、5 軸受、7 排油口、9 タービン翼、
10 潤滑油供給装置、11 コンプレッサ翼、13 回転軸、
15 タービンハウジング、17 軸受ハウジング、20 回転機械(過給機)、
21 タンク、21a ヒータ、21b ポンプ、23 給油ユニット、
23a 給油部、23b 移動機構、23c 3方弁、23d 操作部、
23e 可動部、25 給油経路、27a 第1の油戻り経路、
27b 第2の油戻り経路、29 油圧利用シール、29a 油流出口、
29b 油流出口形成面、29c 内側先端、29d 外側部、
29e 拡大部、31 油通過領域、32 支持体、33 油流入口形成面、
35 ボルト、37 加速度ピックアップ、39 回転角検出器、41 演算器



【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の軸受に潤滑油を供給する潤滑油供給装置であって、
前記回転機械には、潤滑油が供給される油流入口と、前記軸受に供給された潤滑油が排出される排油口とが設けられており、
潤滑油が蓄積されるタンクと、
前記油流入口に近接して配置され、タンクからの潤滑油を前記油流入口に供給する給油ユニットと、
前記タンクから前記給油ユニットへ潤滑油を流す給油経路と、
前記排油口からタンクへ潤滑油を流す第1の油戻り経路と、
回転機械を回避するように前記給油ユニットからタンクへ潤滑油を流す第2の油戻り経路と、を備え、
前記給油ユニットは、タンクからの潤滑油を前記油流入口へ流す油供給状態と、タンクからの潤滑油を、前記油流入口に供給せずに第2の油戻り経路へ流すバイパス状態とに切換可能であり、
前記給油ユニットが前記バイパス状態にある場合、潤滑油が、タンク、給油経路、給油ユニット、第2の油戻り経路の順で循環するようになっている、ことを特徴とする潤滑油供給装置。
【請求項2】
前記給油ユニットは、
油流入口に接続されタンクからの潤滑油を油流入口へ供給する給油部と、
前記給油部を、油流入口に接続する位置と、油流入口から離間する位置との間で移動させる移動機構と、を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の潤滑油供給装置。
【請求項3】
前記給油ユニットは、3方弁を有し、該3方弁により、前記油供給状態と前記バイパス状態との間で切り換えられ、
3方弁は、前記給油部と共に、前記移動機構により移動させられる可動部に設置されている、ことを特徴とする請求項2に記載の潤滑油供給装置。
【請求項4】
前記給油ユニットが前記バイパス状態にある時に、循環している潤滑油を加熱する加熱装置を備える、ことを特徴とする請求項1、2または3に記載の潤滑油供給装置。
【請求項5】
給油ユニットの給油部には、油流出口形成面と油圧利用シールが設けられ、該油流出口形成面には、タンクからの潤滑油が流れ出る油流出口が形成され、油圧利用シールは、前記油流入口が形成された油流入口形成面と前記油流出口形成面との間に位置し、
この油圧利用シールは、油流出口から油流入口までの流体通過領域を囲むように、前記油流出口形成面に取り付けられ、
さらに、前記油圧利用シールは、前記油流入口形成面に接して前記油流入口を囲む内側先端と、油流入口中心から油流入口外周縁へ向かう方向に前記内側先端から離れて位置し前記流体通過領域を囲む外側部と、前記内側先端から前記外側部まで延び流体通過領域を囲む拡大部と、を有し、
前記流体通過領域内の油圧により前記拡大部が油流入口形成面に押し付けられることで、外部に対する流体通過領域の密閉が維持される、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の潤滑油供給装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−58511(P2011−58511A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205768(P2009−205768)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】